ゲスト
(ka0000)
名前を付けて!―狐―
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/01 19:00
- 完成日
- 2015/05/09 15:20
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
蒸気工場都市フマーレ、その工業区の外れにひっそり佇む煉瓦造りの工場。アイビーの絡む塀に囲まれた広い庭、門に掲げられた看板には、「阪井紡績有限会社」。
水車が回る動力が建物内の歯車を伝い、今日も何百と並ぶスピンドルが絶え間なく綿花を紡ぐ軽快な音が響いている。
先月、この工場にもたらされた二つの吉報。
一、ふかふかな尻尾が愛らしく、どうやら人の言葉をある程度分かっていそうな振る舞いを見せる賢い狐
一、防火の魔術が施された種子から育ち、機械では紡げないが手を掛けて紡いで織れば、多少の炎ではびくつかない布に仕上がる特殊な綿花
「さて……」
工場長、阪井輔は綿花の袋を片腕に抱え、膝に乗ってきた狐を撫でて溜息を零す。
遠い山から来た狐は社員一号のエンリコ・アモーレの元で回復し、最近では工場の庭を走り回る快活さを見せる。希に工場を尋ねてくる客人にも吠えついたりせず、大人しく座って撫でられれば尻尾を振って懐いてみせる卒の無さがある。
そろそろ、散歩に出しても良いのかもしれないね。
先日、阪井がそう呟くと、狐を抱えていたエンリコよりも先に飛び跳ねて喜んでいた。
丁度良い、そろそろあの綿花を紡がなければならないし、そうしている間は構ってやれないから。
●
ハンターのチームが2組呼ばれた。
片方はエンリコが、もう片方は阪井が依頼したらしい。
エンリコはの前足の下辺りで抱き上げて言う。腹を晒してだらりと伸びた格好は落ち着かないらしく、狐は横を向いて鼻を鳴らしている。
「こいつの散歩に、付き合って貰えませんか? 阪井さん……工場長、今日は忙しいんで」
首輪を付けると暴れて嫌がる、腕に抱えていくんじゃ散歩の意味が無い。
「こいつが外に慣れるように、一緒に歩いて貰えませんか? あと、実はまだ名前が無くって……それも相談したいなって思ったんすよ」
尻尾を揺らした狐を地面に下ろす。
「皆さん、よろしくお願いします! 阪井さん、いってきまーす」
さあ行こうかと、狐を足下に招く。門から振り返ると仕事を始める阪井に大きく手を振って、広い通りへと走り出した。
工場からの道を1つ曲がって暫く歩く。大人しく着いてきていた狐がきゅっと鳴いて足を止めた。
エンリコが促してもその場に留まって歩こうとせず、立てた耳を振るわせて左右への警戒を見せる。
正面から近付いてきた婦人が軽く会釈をして近付いてきた。
「あの、すみません。この辺りで…………」
婦人の話は幾らか込み入っていた。
彼女はある家具作りの工場で勤めており、この近くの捻子の工場へ発注の伝票を届けに来た。
しかし、人とぶつかった拍子にその伝票を落としてしまい、風に飛ばされてしまった。
拾い集めている内に、鞄を落としてしまい、その鞄を野良犬に持って行かれてしまった。
「伝票はあと3枚見付からないし……犬もどこかへ行ってしまったし……もう、散々」
それでも、一番急ぐ伝票だけは回収出来たから、まずはそれを届けに行って。
それから残りを書き直して。
鞄探しは夜かしらね。
野良犬を見なかったかとエンリコとハンター達に尋ねた婦人は肩を竦めて溜息を吐いた。
狐が不意にきゅうと高い声で鳴いて走り出した。
「あ、ま、待てっ――――って、い、犬! おねーさん! いぬー、あれですかー!」
狐を追ったエンリコが走りながら、前を横切った小型の野良犬を指した。その頭にはハンドバッグが引っ掛かっている。
「その犬ー、捕まえてー!」
婦人が声を張り上げた。
●
犬の発見に一時呆然としたが、伝票は急がないと工場が閉まってしまう。
婦人はどうしたものかと首を傾げた。
「と、取り敢えず、これを届けないと……あっ!」
突風が、婦人の手からその急ぎの伝票を掠った。
婦人は伝票を追い、慌てて走り出した。
蒸気工場都市フマーレ、その工業区の外れにひっそり佇む煉瓦造りの工場。アイビーの絡む塀に囲まれた広い庭、門に掲げられた看板には、「阪井紡績有限会社」。
水車が回る動力が建物内の歯車を伝い、今日も何百と並ぶスピンドルが絶え間なく綿花を紡ぐ軽快な音が響いている。
先月、この工場にもたらされた二つの吉報。
一、ふかふかな尻尾が愛らしく、どうやら人の言葉をある程度分かっていそうな振る舞いを見せる賢い狐
