ゲスト
(ka0000)
蛾毒は蝶を蹂躙するか
マスター:御影堂

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/05 12:00
- 完成日
- 2015/05/13 01:44
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「花畑に蝶の歪虚が出たらしいわよ」
「大きいのか?」
「らしいわ。でも、花畑に優雅に舞う蝶……素敵よね」
そう語らうのは、花屋の娘アデーレ。そして、幼なじみの兵士クロードだ。
夢見がちなアデーレは、目をつむって思いを馳せる。
現実的なクロードは、雑魔ということは巨大なのかと思っていた。
「そうだわ。お花を見に行きましょう」
雑魔を見に行くといわないあたりは、配慮だろうか。
危険だとはわかっていても、見たいものは見たいのだろう。
「遠くから、見るだけだぞ」
気づかれない距離なら、問題無いとクロードも同意する。
彼女は、拒否した所で面倒なことを言い出すに決まっていた。
はねつければはねつけるほどに、意固地になる性格なのだ。
一人で勝手に行かれては、敵わない。
「どんなのか確認しておかないとな」
アデーレ以外にも見に行こうとするものがいるかもしれない。
花畑は、町外れにあり旅人の名物にもなっていた。
押し花や花細工の材料集めにもよく利用される。
治安維持を担うものとして、確認せざるをえないのだ。
「隊長に話をつけてくる」
「うん、街の出口で待ってるね」
●
街外れの花畑はそう遠くはない。
徒歩でも30分なればたどり着く。近づくほどに、花の香が鼻につく。
全景が眺められるあたりで、クロードは馬を止めた。
「あれが、そうらしい」
指差す先に、羽ばたく虫の姿が合った。
この距離からでも、あからさまに花々との対比がおかしい。
子供ぐらいの大きさはあるのではないだろうか。
「確かに綺麗な羽ね。少しケバいけど……」
隣で眺めるアデーレは、予想が外れ、微妙な顔をしていた。
クロードは目を細め、その姿を観察する。
蝶というには、なにか違和感があった。
「アデーレ」
「何よ?」
「あれ、蝶じゃない。蛾だ」
蛾。
蝶とは似て非なる虫。
「ひっ」
アデーレが小さく悲鳴を上げた。
蝶と違って、蛾は嫌らしい。
見てわからないのなら、違いもそこまでないのにと思わなくはない。
「か、帰りましょう、クロード」
「げんきんだな」
「う、仕方ないでしょ。蛾はいーやーなーの!」
我儘なやつだ、と心のなかで思いながらもクロードは町へと戻る。
蛾の雑魔は、鱗粉のようなものを散らしていた。
あまり風下に立ちすぎるのも、危険かもしれない。たとえ、微量だとしても、だ。
「それにしても、蛾だなんて」
「まだ言うか」
町についてからも、アデーレはふくれっ面だった。
最初に蝶だと言い出した人に文句をいいたいくらいという。
「花々への影響もあるかもしれない」
「それは大変だわ。うちの経営が詰む!」
「早急に対処してもらうさ」
クロードはため息をつくと天を仰ぐ。
後ほど、蝶の化け物と騒いだのが町長だとわかった。
「蝶だけに!」とアデーレは言っていたが、何のことかわからなかった。
「花畑に蝶の歪虚が出たらしいわよ」
「大きいのか?」
「らしいわ。でも、花畑に優雅に舞う蝶……素敵よね」
そう語らうのは、花屋の娘アデーレ。そして、幼なじみの兵士クロードだ。
夢見がちなアデーレは、目をつむって思いを馳せる。
現実的なクロードは、雑魔ということは巨大なのかと思っていた。
「そうだわ。お花を見に行きましょう」
雑魔を見に行くといわないあたりは、配慮だろうか。
危険だとはわかっていても、見たいものは見たいのだろう。
「遠くから、見るだけだぞ」
気づかれない距離なら、問題無いとクロードも同意する。
彼女は、拒否した所で面倒なことを言い出すに決まっていた。
はねつければはねつけるほどに、意固地になる性格なのだ。
一人で勝手に行かれては、敵わない。
「どんなのか確認しておかないとな」
