アイリス・レポート:再会編

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/04/28 12:00
完成日
2015/05/01 03:59

みんなの思い出

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オープニング

 ――あの日の事は、今でもはっきりと覚えている。
 燃える森の中を走った事。靴底の枯れ葉の感触。焼ける肉と血の匂い。
 エルフハイム警備隊の隊長であった妹は、自らの部下の亡骸に囲まれて背を向けていた。
「アイリスッ!」
 呼び声に振り返った妹はその両腕に息絶えた少女を抱えていた。
 白い巫女装束の胸に夥しい量の血が滲み、ぽたぽたと妹の身体を伝う。
「ジエルデ姉さん……」
「その子は誰? 何が起きているの? 周りの人達は!? 何故森に人間が居るのっ!?」
 何もわからず混乱する姉。妹はそれを憐れむように……そして蔑むように眉を潜める。
「可哀想な姉さん。あなたはあまりにも優しすぎた」
「何を言っているの……?」
「ここでお別れです。この子はどうか丁重に弔ってあげて。何とか守ってあげたかったけど……私が弱かったから」
 歩み寄り、そっと少女を血に下ろす。そんな妹に背後から矢が放たれた。
「居たぞ! 裏切り者のアイリスだ!」
「器を持ちだした挙句手にかけるとは……貴様!」
 腕に刺さった矢を抜き、アイリスは双剣を構える。襲いかかる兵をいなし、姉を一瞥すると闇の中へ姿を消した。
「待って! 私の妹なんです!」
「ジエルデ殿はこちらへ。長老会より保護の命令を承っています」
「あの子は……あの子は何もしてない! あの子が裏切りなんて何かの間違いなんです! お願いだから……助けて下さい!」
 左右から男に掴まれ、強引に引きずり戻される。
 戦場と化したその地にはもう、女の声を聞き入れる者は一人も居なかった。

「違うんです。あの子は何も……だって優しい子なんです」
 人間とエルフの諍いで家を失った少女を家族として受け入れ、今日まで本当の妹として接してきた。
 森を守って恩返しすると、毎日武術の鍛錬に打ち込んでいた。余所者と陰口を言われても決して諦めなかった。
「だが、アイリスは人間と通じ、秘宝である器を持ち出そうと画策した。結果何人の同胞が命を落とした事か」
「アレは何年も前から人間と密通していたのだ。ジエルデ、貴様にもその監督責任を問わねばならぬ」
 すっかりやつれた顔を挙げると、自らを囲む老人達の険しい顔が見えた。
「略式ではあるが、この会議を以って貴様の長老会入りを命じる。貴様には妹の後始末を手伝ってもらうぞ」
「父は……どうなったのですか?」
「貴様の父は自ら責任を取ると言い残し自害した。貴様が座るのはその後釜だ」
 目を見開き、その場に崩れ落ちる。妹は咎人として命を狙われ、父も死んだ。もう自分は一人ぼっちだ。
「あの子は悪くないんです。悪かったのは……愚かだったのは……。本当に裁かれるべきだったのは……っ!!」
 人間を信じようと笑いかけると、妹は決まって拗ねて言う。「そんな事は不可能だ」と。
 理想を信じ行動した。愛を信じ続けた。自分以外の誰かの為の正義……それが自分の家族を皆殺しにした。
 泣いても叫んでも時は戻らない。
 死ぬまで続く、逃れられない罰が始まった。



 冒険都市リゼリオに足を踏み入れたのは人生初だった。
 活気ある町を作る種族も年齢も関係のない人々。その笑顔を見ると、少し心が癒やされた。
「……うーん。さっきからずっと地図を見ているのに、全くたどり着けない」
 冷や汗を流し見下ろす地図は、執行者ハジャが託した物だった。

