ゲスト
(ka0000)
美味しいお米
マスター:天田洋介
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/04/26 22:00
- 完成日
- 2015/05/04 19:21
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
グラズヘイム王国・王都【イルダーナ】。ハンターズソサエティの片隅で熱弁を振るう若き女性が一人。
「そのお米とは違うんです」
彼女はリアルブルーの出身者で名前を友月薫子という。長い黒髪を揺らしながら説明していたのはお米の種類についてである。
「小麦大麦に比べれば極々わずかでしょうけれど、王国内でもお米は流通しています」
「それとは別物なんですよ。一番の違いは味です。特に冷めたときは――」
米は確かにグラズヘイム王国でもわずかながら流通していたが、リアルブルーでいうところのインディカ米だ。粘り気が少ないのでパエリア、炒飯等の料理には適している。しかし薫子が望む炊飯にはジャポニカ米こそが本物といえた。
インディカ米でも腕の立つ料理人達が創意工夫してくれるおかげで、食べられるご飯に仕上がっている。それでも食材の差は歴然だった。
去年、薫子は苦労して手に入れたジャポニカ米の種籾を育てて増やしている。今年はそれを使って本格的な栽培に乗りだそうとしていた。
「深く掘って水を張るのが田んぼなのですか」
「そ、そうなんです」
受付嬢は陸稲しか知らない。水耕栽培の説明しているうちに話しが逸れて、先程のお米とはなんだといった熱弁に繋がってしまった。
我に返った薫子は水稲のことを受付嬢に細かく砕きながら説明し直す。少なくとも表面的な田植えの作業については理解してくれる。こうしてやっと依頼を出し終わった。
「秋に収穫したら、あの受付の人にも炊きたてのご飯を食べてもらおう。そうすれば何故面倒な水稲を育てたかったのか、わかってもらえるはず」
食の追求は一見ばかばかしい。そこそこの味で腹さえ膨らめばよいと言う者もいるだろう。生きるだけなら充分だからだ。
それでもうまい料理は人々の心と生活を豊かにしてくれる。薫子はそう信じていた。
「これだけあれば田植えには充分ね」
近郊の村に戻った薫子は育苗用の田んぼを眺める。どれもよく育っていて後は田植えを待つばかりだが、肝心の田んぼが完成していなかった。
完成している田んぼは二町分のみ。育苗はこれらの一部の間借りしている。
「田植えまでにはあと三町、用意しないとね」
薫子が力を発揮して雑木の根を掘り起こす。ハンター達がやって来てくれるまで、仲間五人と頑張るのだった。
グラズヘイム王国・王都【イルダーナ】。ハンターズソサエティの片隅で熱弁を振るう若き女性が一人。
「そのお米とは違うんです」
彼女はリアルブルーの出身者で名前を友月薫子という。長い黒髪を揺らしながら説明していたのはお米の種類についてである。
「小麦大麦に比べれば極々わずかでしょうけれど、王国内でもお米は流通しています」
「それとは別物なんですよ。一番の違いは味です。特に冷めたときは――」
米は確かにグラズヘイム王国でもわずかながら流通していたが、リアルブルーでいうところのインディカ米だ。粘り気が少ないのでパエリア、炒飯等の料理には適している。しかし薫子が望む炊飯にはジャポニカ米こそが本物といえた。
インディカ米でも腕の立つ料理人達が創意工夫してくれるおかげで、食べられるご飯に仕上がっている。それでも食材の差は歴然だった。
去年、薫子は苦労して手に入れたジャポニカ米の種籾を育てて増やしている。今年はそれを使って本格的な栽培に乗りだそうとしていた。
「深く掘って水を張るのが田んぼなのですか」
「そ、そうなんです」
受付嬢は陸稲しか知らない。水耕栽培の説明しているうちに話しが逸れて、先程のお米とはなんだといった熱弁に繋がってしまった。
我に返った薫子は水稲のことを受付嬢に細かく砕きながら説明し直す。少なくとも表面的な田植えの作業については理解してくれる。こうしてやっと依頼を出し終わった。
「秋に収穫したら、あの受付の人にも炊きたてのご飯を食べてもらおう。そうすれば何故面倒な水稲を育てたかったのか、わかってもらえるはず」