アデーレ以外にも見に行こうとするものがいるかもしれない。
花畑は、町外れにあり旅人の名物にもなっていた。
押し花や花細工の材料集めにもよく利用される。
治安維持を担うものとして、確認せざるをえないのだ。
「隊長に話をつけてくる」
「うん、街の出口で待ってるね」
●
街外れの花畑はそう遠くはない。
徒歩でも30分なればたどり着く。近づくほどに、花の香が鼻につく。
全景が眺められるあたりで、クロードは馬を止めた。
「あれが、そうらしい」
指差す先に、羽ばたく虫の姿が合った。
この距離からでも、あからさまに花々との対比がおかしい。
子供ぐらいの大きさはあるのではないだろうか。
「確かに綺麗な羽ね。少しケバいけど……」
隣で眺めるアデーレは、予想が外れ、微妙な顔をしていた。
クロードは目を細め、その姿を観察する。
蝶というには、なにか違和感があった。
「アデーレ」
「何よ?」
「あれ、蝶じゃない。蛾だ」
蛾。
蝶とは似て非なる虫。
「ひっ」
アデーレが小さく悲鳴を上げた。
蝶と違って、蛾は嫌らしい。
見てわからないのなら、違いもそこまでないのにと思わなくはない。
「か、帰りましょう、クロード」
「げんきんだな」
「う、仕方ないでしょ。蛾はいーやーなーの!」
我儘なやつだ、と心のなかで思いながらもクロードは町へと戻る。
蛾の雑魔は、鱗粉のようなものを散らしていた。
あまり風下に立ちすぎるのも、危険かもしれない。たとえ、微量だとしても、だ。
「それにしても、蛾だなんて」
「まだ言うか」
町についてからも、アデーレはふくれっ面だった。
最初に蝶だと言い出した人に文句をいいたいくらいという。
「花々への影響もあるかもしれない」
「それは大変だわ。うちの経営が詰む!」
「早急に対処してもらうさ」
クロードはため息をつくと天を仰ぐ。
後ほど、蝶の化け物と騒いだのが町長だとわかった。
「蝶だけに!」とアデーレは言っていたが、何のことかわからなかった。
リプレイ本文
●
少し小高い丘の上、眼下には鮮やかな花畑が広がっていた。
その上を極彩色、いや、ひどくけばけばしい虫が飛んでいた。
「うぅ。こんな美味しそうなお花畑。踏み荒らすことはできません……」
顔を覆いながら、ミネット・ベアール(ka3282)が震える。
「街の人達が大切にしている花畑だからな……ん? 食べる?」
ミネットの物言いにヴァイス(ka0364)が一瞬、怪訝そうな顔をする。
が、気にしないことにして視線を花畑に戻した。
「それを占領している雑魔か。できるだけ、花畑には被害を出さないようにしたいところだ」
「早く片付けて、周囲への悪影響も抑えたいものだぜ」
ヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613)が同意するように頷く。
それにしても、と続ける。
「花に蛾……野暮な眺めだねぇ」
「見た目はそっくりなのに蛾はきらわれるの」
可哀想なの、と佐藤 絢音(ka0552)は憐れむような視線を送る
胴体の太さ以外は見た目は変わらない。
地味だからかといえば、今回のような派手派手しいのもいる。
「蛾には蛾の美しさがあるというのは、理解するけれど……」
所詮は蝶のまがい物。
そう吐き捨てて、怪しく嗤うのは揚羽・ノワール(ka3235)である。
蝶の美しさに蛾は敵わない。
蝶と同じ揚羽の名を持つからこそ、からっと言ってのける。
「さて、どれくらい飛び回っているのかしら」
春の風に黒髪を揺らし、花畑を見やる。
揚羽の隣では司令塔を担うヴォーイが、双眼鏡を取り出していた。
「ここなら全体が見渡せるね」
数は6匹、重々しそうな羽根を羽ばたかせている。
小道も確認し、仲間へと目配せする。
少し離れた位置で、真夜・E=ヘクセ(ka3868)と巽 宗一郎(ka3853)が立っていた。
真夜が宗一郎に話があると、連れだしたのだ。
「ねぇ、ソーイチ。私、虫は苦手なんだけど……」
他のメンバーに声が聞こえない距離で、静かにいう。
