ゲスト
(ka0000)
空と未来と僕の詩
マスター:Urodora

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 5~7人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/11 22:00
- 完成日
- 2015/05/19 05:09
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
空はなぜあるのだろう
といかけたことがある
答えがほしいから手をのばし
ここにいるよとつぶやいた
なのに答えはない だからすねた
てのひらをかざし太陽の視線をふさぎ
ゆびのすきまからそそぐ光をまぶしいといった
空のむこうには何があるのだろう
といかけなおす
永遠がないなんて知っている
退屈な日常が続くのもわかっている
けれどその答えがぜんぶ正しいのなら
もしそれでいいのなら
ここにいてもいなくても同じだから
広い青空の下 夢をみたいと願う
ちっぽけな自由がほしい
羽ばたく翼がなくてもそれでもいい
いつかきっと飛べる 届く
そう感じたい
●空と
長い、そうすごく長い夏休みのようだと思った。
終わらない夏休み、そういったほうが正しいかもしれない。
僕は今日ここにいて、明日もここにいて、明後日もたぶんこの場所にいる。
それでいいのか悪いのか、考えるのはもうやめてしまった。
天気は晴れ、雲が足早にすすんでいる。少し前まで雨が続いていたのに。
みずたまりにゆらめく青と空に在る青のちがいは何なのだろう。意味のない思考はぐるぐるまわる。
朝の光、鼻をくすぐるにおい、雨上がりの土の香り、たしかそのにおいが好き。誰かが言っていたのを思い出す。
一瞬、記憶のかたすみに浮かんだ姿、はっきりと誰なのかはわからない。
「おはようカケル君」
肩におかれた手に声にふりかえると、どこか無邪気そうな笑顔があった。
僕の前にいるのは偶然知り合った男の人がいる。若いのか歳をとっているのかよくわからない、たぶん三十歳くらいだと思うのだけど、つかみどころがないというのきっとこういう人のことをいうのかもしれない。
「おはようございます。トリノさん」
「あいかわらず暗い表情ですね、そろそろ打ち解けてもいいのでは」
「がんばってみます」
「がんばるって、そうだ! ひとつ聞いていいでしょうか」
「たしか、あの女の子。智さんでしたよね」
トリノさんが言っている女の子は、この前ちょっとした偶然と事件があって出会った。
僕もお世話になっている村、ここにいるのは知っていたけれど、あれいらいまともに話をしていない。
彼女の目をみるとなぜか何も話せなくなる。だからそっけなく答えた。
「知りません」
「そうですか」
トリノさんはどこか残念そうだった。
「気になるんですか」
「まったく」
「うそだ」
トリノさんは頷いた。
「大人はすぐに嘘をつく生物です。違う、言葉を使う生物は嘘をつかないとやっていけないだけです」
「?」
「そんな不思議そうな顔をしなくても。カケル君は、誰でも何かを分かったから大人になった。そう思っていたりするのですか」
「ちがうんですか」
「そうでもあるけれど、そうでもない。大人として振る回うしかなくなっただけで、中身はたいして変わっていない、嘘をついている人も多いのです」
「でも……」
「納得できない、それなら私は誰かを愛した結果、子供という時間を息子に与えた。そして自分は大人になった。じゃだめでしょうか」
「もっと、わからないです」
「そうですか、まあ嘘つきの大人としては、君と彼女の間には何かある思うわけで」
「わかりません」
本当にわからない誰なのか知らない。
「けれど」
「しつこい! 僕は一人でだいじょうぶです。だから」
僕がそういうと、トリノさんはさびしそうな顔をした。
そんなことを言いたいわけじゃないのは、自分でも知っていた。けれど、口に出してしまうとほんとうのことのようなきがした。
トリノさんがいなくなったあと僕は空をあおぐ。
きれいだ。
僕の名前は駆。
いつかきっとあの大空だって駆けることができる。
そんなことくだらないことを思い浮かべたあと、ちょっとだけ楽しいかな。
そう思った。
●未来と
想いの中心にひっそりと残るさびついた軸がぎしぎしと音を立てるとき、何かが違うと感じる時がある。
過去に戻りたいわけではない、何も変っていないのに音はやまない。原因は何なのだろう。考えたところで答えは出ない。
無意味な質問をする暇は今、この場の誰にもなかった。
緊迫した空気がその場を包んでいるのだから。
「ゴブリンが襲ってくるだと!」
「報復というやつか、まったく最近おかしなことばかり起こるな」
分かりきったことを分かりきったように村人たちは言う。
「トリノはどうした」
「トリノは今いない。この前やって来た娘たちと息子をつれて、一緒に帝都に行っている」
「こんなときに」
疫病神め、カケルへ向けられた視線がそういっているようだった。
きっとこうなるのを予感していたのだろうか、出かける前にトリノと交わした会話をカケルは思い出した。
「カケル君には、剣が似合うと思います」
