ゲスト
(ka0000)
アンナの作戦日誌
マスター:のどか

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/04/23 12:00
- 完成日
- 2015/04/30 08:48
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「アンナ=リーナ・エスト曹長、入ります」
いつものように呼び出された上司の執務室。
アンナはびしりと敬礼を示すと、すたすたと中へと足を踏み入れる。
「ああ、聞かん坊達の様子はどうかね?」
「相変わらずではありますが、日々の訓練には比較的真面目に取り組んでいます。今日は基礎訓練を言いつけてありますが――」
言いながら、アンナは窓の外へと目を向ける。
『聞かん坊』と言うのは先日から預かっている3人の若い新兵達である。
有能だが世間知らずの若き戦士をハンターに『教育』してもらってから半月が過ぎ、彼らなりの向上心(反骨心と言うべきだろうか)を見せつつ日々の訓練に努めている。
眺めた外の訓練場では、ヘロヘロになりながらランニングに従事している様子が伺えた。
「それはなによりだ。戦力の増強は急務だからね」
大佐もまた、その視線を追って窓の外をちらりと眺める。
そうして自分の愛娘の姿を捉えてニコリと頬を緩ませた後、アンナへと向き直った。
「さて、本題に入ろう。今日は君たちのチームに任務の話だ」
「はっ」
「彼らにもそろそろ実戦経験を持って貰おうと思ってね。敵対亜人の討伐を頼みたい」
そう前於いて、大佐は数枚の資料をアンナの前へと提示した。
「数日前、ジェオルジの小さな農村でゴブリンの集団による襲撃があったらしい。数は40ほど。食料を漁られた挙句、村の女性を何人か攫われたらしい」
「人質……ですか?」
人災の話題に、アンナは微かに声を潜める。
「なんとも分からん。少なくとも何か交渉してくるような素振りは無いし、それ以外にもこれといったアプローチも無い。気まぐれで攫ったのだろう、と言うのが今のところの見解だ」
大佐は椅子に深く腰掛けると、ヒゲの綺麗に剃られた顎を撫でながら、渋い表情を浮かべる。
「偵察隊を出して、拠点までは調べがついている。ヤツら、山の麓にちょっとした砦を築いていたらしい。木造の何ともちゃちなものだがな。背の高い馬防柵に囲まれて、小屋が数件立ち並ぶ、『砦』と呼ぶには十分なものだ。チームはこれを攻略し、人質を救出して貰いたい。救出と殲滅、それが今回の任務だ」
「了解しました」
「ああ、一つだけ気を付けて貰いたい事があってね」
そう、思い出したように大佐は言葉を加える。
「集団の中に数匹、大柄な個体が居るそうなんだが……」
「大柄……まさか、怠惰の兵がこのような場所まで?」
「いや、そんな大層なヤツじゃない。大柄だが、あくまでゴブリン――所謂、ホブゴブリンと呼ばれる個体だろう。ゴブリンに比べて腕力や戦技には長ける奴らで、戦力の中核になっていると思われる。注意して欲しい」
「分かりました」
返事をしながら、アンナは渡された資料にさっと目を通す。
村人から寄せられた情報や、偵察兵からの情報。
砦の簡易見取り図等が、そこには記載されていた。
「作戦はキミに任せるよ。ソサエティにも依頼を出しているから、応援のハンターも来てくれるハズだ。彼らの協力も勘定に入れて欲しい」
「了解しました。謹んでお受けいたします」
「頼むよ。所で、先日の話だが……考えてくれたかな?」
ひとしきり任務のあらましを説明し終えた所で、話題を変えるようにそう口にする大佐。
アンナはそれを聞くと、少々バツが悪そうに視線を伏せながら答える。
「黒狐塾……ですか?」
「ああ。キミのような人材が下士官で燻っているのは何とも勿体ない。とは言え、都合、海軍も特機隊も目指せないのであれば、現状そのくらいしか道は無い。年功序列に肖るにも、キミはまだ若すぎるからね。その気があるのなら、推薦状はいくらでも書く」
そう言葉にするのは、大佐の一種の親心のようなものであった。
リアルブルーからの漂流者と言う一点を取っても、軍の中でのアンナの立場は比較的希薄だ。
信頼が無いわけでも、人望が無いわけでも無いが、所謂コネクションが彼女には無かった。
いくら実力があっても、チャンスを与えて貰えなければ発揮する場は無い。
海軍、黒狐塾、特機隊など、実力があればチャンスを回して貰えるような場所は同盟軍にも存在はする。
しかし、一身上の都合でうち2つが考えられない自分にとっては黒狐塾が唯一の場であることは、アンナ自身も理解はしていた。
「大佐……」
やがて、絞り出すように彼女は口を開く。
「私の気持ちは変わりません。より身近に人々の生活を護る事が、右も左も分からない私に良くしてくれたこの世界への、私なりの恩返しです。上を目指す事に、意味はありません」
アンナはそう言い切ると、「申し訳ありません」と深く頭を下げる。
