ゲスト
(ka0000)
臆病男の葛藤
マスター:七瀬ことり

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/07/07 12:00
- 完成日
- 2014/07/14 06:41
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
どうしてこんなことになってしまったんだろう。
村じゅうが騒然としている中で、青年――アレスは頭を抱えた。
「あの子一人では危険すぎる……無事にはもどって来られんぞ!」
「なんということじゃ……この村にはもう子供と年寄りしかおらん……ワシらが行っても逆に足でまといになるだけじゃ……」
村人たちが口々に悲鳴にも似た言葉を発する。
村に残る若者はアレス一人だったが、この状況になってもまだ彼は自分が行くとは言えなかった。
「ああ、クレア……一人で狼の群れに飛び込んでいくなんて……」
一向に良い解決策が見出されないまま、時間ばかりが過ぎていく。
アレスはこんな時にまで臆病な自分を呪った。
好きな女性が一人、村人を救うために危険を冒しているというのに、その手助けをする勇気すら彼にはなかった。もっと言えば、本当は彼女よりも男であるアレスが行くべきだったはずだ。
どうしてこんなことになってしまった。
もう二度と彼女に会えなくなるかもしれない。このまま彼女を失ったら、何もせずただ見殺しのと同じ。そうなれば、アレスは一生後悔することになるだろう。だけど、どうしても勇気は出なかった。
●
臆病男。
それが、アレスに付けられたあだ名だ。
幼い頃より異常に用心深かったアレスは、何をするにしてもまず心配ばかりをしていた。
山にいけば獣に襲われるかもしれない、川にいけば足を滑らせて溺れてしまうかもしれない。
誰もが出来るようなことも常にあれこれと危険だという理由をつけて避けてきた。
だから、彼は生まれてこの方山にも川にも行ったことがない。村から一歩も外に出たことがないのだ。
みんなができても自分に出来る気がしない。
それが彼の口癖だった。
そんな彼にもついに初恋が訪れる。
相手は村の人気者のクレアという娘だった。
薬草に詳しく、医学の知識もある彼女は、若者が皆出稼ぎに出てしまい年寄りと子供しかいない村では皆から頼りにされていた。
明るくて誰にでも分け隔てなく優しい彼女にアレスは惹かれたのだ。
クレアが一人、狼の群れに立ち向かうことになったのは、ある穏やかな日のことだった。
突然一人の村人が血相を変えて村に駆け込んだ。
「大変だ! 村はずれの小屋が狼の群れに囲まれている! しかも、立派な長い牙を持った奴らだ!」
その言葉に村人たちがざわついた。
なんでも、山に山菜を取りに入った帰りに遠くから見えたのだという。
小屋では食事の準備がされていたのか、煙突から煙が出ていた。狼たちはもしかすると肉の焼けるにおいに釣られたのかもしれないと村人は言う。
「長い牙? そんな狼がいるのか?」
「化け物じゃ……!」
「この村にたどり着くのも時間の問題……近くの村に逃げた方がいいんじゃないか!?」
村でもすでに食事の用意が始まっている。もし本当に匂いで釣られたのならば、まもなくここにも狼たちがやってくるのだろう。
皆がパニックに陥っていた。
小屋から村は半日もかからない距離で、獣の足ならばすぐにでも村に到達するだろう。
そんな狼たちに立ち向かえるような若者がいない村がどうなるかは容易に想像がつく。
「みんな、落ち着いて!」
混乱に陥ったその場に凛とした声が響いた。クレアだ。
「今からただ逃げてもすぐに追いつかれてしまうわ。それに、あの小屋には足の悪いおじいさんが住んでる。村が空っぽになってしまったら、おじいさんに食べ物を届ける人もいなくなってしまうのよ」
村人たちが、クレアの言葉に耳を傾けた。
「私が時間を稼ぐわ。その間に、誰か助けを呼んできて」
クレアがそう言うと、村人たちまた一斉にざわついた。
「クレア、正気か!? 相手は化け物じゃぞ!?」
「大丈夫。私が薬草に詳しいのはよく知ってるでしょ? 時間を稼ぐくらいならなんとかなるわ」
それよりも、と彼女は最初に異変を村に伝えた者に目をやった。村の老人の中でも比較的若く、山に入って山菜を取る体力のある男だ。
「隣の村に助けを呼びに行って欲しいの。あなただけなら、半日以内に着けるでしょう?」
「……わかった!」
男はすぐに用意して出かけた。
その後ろ姿を見て、クレアが歩き出す。
「あ、あの!」
アレスは思わず彼女を引き止めた。
「……大丈夫よ。食べ物の匂いに釣られて来たのならばきっとその発生源である家の中に入ろうとするわ。みんなには言わなかったけど……あの大きな牙を持っているというなら、扉を破ることも出来るかもしれない。おじいさんを安全な場所まで避難させる必要があるだろうし、それは若くて体力のある私が一番適任なのよ」