「……いやだといっても、おしつけるんでしょ」
「私は身勝手で利己的な人間なのです。何もないとは思いますが」
「僕は保険ですか?」
「信頼しているんですよ」
「うそつき」
「騙されてほしいですね、さて留守を頼みます。本当に危ない時はこれを使ってください、預けておきます」
トリノは金を手渡し、カケルの手を強く握り言った。
「私の想いも託しましたよ」
「真顔で見つめてよくいえますね」
「大人ですから」
進展しない話を嫌い、少年は外に出た。
結論が出ないのならハンターを頼んで守ってもらえばいいだけだ。
お前は何もする必要はない。
少年の内で聞きなれた声がそう言った。
「どうでもいい」
独り言が口から出ると、瞳にまぶしさを感じた。
見返すと太陽は無邪気に微笑んでいる。そのまぶしさにうつむいた少年の先には陽の意思を受けたもう一人の自分。
彼がいつも責めているような気がする。
守りたくないなら守らなければいい、どうせ他人だ。理由も理屈も感情さえ、言い訳にすればいい。
右手の親指から順に指折り、戻し。指折り戻した瞬間、ゆがんだ笑顔が少年に張りついた。
被った仮面は薄笑い、無造作に創られる感情を隠すための道具。惑う気持ちを否定することができず、無意識に取り出したのは傷ついたフレームとレンズ、どうやら眼鏡のようだ。
彼はいつのまにか眼鏡をかけている。
傷だらけのレンズから見える風景がゆがむ、向かう光は滲む七色、揺らいで薄く遠のいた。
こんな風に全てぼやけてしまえばいい、叶わない夢のほうがきれいだ。
そう自分に言い聞かせた時。
「できるのにやらないなんて、ずるいよ」
虚空に急に生まれ、自らの内を通り抜けた言葉になぜか懐かしさを感じた。
誰の言葉かは分からない。だが誰かに言われた言葉だったような気がする。
浅い過去と記憶は重なるが彼は首を振った。否定したほうが楽だったから。
けれど振り切った何かは追いつき、閉じた門を開こうと漠然とした想いを浮ばせる。
僕の欲しいものは何だろう――。
心に問うが答えはない、どうすることもできず迷う彼の前に。
剣がただ在った。
といかけたことがある
答えがほしいから手をのばし
ここにいるよとつぶやいた
なのに答えはない だからすねた
てのひらをかざし太陽の視線をふさぎ
ゆびのすきまからそそぐ光をまぶしいといった
空のむこうには何があるのだろう
といかけなおす
永遠がないなんて知っている
退屈な日常が続くのもわかっている
けれどその答えがぜんぶ正しいのなら
もしそれでいいのなら
ここにいてもいなくても同じだから
広い青空の下 夢をみたいと願う
ちっぽけな自由がほしい
羽ばたく翼がなくてもそれでもいい
いつかきっと飛べる 届く
そう感じたい
●空と
長い、そうすごく長い夏休みのようだと思った。
終わらない夏休み、そういったほうが正しいかもしれない。
僕は今日ここにいて、明日もここにいて、明後日もたぶんこの場所にいる。
それでいいのか悪いのか、考えるのはもうやめてしまった。
天気は晴れ、雲が足早にすすんでいる。少し前まで雨が続いていたのに。
みずたまりにゆらめく青と空に在る青のちがいは何なのだろう。意味のない思考はぐるぐるまわる。
朝の光、鼻をくすぐるにおい、雨上がりの土の香り、たしかそのにおいが好き。誰かが言っていたのを思い出す。
一瞬、記憶のかたすみに浮かんだ姿、はっきりと誰なのかはわからない。
「おはようカケル君」
肩におかれた手に声にふりかえると、どこか無邪気そうな笑顔があった。
僕の前にいるのは偶然知り合った男の人がいる。若いのか歳をとっているのかよくわからない、たぶん三十歳くらいだと思うのだけど、つかみどころがないというのきっとこういう人のことをいうのかもしれない。
「おはようございます。トリノさん」
「あいかわらず暗い表情ですね、そろそろ打ち解けてもいいのでは」
「がんばってみます」
「がんばるって、そうだ! ひとつ聞いていいでしょうか」
「たしか、あの女の子。智さんでしたよね」
トリノさんが言っている女の子は、この前ちょっとした偶然と事件があって出会った。
僕もお世話になっている村、ここにいるのは知っていたけれど、あれいらいまともに話をしていない。
彼女の目をみるとなぜか何も話せなくなる。だからそっけなく答えた。
「知りません」
「そうですか」
トリノさんはどこか残念そうだった。
「気になるんですか」
「まったく」
「うそだ」
トリノさんは頷いた。
「大人はすぐに嘘をつく生物です。違う、言葉を使う生物は嘘をつかないとやっていけないだけです」
「?」
「そんな不思議そうな顔をしなくても。カケル君は、誰でも何かを分かったから大人になった。そう思っていたりするのですか」
「ちがうんですか」
「そうでもあるけれど、そうでもない。大人として振る回うしかなくなっただけで、中身はたいして変わっていない、嘘をついている人も多いのです」
「でも……」
「納得できない、それなら私は誰かを愛した結果、子供という時間を息子に与えた。そして自分は大人になった。じゃだめでしょうか」
「もっと、わからないです」
「そうですか、まあ嘘つきの大人としては、君と彼女の間には何かある思うわけで」
「わかりません」
本当にわからない誰なのか知らない。
