ゲスト
(ka0000)
尋問遊戯
マスター:DoLLer

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/04/29 19:00
- 完成日
- 2015/05/04 22:03
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
クリームヒルトは断崖の上から、それを見ていた。
「ここがアドランケン鉱山か。立派なもんじゃないか」
崖の下、馬車から降りて辺りを見回す男性には見覚えがあった。いや、知っているからこそこうやって待ち構えていることができたと言える。
「ベント伯……」
旧帝国における大貴族の一人で、現体制に移ってからは魔導車開発の出資者として名をはせている。商才をもつ投資家で革命後も大貴族として響かせていた頃となんら変わりない生活を送っている。
そんな彼に、クリームヒルトは己の後見人であるアウグストと共にその助力を願い出たこともあった。
その辺りからだ。クリームヒルトが取り組んでいた地方活性化の産業起こしが次々と襲撃され闇に消えた。
この鉱山だってそうだ。元々不法に占拠され過酷な労働をさせられていたこの鉱山を解放したというのに、最新の地図には未だ名前もあがらない。おかしいと思って調査にきたクリームヒルトがここで閉じ込められ、ゾンビの仲間入りするところだった。
それが何故なのか、確認はできていない。
だが、犯人の目星は少しずつついてきた。
「私の動きを確認できて、それを阻止する理由がある人間。そして……歪虚とつながっている人間」
今現在、ゾンネンシュトラール帝国の大富豪としての彼は、旧帝国の人間と仲良くすることはできるだけ避けたいはずだ。
ベント伯がクロとは限らないが、一般には存在していないこの鉱山を視察しに来たこと自体が、少なくとも裏のある人間であることを確信させた。
村一つ消されたこと。
罪もない村民や羊が殺されたこと。
その骸をゾンビにさせられたこと。
闇から解放した鉱山をまた闇に葬られたこと。
解放した人々をも口封じか殺されたこと。
そして。自分や協力してくれたハンターを殺し、ゾンビの仲間入りにさせようとしたこと。
「借りは、きっちり返してもらうから」
ベント伯とその取り巻きが土砂の間から鉱山内に入っていくのを見届けると、クリームヒルトは崖上に貯めていた土砂を支える板柱を蹴った。支えを失った板は盛大に倒れ、土砂もろとも崖下、鉱山の入り口へと雪崩れる。同じ光景はもう3度みた。自分でやるのは初めてだが。
「なんだ!?」
悲鳴のようなものが聞こえる。慌てふためいて動揺するも、分厚い土砂の壁はそう簡単にどうにかできるわけもない。
じっくりと聞かせてもらおう。
業と闇についてを。
「ここがアドランケン鉱山か。立派なもんじゃないか」
崖の下、馬車から降りて辺りを見回す男性には見覚えがあった。いや、知っているからこそこうやって待ち構えていることができたと言える。
「ベント伯……」
旧帝国における大貴族の一人で、現体制に移ってからは魔導車開発の出資者として名をはせている。商才をもつ投資家で革命後も大貴族として響かせていた頃となんら変わりない生活を送っている。
そんな彼に、クリームヒルトは己の後見人であるアウグストと共にその助力を願い出たこともあった。
その辺りからだ。クリームヒルトが取り組んでいた地方活性化の産業起こしが次々と襲撃され闇に消えた。
この鉱山だってそうだ。元々不法に占拠され過酷な労働をさせられていたこの鉱山を解放したというのに、最新の地図には未だ名前もあがらない。おかしいと思って調査にきたクリームヒルトがここで閉じ込められ、ゾンビの仲間入りするところだった。
それが何故なのか、確認はできていない。
だが、犯人の目星は少しずつついてきた。
「私の動きを確認できて、それを阻止する理由がある人間。そして……歪虚とつながっている人間」
今現在、ゾンネンシュトラール帝国の大富豪としての彼は、旧帝国の人間と仲良くすることはできるだけ避けたいはずだ。
ベント伯がクロとは限らないが、一般には存在していないこの鉱山を視察しに来たこと自体が、少なくとも裏のある人間であることを確信させた。
