ゲスト
(ka0000)
つるつる倒して髪供養
マスター:御影堂

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/01 22:00
- 完成日
- 2015/05/09 21:29
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
始まりは、毛玉を模した雑魔の討伐だった。
王国内のとある街、郊外の街道沿いで出現した雑魔だった。
自警団からハンターへと依頼が入り、雑魔はハンターによって撃退された。
ここまでが、先月の出来事である。
カツラをかぶっていた自警団長が、ハンターに同行したと聞いて自警団たちはある種の心配をしていた。
団長の頭に必要以上に触れるのではないか、という心配だ。
「結局、あのときは団長も傷ついた素振りすら見せなかったんだ」
そう語るのは、自警団員Aだ。
「いつのことだったか……一週間は経っただろうか」
思い出すように天を仰ぐ。
隣では自警団員Hが、同意するように頷いた。
「間違いないさ。俺のワイフが、おかんむりだったからな」
「一体何したんだよ」
「いつも買ってたハムを、買い忘れたのさ。ハムみたいな腹を揺さぶって、怒ってたぜ」
「毎日だろ、当てにならんな……っと団長の話だったな」
話題を戻すべく、額に手を当てて思い出す。
「まぁ、いつからだったかはいいんだ。重要なのはそこじゃない」
「だな。何があったのか、それが肝要だ」
あの日、いつものように練兵場へ現れた団長を見てどよめきが走った。
あるべき場所に、あるべきものがなかったのだ。
それはデコから頭頂部、そこから少し後頭部へかかるところまでの髪の毛である。
うちの団長について語ってなかったな。
アルベルト・ハゲツェナイ、4×歳。
ぶっちゃけ若ハゲで、副団長の頃からカツラをかぶっていた。
正直な所、誰もがわかるぐらいハッキリとしたカツラだったんだ。
一生、そのままだと思うだろ?
「カ……団長、おはようございます」
俺たち、団員は空気を、読んだ。
だが、そこからが地獄の一丁目だったんだ。
あくる日も、あくる日も、カツラを団長はしていなかった。
忘れたわけじゃない、すっぱりとやめたんだとわかった……のだが。
「聞けるわけがない」
「言えるわけがない」
あと、いっそスキンヘッドにしてくれた方が見栄えがいいのだ。
「というわけで、雑魔退治の後始末みたいなものだし」
「団長にカツラをやめた理由と、スキンヘッドにした方がいいと伝えてくれ」
●
団長アルベルト・ハゲツェナイは語る。
「私はこの間の毛玉の雑魔が倒されるのを見て思ったのだ」
一拍の間を置いて、アルベルトはいう。
「毛はいつか、なくなるものだと」
その言葉には真に迫るものが合った。
そして、カツラを机の上に置く。
長年の相棒を慈しむように、アルベルトは見つめていた。
「街道の分かれ道を右に行ったところに、山があってな」
その山は、険しい岩肌を見せていたのだが、ある時期を境に植物が生い茂り始めたらしい。
生命の力強さと髪の毛に悩む者達に勇気を与えた山に感謝すべく、洞穴に祠が作られたというのだ。
カツラをやめたものは祠に捧げるように、その前でカツラを焚き上げると幸運が付くらしい。
かくいう、団長もそうしたいのだという。
「だが、祠への山道につるっつるのスライムが出るらしいのだ」
流石の団長も、スライム相手には分が悪い。
ここは素直に依頼したほうがよいと思っていたところだった。
「頼む。私の願いを聞いてくれはしないだろうか?」
アルベルトの目は、真剣だった。
始まりは、毛玉を模した雑魔の討伐だった。
王国内のとある街、郊外の街道沿いで出現した雑魔だった。
自警団からハンターへと依頼が入り、雑魔はハンターによって撃退された。
ここまでが、先月の出来事である。
カツラをかぶっていた自警団長が、ハンターに同行したと聞いて自警団たちはある種の心配をしていた。
団長の頭に必要以上に触れるのではないか、という心配だ。
「結局、あのときは団長も傷ついた素振りすら見せなかったんだ」
そう語るのは、自警団員Aだ。
「いつのことだったか……一週間は経っただろうか」
思い出すように天を仰ぐ。
隣では自警団員Hが、同意するように頷いた。
「間違いないさ。俺のワイフが、おかんむりだったからな」
「一体何したんだよ」
「いつも買ってたハムを、買い忘れたのさ。ハムみたいな腹を揺さぶって、怒ってたぜ」
「毎日だろ、当てにならんな……っと団長の話だったな」
話題を戻すべく、額に手を当てて思い出す。
「まぁ、いつからだったかはいいんだ。重要なのはそこじゃない」
「だな。何があったのか、それが肝要だ」
あの日、いつものように練兵場へ現れた団長を見てどよめきが走った。
あるべき場所に、あるべきものがなかったのだ。
それはデコから頭頂部、そこから少し後頭部へかかるところまでの髪の毛である。
うちの団長について語ってなかったな。
アルベルト・ハゲツェナイ、4×歳。
ぶっちゃけ若ハゲで、副団長の頃からカツラをかぶっていた。
正直な所、誰もがわかるぐらいハッキリとしたカツラだったんだ。
一生、そのままだと思うだろ?
