アルテミスの矢

マスター:赤山優牙

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/04/29 22:00
完成日
2015/05/04 19:24

みんなの思い出

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オープニング

●フレッサ領上空
 鳥とトカゲが合わさった様な巨大な飛行型雑魔の脚に掴まりながら、ネル・ベルは目的地に向かっていた。
 ふと、先の大戦時の事を思い出す。
(フラベル様……)
 まさか、人間如きに倒されるとは思ってもみなかった。
 ただの雑魔に過ぎなかった自分に名と力を与えたその存在の為に、自分が在ると忠誠を誓っていた。
(たとえ、フラベル様が居なくとも、私はフラベル様の為に戦います!)
 従者である人間の少女、ノゾミが連れて来た元ハンターのオキナから、いくつか新しい情報を得ていた。
 まず、この国を治めているのは、王女ではなく、円卓会議と有力な貴族によって統治されている事。
 今現在、実質的に王国を任されているのは、教会の大司教セドリック・マクファーソンであり、彼は貴族などを相手取り中央集権化を推し進めているという。
(その流れに対抗しようとする貴族派か……)
 ネル・ベルは考えを巡らす。
 このセドリック・マクファーソンを今の地位から引きずり降ろせれば、それは国を潰す事に等しいのではないかと。
 残るのは、小娘の王女と、まとまりに欠ける貴族達だ。
 少し突けば、人間同士で潰し合う可能性もある。
(私自身が直接、手を下す事はない。人間同士で滅ぼし合えばいい)
 ニヤリと不気味な笑みを浮かべた。
 となると、どこか騙せそうな貴族はいないだろうかと思う。
 その貴族を使って、派閥争いに裏から加わり、大司教を失脚させ、まだ小娘である王女を王位につかせる。
 やがて、統率力に欠け、自滅するであろう。
(見えてきました。フラベル様!)
 ネル・ベルは自身がなにを成すべきか、具体的にそのビジョンを見出した。
 ただ、それは傲慢らしく、王女の持つ能力を考慮していないものではあるのだが……。

●王国北西のとある村跡にて
「いよう、ネル・ベル。久しぶりだな」
 厳つい男性の顔を持つ、大きい羊が、立ち上がって、一人の歪虚に話しかけていた。
「ジヒッツ・ドラード。なぜ、私を呼んだ」
「なぁに、フラベルの小娘は人間如きに倒されたというのに、貴様がまだ王国内に留まっていると噂で聞いてな」
 羊は馬鹿にするような口調でそう言った。
 ネル・ベルの主であったフラベルは先の大戦の折、人間達によって葬り去られている。
「私をからかうつもりであれば、帰るぞ」
 内心、この羊の歪虚に怒りを持ったが、表に出す事はしなかった。
 実力は、この羊の方が上だからだ。機会があれば、必ず、この羊に『仕返し』してやろうと心に誓う。
「『聖火の氷』……貴様とて、知らぬわけじゃあるまい?」
 それは、高純度のマテリアルを含む氷状の物であるという。
 もっとも、伝説とされており、
その正体は謎のままだ。
「それが、どうした?」
「この村のどこかに、それが隠されていると知ってな」
 余興の為に捕らえた村人のうち、数人が拷問の末、そんな事を漏らした。
 肝心の場所まではわからず、雑魔を駆使して探したが、見つからなかった。
 また、捕まえていた人間共は拷問に耐えきれず、全員死んでしまったと報告を受けている。
「宝探しでもしろというのか?」
「なぁに、探すのは俺が続けるさ。貴様は、この村に向かってくる人間共を食い止めてればいい」
 村の隅々を虱潰しで探した結果、残す所、数か所となった。
 ところが、最近になって人間共の姿が見えるようになってのだ。
 近々、襲来があると、大きい羊の歪虚は感じていた。
「幸い、この村に至る道は一本道だ。この村の兵力の大半を引き連れて足止めしておけ」
「わかった。だが、人間共を追い返したら、戻ってくるからな」
「グジジ。自由にしろ。まぁ、その前に、『聖火の氷』は俺が取り込んでいるがな」
 大きい羊の歪虚は不気味な笑い声をあげるのであった。

