• 不動

【不動】王女、戦地へ

マスター:藤山なないろ

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
無し
相談期間
5日
締切
2015/05/01 09:00
完成日
2015/05/11 00:07

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●王女、戦地へ

 ガエル・ソトの部下たち、そしてアイゼンハンダーの襲撃に対する悲鳴と怒号。実験場一帯を包む混乱の渦の中、システィーナ・グラハム(kz0020)は一歩ずつ大地を踏み締めるような、あるいは震えを隠すような足取りで何かの場合に備えて作られた演説用の舞台に立った。
「ここは、ホープ……人類の希望と名付けられました。だから、ここは絶対に安全です……っ。何故なら、聖地を奪回するという一つの目的のために皆さまの仲間が――あらゆる戦士たちが集い、肩を並べて戦っておられるのですから……!」
 突然響いた少女の声。それがグラズヘイム王国王女のものであると気付いた人々は、喧騒を収めてゆく。
「皆さまの戦士を、私たちの友を信じましょう」
 そう言って、一応の落ち着きを取り戻した場を見渡すと、王女は優雅に一礼し騎士団長の側に戻る。と同時に膝からくずおれた。幸い、騎士団長と侍従長が左右からシスティーナを支えたのに気付いた人はほとんどいなかった。
「ご、ごめ……なさ……」
 緊張によるものか恐怖によるものか、しゃくりをあげながら謝るシスティーナ。だがエリオットは優しく笑ってみせる。「ご立派でございました」と耳元で告げると、続けて自身に至上命題を課した。
「必ずや殿下と、殿下の愛する人々をお護り致します。我が身命を賭してでも……」
 そうしてグラズヘイム王国騎士団長は不退転の覚悟を以て北を、ついでハンターたちの方を見た。

●英知へ至る道

『もし、何かしたいと考えておられるなら……直接労いに訪問されるのは如何でしょう?』
 昨夏のこと、システィーナはあるハンターに出会った。清潔感のある黒髪に、眼鏡をかけた知的で落ち着きある雰囲気が大人っぽい青年。エリオットくらいの歳だろうか──彼は、王女にこんな提案をしていた。
『私が、ですか?』
『直接現状見る口実にもなるでしょうし、それに……騎士達も喜びましょう』
 考えもしなかったと言う面持ちでハンター達を見つめる王女に、青年は穏やかに笑う。驚きと戸惑いとが入り混じった複雑そうな少女を見かね、その場にいた別のハンター──美しい金の髪を緩く流したエルフの少女が言う。
『彼らを信じて、あなたはあなたのできることをするといいわ』
 短くも思い入れ深い会話。少女の心に小さな波紋が生まれたあの日から、しばしの時が経った──。



 物語は、実験場が襲撃を受ける少し前に遡る。
 転移門よりノアーラ・クンタウを経由して、王国騎士団長エリオットや侍従長マルグリット・オクレール率いる侍従隊と共に辺境入りした王女システィーナ。主目的である追加物資や軍馬ゴースロンの提供を行い、辺境での公式的な挨拶を終えたところで彼女はこんな咎めを受けた。
「システィーナ様、なぜこのような……」
 その咎はさして鋭利な言い口ではない。諦めを含んだ普段のエリオットの言葉。青年が公式の場を辞し“殿下”と呼ばないときは、いつもより雰囲気が柔らかいことを少女は知っている。
「……わたくし、は」
 大層怖い──といっては語弊があるが──大司教が今はおらず、それに加えてここはいつもと違う環境だ。今なら、本心を伝えても良いのではないかと少女は決意する。
「もっと辺境の人々の力になりたかったのです。それに……」
 きゅっと拳を握りしめる。思い返すのは、昨夏のハンターたちとの出会い。あの後、大きな戦があった。王国は蹂躙され、自らの力不足を心底から呪った。あのまま膝を抱えて蹲り、周りの大人に頼るがまま何もしないでいるのは簡単なことだった。けれど、そんな選択肢は“とうの昔に捨てている”。
「わ、私には、知る義務が……あるように思い……いえ、あるのですっ! それに……」
 懸命に訴える王女は、未だあどけなさの残る顔をしていた。けれど……
「私は、王国の人々はもちろん、辺境の人々を、帝国の人々を、同盟の人々を、そして……ハンターの皆さんを信じております! ですから……私は、私がすべきことをしたいと思うのです」
 その意思は強かった。以前より、ずっと──それを認めたエリオットは、ある覚悟を決めた。
「……何を知りたいと、望まれますか」
 はっ、と我に返る王女の前には、跪く男の姿。まるで騎士の叙任式のような、どこか神聖な仕草で青年が少女を見上げている。
「命に代えても、必ず貴女をお守りします。……ご命令を」
「エリオット……」
 ちら、と盗み見たマルグリットは「ここまで来てしまったんです。今さらですね」などと言い、溜息をついている。彼女の顔に浮かぶ青筋はいつもより薄く感じられた。



