ゲスト
(ka0000)
珈琲サロンとぱぁずの仕入れ
マスター:佐倉眸

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/08 22:00
- 完成日
- 2015/05/17 18:33
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
馬車が走っていた。
ジェオルジからフマーレへ向かう街道を急いでいた。
夜道だった。
馬車は1人乗りで運転手はフマーレに店を構えて、ジェオルジの食品を扱っている。
売り上げの一番はコーヒー豆だ。個人よりも、フマーレのいくつかの喫茶店が取引先となっており、纏めて大量に売れるからなかなかに効率が良い。
定期的に買っていく店もあるが、不定期に買いに来る店もある。
不定期に買いに来る店の1つが、以前来てから大分経っている。そろそろ来る頃だろう。
暗い道、吊したカンテラの細い明かりを頼りに馬車を急かして、そんなことを考えていた。
馬車の横に影が過ぎった。
暗い中、それはよく見えなかったが、馬車よりも速く走る人間のような形をした何かだった。
馬の嘶きが聞こえた。
人間とは似ても似つかない歪な声を聞いた。男とも女とも若くも老いているともつかない幾種類もの声を継ぎ接ぎした声だった。
黒い靄に視界を覆われ、激しい痛みを感じた体が放り出されて地面に叩き付けられる。
消える意識の中、馬車が走り去っていく音を聞いた。
●
蒸気工場都市ジェオルジの商業区に佇む珈琲サロンとぱぁずは、前の店長が店を始めたときから懇意にしている取引先が幾つかある。
店の家具を頼んでいるところだとか、カップや皿を頼んでいるところ。
そして、コーヒー豆を仕入れている店もある。
前の店長が農業都市ジェオルジで気に入った豆を、偶然にも取り扱っている店があり、そことも長い長い付き合いだ。
前の店長が隠居して以来店を任されている孫のユリアも、その店には幼い頃から何度か通ったことがある。缶や袋で量り売りされるコーヒー、店で焙煎を済ませた物から生の物まで。
祖父と店員のローレンツに手を引かれてそれを眺めることはとても楽しかった。
「あら、これ最後だったみたい。ロロさん、コーヒー豆の注文に行ってくるから、後お願いね」
今日もユリアは黒いドレスに淡い色のエプロンを着けて給仕をこなし、時間が空くとローレンツにそう言い残して出て行った。店にはローレンツと常連客が数人残されていた。
「……ユリアちゃん、最近はよく笑うようになったんじゃないのかい?」
「ふん」
ユリアの幼い頃を知っている壮年の客に話し掛けられて、ローレンツは洗ったカップを拭いながら鼻を鳴らした。
●
ユリアが店に着くと店内は暗く、入り口には閉店の札が下げられていた。
そういえば、とユリアが呟く。
「仕入れに行くと言っていたかしら?」
店の前で佇んでいると、通り掛かった中年の女性が足を止めた。
「あら、まだ開いてないのかい。昨日には戻るって聞いていたんだけどね……やっぱりあの馬車、ここのお店だったのかしら」
「馬車?」
女性はユリアを見ると頷いて緩く手招いた。
彼女は近くで服飾店を営んでいる者だと言って道の先を示した。
この辺りは、彼女の店やこのコーヒー豆を始めジェオルジの産物を扱う店、他にも色々とこぢんまりとした店が軒を連ねている。
この通りを抜けた先で、昨日の朝方に事故があったらしいと女性は言った。
馬車がひっくり返り、引いていた馬が死んでいたという。見た者も聞いた者も暴れる馬車に酷く驚いていたらしい。
「聞いた話だけど、積荷がコーヒー豆だったって言うからさぁ……それに、馭者は死体すら見付かってないらしくてさ」
怖い事故だと言って女性は去って行った。
ユリアは暫く迷ってから街道の方へと足を向けた。途中出会った警邏の男に呼び止められる。
「事故があったみたいなので……」
ユリアは自身が喫茶店を営んでいることと、店で出しているコーヒー豆の仕入れ先が突然の休業していたこと、聞いた話ではコーヒー豆を積んだ馬車の事故があったことを話し、
「お店の……いつも仕入れは店長さんが向かわれていたみたいなんですが……心配で」
街道の門、通られましたかと尋ねて首を傾がせる。
警邏の男はユリアにコーヒー店の店長の容姿を尋ねると、よく似た男の亡骸が街道で見付かったと伝えた。
「一昨日の夜、彼の馬車が通ったとは聞いていたけれど、確認した者が今日は体調を崩してしまって」
困った顔で肩を竦めてそう付け足すと、店に戻るというユリアを気をつけてと見送った。
ユリアはとぱぁずに戻り、聞いたことをローレンツに伝えた。
奥の広いテーブルには地図が広げられて、今までこの店で相談を受けた色んな人の、色んな悩みの行き先がピンで残されている。