●暗雲
 ソルラが率いる小隊は、フレッサ領近くまで来ていた。
 そんな折、ある村の出身だと名乗る行商人がやってきたのだ。
「『聖火の氷』? 聞いた事はないけど……」
「村の宝物として、保管されている物なのです。私も詳しくは分からないのです」
 小隊長のソルラの疑問に行商人が答えた。
 聞けば、高純度のマテリアルを含むとされ、村では収穫祭などの祝い事の際に、祀られていたという。
「歪虚の襲撃で村が壊滅したと聞き、近くを通りがかったのですが……」
 ゾンビと化した無数の村人と傲慢の歪虚に占拠されていた。
 そこへ、たまたま、村から逃げ出してきた村人を一人救出したのだ。
「傲慢の歪虚は、村の宝の事を探しまわっていたようです」
 救出された村人は拷問を受けていたようで、その傷が元で、救出後に息絶えてしまった。
「他に生き残っている村人がいる可能性は?」
 ソルラの質問に、行商人は首を横に振った。
「私が助けた村人が最後の一人だそうです。仲間達の死体と共に外に運びだされた後、逃げて来たとの事で」
「そうですか……残念です……」
「歪虚に村の宝が取られる前に、村の宝を見つけ出すか、歪虚を倒すかしないと、奪われてしまいます」
 行商人の言う通りだ。
 歪虚が村から離れない理由は、村の宝を探していると推測できた。
「……わかりました。解決に向けて、取り組んでいきたいと思います。情報、ありがとうございました」
「いえ、生まれ育った故郷の事ですので。どうか、仇をよろしくお願いします」

●放たれしはアルテミスの矢
「この作戦は二方面で行います」
 ソルラが集まったハンター達に説明をする。
「歪虚に占拠されている村には、ゾンビや雑魔、歪虚等60体程確認されています。情報によると、率いているボスらしき歪虚がいるとの事です」
 それは、人の顔を持つ、大きい羊の歪虚だという。
 村に広場の中央に天幕を張り、いつもそこに居るらしい。
「隊を二つに分けます。敵を引き付ける隊と、ボスを奇襲する隊です」
 村はカルデラ地形の中にあり、村に至る道は森の中を走る一本道のみ。途中、山を越える峠がある。
「皆さんは、間道を抜けて、村を占拠している歪虚のボスを奇襲し、討伐する隊となります」
 奇襲を行う隊は、ハンター達とソルラだけだ。
 村に侵入する為の間道を通り、別部隊が敵を引き付けている間に村に侵入するという。
 おまけに、距離が離れている上に、森や山に囲まれているので、別の隊とは連絡方法がないときている。
「もし、敵のボスが居なければ、村の宝を見つけ出し、持ち帰ってくる事となります」
 どちらにせよ、時間との勝負は避けられないようだ。
「また、間道を通るには、いくつか、険しい道のりを突破しなければなりません」
 ボードに張り出された地図は大雑把なものだった。
 底なしの沼。
 流れが速く足場が悪い川。
 切り立った崖道。
 ペットは連れていけないだろうし、装備の重量も考慮する必要があるだろう。
「私も皆さんと共に行きます。必ず、目的を果たし、帰ってきましょう!」
 強い決意を込めたソルラの宣言だった。

