ゲスト
(ka0000)
ふに、と、ぷに。
マスター:月宵

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/02 15:00
- 完成日
- 2015/05/10 08:34
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
辺境外れにある、とある小屋。木の上に建てられたほったて小屋。屋根があるのがありがたいと言えるほどのオンボロ小屋。
そんな恵まれている、とは言えない場所が一人のアルケミストの少女の家兼、アトリエなのだ。
長期の依頼を終え、漸く帰ってきた我が家。備え付けの縄梯子を登り、小屋の扉を開ける。
バタン!
そして勢い良く閉めた。別にお隣さんのお家だった、とかそんなオチではない。紛うことなき少女の家だ。
(……そうだ、何かの見間違いや。せやせや)
窓を閉切った薄暗い部屋なのだから、ガラス容器やら何かを見間違えただけだ。そうだ、そうに違いない。そうであってくれ。
つい今しがた見た幻想に、少女の胸がドキドキしているのがわかる。
ここはよし、深呼吸だ。そして再び扉を押す。
幻想だった、という幻想は撃ち砕かれる。
半透明の粘着生物。自分の顔が反射して映るほどのツヤツヤ具合。
目の前に広がる。スライム、スライム、スライム。足の踏み場が、ない。
「……」
ここに歪虚がいる理由を、少女には即座に理解出来た。
今回は原因何かな。放置しておいた材料か、大釜に残ってた薬が反応したのか……
いわゆる、魔法公害によるマテリアル異常が原因に間違いないのだ。それは何故かは、彼女の経験談からわかる。何度も、何度も実験に失敗してきたのだ。ここまでの大惨事は久しぶりだが……
「まぁ、どっちでもええ。退治するだけや!」
見たところ、そんなに強くない。それこそ数だけのスライムどもだ。得物を手に小屋内へ特攻。
「ウチかて、アルケミストの端くれやぁ!!」
……数時間後。
「頼む!スライム退治してぇな!」
あの小屋の下で、ハンター達に拝み倒す少女が一人。
戦ってみた結果。確かに弱いのだが、小屋に出現した雑魔はかなり特殊であったようだ。
ある種のスライムは叩いたら分裂し、またある種のスライムは魔法をぶつけたら吸収しその特質をコピーして、強くなったのだ。
しかも、見た目は二種類とも全く同じ。
が、少女は見分け方を見つけたらしく、ドヤ顔で言いきる。
「『ふに』とした奴が分裂。『ぷに』としたのが吸収してくる奴や!」
なるほど、わからん。
が、彼女はこれで説明出来たと思っているらしい。
その証拠か、もう次の説明に入っている。
小屋は多少なら壊れても構わないらしい。「元々ボロや、建て直せばええし」とハンターに告げる。
だが、他にも何かあるらしい。
「実家からパクっ――借りた書物があってな、あれだけは壊したないねん」
咳払い一回。台詞の前半に聴こえた言葉が気になるが、要するに小屋から本を取ってきて欲しいとのこと。
本さえ手にいれれば、小屋はどうなっても良い、とのことだ。
「ほな、頼んだで!」
そんな恵まれている、とは言えない場所が一人のアルケミストの少女の家兼、アトリエなのだ。
長期の依頼を終え、漸く帰ってきた我が家。備え付けの縄梯子を登り、小屋の扉を開ける。
バタン!
