ゲスト
(ka0000)
資料館の影
マスター:篠崎砂美

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~5人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/04/22 12:00
- 完成日
- 2015/04/27 18:18
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
『うぎゃあああああぁぁ!!』
魔術学院の資料館に、時ならぬ悲鳴が書き渡りました。
『なんじゃこりゃああぁぁぁ!!』
大絶叫です。
けれども、誰も声の主を振り返ったりはしません。
資料館の大ホールは、しんとした静寂につつまれていたからです。
『だ、誰かぁ!!』
三度悲鳴があがりますが、誰一人として、それに気づく者はいませんでした。
「今日も、なべて事もなし。平和なものよねえ。どれどれ、ちゃんと仕事をしているかな」
館員のセリオ・テカリオが、案内カウンターの上におかれた一冊の魔導書を手に取りました。世にも希有なページに文字を浮かびあがらせて会話する魔導書、案内係のディアーリオ君です。
『しくしくしくしくしくしくしくしく……』
「なんなの、これは!?」
開いたページ一面に現れた文字に、セリオがメガネの奥で目を丸くしました。ほとんど、悲鳴や泣き声です。いったい、ディアーリオに何があったというのでしょうか。
「いつから、ホラー本になったのよ。いったい何があったのか、ちゃんと説明しなさい。今すぐ」
セリオが、ディアーリオを問い質しました。
『ここ、ここ、ここです↓』
右ページの右下端の方を矢印で指し示しながら、ディアーリオが書きました。
見れば、端っこの方がちょっと湿ってくしゃくしゃになっています。
「なによ、この程度のことで、大げさな」
セリオが、カウンターの下から霧吹きとアイロンを出して、あっという間にディアーリオの皺をなくして元通りにしました。
「いったい、どうしたって言うわけ」
さて、あらためて、セリオがディアーリオに訊ねます。
『何かに、囓られたんです!』
必死に、ディアーリオが訴えました。
確かに、見ようによっては、何かに囓られたか、しゃぶられたかのようにも見えますが、はてさて。
「鼠の類なら、きっちり駆除しているはずだけれど……」
なにしろ、貴重な資料の多い所です。収蔵物を荒らす害虫や害獣は、徹底的に駆除しているはずでした。ましてや、雑魔など考えられません。
『そんな可愛いものじゃありません。もっと、恐ろしい何かです!』
「いったい、何が現れたって言うのよ」
セリオが、小首をかしげました。
『分からないから怖いんじゃないですかあ』
「やれやれ……」
困ったものだと、セリオが溜め息をつきました。
二人の間では一応ちゃんとした会話になってはいますが、傍目からはただのセリオの独り言に見えます。
「どうかしたのか?」
何ごとかと、館内で暇そうにしていたハンターたちが集まってきました。
『何かが、この艦内にいる……』
おどろおどろしいフォントで、ディアーリオが文字を浮かびあがらせました。
「館内の文字、間違ってるわよ」
さらりと、セリオが誤植を指定しました。
『何かが、この館内にいる……』
慌ててディアーリオが訂正しますが、手遅れです。
「面白い、隠れんぼか、宝探しってところね」
暇そうにしていたハンターたちが目を輝かせました。まったく、物好きな人たちです。
「こらこら、この館内にある物は、すべて魔術学院の所有物なんですから、勝手に家探ししたり持ち出したりしないように」
いったい、何を始めるつもりかと、セリオがハンターたちに釘を刺しました。
「それに、そんなお化けみたいな者が、館内にいるわけないんですからね」
「じゃあ、それを証明すると言うことで。いないならいないで、それを証明すれば、この本も安心するんだろ?」
「えーと……」
『はい、安心します。ぜひお願いします!』
セリオが答えるよりも早く、ディアーリオが答えました。
『ぜひ、妖怪ページカジカジをとっ捕まえてください!』
やれやれと頭をかかえるセリオを尻目に、ディアーリオがハンターたちに頼み込みました。
魔術学院の資料館に、時ならぬ悲鳴が書き渡りました。
