ゲスト
(ka0000)
ニンジン克服大作戦!
マスター:青木川舟

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/04/29 12:00
- 完成日
- 2015/05/07 21:56
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●とあるお母さんの悩み
「うちの子、ニンジンが食べられないんです。それをなんとかしてほしくて……」
「……はあ」
オフィスの職員は、依頼主の抱えるなんとも平和な悩みに一瞬唖然としてしまった。
「えーと……そういうのはちょっと……ハンターを派遣するほどのこととは……」
「あ、すいませんすいません。ちょっと話を端折りすぎました」
依頼主である女性は、少し言いにくそうに語り始めた。
「実はうちの3歳になる息子なんですが、ハンターに憧れているようでして」
「ほう、それはそれは。将来が楽しみですね」
「ええ、まあ――で、その子なんですけど、まあまだ小さいので色々だだをこねるんです。そういう時に『ちゃんと言うこと聞かないと、将来ハンターになんかなれないわよ?』みたいに言い聞かせると、素直に言うことを聞いてくれてたんですよ」
「なるほど」
なんとも可愛げのある話である。
「今までは上手くいっていたんですけど、最近ちょっと効果が無くなりかけてきてまして……」
つまり依頼主の話はこういうことだった。
この手があまりに上手くいくうえに簡単なので、ことあるごとに『将来ハンターになんかなれないわよ?』を使っていたら、ついに3歳の息子も母親を疑いだし、簡単には言うことを聞いてくれなくなってきたというのだ。
「ニンジンも、今までは『ちゃんとニンジンも食べないと、立派なハンターになれないわよ?』で食べてくれていたんですが、最近は効かなくて……」
「ふむ……まあ『子供に子供だましは通用しない』って言いますもんね」
「そこで、ハンターの皆さんに一芝居打ってもらって、『ニンジンを食べれば立派なハンターになれる!』と息子に信じ込ませてあげてほしいんですよ!」
「ああ、そういうことだったんですか」
確かに、本物のハンターが『ニンジンを食べれば立派なハンターになれる』ことを保証してくれるのなら、それ以上に信頼できるものはない。
「分かりました。そういうことなら、話を通してみましょう」
「よろしくお願いします」
母親にとって子供の健康ほど大事なものは無い。
依頼主は深々と頭を下げた。
「うちの子、ニンジンが食べられないんです。それをなんとかしてほしくて……」
「……はあ」
オフィスの職員は、依頼主の抱えるなんとも平和な悩みに一瞬唖然としてしまった。
「えーと……そういうのはちょっと……ハンターを派遣するほどのこととは……」
「あ、すいませんすいません。ちょっと話を端折りすぎました」
依頼主である女性は、少し言いにくそうに語り始めた。
「実はうちの3歳になる息子なんですが、ハンターに憧れているようでして」
「ほう、それはそれは。将来が楽しみですね」
「ええ、まあ――で、その子なんですけど、まあまだ小さいので色々だだをこねるんです。そういう時に『ちゃんと言うこと聞かないと、将来ハンターになんかなれないわよ?』みたいに言い聞かせると、素直に言うことを聞いてくれてたんですよ」
「なるほど」
なんとも可愛げのある話である。
「今までは上手くいっていたんですけど、最近ちょっと効果が無くなりかけてきてまして……」
つまり依頼主の話はこういうことだった。
この手があまりに上手くいくうえに簡単なので、ことあるごとに『将来ハンターになんかなれないわよ?』を使っていたら、ついに3歳の息子も母親を疑いだし、簡単には言うことを聞いてくれなくなってきたというのだ。
「ニンジンも、今までは『ちゃんとニンジンも食べないと、立派なハンターになれないわよ?』で食べてくれていたんですが、最近は効かなくて……」
「ふむ……まあ『子供に子供だましは通用しない』って言いますもんね」
「そこで、ハンターの皆さんに一芝居打ってもらって、『ニンジンを食べれば立派なハンターになれる!』と息子に信じ込ませてあげてほしいんですよ!」
「ああ、そういうことだったんですか」
