ゲスト
(ka0000)
カモン・シャークダイル
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2015/05/09 09:00
- 完成日
- 2015/05/14 20:25
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ハンターたちは現在海に来ている。大型の魔物が出たという話を聞いて。
現在カレンダーでは春だが、ここは一足早く季節を先取る南のくに。砂浜を慕い寄せては返す波を見ていると、泳ぎたいとはいかないまでも、足を付けてみるくらいはしたくなってくる気温。
どこまでも青い海。
青い空。
彼方に湧き出る白い雲。
近場に落ちてる貝の殻。
沖を飛んでるカモメたち。
岸辺を歩くカラスたち。
岩陰で日に焼け朽ちていくいかがわしい春画集。
去年から浜に置き去りにされてそうな錆びたバーベキュー台。
ビキニの美女が当地名産であるかまぼことじゃこ天を手に微笑む看板。
…とか色々見ているうちに、魔獣が姿を現した。
「おっ、あれか!」
青い波間に突き出る三角のひれ。
体長5メートルはあろうかという鮫――それが今回退治するべき相手だ。
非常に凶暴で、動くものと見れば魚だろうが人間だろうが船だろうが襲ってくる。
一週間前沖合いに出ようとした漁船が、速攻でこいつに見つけられてしまい、船底に穴をあけられ、ほうほうの呈で逃げ帰ってきた(その際残念にも、1名食われてしまったそうな)。
これ以上の犠牲は出させない。その決意のもとハンターたちは、ゆるゆる行ったり来たりしている鮫を睨む。
「とりあえず、あいつを海から陸に上げちまおう。水中だと向こうが有利だろうしな」
「そうですね。手も足も出せなくなったところで袋叩きにしましょう」
鮫の動きが止まった。
獲物がなかなか海に入ってこようとしないので焦れたのだろうか。真っ直ぐ彼らがいる岸に向かってくる。
浅瀬に入ったら身動きが取れなくなるはずだが、それさえ分からないくらい頭が悪いのだろうか、この魔獣。
「馬鹿め、飛んで火に入るなんとやらだ!」
鮫は勢いを増し、どんどん近づいてくる。
そのまま速度を落とさず――砂浜へと駆け上がる!
「おい!? 足あるのかよ!!」
「聞いてませんよ!?」
リプレイ本文
囮役として波打ち際に接近していくのは、最上 風(ka0891)とゾファル・G・初火(ka4407)。前者は徒歩、後者は馬に乗っている。
仲間との打ち合わせ通り、鮫魔獣を浜辺に引き寄せよう。あわよくば乗り上げさせるところまでいきたい。なにしろあいつは鮫型だ。陸では身動きが取れなくなるに違いない。
という目論みをもっての行動だったが、残念ながら敵はこの通り地を駆けている。
「鮫の体にワニの足……インパクトとしては微妙ですね。むしろどうやって陸上で呼吸が出来るのかの方が気になりますね、魔獣だから関係ないのですかね」
風は食べる気満満で近づいてくる相手をセイクリッドフラッシュでいなし、距離を取る。
これを無事退治したら名産のカマボコとじゃこ天をお土産に貰えるかな。マグロとかホタテとかエビとかカニの魚介類でもいい――等々考えつつ以下の台詞を口にする。
「あの鮫は、食べられるんでしょうかね?」
そこはゾファルにとっても興味深いところだ。なにしろ今回の依頼には、「ふかひれ喰い放題だぜ」という意気込みをもって臨んでいるのである。多少変なものが生えていようがこれはやはり鮫であり、鮫である以上食えるはず。
が、そんな彼女の希望的観測は裏切られた。
犬養 菜摘(ka3996)が囮役を援護するため鮫ワニを撃ったのだが、それによって出来た傷が、生物としてあり得ない速度で再生して行くのだ。
歪虚化が相当に進んでしまっている。なら当然食べられない。
「チッ……ぬか喜びさせやがって…このがっかり感を怒りに、そしてさらに力に変えて闘うぜよー!」
