ゲスト
(ka0000)
クルセイダーの競争
マスター:秋風落葉

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/02 07:30
- 完成日
- 2015/05/06 20:38
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●聖女と仲間達
「ロザリーさんっ!!」
大声と共にテーブルを叩いた一人の少女。
名を呼ばれたロザリーことロザリア=オルラランはもちろん、彼女と同じ卓についていた者達、そして酒場にいた人々全員が声の主を見た。
そこにいたのは青い髪を肩のあたりまで伸ばした一人の少女だった。
「あら……テレスではありませんか。お久しぶりです」
驚きから覚めたロザリーは顔見知りである少女の名を親しげに呼んだ。しかし、当のテレスは不機嫌さをあらわにしている。
「お久しぶりです、じゃないですよ! いったいどういうことなんですか!?」
「? 何を怒っているのでしょう?」
「最近のロザリーさんの戦いぶりについてです! 聞きましたよ!! なんでも、嬉々として前衛に立ち、武器を振るっているそうじゃないですか!!」
「ええ……それがどうしたのでしょう?」
ロザリーはテレスの言葉に首をかしげた。なぜ責められているのか良くわからないといった風情である。テレスは一瞬固まった。
「どうしたのでしょうって……それはエンフォーサーの戦い方でしょう! ロザリーさんはクルセイダーなんですよ!? ちゃんと仲間を援護しないと駄目じゃないですか!!」
「援護……ああ」
ロザリーはぽんと手を打つ。
「最前線に立ち、敵を殴って殴って殴りまくって味方への被害を抑えることですわね? そして戦いが終わったら傷ついた仲間に『ヒール』をする」
「違います! 後ろから『プロテクション』とか『レジスト』とかで味方をサポートすることですっ!」
「『プロテクション』……『レジスト』……うっ、頭が……」
ロザリーは額を手で押さえた。彼女がそのスキルの名を聞いたのも久しぶりである。テレスは愕然とした表情でロザリーを見る。
「ほ、本当にどうしちゃったんですか! あたし、ロザリーさんが的確に仲間をバックアップする姿にずっとあこがれてたのに……」
「……テレス……」
「他の人だってそう思ってますよ! ロザリーさんには後ろからサポートして欲しいって!」
「そんなまさか……仲間達はわたくしを受け入れてくれましたもの。ねえ、皆さん」
ロザリーはにこやかに同じ卓を囲む者達の方を振り向いた。
「……」
「ええっと、やっぱり時には『プロテクション』を使って欲しいなって……」
「うーん……」
「いや、今の戦い方も悪くはないと思うよ? でもやっぱりクルセイダーとしてはちょっと……」
「前衛で戦うのはうちらに任せてほしいなあー。回復できるのロザリーさん一人しかいないんだしー」
「ほら」
ロザリーは言葉と共にテレスの方に向き直る。
「皆さんこんなにわたくしを支持してくださっているではありませんか」
「声震えてるじゃないですか!? 目も逸らさないでくださいよ!」
テレスはロザリーの正面に回りこむが、ロザリーはやはり顔ごと視線を逸らす。
「お、おかしいですわ……何がいけなかったのでしょう……」
「それみたことか、ですよ! やっぱりロザリーさんは『聖女』の二つ名に恥じない行動を取るべきなんです! ここにいる人達が全員そう思ってますよ!」
「た、たしかに一握りの方には受け入れられていないようですが、貴族であるオルララン家の者として、やはり物言わぬ大衆の声無き声にこそ耳を傾けるべきかと……」
矜恃ある言葉とは裏腹に、どんよりとした瞳で虚空を見つめ、ぼそぼそと苦しい言い訳を呟くロザリー。
テレスはそんな彼女を見てため息をつく。
「分かりました。じゃあ、勝負しましょう」
「勝負?」
予想もしていなかった言葉をかけられ、ロザリーは顔を上げてテレスの瞳を覗き込んだ。
「ええ、そうです。あたしもクルセイダーとして経験を積みました。かつてのロザリーさんのように、仲間を後ろからサポートするのが主ですが」
テレスはロザリーを一瞬だけ悲しげな瞳で見たが、すぐに言葉を紡いだ。
「モルドバの遺跡のことはもちろん知ってますよね?」
「ええ……内部が双子のような構造になっている遺跡ですわね?」
テレスは王都イルダーナの近くにある遺跡の名を口にした。そこはロザリーの言葉の通り、入り口と最深部を除き、各階層が二つのブロックに分かれて対称の造りとなっている。
テレスは頷く。
「幸い、あそこにわいた雑魔を掃討して欲しいという依頼がでています。この依頼を受けて、どちらが先に最深部にたどり着くかを競争するんです。あたしのパーティーと、ロザリーさんのパーティーとで!」
――うおおおおおおおお!!