そして勢い良く閉めた。別にお隣さんのお家だった、とかそんなオチではない。紛うことなき少女の家だ。
(……そうだ、何かの見間違いや。せやせや)
窓を閉切った薄暗い部屋なのだから、ガラス容器やら何かを見間違えただけだ。そうだ、そうに違いない。そうであってくれ。
つい今しがた見た幻想に、少女の胸がドキドキしているのがわかる。
ここはよし、深呼吸だ。そして再び扉を押す。
幻想だった、という幻想は撃ち砕かれる。
半透明の粘着生物。自分の顔が反射して映るほどのツヤツヤ具合。
目の前に広がる。スライム、スライム、スライム。足の踏み場が、ない。
「……」
ここに歪虚がいる理由を、少女には即座に理解出来た。
今回は原因何かな。放置しておいた材料か、大釜に残ってた薬が反応したのか……
いわゆる、魔法公害によるマテリアル異常が原因に間違いないのだ。それは何故かは、彼女の経験談からわかる。何度も、何度も実験に失敗してきたのだ。ここまでの大惨事は久しぶりだが……
「まぁ、どっちでもええ。退治するだけや!」
見たところ、そんなに強くない。それこそ数だけのスライムどもだ。得物を手に小屋内へ特攻。
「ウチかて、アルケミストの端くれやぁ!!」
……数時間後。
「頼む!スライム退治してぇな!」
あの小屋の下で、ハンター達に拝み倒す少女が一人。
戦ってみた結果。確かに弱いのだが、小屋に出現した雑魔はかなり特殊であったようだ。
ある種のスライムは叩いたら分裂し、またある種のスライムは魔法をぶつけたら吸収しその特質をコピーして、強くなったのだ。
しかも、見た目は二種類とも全く同じ。
が、少女は見分け方を見つけたらしく、ドヤ顔で言いきる。
「『ふに』とした奴が分裂。『ぷに』としたのが吸収してくる奴や!」
なるほど、わからん。
が、彼女はこれで説明出来たと思っているらしい。
その証拠か、もう次の説明に入っている。
小屋は多少なら壊れても構わないらしい。「元々ボロや、建て直せばええし」とハンターに告げる。
だが、他にも何かあるらしい。
「実家からパクっ――借りた書物があってな、あれだけは壊したないねん」
咳払い一回。台詞の前半に聴こえた言葉が気になるが、要するに小屋から本を取ってきて欲しいとのこと。
本さえ手にいれれば、小屋はどうなっても良い、とのことだ。
「ほな、頼んだで!」
リプレイ本文
小屋の中に入るその前に、今のうちに出来うる限りの情報を集めるため。ハンター達は、少女に詳しい話を聞くことにした。
「パク……? って何ですの?」
純粋故に、少女の台詞がわからずチョココ(ka2449)と懐に入っているペット、パルパルと共に首をかくりと捻る。しかし、それ以上に聞かなければならないことを、ここで
彼女は思い出す。
「依頼人さんのお名前は? わたくしはチョココですの」
先ずは自己紹介だ
「ウチは、ピュリッツィア。ピーツ、って呼んでくれへん」
「またご縁があるやもですし、よろしくお願いいたしますわ♪」
「よろしゅーな」
次にピーツに声をかけたのは、うさぎの仮面にキグルミ姿。見るからに怪しい彼はアラン・スミシー(ka4573)その人。
「このうさぎさん仮面に任せておくが良い。全く自業自得であるが、放置して被害が拡散しては事である故にな」
「なっちまったもんは、しゃーないやろ」
そんな漫才を余所に、本の詳細を聞き出すのはフェイル・シャーデンフロイデ(ka4808)だ。装丁の特徴や、本の表紙などを詳しく聞いていく。で、引き出せた情報が…
「見りゃわかるわ。ぼろっちい無地の黒やで」
これである。初めから色々とで、フェイルは不安を覚える。
「持ち出したって言う本…興味あるわね…後で見せて貰えるでしょうか…?」
話に割って入って来たのは、フィルメリア・クリスティア(ka3380)である。彼女は、機導師であるためかピーツの本に興味があった。
「ええけど、エルフ文字やで。読める?」
「が……頑張ってみます」
「魔法公害のマテリアル異常……帝国じゃこんなのが日常って噂を聞いたよ。西方世界は怖いね!」
カガミ(ka4790)は、折れた刀新の代わりにたに手に入れたヒートソードを眺めながら呟く。