「ジエルデ、あんたに頼みがあるんだが」
「治療なら手伝ったでしょう?」
 包帯グルグル巻きのミイラになったハジャはよろつきながら近づいてくる。
「業務外でその辺散歩していたら死にかけるとは、何なのです……」
「色々あって……つかあんた不器用すぎだろなにこれ。術での治療以外てんでダメな……」
 頬を赤らめ目を逸らすジエルデ。不器用は事実だが、これでも真面目にやってるんです。
「それより黙ってて悪かったが、実はアイリス・エルフハイムを見つけたんだよ」
 思わず立ち上がる。ハジャは手描きの地図と偽装した身分証を手渡し。
「でも本物かどうか俺にはわからんので、顔見知りであるあんたに見てきて欲しい」
「何が目的です?」
「アイリス発見なんて大事だろ? 長老会に報告してやっぱり違いましたじゃ俺の首が跳ぶ」
 つまり、本物かどうかの判断を自分に委ねるという。冷や汗を流し、ジエルデは逡巡する。
「引き受けてくれるよな? 器ちゃんは俺が面倒見とくから、安心しな」

 リゼリオまでは帝国領の転移門を使えば拍子抜けするほどすぐだった。
「ハジャ、ハンターの身分を偽装していたとは……」
 町を何周かして辿り着いた帝国ユニオン、APV。その窓辺に張り付いて中を覗きこむと、その少女は居た。
 普段している仮面も今は壊れてつけていない。だからすぐにわかった。それがアイリス・エルフハイム……自分の妹であると。
 妹はハンター達に囲まれ、何かを話しているようだった。その横顔は朗らかで、ある意味以前とは別人に思える。
「そうよね。あれから何十年経ったかな……」
 人見知りでいつも自分の後ろをついてきていた幼い少女の姿を思い出す。
 別れ際の彼女は、涙は流さずとも泣いていたように思う。
 その涙をこの町が癒してくれたというのなら、感謝してもし足りない。
「生きていてくれたのなら、私は……それだけで……」
 戻ってハジャに言おう。アレは人違いだと。
 アイリスを自分以上に良く知る者はもう森にはいない。疑う余地はないはずだ。
 早く帰ろうと考えているのに足が動かない。笑っている妹から視線を動かせない。
 今すぐ駆け寄って抱きしめられたならどんなにいいだろう。「ごめんね」と言えたなら、どんなに楽になれるだろう。
 APVの窓辺にひっついて、なんでか知らないが泣いている女がいる。そこに往来のハンターが声をかけないはずもなく……。
「え? あ、これは違うんです……ごめんなさい。もう……もう、帰りますから」
 困り事かと尋ねると女は涙を拭いて走り出し……途中で足を止め戻ってくる。
「あなた……ここにはよく出入りしているの?」
 よくかどうかはわからないが、とりあえず頷く。
「お願いがあるのだけれど……」
 そう言って女は窓越しにユニオンリーダーを指差すのであった。