確かに、本物のハンターが『ニンジンを食べれば立派なハンターになれる』ことを保証してくれるのなら、それ以上に信頼できるものはない。
「分かりました。そういうことなら、話を通してみましょう」
「よろしくお願いします」
母親にとって子供の健康ほど大事なものは無い。
依頼主は深々と頭を下げた。
リプレイ本文
●『ヨアン』
「今日は凄いお客さんが来るわよ!」
そう母のマリアに言われてドキドキしていたヨアンは、訪ねてきた一団と対面して目を見開いた。
「ママ、なんかすごいかっこしたひとたちがきたよ」
「こんにちは、初めまして。ヨアンくん……だよね?」
リコチェット・エデルノーツェ(ka4712)が、ヨアンの目線の高さに合わせるようにしゃがんで笑顔を見せた。ヨアンはコクリと頷く。それを見たウルズラ・ベーエ(ka4549)がエステラ・クルース(ka1104)に小声で話しかけた。
「ほら、やっぱり名前ヨアンだったじゃん」
「もらった資料が所々ジョンになってたのはやっぱり誤植っすね。そういうとこちゃんとしてほしいっす」
「お前ら裏でやれそういうのは」
ルイ・シュヴァリエ(ka1106)に窘められ、2人は口を噤んだ。ヨアンはおずおずと挨拶を返す。
「はじめまして……えっと、おねえちゃんたちだれ?」
「私達はこういう者です」
辻・十字朗(ka4739)が名刺を取り出し、ヨアンに丁寧に手渡した。
「これは、私の元居た世界で、仲よくして下さい。と言うご挨拶です」
「なんて書いてあるの?」
「ハンターズソサエティ所属ハンター、辻・じゅ――」
「おにいちゃんたちハンターなの!?」
十字朗が名乗り終える前に、ヨアンは興奮して声を上げる。答えたのは岩井崎 旭(ka0234)だった。
「おう! 俺たちゃ愉快で強いハンターさん達だぜ!」
「なんでハンターがぼくのうちに?」
「それはな、お前がニン――」
「おい」
カディス・ヴァントーズ(ka4674)が旭を小突いた。
「バレたら警戒されるから言わないようにしようって決めただろ……!」
「ああ忘れてた……スマン鳥頭なもんで」
ポカンとしているヨアンに、ブレナー ローゼンベック(ka4184)が咄嗟にフォローを入れた。
「将来ハンターになりたい子がいるって聞いたから、みんなで応援に来たんだ」
「うん! ぼくハンターになりたい! どうすればなれるの?」
ヨアンの疑問に、ウルズラが笑って答えた。
「よし、今からおねーちゃん達がそれを教えてやろう!」
●近所は原っぱだらけ
「おねえちゃんつかまえた!」
「うひゃあ! ヨアンは足がはえぇなぁ」
ヨアンとハンター達は、リアルブルー出身組が提案したドロケイという遊びに興じていた。ヨアン、旭、エステラ、十字朗がケイサツ。残りがドロボウ側になり、ヨアンがウルズラを捕まえたことでドロボウは全滅となった。
「やったなヨアン!」
「我々の勝利ですね」
ヨアンは他のケイサツメンバーにハイタッチで迎えられ、照れながらも楽しんでいる様子。一方エステラによって牢屋にブチ込まれたルイは不満顔。
「おいエステラ、遊びでスキルフル活用はどうなんだ」
「ふははは! 何事にも全力で挑んでこそっすよ!」
満面の笑みで囚人たちを見下ろすエステラを横目に、旭が口を開く。
「さて、そろそろ飯の買い物に行かなきゃな」
「私手伝うよ」
「ボクも」
リコチェットとブレナーが手を挙げる。旭はうーんと唸った。
「ありがてーんだが、馬の限界もあるし、早かったリコチェット頼む。ブレナーはこのままヨアンと遊んでやってくれ」
「うん、分かったよ。じゃあもう1戦やろうか。今度はこっちがケイサツだよ」
●ショッピング
「さーて必要なもんはあれとこれとそれと!」
旭の駆る馬はリコチェットを後ろに乗せ、猛スピードで街道を疾駆していた。
「しっかり掴まってろよ! 早くしねーと良いモンが売り切れちまう!」
「こ、これどこに向かってるの……?」
「んん? 当然近くの街の市場だぜ!」
「……それ逆方向だよ?」
「なにぃ!?」
旭は急ブレーキをかけ、馬を180度ターン。
「うおおおおお待ってろ美味いニンジンとかー!!」
「大丈夫かな……」
●ハンターってすごい
「そろそろ休憩しませんか」
しばらく原っぱを走り回った後、十字朗が提案した。ブレナーが持参したクッキーを食べながら話そうということになり、原っぱの真ん中に腰を下ろした。最初に口を開いたのはカディスである。
