ゲスト
(ka0000)
出会いはパウンドケーキと共に。
マスター:蓮華・水無月

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~8人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/07/10 22:00
- 完成日
- 2014/07/25 19:50
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
お気に入りのお菓子屋さんの紙袋を手に、ご機嫌な気分でアンヌは街を歩いていた。今日はちらほら雲は見られるものの良いお天気で、だからますます気分が良い。
冒険都市リゼリオ、その一角にあるお菓子屋さんが、最近のアンヌのお気に入りだった。このところ、数日と空けずに通っては、何かしらのお菓子を購入していっている。
前からあったのを気付かなかっただけなのか、最近出来たのか、あまり人通りのない通りの一角にひっそりと建つ、そのお店『レディ・ブルー』に気付いたのはひと月ほど前のこと。古めかしくも、新しくも感じられる店構えに少し気後れしながら入ったアンヌは、そこで売られていた数々のお菓子に魅了されたのだ。
今日もどっしりとした重みを持つ、木の実やドライフルーツがどっさり入ったパウンドケーキを購入して、今から食べるのが楽しみで仕方がなかった。家族と一緒に食べようと、奮発して1本丸々買ったからなおさらだ。
(せっかくだから、公園でも散歩して帰ろうかな?)
こんなご機嫌な気分でただ真っ直ぐに家に帰るのももったいないと、アンヌは家から歩いてすぐの所にある公園に足を向けた。ぐるりと公園をめぐる散歩道を歩くのも、ちょっと気持ち良さそうだ。
公園は辺りの住民がよく散歩したり、日向ぼっこしたり、かと思えば子供たちが元気に走り回っていたりして、一巡りするのに30分ほどはかかるくらいの、ちょっとした広さがあった。たまに大道芸を披露していたり、かと思えば籠に入れた花を売る娘や、地面に敷いた布に手作りのアクセサリーを並べた露店があったりして、アンヌも子供の頃から数え切れないくらい遊びに来た公園である。
今日もそういった賑やかしの人々と、それを眺めたり、はたまた関係なく友人同士でくつろいでいる姿を見ながら、どうしようかな、と考えた。そうして、そろそろ夏の緑が綺麗な散歩道の方を歩こうかと、足を向けたアンヌはその瞬間、ドン! と誰かに思い切りぶつかってしまう。
「きゃ……ッ!?」
「うわ……ッと、大丈夫ですか?」
――どさ……ッ
衝撃に、手に持っていた紙袋を落として悲鳴を上げたアンヌに、同じく驚いた男性の声が重なった。そうしてアンヌの落とした紙袋を拾い上げ、どうぞ、と渡してくれる。
ありがとうございますと受け取った、アンヌは男性の手にも同じ紙袋があることに気がついた。持ち手のついた白い紙袋には、『レディ・ブルー』の看板と同じ、花の上で蝶と遊ぶ猫の絵が描かれている。
それに、拾ってくれた男性も気が付いたようだった。あ、と目を丸くしたあと、どこか決まりが悪そうに「はは」と笑う。
「貴女もあのお店でお菓子を買ったんですね」
「はい。何だか美味しくて、気に入ってしまって――あの、ありがとうございました。今日はパウンドケーキを買って、家族で食べるつもりだったんです」
「それはますます奇遇だなぁ! 僕もパウンドケーキを買ったんですよ。娘の誕生日のお祝いに、一緒に食べようと思って」
「あら、きっと娘さんも喜んでくれますわ。だって、『レディ・ブルー』のお菓子は本当に美味しくて、それから何だかお洒落なんですもの」
