ゲスト
(ka0000)
逃げ足速い鋼鉄馬
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 4日
- 締切
- 2015/04/21 12:00
- 完成日
- 2015/04/28 20:36
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●王国の街道
大柄な馬が駆けている。
足を振り下ろすたびに、鋼鉄製の蹄が街道の舗装を砕いていた。
「うて!」
矢が一斉に放たれる。
領主が長年かけて育て上げた長弓隊が、完璧な連携で矢の雨を降らす。
距離50メートルで命中率8割。会心の一撃だった。
鋼鉄製歪虚に当たった鏃が砕ける。舗装の破片と混じって判別できなくなる。
馬型歪虚が嫌らしく笑う。
非覚醒者の弓では威力が全く足りず、矢が当たった箇所にはかすり傷すらない。
「騎士殿っ、すみません」
1人の騎士が、弓隊を背後から追い越し無造作に足を進める。
分厚い金属鎧を身につけているとはいえ騎士としては中肉中背。速度と堅さと重さを兼ね備えた馬型歪虚に対抗できるとは、弓隊の誰1人想像していなかった。
歪虚の嘶きと、よいしょ、という軽い声が同時に響く。
騎士本人より重たそうな大剣が、馬歪虚を上回る速度で振り上げられ振り下ろされた。
舗装が派手に砕ける。歪虚が馬面を恐怖に歪めて横に跳ぶ。鋼鉄製の鉄塊が街道に半メートル程埋まってようやく止まる。
歪虚が安堵し、安堵したことに気づいて騎士に憎しみの目を向け、止めを刺そうと再度加速する。
騎士の防御は間に合わない。剣を引き抜こうとする体勢で、歪虚の体当たりを受けた。
絶望と落胆に沈む弓隊。馬面に暗い満足を浮かべる歪虚。
そして、一切損害を感じさせない動きで大剣を引き抜き力任せにぶっ叩く騎士。
「2回目で当たるとは、快挙です」
歪虚の首から上が、到底馬に見えない形に歪む。
馬が蹴る。
騎士は分厚い腹部装甲で受け止め明後日の方向に剣を振るう。
馬が噛みつく。
鉄塊が盾として使われ歯を受け止め、しかし反撃は歪虚ではなく舗装を砕いてしまう。
「あの……騎士殿?」
地方領主私兵団団長が、冷や汗を流しながらおそるおそるメーガン(kz0098)に問いかけた。
「守りは任せてください」
攻撃は苦手なのです、と副音声で聞こえた気がした。
団長以下が必死に気を取り直して射撃を再開する。
金属にしか見えない歪虚の皮膚を射抜けず、ついでに何本か騎士に当たった矢も金属鎧を射抜けない。
歪虚が目を血走らせる。
非覚醒者を食らおうとしても、重装備の騎士が邪魔で近づけない。
騎士を倒そうにも硬すぎて倒せない。何十回も攻撃すれば急所に当たるかもしれないが、その前に偶然の一撃で止めを刺されかねない。
元馬面からため息に限りなく近い気体が吹き出した。
3回目の一斉射撃か相変わらず効果が無く、騎士による斬撃は勢いを増しつつ全く当たらない。
「逃げる……のか?」
団長が呆然とする。馬型歪虚が、乗用場より少し劣る速度を出して離れていった。
一斉射撃4回目。
前部に比べると装甲が薄いらしく、馬の尻や背中に1センチ刺さって止まる。
騎士が大型弓に持ち替え矢を放つ。
弓隊の平兵士未満の精度で、鉄矢が歪虚の上空10メートルを飛んでいった。
馬型歪虚の姿が徐々に小さくなり、遠くに見える森に紛れて消えた。
●討伐依頼
ハンターズソサエティ本部に新たな依頼票が現れる。
宙に浮かんでいた小さな3Dディスプレイが薄いまま広がり、地形、歪虚の情報、報酬を含んだ各種の条件が表示されていく。
「重装甲高速ヴォイド?」
依頼物色中のハンターが目を向けると、ディスプレイが見やすい形に変形して近づいてきた。
「筋力あるハンターなら弓でもいけそうだな」
別のハンターが眉を寄せる。
「このヴォイド逃げ癖がついてやがる。厄介だぞこりゃ」
背中から斬りつけるのは簡単だが、逃げに徹する歪虚を射程に収めるのはかなり面倒だ。
「馬必須依頼か?」
「土地勘がない場所で馬を使った追撃戦をするつもりかよ。運が悪けりゃ足を折って長期療養コースだぞ」
依頼に魅力を感じなかったハンターが依頼票から離れて行く。
『こちら王国騎士のメーガンだ。歪虚を3度仕留め損なったが毎回形が異なっていた。最悪3体……うん? 2体来たときもあった?』
神霊樹の向こう側で、騎士と地元兵がなにやら話している。
『失礼した。歪虚の戦力は最大で5体だ。現在この歪虚によって土地周辺の物流が麻痺している。敵は街道を移動する人間または馬車を狙うようだ。私も自由に使って構わん。可能な限り早く脅威を排除して欲しい』
真面目な声で〆てから1分後。
『団長殿、文面の作成に感謝する。出来ればハンターへの説明用文章も……まだ通信が繋がっている?』
複数の人間とパルムが騒ぐ音が聞こえ、唐突に通信が切れた。