一、防火の魔術が施された種子から育ち、機械では紡げないが手を掛けて紡いで織れば、多少の炎ではびくつかない布に仕上がる特殊な綿花
「さて……」
工場長、阪井輔は綿花の袋を片腕に抱え、膝に乗ってきた狐を撫でて溜息を零す。
遠い山から来た狐は社員一号のエンリコ・アモーレの元で回復し、最近では工場の庭を走り回る快活さを見せる。希に工場を尋ねてくる客人にも吠えついたりせず、大人しく座って撫でられれば尻尾を振って懐いてみせる卒の無さがある。
そろそろ、散歩に出しても良いのかもしれないね。
先日、阪井がそう呟くと、狐を抱えていたエンリコよりも先に飛び跳ねて喜んでいた。
丁度良い、そろそろあの綿花を紡がなければならないし、そうしている間は構ってやれないから。
●
ハンターのチームが2組呼ばれた。
片方はエンリコが、もう片方は阪井が依頼したらしい。
エンリコはの前足の下辺りで抱き上げて言う。腹を晒してだらりと伸びた格好は落ち着かないらしく、狐は横を向いて鼻を鳴らしている。
「こいつの散歩に、付き合って貰えませんか? 阪井さん……工場長、今日は忙しいんで」
首輪を付けると暴れて嫌がる、腕に抱えていくんじゃ散歩の意味が無い。
「こいつが外に慣れるように、一緒に歩いて貰えませんか? あと、実はまだ名前が無くって……それも相談したいなって思ったんすよ」
尻尾を揺らした狐を地面に下ろす。
「皆さん、よろしくお願いします! 阪井さん、いってきまーす」
さあ行こうかと、狐を足下に招く。門から振り返ると仕事を始める阪井に大きく手を振って、広い通りへと走り出した。
工場からの道を1つ曲がって暫く歩く。大人しく着いてきていた狐がきゅっと鳴いて足を止めた。
エンリコが促してもその場に留まって歩こうとせず、立てた耳を振るわせて左右への警戒を見せる。
正面から近付いてきた婦人が軽く会釈をして近付いてきた。
「あの、すみません。この辺りで…………」
婦人の話は幾らか込み入っていた。
彼女はある家具作りの工場で勤めており、この近くの捻子の工場へ発注の伝票を届けに来た。
しかし、人とぶつかった拍子にその伝票を落としてしまい、風に飛ばされてしまった。
拾い集めている内に、鞄を落としてしまい、その鞄を野良犬に持って行かれてしまった。
「伝票はあと3枚見付からないし……犬もどこかへ行ってしまったし……もう、散々」
それでも、一番急ぐ伝票だけは回収出来たから、まずはそれを届けに行って。
それから残りを書き直して。
鞄探しは夜かしらね。
野良犬を見なかったかとエンリコとハンター達に尋ねた婦人は肩を竦めて溜息を吐いた。
狐が不意にきゅうと高い声で鳴いて走り出した。
「あ、ま、待てっ――――って、い、犬! おねーさん! いぬー、あれですかー!」
狐を追ったエンリコが走りながら、前を横切った小型の野良犬を指した。その頭にはハンドバッグが引っ掛かっている。
「その犬ー、捕まえてー!」
婦人が声を張り上げた。
●
犬の発見に一時呆然としたが、伝票は急がないと工場が閉まってしまう。
婦人はどうしたものかと首を傾げた。
「と、取り敢えず、これを届けないと……あっ!」
突風が、婦人の手からその急ぎの伝票を掠った。
婦人は伝票を追い、慌てて走り出した。
リプレイ本文
●
狐を追うエンリコの後を直ぐさま追ったコリーヌ・エヴァンズ(ka0828)、ヒュムネ・ミュンスター(ka4288)、ベリト・アルミラ(ka4331)。
3人は細い道を抜けて直ぐに大通りへ、行き交う人々の足下を走り抜けていく犬と狐、その後ろを何度も人の流れに阻まれながら追うエンリコ、待てと叫ぶが犬も狐も、待つ様子は無い。
人の流れを縫うように軽い足で先へ先へと走る。
春の突風が婦人の細い指から掠った伝票は、1度高く舞い上がり、路地を抜けて大通りへと飛ばされていく。
それを追った婦人の後に続いたパティ=アヴァロンウッド(ka3439)、シェリアク=ベガ(ka4647)、レウィル=スフェーン(ka4689)の3人も大通りへ到る。
通りを行く人々は強い風に笑いながら荷物を抱え直したり、スカートや帽子を押さえている。
ひらりと一枚の伝票が、そんな人々の間をすり抜けていった。
大通りへ差し掛かると、婦人はその流れにぶつかりそうになりながら足を止めた。
「おばさま!」
パティの声が呼び止めるが、婦人は怯みながらも混み合う人々の中を走ろうとする。伸ばした腕の先、伝票は風に煽られて飛んでいく。
「少しお待ち下さい……っ! おばさまを見失うといけません」
伝票と婦人へ交互に視線を向け、パティは婦人の前へ腕を伸ばして制する。
伝票を捕まえても、彼女を見失ってしまっては届け先も分からないのだから、とパティが説得し、他の2人が通りへ走った。