予想もしない展開に、酒場の中のハンター達はおおいに盛り上がった。どちらが勝つかの賭けをしようとする者までいる始末だ。
「あたしは仲間達を後ろから支援することでパーティーに貢献します。そして、勝って証明してみせます。そんな戦い方をしていたかつてのロザリーさんこそ、クルセイダーのあるべき姿だって!」
「……分かりましたわ。その勝負、お受けいたします」
ロザリーは立ち上がり、そう答えた。彼女の瞳には強い光が宿り、まっすぐにテレスを見つめている。テレスもその視線を受け止め、微笑む。
「では現地で会いましょう! 勝負は三日後です! それまでに仲間を集めてくださいね!」
「仲間……? ……あっ」
いつの間にか、ロザリーと同席していた者達の姿がなくなっている。
彼女が視線を周囲に投げると、他のハンター達も慌てて目を逸らした。
「……」
ロザリーは再びどんよりとした瞳になると、そのまま酒場をあとにした。
●聖女と新たな仲間達
次の日。
ロザリーはとあるハンターオフィスのカウンターにしずしずと進んだ。
悲壮感ただようその表情に、受付嬢は小さく悲鳴をあげる。
しかしロザリーはそれに気付かず、ぼそぼそと喋りだした。
「仲間を募集いたしますわ……そう……出来たら最前線でメイスを振るうクルセイダーを受け入れてくれるような仲間を……」
「ロザリーさんっ!!」
大声と共にテーブルを叩いた一人の少女。
名を呼ばれたロザリーことロザリア=オルラランはもちろん、彼女と同じ卓についていた者達、そして酒場にいた人々全員が声の主を見た。
そこにいたのは青い髪を肩のあたりまで伸ばした一人の少女だった。
「あら……テレスではありませんか。お久しぶりです」
驚きから覚めたロザリーは顔見知りである少女の名を親しげに呼んだ。しかし、当のテレスは不機嫌さをあらわにしている。
「お久しぶりです、じゃないですよ! いったいどういうことなんですか!?」
「? 何を怒っているのでしょう?」
「最近のロザリーさんの戦いぶりについてです! 聞きましたよ!! なんでも、嬉々として前衛に立ち、武器を振るっているそうじゃないですか!!」
「ええ……それがどうしたのでしょう?」
ロザリーはテレスの言葉に首をかしげた。なぜ責められているのか良くわからないといった風情である。テレスは一瞬固まった。
「どうしたのでしょうって……それはエンフォーサーの戦い方でしょう! ロザリーさんはクルセイダーなんですよ!? ちゃんと仲間を援護しないと駄目じゃないですか!!」
「援護……ああ」
ロザリーはぽんと手を打つ。
「最前線に立ち、敵を殴って殴って殴りまくって味方への被害を抑えることですわね? そして戦いが終わったら傷ついた仲間に『ヒール』をする」
「違います! 後ろから『プロテクション』とか『レジスト』とかで味方をサポートすることですっ!」
「『プロテクション』……『レジスト』……うっ、頭が……」
ロザリーは額を手で押さえた。彼女がそのスキルの名を聞いたのも久しぶりである。テレスは愕然とした表情でロザリーを見る。
「ほ、本当にどうしちゃったんですか! あたし、ロザリーさんが的確に仲間をバックアップする姿にずっとあこがれてたのに……」
「……テレス……」
「他の人だってそう思ってますよ! ロザリーさんには後ろからサポートして欲しいって!」
「そんなまさか……仲間達はわたくしを受け入れてくれましたもの。ねえ、皆さん」
ロザリーはにこやかに同じ卓を囲む者達の方を振り向いた。
「……」
「ええっと、やっぱり時には『プロテクション』を使って欲しいなって……」
「うーん……」
「いや、今の戦い方も悪くはないと思うよ? でもやっぱりクルセイダーとしてはちょっと……」
「前衛で戦うのはうちらに任せてほしいなあー。回復できるのロザリーさん一人しかいないんだしー」
「ほら」
ロザリーは言葉と共にテレスの方に向き直る。
「皆さんこんなにわたくしを支持してくださっているではありませんか」
「声震えてるじゃないですか!? 目も逸らさないでくださいよ!」
テレスはロザリーの正面に回りこむが、ロザリーはやはり顔ごと視線を逸らす。
「お、おかしいですわ……何がいけなかったのでしょう……」
「それみたことか、ですよ! やっぱりロザリーさんは『聖女』の二つ名に恥じない行動を取るべきなんです! ここにいる人達が全員そう思ってますよ!」
「た、たしかに一握りの方には受け入れられていないようですが、貴族であるオルララン家の者として、やはり物言わぬ大衆の声無き声にこそ耳を傾けるべきかと……」
矜恃ある言葉とは裏腹に、どんよりとした瞳で虚空を見つめ、ぼそぼそと苦しい言い訳を呟くロザリー。
テレスはそんな彼女を見てため息をつく。
「分かりました。じゃあ、勝負しましょう」
「勝負?」
予想もしていなかった言葉をかけられ、ロザリーは顔を上げてテレスの瞳を覗き込んだ。
「ええ、そうです。あたしもクルセイダーとして経験を積みました。かつてのロザリーさんのように、仲間を後ろからサポートするのが主ですが」
テレスはロザリーを一瞬だけ悲しげな瞳で見たが、すぐに言葉を紡いだ。
「モルドバの遺跡のことはもちろん知ってますよね?」
「ええ……内部が双子のような構造になっている遺跡ですわね?」
テレスは王都イルダーナの近くにある遺跡の名を口にした。そこはロザリーの言葉の通り、入り口と最深部を除き、各階層が二つのブロックに分かれて対称の造りとなっている。
テレスは頷く。
「幸い、あそこにわいた雑魔を掃討して欲しいという依頼がでています。この依頼を受けて、どちらが先に最深部にたどり着くかを競争するんです。あたしのパーティーと、ロザリーさんのパーティーとで!」
――うおおおおおおおお!!