「ヨアン君は食べ物の好き嫌いってある?」
「ママの作った、にくだんごスープがすき! きらいなのはにんじん」
「なんで?」
「とにかくやだ」
「そっか……」
苦笑いのカディス。その次を受けたのはブレナーだ。
「ヨアンくんは何でハンターになりたいって思うようになったの?」
「えっとね、かっこいいし、つよいから」
「その口ぶり、どこかでハンターに会ったことがあるのですか?」
十字朗が尋ねると、ヨアンは頷いた。
「まえ、ちかくにトロールがでたんだけど、ハンターがおっぱらってくれた!」
「ほえートロール! 大変だったっすね!」
割って入ったエステラが大声を上げると、ヨアンは彼女に輝く笑顔で尋ねた。
「やっぱりおねえちゃんたちなら、トロールでもらくしょうだよね?」
「も、もちろんっすよ! トロールなんてあたし1人でちょちょいのちょいっす!」
得意げに胸を張るエステラに、ルイが後ろから呟く。
「ほう、なら次トロールとやるときは、お前1人で大丈夫だな」
「ちょ……ルイ兄それは勘弁っす……」
「えっ、おねえちゃんムリなの?」
「いや……その……あの……ほっ!」
ルイとヨアンの板挟みとなったエステラは、冷や汗を垂らしながら苦し紛れにパルムと妖精「アリス」を踊らせつつ、両手から花を出した。
「うわぁ! すごいすごい!」
「ふ、ふーふふ! そうおねえちゃんは凄いっす! と、今からヒーローになる為の練習をするっすよ。見るっすか?」
「みるみる!」
ヨアンの反応に頷くと、エステラはルイと共に少し離れたところへ立った。
「上手く誤魔化したな」
「ぐぅ……よくもヨアンくんの前で恥をかかせようとしたっすね! 本気でいくっすよ!」
瞬間、エステラの纏う空気が変わる。地を蹴ると、目にも止まらぬ速度でルイへ急接近。フェイントを交えつつ、舞うようにルイへ斬りかかる。一方のルイは冷静にユナイテッド・ドライブ・ソードを展開。最小限の攻撃でエステラの斬撃をいなしつつ、カウンターを打ち込む。エステラはその勢いを利用して跳び、距離を取る。
その演武に言葉も無く見入っているヨアンの前で、2人のハンターは数分間攻防を続けた。
「はぁはぁ……今日はこのくらいにしといてやるっす……」
「結局一撃も入れられなかったくせに」
「手加減してあげたっすよ。いいっすかヨアンくん、あたしが本気出せばルイ兄なんかギッタギタに……ぅっ!?」
その時、エステラの腹の虫がぐぎゅ~と嘶いた。
「おねえちゃんおなかへってるの?」
「かかか、体動かすと、お腹空くのは仕方ないっすよ!? でもご飯までまだ時間あるっすねー……あう~」
「食い物ならあるぞ」
「ほんとっすか!?」
ルイの言葉に飛びつくエステラ。そんな彼女へルイが懐から取り出したのは、生のニンジンスティックだった。エステラとヨアンの身体がビクリと震える。
「……たんとお食べ」
鼻先に差し出されたニンジンを齧るか否か――羞恥心と食欲の狭間で数瞬迷うも、餌付けされたウサギのようにポリポリと齧り始めた。
「ううう……美味しいけど情けないっす……ルイ兄絶対ドロケイの時のこと根に持ってるっす……」
その模様を微妙な表情で眺めていたヨアンに、ルイはニンジンを差し出す。
「……食べて、みるか?」
「ううん、いらない」
と、そこへ――
「うおーい! 帰ったぞ!」
「すぐ道に迷うから倍は時間かかったよ……」
騎乗したままで旭とリコチェットが帰ってきた。旭は生のニンジンを葉巻のように咥えながら、大量の荷物を抱えている。
「お、やっと帰ってきた。小腹減った。なんかくれ」
ウルズラがねだると、旭はニンジンを1本投げてよこした。
「サンキュー! うん、うめぇ」
生でボリボリいってる彼女を見て少し引いているヨアンに、カディスが声を掛ける。
「ヨアン君はニンジンが嫌いって言ってたけど、ニンジンを食べると目が良くなるんだ。あそこにある物が見えるかい?」
カディスが指さした先、目を凝らすと、缶のようなものが置いてある。カディスは拳銃を取り出しながら続ける。
「今からあれを撃ち抜いてみせるよ」
「あんなにとおくのを?」
「ああ」
カディスも旭から受け取ったニンジンを齧り、銃を構えて狙いを定める。