大柄な馬が駆けている。
足を振り下ろすたびに、鋼鉄製の蹄が街道の舗装を砕いていた。
「うて!」
矢が一斉に放たれる。
領主が長年かけて育て上げた長弓隊が、完璧な連携で矢の雨を降らす。
距離50メートルで命中率8割。会心の一撃だった。
鋼鉄製歪虚に当たった鏃が砕ける。舗装の破片と混じって判別できなくなる。
馬型歪虚が嫌らしく笑う。
非覚醒者の弓では威力が全く足りず、矢が当たった箇所にはかすり傷すらない。
「騎士殿っ、すみません」
1人の騎士が、弓隊を背後から追い越し無造作に足を進める。
分厚い金属鎧を身につけているとはいえ騎士としては中肉中背。速度と堅さと重さを兼ね備えた馬型歪虚に対抗できるとは、弓隊の誰1人想像していなかった。
歪虚の嘶きと、よいしょ、という軽い声が同時に響く。
騎士本人より重たそうな大剣が、馬歪虚を上回る速度で振り上げられ振り下ろされた。
舗装が派手に砕ける。歪虚が馬面を恐怖に歪めて横に跳ぶ。鋼鉄製の鉄塊が街道に半メートル程埋まってようやく止まる。
歪虚が安堵し、安堵したことに気づいて騎士に憎しみの目を向け、止めを刺そうと再度加速する。
騎士の防御は間に合わない。剣を引き抜こうとする体勢で、歪虚の体当たりを受けた。
絶望と落胆に沈む弓隊。馬面に暗い満足を浮かべる歪虚。
そして、一切損害を感じさせない動きで大剣を引き抜き力任せにぶっ叩く騎士。
「2回目で当たるとは、快挙です」
歪虚の首から上が、到底馬に見えない形に歪む。
馬が蹴る。
騎士は分厚い腹部装甲で受け止め明後日の方向に剣を振るう。
馬が噛みつく。
鉄塊が盾として使われ歯を受け止め、しかし反撃は歪虚ではなく舗装を砕いてしまう。
「あの……騎士殿?」
地方領主私兵団団長が、冷や汗を流しながらおそるおそるメーガン(kz0098)に問いかけた。
「守りは任せてください」
攻撃は苦手なのです、と副音声で聞こえた気がした。
団長以下が必死に気を取り直して射撃を再開する。
金属にしか見えない歪虚の皮膚を射抜けず、ついでに何本か騎士に当たった矢も金属鎧を射抜けない。
歪虚が目を血走らせる。
非覚醒者を食らおうとしても、重装備の騎士が邪魔で近づけない。
騎士を倒そうにも硬すぎて倒せない。何十回も攻撃すれば急所に当たるかもしれないが、その前に偶然の一撃で止めを刺されかねない。
元馬面からため息に限りなく近い気体が吹き出した。
3回目の一斉射撃か相変わらず効果が無く、騎士による斬撃は勢いを増しつつ全く当たらない。
「逃げる……のか?」
団長が呆然とする。馬型歪虚が、乗用場より少し劣る速度を出して離れていった。
一斉射撃4回目。
前部に比べると装甲が薄いらしく、馬の尻や背中に1センチ刺さって止まる。
騎士が大型弓に持ち替え矢を放つ。
弓隊の平兵士未満の精度で、鉄矢が歪虚の上空10メートルを飛んでいった。
馬型歪虚の姿が徐々に小さくなり、遠くに見える森に紛れて消えた。
●討伐依頼
ハンターズソサエティ本部に新たな依頼票が現れる。
宙に浮かんでいた小さな3Dディスプレイが薄いまま広がり、地形、歪虚の情報、報酬を含んだ各種の条件が表示されていく。
「重装甲高速ヴォイド?」
依頼物色中のハンターが目を向けると、ディスプレイが見やすい形に変形して近づいてきた。
「筋力あるハンターなら弓でもいけそうだな」
別のハンターが眉を寄せる。
「このヴォイド逃げ癖がついてやがる。厄介だぞこりゃ」
背中から斬りつけるのは簡単だが、逃げに徹する歪虚を射程に収めるのはかなり面倒だ。
「馬必須依頼か?」
「土地勘がない場所で馬を使った追撃戦をするつもりかよ。運が悪けりゃ足を折って長期療養コースだぞ」
依頼に魅力を感じなかったハンターが依頼票から離れて行く。
『こちら王国騎士のメーガンだ。歪虚を3度仕留め損なったが毎回形が異なっていた。最悪3体……うん? 2体来たときもあった?』
神霊樹の向こう側で、騎士と地元兵がなにやら話している。
『失礼した。歪虚の戦力は最大で5体だ。現在この歪虚によって土地周辺の物流が麻痺している。敵は街道を移動する人間または馬車を狙うようだ。私も自由に使って構わん。可能な限り早く脅威を排除して欲しい』
真面目な声で〆てから1分後。
『団長殿、文面の作成に感謝する。出来ればハンターへの説明用文章も……まだ通信が繋がっている?』
複数の人間とパルムが騒ぐ音が聞こえ、唐突に通信が切れた。
リプレイ本文
●騎馬と騎馬雑魔と弓騎兵
石畳の街道が緑を2つに切り分けていた。
「歪虚を退治してからお腹いっぱい食べて……お腹を壊さない程度に食べていいですよ」
ミネット・ベアール(ka3282)が、重装馬に話かけつつ豊かすぎる牧草に驚き呆れていた。
辺境ではまず目にすることのない圧倒的な緑だ。