「『ふに』と『ぷに』と言いましたが、直接スライムに触れた感触と言う事で間違いないですか?」
「せやな」
「そうだとすれば『柔らかい』個体が分裂種、『弾力が強い』個体が魔法吸収種と見ていいですね」
「ちゃう、『ふに』が分裂。『ぷに』が魔法吸収や」
さも当然なピーツのしたり顔。
(考えてみれば、依頼人に手本を見せてもらえば早いのである)
がアランの考えも、質問をおうむ返しされピーツが首を捻るだけに終わった。
「嬢ちゃん、俺たちゃ縁日の雛売りじゃねーんだ。其れじゃ流石にわからねぇって」
呆れた声でアズマ(ka4796)がぼやく。幼馴染みであるカガミと共に雑魔退治に赴いたのだ。
「…まぁいい、どの道歪虚だってんだったら序に切り捨ててやるよ」
「カガミ、少し付き合え。雑魔退治だ」
●
話し合いも終わり、はしごを登って扉の前へとピーツがハンターを招いた。キョロキョロと全体を確認するチョココ。
小屋の扉と梯子の合間には、薄い足場があり、真下を覗くのはちょっと怖い。
「ウチはここで待ってるわ。せーの!」
ピーツが扉を開けると、薄暗い部屋で一斉に振り返った、ように見えるスライム。
アランが仮面の下で、顔をしかめた。
(なんて臭いなんだ……)
色々な酸味や甘味や、苦味。そんなまぜこぜになった匂いがハンター達の鼻腔を撫でる。だが、ピーツは気にする様子はない。そのことからこれが、実験に使った材料が混ざった臭いであることは明白だ。
(これでは、臭いでの見分けは不可能であろう)
もし触感でわからない場合、薬品等は臭いでわからないかと思っていたが、これでは難しそうだ。皆が部屋の中に突入するなか、アランが口を開く。
「ピーツ、貴殿に問いたい」
「こ、このスライムは……明らかに妙ですわ。変ですの! だって……目と口がないですのっ」
……一体チョココは、どんなスライムを今まで見てきたのだろうか。
こうして、スライムとの戦闘は始まった。と言っても最初は、こちらから攻撃はしない。
武器や手を使いスライムに触れながら、その感触を先ずは確かめるのだ。
その辺りにいる一匹をカガミが剣先でそっと突っつく。透明なそれは波打つような反応を示した。続いては、アズマは強引に、手でスライムを引っ張る。心地よいとも言える感触、手を話すと透明なそれはまた波打つような反応だ。
「?」
「スライムの特性把握しないとかー…触って確かめればまあ、わかんだろーねえ。地道にいくかー…」
同じくフェイルもスライムに触る。だが、カガミ達同様感触から違いを見分けられない。
(おそらく、ふに……か?)
何となくそう思えば、フェイルはスライムを両手でひっつかみ……扉の外にぶん投げ、はるか下へぼとん。
「分かれたでー」
外で見ていたピーツが教える。だが分裂したスライムを、入り口前のフィルメリアは見逃さない。
機導砲を分裂した片方に向けて打ち出す。スライムに着弾した白光が炸裂し、液が草地に飛び散る。
「あっちのトドメはウチがさすわ」
そう彼女に言って、ピーツは手慣れた様子で梯子を降りる。
フィルメリアは非情に困っていた。感触から判断すれば、後はスライムを分別してハンターに指示をし、戦闘のつもりだった。
しかし、その第一段階で我々は躓いてしまったのだ。
一応、あまり激しく戦闘をすると『嫌な予感』がするとだけこの場の全員に伝えておく。
他に違いがわかる何か手がかりは無かったか、彼女は思い出そうと頭を捻る。
(何か、この場所で何か……)
思考している間にも、時間は当たり前のように過ぎていく。
●
「迷子の迷子のご本さん~とっととでてこねえと燃しちまうぞ♪」
鞭と剣を両手に、絶妙に吊り上げた口元にはフェイルは邪な笑みをう浮かべている。
その癖に本を捜索する様は、両手で優しく道具を持ち上げながらと、とても丁寧だ。
フェイルの目の前に、一匹のスライムが跳んでくる。
「チッ」
それなりの距離を飛んできたスライムを、フェイルは大きく身体を曲げてかわす。
すると、目の前、出口付近に落ちたそれに軽快なステップを踏みながら、スラッシュエッジを鞭で叩き込む。
が、これはなくなく回避される。
(あっ、れぇ?)