ユリアはそこに黒いピンを1つ増やした。
「死体を残したまま一日以上が過ぎてしまって……雑魔が出てしまったから暫く街道を塞ぐみたい。あの道、そんなに危なかったかしら?」
指先でピンを撫でて、ユリアはぽつりと呟いた。
馬車が走っていた。
ジェオルジからフマーレへ向かう街道を急いでいた。
夜道だった。
馬車は1人乗りで運転手はフマーレに店を構えて、ジェオルジの食品を扱っている。
売り上げの一番はコーヒー豆だ。個人よりも、フマーレのいくつかの喫茶店が取引先となっており、纏めて大量に売れるからなかなかに効率が良い。
定期的に買っていく店もあるが、不定期に買いに来る店もある。
不定期に買いに来る店の1つが、以前来てから大分経っている。そろそろ来る頃だろう。
暗い道、吊したカンテラの細い明かりを頼りに馬車を急かして、そんなことを考えていた。
馬車の横に影が過ぎった。
暗い中、それはよく見えなかったが、馬車よりも速く走る人間のような形をした何かだった。
馬の嘶きが聞こえた。
人間とは似ても似つかない歪な声を聞いた。男とも女とも若くも老いているともつかない幾種類もの声を継ぎ接ぎした声だった。
黒い靄に視界を覆われ、激しい痛みを感じた体が放り出されて地面に叩き付けられる。
消える意識の中、馬車が走り去っていく音を聞いた。
●
蒸気工場都市ジェオルジの商業区に佇む珈琲サロンとぱぁずは、前の店長が店を始めたときから懇意にしている取引先が幾つかある。
店の家具を頼んでいるところだとか、カップや皿を頼んでいるところ。
そして、コーヒー豆を仕入れている店もある。
前の店長が農業都市ジェオルジで気に入った豆を、偶然にも取り扱っている店があり、そことも長い長い付き合いだ。
前の店長が隠居して以来店を任されている孫のユリアも、その店には幼い頃から何度か通ったことがある。缶や袋で量り売りされるコーヒー、店で焙煎を済ませた物から生の物まで。
祖父と店員のローレンツに手を引かれてそれを眺めることはとても楽しかった。
「あら、これ最後だったみたい。ロロさん、コーヒー豆の注文に行ってくるから、後お願いね」
今日もユリアは黒いドレスに淡い色のエプロンを着けて給仕をこなし、時間が空くとローレンツにそう言い残して出て行った。店にはローレンツと常連客が数人残されていた。
「……ユリアちゃん、最近はよく笑うようになったんじゃないのかい?」
「ふん」
ユリアの幼い頃を知っている壮年の客に話し掛けられて、ローレンツは洗ったカップを拭いながら鼻を鳴らした。
●
ユリアが店に着くと店内は暗く、入り口には閉店の札が下げられていた。
そういえば、とユリアが呟く。
「仕入れに行くと言っていたかしら?」
店の前で佇んでいると、通り掛かった中年の女性が足を止めた。
「あら、まだ開いてないのかい。昨日には戻るって聞いていたんだけどね……やっぱりあの馬車、ここのお店だったのかしら」
「馬車?」
女性はユリアを見ると頷いて緩く手招いた。
彼女は近くで服飾店を営んでいる者だと言って道の先を示した。
この辺りは、彼女の店やこのコーヒー豆を始めジェオルジの産物を扱う店、他にも色々とこぢんまりとした店が軒を連ねている。
この通りを抜けた先で、昨日の朝方に事故があったらしいと女性は言った。
馬車がひっくり返り、引いていた馬が死んでいたという。見た者も聞いた者も暴れる馬車に酷く驚いていたらしい。
「聞いた話だけど、積荷がコーヒー豆だったって言うからさぁ……それに、馭者は死体すら見付かってないらしくてさ」
怖い事故だと言って女性は去って行った。
ユリアは暫く迷ってから街道の方へと足を向けた。途中出会った警邏の男に呼び止められる。
「事故があったみたいなので……」
ユリアは自身が喫茶店を営んでいることと、店で出しているコーヒー豆の仕入れ先が突然の休業していたこと、聞いた話ではコーヒー豆を積んだ馬車の事故があったことを話し、
「お店の……いつも仕入れは店長さんが向かわれていたみたいなんですが……心配で」
街道の門、通られましたかと尋ねて首を傾がせる。
警邏の男はユリアにコーヒー店の店長の容姿を尋ねると、よく似た男の亡骸が街道で見付かったと伝えた。
「一昨日の夜、彼の馬車が通ったとは聞いていたけれど、確認した者が今日は体調を崩してしまって」
困った顔で肩を竦めてそう付け足すと、店に戻るというユリアを気をつけてと見送った。
ユリアはとぱぁずに戻り、聞いたことをローレンツに伝えた。
奥の広いテーブルには地図が広げられて、今までこの店で相談を受けた色んな人の、色んな悩みの行き先がピンで残されている。
ユリアはそこに黒いピンを1つ増やした。