クレアの手が震えていた。それを隠しながら彼女は微笑んで、踵を返す。
アレスは止めることができなかった。ただ、その場に呆然と立ち尽くし、その背中が小さくなっていくのを見ているだけで。
そして、話は冒頭に戻る。
村じゅうが騒然としている中で、青年――アレスは頭を抱えた。
「あの子一人では危険すぎる……無事にはもどって来られんぞ!」
「なんということじゃ……この村にはもう子供と年寄りしかおらん……ワシらが行っても逆に足でまといになるだけじゃ……」
村人たちが口々に悲鳴にも似た言葉を発する。
村に残る若者はアレス一人だったが、この状況になってもまだ彼は自分が行くとは言えなかった。
「ああ、クレア……一人で狼の群れに飛び込んでいくなんて……」
一向に良い解決策が見出されないまま、時間ばかりが過ぎていく。
アレスはこんな時にまで臆病な自分を呪った。
好きな女性が一人、村人を救うために危険を冒しているというのに、その手助けをする勇気すら彼にはなかった。もっと言えば、本当は彼女よりも男であるアレスが行くべきだったはずだ。
どうしてこんなことになってしまった。
もう二度と彼女に会えなくなるかもしれない。このまま彼女を失ったら、何もせずただ見殺しのと同じ。そうなれば、アレスは一生後悔することになるだろう。だけど、どうしても勇気は出なかった。
●
臆病男。
それが、アレスに付けられたあだ名だ。
幼い頃より異常に用心深かったアレスは、何をするにしてもまず心配ばかりをしていた。
山にいけば獣に襲われるかもしれない、川にいけば足を滑らせて溺れてしまうかもしれない。
誰もが出来るようなことも常にあれこれと危険だという理由をつけて避けてきた。
だから、彼は生まれてこの方山にも川にも行ったことがない。村から一歩も外に出たことがないのだ。
みんなができても自分に出来る気がしない。
それが彼の口癖だった。
そんな彼にもついに初恋が訪れる。
相手は村の人気者のクレアという娘だった。
薬草に詳しく、医学の知識もある彼女は、若者が皆出稼ぎに出てしまい年寄りと子供しかいない村では皆から頼りにされていた。
明るくて誰にでも分け隔てなく優しい彼女にアレスは惹かれたのだ。
クレアが一人、狼の群れに立ち向かうことになったのは、ある穏やかな日のことだった。
突然一人の村人が血相を変えて村に駆け込んだ。
「大変だ! 村はずれの小屋が狼の群れに囲まれている! しかも、立派な長い牙を持った奴らだ!」
その言葉に村人たちがざわついた。
なんでも、山に山菜を取りに入った帰りに遠くから見えたのだという。
小屋では食事の準備がされていたのか、煙突から煙が出ていた。狼たちはもしかすると肉の焼けるにおいに釣られたのかもしれないと村人は言う。
「長い牙? そんな狼がいるのか?」
「化け物じゃ……!」
「この村にたどり着くのも時間の問題……近くの村に逃げた方がいいんじゃないか!?」
村でもすでに食事の用意が始まっている。もし本当に匂いで釣られたのならば、まもなくここにも狼たちがやってくるのだろう。
皆がパニックに陥っていた。
小屋から村は半日もかからない距離で、獣の足ならばすぐにでも村に到達するだろう。
そんな狼たちに立ち向かえるような若者がいない村がどうなるかは容易に想像がつく。
「みんな、落ち着いて!」
混乱に陥ったその場に凛とした声が響いた。クレアだ。
「今からただ逃げてもすぐに追いつかれてしまうわ。それに、あの小屋には足の悪いおじいさんが住んでる。村が空っぽになってしまったら、おじいさんに食べ物を届ける人もいなくなってしまうのよ」
村人たちが、クレアの言葉に耳を傾けた。
「私が時間を稼ぐわ。その間に、誰か助けを呼んできて」
クレアがそう言うと、村人たちまた一斉にざわついた。
「クレア、正気か!? 相手は化け物じゃぞ!?」
「大丈夫。私が薬草に詳しいのはよく知ってるでしょ? 時間を稼ぐくらいならなんとかなるわ」
それよりも、と彼女は最初に異変を村に伝えた者に目をやった。村の老人の中でも比較的若く、山に入って山菜を取る体力のある男だ。
「隣の村に助けを呼びに行って欲しいの。あなただけなら、半日以内に着けるでしょう?」
「……わかった!」
男はすぐに用意して出かけた。
その後ろ姿を見て、クレアが歩き出す。
「あ、あの!」
アレスは思わず彼女を引き止めた。
「……大丈夫よ。食べ物の匂いに釣られて来たのならばきっとその発生源である家の中に入ろうとするわ。みんなには言わなかったけど……あの大きな牙を持っているというなら、扉を破ることも出来るかもしれない。おじいさんを安全な場所まで避難させる必要があるだろうし、それは若くて体力のある私が一番適任なのよ」
クレアの手が震えていた。それを隠しながら彼女は微笑んで、踵を返す。
アレスは止めることができなかった。ただ、その場に呆然と立ち尽くし、その背中が小さくなっていくのを見ているだけで。
そして、話は冒頭に戻る。
リプレイ本文
木の間から遠くに小屋が見える位置で、男が止まった。