「王女様だ!」
「システィーナ様がいらしたぞ!」
「このような場所に、どうして……」
 実験場より少し離れた堅固な避難所。救護テントの一つに踏み入れた少女の足は、少し震えていた。
「私も、皆さまと共に戦います。傍に居りますから、早く傷を癒しましょう」
「あぁ、ありがとうございます……!」
 王女は傷ついた騎士らの慰撫に、一つ一つベッドを回っては言葉をかけ、手を握り、微笑みを浮かべる。だが、ベッドに収まりきらない負傷者がテントの隅に横たわっていると気付いたシスティーナは、床に横たわったある男の隣に膝をつき、そっと手を取った。
「具合は、いかがですか?」
「……あ……」
 朦朧としている──否、“意識が完全に消失しかかっている”。ベッドに寝かされている傷病者と比にならない状態。その時になって、王女は察したのだ。
 ベッドに寝ているのは見込みのある騎士で、そうでない騎士たちは──。
 気後れしかけたシスティーナをよそに、ある医療従事者が近寄り、男に声をかける。
「ほら、王女様があんたを看に来てくださったんだよ」
「お……じょ、さ……」
 ありがたい、と。途切れ途切れに言葉を紡ぎ、騎士は王女の手を握り返そうとした。けれど、その力の弱さに少女の胸は締め付けられる。直後、男はうっすら開いていた瞳を完全に閉ざした。
「殿……、さい……まで、戦……」
 ──王女殿下、最後まで戦うことができず、申し訳ありません。
 最期の想いを懸命に訴えると、ややあって男から全ての力が抜け落ちる。王女の意思で派遣された騎士が一人、いま王女の目の前で息を引き取った。
『被害は……』
『……許容範囲内かと』
 先に王城で受けた報告を思い出す。これが“被害”の実態。それもごく一部の。
 少女は知らなかった。
 紙の上に記された抑揚ない“被害”の文字が、報告にして僅か数秒の“実情”が、こんなにも鮮烈で、こんなにも恐ろしいことを。
 “許容範囲”とは、一体何だろう? 失われることが予め許容された命が、この世に存在するのだろうか。

「……ごめ……なさ……っ……」

 繰り返される謝意の奥、少女の心の内はわからない。
 だが、憚らず零れた涙の奥、青碧の双眸には確かな強さが宿っている。

 いま、少女は英知へ至る道を歩き始めようとしていた。

リプレイ本文

●アイシュリング(ka2787)

 辺境大規模戦線から離れた避難所。その診療所は、余りに死の匂いが濃い。
「少し寝返りをうてる? 多少、楽になると思うわ」
 床に寝かされている騎士が幾人か──それがどんな状態なのかは想像がつく。アイシュリングは床と騎士の体の間に集めてきた落ち葉を使って寝床を作っていた。
「……りが、と」
 微かに聞こえる呻きのような礼。顔を見ると、先ほどより苦痛の色が和らいだ気がする。痛みに朦朧としていても誰かの優しさに触れたことは理解できるのだろう。
「今は、ゆっくり休むといいわ」