「死体を残したまま一日以上が過ぎてしまって……雑魔が出てしまったから暫く街道を塞ぐみたい。あの道、そんなに危なかったかしら?」
指先でピンを撫でて、ユリアはぽつりと呟いた。
リプレイ本文
●
手綱を巧みに、馬車が奔る。蹄が土を蹴り、車輪が轍に掛かってがたごとと鳴る。
行く先に幾つかの影を、認めた。
「さて、1匹見たら8匹いると思えと言うが、今回はどれくらい潜んでいるんだろうな」
馬車の脇を駆るロニ・カルディス(ka0551)が目を細め、それを数える。
その影が明瞭になり、数を審らかにすると冬樹 文太(ka0124)は手綱を強く引き馬車を止める。
「……荒らされん内に、早う回収したらな。……なあ?」
馭者席から猟銃を担ぎ、抑えた声で告げながら照門を覗き、照星をゴブリンの頭に据えた。
響き渡る銃声一つ、それを合図にハンター達が馬を駆り飛び出していく。
ロニとブリジット・B・バートランド(ka1800)は前へ、リカルド=イージス=バルデラマ(ka0356)はそのやや後ろ。死体に集るゴブリンは7匹。
ロニが槍を掲げ、嘶く馬を操りながらその中心へ飛び込んでいく。手綱を引けば、前足は中空を掻いて死体の脇で土埃を上げる。物言わぬそれを見下ろすと、ロザリオを握り締めた。
目を逸らすのも、黙祷を捧げるのも、敵を退けてからだ。
「まずは、散って貰おうか」
祈る、瞬間。集まっていた雑魔を光が包む。
ロザリオを介してマテリアルを天を差す槍の穂先へ、集まる雑魔を圧する光の波が放たれた。
灼く程に白い光の衝撃に雑魔が膝を崩して藻掻く。
光に紛れて放たれたブリジットの一撃と、光から這い出す1匹へリカルドの白刃。
ファンシーなドレスの甘く膨れた裾を揺らしながら、ブリジットは翳したデバイスを収め、鱗模様の鞭を撓らせる。
ひゅん、と空気を裂く音。黒緑の革が波打って踊る。
「……たとえ遺体でも、必ず取り戻します」
馬の横腹を促し雑魔との間に割り込んでいく。大振りに払う鞭に後退する雑魔が濁った音で騒ぐ。
そのざわめきには耳を貸さない。例え遺体であろうと、帰ることが叶わぬ場合もあるのだから。
彼は必ず取り戻す。そう、赤い双眸に闘志を揺らめかせ、細い腕で操る鞭が敵を薙ぐ。
リカルドが左右の手に握る刀身を払い、纏った黒い滴りを払った。
その膝下、胴を割られて伏した雑魔が歪な爪で地面を掻き毟りながら土塊に還る。
しなやかに伸ばす切っ先が次の敵を狙いながら、微かな風に揺蕩うように髪が揺れる。
マテリアルの熱を巡らせ、白に染めた髪を掻き上げて、消えゆく屍を見下ろす右の目が冷静な青をなくしていく。
光に煽られて体勢を崩した雑魔が6匹残り、内の1匹は片腕を飛ばされている。
ゴブリン達は、闖入者を警戒してか下がろうとしながら、濁った声で通じ合う。
ハンター達へじっとりと淀む目を向けながら退く気を見せない雑魔が2匹、鞭を構えたブリジットを狙い得物を投じた。
最初の1つを鞭で弾き、もう1つは首を庇った腕を裂く。
「……っ、これくらいで、離しません」
痛みに震えた指に力を込めて鞭を握り直し、その雑魔へ向けて撓らせる。馬上から振り下ろす衝撃に打たれて破れる腹から黒い濁りを零してふらつく。同じ場所から散った黒い雫は風に紛れて霧散した。
リカルドに刃を向けた雑魔はその切っ先を、彼の操る刀にいなされて封じられる。
正面から至近へ迫った身は優雅な足でかわされながら、気付けば死角を取られて、上段からの構えで首を割られた。
リカルドは倒した2匹目の敵を一瞥し、前へ進む仲間の後方へ、鞭を槍を抜ける敵を警戒しながら死体を庇う。
「悪いな譲ってはやりたいんだが、仕事なんだ。それに……」
土塊に紛れ、風に流されて、雑魔の屍はリカルドの視界に留まること無く、その形を無くしていく。
その屍を意に介す雑魔はない。
「それに、人間は死んでも仲間は見捨てないんだ」
金属の触れる高い音が響いた。
雑魔の向けた刃がロニの盾に阻まれる。隻腕の雑魔はその刃を届かせることも無く切っ先で空を切った。
「――残りは、何匹だ」
手負いの雑魔の胸を穂先で真っ直ぐに刺し貫くと、1匹を盾に引き付けながら茂みへと視線を走らせた。
ざわめく気配。
表へ出ていたものは既に倒した物も含めて片手と少しだが、こちらへ飛び込まずに茂みの方へと声を上げる者がいる。
恐らく、まだ数匹は潜んでいる。
槍を払って構え直し、次へと向けながら馬を進める。常歩で詰めながら地面に横たわる死体と雑魔との空間を保つ。
●
馬を飛び降りてコーネリア・デュラン(ka0504)は白水 燈夜(ka0236)と馬車の荷台から布を下ろし、それを運ぶ先へ目を向ける。
出立前に2人とブリジットで両端を棒に折って簡単な担架を作った。
物干しに使われていた竿を2本、三つ折りにした毛布で挟んだ。