「ありがとうございます、助かりました。ここから先は危ないので村に戻ってください」
青ざめた表情で不安げな案内の男――言い換えれば助けを呼びに来た男に佐倉 桜(ka0386)がやわらかな口調で言った。
それを聞いた男は「どうかよろしくお願いします」と頭を深く下げて一行に背中を向けた。
「最短ルートで案内してもらったけど……さっき聞いたクレアさんが出発した時間からすると、もう狼たちと接触していてもおかしくはありませんね」
マヘル・ハシバス(ka0440)は小屋の方に視線をやる。
「急がないと……」
「みんな、結構急いできたけど、行けるかい?」
マヘルの言葉を引き継いだリアム・グッドフェロー(ka2480)がそれなりの距離を休みなく移動してきた仲間たちを気遣う。
「いつでも。みんな、敵は任せたよ」
リアムの言葉にうなずき、アレックス・マクラウド(ka0580)は敵をひきつける役割の仲間たちに声をかけた。
「本当に大変なことになってるね……」
小屋への道を進みながら、渋い顔をしたのはサトコ・ロロブリジーダ(ka2475)だ。
「せっかくツテができそうなのに死なれちゃ困るぜ……」
「あら? 今何か言ったかしら」
「急いでクレアさんとご老人を助けに行かなくっちゃねって」
クレアを助けて恩を売っておけば、貴重な薬草毒草を入手できるツテができるかもしれないと期待したサトコがこっそり小さく笑う。もちろん、その低い小さな声を拾える者はおらず、隣を歩くカミーユ・鏑木(ka2479)のきょとんとした表情に力強く言葉を返して彼女は大股で前に踏み出した。
下り坂だったこともあり、小屋の近くまでたどり着くまでにそれほど時間はかからなかった。
遠くから見ていた通り、十数匹の狼たちがたまっている。
あたりをぐるりと見回して、桜は状況を確認する。クレアは見当たらない。
桜は指を強く噛んだ。そして、広場へと躍り出る。
嗅覚に優れた狼たちのうちの何匹かが漂う血の匂いにピクリと反応を示す。
「救出しやすいように、早めに敵は減らしておかなくちゃね!」
桜と同様に掌を浅く切ってかすかに血の匂いを漂わせたカミーユも武器を構える。それを見てマヘルは狼に囲まれるだろうと予測される彼に攻性強化を発動した。
二人の狙い通り、血の匂いに敏感な狼たちが、一匹、また一匹と二人へと向かってくる。
飢えて血走ったギョロリとした目と鋭い牙を覗かせた口元に、桜が「ひっ」と小さく息を飲んで一瞬後ずさるが、すぐにロッドを構えなおして足を踏み出した。
狼が、口を大きく開いて桜に飛びかかろうとする。
その鋭く大きな牙が完全に見える前に、桜は武器を下から振り上げた。それは渾身の一撃を繰り出そうとした狼の下あごにヒット。開きかけた口がガツンッと閉じて、狼が驚いたように目を丸くした。
狼に隙ができた間に桜は後ろへ下がって距離を取る。
「口を閉じてしまえば怖くない。いいアイディアじゃない!」
その間に割り込むようにカミーユが飛び出した。
隙だらけの狼に向かって一歩踏み込む。そして構えた武器にマテリアルをこめて渾身の一撃を放つ!
それは狼の身を守るための武器ともいえるだろう長い牙を折り、それだけでは止まらずにそのまま口から後頭部を貫いた。
致命傷を負った狼がどさりと重い音を立てて倒れこむ。
「あなたの相手はこちらですよ!」
攻撃後の隙を狙ってカミーユに飛びかかろうとした狼が直前で飛んできた閃光に飛びのいた。
マヘルの機導砲だ。仲間の死角から敵が攻撃しようとするのを一つ一つ確実に阻止していく。
「……クレアさんは……」
それと同時に彼女は周囲に目を配る。
どうか、最悪の状況だけにはなっていませんように。
そうしているうちにマヘルの目に茂みの下に隠れるようにして倒れている娘――おそらくはクレアだろう――が入る。
「クレアさん!」
すぐさま保護のために駆け寄る彼女だが、それとほぼ同時に狼もその存在に気が付いたのだろう、血の匂いで引きつけきれなかった狼が五匹ほどクレアへと向かっていく。
「させないよ!」
すぐに気が付いたサトコが干し肉を狼たちに向かって投げつける。
目の前に落とされた干し肉に、狼たちは勢いよく飛びついた。よほど腹が減っているのか、それとも単に興味があるのか、彼らは頭をぶつけあいながら、干し肉に群がる。
「危ない!」
偶然にも群れの中でも力の劣る個体だったのだろう、一匹の狼が干し肉に近づけず、再び倒れるクレアへと向かっていく。
間一髪。
クレアと狼の間に割り込んだ桜が武器でその攻撃を受け止めた。想像以上に重い一撃に腕が軋むが、それでも背に守る者がいるのだ。彼女はひるまない。
それとほぼ同時にマヘルの魔導銃が火を吹いて、一直線に飛ぶ弾丸が一撃で狼の息の根を止める。
「大丈夫ですか? クレアさん!」
倒れているクレアの体には細かい傷がたくさんついていた。それを見て桜がヒールを発動する。
「ハンターです。もう大丈夫、私たちに任せて……」