村一つ消されたこと。
罪もない村民や羊が殺されたこと。
その骸をゾンビにさせられたこと。
闇から解放した鉱山をまた闇に葬られたこと。
解放した人々をも口封じか殺されたこと。
そして。自分や協力してくれたハンターを殺し、ゾンビの仲間入りにさせようとしたこと。
「借りは、きっちり返してもらうから」
ベント伯とその取り巻きが土砂の間から鉱山内に入っていくのを見届けると、クリームヒルトは崖上に貯めていた土砂を支える板柱を蹴った。支えを失った板は盛大に倒れ、土砂もろとも崖下、鉱山の入り口へと雪崩れる。同じ光景はもう3度みた。自分でやるのは初めてだが。
「なんだ!?」
悲鳴のようなものが聞こえる。慌てふためいて動揺するも、分厚い土砂の壁はそう簡単にどうにかできるわけもない。
じっくりと聞かせてもらおう。
業と闇についてを。
リプレイ本文
「搬出口が向こうにあったはずだ。確認して来い。それから……」
埋もれた入り口でベント伯は部下に指示を飛ばしていた。突然の出来事に混乱しているだろうに、その言葉は意外や冷静なものだった。その落ち着き払った態度が部下に伝搬するのか、取り乱していた部下もきびきびと動き、坑道の奥に進みはじめた。
「な、なんだこれは……」
部下の一人は声を上ずらせた。手にしたLEDライトの明かりが小刻みに揺れる。その明かりの先にある道はあちこちに赤黒いモノがこびりついていた。鉱石の赤とはまるで違う、乾いたペンキのような色合い、生臭い匂い。
ずるるる、ぺたン。 ぺたたン。
闇の向こうから湿った音と共にひきずるような足音。
手の震えは気が付けば口にまでのぼってきていた。
「な、なんだ……なにかいるのか……」
まだ距離は十分あるはず。だが、LEDライトの明かりにほんの少し反射したどす黒い瞳を見た瞬間、ベント伯によって取り戻した冷静さはもう粉々に崩壊していた。
部下の一人はガンホルダーから拳銃を取り出し乱射し始めた。当たったのかどうかすら確認できない。
だが、弾切れを起こして、カチカチとしか鳴らなくなるまでトリガーを引き続けても足音は止むことはなかった。そしていよいよLEDライトの元にその姿が現れる。
土気色の肌、落ちくぼんだ目、痩せた頬、綺麗だったろう髪は血と砂が混ざってぼさぼさに広がっていた。それが何であるかは、部下たちに思いつくものなど一つしかない。そんなものが一つ、二つと浮かぶ。
「ぞ、ぞ、ゾンビ! 歪虚だっ!!」
跳ね上がるような声。それに合わせて部下たちは一斉に逃げ始めた。かたまっていた彼らはてんでバラバラに逃げ始めた。とにかく道が見える限りそこに走るだけだった。
途中で足元が何度もせせりたち、大きな壁となり3人いた部下たちはすっかり分断されてしまった。それでも
それでもひたすらに部下は走っていた。無我夢中で。なのに。
「ひっ、ひっ ヒぃ」
首筋に生温かい湿った感触が何度も走る。
振るう腕が後ろに戻る度に自分が切る風とは違う風を感知する。真後ろにぴったり何かが付いてきているようだった。全力などという言葉は生ぬるい。持てる力は全部出して、とにかく走り続けているのに、振り切れない。心臓が破裂しそうになるが、それでも男は走るのを止められなかった。
鋭く風を切る音が一瞬聞こえた後何かが足に巻き付き、男は無様に転んだ。
「や、や……」
部下は震えながら、後ろを振り向いた。
まだ少年と言える顔。だが、血の気のない顔、瞬きもしない目は恐怖の対象でしかなかった。そんな少年ゾンビの口が震えて声を紡ぎ出した。
「ナカマガホシイ……」
また異なる部下は少し離れた場所、壊れたトロッコの陰でそれを聞いていた。
「ナカマ……ドコダ」
言うな、言わないでくれ。
隠れた部下は小さくうわ言のように呟いた。心に念じたものが強すぎるあまり、口にもれてしまうのだろう。
そんな部下の首筋に生温かい液体がかかった。
「ひ、ひ……」
男はゆっくりとうずくまった姿勢のまま、後ろを見た。何もない。何も見えない。
男は膝を震えさせながらも横転したトロッコを支えに立ち上がったが、何も見つからない。
そんな首筋に温かい風が感じる。
男のゾンビは真横にいた。
「わぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
男の絶叫が、木霊した。
「なんだ、何が起こっている……」
遠くから伝わってくる部下の絶叫を聞いて、ベント伯は銃を構えたまま、入り口をふさぐ土砂を背にして様子をうかがっていた。
しかし、何分待とうと、部下たちが戻ってくる様子はなく、高まった緊張はベント伯の中でやがて焦りに移り始めていた。
少しずつ、坑道の壁を背にしてベント伯は進み始める姿はまだ冷静な雰囲気を見せていた。不用意に歩きゾンビを見ただけでバラバラに逃げ出した部下よりかはよほど恐怖には強いように見えた。
そんな彼だからこそ血糊の赤の中に一枚の紙が沈んでいたことに気が付いたようだった。
「依頼書……ハンターズソサエティのものか?」
血で染まり、引き裂かれたその紙に書かれた文字を判読するは一苦労だったが、肝心なところは幸い読むことができた。
「新種のゾンビ……、感染する、だと? クソ、だからここは捨てられた訳か! とんだ事故物件だ」
衝撃的な内容に一瞬目を奪われてしまったベント伯。この場で他に気を取られることは致命的だと思っていただろうに。それが致命的な一瞬となってしまった。
「!」
目の前にハンターだったもののなれの果てがいた。いつの間に現れたのだろう。もう手に触れられる距離だ。
横にも。
反対側にも。
そして。
「これで、あなたも、おなかま……」
首筋に激痛が走った。
泥をかぶったような髪の向こうで、少女のゾンビは虚ろに嗤っていた。
「こ、この!」
「ああ、これは粗相をいたしました。失礼をお詫びしますよ。ベント伯」
引きはがそうとするベント伯の前にエアルドフリス(ka1856)が慇懃無礼に声をかけた。ゾンビ以外の生きている人間を目の当たりにして、ベント伯はしばらく唖然としているようであった。エアルドフリスが「さて、おもてなしをしませんとなぁ」との言葉にベント伯の首筋に歯を立てたマレーネ・シェーンベルグ(ka4094)はそっと離れ、その間にユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)がベント伯の腕を後ろ手に捻じってその場で組み伏せた。
「ああ、あまり動かないでくださいね。暴力的なのがお好みならそういたしますけど」
ユーリはにこやかにそう言うと腕を縛り上げ、続いて残った紐で膝と首にロープを遠し緩やかに締め上げた。ベント伯は体を折りたたまれるようにして固定され、そのまま天頂に開いた搬出口から垂れ下がっていたロープにつないで逆さづりにされる。
「貴様達は一体……?」
薄気味悪いほどに微笑みを浮かべる一行に苦虫を噛み潰したような顔を浮かべるベント伯。答える義理など欠片もないことは知っているが、それではジョン・フラム(ka0786)は丁寧にその質問に答えた。
「私のことはジョンとお呼びください。さて、いくつかうかがってもよろしいですか?」
「ワシが答えるとでも?」
「ええ、それを期待しています。先ほどは失敗いたしましてね。少し手荒なことになってしまいましたが」
ジョンは苦笑してポケットに入れていた肉塊をベント伯の目の前でぶら下げた。真っ赤に染まったそれは手の様であった。ベント伯は大きく目を見開き口を震わせた。それが本物であるかどうか気にする猶予さえなくなっていくのが顔色でわかる。
「まあ結局、切り取ってしまいましたの? 手間もかかりますし、汚れてしまいますのに」
フィーナ・ウィンスレット(ka3974)は淑女のように手を口に当てて呆れた声を上げた。それが跡が残るだのとはおくびにも出さず、ユーリから渡された液体の瓶のふたを開けた。
「そんなことなさらなくとも、きっと答えてくださいます。ええと、弁当伯、でしたか?」
そのまま、微笑みを浮かべてフィーナは瓶をベント伯の顔に向けて傾けた。水が、逆さづりになった伯の顎から口へ、鼻へ、目へと垂れ落ちてくる。
「や、やめ……ご、こほっ、がはっ」
「ふふ、おつらいですか? まだほんの少ししかお水は使っていませんよ。お茶漬け伯?」