「けれど」
「しつこい! 僕は一人でだいじょうぶです。だから」
僕がそういうと、トリノさんはさびしそうな顔をした。
そんなことを言いたいわけじゃないのは、自分でも知っていた。けれど、口に出してしまうとほんとうのことのようなきがした。
トリノさんがいなくなったあと僕は空をあおぐ。
きれいだ。
僕の名前は駆。
いつかきっとあの大空だって駆けることができる。
そんなことくだらないことを思い浮かべたあと、ちょっとだけ楽しいかな。
そう思った。
●未来と
想いの中心にひっそりと残るさびついた軸がぎしぎしと音を立てるとき、何かが違うと感じる時がある。
過去に戻りたいわけではない、何も変っていないのに音はやまない。原因は何なのだろう。考えたところで答えは出ない。
無意味な質問をする暇は今、この場の誰にもなかった。
緊迫した空気がその場を包んでいるのだから。
「ゴブリンが襲ってくるだと!」
「報復というやつか、まったく最近おかしなことばかり起こるな」
分かりきったことを分かりきったように村人たちは言う。
「トリノはどうした」
「トリノは今いない。この前やって来た娘たちと息子をつれて、一緒に帝都に行っている」
「こんなときに」
疫病神め、カケルへ向けられた視線がそういっているようだった。
きっとこうなるのを予感していたのだろうか、出かける前にトリノと交わした会話をカケルは思い出した。
「カケル君には、剣が似合うと思います」
「……いやだといっても、おしつけるんでしょ」
「私は身勝手で利己的な人間なのです。何もないとは思いますが」
「僕は保険ですか?」
「信頼しているんですよ」
「うそつき」
「騙されてほしいですね、さて留守を頼みます。本当に危ない時はこれを使ってください、預けておきます」
トリノは金を手渡し、カケルの手を強く握り言った。
「私の想いも託しましたよ」
「真顔で見つめてよくいえますね」
「大人ですから」
進展しない話を嫌い、少年は外に出た。
結論が出ないのならハンターを頼んで守ってもらえばいいだけだ。
お前は何もする必要はない。
少年の内で聞きなれた声がそう言った。
「どうでもいい」
独り言が口から出ると、瞳にまぶしさを感じた。
見返すと太陽は無邪気に微笑んでいる。そのまぶしさにうつむいた少年の先には陽の意思を受けたもう一人の自分。
彼がいつも責めているような気がする。
守りたくないなら守らなければいい、どうせ他人だ。理由も理屈も感情さえ、言い訳にすればいい。
右手の親指から順に指折り、戻し。指折り戻した瞬間、ゆがんだ笑顔が少年に張りついた。
被った仮面は薄笑い、無造作に創られる感情を隠すための道具。惑う気持ちを否定することができず、無意識に取り出したのは傷ついたフレームとレンズ、どうやら眼鏡のようだ。
彼はいつのまにか眼鏡をかけている。
傷だらけのレンズから見える風景がゆがむ、向かう光は滲む七色、揺らいで薄く遠のいた。
こんな風に全てぼやけてしまえばいい、叶わない夢のほうがきれいだ。
そう自分に言い聞かせた時。
「できるのにやらないなんて、ずるいよ」
虚空に急に生まれ、自らの内を通り抜けた言葉になぜか懐かしさを感じた。
誰の言葉かは分からない。だが誰かに言われた言葉だったような気がする。
浅い過去と記憶は重なるが彼は首を振った。否定したほうが楽だったから。
けれど振り切った何かは追いつき、閉じた門を開こうと漠然とした想いを浮ばせる。
僕の欲しいものは何だろう――。
心に問うが答えはない、どうすることもできず迷う彼の前に。
剣がただ在った。
リプレイ本文
●僕の詩
晴れた青空の下にあるものは、醜い物でさえもなぜか綺麗に感じる時がある。
ヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139)の遠方、視線の先、整然というには程遠い獣じみた生物の行進がある。
数は五匹程、どうやらただのゴブリンのようだ。ならば、たいした脅威ではない。
ヴォルフガングはそう判断すると一息ついた。
偵察だ。
激しい動きをしたわけではない、隠れて待つ、それだけだ。多少神経を使った程度で、これから始まる戦いの準備運動のようなもの。
だが、喉が渇いた。
煙草。指先は無意識に何かを求めるが、その判断を意識は否定する。
まだ早い、報告が先だ。取り出した通話機。
「いやっほー、罠作りって楽しいね」
向こう側からクウ(ka3730)の明るい声が答えた。
「そんなにはしゃいだら敵さんが気づくぞ」
「気づいたら倒しちゃばいいんだよ!」
「それじゃあ、偵察、作戦自体の意味がなくなっちまう」
「……てへ」
「ま……しばらく様子を見たあと、手伝いに行く」
「わかった! 罠得意なんだ。任せてよ!」
今はクウに任せるしかない。
他の道はどうなのだろうか? ヴォルフガングは青空を見てそう思った。
見上げると青空が見返した。
「これは絶好の洗濯日和ですね……っ! そうだ駆様は洗濯お好きですか」
レイ・T・ベッドフォード(ka2398)が傍らにいた駆に唐突に聞いた。
「え、は、嫌いじゃないです」
「良かった。それでは、今度一緒にお洗濯はいかがでしょうか?」
「は、はい」
「緊張しておられるのですか?