目を覚ましてあわてた様子のクレアを落ち着かせるようにマヘルが言った。
「よかった……助けが……ありがとうございます……」
クレアがほっと息を吐き出した。
「あの、クレアさん、匂い消しの薬草は持っていませんか?」
桜が尋ねた。
クレアはうなずいて、ポプリに使う匂いの強い薬草を取り出した。
狼避けのために使ってしまったので残りはそう多くなかったが、クレアと小屋にいる老人を逃がすには足りそうな量だ。
「これくらいあればなんとかなりそうですね。帰りに使うといいかも」
桜が伝えた。
と、話しているその背後に、狼が近づく。まだ血の匂いが残る桜にひきつけられたのだろうか。
「きゃあ!」
「大丈夫! ここは抜かせません」
クレアが驚いて悲鳴を上げたが、すぐさまマヘルがそこに立ちふさがった。
彼女は二人が話をしている間にその隙をついてくる敵を警戒していたため、危なげもなく応戦する。
一歩前に踏み出しながら機導剣を発動。飛びかかってくる狼の腹に強力な一撃をお見舞いした。
狼はあおむけに吹き飛び、地面にたたきつけられる。すかさずサトコがマジックアローを発動させ、狼に止めを刺した。
「ここは危ないし、小屋の方に行ったほうがよさそうだ」
小屋へと向かう途中でクレアに気が付き、同じように駆けつけてきたアレックスが言った。
幸いにも桜やマヘル、サトコ、それからカミーユが敵をひきつけたおかげで小屋に攻撃をする狼はほとんどいなくなっていた。このままよりも一緒にそちらへ向かった方が安全だろう。
「わかりました」
クレアはうなずいた。
「大丈夫? 立てるかい?」
リアムが立ち上がろうとするクレアにすかさず手を差し伸べる。
「礼を言われるほどのことじゃないさ」
クレアが礼を言えば、リアムはにっこりと微笑む。そして彼女の手を引いてアレックスの後ろに続いた。
「ボクの後に!」
仲間たちによって作られた道をアレックスは盾を構えて駆け抜ける。
途中ではぐれたようにこちらへ向かってくる相手も気にせずに、一直線に向かう。そんなアレックスのすぐ後ろにはクレア、その後ろでしんがりを務めながら向かってくる敵にマジックアローを発動しながらリアムが走る。攻撃は当たらずとも、よけようとした狼たちが足を止める。
「おっと」
途中でクレアがつまずいた。
「大丈夫かい? ……失礼」
きっと疲れもたまっていたのだろう。
それに気が付いたリアムが、クレアのひざ裏に手を入れてひょいと抱え上げた。
「ほらほらご飯はこっちだよ!」
小屋へと向かう三人の邪魔をされないように、サトコは再び干し肉を投げつけた。
先ほどの結果を思い出し、サトコの口元に笑みが浮かぶ。
投げられた干し肉に集まった狼たちはやはりわれ先にと肉に駆け寄っていき、頭をぶつけあった。
それまで一匹が攻撃をし、こちらの注意が片方に向けられた瞬間にもう一匹が攻撃をするなどと連携の取れた行動をしていたのに、ひどいありさまだ。
「えいっ!」
サトコが干し肉に夢中になる狼の一匹に向かってマジックアローを発動する。
光る矢はまっすぐに空気を斬り裂いて狼へと飛んでゆき、その無防備な背中に絶大な衝撃を与える。
一瞬の出来事だった。
内なるサトコが「皆殺しだ!」とガッツポーズを作った。
「あたしも負けちゃいられないわね!」
勢いの良いサトコを見て、カミーユが一瞬肉から注意が逸れた狼の関節を狙う。不意を突かれたその攻撃を、狼は避けられない。
どんな生き物にもどうしようにも克服できない弱点の部分がある。それは動きを妨げないために武装をできない関節部であったり、目であったり。
関節に傷を負った狼は立ち上がれない。そこに後方から桜のホーリーライトが突き刺さった。
「これでもう一匹ね!」
順調に数を減らしていく狼たちを尻目にカミーユは次の敵に移る。
と、その時だった。
彼が振り向いた瞬間を狙って、一匹の狼が口を開けて待っていた。白い牙が鋭く光る。
カミーユはすぐさま後ろに跳んで回避をする。しかし、わずかに遅れて牙がその腕をかすめた。彼の普段から気を付けて手入れしていた肌に、赤い線が走る。
「てめぇ……何人の肌に傷つけてくれてるんじゃこらっ!!」
一瞬にして顔が鬼の形相となった。
傷つけられて一瞬にして人が変わったかのようなカミーユが、すぐさま狼の体に痛烈な一撃を加える。
狼が倒れても、彼は攻撃をやめない。ひたすらガツガツと倒れて動かなくなった獣をボロボロになるまで斬りつけた。
「あら。つい頭に血が上っちゃったわ」
いたずらっ子のように舌を出して「てへっ」と笑った彼に、後衛陣は皆顔を青くしたのだった。
●
「よかった、まだ大丈夫そうだね」
小屋に到着したアレックスはほっと胸をなでおろした。
「助けに来たよ! 怪我はないかい?」
扉をたたいてリアムが声をかけた。
「お、おお……助けに来てくれたのか……」
扉の向こうから人の動く気配がした。
「もう大丈夫だよ。待たせてごめんなさい」
アレックスの言葉に、小屋の老人がゆるゆると首を振った。