抵抗しようと口を開いたり、鼻で息をしようとすれば、肉体的な構造上、水は必ず気道に流れ込んでしまう。しばらく一人でにもがいていたベント伯だったが、逆さ吊りになり気管に水が入って満足に呼吸もできなくなり、意識を失ってしまった。
「あら、勝手に寝られては困ります。まだお話もしていないでしょう? ええと、まな板の上の鯉茶漬け伯?」
容赦なくフィーナはハリセンで胸のあたりを叩いた。その衝撃で伯の口や鼻から液体を吹き出し、意識を取り戻した。
「頭がぼんやりされますか? それが普通です。今の水には少し毒が入っています。正直になるクスリ……。元の生活は送れなくなるかもしれませんけれど、ね。できればこの解毒剤は早くお渡ししたいところです」
ユーリはそう言うと、もう一つの液体のボトルをベント伯の前でちらつかせた。
「なんだ、なぜこんなこと……」
「貴方はゾンビにお詳しいようですがね。ご自身の知識が全てだと思う気持ちは当然のことです」
呻くようなベント伯の言葉にまるで触れることすらせずエアルドフリスは言葉をかけた。
「ゾンビ? ゾンビを扱うのはお前たちではないか」
「恨みも随分深いとみえる。お嬢さんにもその因縁が及ばないとよろしいですなぁ」
「め、メルツェーデスのことを知っているのか……!? やめろ、あの娘は何も知らん」
「ではあなたは何をご存知ですか? ゾンビの製作技術? 帝国の裏事情? それとも他の?」
一瞬押し黙るベント伯に、ジョンのオートマチックが火を吹いた。弾が放つ衝撃波を間近に受け、ベント伯は息を詰まらせた。
「だから何も知らんと言っておる!」
「そうかね? 部下の方は懇切丁寧に話してくれたが?」
ジョンの足元に落ちていた手を踏みにじってエアは優しく笑った。
「本当に何も知らん! この鉱山も革命のゴタゴタで手が離れてそのままになっているから使ってくれと言われただけだ。ゾンビなんかと縁などない」
「誰に?」
ユーリの言葉に、ベント伯はもう逡巡すらしなかった。
「アウグスト様だ。反帝国の活動を金銭、そして物資の面から協力する代わりにこの鉱山の採掘権をもらったのだ!!」
からり。
坑道の闇の向こうで、小さく石がすれる音がした。息をひそめて尋問を聞いているクリームヒルトの心が乱されたに違いない。
その気配を庇うようにエアルドフリスはアースバレットを近くで放ち、礫弾で轟音を響かせる。
「魔導車の資材を流したり、クリームヒルト様やアウグスト様の行う地域復興支援活動にお金を出しただけだ! アウグスト様達の地域復興支援活動は難航していると聞いた。実にならない活動もあると言っていた。その整理としてこの鉱山があるので使ってくれたらいいと、採掘権利書も持っている!! だが信じてくれ。ワシはゾンビなどとは無縁だ。アウグスト様が反帝国活動のヴルツァライヒをまとめる一人であることも知っていて協力していたのは認める! だが、だが」
「では、村が一つゾンビに襲われ消えたこともご存知で?」
「ヘルトシープの羊も売れないので『整理』した、と聞いた。アウグスト様は革命以前では財務を預かるほどの辣腕だったんだ。そんな彼が幾多の地域復興を運営していくなら儲かるとは思った。整理を断行できる人ならマイナスにはならない」
嘘は言っているようには見えなかった。
ゾンビの事も本当に何も知らないのだろう。整理の方法も聞かされていないに違いない。
あらかた吐いて呻くベント伯を一同は見下ろし、黙っていた。
「大変、つまらないお話でした。人をゾンビに仕上げるための資料をお持ちだと思っていましたのに、干し飯伯は村の名前をあげつらう一般の村人と大差ありませんね」
「楽しいお話でした。ご協力感謝いたします」
呆れるフィーナと対照的にジョンはゆっくりとベント伯を縛っていた紐をおろし、彼を逆さ吊りから解放した。しかし自由を拘束する身体に巻き付いたロープを外すわけではない。
「しばらくしたら帝国の兵士が迎えにきます。それまで視察をお楽しみくださいませ。もっとも、その権利はなくなると思いますけれど」
ユーリはベント伯に解毒薬と思わせたミネラルウォーターを飲ませて立ち上がった。その頃にはベント伯を取り囲んでいた面々はもういない。
「さようなら、ベント伯」
●
「大丈夫でしたか?」