血を沸かせるゾファルの耳に、天央 観智(ka0896)の声が聞こえた。
待ち伏せ組の一員として浜の奥手にいる彼は、彼女と同様馬に乗っている。
「お2人ともすいません、ちょっとの間そいつを引き回してもらえますかー! 急遽こちらに誘い込みの罠を作りますのでー!」
風はロッドを、ゾファルはギガースアックスを掲げ、それに応じる。
「了解ですー!」
「おらおらー、ひき肉にしてやるじゃーん」
横腹に巨斧の一撃。
鼻先間近に光の爆発。
鮫ワニは三重になった牙をむき、攻撃してきた獲物を追いかけていく。
観智は双眼鏡でその様を観察し、分析する。
「サメの様な、ワニの様な……水陸両用の魔獣ですか」
右左に体をよじらせてという不格好な走り方だが、結構速い。一目で分かる攻撃性。加えてあの大きさ。
(かなり危険な生物ですね。実際人が1人、すでに犠牲となっていますし)
●
「憤怒の歪虚だとは思いますが、リゾート地を荒らすとは言語道断です。このような輩はさっさと終わらせてしまいましょう」
憤慨口調のジークリンデ(ka4778)は、立ち上げたアースウォールの裏側に潜んでいる。鮫ワニの視界から身を隠すため。
狙撃を確実なものとするため砂中に潜伏している菜摘は、動き回る対象から目をそらす事なく弾の補充を行う。
「的としては大きいから当たりやすいけど……再生力が高そうなのがちょっと厄介ですかね。力も強そうですし。まあ、熊ほど危険では無さそうですが」
紅緒(ka4255)、琥珀(ka4851)と罠――ロープを地面の下に隠し、相手が通りがかったところを持ち上げ足を引っかけこかすという簡単なもの――を作成していた天牙 龍(ka4306)は、菜摘の言葉に首をひねった。
「熊の方があの鮫ワニより危険なのでござるか?」
「勿論です」
大きさ凶暴さから考え熊の方が安全としか思えない龍は、相手の断言ぶりにますます首をひねる。過去植えつけられた熊へのトラウマが、イノシシ大好き猟撃士の胸に脈々と生き続けているなどという事情を、とんと知らぬがゆえに。
なんにしても迎え撃つ態勢は整った。
紅緒は観智へ、準備が完了したことを伝える。
「観智さん、2人に戻ってくるよう言ってちょうだい」
頷いた観智は手綱を引き、馬を進ませた。彼女たちから見えやすい位置まで移動してから両手を口元に当て、大きな声を上げる。
「こちら準備出来ましたよー! いつでもどうぞー!」
琥珀はジークリンデと同じ壁裏にいる。魔獣が走り込み罠にはまり込んだなら、たちどころに打って出、切りかかる所存だ。
「よもや脚があるとは、それも雑魔たる所以か」
紅緒と相対し岩陰に隠れている龍は、鮫ワニの足音に耳をそばだてる。
(あれは……魚人といえばいいのでござろうか? 以前見たリアルブルー経由と称する漫画の中に、ああいう類いの登場人物を見たことがあったような……体は鮫でなく鯛、足はワニでなく人でござったが……)
どうでもいい話と言えば話だが、ちょっと気になったので、当のリアルブルー出身である紅緒に聞いてみる。
「……うーん、心当たりがないわね。天牙さんいつ読んだの、その漫画」
「そうでござるなあ、確かかれこれ15年ほど前に見た記憶が」
「ごめんなさい、あたしそのとき生まれてないから」
そもそも漫画文化と触れ合ったのはクリムゾンウェストに来てからである。という部分を省略した紅緒は、敵が近づいてくる方向に顔を向け、不適な笑みを零す。
「大きさとしては八尋鰐ならぬ、三尋鰐ね――足までつけて生意気じゃないの。逃げ足まで速いかどうかは分からないけど、それを披露する前に倒してやるわ」
琥珀は静かに呼吸を整え、すらりと霊刀ミカヅチを抜く。
馬のいななきと人の声、魔獣の立てる振動が近づいてくる。
「人を食らうは重き罪業、木端と散る雑魔に輪廻の重きなど知る由も無かろうが、散れ。我が刃の元に」
ジークリンデはスキールニルを握る指に力を入れる。
(もし暴れて危険そうなら、スリープクラウドを……とにかく地上で始末しませんと……)
