ゲスト
(ka0000)
不幸なハンター
マスター:秋風落葉

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/09 09:00
- 完成日
- 2015/05/15 06:28
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●不幸な男
ハンターであるドビーは不幸だった。
何が不幸かというと、彼は受けた依頼をまだ一度も解決したことがない。
なぜか、毎回予期せぬ出来事が彼とその時の仲間達を襲うのだ。
――初めての依頼。
ある村に荷物を届けるだけの簡単な依頼だった。だが、その村に行ける唯一の橋が洪水によって流され、期日までに辿りつくことができなかった。
近くに住む人々は、この地方にこんなに大雨が降ったことなんて今までになかったよ、と口々に言っていた……。
――二回目の依頼。
ある森の奥に蜂の群生地帯があり、その巣の蜂蜜を取ってきてほしいという簡単な依頼だった。ドビー達が現場に着いたとき、蜂の巣を全て叩き壊し、美味しそうに蜂蜜を舐める巨大な熊の雑魔がいた。彼らは逃げ帰った。
――三回目の依頼。
洞窟に住み着いたコボルドを討伐するだけの簡単な依頼だった。洞窟に行ってみると、なぜかコボルドはワイバーンを飼いならしていた。巨大な飛竜を前に彼らは尻尾をまいて退散した。
……などなど。
正直、呪われているとかしか思えない偶然が連続した。いつしか、ドビーは不幸を呼ぶ男としてハンター達の間で知られるところとなり、地元の街では誰も彼を仲間に加えることはなくなってしまったのである。
●もう不幸な男とは呼ばせない
「こ、今度こそは……」
ドビーはうつろな目で古都アークエルスにあるハンターオフィスの扉を開けた。受付嬢は彼の方を振り向き、ぎょっと顔を引きつらせた。彼女はカウンターから素早く抜け出てくる。
「だ、大丈夫ですか!? ひ、人を呼びましょうか!?」
「……いえ、結構です」
ひょっとして死相でも出ているのだろうかと、ドビーは自分の顔をなでる。いまだ心配顔の受付嬢の誤解を解く為にも、自分が何者であるのかを手短に話した。
ドビーの言葉を聞いた受付嬢は、自分の勘違いを恥じてごまかし笑いをしながら頬をかく。
「なんだ、ハンターさんだったんですか。いやあ、私はてっきり……」
てっきり、何に見えたのか聞きたくなったドビーだったが、落ち込みそうな答えが返ってきそうだったのでやめた。
ドビーは背筋を伸ばし、カウンターの向こうへと戻っていった受付嬢の前に立つ。
「ハンターとして、依頼を受けたいのですが」
「はいはい。大丈夫ですよ。ええっと、おそらく駆け出しの方ですよね?」
「……一応は」
本当は依頼を受けた回数がすでに二桁を超えている、などとはもちろん言えない。解決した数が0であることなど、なおのこと言えるわけがない。
受付嬢はふんふんと頷きながら卓上の資料をめくる。
「なるほど、ではこれなんかどうでしょう? 村がゴブリンの一団に占領されてしまって。ちょうど今、そこを取り返すメンバーを集めようと思っていたんです」
一瞬顔を輝かせるドビー。彼もハンターのはしくれ。ゴブリンくらいなら、仲間さえ集まればきっと勝てるはずである。
しかし、ドビーの脳裏に過去のことがよぎった。
――だが、待て! このパターンに何度煮え湯を飲まされたと思っている?
ドビーは承諾の返事をする前に、彼女に念を押した。
「……それ、本当にゴブリンしかいないんですよね!? ゴブリンの後ろに凄い歪虚がいるとかありませんよね!?」
「え、ええ……目撃情報があるのはゴブリンとホブゴブリンだけです。ゴブリンがよく使役するリトルラプターも見かけなかったそうですよ」
「そ、そうですか……!」
ドビーは体を震わせる。もちろんそれは歓喜によるものだ。この依頼を解決し、不幸を呼ぶ男などという不名誉なあだ名からおさらばするのだ!
「……その依頼、受けます! 受けさせてください!!」
今度こそはいける! そう確信したドビーは元気一杯に叫んだ。
●新たなる支配
その日の夜。
かつて人の活気であふれていたであろう一つの村。
今では、ゴブリン達によって占拠されている。
村の中央でかがり火を焚き、彼らは略奪した食物を飲み食いしていた。しかし、その表情は冴えない。
一体のゴブリンは隣に座る同族を肘でつつく。
「ナア……俺タチ、コレカラ、ドウナル?」
「……ワカラナイ。デモ、今ハアイツラニツイテ行クシカ……」
話しかけられたゴブリンは陰鬱な表情で答える。
「……ヤット逃ゲテキタノニ、ナンデコウナッタンダロウナ……」
「……」
ゴブリンは返す言葉を見つけることが出来ず、手の中の肉に噛み付く。そこに、突然高いところから声が降ってきた。
「おいおい。なァにをこそこそと話しているんだァ?」
「ヒイッ……!!」
その場にいたゴブリン達は、一斉に立ち上がり、気をつけをした。そして、声の主を恐る恐る見あげる。それは力自慢のホブゴブリンとて例外ではない。
身の丈が3、4メートルはあるだろうか。額には数本の角が生えており、焚き火に照らされるその顔は不気味に歪んだ笑みに彩られている。
巨大な人影はゴブリン達を見下ろし、大きな口を開いた。