 他の傷病者の寝床を作り終えた頃、最初の男の顔を見に来たアイシュリングは、男の手がある少女に握られていることに気づく。
「ごめ……なさ……」
 聞こえてくる呟きは彼女の涙と共に男の体に落ちてゆき、対する男の表情はどこか安らかだった。彼が“眠った”のを確認するとアイシュリングは瞳を閉じて静かに死を悼む。ややあって瞼を開くと、少女の傍にいた男──グラズヘイム王国騎士団長エリオット・ヴァレンタインが黙ってその場を辞してゆくのに気付いた。すれ違いざま、アイシュリングは男にだけ聞こえる声で告げる。
「部下を喪っても、長として振る舞わないといけないから、あなたも辛いわね」
「……俺は、未熟だな」
 男の背を見送りながらアイシュリングは息を吐いた。テントの空気は今なお重く、アイシュリングは逡巡の後、少女に看取られ眠る男の傍に膝をつく。すぐ傍に落ちてきた他者の体温に気づきながら、それでも零れる涙を止めることができない少女──グラズヘイム王国王女システィーナ・グラハムが、はっと顔を上げた。
「あなたは……あの時の」
「ごめんなさいと謝らないで……ありがとうと言ってあげて」
 アイシュリングは、息を引き取った戦士の顔につく土埃を手でそっと払うと王女が握ったままの男の手に視線を落とす。
「彼らの死に、後悔だけはしないで。死は痛ましいけれど、哀れむものではないわ。彼らにとって、この世界を守るために戦うのは当然のことだったの」
「……っ……」
 また、涙が溢れた。恐らく先ほどまでの涙とは少し意味が違うのだろう。アイシュリングはそれを慮り、見えない手でそっと王女の背を押す。
「あなたが民を想うように、民は自身の住まう世界を想い、自分にできることをした。何もせずにいることを恥じ、戦うことを自ら選んだ。だから、あなたはその存在をずっと心に刻んであげるといいわ」
「っ決して……忘れ、ません。共に、戦って下さった、こと……ありがとう、ございました」
 しゃくりあげながら述べられた誠意。王女は、その手を漸く解放することができた。


●ロスヴィータ・ヴェルナー(ka2149)

「これで大丈夫、です」
 診療所の外で横たわる騎士の治療を終えると、ロスヴィータは男の体を助け起こし、微笑んだ。
「ありがとな、嬢ちゃん」
 男は礼を述べて立ち上がり、「体力をつける」と言い残して良い匂いの漂う炊き出し所へと向かっていった。その背が見えなくなると、ロスヴィータは改めて周囲を見渡す。
 ──きっと知らないうちに見ないふりをしていた、彼らのこと。
 戦場では、日々どこかで犠牲が出ている。勝利した。自分達は無事だった……それは果たして“現実”だろうか? その戦争では誰かの命が失われていたのではないか? 視線の先には、友人のシスティーナが別の騎士を慰撫している姿がある。声をかけられた騎士は……ロスヴィータの見立てでは恐らく“手遅れ”だ。それでも、友人は最期を迎えようとしている男に懸命に微笑んでいる。彼女の心も、きっとぼろぼろのはずなのに。
「……っ」
 失われる命。赤い混乱の記憶。血の匂い。“ここ”は“そこ”ではないし、“この人たち”は“そう”じゃない。けれど、少女の中ではどうしようもなく“重なった”。
 ──今は、だめ。
 少女の小さな胸に蟠る思いが蓋を押し上げている。足元から崩れそうな感覚に、心は限界を迎えようとしていた……けれど。今は、今だけは、少し離れた所に居るシスティーナの背中を見て、踏みとどまることができた。
 ──彼女の力に、なりたい。
 少女が願うことは一つ。溢れそうな何かを喉奥に留め、少女は立ち上がる。
 先ほど少女自身が癒した、一人の騎士のように。