『なんじゃこりゃああぁぁぁ!!』
大絶叫です。
けれども、誰も声の主を振り返ったりはしません。
資料館の大ホールは、しんとした静寂につつまれていたからです。
『だ、誰かぁ!!』
三度悲鳴があがりますが、誰一人として、それに気づく者はいませんでした。
「今日も、なべて事もなし。平和なものよねえ。どれどれ、ちゃんと仕事をしているかな」
館員のセリオ・テカリオが、案内カウンターの上におかれた一冊の魔導書を手に取りました。世にも希有なページに文字を浮かびあがらせて会話する魔導書、案内係のディアーリオ君です。
『しくしくしくしくしくしくしくしく……』
「なんなの、これは!?」
開いたページ一面に現れた文字に、セリオがメガネの奥で目を丸くしました。ほとんど、悲鳴や泣き声です。いったい、ディアーリオに何があったというのでしょうか。
「いつから、ホラー本になったのよ。いったい何があったのか、ちゃんと説明しなさい。今すぐ」
セリオが、ディアーリオを問い質しました。
『ここ、ここ、ここです↓』
右ページの右下端の方を矢印で指し示しながら、ディアーリオが書きました。
見れば、端っこの方がちょっと湿ってくしゃくしゃになっています。
「なによ、この程度のことで、大げさな」
セリオが、カウンターの下から霧吹きとアイロンを出して、あっという間にディアーリオの皺をなくして元通りにしました。
「いったい、どうしたって言うわけ」
さて、あらためて、セリオがディアーリオに訊ねます。
『何かに、囓られたんです!』
必死に、ディアーリオが訴えました。
確かに、見ようによっては、何かに囓られたか、しゃぶられたかのようにも見えますが、はてさて。
「鼠の類なら、きっちり駆除しているはずだけれど……」
なにしろ、貴重な資料の多い所です。収蔵物を荒らす害虫や害獣は、徹底的に駆除しているはずでした。ましてや、雑魔など考えられません。
『そんな可愛いものじゃありません。もっと、恐ろしい何かです!』
「いったい、何が現れたって言うのよ」
セリオが、小首をかしげました。
『分からないから怖いんじゃないですかあ』
「やれやれ……」
困ったものだと、セリオが溜め息をつきました。
二人の間では一応ちゃんとした会話になってはいますが、傍目からはただのセリオの独り言に見えます。
「どうかしたのか?」
何ごとかと、館内で暇そうにしていたハンターたちが集まってきました。
『何かが、この艦内にいる……』
おどろおどろしいフォントで、ディアーリオが文字を浮かびあがらせました。
「館内の文字、間違ってるわよ」
さらりと、セリオが誤植を指定しました。
『何かが、この館内にいる……』
慌ててディアーリオが訂正しますが、手遅れです。
「面白い、隠れんぼか、宝探しってところね」
暇そうにしていたハンターたちが目を輝かせました。まったく、物好きな人たちです。
「こらこら、この館内にある物は、すべて魔術学院の所有物なんですから、勝手に家探ししたり持ち出したりしないように」
いったい、何を始めるつもりかと、セリオがハンターたちに釘を刺しました。
「それに、そんなお化けみたいな者が、館内にいるわけないんですからね」
「じゃあ、それを証明すると言うことで。いないならいないで、それを証明すれば、この本も安心するんだろ?」
「えーと……」
『はい、安心します。ぜひお願いします!』
セリオが答えるよりも早く、ディアーリオが答えました。
『ぜひ、妖怪ページカジカジをとっ捕まえてください!』
やれやれと頭をかかえるセリオを尻目に、ディアーリオがハンターたちに頼み込みました。
リプレイ本文
『何かが、いるんですよ!』
ディアーリオが、必死に訴えかけます。
「鼠か虫か、まあ、そんなとこだろう?」
大げさなと、バレル・ブラウリィ(ka1228)が決めつけました。面倒だとばかりに、さっさと本の閲覧をしに階段を上がっていってしまいます。
「かっわいい♪ ねえねえ、囓られたのは、いつ、どこにいたとき?」
ケイルカ(ka4121)が、ディアーリオに訊ねました。
『目が覚めたら、囓られていたんです』
ディアーリオが答えました。それにしても、彼は眠るのでしょうか。謎です。
「他には、ディアーリオちゃんみたいに話せる本はいるの? まさか、そんなお仲間の本に囓られたとか」
