罪、試されし者

マスター:朝臣あむ

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/04/24 07:30
完成日
2015/05/01 23:28

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●アネリブーベ
 帝国第十師団は囚人や亜人、他国の追放者などが兵士として従事する場所。
 彼等は兵士として起用される前、自身が犯した罪を刑期と言う形で首に嵌められる。そしてその刑期を減らし、外に出る為に働くのが彼等の目的であり使命だ。
「……全然、減らないな」
 雑魔の討伐を命じられて戻って来たマイラー・トレポフは、任務完了で減少した刑期を見て眉を寄せた。
 第十師団は階層制度を取っており、所属する階層によって任務の内容や刑期の減少値などが決まる。
 マイラーが席を置くのは末席の4階層で、任務は弱い雑魔の討伐が主で、当然刑期の減少も少ない。
 幾ら数をこなそうと、上階層の3階層や2階層に比べれば塵みたいなものだ。
「こうしている間にもあいつは……」
 溜息を吐いて落とした視線の先に見える手枷は自身の軽率な行動が招いた結果だ。
(この枷を外すだけでそれだけ日数が掛かるか……考えただけで気が遠くなりそうだな……)
 そう、再び溜息を吐きかけた時、視界に光る頭が飛び込んで来た。
「おお、そこにおるのはマイラーじゃな。どうじゃ、仕事の方は巧くいっておるかの?」
 重低音を響かせながら近付いてくるドワーフは第十師団副師団長のマンゴルトだ。
 彼はマイラーがこの地に送られて以降、積極的に話掛けてくる者の1人だ。まあマンゴルトに関しては囚人皆に平等で「おやっさん」の愛称で呼ばれる程に親しまれている。
 だからだろうか。第十師団に居る誰よりも話し易く接し易い。
「仕事はそれなりに……貴方は忙しそうだな」
「まあのぉ。辺境で戦があろうと国内の混乱を疎かには出来んからのぉ。ゼナも不在の今はわしが頑張るしかあるまいて」
「そうか。まあ、倒れないようにな」
 マイラーはそう告げて口角を上げると、彼の元を去ろうとした。だがその背に思いも掛けない声が届く。
「お主、歪虚の討伐に行かんか?」
「……歪虚の、討伐?」
 驚いて振り向くのも無理はない。
 マイラーのいる4階層は自然発生した程度の低い雑魔の討伐が主で、その上の3階層も雑魔の討伐が主、時折まともな歪虚の討伐も入るらしいが、それらは2階層に近い者が請け負う事になっているらしい。
 つまり今の彼では歪虚の討伐など到底無理と言う訳だ。だがマンゴルトは歪虚の討伐に行かないかと聞いて来た。
「貴方は俺の階層を忘れたのか?」
「いや、覚えておるぞい。お主は4階層でまだまだ新人の部類じゃ」
「わかっているなら尚の事だ。俺に力のある歪虚の討伐は出来ない。それは副師団長の貴方なら良くわかっている事だろう」
「確かに、普通の4階層の囚人ならそうじゃろうな。まあついて来るんじゃ」
 マンゴルトはそう言うと、マイラーを塔の1室に招いた。そこは調度品が1つも置かれていない場所で、妙に殺風景で寒々しい雰囲気を与える。
 マイラーは1度周囲を見回すと、改めてマンゴルトを見た。
「……それで、さっきの言葉の意味は」
「何、お主がここに来る前に行った逃亡劇。あれを思い返せば普通の4階層の囚人でない事は確かじゃろうて」
 アネリブーベに輸送される途中、マイラーは逃亡を図った。だが道中で雑魔の襲撃に会い、彼はハンターと共にそれを討伐した。その時に着けられたのが今嵌めている枷だ。
「雑魔と歪虚ではだいぶ違うだろ。だが……歪虚討伐と言うなら恩恵は大きいか」
 最後の方は独り言だったのだが、マンゴルトにはしっかり聞こえていた。
「手枷の解除と3階層への昇進を約束するぞ」
 望む物が2つも同時に手に入る。その言葉にマイラーの目が細められた。
(かなりな高待遇だな……敵が相当強いのか、それとも何か裏があるのか……)
 いずれにせよ、この機を逃せば昇進はまだまだ先。手枷が外れるのだって何時になるかわからない。
「……わかった。詳しい状況を聞こう」
 覚悟を決めて頷くと、マンゴルトは歪虚討伐に関する詳しい説明をし始めた。