「カ……団長、おはようございます」
俺たち、団員は空気を、読んだ。
だが、そこからが地獄の一丁目だったんだ。
あくる日も、あくる日も、カツラを団長はしていなかった。
忘れたわけじゃない、すっぱりとやめたんだとわかった……のだが。
「聞けるわけがない」
「言えるわけがない」
あと、いっそスキンヘッドにしてくれた方が見栄えがいいのだ。
「というわけで、雑魔退治の後始末みたいなものだし」
「団長にカツラをやめた理由と、スキンヘッドにした方がいいと伝えてくれ」
●
団長アルベルト・ハゲツェナイは語る。
「私はこの間の毛玉の雑魔が倒されるのを見て思ったのだ」
一拍の間を置いて、アルベルトはいう。
「毛はいつか、なくなるものだと」
その言葉には真に迫るものが合った。
そして、カツラを机の上に置く。
長年の相棒を慈しむように、アルベルトは見つめていた。
「街道の分かれ道を右に行ったところに、山があってな」
その山は、険しい岩肌を見せていたのだが、ある時期を境に植物が生い茂り始めたらしい。
生命の力強さと髪の毛に悩む者達に勇気を与えた山に感謝すべく、洞穴に祠が作られたというのだ。
カツラをやめたものは祠に捧げるように、その前でカツラを焚き上げると幸運が付くらしい。
かくいう、団長もそうしたいのだという。
「だが、祠への山道につるっつるのスライムが出るらしいのだ」
流石の団長も、スライム相手には分が悪い。
ここは素直に依頼したほうがよいと思っていたところだった。
「頼む。私の願いを聞いてくれはしないだろうか?」
アルベルトの目は、真剣だった。
リプレイ本文
●
先人たちが歩き潰した獣道を、覆い隠すように雑草が生い茂る。
生命力の高さを示すように、硬い岩の間からも草木が見える。
「長く連れ添った相方との今生の別れ。痛み入ります」
健気な雑草を踏み潰し、進む一団がいた。
一団の中腹で、営業スマイルを浮かべながらフォークス(ka0570)は続ける。
「ですが、団長殿も仰った通り、かみはいつかなくなるもの」
およよと悲しげな表情を浮かべ、フォークスは同行者の団長を見上げる。
「髪への未練を残していては、先逝く相棒も浮かばれないことでしょう」
「見送ることで、未練を断ち切るのだ」
「なるほど、さような考えもあるのですね」
営業スマイルを崩さず、フォークスは応対する。
内心バカバカしく思っている彼女だが、そのことは口が裂けても出すわけにいかない。
「団長にお伺いしたいことがあるわ」
横合いからティラ・ンダイハ(ka2699)が割り込む。
何かな、という団長にティラは明るく問いかける。
「今回の戦い、団長が指揮を取るなら、どうすべきかしら?」
相手は三体。
左右に展開するツルピカを残していくか。それとも、全て綺麗さっぱり処理するか。
無論、狩るべきだろう。挟まれては元も子もない。
「そう、潔く全てを刈り取るわ! あぁ、なんて清々しい!」
戦略に見せかけて、それとなく剃れと告げる作戦である。
かしましいティラたちの前を巨斧を手に、鹿島 雲雀(ka3706)が行く。
「カツラの供養なぁ、妙な所で仏教っぽいところがあるんだな」
「カツラを供養……言葉にしてみると何だかその」
雲雀の言葉に反応し、ブランシュ・リゴー(ka4795)が複雑な表情を見せる。
「あれですね……」
うまく言語化できない感情が、ブランシュに渦巻いていた。
後ろを見ないように、何とか前に意識を向ける。
「ううん、やっぱり」
中途半端は微妙な気がしてくる。
「ある意味、大変デリケートな問題と言えなくもないからな」
アルフリート・クラッセン(ka4370)が団長から聞いた目印を探しながら、口にする。
帰りに迷わないよう、目印を足すことも忘れない。
「まぁ、理由はどうあれ。きちんと供養しようってのは良い心がけだと思うぜ?」
「団長殿の決意を大事しないとね」
雲雀の言葉に、アルフリートが頷く。
「そう、ですね」
ブランシュもぐっとウサギのぬいぐるみを強く抱える。
「団長さんは真剣なんですし、私もちゃんと誠意を持って任務に挑まなくてはいけませんね」
ブランシュが任務への思いを固める中、殿ではエルバッハ・リオン(ka2434)が胸をもねもねしていた。
1時間ほど前、