これだけ緑があれば羊や牛が何百頭も飼育可能だろう。しかし今この場には一頭もいない。
「馬が3頭。いえ、あれは」
ゲルト・フォン・B(ka3222)が鋭い視線を遠くに向けた。
体格と筋肉に恵まれた馬に似た、表面が金属にしか見えない何かが3体。間違いなく雑魔だ。
ゲルトは愛馬に加速を命じる。
ゴースロン種の速度は圧倒的であり、瞬く間に距離を0に近づける。
馬型雑魔は距離100メートルで彼女に気付き、3対1なら勝てると判断しゲルトに向かって駆け出した。
右端の馬型の足下に矢が突き刺さる。急停止して倒れるのだけは避けたが残る2体に置いていかれる。
それを為したミネットは、馬型の体格から美味しい馬肉を連想してしまっている最中だった。
雑魔は倒せば消えるのが基本とはいえ、希に死骸が残るのだ。
「今ですよ!」
唾液を飲み込み指示を出す。
「はい!」
ロングソードを鞘から抜く。
馬の速度と金属の重量を兼ね備えた雑魔だ。相手にとって不足はない。
「騎士たるもの、騎馬戦で負けるわけにはいかない!」
そのままでは正面衝突して双方無事では済まない進路と速度を保ち、両手でしっかりと剣を握る。
衝突まで残り10メートルを切ったとき、馬型雑魔2体が恐怖に負けて90度以上進路を変えた。
ゲルトが剣を振るう。
馬型の胸に切っ先が当たり数センチの切れ目が入る。
ミネットが矢を放つ。
雑魔が口から泡を吹きつつさらに進路を変える。しかしミネットの狙いは非常に正確で、後部の薄い皮膚を貫いて矢が刺さる。
「方向よし」
ミネットの次の矢は、馬型が必死に頑張れば直撃しない程度の精度に抑えられていた。
2頭は残る体力を絞り出して回避を行う。回避には成功したが疲労が溜まり速度は落ち、その上ミネットの狙い通りの場所へ向かうことになる。
「お前はここで倒す」
ゴースロンが弧を描いてもう1頭の雑魔の退路を断つ。
速度に倍以上の差があり、その上騎手の差があるのでこの程度軽い。
「逃がさないぞ!」
ロングソードの切っ先が雑魔の足を捉える。
普通の馬なら最低でも骨折なのに、この馬型雑魔は表面はひび割れても速度は落ちすらしない。
ミネットがマテリアルを矢に集中。馬型の背を狙い腹まで貫通させる。
「これでっ」
ゴースロンが数センチの距離を開けて馬型の脇を走り抜け、主の振り下ろした刃が馬型の首をうなじから切断する。
馬型が倒れるよりも、薄れて消える方が早かった。
●臆病な雑魔達
「こっちだこっち」
堅く重い馬型の頭が、リュー・グランフェスト(ka2419)の戦斧に受け止められた。
リューはほとんど反撃しない。ゲルト達の戦いを見て、彼が本気を出せば2体の雑魔が逃げることを確信したのだ。
「面倒だな」
1体でも逃せば武力を持たない民と土地を経営する領主が大きなダメージを負う。
殻は愛馬と共に、地味で苦労ばかり多い囮任務を辛抱強く続けていった。
ふと気付く。
そろそろ岩井崎 旭(ka0234)達がいる場所なのに誰もいない。
再度周囲を確認する。榊 兵庫(ka0010)と一緒になって、街道を挟んだ場所で大柄の馬型を激しくやりあっているのが見えた。
「罠次第か」
ひとつ息を吐いて集中し、馬の膝あたりの高さにある縄を飛び越える。
数秒遅れで縄と縄を固定していた杭が破壊される音が響く。前面は頑丈とはいえ無傷とはいかず、馬型2頭の足音は乱れていた。
リューは目印を視認すると同時に再度跳躍。馬型2頭は拳大の石を踏んでしまい蹄と足を痛める。
これらの効果的な罠は全て静架(ka0387)のお手製だ。
「出来るだけその場に有るもので簡単にすますのが、基本ですね」
静架が街道で冗談を飛ばす。
兵士達が笑って緊張が解れ、丁度の解れたタイミングで静架が指示を出す。
「逃げられると困りますので、タイミングを合わせて下さい」
多数の長弓が引き絞られる。
「3、2、1……今ですっ!」
雑魔に逃げ場を与えない、見事な弾幕だった。
ハンターと比べると腕力も体力もないため静架の矢以外は馬型の頭や胸で矢が弾きかれるがそれで十分だ。
矢が邪魔で馬型は前が見えない。
足下にこれ見よがしに開いていた穴は飛び越えたものの、その先に張られていたロープに自ら飛び込んでしまう。
足首、顎の下、そして眼球。
3本のロープが2体の雑魔に食い込んだ。
ゾファル・G・初火(ka4407)が得意げな笑みを浮かべている。
髪の毛一筋分も油断はせず、馬型達の悲鳴に負けない声で叫ぶ。
「出番だ。俺様ちゃんの言ったとおりにすれば当たる。やれ!」
CAM用武装でもおかしくない大きさの剣が、無造作に半円を描いた。
馬型の足1本が切断され空へ消えていく。メーガン(kz0098)は大剣を街道に突き刺してしまい身動きがとれない。
3本足の馬型は倒れもせずメーガンを睨みつけ、すぐにメーガンの指揮官がゾファルと気付いて歯を剥き出し威嚇する。