しかし、スライムからの反撃はない。それどころか、後退しているようにフェイルには思えた。
「……せいっ」
そう思っていたところで、そのスライムをフィルメリアが外へ蹴り出した。
「此方の方は其方へお任せします」
今のスライムの動きに、フィルメリアも何かに気付いたのかも知れない。
……ゥォン
ここで、不思議な音が全員の耳に届く。次の瞬間、視界が急にひらけた。
バキッバキバキ
ギュイーン、ギュインギュイィーン
後方で窓が壊れそこには、いつの間にかいなくなっていたうさぎさん仮面の姿があった。
「暗いと判別や捜索がしづらいであるからな」
仮面の男を照らす後光が、室内を満たした。先程のピーツとの会話は、如何にして排気窓に近付くかを聞いたのだ。
何匹かのスライムが一斉に、室内の日陰へと移動始めたのだ。アラン達は、偶然にも日光がある種のスライム弱点だと知ったのだ。後でピーツにこのことをフィルメリアが聞いたところ。確か暗所保存の薬品があり、それがスライムが日光に弱い理由じゃないか、と話してくれた。
「注入、ドリルパワァー!」
チュインチュインとドリルを唸らせながら、アズマに攻性強化を施す。まさに反撃の狼煙、とでも言ったところだろうか。
「あ、逃げてますわ」
外に落ちた分裂しなかった一匹が、日光に刺される様に小屋からどんどんは離れていくのをチョココが確認。
「チッ、しゃーない。残った方からやるで!」
残った分裂した片割れに標準を合わせるピーツ。その背後でチョココのマジックアローが炸裂した。
「わぁ」
「危ない!」
此方は室内。スライムの突進が、カガミに当たる手前でアズマが合間に入り、呼吸を整え襲い掛かる物体に刃を向ける。
「一の型…つむじ風…!」
一点集中の斬撃が不定形の身体を削る。この一匹にアズマと共に集中攻撃を狙うカガミ。
「しっぷうけ……って使えない!?」
……素直にカガミはアズマの援護に徹した方が良いようだ。
「ぷにっとしてる感じぃ~? 多分だけどねぇー! 遠慮なくナイフで滅多刺しな!」
フェイルは、ぷにっとした判別したスライムに攻撃していた。しかし、彼はただの戦闘狂人では無い。彼は背後で耳に居着く、粘着質な音にいち早く気付けた。
「単調じゃん」
「きゃう!」
背後からの気配を屈んで避けるフェイル。頭上を通りすぎたスライムは、日光のある場所へ運悪く着地し、動けなくなる。
「あぁ、あんま頭よくねぇんだなぁ」
まぁ、こんな歪虚に脳などあるかわからないが。
そう納得してから、後ろに振り向く。足に打ち身をし、倒れるチョココ。そしてその視線の先、恐らく今のスライムのいた場所だろう。
本だ。室内にあるどの本よりも黒い、表紙が無地な本。ピーツに教えられた通りなら、これが目的の物だ。
それをフェイルが歩いて本を手に取れば、転んでいたチョココの目の前に差し出した。
「きみ、これ外にいる彼女に渡しといてくれない」
戦意を感じさせない瞳で、チョココに本を押し付けた。本来なら自分が届けるべきなのだろうが、この量のスライムをさばきながら依頼主に渡すのはちぃと骨だ。
「はぁ、やぁ、く」
「ピーツ様ですわね。わかりましたわ」
背後にチョココの足音を聞けば、少し安堵してから再び口元を吊り上げた。
「きぃひひひいいね~え、次俺に消されたいスライムくーんはどぉれかな~!」
●
「そっちに回します」
「ええで!」
フィルメリアは日の光から逃げるそいつを扉の外に蹴りつけて、足場に着地させた。分裂しないことにほっとする。どうやら、予測は当たっていたらしい。
そうして別のスライムに向き直り、魔導機械から発する人工の光の剣を振り回す。しかし、予想に反してスライムの動きは早く、未練がましい光は空を舞う。
そんな時チョココが室内から顔を出し、ピーツに黒い本を渡した。裏表を素早く確認し、ピーツは小さく微笑んだ。
「おーきにな」
「お礼なら、フェイル様に言うとよいですの」
そう笑うチョココ。だが、フィルメリアはその細いふくらはぎが青く腫れているのに気付いた。
「今、手当てしますね」
「ありがとうですの」
フィルメリアは屈んで、チョココの足にマテリアルヒーリングを施して傷を癒す。
その間チョココは、梯子の下を見下ろしていた。遠ざかるスライムが何匹か見える。