「目はハンターにとってすごく大切だ。目がいいと遠くの物も見れるし、危険な敵もすぐに見つけられる。こんな風にねッ!!」
拳銃が火を噴く。的が遠いので、命中したかどうかはそこからでは分からない。
「私が取ってきましょう」
十字朗が缶を拾って戻ってきた。缶には見事に銃弾の貫通した穴が開いていた。
「すごい! ほんとにあたってる!」
「ほらな。さて、俺は食事の支度をしなくちゃな。さ、買ってきた材料を――」
材料を受け取ろうとしたカディスに、ニヤニヤしながら旭が呟いた。
「俺のミミズクの眼は誤魔化せないぜ……さっき外したろ」
カディスは答えず、口笛を吹きながら速足でキッチンへ向かった。手伝いをするためにベルナーとリコチェットも後を追う。
「さて! 次はおねーちゃんの番だな! ニンジンもう3、4本くれ!」
ニンジン1本を齧り終えたウルズラが、ヨアンを後ろから抱き上げた。
「あっちにあたいの馬がいるから、餌あげに行こ餌!」
馬のところに行くと、ウルズラはヨアンにニンジンを手渡す。ヨアンはおずおずと馬の鼻先にそれを持っていく。すると腹ペコの馬はがつがつと齧り始めた。
「おー美味そうに食ってるなー。ほれ、この首筋んとこ撫でてみな」
「うん……」
ヨアンに撫でられ、馬は満足げに首を振る。
「こりゃ気に入られたな! よし、乗ってみるか!」
「だ、だいじょうぶ? おちたりしない?」
「平気平気!」
少し怯えつつもワクワクが顔からにじみ出ているヨアンを、ウルズラが抱き上げて馬に乗せてやる。
「うわたかい!」
「だろ! さ、ゆっくり歩かせるぜ」
●緑のアイツ
「さて作るか! ご協力ありがとうございます」
アルベルト家のキッチンでは、お料理スタンバイを終えたカディスがマリアに礼を述べる。
「いえいえ、このくらいでしたらいくらでも」
「……うげっ」
その時、旭とリコチェットが買ってきた材料を見てブレナーが妙な声を上げた。
「な、なんでコレがこんなにあるの……?」
「ああ、それは旭さんが――」
リコチェットが他人事のようにのんびりと説明。
「――なんかニヤニヤしながら大量に買ってたよ。生で齧りながら」
「うう……ハメられたよ……」
ブレナーはがくりと肩を落とした。
●いざ実食
テーブル広げられた料理からなんとも香しい匂いが立ち上る。メインディッシュはハンバーグだ。生地には摩り下ろしたニンジンが入っており、デミグラスソースの具にもニンジン。付け合わせもニンジンのグラッセだ。スープはヨアンの好物・マリア母さんの肉団子スープ(with ニンジン)。デザートのプリンにもニンジン入り。まさにニンジンのフルコースである。
「こ、これ……」
ヨアンが料理を見て愕然とする一方で、旭は大はしゃぎ。
「おおう! 美味そうなニンジン料理だ! どれどれ――」
さっそくハンバーグを一口齧る。
「うっ……うおおおおお!! うーまーいー!!」
吼えた旭の上半身が羽毛に覆われ、たちまち頭がミミズクのそれに変化。背中からは一対の翼が生え、仄かな燐光を纏う。
「あまりの美味さに思わず内なるパワーが溢れてしまった……! 生でもいけるが調理しても美味! さすがは俺が選んできたニンジンだぜ!」
「俺達の調理の腕を忘れるなって」
カディスがツッコんだ。
他のハンター達も美味い美味い言いながら料理を楽しんでいる。そんな中でしょぼんとしているヨアンに、リコチェットが優しく語り掛ける。
「……やっぱり、ニンジン食べられない?」
「うん……」
さらにルイが続いた。
「強いハンターになるには訓練も重要だが、それに耐えうる丈夫な身体を作ることも大事だ。ニンジンは病気に負けない健康な身体を作り、成長も促してくれる。特にお前のような子供には大切だ」
「嫌いなものがあるのは仕方ない。でも苦手なもの、好きなもの、いろいろ食べることが強い体を作るんだ」
カディスにも背中を押されたヨアン。しかし、やはり言われたことが理解できても、なかなか料理に手を付けられなかった。
「――ああ、確かにニンジンは栄養がたっぷり。だがな……」
そこで旭が不気味にニヤリと嘴を歪めた。
「こいつにもたっぷりだよなぁ! リコチェット! 例のアレを!」
「ああ……ついに……」
ブレナーが悲痛な声を上げた。
「どうしたのですか、急にテーブルに突っ伏して」
「ごめん十字朗さん……ボクにはどうしようも――」