食の追求は一見ばかばかしい。そこそこの味で腹さえ膨らめばよいと言う者もいるだろう。生きるだけなら充分だからだ。
それでもうまい料理は人々の心と生活を豊かにしてくれる。薫子はそう信じていた。
「これだけあれば田植えには充分ね」
近郊の村に戻った薫子は育苗用の田んぼを眺める。どれもよく育っていて後は田植えを待つばかりだが、肝心の田んぼが完成していなかった。
完成している田んぼは二町分のみ。育苗はこれらの一部の間借りしている。
「田植えまでにはあと三町、用意しないとね」
薫子が力を発揮して雑木の根を掘り起こす。ハンター達がやって来てくれるまで、仲間五人と頑張るのだった。
リプレイ本文
●
村に到着したハンター一行は宿泊用の家に案内された。荷物を置いてから薫子に連れられて苗床へと向かう。
「おっこめ♪ おっこめ♪」
「まさかこちらで田んぼを見ることになるとは思わなかったよ」
銀 桃花(ka1507)と滝川雅華(ka0416)は芝のような稲の苗を眺めて笑みを零す。
「なあなあ、雅ねーちゃん、桃ねーちゃん。このタンボって何だ? 水の中に苗が生えているけど腐っちまうんじゃねえの? それにオコメって何?」
首を傾げていたのはコトラン・ストライプ(ka0971)である。
「ん? トラ君、本場のご飯食べたことないの? 作り方はまあ、百聞は一見に如かずよ!」
説明してくれない銀桃花にコトランが頬を膨らませる。
「スイコー栽培? なんだソレ」
「ま、何だ。炊きたての銀シャリは例えようもない美味さだからね」
代わりに滝川雅華が説いたものの、コトランにはよくわからなかったようだ。それでも銀桃花が拳を天に振り上げるとコトランも続いた。
「きっと最高に美味しいわよっ。がんばろー!」
「とにかく手伝えば美味いメシが食えるんだよな!? がんばるぞ!」
二人のやり取りにやれやれといった表情を浮かべる滝川雅華だ。
天竜寺 詩(ka0396)は屈んで苗を眺めていると薫子に声をかけられる。
「ジャポニカ米は美味しいですよ」
「私も好き。でも田んぼ作りはしたことないので教えてね」
二人は改めて握手を交わす。続いて薫子が声をかけたのはリリティア・オルベール(ka3054)である。
「そういえば日本の米はもう随分食べていないですね」
「あちらのご出身なんですね」
リリティアと薫子が話しているところに鹿島 雲雀(ka3706)が現れた。
「うまいければ、ジャポニカのほかほかご飯を食べられると聞いたのだが、本当か?」
「え、ええ。よくやって下さればそのように」
生卵と醤油についても薫子から約束を取りつけた鹿島雲雀は思わず口元を抑える。涎が垂れそうな気がしたからだ。
薫子はうっとりとした瞳で水田を眺めていたマルグリット・ピサン(ka4332)にも話しかけた。
「太陽の光を浴びてキラキラ光る水面は綺麗ですね」
「こちらでは陸稲が多くて水稲をしている農家は非常に少ないんです。こういった水田が増えてくれればとても嬉しいんですけれど」
マルグリットは二種類の米がどれほど違う味なのか食べ比べてみたいという。
ネムリア・ガウラ(ka4615)は薫子に素朴な質問をした。
「わたし、コメって初めて。えっと、ジャポニカ米ってどんなのなのかな?」
「ちょっと待って下さいね」
薫子は持っていた袋の中から種籾を取りだす。
「この粒が麦穂のように育った苗にたくさんできるんです。籾殻を外したこれが玄米。精米すると白米になります」
半透明の真っ白な米粒はとても綺麗。俄然やる気を出すネムリアだった。
●
最初に割り当てが決められる。
滝川雅華、銀桃花、コトランが一町分を担当。天竜寺詩、鹿島雲雀、リリティアも一町分。そしてマルグリットとネムリアは〇・五町分の担当となった。
●
銀桃花と滝川雅華が二人がかりで鋸を引いて雑木を倒していく。
太めの樹木二本を担当したのがコトランだ。巨大な斧で幹を穿つ。
「雅ねーちゃん、桃ねーちゃん。倒れるから気をつけてくれよなー!」
二人に声をかけてからコトランが蹴飛ばして幹を地面に倒す。切り株や根を掘り起こす作業は三人で力を合わせた。
「う、動かないぞ……」
「コトラン、これを使うのだ」
切り株を持ち上げようとしていたコトランに滝川雅華が見せたのは梃子棒だ。転がした雑木を支点にして梃子棒を設置。位置をずらして三本を差し込む。
コトランと銀桃花は地上に露出している根を伐り離した。