たとえ魔法に耐性があったとしても、今回の依頼には自分と同じく魔術師の観智が参加している。2人で協力すれば効かないということはないはずだ。
そのように彼女が算段していた矢先、異変が起きた。鮫ワニが唐突に、ぴたっと動きを止めたのだ。
●
「えっ!?」
「な、なんだ!?」
風とゾファルは緊急停止をかけた。徐々に速度を落としていた鮫ワニが、急に足を止めたもので。口を開いたまま白眼をむいている。腹の動きからして息はしているのだが、動く気配がまるでなし。
風は大きく手を振り、注意を引こうとする。
「ほーらほら、餌はこっちですよー」
しかし反応しない。
「おいこら、エンコしてる場合じゃねえじゃん! 走るじゃん!」
ゾファルが罵倒を浴びせ背後から斧で小突いても、反応しない。
異変を見て取った観智が、彼女らの元まで馬を走らせてきた。
「一体どうしたんですか?」
「いや、それが分からないんです。急に止まってしまって」
「まさかあっちに罠があること、感づいたんじゃねえよな? 観智ちゃんどう思うよ?」
「うーん、さて、どうでしょうね」
彼にとって目の前で起きているこの現象は、知的好奇心を刺激されるものである。
これまでの行動からして頭のレベルはけして高く無さそうなのだが、本当は一定の思考能力があるのか……しかしであるなら、一目散に海へ逃げたっていいわけだ。それもせずにただ停止しているとは不条理の極み……もしかすると、狂気の属性が強い歪虚なのかも。ならば支離滅裂な行動を取ったって、全然おかしくない。
(……でもジークリンデさんは、憤怒の属性が強い歪虚だろうという見立てをなさってましたし……)
観智が考えあぐねている間に風は、もっと至近距離からセイクリッドフラッシュをかけてみようと決心した。そうすれば刺激にびっくりして、正気に戻るかもしれない。
「ヘイヘイ、いきなりどこかへトリップするのは止めるのです。動くのですよ。走――」
白目が元に戻った。
巨体が前方に飛び出す。顎が上下かみ合う。観智がウィンドガストを発動させる。全て一瞬の出来事だった。
●
待機組は見た。突然止まったと同じく突然動き出した鮫ワニの顎が、近づいてきた風を飲み込もうとするのを。風が観智の放ったウィンドガストの助けを得、すんでのところで脇に飛びのくのを。ゾファルが風の襟首を掴んで、一目散に馬を駆けさせるのを。
「ぐえ! 首絞まります首ぃ!」
引きずられる格好になっている風の苦情には目を瞑るしかない。鮫ワニが勢いを取り戻し、馬の尻あたりまで迫ってきているのだから。
「謎が解けました。恐らくさっきのは一時休息していただけです。体力を回復させるために」
「今解説とかいらねえじゃん!」
怒鳴り声と蹄の音が通過するのに歩調を合わせ、龍が叫ぶ。
「今でござるよ!!」
隠されていたロープがびん、と張られた。鮫ワニの前脚が引っ掛かる。
重心が低いので転倒するとまではいかなかったが、動きにもつれが生じた。一旦後退し罠を飛び越えるという知恵は働かないらしい。力押しで前へ進もうとする。
引きずられると判断した龍と紅緒は手を放した。勢いを殺しかね鮫ワニがつんのめる。
機を逃さず菜摘は銃撃を浴びせた。脚を重点的に狙う。回復力が高いようなので、同じ箇所へ立て続けに撃ち込む。
鮫ワニは腹を支えにして大きく身をよじった。尾で近くにある土壁を叩く。壁にひびが入りぼろぼろ崩れ始める。
降り落ちてくる土くれを払いのけたジークリンデは、スリープクラウドを発動した。鮫ワニの周囲に眠りを誘う雲が湧き起こり消える。
だが、眠った直後倒れこむ際、壁に頭をぶつけ起きてしまう。再度の衝撃で、崩れかけていた壁が消滅した。
体勢を立て直し戻ってきた観智が、続けてスリープクラウドをかぶせる――再度鮫ワニの動きが止まった。
「普通の鮫はここを触られると、大人しくなるそうね……あんたはどうかしら――明時に匂い散らせよ水芙蓉 深泥に開け花が如くに!」