「――布に挟むだけです。上に寝かせれば落ちてきませんから」
完成を見届けたブリジットが馬に跨がると、2人もそれを荷台に積み込んで支度を進めた。
「なんだか、物騒な話ですね。襲ってこないとも限りませんし……」
「物騒なのは嫌だね。うん。手早く積んで早く帰りたい。……ん、良さそう。乗せよう」
「はい、大丈夫そうです。ブリジットさんもありがとうございます」
「野晒しはいけないもんね……何事も無く、回収出来ると良いけど」
そうだといい、無事に回収して帰れれば良い。
本人か確認したいと言ってブリジットとコーネリアが頼んだ写真は、それが飾られた店の鍵が間に合わず。代わりに、顔を見れば分かると言ったユリアが街道の入り口でハンター達の帰り待っていた。
数メートル先、四肢を、首を、有らぬ方へと曲げた死体を見詰めた金の瞳、軽く伏せると見送りに来たユリアの不安を押し殺して笑む顔が過ぎる。
「……十分注意しましょう。何事も無くは、いかないみたいです」
ローブに隠した飛び道具を摘まむ。その腕から白水が担架を抱え取った。
「運ぶ。状況を確認したら、急いで乗せて、すぐ戻ろう」
冬樹が2人を見て急かす様に銃口を揺らす。仲間が抑えて、増援の声がまだ届いていない今、こちらへ迫る気配は無い。
白水が先行して走り、コーネリアが警戒を強めてその後に続く。
「急ごう」
「はいっ」
空を睨んだ土色の顔、赤黒く染まって固まったジャケットを着た拉げた胴と、骨の覗く破れたズボン。
リカルドが2人を庇う様に位置を変え、刀を構え直して雑魔を睨む。
「ここは俺が防ぐ」
だから、そちらに集中しろ、と。払う刀で空を薙ぐ。
置いて広げた担架に頭を乗せ、足を乗せる。硬直した体が収まる様に調整し、白水は死体の顔に手を乗せて瞼を伏せた。
「馬車から落ちた、放り出された感じ、かな……」
ばさりと白衣をその上に被せて呟くと、戦況を見遣る。
得物を握りながら担架の棒を掴んだコーネリアも、馬車の位置を確かめてもう片方を白水が掴むのを待った。
白水が進もうと掛けた声に重なって、冬樹の声が耳を劈く。
「9時の方向、増援あり! ――2匹!」
馬車と2人の間で茂みが揺れる、冬樹が目を眇めてその影を数え、銃声を立てて威嚇する。
馬車からでは銃弾が届かないが、その影が馬車を狙う気配も無い。
「……わらわら沸いてきやがって」
うざいわ、と舌打ちをしてまた1発。撃ち込む度に肌は白く青ざめて、剥いた犬歯が鋭く尖る。
雑魔の濁った叫び声はまだ止まない。
ロニは盾に刃を受けながらその声を上げる雑魔へ槍を向ける。
「手勢は増えたようだが、どうかな」
喉を掻かれて余計に濁った雑魔の声が茂みへ響く。風に揺れる音に足音が混じり、その迫る気配を近く感じる。
ブリジットに飛び掛かり、鞭の隙間を縫って背後で担架を掴んだ2人へ迫る雑魔の刃を、リカルドが右の白刃で弾く。きいんと澄んだ鋼の音と、柄の装置の駆動音が響いた。
「1匹逃しましたか……ですが、もう1匹まで近寄らせなど……させません」
ブリジットの振り抜く鞭のしなやかな革の軌跡、優美な弧を描いて雑魔の体を抉る。傷を増やして呻いたそれは、地面に膝を折って蹲り、唸る。
「言っただろう、仕事なんだ。それに……」
布の擦れる音、息を合わせて走り出した足音。
白水とコーネリアが担架を抱えて馬車へ走る。
迎えるように冬樹の立てる銃声が雑魔の進みを妨げる。
ちゃんと家族のもとに返してやるさ。背後を走り抜けた死体に、そう心中で告げる。
差し伸べた刀身が吸い込まれるように雑魔を断って、黒い飛沫を上げさせた。
「走りい、こっちや――次は、どいつだ!」
たん、と銃声を高く、冬樹が馬車へ2人を迎える。
姿を覗かせた2匹の雑魔から2人を庇うように割り込んで、荷台へと急がせる。
白衣を被せられた担架が視界を過ぎって走って行った。
「……遅うなった。堪忍な。――っ、っつぁ……。どきぃや」
荷台から2人が戻る隙に投じられた得物と。飛び込んできた1匹が頬と脇腹を割く。
痛むが、銃を撃つのに差し障りはない。迫った方へと拳銃に持ち替えて、引鉄に指を掛ける。
「正面か……走る準備は、出来ているが……」
ロニの眼前、抑えていた雑魔の先正対する茂みから現れた2匹。地面に藻掻いていた雑魔に槍を立てると、黒く濡れた穂先をそちらへ向ける。
鞭を受けて這いつくばっていた雑魔の首を刎ねて留めを刺す。
リカルドも周囲を確認し、切っ先を滑らせる。
ブリジットがデバイスに手を掛け、新たに現れた敵を見据えた。
「何匹来ようと、彼は、必ず……!」
放つ光の先を睨む。脳裡に閃く、切なひとの思い出、その愛おしい横顔。
赤い瞳は凜と光を宿し、迫る雑魔から目を逸らさない。
●
「おまたせしましたっ!」