「合図をだすよっ♪ せいのうーでっ!」
銀桃花のかけ声に合わせて三人同時に梃子棒を動かす。
「すげー、切り株が抜けたぞ」
梃子棒の威力にコトランは感心する。太い根を掘り起こす際にも梃子棒は活躍した。
「この木、薪とか何かに活用できればいいんだけどねー」
「乾燥させてから燃やして肥料にするのが手っ取り早いだろう」
日々は過ぎていく。
雑木や雑草は予定地の片隅にまとめられる。続いて地味で大変なのが石拾いだ。地表に転がる分を取り除いた後、薫子に牛が牽く耕作道具で大地を掘り返してもらう。
「ありがとな。おいしい草があるとこ、連れてってやるからな」
作業の後、コトランは薫子と一緒に牛を水飲み場へと連れて行く。トウモロコシを食べさせてあげると牛達が吼えて喜んだ。
行き届かなかった場所では鍬を使って自力で掘りだす。
「うー、ちょっときゅうけーい」
銀桃花が水路で手を洗うと痛みが走る。近くの木陰に敷いた茣蓙の上に寝転って両手を眺めた。
「うあー、手に豆できちゃったよう。農具って力任せに振ってるだけじゃ疲れるだけなのよね。農家の人ってすごいわ……」
ちょっと早めだったが三人は昼食をとる。薫子の仲間が運んできてくれた弁当と茶で人心地ついた。
牛達に掘り返してもらう度に拾う石は小さくなっていく。
「抱えるほどの石は少なくなったし、これ使ってみたらどうかな?」
銀桃花が持ってきた箕は頑丈な笊のようなもので、土と程々の大きさの石を選り分けるには便利そうな道具である。
「桃花は結構こういうの得意なのかねぇ」
箕の使い道に感心した滝川雅華はコトランにも使わせた。おかげで石拾いの効率があがる。一町の大地を隈無く歩き回って三人は石を退けていった。
●
天竜寺詩、鹿島雲雀、リリティアが担当した予定地には細い雑木が数多くあった。
「ちまちまと切るのは面倒だからな。こいつで一気に行くぜ。誰もいないな? 危ないから、一応離れておけよ?」
鹿島雲雀が取りだしたのは自前のギガースアックスである。雑草の茂みを掻き分けて奥へと進んでいく。
「先ずは雑草を取り除きましょうか」
「その後、石ころの除去ですかね」
天竜寺詩とリリティアは手袋をはめて自分の背丈程の雑草を抜いていった。
雑木の片付けは草むしりの合間にリリティアと天竜寺詩がこなす。
草はすぐに大きな山となったが、半日も経てば日光を浴びて萎びてくる。
「これだけ枯れたら燃えてくれるはずです」
「こうすれば雑草も肥料になるって薫子さんもいってたしね」
二日目の昼頃、リリティアと天竜寺詩が集めた雑草や雑木の山に火を点ける。遠目で監視しながら昼食を頂くことにした。
「雑木は大体終わったかな。あーお腹空いたぜ。この弁当の炒飯、まだ温かいな」
「薫子さんが調理したてを持ってきてくれよ♪」
天竜寺詩が手渡した弁当を鹿島雲雀は頂いた。
「地面から出てたのはほんの少しだったんです。でも掘ってみたら」
「やけに平べったくて大きいな」
昼食後、リリティアが滝川雅華に大岩の破壊を頼んだ。斧で砕く度に三人で予定地の外へと破片を運んだ。一日がかりの大仕事である。
「薫子さん、あのまま進めても大丈夫ですか?」
「もちろんですよ。想像していたよりも早くて助かっています」
夕日を浴びながらの帰り道、リリティアは苗床で作業していた薫子と言葉を交わす。
「お風呂は気持ちいいね」
「もしかしてこの湯船、檜か? こだわってるなー」
天竜寺詩と鹿島雲雀が湯船に浸かってくつろいだ。リリティアは鼻歌交じりに身体を洗う。
出された食事は和食が多い。但し貴重なだけにジャポニカ米は使われていなかった。
●
「魔法で効率よく取り除ければいいんですけれど、難しそうですね」
「早く終わったらみんなのところを手伝おうね」
マルグリットとネムリアに宛がわれた土地は雑草に覆われていた。二人の背を余裕で越える茂みのせいで向こう側がまったく見通せない。手袋をはめて抜いていくとあっと言う間に雑草の山が。
マルグリットが薫子に聞いてみたところ、毒性の強い草が混じっているので家畜に食べさせるのは難しいようだ。
「それは残念よね」
「あれ?」
二人でお喋りしながら雑草を抜いていると突然に視界が拓ける。高い雑草に囲まれるようにして大地にクローバーが群生していた。