「属性なしでも、吸収して強化するのでしょうか?」
独り言にピーツは何度と頷いて答えた。
「機導砲ぶっぱなしたらな、何倍にもなって返ってきたで。おかげでウチボッコボッコや」
そう言えばピーツは苦笑い浮かべてから、既に治りかけている顎をさすった。
「そのおかげで、スライムの違いにか気付いたんやけどな」
(……そう言うことか)
フィルメリアは、漸くその意味を理解した。『ぷに』と『ふに』の違い。それはピーツの感覚的なものであり、本当に当たっているのか微妙、と言うことだ。
●
小屋の内部から響く奇怪音と高笑い。
「ふはははは、我がドリルの潤滑油となるが良い!」
不透明なそれは抉られ、かき回し過ぎて少しゼリー状の物体が泡立ってきた。
「これで、とどめだ! くらえ!」
一度引いたドリルを再び、勢いに任せスライムを突き……
ヒョイ
刺せずその回転する切っ先は朽ちかけた床に触れる。もちろん、床が無事であるわけがない。木っ端微塵に砕け大穴となりスライムと心中だ。楽しげにスライムの分裂、殲滅を続けていたフェイルも思わず振り向く。
(先に本を見つけておいて良かったね)
同じくスライムに苦戦していたカガミとアズマは、互いに視線を合わせて頷いた。これは、口にせずとも言いたいこと両者理解出来る。
自分達は、気を付けよう……
●疲労困憊
「やーあんがとおな」
スライムを片付け終わった頃には、もう日が小屋の屋根のてっぺんまで来ていた。
まさに、惨状と言うのが相応しい。床に風穴が空いて、スライムが消滅した際にぶちまけた液体でデコレーション。もちろん、ハンターの皆様にもデコレーション。
大した彼らに被害は無いものの、精も根も尽きてるほどで、何人かは疲労して室内にへたり込んでいた。
「もうしばらく、スライム見たくないかも」
「だな。それから風呂欲しい」
が、そこにパルパル頭に、片手にはモップを携えたチョココは、一声をあげる。
「ここはやはり……お掃除ですの!」
また居心地が良くて、スライムが来ては大変と皆に号令をかけた。
(それ……関係あるんか?)
こうして、スライムによって無造作に飾り立てられた部屋は、何とか日の入り前には綺麗になったのである。
「一人孤独に戦うのも良いが、力を合わせて仲間と共に戦うのも乙な物であるな!」
いつの間にか小屋の屋根に登り、クイっと仮面を正し立ち上がるアラン。もちろん、粘着質な何かのオマケ付き。
「拙者は、歪虚をこのドリルでこれから滅さねばならないのである」
要するに逃走したスライムを追いたい、とアランは言っている。ブワサァと身を翻し台詞を一つ。
「では、さらばである。次なる悪を滅ぼしに、いざ行かん!」
「待たんかワレ。床直すの手伝わんか!」
「パク……? って何ですの?」
純粋故に、少女の台詞がわからずチョココ(ka2449)と懐に入っているペット、パルパルと共に首をかくりと捻る。しかし、それ以上に聞かなければならないことを、ここで
彼女は思い出す。
「依頼人さんのお名前は? わたくしはチョココですの」
先ずは自己紹介だ
「ウチは、ピュリッツィア。ピーツ、って呼んでくれへん」
「またご縁があるやもですし、よろしくお願いいたしますわ♪」
「よろしゅーな」
次にピーツに声をかけたのは、うさぎの仮面にキグルミ姿。見るからに怪しい彼はアラン・スミシー(ka4573)その人。
「このうさぎさん仮面に任せておくが良い。全く自業自得であるが、放置して被害が拡散しては事である故にな」
「なっちまったもんは、しゃーないやろ」
そんな漫才を余所に、本の詳細を聞き出すのはフェイル・シャーデンフロイデ(ka4808)だ。装丁の特徴や、本の表紙などを詳しく聞いていく。で、引き出せた情報が…
「見りゃわかるわ。ぼろっちい無地の黒やで」
これである。初めから色々とで、フェイルは不安を覚える。
「持ち出したって言う本…興味あるわね…後で見せて貰えるでしょうか…?」
話に割って入って来たのは、フィルメリア・クリスティア(ka3380)である。彼女は、機導師であるためかピーツの本に興味があった。
「ええけど、エルフ文字やで。読める?」
「が……頑張ってみます」
「魔法公害のマテリアル異常……帝国じゃこんなのが日常って噂を聞いたよ。西方世界は怖いね!」