「いや、良いんだ。私もお節介が過ぎた……任務の件、よろしく頼むよ」
「はっ!」
来訪者である彼女にとって、例え1年の時が過ぎようともこの世界は『異世界』である事に変わりは無かった。
それは決してこの世界を、人々を軽んじている訳では無く、むしろ感謝すらしている。
その恩を返す事こそが、今この世界に自分が生きる意味であり、自らの身を立てる事には何の意味も無いのだと、それがアンナの抱く素直な気持ちであった。
いつものように呼び出された上司の執務室。
アンナはびしりと敬礼を示すと、すたすたと中へと足を踏み入れる。
「ああ、聞かん坊達の様子はどうかね?」
「相変わらずではありますが、日々の訓練には比較的真面目に取り組んでいます。今日は基礎訓練を言いつけてありますが――」
言いながら、アンナは窓の外へと目を向ける。
『聞かん坊』と言うのは先日から預かっている3人の若い新兵達である。
有能だが世間知らずの若き戦士をハンターに『教育』してもらってから半月が過ぎ、彼らなりの向上心(反骨心と言うべきだろうか)を見せつつ日々の訓練に努めている。
眺めた外の訓練場では、ヘロヘロになりながらランニングに従事している様子が伺えた。
「それはなによりだ。戦力の増強は急務だからね」
大佐もまた、その視線を追って窓の外をちらりと眺める。
そうして自分の愛娘の姿を捉えてニコリと頬を緩ませた後、アンナへと向き直った。
「さて、本題に入ろう。今日は君たちのチームに任務の話だ」
「はっ」
「彼らにもそろそろ実戦経験を持って貰おうと思ってね。敵対亜人の討伐を頼みたい」
そう前於いて、大佐は数枚の資料をアンナの前へと提示した。
「数日前、ジェオルジの小さな農村でゴブリンの集団による襲撃があったらしい。数は40ほど。食料を漁られた挙句、村の女性を何人か攫われたらしい」
「人質……ですか?」
人災の話題に、アンナは微かに声を潜める。
「なんとも分からん。少なくとも何か交渉してくるような素振りは無いし、それ以外にもこれといったアプローチも無い。気まぐれで攫ったのだろう、と言うのが今のところの見解だ」
大佐は椅子に深く腰掛けると、ヒゲの綺麗に剃られた顎を撫でながら、渋い表情を浮かべる。
「偵察隊を出して、拠点までは調べがついている。ヤツら、山の麓にちょっとした砦を築いていたらしい。木造の何ともちゃちなものだがな。背の高い馬防柵に囲まれて、小屋が数件立ち並ぶ、『砦』と呼ぶには十分なものだ。チームはこれを攻略し、人質を救出して貰いたい。救出と殲滅、それが今回の任務だ」
「了解しました」
「ああ、一つだけ気を付けて貰いたい事があってね」
そう、思い出したように大佐は言葉を加える。
「集団の中に数匹、大柄な個体が居るそうなんだが……」
「大柄……まさか、怠惰の兵がこのような場所まで?」
「いや、そんな大層なヤツじゃない。大柄だが、あくまでゴブリン――所謂、ホブゴブリンと呼ばれる個体だろう。ゴブリンに比べて腕力や戦技には長ける奴らで、戦力の中核になっていると思われる。注意して欲しい」
「分かりました」
返事をしながら、アンナは渡された資料にさっと目を通す。
村人から寄せられた情報や、偵察兵からの情報。
砦の簡易見取り図等が、そこには記載されていた。
「作戦はキミに任せるよ。ソサエティにも依頼を出しているから、応援のハンターも来てくれるハズだ。彼らの協力も勘定に入れて欲しい」
「了解しました。謹んでお受けいたします」
「頼むよ。所で、先日の話だが……考えてくれたかな?」
ひとしきり任務のあらましを説明し終えた所で、話題を変えるようにそう口にする大佐。
アンナはそれを聞くと、少々バツが悪そうに視線を伏せながら答える。
「黒狐塾……ですか?」
「ああ。キミのような人材が下士官で燻っているのは何とも勿体ない。とは言え、都合、海軍も特機隊も目指せないのであれば、現状そのくらいしか道は無い。年功序列に肖るにも、キミはまだ若すぎるからね。その気があるのなら、推薦状はいくらでも書く」
そう言葉にするのは、大佐の一種の親心のようなものであった。
リアルブルーからの漂流者と言う一点を取っても、軍の中でのアンナの立場は比較的希薄だ。
信頼が無いわけでも、人望が無いわけでも無いが、所謂コネクションが彼女には無かった。
いくら実力があっても、チャンスを与えて貰えなければ発揮する場は無い。
海軍、黒狐塾、特機隊など、実力があればチャンスを回して貰えるような場所は同盟軍にも存在はする。
しかし、一身上の都合でうち2つが考えられない自分にとっては黒狐塾が唯一の場であることは、アンナ自身も理解はしていた。
「大佐……」
やがて、絞り出すように彼女は口を開く。
「私の気持ちは変わりません。より身近に人々の生活を護る事が、右も左も分からない私に良くしてくれたこの世界への、私なりの恩返しです。上を目指す事に、意味はありません」
アンナはそう言い切ると、「申し訳ありません」と深く頭を下げる。