建速女の足、勇女の雄詰、天拳槌。持てる全てのスキルを重ねた紅緒は、相手の鼻先へ狼牙棒を打ち込む。
龍も正面から敵の懐へ挑む。
「チェェェストーーーーーーーーー!!」
虎徹の刃が鮫ワニの右前ヒレに食い込み、中途から断ち切った。
ミカヅチを手にした琥珀が、続いて攻撃を仕掛ける。
「御雷衆合いんだらや 我が懐剣は妙理いかづちの験を以て業難を割つ 風雷疾く天奔り響みて此れに障礙を散らさん……海はお前の利となろう。絶対に帰さん」
鮫ワニはかっと口を開き威嚇する。
琥珀が砂を蹴った。三角形の頭部目がけ、強烈な突きを繰り出した。
刀身が深く頭蓋に突き刺さる。鮫ワニの目がくるっと白く裏返った。猛烈な勢いで体を跳ねさせる――目的があっての動きではなく、肉体的刺激に対する反応といったものらしい。
「琥珀さん、離れてください! ライトニングボルトをかけてみますから!」
琥珀は鮫ワニの頭を足蹴にし、飛びのきざま刀を引き抜く。
観智のレヴァリーから雷が走り、敵の頭から尾まで一直線に貫く。
鮫ワニはドスンと砂地に落ち、不規則に痙攣する。
ジークリンデが、鼻や目といった急所に、マジックアローを仕掛ける。
菜摘は患部へ、執拗な射撃を行う。
きしむような声を上げた鮫ワニは、巨体を大きく方向転換させた。海へ向けて這いずって行こうとする。この段に及んでようやく、自分が危険な立場にいる事を理解出来たらしい。
だが気づくのが遅すぎた。周囲は完全に包囲されている。
風がセイクリッドフラッシュで足止めをかけてくる。
「ここまで来て逃しはしません!」
ギガースアックスを手にしたゾファルが、敵の体を駆け登った。
「さあーて、お楽しみの時間じゃん? くまなく輪切りにしてやるじゃん!」
巨大な斧を大きく振りかぶり、体が浮くほどの速度をつけ振り下ろす。尻尾から頭に向けてどんどん断ち切って行く。
「ひゃははははははは! 巻き鮨みてーじゃん! くず肉にしてやるじゃん! ヒャッハー!」
荒ぶるバトルジャンキーの血が命じるまま、相手が蒸発し無と帰してしまうまで、斬って斬って斬りまくる。
「消滅完了! ふー、すっきりしたじゃん」
服が返り血でべちょべちょだが、本人はさして気にしない。どうせそのうちこれも消えてしまうのだから、と。
「さって、せっかく海に来たんだから泳ぐじゃーん!」
ポイポイ身につけたものを脱ぎ捨て、下着一枚で海に入って行くゾファル。
琥珀はミカヅチを鞘にしまう。目を細め、水平線の彼方を見つめる。
「所詮鮫は鮫。陸に上がるが己が命運の尽きよ。尤も、命運などという高尚なものを具えてなど居らぬだろうが――せめて風に散り、自然に還るが良い」
●
裸足の足首に波が這い寄り、引いて行く。合わせて足裏に接している砂も動く。
ジークリンデはその感触を楽しんでいた。
海は故郷の森にある川や湖などとは違う。規模が大きいせいだろうか、より強く『意思』を感じる。舐めてみれば塩辛い。同じ水の集合体であるのに、思えば不思議なものだ。
「ふふ、なんだか面白いです」
波打ち際にしゃがみ波を掬う彼女の顔に、突然飛沫がかかる。
「きゃっ! 何をなさるんですか、ゾファルさん!」
海に腰まで浸かったゾファルは、相手の抗議にニヤッと笑う。
「へへー、足つけてばっかりじゃなくて、一緒に泳ぐじゃん。うぉりゃー!」
「きゃー!?」
「お2人とも、あまり長居されませんようにー。体が冷えますのでねー。でも風邪ひいたら回復しますよー、今ならお安くしておきますよー」
水遊びをするゾファルとジークリンデに向け呼びかける風は、浜辺に放置されていたバーベキュー台に炭をセットしている。漁協から依頼解決の礼としてハンター全員に『かまじゃこセット』、及び『貝類詰め合わせ』をいただいたので、早速試食しようと思って。
そこに菜摘が走ってきた。
「風さん、向こうにウニがいましたよ! こんなおっきいのがたくさん!」
「えっ、本当ですか!」