摩耶(ka0362)はぼんやりとするクリームヒルトの肩をそっと抱いた。摩耶が止めていなかったらアウグストの名前を聞いた瞬間、飛び出していたかもしれない。クリームヒルトはただ暗い目を登る太陽に向けていた。今は語り掛ける雰囲気でもないと思い摩耶は無限 馨(ka0544)を見た。
「無限さんも体は大丈夫ですか? 銃で負傷されたのでは……」
「ちょっと痛かったっすけどねぇ。まあすぐ事済んだからさっさとマテリアルヒーリングしたっすよ。いやいや、それにしても摩耶さんのペインティングは効果絶大でしたっすねぇ。もう目を合わせただけで逃げる逃げる……」
「あの、めのまわりは、なにもしてないのですよ。きっとゾンビのうごきがよかったのだと!」
ゾンビメイクを担当していたマレーネの一言に無限はがっくりとうなだれた。
ゾンビ役を担当していた面々は頭から水を被り、泥と油絵の具と化粧を洗い流していた。
ユリアン(ka1664)は言葉少なに前髪から滴り落ちる雫を見ていた。知り合いの親を尋問するというのは心の晴れる話じゃない。
「……」
「それで、これからどうするっすか? 何かあればまたすぐ駆けつけるっすよ!」
敵が自分の後見人だとわかったクリームヒルトの心境もきっと重たいに違いない。
だが、無限の言葉にクリームヒルトは意外にも微笑んだ。
「ありがとう、無限さん。でもね、アウグストにはわたしから話をつけなければならないわ。彼の主、旧帝国のシンボルとして。非道はわたしが諌めなければならない」
無理している。
横にいた摩耶はすぐわかった。だが、意思のかたさは十分に感じ取られた。
「クリームヒルト様、貴女様の成すべきことは非道がまかり通らぬ世を作り上げることです。どうぞ、力で力をねじ伏せることのなきよう。悲しみの連鎖を紡がないように……」
その意志の強さ故に、非道を是としませんように。泥土の中でも美しく咲く蓮のようにありますようにと願わずにはいられない。
「ありがとう摩耶さん。ずっとわたしを助けてくれた貴女の言葉、忘れない。わたしにはみんながいるってこと、忘れないわ」
摩耶の言葉に、皆の視線に、闇を歩く王女の瞳は光を帯びた。
埋もれた入り口でベント伯は部下に指示を飛ばしていた。突然の出来事に混乱しているだろうに、その言葉は意外や冷静なものだった。その落ち着き払った態度が部下に伝搬するのか、取り乱していた部下もきびきびと動き、坑道の奥に進みはじめた。
「な、なんだこれは……」
部下の一人は声を上ずらせた。手にしたLEDライトの明かりが小刻みに揺れる。その明かりの先にある道はあちこちに赤黒いモノがこびりついていた。鉱石の赤とはまるで違う、乾いたペンキのような色合い、生臭い匂い。
ずるるる、ぺたン。 ぺたたン。
闇の向こうから湿った音と共にひきずるような足音。
手の震えは気が付けば口にまでのぼってきていた。
「な、なんだ……なにかいるのか……」
まだ距離は十分あるはず。だが、LEDライトの明かりにほんの少し反射したどす黒い瞳を見た瞬間、ベント伯によって取り戻した冷静さはもう粉々に崩壊していた。
部下の一人はガンホルダーから拳銃を取り出し乱射し始めた。当たったのかどうかすら確認できない。
だが、弾切れを起こして、カチカチとしか鳴らなくなるまでトリガーを引き続けても足音は止むことはなかった。そしていよいよLEDライトの元にその姿が現れる。
土気色の肌、落ちくぼんだ目、痩せた頬、綺麗だったろう髪は血と砂が混ざってぼさぼさに広がっていた。それが何であるかは、部下たちに思いつくものなど一つしかない。そんなものが一つ、二つと浮かぶ。
「ぞ、ぞ、ゾンビ! 歪虚だっ!!」
跳ね上がるような声。それに合わせて部下たちは一斉に逃げ始めた。かたまっていた彼らはてんでバラバラに逃げ始めた。とにかく道が見える限りそこに走るだけだった。
途中で足元が何度もせせりたち、大きな壁となり3人いた部下たちはすっかり分断されてしまった。それでも
それでもひたすらに部下は走っていた。無我夢中で。なのに。
「ひっ、ひっ ヒぃ」
首筋に生温かい湿った感触が何度も走る。