予想もしない展開に、酒場の中のハンター達はおおいに盛り上がった。どちらが勝つかの賭けをしようとする者までいる始末だ。
「あたしは仲間達を後ろから支援することでパーティーに貢献します。そして、勝って証明してみせます。そんな戦い方をしていたかつてのロザリーさんこそ、クルセイダーのあるべき姿だって!」
「……分かりましたわ。その勝負、お受けいたします」
ロザリーは立ち上がり、そう答えた。彼女の瞳には強い光が宿り、まっすぐにテレスを見つめている。テレスもその視線を受け止め、微笑む。
「では現地で会いましょう! 勝負は三日後です! それまでに仲間を集めてくださいね!」
「仲間……? ……あっ」
いつの間にか、ロザリーと同席していた者達の姿がなくなっている。
彼女が視線を周囲に投げると、他のハンター達も慌てて目を逸らした。
「……」
ロザリーは再びどんよりとした瞳になると、そのまま酒場をあとにした。
●聖女と新たな仲間達
次の日。
ロザリーはとあるハンターオフィスのカウンターにしずしずと進んだ。
悲壮感ただようその表情に、受付嬢は小さく悲鳴をあげる。
しかしロザリーはそれに気付かず、ぼそぼそと喋りだした。
「仲間を募集いたしますわ……そう……出来たら最前線でメイスを振るうクルセイダーを受け入れてくれるような仲間を……」
リプレイ本文
●
「お久しぶりです、ローズマr……こほん。ロザリー」
「……はっ?」
どんよりとした瞳で虚空を見つめていたロザリーは、その声に顔を上げる。視線の先にかつて見た姿があることに気付き、慌てて口を開いた。
「おおおおお久しぶりですわフランシスカさん!」
フランシスカ(ka3590)はかつてロザリーと共にある依頼をこなしたことがある。その時、ロザリーは仮面を被り、ローズマリーという偽名を名乗っていたが……もちろん正体はばれていた。
「この勝負、なんだか事情がありそうだね。良ければ、だけど……話を聞かせて貰えないかな」
腕を磨くつもりで依頼を受けた誠堂 匠(ka2876)だったが、一部のハンター達の間から伝わってきていた今回の出来事の経緯が気になり、ロザリーにそう尋ねた。
ロザリーはそれに応じ、なぜこうなったかを集まった面々に話す。
「『聖女』か。テレスさんが怒るのは、理屈だけじゃなく……それだけ憧れてた、って事かもしれないね」
話を聞き終わった匠はしみじみと呟く。
「ざくろの冒険団にも何人か聖導士がいて、みんなそれぞれ得意としてる戦い方が違うから、なんでも出来るのが強みだと思うよ。ざくろと仲いい子は、ロザリーと同じ様に前衛タイプだし。やりやすいスタイルが一番じゃないかな」
ロザリーの話を聞いた時音 ざくろ(ka1250)は微笑と共にそう答えた。
「人々の期待を背負って、大変ですよね。……おばあ様が教えてくれました、『己の信じたことが正義だ』と、それを貫くべきと」
ロザリーに自信を取り戻して欲しいと考えているアニス・エリダヌス(ka2491)。彼女もロザリーと同じクルセイダーだ。
「自分のスタイルを貫こうとするその決意に感動しました。全力で応援させてもらいますね~」
フィーネル・アナステシス(ka0009)は挨拶がわりに軽くロザリーを抱擁する。
新たな仲間達と交流を深めるにつれ、ロザリーの瞳に光が戻ってきた。
「殲滅速度を競うだけなら、きっと負けません! ぎゃふんと、見返してやりましょーっ!」
柏木 千春(ka3061)の言葉に一同は強く頷いたのだった。
●
「良かった、仲間は集まったようですね。不戦勝になったらどうしようかと思ってました」
遺跡の入り口で待っていたのはテレスをはじめとしたハンター達九人。彼女達が今回の競争相手である。
不敵に笑うテレスをロザリーは正面から見返す。
「負けませんよ、テレス」
「それはこっちの言葉です。かつてのロザリーさんが正しかったと証明する為にも」
目線で火花を散らす両者。
(うーん……接近戦は苦手になりがちな魔術師と違って、聖導士は、テレスさん達が言うような補助もできるし、ロザリーさんがやっているように、前衛として動くこともできる)
ティス・フュラー(ka3006)は二人を見比べ、心の中で呟く。
(ロザリーさんは間違ってないと証明できるよう、頑張らなくちゃ。テレスさんが間違ってるとも思わないけどね)
遺跡内部が暗い可能性を考慮して持ってきたランタンを取り出し、ティスの準備は万全だ。匠はその隣でハンディLEDライトを紐で頭に固定している。
日下 菜摘(ka0881)も今回の依頼の発端となった二人を見つめた。
(わたしも聖導士の一人として、思うところはありますから、わたしなりの答えを指し示すこととしましょう)
ハンター達のそれぞれの思惑を含んだまま、ついに二つのチームはスタートを切る。