「初めまして、エルバッハ・リオンです。よろしければ、エルと呼んでください。よろしくお願いします」
恭しく挨拶していた彼女であるが、団長の頭は気になっていた。
表情にも出さぬよう気をつけつつも、視線が行く。
確かにこれでは、職務に集中できないのもわかる。エルも見苦しいと思ってしまうほどだ。
「さすがに色仕掛けでお願いをするというのはまずいでしょうし」
ぽつりと呟く彼女の少し前では、クラリッサ=W・ソルシエール(ka0659)が話をする機を伺っていた。
一ヶ月前、団長の心に何があったのか。
祠への道中で聞きたかったのである。男も女も髪の悩みは尽きぬもの。
盛者必衰、諸行無常。
ならば、自然のままで行こう。そう思ったのだと、団長は語るのだった。
●
「……清々しいまでのつるつるっぷりだな。カツラの供養にきたヤツを挑発しにきてんのか?」
祠の前に鎮座する、つるっつるのスライムを見やり雲雀が呟く。
視線を地面に落とせば、スライムが残したらしき体液が残っている。
「滑り止めを作っておくかの」
戦場を見渡し、クラリッサが土壁を作り上げる。
滑ってもそこで止まれるような、大きな壁である。
「さっさと倒しちまおうかい」
「滑らぬよう気をつないとね」
アルフリートがチェーンソードを片手に、走る。
日差しに照らされ滑りそうな箇所はわかる。
それでも滑るものは、滑る。
「っと……危ない」
「むっ」
雲雀も滑りかけ、巨大な斧を突き立てることで耐える。
そこへ、「だれかとめてー」と声を上げてティラが突っ込んできた。
マテリアルを込めた体でアクロバットな動きを見せる。
そこへスライムが強酸を飛ばすが、エルに付与してもらった風の力もあり華麗に避けていた。
が、足が滑りすぎる。
「人間ピンボールってか? 後で感想聞かせろよ」
巨斧を用いて、雲雀がティラを止める。
柄を掴んで、動きをゆるめたティラは足につけた下駄を脱ぐ。
「……」
微妙な表情で、それを見つめていた。
前線が接敵を狙う中、中後衛は滑り場にはいらない位置から狙いをつける。
ブランシュは集中力を高め、ワンドを構える。
「それじゃ……いきます」
光の矢を放ち、こちらへ向かおうとするスライムを穿つ。
同時にフォークスが引き金を引いた。
「そらよ。とっとと終わらせたいねぇ」
たばこをくわえ直し、フォークスはスライムへ睨みを利かせるのだった。
エルとクラリッサが、残る前衛雲雀とアルフリートにも風の護りを与える。
勢いをそのままに、アルフリートが乾いた地面へと踏み込む。
「こいつで、どうだい?」
避けようとしたスライムへ、フォークスが弾丸を浴びせかける。
弾丸で穿つためではない。わざと避けさせるためだ。
避けようとしたスライムは、さらに踏み込んだアルフリートの刃に削がれた。
「武器が滑るね」とアルフリートは感想を漏らす。
ダメージは入っているはずだが、手応えは薄い。
アルフリートが左舷、ティラと雲雀が中央を狙う。
踊るようにスライムへ攻撃を与えるティラは、足を止めるとうんと頷く。
「こっちの方が動きやすいわね……」
「中途半端な力でやると、つるっていきそうだな。全力で行くぜ!」
攻めきる構えから、武器を振り上げる。
振り下ろした巨斧が、スライムを叩き潰す。一気に身が削れ落ちる。
ブランシュが追撃の光の矢を飛ばす。
「狙いが……」
だが、これは避けられる。
回避したスライムは、そのままティラへと襲いかかる。
立体的な動きで避けようとするが、一歩及ばない。
風の守りを突き抜け、スライムの一撃が入る。
「なかなか、痛いわね!」
ティラは少し距離を取ると、あの下駄を手にする。
と、同時に右から回り込もうとしていたスライムとティラ達が対峙するスライムとの間。
そこで爆発が起きた。続けざまに二発。
二匹のスライムが接近したことで、ファイヤーボールの範囲に入ったのだ。
「頑丈じゃの」
クラリッサの呟きに、エルが頷く。
回りこんできていたスライムは、その身を分けた。
一方で、攻撃を受け続けていたスライムは虫の息で雲雀を狙う。
避けられた強酸は、地面を溶かし滑りをよくする。
そこを踏まないよう、ティラが距離を取る。
スライムの隙を狙って、
「えい」と例の下駄を投げつけた。
「そのまま消えるといいわ!」