「いや、良いんだ。私もお節介が過ぎた……任務の件、よろしく頼むよ」
「はっ!」
来訪者である彼女にとって、例え1年の時が過ぎようともこの世界は『異世界』である事に変わりは無かった。
それは決してこの世界を、人々を軽んじている訳では無く、むしろ感謝すらしている。
その恩を返す事こそが、今この世界に自分が生きる意味であり、自らの身を立てる事には何の意味も無いのだと、それがアンナの抱く素直な気持ちであった。
リプレイ本文
●ブリーフィング
ジェオルジ郊外の森の中。
鬱蒼と茂る茂みの影から、遠方に広がる平原を眺めつつ、今回の作戦に従事するハンター、そして同盟軍の面々は一同に会していた。
平原の先には、攻略対象のゴブリン砦がひっそりと佇んでいる。
「同盟陸軍・曹長のアンナ=リーナ・エスト(kz0108)だ。協力に感謝する」
そう敬礼交じりにハンター達へ挨拶をするアンナ。
彼女の後ろに控える3人の若い軍人も一度はチラリとハンター達の方に視線を向けたものの、すぐに自分の獲物の調子を確かめるように手元の武器へと視線を移していた。
「すまないな……どうやら、初めての実戦で少し緊張しているようだ」
そっけない部下の態度を謝るようにそう口添えるアンナであったが、ハンター達は分かっていると言った様子で小さく頷いた。
「誰だって、初心はそう言うものですよ。軍人でも、傭兵でも、ハンターでも」
自分もそうだった、とでも言うようにリチャード・バートン(ka3303)は小さく苦笑をしてみせる。
「そう言うことで、今回もよろしくお願いします」
「ああ。フマーレでは世話になったが……今回は『お巡りさん』ではなく、戦力として期待させてもらおう」
そんなリチャードにアンナもまた含み笑いを浮かべて答えると、どちらとも無く敬礼を交わす。
「あ、あの、御崎・汀といいます。今回はよろしくお願いしますっ」
そんな彼の傍らで、御崎・汀(ka2918)は、どこかぎこちない様子を見せながらペコリとお辞儀をしてみせる。
今回、初めての実戦戦闘だと言う彼女もまた、新兵達と同じようにその緊張を隠せないようだ。
「私も本格的な戦闘は始めてだけど、皆と連携しながら頑張らなくっちゃね」
ガチガチの汀の背中を摩りながら、ノイ・ヴァンダーファルケ(ka4548)はそう彼女の緊張を和らげようと声を掛ける。
しかし、そう口にした文字通り、その言葉は自分自身にも言い聞かせているものなのだろう。
「この世界では、彼女たちくらいの年でも、戦わなければならないのだな……」
そんな彼女達の様子を見ながら、そう独りごちるアンナ。
「陽動は我らが万全にやってのける。だが……それでもさすがに数の上では圧倒的不利ゆえな。人質の解放は任せたぞ」
やや感傷に浸る彼女の肩をぽんと叩きながら、フィオナ・クラレント(ka4101)はそう声を掛ける。
言葉とは裏腹に垣間見せるどこか楽しげな口調には、これからの作戦に一切の不安も抱いていない、強靭な意志を感じさせた。
「そう手間は取らせないつもりだ……が、その様子なら救助者を街へ送り届ける時間も取れそうだな」
「そんな事をしていたら、新兵に実戦を積ませる前に事が済んでしまうぞ?」
自らの拳銃に弾を込めながら放たれたそれは一種のアメリカンジョークではあったわけだが、返すフィオナの瞳にはそれすら現実にしてしまいそうな強い色が灯っていた。
「よー、軍曹サマ。パパのご機嫌いかが?」
へらへらと笑いを浮かべながら新兵達に絡m――言葉を掛けるlol U mad ?(ka3514)。
彼の姿を見ると、新兵たちはいっせいにバツが悪そうに顔を顰めて見せた。
「も~、今日は私のデビュー戦なんだから、しっかりフォローしてよね~」
と言うのも、彼らは前回の訓練でロルを含むハンター達にボコボコにノされた訳で。
バンとピーノ、2人の少年は流石に決まりが悪い様子で顔を伏せがちであったものの、フィオーレはそのKYマイペース全開で軽口を叩いて見せていた。
「ハイハイ、今回もしっかり子守りさせて頂きますヨー」
そんな様子でおちょくってこそ居たものの、心のどこかでは彼らの成長っぷりを期待するような、そんな意識もあった――かもしれない。
●作戦開始
エスト隊、ハンター隊、共に配置に着いた。
短伝話で連絡を取り、お互いのポジションの確保を連絡。
いよいよ、作戦が決行されようとしている。
「シュメルツさん、風向きはどうです?」
たいまつの穂先を分解しながら、サントール・アスカ(ka2820)は傍らで作業をするシュメルツ(ka4367)へと問いかける。
「悪く、無い。これなら……十分な効果が、期待、できる」
闇夜に紛れ、持ち込んだブランデーを片手に風を読む少女。
もちろん、彼女が呑むわけではない。
強いて言うのであれば……ゴブリンへのプレゼント。
「あの、傷は大丈夫ですか?」
サントール達の背後から、恐る恐る声を掛ける汀。
「ああ……心配させてしまいましたか。大丈夫。無理はしていませんよ」
彼女が気にしているのはサントール、そしてリチャードの体の傷。