「行こうみんな、絶対テレス達より先に最深部に到達だ!」
ざくろの言葉を合図に、ハンター達は遺跡を下る階段へと足を踏み出した。
●
地下一階に入ったハンター達を出迎えたのは床を這うゼリー状の生き物。いわゆるスライムと呼ばれるものの一種であろう。
まず動いたのはフィーネル。手を正面へとかざし、魔法の詠唱を開始する。
「幽世の門の入り口へと眠り落ちなさい」
フィーネルのスリープクラウドが蠢く敵の群れを包む。しかし元々眠ることのない存在であったのか、スライム達の動きは止まらない。
菜摘は一体の敵にホーリーライトを放つ。光弾は命中し、スライムはぶるぶると体を震わせたものの、何事も無かったかのように動き始めた。かなりのしぶとさを持っている敵らしい。
いつぞやの戦いのように、フランシスカがロザリーのメイスにホーリーセイバーをかけた。ロザリーは感謝の言葉を述べつつ前へと出る。
「急いでるんだ、通して貰うよ……」
ざくろは魔法剣「レヴァリー」を手にし、空間に剣先で三角形の軌跡を描く。アルケミストのスキル、デルタレイを使うために。
「くらえ必殺☆デルタエンド!」
光の三角形、その頂点からそれぞれ光の柱が迸り、スライム達を刺し貫いた。
匠も魔導拳銃「エア・スティーラー」を構えてトリガーを引き、風の属性が込められた弾丸を敵へ撃ち込む。
ティスは威力に期待できるファイアアローを撃つ。炎の矢はスライムに突き刺さり、その生命力を抉り取る。
「ストラァァァィクブロウ!」
前に出たロザリーは光輝くメイスを振るい、敵の軟体をへこませる。スライム型の敵は物理攻撃に耐性があるのが常だが、ホーリーセイバーの力により光の属性を帯びている彼女の武器は十分に効果をあげていた。
その隣に並ぶのはホーリーメイスを構えた菜摘。彼女も己にメイスファイティングを用いた後、敵を撲殺するために前衛へと出ていた。
千春はのしかかってきたスライムの攻撃を盾で受け止め、お返しとばかりにフォースクラッシュの力が乗った鈍器を叩き付ける。
フィーネルはリュミエールボウに矢を番え、まだ前線に到達していないスライムを狙う。引き絞った弦から矢が放たれ、スライムの体へと突き立った。
シャドウブリットをスライムの群れへと放っていたフランシスカは、間合いに近づいてきたスライムへと両手の斧を振り下ろす。
「効きづらいから何だというのでしょう。消えるまで刻めばそれで済む話ですね」
刃によって穿たれた傷はそれほど大きくない。しかしフランシスカは自分の言葉の通りに左右の斧をひたすらに叩き付けた。
「機導師も、なんでも出来るのが強みだもん」
ざくろは立ち位置を調整して仲間を巻き込まないように、ファイアスローワーでスライム達をまとめて攻撃した。炎の属性を持つエネルギーがスライムの群れを包み込む。魔法等によって生命力を減じていた一部のスライムはそれに耐えられず、消滅した。
幸い、このスライム達は分裂能力を持ってはいなかった。
ハンター達はタフさに手をやいたものの、大した被害もなく魔物の群れを全滅させ、この階層を突破した。
●
地下二階へと到達したハンター達を待ち構えていたのは剣と盾を持った複数の鎧達。侵入者の姿に気付くと、彼らはガシャリと金属音を響かせながら動き始める。
スリープクラウドを用いようとしたフィーネルであったが、鎧の中身が空洞であることを見て取り、ファイアアローで攻撃する方針に切り替える。
「業火の矢にてその身を焼き滅しなさい」
彼女の手から赤い矢が生まれ、一体の敵へと直進する。鎧の魔物は衝撃を受けてよろめくがまだ倒れない。
ティスは一階でスライム達に対処していた時と同じくファイアアローを敵へと見舞うが、もはや使用回数は残り少ない。ファイアアローが尽きたら、次点の威力を持つウォーターシュートを行使する考えだ。
魔法を耐えた鎧達は駆けてくると、千春へと剣を振りかぶる。人間の剣士と遜色ない速さで繰り出された斬撃を、千春は何とか盾で受け止めた。耳障りな音と共に火花が激しく散る。
彼女を含む前衛の戦士達も同じように敵との交戦に入った。
「辛そうなところはフォローしますから、存分に……ロザリーさんの『正義』を貫いてください!」
言葉と共に、アニスはホーリーセイバーをロザリーへと用いる。
フランシスカも同じくホーリーセイバーを仲間へと使用しつつ、自分は二振りの斧を自在に操った。彼女の狙いは各個撃破。敵の数はそれほど多くない。
匠の特殊強化鋼製ワイヤーウィップが蛇のようにくねり、鎧の四肢に絡みついた。ストライダーである彼のスキル、エンタングルである。
そこにロザリーがメイスを思い切りスウィングし、身動きの取れない敵を激しく打った。
「こっちは任せて……輝け光の剣!」