カガミ(ka4790)は、折れた刀新の代わりにたに手に入れたヒートソードを眺めながら呟く。
「『ふに』と『ぷに』と言いましたが、直接スライムに触れた感触と言う事で間違いないですか?」
「せやな」
「そうだとすれば『柔らかい』個体が分裂種、『弾力が強い』個体が魔法吸収種と見ていいですね」
「ちゃう、『ふに』が分裂。『ぷに』が魔法吸収や」
さも当然なピーツのしたり顔。
(考えてみれば、依頼人に手本を見せてもらえば早いのである)
がアランの考えも、質問をおうむ返しされピーツが首を捻るだけに終わった。
「嬢ちゃん、俺たちゃ縁日の雛売りじゃねーんだ。其れじゃ流石にわからねぇって」
呆れた声でアズマ(ka4796)がぼやく。幼馴染みであるカガミと共に雑魔退治に赴いたのだ。
「…まぁいい、どの道歪虚だってんだったら序に切り捨ててやるよ」
「カガミ、少し付き合え。雑魔退治だ」
●
話し合いも終わり、はしごを登って扉の前へとピーツがハンターを招いた。キョロキョロと全体を確認するチョココ。
小屋の扉と梯子の合間には、薄い足場があり、真下を覗くのはちょっと怖い。
「ウチはここで待ってるわ。せーの!」
ピーツが扉を開けると、薄暗い部屋で一斉に振り返った、ように見えるスライム。
アランが仮面の下で、顔をしかめた。
(なんて臭いなんだ……)
色々な酸味や甘味や、苦味。そんなまぜこぜになった匂いがハンター達の鼻腔を撫でる。だが、ピーツは気にする様子はない。そのことからこれが、実験に使った材料が混ざった臭いであることは明白だ。
(これでは、臭いでの見分けは不可能であろう)
もし触感でわからない場合、薬品等は臭いでわからないかと思っていたが、これでは難しそうだ。皆が部屋の中に突入するなか、アランが口を開く。
「ピーツ、貴殿に問いたい」
「こ、このスライムは……明らかに妙ですわ。変ですの! だって……目と口がないですのっ」
……一体チョココは、どんなスライムを今まで見てきたのだろうか。
こうして、スライムとの戦闘は始まった。と言っても最初は、こちらから攻撃はしない。
武器や手を使いスライムに触れながら、その感触を先ずは確かめるのだ。
その辺りにいる一匹をカガミが剣先でそっと突っつく。透明なそれは波打つような反応を示した。続いては、アズマは強引に、手でスライムを引っ張る。心地よいとも言える感触、手を話すと透明なそれはまた波打つような反応だ。
「?」
「スライムの特性把握しないとかー…触って確かめればまあ、わかんだろーねえ。地道にいくかー…」
同じくフェイルもスライムに触る。だが、カガミ達同様感触から違いを見分けられない。
(おそらく、ふに……か?)
何となくそう思えば、フェイルはスライムを両手でひっつかみ……扉の外にぶん投げ、はるか下へぼとん。
「分かれたでー」
外で見ていたピーツが教える。だが分裂したスライムを、入り口前のフィルメリアは見逃さない。
機導砲を分裂した片方に向けて打ち出す。スライムに着弾した白光が炸裂し、液が草地に飛び散る。
「あっちのトドメはウチがさすわ」
そう彼女に言って、ピーツは手慣れた様子で梯子を降りる。
フィルメリアは非情に困っていた。感触から判断すれば、後はスライムを分別してハンターに指示をし、戦闘のつもりだった。
しかし、その第一段階で我々は躓いてしまったのだ。
一応、あまり激しく戦闘をすると『嫌な予感』がするとだけこの場の全員に伝えておく。
他に違いがわかる何か手がかりは無かったか、彼女は思い出そうと頭を捻る。
(何か、この場所で何か……)
思考している間にも、時間は当たり前のように過ぎていく。
●
「迷子の迷子のご本さん~とっととでてこねえと燃しちまうぞ♪」
鞭と剣を両手に、絶妙に吊り上げた口元にはフェイルは邪な笑みをう浮かべている。
その癖に本を捜索する様は、両手で優しく道具を持ち上げながらと、とても丁寧だ。
フェイルの目の前に、一匹のスライムが跳んでくる。
「チッ」
それなりの距離を飛んできたスライムを、フェイルは大きく身体を曲げてかわす。
すると、目の前、出口付近に落ちたそれに軽快なステップを踏みながら、スラッシュエッジを鞭で叩き込む。
が、これはなくなく回避される。
(あっ、れぇ?)
