アルテミスの弓

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~5人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/04/29 22:00
完成日
2015/05/04 19:24

みんなの思い出? もっと見る

オープニング

●半月程前のとある屋敷にて
「しばらく、留守になる」
 歪虚が言い放った言葉に、緑髪の少女が驚きの声をあげた。
 今までだって、週に一度だけしか一緒に居られないのにだ。
「り、理由をお訊ねしてもよろしいでしょうか?」
 モジモジしながら少女が訊ねる。
 歪虚は前髪を払う仕草をしてから、答えた。
「王国の北西……フレッサ領にいる傲慢の仲間から連絡があった。行かねばならぬ」
 正確に言うと、自分よりも力量が上の存在から来いと命令されただけなのだが、プライド高い彼がそのまま伝えるわけがない。
「……わかりました。お帰りをお待ちしております」
 しょんぼりとした少女の頭を撫でる歪虚。
 慰めようというわけではない。この私が居ないと、まったくダメとは仕方ない奴だという思いからだ。
「留守を任せたぞ、オキナ」
「畏まりました」
 執事の様に応える年老いた男性。
 少女ノゾミが連れてきた者だ。
 自らがハンター達の試練になるという思いで、軍門に降った。歪虚ネル・ベルはそれを利用するつもりでいる。
 立ち去ろうとした所で、そのオキナに呼び止められる。
「確認を取りたい事がありまして」
「なんだ?」
「ノゾミの事であります」
 自分の事を呼ばれ、またもや、驚きの声をあげる少女。
 オキナは語った。この少女には覚醒者として素養があるかもしれないと。
 そして、機導師である自分が手解きすれば、機導師としての力を身につけられるかもしれない事も。
「ほう……私が留守の間の時間潰しには良いな」
「ハンターオフィスを使うわけにはいきませんので、時間はかかると思いますが」
「では、それも任せた」
 ニヤリと微笑み、歪虚はアジトである屋敷から去って行った。
「わ、私が、覚醒者に……?」
 少女は驚きと戸惑いを隠せなかった。
(私も、あの人達の様になれるの?)
 おおよそ半年前の事。
 深い絶望の中にいた自分を救ってくれたハンター達の事を少女は思い出していた。

●王国北西のとある村跡にて
「いよう、ネル・ベル。久しぶりだな」
 厳つい男性の顔を持つ、大きい羊が、立ち上がって、一人の歪虚に話しかけていた。
「ジヒッツ・ドラード。なぜ、私を呼んだ」
「なぁに、フラベルの小娘は人間如きに倒されたというのに、貴様がまだ王国内に留まっていると噂で聞いてな」
 羊は馬鹿にするような口調でそう言った。
 ネル・ベルの主であったフラベルは先の大戦の折、人間達によって葬り去られている。
「私をからかうつもりであれば、帰るぞ」
 内心、この羊の歪虚に怒りを持ったが、表に出す事はしなかった。
 実力は、この羊の方が上だからだ。機会があれば、必ず、この羊に『仕返し』してやろうと心に誓う。
「『聖火の氷』……貴様とて、知らぬわけじゃあるまい?」
 それは、高純度のマテリアルを含む氷状の物であるという。
 もっとも、伝説とされており、その正体は謎のままだ。
「それが、どうした?」
「この村のどこかに、それが隠されていると知ってな」
 余興の為に捕らえた村人のうち、数人が拷問の末、そんな事を漏らした。
 肝心の場所まではわからず、雑魔を駆使して探したが、見つからなかった。
 また、捕まえていた人間共は拷問に耐えきれず、全員死んでしまったと報告を受けている。
「宝探しでもしろというのか?」
「なぁに、探すのは俺が続けるさ。貴様は、この村に向かってくる人間共を食い止めてればいい」
 村の隅々を虱潰しで探した結果、残す所、数か所となった。
 ところが、最近になって人間共の姿が見えるようになってのだ。
 近々、襲来があると、大きい羊の歪虚は感じていた。
「幸い、この村に至る道は一本道だ。この村の兵力の大半を引き連れて足止めしておけ」
「わかった。だが、人間共を追い返したら、戻ってくるからな」
「グジジ。自由にしろ。まぁ、その前に、『聖火の氷』は俺が取り込んでいるがな」
 大きい羊の歪虚は不気味な笑い声をあげるのであった。