『ええと……』
「そんな魔導書はないですね。だから、この子は観察対象になっているわけですし。だいたい、他の者を囓るだなんて、どんな人食い魔導書ですか」
セリオがケイルカに言いました。
「ホントに会話してる。凄いなあ、分解して調べてみてもいい?」
興味津々で瞳を赤く輝かせて、メルクーア(ka4005)が聞きました。
「ダメです!」
『ダメです!』
セリオとディアーリオが、同時に叫びました。まあ、当然ですが。
「残念」
メルクーアが、肩をすくめます。
「雨漏りとかじゃないですよねえ」
仕方ないので、メルクーアがカウンターの上や周辺を調べ始めました。ケイルカも、何かいないかと、カウンターをツンツンしてみます。
けれども、とりたてて不審な物は見つかりません。ちょっとカウンターの上が埃っぽかったですが。おかげで、いろいろな人の手形や小さな足形のような物がいっぱいついています。
「うーん、現状保存してくれてないと……」
ちっちゃな何かが悪戯しに来た可能性もありますが、何がとまでは特定できそうもありません。
「いや、実際に被害に遭ってるんだから、犯人はいますよね」
天央 観智(ka0896)が、事件には違いないのだから、放置するのは早計だと言います。
「まさか幽霊とか……。さすがに、パルムが本に噛みつくことはないでしょうし。お手すきでしたら、ディアーリオさんも一緒に犯人を探しに行きましょう」
『ぜひ、捕まえてください。もう囓られるのは嫌です!』
ディアーリオが同意して、ミオレスカ(ka3496)にかかえられました。
「まずは、他の魔導書が、同じ被害に遭っていないか調べることからですね」
「まだ、被害届みたいな物は来ていないけれど。一応、魔導書のコーナーは……」
セリオが、観智に魔術関連の書籍が収められた部屋を教えました。これらは、一般の書籍とは別に管理されています。
「私も、館内を探してみます」
「私も一緒に行くー」
メルクーアとケイルカも、他の場所を調べに行きました。
「なんだか、下ではまだもめているようだが……」
二階で本を物色していたバレルが、資料館の各所に散らばっていくハンターたちを見下ろしてつぶやきました。
「まあ、これだけ本やいろいろな展示物があるから、中には変な物もあるだろうさ……。んっ? この本は……!?」
何やら、見覚えのある本を見つけて、バレルが手に取りました。
「けげっ、なんでこれがここにある!?」
それは、何やらおどろおどろしい触手のスケッチがたくさん描かれた手製の本です。しかも、それを描いたのは、バレル本人でした。
「確か、イラストコンテストでのリクエストだったはず……。だが、あれは、ちゃんと依頼者に手渡したはずだ……。転売しやがったなあ!」
バレルが頭をかかえました。きっと、いろいろな人の手を渡り巡って、ここに持ち込まれたのでしょう。その間に、バレル作として、様々な噂が……。
「ううっ」
まるで、本の中からのびてきた触手に絡まれたように、バレルが頭をかかえてうずくまりました。
「何か見つけたのですか?」
そこへ、観智がやってきました。
「い、いや、なんでもない。なんでもない……」
慌てて、バレルが何ごともなかったかのように、本を本棚に戻しました。
「本当に……」
「なんでもない!」
疑わしそうな観智の方を見て、バレルが必死にごまかしました。後で、なんとか回収しようと、本を背中で隠します。その陰で、何か小さな者が動きました。
「なくなってるう!? あんな物盗んで、誰得だあぁ!」
やっと観智がいなくなって振り返ったバレルは、いつの間にか本がなくなっているのに気づいて叫びました。
魔導書を調べていた観智ですが、ディアーリオ以外に損傷を受けた本は見つかりませんでした。仕方ないので、再びカウンターに戻ってきます。
「こうなると、館員の持ち物も調べた方がよくありませんか」
「身内を疑えと言うんですか」
さすがに、セリオが顔を顰めます。
「いや、もしかすると、誰かが禁書の類を持ち込んだせいかもしれませんし。もしかすると、本当に人食い魔導書が……」
「それは絶対にありえません。禁書は魔術師協会で厳重に管理していますから。一般の目に触れる場所には持ち出すことは不可能です。ここにも、禁書は一冊もありませんよ。持ち込まれれば、すぐに分かります」
きっぱりとセリオが言い切りました。