嘆くブレナーを尻目に、リコチェットが運んできた大皿には、濃い緑の野菜が山と積まれていた。十字朗が声にならない悲鳴を上げた。
「っ……なぜそのように大量のピーマンが……? しかも生で!?」
ウルズラがヨアンに耳打ちをする。
「実はそこのにーちゃんは、ピーマンが食べられないんだ」
「そうなの? ハンターなのに?」
「うっ……」
ヨアンの無邪気な発言が、十字朗とブレナーの心を抉る。旭が楽しそうに捲くし立てる。
「さあ立派なハンターの2人! 苦手を乗り越えるカッコイイとこを見せてやってくれ!」
「おーう! やれやれー!」
「頑張るっすー!」
ウルズラとエステラが囃し立てる。十字朗とブレナーは脂汗を滴らせながら、1個ずつピーマンを手に取った。
「十字朗さん……」
「ブレナーさん……」
2人は泣きそうな眼で見つめ合い、ヨアンに向き直る。
『これがヒーローの覚悟です』
そう言って、ピーマンに齧り付いた。吐き出しそうになるのを必死でこらえ、咀嚼し、飲み込んだと同時に、テーブルに突っ伏して動かなくなった。
『おお……!』
自然と周りから拍手が湧く。ウルズラが再びヨアンに耳打ちした。
「どうだ? カッコイイだろ? こんくれぇ乗り越えねぇと、皆を守れる強いヒーローにはなれないぜ?」
「……」
ヨアンは無言で、フォークでスープの中のニンジンを刺すと、一気に口の中へ運んだ。
「おお……!」
「どう? ヨアン」
母マリアが心配そうにのぞき込む。ヨアンは微妙な表情で不器用に笑った。
「おいしい……かどうかわからないけど、だいじょうぶ」
「そう……!」
一斉に歓声を上げるハンター達。そこからはヨアンの勇気を讃えるパーティとなった。
●マリアからの報告
ヨアンはあれから、ニンジンを頑張って食べるようになりました。
また『ハンターになるんだからこれくらい出来ないと』と自発的にお手伝いなどに取り組んでくれるようになり、息子を騙すのに心苦しさを覚えていた私にとっても、彼の成長が喜ばしいです。
ハンターの皆様、本当にありがとうございました。
「今日は凄いお客さんが来るわよ!」
そう母のマリアに言われてドキドキしていたヨアンは、訪ねてきた一団と対面して目を見開いた。
「ママ、なんかすごいかっこしたひとたちがきたよ」
「こんにちは、初めまして。ヨアンくん……だよね?」
リコチェット・エデルノーツェ(ka4712)が、ヨアンの目線の高さに合わせるようにしゃがんで笑顔を見せた。ヨアンはコクリと頷く。それを見たウルズラ・ベーエ(ka4549)がエステラ・クルース(ka1104)に小声で話しかけた。
「ほら、やっぱり名前ヨアンだったじゃん」
「もらった資料が所々ジョンになってたのはやっぱり誤植っすね。そういうとこちゃんとしてほしいっす」
「お前ら裏でやれそういうのは」
ルイ・シュヴァリエ(ka1106)に窘められ、2人は口を噤んだ。ヨアンはおずおずと挨拶を返す。
「はじめまして……えっと、おねえちゃんたちだれ?」
「私達はこういう者です」
辻・十字朗(ka4739)が名刺を取り出し、ヨアンに丁寧に手渡した。
「これは、私の元居た世界で、仲よくして下さい。と言うご挨拶です」
「なんて書いてあるの?」
「ハンターズソサエティ所属ハンター、辻・じゅ――」
「おにいちゃんたちハンターなの!?」
十字朗が名乗り終える前に、ヨアンは興奮して声を上げる。答えたのは岩井崎 旭(ka0234)だった。
「おう! 俺たちゃ愉快で強いハンターさん達だぜ!」
「なんでハンターがぼくのうちに?」
「それはな、お前がニン――」
「おい」
カディス・ヴァントーズ(ka4674)が旭を小突いた。
「バレたら警戒されるから言わないようにしようって決めただろ……!」
「ああ忘れてた……スマン鳥頭なもんで」
ポカンとしているヨアンに、ブレナー ローゼンベック(ka4184)が咄嗟にフォローを入れた。
「将来ハンターになりたい子がいるって聞いたから、みんなで応援に来たんだ」
「うん! ぼくハンターになりたい! どうすればなれるの?」
ヨアンの疑問に、ウルズラが笑って答えた。
「よし、今からおねーちゃん達がそれを教えてやろう!」
●近所は原っぱだらけ
「おねえちゃんつかまえた!」
「うひゃあ! ヨアンは足がはえぇなぁ」