容赦なく魔導拳銃の銃口を向け、引き金を引く。
弾丸を、例の下駄ごとスライムへと叩きこむ。粉砕される下駄。
そして、スライムは収縮し消えていった。
ちなみにこの下駄は、ダガーナイフを歯に用いてスケートのように滑るためのものだ。
ティラが日曜大工で作ったのだが、結果はお察しであった。
「次行くわよ」
雲雀とティラは続いて、分裂したスライムへと向かう。
●
「何やってるんだか」
ティラの行動に、フォークスがぼやく。
その銃口は、アルフリートの対峙するスライムに向けられていた。
弾丸が地面をえぐり、スライムの動きを制限する。
「っせーの」
精神を集中させ、フォークスの攻撃に合わせてブランシュが狙いをつける。
アルフリートが、刃を引いたと同時に光の矢が飛来する。
「危ない危ない」
ブランシュの攻撃に、スライムがたじろぐ間にアルフリートは体勢を取り戻す。
次第に身体が小さくなっているスライムも、あとわずかで決着が付く。
右側から回り込もうとしていたスライムのうち、一体はティラが抑えに入っていた。
日曜大工との別れを告げ、明るい表情で立ち向かう。
滑りかけても、滑りすぎることはない。
むしろ、それを利用して踊るようにスライムへ刃を突き立てる。
「つるつる……いえ、集中しなければ」
戦いも終盤に近づき、不意に団長へエルは視線を向けてしまった。
おかげで、風刃の軌道が少し逸れた。
改めて、中途半端な髪の状態が気をそらすのにいかに有効かが知れる。
「この辺りなら……」
クラリッサはぎりぎりのラインを模索し、火弾を放っていた。
まとまっていればよりよいが、一体でも潰せるのであれば越したことはない。
「ビリヤードっつーか。カーリングっつーか」
炎弾の爆発を抜けて、雲雀が飛び出す。スライムまでは微妙に距離があるが問題ない。
放ったのは、衝撃波だった。
「……やべぇ、ちょっと面白いわコレ」
後衛へ向かわせないよう、牽制したスライムが地面を転がる。もとい、滑る。
分裂により、サイズが半分になっている分質量も軽いらしい。
「おっと、追いかけないと」
衝撃波を飛ばすのはよいが、距離を詰めないといけない。
その間に、エルが今度こそ風刃を当てていた。
続けざまに雲雀が接敵し、斧を振り下ろす。
「そんで、これはアイスホッケーってところか」
潰えたスライムを見下ろし、雲雀は告げる。
重たい一撃を受け止めるだけの力は、分裂後のスライムに残っていなかった。
斧を持ち上げ、消滅したことを確認する。
「終わったみたいだな」
戦場を眺め、新しいたばこを取り出してフォークスが告げる。
アルフリートが対峙していたスライムは、ブランシュの矢を受けて倒れた。
ティラが追ったスライムも、再度分裂しようとしてクラリッサにまとめて焼かれていた。
「後は説得だけか」
そう思っていた時期が、フォークスにはありました。
●
「それや依頼内容に含まれてないネ、別料金取ってもいいくらいさ」
あっけからんとフォークスが突っぱねたのは、祠の掃除をしてほしいというものだ。
儀式を行うにしても、長年人が立ち入らなかった場所。
清潔感を大事にせねばとクラリッサがいい、ティラも綺麗さっぱりとしないとと乗っていた。
「こういうのって、綺麗にしたほうがご利益があがるって相場が決まってるんだよ」
「荒れ果てた所で儀式をしても、あまりよくないと思うしね」
雲雀やアルフリートも乗り気である。
ブランシュも異論はないらしく、草を刈る体勢に入っていた。
しかし、フォークスのいっていることも間違いではない。
スライムの排除依頼+髪を剃らせることが依頼内容だからだ。
「ま、掃除道具でもありゃ今後もご贔屓にしてくださるよう願ってサービスしないでもないケド?」
あるわけがないと高をくくって、フォークスが聞く。
すると団長は、背負ってきた荷物を下ろして答えた。
「……ありますよ」
「……あるのかよ」
草刈りの鎌や雑巾、バケツ……一式揃っていた。
元から掃除するつもりだったので、持ってきたという。
「だったら、やるか」
あればやると言った手前、素直に応じるのであった。
「こんなところでしょうか」
組み終わった薪を前に、エルが小首を傾げる。
団長は、それでよいと告げて火を放った。
持ってきた相棒を火にくべて、手を合わせる。