「こんな老いぼれのためにわざわざ……本当にありがとうございます」
老人はクレアとアレックス、リアムの顔を順番に見つめて言った。
「……やっぱりここでゆっくりしている場合でもなさそうだね」
アレックスが、小屋に裏口があることに気が付いて険しい表情で言った。
いつの間にか狼が裏にまで回ってしまったのだろうか、体当たりを受けているのだろう扉がぎしぎしと軋んで、パキリ……と音を立てる。
「逃げて、早く!」
アレックスは盾を構え叫んだ。次にはもう狼が突入してくるだろうことを予測し、クレアと老人を背にかばうようにして立つ。
そして、ガシャンッと派手な音を立てて扉が破られる。
侵入してきた一匹の狼が飛びかかってくるのを盾で防御する。狭い小屋の中は動きにくいが、それは相手も同じこと。メイスファイティングを発動。相手を攻撃すると、吹き飛ばされた狼は暖炉に突っこんだ。
火は灯されていなかったが、灰がたまっていたので一瞬にして視界が悪くなる。
「こっちだ」
その隙にリアムが二人を外に誘導する。
足の悪い老人を支えながらの行動だったので想像以上に時間がかかってしまったが、その間も常にアレックスが敵に気を配っていた。
やがて二人が小屋から外へ出たのを確認し、アレックスはギリギリで扉をぴしゃりと閉めた。間一髪で体勢を整えて飛びかかって来た狼が扉に激突して、その勢いで外開きの扉があかないように押さえていたリアムの体に衝撃が走った。
「間一髪かな」
扉に激突して気を失ったのだろうか、小屋内が静かになった隙に一般人の二人を遠ざける。
「ここで待っていてください」
そうして比較的仲間たちが戦っている場所から遠く、目の届きやすいところで待機させて守るように立ったアレックスの後ろにリアムも場所をとった。
先ほど小屋の中に入った狼が出てくるのを警戒しつつ、彼は精神を集中させてマテリアルを感じた。
絶対にあと一撃で仕留めてやる。
リアムが目を細めた、その時。
バンッ! と大きな音を立てて扉が外れた。
飛び出してきた満身創痍の狼を狙って今だとばかりにマジックアローを放つ!
いつでも攻撃できるようにと準備万端に狙いを定めていた光の矢が力強く、まっすぐに敵に向かって飛んでいく。それは、小屋から飛び出してきた狼の眉間に刺さった。
「これで、最後かな」
リアムが、構えていた武器を下した。
●
「痛みますか?」
老人の腕の傷をヒールで治療しながらアレックスが尋ねた。狼が侵入してたときに驚いてぶつけてしまったのだ。
「村までは私が背負おう」
足が悪い老人の前に屈みこみ、リアムが言った。
「……うそお」
その横でサトコが思わず悲痛な声を出した。
クレアの薬草を見せてもらったわけなのだが、その中身は完全に期待外れ。
内なるサトコが「しょうもねぇ草ばっかりじゃねえか! ……こりゃとんだ骨折り損だぜ……」と肩を落としたのだった。
覚醒者たちとクレアは村に戻るなり盛大な歓迎を受けた。
「これ、少ないですが……」
そう言って差し出されたのは、村の保存食として使っていたのだろう、干し肉。好意を断ることもできなかったので、ちょうど作戦で干し肉を使ったサトコが受け取った。
「あなたが、アレスさんですか?」
マヘルが一人たたずむアレスの隣に腰掛けた。
彼女を見て一瞬おびえた様子を見せた彼を、マヘルは「大丈夫だから」と落ち着かせる。
「自分に、自信がないのでしょう? 私もなんです」
「え?」
「覚醒者になってもちゃんとやっているのか……私も自分の力に自信がありません。でも前に踏み出さないと何もできないんです」
アレスの目を見て、彼女は言った。
「そうですよ。私もあなたの気持ちはよくわかります。だから……無理をするな、とは言いません。私も、怖いですから」
「ボクも戦うのは怖いよ。でも、ボクは戦う。そうしないと、誰も守れないから」
いつの間にかアレスの周りには覚醒者たちが集まっていた。
「ごめんね、キミを責めたいわけじゃないんだ。ただ、少しでも意識してもらえばと思って」
自身との違いに落ち込んだ様子のアレスに、アレックスはやさしく話しかけた。
「そう、みんなも言ってるけれど、怖い物は怖いけれども一歩踏み出さなければ何も変わらないだろう? それに私は男性だからね。女性が困っていたら見過ごせないのさ!」
「大丈夫よ! あなたならできるわ!」
リアム、カミーユも口々に言った。
「いつか貴方の勇気が誰かを助ける日を望みます」
「できる……のかな」
桜の言葉にまだ不安げだったが、アレスが顔を上げた。
「ありがとうございます、助かりました。ここから先は危ないので村に戻ってください」
青ざめた表情で不安げな案内の男――言い換えれば助けを呼びに来た男に佐倉 桜(ka0386)がやわらかな口調で言った。
それを聞いた男は「どうかよろしくお願いします」と頭を深く下げて一行に背中を向けた。
「最短ルートで案内してもらったけど……さっき聞いたクレアさんが出発した時間からすると、もう狼たちと接触していてもおかしくはありませんね」