「そうビクビクすんなよォ……オレ達は仲間だろォ? 北の大峡谷から逃げてきたお前らに、今もこうして美味いもん食わしてやってんだしなァ?」
「ハ、ハイッ!!」
「ククッ……今はせいぜい楽しんでおけよォ……近い内にまた働いてもらうからなァ……なんせ……」
巨人はすばやく腕を伸ばして目の前のゴブリンをつかみ、自分の口元に持っていくとその頭にかぶりついた。
「お前達がグズなせいで美味いニンゲンどもにありつけなかったんだからなァァァァァ!!」
「ウギャアアアアアアア!! タスケ……」
巨人は牙の生えたあぎとを再度ゴブリンに食い込ませる。頭蓋骨ごと貪られた亜人は悲鳴の途中で絶命した。
「アア……まずい、まずいぜェ……ゴブリンはよォ……!!」
ぺっ、と血と肉片を撒き散らし、巨人はゴブリンの死骸を投げ捨てた。ゴブリン達はただただ震え、その怒りが自分に降ってこないことを願うだけだ。
彼らに逆らう気力はない。実力差は出会った初日に見せつけられている。何体ものゴブリンとホブゴブリンを犠牲にして。
「ま、そういうことだァ……次こそはちゃんとやれよォ……?」
怒りと空腹が収まったのか、巨人はそれだけ口にするとゴブリン達に背を向けた。
ゴブリン達は力なく座り込む。巨人の数が一体だけならどうとでもなったかもしれない。しかし、あの巨人達は五体もいる。どう逆立ちしたって勝てるわけがない。逃げ出すという考えもないことはなかったが、もし連中に見つかったらどうなるか……想像するのも恐ろしい。
ゴブリン達の目に、追い詰められた者特有の危険な光が灯る。
生き残るにはあいつらの機嫌を損ねないようにするしかない。
次の村では、必ず人間達を捕まえるのだ。必ず。
ハンターであるドビーは不幸だった。
何が不幸かというと、彼は受けた依頼をまだ一度も解決したことがない。
なぜか、毎回予期せぬ出来事が彼とその時の仲間達を襲うのだ。
――初めての依頼。
ある村に荷物を届けるだけの簡単な依頼だった。だが、その村に行ける唯一の橋が洪水によって流され、期日までに辿りつくことができなかった。
近くに住む人々は、この地方にこんなに大雨が降ったことなんて今までになかったよ、と口々に言っていた……。
――二回目の依頼。
ある森の奥に蜂の群生地帯があり、その巣の蜂蜜を取ってきてほしいという簡単な依頼だった。ドビー達が現場に着いたとき、蜂の巣を全て叩き壊し、美味しそうに蜂蜜を舐める巨大な熊の雑魔がいた。彼らは逃げ帰った。
――三回目の依頼。
洞窟に住み着いたコボルドを討伐するだけの簡単な依頼だった。洞窟に行ってみると、なぜかコボルドはワイバーンを飼いならしていた。巨大な飛竜を前に彼らは尻尾をまいて退散した。
……などなど。
正直、呪われているとかしか思えない偶然が連続した。いつしか、ドビーは不幸を呼ぶ男としてハンター達の間で知られるところとなり、地元の街では誰も彼を仲間に加えることはなくなってしまったのである。
●もう不幸な男とは呼ばせない
「こ、今度こそは……」
ドビーはうつろな目で古都アークエルスにあるハンターオフィスの扉を開けた。受付嬢は彼の方を振り向き、ぎょっと顔を引きつらせた。彼女はカウンターから素早く抜け出てくる。
「だ、大丈夫ですか!? ひ、人を呼びましょうか!?」
「……いえ、結構です」
ひょっとして死相でも出ているのだろうかと、ドビーは自分の顔をなでる。いまだ心配顔の受付嬢の誤解を解く為にも、自分が何者であるのかを手短に話した。
ドビーの言葉を聞いた受付嬢は、自分の勘違いを恥じてごまかし笑いをしながら頬をかく。
「なんだ、ハンターさんだったんですか。いやあ、私はてっきり……」
てっきり、何に見えたのか聞きたくなったドビーだったが、落ち込みそうな答えが返ってきそうだったのでやめた。
ドビーは背筋を伸ばし、カウンターの向こうへと戻っていった受付嬢の前に立つ。
「ハンターとして、依頼を受けたいのですが」
「はいはい。大丈夫ですよ。ええっと、おそらく駆け出しの方ですよね?」
「……一応は」
本当は依頼を受けた回数がすでに二桁を超えている、などとはもちろん言えない。解決した数が0であることなど、なおのこと言えるわけがない。
受付嬢はふんふんと頷きながら卓上の資料をめくる。
「なるほど、ではこれなんかどうでしょう? 村がゴブリンの一団に占領されてしまって。ちょうど今、そこを取り返すメンバーを集めようと思っていたんです」
一瞬顔を輝かせるドビー。彼もハンターのはしくれ。ゴブリンくらいなら、仲間さえ集まればきっと勝てるはずである。
しかし、ドビーの脳裏に過去のことがよぎった。
――だが、待て! このパターンに何度煮え湯を飲まされたと思っている?
ドビーは承諾の返事をする前に、彼女に念を押した。
「……それ、本当にゴブリンしかいないんですよね!? ゴブリンの後ろに凄い歪虚がいるとかありませんよね!?」
「え、ええ……目撃情報があるのはゴブリンとホブゴブリンだけです。ゴブリンがよく使役するリトルラプターも見かけなかったそうですよ」
「そ、そうですか……!」
ドビーは体を震わせる。もちろんそれは歓喜によるものだ。この依頼を解決し、不幸を呼ぶ男などという不名誉なあだ名からおさらばするのだ!