 王女は、また息を引き取った男の手を握りしめていた。「ありがとう、ございます」と懸命に告げるその背中に無性に胸が締め付けられて、ロスヴィータもまた同じように膝をつくと王女の手にそっと自らの手を重ねる。
「ハンターとして生きている、これは貴方がくれた力なんです。だから……私の力は、貴方の力ですよ。システィーナ、様」
 それは、共に在るということ──システィーナは友がくれた言葉を大切にかみしめる。
「ここに……ろ、ロスヴィータ……がいてくれて良かった、です」
「ふふ。それじゃあ、私は治療に戻ります。……一緒に、回りますか?」
 願ってもない提案に、王女は後ろに控えるオクレールを伺ってみる。すると「お好きになさってください」と返答が得られたので王女は「一緒に行きたいです」と真剣な眼差しで告げた。
「後で炊き出しにも顔を出しましょう。温かくて、お腹に優しいもの……作ってさしあげましょう、ね」
 王女は、この時たった一度だけ穏やかに微笑んだ。


●クリスティア・オルトワール(ka0131)

 人の集まる賑やかな炊き出しのテント。中央では大きな寸胴鍋に詰まった具材をゆっくり火にかけるクリスティアの姿があった。アイシュリングが用意したたっぷりの新鮮な水に、持ち込んだばかりのこれまた新鮮な鶏を丸ごと数羽と、適量の塩。それを炊き出したスープの中へ、大きめに切られた根菜と日持ち優先の固い干し肉を加えてじっくり煮込む。徐々に柔らかく溶けてゆく具材を確認しながら、そろそろ味を調える頃かと香辛料を手に取ると、周囲には既に完成を待つ戦士が列をなしていた。待ち侘びる男達の顔は、いずれも表情がいい。栄養が大切であるとはいえ、食は人が生きるために欠かせない欲求の一つ。充実してこそ士気も上がるというものだろう。
 ──これが理解できない人もいるようですが。
 ちら、と視線をやる。そこには王女の傍に付くエリオットの姿があった。好きな食べ物はないと言い切った男の顔が憎たらしく見えながら、少女は黙って調理を続けた。

 ポトフがすっかり空になった休憩時間。避難所を回っていた少女は、王女を見つけると恭しく礼をした。
「王国展以来、ですね。少しお話しのお相手をして頂いても……?」
 柔らかな問いに、王女はこくりと首肯する。その目は、泣き腫らしたことが解るほどに赤く、どこか痛々しさも感じられた。だからこそ、クリスティアはこんなことを聞いてしまったのかもしれない。
「現実を知った事、後悔なさっておりますか?」
「いいえ、後悔などしてはおりません。先ほど……教えて頂きましたから」
 言葉少なに、けれど確かな反応を返す王女はやはり覚悟をしてこの場に来たのだろう。
「私は、無知が罪だとは思いません。無知である事を知りながら、知ろうとしない事の方が私は罪だと思います」
 真っ直ぐに目を見て告げる。迷いがあるのかもしれない王女に、温かい、けれど甘やかさない言葉を重ねて。
「ここで王女様が見知った事は、決して無駄にはなりません……無駄にしないで下さい」
 ──明日を信じて、今日を戦い抜く人達の為に。……悩んでも、迷っても、前に。
 システィーナの顔に王国展の時のような穏やかな笑みはない。それでも、少女は確かに力強く頷いた。


●ロウザ・ヴィレッサーナ(ka3920)