●暗雲
 ソルラが率いる小隊は、フレッサ領近くまで来ていた。
 そんな折、ある村の出身だと名乗る行商人がやってきたのだ。
「『聖火の氷』? 聞いた事はないけど……」
「村の宝物として、保管されている物なのです。私も詳しくは分からないのです」
 小隊長のソルラの疑問に行商人が答えた。
 聞けば、高純度のマテリアルを含むとされ、村では収穫祭などの祝い事の際に、祀られていたという。
「歪虚の襲撃で村が壊滅したと聞き、近くを通りがかったのですが……」
 ゾンビと化した無数の村人と傲慢の歪虚に占拠されていた。
 そこへ、たまたま、村から逃げ出してきた村人を一人救出したのだ。
「傲慢の歪虚は、村の宝の事を探しまわっていたようです」
 救出された村人は拷問を受けていたようで、その傷が元で、救出後に息絶えてしまった。
「他に生き残っている村人がいる可能性は?」
 ソルラの質問に、行商人は首を横に振った。
「私が助けた村人が最後の一人だそうです。仲間達の死体と共に外に運びだされた後、逃げて来たとの事で」
「そうですか……残念です……」
「歪虚に村の宝が取られる前に、村の宝を見つけ出すか、歪虚を倒すかしないと、奪われてしまいます」
 行商人の言う通りだ。
 歪虚が村から離れない理由は、村の宝を探していると推測できた。
「……わかりました。解決に向けて、取り組んでいきたいと思います。情報、ありがとうございました」
「いえ、生まれ育った故郷の事ですので。どうか、仇をよろしくお願いします」

●引きつけしはアルテミスの弓
「この作戦は二方面で行います」
 ソルラが集まったハンター達に説明をする。
「歪虚に占拠されている村には、ゾンビや雑魔、歪虚等60体程確認されています。情報によると、率いているボスらしき歪虚がいるとの事です」
 それは、人の顔を持つ、大きい羊の歪虚だという。
 村に広場の中央に天幕を張り、いつもそこに居るらしい。
「大きく隊を二つに分けます。敵を引き付ける隊と、ボスを奇襲する隊です」
 村はカルデラ地形の中にあり、村に至る道は森の中を走る一本道のみ。途中、山を越える峠がある。
「皆さんは、敵を引き付ける隊に参加する事になります」
 戦力は圧倒的に不利だ。
 兵士達が20人ばかし。残りはハンター達だ。
「敵を引き付け、時間を稼いだ隙に、別部隊が間道から村に侵入する手筈になっています」
 距離が離れている上に、森や山に囲まれているので、お互いに連絡方法がないときている。
「別部隊の行動を支援するのに、可能な限り敵を引き付ける必要があります。かといって、こちらの戦力も多くありません」
 工夫しながら遅滞行動を取る必要があるという事だろう。
 最悪、圧倒的な数の敵に囲まれ、全滅する可能性もある。
 かといって、敵の引き付けが甘ければ、村に侵入するハンター達の危険度が増す。
「厳しい戦いとはわかっています。しかし、皆さんに私と別部隊のハンター達の命を預けます!」