直接殺気を向けられた訳でもないのに兵士達が恐れて逃げ腰になる。
「馬刺しごときがなんぼのもんじゃー、かかってこんかいじゃーん」
女子高生らしい可愛らしくも艶のある声とは裏腹に、ゾファルは3メートルの特大斧を構えて走り寄る。
馬型が身をかがめる。
威力の分狙いの甘い斧が雑魔の頭頂表面を削る。
振り切った直後のゾファルの喉に噛みつこうとするが、ギガースアックスの分厚い歯の部分で受け止められた。
「馬って奴はこうやって狩るんじゃーん」
特大戦斧が重さを感じられない速度と動きで引き戻され、下段から頭部に向かって振り上げられる。
残った前足を斬り飛ばされて回避の手段を失い、直撃だけは避けようとするも高速の刃に追い詰められ、ゾファルの斧が下から雑魔の頭を粉砕した。
残るもう1体は、静架の矢を胸に受けた時点で抗戦を諦めた。
痛む足に力を込める。力任せに前進しロープを引きちぎる。
眼球にあたる器官が半壊して視界が半分になっていた。
「兵士の皆さんは下がってください」
静架が指示を出す。
弓を使うには距離が近すぎる。
敢えて前に出て、雑魔の注意が兵士に向かないよう鞭を打ち付ける。
聞くだけで激痛に苛まさそうな音がした。兵士相手なら十分異常な威力だが、分厚い金属状の皮膚を撃ち抜くには足りない。
雑魔は静架を見て、兵士を見て、また静架を見て、逃げ場がないことに気付いてしまう。
絶望から目を逸らし方向転換の後全力疾走。
罠にかかって傷ついた足では耐えきれず、蹄は砕け肉か金属か分からないものがすり減らされていく。
それでも、まだ加速開始していない静架は逃げ出せると雑魔は思っていた。
草原を駆ける馬の足音が急速に近づいた。
馬型が顔を上げる。
恐ろしい威力の罠地帯は既に抜け、目の前にあるのは森に続く草原のみ。
否、濃密で炎の如く立ち上るマテリアルと共に、リューがアックス「アルディナ」を上段から一直線に振り下ろした。
馬型が仰け反る。
鼻、首、胸まで深く抉られるが辛うじて生きている。
異形の嘶きを撒き散らしながらリューの横を駆け抜ける。リューが勝利が確定した長時間の追撃戦を覚悟したそのとき、1本の矢がリューの脇を抜け馬型の後頭部へ、そして頭蓋を貫通して額から抜けた。
「罠の再設置を。敵の増援がくるかもしれません」
弓を構えたままの静架の瞳は、北国の冬よりも冷たく光っていた。
●罠と罠と罠
体格のよい馬型雑魔が駆けている。
重く、堅く、それでいて速く、つまり強い。
なのに同数のハンターから逃げるという弱腰ぶりは、兵庫を大いに困惑させていた。
「ここまで腰抜けだと少々厄介だな。……もしかして騎士殿が余分なことをしたせいで逃げ癖がついたんじゃないのか?」
雑魔は罠がある街道に近づく前にハンター複数とメーガンに気付き逃げ出した。
故に仕方なく、兵庫達は馬型雑魔を負って延々走らざるを得なくなった。
「馬か」
旭の口角が吊り上がる。
「馬だぜ」
騎乗の腕は見事なもので、兵庫との距離がじりじりと離れ大柄雑魔に近づいている。
「馬が相手だぜ、シーザー!」
旭の愛馬、ゴースロン種のシーザーが、瞳を爛々と輝かせて最高速に到達した。
負うのは体格のよい馬型と、一回り小さな馬型雑魔だ。
大柄が加速し、並の体格の馬型が置いていかれ、シーザーが両者をまとめて追い抜いた。
両者の瞳に絶望に近いものが浮かぶ。
「さあ行くぜ! 受けろよ、俺とシーザーの力をッ!」
騎乗状態で3メートル級の戦斧を振り上げる。
全身の筋肉はマテリアルで強化済み、斧には隅々にまで祖霊の力が行き渡り、対大型歪虚にふさわしい威力で馬型雑魔を襲う。
馬型の能力では回避は無理、辛うじて防御の厚い肩で受けてはみたものの、速度と重さとマテリアルの量で上回る斬撃によって溶けかけバターのように引き裂かれた。
別の蹄の音が休息に遠ざかる。
「そちらは任せた」
「そっちは任せた!」
逃げていく通常の馬型は兵庫に任せ、旭は全神経を目の前の馬に集中した。
馬型が急加速する。
攻撃を捨てた走りは非常に速い。仮に乗用馬で追ったとしたら、延々追いかけて一撃入れてはまた追いかけるという、時間と体力だけが消費される追撃戦になっていたはずだ。
「行かせねえよ。もっとゆっくりしてくんだな!」
一度の全力移動で完璧に追い抜く。次の走りで間合いを詰めて止めの斬撃。
馬の肩から胸まで斧が貫通し、割れ目が急速に広がり残骸と化した雑魔が地面に転がった。
雑魔がたまたま罠を回避しようが最初から逃げに徹しようが確実に追いついて潰す、旭主従の完全勝利であった。
●排除完了
「さて、暁よ。俺とお前の人馬一体の働きを見せる、良い舞台だ。宜しく頼むぜ」
重装馬はうなずきもしないし嘶きもしない。最高速を保つことで主の意思に答える。
十数メートルの距離が10メートルを切り、馬型雑魔から完全に余裕が失われ動きが直線的になっていく。