●任務の詳細は……
 アネリブーベから北北西の位置に小さな集落がある。僅かな田畑と僅かな家をしかないその場所が歪虚の脅威に晒されたのは3日ほど前の事だと言う。
「その集落はゼナが陛下に献上する芋の生産を主にしておるんじゃが、昼間に畑へ向かった男達が夜になっても戻って来なくてのぉ。心配した長が確認に向かったのじゃが、長も戻らなかったそうじゃ」
 これに危機感を覚えた女達が相談して集落を抜け出したのだが、たった1人を残して大人は全て消えてしまった。
 そしてその残った大人がアネリブーベに辿り着いて状況を説明したのだと言う。
「子供達はまだ集落におる。情報では皆無事だと言うが……」
「生きている可能性は低いだろうな」
 うむ。そう唸るマンゴルトにマイラーが思案気に視線を動かす。
 機転を利かせて1人逃がすのが精一杯だった状況を見て、敵は素早いか複数いると考えて良いだろう。
 そして集落を直接襲わなかった理由も考えなければいけない。可能性として考えられるのは集落の周りに壁があるか、それとも地形的な問題のどちらかだろう。
「集落周辺の地図はあるか?」
「うむ。詳細は聞いてあるぞ」
 何もない床に広げられた地図に、集落らしき物が描かれている。
「集落を中心に畑が四方へ……ん? これは?」
 集落を囲う様に引かれた線に目が落ちる。
「お堀らしいぞい」
「お掘?」
 逃げ延びた者の話によれば、畑への水やりと集落への水の運搬の為に、周囲にお掘を掘って水を流しているらしい。
(水が苦手なのか……それとも……)

 コンコンッ。

 不意に響いた音にマイラーの視線が動く。そして開いた扉の向こうに立つ人物を見て彼の眉が寄った。
「呼ばれて来たッス! マンゴルトの旦那、あっしに仕事って何ッスか!!」
 元気良く手を上げた金髪エルフの少女は、用件を早くと促すように2人の顔を見比べた。
 その視線にマイラーがマンゴルトを捉える。
「……どういう事だ」
「今回の任務はお主とそこの少女……ジュリに頼む事になっておってな。監視と討伐の手伝いにハンターにも声を掛けておる」
 彼によると、今回の討伐は4階層の囚人であるマイラーとジュリ、そして数名のハンターに依頼していると言う。
 ハンター達には歪虚討伐の他に、2人の監視も含まれているらしいが、この辺はオマケに近い印象を受ける。
「むむ? マンゴルトの旦那、これ何ッスか?」
 ジュリが指差したのは地図の下に書かれた絵だ。見たところミミズにも似ているが、少し体が太い気もする。
「今回の歪虚じゃな」
「なんかワーム見たいッスね。土の中ゴゴゴゴーって出てくるッスか?」
「「あ」」
 そう声を上げたマンゴルトとマイラーに、ジュリは「?」と目を瞬き、首を傾げた。