「わはは! ロウザだぞ! システィーナ、こんにちは!」
 クリスティアと話していた炊き出し近くの簡易テーブルに、小さな少女がやってきた。生命力に溢れる大きな瞳と鮮やかな赤髪。見ているだけで人を元気にしてしまうような、そんな雰囲気の少女だった。
「王女って強いかと思ったけど……元気ないし、お腹へってるのかな?」
「い、いえ、そういうわけでは……っ」
「りんご半分コして食べるか? おいしいぞ!」
 対話は不成立だが、少女のパワーに押されるまま王女は差し出された林檎を手に取った。そのまましゃくしゃくと林檎を口にするロウザを前に、システィーナはなぜかおろおろした様子を見せる。普段王城の食卓に並ぶフルーツは綺麗にカッティングされているのだから、勝手がわからないのだろう。オクレールが王女の為に持ち歩いていた道具の一つ、フルーツナイフですぐさまそれを切り分けると、王女は小さな手でそれを食べ始めた。フォークを使わずに食べる林檎の味は、不思議といつもより美味しく感じられる。
「システィーナ、悩み事か?」
「自分でも……よくわからないのです」
「うーん……あ、ロウザも王女だったんだぞ。王国に比べたら小さな部族だったけど」
「一緒、ですね」
 力なく笑む王女にロウザはどこかしっくりこない顔をするが、こんな話を続けてみた。
「部族を背負うって事は、赤ちゃんを背負う事と同じだって教わったぞ。でも、ロウザが背負うはずの赤ちゃんは歪虚に食べられちゃった……」
 途端、王女の手がとまった。喉を通らない果実の味は、先ほどより随分鈍い。けれど、対するロウザの表情は何ら変わりがない。
「システィーナはいっぱい泣いてもいい! でも背負ってるもの見失っちゃダメだぞ」
 ロウザに満ちる、明るく力強い笑み。それがとっても眩しく感じられて、システィーナは言葉の代わりに何度も何度も首を縦に振った。
「かわりにロウザがシスティーナに元気をあげるぞ!」
 それからしばし、避難所では炊き出しテントの近くでは元気に女の子の歌が聞けるという噂でもちきりになった。
 王国、帝国、同盟、辺境──故国を彷彿とさせる歌も多く、力強く歌って踊る少女の姿に心癒される人も多かっただろう。


●フレイア(ka4777)

 避難所へ物資輸送の支援に来ていたエルフの美女──フレイアは、医療品の納品のため診療所へ向かうとそこである噂を耳にした。
「システィーナ王女が、戦地に?」
 それには少し驚いた。遠く離れた異国の王女が、辺境の、それも戦地の避難所に足を運んでいるというのだ。入口の布を払い、物品担当者が「ほら」と指した先を見て「あれが」と独り言ちる。そこには、簡易テーブルで赤髪の少女と対話する身なりの良い少女の姿があった。

「エルフハイムから参りましたフレイアですわ。どうぞよしなに」
 赤髪の少女が去った後、フレイアは戦地の炊き出しでもらった温かな茶を手に王女システィーナと挨拶を交わした。
「王女殿下はなぜこちらにいらしたのですか?」
 自らの考えで此方へ来たのであれば……それは喜ばしいこと。周りの兵士たちは通りすがる都度に敬礼し、皆どこか嬉しそうにしている。士気に直接的な影響を与えているのは間違いないと感じていた。だが……
「私は……今を、そして戦いを、この目で見に来たのです」
 ちら、とフレイアが視線を流せば侍従長と思しき女性と、騎士団長らしき青年がこちらを見ている。この男は確か王国最強を誇る騎士だ。その騎士が、前線ではなく少女の護衛に付いていることの意味──そして、その目立つ存在が一緒に動くことによって情報が“敵側”に流れるとも限らない。それが気にかかった。
「詮無い言葉かもしれませんが……前線で戦う騎士や私たちハンターにしかできないこと、国を動かす立場にいる人間にしかできないこと。それらが上手く奏でられることで曲となるものです」
 フレイアは物資管理にと用意していた一冊のノートを王女へ差し出した。それを両手で受け取る王女は、ノートをぺらぺらめくってみたが、図りかねて疑問符を浮かべている。
「それはまだ白紙のノートです。そこに気づいたことや、やりたいことなどを書き留めていくことで自分なりの目標を作ってみられてはいかがでしょうか。きっと、その積み重ねが……小さな一つが、やがて大きな羽ばたきになるのではないかと思います」
 感心したように目を丸くする王女は、改めてノートに視線を落とすと、それを大切そうにぎゅっと両手で抱き締める。
「ありがとうございますっ。私……やってみます!」
 その声には、懸命に前を向こうとする少女の直向きさが感じられた。