朗報にいてもたってもいられない風は、たまたま近くにいた観智にバーべキュー台を任せる。
「越智さん、代わりに火を起こしておいてくれますか?」
「ええ、いいですよぉ」
気温は高く、空は明るい。どこからかミカンの花の爽やかな香りが漂ってくる。
龍は日差しに手をかざしながら言った。
「暑くなってきたとはいえ、夏本番前でよかったでござるな。下手に魔獣出現と時期がかぶると、海が楽しめないでござるからな」
紅緒は頷きを返し、足元に落ちていた貝殻を拾う。
「そうね。やっぱり海は楽しく過ごせる場所じゃないと」
ゾファルは相変わらずジークリンデを海に引っ張り込み、遊んでいる。脱ぎ散らかした服がカラスに咥えられ、どこかへ引きずられて行っているのだが、遊びに夢中で気づいてないらしい。
琥珀はさりげなくカラスに近づき追い払い、拾い集めてやった。
その段になってゾファルが声を上げる。
「あー! 琥珀ちゃん女子高生の生服盗む気じゃん!」
なんたる濡れ衣。
「違う! 断じて違う!」
仲間との打ち合わせ通り、鮫魔獣を浜辺に引き寄せよう。あわよくば乗り上げさせるところまでいきたい。なにしろあいつは鮫型だ。陸では身動きが取れなくなるに違いない。
という目論みをもっての行動だったが、残念ながら敵はこの通り地を駆けている。
「鮫の体にワニの足……インパクトとしては微妙ですね。むしろどうやって陸上で呼吸が出来るのかの方が気になりますね、魔獣だから関係ないのですかね」
風は食べる気満満で近づいてくる相手をセイクリッドフラッシュでいなし、距離を取る。
これを無事退治したら名産のカマボコとじゃこ天をお土産に貰えるかな。マグロとかホタテとかエビとかカニの魚介類でもいい――等々考えつつ以下の台詞を口にする。
「あの鮫は、食べられるんでしょうかね?」
そこはゾファルにとっても興味深いところだ。なにしろ今回の依頼には、「ふかひれ喰い放題だぜ」という意気込みをもって臨んでいるのである。多少変なものが生えていようがこれはやはり鮫であり、鮫である以上食えるはず。
が、そんな彼女の希望的観測は裏切られた。
犬養 菜摘(ka3996)が囮役を援護するため鮫ワニを撃ったのだが、それによって出来た傷が、生物としてあり得ない速度で再生して行くのだ。
歪虚化が相当に進んでしまっている。なら当然食べられない。
「チッ……ぬか喜びさせやがって…このがっかり感を怒りに、そしてさらに力に変えて闘うぜよー!」
血を沸かせるゾファルの耳に、天央 観智(ka0896)の声が聞こえた。
待ち伏せ組の一員として浜の奥手にいる彼は、彼女と同様馬に乗っている。
「お2人ともすいません、ちょっとの間そいつを引き回してもらえますかー! 急遽こちらに誘い込みの罠を作りますのでー!」
風はロッドを、ゾファルはギガースアックスを掲げ、それに応じる。
「了解ですー!」
「おらおらー、ひき肉にしてやるじゃーん」
横腹に巨斧の一撃。
鼻先間近に光の爆発。
鮫ワニは三重になった牙をむき、攻撃してきた獲物を追いかけていく。
観智は双眼鏡でその様を観察し、分析する。
「サメの様な、ワニの様な……水陸両用の魔獣ですか」
右左に体をよじらせてという不格好な走り方だが、結構速い。一目で分かる攻撃性。加えてあの大きさ。
(かなり危険な生物ですね。実際人が1人、すでに犠牲となっていますし)
●
「憤怒の歪虚だとは思いますが、リゾート地を荒らすとは言語道断です。このような輩はさっさと終わらせてしまいましょう」
憤慨口調のジークリンデ(ka4778)は、立ち上げたアースウォールの裏側に潜んでいる。鮫ワニの視界から身を隠すため。
狙撃を確実なものとするため砂中に潜伏している菜摘は、動き回る対象から目をそらす事なく弾の補充を行う。
「的としては大きいから当たりやすいけど……再生力が高そうなのがちょっと厄介ですかね。力も強そうですし。まあ、熊ほど危険では無さそうですが」