ざくろも敵の攻撃を盾で捌きつつ、機導剣で魔物を斬る。宙を一閃した光の刃に鎧の肩当てがはじけ飛ぶ。
しかし敵の動きはまだ鈍らない。一体の鎧が振った剣が千春の腕を薙ぐ。
決して浅い傷ではなかったが、千春は敵の攻撃にも引かず、他の前衛達と組んだ陣形が崩されないように努める。彼女が反撃で振るったメイス「グラーティア」は、動く鎧の胴体を激しくひしゃげさせた。
フランシスカは千春を含む仲間達の傷を癒す為、ヒーリングスフィアを使用した。彼女の祈りにより、やわらかい光がフランシスカの周囲にあふれる。
菜摘のホーリーメイスが鎧の魔物の持つ盾をかいくぐり、胸の板金をへこませる。敵は数歩後ずさり、菜摘は追い討ちを駆けるために踏み込んだ。
動く鎧達は一階のスライムよりは手強い存在であったが、それでもハンター達に及ぶ相手ではなかった。
フィーネルの放ったファイアアローが残る一体へと命中する。最後まで抵抗していた鎧の魔物も、ついには崩れ落ちて消滅したのだった。
●
遺跡の最深部に辿りついたハンター達。
彼らが部屋の中で目にしたものは……何もなかった。がらんどうの部屋があるだけである。
ハンター達は顔を見合わせた。
誰もいないということはつまり、自分達が一番乗りをしたということで……。
彼らに遅れること数十秒。複数の足音が近づくとともに、別のハンター達が顔を見せる。
「……ああ」
その一団の中にいた少女、テレスは無念の声を漏らした。
「負けちゃいました……」
そう、今回の勝負は彼女の言葉の通り、テレス達の敗北であった。
テレスとその仲間を含め、総勢十八人のハンターは、いつの間にか広い部屋の床に座り、それぞれ思い思いに休息していた。癒しの力により傷が残る者もいない。
「よかったら、テレスさん達もいかがですか? 勝負の後はノーサイド、と蒼の世界の方が仰っていました」
アニスが笑顔で、全員にヒカヤ紅茶とクッキーを振舞う。こうなることを予期していたのか、彼女はあらかじめ紅茶を淹れる道具を持ち込んでいた。
ハンター達は礼を述べながら彼女の心遣いを受け取る。部屋には穏やかな空気が流れていた。
「でもでもやっぱりくやしいーーーー!」
もっともテレスは不満たらたらのようで、寝転んで駄々っ子のように喚いていた。
「自分が言い出した勝負の結果なんですから、文句を言わず受け入れなさい。それに彼女はあなたのお人形じゃないのですよ。彼女の進む道は彼女自身が決めるものです。彼女を聖女と慕うのなら勝手な聖女像ではなく彼女自身をしっかりと見なさい!!」
「……」
フィーネルの厳しい指摘に駄々をこねるのをやめ、テレスはゆっくりと上体を起こした。とはいえ、心底から納得したわけではないようだったが。
菜摘もテレスへと言葉をかける。
「さて、ロザリーさんもテレスさんもどちらも間違いではありませんわ。わたしも前衛が多ければ、今回のような身体を張る戦いをする必要もありませんでしたし。その時々に戦い方を選べるのが聖導士の強みですから、もう少し柔軟に考えてみるべきではありませんか?」
主にテレスに向けられた言葉であったが、もちろんロザリーの耳にもその言葉は届いている。二人は揃って考え込む。
「一緒に食事でもどう?」
そう言ってツナサンドを二人に手渡すティス。
ティスもこっそり持ち込んでいたパンとツナの缶詰から、即席でツナサンドを作っていた。ロザリーとテレスが仲直りするきっかけになれば、と考えてのことだ。
二人は受け取ったものの、まだ手をつけない。
そんな中、腹を空かせていた他のハンター達はティスに群がり、同じようにツナサンドをゲットした。ティスが多めに持ち込んでいた食材を使っても全員にはいきわたらなかったが、そこは先着順ということで諦めてもらう形となる。
ちゃっかりとツナサンドを入手していた千春はロザリーの側にやって来る。
「周りが求めているからって、無理にご自分の戦闘スタイルを変える必要はないと思います。聖導士の戦い方に正解はなくて、色々な戦い方ができるのが聖導士なんじゃないかなって。後方支援はもちろん、前に出て後衛の盾になることも、近接攻撃や魔法攻撃で敵を倒すこともできる」
同じ聖導士である千春も今回の件に思うところがあったのか、ロザリーへと自分の考えを伝える。
「ただ、状況に応じて戦闘スタイルを変えるぐらいの柔軟性は、あってもいいんじゃないかなって。ロザリーさんは、前衛でも後衛でも十分に戦える。その強み、活かさないともったいないんじゃないかなって思うんです……もちろん、強制ではないですけどね」
「千春さん……」
ロザリーは彼女の言葉に自分の戦い方を振り返ってみる。
最初の頃は仲間の期待に応える為、後方から援護を行っていた。
そしてある時期を境に、前衛でひたすらにメイスを振って振って振って振りまくって……あ、あら?