「それと、あまり禁忌に触れたがるような発言はしませんように。すべての魔術師がいつでも寛容とは限りませんから」
ニッコリと微笑みながら、さりげなくセリオが恐ろしいことを言いました。
「なんだか、わくわくするよね」
まるで探検にでも出たように、目をキラキラさせてメルクーアが言いました。
「でも、ちゃんと犯人を捕まえないとー」
「えっ? うん、ちゃんと探すよ。探すから」
慌ててケイルカに答えると、メルクーアが専門書の小部屋に入りました。
ここは、どうやら雑誌の収蔵室のようです。
一つ一つの雑誌が無事か調べているうちに、メルクーアはとんでもない物を見つけてしまいました。
『月刊・お酒マガジン』です。
サルヴァトーレ・ロッソで発行された物らしく、毎号買い集めていくと、自宅でお酒が造れるキットが完成するというとんでもない物でした。しかも、ちゃんと付録がついています。
「これは、組み立てなくちゃでしょう」
初心を忘れて、メルクーアが勝手に付録を組み立て始めました。いろいろな部品が繋がって、蒸留装置が組み上がっていきます。
「ね~ね~、第31号が見あたらないんだけど知らない? 31号がないと必要な部品が……あれ?」
ケイルカに声をかけたメルクーアでしたが、彼女の姿が見あたらないので、慌てて周囲を見回しました。どうやら、呆れて先に行ってしまったようです。
「変な音がすると思ったら、これはなんですか。すぐに元に戻しなさい!」
調子に乗って、本格的に蒸留酒を造る窯の準備を始めたメルクーアでしたが、当然のように館員さんたちに見つかってしまい、こっぴどく叱られてしまいました。
「こうやって、本棚の間に隠れていれば、きっと犯人を見つけられます」
通路に面した巨大な書架の間に身を滑り込ませて、ミオレスカが言いました。膝をかかえて身をぴっちりと縮込ませて、本人は本に擬態しているようなつもりです。
けれども、そんなことをしたら逆目立ちで、さすがに誰も近づいてこようとはしません。何やら、慌てて探し物をしているらしいバレルが、ミオレスカの姿にぎょっとして、見ないふりをして立ち去りました。
『えっと、いつまでこうしていたらいいのでしょうか……』
ミオレスカの膝の上に開かれていたディアーリオが、さすがに訊ねました。
「待ち伏せは、じっと我慢……あれ?」
言いつつも飽きてきたミオレスカが、首を横にむけたとたんキョトンとした顔になりました。
すぐ横にある本の表紙が、CAMパンだったからです。
確か、CAMパンは、商店街のパン屋さんの目玉商品として、最近開発された物のはずです。なのに、なんでそれが載った本があるのでしょうか。
ズリズリと書架から這い出すと、ミオレスカはその本を手に取ってみました。なんだか、ずいぶんと古そうな本です。
「もしかして、これは、偉大な予言書なのでは……」
ミオレスカが本のタイトルを確かめます。『かっこいいキャラ弁の作り方。メカ編』と書かれています。どうやら、ずっと昔にサルヴァトーレ・ロッソで発行された本のようです。見ると、パンでCAMを作るレシピがいくつも書いてありました。今も昔も、人の考えることは同じようです。けれども、これはこれで参考になります。思わず、ミオレスカは本を読みふけってしまいました。
『ちょっと、ちょっと! 今、何かがいましたよ!』
ミオレスカの膝の上で、ディアーリオがバタバタと騒ぎました。
「えっ、あっ、追いかけますよ」
ちょっと未練そうに本を閉じると、ミオレスカは小さな影を尾行していきました。
「もう。ちゃんと犯人を探さなくっちゃ」
別の部屋に入ったケイルカは、そこの本を調べ始めました。
ここは、植物関係の本が集められています。
「わあ、これ、一度庭に植えてみたかったのよね」
マンドラゴラのページを見て、ケイルカが目を輝かせました。そんな物を一般家庭の庭に植えられたら、近所迷惑この上ありません。他にも、シューリーカーや歩く肉食植物など、本当にいるのかどうかも分からない伝説の植物や魔法植物のイラストを見て、しきりに可愛いとか美味しそうとか、変な感想をもらしていきます。
「うわっ」
けれども、さすがに冬虫夏草のページを見たとたん、おどろおどろした虫の姿に慌てて本を閉じました。あまりに勢いがよすぎて、思い切り指を挟んでしまいます。
