【讐刃】ブラック・ハンター

マスター:松尾京

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/04/24 19:00
完成日
2015/05/02 12:18

みんなの思い出

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オープニング

●捜査
「このあたりと言いましたね」
 ハンターのフリッツが、山中であたりを検分する。
 それを、村の若い男が見て頷いた。
「ええ。目撃者はここで動く影を見たと」
「普段、ここに立ち入るものはいないのだろう。犯人の可能性もあるな」
 若い男は頷くと、言う。
「フリッツさん。それにしても……どうしてここまで、この連続殺人事件を調べてくれるんです。助かりますが、危険では?」
「これは、俺の仕事――いや、やるべきことなんです」
 フリッツは犯人の痕跡がないかと調べながら、そう口にした。

 それは最近、村落周辺で連続する殺人事件だった。
 最初に起きたのは数ヶ月前。いさかいごとすら起こらないような村の外れで、一人の男の死体が見つかった。以降、近隣の村や山林で、第二、第三の被害者が現れた。
 特徴的なのは、被害者が銃で撃たれたあと、体が刃物で切り裂かれていたことだ。
 まるで憎悪をぶつけられたかのように、それらの死体は全身がずたずたとなっていた。
 村人達は、この謎の事件に恐怖を覚えた。
 だが、村人にとってお手上げ状態だったのは、犯行が卑劣だったからではない。
 この連続殺人には、更なる特徴があった。
 被害者が全員――覚醒者であること。

 殺されたものの中にはハンターもいた。そんな強者を殺せてしまうほどの犯人を、村人に追い詰めることは不可能だった。
 そんな中、フリッツは事件を聞きつけ、早期から犯人を追っていた。
 フリッツには、この犯人について――ある心当たりがあったからだ。
 木々の間を歩き……フリッツは独り言のように、呟く。
「……ルイス。お前なのか」

●親友
 ルイスは、かつてフリッツの親友だったハンターだ。
 気の良い男で、互いに十代の新米ハンターだった頃から、よく一緒に行動をしていた。
 だが、一年前。ルイスは行方不明となった。
 きっかけは、ルイスがジュリアという恋人と、二人で山に入ったときのこと。
 突如現れた山賊に襲われ――抵抗虚しく、ジュリアが殺されてしまった。ルイスは命を取り留めたのだが、それは崖下に落ちて偶然助かったからだった。
 山賊は覚醒者だったという。だから、二人いても、勝てなかった。
 ルイスは普段から、フリッツが呆れるほどに、ジュリアへの愛する思いを口にしていたものだった。
 そのジュリアが死んで、ルイスは激変した。
 虚ろな目で言われた言葉をフリッツは覚えている。
「弱い、弱い、弱い。何で俺は、こんなに弱い。恋人一人守れないで……どうして……」
 フリッツは、懸命に言葉をかけた。
「ルイス。自分を責めるな。どうしようもなかったんだ。お前は悪くない」
「じゃあ、誰が悪いんだ? どうしてこんなことになった? 教えてくれよ」
 ルイスはしかし、そんなふうに答えるだけ。
 それから、次第に精神を壊していった。
「……なあフリッツ。どうすればジュリアが、喜んでくれるんだろうな」
 それが、フリッツが最後に聞いた言葉だ。その後、ルイスは姿を消した。
 最初の殺人が起きたのはそれからしばらくしてのことだ。

●邂逅
 フリッツは首を振って見回す。
「とりあえず今日の調査はここまでにしましょう。続きはまた――」
 どぉん、という籠もった銃声が聞こえたのはそのときだった。
 村の男とフリッツは、びくりとして振り返る。
「……向こうだ!」
 顔を見合わせると、急いで、葉をかき分け走った。
 そして音の発生現場までたどりつき……それを見つけた。
 土に転がる、ハンターらしき男の死体。
 そして体は、ずたずたに切り裂かれている。
「くそ、遅かったか……!」
 地に拳を打ち付けるフリッツだったが――そのとき視界の端で、何者かの影がちらついた。人間だ。
「? ……おい、待て!」
 フリッツと村の男は影を追って走る。影は、複数の足音が近づいてきたことに、警戒するように離れていった。
 だが、山中、木々に囲まれて数軒の小屋が建ち並ぶ場所が見えるところで……フリッツは、その影を追い詰めた。
 影は、追ってくるのが二人だけと見るや、逃げるのもやめていた。
 それは、剣から血を滴らせている、長い黒髪の男だった。
 フリッツは呆然となり、歯をかみしめる。
「……ルイス。やっぱり、お前だったのか」
「フリッツ……そうか、フリッツだったか。はは。久しぶりだな」
 フードを浅く被っており、木々に紛れる格好をしてはいた。
 だが、それは紛れもない、ルイスだった。