緊張もあるだろうが、質問の意図も分からないのだろう。
「その緊張、この私が解いてみせます」
颯爽とメープル・マラカイト(ka0347)さんがINしました。
「空はなんであるんでスカイ……ぷぷ」
「さすがはメープル様。ダジャレクイーンを目指すお方」
そんなものはきっと、ないと思う。
「戦う男の子を私は力強く応援します! さあ神社で一緒にジンジャーエール」
「これはダジャレでありながら、崩しと読みをいれた高度な技。エクセレントでございます。メモしなければ」
レイはメモ帖をとり出す。持参しているのだろうか? それ以前に神社という単語につっこみをいれなくていいのだろうか、いやたぶん良いのだろう。
「では皆さん。ゴブリンや ああゴブリンさ ゴブリンだ。退治に出発しましょう」
「またもや! 新境地ですか」
レイの反応にメープルは何かをやり遂げたかのように満足に微笑んだ。
それを見て駆は思う。
もう、ゴブリンそこまできてるでしょ。
……ひとまず、収拾。
「くしゅん」
なぜだろう、誰かに呼ばれた気がした。
左側の道の偵察に向かった水無月 凛音(ka4638)周囲を見回したが、何もいない。
こちら側の頭数は三、数は少ない。
やはり目的は中央突破なのだろうか? 凛音は思考を巡らすが答えを出すより、この道を守るほうが先決だろう。
問題は一体のみ存在する巨大な何かだ。凛音はデバイスで予測計算をしたあと、ユスティティア・メイベリー(ka0511)に連絡をとった。
罠を黙々と作っていたユスティティアは連絡を受けたあと休息をとることにした。
ふと泥だらけになった服に気づき、顔だけでも洗おうと考え近くにあった川で洗い流し、水面に映った自分と太陽を見て思う。
このままだと陽に焼けちゃうな、ちょっといやかな。
チョココ(ka2449)は防衛ラインに一人いる。
遊軍、後詰と言えば聞こえはいいが、置いていかれた感がある。
「つまんないですわ、パルパル。ここまで敵が来ないとやることがありませんの
ちっさいゴブリンさんでもいいので来てほしいです」
チョココは、ぼーっとしていた。
後詰が平和なのは良いことではあるが、確かに暇だ。
その時、チョココの手元の魔導短伝話が通話状態になった。
「チョココさんですか? メープルさんに連絡しろっていわれたので」
「カケル様ですの?」
「はい、あの、そろそろ戦いがはじまるので、準備しておいてください。だそうです」
「はいですの」
「あ、ちょっとまってください。はい、今行きます。ごめんなさいチョココさん、どこからか応援要請が来たら、すぐに向かって欲しいそうです。あの僕行って来ます」
通話は切れた。
チョココは思った。
もう、自分の好きなところにいっちゃうぞー。
というわけにもいかず、もうしばらくチョココは待つことにする。
そして戦いが始まった。
風に乗って生臭い香りが流れてきた。その匂いは敵の訪れを告げている。
中央部の敵は八体、レイの偵察で数はわかっていた。
闇雲に突撃してもしかたがない。中央を破られれば、距離的にチョココ一人でしばらく持たせる必要がある。
レイとメープルの当初の計画通り、レイが前面、メープルが奇襲に向かうことになる。
問題は駆をどうするかだった。
覚醒ができるとはいえ、実戦経験がほとんどない彼を前線立たせるのは危険だ。
無理をさせても仕方ない、だが駆を放置しておくつもりも無かった。
前線というよりも乱戦になるであろう只中に立つ男は、敵を視認すると笑った。
ゴブリンの注目を一身に集める美しい姿とは不釣合いな斧を掲げ。
「私は壁。どれだけ汚れてもここから先、一歩も通しません」
宣言に応じて鬨の声、濁った足音が巻き上がる。
その雑音に混じり、遠くどこかでいななきが聞こえる。近づく側面から駆け抜ける馬の声、馬上の術者は手綱を操り呪を呼ぶ。
一瞬、収縮した後、マテリアルの雲が一気にその場に拡散する。
襲う眠りに抵抗できぬ者の意識は奪われ、ばたばたと倒れる。
メープル再度を精神を集中する。
意思に応じて宙に生まれた風はくるりと回ると音を立て走り、眠る獲物の喉を切り裂いた。
「駆様、今です」
レイの斧が周囲を薙いだ。
言われるままに剣を取り、駆は刃を振るう。あとに残った肉を切る感覚。それがただ気持ち悪い、そう感じていた。
「計算どおりかな」
罠に倒れたゴブリンを横目に凜音が言った。
「うん、でもここからが本番だと思う」
ユスティティアが答える。
二人の前に大きな影がある。
「あたしが先に行く、サポート頼むね」
ユスティティアは呼吸整えると、前方の敵をにらむ。
「大きい個体なら、当然それほど素早くはないはず。命中しなればきっと問題ないよ。たぶんだけど、あ、そうだなんとか後ろを向かせて、そこに」
凜音は魔導銃を見せる。
「打ち込むんだね、分かった。陽動してみる。当たらなければいい。当たらないよ」
そう言った後、覚醒に応じユスティティアの姿が彩られた。
数度の突撃。
吹き飛ばされた後、自らを癒すユスティティアがいる。目標はいまだ沈黙しない。
放った火砲も三を数える。応援を要請するべきか凜音がそう思った時、ユスティティアは両足に深く体を預けた。
今までは避けることを目的とした逃げの戦だ。そのような甘い考えで勝てる相手ではない、視線で凜音に合図をする。
何かを了解した凜音は火龍の牙を向けた。
そののち、高き空、天に少女は翔ける。追って巨体の視線が向かう時、なぜか地を走る彼女の姿があった。
幹を反動にして戻る陽動、目的は足だ。この巨体だ軸を潰せばきっと倒れる。
全身の力を込め、速度を乗せて剣を叩きつけた。
しばらくの間、動きはなかった。だが姿勢が崩れ膝をついた時。
無慈悲な炎が、静かに牙を剥いた。
「想定外ってやつか」
そう言うヴォルフガングは、なぜか嬉しそうだった。