宗一郎はそっと、戦いが終わったら「二人」で散歩しようと告げた。
「……ぇ?」
花畑で散歩、と真夜が小さく繰り返す。
思案顔で風に黒髪を揺らす。
一つ頷くと、顔を上げた。
「……仕方ないわね。ほら、頑張りましょ?」
真夜と宗一郎が合流すると同時に、レイ・アレス(ka4097)が戻ってきた。
「ま、マスクの用意、できました」
自警団に頼んで用意してもらったスカーフを配る。
少し湿らし、マスク代わりに使用するものだ。
「鱗粉は吸わないほうがよさそうですし」
初めて会う人ばかりで、レイは些か緊張しているようであった。
前衛を担うヴァイスは、すっとスカーフを受け取ると口元に巻く。
「心遣い、ありがとうな」
「リアルブルーのゲーム何かだと……蝶や蛾のモブの鱗粉って毒だったりするのよね」
真夜はそういいながら、宗一郎へスカーフを渡す。
そして、花畑を見下ろす。
花はハンターたちとは逆の方向へと、揺れていた。
風上であることを確認し、ヴォーイが告げる。
「それじゃあ、始めよう」
●
「ミネット、そこから一番近い蛾を狙おうぜ」
ヴォーイが覗きこむ双眼鏡の先に、はためく蛾の姿があった。
左に3匹、右に2匹。ミネットに告げたのは中央の蛾だ。
風はいまだ、こちらがわから吹いている。
「……とのことです」
トランシーバーを持つレイを通じて、ミネットに指示は届く。
「がってんです! 狙い撃ちます!」
接敵する前に削るべし。
ヴァイスや宗一郎が接近を果たす前に、狙いをつける。
「私に……できることは……これぐらいですがっ」
十全に引き絞った短弓から、矢が放たてる。
マテリアルを用いて最高度の加速を見せた矢が、羽根を貫いた。
「ぬふふ、とある方をぱちんこで狙ってる時に思いついた技です! この弓なら耐えてくれますっ!」
「さて、私の力を貸してあげるわ」
揚羽が立て続けに、ヴァイスへと炎の力を付与する。
力を受けたヴァイスは、光弾を避けながら手裏剣を放つ。
まずは、牽制というところだ。
「存外、素早いな」
ひらりとかわされ、感想を漏らす。
気配に気づいた蛾達は、次々と光弾を放つ。
前面にでていたヴァイスと宗一郎が受ける形だ。ヴァイスは避けきり、宗一郎は受けるよう構えた。
「あぶないの!」と咄嗟に絢音が防御障壁を展開する。
「大丈夫?」
「あぁ」
「花畑は荒らしたくないけど……ソーイチも無理しないこと、いい?」
もちろんと頷きながら、さらに距離を詰める。
射程圏内に入ったことを確認し、引き金を引く。
「空中だから、狙いがぶれるね……と」
ふと、宗一郎が顔をしかめる。
ヴァイスもスカーフを強く締め直す。
「風向きが変わったって」
「遅いわよ!」
真夜が急いでウィンドガストを宗一郎へ与える。
重ねて、レイが宗一郎の抵抗力を上昇させる。
「油断した。助かったよ」
崩れかけた体勢を立て直し、銃口を向ける。
「……さて。どれだけ耐えられるかな」
真夜に聞こえないよう、宗一郎は呟くのだった。
相手の手数を減らすのは、戦の定石。
揚羽は手を向けて、眠りを誘う白い霧を発生させる。
「それにしてもやっぱり蛾は醜いモノね」
独りごちながら、様子を見守る。
散っているため、一匹だけ霧から外れていた。
それ以外の蛾も、二匹だけ地に落ちた……が。
「落下の衝撃で起きるなんて、無粋ね」
一匹は花畑におちると同時に、再び羽ばたいたのだった。
「ぱたぱたしてるから狙いにくいの」
霧から脱した中から、狙いをつけて絢音は唇をとがらせる。
それでも広げた羽根を含めた全てを狙えば、どこかしらに当たるものだ。
「ラッキーなの!」
ミネットの攻撃で、ふらついていた前面の一匹が触覚をもぎ取られて堕ちた。
起き上がることなく、身を縮める。
「俺が敵を引きつける、その隙を狙ってくれ」
小道へと誘うように、手裏剣を放ちながらヴァイスが告げる。
そこへ左から一匹が追い縋る。
残る二匹は、霧を発した揚羽へと狙いをつけていた。
「……っ」
絢音の防御障壁を受けながらも、手痛いダメージを負う。
ヴォーイに促される形で、レイがすかさず回復に入る。
「お返しは痛いわよ」