紅緒(ka4255)、琥珀(ka4851)と罠――ロープを地面の下に隠し、相手が通りがかったところを持ち上げ足を引っかけこかすという簡単なもの――を作成していた天牙 龍(ka4306)は、菜摘の言葉に首をひねった。
「熊の方があの鮫ワニより危険なのでござるか?」
「勿論です」
大きさ凶暴さから考え熊の方が安全としか思えない龍は、相手の断言ぶりにますます首をひねる。過去植えつけられた熊へのトラウマが、イノシシ大好き猟撃士の胸に脈々と生き続けているなどという事情を、とんと知らぬがゆえに。
なんにしても迎え撃つ態勢は整った。
紅緒は観智へ、準備が完了したことを伝える。
「観智さん、2人に戻ってくるよう言ってちょうだい」
頷いた観智は手綱を引き、馬を進ませた。彼女たちから見えやすい位置まで移動してから両手を口元に当て、大きな声を上げる。
「こちら準備出来ましたよー! いつでもどうぞー!」
琥珀はジークリンデと同じ壁裏にいる。魔獣が走り込み罠にはまり込んだなら、たちどころに打って出、切りかかる所存だ。
「よもや脚があるとは、それも雑魔たる所以か」
紅緒と相対し岩陰に隠れている龍は、鮫ワニの足音に耳をそばだてる。
(あれは……魚人といえばいいのでござろうか? 以前見たリアルブルー経由と称する漫画の中に、ああいう類いの登場人物を見たことがあったような……体は鮫でなく鯛、足はワニでなく人でござったが……)
どうでもいい話と言えば話だが、ちょっと気になったので、当のリアルブルー出身である紅緒に聞いてみる。
「……うーん、心当たりがないわね。天牙さんいつ読んだの、その漫画」
「そうでござるなあ、確かかれこれ15年ほど前に見た記憶が」
「ごめんなさい、あたしそのとき生まれてないから」
そもそも漫画文化と触れ合ったのはクリムゾンウェストに来てからである。という部分を省略した紅緒は、敵が近づいてくる方向に顔を向け、不適な笑みを零す。
「大きさとしては八尋鰐ならぬ、三尋鰐ね――足までつけて生意気じゃないの。逃げ足まで速いかどうかは分からないけど、それを披露する前に倒してやるわ」
琥珀は静かに呼吸を整え、すらりと霊刀ミカヅチを抜く。
馬のいななきと人の声、魔獣の立てる振動が近づいてくる。
「人を食らうは重き罪業、木端と散る雑魔に輪廻の重きなど知る由も無かろうが、散れ。我が刃の元に」
ジークリンデはスキールニルを握る指に力を入れる。
(もし暴れて危険そうなら、スリープクラウドを……とにかく地上で始末しませんと……)
たとえ魔法に耐性があったとしても、今回の依頼には自分と同じく魔術師の観智が参加している。2人で協力すれば効かないということはないはずだ。
そのように彼女が算段していた矢先、異変が起きた。鮫ワニが唐突に、ぴたっと動きを止めたのだ。
●
「えっ!?」
「な、なんだ!?」
風とゾファルは緊急停止をかけた。徐々に速度を落としていた鮫ワニが、急に足を止めたもので。口を開いたまま白眼をむいている。腹の動きからして息はしているのだが、動く気配がまるでなし。
風は大きく手を振り、注意を引こうとする。
「ほーらほら、餌はこっちですよー」
しかし反応しない。
「おいこら、エンコしてる場合じゃねえじゃん! 走るじゃん!」
ゾファルが罵倒を浴びせ背後から斧で小突いても、反応しない。
異変を見て取った観智が、彼女らの元まで馬を走らせてきた。
「一体どうしたんですか?」
「いや、それが分からないんです。急に止まってしまって」
「まさかあっちに罠があること、感づいたんじゃねえよな? 観智ちゃんどう思うよ?」
「うーん、さて、どうでしょうね」
彼にとって目の前で起きているこの現象は、知的好奇心を刺激されるものである。
これまでの行動からして頭のレベルはけして高く無さそうなのだが、本当は一定の思考能力があるのか……しかしであるなら、一目散に海へ逃げたっていいわけだ。それもせずにただ停止しているとは不条理の極み……もしかすると、狂気の属性が強い歪虚なのかも。ならば支離滅裂な行動を取ったって、全然おかしくない。