しかし、スライムからの反撃はない。それどころか、後退しているようにフェイルには思えた。
「……せいっ」
そう思っていたところで、そのスライムをフィルメリアが外へ蹴り出した。
「此方の方は其方へお任せします」
今のスライムの動きに、フィルメリアも何かに気付いたのかも知れない。
……ゥォン
ここで、不思議な音が全員の耳に届く。次の瞬間、視界が急にひらけた。
バキッバキバキ
ギュイーン、ギュインギュイィーン
後方で窓が壊れそこには、いつの間にかいなくなっていたうさぎさん仮面の姿があった。
「暗いと判別や捜索がしづらいであるからな」
仮面の男を照らす後光が、室内を満たした。先程のピーツとの会話は、如何にして排気窓に近付くかを聞いたのだ。
何匹かのスライムが一斉に、室内の日陰へと移動始めたのだ。アラン達は、偶然にも日光がある種のスライム弱点だと知ったのだ。後でピーツにこのことをフィルメリアが聞いたところ。確か暗所保存の薬品があり、それがスライムが日光に弱い理由じゃないか、と話してくれた。
「注入、ドリルパワァー!」
チュインチュインとドリルを唸らせながら、アズマに攻性強化を施す。まさに反撃の狼煙、とでも言ったところだろうか。
「あ、逃げてますわ」
外に落ちた分裂しなかった一匹が、日光に刺される様に小屋からどんどんは離れていくのをチョココが確認。
「チッ、しゃーない。残った方からやるで!」
残った分裂した片割れに標準を合わせるピーツ。その背後でチョココのマジックアローが炸裂した。
「わぁ」
「危ない!」
此方は室内。スライムの突進が、カガミに当たる手前でアズマが合間に入り、呼吸を整え襲い掛かる物体に刃を向ける。
「一の型…つむじ風…!」
一点集中の斬撃が不定形の身体を削る。この一匹にアズマと共に集中攻撃を狙うカガミ。
「しっぷうけ……って使えない!?」
……素直にカガミはアズマの援護に徹した方が良いようだ。
「ぷにっとしてる感じぃ~? 多分だけどねぇー! 遠慮なくナイフで滅多刺しな!」
フェイルは、ぷにっとした判別したスライムに攻撃していた。しかし、彼はただの戦闘狂人では無い。彼は背後で耳に居着く、粘着質な音にいち早く気付けた。
「単調じゃん」
「きゃう!」
背後からの気配を屈んで避けるフェイル。頭上を通りすぎたスライムは、日光のある場所へ運悪く着地し、動けなくなる。
「あぁ、あんま頭よくねぇんだなぁ」
まぁ、こんな歪虚に脳などあるかわからないが。
そう納得してから、後ろに振り向く。足に打ち身をし、倒れるチョココ。そしてその視線の先、恐らく今のスライムのいた場所だろう。
本だ。室内にあるどの本よりも黒い、表紙が無地な本。ピーツに教えられた通りなら、これが目的の物だ。
それをフェイルが歩いて本を手に取れば、転んでいたチョココの目の前に差し出した。
「きみ、これ外にいる彼女に渡しといてくれない」
戦意を感じさせない瞳で、チョココに本を押し付けた。本来なら自分が届けるべきなのだろうが、この量のスライムをさばきながら依頼主に渡すのはちぃと骨だ。
「はぁ、やぁ、く」
「ピーツ様ですわね。わかりましたわ」
背後にチョココの足音を聞けば、少し安堵してから再び口元を吊り上げた。
「きぃひひひいいね~え、次俺に消されたいスライムくーんはどぉれかな~!」
●
「そっちに回します」
「ええで!」
フィルメリアは日の光から逃げるそいつを扉の外に蹴りつけて、足場に着地させた。分裂しないことにほっとする。どうやら、予測は当たっていたらしい。
そうして別のスライムに向き直り、魔導機械から発する人工の光の剣を振り回す。しかし、予想に反してスライムの動きは早く、未練がましい光は空を舞う。