「た、たしかに、いつの間にか少々バランスを欠いていたような気がしなくもありませんわね……」
実際は少々どころではなかったが、ロザリーはテレスを横目で見ながらそう呟く。
「戦闘スタイルを変える……」
千春の言葉にテレスも考え込んだ。自分が積極的に前に出ていたら、もう少し早く戦いを終わらせられたかもしれない。そんな考えが彼女の脳裏をよぎったのだ。
「前面でも後方でも戦える聖導士。それが私の理想です。ロザリーは如何様にお考えでしょうか」
ロザリーと二度の戦いを共にしたフランシスカ。時には前衛で得物を操り、時には後衛で魔法を行使し、そして傷ついた仲間への援護も欠かさない。今回の彼女の戦いぶりはまさにその理想を体現したものであった。
「……わたくしも、駆け出しの頃はそんな考えを抱いていたような気がします……」
フランシスカの言葉に昔を思い出し、述懐するロザリー。
「一度、今のロザリアさんと一緒に戦ってみたらどうかな」
話を聞いていた匠がそっと二人に語りかける。
「以前のイメージだけじゃなく、今の姿を見てから判断を……それに、ロザリアさんとは別に支援役がいれば問題は無い訳で。案外、良い組合せになるんじゃないかな、と」
匠の言葉にロザリーとテレスがお互いの顔を見合わせる。
まだぎこちなくはあったが彼女達は笑みを浮かべ、二人揃って手の中のツナサンドにかぶりつく。
ありふれた材料で作られているはずのそれは、なぜだかとても美味しく感じられたのであった。
「お久しぶりです、ローズマr……こほん。ロザリー」
「……はっ?」
どんよりとした瞳で虚空を見つめていたロザリーは、その声に顔を上げる。視線の先にかつて見た姿があることに気付き、慌てて口を開いた。
「おおおおお久しぶりですわフランシスカさん!」
フランシスカ(ka3590)はかつてロザリーと共にある依頼をこなしたことがある。その時、ロザリーは仮面を被り、ローズマリーという偽名を名乗っていたが……もちろん正体はばれていた。
「この勝負、なんだか事情がありそうだね。良ければ、だけど……話を聞かせて貰えないかな」
腕を磨くつもりで依頼を受けた誠堂 匠(ka2876)だったが、一部のハンター達の間から伝わってきていた今回の出来事の経緯が気になり、ロザリーにそう尋ねた。
ロザリーはそれに応じ、なぜこうなったかを集まった面々に話す。
「『聖女』か。テレスさんが怒るのは、理屈だけじゃなく……それだけ憧れてた、って事かもしれないね」
話を聞き終わった匠はしみじみと呟く。
「ざくろの冒険団にも何人か聖導士がいて、みんなそれぞれ得意としてる戦い方が違うから、なんでも出来るのが強みだと思うよ。ざくろと仲いい子は、ロザリーと同じ様に前衛タイプだし。やりやすいスタイルが一番じゃないかな」
ロザリーの話を聞いた時音 ざくろ(ka1250)は微笑と共にそう答えた。
「人々の期待を背負って、大変ですよね。……おばあ様が教えてくれました、『己の信じたことが正義だ』と、それを貫くべきと」
ロザリーに自信を取り戻して欲しいと考えているアニス・エリダヌス(ka2491)。彼女もロザリーと同じクルセイダーだ。
「自分のスタイルを貫こうとするその決意に感動しました。全力で応援させてもらいますね~」
フィーネル・アナステシス(ka0009)は挨拶がわりに軽くロザリーを抱擁する。
新たな仲間達と交流を深めるにつれ、ロザリーの瞳に光が戻ってきた。
「殲滅速度を競うだけなら、きっと負けません! ぎゃふんと、見返してやりましょーっ!」
柏木 千春(ka3061)の言葉に一同は強く頷いたのだった。
●
「良かった、仲間は集まったようですね。不戦勝になったらどうしようかと思ってました」
遺跡の入り口で待っていたのはテレスをはじめとしたハンター達九人。彼女達が今回の競争相手である。
不敵に笑うテレスをロザリーは正面から見返す。
「負けませんよ、テレス」
「それはこっちの言葉です。かつてのロザリーさんが正しかったと証明する為にも」
目線で火花を散らす両者。
(うーん……接近戦は苦手になりがちな魔術師と違って、聖導士は、テレスさん達が言うような補助もできるし、ロザリーさんがやっているように、前衛として動くこともできる)
ティス・フュラー(ka3006)は二人を見比べ、心の中で呟く。
(ロザリーさんは間違ってないと証明できるよう、頑張らなくちゃ。テレスさんが間違ってるとも思わないけどね)
遺跡内部が暗い可能性を考慮して持ってきたランタンを取り出し、ティスの準備は万全だ。匠はその隣でハンディLEDライトを紐で頭に固定している。
日下 菜摘(ka0881)も今回の依頼の発端となった二人を見つめた。
(わたしも聖導士の一人として、思うところはありますから、わたしなりの答えを指し示すこととしましょう)
ハンター達のそれぞれの思惑を含んだまま、ついに二つのチームはスタートを切る。
「行こうみんな、絶対テレス達より先に最深部に到達だ!」
ざくろの言葉を合図に、ハンター達は遺跡を下る階段へと足を踏み出した。
●
地下一階に入ったハンター達を出迎えたのは床を這うゼリー状の生き物。いわゆるスライムと呼ばれるものの一種であろう。
まず動いたのはフィーネル。手を正面へとかざし、魔法の詠唱を開始する。
「幽世の門の入り口へと眠り落ちなさい」
フィーネルのスリープクラウドが蠢く敵の群れを包む。しかし元々眠ることのない存在であったのか、スライム達の動きは止まらない。