昼食を届けに来た薫子に相談してみると「腐ったクローバーさえ避けてもらえれば牛の餌になりますね」とのことである。
さっそく牛三頭を借りてクローバーを食べさせる。二人は牛の近くで監視しながら石を拾い集めた。
「牛さんたち、美味しそうだね」
「本当に。まさかクローバーがこんなに育っているなんて。一石二鳥ですね」
痩せた畑にクローバーを植えて牛や豚に食べさせると再び作物が育つようになるという。さらに四つ葉のクローバーを発見した二人は幸運の兆しを感じ取る。
雑木は三本程度ですぐに処理し終わった。転がっていた岩は二人で担いで運べる程度の数と大きさである。
雑草を一掃した時点で牛達に耕作道具で土を掘り返してもらう。すると新たな石がごろごろと現れた。
それを三回繰り返すことで開拓作業は終了。完全に石がなくなったわけではないが、稲を育てるには支障が無い状態になる。
早めに終わったマルグリットとネムリアは仲間達を手伝った。
薫子と仲間五人によって肥料が撒かれて土と混ぜられる。そしてついに水路の堰が外された。
●
水の引き込みが行われて一晩が過ぎ去る。朝食後、コトランと銀桃花は田んぼへと散歩に出かけた。
「水張ったらデッカイ池みたいだな!」
「こらっ! トラ君、田んぼで泥んこ遊びはダメ!」
田んぼへ飛び込もうとしたコトランの襟首を銀桃花が掴まえる。
「なあなあ、オイラ水遊びしたい!」
隙を突いたコトランが田んぼに足を踏み入れると銀桃花が追いかけた。
「すげえええ!」
「きゃー!? やったわねえええ」
大きく跳ねて大喜びのコトランに銀桃花が反撃。一緒に泥だらけとなった。
「これでよし。ん?」
農耕具の整備をしていた滝川雅華の前に二人が戻ってくる。正座させられてお説教を食らうコトランと銀桃花であった。
「それでは」
天竜寺詩が豊作祈願の神楽舞を舞う。田んぼの中央に作られたあぜ道で扇子が高く掲げられた。
厳かな時を過ごしてから田植えが行われる。
「あは、くすぐったーい! 足の裏がソワソワする」
田んぼに立ったネムリアが声を震えさせた。
全員で一列になって後ろ向きに進みながら苗を植えていく。
「こんな大変なんて。これからは御飯を残したりなんてできませんね」
「農家の苦労ってのが身に染みて分かるよな。よく、親に『感謝して食え』って言われてたけど。なるほど、こりゃいくら感謝しても足りねーわ」
マルグリットが額の汗を二の腕で拭う。鹿島雲雀は曲げていた腰を伸ばす。
コトラン、銀桃花、滝川雅華もかなりきつそうである。区切りのよいところでお昼になった。
「どうですか? 田植えの感想は」
「ハント依頼に出たほうが余程楽です……。この苦労を知ってたら、食べ物を粗末になんてできないですね」
薫子に訊ねられたリリティアはヘトヘトである。夕方、寝床の家に戻っても彼女は苦悶の表情を浮かべていた。
「中々キツそうだなぁ、リリティア。しょうが無いな」
鹿島雲雀はリリティアを俯せにすると丁寧に腰を揉んであげる。
ハンター達の頑張りのおかげでとても捗る。予定通りの面積に苗が植えられた。
●
最後の夕食時、ジャポニカ米が振る舞われる。
天竜寺詩はお湯から取りだした袋を破って丼のご飯にかけた。彼女が持ってきたのはレトルトカレー。
(やっぱりご飯はこうでなくっちゃ♪)
スプーンで掬って口に含むと懐かしい香りと味が広がる。リアルブルーで食べたそのものの味だ。
「耕作が上手くいってこのお米が沢山食べられるよう祈ってるね」
「ありがとう。頑張らせてもらいます」
薫子にカレーをお裾分けした天竜寺詩である。
鹿島雲雀は産みたて生卵二個を割り、器に醤油を垂らして軽く箸で混ぜた。そして湯気立つ御飯の上へ。
「ふはー! ほかほかの白米つったら、やっぱこの食い方に限るわ。美味ぇ!」
鹿島雲雀は満面の笑みを浮かべる。ふと背中を向けていたリリティアが気になって身体を逸らして覗き込んだ。
(ふ、ふふ……まさかここでうな重できるとは思わなかったのです……)
はぐはぐと食べていたリリティアは鹿島雲雀と目が合う。
「なーなー、リリティアー。それも美味そうだな、ちょっと分けてくれよぅ」
猫なで声で迫る鹿島雲雀にリリティアがため息一つ。
「卵がけ御飯と交換なら」
「やったっ!」
少しずつ分け合って互いの味を楽しんだ鹿島雲雀とリリティアだった。
スキップしながら厨房から現れたマルグリットは盆の上に深皿を二つのせている。