リプレイ本文

 ソルラ・クート(kz0096)が作戦室で語った言葉

 ――時として、私達の祈りや願いは、
     マテリアルの繋がりを生み出すと言われています――


●見送り、そして、出撃
 クート家に雇われて後詰の任についた星輝が、全員の無事を祈願し、舞う。
 十分な兵力で攻めるべき所だが、歪虚が、村の秘宝を狙っているかもしれないという情報を得、ソルラは手持ちの兵力に加え、ハンター達に協力を要請。
 敵を引き付ける部隊と間道から村に侵入する部隊に分かれるのであった。
「何としても時間を稼ぐから、くれぐれも気をつけてきてくれよ」
 ヴァイス(ka0364)が、村に侵入する部隊の面々に向けて笑顔で告げる。
 依頼主であるソルラもそうだが、何人か知り合いもいる。その内の1人――青髪の少女からお守り代わりにとネックレスを渡される。
 Uisca Amhran(ka0754)は、同じ聖導士である戦友と武運長久を祈り合う。
「必ずお互い勝って、再会いたしましょう」
 出撃すれば、相互に連絡を取り合う事はない。
 互いの勝利を願い、Uiscaは馬に乗った。
 そして、別の馬に騎乗していた最愛の人である、瀬織 怜皇(ka0684)と並ぶ。
「出来る限り、時間を稼ぐ為に、敵を引き付けます、よ」
「うん、レオ」
 笑顔で答えた彼女を、必ず守ると、強く誓う怜皇。
 敵は、こちらの数倍の数だ。場合によっては乱戦もあり得る。
 聖導士の持つ力は、歪虚やゾンビに脅威である半面、狙われる可能性も高くなるかもしれない。
 白藤(ka3768)にも村に侵入するハンターの中に、知り合いがいた。
「怪我したら、椿姫にまた泣きそうな顔されてまうやん?」
「白藤さん、どうか無事でいてくださいね……」
 その様子は、見送られている方が心配されている様にも見えなくもないが……。
 どちらが危険と言えば、村に侵入する方である。
 だからこそ、敵を引き付けて、時間を稼ごうと思う白藤であった。
「陽動といっても、歪虚はすべて浄化すべき存在……全部『浄化』してしまってもかまわないのでしょう?」
 聖導士であるセリス・アルマーズ(ka1079)が、兜を被りながら、頼もしい事を言う。
 全身を覆う金属鎧に巨大な盾。青い瞳が輝いている。
「自分らの任務は別働隊の為の時間稼ぎだが、敵に気取られぬように、全力で当たらせてもらうこととしよう」
 セリスが発した言葉に応えたのは、アバルト・ジンツァー(ka0895)だった。
 先程まで、彼は兵士達の役割を説明していた。
 兵士達は20人。最前線で戦うハンターを支援する作戦だ。

 ソルラの父が独自に派遣してきた私兵とハンター達は緊急時以外、彼らはソルラの指揮下に入らない。
 それは、小隊長である娘の面目を守る為だろう。
 ハンターや兵士達はお互いの無事と勝利を交わした後、二手に分かれて出撃となった。
「何とかして敵を引き付けないと村へ向かったソルラ達が危険に晒される。俺達も死力を尽くすから、力を貸してくれ」
 ヴァイスが兵士達にそう言葉をかけ、村へと至る街道を歩き出すのであった。

●峠にて
「なぜ、ここにイケメンさんが!?」
 Uiscaが峠道の上に立つ歪虚を見て驚く。
「でも、指揮官がイケメンさんなら……」
「ノゾミの事を質問したいが、余裕はなさそうだな」
 布地で顔を隠し、ヴァイスがUiscaの懸念に言葉を重ねた。
 ネル・ベルと行動を共にしているという少女ノゾミ。今回、あの軍勢の中にはいそうにはないが……。
「敵が……来ます!」
 怜皇の言葉に、2人は気を引き締める。
 今は、悩んでいる場合ではない。別同隊の為にも、少しでも時間を稼ぐ事だ。
「歪虚、滅ぶべし、よ!」
「さって、大暴れ……さしてもらおか♪」
 セリスと白藤の2人が、それぞれ、武器を構える。
 峠道を降りてくる歪虚とゾンビの群れの勢いに呑まれる事なく、余裕の表情。
 対照的に兵士達は不安そうな顔をしていた。
「前で戦う仲間を支える事こそ、射手の本分。支えてやろう。存分に腕を振るえ!」
 アバルトが弓を構えた兵士達を鼓舞する。
 覚醒者と言えども、無敵ではない。数の強みを活かし、前衛を支えるのだと兵士達は、アバルトの言葉に感じた。
「よし! 弓構え!」
 そして、自身も弓を引き絞る。
「……ってぇ!」
 合図と共に矢の雨が駆け下りてくる敵に放たれ、戦端の幕が切って落とされた。