「お姉さんは無理しないでねっ!」
「足の速さと身のこなしには自信があるよー、……母さんに、死ぬ程仕込まれたから、ね!」
通りの人々よりも頭1つ小柄なシェリアクが、髪を靡かせながら隙間を縫って走り、レウィルは頬を嬲る春風の行き先を見詰めて伝票を狙う。走り掛けながら肩越しに振り返った緑の目を細めて手を振った。
「そこで待ってて貰って、大丈夫ですよー。あ、何か注意することありますか?」
息を切らした婦人の答えを聞いたパティは、彼女を路肩に休ませて2人と共に伝票を追う。
見えたと思った次の瞬間には風に流されてしまうそれ、手を伸ばそうとすれば、おっと、と通り掛かる職人と肩が触れる。
伝票と同じ方向へ進む流れに紛れて進みながら、パティは声を上げた。
「すみません。急いでいます!」
その声に数人が振り返る。真っ直ぐに伸ばした指で伝票を指し、
「道の端へ移動して下さい……!」
周辺の職人に告げる。その意図に気付いた数人が、大変だなと道を譲り、気付かなかった者も彼女の声に暫し足を止めた。
「風下に向かってるよね。んー、大通りに出たら、どこかに落ちているかも?」
シェリアクは周囲をきょろきょろと見回しながら走って行く。
「うーん、わんちゃんも気になるけど……」
途中までは同じ方へ走っていた犬と狐、それを追ったエンリコとハンター達。出遅れたと肩を竦めて伝票を探すが、彼等の行き先も気掛かりだ。
風が髪を揺らして吹き抜けていく。
風向き、風下、流されるばかりの伝票はそちらへ飛ばされざるをえないが、或いはあの犬もそうなのだろうか。ぽんと浮かんだ言葉を伝えようと伝話に触れるが、犬を追った仲間からの応答は無い。
伝話をしまって、視線を通りへ向け直す。
「……書類よ出ておいでー……っ、見付けた!」
呼び掛けに答えるように、ひらり、眼前を横切ったそれに手を伸ばす。
指先が掠めた瞬間、温かな風が掠って行く。
目を眇めながらその行き先を追い、どこかで落ちているかも知れないと走り出した。
レウィルに追い付いたパティが婦人の言葉を伝える。通りの入り口で座って待っていることと、破れなければ多少の汚れや皺は構わないこと、時間はとても押していること。
話しながらパティもレウィルも足を止めず、通りの人々に声を掛けながら伝票を探す。
「……それにしても、ハンターって、色んな仕事するんだなあ……あ!」
「気楽なっ、散歩、の、依頼っ、だと……っ……!」
狐の散歩に、偶然の些細なトラブル。ハンターの初仕事だと笑ったレウィルがその視界の端に伝票を捕らえ、肩で息をしながら周囲を見回したパティも同じ方を向いて目を瞠った。
見つけた、と2人は風を追って走り出す。
レウィルが風向きを探り、パティがその行き先の人々に声を掛けて。追い付いたシェリアクが、出ておいで、と明るい声で誘い、探す。
不意の突風を隠す柔らかな春風の中、伝票がその手に戻るまでもう暫し掛かりそうだ。
●
狐を追って真っ先に大通りへ出たエンリコは人の流れに巻かれ、強引に進もうとするも、狐の尻尾が揺れるのを最後に見て足を止めた。
「こら、置いてけー!」
追ってきたコリーヌの声にそちらを向く。コリーヌは人々の足下を容易く通り抜けていく狐の背を見下ろし、その先を行く犬の首で揺れる鞄に溜息を零す。
「しかしまた、なんで鞄を持って行っちゃうのかなー」
肩を竦めて呟くと、足を止め瞼を伏せる。足音を聞き分けて深呼吸、片手を耳に、もう片方は立てた指で唇を塞ぎ、静かに、と手振りで伝える。人の声、人の足音、蒸気の音、鎚の音、機械の軋む金属音。幾重にも重なる音を一枚ずつ剥ぐように澄ます耳に届く2匹の小さな足音。あまり遠くは無いが、探しながら追うのは難しそうだ。
「ちょっとでも聞こえれば分かる、けど……うーん、機械の音が――っ」
見付けた音を追おうとして開く目がその姿を見付けることは無く、再度足音を聞こうとしても通りに出てしまえば並ぶ工場の音と人々の立てる音が妨げる。
「任せな、昔から走るのは得意なんだよ!」
ヒュムネは初めに見付けた尻尾から方向を定めると人の流れを躱しながら走って行く。人々の動きを感覚的に捕らえながら軽いステップで迂回し、混雑を抜けていく。
得意とするサッカー、対峙するチームの守備を抜ける要領で、足を弾ませて目標を探る。
人通りが一瞬途切れた隙を横切った柔らかそうな麦穂色の尻尾、それはある路地の手前でふつりと途切れた。
「あっ、そこの狐、待ちなさい、止まりなさい!」
ヒュムネを追ったベリトが声を上げたが、狐は止まる様子も無く犬を追っていく。
合流したコリーヌとエンリコに、ヒュムネは路地を指し示す。