「……その依頼、受けます! 受けさせてください!!」
今度こそはいける! そう確信したドビーは元気一杯に叫んだ。
●新たなる支配
その日の夜。
かつて人の活気であふれていたであろう一つの村。
今では、ゴブリン達によって占拠されている。
村の中央でかがり火を焚き、彼らは略奪した食物を飲み食いしていた。しかし、その表情は冴えない。
一体のゴブリンは隣に座る同族を肘でつつく。
「ナア……俺タチ、コレカラ、ドウナル?」
「……ワカラナイ。デモ、今ハアイツラニツイテ行クシカ……」
話しかけられたゴブリンは陰鬱な表情で答える。
「……ヤット逃ゲテキタノニ、ナンデコウナッタンダロウナ……」
「……」
ゴブリンは返す言葉を見つけることが出来ず、手の中の肉に噛み付く。そこに、突然高いところから声が降ってきた。
「おいおい。なァにをこそこそと話しているんだァ?」
「ヒイッ……!!」
その場にいたゴブリン達は、一斉に立ち上がり、気をつけをした。そして、声の主を恐る恐る見あげる。それは力自慢のホブゴブリンとて例外ではない。
身の丈が3、4メートルはあるだろうか。額には数本の角が生えており、焚き火に照らされるその顔は不気味に歪んだ笑みに彩られている。
巨大な人影はゴブリン達を見下ろし、大きな口を開いた。
「そうビクビクすんなよォ……オレ達は仲間だろォ? 北の大峡谷から逃げてきたお前らに、今もこうして美味いもん食わしてやってんだしなァ?」
「ハ、ハイッ!!」
「ククッ……今はせいぜい楽しんでおけよォ……近い内にまた働いてもらうからなァ……なんせ……」
巨人はすばやく腕を伸ばして目の前のゴブリンをつかみ、自分の口元に持っていくとその頭にかぶりついた。
「お前達がグズなせいで美味いニンゲンどもにありつけなかったんだからなァァァァァ!!」
「ウギャアアアアアアア!! タスケ……」
巨人は牙の生えたあぎとを再度ゴブリンに食い込ませる。頭蓋骨ごと貪られた亜人は悲鳴の途中で絶命した。
「アア……まずい、まずいぜェ……ゴブリンはよォ……!!」
ぺっ、と血と肉片を撒き散らし、巨人はゴブリンの死骸を投げ捨てた。ゴブリン達はただただ震え、その怒りが自分に降ってこないことを願うだけだ。
彼らに逆らう気力はない。実力差は出会った初日に見せつけられている。何体ものゴブリンとホブゴブリンを犠牲にして。
「ま、そういうことだァ……次こそはちゃんとやれよォ……?」
怒りと空腹が収まったのか、巨人はそれだけ口にするとゴブリン達に背を向けた。
ゴブリン達は力なく座り込む。巨人の数が一体だけならどうとでもなったかもしれない。しかし、あの巨人達は五体もいる。どう逆立ちしたって勝てるわけがない。逃げ出すという考えもないことはなかったが、もし連中に見つかったらどうなるか……想像するのも恐ろしい。
ゴブリン達の目に、追い詰められた者特有の危険な光が灯る。
生き残るにはあいつらの機嫌を損ねないようにするしかない。
次の村では、必ず人間達を捕まえるのだ。必ず。
リプレイ本文
●
「風の噂で聞いているぜ、アタリつきのヤマに鼻が利くそうじゃねえか……何、今度ばかりはゴブリン相手の楽な依頼だってかい。あまりナメてかかるのも感心しねえな。俺達ゃァ、これからタマの奪り合いをしに行くのさ。生半な覚悟じゃァ、出来る事も仕損ねちまうぜ」
J・D(ka3351)は一緒に依頼を解決する仲間となったドビーをたしなめた。
「まーまー、不幸を呼ぶってーのも、悪くないジンクスじゃないか? 強敵がきたって倒せばチャンスだぜ」
猿越 浩(ka4873)もドビーの噂を知っている者の一人だ。何でも、ドビーが依頼を受けると予期せぬ不幸が起きるという。
(……不幸を呼ぶ男、ねぇ。噂を聞く限りじゃ、どうも本物みたいじゃねぇか。さて、今回のゴブリン退治、果たして鬼が出るか蛇が出るか)
アリクス(ka4200)も何かが起きるかもしれないという予感を持っていた。それだけ、目の前の男にまつわる噂話は多いのだ。
「俺達があんたにツキを呼んでやるさ、ドビー」
ドビーの気負いを払おうとしてか、彼の肩を叩くアリクス。
「不幸? を、呼ぶのですか??? ふむー」
三鷹 璃袈(ka4427)もドビーをじっと見つめる。
「でもでも、それだけトラブルに巻き込まれて、未だにご健在なのを見るとむしろ不幸の中から幸いを掴み取る才能があるんじゃないでしょうか」
「……いや、それはちょっと……」
一瞬頷きかけたドビーだったが、嬉しくないのか彼女に突っ込みを入れる。
「ままま! なんにしろ、今回は大丈夫ですよ。あたし達が一緒に頑張りますからっ」
璃袈はにこにこと笑う。ドビーは今回の仲間はいつもと違うかも、という期待を込めて、もう一度頭を下げた。
●
(アイツ、ドビーっつったか? 聞いてみりゃ不幸だなんだっつー話だが、そりゃアレだ。嫌な出来事ほど強く記憶に残んだよ)
ハガクレ・フルマル(ka2126)はそう心の中で呟きながらゴブリンに支配されたという村の様子を窺っていた。
「ったく、男子たる者、俺みたいに何事にも動じない心胆を持……巨人がいるぅー!?」
遠目にも明らかにサイズが違う、巨大な存在を視認したフルマルはすっとんきょうな声を上げた。幸い、気付かれた様子はない。
「マジかよ!? あわわ……声を出すな俺、まずは迅速に偵察を済ませるんだ……」
気を取り直し、偵察を継続するフルマル。
「ドビーのあの異名……あながち間違いではない様なのだ」