リプレイ本文

 目的の集落まであともう少し。そんな場所で魔導トラックから降ろされた一行は、マイラーが持参していた地図に目を落とし目的地までの距離を把握していた。
「そこまで距離はなさそうだな」
 言って騎乗した状態で皆を見下ろすのはアーヴィン(ka3383)だ。彼はマイラーとジュリをチラリと見ると、何の表情も動かさず手綱を引いた。
「村の救出か、囚人の監視か。どちらかを命令してくれたら楽だったのにな」
 口中で零す彼の脳裏にあるのは自身への言い訳だ。
 正しいことが正しいまま為されないのは、そいつが弱いから。そう言葉を呑み込んで前へ進む。
 そんなアーヴィンを見ていたジュリが「徒歩じゃないッス、ずるいッスよ!」と声を上げる中、アーヴィンと同じように騎乗していた朱華(ka0841)が彼女に声を掛けた。
「ジュリ、だっけ。強いって聞いているよ」
 今回監視対象になっているジュリの罪状を耳にしていた朱華は、振り返った彼女を見て言う。
「アンタを危ない目に遭わせるつもりはないさ。囚人といえど、人命は人命だ。……けどいざという時は、頼りにしてるさ。良いだろう?」
「勿論ッスよ! あっしは姐御の顔に泥を塗るようは真似はしないッス!!」
 姐御。その単語に朱華の口元に笑みが浮かぶ。
「タングラムさんにも、良いとこ見せたい感じか」
 ジュリが囚人になった経由を思えば納得がゆく。朱華は意気揚々と歩き出したジュリの後を追う様に馬を動かした。そしてその直後を歩くマイラーにも声を掛ける者がいた。
「これが終わったら~とか、大事な人が~とかは死亡フラグだから思っていても呟いちゃだめだよ、マイラーさん」
 何の事だ。そう振り返るのも一瞬。メイム(ka2290)の顔を見て一度瞬きをすると、マイラーは「あぁ」とだけ頷いて前を向いた。
「……マンゴルトの旦那が何か言ったか」
 囚人兵である彼の現状は任務に差しさわりの無い範囲で伝えられているに違いない。今回の任務達成で彼が得れる報酬も、ハンターに伝えられていると考えて良いだろう。
 マイラーは密かに溜息を零すと、こちらを見ながら首を傾げている少女に気付いた。
「……何かあるなら言え」
「いやあ、ワームて何ね?」
 ずっと考えてた。と返したのは薬師神 円(ka3857)だ。
 彼女の出身はリアルブルー。奇妙な生き物への耐性はこちらに来て少しは出来たかもしれないが、やはり知らない物も多い。
 そんな彼女に同じくリアルブルーからの来訪者、花厳 刹那(ka3984)が答える。
「大きいミミズのようなものね」
「でかかミミズ……そげなデカかミミズ畑にも良くなかね。悪さばすんなら退治せなあかんたいね」
 一体どこの訛りなのか。一瞬視線を寄越したΣ(ka3450)だったが、彼は何も言わずにマイラーから地図を奪うと視線を落とした。
「事前情報ではテリトリー範囲の確認が出来ませんでしたけど、そろそろ気を引き締めておいた方が良いかも知れませんね」
 刹那の声にΣの目が上がる。彼は奪った時と同じように無言で地図をマイラーに返すと、何かを見付けたように視線を一点で止めた。
 それに気付いたメイムの目が細められる。
「相当、食べたみたいだね」
 森の出口は目と鼻の先。そうなったところで見えた畑の惨状は目を見張るものがあった。
「畑がぐちゃぐちゃだがね」
「それだじゃない。見て見ろ」
 アーヴィンが示した先に見えた染み。それはそこだけではなく、畑の中や外、これから向かう集落への道にも落ちている。
 赤焦げた異臭の漂う染み、あれは血痕だ。
「……さて、仕事だ」
 集落に子供がいると言うのなら憂いている暇はない。朱華は足元に視線を落とし――ハッとした。
「皆、退けッ!」

 ゴゴゴゴォォォオッ!