マヘル・ハシバス(ka0440)は小屋の方に視線をやる。
「急がないと……」
「みんな、結構急いできたけど、行けるかい?」
マヘルの言葉を引き継いだリアム・グッドフェロー(ka2480)がそれなりの距離を休みなく移動してきた仲間たちを気遣う。
「いつでも。みんな、敵は任せたよ」
リアムの言葉にうなずき、アレックス・マクラウド(ka0580)は敵をひきつける役割の仲間たちに声をかけた。
「本当に大変なことになってるね……」
小屋への道を進みながら、渋い顔をしたのはサトコ・ロロブリジーダ(ka2475)だ。
「せっかくツテができそうなのに死なれちゃ困るぜ……」
「あら? 今何か言ったかしら」
「急いでクレアさんとご老人を助けに行かなくっちゃねって」
クレアを助けて恩を売っておけば、貴重な薬草毒草を入手できるツテができるかもしれないと期待したサトコがこっそり小さく笑う。もちろん、その低い小さな声を拾える者はおらず、隣を歩くカミーユ・鏑木(ka2479)のきょとんとした表情に力強く言葉を返して彼女は大股で前に踏み出した。
下り坂だったこともあり、小屋の近くまでたどり着くまでにそれほど時間はかからなかった。
遠くから見ていた通り、十数匹の狼たちがたまっている。
あたりをぐるりと見回して、桜は状況を確認する。クレアは見当たらない。
桜は指を強く噛んだ。そして、広場へと躍り出る。
嗅覚に優れた狼たちのうちの何匹かが漂う血の匂いにピクリと反応を示す。
「救出しやすいように、早めに敵は減らしておかなくちゃね!」
桜と同様に掌を浅く切ってかすかに血の匂いを漂わせたカミーユも武器を構える。それを見てマヘルは狼に囲まれるだろうと予測される彼に攻性強化を発動した。
二人の狙い通り、血の匂いに敏感な狼たちが、一匹、また一匹と二人へと向かってくる。
飢えて血走ったギョロリとした目と鋭い牙を覗かせた口元に、桜が「ひっ」と小さく息を飲んで一瞬後ずさるが、すぐにロッドを構えなおして足を踏み出した。
狼が、口を大きく開いて桜に飛びかかろうとする。
その鋭く大きな牙が完全に見える前に、桜は武器を下から振り上げた。それは渾身の一撃を繰り出そうとした狼の下あごにヒット。開きかけた口がガツンッと閉じて、狼が驚いたように目を丸くした。
狼に隙ができた間に桜は後ろへ下がって距離を取る。
「口を閉じてしまえば怖くない。いいアイディアじゃない!」
その間に割り込むようにカミーユが飛び出した。
隙だらけの狼に向かって一歩踏み込む。そして構えた武器にマテリアルをこめて渾身の一撃を放つ!
それは狼の身を守るための武器ともいえるだろう長い牙を折り、それだけでは止まらずにそのまま口から後頭部を貫いた。
致命傷を負った狼がどさりと重い音を立てて倒れこむ。
「あなたの相手はこちらですよ!」
攻撃後の隙を狙ってカミーユに飛びかかろうとした狼が直前で飛んできた閃光に飛びのいた。
マヘルの機導砲だ。仲間の死角から敵が攻撃しようとするのを一つ一つ確実に阻止していく。
「……クレアさんは……」
それと同時に彼女は周囲に目を配る。
どうか、最悪の状況だけにはなっていませんように。
そうしているうちにマヘルの目に茂みの下に隠れるようにして倒れている娘――おそらくはクレアだろう――が入る。
「クレアさん!」
すぐさま保護のために駆け寄る彼女だが、それとほぼ同時に狼もその存在に気が付いたのだろう、血の匂いで引きつけきれなかった狼が五匹ほどクレアへと向かっていく。
「させないよ!」
すぐに気が付いたサトコが干し肉を狼たちに向かって投げつける。
目の前に落とされた干し肉に、狼たちは勢いよく飛びついた。よほど腹が減っているのか、それとも単に興味があるのか、彼らは頭をぶつけあいながら、干し肉に群がる。
「危ない!」
偶然にも群れの中でも力の劣る個体だったのだろう、一匹の狼が干し肉に近づけず、再び倒れるクレアへと向かっていく。
間一髪。
クレアと狼の間に割り込んだ桜が武器でその攻撃を受け止めた。想像以上に重い一撃に腕が軋むが、それでも背に守る者がいるのだ。彼女はひるまない。
それとほぼ同時にマヘルの魔導銃が火を吹いて、一直線に飛ぶ弾丸が一撃で狼の息の根を止める。
「大丈夫ですか? クレアさん!」
倒れているクレアの体には細かい傷がたくさんついていた。それを見て桜がヒールを発動する。
「ハンターです。もう大丈夫、私たちに任せて……」
目を覚ましてあわてた様子のクレアを落ち着かせるようにマヘルが言った。
「よかった……助けが……ありがとうございます……」
クレアがほっと息を吐き出した。
「あの、クレアさん、匂い消しの薬草は持っていませんか?」
桜が尋ねた。
クレアはうなずいて、ポプリに使う匂いの強い薬草を取り出した。
狼避けのために使ってしまったので残りはそう多くなかったが、クレアと小屋にいる老人を逃がすには足りそうな量だ。
「これくらいあればなんとかなりそうですね。帰りに使うといいかも」