フルマルと同じように偵察の役目を果たしていたサレン・R・シキモリ(ka0850)も巨人の姿を発見していた。状況を把握するためにより深くへと進入するサレン。
二人はどちらも敵に見つかることはなく、自分達の仕事を無事遂行する。仲間への連絡の為、まだ震える手で魔導短伝話に向かって口を開くフルマル。
「おおお落ち着いて聞け……なんかパねえのいた。マジヤバかった。おい伝話カタカタうるせーよ、落ち着いて聞けって」
魔導短伝話がカタカタ鳴っているのは自分の手が震えているせいだったが、それはさておき。
報告を受け、榊 兵庫(ka0010)は仲間達を振り返った。
「念の為に偵察して貰って助かったというべきか。まあ、最初の情報と実際の状況が食い違っているとか、ないわけではないから、ここで嘆いても仕方ないな。後でオフィスの方に報告して、追加の報酬を貰うこととしようぜ」
冗談なのか本気なのかわからない言葉を述べる兵庫。
仲間達は偵察班からの情報を元に作戦を練り始めた。
●
ハンター達はタイミングを合わせて行動を開始した。
まずはJ・Dのカービン「プフェールトKT9」が火を吹き、一体のゴブリンの頭を吹き飛ばす。
うろたえるゴブリンの群れに、さらなる追撃が撃ち込まれた。
「鴨撃ちって奴ね?」
まだ動揺の最中にいるホブゴブリンをライフル「ミーティアAT7」で狙撃するケイ(ka4032)。敵は悲鳴をあげ、倒れた。
その中に突撃する戦士達。
ようやく事態を飲み込めたゴブリン達は皆得物を手にし、侵入者達へと駆け出した。
兵庫は片鎌槍を振りかぶる。迫る一群へと、『薙ぎ払い』を見舞うつもりなのだ。
璃袈は兵庫が大技を放つのに合わせ、『攻性強化』を彼へと用いる。片鎌槍は虚空に見事な半月を描き、殺到したゴブリンの群れを一閃した。兵庫に狙われた三体の亜人は皆絶命し、地に倒れる。
しかしやられた仲間の姿が目に入っていないかのように、彼らはハンター達への攻勢をゆるめない。仲間を一瞬で倒した兵庫にも果敢に向かっていく。
「なんだコイツら、ヤケに必死だな……?」
仲間にプロテクションをかけながら、ゴブリン達の異常さをいぶかしむアリクス。先ほど報告にあった、巨人とやらに関係があるのかもしれない。
「何だか嫌な感じですね~……とは言え、皆で叩けば怖くない、です!」
璃袈はあまり気にした様子もなく、魔導拳銃「エア・スティーラー」で一体のゴブリンを撃つ。
「いろいろ考えられるタチじゃないし、目の前の事に集中するっきゃないぜ!」
浩は言葉の通り、眼前のゴブリンを刀で切り払う。
ゴブリン達が正面しか見てない隙を狙い、戦場へと駆け出した者達がいる。それぞれ機をうかがっていたサレン、フルマルの二人だ。
サレンの『スラッシュエッジ』が一体のゴブリンへと振るわれる。刃が敵を切り裂くが、倒すには至らない。
フルマルも日本刀「白狼」を袈裟懸けに振り下ろす。刀身はゴブリンを捉えたが、それに臆さず敵は武器をフルマルへと突き出す。フルマルは紙一重でそれを回避した。
ドビーは一体の敵と切り結んでいる。不運のジンクスを覆さんと武器を繰り出すが敵も必死だ。ゴブリンの剣がドビーの体を捉える。
ケイはドビーに追撃しようとする敵へと銃口を向ける。弾丸は見事に敵の頭を撃ちぬき、ゴブリンは地面へと倒れた。ほっとひと息をつくドビー。
アリクスはその間に『ヒール』をドビーへと用い、その傷を癒した。
そこに後続のゴブリン達が押し寄せてくる。J・Dは『制圧射撃』で新たな敵の動きを止めると、リボルバー「ヴァールハイト」を引き抜いた。
「それにしたって。襲撃者を追い返すにしちゃァ殺気の立ちようが尋常じゃねえ。まるで薬でもキメていやがる様だ。それとも何かに追い立てられていやがるか……」
「おいおいまさか、美味そうなニンゲンどもがあっちからやって来てくれるとはなァ?」
J・Dの呟きに答えるかのように、戦場に耳障りな声が響いた。
そこにいたのは頭に数本の角を生やした魔物。その背はゆうに三メートルを超えており、醜悪な笑みを浮かべて眼前の獲物達を見回していた。
「……なるほど、鬼が出たかよ」
偵察班から情報として得ていた巨大な敵の正体を目にし、アリクスはそう呟いた。
現れた巨人の数は五体。
その内一体は、J・Dの制圧射撃で足が止まっていたゴブリンへと手を伸ばす。
「!? オネガイタスケ……!」
哀願の途中でゴブリンは物言わぬ肉の塊となった。巨人が彼の体を高く持ち上げ、その頭にかぶりついたのである。
「ククッ……相変わらず不味いが、前菜にはちょうどいいぜェ……!」
口から肉片と血をしたたらせながら、巨人はニヤリと笑った。
「ああ、まただ……やっぱり俺は……」
恐ろしい光景を目にしたドビー。偵察に出たフルマル達の報告を聞いたとき、嫌な予感はしていた。それが現実となってしまった今、その瞳は恐怖と諦めに支配されてしまっている。
震える彼の前に一人の男が立った。
「ドビー、その双眸に焼きつけろ……これがブシスピリットだ」
フルマルである。
彼はドビーと同じように構えた刀と足腰を震わせてはいたものの、敵の姿からは目を逸らさずにそう言ってのけた。
ドビーはそんなフルマルを驚きの視線で見つめている。
「オマエら! さっさと行ってこい!」
「ハ、ハ、ハ、ハイッ!!」
一体の巨人が発した声にゴブリン達は震えあがり、生き延びたい一心で駆け出した。
「ドビー、腰を抜かしてねえで、ゴブリン退治を手伝ってやんな。フルマルも前に出ねえか、情けのねえ。ケツを蹴ッ飛ばしちまうぜ」