揚羽の放った炎の矢を、蛾ははらりと避ける。
「左側の援護、ね」
動きを止めるべく、ヴォーイの指示でミネットも援護に入る。
「この矢は……超冷たいですよ……蝶だけに」
マテリアルを込め、冷気を纏った矢を放つ……と同時にヴォーイへ向けてドヤ顔を放つ。
「外れてるじゃん……」
双眼鏡の先、ドヤ顔でミネットは見えていなかったが矢は外れていた。
すぐに戦闘に集中してくれ、と言葉を発するのだった。
「んー、右側は……っと」
ヴォーイは視線を走らせ、戦場を確認する。
左はヴァイスが引きつけ、ミネットと揚羽が狙いをつける。
かくして右は、宗一郎と真夜の二人組。
それと、絢音が援護に入る形になっている。
「まずは、一匹ね」
水の弾丸で一匹撃ち落とし、真夜がやや後退する。
合わせて宗一郎も交代しながら、銃撃する。
「大丈夫なの?」
右側では、宗一郎が攻撃を受けきっていた。
心配そうにいう絢音に、宗一郎は大丈夫だと答える。
一方の左側では、
「……すぅ」
射撃や魔法攻撃で巻き起こる風で鱗粉が舞う。
中心にいるヴァイスは一度、大きく息を吸って武器を構える。
朝日のような光を持つ刀身を、まっすぐに蛾へと向ける。
大きく踏み出し放たれた刃は、弾丸のように素早く蛾へと突き刺さる。
「ふっ」
短く息を吐き、再び息を止める。
蛾の体当たりを避けると、精密にとどめを刺しに行く。
「……ぷはぁっ」
一匹を潰えさせ、一度息を整える。
風は、蛾のいないところから吹いていた。清らかな空気を吸い、振り返る。
「二匹目……終わりっ!」
二発続いて冷気を帯びた矢を避けられ、ミネットは攻撃方法を戻していた。
マテリアルによって、最大限に引き出された速度の矢が蛾の腹部を穿つ。
揚羽の炎の矢が重ねて蛾に命中する。
「終わりね」
追撃の矢で蛾の落ちる場所を調整し、ミネットは次に向き直る。
右側は真夜たちに任せ、ミネットと揚羽は左側へ注力する。
「無茶はしないでください」
ヴァイスが対峙するより先に、光弾が揚羽へ再び襲い掛かる。
受けた負傷を回復すべく、レイが寄ってマテリアルを流し込む。
「おそらく敵は我が強いんです……蛾だけに」
と、ヴォーイのいる方向へドヤ顔をするミネット。
そんなミネットへ、ヴァイスが堂々と宣言する。
「ここから先は、俺が全て受けるさ」
ヴァイスが至近距離までにじり寄り、刃を振るう。
出来る限り精密に、確実に、刃を当てに行く……が、ひらりとかわされる。
対空への攻撃は、間合いが取りづらい。
「やっぱり、こっちだな」
羽ばたきに寄るゆらめきを、蛾は利用して避けている。
鱗粉が原因か、痺れを感じていた身体だったが。
呼吸を整え、レイによって抵抗値を上げてもらうことで治った。
「ふっ」とミネットが放った矢が蛾の片羽をとらえた。
同時に、大きく踏み込み、懐へとヴァイスは潜り込む。
「強い風がくるぞ!」
ヴォーイの声がトランシーバーから漏れ聞こえたが、ヴァイスには届いていなかった。
ただ、目の前の蛾は風の恩恵に預かる前に刃に胴をつかれていた。
「よっと」
動かなくなった蛾の死体を、花畑から小道へと突き刺したまま落とす。
「こっちは終わりだな」
ヴァイスが決めたのとほぼ同じタイミングで、
「落ちた」と宗一郎は声を漏らしていた。
だが、生きていると油断なく盾を構えて近づく。
「飛んでないなら、怖くないの」
その後ろから、絢音と真夜が狙いをつける。
飛べずにもがく蛾へ、引導を渡すことなどたやすいことなのだ。
「ソーイチ、大丈夫だった?」
「あぁ、大丈夫だよ」
真夜の黒髪を撫でながら、宗一郎は応える。
負傷は微量にしかなく、それも、回復しきれる程度だったのだ。
「やりましたねっ! 町長に報告に行きましょう……蝶々だけに」
敵の全滅を確認し、ミネットは皆にドヤ顔でサムズ・アップするのだった。
●
戦闘が終わり、怪我を回復していたレイが手を止める。
「これで終わりですね」
「お花さんも、いたいいたいとんでけするの」
「そうだな。小道を用いたとはいえ、被害なしとはいかなかった」
絢音の言葉に、ヴァイスが頷く。