「カレーに鰻、卵掛け御飯。どれも美味しそうですね♪」
通りすがりに仲間達の丼を眺めながら席についた。彼女が作ったのはホワイトソースをかけた白身魚入りドリア二皿分である。
「うーん、頑張ったあとのお食事は格別ですね♪ お箸がどんどん進みます」
片方がインディカ米。もう一方がジャポニカ米。じっくりと食べ比べるマルグリットだ。
「ねっ、薫子さん。この御飯、冷めても美味しい、って言ってたよね。おじじやおばばに食べさせてあげたいなあ。わたしの分、持って帰って、構わない?」
一口だけで食べるのを止めたネムリアは薫子にお願いする。
「でしたらお握りではどうでしょう?」
薫子があげた中でネムリアは塩鮭入りお握りを選んだ。彼女はお土産としてもらったお握り三個を大事に仕舞う。
「銀シャリはまさにこの味だ。栽培がうまくいけば日本酒造りにも拍車がかかるんだけどね」
「ジャポニカ米を使った料理店を作れればと考えているんですよ」
滝川雅華と薫子は米の未来について語り合う。その横でコトランと銀桃花が魚の干物をおかずにして御飯を頂いていた。
「炊きたてのお米美味しーvv」
銀桃花は大事に噛みしめながら御飯を味わう。
「このジャポニカ米、うまいなー! オイラの知ってる米と全然違う!」
コトランは瞬く間に丼一杯分を食べきってしまった。
銀桃花の丼にこっそりとコトランのスプーンが迫る。それに気づいた銀桃花がさっと退かしたが間に合わない。
「トラ君、もう自分の食べたでしょ! 雅ねえー何とか言ってやってよー!」
「一口くらいいーじゃねーか! ねーちゃん達はリアルブルーにいた頃この飯食ってたんだろ!? オイラ初めてなんだかんな! ねーちゃんのケーチ! ばーか!」
スプーン一杯分の御飯を奪取された銀桃花が滝川雅華に助けを求めた。
「コトラン私はお前を人のご飯取るような子に躾けた覚えないよ。返しなさい!」
一喝されたコトランがシュンと両肩を落とす。銀桃花は『今度、お返しもらうからねっ』と一口分の御飯をあげた。
こうしてハンター達の手伝いは終わる。数日の間、何かと炊きたて御飯の味を思いだしてしまう一同であった。
村に到着したハンター一行は宿泊用の家に案内された。荷物を置いてから薫子に連れられて苗床へと向かう。
「おっこめ♪ おっこめ♪」
「まさかこちらで田んぼを見ることになるとは思わなかったよ」
銀 桃花(ka1507)と滝川雅華(ka0416)は芝のような稲の苗を眺めて笑みを零す。
「なあなあ、雅ねーちゃん、桃ねーちゃん。このタンボって何だ? 水の中に苗が生えているけど腐っちまうんじゃねえの? それにオコメって何?」
首を傾げていたのはコトラン・ストライプ(ka0971)である。
「ん? トラ君、本場のご飯食べたことないの? 作り方はまあ、百聞は一見に如かずよ!」
説明してくれない銀桃花にコトランが頬を膨らませる。
「スイコー栽培? なんだソレ」
「ま、何だ。炊きたての銀シャリは例えようもない美味さだからね」
代わりに滝川雅華が説いたものの、コトランにはよくわからなかったようだ。それでも銀桃花が拳を天に振り上げるとコトランも続いた。
「きっと最高に美味しいわよっ。がんばろー!」
「とにかく手伝えば美味いメシが食えるんだよな!? がんばるぞ!」
二人のやり取りにやれやれといった表情を浮かべる滝川雅華だ。
天竜寺 詩(ka0396)は屈んで苗を眺めていると薫子に声をかけられる。
「ジャポニカ米は美味しいですよ」
「私も好き。でも田んぼ作りはしたことないので教えてね」
二人は改めて握手を交わす。続いて薫子が声をかけたのはリリティア・オルベール(ka3054)である。
「そういえば日本の米はもう随分食べていないですね」
「あちらのご出身なんですね」
リリティアと薫子が話しているところに鹿島 雲雀(ka3706)が現れた。
「うまいければ、ジャポニカのほかほかご飯を食べられると聞いたのだが、本当か?」
「え、ええ。よくやって下さればそのように」
生卵と醤油についても薫子から約束を取りつけた鹿島雲雀は思わず口元を抑える。涎が垂れそうな気がしたからだ。
薫子はうっとりとした瞳で水田を眺めていたマルグリット・ピサン(ka4332)にも話しかけた。
「太陽の光を浴びてキラキラ光る水面は綺麗ですね」