彼なりの言葉で味方を激励するJ・D。兵庫もドビーへと元軍人らしい新兵叱咤の罵詈雑言を浴びせた。
ドビーは彼らの言葉にがくがくと頷き、巨人から離れるように一体のゴブリンへと挑んでいく。フルマルも巨人へと切りかかる……と見せかけて途中で方向転換した。
フルマルへと殴りかかった巨人は虚をつかれ、たたらを踏む。逃げていくフルマルの後を追い、巨人も駆け出す。
もちろん、これは敵を引き付けるフルマルの作戦だ。『瞬脚』と『マルチステップ』を併用し、一定の距離を保ちながらフルマルは巨人との追いかけっこを開始する。
「どうにもこいつら、俺達への色目の使い方がゾッとさせやがる。熱っぺえのは好みじゃねえ。コールドショットで一匹ずつ頭を冷やしな」
J・Dの『レイターコールドショット』が巨体の右足を抉った。油断していた巨人は激痛と冷気に悲鳴をあげ、うずくまる。その隙を逃さず、ケイもトリガーを引いた。眉間を貫かれた敵は大きな音を立てて地面へと倒れ、ぴくりとも動かない。
巨人達の間に緊張が走り、口元から笑みが消えた。ハンター達が獲物ではなく、恐るべき敵だということに気付いたのだ。巨人達は足音を響かせ、ハンター達へと襲い掛かってきた。
再び『薙ぎ払い』でゴブリン達を始末した兵庫。まだゴブリンの姿は残っているものの、今はこの強敵に対処すべきと考え、一体の巨人を迎えうつ。
巨人が丸太のような腕を兵庫へと叩き付けた。当たれば致命傷になりかねない攻撃を、兵庫はステップして回避する。
「……デカ物、が! とっととくたばりやがれ!」
言葉と共に彼の『渾身撃』が巨人の胴体を一閃した。ゴブリンを一撃で倒してしまう彼の斬撃を受けても、巨人はまだ動いている。恐るべき生命力であった。
浩の『疾風剣』が巨人の膝を狙う。動きが遅い敵はその一撃を避けることが出来ず、血しぶきがあがった。しかし、巨人は動じない。『剣心一如』によって強化されていたにも関わらずだ。むしろ、飛び込んできてくれた相手に対して笑みを浮かべている。
すぐさま右の拳が握られ、浩へと襲い掛かる。浩は刀で身を庇う。それと同時に光の防壁が彼の周囲を覆った。璃袈が咄嗟に『防御障壁』を浩の側に展開したのだ。しかし、巨人の拳は浩の刀、璃袈の『防御障壁』をやすやすと突破し、浩をしたたかに打ちつけた。
浩は弾き飛ばされ、地へと倒れた。アリクスは浩の大きな傷を癒す為にスキルの詠唱を開始する。
追撃しようとした敵を邪魔するように、サレンが懐へと飛び込んだ。巨人の体を踏み台とし、ナイフで目を狙うサレンであったが、それは果たせず、胸を浅く切り裂くにとどまった。
うるさそうに振られた腕をサレンは全身にマテリアルを張り巡らし、バク転後方着地という派手な動きで回避してのけた。
「図体ばかり大きければいいという問題でもない。小さければ小さいなりに戦い方はあるものなのだ」
サレンはナイフを手に巨大な敵と対峙した。
●
最後のゴブリンを何とか切り伏せたドビー。そんな彼に巨人が迫る。そこに、一発の銃声が響き、巨人はよろめいた。
巨人を狙ったのはケイであった。彼女はドビーを狙う敵がいる場合、それを優先的に妨害しようと考えていた。彼女にとって、ドビーは子守の対象のようなものであった。しかし巨人はまだ倒れない。ドビーも近づく気配に気付き、顔を向けると悲鳴をあげる。
「チッ、下がってな!」
アリクスが聖剣「ラストホープ」を手に、巨人との間に割って入る。アリクスを新たなターゲットにした敵は腕を思い切り振った。それを何とか剣で受けて衝撃を殺し、致命傷をさけるアリクス。返す刀で足の腱を狙うが、まだ巨人は倒れない。
仲間の危機を救うため、J・Dのリボルバーが火を吹く。
それは狙い通りに命中し、巨人は大の字となって地面へと横たわる。
「ナイスだぜ、J・D!」
アリクスは酒飲み仲間の彼に感謝の言葉を贈った。
巨人を一人で抑え込んでいた兵庫はついに敵を槍の餌食とする。心臓を貫かれ、倒れる巨人。
そこにフルマルが戻ってきた。もちろんその後ろからは巨人が彼の背を追いかけている。彼の作戦に乗せられたことに気付き、怒りに任せて突進してくる巨人。
フルマルは立ち止まり、敵へと向き直る。ドビーへとブシスピリットを見せるためであろう。
フルマルの『スラッシュエッジ』が刀に乗り、宙を一閃した。巨体を切り裂くが、倒すには至らない。
巨人の拳が彼の胴体へと命中する。それは怒りに任せて繰り出された、恐るべき威力が秘められた一撃であった。
璃袈が使った最後の『防御障壁』のおかげで威力は殺されたものの、彼は遠くまで弾き飛ばされる。
「う、うおおおおおおお!」
ドビーは自分と同じように震えていた彼が果敢に挑んでいったのを見、雄たけびをあげながら巨人へと向かう。
ドビーの剣は浅くながら、敵の足を傷つけた。もちろんそれで巨人の動きは止まらない。巨人は新たな敵を見据える。ドビーは怯えながらもその目を見返した。
「よくやった! ドビー!」
新兵を褒める教官のような心境で、駆けつけた兵庫は槍を巨人へと突き刺した。そこにJ・D達の射撃が飛ぶ。巨人はついに絶命した。
最後に残る一体もサレンと浩が二人がかりで何とか抑え込んでいた。璃袈の銃がとどめの一撃となり、ついに恐るべき敵は全滅した。
●
「なんというか……申し訳ない」
勝利は収めたものの、仲間達が負ったダメージは大きい。アリクスは『ヒール』を全て使ったが、それでもまだハンター達の体に傷が残されている。ドビーはそんな仲間達を見て、深く頭を下げた。