「いったーい。これは、きっとキノコのせい。ううん、キノコが犯人なんだわ」
指を押さえて床を転げながら、ケイルカが悶絶しました。相当痛かったようです。おかげで、すべてをキノコのせいにします。
そのとき、何かが通路の方を横切りました。小さな、キノコのような姿です。その手には、何かのうねうねしたオーラを放つ本を持っているようでした。
「あのキノコが犯人だわ。パルムのような可愛いキノコでも、絶対に許さないんだからあ」
そう決めつけると、ケイルカは部屋を飛び出していきました。そこで、バッタリと、ディアーリオをかかえたミオレスカに出くわします。
「しーっ!」
お互いに静かにと、合図します。
「やっぱりキノコ、ううんパルムが犯人じゃない……うぐぐっ!」
叫びかけるケイルカの口を、慌ててミオレスカが押さえました。
本をかかえたパルムは、トコトコと歩いていくと、カウンター裏の床の扉を開いて、地下へと降りていってしまいました。
「何、今のは!」
追いかけてきたケイルカとミオレスカ、カウンター側で説教されていたメルクーアと観智、上の階からそれを見下ろしていたバレルが一斉に叫びました。
「あーあ、そういうわけね。まったく、人騒がせな」
思わずセリオが天を仰ぎます。いったいどういうことかと詰め寄る一同を連れて、セリオが地下の収蔵庫へと降りていきました。
「これって!?」
地下の収蔵庫を埋め尽くしていたのは、たくさんのパルムたちです。
「ふむ。次はこれかの……。うむ、いい仕事をしておるが、趣味が悪い。価値は、そうだのう、50がいいところだろう」
中央にいる老司書パルムが、眼鏡の位置を調整しながらバレルのスケッチを鑑定していました。掲げられたフリップには、アイテムの価値らしい数字が書かれています。そばでは、書記係の館員が、アイテムの価格をメモしていました。
「がーん……」
それを聞いて、バレルがガックリと肩を落としました。安い、安すぎます。
「たまに、ライブラリの方から、パルムたちに収蔵物の出張鑑定をしてもらっているのよ。まあ、たまに、そのとき慣れていない雑用の幼パルムたちが、あっちこっちに忘れ物をしたり、勝手に物をさわったりしてね……」
だから騒がないでほしかったのにと、セリオが言いました。確信はなかったものの、だいたい予想はついていたようです。
「いやあ、毎度迷惑をかけるのお。だが、こやつらも、ちゃんとここで研修して、仕事を覚えてもらわんとな」
司書パルムが、すまなそうに言いました。
「おお、それが、世にも珍しい魔導書か。どれどれ……」
ディアーリオに気づいた司書パルムが、ひょいひょいと手招きしました。呼ばれて、ミオレスカがディアーリオを司書パルムに手渡します。
「ふむふむ。こ、これは……」
ディアーリオを子細に調べながら、司書パルムが唸りました。
「もしかして、高値がつくのかしら」
みんなが期待に目を輝かせます。
そのとき、一人の幼パルムが司書パルムに何やら耳打ちしました。
「なになに、甘くないので美味しくなかったとな」
ふむふむと、司書パルムが答えます。
「本当に、犯人はパルムだったのかあ!」
ミオレスカが、引きつりながら叫びました。冗談から独楽です。
「その子が犯人かあ! でも、パルムだから許す!」
てへっと笑ってごまかすようパルムを指さして、ケイルカが叫びました。
「さて、ならば仕方ない、価値はこれじゃじゃじゃ~ん」
司書パルムが、0と書かれたフリップを皆に見せました。
『そ、そんな~』
ディアーリオが、ガックリとページを閉じます。もしかして、パルムの価値基準は、美味しいかどうかなのでしょうか。ちょっと謎です。
「か、勝ったかもしれない……」
思わず、陰でひっそりとガッツポーズをとるバレルでした。
ディアーリオが、必死に訴えかけます。
「鼠か虫か、まあ、そんなとこだろう?」
大げさなと、バレル・ブラウリィ(ka1228)が決めつけました。面倒だとばかりに、さっさと本の閲覧をしに階段を上がっていってしまいます。
「かっわいい♪ ねえねえ、囓られたのは、いつ、どこにいたとき?」
ケイルカ(ka4121)が、ディアーリオに訊ねました。
『目が覚めたら、囓られていたんです』
ディアーリオが答えました。それにしても、彼は眠るのでしょうか。謎です。
「他には、ディアーリオちゃんみたいに話せる本はいるの? まさか、そんなお仲間の本に囓られたとか」