「こちらでは陸稲が多くて水稲をしている農家は非常に少ないんです。こういった水田が増えてくれればとても嬉しいんですけれど」
マルグリットは二種類の米がどれほど違う味なのか食べ比べてみたいという。
ネムリア・ガウラ(ka4615)は薫子に素朴な質問をした。
「わたし、コメって初めて。えっと、ジャポニカ米ってどんなのなのかな?」
「ちょっと待って下さいね」
薫子は持っていた袋の中から種籾を取りだす。
「この粒が麦穂のように育った苗にたくさんできるんです。籾殻を外したこれが玄米。精米すると白米になります」
半透明の真っ白な米粒はとても綺麗。俄然やる気を出すネムリアだった。
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最初に割り当てが決められる。
滝川雅華、銀桃花、コトランが一町分を担当。天竜寺詩、鹿島雲雀、リリティアも一町分。そしてマルグリットとネムリアは〇・五町分の担当となった。
●
銀桃花と滝川雅華が二人がかりで鋸を引いて雑木を倒していく。
太めの樹木二本を担当したのがコトランだ。巨大な斧で幹を穿つ。
「雅ねーちゃん、桃ねーちゃん。倒れるから気をつけてくれよなー!」
二人に声をかけてからコトランが蹴飛ばして幹を地面に倒す。切り株や根を掘り起こす作業は三人で力を合わせた。
「う、動かないぞ……」
「コトラン、これを使うのだ」
切り株を持ち上げようとしていたコトランに滝川雅華が見せたのは梃子棒だ。転がした雑木を支点にして梃子棒を設置。位置をずらして三本を差し込む。
コトランと銀桃花は地上に露出している根を伐り離した。
「合図をだすよっ♪ せいのうーでっ!」
銀桃花のかけ声に合わせて三人同時に梃子棒を動かす。
「すげー、切り株が抜けたぞ」
梃子棒の威力にコトランは感心する。太い根を掘り起こす際にも梃子棒は活躍した。
「この木、薪とか何かに活用できればいいんだけどねー」
「乾燥させてから燃やして肥料にするのが手っ取り早いだろう」
日々は過ぎていく。
雑木や雑草は予定地の片隅にまとめられる。続いて地味で大変なのが石拾いだ。地表に転がる分を取り除いた後、薫子に牛が牽く耕作道具で大地を掘り返してもらう。
「ありがとな。おいしい草があるとこ、連れてってやるからな」
作業の後、コトランは薫子と一緒に牛を水飲み場へと連れて行く。トウモロコシを食べさせてあげると牛達が吼えて喜んだ。
行き届かなかった場所では鍬を使って自力で掘りだす。
「うー、ちょっときゅうけーい」
銀桃花が水路で手を洗うと痛みが走る。近くの木陰に敷いた茣蓙の上に寝転って両手を眺めた。
「うあー、手に豆できちゃったよう。農具って力任せに振ってるだけじゃ疲れるだけなのよね。農家の人ってすごいわ……」
ちょっと早めだったが三人は昼食をとる。薫子の仲間が運んできてくれた弁当と茶で人心地ついた。
牛達に掘り返してもらう度に拾う石は小さくなっていく。
「抱えるほどの石は少なくなったし、これ使ってみたらどうかな?」
銀桃花が持ってきた箕は頑丈な笊のようなもので、土と程々の大きさの石を選り分けるには便利そうな道具である。
「桃花は結構こういうの得意なのかねぇ」
箕の使い道に感心した滝川雅華はコトランにも使わせた。おかげで石拾いの効率があがる。一町の大地を隈無く歩き回って三人は石を退けていった。
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天竜寺詩、鹿島雲雀、リリティアが担当した予定地には細い雑木が数多くあった。
「ちまちまと切るのは面倒だからな。こいつで一気に行くぜ。誰もいないな? 危ないから、一応離れておけよ?」
鹿島雲雀が取りだしたのは自前のギガースアックスである。雑草の茂みを掻き分けて奥へと進んでいく。
「先ずは雑草を取り除きましょうか」
「その後、石ころの除去ですかね」
天竜寺詩とリリティアは手袋をはめて自分の背丈程の雑草を抜いていった。
雑木の片付けは草むしりの合間にリリティアと天竜寺詩がこなす。
草はすぐに大きな山となったが、半日も経てば日光を浴びて萎びてくる。
「これだけ枯れたら燃えてくれるはずです」
「こうすれば雑草も肥料になるって薫子さんもいってたしね」
二日目の昼頃、リリティアと天竜寺詩が集めた雑草や雑木の山に火を点ける。遠目で監視しながら昼食を頂くことにした。