「入り込めるところは限られているはずだよ」
コリーヌは路地を覗く。
大通りから続くものの、道は細く大通りとの境に建つ工場から奥は明かりが灯っていない。耳を傾けても蒸気の音も、歯車の音も聞こえない。
「狐は、こちらに飛び込んだようですわ……狐。狐を狐って呼ぶのもおかしな話よね」
「ああ、確かにここで尻尾が、……こう」
ベリトがコリーヌに次いで路地を覗き、ヒュムネが頷き見えた尻尾の動きを中空に指先で描いてみせる。
出てこい、と呼び掛けながら雑草を掻き分けてコリーヌは路地へ数歩歩み入る。その先に何やらいるような気配はするが、出てきそうには無い。
「むー……こうなったら、取って置きのご飯を使うしか無いのかぬー」
土埃に噎せそうな廃屋を覗き、犬や狐の通れそうな隙間を探すが、薄暗い中で探すには限度がある。
仕方ない、と荷物の中から食事を取り出し、その中から犬が好みそうな物を選ぶ。
「ほーらほら、美味しいお肉だよー?」
もう1つ摘まんだナゲットを一口囓って味を見ると、美味しいよ、と揺らして誘う。
ナゲット1つ食べ終えるまで反応は無し。
暫く匂いで誘ってみよう、美味しそうだしきっと出てくる、とエンリコもフリッターを頬張って笑む。
ヒュムネはその献立の中から、ジャーキーを摘まんだ。犬が食むには塩気を強く感じるが、餌に似ているように思える。
「犬ってのは食事時に近寄られると、餌を奪われるもんだと思って警戒しちまうからな……」
「狐の方は、どうでしょう」
賢いと聞いていたとベリトが見回しながら呟く。
「静かに待った方が良いかなー」
ナゲットを揺らしながら、コリーヌも首を傾げる。
その耳が微かな音を聞いた。
音の方へ紫の目が向く。近付こうとするコリーヌの前にヒュムネが腕を翳して遮る。
「下がんな」
手にしていた肉を犬の近くへと投じる。ぽそと草の間に落ちたそれを暫く嗅いで、ハンター達が黙って見詰める中、ぱくりと咥えた。
「…………っ、ぅぐ」
迂回してきたらしい狐が食事を求めてか、エンリコの肩に飛び乗った。犬を見守り声を立てないように口を押さえながら、喉に詰まったフリッターにぱたぱたと胸を叩いている。
コリーヌが笑む目を向けて、狐にもナゲットを差し出し、食べるかと尋ねるように首を傾げる。その手から機嫌良く受け取った狐はハンター達の肩へ跳ねて、食事の傍らで丸くなった。
ヒュムネが2つ目のジャーキーを自身の近くへ放る。
暫し警戒を見せた犬が早足で近づきそれを咥え、去ってしまう前に3つ目をちらつかせて誘う。
コリーヌも、狐にあれこれと差し出して、好んだ物を犬に向けても揺らしてみせる。
「お肉だよー……狐も好きなお肉だよー……」
囁く声で呼び掛けると、犬は尻尾を下ろしてこちらを見詰める。2人がその手の届く距離に餌を置くと、駆け寄ってきてぱくついた。肉を食んで下がる頭に、その隙を突いて鞄に手を掛ける。
鞄が首から抜けた瞬間、犬は驚いたように飛び跳ねて茂みの奥へ走り去った。
それを見届け、鞄の無事を確かめて4人はほっと息を吐く。
「んふー、ふかふか尻尾が可愛いんだよー」
コリーヌに撫でられて狐はぱたりと尻尾を揺らす。地面の草をはたいてぱたぱたと楽しげに。
犬を追いかけ、犬が掴まると大人しくこちらに戻ってきて、賢いらしい様子を見たヒュムネも狐を擽る。毛並みを指に懐かせ、首を傾げた。
「そういやさ、此奴って雄? 雌? ――賢いって意味なら……ワイズ……ヴァイゼ……」
故郷の言葉を思い浮かべながら上げていく。どんな名前が似合うだろうと狐を見詰めた。
「神話にテウメッソとかいう狐がいますね」
ベリトが呟いて狐を眺めた。その神話の狐はどんな物語だっただろうと瞼を伏せて思い浮かべる。
視界を閉ざすと工場の音が聞こえてくる。
「……こちらは、朴訥素朴であってほしい、でも発展して便利がいい……上から目線で見ちゃってるのかなあ……」
その音にこの世界の歩みを感じながら、青い故郷から来た自身の、彼等とは異なる視野を思って淡い溜息を零した。
●
「ど、どなたかつい先程、紙切れが飛んでいくのを見ませんでしたか……!」
ふっと目の前を横切ったきり見失った伝票にパティが声を張って通行人に尋ねる。顔を見合わせた数人の内、1人があっちだと指差した。
風である工場の壁に張り付いていた伝票は、見付けたと手を伸ばすとはらりと壁から離れて、地面に舞い降り、落ちる寸前にまた舞い上がる。
「ああ、もう……っ」
息を上げて、その先へ手を伸ばす。走り回った汗を手の甲で拭い、軽装で良かったと、肩で息をしながら呟いた。
「――っと、こっちだね……歪虚なんかに比べれば、簡単なはず……!」