リプレイ本文

 ――ジャック・J・グリーヴ(ka1305)は物陰で悩んでいた。
 APVの窓にひっついて泣いている女の姿を発見したのは数分前。
 貴族的に声をかけるべきなのだが、中々踏み出せずにここで傍観を決め込んでいる。
「クソッ! 何の為にこれまでギャルゲプレイしてきたと思ってんだ!」
「ギャルゲ? 何の話だ?」
 背後からの声に背筋をこわばらせ仰け反るジャック。そこには腕を組んだジルボ(ka1732)の姿が。
「いいい、いつから見てた!?」
「歩いてたお前がここに滑り込んだとこからだけど」
「最初からじゃねえか!」
 顔を真っ赤にして叫ぶジャック。ふとジルボの視線が動く。
「あの……何してるんです?」
 見ればルオ(ka1272)が普通に声をかけていた。
 涙を拭いたジエルデと一言二言やり取りをしているが、その動きに不自然さはない。
「あの野郎……デキる……!」
「いや普通に声かけただけだろ」
「お嬢さん、どうしたのかな?」
 話を聞いていたルオに続きジェールトヴァ(ka3098)が声をかける。
「あんな爺さんですら普通にイケるのに、俺って奴は……ッ!」
「いやおまえも普通にいけばいいだろ?」
 ジルボに背中を押されつんのめったジャックが姿を見せる。一方ジルボは普通に片手を上げて挨拶した。
「あなたは……」
 ジエルデはジルボを記憶しているようだった。ジェールトヴァはあんな場所だったからか、きちんと覚えていないらしい。
「ね~ちゃんまた泣いてんのか……この間も泣いてたよな?」
「な、泣いてなんかいません! これは汗です!」
「なんだ汗だったのか! 早とちりしちゃったなあ!」
 軽快に笑うルオ。どう考えても苦しい言い訳だったが、天然のお陰でやや和む。
 それにしても……なんとまあ幸の薄そうな横顔なのだろうか。
 不審者にしか見えない不器用さといい、この苦しい言い訳といい……ジェールトヴァは苦笑を浮かべる。
 相手はこちらを覚えていないようだが、それはそれで好都合。ここは色々と知らないふりをしてあげよう。
「それで、ここで何をしていたのかな?」
「ああ。実は……」
 そこでルオはジエルデに代わりぺらぺらと説明する。その間ジエルデは胸の前で組んだ指を絡め俯いていた。
「あの仮面女が妹かもしれないって事か」
「タングラムだよな。仮面をしてないケド、有名だし俺も知ってる」
「俺もどんな奴なのか興味あるしな。いいぜ、手伝ってやるよ」
 ジャックとルオは窓に張り付いてタングラムを見ている。ジルボは片目を瞑りジエルデに目を向けた。
 興味があるのはタングラムだけではない。いかにもオフといった感じのジエルデにも、である。
「あの……何をしているの?」
 キサ・I・アイオライト(ka4355)の声に振り返る男二人。ジエルデよりも不審者度は高い気がする。
「そんな所に集まってたら通行の妨げですよ~?」
 ソフィア =リリィホルム(ka2383)が声をかけた直後、タングラムが振り返るのが分かった。
 慌ててルオとジャックは屈んでやり過ごす。キサとソフィアは顔を見合わせた。
「おや、ソフィア。久しぶりですね」
「大怪我したって聞いてお見舞いに来たんですけど……」
 ソフィアが視線を動かすと同時に怪しい一団がすーっと路地に消えていった。
「今そこに不審者の集団が……」
「ちょっと出直しますね~」
 キサの口を塞いだソフィアがそのままの格好で路地に向かうのをタングラムは不思議そうに眺めていた。

「ははあ。行方不明の家族ですか」
 物陰に隠れていた男達をエレクトリックショックで炙り出したソフィアは話を聞き出すのに成功した。
「その割には随分こそこそしていたように見えたけど。直接会いづらい事情でもあるのかしら」
 腰に手を当て、キサはちょっと焦げているジャックとルオを見下ろし。
「或いは、ストーカーとか」
「でも、タングラムさんには伝えなくてもいいんじゃないでしょうか?」
「なぜですか?」
「その方が面白そうだから」
 親指を立ていい笑顔を浮かべるソフィア。キサは少し思案した後、肩を竦めた。