「お前が、やったのか。あれを」
 フリッツの言葉に、ルイスは……愉快そうな顔になるのだった。
「そうさ。見たか、フリッツ。あの無残な姿を。あの男、覚醒者のくせに大して強くもなかったんだ。ほとんど、一撃さ」
「覚醒者の、連続殺人。全て……お前なのか」
「それがどうかしたのか。はは、何を怒っている」
 フリッツは剣を抜いて、切り込んだ。だがルイスはそれを剣で受け、止めている。
 二人はにらみ合った。
「自分が何をしたか、わかっているのか。……優しい男だったお前は、どこに行った」
「何の話だ? 俺は仇をとっているだけだ。ジュリアの仇を」
 フリッツははっとする。
 ルイスの中に見えたのは――行方不明になる直前、フリッツに見せていた……絶望と、何かへの憎悪をたたえた、黒い瞳。
「ルイス、お前は復讐しようとしているのか。……ジュリアを殺したのは、山賊だ。殺された覚醒者に、罪はない」
「覚醒者は、悪だ!」
 ルイスは一瞬引くと、フリッツの体を切り下げた。
「ぐあ……!」
 フリッツは、血を流しながら膝をつく。
「いい加減に、邪魔するなら、容赦はしないぞ」
 ルイスは見下ろして言うと、手でさっと合図した。
 すると、まわりからフードを被って顔を隠した戦士と思しき者たちが、四人現れる。でどころは、おそらくあの小屋か。
「やれ」
 ルイスが言うと、その一人が槍で襲ってきた。
 多勢に無勢。フリッツ自体、既に肩で息をしている。
 ここで自分が死ねば、ルイスは、止まらない。
「くそ……!」
 フリッツは村の男を連れ……その場から退くしかなかった。

●依頼
「ルイスは、山小屋にいる。あそこがアジトだ」
 フリッツは、急ぎ集められたハンターに語った。
「俺に居場所が知られてはいるが、余裕を見せていたから、いまだに潜伏していると見ていいだろう。誰かが来ても迎え撃つつもりなのかも知れない。とにかく、急ぎ対処する必要がある」
 それから何かを言おうとして、首を振る。思い直すように口を開いた。
「あいつは元ハンターで、俺の友人でもあった。だが、殺人者だ。全力で当たってくれ」

 ルイスは小屋の中、銃身を磨く。
 そして今日も、そこにはいない恋人に語りかける。
「ジュリア。待っててくれ。君の仇を、取るから。覚醒者を全員、殺してあげるから……」