直前にパティと別れて風下に走ったレウィルが手を伸ばし空を掴み、開いた掌を擽られ、摘まんだと思えば風に煽られ、破れそうにはためくそれに思わず指を離してしまい。
「なかなか落ちてこないね。でも、捕まえるまで頑張るよ!」
追い付いたシェリアクも、ひらりと舞う伝票へ手を伸ばした。
大通りを只管飛ばされていく伝票に、3人がかりで追いかけて、風を遮り、手を伸ばして。
「そこです……っ、すみません、空けて下さい!」
パティが声を上げ、伝票の待った空間の人を遮る。シェリアクの伸ばした手が風を止めて、伝票に掠め、
「今度こそ、離さないよ!」
レウィルが握り締めてその手の中に捕まえた。
「捕まえた? やった! ……って、急いで戻らないとだねっ」
ぱっと安堵に笑んだシェリアクが慌てた声で走ってきた道を示し、3人は人混みを避けて婦人の待つ路地へ急ぐ。
届けるまで、と、婦人と共に走って捻子の工場へ向かい、門が閉ざされる寸前に伝票は届けられた。
「よかった……本当に、ありがとう……」
ハンター達と走った婦人も息を上げながら深々と頭を下げる。
残りの伝票も気になると、パティがそわそわと辺りを見回し、レウィルもまだ明るいからと手伝いを申し出る。
「……性分なのです。その、どうしても気になってしまって……」
やらなくても良いとは分かっているけれど、と肩を竦めると婦人も眉を垂れて首を横に揺らした。
これ以上は申し訳ない、と、私もそう言う性分だから、と困ったように微笑んで。
婦人と共に元の道へ向かう。
「リアルブルーのおとぎ話にゴンって狐が出てきたんだよな……工場長さんなら知ってるんじゃないかな」
伝票を追うのに夢中になって途切れた狐の件を思い出し、レウィルが告げる。
はい、とシェリアクが手を上げた。
「えっとね……デネボラ! 尻尾って意味の星の名前」
その星の所以を上げるが、到着して再開した狐の姿に相好が崩れ、尻尾がもふもふで可愛いと手を伸ばす。
「今からお散歩出来ないかな?」
狐は伸ばされた手に懐いて、腕を伝って肩まで上り、もふもふ、と評された尻尾を揺らす。パティはその狐を軽く撫でるに留めて、疲れた顔で肩を落とす。
「私は、……またの機会に――名前は、そうですね……紋章に狐を戴く同盟から……アリーというのは如何でしょうか?」
沢山走りましたから、と狐を眺めて目を細めた。
合流したハンター達が婦人に鞄を返す。狐を肩に乗せながらシェリアクは、どこが気に入られたのだろうとその鞄を眺めた。婦人は鞄の緩んだ取っ手を弄って、首に掛かりやすかったのかも、と揺らして見せた。
エンリコがシェリアクの肩に手を伸ばす。
「尻尾、箒みたいになってるぞ……そんなんで、たいそうな名前、付けて貰えるのかー?」
斜に眺めるエンリコと、得意そうに笑う狐。
「んー……ふかふか尻尾……ほうき……ブルーム? いやいや、ほうき星のコメットちゃん?」
呟いたコリーヌの言葉にエンリコが瞬く。
尻尾に絡んだ土埃と雑草を払って、ブルーム、と笑った。
婦人と別れ、工場に向かう。ベリトがふと、もう一つの依頼を思い出した。
「燃えない綿ねえ……不燃布を安全に作れるならきっとこの世界の人の力になってくれるわよね」
そうだと良いと、己の肩に戻る気配の無い狐を振り返りエンリコは笑う。
工場の門を開け、ハンター達を庭へ通す。紡績の依頼を受けていたハンター達に、ブルームと紹介すると、そう呼ばれた狐は由来を不満げに尻尾を揺らしながら、ハンター達の肩を巡る。
「ただいま帰りました」
エンリコが阪井に声を掛けて工場内へ向かう。工場の扉が開くと狐もそれを追ってくる。
床に散らかる細かな繊維を撫でる尻尾は、しかし、楽しげに揺れている。箒という名は暫し撤回出来そうに無い。
狐を追うエンリコの後を直ぐさま追ったコリーヌ・エヴァンズ(ka0828)、ヒュムネ・ミュンスター(ka4288)、ベリト・アルミラ(ka4331)。
3人は細い道を抜けて直ぐに大通りへ、行き交う人々の足下を走り抜けていく犬と狐、その後ろを何度も人の流れに阻まれながら追うエンリコ、待てと叫ぶが犬も狐も、待つ様子は無い。
人の流れを縫うように軽い足で先へ先へと走る。
春の突風が婦人の細い指から掠った伝票は、1度高く舞い上がり、路地を抜けて大通りへと飛ばされていく。
それを追った婦人の後に続いたパティ=アヴァロンウッド(ka3439)、シェリアク=ベガ(ka4647)、レウィル=スフェーン(ka4689)の3人も大通りへ到る。
通りを行く人々は強い風に笑いながら荷物を抱え直したり、スカートや帽子を押さえている。
ひらりと一枚の伝票が、そんな人々の間をすり抜けていった。
大通りへ差し掛かると、婦人はその流れにぶつかりそうになりながら足を止めた。