「雑木は大体終わったかな。あーお腹空いたぜ。この弁当の炒飯、まだ温かいな」
「薫子さんが調理したてを持ってきてくれよ♪」
天竜寺詩が手渡した弁当を鹿島雲雀は頂いた。
「地面から出てたのはほんの少しだったんです。でも掘ってみたら」
「やけに平べったくて大きいな」
昼食後、リリティアが滝川雅華に大岩の破壊を頼んだ。斧で砕く度に三人で予定地の外へと破片を運んだ。一日がかりの大仕事である。
「薫子さん、あのまま進めても大丈夫ですか?」
「もちろんですよ。想像していたよりも早くて助かっています」
夕日を浴びながらの帰り道、リリティアは苗床で作業していた薫子と言葉を交わす。
「お風呂は気持ちいいね」
「もしかしてこの湯船、檜か? こだわってるなー」
天竜寺詩と鹿島雲雀が湯船に浸かってくつろいだ。リリティアは鼻歌交じりに身体を洗う。
出された食事は和食が多い。但し貴重なだけにジャポニカ米は使われていなかった。
●
「魔法で効率よく取り除ければいいんですけれど、難しそうですね」
「早く終わったらみんなのところを手伝おうね」
マルグリットとネムリアに宛がわれた土地は雑草に覆われていた。二人の背を余裕で越える茂みのせいで向こう側がまったく見通せない。手袋をはめて抜いていくとあっと言う間に雑草の山が。
マルグリットが薫子に聞いてみたところ、毒性の強い草が混じっているので家畜に食べさせるのは難しいようだ。
「それは残念よね」
「あれ?」
二人でお喋りしながら雑草を抜いていると突然に視界が拓ける。高い雑草に囲まれるようにして大地にクローバーが群生していた。
昼食を届けに来た薫子に相談してみると「腐ったクローバーさえ避けてもらえれば牛の餌になりますね」とのことである。
さっそく牛三頭を借りてクローバーを食べさせる。二人は牛の近くで監視しながら石を拾い集めた。
「牛さんたち、美味しそうだね」
「本当に。まさかクローバーがこんなに育っているなんて。一石二鳥ですね」
痩せた畑にクローバーを植えて牛や豚に食べさせると再び作物が育つようになるという。さらに四つ葉のクローバーを発見した二人は幸運の兆しを感じ取る。
雑木は三本程度ですぐに処理し終わった。転がっていた岩は二人で担いで運べる程度の数と大きさである。
雑草を一掃した時点で牛達に耕作道具で土を掘り返してもらう。すると新たな石がごろごろと現れた。
それを三回繰り返すことで開拓作業は終了。完全に石がなくなったわけではないが、稲を育てるには支障が無い状態になる。
早めに終わったマルグリットとネムリアは仲間達を手伝った。
薫子と仲間五人によって肥料が撒かれて土と混ぜられる。そしてついに水路の堰が外された。
●
水の引き込みが行われて一晩が過ぎ去る。朝食後、コトランと銀桃花は田んぼへと散歩に出かけた。
「水張ったらデッカイ池みたいだな!」
「こらっ! トラ君、田んぼで泥んこ遊びはダメ!」
田んぼへ飛び込もうとしたコトランの襟首を銀桃花が掴まえる。
「なあなあ、オイラ水遊びしたい!」
隙を突いたコトランが田んぼに足を踏み入れると銀桃花が追いかけた。
「すげえええ!」
「きゃー!? やったわねえええ」
大きく跳ねて大喜びのコトランに銀桃花が反撃。一緒に泥だらけとなった。
「これでよし。ん?」
農耕具の整備をしていた滝川雅華の前に二人が戻ってくる。正座させられてお説教を食らうコトランと銀桃花であった。
「それでは」
天竜寺詩が豊作祈願の神楽舞を舞う。田んぼの中央に作られたあぜ道で扇子が高く掲げられた。
厳かな時を過ごしてから田植えが行われる。
「あは、くすぐったーい! 足の裏がソワソワする」
田んぼに立ったネムリアが声を震えさせた。
全員で一列になって後ろ向きに進みながら苗を植えていく。
「こんな大変なんて。これからは御飯を残したりなんてできませんね」
「農家の苦労ってのが身に染みて分かるよな。よく、親に『感謝して食え』って言われてたけど。なるほど、こりゃいくら感謝しても足りねーわ」
マルグリットが額の汗を二の腕で拭う。鹿島雲雀は曲げていた腰を伸ばす。
コトラン、銀桃花、滝川雅華もかなりきつそうである。区切りのよいところでお昼になった。
「どうですか? 田植えの感想は」
「ハント依頼に出たほうが余程楽です……。この苦労を知ってたら、食べ物を粗末になんてできないですね」