 朱華の声と大地の揺れはほぼ同時だった。
 持ち上がった地面から顔を覗かせた肥えたミミズのような外見の歪虚が、ハンター目掛けて口を振り降ろしてきた。
「っ、……作戦に変更はありませんね?」
 敵の攻撃を飛び退く事で回避した刹那が問う。その際に全員の無事も確認した彼女は、アーヴィンが僅かに頷くのを見止めて駆け出した。
 今作戦での彼女の役割は囮。本来は地中に潜む敵を誘き出す為の役割なのだが、こうして出現した以上は別の方法で囮を担うしかない。
「それに、まだ潜んでいるかもしれませんし」
 1人零して歪虚の脇を通り過ぎる。この動きに、敵の頭部が反応した。
「おおー、鬼さんこ~ちらッスね!」
 敵は刹那を餌と認めたらしい。彼女を追い駆けてまわる姿はジュリの言う様に鬼ごっこのようにも見える。
 その姿を見ること僅か。円がマイラーの腕を引いた。
「今のうちに集落に行くったい」
「集落へ?」
 どういう事だ。そう問う間もなく駆け出した円に、マイラーの眉が寄る。
「行け」
 声に目を向けると、アーヴィンが刹那を追う歪虚に矢を向けているのが見えた。つまりここは任せて子供たちの安全を確認しろ、という事らしい。
「早くせんね!」
 円は堀の近くで足を止めるとマイラーを手招いた。この様子に刹那が何かを言おうとするも、その間もなく異変が起きる。
「!」
「走れ!」
 地響きが起きて円の足元が揺れたのだ。
 マイラーの声に円が動き、彼と共にメイムが地面を割って出た歪虚に向かって駆け出す。そうして2人がほぼ同時に武器を振り上げると、ギリギリまで弦を引いたアーヴィンの矢が歪虚の体を射抜いた。

 グォォォオオッ!

 強烈な一矢に身悶える歪虚。だが敵はすぐさま態勢を整えると、次こそはと体をくねらせて頭を叩き下ろしてきた。
「油断大敵――ふりぃぃず!」
 パシィィインッ、と地面を叩いた鞭の音と、メイムの声に歪虚の動きが止まる。それを視界にアーヴィンが次の矢を構える。
「さっさと行け」
 マイラーの逃走が懸念事項だが、見たところ集落はそこまで大きくない。それにもし集落から逃げた場合、逃走経路として使える橋は4つ。そのどれもが視界に入る位置にある。
(万が一の時は俺が……)
 ギリッと弦が軋む音がし、アーヴィンは集落に駆け込む円とマイラーを視界に、トドメの一矢となる矢を放った。


 集落に到着した円は、自分等の他に到着を果たした朱華とジュリに目を向けた。
「子供たちは、どこたい……」
 少し息が乱れているのは、緊張と興奮、そして走った事の影響だろう。朱華はそんな彼女に微かな笑みを向けると、今来た場所で繰り広げられる仲間と歪虚の攻防に目を向けた。
「何でここには来ないんだ……それに、あの敵は何に反応した。足音か……それとも、大きな音……ミミズに似ているなら、温度感知かもしれないな……」
「ここに来ないのは水が苦手なんだろ」
 サラリと答えたマイラーに朱華が目を瞬く。そうして何かを言おうとした所で声が聞こえた。
「……だれ」
 集落の中央にある大きな家。そこから顔を覗かせた少年に円が言う。
「アネリプーペからの救援たい。もう安心して良いけんね」
「アネリ……ゼナイド、さまの……っ」
 潤む瞳から少年の恐怖が伺える。そしてこの声を聞き止めたのだろう。彼の後ろからは他の子供たちの声も聞こえ始めている。
「今、悪いのやっつけてるけん、外にだけは出んようにするとよ」
「……わかった」
 頷く少年に笑みを向け、円はそっと家の扉を閉めた。そして改めて集落の外で暴れる歪虚に向かおうとするのだが、そこで漸くマイラーが近くにいない事に気付く。
「どこば――あ」
「……子供達、中に入ったぞ」
 ああ。そう頷いたマイラーは、この時だけ服の中で隠していた腕を出すと、微かに息を吐いて歩み寄る円に目を向けた。
「で? あとは普通に闘えば良いか?」
「そう、たいね」
 手枷を見た子供達が不安を抱かないように、マイラーには離れているよう事前に言っていた。そして彼はそれに従って行動していたのだが、そこまで真面目に隠す必要も無かったのではないか。
 それに先程の戦闘での様子も、今の言葉も、どうにも囚人らしからぬ行動が多い。
「……あんた、なんで囚人やっとっと?」
 問い掛けに朱華の目も向かう。
 そんな2人の視線を受けたマイラーは、面倒そうに息を吐くと、剣を抜いて背を向けた。
「俺は何もしていない」