桜が伝えた。
と、話しているその背後に、狼が近づく。まだ血の匂いが残る桜にひきつけられたのだろうか。
「きゃあ!」
「大丈夫! ここは抜かせません」
クレアが驚いて悲鳴を上げたが、すぐさまマヘルがそこに立ちふさがった。
彼女は二人が話をしている間にその隙をついてくる敵を警戒していたため、危なげもなく応戦する。
一歩前に踏み出しながら機導剣を発動。飛びかかってくる狼の腹に強力な一撃をお見舞いした。
狼はあおむけに吹き飛び、地面にたたきつけられる。すかさずサトコがマジックアローを発動させ、狼に止めを刺した。
「ここは危ないし、小屋の方に行ったほうがよさそうだ」
小屋へと向かう途中でクレアに気が付き、同じように駆けつけてきたアレックスが言った。
幸いにも桜やマヘル、サトコ、それからカミーユが敵をひきつけたおかげで小屋に攻撃をする狼はほとんどいなくなっていた。このままよりも一緒にそちらへ向かった方が安全だろう。
「わかりました」
クレアはうなずいた。
「大丈夫? 立てるかい?」
リアムが立ち上がろうとするクレアにすかさず手を差し伸べる。
「礼を言われるほどのことじゃないさ」
クレアが礼を言えば、リアムはにっこりと微笑む。そして彼女の手を引いてアレックスの後ろに続いた。
「ボクの後に!」
仲間たちによって作られた道をアレックスは盾を構えて駆け抜ける。
途中ではぐれたようにこちらへ向かってくる相手も気にせずに、一直線に向かう。そんなアレックスのすぐ後ろにはクレア、その後ろでしんがりを務めながら向かってくる敵にマジックアローを発動しながらリアムが走る。攻撃は当たらずとも、よけようとした狼たちが足を止める。
「おっと」
途中でクレアがつまずいた。
「大丈夫かい? ……失礼」
きっと疲れもたまっていたのだろう。
それに気が付いたリアムが、クレアのひざ裏に手を入れてひょいと抱え上げた。
「ほらほらご飯はこっちだよ!」
小屋へと向かう三人の邪魔をされないように、サトコは再び干し肉を投げつけた。
先ほどの結果を思い出し、サトコの口元に笑みが浮かぶ。
投げられた干し肉に集まった狼たちはやはりわれ先にと肉に駆け寄っていき、頭をぶつけあった。
それまで一匹が攻撃をし、こちらの注意が片方に向けられた瞬間にもう一匹が攻撃をするなどと連携の取れた行動をしていたのに、ひどいありさまだ。
「えいっ!」
サトコが干し肉に夢中になる狼の一匹に向かってマジックアローを発動する。
光る矢はまっすぐに空気を斬り裂いて狼へと飛んでゆき、その無防備な背中に絶大な衝撃を与える。
一瞬の出来事だった。
内なるサトコが「皆殺しだ!」とガッツポーズを作った。
「あたしも負けちゃいられないわね!」
勢いの良いサトコを見て、カミーユが一瞬肉から注意が逸れた狼の関節を狙う。不意を突かれたその攻撃を、狼は避けられない。
どんな生き物にもどうしようにも克服できない弱点の部分がある。それは動きを妨げないために武装をできない関節部であったり、目であったり。
関節に傷を負った狼は立ち上がれない。そこに後方から桜のホーリーライトが突き刺さった。
「これでもう一匹ね!」
順調に数を減らしていく狼たちを尻目にカミーユは次の敵に移る。
と、その時だった。
彼が振り向いた瞬間を狙って、一匹の狼が口を開けて待っていた。白い牙が鋭く光る。
カミーユはすぐさま後ろに跳んで回避をする。しかし、わずかに遅れて牙がその腕をかすめた。彼の普段から気を付けて手入れしていた肌に、赤い線が走る。
「てめぇ……何人の肌に傷つけてくれてるんじゃこらっ!!」
一瞬にして顔が鬼の形相となった。
傷つけられて一瞬にして人が変わったかのようなカミーユが、すぐさま狼の体に痛烈な一撃を加える。
狼が倒れても、彼は攻撃をやめない。ひたすらガツガツと倒れて動かなくなった獣をボロボロになるまで斬りつけた。
「あら。つい頭に血が上っちゃったわ」
いたずらっ子のように舌を出して「てへっ」と笑った彼に、後衛陣は皆顔を青くしたのだった。
●
「よかった、まだ大丈夫そうだね」
小屋に到着したアレックスはほっと胸をなでおろした。
「助けに来たよ! 怪我はないかい?」
扉をたたいてリアムが声をかけた。
「お、おお……助けに来てくれたのか……」
扉の向こうから人の動く気配がした。
「もう大丈夫だよ。待たせてごめんなさい」
アレックスの言葉に、小屋の老人がゆるゆると首を振った。
「こんな老いぼれのためにわざわざ……本当にありがとうございます」
老人はクレアとアレックス、リアムの顔を順番に見つめて言った。
「……やっぱりここでゆっくりしている場合でもなさそうだね」
アレックスが、小屋に裏口があることに気が付いて険しい表情で言った。
いつの間にか狼が裏にまで回ってしまったのだろうか、体当たりを受けているのだろう扉がぎしぎしと軋んで、パキリ……と音を立てる。
「逃げて、早く!」