薫子に訊ねられたリリティアはヘトヘトである。夕方、寝床の家に戻っても彼女は苦悶の表情を浮かべていた。
「中々キツそうだなぁ、リリティア。しょうが無いな」
鹿島雲雀はリリティアを俯せにすると丁寧に腰を揉んであげる。
ハンター達の頑張りのおかげでとても捗る。予定通りの面積に苗が植えられた。
●
最後の夕食時、ジャポニカ米が振る舞われる。
天竜寺詩はお湯から取りだした袋を破って丼のご飯にかけた。彼女が持ってきたのはレトルトカレー。
(やっぱりご飯はこうでなくっちゃ♪)
スプーンで掬って口に含むと懐かしい香りと味が広がる。リアルブルーで食べたそのものの味だ。
「耕作が上手くいってこのお米が沢山食べられるよう祈ってるね」
「ありがとう。頑張らせてもらいます」
薫子にカレーをお裾分けした天竜寺詩である。
鹿島雲雀は産みたて生卵二個を割り、器に醤油を垂らして軽く箸で混ぜた。そして湯気立つ御飯の上へ。
「ふはー! ほかほかの白米つったら、やっぱこの食い方に限るわ。美味ぇ!」
鹿島雲雀は満面の笑みを浮かべる。ふと背中を向けていたリリティアが気になって身体を逸らして覗き込んだ。
(ふ、ふふ……まさかここでうな重できるとは思わなかったのです……)
はぐはぐと食べていたリリティアは鹿島雲雀と目が合う。
「なーなー、リリティアー。それも美味そうだな、ちょっと分けてくれよぅ」
猫なで声で迫る鹿島雲雀にリリティアがため息一つ。
「卵がけ御飯と交換なら」
「やったっ!」
少しずつ分け合って互いの味を楽しんだ鹿島雲雀とリリティアだった。
スキップしながら厨房から現れたマルグリットは盆の上に深皿を二つのせている。
「カレーに鰻、卵掛け御飯。どれも美味しそうですね♪」
通りすがりに仲間達の丼を眺めながら席についた。彼女が作ったのはホワイトソースをかけた白身魚入りドリア二皿分である。
「うーん、頑張ったあとのお食事は格別ですね♪ お箸がどんどん進みます」
片方がインディカ米。もう一方がジャポニカ米。じっくりと食べ比べるマルグリットだ。
「ねっ、薫子さん。この御飯、冷めても美味しい、って言ってたよね。おじじやおばばに食べさせてあげたいなあ。わたしの分、持って帰って、構わない?」
一口だけで食べるのを止めたネムリアは薫子にお願いする。
「でしたらお握りではどうでしょう?」
薫子があげた中でネムリアは塩鮭入りお握りを選んだ。彼女はお土産としてもらったお握り三個を大事に仕舞う。
「銀シャリはまさにこの味だ。栽培がうまくいけば日本酒造りにも拍車がかかるんだけどね」
「ジャポニカ米を使った料理店を作れればと考えているんですよ」
滝川雅華と薫子は米の未来について語り合う。その横でコトランと銀桃花が魚の干物をおかずにして御飯を頂いていた。
「炊きたてのお米美味しーvv」
銀桃花は大事に噛みしめながら御飯を味わう。
「このジャポニカ米、うまいなー! オイラの知ってる米と全然違う!」
コトランは瞬く間に丼一杯分を食べきってしまった。
銀桃花の丼にこっそりとコトランのスプーンが迫る。それに気づいた銀桃花がさっと退かしたが間に合わない。
「トラ君、もう自分の食べたでしょ! 雅ねえー何とか言ってやってよー!」
「一口くらいいーじゃねーか! ねーちゃん達はリアルブルーにいた頃この飯食ってたんだろ!? オイラ初めてなんだかんな! ねーちゃんのケーチ! ばーか!」
スプーン一杯分の御飯を奪取された銀桃花が滝川雅華に助けを求めた。
「コトラン私はお前を人のご飯取るような子に躾けた覚えないよ。返しなさい!」
一喝されたコトランがシュンと両肩を落とす。銀桃花は『今度、お返しもらうからねっ』と一口分の御飯をあげた。
こうしてハンター達の手伝いは終わる。数日の間、何かと炊きたて御飯の味を思いだしてしまう一同であった。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/24 00:06:41 |
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相談卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/04/26 00:01:39 |