以前の戦いの傷の癒えぬ身体で参加している2人に、少女が向ける小さな心配であった。
「傷に響く前に、終らせてしまえば良いのです」
そう微笑んでこそ見せたものの、汀の瞳からは、心配の色は消えない。
それでもここが戦場である限り、戦うしか無いのだ。
「じゃあ、派手な陽動だ。景気良く行こうぜ」
身の丈ほどはある巨大な刀を抜き放つヒースクリフ(ka1686)の声と共に、一声に度数の高い酒やランタンの油を手に抱えるハンター達。
次の瞬間、それらは一斉に、砦の柵目掛けて投げ込まれた。
「そーら、駆けつけ一瓶だ。Eat it!」
宙を舞う瓶をロルの魔導拳銃の赤き銃弾が貫く。
瓶は軽快な音を立てて、中身の液体を派手にぶちまけた。
「燻り出しの始まりだ。存分に踊れ、異形共」
次いで番えるフィオナの火矢。
矢は炎の魔導拳銃で熱せられた液体へ吸い込まれるように飛翔する。
そして油を基点に酒へと燃え移る青い炎は一斉に柵へと広がって行く。
「声を上げい! 民に仇なす異形を屠るのだ!」
同時に放たれたフィオナの一声。
その声に鼓舞されるように、ハンター達は一斉に声を張り上げながら、砦へと突貫を仕掛けるのであった。
正面には既に、突然の火の手に目を白黒させるゴブリンの群れ。
咄嗟に消火の思考には至っていないのか、何をしたら良いかも分からず、キィキィと奇声を上げて騒ぐのみである。
「こ、こっちです!」
ゴブリンの喧騒にそう声を掛け、放たれる汀のアースバレット。
その一撃は1匹のゴブリンの横っ面を撃ち抜き、喧騒に文字通り石を投じる。
ギロリと、ゴブリン達の視線がハンター達の方へと一斉に揺れ動いた。
が、間髪置かずに放たれる帯状のマテリアル光。
「俺達が相手だ、ゴブリンども!」
ヒースクリフのデバイスから放たれたマテリアル光は一度に大勢のゴブリンの身を焼くように一団を貫く。
光の貫いた先には、よろよろとゾンビのようにうごめく敵の姿。
「ここまで来たら、やるしか無いわよね。行くわよ!」
「Ja,任務、了解」
体勢を崩されたゴブリン達の下へ、ノイとシュメルツ、2人の少女が駆ける。
方や薄刃のナイフにバターのように切り裂かれ、方やその拳に打ち貫かれ、ゴブリンの輪の中に華を咲かせる。
が、そんな彼女達の間を縫うように飛来した風切り音に、思わずその身を翻した。
「な、何!?」
瞬間、地面に突き刺さる数本の矢。
音の出元を探るように四方に視線をめぐらせると、掘立小屋の屋根の上から弓を番える4匹のゴブリンの姿が目に映った。
弓兵の出現で一瞬たじろいだハンター達を見て、ゴブリン達も戦意を取り戻したのか、動ける仲間をかき集めて、一斉にハンター達に打って掛かる。
「こいつら、数匹で……っ」
3匹で連携するように迫るゴブリン達の攻撃に、サントールは避けきれずにその肩に熱い線が浮かんだ。
「っ……だが、良い頃合だ。一度引きましょう!」
ゴブリン達の連携による反撃に、他のハンター達もやや防戦に押し込まれた頃。
叫んだサントールの言葉に、ハンター達は一斉に身を翻し、一目砦の外を目指す。
「くっはははは! 何、アホ面してんだよ! お前等マジ最高!」
去り際に、ゴブリン達目掛けて思いっきり煽り笑いを飛ばすロル。
炎に浮かぶその姿に逆撫でされたのか、ゴブリン達は一斉に逃げるハンター達を追って、砦の入り口へと殺到する。
「コレだけ引き付けられれば十分でしょう」
自分達を追ってくるゴブリンをチラリと横目で見ながら、小さく笑みを浮かべるリチャード。
「そうね、こちらの首尾は上々。後は任せたわよ」
『了解した。エスト隊、潜入する』
そう、代弁するように短伝話へと語りかけたノイの言葉に、程なくしてアンナの落ち着いた返事が返って来るのであった。
●ゴブリンスレイヤーズ
砦の外に撤退したハンター達は、すぐに踵を返してゴブリン達に向き直り、その刃を抜き放った。
残りの酒瓶や油をすべて炎の中に放り、より火の勢いを強めて存在をアピールする。
それに半ば炙り出されるようにして、追手のゴブリン達が次々に砦の入り口からあふれ出して来た。
「とは言え、出入り口できる数にも限度があるだろう」
その様子を見ながら、サントールは想定通りだと頷いてみせる。
砦を護る柵を、逆に自分達を護る壁として使ってしまおうと、そう言うことである。
わらわらと入り口に突っ掛かるゴブリンに向かって放たれるヒースクリフのマテリアル光。
その一撃で傷付いた個体から、1体ずつ、確実に仕留めて行く。
勝負は優勢――に見えていた。
不意に、ゴシャリと木のひしゃげるような音が戦場に響き渡ったのだ。
「何事だ!?」
声を上げ、状況を確認しようと努めるフィオナであったが、その頭上を覆った影に、咄嗟に手に持った日本刀を掲げ応じる。
同時に、激しい衝撃が刀身を伝ってその腕に響き渡った。
「ホブ……ゴブリンか。だがどこからっ!」
眼前に迫る大柄なゴブリン――ホブゴブリンは、ニタリと知恵の低そうな顔を歪めて笑いを浮かべると、フィオナが押さえる自身の刃にその体重を乗せる。