兵庫は顎に手をあて、彼を見据えている。
「……まさか、今回の事を、自分のせい、なんて思い上がってはいないよな。そんなつまらない事を考える暇があるのならば、どんな状況でも対応出来るように腕を磨け」
ドビーは兵庫の言葉に顔を上げた。まさに、そう思っていたからだ。
「へっ……この程度の不幸、誤差の範囲だったな。いいかドビー、要は、不幸をモノともしねーほど強くなりゃいいのさ」
手ひどい打撃を受けたフルマルも、いわゆるドヤ顔でドビーへと言葉をかけた。
「びっくりドッキリ系依頼だったわね」
「完徹したと思えばこれしき問題ないのだ」
話に聞いていた内容と食い違う結果に軽口を叩くケイ。夜型人間らしいサレンは日差しがつらいらしいが、仕事は別のようで帽子を深く被りながらもそう口にしている。
ハンター達は誰もドビーを責めたりはしない。
――自分に付けられた二つ名を気にすることはもうやめよう。
ドビーは仲間達を見回し、新たな一歩を踏み出すことを決意したのだった。
「風の噂で聞いているぜ、アタリつきのヤマに鼻が利くそうじゃねえか……何、今度ばかりはゴブリン相手の楽な依頼だってかい。あまりナメてかかるのも感心しねえな。俺達ゃァ、これからタマの奪り合いをしに行くのさ。生半な覚悟じゃァ、出来る事も仕損ねちまうぜ」
J・D(ka3351)は一緒に依頼を解決する仲間となったドビーをたしなめた。
「まーまー、不幸を呼ぶってーのも、悪くないジンクスじゃないか? 強敵がきたって倒せばチャンスだぜ」
猿越 浩(ka4873)もドビーの噂を知っている者の一人だ。何でも、ドビーが依頼を受けると予期せぬ不幸が起きるという。
(……不幸を呼ぶ男、ねぇ。噂を聞く限りじゃ、どうも本物みたいじゃねぇか。さて、今回のゴブリン退治、果たして鬼が出るか蛇が出るか)
アリクス(ka4200)も何かが起きるかもしれないという予感を持っていた。それだけ、目の前の男にまつわる噂話は多いのだ。
「俺達があんたにツキを呼んでやるさ、ドビー」
ドビーの気負いを払おうとしてか、彼の肩を叩くアリクス。
「不幸? を、呼ぶのですか??? ふむー」
三鷹 璃袈(ka4427)もドビーをじっと見つめる。
「でもでも、それだけトラブルに巻き込まれて、未だにご健在なのを見るとむしろ不幸の中から幸いを掴み取る才能があるんじゃないでしょうか」
「……いや、それはちょっと……」
一瞬頷きかけたドビーだったが、嬉しくないのか彼女に突っ込みを入れる。
「ままま! なんにしろ、今回は大丈夫ですよ。あたし達が一緒に頑張りますからっ」
璃袈はにこにこと笑う。ドビーは今回の仲間はいつもと違うかも、という期待を込めて、もう一度頭を下げた。
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(アイツ、ドビーっつったか? 聞いてみりゃ不幸だなんだっつー話だが、そりゃアレだ。嫌な出来事ほど強く記憶に残んだよ)
ハガクレ・フルマル(ka2126)はそう心の中で呟きながらゴブリンに支配されたという村の様子を窺っていた。
「ったく、男子たる者、俺みたいに何事にも動じない心胆を持……巨人がいるぅー!?」
遠目にも明らかにサイズが違う、巨大な存在を視認したフルマルはすっとんきょうな声を上げた。幸い、気付かれた様子はない。
「マジかよ!? あわわ……声を出すな俺、まずは迅速に偵察を済ませるんだ……」
気を取り直し、偵察を継続するフルマル。
「ドビーのあの異名……あながち間違いではない様なのだ」
フルマルと同じように偵察の役目を果たしていたサレン・R・シキモリ(ka0850)も巨人の姿を発見していた。状況を把握するためにより深くへと進入するサレン。
二人はどちらも敵に見つかることはなく、自分達の仕事を無事遂行する。仲間への連絡の為、まだ震える手で魔導短伝話に向かって口を開くフルマル。
「おおお落ち着いて聞け……なんかパねえのいた。マジヤバかった。おい伝話カタカタうるせーよ、落ち着いて聞けって」
魔導短伝話がカタカタ鳴っているのは自分の手が震えているせいだったが、それはさておき。
報告を受け、榊 兵庫(ka0010)は仲間達を振り返った。
「念の為に偵察して貰って助かったというべきか。まあ、最初の情報と実際の状況が食い違っているとか、ないわけではないから、ここで嘆いても仕方ないな。後でオフィスの方に報告して、追加の報酬を貰うこととしようぜ」
冗談なのか本気なのかわからない言葉を述べる兵庫。
仲間達は偵察班からの情報を元に作戦を練り始めた。
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ハンター達はタイミングを合わせて行動を開始した。
まずはJ・Dのカービン「プフェールトKT9」が火を吹き、一体のゴブリンの頭を吹き飛ばす。
うろたえるゴブリンの群れに、さらなる追撃が撃ち込まれた。
「鴨撃ちって奴ね?」
まだ動揺の最中にいるホブゴブリンをライフル「ミーティアAT7」で狙撃するケイ(ka4032)。敵は悲鳴をあげ、倒れた。
その中に突撃する戦士達。
ようやく事態を飲み込めたゴブリン達は皆得物を手にし、侵入者達へと駆け出した。
兵庫は片鎌槍を振りかぶる。迫る一群へと、『薙ぎ払い』を見舞うつもりなのだ。
璃袈は兵庫が大技を放つのに合わせ、『攻性強化』を彼へと用いる。片鎌槍は虚空に見事な半月を描き、殺到したゴブリンの群れを一閃した。兵庫に狙われた三体の亜人は皆絶命し、地に倒れる。