「うん、そうだね!」
クウは答える。作った罠にかかり、ゴブリンはあらかた駆逐した。
問題はそこにいたそいつ、何かだ。
「ただのオーガじゃないよなあ、あれ」
「やっぱり、ヴォイド化してるのかな」
ゴブリンの多く倒したのは、クウたちというよりも、目の前のこいつだ。
「まあ、殺れないことも無いだろう」
「一応、連絡だけしておくね。ぴぽぱぽ、クウです。今から雑魔化? したみたいなちょっと強そうなオーガみたいな奴と戦うよ、応援よろしく! あ、ゴブリンもまだいるよ」
そういう通信音なのか不明だ。そしてクウは能天気だ。
「パルパル! 出発ですわ」
ついにやってきたチョココの出番! 半ばホーム? と化していた防衛ラインからこうしてチョココはやっと逃走したのである。
まるで壁だ。やわらかい壁。
大きく振り上げた刀を下ろした。
ヴォルフガングの息が上がった。手ごたえがないわけではない。
前面のそれはまだ倒れない。ゴブリンと戦った疲労が少し出たか。
再び、柄を握る。
残ったゴブリンをクウが倒しきるまで、彼一人でこいつを押さえなければならない。
もう一度、踏み込みは浅い。ヴォルフガングの一撃はそれる。続く衝撃に構えた時。
「間に合ったですわ!」
チョココが生んだ壁が攻撃を阻んだ。
間に合った応援によって、戦いの形勢は変わった。
全てが終わったあと、到着したメープルが言った。
「狩猟で終了……どう」
やはりメープルはメープルであった。
こうして戦い終わった。
村に戻ったあと、約束通り駆はレイと二人で洗濯を始めた。
メープルがたまに覗きにやって来てダジャレを言う、どうやらメープルは村の宴に加わったのだろうか? 仕事の後の最高の一杯のために! といってほろ酔いだった。
駆は、ぽつりと言った。
「僕、記憶が欠けているんです。だからどうしてここにいるのかも分からない」
レイは少し考えて言った。
「駆様。なぜ私が洗濯をしているかお分かりでしょうか? 何者にも役割というものがございます。例えば、メープル様がダジャレを言うように、私は今、洗濯をすることでレイ・T・ベッドフォードと称しています」
「よくわからないです」
「すぐに答えを求めても仕方ありません。駆様は、駆様で良い。まだまだ洗濯物がたくさんありますね、うーん楽しい。あとは私にお任せください」
その後、駆はクウに声をかけられた。
「もし先に何にもなくても、それまでの道のりは裏切らないよ」
「前向きなんですね」
「駆も新しい道を開けばいいんだ」
いつか、忘れた記憶の欠片が見つかることもあるだろうから。そうクウは言わなかった。
彼女にしては気を使ったのかもしれない。
話を聞いたユスティティアは、駆の元にやってきた。
「何を考えてるか駆が言わなきゃ分からないことも一杯だから、話があるなら聞くよ」
「本当は、全部忘れてしまったほうがまだよかった」
「そんなことない、忘れられるって辛いことだよ」
「僕はきっと僕じゃないんだ。だから何をしてもムダなんだ、この気持ちが分かるわけがないよ」
ユスティティアは駆になぜか憤りを感じた。話を聞き励ますためにやってきたはずだった。
心の中にある何かを解放することが簡単にできるわけがない、自分でも分かっていたことだ。
ふと、脳裏に言葉が浮かぶ。
「やりたくないことはやらなくっても良いのよ。……でも、ほんのちょっとでも自分の心に引っかかるものがあるのなら、それはやっぱり、やっておいた方が良いことなんだわ!
誰かのためじゃなくて、自分のために。だから私は、全部ひっくるめて自分に正直に生きているのよ!」
確かクウが、駆にそう言っていた。
ユスティティアは今、きっと誰かのためにいる。
もし正直生きるというのなら、この場にいるのは本当の自分なのだろうか? だが、その疑問を表に出すほど、彼女は開かれていない。
何より想いを言葉にすることで、過去に戻るかもしれない。それが怖かった。
「なら、勝手にすればいい」
心にも無いことを言ったと感じ、鼓動が跳ねる。けれど優しくはなれない。
去るユスティティア、残った駆に入れ違いで訪れた凜音は言う。
「怒らせちゃったね」
「うん」
「私も理由があって、ここにいる。きっとみんな何かあるはずだよ。そうだカケルさん眼鏡をもってるよね」
「あります。僕のじゃないと思うんだけど」
駆は頷いた。出発する前に一度だけつけたことがある。
「かけてみて欲しいな」
言われるままに眼鏡をかけると、レンズが陽を受けてきらめいた。
「うん、似合うよ。笑ったほうがいいかも」
「本当に?」
凜音に言われて、駆はちょっと照れた。
そのあと駆は洗濯を干すのを手伝おうと思った。レイはきっと何も聞かないで笑ってくれるような気がしたし、メープルのダジャレもちょっと聞きたいと思った。
途中、チョココを見かけた駆は呼び止めた。
「みんな年上に見えるし、あのね笑わないで」
チョココは頷いた。
「僕、少しうれしいんだ」
「なぜですの?」
「わかんない、でも」
ちゃんと相手をしてくれるからとはいえなかった。
「これあげる、もらったものだけど美味しいんだよ」
チョココに何かを手渡すと足早に駆は去った。
遠巻きに様子をずっと眺めていたヴォルフガングは、やるべき事を全て終えたと判断した。
彼は自ら携えている刀剣をしばらく見つめた後、おもむろに刃を抜き、光る刀身を構えて振る。
描いた軌跡は円。
「零か」
呟いた後、抜き身を戻す。
そして煙草を取り出し火をつけると吸い込み、ゆっくり吐いた。
戦いは終わり、依頼を遂行したハンターたちは帰ってゆく。
何をしたわけでもない、それでも駆はここにいる。
「僕は何が欲しいのだろう」
もう一度、駆は言った。
欠けた記憶なのだろうか? 過去を補うための強さだろうか?