「あ、アレを見てください!」
後方から指差す汀の視線の先。
炎で燃える柵の中に、大きな穴が開いている。
「あいつら……燃えて脆くなった部分をぶっ壊しやがったか!」
「己の身も焼かれるでしょうに……ですが、放ってはおけません」
その穴からぞろぞろと出てくるホブゴブリンを前に、ヒースクリフとリチャードが身を翻して駆ける。
応じるホブゴブリンもまた、その獲物を大きくハンター達へと振りかざす。
ただ力任せに振るだけの一撃は避ける必要も無く、空を切る事もあったが、それでもたまに運よく的を射た刃が彼らの眼前に迫った。
「ぐうっ……!」
避ける事あたわず、同じ刃で一撃を受けるリチャードだったが、その一撃、想像以上に重い。
全身を貫かれるような衝撃と共に、癒え切っていない傷から激痛が走る。
「リチャード!」
が、そんな彼に心配を向ける間も無く、ノイの頭上にもホブゴブリンの一撃が迫り来る。
咄嗟に避けようとするも、その閃きは深く彼女の腕を抉り込んでいた。
「皆を放して……ッ!」
汀が放つアースバレットが、ホブゴブリンの後頭部を打つ。
ゴッ、と大きな音を立ててその頭を揺らすも、ホブゴブリンはこりこりとその頭を掻きながら、グルリと彼女の方へと視線を向ける。
やられる――そう思って、思わず頭を抱えて蹲った時、一筋のマテリアル光が戦場を貫いた。
その光に貫かれ、ホブゴブリンはずぶずぶと身を焦がしたような煙を上げながらフラりと背後を振り向く。
「どけどけ、バン様のお通りだぜッ!」
完全に予期していなかった背後からの大剣の一振りに、成すすべなく上半身を吹き飛ばされて崩れ落ちるホブゴブリン。
同時に、計4つの影がゴブリン達の背後からその群れに突貫した。
「エスト隊、ただ今より合流する。待たせてすまない」
「おいおい、待ちくたびれちまったぜ。じゃあ、もう一発景気づけに行こうじゃねーの!」
エスト隊の到着に合わせて、入り口から最後の酒瓶を砦内へと放り投げるロル。
割れた酒瓶の中身はやがて周囲の炎から引火し、砦の内部にも煌々とした炎を灯し始めた。
「人質は解放された! さあ、化け物共……貴様らの遊戯に付き合った、対価を頂こう!」
もう時間を稼ぐ必要は無い。
その判断に至り、フィオナはニヤリと口元を歪ませ不敵な笑みを浮かべると、頭上に覆いかぶさる一撃を力任せに押しやった。
そうしてよろける巨体に対し、エスト隊3人の銃声が一斉に浴びせられる。
腕や脚を貫かれたホブゴブリンは、身を痙攣させるように、その場に棒立ちになった。
「……行きがけの駄賃だ。貴様等全部、その首置いてけ」
大降りに振り落とされたその一刀の元に、ホブゴブリンの首が宙に吹き飛ぶ。
噴出す赤い雨の中、フィオナのエメラルドの瞳がギロリとゴブリン達に突き刺さり、その身を震え上がらせる。
ゴブリン達は思わすその場を逃げ出そうとするも、砦は火の海、眼前にはハンター、逃げ場は無い。
仮に運よく逃げ道を見つけたとしても、すぐに煌く金糸がゴブリン達に襲い掛かった。
「機械は、信用ならないけど……この怪、程度なら、十分」
クルリと絡め取られるようにワイヤーに巻かれたゴブリンの体は、次の瞬間に唸ったモーター音と共に細切れになって四散する。
「さっきは連携でやられた分、今度はこっちの番よ」
ノイの放ったショットアンカーに足を取られ、ホブゴブリンの1頭がどかりと盛大に尻餅を付く。
そうして突出した所へ汀のアースバレットが雨のように叩き込まれた。
どてっ腹にモロに食らったホブゴブリンは、尚も戦意を潰えずヨロリと立ち上がろうとしたが、その顔面に、サントールの拳が思いっきり振り抜かれた。
思わずもう一度、大地に投げ出される巨体。
「まだだ、もう一発食らってもらおう」
マウントポジションから、間髪入れずに放たれた2撃目。
その一撃は鳩尾に深く突き刺さり、口からどす黒い血を吐き散らしながら、ホブゴブリンは微動だにしなくなくなっていた。
「残りはお前だ……!」
勢いを取り戻したハンター達を前に、最後の1匹となったホブゴブリンへとヒースクリフが真正面から立ちふさがった。
直後、マテリアルの輝きを纏った巨大な太刀が、さらに超大に膨れ上がる。
その姿、斬馬――いや、斬艦とでも言うべきか。
そんな太刀を頭上に掲げながら、ヒースクリフは全霊を込めて、眼前の敵へと振り下ろした。
「これが俺の新しい必殺技――ライアット・ブレイカーだ!」
斬る、言うよりは叩き潰されるに近い形で、その一撃をまともに受けたホブゴブリンは小さく縮小してゆく太刀の先でピクリとも動かずに、赤い血溜まりと化していた。
頭のホブゴブリンを失った集団にもはや状況を押し返す力は無く、程なくしてハンターと同盟軍の混成隊によってその残党を駆逐されてゆく。
焼け落ちる砦の煙を天に立ち上らせながら、ゴブリン砦の救出・攻略作戦は無事の成功を告げるのであった。
ジェオルジ郊外の森の中。