「おばさま!」
パティの声が呼び止めるが、婦人は怯みながらも混み合う人々の中を走ろうとする。伸ばした腕の先、伝票は風に煽られて飛んでいく。
「少しお待ち下さい……っ! おばさまを見失うといけません」
伝票と婦人へ交互に視線を向け、パティは婦人の前へ腕を伸ばして制する。
伝票を捕まえても、彼女を見失ってしまっては届け先も分からないのだから、とパティが説得し、他の2人が通りへ走った。
「お姉さんは無理しないでねっ!」
「足の速さと身のこなしには自信があるよー、……母さんに、死ぬ程仕込まれたから、ね!」
通りの人々よりも頭1つ小柄なシェリアクが、髪を靡かせながら隙間を縫って走り、レウィルは頬を嬲る春風の行き先を見詰めて伝票を狙う。走り掛けながら肩越しに振り返った緑の目を細めて手を振った。
「そこで待ってて貰って、大丈夫ですよー。あ、何か注意することありますか?」
息を切らした婦人の答えを聞いたパティは、彼女を路肩に休ませて2人と共に伝票を追う。
見えたと思った次の瞬間には風に流されてしまうそれ、手を伸ばそうとすれば、おっと、と通り掛かる職人と肩が触れる。
伝票と同じ方向へ進む流れに紛れて進みながら、パティは声を上げた。
「すみません。急いでいます!」
その声に数人が振り返る。真っ直ぐに伸ばした指で伝票を指し、
「道の端へ移動して下さい……!」
周辺の職人に告げる。その意図に気付いた数人が、大変だなと道を譲り、気付かなかった者も彼女の声に暫し足を止めた。
「風下に向かってるよね。んー、大通りに出たら、どこかに落ちているかも?」
シェリアクは周囲をきょろきょろと見回しながら走って行く。
「うーん、わんちゃんも気になるけど……」
途中までは同じ方へ走っていた犬と狐、それを追ったエンリコとハンター達。出遅れたと肩を竦めて伝票を探すが、彼等の行き先も気掛かりだ。
風が髪を揺らして吹き抜けていく。
風向き、風下、流されるばかりの伝票はそちらへ飛ばされざるをえないが、或いはあの犬もそうなのだろうか。ぽんと浮かんだ言葉を伝えようと伝話に触れるが、犬を追った仲間からの応答は無い。
伝話をしまって、視線を通りへ向け直す。
「……書類よ出ておいでー……っ、見付けた!」
呼び掛けに答えるように、ひらり、眼前を横切ったそれに手を伸ばす。
指先が掠めた瞬間、温かな風が掠って行く。
目を眇めながらその行き先を追い、どこかで落ちているかも知れないと走り出した。
レウィルに追い付いたパティが婦人の言葉を伝える。通りの入り口で座って待っていることと、破れなければ多少の汚れや皺は構わないこと、時間はとても押していること。
話しながらパティもレウィルも足を止めず、通りの人々に声を掛けながら伝票を探す。
「……それにしても、ハンターって、色んな仕事するんだなあ……あ!」
「気楽なっ、散歩、の、依頼っ、だと……っ……!」
狐の散歩に、偶然の些細なトラブル。ハンターの初仕事だと笑ったレウィルがその視界の端に伝票を捕らえ、肩で息をしながら周囲を見回したパティも同じ方を向いて目を瞠った。
見つけた、と2人は風を追って走り出す。
レウィルが風向きを探り、パティがその行き先の人々に声を掛けて。追い付いたシェリアクが、出ておいで、と明るい声で誘い、探す。
不意の突風を隠す柔らかな春風の中、伝票がその手に戻るまでもう暫し掛かりそうだ。
●
狐を追って真っ先に大通りへ出たエンリコは人の流れに巻かれ、強引に進もうとするも、狐の尻尾が揺れるのを最後に見て足を止めた。
「こら、置いてけー!」
追ってきたコリーヌの声にそちらを向く。コリーヌは人々の足下を容易く通り抜けていく狐の背を見下ろし、その先を行く犬の首で揺れる鞄に溜息を零す。
「しかしまた、なんで鞄を持って行っちゃうのかなー」
肩を竦めて呟くと、足を止め瞼を伏せる。足音を聞き分けて深呼吸、片手を耳に、もう片方は立てた指で唇を塞ぎ、静かに、と手振りで伝える。人の声、人の足音、蒸気の音、鎚の音、機械の軋む金属音。幾重にも重なる音を一枚ずつ剥ぐように澄ます耳に届く2匹の小さな足音。あまり遠くは無いが、探しながら追うのは難しそうだ。
「ちょっとでも聞こえれば分かる、けど……うーん、機械の音が――っ」
見付けた音を追おうとして開く目がその姿を見付けることは無く、再度足音を聞こうとしても通りに出てしまえば並ぶ工場の音と人々の立てる音が妨げる。
「任せな、昔から走るのは得意なんだよ!」
ヒュムネは初めに見付けた尻尾から方向を定めると人の流れを躱しながら走って行く。人々の動きを感覚的に捕らえながら軽いステップで迂回し、混雑を抜けていく。