菜摘は一体の敵にホーリーライトを放つ。光弾は命中し、スライムはぶるぶると体を震わせたものの、何事も無かったかのように動き始めた。かなりのしぶとさを持っている敵らしい。
いつぞやの戦いのように、フランシスカがロザリーのメイスにホーリーセイバーをかけた。ロザリーは感謝の言葉を述べつつ前へと出る。
「急いでるんだ、通して貰うよ……」
ざくろは魔法剣「レヴァリー」を手にし、空間に剣先で三角形の軌跡を描く。アルケミストのスキル、デルタレイを使うために。
「くらえ必殺☆デルタエンド!」
光の三角形、その頂点からそれぞれ光の柱が迸り、スライム達を刺し貫いた。
匠も魔導拳銃「エア・スティーラー」を構えてトリガーを引き、風の属性が込められた弾丸を敵へ撃ち込む。
ティスは威力に期待できるファイアアローを撃つ。炎の矢はスライムに突き刺さり、その生命力を抉り取る。
「ストラァァァィクブロウ!」
前に出たロザリーは光輝くメイスを振るい、敵の軟体をへこませる。スライム型の敵は物理攻撃に耐性があるのが常だが、ホーリーセイバーの力により光の属性を帯びている彼女の武器は十分に効果をあげていた。
その隣に並ぶのはホーリーメイスを構えた菜摘。彼女も己にメイスファイティングを用いた後、敵を撲殺するために前衛へと出ていた。
千春はのしかかってきたスライムの攻撃を盾で受け止め、お返しとばかりにフォースクラッシュの力が乗った鈍器を叩き付ける。
フィーネルはリュミエールボウに矢を番え、まだ前線に到達していないスライムを狙う。引き絞った弦から矢が放たれ、スライムの体へと突き立った。
シャドウブリットをスライムの群れへと放っていたフランシスカは、間合いに近づいてきたスライムへと両手の斧を振り下ろす。
「効きづらいから何だというのでしょう。消えるまで刻めばそれで済む話ですね」
刃によって穿たれた傷はそれほど大きくない。しかしフランシスカは自分の言葉の通りに左右の斧をひたすらに叩き付けた。
「機導師も、なんでも出来るのが強みだもん」
ざくろは立ち位置を調整して仲間を巻き込まないように、ファイアスローワーでスライム達をまとめて攻撃した。炎の属性を持つエネルギーがスライムの群れを包み込む。魔法等によって生命力を減じていた一部のスライムはそれに耐えられず、消滅した。
幸い、このスライム達は分裂能力を持ってはいなかった。
ハンター達はタフさに手をやいたものの、大した被害もなく魔物の群れを全滅させ、この階層を突破した。
●
地下二階へと到達したハンター達を待ち構えていたのは剣と盾を持った複数の鎧達。侵入者の姿に気付くと、彼らはガシャリと金属音を響かせながら動き始める。
スリープクラウドを用いようとしたフィーネルであったが、鎧の中身が空洞であることを見て取り、ファイアアローで攻撃する方針に切り替える。
「業火の矢にてその身を焼き滅しなさい」
彼女の手から赤い矢が生まれ、一体の敵へと直進する。鎧の魔物は衝撃を受けてよろめくがまだ倒れない。
ティスは一階でスライム達に対処していた時と同じくファイアアローを敵へと見舞うが、もはや使用回数は残り少ない。ファイアアローが尽きたら、次点の威力を持つウォーターシュートを行使する考えだ。
魔法を耐えた鎧達は駆けてくると、千春へと剣を振りかぶる。人間の剣士と遜色ない速さで繰り出された斬撃を、千春は何とか盾で受け止めた。耳障りな音と共に火花が激しく散る。
彼女を含む前衛の戦士達も同じように敵との交戦に入った。
「辛そうなところはフォローしますから、存分に……ロザリーさんの『正義』を貫いてください!」
言葉と共に、アニスはホーリーセイバーをロザリーへと用いる。
フランシスカも同じくホーリーセイバーを仲間へと使用しつつ、自分は二振りの斧を自在に操った。彼女の狙いは各個撃破。敵の数はそれほど多くない。
匠の特殊強化鋼製ワイヤーウィップが蛇のようにくねり、鎧の四肢に絡みついた。ストライダーである彼のスキル、エンタングルである。
そこにロザリーがメイスを思い切りスウィングし、身動きの取れない敵を激しく打った。
「こっちは任せて……輝け光の剣!」
ざくろも敵の攻撃を盾で捌きつつ、機導剣で魔物を斬る。宙を一閃した光の刃に鎧の肩当てがはじけ飛ぶ。
しかし敵の動きはまだ鈍らない。一体の鎧が振った剣が千春の腕を薙ぐ。
決して浅い傷ではなかったが、千春は敵の攻撃にも引かず、他の前衛達と組んだ陣形が崩されないように努める。彼女が反撃で振るったメイス「グラーティア」は、動く鎧の胴体を激しくひしゃげさせた。
フランシスカは千春を含む仲間達の傷を癒す為、ヒーリングスフィアを使用した。彼女の祈りにより、やわらかい光がフランシスカの周囲にあふれる。
菜摘のホーリーメイスが鎧の魔物の持つ盾をかいくぐり、胸の板金をへこませる。敵は数歩後ずさり、菜摘は追い討ちを駆けるために踏み込んだ。
動く鎧達は一階のスライムよりは手強い存在であったが、それでもハンター達に及ぶ相手ではなかった。
フィーネルの放ったファイアアローが残る一体へと命中する。最後まで抵抗していた鎧の魔物も、ついには崩れ落ちて消滅したのだった。
●
遺跡の最深部に辿りついたハンター達。
彼らが部屋の中で目にしたものは……何もなかった。がらんどうの部屋があるだけである。
ハンター達は顔を見合わせた。
誰もいないということはつまり、自分達が一番乗りをしたということで……。
彼らに遅れること数十秒。複数の足音が近づくとともに、別のハンター達が顔を見せる。