ヨアンとハンター達は、リアルブルー出身組が提案したドロケイという遊びに興じていた。ヨアン、旭、エステラ、十字朗がケイサツ。残りがドロボウ側になり、ヨアンがウルズラを捕まえたことでドロボウは全滅となった。
「やったなヨアン!」
「我々の勝利ですね」
ヨアンは他のケイサツメンバーにハイタッチで迎えられ、照れながらも楽しんでいる様子。一方エステラによって牢屋にブチ込まれたルイは不満顔。
「おいエステラ、遊びでスキルフル活用はどうなんだ」
「ふははは! 何事にも全力で挑んでこそっすよ!」
満面の笑みで囚人たちを見下ろすエステラを横目に、旭が口を開く。
「さて、そろそろ飯の買い物に行かなきゃな」
「私手伝うよ」
「ボクも」
リコチェットとブレナーが手を挙げる。旭はうーんと唸った。
「ありがてーんだが、馬の限界もあるし、早かったリコチェット頼む。ブレナーはこのままヨアンと遊んでやってくれ」
「うん、分かったよ。じゃあもう1戦やろうか。今度はこっちがケイサツだよ」
●ショッピング
「さーて必要なもんはあれとこれとそれと!」
旭の駆る馬はリコチェットを後ろに乗せ、猛スピードで街道を疾駆していた。
「しっかり掴まってろよ! 早くしねーと良いモンが売り切れちまう!」
「こ、これどこに向かってるの……?」
「んん? 当然近くの街の市場だぜ!」
「……それ逆方向だよ?」
「なにぃ!?」
旭は急ブレーキをかけ、馬を180度ターン。
「うおおおおお待ってろ美味いニンジンとかー!!」
「大丈夫かな……」
●ハンターってすごい
「そろそろ休憩しませんか」
しばらく原っぱを走り回った後、十字朗が提案した。ブレナーが持参したクッキーを食べながら話そうということになり、原っぱの真ん中に腰を下ろした。最初に口を開いたのはカディスである。
「ヨアン君は食べ物の好き嫌いってある?」
「ママの作った、にくだんごスープがすき! きらいなのはにんじん」
「なんで?」
「とにかくやだ」
「そっか……」
苦笑いのカディス。その次を受けたのはブレナーだ。
「ヨアンくんは何でハンターになりたいって思うようになったの?」
「えっとね、かっこいいし、つよいから」
「その口ぶり、どこかでハンターに会ったことがあるのですか?」
十字朗が尋ねると、ヨアンは頷いた。
「まえ、ちかくにトロールがでたんだけど、ハンターがおっぱらってくれた!」
「ほえートロール! 大変だったっすね!」
割って入ったエステラが大声を上げると、ヨアンは彼女に輝く笑顔で尋ねた。
「やっぱりおねえちゃんたちなら、トロールでもらくしょうだよね?」
「も、もちろんっすよ! トロールなんてあたし1人でちょちょいのちょいっす!」
得意げに胸を張るエステラに、ルイが後ろから呟く。
「ほう、なら次トロールとやるときは、お前1人で大丈夫だな」
「ちょ……ルイ兄それは勘弁っす……」
「えっ、おねえちゃんムリなの?」
「いや……その……あの……ほっ!」
ルイとヨアンの板挟みとなったエステラは、冷や汗を垂らしながら苦し紛れにパルムと妖精「アリス」を踊らせつつ、両手から花を出した。
「うわぁ! すごいすごい!」
「ふ、ふーふふ! そうおねえちゃんは凄いっす! と、今からヒーローになる為の練習をするっすよ。見るっすか?」
「みるみる!」
ヨアンの反応に頷くと、エステラはルイと共に少し離れたところへ立った。
「上手く誤魔化したな」
「ぐぅ……よくもヨアンくんの前で恥をかかせようとしたっすね! 本気でいくっすよ!」
瞬間、エステラの纏う空気が変わる。地を蹴ると、目にも止まらぬ速度でルイへ急接近。フェイントを交えつつ、舞うようにルイへ斬りかかる。一方のルイは冷静にユナイテッド・ドライブ・ソードを展開。最小限の攻撃でエステラの斬撃をいなしつつ、カウンターを打ち込む。エステラはその勢いを利用して跳び、距離を取る。
その演武に言葉も無く見入っているヨアンの前で、2人のハンターは数分間攻防を続けた。
「はぁはぁ……今日はこのくらいにしといてやるっす……」
「結局一撃も入れられなかったくせに」
「手加減してあげたっすよ。いいっすかヨアンくん、あたしが本気出せばルイ兄なんかギッタギタに……ぅっ!?」
その時、エステラの腹の虫がぐぎゅ~と嘶いた。
「おねえちゃんおなかへってるの?」