 APVのメンバーでもあるキサにとって、出入りする事には何の問題もなかった。
「キサ、さっきのは何だったのですか?」
「別になんでも。それよりこのガラクタの中に私の私物が紛れていないか確認してもいいかしら?」
 正にガラクタ置き場のような場所だ。キサは頷き、剥き出しの刃物等が普通に転がるガラクタに手をつけた。
「そういえばいつもの仮面はどうしたの?」
「実は剣妃にぶっ壊されてしまってですね……」
 タングラムも手伝うと言ったが、怪我の事もあり丁重に断った。余り側にいられてもやりづらいだけだ。
 ガラクタを漁るふりをしながらタングラムを観察するのが狙いなのだから。
 ふと、その時APVに入ってくる男三人組が見えた。ジルボ、ルオ、ジャックである。
「はじめまして、タングラムさん。俺はルオ。よろしくお願いしたいです」
「これはご丁寧にどうも、タングラムです。急にどうしたのですか?」
「実はAPVでインタビューをしてるんだよ。是非協力してくれ」
 変装したジルボはむんずと掴んだパルムを突き出す。マイク代わりのつもりのようだが、パルム本人は微妙な表情である。
「これ、チョコレート。よかったらいかがです?」
「おい仮面女! 今日起きてから何してたんだ!」
「これはご丁寧にどう……唐突ですね!?」
 ルオからチョコレートを受け取りながらジャックの前のめりな質問に驚くタングラム。
「……大丈夫かしら」
 キサは背後から聞こえる賑やかな声に小さく溜息を零した。
 ジルボは幸福度チェックとの名目で質問をする。ジャックはその合間に何かごく個人的な事を訊ねていたが。
「タングラムさんはエルフのようですが、他の種族についてはどうお考えですか?」
「ユニオンリーダーですし、特に種族差別感は持ってねぇですよ」
「エルフハイムでは、他種族への差別が根強く残っているようですが」
「長い因習ですから、変化するのは難しいものです。が、変えようと努力している者もいますよ」
「おい仮面女! 昼飯は何食ったんだ!」
「ミネストローネ」
 ジルボとジャックが問答の応酬する様をルオは腕を組み側で眺めている。
 更に窓の向こうではソフィアが様子を伺っていたが、今の話で思い出した事があった。
「ん……? タングラムの、家族?」
 隣に立つ女には記憶があった。かつて浄化の器と儀式を共にした際、精神接触の中で見た過去……。
 エルフハイムでも彼女が高い位を持つ事、そして浄化の器の世話役である事を理解するのに数秒とかからなかった。
 しかし同時に何とも言えない感情が湧き上がる。記憶がフラッシュバックする。
 自分に……いや、器に笑いかける姿。本を読み聞かせる横顔。怪我を治療しながら瞳を潤ませていた事。
 きっと器では感じ取れなかったであろう愛情が胸を刺した。
「最後に質問です。あなたは今幸せですか?」
 ジルボの問いにタングラムは迷わずに笑みを作る。
「ええ。大切な仲間に囲まれて、とても幸せですよ」
 その答えに切なげに目を閉じた隣の女を、ソフィアは心から憎めそうになかった。



 取材を終えたハンター達は報告に戻ってきた。とは言え、その様子はジエルデも見ていたのだが。
「俺の見立てでは、上から76-57-80……いや、81か?」
「何をしていたんですか」
「冗談だよ、冗談。戻ってきたらなんかまた泣きそうな顔してたからさ」
 キサの批判的な視線に苦笑を浮かべるルオ。ジャックは手帳を取り出し。
「仮面女は寝起きが悪ぃらしい。んでミネストローネを自分で料理出来るみたいだぜ。どうよ? てめぇの妹か判断つくか?」
「確かに、あの子はそうだったわね。私が料理出来なかったから」
「いかにも料理下手そうだもんな、ね~ちゃんは」
 ジルボの横槍に不機嫌そうにそっぽを向く。その姿は普段とは違う。恐らくこちらが素なのだろう。
 ジエルデは人間に対しても自然に接しているように見える。人間に否定的な普段の態度も、仮面だったのだろうか。
「ハンター達との関係は良好に見えるわね。……あとは、怪我を隠すのが上手」
「あいつはそういう所があるんだよなぁ」
 キサの言葉に頬を掻くジャック。ソフィアは小さく息をつき。
「ユニオンリーダーとしてしっかり頑張ってますよ。わたしもお世話になりましたし。多分、見舞いに来てる人は多いのでは?」
「私の友人も心配していたわ」
 同意するようなキサの言葉。ジルボの問いにタングラムは幸せだと答えた。ならばそういう事なのだろう。
「ていうかさ。タングラムとお姉さんが直接会った方が話が早い気がするんだけど」
 ずばり切り込んだルオ。横で話を聞いていたが、正直ちまちましてて面倒くさかった。
「そうですね。本人がすぐ近くにいるのに、無断で個人情報をバラすのはちょっとね。これ以上は本人に訊いた方がいいんじゃないかしら?」
「人伝の情報は主観が混じってしまったり、誤解が生じてしまう事もあるからね」
 キサに続きジェールトヴァが口を開く。
「彼女を見て泣いていたあなたは、もう確信を持っているって事だよね?」
「それは……」
「先日、タングラムさんも私も大怪我を負ってね……。幸い命に別状はなかったのだけれど、人はいつ、何があるかわからないからね。別れというものは突然だから、機会を逃して悔やんでも遅い」
 その言葉にはっとした様子でジエルデは目を開いた。
「ここは冒険都市なんだぜ? ねーちゃんも冒険していいのさ」
 ジルボに肩を叩かれ、ジエルデは迷うように視線を巡らせる。
 しかしジェールトヴァの「時間は戻せない」という言葉に納得したように顔を上げた。