リプレイ本文

●潜入
 八人は、フリッツに連れられて山を進む。
 途中、龍崎・カズマ(ka0178)は、解せねえな、と声を漏らした。フリッツから聞いた、被害者の情報――金銭が盗られていることが少なかった、という事実のことだ。
「ルイスは集団を養っているわけじゃないのか? なら集団は、何のために奴に?」
 わからない、とフリッツは首を振って言う。
「それを知るためにも、まずは皆の力を借りたいんだ」
 もちろんさ、とカズマは早々に銃を取り出しつつ、意識を前に戻していた。
 秋桜(ka4378)は二人の会話に、ぽつりと声を出す。
「難しいかも知れませんが。捕縛、出来ればいいですね。……まだ遅くないって信じたい気持ちも、ありますから」
「俺は、捕らえたところで意味はないと思うがな。奴はもう、一種の陶酔者だ」
 迷いのない言葉で言うのは、エヴァンス・カルヴィ(ka0639)。
 柏木 秋子(ka4394)は、しかと日本刀を、握っている。
「どちらにせよ……彼のやっていることは憂さ晴らし以外の何物でもないでしょう。復讐、と言えば聞こえは良いでしょうが――」
 これ以上の犠牲者が出る前に、断ち切らなければ。そう、心の中で思っていた。
 九人は、アジトの南側へたどり着く。そこはいまだ、静寂だ。
「まずは、私にお任せを」
 小声で言うのは、上泉 澪(ka0518)。
 髪にきらりと虹色の光を反射させると――超聴覚。周囲の状況を、聞き取ろうとする。
「小屋の外に敵がいないのは確かに思えますが。……ただ、小屋の中も、妙に静かですね」
 こちらに比肩する人数がいるとは思えない、と澪は言った。
 それは不自然ではある。が、敵が小屋の中にいるならば、作戦通りでもある。
 九人は――正面から一気に走った。
 エヴァンスと秋子は先行して見張り。フリッツ含む七人は左右の小屋だ。その扉は、かすかに開いている。
 右の小屋の入口から魔法を放つのは、八代 遥(ka4481)。銀色となった髪の毛先だけをピンクに染め……スリープクラウドを発生させる。
「――寝ていてください。そうすれば、殺めずにすむかも知れませんから」
 同時、秋桜も左の小屋へ放ち、ガスが左右の小屋に充満した。
 残りのメンバーがそこから制圧に入る、が。
 そのとき――ずおっ! 左右の小屋から影が素速く飛び出て、剣を振るってきた。
「ぐっ!」
 ぎぃん! 守りの構えを取る日高・明(ka0476)は、槍でその強襲を受ける。
 逆側でも、ネイハム・乾風(ka2961)が銃を盾代わりに威力を軽減していた。
 出てきたのは……フードで顔を隠した者たち。ルイスの、配下だ。
「スリープクラウドが、全く効いていない……?」
 遥は驚きにも似た声で言うが――ネイハムが感じたのは、それだけではない。
「ずいぶん、痛いね。普通の人間の、攻撃力じゃないよ」
「きみ達は……何者だ!」
 明も、その違和感に気付いていた。目の前の一人に、槍を突き出す。
 ばきん、という硬質な手応え。ネイハムも、赤紫色の瞳で狙いを定め――レイターコールドショットを放って気付く。
 衝撃ではらりと落ちた、フードの下の顔。
 そこに――陶器で出来た、つるりとした面。
 同時、左右の小屋から斧を持ったものがさらに一人――いや、一体ずつ出てきた。
 カズマが振動刀で受けながら呟く。
「っぐ! ……おい、こいつら」
「……ええ。配下は、人間ではなかったようですね」
 澪も大太刀で防ぎつつ、その敵――人形を見つめた。