●天央 観智(ka0896)

「最善を期そうとする事は、素晴らしい事……ですけれど、何処かに無茶をさせながら、それを続けたら……いずれ、いざという時に、擦り切れていて……対応能力を喪っている事も、ありますよ。くれぐれも、無茶はしないで下さいね」
 システィーナに謁見を願い出た観智は、王女の護衛が見守るなか慇懃を装い少女に告げた。対する王女は、驚いた様子だったが観智の言うことを理解するべく神妙な面持ちで頷いている。
「誰が肩代わり出来る訳でもない、色々と重いものが……その小さな肩に圧し掛かっていますからね。それを、志半ばで不本意に、降ろさせられる様な事になりかねない事は、避けて下さいね?」
 刹那、ここまで黙っていた侍従長マルグリット・オクレールが観智の前へ一歩踏み出した。
「失礼。その物言いは、余りに不敬ではございませんか」
 当然、横やりが入った。王女と二人きりで話しているわけではなく、聞いていたオクレールが耐えがたいといった様子で観智を見ていたのだ。
「あ、あの、オクレールさん、良いのです。私は……」
「いいえ、言わせて頂きます。この方は我がグラズヘイム王国の王女殿下であって、貴方様のご友人ではございません。言葉の出処は心……真意は態度にも出ましょう。随分慇懃に思いますが」
 意図して慇懃な態度をとっていた観智は、突っかかってきたオクレールの言い分に溜息を零す。
「伝えたかったのは……ですね。そんな事になれば哀しむ人が大勢いますし、路頭に迷う人も大発生しますでしょう。彼女を支えたいと思い行動する、そんな方がたくさんついていることの幸運と……大切さを、説きたかったのです」
「そして私はそんな方達に“無茶”させているのですね……」
 ぺこ、と目礼するシスティーナ。観智は「その前にあなたが無茶しそうなんですけどね」と小さく苦笑し、
「やむを得ない事も多々、あるでしょうけれど……堅実に、確実に一歩一歩、事を進めるなら……かなり大きな事を、偉業をきっと為せますよ……だから、一歩一歩、堅実に進んで下さい。大きく躍進する代わり、賭けに勝ち続けないといけない様な道ではなく、着実に前に歩ける道を」


 直後、襲撃は起こった。
 ハンターとの接触を経て、何らか変化があったのかもしれない。
 響く王女の声は力に溢れ、あらゆる者が鼓舞されて戦いへ赴いてゆく。
「皆さまの戦士を、私たちの友を信じましょう」
 英知への道が今、拓かれようとしていた──

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MVP一覧

  • システィーナのお友達
    ロスヴィータ・ヴェルナーka2149
  • 未来を想う
    アイシュリングka2787

重体一覧

参加者一覧

  • 古塔の守り手
    クリスティア・オルトワール(ka0131
    人間(紅)|22才|女性|魔術師
  • 止まらぬ探求者
    天央 観智(ka0896
    人間(蒼)|25才|男性|魔術師
  • システィーナのお友達
    ロスヴィータ・ヴェルナー(ka2149
    人間(蒼)|15才|女性|聖導士
  • 未来を想う
    アイシュリング(ka2787
    エルフ|16才|女性|魔術師
  • わんぱく娘
    ロウザ・ヴィレッサーナ(ka3920
    ドワーフ|10才|女性|霊闘士
  • 英知へ至る道標
    フレイア(ka4777
    エルフ|25才|女性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン みんな なにする?
ロウザ・ヴィレッサーナ(ka3920
ドワーフ|10才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2015/04/29 06:44:25
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/04/27 23:24:22