荷台へ担架を引き上げたコーネリアが、振り返り様に手裏剣を投じる。
「よっと……うん、まとめて眠らせた方が、早そうかな」
白水が魔法書を開き、水の礫を叩き付ける。魔法書を捲るが、今それを唱えては巻き込む範囲に仲間が多い。
追いすがる数匹の雑魔を、盾を構えたロニと鞭を薙いだブリジットが阻み、リカルドが道を阻む2匹へ刃を落とす。
雑魔の動きが止まると白水とコーネリアが馬に戻り、冬樹も傷へマテリアルを集中させ呼吸を整えて馭者席に座った。
前方と左右を確かめて手綱を弾ませる。
「……っし、撤退するで!」
馬車を走らせ馬を急かす。後ろにはまだじっとりと雑魔の気配が張り付いている。
追ってきているようだ。
ロニとブリジットが殿に、その1つ前に白水、コーネリアとリカルドは両側で馬車を守る。
「しつこいですね……」
ブリジットが馬上でデバイスを操作し、雑魔へ向ける。揺れを構わすに放つ光は雑魔の脇を掠め、足下を射抜き、その進行を妨げるが直ぐに立て直して動き出す。
「これだけ離れたら……うん、平気」
白水が魔法書を構え、追ってくる雑魔の中心を指して狙う。
眠れ、と念じて浮かべる霧が包み込み、その歩みを止めた。その霧から逃れた1匹が、濁った声を立てて尚も追ってこようとする。その声で目覚める雑魔が、霧に抗いきれずに藻掻いている。
「行ってくれ。怯ませてくる」
ロニが手綱を引き絞って馬を反転させ、構えた盾をマテリアルを込めて叩き付けた。
「――悪いがお別れの時間だ。餞別代りに貰ってくれ」
目を覚ました雑魔へも一撃、繰り出される刃の勢いを利用して叩き付け、昏倒に到らせる。
馬車は進んでおり、ロニを待つように白水とブリジットが間隔を保って走っていた。
再度馬を反転させて馬車を追う。
コーネリアとリカルドが3人を振り返る。馬車も無事らしい。
後方の気配も遠のいて、冬樹も馬の歩みを緩めていった。
「何にせよ、回収出来てほんまに、良かったわ……」
殿の無事を尋ねながら呟いた。遅くなってしまったけれど、もっと早く、生きている内に。溜息を深呼吸に変えて手綱を揺らす。
「コーヒーの問屋だったか……最近は飲んでないな」
リカルドが荷台を一瞥し、冬樹も飲みたかったと頷いた。
「着いたら、傷だけでも整えてあげましょう」
雑魔の足止めに掛かり切りになってしまったが、酷い様子だったことは覚えている。
ブリジットは馬を荷台に寄せて、白衣に浮かぶ凹凸を見詰めた。
「何があったのか、分かるといいのですが……」
「難しそうだけども、襲われたみたい……だから、何かの手がかりはあるかも」
見詰めて触れたコーネリアと白水が頷く。荷台から先へと視線を移した。
フマーレまではもう少し。
●
到着するとユリアと店員が待っていた。店員は店から持ち出した写真を手にしている。
ハンター達の到着を知ると、街道付近に詰めていた警邏の男が集まってくる。
口々に何かを言っていたが、店長を確認しようとする店員とユリアを遮って白衣を剥がし、直ぐに被せた。
街中で事故を起こした馬車が彼の物だったこと、馬車を確認した者とは未だに連絡が付かないこと。
「恐らく、彼を殺して馬車を奪った何ものかがフマーレに進入したのでは無いかと考えている。彼の怪我も……その」
言い淀んだ男の後を継いで白水が呟いた。
「地面に強く打った跡があったり、その衝撃で折れたように見える」
男が頷き、そして、内密に、と言わんばかりの視線を寄越す。
「――では、彼を襲った者は……」
ブリジットが咄嗟に尋ねたが男は眉根を寄せ首を横に揺らした。彼の知るところでは無いらしい。
「家族も、亡くなっていたり、すぐに連絡の付かない方ばかりで……葬儀は、一先ずこちらで行うことになりそうだ」
男が店員の手の写真に触れる。中心の店長らしい男を指しその回りに写る人々を見詰めた。
リカルドがその指を眺める。リカルドの視線を知った男が一つ頷く。
「いずれ、知らせは届くだろう。早ければ週の内に」
ロニも安堵の息を吐いた。どうやら、家には帰れるようだ。
その写真が目に入ったコーネリアがじっと覗き込んだ。
引き攣り強張っていた顔は似ても似つかないが、白水が瞼を伏せた安らかな顔は微かにその面影を感じる。
話し終えた男が人を増やして店員を連れて店長の死体を運んでいく。
残されたハンター達も帰途に就いた。
「よう知らんかったけど」
冬樹が呟く。
「一杯位、勧めの豆でも紹介してもらいたかったなあ」
肩を竦めて眉を垂れて。苦い顔で笑うと、黒い袖で目を拭って振り返るユリアが、とても美味しかったんですよ、と自慢げに、睫まで濡らした顔で答えた。
手綱を巧みに、馬車が奔る。蹄が土を蹴り、車輪が轍に掛かってがたごとと鳴る。
行く先に幾つかの影を、認めた。
「さて、1匹見たら8匹いると思えと言うが、今回はどれくらい潜んでいるんだろうな」