●歪虚
 その気配、そして無機的な姿。フリッツは、信じられないというように見ていた。
「こいつらは、『嫉妬』の、歪虚――? どうして」
 ばあん、と、北側の小屋からも一体ずつ、槍を持つ敵――人形が現れていた。
 エヴァンスは琥珀色の眼をわずかに細め、どう猛な表情を浮かべる。
「どうやら全員、人形歪虚みたいだな。理由は知らねえが……少なくとも手加減はいらねえってことか?」
「敵が歪虚となれば、是非もないでしょう。ですが一体、なぜ――」
 言いながらも、秋子は日本刀の刃先を向ける。
 とにかく、この数は危険だ。
 瞳を赤く染め――背後には契約した侍の幻影を浮かべる。秋子は、一閃。北西側の一体に切り込んだ。
 そこへエヴァンスが薙ぎ払い。横の一体も巻き込んでダメージを与えた。
 が、人形は倒れない。
「雑魔とは違うってこったな。そっちは平気か!」
「数は多い、けど。面倒だし、まずは黙ってもらうことにするよ」
 南側には、四体の人形。そこにライフルを浅く構えるのは、ネイハム。
 ――ぼぼぼっ! 弾丸をひと息に撃ち尽くす。左の二体が弾幕で一時行動を失った。
「助かるよ! ボクは、こいつをっ!」
 すると明が右側、腕の凍った一体に狙いを定め――ざんっ、と真正面から刺突した。
 そこへ、遥がウォーターシュート。どうっ、と強烈な水球がその一体を襲った。
「――まだ、倒れないんですか。本当に、タフですね」
「ならば、この一撃で仕留めさせて頂きましょう」
 言うと同時、澪が、クラッシュブロウ。ごうっ!と苛烈な一撃が人形を雲散霧消させた。
 動ける一体に、秋桜は魔法の石つぶて――アースバレットを命中させながら、問うた。
「一体どうしてここにいるんです。このアジトに、なぜ歪虚が……?」
「……言っても無駄みたいだな。こいつらは、命令を聞いているだけか」
 カズマは迫ってくる人形の斧を、アクロバティックな動きでかわす。
 背後に回られた人形は、すぐに気付いて振り向き、攻撃。だがカズマはそれをもかわすと――ざざっ! 二連続の斬撃をたたき込み、人形の腕を切り落とした。
 そこへフリッツが援護するように攻撃すると……澪がすかさずクラッシュブロウ。秋桜が再びアースバレットを撃つと、人形は消滅した。秋桜は少しだけ、息を上げる。
「これでやっと二体ですか……」
 その間、北側では人形が槍による突きを繰り出している。
 激しい攻撃、だがエヴァンスは一歩も引かず……逆に勢いよく懐に飛び込み、その力を乗せて渾身撃。人形の肩を粉砕した。
 秋子も、もう一体の槍を正面から受けていた。だがまだ、体力はある。
「そう簡単に倒れるわけには――いきません」
 刀で人形の頭部を一撃。だが、人形はまだ二体とも、健在だ。
 再び槍を突き出そうとする二体だったが――ばすっ!
 秋子の前の人形が、脚に狙撃を受けて倒れ込む。南から、ネイハムがターゲッティングで狙っていた。次いで遥のウォーターシュートが胴部を射貫き――その人形はばらばらになり消滅した。
 残る一体は、エヴァンスが攻撃をいなしつつ……再び、チャージングからの渾身撃。秋子の斬撃も同時に決まり、その人形も消え去った。
 と、南側の二体が動き出す。明と澪が二体の攻撃を武器で受けるが――
 どうっ! 突如、東側の木々の間から銃弾が飛んだ。
 一瞬、銃の光を見た明は体をずらし、事なきを得たが……。
 その狙撃の主に、はっとした。
「君は――ルイス!」