「かかか、体動かすと、お腹空くのは仕方ないっすよ!? でもご飯までまだ時間あるっすねー……あう~」
「食い物ならあるぞ」
「ほんとっすか!?」
ルイの言葉に飛びつくエステラ。そんな彼女へルイが懐から取り出したのは、生のニンジンスティックだった。エステラとヨアンの身体がビクリと震える。
「……たんとお食べ」
鼻先に差し出されたニンジンを齧るか否か――羞恥心と食欲の狭間で数瞬迷うも、餌付けされたウサギのようにポリポリと齧り始めた。
「ううう……美味しいけど情けないっす……ルイ兄絶対ドロケイの時のこと根に持ってるっす……」
その模様を微妙な表情で眺めていたヨアンに、ルイはニンジンを差し出す。
「……食べて、みるか?」
「ううん、いらない」
と、そこへ――
「うおーい! 帰ったぞ!」
「すぐ道に迷うから倍は時間かかったよ……」
騎乗したままで旭とリコチェットが帰ってきた。旭は生のニンジンを葉巻のように咥えながら、大量の荷物を抱えている。
「お、やっと帰ってきた。小腹減った。なんかくれ」
ウルズラがねだると、旭はニンジンを1本投げてよこした。
「サンキュー! うん、うめぇ」
生でボリボリいってる彼女を見て少し引いているヨアンに、カディスが声を掛ける。
「ヨアン君はニンジンが嫌いって言ってたけど、ニンジンを食べると目が良くなるんだ。あそこにある物が見えるかい?」
カディスが指さした先、目を凝らすと、缶のようなものが置いてある。カディスは拳銃を取り出しながら続ける。
「今からあれを撃ち抜いてみせるよ」
「あんなにとおくのを?」
「ああ」
カディスも旭から受け取ったニンジンを齧り、銃を構えて狙いを定める。
「目はハンターにとってすごく大切だ。目がいいと遠くの物も見れるし、危険な敵もすぐに見つけられる。こんな風にねッ!!」
拳銃が火を噴く。的が遠いので、命中したかどうかはそこからでは分からない。
「私が取ってきましょう」
十字朗が缶を拾って戻ってきた。缶には見事に銃弾の貫通した穴が開いていた。
「すごい! ほんとにあたってる!」
「ほらな。さて、俺は食事の支度をしなくちゃな。さ、買ってきた材料を――」
材料を受け取ろうとしたカディスに、ニヤニヤしながら旭が呟いた。
「俺のミミズクの眼は誤魔化せないぜ……さっき外したろ」
カディスは答えず、口笛を吹きながら速足でキッチンへ向かった。手伝いをするためにベルナーとリコチェットも後を追う。
「さて! 次はおねーちゃんの番だな! ニンジンもう3、4本くれ!」
ニンジン1本を齧り終えたウルズラが、ヨアンを後ろから抱き上げた。
「あっちにあたいの馬がいるから、餌あげに行こ餌!」
馬のところに行くと、ウルズラはヨアンにニンジンを手渡す。ヨアンはおずおずと馬の鼻先にそれを持っていく。すると腹ペコの馬はがつがつと齧り始めた。
「おー美味そうに食ってるなー。ほれ、この首筋んとこ撫でてみな」
「うん……」
ヨアンに撫でられ、馬は満足げに首を振る。
「こりゃ気に入られたな! よし、乗ってみるか!」
「だ、だいじょうぶ? おちたりしない?」
「平気平気!」
少し怯えつつもワクワクが顔からにじみ出ているヨアンを、ウルズラが抱き上げて馬に乗せてやる。
「うわたかい!」
「だろ! さ、ゆっくり歩かせるぜ」
●緑のアイツ
「さて作るか! ご協力ありがとうございます」
アルベルト家のキッチンでは、お料理スタンバイを終えたカディスがマリアに礼を述べる。
「いえいえ、このくらいでしたらいくらでも」
「……うげっ」
その時、旭とリコチェットが買ってきた材料を見てブレナーが妙な声を上げた。
「な、なんでコレがこんなにあるの……?」
「ああ、それは旭さんが――」
リコチェットが他人事のようにのんびりと説明。
「――なんかニヤニヤしながら大量に買ってたよ。生で齧りながら」
「うう……ハメられたよ……」
ブレナーはがくりと肩を落とした。
●いざ実食
テーブル広げられた料理からなんとも香しい匂いが立ち上る。メインディッシュはハンバーグだ。生地には摩り下ろしたニンジンが入っており、デミグラスソースの具にもニンジン。付け合わせもニンジンのグラッセだ。スープはヨアンの好物・マリア母さんの肉団子スープ(with ニンジン)。デザートのプリンにもニンジン入り。まさにニンジンのフルコースである。