馬車の脇を駆るロニ・カルディス(ka0551)が目を細め、それを数える。
その影が明瞭になり、数を審らかにすると冬樹 文太(ka0124)は手綱を強く引き馬車を止める。
「……荒らされん内に、早う回収したらな。……なあ?」
馭者席から猟銃を担ぎ、抑えた声で告げながら照門を覗き、照星をゴブリンの頭に据えた。
響き渡る銃声一つ、それを合図にハンター達が馬を駆り飛び出していく。
ロニとブリジット・B・バートランド(ka1800)は前へ、リカルド=イージス=バルデラマ(ka0356)はそのやや後ろ。死体に集るゴブリンは7匹。
ロニが槍を掲げ、嘶く馬を操りながらその中心へ飛び込んでいく。手綱を引けば、前足は中空を掻いて死体の脇で土埃を上げる。物言わぬそれを見下ろすと、ロザリオを握り締めた。
目を逸らすのも、黙祷を捧げるのも、敵を退けてからだ。
「まずは、散って貰おうか」
祈る、瞬間。集まっていた雑魔を光が包む。
ロザリオを介してマテリアルを天を差す槍の穂先へ、集まる雑魔を圧する光の波が放たれた。
灼く程に白い光の衝撃に雑魔が膝を崩して藻掻く。
光に紛れて放たれたブリジットの一撃と、光から這い出す1匹へリカルドの白刃。
ファンシーなドレスの甘く膨れた裾を揺らしながら、ブリジットは翳したデバイスを収め、鱗模様の鞭を撓らせる。
ひゅん、と空気を裂く音。黒緑の革が波打って踊る。
「……たとえ遺体でも、必ず取り戻します」
馬の横腹を促し雑魔との間に割り込んでいく。大振りに払う鞭に後退する雑魔が濁った音で騒ぐ。
そのざわめきには耳を貸さない。例え遺体であろうと、帰ることが叶わぬ場合もあるのだから。
彼は必ず取り戻す。そう、赤い双眸に闘志を揺らめかせ、細い腕で操る鞭が敵を薙ぐ。
リカルドが左右の手に握る刀身を払い、纏った黒い滴りを払った。
その膝下、胴を割られて伏した雑魔が歪な爪で地面を掻き毟りながら土塊に還る。
しなやかに伸ばす切っ先が次の敵を狙いながら、微かな風に揺蕩うように髪が揺れる。
マテリアルの熱を巡らせ、白に染めた髪を掻き上げて、消えゆく屍を見下ろす右の目が冷静な青をなくしていく。
光に煽られて体勢を崩した雑魔が6匹残り、内の1匹は片腕を飛ばされている。
ゴブリン達は、闖入者を警戒してか下がろうとしながら、濁った声で通じ合う。
ハンター達へじっとりと淀む目を向けながら退く気を見せない雑魔が2匹、鞭を構えたブリジットを狙い得物を投じた。
最初の1つを鞭で弾き、もう1つは首を庇った腕を裂く。
「……っ、これくらいで、離しません」
痛みに震えた指に力を込めて鞭を握り直し、その雑魔へ向けて撓らせる。馬上から振り下ろす衝撃に打たれて破れる腹から黒い濁りを零してふらつく。同じ場所から散った黒い雫は風に紛れて霧散した。
リカルドに刃を向けた雑魔はその切っ先を、彼の操る刀にいなされて封じられる。
正面から至近へ迫った身は優雅な足でかわされながら、気付けば死角を取られて、上段からの構えで首を割られた。
リカルドは倒した2匹目の敵を一瞥し、前へ進む仲間の後方へ、鞭を槍を抜ける敵を警戒しながら死体を庇う。
「悪いな譲ってはやりたいんだが、仕事なんだ。それに……」
土塊に紛れ、風に流されて、雑魔の屍はリカルドの視界に留まること無く、その形を無くしていく。
その屍を意に介す雑魔はない。
「それに、人間は死んでも仲間は見捨てないんだ」
金属の触れる高い音が響いた。
雑魔の向けた刃がロニの盾に阻まれる。隻腕の雑魔はその刃を届かせることも無く切っ先で空を切った。
「――残りは、何匹だ」
手負いの雑魔の胸を穂先で真っ直ぐに刺し貫くと、1匹を盾に引き付けながら茂みへと視線を走らせた。
ざわめく気配。
表へ出ていたものは既に倒した物も含めて片手と少しだが、こちらへ飛び込まずに茂みの方へと声を上げる者がいる。
恐らく、まだ数匹は潜んでいる。
槍を払って構え直し、次へと向けながら馬を進める。常歩で詰めながら地面に横たわる死体と雑魔との空間を保つ。
●
馬を飛び降りてコーネリア・デュラン(ka0504)は白水 燈夜(ka0236)と馬車の荷台から布を下ろし、それを運ぶ先へ目を向ける。
出立前に2人とブリジットで両端を棒に折って簡単な担架を作った。
物干しに使われていた竿を2本、三つ折りにした毛布で挟んだ。
「――布に挟むだけです。上に寝かせれば落ちてきませんから」
完成を見届けたブリジットが馬に跨がると、2人もそれを荷台に積み込んで支度を進めた。
「なんだか、物騒な話ですね。襲ってこないとも限りませんし……」
「物騒なのは嫌だね。うん。手早く積んで早く帰りたい。……ん、良さそう。乗せよう」