振るう腕が後ろに戻る度に自分が切る風とは違う風を感知する。真後ろにぴったり何かが付いてきているようだった。全力などという言葉は生ぬるい。持てる力は全部出して、とにかく走り続けているのに、振り切れない。心臓が破裂しそうになるが、それでも男は走るのを止められなかった。
鋭く風を切る音が一瞬聞こえた後何かが足に巻き付き、男は無様に転んだ。
「や、や……」
部下は震えながら、後ろを振り向いた。
まだ少年と言える顔。だが、血の気のない顔、瞬きもしない目は恐怖の対象でしかなかった。そんな少年ゾンビの口が震えて声を紡ぎ出した。
「ナカマガホシイ……」
また異なる部下は少し離れた場所、壊れたトロッコの陰でそれを聞いていた。
「ナカマ……ドコダ」
言うな、言わないでくれ。
隠れた部下は小さくうわ言のように呟いた。心に念じたものが強すぎるあまり、口にもれてしまうのだろう。
そんな部下の首筋に生温かい液体がかかった。
「ひ、ひ……」
男はゆっくりとうずくまった姿勢のまま、後ろを見た。何もない。何も見えない。
男は膝を震えさせながらも横転したトロッコを支えに立ち上がったが、何も見つからない。
そんな首筋に温かい風が感じる。
男のゾンビは真横にいた。
「わぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
男の絶叫が、木霊した。
「なんだ、何が起こっている……」
遠くから伝わってくる部下の絶叫を聞いて、ベント伯は銃を構えたまま、入り口をふさぐ土砂を背にして様子をうかがっていた。
しかし、何分待とうと、部下たちが戻ってくる様子はなく、高まった緊張はベント伯の中でやがて焦りに移り始めていた。
少しずつ、坑道の壁を背にしてベント伯は進み始める姿はまだ冷静な雰囲気を見せていた。不用意に歩きゾンビを見ただけでバラバラに逃げ出した部下よりかはよほど恐怖には強いように見えた。
そんな彼だからこそ血糊の赤の中に一枚の紙が沈んでいたことに気が付いたようだった。
「依頼書……ハンターズソサエティのものか?」
血で染まり、引き裂かれたその紙に書かれた文字を判読するは一苦労だったが、肝心なところは幸い読むことができた。
「新種のゾンビ……、感染する、だと? クソ、だからここは捨てられた訳か! とんだ事故物件だ」
衝撃的な内容に一瞬目を奪われてしまったベント伯。この場で他に気を取られることは致命的だと思っていただろうに。それが致命的な一瞬となってしまった。
「!」
目の前にハンターだったもののなれの果てがいた。いつの間に現れたのだろう。もう手に触れられる距離だ。
横にも。
反対側にも。
そして。
「これで、あなたも、おなかま……」
首筋に激痛が走った。
泥をかぶったような髪の向こうで、少女のゾンビは虚ろに嗤っていた。
「こ、この!」
「ああ、これは粗相をいたしました。失礼をお詫びしますよ。ベント伯」
引きはがそうとするベント伯の前にエアルドフリス(ka1856)が慇懃無礼に声をかけた。ゾンビ以外の生きている人間を目の当たりにして、ベント伯はしばらく唖然としているようであった。エアルドフリスが「さて、おもてなしをしませんとなぁ」との言葉にベント伯の首筋に歯を立てたマレーネ・シェーンベルグ(ka4094)はそっと離れ、その間にユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)がベント伯の腕を後ろ手に捻じってその場で組み伏せた。
「ああ、あまり動かないでくださいね。暴力的なのがお好みならそういたしますけど」
ユーリはにこやかにそう言うと腕を縛り上げ、続いて残った紐で膝と首にロープを遠し緩やかに締め上げた。ベント伯は体を折りたたまれるようにして固定され、そのまま天頂に開いた搬出口から垂れ下がっていたロープにつないで逆さづりにされる。
「貴様達は一体……?」
薄気味悪いほどに微笑みを浮かべる一行に苦虫を噛み潰したような顔を浮かべるベント伯。答える義理など欠片もないことは知っているが、それではジョン・フラム(ka0786)は丁寧にその質問に答えた。
「私のことはジョンとお呼びください。さて、いくつかうかがってもよろしいですか?」
「ワシが答えるとでも?」
「ええ、それを期待しています。先ほどは失敗いたしましてね。少し手荒なことになってしまいましたが」