「こ、これ……」
ヨアンが料理を見て愕然とする一方で、旭は大はしゃぎ。
「おおう! 美味そうなニンジン料理だ! どれどれ――」
さっそくハンバーグを一口齧る。
「うっ……うおおおおお!! うーまーいー!!」
吼えた旭の上半身が羽毛に覆われ、たちまち頭がミミズクのそれに変化。背中からは一対の翼が生え、仄かな燐光を纏う。
「あまりの美味さに思わず内なるパワーが溢れてしまった……! 生でもいけるが調理しても美味! さすがは俺が選んできたニンジンだぜ!」
「俺達の調理の腕を忘れるなって」
カディスがツッコんだ。
他のハンター達も美味い美味い言いながら料理を楽しんでいる。そんな中でしょぼんとしているヨアンに、リコチェットが優しく語り掛ける。
「……やっぱり、ニンジン食べられない?」
「うん……」
さらにルイが続いた。
「強いハンターになるには訓練も重要だが、それに耐えうる丈夫な身体を作ることも大事だ。ニンジンは病気に負けない健康な身体を作り、成長も促してくれる。特にお前のような子供には大切だ」
「嫌いなものがあるのは仕方ない。でも苦手なもの、好きなもの、いろいろ食べることが強い体を作るんだ」
カディスにも背中を押されたヨアン。しかし、やはり言われたことが理解できても、なかなか料理に手を付けられなかった。
「――ああ、確かにニンジンは栄養がたっぷり。だがな……」
そこで旭が不気味にニヤリと嘴を歪めた。
「こいつにもたっぷりだよなぁ! リコチェット! 例のアレを!」
「ああ……ついに……」
ブレナーが悲痛な声を上げた。
「どうしたのですか、急にテーブルに突っ伏して」
「ごめん十字朗さん……ボクにはどうしようも――」
嘆くブレナーを尻目に、リコチェットが運んできた大皿には、濃い緑の野菜が山と積まれていた。十字朗が声にならない悲鳴を上げた。
「っ……なぜそのように大量のピーマンが……? しかも生で!?」
ウルズラがヨアンに耳打ちをする。
「実はそこのにーちゃんは、ピーマンが食べられないんだ」
「そうなの? ハンターなのに?」
「うっ……」
ヨアンの無邪気な発言が、十字朗とブレナーの心を抉る。旭が楽しそうに捲くし立てる。
「さあ立派なハンターの2人! 苦手を乗り越えるカッコイイとこを見せてやってくれ!」
「おーう! やれやれー!」
「頑張るっすー!」
ウルズラとエステラが囃し立てる。十字朗とブレナーは脂汗を滴らせながら、1個ずつピーマンを手に取った。
「十字朗さん……」
「ブレナーさん……」
2人は泣きそうな眼で見つめ合い、ヨアンに向き直る。
『これがヒーローの覚悟です』
そう言って、ピーマンに齧り付いた。吐き出しそうになるのを必死でこらえ、咀嚼し、飲み込んだと同時に、テーブルに突っ伏して動かなくなった。
『おお……!』
自然と周りから拍手が湧く。ウルズラが再びヨアンに耳打ちした。
「どうだ? カッコイイだろ? こんくれぇ乗り越えねぇと、皆を守れる強いヒーローにはなれないぜ?」
「……」
ヨアンは無言で、フォークでスープの中のニンジンを刺すと、一気に口の中へ運んだ。
「おお……!」
「どう? ヨアン」
母マリアが心配そうにのぞき込む。ヨアンは微妙な表情で不器用に笑った。
「おいしい……かどうかわからないけど、だいじょうぶ」
「そう……!」
一斉に歓声を上げるハンター達。そこからはヨアンの勇気を讃えるパーティとなった。
●マリアからの報告
ヨアンはあれから、ニンジンを頑張って食べるようになりました。
また『ハンターになるんだからこれくらい出来ないと』と自発的にお手伝いなどに取り組んでくれるようになり、息子を騙すのに心苦しさを覚えていた私にとっても、彼の成長が喜ばしいです。
ハンターの皆様、本当にありがとうございました。
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人参克服大作戦! ウルズラ・ベーエ(ka4549) 人間(リアルブルー)|18才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/04/29 11:40:54 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/25 00:48:42 |