強さは求めれば手に入るかもしれない。だがその代償に何を求められるのかは分からない。もし、打ち捨てられ傷ついた先に生まれる強さが欲しいのなら、自らに刻まれた傷跡を見、強く、もっと強く叫べばいい。
自分は何も悪くない。悪いのは周りだ。だから復讐してやる。と。
その誓いは必ず力を与えてくれる。例え形がどんなものであったとしても。
駆は自らの弱さをどこかで自覚しているのかもしれない、行動が正しくないとも感じている。
けれど、この場所にいる自分が自分であって自分ではないような気がしている。
「僕は幸せになりたいんだ。もしできるのなら……」
続く声は聞こえず、言葉は小さい。できないことは分かっている。それよりも続けるのは、ふさわしくないような気がした。
少し迷ったあと、駆は去っていくハンターたちに手を振り言った。
「ありがとう」
と。
同時、去るハンターたちと入れ違いにやってきた一団がある。どこかのんびりして実直そうな男と二人の少女、そして活発そうな男の子だった。
村を入口で一瞬すれ違う時、男はなぜかハンターたちに一礼をするとほほ笑んだ。
「今かえったよカケル兄ちゃん、るすばんちゃんとしてた!」
言葉が風に流れる。
遠く空、雲はない。陽を背にまっすぐ伸びる影の先。
道の彼方に見える山々の向こう、架かる虹がゆっくりと顔を出し始めた。
了
晴れた青空の下にあるものは、醜い物でさえもなぜか綺麗に感じる時がある。
ヴォルフガング・エーヴァルト(ka0139)の遠方、視線の先、整然というには程遠い獣じみた生物の行進がある。
数は五匹程、どうやらただのゴブリンのようだ。ならば、たいした脅威ではない。
ヴォルフガングはそう判断すると一息ついた。
偵察だ。
激しい動きをしたわけではない、隠れて待つ、それだけだ。多少神経を使った程度で、これから始まる戦いの準備運動のようなもの。
だが、喉が渇いた。
煙草。指先は無意識に何かを求めるが、その判断を意識は否定する。
まだ早い、報告が先だ。取り出した通話機。
「いやっほー、罠作りって楽しいね」
向こう側からクウ(ka3730)の明るい声が答えた。
「そんなにはしゃいだら敵さんが気づくぞ」
「気づいたら倒しちゃばいいんだよ!」
「それじゃあ、偵察、作戦自体の意味がなくなっちまう」
「……てへ」
「ま……しばらく様子を見たあと、手伝いに行く」
「わかった! 罠得意なんだ。任せてよ!」
今はクウに任せるしかない。
他の道はどうなのだろうか? ヴォルフガングは青空を見てそう思った。
見上げると青空が見返した。
「これは絶好の洗濯日和ですね……っ! そうだ駆様は洗濯お好きですか」
レイ・T・ベッドフォード(ka2398)が傍らにいた駆に唐突に聞いた。
「え、は、嫌いじゃないです」
「良かった。それでは、今度一緒にお洗濯はいかがでしょうか?」
「は、はい」
「緊張しておられるのですか?
緊張もあるだろうが、質問の意図も分からないのだろう。
「その緊張、この私が解いてみせます」
颯爽とメープル・マラカイト(ka0347)さんがINしました。
「空はなんであるんでスカイ……ぷぷ」
「さすがはメープル様。ダジャレクイーンを目指すお方」
そんなものはきっと、ないと思う。
「戦う男の子を私は力強く応援します! さあ神社で一緒にジンジャーエール」
「これはダジャレでありながら、崩しと読みをいれた高度な技。エクセレントでございます。メモしなければ」
レイはメモ帖をとり出す。持参しているのだろうか? それ以前に神社という単語につっこみをいれなくていいのだろうか、いやたぶん良いのだろう。
「では皆さん。ゴブリンや ああゴブリンさ ゴブリンだ。退治に出発しましょう」
「またもや! 新境地ですか」
レイの反応にメープルは何かをやり遂げたかのように満足に微笑んだ。
それを見て駆は思う。
もう、ゴブリンそこまできてるでしょ。
……ひとまず、収拾。
「くしゅん」
なぜだろう、誰かに呼ばれた気がした。
左側の道の偵察に向かった水無月 凛音(ka4638)周囲を見回したが、何もいない。
こちら側の頭数は三、数は少ない。
やはり目的は中央突破なのだろうか? 凛音は思考を巡らすが答えを出すより、この道を守るほうが先決だろう。
問題は一体のみ存在する巨大な何かだ。凛音はデバイスで予測計算をしたあと、ユスティティア・メイベリー(ka0511)に連絡をとった。
罠を黙々と作っていたユスティティアは連絡を受けたあと休息をとることにした。
ふと泥だらけになった服に気づき、顔だけでも洗おうと考え近くにあった川で洗い流し、水面に映った自分と太陽を見て思う。
このままだと陽に焼けちゃうな、ちょっといやかな。
チョココ(ka2449)は防衛ラインに一人いる。
遊軍、後詰と言えば聞こえはいいが、置いていかれた感がある。
「つまんないですわ、パルパル。ここまで敵が来ないとやることがありませんの
ちっさいゴブリンさんでもいいので来てほしいです」
チョココは、ぼーっとしていた。
後詰が平和なのは良いことではあるが、確かに暇だ。
その時、チョココの手元の魔導短伝話が通話状態になった。
「チョココさんですか? メープルさんに連絡しろっていわれたので」
「カケル様ですの?」
「はい、あの、そろそろ戦いがはじまるので、準備しておいてください。だそうです」
「はいですの」
「あ、ちょっとまってください。はい、今行きます。ごめんなさいチョココさん、どこからか応援要請が来たら、すぐに向かって欲しいそうです。あの僕行って来ます」
通話は切れた。
チョココは思った。
もう、自分の好きなところにいっちゃうぞー。
というわけにもいかず、もうしばらくチョココは待つことにする。
そして戦いが始まった。
風に乗って生臭い香りが流れてきた。その匂いは敵の訪れを告げている。
中央部の敵は八体、レイの偵察で数はわかっていた。
闇雲に突撃してもしかたがない。中央を破られれば、距離的にチョココ一人でしばらく持たせる必要がある。
レイとメープルの当初の計画通り、レイが前面、メープルが奇襲に向かうことになる。