「……」
「……」
エルも団長に合わせて黙祷を捧げる。
儀式の様子を、アルフリートやクラリッサ達が遠巻きに見守っていた。
「綺麗になったのう」
「人数がいたからね」
伸びきっていた草は刈落とされ、祠自体も磨き上げられていた。
先人たちが燃やしたであろう場所の囲いも修復した。
ブランシュも、
「儀式にふさわしい場所になったのです」
と満足そうだった。
さらに遠巻き、洞穴の外でフォークスがたばこを吸っていた。
「つまんないコメディは好きじゃないね。チャンネルを変えとくれよ」
本人は真剣なのだろうが、カツラを供養する儀式というものに、内心思うのだった。
●
「団長さ、こういう風にした方がかっこよくなるんじゃねーか?」
儀式の後、雲雀はスキンヘッドの渋かっこいい俳優の写真を見せた。
「ほら、こんな威厳もでると思うぜ」
畳み掛けるように、スキンヘッドの軍人の写真も追加する。
むぅと唸る団長に、アルフリートも祠を見せて告げる。
「手を入れてスッキリさせた方が心身ともに引き締まるしね」
スキンヘッドにはスキンヘッドのお洒落もあるのだという。
ぐいぐいと押すならば、押せとばかりにブランシュも続く。
「自然に任せる前に、自分の髪型は自分で決めてみませんか?」
しかし、そこまでいわれても団長は黙する。
自然を受け入れたいという思いを聞いていたクラリッサは黙って見守っていた。
ここへ来るまでの道中に、仕掛けていたフォークスは任せたとばかりにタバコに興じる。
ティラが時々、さっぱりしよう!と短く提案を入れてみるが効果は薄い。
「でも、この調子だと全体的に薄くなるのも時間の問題、ですよね」
「それは、そうだが……」
ずばりなブランシュの言葉に、団長は反論はできない。
だが、肯定もしない。
「申し訳ないのですが」
業を煮やして、エルが割り込んできた。
まっすぐに団長を見上げ、目を合わす。
「団員さんたちも対応に困っているようです」
ずばりである。これには団長も渋面せざるを得ない。
「ここは団長として覚悟を決めて頂けないでしょうか?」
「そうだぜ。威厳も大事にしないとな」
正直なエルのお願いに、雲雀も再度のっかる。
「わかった。未練はたったのだ」
自然も手を入れなければ、見苦しい。
それは、今回の祠でわかったことではなかったか。
「わかってくれてなによりね!」
「決まったのなら、さっさと下山するよ」
待たされていたフォークスが号を発するのだった。
街へ帰るとすぐに断髪が執り行われた。
綺麗さっぱりになった団長の頭は、直視しても問題がなくなった。
彼の覚悟を胸に、自警団は一致団結するのだが。
それはまた、別のお話。
先人たちが歩き潰した獣道を、覆い隠すように雑草が生い茂る。
生命力の高さを示すように、硬い岩の間からも草木が見える。
「長く連れ添った相方との今生の別れ。痛み入ります」
健気な雑草を踏み潰し、進む一団がいた。
一団の中腹で、営業スマイルを浮かべながらフォークス(ka0570)は続ける。
「ですが、団長殿も仰った通り、かみはいつかなくなるもの」
およよと悲しげな表情を浮かべ、フォークスは同行者の団長を見上げる。
「髪への未練を残していては、先逝く相棒も浮かばれないことでしょう」
「見送ることで、未練を断ち切るのだ」
「なるほど、さような考えもあるのですね」
営業スマイルを崩さず、フォークスは応対する。
内心バカバカしく思っている彼女だが、そのことは口が裂けても出すわけにいかない。
「団長にお伺いしたいことがあるわ」
横合いからティラ・ンダイハ(ka2699)が割り込む。
何かな、という団長にティラは明るく問いかける。
「今回の戦い、団長が指揮を取るなら、どうすべきかしら?」
相手は三体。
左右に展開するツルピカを残していくか。それとも、全て綺麗さっぱり処理するか。
無論、狩るべきだろう。挟まれては元も子もない。
「そう、潔く全てを刈り取るわ! あぁ、なんて清々しい!」
戦略に見せかけて、それとなく剃れと告げる作戦である。
かしましいティラたちの前を巨斧を手に、鹿島 雲雀(ka3706)が行く。
「カツラの供養なぁ、妙な所で仏教っぽいところがあるんだな」
「カツラを供養……言葉にしてみると何だかその」