リプレイ本文

 ソルラ・クート(kz0096)が作戦室で語った言葉

 ――時として、私達の祈りや願いは、
     マテリアルの繋がりを生み出すと言われています――


●間道を抜けて
 ハンター達はソルラと共に村への間道を進んでいた。
「歪虚を討伐しに行くとはいえ、険しい間道だな」
 ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)が言った通り、間道は実に厳しい道のりとなっていた。
 底なしの沼では、足を取られる者が続出した。ディアドラは木の板を利用して事無きだったが。
 先頭を行く、メトロノーム・ソングライト(ka1267)が警戒して進んでいなければ、危うい場面もあった位だ。
「村自体は既に手遅れなのが心に痛く……せめて村の宝だけでも守り心安らいで眠れるよう頑張りたいです」
 出発時にそんな事を彼女は話していた。
 ふと、首元に手をやるが、そこにクリスタルのネックレスはない。作戦開始直前、囮となっている隊へと参加したハンターにお守り代わりにと渡したのであった。
(面倒臭い道だが、だがその先に強敵が待ってるんだ。楽しませて貰おうじゃねーか)
 そんな風に心の中で思いながら、イブリス・アリア(ka3359)は、これから行く事になる崖道を眺めていた。
 今回、間道を抜けるにあたって、全員が装備の重量に気を配った。
 必死の思いで村に到着した時点で疲れきっていては意味がないし、重装備だと障害を越えるのに邪魔だからだ。
(大丈夫かしら……)
 椿姫・T・ノーチェ(ka1225)は軽くストレッチをしながら、囮隊に参加している知り合いの事を心配していた。
 沼では足を置く時間を短くし、川では流れに抵抗して慎重に行き、先導者の動きを観察し乗り越えてきた。
「戦闘よりも間道で足を引っ張ってしまわないかが不安でしたが、なんとか、ここまで来れましたね」
 今まで通った道を振り返り、米本 剛(ka0320)が苦笑を浮かべる。
 苦手……というわけではないのだが、得意不得意あるのは仕方のない事だ。
 奇襲の為に危険な誘き出しを行ってくれている方々に報いねばと感じる。
「そういえば、ソルラさんと、同じ戦線に立つのは、何気に始めてよね~」
「確かに、そう言われると、そうですね」
 十色 エニア(ka0370)とソルラはそんな会話をしていた。
 依頼では一緒にいた事もあったが、実際に並んで戦うという事は、実はこれが初めてだ。
 ショットアンカーを持ってきたのだが、思ったより、役に立っている。
 それは、ソルラの持つ仕込杖と同様、間道を抜ける為の道具として有効であった。
「仲間が時間を稼いでくれているはずだ。そのためにも急ごう」
 各自、川を渡った後の道具や装備のチェックを完了したのを見、ディアドラが言った。
 間道最後の関門の崖道をいよいよ通るのだ。

 切立つ崖に申し訳ない程度の幅の道がある。
 崖から下、転落すれば、命はないとハッキリ分かる高さだ。
 動きの邪魔にならない様に、余った縄を腰に巻き付け、メトロノームは慎重に、一歩一歩踏み出していた。
「飛べたら、楽なのにな~」
 エニアがそう言いながら、空を飛ぶ鳥を見る。
 帝国のグリフォン部隊なら、苦もなく村に侵入している頃だろうか。
「そう……ですね」
 何度か力をかけて崩れないことを確認しつつ椿姫がエニアに追随した。
「ロープは大丈夫か?」
 イブリスの言葉に、全員が身体に結んでいる縄を確認する。
 彼の提案で、全員がロープで繋がっているからだ。これなら、1人が足を滑らせる事があっても、フォローができるはずだ。
「時折、強い風が吹いていますね。気をつけましょう」
 一番後ろの剛も注意を呼び掛ける。
 確かに、時折、突風の様な風が吹く時がある。
 油断していると、バランスを崩しかねない。
「村にたどり着く前に疲弊しないように気を付けねばなるまい」
 精神も擦り減らす道なので、無駄に疲労してしまわない様にとディアドラがそんな事を言った。
 その時、狙ったようなタイミングで強い風が一行を襲った。
 ちょうど足を踏み出そうとしていたソルラがバランスを崩して、前を歩くエニアに抱きつくように捕まる。
「ご、ごめんなさい!」
「びっくりしたけど、大丈夫だよ」
 滑落しようものであれば、エニアは魔法で壁に足場を作ろうと思っていたので、それほど慌てていなかった。
「エニアさんが、女性の方で良かったです。思いっきり抱きついたので♪」
 軽い冗談のつもりだったが、なぜか、一行は静まる。
 わざとらしく咳をつく、剛。微妙な空気の流れを変えようという彼の優しさだった。