鬱蒼と茂る茂みの影から、遠方に広がる平原を眺めつつ、今回の作戦に従事するハンター、そして同盟軍の面々は一同に会していた。
平原の先には、攻略対象のゴブリン砦がひっそりと佇んでいる。
「同盟陸軍・曹長のアンナ=リーナ・エスト(kz0108)だ。協力に感謝する」
そう敬礼交じりにハンター達へ挨拶をするアンナ。
彼女の後ろに控える3人の若い軍人も一度はチラリとハンター達の方に視線を向けたものの、すぐに自分の獲物の調子を確かめるように手元の武器へと視線を移していた。
「すまないな……どうやら、初めての実戦で少し緊張しているようだ」
そっけない部下の態度を謝るようにそう口添えるアンナであったが、ハンター達は分かっていると言った様子で小さく頷いた。
「誰だって、初心はそう言うものですよ。軍人でも、傭兵でも、ハンターでも」
自分もそうだった、とでも言うようにリチャード・バートン(ka3303)は小さく苦笑をしてみせる。
「そう言うことで、今回もよろしくお願いします」
「ああ。フマーレでは世話になったが……今回は『お巡りさん』ではなく、戦力として期待させてもらおう」
そんなリチャードにアンナもまた含み笑いを浮かべて答えると、どちらとも無く敬礼を交わす。
「あ、あの、御崎・汀といいます。今回はよろしくお願いしますっ」
そんな彼の傍らで、御崎・汀(ka2918)は、どこかぎこちない様子を見せながらペコリとお辞儀をしてみせる。
今回、初めての実戦戦闘だと言う彼女もまた、新兵達と同じようにその緊張を隠せないようだ。
「私も本格的な戦闘は始めてだけど、皆と連携しながら頑張らなくっちゃね」
ガチガチの汀の背中を摩りながら、ノイ・ヴァンダーファルケ(ka4548)はそう彼女の緊張を和らげようと声を掛ける。
しかし、そう口にした文字通り、その言葉は自分自身にも言い聞かせているものなのだろう。
「この世界では、彼女たちくらいの年でも、戦わなければならないのだな……」
そんな彼女達の様子を見ながら、そう独りごちるアンナ。
「陽動は我らが万全にやってのける。だが……それでもさすがに数の上では圧倒的不利ゆえな。人質の解放は任せたぞ」
やや感傷に浸る彼女の肩をぽんと叩きながら、フィオナ・クラレント(ka4101)はそう声を掛ける。
言葉とは裏腹に垣間見せるどこか楽しげな口調には、これからの作戦に一切の不安も抱いていない、強靭な意志を感じさせた。
「そう手間は取らせないつもりだ……が、その様子なら救助者を街へ送り届ける時間も取れそうだな」
「そんな事をしていたら、新兵に実戦を積ませる前に事が済んでしまうぞ?」
自らの拳銃に弾を込めながら放たれたそれは一種のアメリカンジョークではあったわけだが、返すフィオナの瞳にはそれすら現実にしてしまいそうな強い色が灯っていた。
「よー、軍曹サマ。パパのご機嫌いかが?」
へらへらと笑いを浮かべながら新兵達に絡m――言葉を掛けるlol U mad ?(ka3514)。
彼の姿を見ると、新兵たちはいっせいにバツが悪そうに顔を顰めて見せた。
「も~、今日は私のデビュー戦なんだから、しっかりフォローしてよね~」
と言うのも、彼らは前回の訓練でロルを含むハンター達にボコボコにノされた訳で。
バンとピーノ、2人の少年は流石に決まりが悪い様子で顔を伏せがちであったものの、フィオーレはそのKYマイペース全開で軽口を叩いて見せていた。
「ハイハイ、今回もしっかり子守りさせて頂きますヨー」
そんな様子でおちょくってこそ居たものの、心のどこかでは彼らの成長っぷりを期待するような、そんな意識もあった――かもしれない。
●作戦開始
エスト隊、ハンター隊、共に配置に着いた。
短伝話で連絡を取り、お互いのポジションの確保を連絡。
いよいよ、作戦が決行されようとしている。
「シュメルツさん、風向きはどうです?」
たいまつの穂先を分解しながら、サントール・アスカ(ka2820)は傍らで作業をするシュメルツ(ka4367)へと問いかける。
「悪く、無い。これなら……十分な効果が、期待、できる」
闇夜に紛れ、持ち込んだブランデーを片手に風を読む少女。
もちろん、彼女が呑むわけではない。
強いて言うのであれば……ゴブリンへのプレゼント。
「あの、傷は大丈夫ですか?」
サントール達の背後から、恐る恐る声を掛ける汀。
「ああ……心配させてしまいましたか。大丈夫。無理はしていませんよ」
彼女が気にしているのはサントール、そしてリチャードの体の傷。
以前の戦いの傷の癒えぬ身体で参加している2人に、少女が向ける小さな心配であった。
「傷に響く前に、終らせてしまえば良いのです」
そう微笑んでこそ見せたものの、汀の瞳からは、心配の色は消えない。
それでもここが戦場である限り、戦うしか無いのだ。
「じゃあ、派手な陽動だ。景気良く行こうぜ」
身の丈ほどはある巨大な刀を抜き放つヒースクリフ(ka1686)の声と共に、一声に度数の高い酒やランタンの油を手に抱えるハンター達。