「はい、大丈夫そうです。ブリジットさんもありがとうございます」
「野晒しはいけないもんね……何事も無く、回収出来ると良いけど」
そうだといい、無事に回収して帰れれば良い。
本人か確認したいと言ってブリジットとコーネリアが頼んだ写真は、それが飾られた店の鍵が間に合わず。代わりに、顔を見れば分かると言ったユリアが街道の入り口でハンター達の帰り待っていた。
数メートル先、四肢を、首を、有らぬ方へと曲げた死体を見詰めた金の瞳、軽く伏せると見送りに来たユリアの不安を押し殺して笑む顔が過ぎる。
「……十分注意しましょう。何事も無くは、いかないみたいです」
ローブに隠した飛び道具を摘まむ。その腕から白水が担架を抱え取った。
「運ぶ。状況を確認したら、急いで乗せて、すぐ戻ろう」
冬樹が2人を見て急かす様に銃口を揺らす。仲間が抑えて、増援の声がまだ届いていない今、こちらへ迫る気配は無い。
白水が先行して走り、コーネリアが警戒を強めてその後に続く。
「急ごう」
「はいっ」
空を睨んだ土色の顔、赤黒く染まって固まったジャケットを着た拉げた胴と、骨の覗く破れたズボン。
リカルドが2人を庇う様に位置を変え、刀を構え直して雑魔を睨む。
「ここは俺が防ぐ」
だから、そちらに集中しろ、と。払う刀で空を薙ぐ。
置いて広げた担架に頭を乗せ、足を乗せる。硬直した体が収まる様に調整し、白水は死体の顔に手を乗せて瞼を伏せた。
「馬車から落ちた、放り出された感じ、かな……」
ばさりと白衣をその上に被せて呟くと、戦況を見遣る。
得物を握りながら担架の棒を掴んだコーネリアも、馬車の位置を確かめてもう片方を白水が掴むのを待った。
白水が進もうと掛けた声に重なって、冬樹の声が耳を劈く。
「9時の方向、増援あり! ――2匹!」
馬車と2人の間で茂みが揺れる、冬樹が目を眇めてその影を数え、銃声を立てて威嚇する。
馬車からでは銃弾が届かないが、その影が馬車を狙う気配も無い。
「……わらわら沸いてきやがって」
うざいわ、と舌打ちをしてまた1発。撃ち込む度に肌は白く青ざめて、剥いた犬歯が鋭く尖る。
雑魔の濁った叫び声はまだ止まない。
ロニは盾に刃を受けながらその声を上げる雑魔へ槍を向ける。
「手勢は増えたようだが、どうかな」
喉を掻かれて余計に濁った雑魔の声が茂みへ響く。風に揺れる音に足音が混じり、その迫る気配を近く感じる。
ブリジットに飛び掛かり、鞭の隙間を縫って背後で担架を掴んだ2人へ迫る雑魔の刃を、リカルドが右の白刃で弾く。きいんと澄んだ鋼の音と、柄の装置の駆動音が響いた。
「1匹逃しましたか……ですが、もう1匹まで近寄らせなど……させません」
ブリジットの振り抜く鞭のしなやかな革の軌跡、優美な弧を描いて雑魔の体を抉る。傷を増やして呻いたそれは、地面に膝を折って蹲り、唸る。
「言っただろう、仕事なんだ。それに……」
布の擦れる音、息を合わせて走り出した足音。
白水とコーネリアが担架を抱えて馬車へ走る。
迎えるように冬樹の立てる銃声が雑魔の進みを妨げる。
ちゃんと家族のもとに返してやるさ。背後を走り抜けた死体に、そう心中で告げる。
差し伸べた刀身が吸い込まれるように雑魔を断って、黒い飛沫を上げさせた。
「走りい、こっちや――次は、どいつだ!」
たん、と銃声を高く、冬樹が馬車へ2人を迎える。
姿を覗かせた2匹の雑魔から2人を庇うように割り込んで、荷台へと急がせる。
白衣を被せられた担架が視界を過ぎって走って行った。
「……遅うなった。堪忍な。――っ、っつぁ……。どきぃや」
荷台から2人が戻る隙に投じられた得物と。飛び込んできた1匹が頬と脇腹を割く。
痛むが、銃を撃つのに差し障りはない。迫った方へと拳銃に持ち替えて、引鉄に指を掛ける。
「正面か……走る準備は、出来ているが……」
ロニの眼前、抑えていた雑魔の先正対する茂みから現れた2匹。地面に藻掻いていた雑魔に槍を立てると、黒く濡れた穂先をそちらへ向ける。
鞭を受けて這いつくばっていた雑魔の首を刎ねて留めを刺す。
リカルドも周囲を確認し、切っ先を滑らせる。
ブリジットがデバイスに手を掛け、新たに現れた敵を見据えた。
「何匹来ようと、彼は、必ず……!」
放つ光の先を睨む。脳裡に閃く、切なひとの思い出、その愛おしい横顔。
赤い瞳は凜と光を宿し、迫る雑魔から目を逸らさない。
●
「おまたせしましたっ!」
荷台へ担架を引き上げたコーネリアが、振り返り様に手裏剣を投じる。
「よっと……うん、まとめて眠らせた方が、早そうかな」
白水が魔法書を開き、水の礫を叩き付ける。魔法書を捲るが、今それを唱えては巻き込む範囲に仲間が多い。
追いすがる数匹の雑魔を、盾を構えたロニと鞭を薙いだブリジットが阻み、リカルドが道を阻む2匹へ刃を落とす。