なんて良いお父さんなのかしらと、アンヌはすっかりこの男性に親近感を覚えてそう言った。そうして目に入った花売りの娘から、一番綺麗に咲いているひまわりの花束を買って、娘さんへとプレゼントする。
男性は恐縮していたものの、これも何かの縁ですから、と言うとそれもそうだと受け取ってくれた。実際、決して狭くはないこのリゼリオで、同じお菓子屋さんで同じパウンドケーキを買った2人が、偶然同じ公園に居てぶつかるなんて、奇縁としか言いようがない。
それですっかり機嫌を良くしたアンヌは、学校から帰ってくる娘と待ち合わせているから、と公園の奥の方へ向かう男性と別れ、散歩などすっかり忘れて帰宅した。けれどもご機嫌なまま紙袋を開けて、中に入っていたものに愕然とする。
何しろ中から綺麗な花の縁取りのカードが出てきて、そこにはこう書いてあったのだ。
『愛するベツィーへ
10歳の誕生日おめでとう。
今日という日をお前が元気に迎えられて、本当に嬉しい。
きっと母さんも空の上で、元気なお前の姿を見て喜んでいることだろう。
どうか今年もお前が健やかに過ごせますように。
心から愛しているよ。
カルロス』
「これ……あの人の娘さんへの誕生日カード……?」
そう思い至ってアンヌはさっと顔色を変えた。きっと拾ってもらった時に、あの男性は――きっとこのカードのカルロスと言うのが彼の名前だろう――間違って、自分の分をアンヌに渡してしまったのに違いない。
大変だ、と慌ててアンヌはカードを紙袋に投げ込んで、公園へと駆け戻った。パウンドケーキだけならともかく、このカードはカルロスが娘のために心をこめて書いたものなのだから、何とかして届けてあげなければいけない。
だからアンヌは、まだこの公園に居てくれる事に望みをかけて、目に付いた人にこう尋ねた。
「すみません! あの、この辺りでこれと同じ紙袋を持った男性を見ませんでしたか!?」
冒険都市リゼリオ、その一角にあるお菓子屋さんが、最近のアンヌのお気に入りだった。このところ、数日と空けずに通っては、何かしらのお菓子を購入していっている。
前からあったのを気付かなかっただけなのか、最近出来たのか、あまり人通りのない通りの一角にひっそりと建つ、そのお店『レディ・ブルー』に気付いたのはひと月ほど前のこと。古めかしくも、新しくも感じられる店構えに少し気後れしながら入ったアンヌは、そこで売られていた数々のお菓子に魅了されたのだ。
今日もどっしりとした重みを持つ、木の実やドライフルーツがどっさり入ったパウンドケーキを購入して、今から食べるのが楽しみで仕方がなかった。家族と一緒に食べようと、奮発して1本丸々買ったからなおさらだ。
(せっかくだから、公園でも散歩して帰ろうかな?)
こんなご機嫌な気分でただ真っ直ぐに家に帰るのももったいないと、アンヌは家から歩いてすぐの所にある公園に足を向けた。ぐるりと公園をめぐる散歩道を歩くのも、ちょっと気持ち良さそうだ。
公園は辺りの住民がよく散歩したり、日向ぼっこしたり、かと思えば子供たちが元気に走り回っていたりして、一巡りするのに30分ほどはかかるくらいの、ちょっとした広さがあった。たまに大道芸を披露していたり、かと思えば籠に入れた花を売る娘や、地面に敷いた布に手作りのアクセサリーを並べた露店があったりして、アンヌも子供の頃から数え切れないくらい遊びに来た公園である。
今日もそういった賑やかしの人々と、それを眺めたり、はたまた関係なく友人同士でくつろいでいる姿を見ながら、どうしようかな、と考えた。そうして、そろそろ夏の緑が綺麗な散歩道の方を歩こうかと、足を向けたアンヌはその瞬間、ドン! と誰かに思い切りぶつかってしまう。
「きゃ……ッ!?」
「うわ……ッと、大丈夫ですか?」
――どさ……ッ