しかしやられた仲間の姿が目に入っていないかのように、彼らはハンター達への攻勢をゆるめない。仲間を一瞬で倒した兵庫にも果敢に向かっていく。
「なんだコイツら、ヤケに必死だな……?」
仲間にプロテクションをかけながら、ゴブリン達の異常さをいぶかしむアリクス。先ほど報告にあった、巨人とやらに関係があるのかもしれない。
「何だか嫌な感じですね~……とは言え、皆で叩けば怖くない、です!」
璃袈はあまり気にした様子もなく、魔導拳銃「エア・スティーラー」で一体のゴブリンを撃つ。
「いろいろ考えられるタチじゃないし、目の前の事に集中するっきゃないぜ!」
浩は言葉の通り、眼前のゴブリンを刀で切り払う。
ゴブリン達が正面しか見てない隙を狙い、戦場へと駆け出した者達がいる。それぞれ機をうかがっていたサレン、フルマルの二人だ。
サレンの『スラッシュエッジ』が一体のゴブリンへと振るわれる。刃が敵を切り裂くが、倒すには至らない。
フルマルも日本刀「白狼」を袈裟懸けに振り下ろす。刀身はゴブリンを捉えたが、それに臆さず敵は武器をフルマルへと突き出す。フルマルは紙一重でそれを回避した。
ドビーは一体の敵と切り結んでいる。不運のジンクスを覆さんと武器を繰り出すが敵も必死だ。ゴブリンの剣がドビーの体を捉える。
ケイはドビーに追撃しようとする敵へと銃口を向ける。弾丸は見事に敵の頭を撃ちぬき、ゴブリンは地面へと倒れた。ほっとひと息をつくドビー。
アリクスはその間に『ヒール』をドビーへと用い、その傷を癒した。
そこに後続のゴブリン達が押し寄せてくる。J・Dは『制圧射撃』で新たな敵の動きを止めると、リボルバー「ヴァールハイト」を引き抜いた。
「それにしたって。襲撃者を追い返すにしちゃァ殺気の立ちようが尋常じゃねえ。まるで薬でもキメていやがる様だ。それとも何かに追い立てられていやがるか……」
「おいおいまさか、美味そうなニンゲンどもがあっちからやって来てくれるとはなァ?」
J・Dの呟きに答えるかのように、戦場に耳障りな声が響いた。
そこにいたのは頭に数本の角を生やした魔物。その背はゆうに三メートルを超えており、醜悪な笑みを浮かべて眼前の獲物達を見回していた。
「……なるほど、鬼が出たかよ」
偵察班から情報として得ていた巨大な敵の正体を目にし、アリクスはそう呟いた。
現れた巨人の数は五体。
その内一体は、J・Dの制圧射撃で足が止まっていたゴブリンへと手を伸ばす。
「!? オネガイタスケ……!」
哀願の途中でゴブリンは物言わぬ肉の塊となった。巨人が彼の体を高く持ち上げ、その頭にかぶりついたのである。
「ククッ……相変わらず不味いが、前菜にはちょうどいいぜェ……!」
口から肉片と血をしたたらせながら、巨人はニヤリと笑った。
「ああ、まただ……やっぱり俺は……」
恐ろしい光景を目にしたドビー。偵察に出たフルマル達の報告を聞いたとき、嫌な予感はしていた。それが現実となってしまった今、その瞳は恐怖と諦めに支配されてしまっている。
震える彼の前に一人の男が立った。
「ドビー、その双眸に焼きつけろ……これがブシスピリットだ」
フルマルである。
彼はドビーと同じように構えた刀と足腰を震わせてはいたものの、敵の姿からは目を逸らさずにそう言ってのけた。
ドビーはそんなフルマルを驚きの視線で見つめている。
「オマエら! さっさと行ってこい!」
「ハ、ハ、ハ、ハイッ!!」
一体の巨人が発した声にゴブリン達は震えあがり、生き延びたい一心で駆け出した。
「ドビー、腰を抜かしてねえで、ゴブリン退治を手伝ってやんな。フルマルも前に出ねえか、情けのねえ。ケツを蹴ッ飛ばしちまうぜ」
彼なりの言葉で味方を激励するJ・D。兵庫もドビーへと元軍人らしい新兵叱咤の罵詈雑言を浴びせた。
ドビーは彼らの言葉にがくがくと頷き、巨人から離れるように一体のゴブリンへと挑んでいく。フルマルも巨人へと切りかかる……と見せかけて途中で方向転換した。
フルマルへと殴りかかった巨人は虚をつかれ、たたらを踏む。逃げていくフルマルの後を追い、巨人も駆け出す。
もちろん、これは敵を引き付けるフルマルの作戦だ。『瞬脚』と『マルチステップ』を併用し、一定の距離を保ちながらフルマルは巨人との追いかけっこを開始する。
「どうにもこいつら、俺達への色目の使い方がゾッとさせやがる。熱っぺえのは好みじゃねえ。コールドショットで一匹ずつ頭を冷やしな」
J・Dの『レイターコールドショット』が巨体の右足を抉った。油断していた巨人は激痛と冷気に悲鳴をあげ、うずくまる。その隙を逃さず、ケイもトリガーを引いた。眉間を貫かれた敵は大きな音を立てて地面へと倒れ、ぴくりとも動かない。
巨人達の間に緊張が走り、口元から笑みが消えた。ハンター達が獲物ではなく、恐るべき敵だということに気付いたのだ。巨人達は足音を響かせ、ハンター達へと襲い掛かってきた。
再び『薙ぎ払い』でゴブリン達を始末した兵庫。まだゴブリンの姿は残っているものの、今はこの強敵に対処すべきと考え、一体の巨人を迎えうつ。
巨人が丸太のような腕を兵庫へと叩き付けた。当たれば致命傷になりかねない攻撃を、兵庫はステップして回避する。
「……デカ物、が! とっととくたばりやがれ!」
言葉と共に彼の『渾身撃』が巨人の胴体を一閃した。ゴブリンを一撃で倒してしまう彼の斬撃を受けても、巨人はまだ動いている。恐るべき生命力であった。