得意とするサッカー、対峙するチームの守備を抜ける要領で、足を弾ませて目標を探る。
人通りが一瞬途切れた隙を横切った柔らかそうな麦穂色の尻尾、それはある路地の手前でふつりと途切れた。
「あっ、そこの狐、待ちなさい、止まりなさい!」
ヒュムネを追ったベリトが声を上げたが、狐は止まる様子も無く犬を追っていく。
合流したコリーヌとエンリコに、ヒュムネは路地を指し示す。
「入り込めるところは限られているはずだよ」
コリーヌは路地を覗く。
大通りから続くものの、道は細く大通りとの境に建つ工場から奥は明かりが灯っていない。耳を傾けても蒸気の音も、歯車の音も聞こえない。
「狐は、こちらに飛び込んだようですわ……狐。狐を狐って呼ぶのもおかしな話よね」
「ああ、確かにここで尻尾が、……こう」
ベリトがコリーヌに次いで路地を覗き、ヒュムネが頷き見えた尻尾の動きを中空に指先で描いてみせる。
出てこい、と呼び掛けながら雑草を掻き分けてコリーヌは路地へ数歩歩み入る。その先に何やらいるような気配はするが、出てきそうには無い。
「むー……こうなったら、取って置きのご飯を使うしか無いのかぬー」
土埃に噎せそうな廃屋を覗き、犬や狐の通れそうな隙間を探すが、薄暗い中で探すには限度がある。
仕方ない、と荷物の中から食事を取り出し、その中から犬が好みそうな物を選ぶ。
「ほーらほら、美味しいお肉だよー?」
もう1つ摘まんだナゲットを一口囓って味を見ると、美味しいよ、と揺らして誘う。
ナゲット1つ食べ終えるまで反応は無し。
暫く匂いで誘ってみよう、美味しそうだしきっと出てくる、とエンリコもフリッターを頬張って笑む。
ヒュムネはその献立の中から、ジャーキーを摘まんだ。犬が食むには塩気を強く感じるが、餌に似ているように思える。
「犬ってのは食事時に近寄られると、餌を奪われるもんだと思って警戒しちまうからな……」
「狐の方は、どうでしょう」
賢いと聞いていたとベリトが見回しながら呟く。
「静かに待った方が良いかなー」
ナゲットを揺らしながら、コリーヌも首を傾げる。
その耳が微かな音を聞いた。
音の方へ紫の目が向く。近付こうとするコリーヌの前にヒュムネが腕を翳して遮る。
「下がんな」
手にしていた肉を犬の近くへと投じる。ぽそと草の間に落ちたそれを暫く嗅いで、ハンター達が黙って見詰める中、ぱくりと咥えた。
「…………っ、ぅぐ」
迂回してきたらしい狐が食事を求めてか、エンリコの肩に飛び乗った。犬を見守り声を立てないように口を押さえながら、喉に詰まったフリッターにぱたぱたと胸を叩いている。
コリーヌが笑む目を向けて、狐にもナゲットを差し出し、食べるかと尋ねるように首を傾げる。その手から機嫌良く受け取った狐はハンター達の肩へ跳ねて、食事の傍らで丸くなった。
ヒュムネが2つ目のジャーキーを自身の近くへ放る。
暫し警戒を見せた犬が早足で近づきそれを咥え、去ってしまう前に3つ目をちらつかせて誘う。
コリーヌも、狐にあれこれと差し出して、好んだ物を犬に向けても揺らしてみせる。
「お肉だよー……狐も好きなお肉だよー……」
囁く声で呼び掛けると、犬は尻尾を下ろしてこちらを見詰める。2人がその手の届く距離に餌を置くと、駆け寄ってきてぱくついた。肉を食んで下がる頭に、その隙を突いて鞄に手を掛ける。
鞄が首から抜けた瞬間、犬は驚いたように飛び跳ねて茂みの奥へ走り去った。
それを見届け、鞄の無事を確かめて4人はほっと息を吐く。
「んふー、ふかふか尻尾が可愛いんだよー」
コリーヌに撫でられて狐はぱたりと尻尾を揺らす。地面の草をはたいてぱたぱたと楽しげに。
犬を追いかけ、犬が掴まると大人しくこちらに戻ってきて、賢いらしい様子を見たヒュムネも狐を擽る。毛並みを指に懐かせ、首を傾げた。
「そういやさ、此奴って雄? 雌? ――賢いって意味なら……ワイズ……ヴァイゼ……」
故郷の言葉を思い浮かべながら上げていく。どんな名前が似合うだろうと狐を見詰めた。
「神話にテウメッソとかいう狐がいますね」
ベリトが呟いて狐を眺めた。その神話の狐はどんな物語だっただろうと瞼を伏せて思い浮かべる。
視界を閉ざすと工場の音が聞こえてくる。
「……こちらは、朴訥素朴であってほしい、でも発展して便利がいい……上から目線で見ちゃってるのかなあ……」
その音にこの世界の歩みを感じながら、青い故郷から来た自身の、彼等とは異なる視野を思って淡い溜息を零した。
●
「ど、どなたかつい先程、紙切れが飛んでいくのを見ませんでしたか……!」
ふっと目の前を横切ったきり見失った伝票にパティが声を張って通行人に尋ねる。顔を見合わせた数人の内、1人があっちだと指差した。