●早期撃破
 ハンター達は敵の一隊を早期に撃破する事に決めた。
「このゾンビ、村の住民かっ!」
 ゾンビの群れの中、なぎ払うヴァイスとゾンビを冷静に撃ち抜いていく怜皇。
「追撃は任せて下さい」
「助かる!」
 ヴァイスは武器を構え直すと、ゾンビの群れの背後にいる羊の歪虚に向かって突撃する。
「レオ!」
 ゾンビが、石を投げようとしたので、Uiscaが彼の注意を促す。顔に迫った石を、ギリギリで避け、お返しに銃弾を撃ち込む。
 全員の盾にように、ゾンビの前に立ちはだかっているセリスが敵の勢いを食い止めている。
「ここから先には行かせないよ!」
 ゾンビの攻撃は、彼女の堅い鎧を抜けないようだ。
「もう一度、セリスさんを援護します」
 Uiscaは戦闘開始直後に鎮魂歌のような魔法を敵の集団に向かって使った。
 そのフォローに入り、結果的に全員から突出して戦う事になったセリス。
 2人の聖導士はその戦い方が対象的であったが、それ故、役割も明確だった。
「敵の動きが鈍った所で、再度、斉射する! 構え!」
 アバルトがUiscaの魔法を見て、兵士達に射撃タイミングを指示する。
「数が多いなぁ……ったく、面倒なことやなぁ」
 白藤も援護に入っていた。マテリアルを込めた強力な射撃で、兵士達を狙ってくる歪虚に対抗する。
 ゾンビを盾に、羊型の歪虚は兵士達に攻撃してくるので、既に数名が負傷していた。
 戦場における数の力はリアルブルーにいた時に嫌という程、知っている。
「まだ不利なら……今度はこちらです!」
 Uiscaの鎮魂歌の魔法は、羊型歪虚へは十分な効果を発揮している様だが、元々動きが鈍いゾンビに戦況を覆す程の効果は発揮していない様だった。
 そこで、彼女は使用する魔法を切り替える。Uiscaから光輝く波動が周囲に発せられると、その衝撃で次々とゾンビが崩れていく。
 ゾンビの群れの大半が消滅し、セリスは歪虚数体と戦うヴァイスの援護へ向かう。
「ヴァイス君! 無理し過ぎだよ!」
 回復をかけつつ、自身が囮になる様に割って入った。
「助かる! って、さっきから、そればっかりだ!」
 多少のムリも仲間達の援護があってこそであり、それも分かっているからこそ、ヴァイスは苦笑は浮かべる。
 とにかく、目の前の歪虚共を倒せば、敵の第一波は全滅だ。
「……敵を貫けずとも足を止めさせるだけで十分だ。歪虚を仕留めるのは自分らハンターに任せておいてくれ」
 アバルトの言葉に兵士達は頷きながら弓での射撃を繰り返す。
 兵士達の放つ矢が歪虚に有効なダメージを与えていなくとも、足止めにはなるからだ。
「もう一押しや」
 数的な不利はなくなった以上、残りの歪虚は、白藤の言う通りであった。

●想いの力
「ほう。あれだけの数を、僅かな間に殲滅とは……」
 ハンター達の戦い振りを見ていたネル・ベルは感心していた。
 もっとも、この私に相応しいライバルだという意味でだ。
「どれ、試してみるか」
 ネル・ベルは二隊を残し、一隊を引き連れて坂を下りる。