雲雀の言葉に反応し、ブランシュ・リゴー(ka4795)が複雑な表情を見せる。
「あれですね……」
うまく言語化できない感情が、ブランシュに渦巻いていた。
後ろを見ないように、何とか前に意識を向ける。
「ううん、やっぱり」
中途半端は微妙な気がしてくる。
「ある意味、大変デリケートな問題と言えなくもないからな」
アルフリート・クラッセン(ka4370)が団長から聞いた目印を探しながら、口にする。
帰りに迷わないよう、目印を足すことも忘れない。
「まぁ、理由はどうあれ。きちんと供養しようってのは良い心がけだと思うぜ?」
「団長殿の決意を大事しないとね」
雲雀の言葉に、アルフリートが頷く。
「そう、ですね」
ブランシュもぐっとウサギのぬいぐるみを強く抱える。
「団長さんは真剣なんですし、私もちゃんと誠意を持って任務に挑まなくてはいけませんね」
ブランシュが任務への思いを固める中、殿ではエルバッハ・リオン(ka2434)が胸をもねもねしていた。
1時間ほど前、
「初めまして、エルバッハ・リオンです。よろしければ、エルと呼んでください。よろしくお願いします」
恭しく挨拶していた彼女であるが、団長の頭は気になっていた。
表情にも出さぬよう気をつけつつも、視線が行く。
確かにこれでは、職務に集中できないのもわかる。エルも見苦しいと思ってしまうほどだ。
「さすがに色仕掛けでお願いをするというのはまずいでしょうし」
ぽつりと呟く彼女の少し前では、クラリッサ=W・ソルシエール(ka0659)が話をする機を伺っていた。
一ヶ月前、団長の心に何があったのか。
祠への道中で聞きたかったのである。男も女も髪の悩みは尽きぬもの。
盛者必衰、諸行無常。
ならば、自然のままで行こう。そう思ったのだと、団長は語るのだった。
●
「……清々しいまでのつるつるっぷりだな。カツラの供養にきたヤツを挑発しにきてんのか?」
祠の前に鎮座する、つるっつるのスライムを見やり雲雀が呟く。
視線を地面に落とせば、スライムが残したらしき体液が残っている。
「滑り止めを作っておくかの」
戦場を見渡し、クラリッサが土壁を作り上げる。
滑ってもそこで止まれるような、大きな壁である。
「さっさと倒しちまおうかい」
「滑らぬよう気をつないとね」
アルフリートがチェーンソードを片手に、走る。
日差しに照らされ滑りそうな箇所はわかる。
それでも滑るものは、滑る。
「っと……危ない」
「むっ」
雲雀も滑りかけ、巨大な斧を突き立てることで耐える。
そこへ、「だれかとめてー」と声を上げてティラが突っ込んできた。
マテリアルを込めた体でアクロバットな動きを見せる。
そこへスライムが強酸を飛ばすが、エルに付与してもらった風の力もあり華麗に避けていた。
が、足が滑りすぎる。
「人間ピンボールってか? 後で感想聞かせろよ」
巨斧を用いて、雲雀がティラを止める。
柄を掴んで、動きをゆるめたティラは足につけた下駄を脱ぐ。
「……」
微妙な表情で、それを見つめていた。
前線が接敵を狙う中、中後衛は滑り場にはいらない位置から狙いをつける。
ブランシュは集中力を高め、ワンドを構える。
「それじゃ……いきます」
光の矢を放ち、こちらへ向かおうとするスライムを穿つ。
同時にフォークスが引き金を引いた。
「そらよ。とっとと終わらせたいねぇ」
たばこをくわえ直し、フォークスはスライムへ睨みを利かせるのだった。
エルとクラリッサが、残る前衛雲雀とアルフリートにも風の護りを与える。
勢いをそのままに、アルフリートが乾いた地面へと踏み込む。
「こいつで、どうだい?」
避けようとしたスライムへ、フォークスが弾丸を浴びせかける。
弾丸で穿つためではない。わざと避けさせるためだ。
避けようとしたスライムは、さらに踏み込んだアルフリートの刃に削がれた。
「武器が滑るね」とアルフリートは感想を漏らす。
ダメージは入っているはずだが、手応えは薄い。
アルフリートが左舷、ティラと雲雀が中央を狙う。
踊るようにスライムへ攻撃を与えるティラは、足を止めるとうんと頷く。
「こっちの方が動きやすいわね……」
「中途半端な力でやると、つるっていきそうだな。全力で行くぜ!」
攻めきる構えから、武器を振り上げる。