雑魔の動きが止まると白水とコーネリアが馬に戻り、冬樹も傷へマテリアルを集中させ呼吸を整えて馭者席に座った。
前方と左右を確かめて手綱を弾ませる。
「……っし、撤退するで!」
馬車を走らせ馬を急かす。後ろにはまだじっとりと雑魔の気配が張り付いている。
追ってきているようだ。
ロニとブリジットが殿に、その1つ前に白水、コーネリアとリカルドは両側で馬車を守る。
「しつこいですね……」
ブリジットが馬上でデバイスを操作し、雑魔へ向ける。揺れを構わすに放つ光は雑魔の脇を掠め、足下を射抜き、その進行を妨げるが直ぐに立て直して動き出す。
「これだけ離れたら……うん、平気」
白水が魔法書を構え、追ってくる雑魔の中心を指して狙う。
眠れ、と念じて浮かべる霧が包み込み、その歩みを止めた。その霧から逃れた1匹が、濁った声を立てて尚も追ってこようとする。その声で目覚める雑魔が、霧に抗いきれずに藻掻いている。
「行ってくれ。怯ませてくる」
ロニが手綱を引き絞って馬を反転させ、構えた盾をマテリアルを込めて叩き付けた。
「――悪いがお別れの時間だ。餞別代りに貰ってくれ」
目を覚ました雑魔へも一撃、繰り出される刃の勢いを利用して叩き付け、昏倒に到らせる。
馬車は進んでおり、ロニを待つように白水とブリジットが間隔を保って走っていた。
再度馬を反転させて馬車を追う。
コーネリアとリカルドが3人を振り返る。馬車も無事らしい。
後方の気配も遠のいて、冬樹も馬の歩みを緩めていった。
「何にせよ、回収出来てほんまに、良かったわ……」
殿の無事を尋ねながら呟いた。遅くなってしまったけれど、もっと早く、生きている内に。溜息を深呼吸に変えて手綱を揺らす。
「コーヒーの問屋だったか……最近は飲んでないな」
リカルドが荷台を一瞥し、冬樹も飲みたかったと頷いた。
「着いたら、傷だけでも整えてあげましょう」
雑魔の足止めに掛かり切りになってしまったが、酷い様子だったことは覚えている。
ブリジットは馬を荷台に寄せて、白衣に浮かぶ凹凸を見詰めた。
「何があったのか、分かるといいのですが……」
「難しそうだけども、襲われたみたい……だから、何かの手がかりはあるかも」
見詰めて触れたコーネリアと白水が頷く。荷台から先へと視線を移した。
フマーレまではもう少し。
●
到着するとユリアと店員が待っていた。店員は店から持ち出した写真を手にしている。
ハンター達の到着を知ると、街道付近に詰めていた警邏の男が集まってくる。
口々に何かを言っていたが、店長を確認しようとする店員とユリアを遮って白衣を剥がし、直ぐに被せた。
街中で事故を起こした馬車が彼の物だったこと、馬車を確認した者とは未だに連絡が付かないこと。
「恐らく、彼を殺して馬車を奪った何ものかがフマーレに進入したのでは無いかと考えている。彼の怪我も……その」
言い淀んだ男の後を継いで白水が呟いた。
「地面に強く打った跡があったり、その衝撃で折れたように見える」
男が頷き、そして、内密に、と言わんばかりの視線を寄越す。
「――では、彼を襲った者は……」
ブリジットが咄嗟に尋ねたが男は眉根を寄せ首を横に揺らした。彼の知るところでは無いらしい。
「家族も、亡くなっていたり、すぐに連絡の付かない方ばかりで……葬儀は、一先ずこちらで行うことになりそうだ」
男が店員の手の写真に触れる。中心の店長らしい男を指しその回りに写る人々を見詰めた。
リカルドがその指を眺める。リカルドの視線を知った男が一つ頷く。
「いずれ、知らせは届くだろう。早ければ週の内に」
ロニも安堵の息を吐いた。どうやら、家には帰れるようだ。
その写真が目に入ったコーネリアがじっと覗き込んだ。
引き攣り強張っていた顔は似ても似つかないが、白水が瞼を伏せた安らかな顔は微かにその面影を感じる。
話し終えた男が人を増やして店員を連れて店長の死体を運んでいく。
残されたハンター達も帰途に就いた。
「よう知らんかったけど」
冬樹が呟く。
「一杯位、勧めの豆でも紹介してもらいたかったなあ」
肩を竦めて眉を垂れて。苦い顔で笑うと、黒い袖で目を拭って振り返るユリアが、とても美味しかったんですよ、と自慢げに、睫まで濡らした顔で答えた。
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遺体回収ミッション ブリジット・B・バートランド(ka1800) 人間(リアルブルー)|26才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/05/08 16:38:06 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/06 17:31:54 |