「……何かあった時は、集落の方に逃げてくれ。……アンタなら、子供達を守れる」
「わかったッス!」
 ジュリに子供達の事を任せた朱華は、先ほどマイラーが言っていた言葉の意味を考えて眉を寄せた。けれどそれも一瞬、すぐさま目の前の状況に意識を集中する。
「ふりぃぃず!」
 再び響いたメイムのブロウビートの声。その声に身を捩って攻撃に転じていた歪虚が崩れ落ちる。
「援護、感謝します」
 刹那は軽やかな身の熟して歪虚の側面に飛び退くと、日本刀に手を伸ばした。そうして抜刀の勢いで歪虚の頭部らしき部分を切裂く。

 グォォアアアアッ!

 砂を吐きながら身悶える姿を視界に刀が鞘に戻る。そして次なる行動へ移ろうとした時、彼女の持つ繊細な刃とは違う、大振りの太刀が歪虚の体を両断した。
「……」
 砂に崩れる歪虚の向こうに居たのはΣだ。手には振り下ろしたばかりの大太刀の姿が在る。
 彼は自分を見る刹那に一目だけ向け、直ぐに次の場所へと視線を飛ばしてしまった。その様子に彼女もまた別の箇所へと視線を飛ばす。
 歪虚が倒れたのはこれで2体目。もし潜んでいるとすればもう1体――と言うのはメイムの考えだ。
「セツナさん、お願いして良いかな?」
 彼女はそう言いながら、もう1度注意深く周囲を探る。畑の荒れ具合と集落の位置。そして2体の歪虚が出現した位置を頭の中で展開する。
「土の中ってのは、厄介なもんだよな」
 安全地帯であろう堀まで移動した朱華が、隣に立つジュリに向かって呟く。その視線は勿論、敵の誘き出しを計る刹那に向かっていた。
(足元の隆起に注意して……次はあちらへ)
 ワザと足音を高くして畑の中を駆ける刹那の足は速い。それでも注意を払って走っているのは誰の目からも明らかだった。
 そもそも彼女が走るのは敵がいると思われる場所の真上。誘き出している最中に襲撃されて避けられませんでした、では意味がないのだ。
「……出ないか?」
 畑を駆ける刹那を見るアーヴィンは、そう零して弓を下げようとする。だが直ぐにその手が動いた。
「出たな……」
 地面の中を動く何か。それが歪虚であると誰もがわかっている。
 朱華は今いる場所をジュリに託して駆け出し、アーヴィンもまた弓を構える。だが矢を番えた所で彼の目が眇められた。
「全員、止まれ」
 滑るように声を響かせ馬の脇腹を蹴る。そうして番えたばかりの矢を口に咥えると、開いた手で手綱を引いて刹那の元に駆けた。
(――間に合え)
 アーヴィンは刹那の脇を通り過ぎる間際に彼女の腕を掴んで強引に引き上げた。そしてそのまま歪虚の脇を通り過ぎると、すぐさま石の礫が地面から吹き上がった。
「!」
 地面から顔を覗かせた歪虚がストーンを放ったのだ。これは他の2体が見せなかった技。
 今までは地面が動いて直ぐに顔を覗かせたのに対し、今回は地面が動き、その直後に土が地面に吸い込まれるような動きを見せた。
 これは遠方から仲間を注視していたアーヴィンだから気付けた物かもしれない。
 彼は刹那を地面に下ろすと再び矢を番え、それに習って刹那も駆け出すと、メイムもブロウビートを発動して皆の援護に動き出した。
「私も援護するたいね!」
 鎌の付いた槍を振り上げた円が、敵の間合いに入って一気に胴を薙ぐ。これに呻き声を上げると、敵は力を振り絞って地中へ戻ろうとした。
 だが邪魔が入る。
「……」
 無言で放たれた弾丸はΣが放った物だ。
 進もうとした場所へ撃ち込まれた弾丸に、居た堪れなくなった歪虚が口を開く。そうして傍に迫る刹那に牙を剥こうとした所で、彼女の脚が飛んだ。
「先程のお返しです」
 軽やかに蹴った足が歪虚の胴を蹴り、そうすることで更に飛躍した刹那の体が空中で1回転する。そして帯びた刀を抜き取ると、一閃が敵の頭部を薙いだ。
 盛大に仰け反って苦しむ姿に朱華が近付く。
「……これで終わりだ」
 刹那の持つ日本刀とは違う輝きの刀が歪虚の胴を裂いた。
 こうして地面に落ちた歪虚を見て息を吐くと、他の仲間たちも無意識に息を吐き、各々の武器を下げた。