『ええと……』
「そんな魔導書はないですね。だから、この子は観察対象になっているわけですし。だいたい、他の者を囓るだなんて、どんな人食い魔導書ですか」
セリオがケイルカに言いました。
「ホントに会話してる。凄いなあ、分解して調べてみてもいい?」
興味津々で瞳を赤く輝かせて、メルクーア(ka4005)が聞きました。
「ダメです!」
『ダメです!』
セリオとディアーリオが、同時に叫びました。まあ、当然ですが。
「残念」
メルクーアが、肩をすくめます。
「雨漏りとかじゃないですよねえ」
仕方ないので、メルクーアがカウンターの上や周辺を調べ始めました。ケイルカも、何かいないかと、カウンターをツンツンしてみます。
けれども、とりたてて不審な物は見つかりません。ちょっとカウンターの上が埃っぽかったですが。おかげで、いろいろな人の手形や小さな足形のような物がいっぱいついています。
「うーん、現状保存してくれてないと……」
ちっちゃな何かが悪戯しに来た可能性もありますが、何がとまでは特定できそうもありません。
「いや、実際に被害に遭ってるんだから、犯人はいますよね」
天央 観智(ka0896)が、事件には違いないのだから、放置するのは早計だと言います。
「まさか幽霊とか……。さすがに、パルムが本に噛みつくことはないでしょうし。お手すきでしたら、ディアーリオさんも一緒に犯人を探しに行きましょう」
『ぜひ、捕まえてください。もう囓られるのは嫌です!』
ディアーリオが同意して、ミオレスカ(ka3496)にかかえられました。
「まずは、他の魔導書が、同じ被害に遭っていないか調べることからですね」
「まだ、被害届みたいな物は来ていないけれど。一応、魔導書のコーナーは……」
セリオが、観智に魔術関連の書籍が収められた部屋を教えました。これらは、一般の書籍とは別に管理されています。
「私も、館内を探してみます」
「私も一緒に行くー」
メルクーアとケイルカも、他の場所を調べに行きました。
「なんだか、下ではまだもめているようだが……」
二階で本を物色していたバレルが、資料館の各所に散らばっていくハンターたちを見下ろしてつぶやきました。
「まあ、これだけ本やいろいろな展示物があるから、中には変な物もあるだろうさ……。んっ? この本は……!?」
何やら、見覚えのある本を見つけて、バレルが手に取りました。
「けげっ、なんでこれがここにある!?」
それは、何やらおどろおどろしい触手のスケッチがたくさん描かれた手製の本です。しかも、それを描いたのは、バレル本人でした。
「確か、イラストコンテストでのリクエストだったはず……。だが、あれは、ちゃんと依頼者に手渡したはずだ……。転売しやがったなあ!」
バレルが頭をかかえました。きっと、いろいろな人の手を渡り巡って、ここに持ち込まれたのでしょう。その間に、バレル作として、様々な噂が……。
「ううっ」
まるで、本の中からのびてきた触手に絡まれたように、バレルが頭をかかえてうずくまりました。
「何か見つけたのですか?」
そこへ、観智がやってきました。
「い、いや、なんでもない。なんでもない……」
慌てて、バレルが何ごともなかったかのように、本を本棚に戻しました。
「本当に……」
「なんでもない!」
疑わしそうな観智の方を見て、バレルが必死にごまかしました。後で、なんとか回収しようと、本を背中で隠します。その陰で、何か小さな者が動きました。
「なくなってるう!? あんな物盗んで、誰得だあぁ!」
やっと観智がいなくなって振り返ったバレルは、いつの間にか本がなくなっているのに気づいて叫びました。
魔導書を調べていた観智ですが、ディアーリオ以外に損傷を受けた本は見つかりませんでした。仕方ないので、再びカウンターに戻ってきます。
「こうなると、館員の持ち物も調べた方がよくありませんか」
「身内を疑えと言うんですか」
さすがに、セリオが顔を顰めます。
「いや、もしかすると、誰かが禁書の類を持ち込んだせいかもしれませんし。もしかすると、本当に人食い魔導書が……」
「それは絶対にありえません。禁書は魔術師協会で厳重に管理していますから。一般の目に触れる場所には持ち出すことは不可能です。ここにも、禁書は一冊もありませんよ。持ち込まれれば、すぐに分かります」