●力
 現れた男、ルイスは、横にもう一体の人形を控えさせながら、状況を見て取っていた。
「この短時間にもう四体も……。抜かったか。はは……だが、いい。九人もいる。そして皆、傷ついている。……そのまま全員、殺してやる」
 カズマは、へえ、と声を出しながら――ルイスをにらんでいた。
「とうとう、現れやがったか。……お前、何をどうやったのか知らねえが。歪虚と、ツルんでやがるな。どういうつもりだ?」
「……見ればわかるだろう? 力のある配下を得た。そういうことだ。俺は、強くなった」
 ルイスはやれ、と人形に命令した。
 人形はライフルを構え、狙撃。カズマは小屋の影に飛び、何とか銃弾をかすめるに留めた。
 ルイスは、笑った。
「これで、仇が取れる。俺は、強い」
「まさかそのために、歪虚と……」
 秋子は、静かにルイスを見据えていた。エヴァンスは剣を突きつける。
「どうやってこんな人形と徒党を組んだ。説明してもらうぜ」
「必要ない。お前達はどうせ、俺が殺してやるんだ。行け!」
 ルイスの声に、銃を持つ人形が駆け、南側の人形も態勢を整える。
 話は、通じない。事実は、歪虚を味方にした男がいるということだけ。
 ばすっ! ネイハムは目の前の一体を狙撃しつつ……ため息をつくように言った。
「経緯的に『らしい』かも知れないけど……自分の行動の矛盾に気付いてないとはね」
「見境がつかなくなった手合いでしょう。歪虚のことを聞く必要もありますし――まずは、この場を制しましょう」
 澪も、どこまでも冷静に言って、ルイスを目指す。
 そこへ人形が邪魔をしようと近づくが――ばしゅん、と遥のウォーターシュートが接近を許さない。
「配下は、私たちがやります」
「その間に、ルイスさんを!」
 秋桜も、もう一体をアースバレットで攻撃していた。澪は頷き、ルイスへと駆ける。
 ルイスは、自らも近づいて攻撃の意志を見せた。だが――澪が大太刀を振り抜くと、とっさに飛び退く。胸にわずかに血を滲ませると、警戒の色を浮かべた。
「……なるほど、強い。だが、俺は仇を取ってみせる。どんな覚醒者も、殺してみせる!」
 東の林へ後退しながらライフルを発射。澪の頬に小さく、銃弾による血の線が走った。
 カズマは剣を持つ人形に連撃を喰らわせながら、ルイスを向く。
「手前自身に力がない事を棚上げしての逆恨み。その上、歪虚か。どこまで下らねえことをする?」
「下らない、だと」
 ルイスは怒りを浮かべるが――そこに、エヴァンスが駆け込んでくる。
 ぎぃん! 攻撃力を高めての、渾身撃。ルイスは剣で受けつつも、その威力に一瞬苦悶を浮かべる。
 エヴァンスは間近で言った。
「下らなくねぇとでも? 人を殺すようになって、ジュリアの笑顔は取り戻せたか? 言ってみろ」
「軽々しく、その名を口に出すな――俺が彼女のために、どれだけのことをしてきたかも知らずに」
「彼女のため? はっ! 違うだろ?」
 言って、横から接近したのは、明。槍でルイスの腕をかすめ、見据えた。
「全部、あんたの八つ当たりなんだよ」
 明は槍を構え直し、じりじりと、ルイスに詰めていく。
「なあ。こんなことをして、あんたの好きだったその人は、喜ぶのかよ!」
 妹や想いを秘める女性を失ったら、自分だってどうなるかわからない、と明は思う。だが、自分が今のルイスのようになれば、彼女達はきっと、許してはくれないだろうから。
 だが――ルイスは笑っていた。
「喜ぶさ。喜ぶに――決まってる。俺はジュリアを愛している。彼女も俺を、愛していたのだから」
 馬鹿野郎、と明は声を絞りだす。
 同時、エヴァンスと澪も切り込んで――はじめてルイスに、深々と攻撃が入った。