次の瞬間、それらは一斉に、砦の柵目掛けて投げ込まれた。
「そーら、駆けつけ一瓶だ。Eat it!」
宙を舞う瓶をロルの魔導拳銃の赤き銃弾が貫く。
瓶は軽快な音を立てて、中身の液体を派手にぶちまけた。
「燻り出しの始まりだ。存分に踊れ、異形共」
次いで番えるフィオナの火矢。
矢は炎の魔導拳銃で熱せられた液体へ吸い込まれるように飛翔する。
そして油を基点に酒へと燃え移る青い炎は一斉に柵へと広がって行く。
「声を上げい! 民に仇なす異形を屠るのだ!」
同時に放たれたフィオナの一声。
その声に鼓舞されるように、ハンター達は一斉に声を張り上げながら、砦へと突貫を仕掛けるのであった。
正面には既に、突然の火の手に目を白黒させるゴブリンの群れ。
咄嗟に消火の思考には至っていないのか、何をしたら良いかも分からず、キィキィと奇声を上げて騒ぐのみである。
「こ、こっちです!」
ゴブリンの喧騒にそう声を掛け、放たれる汀のアースバレット。
その一撃は1匹のゴブリンの横っ面を撃ち抜き、喧騒に文字通り石を投じる。
ギロリと、ゴブリン達の視線がハンター達の方へと一斉に揺れ動いた。
が、間髪置かずに放たれる帯状のマテリアル光。
「俺達が相手だ、ゴブリンども!」
ヒースクリフのデバイスから放たれたマテリアル光は一度に大勢のゴブリンの身を焼くように一団を貫く。
光の貫いた先には、よろよろとゾンビのようにうごめく敵の姿。
「ここまで来たら、やるしか無いわよね。行くわよ!」
「Ja,任務、了解」
体勢を崩されたゴブリン達の下へ、ノイとシュメルツ、2人の少女が駆ける。
方や薄刃のナイフにバターのように切り裂かれ、方やその拳に打ち貫かれ、ゴブリンの輪の中に華を咲かせる。
が、そんな彼女達の間を縫うように飛来した風切り音に、思わずその身を翻した。
「な、何!?」
瞬間、地面に突き刺さる数本の矢。
音の出元を探るように四方に視線をめぐらせると、掘立小屋の屋根の上から弓を番える4匹のゴブリンの姿が目に映った。
弓兵の出現で一瞬たじろいだハンター達を見て、ゴブリン達も戦意を取り戻したのか、動ける仲間をかき集めて、一斉にハンター達に打って掛かる。
「こいつら、数匹で……っ」
3匹で連携するように迫るゴブリン達の攻撃に、サントールは避けきれずにその肩に熱い線が浮かんだ。
「っ……だが、良い頃合だ。一度引きましょう!」
ゴブリン達の連携による反撃に、他のハンター達もやや防戦に押し込まれた頃。
叫んだサントールの言葉に、ハンター達は一斉に身を翻し、一目砦の外を目指す。
「くっはははは! 何、アホ面してんだよ! お前等マジ最高!」
去り際に、ゴブリン達目掛けて思いっきり煽り笑いを飛ばすロル。
炎に浮かぶその姿に逆撫でされたのか、ゴブリン達は一斉に逃げるハンター達を追って、砦の入り口へと殺到する。
「コレだけ引き付けられれば十分でしょう」
自分達を追ってくるゴブリンをチラリと横目で見ながら、小さく笑みを浮かべるリチャード。
「そうね、こちらの首尾は上々。後は任せたわよ」
『了解した。エスト隊、潜入する』
そう、代弁するように短伝話へと語りかけたノイの言葉に、程なくしてアンナの落ち着いた返事が返って来るのであった。
●ゴブリンスレイヤーズ
砦の外に撤退したハンター達は、すぐに踵を返してゴブリン達に向き直り、その刃を抜き放った。
残りの酒瓶や油をすべて炎の中に放り、より火の勢いを強めて存在をアピールする。
それに半ば炙り出されるようにして、追手のゴブリン達が次々に砦の入り口からあふれ出して来た。
「とは言え、出入り口できる数にも限度があるだろう」
その様子を見ながら、サントールは想定通りだと頷いてみせる。
砦を護る柵を、逆に自分達を護る壁として使ってしまおうと、そう言うことである。
わらわらと入り口に突っ掛かるゴブリンに向かって放たれるヒースクリフのマテリアル光。
その一撃で傷付いた個体から、1体ずつ、確実に仕留めて行く。
勝負は優勢――に見えていた。
不意に、ゴシャリと木のひしゃげるような音が戦場に響き渡ったのだ。
「何事だ!?」
声を上げ、状況を確認しようと努めるフィオナであったが、その頭上を覆った影に、咄嗟に手に持った日本刀を掲げ応じる。
同時に、激しい衝撃が刀身を伝ってその腕に響き渡った。
「ホブ……ゴブリンか。だがどこからっ!」
眼前に迫る大柄なゴブリン――ホブゴブリンは、ニタリと知恵の低そうな顔を歪めて笑いを浮かべると、フィオナが押さえる自身の刃にその体重を乗せる。
「あ、アレを見てください!」
後方から指差す汀の視線の先。
炎で燃える柵の中に、大きな穴が開いている。
「あいつら……燃えて脆くなった部分をぶっ壊しやがったか!」
「己の身も焼かれるでしょうに……ですが、放ってはおけません」
その穴からぞろぞろと出てくるホブゴブリンを前に、ヒースクリフとリチャードが身を翻して駆ける。
応じるホブゴブリンもまた、その獲物を大きくハンター達へと振りかざす。