レイと合わせて三人で、潰れた花を片付ける。
「あら、面白いことをやっているわね」
「手伝いましょうか?」
そこへ揚羽が、アデーレを連れて戻ってきた。
案内を頼みたかったのだが、修復作業を手伝うらしい。
「終わったら声をかけてちょうだい。見て回りたいから」
揚羽は近くでシートを広げていたヴォーイのところへ赴く。
クロードもそこにいた。ふと、揚羽は問いかける。
「ねぇ、クロード様」
「何ですか?」
「私が今名乗っている名前は、揚羽・ノワール……つまりは黒揚羽」
妖艶なほほ笑みを浮かべ、揚羽は花畑を見下ろす。
蛾がいなくなったことで、蝶も戻ってきていた。
「この花畑に相応しい存在じゃないかしら?」
揚羽はクスクスと笑いながら、尋ねるのだった。
修繕が終わった頃、揚羽はアデーレとともに花畑へ散策に向かった。
絢音とヴァイスも彼らに付いていった。
残ったヴォーイは余ったお菓子をつついていた。
「砂糖漬けにすれば、食べられる花はありまぁす!」
近くではクロードに、ミネットが何やら売り込みをしていた。
花の砂糖漬け。名前からして甘そうである。
「村の新しい名物に一つ……いかがでしょうか?」
「提案だけしてみよう」
「話だけでもうれしいですよ! 花だけに!」
ぐっとミネットはきれいな笑顔を見せる。
クロードは何言っているんだ、という顔をしていた。
ピクニックに興じるハンターたちから離れ、宗一郎と真夜も花畑に来ていた。
二人のいる場所は、他の人達から真反対の位置にあたる。
二人きりのピクニックである。
「ね……この前の……着てみたんだけど、どう?」
赤やオレンジのフリルをあしらったドレスの裾を翻し、真夜が問いかける。
自分が贈ったドレスを身にまとった真夜に、宗一郎は優しく告げる。
「かわいいよ、真夜」
「ん……」
見るからに顔が明るくなる。機嫌よく、バスケットを取り出した。
「なら良かった。それじゃランチにしよ?」
芝生の上に二人で並んで座る。
取り出したサンドウィッチは、ツナマヨ、ハムカツ、タマゴ……。
「僕の好物……よく覚えてたね」
「もちろん」といいながら真夜はサンドウィッチを手渡す。
美味しそうに食べる宗一郎の横顔を、真夜は見つめていた。
食事も終わった頃、
「……」
真夜はきょろきょろとあたりを見渡す。
人気はなく、花がただ揺れるばかり。
真夜は宗一郎の服を引っ張って告げる。膝枕に誘い、その身体を預けさせる。
「やっぱり真夜、いい匂いするよなぁ。……ふぁ。駄目だ……眠くなってきちゃった」
「寝てもいいよ? 帰るときに起こすからさ」
春の風に花が揺れる。寝息をたてる宗一郎へ、真夜は優しく口づけをする。
守りぬいた花畑は、全ての者を優しく包み込む。
陽気な太陽が、それを見守るのであった。
少し小高い丘の上、眼下には鮮やかな花畑が広がっていた。
その上を極彩色、いや、ひどくけばけばしい虫が飛んでいた。
「うぅ。こんな美味しそうなお花畑。踏み荒らすことはできません……」
顔を覆いながら、ミネット・ベアール(ka3282)が震える。
「街の人達が大切にしている花畑だからな……ん? 食べる?」
ミネットの物言いにヴァイス(ka0364)が一瞬、怪訝そうな顔をする。
が、気にしないことにして視線を花畑に戻した。
「それを占領している雑魔か。できるだけ、花畑には被害を出さないようにしたいところだ」
「早く片付けて、周囲への悪影響も抑えたいものだぜ」
ヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613)が同意するように頷く。
それにしても、と続ける。
「花に蛾……野暮な眺めだねぇ」
「見た目はそっくりなのに蛾はきらわれるの」
可哀想なの、と佐藤 絢音(ka0552)は憐れむような視線を送る
胴体の太さ以外は見た目は変わらない。
地味だからかといえば、今回のような派手派手しいのもいる。
「蛾には蛾の美しさがあるというのは、理解するけれど……」
所詮は蝶のまがい物。