風である工場の壁に張り付いていた伝票は、見付けたと手を伸ばすとはらりと壁から離れて、地面に舞い降り、落ちる寸前にまた舞い上がる。
「ああ、もう……っ」
息を上げて、その先へ手を伸ばす。走り回った汗を手の甲で拭い、軽装で良かったと、肩で息をしながら呟いた。
「――っと、こっちだね……歪虚なんかに比べれば、簡単なはず……!」
直前にパティと別れて風下に走ったレウィルが手を伸ばし空を掴み、開いた掌を擽られ、摘まんだと思えば風に煽られ、破れそうにはためくそれに思わず指を離してしまい。
「なかなか落ちてこないね。でも、捕まえるまで頑張るよ!」
追い付いたシェリアクも、ひらりと舞う伝票へ手を伸ばした。
大通りを只管飛ばされていく伝票に、3人がかりで追いかけて、風を遮り、手を伸ばして。
「そこです……っ、すみません、空けて下さい!」
パティが声を上げ、伝票の待った空間の人を遮る。シェリアクの伸ばした手が風を止めて、伝票に掠め、
「今度こそ、離さないよ!」
レウィルが握り締めてその手の中に捕まえた。
「捕まえた? やった! ……って、急いで戻らないとだねっ」
ぱっと安堵に笑んだシェリアクが慌てた声で走ってきた道を示し、3人は人混みを避けて婦人の待つ路地へ急ぐ。
届けるまで、と、婦人と共に走って捻子の工場へ向かい、門が閉ざされる寸前に伝票は届けられた。
「よかった……本当に、ありがとう……」
ハンター達と走った婦人も息を上げながら深々と頭を下げる。
残りの伝票も気になると、パティがそわそわと辺りを見回し、レウィルもまだ明るいからと手伝いを申し出る。
「……性分なのです。その、どうしても気になってしまって……」
やらなくても良いとは分かっているけれど、と肩を竦めると婦人も眉を垂れて首を横に揺らした。
これ以上は申し訳ない、と、私もそう言う性分だから、と困ったように微笑んで。
婦人と共に元の道へ向かう。
「リアルブルーのおとぎ話にゴンって狐が出てきたんだよな……工場長さんなら知ってるんじゃないかな」
伝票を追うのに夢中になって途切れた狐の件を思い出し、レウィルが告げる。
はい、とシェリアクが手を上げた。
「えっとね……デネボラ! 尻尾って意味の星の名前」
その星の所以を上げるが、到着して再開した狐の姿に相好が崩れ、尻尾がもふもふで可愛いと手を伸ばす。
「今からお散歩出来ないかな?」
狐は伸ばされた手に懐いて、腕を伝って肩まで上り、もふもふ、と評された尻尾を揺らす。パティはその狐を軽く撫でるに留めて、疲れた顔で肩を落とす。
「私は、……またの機会に――名前は、そうですね……紋章に狐を戴く同盟から……アリーというのは如何でしょうか?」
沢山走りましたから、と狐を眺めて目を細めた。
合流したハンター達が婦人に鞄を返す。狐を肩に乗せながらシェリアクは、どこが気に入られたのだろうとその鞄を眺めた。婦人は鞄の緩んだ取っ手を弄って、首に掛かりやすかったのかも、と揺らして見せた。
エンリコがシェリアクの肩に手を伸ばす。
「尻尾、箒みたいになってるぞ……そんなんで、たいそうな名前、付けて貰えるのかー?」
斜に眺めるエンリコと、得意そうに笑う狐。
「んー……ふかふか尻尾……ほうき……ブルーム? いやいや、ほうき星のコメットちゃん?」
呟いたコリーヌの言葉にエンリコが瞬く。
尻尾に絡んだ土埃と雑草を払って、ブルーム、と笑った。
婦人と別れ、工場に向かう。ベリトがふと、もう一つの依頼を思い出した。
「燃えない綿ねえ……不燃布を安全に作れるならきっとこの世界の人の力になってくれるわよね」
そうだと良いと、己の肩に戻る気配の無い狐を振り返りエンリコは笑う。
工場の門を開け、ハンター達を庭へ通す。紡績の依頼を受けていたハンター達に、ブルームと紹介すると、そう呼ばれた狐は由来を不満げに尻尾を揺らしながら、ハンター達の肩を巡る。
「ただいま帰りました」
エンリコが阪井に声を掛けて工場内へ向かう。工場の扉が開くと狐もそれを追ってくる。
床に散らかる細かな繊維を撫でる尻尾は、しかし、楽しげに揺れている。箒という名は暫し撤回出来そうに無い。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/28 04:08:44 |
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狐と犬と伝票を追いかける相談所 レウィル=スフェーン(ka4689) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/05/01 13:25:32 |