(……でもジークリンデさんは、憤怒の属性が強い歪虚だろうという見立てをなさってましたし……)
観智が考えあぐねている間に風は、もっと至近距離からセイクリッドフラッシュをかけてみようと決心した。そうすれば刺激にびっくりして、正気に戻るかもしれない。
「ヘイヘイ、いきなりどこかへトリップするのは止めるのです。動くのですよ。走――」
白目が元に戻った。
巨体が前方に飛び出す。顎が上下かみ合う。観智がウィンドガストを発動させる。全て一瞬の出来事だった。
●
待機組は見た。突然止まったと同じく突然動き出した鮫ワニの顎が、近づいてきた風を飲み込もうとするのを。風が観智の放ったウィンドガストの助けを得、すんでのところで脇に飛びのくのを。ゾファルが風の襟首を掴んで、一目散に馬を駆けさせるのを。
「ぐえ! 首絞まります首ぃ!」
引きずられる格好になっている風の苦情には目を瞑るしかない。鮫ワニが勢いを取り戻し、馬の尻あたりまで迫ってきているのだから。
「謎が解けました。恐らくさっきのは一時休息していただけです。体力を回復させるために」
「今解説とかいらねえじゃん!」
怒鳴り声と蹄の音が通過するのに歩調を合わせ、龍が叫ぶ。
「今でござるよ!!」
隠されていたロープがびん、と張られた。鮫ワニの前脚が引っ掛かる。
重心が低いので転倒するとまではいかなかったが、動きにもつれが生じた。一旦後退し罠を飛び越えるという知恵は働かないらしい。力押しで前へ進もうとする。
引きずられると判断した龍と紅緒は手を放した。勢いを殺しかね鮫ワニがつんのめる。
機を逃さず菜摘は銃撃を浴びせた。脚を重点的に狙う。回復力が高いようなので、同じ箇所へ立て続けに撃ち込む。
鮫ワニは腹を支えにして大きく身をよじった。尾で近くにある土壁を叩く。壁にひびが入りぼろぼろ崩れ始める。
降り落ちてくる土くれを払いのけたジークリンデは、スリープクラウドを発動した。鮫ワニの周囲に眠りを誘う雲が湧き起こり消える。
だが、眠った直後倒れこむ際、壁に頭をぶつけ起きてしまう。再度の衝撃で、崩れかけていた壁が消滅した。
体勢を立て直し戻ってきた観智が、続けてスリープクラウドをかぶせる――再度鮫ワニの動きが止まった。
「普通の鮫はここを触られると、大人しくなるそうね……あんたはどうかしら――明時に匂い散らせよ水芙蓉 深泥に開け花が如くに!」
建速女の足、勇女の雄詰、天拳槌。持てる全てのスキルを重ねた紅緒は、相手の鼻先へ狼牙棒を打ち込む。
龍も正面から敵の懐へ挑む。
「チェェェストーーーーーーーーー!!」
虎徹の刃が鮫ワニの右前ヒレに食い込み、中途から断ち切った。
ミカヅチを手にした琥珀が、続いて攻撃を仕掛ける。
「御雷衆合いんだらや 我が懐剣は妙理いかづちの験を以て業難を割つ 風雷疾く天奔り響みて此れに障礙を散らさん……海はお前の利となろう。絶対に帰さん」
鮫ワニはかっと口を開き威嚇する。
琥珀が砂を蹴った。三角形の頭部目がけ、強烈な突きを繰り出した。
刀身が深く頭蓋に突き刺さる。鮫ワニの目がくるっと白く裏返った。猛烈な勢いで体を跳ねさせる――目的があっての動きではなく、肉体的刺激に対する反応といったものらしい。
「琥珀さん、離れてください! ライトニングボルトをかけてみますから!」
琥珀は鮫ワニの頭を足蹴にし、飛びのきざま刀を引き抜く。
観智のレヴァリーから雷が走り、敵の頭から尾まで一直線に貫く。
鮫ワニはドスンと砂地に落ち、不規則に痙攣する。
ジークリンデが、鼻や目といった急所に、マジックアローを仕掛ける。
菜摘は患部へ、執拗な射撃を行う。
きしむような声を上げた鮫ワニは、巨体を大きく方向転換させた。海へ向けて這いずって行こうとする。この段に及んでようやく、自分が危険な立場にいる事を理解出来たらしい。
だが気づくのが遅すぎた。周囲は完全に包囲されている。
風がセイクリッドフラッシュで足止めをかけてくる。