 徐々に日は茜色に染まり始めていた。
 人気のない埠頭にタングラムを連れ出したハンター達は、そこで姉妹の再会を見る事になった。
「ジエルデ……」
 タングラムは溜息を一つ、ハンター達をジト目で見やる。
「ソフィア、相談とはこの事ですか?」
「悪いのは彼女達じゃないわ。頼んだのは私だから」
 二人は無言で見つめ合う。その空気はお世辞にも和やかとは言えない。
「……あの二人、姉妹なんだよな?」
「エルフハイムの、だからな~」
「普通の姉妹じゃねぇよな」
 ジルボとソフィアがそれぞれルオのひそひそ話にぼやく。
「私、あなたに謝りたくて……」
「何を? 私は嘗て多くの同胞をその手にかけ、器さえも殺した大罪人。あなたに謝られる筋合いはありませんよ、姉さん」
「違うわ! それは……私が、人間を信じたせいで……」
「ならどうしてまたあなたは人間を頼ったの?」
 その声は普段のタングラムとは違い、ひどく冷たく残酷だった。
「人間のせいで全て失ったあなたが、何故?」
「人間だとかエルフだとか、そんなに気にする事かしら。どちらの血も引く私に言わせれば、種族の違いなんて些細な問題だけれど」
 キサの言葉にジエルデが背筋を震わせる。ソフィアもすっと目を逸らした。
「世界を滅ぼす歪虚を前にしたら、種族なんて関係ないだろ? オークやゴブリンとだって手を組めるんじゃないか?」
「理想論を言えばそうでしょうね。しかし、生き物には心があるのよ」
 ルオを横目に笑うタングラムは別人のようだ。他人を見下し、嘲笑うように目を細める。
「エルフもドワーフも亜人。“ヒト以外”という事よ。世界はヒトを中心に回っている。何故ならば彼らが勝利者だから」
 帝国領は嘗て亜人達の楽園だった。そこへ人間達は領土拡大の為に侵略をかけた。
 いつから彼らが“亜人”、ひとでなしと呼ばれるようになったのだろう? それは誰が決めた?
「帝国は侵略戦争によって多種族を統一した国家。だから人間を嫌う……いいえ、恐れている。そうでしょう、姉さん?」
「アイリス……」
「姉さんはあの事件から何を学んだの? こんな所にのこのこやってきて……許しの言葉でも貰えると思った?」
 ジエルデの表情は真っ青だった。がたがた震えながら数歩後ずさり、それからつんのめるように逃げ出した。
「きみ達姉妹は、全く……」
 溜息混じりのジェールトヴァにタングラムは不器用な笑みを返した。
「それがあんたの覚悟って事か。大事な人を泣かせても、嘘をつき続ける」
 ソフィアはそっぽを向いたまま唇を噛みしめる。
「……けどよ。その最後に、本当に笑い合えるのか?」