そう吐き捨てて、怪しく嗤うのは揚羽・ノワール(ka3235)である。
蝶の美しさに蛾は敵わない。
蝶と同じ揚羽の名を持つからこそ、からっと言ってのける。
「さて、どれくらい飛び回っているのかしら」
春の風に黒髪を揺らし、花畑を見やる。
揚羽の隣では司令塔を担うヴォーイが、双眼鏡を取り出していた。
「ここなら全体が見渡せるね」
数は6匹、重々しそうな羽根を羽ばたかせている。
小道も確認し、仲間へと目配せする。
少し離れた位置で、真夜・E=ヘクセ(ka3868)と巽 宗一郎(ka3853)が立っていた。
真夜が宗一郎に話があると、連れだしたのだ。
「ねぇ、ソーイチ。私、虫は苦手なんだけど……」
他のメンバーに声が聞こえない距離で、静かにいう。
宗一郎はそっと、戦いが終わったら「二人」で散歩しようと告げた。
「……ぇ?」
花畑で散歩、と真夜が小さく繰り返す。
思案顔で風に黒髪を揺らす。
一つ頷くと、顔を上げた。
「……仕方ないわね。ほら、頑張りましょ?」
真夜と宗一郎が合流すると同時に、レイ・アレス(ka4097)が戻ってきた。
「ま、マスクの用意、できました」
自警団に頼んで用意してもらったスカーフを配る。
少し湿らし、マスク代わりに使用するものだ。
「鱗粉は吸わないほうがよさそうですし」
初めて会う人ばかりで、レイは些か緊張しているようであった。
前衛を担うヴァイスは、すっとスカーフを受け取ると口元に巻く。
「心遣い、ありがとうな」
「リアルブルーのゲーム何かだと……蝶や蛾のモブの鱗粉って毒だったりするのよね」
真夜はそういいながら、宗一郎へスカーフを渡す。
そして、花畑を見下ろす。
花はハンターたちとは逆の方向へと、揺れていた。
風上であることを確認し、ヴォーイが告げる。
「それじゃあ、始めよう」
●
「ミネット、そこから一番近い蛾を狙おうぜ」
ヴォーイが覗きこむ双眼鏡の先に、はためく蛾の姿があった。
左に3匹、右に2匹。ミネットに告げたのは中央の蛾だ。
風はいまだ、こちらがわから吹いている。
「……とのことです」
トランシーバーを持つレイを通じて、ミネットに指示は届く。
「がってんです! 狙い撃ちます!」
接敵する前に削るべし。
ヴァイスや宗一郎が接近を果たす前に、狙いをつける。
「私に……できることは……これぐらいですがっ」
十全に引き絞った短弓から、矢が放たてる。
マテリアルを用いて最高度の加速を見せた矢が、羽根を貫いた。
「ぬふふ、とある方をぱちんこで狙ってる時に思いついた技です! この弓なら耐えてくれますっ!」
「さて、私の力を貸してあげるわ」
揚羽が立て続けに、ヴァイスへと炎の力を付与する。
力を受けたヴァイスは、光弾を避けながら手裏剣を放つ。
まずは、牽制というところだ。
「存外、素早いな」
ひらりとかわされ、感想を漏らす。
気配に気づいた蛾達は、次々と光弾を放つ。
前面にでていたヴァイスと宗一郎が受ける形だ。ヴァイスは避けきり、宗一郎は受けるよう構えた。
「あぶないの!」と咄嗟に絢音が防御障壁を展開する。
「大丈夫?」
「あぁ」
「花畑は荒らしたくないけど……ソーイチも無理しないこと、いい?」
もちろんと頷きながら、さらに距離を詰める。
射程圏内に入ったことを確認し、引き金を引く。
「空中だから、狙いがぶれるね……と」
ふと、宗一郎が顔をしかめる。
ヴァイスもスカーフを強く締め直す。
「風向きが変わったって」
「遅いわよ!」
真夜が急いでウィンドガストを宗一郎へ与える。
重ねて、レイが宗一郎の抵抗力を上昇させる。
「油断した。助かったよ」
崩れかけた体勢を立て直し、銃口を向ける。
「……さて。どれだけ耐えられるかな」
真夜に聞こえないよう、宗一郎は呟くのだった。
相手の手数を減らすのは、戦の定石。
揚羽は手を向けて、眠りを誘う白い霧を発生させる。
「それにしてもやっぱり蛾は醜いモノね」
独りごちながら、様子を見守る。
散っているため、一匹だけ霧から外れていた。
それ以外の蛾も、二匹だけ地に落ちた……が。
「落下の衝撃で起きるなんて、無粋ね」