●死に至る道
「……想定以上、時間を費やしてしまったかもしれません」
 ソルラが突然、そんな事を言い出した。
 もっとも、時間を使ったのか使っていないのかは、測りようがないのだが。
「あちらは完璧に依頼をこなしている筈です。我々は我々の為すべき事を為しましょう」
「どちらにせよ、時間が勿体ない。さっさと行くぞ」
 剛とイブリスの言葉に一行は深く頷いた。
 建物の影から見える歪虚は、行商人が言った通り、厳つい顔がついた羊の歪虚だった。
「相手は油断しているだろうし、初手で奇襲だ」
 ディアドラが武器を構えた。
 見れば、歪虚には護衛すらいない。なにか疲れた様子でボーと空を見上げながら呟いている様子は、羊がマッタリとしている様にも見えた。
 息を殺してギリギリまで近付いた一行は、数人の前衛が飛び出した。
「なんだ! て……」
 歪虚の言葉は最後まで聞き取れなかった。
 エニアが奇襲の火球の魔法を使ったからだ。轟音と土煙の中、追撃する様に、メトロノームの水球の魔法が襲いかかる。
「いきなり、いてぇじゃねぇか!」
 煙を破って飛び出た歪虚の足を待ってましたとばかりに、椿姫がワイヤーウィップで絡め取る。
 無様に転がった所をディアドラ、剛、ソルラが一斉にたたみ掛ける。
 突然の襲撃に深手を負いながらも、太い腕を振り回し歪虚は前衛を牽制した。
「奇襲失礼、黒大公傘下の御仁と御見受けしますが……如何ですかな?」
「うるせぇ! てめらに答える義理はねぇ!」
 逆上しているようで、剛の質問には答えず、立ちあがった所で、背後からイブリスが一太刀浴びせる。
「羊が一匹か。群れからはぐれたのかい?」
「てめぇら、どっから湧いてでてきやがったぁ!」
 振り返りもせずに腕を背後のイブリスに向けて振り払ったが、彼は既に距離を取っていた。
 ジリジリと囲むハンター達。
「……ッハ! だが、この俺様が、貴様らに敗れるわけがない!」
 突然、余裕の表情で大げさな手振りをする歪虚。
 さらに、演説めいた言葉を続ける。
「なぜなら、てめぇらのように、群れなきゃなにもできない弱者ではないからな」
「さっきから、喋ってばっかり」
 エニアのツッコミに、ニヤリと歪虚は笑う。
「群れなきゃなにもできない弱者共は、強者に従うものなのだよ!」
 突然、歪虚の瞳が赤く光ったと思った瞬間だった。
「な、なんですか」
 椿姫は自身の身体に起こった変化に戸惑った。
「か、身体が言う事を効かない」
 エニアも同様だった。
「こ、これは、一体」
「もしかして、歪虚の能力か!?」
 剛も、ディアドラも同様だった。
「お前、剣を向ける相手が違うぞ」
 歪虚の背後にいたイブリスが、剣を向けてくるソルラに冷静に言った。
「わかっているのですが、身体が勝手に動くのです」
 わかりやすい程、表情に出ている。
 自身の剣を仲間に向けているという恐ろしさにソルラは震えていた。
「皆さん、歪虚の術にかかっているのです」
 離れていたメトロノームは無事のようだ。

「グジジジジ! 奇襲しに来た割りには、俺ら、アイテルカイトの力を調べていないようだな」
 もう勝ったといわんばかりに歪虚の台詞。
 その言葉に、剛とエニアは黒大公の追撃戦の話を思い出した。
「追撃戦の折り、街の住民がクラベルに操られたと聞いた気が」
「なら、この歪虚も。それと同じ術を?」
 2人はお互いに武器を構えると近付く。
 なにが起ころうとしているのか予想がつくだけに、嫌になる。
 ガン!っと棍と杖がぶつかりあった。たまたま位置とタイミングが合っただけだ。
「……恨みっこなしだよ?」
「それでお願いします」
 神妙な2人は、なんとか抜けられる術がないか考えながら、打撃の痛みに耐える事を決意するのであった。