兵庫の口元に笑みが浮かぶ。
馬型は、兵庫が仕掛けた落とし穴に踏み込み、自らの重さと速度に負けて骨ごと前足を砕いてしまった。
重装馬が馬型の手前2メートルで進路を変える。兵庫は文字通りの全力で片鎌槍を振り下ろす。
鎌に馬と人の力が同時に加わって、金属の皮膚を音もなく引き裂き骨まで断って反対側に抜けた。
雑魔は尻毎片方の足を切り飛ばされ、その衝撃を利用して半壊した前足を引き抜き罠のない地面を蹴って前進する。
金属製のパーツの一部が消え、残りも酷く歪んだ馬型雑魔が駆ける様は控えめに表現して異様だ。
「ひっ」
兵士達が恐怖に士気を砕かれ街道上のハンターの邪魔になる。
兵庫は移動速度をあわせて止めをさそうとするが、圧倒的な速度差がある訳ではないのですぐには難しく、追い抜いてから仕留めようにも兵士が邪魔過ぎだ。
『2番と7番、ロープの両側を引っ張ってください』
兵士の腰にある魔導短伝話からバナディアン・I(ka4344)の声が聞こえた。
2人の兵士が混乱しながら縄を引っ張る。
馬型雑魔の前でぴんと伸び、無事な足が2本しかない馬が転倒する。
『4番から6番は燃えるものと油を敵の手前へ投げて。安全な距離を保ってください』
乾いた草の大束が何本も投げつけられ、その上に投げ込まれた壺が割れて油が染みこむ。
『隊長は火種を』
このままで追われるかと叫び、弓隊体長が小型のボウガンで火矢を射る。馬型の前面装甲は打ち抜けなくても草の山に当てることなら可能だ。
枯れ草が爆発的に燃え上がる。
火柱が馬型の表面を赤く染め、近くに兵庫がいることも忘れて火から遠ざかろうとする。
「人力の罠になってしまったであります」
借りものの伝話を手に、バナディアンは限りなくため息に近い息を吐いていた。
リアルブルーで磨いた工学技術で罠を張り、クリムゾンウェストで得た機導術で完璧な罠に仕上げることを目指してはいたのだが、予算の壁は厚すぎた。
「油持ってこい!」
「緑の草しかねぇよ!」
直前まで雑魔に怯えていたことを忘れたように、兵士がひたすら火を大きくする。何人かバナディアンの指示を求めて探しているがバナディアンを見つけられない。
白い光の線が石畳の上1センチを通過し馬型の体に当たる。
馬は棒立ちのままだ。回避しようにも術を使ったハンターの姿が見えず、後ろに兵庫、前には大きな炎があり逃げ出すこともできない。
「そろそろ気づかれるでありますな」
2度、3度とタクティカルスーツを用いて機導砲を行使した後、バナディアンは静かに身を起こし雑魔を見据えた。
馬面に追い詰められた狂笑が浮かぶ。
バナディアンに噛みつこうと硬い首を伸ばし、バナディアンの細い肩すれすれに通り過ぎた矢に口から後頭部まで射貫かれた。
「お見事」
兵庫はにやりを笑う。静架が無言のまま弓を下ろす。
最後に残った雑魔の姿が、薄れて消えていく。
「敵戦力全滅」
バナディアンは街道とその周辺を静かに見回す。
干し草は燃え尽きて灰となり、石畳も特に焦げてはいない。途中経過はともかく目的は果たせたとみて問題ないはずだ。
静架が覚醒状態を解除し、暖かな風に赤髪を揺らされながら残った罠に近づいた。
「立つ鳥後を濁さずと申しますし……一般の方のお邪魔になってしまいますしね」
非覚醒状態でも非覚醒者より圧倒的に身体能力が高い。
固い地面に深く刺さった杭を素手で引き抜き、小さい割に堅く重い意思を片手で複数掴んで街道脇に積む。生身で重機並みの活躍ぶりだ。
東に見える町に動きがあった。
伝話で雑魔排除を知らされた商人達が、10台近い荷馬車を仕立てて出発させたのだ。
ミネットは馬車を誘導し終え、1人土まみれになった穴を埋めるメーガンと、脇に置かれたままの特大弓に気付く。
「メーガンさんならもっと張力の高い弓でも扱えそうですね! 金属製とか!」
全身鎧の内側で大量の汗が流れた。
「ああ、引けるだけでも凄いな」
兵庫が慰めるようにメーガンの肩を軽く叩く。この騎士、力で補いきれないほど技が拙い。
「それにしても大きな武器ですね。なんていうか……かっこいいです! いつかメーガンさんみたいに大剣を振り回せるよう、鍛錬していきますね!」
ミネットの裏のない賞賛が止めになった。
気力が尽きて中身無傷の全身鎧が倒れた。
「メーガン殿! くっ、何故ヒールが効かないのだ」
薄れ行く意識の中、ゲルトの声と暖かな癒しの力だけが感じられていた。
石畳の街道が緑を2つに切り分けていた。
「歪虚を退治してからお腹いっぱい食べて……お腹を壊さない程度に食べていいですよ」
ミネット・ベアール(ka3282)が、重装馬に話かけつつ豊かすぎる牧草に驚き呆れていた。
辺境ではまず目にすることのない圧倒的な緑だ。
これだけ緑があれば羊や牛が何百頭も飼育可能だろう。しかし今この場には一頭もいない。
「馬が3頭。いえ、あれは」