そんな時チョココが室内から顔を出し、ピーツに黒い本を渡した。裏表を素早く確認し、ピーツは小さく微笑んだ。
「おーきにな」
「お礼なら、フェイル様に言うとよいですの」
そう笑うチョココ。だが、フィルメリアはその細いふくらはぎが青く腫れているのに気付いた。
「今、手当てしますね」
「ありがとうですの」
フィルメリアは屈んで、チョココの足にマテリアルヒーリングを施して傷を癒す。
その間チョココは、梯子の下を見下ろしていた。遠ざかるスライムが何匹か見える。
「属性なしでも、吸収して強化するのでしょうか?」
独り言にピーツは何度と頷いて答えた。
「機導砲ぶっぱなしたらな、何倍にもなって返ってきたで。おかげでウチボッコボッコや」
そう言えばピーツは苦笑い浮かべてから、既に治りかけている顎をさすった。
「そのおかげで、スライムの違いにか気付いたんやけどな」
(……そう言うことか)
フィルメリアは、漸くその意味を理解した。『ぷに』と『ふに』の違い。それはピーツの感覚的なものであり、本当に当たっているのか微妙、と言うことだ。
●
小屋の内部から響く奇怪音と高笑い。
「ふはははは、我がドリルの潤滑油となるが良い!」
不透明なそれは抉られ、かき回し過ぎて少しゼリー状の物体が泡立ってきた。
「これで、とどめだ! くらえ!」
一度引いたドリルを再び、勢いに任せスライムを突き……
ヒョイ
刺せずその回転する切っ先は朽ちかけた床に触れる。もちろん、床が無事であるわけがない。木っ端微塵に砕け大穴となりスライムと心中だ。楽しげにスライムの分裂、殲滅を続けていたフェイルも思わず振り向く。
(先に本を見つけておいて良かったね)
同じくスライムに苦戦していたカガミとアズマは、互いに視線を合わせて頷いた。これは、口にせずとも言いたいこと両者理解出来る。
自分達は、気を付けよう……
●疲労困憊
「やーあんがとおな」
スライムを片付け終わった頃には、もう日が小屋の屋根のてっぺんまで来ていた。
まさに、惨状と言うのが相応しい。床に風穴が空いて、スライムが消滅した際にぶちまけた液体でデコレーション。もちろん、ハンターの皆様にもデコレーション。
大した彼らに被害は無いものの、精も根も尽きてるほどで、何人かは疲労して室内にへたり込んでいた。
「もうしばらく、スライム見たくないかも」
「だな。それから風呂欲しい」
が、そこにパルパル頭に、片手にはモップを携えたチョココは、一声をあげる。
「ここはやはり……お掃除ですの!」
また居心地が良くて、スライムが来ては大変と皆に号令をかけた。
(それ……関係あるんか?)
こうして、スライムによって無造作に飾り立てられた部屋は、何とか日の入り前には綺麗になったのである。
「一人孤独に戦うのも良いが、力を合わせて仲間と共に戦うのも乙な物であるな!」
いつの間にか小屋の屋根に登り、クイっと仮面を正し立ち上がるアラン。もちろん、粘着質な何かのオマケ付き。
「拙者は、歪虚をこのドリルでこれから滅さねばならないのである」
要するに逃走したスライムを追いたい、とアランは言っている。ブワサァと身を翻し台詞を一つ。
「では、さらばである。次なる悪を滅ぼしに、いざ行かん!」
「待たんかワレ。床直すの手伝わんか!」
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/04/27 23:51:23 |
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相談卓 アズマ(ka4796) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2015/05/02 10:14:24 |