一匹は花畑におちると同時に、再び羽ばたいたのだった。
「ぱたぱたしてるから狙いにくいの」
霧から脱した中から、狙いをつけて絢音は唇をとがらせる。
それでも広げた羽根を含めた全てを狙えば、どこかしらに当たるものだ。
「ラッキーなの!」
ミネットの攻撃で、ふらついていた前面の一匹が触覚をもぎ取られて堕ちた。
起き上がることなく、身を縮める。
「俺が敵を引きつける、その隙を狙ってくれ」
小道へと誘うように、手裏剣を放ちながらヴァイスが告げる。
そこへ左から一匹が追い縋る。
残る二匹は、霧を発した揚羽へと狙いをつけていた。
「……っ」
絢音の防御障壁を受けながらも、手痛いダメージを負う。
ヴォーイに促される形で、レイがすかさず回復に入る。
「お返しは痛いわよ」
揚羽の放った炎の矢を、蛾ははらりと避ける。
「左側の援護、ね」
動きを止めるべく、ヴォーイの指示でミネットも援護に入る。
「この矢は……超冷たいですよ……蝶だけに」
マテリアルを込め、冷気を纏った矢を放つ……と同時にヴォーイへ向けてドヤ顔を放つ。
「外れてるじゃん……」
双眼鏡の先、ドヤ顔でミネットは見えていなかったが矢は外れていた。
すぐに戦闘に集中してくれ、と言葉を発するのだった。
「んー、右側は……っと」
ヴォーイは視線を走らせ、戦場を確認する。
左はヴァイスが引きつけ、ミネットと揚羽が狙いをつける。
かくして右は、宗一郎と真夜の二人組。
それと、絢音が援護に入る形になっている。
「まずは、一匹ね」
水の弾丸で一匹撃ち落とし、真夜がやや後退する。
合わせて宗一郎も交代しながら、銃撃する。
「大丈夫なの?」
右側では、宗一郎が攻撃を受けきっていた。
心配そうにいう絢音に、宗一郎は大丈夫だと答える。
一方の左側では、
「……すぅ」
射撃や魔法攻撃で巻き起こる風で鱗粉が舞う。
中心にいるヴァイスは一度、大きく息を吸って武器を構える。
朝日のような光を持つ刀身を、まっすぐに蛾へと向ける。
大きく踏み出し放たれた刃は、弾丸のように素早く蛾へと突き刺さる。
「ふっ」
短く息を吐き、再び息を止める。
蛾の体当たりを避けると、精密にとどめを刺しに行く。
「……ぷはぁっ」
一匹を潰えさせ、一度息を整える。
風は、蛾のいないところから吹いていた。清らかな空気を吸い、振り返る。
「二匹目……終わりっ!」
二発続いて冷気を帯びた矢を避けられ、ミネットは攻撃方法を戻していた。
マテリアルによって、最大限に引き出された速度の矢が蛾の腹部を穿つ。
揚羽の炎の矢が重ねて蛾に命中する。
「終わりね」
追撃の矢で蛾の落ちる場所を調整し、ミネットは次に向き直る。
右側は真夜たちに任せ、ミネットと揚羽は左側へ注力する。
「無茶はしないでください」
ヴァイスが対峙するより先に、光弾が揚羽へ再び襲い掛かる。
受けた負傷を回復すべく、レイが寄ってマテリアルを流し込む。
「おそらく敵は我が強いんです……蛾だけに」
と、ヴォーイのいる方向へドヤ顔をするミネット。
そんなミネットへ、ヴァイスが堂々と宣言する。
「ここから先は、俺が全て受けるさ」
ヴァイスが至近距離までにじり寄り、刃を振るう。
出来る限り精密に、確実に、刃を当てに行く……が、ひらりとかわされる。
対空への攻撃は、間合いが取りづらい。
「やっぱり、こっちだな」
羽ばたきに寄るゆらめきを、蛾は利用して避けている。
鱗粉が原因か、痺れを感じていた身体だったが。
呼吸を整え、レイによって抵抗値を上げてもらうことで治った。
「ふっ」とミネットが放った矢が蛾の片羽をとらえた。
同時に、大きく踏み込み、懐へとヴァイスは潜り込む。
「強い風がくるぞ!」
ヴォーイの声がトランシーバーから漏れ聞こえたが、ヴァイスには届いていなかった。
ただ、目の前の蛾は風の恩恵に預かる前に刃に胴をつかれていた。
「よっと」
動かなくなった蛾の死体を、花畑から小道へと突き刺したまま落とす。
「こっちは終わりだな」
ヴァイスが決めたのとほぼ同じタイミングで、
「落ちた」と宗一郎は声を漏らしていた。
だが、生きていると油断なく盾を構えて近づく。