きっぱりとセリオが言い切りました。
「それと、あまり禁忌に触れたがるような発言はしませんように。すべての魔術師がいつでも寛容とは限りませんから」
ニッコリと微笑みながら、さりげなくセリオが恐ろしいことを言いました。
「なんだか、わくわくするよね」
まるで探検にでも出たように、目をキラキラさせてメルクーアが言いました。
「でも、ちゃんと犯人を捕まえないとー」
「えっ? うん、ちゃんと探すよ。探すから」
慌ててケイルカに答えると、メルクーアが専門書の小部屋に入りました。
ここは、どうやら雑誌の収蔵室のようです。
一つ一つの雑誌が無事か調べているうちに、メルクーアはとんでもない物を見つけてしまいました。
『月刊・お酒マガジン』です。
サルヴァトーレ・ロッソで発行された物らしく、毎号買い集めていくと、自宅でお酒が造れるキットが完成するというとんでもない物でした。しかも、ちゃんと付録がついています。
「これは、組み立てなくちゃでしょう」
初心を忘れて、メルクーアが勝手に付録を組み立て始めました。いろいろな部品が繋がって、蒸留装置が組み上がっていきます。
「ね~ね~、第31号が見あたらないんだけど知らない? 31号がないと必要な部品が……あれ?」
ケイルカに声をかけたメルクーアでしたが、彼女の姿が見あたらないので、慌てて周囲を見回しました。どうやら、呆れて先に行ってしまったようです。
「変な音がすると思ったら、これはなんですか。すぐに元に戻しなさい!」
調子に乗って、本格的に蒸留酒を造る窯の準備を始めたメルクーアでしたが、当然のように館員さんたちに見つかってしまい、こっぴどく叱られてしまいました。
「こうやって、本棚の間に隠れていれば、きっと犯人を見つけられます」
通路に面した巨大な書架の間に身を滑り込ませて、ミオレスカが言いました。膝をかかえて身をぴっちりと縮込ませて、本人は本に擬態しているようなつもりです。
けれども、そんなことをしたら逆目立ちで、さすがに誰も近づいてこようとはしません。何やら、慌てて探し物をしているらしいバレルが、ミオレスカの姿にぎょっとして、見ないふりをして立ち去りました。
『えっと、いつまでこうしていたらいいのでしょうか……』
ミオレスカの膝の上に開かれていたディアーリオが、さすがに訊ねました。
「待ち伏せは、じっと我慢……あれ?」
言いつつも飽きてきたミオレスカが、首を横にむけたとたんキョトンとした顔になりました。
すぐ横にある本の表紙が、CAMパンだったからです。
確か、CAMパンは、商店街のパン屋さんの目玉商品として、最近開発された物のはずです。なのに、なんでそれが載った本があるのでしょうか。
ズリズリと書架から這い出すと、ミオレスカはその本を手に取ってみました。なんだか、ずいぶんと古そうな本です。
「もしかして、これは、偉大な予言書なのでは……」
ミオレスカが本のタイトルを確かめます。『かっこいいキャラ弁の作り方。メカ編』と書かれています。どうやら、ずっと昔にサルヴァトーレ・ロッソで発行された本のようです。見ると、パンでCAMを作るレシピがいくつも書いてありました。今も昔も、人の考えることは同じようです。けれども、これはこれで参考になります。思わず、ミオレスカは本を読みふけってしまいました。
『ちょっと、ちょっと! 今、何かがいましたよ!』
ミオレスカの膝の上で、ディアーリオがバタバタと騒ぎました。
「えっ、あっ、追いかけますよ」
ちょっと未練そうに本を閉じると、ミオレスカは小さな影を尾行していきました。
「もう。ちゃんと犯人を探さなくっちゃ」
別の部屋に入ったケイルカは、そこの本を調べ始めました。
ここは、植物関係の本が集められています。
「わあ、これ、一度庭に植えてみたかったのよね」
マンドラゴラのページを見て、ケイルカが目を輝かせました。そんな物を一般家庭の庭に植えられたら、近所迷惑この上ありません。他にも、シューリーカーや歩く肉食植物など、本当にいるのかどうかも分からない伝説の植物や魔法植物のイラストを見て、しきりに可愛いとか美味しそうとか、変な感想をもらしていきます。
「うわっ」
けれども、さすがに冬虫夏草のページを見たとたん、おどろおどろした虫の姿に慌てて本を閉じました。あまりに勢いがよすぎて、思い切り指を挟んでしまいます。