ゲルト・フォン・B(ka3222)が鋭い視線を遠くに向けた。
体格と筋肉に恵まれた馬に似た、表面が金属にしか見えない何かが3体。間違いなく雑魔だ。
ゲルトは愛馬に加速を命じる。
ゴースロン種の速度は圧倒的であり、瞬く間に距離を0に近づける。
馬型雑魔は距離100メートルで彼女に気付き、3対1なら勝てると判断しゲルトに向かって駆け出した。
右端の馬型の足下に矢が突き刺さる。急停止して倒れるのだけは避けたが残る2体に置いていかれる。
それを為したミネットは、馬型の体格から美味しい馬肉を連想してしまっている最中だった。
雑魔は倒せば消えるのが基本とはいえ、希に死骸が残るのだ。
「今ですよ!」
唾液を飲み込み指示を出す。
「はい!」
ロングソードを鞘から抜く。
馬の速度と金属の重量を兼ね備えた雑魔だ。相手にとって不足はない。
「騎士たるもの、騎馬戦で負けるわけにはいかない!」
そのままでは正面衝突して双方無事では済まない進路と速度を保ち、両手でしっかりと剣を握る。
衝突まで残り10メートルを切ったとき、馬型雑魔2体が恐怖に負けて90度以上進路を変えた。
ゲルトが剣を振るう。
馬型の胸に切っ先が当たり数センチの切れ目が入る。
ミネットが矢を放つ。
雑魔が口から泡を吹きつつさらに進路を変える。しかしミネットの狙いは非常に正確で、後部の薄い皮膚を貫いて矢が刺さる。
「方向よし」
ミネットの次の矢は、馬型が必死に頑張れば直撃しない程度の精度に抑えられていた。
2頭は残る体力を絞り出して回避を行う。回避には成功したが疲労が溜まり速度は落ち、その上ミネットの狙い通りの場所へ向かうことになる。
「お前はここで倒す」
ゴースロンが弧を描いてもう1頭の雑魔の退路を断つ。
速度に倍以上の差があり、その上騎手の差があるのでこの程度軽い。
「逃がさないぞ!」
ロングソードの切っ先が雑魔の足を捉える。
普通の馬なら最低でも骨折なのに、この馬型雑魔は表面はひび割れても速度は落ちすらしない。
ミネットがマテリアルを矢に集中。馬型の背を狙い腹まで貫通させる。
「これでっ」
ゴースロンが数センチの距離を開けて馬型の脇を走り抜け、主の振り下ろした刃が馬型の首をうなじから切断する。
馬型が倒れるよりも、薄れて消える方が早かった。
●臆病な雑魔達
「こっちだこっち」
堅く重い馬型の頭が、リュー・グランフェスト(ka2419)の戦斧に受け止められた。
リューはほとんど反撃しない。ゲルト達の戦いを見て、彼が本気を出せば2体の雑魔が逃げることを確信したのだ。
「面倒だな」
1体でも逃せば武力を持たない民と土地を経営する領主が大きなダメージを負う。
殻は愛馬と共に、地味で苦労ばかり多い囮任務を辛抱強く続けていった。
ふと気付く。
そろそろ岩井崎 旭(ka0234)達がいる場所なのに誰もいない。
再度周囲を確認する。榊 兵庫(ka0010)と一緒になって、街道を挟んだ場所で大柄の馬型を激しくやりあっているのが見えた。
「罠次第か」
ひとつ息を吐いて集中し、馬の膝あたりの高さにある縄を飛び越える。
数秒遅れで縄と縄を固定していた杭が破壊される音が響く。前面は頑丈とはいえ無傷とはいかず、馬型2頭の足音は乱れていた。
リューは目印を視認すると同時に再度跳躍。馬型2頭は拳大の石を踏んでしまい蹄と足を痛める。
これらの効果的な罠は全て静架(ka0387)のお手製だ。
「出来るだけその場に有るもので簡単にすますのが、基本ですね」
静架が街道で冗談を飛ばす。
兵士達が笑って緊張が解れ、丁度の解れたタイミングで静架が指示を出す。
「逃げられると困りますので、タイミングを合わせて下さい」
多数の長弓が引き絞られる。
「3、2、1……今ですっ!」
雑魔に逃げ場を与えない、見事な弾幕だった。
ハンターと比べると腕力も体力もないため静架の矢以外は馬型の頭や胸で矢が弾きかれるがそれで十分だ。
矢が邪魔で馬型は前が見えない。
足下にこれ見よがしに開いていた穴は飛び越えたものの、その先に張られていたロープに自ら飛び込んでしまう。
足首、顎の下、そして眼球。
3本のロープが2体の雑魔に食い込んだ。
ゾファル・G・初火(ka4407)が得意げな笑みを浮かべている。
髪の毛一筋分も油断はせず、馬型達の悲鳴に負けない声で叫ぶ。
「出番だ。俺様ちゃんの言ったとおりにすれば当たる。やれ!」
CAM用武装でもおかしくない大きさの剣が、無造作に半円を描いた。
馬型の足1本が切断され空へ消えていく。メーガン(kz0098)は大剣を街道に突き刺してしまい身動きがとれない。
3本足の馬型は倒れもせずメーガンを睨みつけ、すぐにメーガンの指揮官がゾファルと気付いて歯を剥き出し威嚇する。
直接殺気を向けられた訳でもないのに兵士達が恐れて逃げ腰になる。