 歪虚の強烈な攻撃を受けて、ディアドラが吹き飛ぶ。
 堅牢な金属鎧を着ていなければ、即死していたかもしれない。
「身体が勝手に!」
 ボロボロのはずなのに、起き上がって、歪虚へと向かう。
 歪虚はそれを待って、殴ればいいだけだ。
(けど、ボクがその役目で良かったよ)
 これが、他の誰かであれば、持ちこたえる事ができなかっただろう。
 耐えればいい。このピンチを乗り越えられるチャンスが必ずあると信じ。

 メトロノームが逃げる。
 歪虚からではない。仲間である椿姫からだ。
「メトロノームさん、私を撃って下さい」
 沈痛な表情で言う椿姫。だが、そんな事できるはずがない。
 なにか、解決する方法がと考えていた時だった。
「メトロノームさん!」
 椿姫の声にハッとした時、眼前に歪虚が投げた石が迫っていた。
 思わず瞳を閉じる。
 いつも信頼している仲間の頼もしい背中が浮かんだ……気がした。
 石は当たる事はなく、外れていっていた。我に返った彼女は再び逃げ始めた。

「さ、避けてください!」
 ソルラの悲痛な叫びを簡単に避け、イブリスはチャンスを伺っていた。
 きっと、突破口があるはずだ。
(歪虚が……動いていない?)
 ソルラの攻撃を数回避けてからイブリスは、その事実に気がついた。
「いい加減にしやがれ!」
 歪虚に斬りかかったイブリスに歪虚は振り返った。不気味な笑顔のまま。
「待っていたぜ、貴様がもう一度背後から斬りかかるのをな!」
「っく!」
 待ち伏せされていた一撃は、確実に彼の頭を砕く――。

●想いの力
 眩い光が一瞬、イブリスの身体を包んだと感じた次の瞬間。
 歪虚の腕は虚しく宙を通っただけだった。
「なんだ! 今のは!」
「さぁな……神の導きとやらじゃねぇのか」
 気に入っている友人の顔が浮かび、イブリスは、そんな言葉で返し、強烈な一撃を叩きこんだ。
 なにか、戒めのようなものが取れたように、ハンター達は己を取り戻した。
「ボクの名は大王ディアドラ! この世界に光をもたらす者だ!」
 既にボロボロではあるが、ディアドラは身体の自由を取り戻すと、落ちているレイピアを拾う。
「ふん。だが、てめぇら、そのボロボロの身体で、どこまでやるつもりだ?」
「傷は回復すればいいのです」
 剛は広範囲の回復魔法を使う。
「なら、回復される前に、てめぇから、ぶっ殺してやる!」
 手近な岩を掴むと、それを剛に向かって投げつけた。
 だが、ギリギリの所で狙いが外れたのか、掠っただけだった。
 またもや、一瞬、ハンターの身体が光ったように……見えた。
「だから、なんだ! それは!」
「これは……想いの力だよ」
 魔法で、火球を作りつつ、エニアはそんな気がした。
 そうでなければ、ふと、ロッソで出会った仲間の事を思い出したりはしない。
「想いの力? そんなもので、俺を倒せるわけがない!」
「なら、試してみれば?」
 エニアが放った火球が歪虚に叩きつけられ、爆発する。
 その威力は最初に放った時よりも、強力な様子であった。
「よかった。皆さん」
 メトロノームが安心した表情を浮かべる。
 そして、水球の魔法を歪虚へ叩きつけていく。彼女の魔法は確実に歪虚にダメージを与えていく。
「羊の歪虚さんには理解できないのです」
「五月蠅いわ!」
 椿姫は、歪虚を逆上させ、隙が出来た所で、ワイヤーウィップを放つ。歪虚の動きを止めた。
「こんなもの……!」
 だが、外そうとする度に、ワイヤーが淡く輝き、思うように解けない。
 慌てる歪虚は必死になった。
「なぜだ! なぜ!」
 ぐるっと視線を動かし、ハンター達を睨みつけていく。
「……そうか! 貴様ら、『聖火の氷』を手に入れたのだな! おのれ!」
 なにか盛大に勘違いしている様だ。
 いや、理解も認めたくもないのだろうか。この現状に。
「歪虚がお宝なんて、正に、豚に真珠じゃない。秘宝はわたしのものね」
 エニアがニヤっと笑った。
 偽りであるのだが、さっと機転が浮かび、歪虚を動揺させる為に言った。
「この小娘! 俺に渡せ!」
「残念でした……っと!」
 歪虚が投げつけた石を華麗に避けるエニア。
「覚悟はいいかな」
 ディアドラがレイピアを突きだして突撃する。
 その一撃は、歪虚の足を貫いた。
「おのれ、弱者の分際で! 貴様らは強者に従うのだ」
「また例のが来るぞ。しっかり避けろよ」
 再び術を使おうとした歪虚の動きを見て、イブリスが警戒の声をあげる。
 全員が意識を集中させ、歪虚の術を払いのけた。
「一斉にたたみ掛けて下さい!」
 椿姫が歪虚の戒めをキツくする。
「分かりました!」
 剛が力を込めた一撃に始まり、タコ殴り状態で歪虚にダメージを重ねる。
 だが、戒めがあるとはいえ、歪虚も無抵抗というわけではなかたった。
 腕を振ったり、口から酸を吐いたりとハンターに逆襲する。
「あれは……」
 ソルラが空を見上げた。
「ネル・ベルですね」
 メトロノームの言葉に一行は歪虚への攻撃の手を緩まずに、空を確認する。
 確かに、ネル・ベルが鳥型雑魔の脚に捕まって飛んでいる。しかも、村に向かってだ。
「……作戦はここまでです」
 ソルラの宣言。
 まだ歪虚は倒れていない。しかし、このままだと、ネル・ベルに背後を突かれる事になる。
 消耗しているこの状況で新手と戦うのは危険と判断した。
「一度、様子を見るのもいいかもしれません」
 椿姫の提案に一同は頷くと、戦場を離脱していった。