「飛んでないなら、怖くないの」
その後ろから、絢音と真夜が狙いをつける。
飛べずにもがく蛾へ、引導を渡すことなどたやすいことなのだ。
「ソーイチ、大丈夫だった?」
「あぁ、大丈夫だよ」
真夜の黒髪を撫でながら、宗一郎は応える。
負傷は微量にしかなく、それも、回復しきれる程度だったのだ。
「やりましたねっ! 町長に報告に行きましょう……蝶々だけに」
敵の全滅を確認し、ミネットは皆にドヤ顔でサムズ・アップするのだった。
●
戦闘が終わり、怪我を回復していたレイが手を止める。
「これで終わりですね」
「お花さんも、いたいいたいとんでけするの」
「そうだな。小道を用いたとはいえ、被害なしとはいかなかった」
絢音の言葉に、ヴァイスが頷く。
レイと合わせて三人で、潰れた花を片付ける。
「あら、面白いことをやっているわね」
「手伝いましょうか?」
そこへ揚羽が、アデーレを連れて戻ってきた。
案内を頼みたかったのだが、修復作業を手伝うらしい。
「終わったら声をかけてちょうだい。見て回りたいから」
揚羽は近くでシートを広げていたヴォーイのところへ赴く。
クロードもそこにいた。ふと、揚羽は問いかける。
「ねぇ、クロード様」
「何ですか?」
「私が今名乗っている名前は、揚羽・ノワール……つまりは黒揚羽」
妖艶なほほ笑みを浮かべ、揚羽は花畑を見下ろす。
蛾がいなくなったことで、蝶も戻ってきていた。
「この花畑に相応しい存在じゃないかしら?」
揚羽はクスクスと笑いながら、尋ねるのだった。
修繕が終わった頃、揚羽はアデーレとともに花畑へ散策に向かった。
絢音とヴァイスも彼らに付いていった。
残ったヴォーイは余ったお菓子をつついていた。
「砂糖漬けにすれば、食べられる花はありまぁす!」
近くではクロードに、ミネットが何やら売り込みをしていた。
花の砂糖漬け。名前からして甘そうである。
「村の新しい名物に一つ……いかがでしょうか?」
「提案だけしてみよう」
「話だけでもうれしいですよ! 花だけに!」
ぐっとミネットはきれいな笑顔を見せる。
クロードは何言っているんだ、という顔をしていた。
ピクニックに興じるハンターたちから離れ、宗一郎と真夜も花畑に来ていた。
二人のいる場所は、他の人達から真反対の位置にあたる。
二人きりのピクニックである。
「ね……この前の……着てみたんだけど、どう?」
赤やオレンジのフリルをあしらったドレスの裾を翻し、真夜が問いかける。
自分が贈ったドレスを身にまとった真夜に、宗一郎は優しく告げる。
「かわいいよ、真夜」
「ん……」
見るからに顔が明るくなる。機嫌よく、バスケットを取り出した。
「なら良かった。それじゃランチにしよ?」
芝生の上に二人で並んで座る。
取り出したサンドウィッチは、ツナマヨ、ハムカツ、タマゴ……。
「僕の好物……よく覚えてたね」
「もちろん」といいながら真夜はサンドウィッチを手渡す。
美味しそうに食べる宗一郎の横顔を、真夜は見つめていた。
食事も終わった頃、
「……」
真夜はきょろきょろとあたりを見渡す。
人気はなく、花がただ揺れるばかり。
真夜は宗一郎の服を引っ張って告げる。膝枕に誘い、その身体を預けさせる。
「やっぱり真夜、いい匂いするよなぁ。……ふぁ。駄目だ……眠くなってきちゃった」
「寝てもいいよ? 帰るときに起こすからさ」
春の風に花が揺れる。寝息をたてる宗一郎へ、真夜は優しく口づけをする。
守りぬいた花畑は、全ての者を優しく包み込む。
陽気な太陽が、それを見守るのであった。
依頼結果
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相談卓 揚羽・ノワール(ka3235) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/05/04 22:58:20 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/03 03:38:12 |