ジョンは苦笑してポケットに入れていた肉塊をベント伯の目の前でぶら下げた。真っ赤に染まったそれは手の様であった。ベント伯は大きく目を見開き口を震わせた。それが本物であるかどうか気にする猶予さえなくなっていくのが顔色でわかる。
「まあ結局、切り取ってしまいましたの? 手間もかかりますし、汚れてしまいますのに」
フィーナ・ウィンスレット(ka3974)は淑女のように手を口に当てて呆れた声を上げた。それが跡が残るだのとはおくびにも出さず、ユーリから渡された液体の瓶のふたを開けた。
「そんなことなさらなくとも、きっと答えてくださいます。ええと、弁当伯、でしたか?」
そのまま、微笑みを浮かべてフィーナは瓶をベント伯の顔に向けて傾けた。水が、逆さづりになった伯の顎から口へ、鼻へ、目へと垂れ落ちてくる。
「や、やめ……ご、こほっ、がはっ」
「ふふ、おつらいですか? まだほんの少ししかお水は使っていませんよ。お茶漬け伯?」
抵抗しようと口を開いたり、鼻で息をしようとすれば、肉体的な構造上、水は必ず気道に流れ込んでしまう。しばらく一人でにもがいていたベント伯だったが、逆さ吊りになり気管に水が入って満足に呼吸もできなくなり、意識を失ってしまった。
「あら、勝手に寝られては困ります。まだお話もしていないでしょう? ええと、まな板の上の鯉茶漬け伯?」
容赦なくフィーナはハリセンで胸のあたりを叩いた。その衝撃で伯の口や鼻から液体を吹き出し、意識を取り戻した。
「頭がぼんやりされますか? それが普通です。今の水には少し毒が入っています。正直になるクスリ……。元の生活は送れなくなるかもしれませんけれど、ね。できればこの解毒剤は早くお渡ししたいところです」
ユーリはそう言うと、もう一つの液体のボトルをベント伯の前でちらつかせた。
「なんだ、なぜこんなこと……」
「貴方はゾンビにお詳しいようですがね。ご自身の知識が全てだと思う気持ちは当然のことです」
呻くようなベント伯の言葉にまるで触れることすらせずエアルドフリスは言葉をかけた。
「ゾンビ? ゾンビを扱うのはお前たちではないか」
「恨みも随分深いとみえる。お嬢さんにもその因縁が及ばないとよろしいですなぁ」
「め、メルツェーデスのことを知っているのか……!? やめろ、あの娘は何も知らん」
「ではあなたは何をご存知ですか? ゾンビの製作技術? 帝国の裏事情? それとも他の?」
一瞬押し黙るベント伯に、ジョンのオートマチックが火を吹いた。弾が放つ衝撃波を間近に受け、ベント伯は息を詰まらせた。
「だから何も知らんと言っておる!」
「そうかね? 部下の方は懇切丁寧に話してくれたが?」
ジョンの足元に落ちていた手を踏みにじってエアは優しく笑った。
「本当に何も知らん! この鉱山も革命のゴタゴタで手が離れてそのままになっているから使ってくれと言われただけだ。ゾンビなんかと縁などない」
「誰に?」
ユーリの言葉に、ベント伯はもう逡巡すらしなかった。
「アウグスト様だ。反帝国の活動を金銭、そして物資の面から協力する代わりにこの鉱山の採掘権をもらったのだ!!」
からり。
坑道の闇の向こうで、小さく石がすれる音がした。息をひそめて尋問を聞いているクリームヒルトの心が乱されたに違いない。
その気配を庇うようにエアルドフリスはアースバレットを近くで放ち、礫弾で轟音を響かせる。
「魔導車の資材を流したり、クリームヒルト様やアウグスト様の行う地域復興支援活動にお金を出しただけだ! アウグスト様達の地域復興支援活動は難航していると聞いた。実にならない活動もあると言っていた。その整理としてこの鉱山があるので使ってくれたらいいと、採掘権利書も持っている!! だが信じてくれ。ワシはゾンビなどとは無縁だ。アウグスト様が反帝国活動のヴルツァライヒをまとめる一人であることも知っていて協力していたのは認める! だが、だが」
「では、村が一つゾンビに襲われ消えたこともご存知で?」
「ヘルトシープの羊も売れないので『整理』した、と聞いた。アウグスト様は革命以前では財務を預かるほどの辣腕だったんだ。そんな彼が幾多の地域復興を運営していくなら儲かるとは思った。整理を断行できる人ならマイナスにはならない」