「……ああ」
その一団の中にいた少女、テレスは無念の声を漏らした。
「負けちゃいました……」
そう、今回の勝負は彼女の言葉の通り、テレス達の敗北であった。
テレスとその仲間を含め、総勢十八人のハンターは、いつの間にか広い部屋の床に座り、それぞれ思い思いに休息していた。癒しの力により傷が残る者もいない。
「よかったら、テレスさん達もいかがですか? 勝負の後はノーサイド、と蒼の世界の方が仰っていました」
アニスが笑顔で、全員にヒカヤ紅茶とクッキーを振舞う。こうなることを予期していたのか、彼女はあらかじめ紅茶を淹れる道具を持ち込んでいた。
ハンター達は礼を述べながら彼女の心遣いを受け取る。部屋には穏やかな空気が流れていた。
「でもでもやっぱりくやしいーーーー!」
もっともテレスは不満たらたらのようで、寝転んで駄々っ子のように喚いていた。
「自分が言い出した勝負の結果なんですから、文句を言わず受け入れなさい。それに彼女はあなたのお人形じゃないのですよ。彼女の進む道は彼女自身が決めるものです。彼女を聖女と慕うのなら勝手な聖女像ではなく彼女自身をしっかりと見なさい!!」
「……」
フィーネルの厳しい指摘に駄々をこねるのをやめ、テレスはゆっくりと上体を起こした。とはいえ、心底から納得したわけではないようだったが。
菜摘もテレスへと言葉をかける。
「さて、ロザリーさんもテレスさんもどちらも間違いではありませんわ。わたしも前衛が多ければ、今回のような身体を張る戦いをする必要もありませんでしたし。その時々に戦い方を選べるのが聖導士の強みですから、もう少し柔軟に考えてみるべきではありませんか?」
主にテレスに向けられた言葉であったが、もちろんロザリーの耳にもその言葉は届いている。二人は揃って考え込む。
「一緒に食事でもどう?」
そう言ってツナサンドを二人に手渡すティス。
ティスもこっそり持ち込んでいたパンとツナの缶詰から、即席でツナサンドを作っていた。ロザリーとテレスが仲直りするきっかけになれば、と考えてのことだ。
二人は受け取ったものの、まだ手をつけない。
そんな中、腹を空かせていた他のハンター達はティスに群がり、同じようにツナサンドをゲットした。ティスが多めに持ち込んでいた食材を使っても全員にはいきわたらなかったが、そこは先着順ということで諦めてもらう形となる。
ちゃっかりとツナサンドを入手していた千春はロザリーの側にやって来る。
「周りが求めているからって、無理にご自分の戦闘スタイルを変える必要はないと思います。聖導士の戦い方に正解はなくて、色々な戦い方ができるのが聖導士なんじゃないかなって。後方支援はもちろん、前に出て後衛の盾になることも、近接攻撃や魔法攻撃で敵を倒すこともできる」
同じ聖導士である千春も今回の件に思うところがあったのか、ロザリーへと自分の考えを伝える。
「ただ、状況に応じて戦闘スタイルを変えるぐらいの柔軟性は、あってもいいんじゃないかなって。ロザリーさんは、前衛でも後衛でも十分に戦える。その強み、活かさないともったいないんじゃないかなって思うんです……もちろん、強制ではないですけどね」
「千春さん……」
ロザリーは彼女の言葉に自分の戦い方を振り返ってみる。
最初の頃は仲間の期待に応える為、後方から援護を行っていた。
そしてある時期を境に、前衛でひたすらにメイスを振って振って振って振りまくって……あ、あら?
「た、たしかに、いつの間にか少々バランスを欠いていたような気がしなくもありませんわね……」
実際は少々どころではなかったが、ロザリーはテレスを横目で見ながらそう呟く。
「戦闘スタイルを変える……」
千春の言葉にテレスも考え込んだ。自分が積極的に前に出ていたら、もう少し早く戦いを終わらせられたかもしれない。そんな考えが彼女の脳裏をよぎったのだ。
「前面でも後方でも戦える聖導士。それが私の理想です。ロザリーは如何様にお考えでしょうか」
ロザリーと二度の戦いを共にしたフランシスカ。時には前衛で得物を操り、時には後衛で魔法を行使し、そして傷ついた仲間への援護も欠かさない。今回の彼女の戦いぶりはまさにその理想を体現したものであった。
「……わたくしも、駆け出しの頃はそんな考えを抱いていたような気がします……」
フランシスカの言葉に昔を思い出し、述懐するロザリー。
「一度、今のロザリアさんと一緒に戦ってみたらどうかな」
話を聞いていた匠がそっと二人に語りかける。
「以前のイメージだけじゃなく、今の姿を見てから判断を……それに、ロザリアさんとは別に支援役がいれば問題は無い訳で。案外、良い組合せになるんじゃないかな、と」
匠の言葉にロザリーとテレスがお互いの顔を見合わせる。
まだぎこちなくはあったが彼女達は笑みを浮かべ、二人揃って手の中のツナサンドにかぶりつく。
ありふれた材料で作られているはずのそれは、なぜだかとても美味しく感じられたのであった。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/27 08:06:47 |
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相談卓 柏木 千春(ka3061) 人間(リアルブルー)|17才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/04/29 20:50:50 |