「ふぅん、あれが……皆がいうとる奴か……えらい、かいらしい顔しとるやん」
 近付いてくるネル・ベルに白藤が、そんな軽口を叩く。
「合図があるまで、構えたままだ」
 アバルトが焦りの表情が見える兵士達を制する。
 いきなり攻めてくる様子には見えない……。
「港町の時の様には、いかないよ!」
「また、貴様か。しつこい女め」
 セリスがビシッと剣先をネル・ベルに向けて言った台詞に、彼は答える。
 港町の洞窟内で、しつこく追いかけてきたセリスの追撃から逃げた時の事だろう。
「バレンタインの時のノゾミちゃんのお菓子、おいしかったです?」
 Uiscaが微笑みながら、話かける。
「……そうか、あの時の菓子は貴様らが用意したのか、ならば、その礼はしなくてはな」
 一瞬、なんの事かと思ったネル・ベルだったが、すぐに合点がいったようだ。
 あの菓子のおかげで、だいぶと苦しんだのは秘密だが。
「……イスカには、触れさせません!」
「貴様も見覚えがあるぞ。あの林の中でな」
 拳銃から剣に持ち替え、Uiscaを庇うように進み出た怜皇。
 その様子をみて、ニヤっと不気味に笑うネル・ベル。
「そこの美しいエルフはイスルダ島へと連れていく」
「そんな事、俺が絶対にさせない!」
 ネル・ベルの挑発だと分かっているが、ついつい、強く返してしまう。
 顔を布で隠したままのヴァイスがザッと前に進み出た。
「布で隠しても無駄だ。貴様が誰か、この距離なら、気がつくぞ」
 いつの間にか、黒い剣を手にしたネル・ベルは進み出てきたヴァイスに言い放つ。
 ヴァイスは顔を隠していた布を外す。
「フラベル様の仇、覚悟するんだな」
「……お前『フラベル』より利口だな。ほら聞こえるだろ? 判断を誤り人に滅された愚かな奴の悲鳴が」
 フラベルに致命傷を叩きこんだリボルビングソーの刃を回転させると、悲鳴のような音が響いた。
 回転部の歪みなのか、それとも、本当に、フラベルの悲鳴なのか……。
「貴様ら……」
 ネル・ベルが言葉を区切る。一行に緊張が走った。
「私の主は、貴様ら人間に敗れた。だが、それは、愚かだった為ではない。貴様らの方が一枚上手だった事。私を挑発しようとしても無駄だぞ」
 ヴァイスの挑発は見抜かれていたようだ。
 挑発の言葉自体、ヴァイスの本音ではないので、気迫が足らなかったかもしれないが。
「さて……話も過ぎたようだな!」
 ネル・ベルが腕を掲げると火球を作り出した。
 同時に歪虚とゾンビも動きだす。ハンター達も一斉に応戦を開始した。

「イケメンさん、お返しです!」
 火球による攻撃の範囲内にいたUiscaは、全身を痛む中、光の波動を発する。
 必ず勝つとの想いからか、強烈な光の波動は瞬く間にゾンビをボロボロと崩した。
 ネル・ベルが単体となる所に、ヴァイスが一対一に持ち込み、他の敵をセリスが引き付ける。
「ヴァイス君。そちらは任せたよ!」
 セリスが剣を地面に突き刺しながら魔法を唱える。
 そこから発せられた光の波動は周囲の羊歪虚やゾンビにダメージを与えていく。
「ネル・ベルはヴァイスさんに任せ、皆で敵部隊を!」
 その様に宣言した怜皇の目の前に光り輝く三角形が現れ、それぞれの頂点から羊歪虚に向かって光が放たれる。
 更に矢の雨が降り注ぐ。
「敵に隙を作る。撃ちまくれ!」
 アバルトが自身でも矢を放ちつつ兵士達を指揮していた。
 先程の戦闘の影響があるにも関わらず、戦闘は優勢に動きつつあった。

「さーて、どんなもんやろか。うちは役に立てとるやろうかな……っと!」
 ネル・ベルに牽制の射撃を白藤が撃つ。
 回避するスペースが狭くなった所、ヴァイスの武器が唸りをあげて叩き込まれる。
 剣で辛うじて受け止めるネル・ベル。
「やるなっ!」
「これは、俺だけの力じゃない。俺達の想いの力、受け取れ!」
 武器を戻す反動でクルっと姿勢を回転させると、後ろ回しに蹴りを繰り出す。
 それが直撃し、数歩下がるネル・ベル。
「これなら、どうだ!」
 突如、ネル・ベルが剣を突きだして突進してきた。
 あまりの速さに一瞬、反応が遅れる。
(なん……だ……?)
 間に合わないと思った瞬間、見送りの際に預かったクリスタルのネックレスが輝いたと思った。
 刹那、ヴァイスはネル・ベルの剣先を紙一重で避け、喉の皮が薄く切られただけだった。
「外したか! だが、次は!」
「させへんよ!」
 白藤がネル・ベルの足元に銃撃をし、威嚇する。
「ならば、貴様から逝けぇ!」
 火球を作ると、それを白藤に向かって放った。
 目の前に迫る業火の球。直撃するはずだったそれは、逸れて白藤の後方で爆発する。
(……紅茶の香り?)
 衝撃の最中、そんな香りがした気がした。
 直撃だと危険だっただろう。気を引き締め、ネル・ベルに牽制の銃撃を再び放つ。