問題は駆をどうするかだった。
覚醒ができるとはいえ、実戦経験がほとんどない彼を前線立たせるのは危険だ。
無理をさせても仕方ない、だが駆を放置しておくつもりも無かった。
前線というよりも乱戦になるであろう只中に立つ男は、敵を視認すると笑った。
ゴブリンの注目を一身に集める美しい姿とは不釣合いな斧を掲げ。
「私は壁。どれだけ汚れてもここから先、一歩も通しません」
宣言に応じて鬨の声、濁った足音が巻き上がる。
その雑音に混じり、遠くどこかでいななきが聞こえる。近づく側面から駆け抜ける馬の声、馬上の術者は手綱を操り呪を呼ぶ。
一瞬、収縮した後、マテリアルの雲が一気にその場に拡散する。
襲う眠りに抵抗できぬ者の意識は奪われ、ばたばたと倒れる。
メープル再度を精神を集中する。
意思に応じて宙に生まれた風はくるりと回ると音を立て走り、眠る獲物の喉を切り裂いた。
「駆様、今です」
レイの斧が周囲を薙いだ。
言われるままに剣を取り、駆は刃を振るう。あとに残った肉を切る感覚。それがただ気持ち悪い、そう感じていた。
「計算どおりかな」
罠に倒れたゴブリンを横目に凜音が言った。
「うん、でもここからが本番だと思う」
ユスティティアが答える。
二人の前に大きな影がある。
「あたしが先に行く、サポート頼むね」
ユスティティアは呼吸整えると、前方の敵をにらむ。
「大きい個体なら、当然それほど素早くはないはず。命中しなればきっと問題ないよ。たぶんだけど、あ、そうだなんとか後ろを向かせて、そこに」
凜音は魔導銃を見せる。
「打ち込むんだね、分かった。陽動してみる。当たらなければいい。当たらないよ」
そう言った後、覚醒に応じユスティティアの姿が彩られた。
数度の突撃。
吹き飛ばされた後、自らを癒すユスティティアがいる。目標はいまだ沈黙しない。
放った火砲も三を数える。応援を要請するべきか凜音がそう思った時、ユスティティアは両足に深く体を預けた。
今までは避けることを目的とした逃げの戦だ。そのような甘い考えで勝てる相手ではない、視線で凜音に合図をする。
何かを了解した凜音は火龍の牙を向けた。
そののち、高き空、天に少女は翔ける。追って巨体の視線が向かう時、なぜか地を走る彼女の姿があった。
幹を反動にして戻る陽動、目的は足だ。この巨体だ軸を潰せばきっと倒れる。
全身の力を込め、速度を乗せて剣を叩きつけた。
しばらくの間、動きはなかった。だが姿勢が崩れ膝をついた時。
無慈悲な炎が、静かに牙を剥いた。
「想定外ってやつか」
そう言うヴォルフガングは、なぜか嬉しそうだった。
「うん、そうだね!」
クウは答える。作った罠にかかり、ゴブリンはあらかた駆逐した。
問題はそこにいたそいつ、何かだ。
「ただのオーガじゃないよなあ、あれ」
「やっぱり、ヴォイド化してるのかな」
ゴブリンの多く倒したのは、クウたちというよりも、目の前のこいつだ。
「まあ、殺れないことも無いだろう」
「一応、連絡だけしておくね。ぴぽぱぽ、クウです。今から雑魔化? したみたいなちょっと強そうなオーガみたいな奴と戦うよ、応援よろしく! あ、ゴブリンもまだいるよ」
そういう通信音なのか不明だ。そしてクウは能天気だ。
「パルパル! 出発ですわ」
ついにやってきたチョココの出番! 半ばホーム? と化していた防衛ラインからこうしてチョココはやっと逃走したのである。
まるで壁だ。やわらかい壁。
大きく振り上げた刀を下ろした。
ヴォルフガングの息が上がった。手ごたえがないわけではない。
前面のそれはまだ倒れない。ゴブリンと戦った疲労が少し出たか。
再び、柄を握る。
残ったゴブリンをクウが倒しきるまで、彼一人でこいつを押さえなければならない。
もう一度、踏み込みは浅い。ヴォルフガングの一撃はそれる。続く衝撃に構えた時。
「間に合ったですわ!」
チョココが生んだ壁が攻撃を阻んだ。
間に合った応援によって、戦いの形勢は変わった。
全てが終わったあと、到着したメープルが言った。
「狩猟で終了……どう」
やはりメープルはメープルであった。
こうして戦い終わった。
村に戻ったあと、約束通り駆はレイと二人で洗濯を始めた。
メープルがたまに覗きにやって来てダジャレを言う、どうやらメープルは村の宴に加わったのだろうか? 仕事の後の最高の一杯のために! といってほろ酔いだった。
駆は、ぽつりと言った。
「僕、記憶が欠けているんです。だからどうしてここにいるのかも分からない」
レイは少し考えて言った。
「駆様。なぜ私が洗濯をしているかお分かりでしょうか? 何者にも役割というものがございます。例えば、メープル様がダジャレを言うように、私は今、洗濯をすることでレイ・T・ベッドフォードと称しています」
「よくわからないです」
「すぐに答えを求めても仕方ありません。駆様は、駆様で良い。まだまだ洗濯物がたくさんありますね、うーん楽しい。あとは私にお任せください」
その後、駆はクウに声をかけられた。
「もし先に何にもなくても、それまでの道のりは裏切らないよ」
「前向きなんですね」
「駆も新しい道を開けばいいんだ」
いつか、忘れた記憶の欠片が見つかることもあるだろうから。そうクウは言わなかった。
彼女にしては気を使ったのかもしれない。
話を聞いたユスティティアは、駆の元にやってきた。
「何を考えてるか駆が言わなきゃ分からないことも一杯だから、話があるなら聞くよ」
「本当は、全部忘れてしまったほうがまだよかった」
「そんなことない、忘れられるって辛いことだよ」
「僕はきっと僕じゃないんだ。だから何をしてもムダなんだ、この気持ちが分かるわけがないよ」
ユスティティアは駆になぜか憤りを感じた。話を聞き励ますためにやってきたはずだった。
心の中にある何かを解放することが簡単にできるわけがない、自分でも分かっていたことだ。
ふと、脳裏に言葉が浮かぶ。
「やりたくないことはやらなくっても良いのよ。……でも、ほんのちょっとでも自分の心に引っかかるものがあるのなら、それはやっぱり、やっておいた方が良いことなんだわ!