アレックスは盾を構え叫んだ。次にはもう狼が突入してくるだろうことを予測し、クレアと老人を背にかばうようにして立つ。
そして、ガシャンッと派手な音を立てて扉が破られる。
侵入してきた一匹の狼が飛びかかってくるのを盾で防御する。狭い小屋の中は動きにくいが、それは相手も同じこと。メイスファイティングを発動。相手を攻撃すると、吹き飛ばされた狼は暖炉に突っこんだ。
火は灯されていなかったが、灰がたまっていたので一瞬にして視界が悪くなる。
「こっちだ」
その隙にリアムが二人を外に誘導する。
足の悪い老人を支えながらの行動だったので想像以上に時間がかかってしまったが、その間も常にアレックスが敵に気を配っていた。
やがて二人が小屋から外へ出たのを確認し、アレックスはギリギリで扉をぴしゃりと閉めた。間一髪で体勢を整えて飛びかかって来た狼が扉に激突して、その勢いで外開きの扉があかないように押さえていたリアムの体に衝撃が走った。
「間一髪かな」
扉に激突して気を失ったのだろうか、小屋内が静かになった隙に一般人の二人を遠ざける。
「ここで待っていてください」
そうして比較的仲間たちが戦っている場所から遠く、目の届きやすいところで待機させて守るように立ったアレックスの後ろにリアムも場所をとった。
先ほど小屋の中に入った狼が出てくるのを警戒しつつ、彼は精神を集中させてマテリアルを感じた。
絶対にあと一撃で仕留めてやる。
リアムが目を細めた、その時。
バンッ! と大きな音を立てて扉が外れた。
飛び出してきた満身創痍の狼を狙って今だとばかりにマジックアローを放つ!
いつでも攻撃できるようにと準備万端に狙いを定めていた光の矢が力強く、まっすぐに敵に向かって飛んでいく。それは、小屋から飛び出してきた狼の眉間に刺さった。
「これで、最後かな」
リアムが、構えていた武器を下した。
●
「痛みますか?」
老人の腕の傷をヒールで治療しながらアレックスが尋ねた。狼が侵入してたときに驚いてぶつけてしまったのだ。
「村までは私が背負おう」
足が悪い老人の前に屈みこみ、リアムが言った。
「……うそお」
その横でサトコが思わず悲痛な声を出した。
クレアの薬草を見せてもらったわけなのだが、その中身は完全に期待外れ。
内なるサトコが「しょうもねぇ草ばっかりじゃねえか! ……こりゃとんだ骨折り損だぜ……」と肩を落としたのだった。
覚醒者たちとクレアは村に戻るなり盛大な歓迎を受けた。
「これ、少ないですが……」
そう言って差し出されたのは、村の保存食として使っていたのだろう、干し肉。好意を断ることもできなかったので、ちょうど作戦で干し肉を使ったサトコが受け取った。
「あなたが、アレスさんですか?」
マヘルが一人たたずむアレスの隣に腰掛けた。
彼女を見て一瞬おびえた様子を見せた彼を、マヘルは「大丈夫だから」と落ち着かせる。
「自分に、自信がないのでしょう? 私もなんです」
「え?」
「覚醒者になってもちゃんとやっているのか……私も自分の力に自信がありません。でも前に踏み出さないと何もできないんです」
アレスの目を見て、彼女は言った。
「そうですよ。私もあなたの気持ちはよくわかります。だから……無理をするな、とは言いません。私も、怖いですから」
「ボクも戦うのは怖いよ。でも、ボクは戦う。そうしないと、誰も守れないから」
いつの間にかアレスの周りには覚醒者たちが集まっていた。
「ごめんね、キミを責めたいわけじゃないんだ。ただ、少しでも意識してもらえばと思って」
自身との違いに落ち込んだ様子のアレスに、アレックスはやさしく話しかけた。
「そう、みんなも言ってるけれど、怖い物は怖いけれども一歩踏み出さなければ何も変わらないだろう? それに私は男性だからね。女性が困っていたら見過ごせないのさ!」
「大丈夫よ! あなたならできるわ!」
リアム、カミーユも口々に言った。
「いつか貴方の勇気が誰かを助ける日を望みます」
「できる……のかな」
桜の言葉にまだ不安げだったが、アレスが顔を上げた。
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相談用スレッド サトコ・ロロブリジーダ(ka2475) 人間(クリムゾンウェスト)|11才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2014/07/07 02:26:26 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/07/01 01:52:13 |
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仮プレ卓 アレックス・マクラウド(ka0580) 人間(リアルブルー)|14才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2014/07/07 02:24:54 |