「馬刺しごときがなんぼのもんじゃー、かかってこんかいじゃーん」
女子高生らしい可愛らしくも艶のある声とは裏腹に、ゾファルは3メートルの特大斧を構えて走り寄る。
馬型が身をかがめる。
威力の分狙いの甘い斧が雑魔の頭頂表面を削る。
振り切った直後のゾファルの喉に噛みつこうとするが、ギガースアックスの分厚い歯の部分で受け止められた。
「馬って奴はこうやって狩るんじゃーん」
特大戦斧が重さを感じられない速度と動きで引き戻され、下段から頭部に向かって振り上げられる。
残った前足を斬り飛ばされて回避の手段を失い、直撃だけは避けようとするも高速の刃に追い詰められ、ゾファルの斧が下から雑魔の頭を粉砕した。
残るもう1体は、静架の矢を胸に受けた時点で抗戦を諦めた。
痛む足に力を込める。力任せに前進しロープを引きちぎる。
眼球にあたる器官が半壊して視界が半分になっていた。
「兵士の皆さんは下がってください」
静架が指示を出す。
弓を使うには距離が近すぎる。
敢えて前に出て、雑魔の注意が兵士に向かないよう鞭を打ち付ける。
聞くだけで激痛に苛まさそうな音がした。兵士相手なら十分異常な威力だが、分厚い金属状の皮膚を撃ち抜くには足りない。
雑魔は静架を見て、兵士を見て、また静架を見て、逃げ場がないことに気付いてしまう。
絶望から目を逸らし方向転換の後全力疾走。
罠にかかって傷ついた足では耐えきれず、蹄は砕け肉か金属か分からないものがすり減らされていく。
それでも、まだ加速開始していない静架は逃げ出せると雑魔は思っていた。
草原を駆ける馬の足音が急速に近づいた。
馬型が顔を上げる。
恐ろしい威力の罠地帯は既に抜け、目の前にあるのは森に続く草原のみ。
否、濃密で炎の如く立ち上るマテリアルと共に、リューがアックス「アルディナ」を上段から一直線に振り下ろした。
馬型が仰け反る。
鼻、首、胸まで深く抉られるが辛うじて生きている。
異形の嘶きを撒き散らしながらリューの横を駆け抜ける。リューが勝利が確定した長時間の追撃戦を覚悟したそのとき、1本の矢がリューの脇を抜け馬型の後頭部へ、そして頭蓋を貫通して額から抜けた。
「罠の再設置を。敵の増援がくるかもしれません」
弓を構えたままの静架の瞳は、北国の冬よりも冷たく光っていた。
●罠と罠と罠
体格のよい馬型雑魔が駆けている。
重く、堅く、それでいて速く、つまり強い。
なのに同数のハンターから逃げるという弱腰ぶりは、兵庫を大いに困惑させていた。
「ここまで腰抜けだと少々厄介だな。……もしかして騎士殿が余分なことをしたせいで逃げ癖がついたんじゃないのか?」
雑魔は罠がある街道に近づく前にハンター複数とメーガンに気付き逃げ出した。
故に仕方なく、兵庫達は馬型雑魔を負って延々走らざるを得なくなった。
「馬か」
旭の口角が吊り上がる。
「馬だぜ」
騎乗の腕は見事なもので、兵庫との距離がじりじりと離れ大柄雑魔に近づいている。
「馬が相手だぜ、シーザー!」
旭の愛馬、ゴースロン種のシーザーが、瞳を爛々と輝かせて最高速に到達した。
負うのは体格のよい馬型と、一回り小さな馬型雑魔だ。
大柄が加速し、並の体格の馬型が置いていかれ、シーザーが両者をまとめて追い抜いた。
両者の瞳に絶望に近いものが浮かぶ。
「さあ行くぜ! 受けろよ、俺とシーザーの力をッ!」
騎乗状態で3メートル級の戦斧を振り上げる。
全身の筋肉はマテリアルで強化済み、斧には隅々にまで祖霊の力が行き渡り、対大型歪虚にふさわしい威力で馬型雑魔を襲う。
馬型の能力では回避は無理、辛うじて防御の厚い肩で受けてはみたものの、速度と重さとマテリアルの量で上回る斬撃によって溶けかけバターのように引き裂かれた。
別の蹄の音が休息に遠ざかる。
「そちらは任せた」
「そっちは任せた!」
逃げていく通常の馬型は兵庫に任せ、旭は全神経を目の前の馬に集中した。
馬型が急加速する。
攻撃を捨てた走りは非常に速い。仮に乗用馬で追ったとしたら、延々追いかけて一撃入れてはまた追いかけるという、時間と体力だけが消費される追撃戦になっていたはずだ。
「行かせねえよ。もっとゆっくりしてくんだな!」
一度の全力移動で完璧に追い抜く。次の走りで間合いを詰めて止めの斬撃。
馬の肩から胸まで斧が貫通し、割れ目が急速に広がり残骸と化した雑魔が地面に転がった。
雑魔がたまたま罠を回避しようが最初から逃げに徹しようが確実に追いついて潰す、旭主従の完全勝利であった。
●排除完了
「さて、暁よ。俺とお前の人馬一体の働きを見せる、良い舞台だ。宜しく頼むぜ」
重装馬はうなずきもしないし嘶きもしない。最高速を保つことで主の意思に答える。
十数メートルの距離が10メートルを切り、馬型雑魔から完全に余裕が失われ動きが直線的になっていく。
兵庫の口元に笑みが浮かぶ。
馬型は、兵庫が仕掛けた落とし穴に踏み込み、自らの重さと速度に負けて骨ごと前足を砕いてしまった。