振り下ろした巨斧が、スライムを叩き潰す。一気に身が削れ落ちる。
ブランシュが追撃の光の矢を飛ばす。
「狙いが……」
だが、これは避けられる。
回避したスライムは、そのままティラへと襲いかかる。
立体的な動きで避けようとするが、一歩及ばない。
風の守りを突き抜け、スライムの一撃が入る。
「なかなか、痛いわね!」
ティラは少し距離を取ると、あの下駄を手にする。
と、同時に右から回り込もうとしていたスライムとティラ達が対峙するスライムとの間。
そこで爆発が起きた。続けざまに二発。
二匹のスライムが接近したことで、ファイヤーボールの範囲に入ったのだ。
「頑丈じゃの」
クラリッサの呟きに、エルが頷く。
回りこんできていたスライムは、その身を分けた。
一方で、攻撃を受け続けていたスライムは虫の息で雲雀を狙う。
避けられた強酸は、地面を溶かし滑りをよくする。
そこを踏まないよう、ティラが距離を取る。
スライムの隙を狙って、
「えい」と例の下駄を投げつけた。
「そのまま消えるといいわ!」
容赦なく魔導拳銃の銃口を向け、引き金を引く。
弾丸を、例の下駄ごとスライムへと叩きこむ。粉砕される下駄。
そして、スライムは収縮し消えていった。
ちなみにこの下駄は、ダガーナイフを歯に用いてスケートのように滑るためのものだ。
ティラが日曜大工で作ったのだが、結果はお察しであった。
「次行くわよ」
雲雀とティラは続いて、分裂したスライムへと向かう。
●
「何やってるんだか」
ティラの行動に、フォークスがぼやく。
その銃口は、アルフリートの対峙するスライムに向けられていた。
弾丸が地面をえぐり、スライムの動きを制限する。
「っせーの」
精神を集中させ、フォークスの攻撃に合わせてブランシュが狙いをつける。
アルフリートが、刃を引いたと同時に光の矢が飛来する。
「危ない危ない」
ブランシュの攻撃に、スライムがたじろぐ間にアルフリートは体勢を取り戻す。
次第に身体が小さくなっているスライムも、あとわずかで決着が付く。
右側から回り込もうとしていたスライムのうち、一体はティラが抑えに入っていた。
日曜大工との別れを告げ、明るい表情で立ち向かう。
滑りかけても、滑りすぎることはない。
むしろ、それを利用して踊るようにスライムへ刃を突き立てる。
「つるつる……いえ、集中しなければ」
戦いも終盤に近づき、不意に団長へエルは視線を向けてしまった。
おかげで、風刃の軌道が少し逸れた。
改めて、中途半端な髪の状態が気をそらすのにいかに有効かが知れる。
「この辺りなら……」
クラリッサはぎりぎりのラインを模索し、火弾を放っていた。
まとまっていればよりよいが、一体でも潰せるのであれば越したことはない。
「ビリヤードっつーか。カーリングっつーか」
炎弾の爆発を抜けて、雲雀が飛び出す。スライムまでは微妙に距離があるが問題ない。
放ったのは、衝撃波だった。
「……やべぇ、ちょっと面白いわコレ」
後衛へ向かわせないよう、牽制したスライムが地面を転がる。もとい、滑る。
分裂により、サイズが半分になっている分質量も軽いらしい。
「おっと、追いかけないと」
衝撃波を飛ばすのはよいが、距離を詰めないといけない。
その間に、エルが今度こそ風刃を当てていた。
続けざまに雲雀が接敵し、斧を振り下ろす。
「そんで、これはアイスホッケーってところか」
潰えたスライムを見下ろし、雲雀は告げる。
重たい一撃を受け止めるだけの力は、分裂後のスライムに残っていなかった。
斧を持ち上げ、消滅したことを確認する。
「終わったみたいだな」
戦場を眺め、新しいたばこを取り出してフォークスが告げる。
アルフリートが対峙していたスライムは、ブランシュの矢を受けて倒れた。
ティラが追ったスライムも、再度分裂しようとしてクラリッサにまとめて焼かれていた。
「後は説得だけか」
そう思っていた時期が、フォークスにはありました。
●
「それや依頼内容に含まれてないネ、別料金取ってもいいくらいさ」
あっけからんとフォークスが突っぱねたのは、祠の掃除をしてほしいというものだ。
儀式を行うにしても、長年人が立ち入らなかった場所。
清潔感を大事にせねばとクラリッサがいい、ティラも綺麗さっぱりとしないとと乗っていた。