●慟哭
 南側では、銃を持った人形が接近したところに、ネイハムが抜け目なく反応していた。
「まとめて、的になってもらおうかな」
 構え、制圧射撃。充填した弾丸を撃ち尽くし、弾幕で三体全ての自由を奪った。
 剣を持つ人形にフリッツが攻撃すると、カズマがその人形にさらに連撃をたたき込む。満身創痍の人形を断ち切ったのは……日本刀を横一閃に振るった秋子だ。
「これであと、二体ですね――」
「集中攻撃で倒しましょう」
 秋桜が手をのばし、銃を持つ人形へアースバレット。その人形を、遥がウォーターシュートで穿つ。カズマの振動刀の一撃でひび割れた陶器の体を――ネイハムのライフルが、貫通。ばぁん、と、消滅させた。
 秋子は森へ移動。エヴァンスにヒールをかけると――ルイスへ向いた。
 状況は、変わっていた。小屋に挟まれた森の奥で、ルイスは血を滴らせている。人形も、全滅間近。
 それでも剣を構えるルイスに、秋子は言った。
「このような状態になってまで、あなたはやめようとしないのですね」
「……何が言いたい」
「私には、貴方の気持ちは分かりません。その行動自体を否定することも、しません。……ただ、罪なき人を殺した事実は、消えません。そして貴方はまだ剣を置かない。それを、赦すことが出来ると思いますか」
 それは、斬る、という意思表示でもある。
 それで、ルイスははじめて状況の不利を悟ったように、ぎり、と歯を噛む。
 その隙に、またエヴァンスと澪が攻撃を重ねる。明が、槍で追い詰めた。
「投降しろ。こんなことをしても、どうにもならない」
「……黙れ! それは俺が決めることだ。俺は、正しいことをしている」
「違いますよ」
 魔法を人形へ向けながら、ルイスへ言うのは、遥。
「……愛する人を失う悲しみ。それ自体は同情出来るかも知れません。でも貴方は、貴方を苦しめた山賊と同じことをしているんですよ。それを、理解していますか?」
 ルイスは一瞬だけ言葉を失う。秋桜も、語りかけた。
「大切な人を理不尽に奪われたのなら。理不尽に奪われる人の気持ちが分かる人に、なるべきでした」
「違う! 俺を、あんな人間と一緒にするな!」
「そうかな……。関係のない人間を殺してしまったらもう、同じじゃないかな」
 ネイハムはただ、つまらなそうに、思ったことを口にする。
「それに、覚醒者が悪……ならば、君はなんだろうね」
「俺は……俺は違う!」
 ルイスはライフルを射撃。射線上にいた澪は、今度は木で防ぎ、息をつく。
「……最早、善悪の認識など出来ていないようですね」
 エヴァンスが北東、最奥の小屋の前に下がったルイスを追い、剣を突きつけた。
「歪虚について、吐け。統制の取れた人形――その辺で手に入れられるもんじゃねえだろ」
 さもなくば斬る、と。それは勝敗が決したとも言える状況ではあった。
 が――瞬間。
 ばんっ、と。ルイスの背の小屋から、敵が二体飛び出してきた。
 音も気配も消し、身を潜めていた人形。その手には、ライフル。
「なっ――!」
 エヴァンスを狙撃すると、人形はルイスを向いた。ルイスは、歯を食いしばる。
「わかってる……。俺はまだ、死ぬわけにはいかない……!」
 そうして、小屋の裏に回った。気付けば、ルイスの姿は森に消えていた。
 肩を押さえるエヴァンスの横に、明は駆け込む。
「くっ……! 逃がしちゃ駄目だ! ルイスを!」
 だが人形がライフルを撃ち、ルイスを追おうとするハンターを捨て身で止めに入ってくる。
 歪虚が、生き残りも合わせて三体。無視できる敵ではない。
 三体をハンターの総力で消滅させる頃には、ルイスの居場所は杳として知れなくなった。

 戦闘後。フリッツはすまない、と八人に謝った。
「情報不足だった。まさか、ルイスが……歪虚と――」
 そこで口をつぐむ。思い直すように言った。
「だが、ルイスの怪我は軽くはなかった。アジトも壊滅できた。少なくともしばらくは、覚醒者を襲うなんて難しいはずだ」
 だから、ありがとう、とだけ言った。
 それからフリッツは森を見ていた。
 そこに親友の影は、見つからないようだった。

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MVP一覧


  • 上泉 澪ka0518
  • 赤髪の勇士
    エヴァンス・カルヴィka0639
  • 白狼鬼
    ネイハム・乾風ka2961

重体一覧

参加者一覧

  • 虹の橋へ
    龍崎・カズマ(ka0178
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 挺身者
    日高・明(ka0476
    人間(蒼)|17才|男性|闘狩人

  • 上泉 澪(ka0518
    人間(紅)|19才|女性|霊闘士
  • 赤髪の勇士
    エヴァンス・カルヴィ(ka0639
    人間(紅)|29才|男性|闘狩人
  • 白狼鬼
    ネイハム・乾風(ka2961
    人間(紅)|28才|男性|猟撃士
  • ブリリアント♪
    秋桜(ka4378
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師

  • 柏木 秋子(ka4394
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士
  • 猛炎の奏者
    八代 遥(ka4481
    人間(蒼)|16才|女性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓!
エヴァンス・カルヴィ(ka0639
人間(クリムゾンウェスト)|29才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/04/20 19:02:18
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/04/20 18:42:50
アイコン 相談卓
柏木 秋子(ka4394
人間(リアルブルー)|17才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2015/04/23 23:05:49