衝撃に、手に持っていた紙袋を落として悲鳴を上げたアンヌに、同じく驚いた男性の声が重なった。そうしてアンヌの落とした紙袋を拾い上げ、どうぞ、と渡してくれる。
ありがとうございますと受け取った、アンヌは男性の手にも同じ紙袋があることに気がついた。持ち手のついた白い紙袋には、『レディ・ブルー』の看板と同じ、花の上で蝶と遊ぶ猫の絵が描かれている。
それに、拾ってくれた男性も気が付いたようだった。あ、と目を丸くしたあと、どこか決まりが悪そうに「はは」と笑う。
「貴女もあのお店でお菓子を買ったんですね」
「はい。何だか美味しくて、気に入ってしまって――あの、ありがとうございました。今日はパウンドケーキを買って、家族で食べるつもりだったんです」
「それはますます奇遇だなぁ! 僕もパウンドケーキを買ったんですよ。娘の誕生日のお祝いに、一緒に食べようと思って」
「あら、きっと娘さんも喜んでくれますわ。だって、『レディ・ブルー』のお菓子は本当に美味しくて、それから何だかお洒落なんですもの」
なんて良いお父さんなのかしらと、アンヌはすっかりこの男性に親近感を覚えてそう言った。そうして目に入った花売りの娘から、一番綺麗に咲いているひまわりの花束を買って、娘さんへとプレゼントする。
男性は恐縮していたものの、これも何かの縁ですから、と言うとそれもそうだと受け取ってくれた。実際、決して狭くはないこのリゼリオで、同じお菓子屋さんで同じパウンドケーキを買った2人が、偶然同じ公園に居てぶつかるなんて、奇縁としか言いようがない。
それですっかり機嫌を良くしたアンヌは、学校から帰ってくる娘と待ち合わせているから、と公園の奥の方へ向かう男性と別れ、散歩などすっかり忘れて帰宅した。けれどもご機嫌なまま紙袋を開けて、中に入っていたものに愕然とする。
何しろ中から綺麗な花の縁取りのカードが出てきて、そこにはこう書いてあったのだ。
『愛するベツィーへ
10歳の誕生日おめでとう。
今日という日をお前が元気に迎えられて、本当に嬉しい。
きっと母さんも空の上で、元気なお前の姿を見て喜んでいることだろう。
どうか今年もお前が健やかに過ごせますように。
心から愛しているよ。
カルロス』
「これ……あの人の娘さんへの誕生日カード……?」
そう思い至ってアンヌはさっと顔色を変えた。きっと拾ってもらった時に、あの男性は――きっとこのカードのカルロスと言うのが彼の名前だろう――間違って、自分の分をアンヌに渡してしまったのに違いない。
大変だ、と慌ててアンヌはカードを紙袋に投げ込んで、公園へと駆け戻った。パウンドケーキだけならともかく、このカードはカルロスが娘のために心をこめて書いたものなのだから、何とかして届けてあげなければいけない。
だからアンヌは、まだこの公園に居てくれる事に望みをかけて、目に付いた人にこう尋ねた。
「すみません! あの、この辺りでこれと同じ紙袋を持った男性を見ませんでしたか!?」
リプレイ本文
散歩中に不意に声をかけられて、須藤 要(ka0167)とルシオ・セレステ(ka0673)が振り返ったのは同時だった。そうして、互いに「あれ、自分じゃなかったのかな」と言う顔になってから、2人をじっと見上げている女性に気付く。
それからその女性アンヌの話に、ルシオは申し訳なさそうに首を振った。
「すまない、私は見ていないな」
「俺も。だけど、なんか……カルロスのおっさんもあんたも、どっちもどっちなおっちょこちょいだな」
「う……」
そうして言った要の言葉に、アンヌが真っ赤になって肩を落とす。それに柔らかな苦笑を漏らし、ルシオは紙袋に目を留めた。
花の上で蝶と遊ぶ猫の意匠は、とても可愛らしくて、ケーキ屋の袋にしては随分と凝って居るように感じられる。中に入っているパウンドケーキも、とても美味しそうだ。