「こういうのって、綺麗にしたほうがご利益があがるって相場が決まってるんだよ」
「荒れ果てた所で儀式をしても、あまりよくないと思うしね」
雲雀やアルフリートも乗り気である。
ブランシュも異論はないらしく、草を刈る体勢に入っていた。
しかし、フォークスのいっていることも間違いではない。
スライムの排除依頼+髪を剃らせることが依頼内容だからだ。
「ま、掃除道具でもありゃ今後もご贔屓にしてくださるよう願ってサービスしないでもないケド?」
あるわけがないと高をくくって、フォークスが聞く。
すると団長は、背負ってきた荷物を下ろして答えた。
「……ありますよ」
「……あるのかよ」
草刈りの鎌や雑巾、バケツ……一式揃っていた。
元から掃除するつもりだったので、持ってきたという。
「だったら、やるか」
あればやると言った手前、素直に応じるのであった。
「こんなところでしょうか」
組み終わった薪を前に、エルが小首を傾げる。
団長は、それでよいと告げて火を放った。
持ってきた相棒を火にくべて、手を合わせる。
「……」
「……」
エルも団長に合わせて黙祷を捧げる。
儀式の様子を、アルフリートやクラリッサ達が遠巻きに見守っていた。
「綺麗になったのう」
「人数がいたからね」
伸びきっていた草は刈落とされ、祠自体も磨き上げられていた。
先人たちが燃やしたであろう場所の囲いも修復した。
ブランシュも、
「儀式にふさわしい場所になったのです」
と満足そうだった。
さらに遠巻き、洞穴の外でフォークスがたばこを吸っていた。
「つまんないコメディは好きじゃないね。チャンネルを変えとくれよ」
本人は真剣なのだろうが、カツラを供養する儀式というものに、内心思うのだった。
●
「団長さ、こういう風にした方がかっこよくなるんじゃねーか?」
儀式の後、雲雀はスキンヘッドの渋かっこいい俳優の写真を見せた。
「ほら、こんな威厳もでると思うぜ」
畳み掛けるように、スキンヘッドの軍人の写真も追加する。
むぅと唸る団長に、アルフリートも祠を見せて告げる。
「手を入れてスッキリさせた方が心身ともに引き締まるしね」
スキンヘッドにはスキンヘッドのお洒落もあるのだという。
ぐいぐいと押すならば、押せとばかりにブランシュも続く。
「自然に任せる前に、自分の髪型は自分で決めてみませんか?」
しかし、そこまでいわれても団長は黙する。
自然を受け入れたいという思いを聞いていたクラリッサは黙って見守っていた。
ここへ来るまでの道中に、仕掛けていたフォークスは任せたとばかりにタバコに興じる。
ティラが時々、さっぱりしよう!と短く提案を入れてみるが効果は薄い。
「でも、この調子だと全体的に薄くなるのも時間の問題、ですよね」
「それは、そうだが……」
ずばりなブランシュの言葉に、団長は反論はできない。
だが、肯定もしない。
「申し訳ないのですが」
業を煮やして、エルが割り込んできた。
まっすぐに団長を見上げ、目を合わす。
「団員さんたちも対応に困っているようです」
ずばりである。これには団長も渋面せざるを得ない。
「ここは団長として覚悟を決めて頂けないでしょうか?」
「そうだぜ。威厳も大事にしないとな」
正直なエルのお願いに、雲雀も再度のっかる。
「わかった。未練はたったのだ」
自然も手を入れなければ、見苦しい。
それは、今回の祠でわかったことではなかったか。
「わかってくれてなによりね!」
「決まったのなら、さっさと下山するよ」
待たされていたフォークスが号を発するのだった。
街へ帰るとすぐに断髪が執り行われた。
綺麗さっぱりになった団長の頭は、直視しても問題がなくなった。
彼の覚悟を胸に、自警団は一致団結するのだが。
それはまた、別のお話。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 クラリッサ=W・ソルシエール(ka0659) 人間(リアルブルー)|20才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/05/01 20:03:48 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/28 20:15:32 |