「もう敵はいなさそうだよ」
 最後の最後まで敵の有無を確認していたメイムは、集落で子供達の無事を確認していた仲間に声を掛けて笑みを浮かべた。
 歪虚の数は全部で3体。その全てがハンターの手によって退治された。これで集落への脅威は消えたわけだが、ここで重要な問題が残っている事に気付く。
「この集落はどうなると?」
 円の言葉に誰もが口を噤む。
 1名の大人を残して子供しか残らなくなった集落。どう考えても再興するには無理があるだろう。
「子供たちはこのまま残すより、師団に連れ帰った方が良いか……」
 朱華の言葉に誰もが納得する。
 ここはアネリブーベの管轄だ。しかも畑で育てていたのは陛下へ献上する為の芋。となればゼナイドも無下にはしないだろう。
「とりあえず師団に戻るッス!」
 そうジュリが言う中、刹那は子供たちに歩み寄ると、不安そうに身を寄せ合う彼等と目線を合わせた。
「……よく頑張ったね」
 言って微かに笑む顔に、1人の子供が緊張の糸が切れたように泣き出した。これに連鎖するように子供たちが次々と泣き出してしまう。
 それを耳に、アーヴィンが馬の手綱を握った状態で呟いた。
「……もう少し弱ってくれてても良かったのにな」
 はあ。と溜息を1つ。それに習う様にΣも視線を落とすと、アーヴィンは何かに気付いた様にマイラーを見た。
「何してるんだ?」
 逃走の準備か? そう言外に問い掛けながら近付く。そして腕を服の中に隠しているのを見て、彼の視線が頭上へ飛んだ。
「……もう隠さなくて良いだろ」
 戦闘は終了し、子供たちは安心できる存在の傍にいる。囚人兵だと今バレてもそこまでの混乱は起きない筈だ。
 けれどマイラーは言う。
「見ないに越した事はない」
 彼は子供らを一瞥すると、彼等に背を向けるようにして空を見上げた。

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MVP一覧

  • タホ郷に新たな血を
    メイムka2290

重体一覧

参加者一覧

  • 守護の絆
    朱華(ka0841
    人間(蒼)|21才|男性|闘狩人
  • タホ郷に新たな血を
    メイム(ka2290
    エルフ|15才|女性|霊闘士

  • アーヴィン(ka3383
    人間(紅)|21才|男性|猟撃士

  • Σ(ka3450
    人間(蒼)|17才|男性|疾影士
  • 明るく優しく
    薬師神 円(ka3857
    人間(蒼)|15才|女性|闘狩人
  • 紅花瞬刃
    花厳 刹那(ka3984
    人間(蒼)|16才|女性|疾影士

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
アーヴィン(ka3383
人間(クリムゾンウェスト)|21才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2015/05/03 15:12:27
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/04/21 14:04:32