 ジエルデは転移門で戻る事になった。追いかけたハンター達へ振り返り、泣き腫らした瞼で笑う。
「今日はありがとう」
「あいつは頑固者だから、なんつーか、わざとだと思うんだ。他人の為に平気で無茶すんだよ」
 頭をわしわし掻きながらジャックは俯く。
「姉妹にすらあんな調子だけどよ、嫌いにならないでやってほしいんだ。あいつの味方でいてやってくれ」
「……ええ。今の私達は……立場が違いすぎるから」
 最初から決まっていた事だ。この出会いはなかった事にすると。
「ありがとう、ジャック。私の方こそ、あの子をお願いね」
「俺達には昔の事はよくわかんねーけどよ。剣妃が自らをエルフハイムと名乗った事も関係があるのかね?」
 ジエルデもそれは初耳のようだった。しかし予感していた事だ。
「帝国もエルフハイムも、過去を隠匿しているのかもな。だから不自然に憎しみが途切れたり続いたりしてる」
「亜人との事も、帝国が隠してるのかな?」
 ルオの言葉に「かもな」と肩を竦めるジルボ。キサは俯きがちに。
「ごめんなさい。あなたを傷つけるつもりはなかったのだけれど」
「いいのよ。あなたは間違っていないもの。アイリスもわかっている筈よ。だって、あの子も……」
 キサの頭をそっと撫で、ジエルデは優しく微笑む。
「ね~ちゃんは笑ってる方がずっといいぜ。仏頂面だと老けるしな」
 ジルボの言葉に照れたように笑う。ハンター達に見送られ、女は帰路についた。

「これでよかったのかな?」
「長老が咎人と会っていたと発覚すれば事ですからね」
「じゃあ、あんたがエルフハイムをぶっ壊そうとしたのは事実なんだな。……どうしてだ?」
 湖風に髪を靡かせるタングラム。ソフィアはふっと笑い。
「責めてるわけじゃない。むしろ尊敬するよ」
「他に方法がなかった。ただそれだけですよ」
 僅かな沈黙。そこへハンター達が見送りから戻ってきた。
 ジャックは埠頭に座り込んでいるタングラムへ仮面を差し出した。
「ほらよ。これでもつけとけ。せめて嘘をつく時くらいはよ」
 夕焼けに照らされたタングラムの横顔に涙の雫が伝う。仮面はその涙ごと、咎人の嘘を覆い隠した。
「……軽蔑しても構わないのですよ」
 立ち上がった女は振り返り、苦笑を浮かべ。
「私は、ひどい嘘つきなのですから」
 茜色の光は水平線に沈み、やがて夜が来る。
 奇妙な再会は全てが幻だったかのように、闇に溶け消え去ろうとしていた。

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MVP一覧

  • ライフ・ゴーズ・オン
    ジルボka1732
  • 大いなる導き
    ジェールトヴァka3098

重体一覧

参加者一覧

  • 帰還への一歩
    ルオ(ka1272
    人間(蒼)|22才|男性|闘狩人
  • ノブレス・オブリージュ
    ジャック・J・グリーヴ(ka1305
    人間(紅)|24才|男性|闘狩人
  • ライフ・ゴーズ・オン
    ジルボ(ka1732
    人間(紅)|16才|男性|猟撃士
  • 大工房
    ソフィア =リリィホルム(ka2383
    ドワーフ|14才|女性|機導師
  • 大いなる導き
    ジェールトヴァ(ka3098
    エルフ|70才|男性|聖導士
  • 境界を紡ぐ者
    キサ・I・アイオライト(ka4355
    エルフ|17才|女性|霊闘士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 【質問卓】おしえやがれ仮面女
ジャック・J・グリーヴ(ka1305
人間(クリムゾンウェスト)|24才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/04/27 23:06:35
アイコン 【相談卓】再会への備え
キサ・I・アイオライト(ka4355
エルフ|17才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2015/04/28 09:52:21
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/04/24 23:59:51