重装馬が馬型の手前2メートルで進路を変える。兵庫は文字通りの全力で片鎌槍を振り下ろす。
鎌に馬と人の力が同時に加わって、金属の皮膚を音もなく引き裂き骨まで断って反対側に抜けた。
雑魔は尻毎片方の足を切り飛ばされ、その衝撃を利用して半壊した前足を引き抜き罠のない地面を蹴って前進する。
金属製のパーツの一部が消え、残りも酷く歪んだ馬型雑魔が駆ける様は控えめに表現して異様だ。
「ひっ」
兵士達が恐怖に士気を砕かれ街道上のハンターの邪魔になる。
兵庫は移動速度をあわせて止めをさそうとするが、圧倒的な速度差がある訳ではないのですぐには難しく、追い抜いてから仕留めようにも兵士が邪魔過ぎだ。
『2番と7番、ロープの両側を引っ張ってください』
兵士の腰にある魔導短伝話からバナディアン・I(ka4344)の声が聞こえた。
2人の兵士が混乱しながら縄を引っ張る。
馬型雑魔の前でぴんと伸び、無事な足が2本しかない馬が転倒する。
『4番から6番は燃えるものと油を敵の手前へ投げて。安全な距離を保ってください』
乾いた草の大束が何本も投げつけられ、その上に投げ込まれた壺が割れて油が染みこむ。
『隊長は火種を』
このままで追われるかと叫び、弓隊体長が小型のボウガンで火矢を射る。馬型の前面装甲は打ち抜けなくても草の山に当てることなら可能だ。
枯れ草が爆発的に燃え上がる。
火柱が馬型の表面を赤く染め、近くに兵庫がいることも忘れて火から遠ざかろうとする。
「人力の罠になってしまったであります」
借りものの伝話を手に、バナディアンは限りなくため息に近い息を吐いていた。
リアルブルーで磨いた工学技術で罠を張り、クリムゾンウェストで得た機導術で完璧な罠に仕上げることを目指してはいたのだが、予算の壁は厚すぎた。
「油持ってこい!」
「緑の草しかねぇよ!」
直前まで雑魔に怯えていたことを忘れたように、兵士がひたすら火を大きくする。何人かバナディアンの指示を求めて探しているがバナディアンを見つけられない。
白い光の線が石畳の上1センチを通過し馬型の体に当たる。
馬は棒立ちのままだ。回避しようにも術を使ったハンターの姿が見えず、後ろに兵庫、前には大きな炎があり逃げ出すこともできない。
「そろそろ気づかれるでありますな」
2度、3度とタクティカルスーツを用いて機導砲を行使した後、バナディアンは静かに身を起こし雑魔を見据えた。
馬面に追い詰められた狂笑が浮かぶ。
バナディアンに噛みつこうと硬い首を伸ばし、バナディアンの細い肩すれすれに通り過ぎた矢に口から後頭部まで射貫かれた。
「お見事」
兵庫はにやりを笑う。静架が無言のまま弓を下ろす。
最後に残った雑魔の姿が、薄れて消えていく。
「敵戦力全滅」
バナディアンは街道とその周辺を静かに見回す。
干し草は燃え尽きて灰となり、石畳も特に焦げてはいない。途中経過はともかく目的は果たせたとみて問題ないはずだ。
静架が覚醒状態を解除し、暖かな風に赤髪を揺らされながら残った罠に近づいた。
「立つ鳥後を濁さずと申しますし……一般の方のお邪魔になってしまいますしね」
非覚醒状態でも非覚醒者より圧倒的に身体能力が高い。
固い地面に深く刺さった杭を素手で引き抜き、小さい割に堅く重い意思を片手で複数掴んで街道脇に積む。生身で重機並みの活躍ぶりだ。
東に見える町に動きがあった。
伝話で雑魔排除を知らされた商人達が、10台近い荷馬車を仕立てて出発させたのだ。
ミネットは馬車を誘導し終え、1人土まみれになった穴を埋めるメーガンと、脇に置かれたままの特大弓に気付く。
「メーガンさんならもっと張力の高い弓でも扱えそうですね! 金属製とか!」
全身鎧の内側で大量の汗が流れた。
「ああ、引けるだけでも凄いな」
兵庫が慰めるようにメーガンの肩を軽く叩く。この騎士、力で補いきれないほど技が拙い。
「それにしても大きな武器ですね。なんていうか……かっこいいです! いつかメーガンさんみたいに大剣を振り回せるよう、鍛錬していきますね!」
ミネットの裏のない賞賛が止めになった。
気力が尽きて中身無傷の全身鎧が倒れた。
「メーガン殿! くっ、何故ヒールが効かないのだ」
薄れ行く意識の中、ゲルトの声と暖かな癒しの力だけが感じられていた。
依頼結果
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相談卓 榊 兵庫(ka0010) 人間(リアルブルー)|26才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/04/20 23:36:25 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/19 07:50:19 |