「いったーい。これは、きっとキノコのせい。ううん、キノコが犯人なんだわ」
指を押さえて床を転げながら、ケイルカが悶絶しました。相当痛かったようです。おかげで、すべてをキノコのせいにします。
そのとき、何かが通路の方を横切りました。小さな、キノコのような姿です。その手には、何かのうねうねしたオーラを放つ本を持っているようでした。
「あのキノコが犯人だわ。パルムのような可愛いキノコでも、絶対に許さないんだからあ」
そう決めつけると、ケイルカは部屋を飛び出していきました。そこで、バッタリと、ディアーリオをかかえたミオレスカに出くわします。
「しーっ!」
お互いに静かにと、合図します。
「やっぱりキノコ、ううんパルムが犯人じゃない……うぐぐっ!」
叫びかけるケイルカの口を、慌ててミオレスカが押さえました。
本をかかえたパルムは、トコトコと歩いていくと、カウンター裏の床の扉を開いて、地下へと降りていってしまいました。
「何、今のは!」
追いかけてきたケイルカとミオレスカ、カウンター側で説教されていたメルクーアと観智、上の階からそれを見下ろしていたバレルが一斉に叫びました。
「あーあ、そういうわけね。まったく、人騒がせな」
思わずセリオが天を仰ぎます。いったいどういうことかと詰め寄る一同を連れて、セリオが地下の収蔵庫へと降りていきました。
「これって!?」
地下の収蔵庫を埋め尽くしていたのは、たくさんのパルムたちです。
「ふむ。次はこれかの……。うむ、いい仕事をしておるが、趣味が悪い。価値は、そうだのう、50がいいところだろう」
中央にいる老司書パルムが、眼鏡の位置を調整しながらバレルのスケッチを鑑定していました。掲げられたフリップには、アイテムの価値らしい数字が書かれています。そばでは、書記係の館員が、アイテムの価格をメモしていました。
「がーん……」
それを聞いて、バレルがガックリと肩を落としました。安い、安すぎます。
「たまに、ライブラリの方から、パルムたちに収蔵物の出張鑑定をしてもらっているのよ。まあ、たまに、そのとき慣れていない雑用の幼パルムたちが、あっちこっちに忘れ物をしたり、勝手に物をさわったりしてね……」
だから騒がないでほしかったのにと、セリオが言いました。確信はなかったものの、だいたい予想はついていたようです。
「いやあ、毎度迷惑をかけるのお。だが、こやつらも、ちゃんとここで研修して、仕事を覚えてもらわんとな」
司書パルムが、すまなそうに言いました。
「おお、それが、世にも珍しい魔導書か。どれどれ……」
ディアーリオに気づいた司書パルムが、ひょいひょいと手招きしました。呼ばれて、ミオレスカがディアーリオを司書パルムに手渡します。
「ふむふむ。こ、これは……」
ディアーリオを子細に調べながら、司書パルムが唸りました。
「もしかして、高値がつくのかしら」
みんなが期待に目を輝かせます。
そのとき、一人の幼パルムが司書パルムに何やら耳打ちしました。
「なになに、甘くないので美味しくなかったとな」
ふむふむと、司書パルムが答えます。
「本当に、犯人はパルムだったのかあ!」
ミオレスカが、引きつりながら叫びました。冗談から独楽です。
「その子が犯人かあ! でも、パルムだから許す!」
てへっと笑ってごまかすようパルムを指さして、ケイルカが叫びました。
「さて、ならば仕方ない、価値はこれじゃじゃじゃ~ん」
司書パルムが、0と書かれたフリップを皆に見せました。
『そ、そんな~』
ディアーリオが、ガックリとページを閉じます。もしかして、パルムの価値基準は、美味しいかどうかなのでしょうか。ちょっと謎です。
「か、勝ったかもしれない……」
思わず、陰でひっそりとガッツポーズをとるバレルでした。
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相談(ネタ合わせ用)卓 メルクーア(ka4005) ドワーフ|10才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/04/18 22:50:39 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/18 07:25:38 |