誰かのためじゃなくて、自分のために。だから私は、全部ひっくるめて自分に正直に生きているのよ!」
確かクウが、駆にそう言っていた。
ユスティティアは今、きっと誰かのためにいる。
もし正直生きるというのなら、この場にいるのは本当の自分なのだろうか? だが、その疑問を表に出すほど、彼女は開かれていない。
何より想いを言葉にすることで、過去に戻るかもしれない。それが怖かった。
「なら、勝手にすればいい」
心にも無いことを言ったと感じ、鼓動が跳ねる。けれど優しくはなれない。
去るユスティティア、残った駆に入れ違いで訪れた凜音は言う。
「怒らせちゃったね」
「うん」
「私も理由があって、ここにいる。きっとみんな何かあるはずだよ。そうだカケルさん眼鏡をもってるよね」
「あります。僕のじゃないと思うんだけど」
駆は頷いた。出発する前に一度だけつけたことがある。
「かけてみて欲しいな」
言われるままに眼鏡をかけると、レンズが陽を受けてきらめいた。
「うん、似合うよ。笑ったほうがいいかも」
「本当に?」
凜音に言われて、駆はちょっと照れた。
そのあと駆は洗濯を干すのを手伝おうと思った。レイはきっと何も聞かないで笑ってくれるような気がしたし、メープルのダジャレもちょっと聞きたいと思った。
途中、チョココを見かけた駆は呼び止めた。
「みんな年上に見えるし、あのね笑わないで」
チョココは頷いた。
「僕、少しうれしいんだ」
「なぜですの?」
「わかんない、でも」
ちゃんと相手をしてくれるからとはいえなかった。
「これあげる、もらったものだけど美味しいんだよ」
チョココに何かを手渡すと足早に駆は去った。
遠巻きに様子をずっと眺めていたヴォルフガングは、やるべき事を全て終えたと判断した。
彼は自ら携えている刀剣をしばらく見つめた後、おもむろに刃を抜き、光る刀身を構えて振る。
描いた軌跡は円。
「零か」
呟いた後、抜き身を戻す。
そして煙草を取り出し火をつけると吸い込み、ゆっくり吐いた。
戦いは終わり、依頼を遂行したハンターたちは帰ってゆく。
何をしたわけでもない、それでも駆はここにいる。
「僕は何が欲しいのだろう」
もう一度、駆は言った。
欠けた記憶なのだろうか? 過去を補うための強さだろうか?
強さは求めれば手に入るかもしれない。だがその代償に何を求められるのかは分からない。もし、打ち捨てられ傷ついた先に生まれる強さが欲しいのなら、自らに刻まれた傷跡を見、強く、もっと強く叫べばいい。
自分は何も悪くない。悪いのは周りだ。だから復讐してやる。と。
その誓いは必ず力を与えてくれる。例え形がどんなものであったとしても。
駆は自らの弱さをどこかで自覚しているのかもしれない、行動が正しくないとも感じている。
けれど、この場所にいる自分が自分であって自分ではないような気がしている。
「僕は幸せになりたいんだ。もしできるのなら……」
続く声は聞こえず、言葉は小さい。できないことは分かっている。それよりも続けるのは、ふさわしくないような気がした。
少し迷ったあと、駆は去っていくハンターたちに手を振り言った。
「ありがとう」
と。
同時、去るハンターたちと入れ違いにやってきた一団がある。どこかのんびりして実直そうな男と二人の少女、そして活発そうな男の子だった。
村を入口で一瞬すれ違う時、男はなぜかハンターたちに一礼をするとほほ笑んだ。
「今かえったよカケル兄ちゃん、るすばんちゃんとしてた!」
言葉が風に流れる。
遠く空、雲はない。陽を背にまっすぐ伸びる影の先。
道の彼方に見える山々の向こう、架かる虹がゆっくりと顔を出し始めた。
了
依頼結果
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最終発言 2015/05/11 21:31:57 |
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最終発言 2015/05/07 20:48:27 |