ただ力任せに振るだけの一撃は避ける必要も無く、空を切る事もあったが、それでもたまに運よく的を射た刃が彼らの眼前に迫った。
「ぐうっ……!」
避ける事あたわず、同じ刃で一撃を受けるリチャードだったが、その一撃、想像以上に重い。
全身を貫かれるような衝撃と共に、癒え切っていない傷から激痛が走る。
「リチャード!」
が、そんな彼に心配を向ける間も無く、ノイの頭上にもホブゴブリンの一撃が迫り来る。
咄嗟に避けようとするも、その閃きは深く彼女の腕を抉り込んでいた。
「皆を放して……ッ!」
汀が放つアースバレットが、ホブゴブリンの後頭部を打つ。
ゴッ、と大きな音を立ててその頭を揺らすも、ホブゴブリンはこりこりとその頭を掻きながら、グルリと彼女の方へと視線を向ける。
やられる――そう思って、思わず頭を抱えて蹲った時、一筋のマテリアル光が戦場を貫いた。
その光に貫かれ、ホブゴブリンはずぶずぶと身を焦がしたような煙を上げながらフラりと背後を振り向く。
「どけどけ、バン様のお通りだぜッ!」
完全に予期していなかった背後からの大剣の一振りに、成すすべなく上半身を吹き飛ばされて崩れ落ちるホブゴブリン。
同時に、計4つの影がゴブリン達の背後からその群れに突貫した。
「エスト隊、ただ今より合流する。待たせてすまない」
「おいおい、待ちくたびれちまったぜ。じゃあ、もう一発景気づけに行こうじゃねーの!」
エスト隊の到着に合わせて、入り口から最後の酒瓶を砦内へと放り投げるロル。
割れた酒瓶の中身はやがて周囲の炎から引火し、砦の内部にも煌々とした炎を灯し始めた。
「人質は解放された! さあ、化け物共……貴様らの遊戯に付き合った、対価を頂こう!」
もう時間を稼ぐ必要は無い。
その判断に至り、フィオナはニヤリと口元を歪ませ不敵な笑みを浮かべると、頭上に覆いかぶさる一撃を力任せに押しやった。
そうしてよろける巨体に対し、エスト隊3人の銃声が一斉に浴びせられる。
腕や脚を貫かれたホブゴブリンは、身を痙攣させるように、その場に棒立ちになった。
「……行きがけの駄賃だ。貴様等全部、その首置いてけ」
大降りに振り落とされたその一刀の元に、ホブゴブリンの首が宙に吹き飛ぶ。
噴出す赤い雨の中、フィオナのエメラルドの瞳がギロリとゴブリン達に突き刺さり、その身を震え上がらせる。
ゴブリン達は思わすその場を逃げ出そうとするも、砦は火の海、眼前にはハンター、逃げ場は無い。
仮に運よく逃げ道を見つけたとしても、すぐに煌く金糸がゴブリン達に襲い掛かった。
「機械は、信用ならないけど……この怪、程度なら、十分」
クルリと絡め取られるようにワイヤーに巻かれたゴブリンの体は、次の瞬間に唸ったモーター音と共に細切れになって四散する。
「さっきは連携でやられた分、今度はこっちの番よ」
ノイの放ったショットアンカーに足を取られ、ホブゴブリンの1頭がどかりと盛大に尻餅を付く。
そうして突出した所へ汀のアースバレットが雨のように叩き込まれた。
どてっ腹にモロに食らったホブゴブリンは、尚も戦意を潰えずヨロリと立ち上がろうとしたが、その顔面に、サントールの拳が思いっきり振り抜かれた。
思わずもう一度、大地に投げ出される巨体。
「まだだ、もう一発食らってもらおう」
マウントポジションから、間髪入れずに放たれた2撃目。
その一撃は鳩尾に深く突き刺さり、口からどす黒い血を吐き散らしながら、ホブゴブリンは微動だにしなくなくなっていた。
「残りはお前だ……!」
勢いを取り戻したハンター達を前に、最後の1匹となったホブゴブリンへとヒースクリフが真正面から立ちふさがった。
直後、マテリアルの輝きを纏った巨大な太刀が、さらに超大に膨れ上がる。
その姿、斬馬――いや、斬艦とでも言うべきか。
そんな太刀を頭上に掲げながら、ヒースクリフは全霊を込めて、眼前の敵へと振り下ろした。
「これが俺の新しい必殺技――ライアット・ブレイカーだ!」
斬る、言うよりは叩き潰されるに近い形で、その一撃をまともに受けたホブゴブリンは小さく縮小してゆく太刀の先でピクリとも動かずに、赤い血溜まりと化していた。
頭のホブゴブリンを失った集団にもはや状況を押し返す力は無く、程なくしてハンターと同盟軍の混成隊によってその残党を駆逐されてゆく。
焼け落ちる砦の煙を天に立ち上らせながら、ゴブリン砦の救出・攻略作戦は無事の成功を告げるのであった。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
---|
面白かった! | 7人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/23 08:19:00 |
|
![]() |
作戦相談 ノイ・ヴァンダーファルケ(ka4548) 人間(クリムゾンウェスト)|14才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/04/22 21:53:06 |