浩の『疾風剣』が巨人の膝を狙う。動きが遅い敵はその一撃を避けることが出来ず、血しぶきがあがった。しかし、巨人は動じない。『剣心一如』によって強化されていたにも関わらずだ。むしろ、飛び込んできてくれた相手に対して笑みを浮かべている。
すぐさま右の拳が握られ、浩へと襲い掛かる。浩は刀で身を庇う。それと同時に光の防壁が彼の周囲を覆った。璃袈が咄嗟に『防御障壁』を浩の側に展開したのだ。しかし、巨人の拳は浩の刀、璃袈の『防御障壁』をやすやすと突破し、浩をしたたかに打ちつけた。
浩は弾き飛ばされ、地へと倒れた。アリクスは浩の大きな傷を癒す為にスキルの詠唱を開始する。
追撃しようとした敵を邪魔するように、サレンが懐へと飛び込んだ。巨人の体を踏み台とし、ナイフで目を狙うサレンであったが、それは果たせず、胸を浅く切り裂くにとどまった。
うるさそうに振られた腕をサレンは全身にマテリアルを張り巡らし、バク転後方着地という派手な動きで回避してのけた。
「図体ばかり大きければいいという問題でもない。小さければ小さいなりに戦い方はあるものなのだ」
サレンはナイフを手に巨大な敵と対峙した。
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最後のゴブリンを何とか切り伏せたドビー。そんな彼に巨人が迫る。そこに、一発の銃声が響き、巨人はよろめいた。
巨人を狙ったのはケイであった。彼女はドビーを狙う敵がいる場合、それを優先的に妨害しようと考えていた。彼女にとって、ドビーは子守の対象のようなものであった。しかし巨人はまだ倒れない。ドビーも近づく気配に気付き、顔を向けると悲鳴をあげる。
「チッ、下がってな!」
アリクスが聖剣「ラストホープ」を手に、巨人との間に割って入る。アリクスを新たなターゲットにした敵は腕を思い切り振った。それを何とか剣で受けて衝撃を殺し、致命傷をさけるアリクス。返す刀で足の腱を狙うが、まだ巨人は倒れない。
仲間の危機を救うため、J・Dのリボルバーが火を吹く。
それは狙い通りに命中し、巨人は大の字となって地面へと横たわる。
「ナイスだぜ、J・D!」
アリクスは酒飲み仲間の彼に感謝の言葉を贈った。
巨人を一人で抑え込んでいた兵庫はついに敵を槍の餌食とする。心臓を貫かれ、倒れる巨人。
そこにフルマルが戻ってきた。もちろんその後ろからは巨人が彼の背を追いかけている。彼の作戦に乗せられたことに気付き、怒りに任せて突進してくる巨人。
フルマルは立ち止まり、敵へと向き直る。ドビーへとブシスピリットを見せるためであろう。
フルマルの『スラッシュエッジ』が刀に乗り、宙を一閃した。巨体を切り裂くが、倒すには至らない。
巨人の拳が彼の胴体へと命中する。それは怒りに任せて繰り出された、恐るべき威力が秘められた一撃であった。
璃袈が使った最後の『防御障壁』のおかげで威力は殺されたものの、彼は遠くまで弾き飛ばされる。
「う、うおおおおおおお!」
ドビーは自分と同じように震えていた彼が果敢に挑んでいったのを見、雄たけびをあげながら巨人へと向かう。
ドビーの剣は浅くながら、敵の足を傷つけた。もちろんそれで巨人の動きは止まらない。巨人は新たな敵を見据える。ドビーは怯えながらもその目を見返した。
「よくやった! ドビー!」
新兵を褒める教官のような心境で、駆けつけた兵庫は槍を巨人へと突き刺した。そこにJ・D達の射撃が飛ぶ。巨人はついに絶命した。
最後に残る一体もサレンと浩が二人がかりで何とか抑え込んでいた。璃袈の銃がとどめの一撃となり、ついに恐るべき敵は全滅した。
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「なんというか……申し訳ない」
勝利は収めたものの、仲間達が負ったダメージは大きい。アリクスは『ヒール』を全て使ったが、それでもまだハンター達の体に傷が残されている。ドビーはそんな仲間達を見て、深く頭を下げた。
兵庫は顎に手をあて、彼を見据えている。
「……まさか、今回の事を、自分のせい、なんて思い上がってはいないよな。そんなつまらない事を考える暇があるのならば、どんな状況でも対応出来るように腕を磨け」
ドビーは兵庫の言葉に顔を上げた。まさに、そう思っていたからだ。
「へっ……この程度の不幸、誤差の範囲だったな。いいかドビー、要は、不幸をモノともしねーほど強くなりゃいいのさ」
手ひどい打撃を受けたフルマルも、いわゆるドヤ顔でドビーへと言葉をかけた。
「びっくりドッキリ系依頼だったわね」
「完徹したと思えばこれしき問題ないのだ」
話に聞いていた内容と食い違う結果に軽口を叩くケイ。夜型人間らしいサレンは日差しがつらいらしいが、仕事は別のようで帽子を深く被りながらもそう口にしている。
ハンター達は誰もドビーを責めたりはしない。
――自分に付けられた二つ名を気にすることはもうやめよう。
ドビーは仲間達を見回し、新たな一歩を踏み出すことを決意したのだった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/06 05:04:50 |
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作戦相談卓 アリクス(ka4200) 人間(クリムゾンウェスト)|25才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/05/08 21:33:56 |