「ここまで来て逃しはしません!」
ギガースアックスを手にしたゾファルが、敵の体を駆け登った。
「さあーて、お楽しみの時間じゃん? くまなく輪切りにしてやるじゃん!」
巨大な斧を大きく振りかぶり、体が浮くほどの速度をつけ振り下ろす。尻尾から頭に向けてどんどん断ち切って行く。
「ひゃははははははは! 巻き鮨みてーじゃん! くず肉にしてやるじゃん! ヒャッハー!」
荒ぶるバトルジャンキーの血が命じるまま、相手が蒸発し無と帰してしまうまで、斬って斬って斬りまくる。
「消滅完了! ふー、すっきりしたじゃん」
服が返り血でべちょべちょだが、本人はさして気にしない。どうせそのうちこれも消えてしまうのだから、と。
「さって、せっかく海に来たんだから泳ぐじゃーん!」
ポイポイ身につけたものを脱ぎ捨て、下着一枚で海に入って行くゾファル。
琥珀はミカヅチを鞘にしまう。目を細め、水平線の彼方を見つめる。
「所詮鮫は鮫。陸に上がるが己が命運の尽きよ。尤も、命運などという高尚なものを具えてなど居らぬだろうが――せめて風に散り、自然に還るが良い」
●
裸足の足首に波が這い寄り、引いて行く。合わせて足裏に接している砂も動く。
ジークリンデはその感触を楽しんでいた。
海は故郷の森にある川や湖などとは違う。規模が大きいせいだろうか、より強く『意思』を感じる。舐めてみれば塩辛い。同じ水の集合体であるのに、思えば不思議なものだ。
「ふふ、なんだか面白いです」
波打ち際にしゃがみ波を掬う彼女の顔に、突然飛沫がかかる。
「きゃっ! 何をなさるんですか、ゾファルさん!」
海に腰まで浸かったゾファルは、相手の抗議にニヤッと笑う。
「へへー、足つけてばっかりじゃなくて、一緒に泳ぐじゃん。うぉりゃー!」
「きゃー!?」
「お2人とも、あまり長居されませんようにー。体が冷えますのでねー。でも風邪ひいたら回復しますよー、今ならお安くしておきますよー」
水遊びをするゾファルとジークリンデに向け呼びかける風は、浜辺に放置されていたバーベキュー台に炭をセットしている。漁協から依頼解決の礼としてハンター全員に『かまじゃこセット』、及び『貝類詰め合わせ』をいただいたので、早速試食しようと思って。
そこに菜摘が走ってきた。
「風さん、向こうにウニがいましたよ! こんなおっきいのがたくさん!」
「えっ、本当ですか!」
朗報にいてもたってもいられない風は、たまたま近くにいた観智にバーべキュー台を任せる。
「越智さん、代わりに火を起こしておいてくれますか?」
「ええ、いいですよぉ」
気温は高く、空は明るい。どこからかミカンの花の爽やかな香りが漂ってくる。
龍は日差しに手をかざしながら言った。
「暑くなってきたとはいえ、夏本番前でよかったでござるな。下手に魔獣出現と時期がかぶると、海が楽しめないでござるからな」
紅緒は頷きを返し、足元に落ちていた貝殻を拾う。
「そうね。やっぱり海は楽しく過ごせる場所じゃないと」
ゾファルは相変わらずジークリンデを海に引っ張り込み、遊んでいる。脱ぎ散らかした服がカラスに咥えられ、どこかへ引きずられて行っているのだが、遊びに夢中で気づいてないらしい。
琥珀はさりげなくカラスに近づき追い払い、拾い集めてやった。
その段になってゾファルが声を上げる。
「あー! 琥珀ちゃん女子高生の生服盗む気じゃん!」
なんたる濡れ衣。
「違う! 断じて違う!」
依頼結果
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相談卓 犬養 菜摘(ka3996) 人間(リアルブルー)|21才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/05/09 04:57:54 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/03 22:08:53 |