「戦況は、自分らが優勢だ。撃ち続ければ勝利はあるぞ!」
 アバルトが兵士達を鼓舞し、継続的に矢の雨を降らせていた。
 その援護を受け、羊型歪虚とゾンビは駆逐されかけてきた。
「こうなったら!」
 ネル・ベルが空に向けてなにか合図を出すと、二隊が怒涛の勢いで下ってくる。
 その状況を見て、後詰が加勢してきた。
 オウカが話しかける。
「久しぶり、ネル……なんとか。おじいさんと女の子、元気、か?」
「援軍か……」
 ネル・ベルは新たに現れたハンター達と私兵に脅威を感じたようだ。
「フラベルさんを倒した私達相手に、臆しましたか?」
「戦場に想いの力とやらがあるのであれば、私とて、負けるわけにはいかない!」
 Uiscaの言葉にネル・ベルが黒い剣を手放すと、左右の手それぞれに火球を作り出す。
「させませんよ」
 退避を呼びかけようとしたUiscaよりも早く、怜皇がネル・ベルへ電撃を伴う攻撃を繰り出した。
 不発した火球はその場で爆発を起こし、土煙りが辺りを覆う。
「逃がさないよ! 歪虚!」
 セリスが隙を突いて地煙の中、ネル・ベルに斬りかかる。
 だが、生き残っていた歪虚を盾にして防がれてしまった。

 キーンと音が響いてきた。
(戦闘機の急降下音!?)
 空を見上げた白藤は、急降下してくる大きい鳥型の雑魔を目にした。
 ネル・ベルが脚に掴まって、飛びあがっていく。
 それをアバルトと兵士達の矢が襲う……だが、わずかに間に合わなかった。
「今……のは?」
「イスカにも、聞こえた?」
 新手が迫っているというのに、Uiscaと怜皇は思わず見つめ合う。
 ネル・ベルに矢が当たったと思った瞬間、少女の歌の様な声が聞こえた気がしたのだ。

 村へと向かって飛んでいくネル・ベル。
「村に行かれたが、十分、時間は稼いだ。みんな、無事に撤退するぞ!」
 ヴァイスが迫りくる敵の集団を迎撃しつつ声をかける。
「私が殿をするよ!」
 重装備のセリスが宣言すると、大きな盾を構えた。
「引き際は心得てや、ここで戦力無くすつもりはないんやからな?」
 殿に声をかけて、白藤は歪虚の攻撃で傷つき、倒れている兵士に肩を貸す。
「生きて帰らんと、意味がないんやで!」
 彼女の言う通りだ。他にも負傷者には後詰のメイが回復をかけていく。
 時間を稼ぐという目的は大いに達成できた。だが、それだけでは意味がない。生きて帰る事が大切なのだ。


 その後、歪虚の追撃を耐えつつ、ハンター達は無事に帰還する事ができた。
 十分な時間を稼いだ。後は、別同隊の帰りを待つだけである。


 ――悪を撃つ矢は放たれた――

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MVP一覧

  • 聖なる焔預かりし者
    瀬織 怜皇ka0684
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhranka0754

重体一覧

参加者一覧


  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 聖なる焔預かりし者
    瀬織 怜皇(ka0684
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 緑龍の巫女
    Uisca=S=Amhran(ka0754
    エルフ|17才|女性|聖導士
  • 孤高の射撃手
    アバルト・ジンツァー(ka0895
    人間(蒼)|28才|男性|猟撃士
  • 歪虚滅ぶべし
    セリス・アルマーズ(ka1079
    人間(紅)|20才|女性|聖導士
  • 天鵞絨ノ空木
    白藤(ka3768
    人間(蒼)|28才|女性|猟撃士

サポート一覧

  • オウカ・レンヴォルト(ka0301)
  • 星輝 Amhran(ka0724)
  • ティアンシェ=ロゼアマネル(ka3394)

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 質問卓
ヴァイス・エリダヌス(ka0364
人間(クリムゾンウェスト)|31才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/04/29 19:14:53
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/04/27 18:10:30
アイコン 相談卓~アルテミスの弓となれ~
Uisca=S=Amhran(ka0754
エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2015/04/29 19:12:22