●音鐘の響きは誰の為
 ボロボロで身動きすらできなくなった歪虚にネル・ベルは近付いた。
「おぉ。ネル・ベル! お、俺を島へ連れていけ!」
「……どういう事だ」
「湧いて出て来た人間共に秘宝が取られた。取り返そうとして、油断した」
 手を差しだそうとしたネル・ベルの動きが止まる。
「……そうか。残念……っだ!」
 突然、黒い剣で歪虚の身体を貫く。
 油断していたのか歪虚は避ける事もできなかった。
「目的すら果たせず、人間共に敗れた貴様をベリアル様は、お赦しにはならない」
「ま、待て、ネル・ベル……」
 後ずさる歪虚。
「ならば、今、この場で貴様を断罪する。なぁに、安心しろ。貴様は名誉の戦死を遂げたと伝えておくし、貴様の力は私が頂く」
「た、たのむ、た、たすけ……」
 歪虚が見た最後の光景。
 それは、自分に黒い剣が振り下ろされるシーンであった。


 翼を生やして飛んでいくネル・ベルの姿を確認し、ハンター達が様子を見に村に戻って来た。
 そこには、首が無く、ボロボロと崩れている歪虚の身体があるだけだったのであった。


 おしまい。

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MVP一覧

  • 【ⅩⅧ】また"あした"へ
    十色・T・ エニアka0370

重体一覧

参加者一覧

  • 大王の鉄槌
    ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271
    人間(紅)|12才|女性|闘狩人
  • 王国騎士団“黒の騎士”
    米本 剛(ka0320
    人間(蒼)|30才|男性|聖導士
  • 【ⅩⅧ】また"あした"へ
    十色・T・ エニア(ka0370
    人間(蒼)|15才|男性|魔術師

  • 椿姫・T・ノーチェ(ka1225
    人間(蒼)|30才|女性|疾影士
  • アルテミスの調べ
    メトロノーム・ソングライト(ka1267
    エルフ|14才|女性|魔術師
  • いつか、が来るなら
    イブリス・アリア(ka3359
    人間(紅)|21才|男性|疾影士

サポート一覧

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依頼相談掲示板
アイコン 質問卓です
メトロノーム・ソングライト(ka1267
エルフ|14才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2015/04/25 23:22:30
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/04/24 20:47:19
アイコン 相談卓
米本 剛(ka0320
人間(リアルブルー)|30才|男性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2015/04/29 19:51:22