嘘は言っているようには見えなかった。
ゾンビの事も本当に何も知らないのだろう。整理の方法も聞かされていないに違いない。
あらかた吐いて呻くベント伯を一同は見下ろし、黙っていた。
「大変、つまらないお話でした。人をゾンビに仕上げるための資料をお持ちだと思っていましたのに、干し飯伯は村の名前をあげつらう一般の村人と大差ありませんね」
「楽しいお話でした。ご協力感謝いたします」
呆れるフィーナと対照的にジョンはゆっくりとベント伯を縛っていた紐をおろし、彼を逆さ吊りから解放した。しかし自由を拘束する身体に巻き付いたロープを外すわけではない。
「しばらくしたら帝国の兵士が迎えにきます。それまで視察をお楽しみくださいませ。もっとも、その権利はなくなると思いますけれど」
ユーリはベント伯に解毒薬と思わせたミネラルウォーターを飲ませて立ち上がった。その頃にはベント伯を取り囲んでいた面々はもういない。
「さようなら、ベント伯」
●
「大丈夫でしたか?」
摩耶(ka0362)はぼんやりとするクリームヒルトの肩をそっと抱いた。摩耶が止めていなかったらアウグストの名前を聞いた瞬間、飛び出していたかもしれない。クリームヒルトはただ暗い目を登る太陽に向けていた。今は語り掛ける雰囲気でもないと思い摩耶は無限 馨(ka0544)を見た。
「無限さんも体は大丈夫ですか? 銃で負傷されたのでは……」
「ちょっと痛かったっすけどねぇ。まあすぐ事済んだからさっさとマテリアルヒーリングしたっすよ。いやいや、それにしても摩耶さんのペインティングは効果絶大でしたっすねぇ。もう目を合わせただけで逃げる逃げる……」
「あの、めのまわりは、なにもしてないのですよ。きっとゾンビのうごきがよかったのだと!」
ゾンビメイクを担当していたマレーネの一言に無限はがっくりとうなだれた。
ゾンビ役を担当していた面々は頭から水を被り、泥と油絵の具と化粧を洗い流していた。
ユリアン(ka1664)は言葉少なに前髪から滴り落ちる雫を見ていた。知り合いの親を尋問するというのは心の晴れる話じゃない。
「……」
「それで、これからどうするっすか? 何かあればまたすぐ駆けつけるっすよ!」
敵が自分の後見人だとわかったクリームヒルトの心境もきっと重たいに違いない。
だが、無限の言葉にクリームヒルトは意外にも微笑んだ。
「ありがとう、無限さん。でもね、アウグストにはわたしから話をつけなければならないわ。彼の主、旧帝国のシンボルとして。非道はわたしが諌めなければならない」
無理している。
横にいた摩耶はすぐわかった。だが、意思のかたさは十分に感じ取られた。
「クリームヒルト様、貴女様の成すべきことは非道がまかり通らぬ世を作り上げることです。どうぞ、力で力をねじ伏せることのなきよう。悲しみの連鎖を紡がないように……」
その意志の強さ故に、非道を是としませんように。泥土の中でも美しく咲く蓮のようにありますようにと願わずにはいられない。
「ありがとう摩耶さん。ずっとわたしを助けてくれた貴女の言葉、忘れない。わたしにはみんながいるってこと、忘れないわ」
摩耶の言葉に、皆の視線に、闇を歩く王女の瞳は光を帯びた。
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恐怖演出計画【相談卓】 エアルドフリス(ka1856) 人間(クリムゾンウェスト)|30才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/04/29 18:41:13 |
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質問卓 ジョン・フラム(ka0786) 人間(クリムゾンウェスト)|28才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/04/29 19:10:48 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/24 11:41:25 |