『レディ・ブルー』か、と店の名を胸に刻んでから、はた、と気付いてアンヌに微笑んだ。
「いや――つまり人探しかい? 困っているなら力になるよ、お嬢さん」
「たまたま居合わせたのも何かの縁だし、な」
ルシオの言葉に、要もそう頷く。それに、手伝いたいと思うのは私達だけでは無いみたいだね、と不意に向けたルシオの眼差しの先で、リィン・ファナル(ka0225)がまさにひょいとベンチから立ち上がった所だった。
遠くからちらちら見ていたのだけれども、困った様子の女性達が、何だか気になってしまって。だからぱたぱた駆けて来て、リィンはこう問いかけた。
「何かお困りですか? ……どうしたのかな?」
「ねぇ、そこの子達! 何かあったの?」
リィンの言葉に重なって、買い物帰りで休憩中だった辰川 桜子(ka1027)の、興味と心配が半分ずつ位混ざった声が響く。そんな2人にもアンヌが「実は」と事情を説明すると、2人は驚いた表情になった。
何しろ、物はただのケーキではない。娘の誕生日祝いのケーキでありカードなのだから、同じく娘を持つ桜子には他人事ではないし。
リィンにしても、困っているお嬢さんを見過ごせない。だから手伝いを申し出た2人の後ろから、偶然事情が聞こえたロジー・ビィ(ka0296)も、ぜひ、と申し出る。
「お2人の優しさと、娘さんの喜ぶ顔の為に、あたしも一肌脱ぎましょう。ね、セレナ?」
「ええ……」
ロジーがそう振り返ったのに、セレナ・デュヴァル(ka0206)も頷いた。昼寝よりもこちらの方が面白そうだから手伝うよ、とやってきたトト・レヴォーネ(ka1570)が、さてと笑顔で皆を見回す。
「どうやって探そうか? せっかくの娘の誕生日だし、お父さんは格好付けたいんじゃないかな? 大声で探し回るのはやめた方が良いかもね」
「そう、ですね……皆さんとの連携連絡用に、トランシーバーがあれば良かったのですが……」
「そうだねッ! 持ってる人が多いなら、それを連絡手段にしておこうか」
トトの提案に、セレナとリィンがそう話す。幸い、他にもトランシーバーを持ち合わせている人が多かったから、それで話がまとまって。
セレナとロジーはトランシーバーがないため、2人一緒に娘のベツィーを探して父子合流までの時間稼ぎをし、残りがそれまでにカルロスを捜す事にした。そうして周波数を合わせ、それぞれに動き出した中でふと、要はアンヌを振り返る。
「……ああ、そうだ。上手くいったら、俺にもそのお菓子屋の場所、教えてくれよ」
報酬代わりにでも、と悪戯っぽく笑った要に、もちろんですとアンヌは笑った。そうして、トランシーバーを持っていないなら一緒に行かないかと誘ってくれた、リィンの背中を追って走り出したのを見て、今度こそ要も動き出した。
●
カルロスに関しては、目印も背格好も解っているから探しやすい。だからこっそり素早く探そうと、トトは紙袋とひまわりの花束を求めて、公園の中を歩き回る。
そんなトトと同じように桜子も公園の中を、まずはアンヌから聞いた、カルロスが向かった先にあるという噴水目指して足早に移動した。待ち合わせならオブジェなり噴水なり、何か特徴的なものがある場所というのが定石だ。
「――って言っても、そう簡単に見つかんないわよね」
たどり着いた噴水で、ぐるりと辺りを見回した桜子は、さほどの失意も覚えずただ苦笑した。確かに人待ち顔の者は居たけれども、それは見るからに壮年の男性で、しかも手にしているのはひまわりではなくガーベラだ。
少し見ていたら、男性はやってきた若い娘と一緒に、どこかに行ってしまった。あの人も娘さんと待ち合わせだったみたいね、と考えひょいと肩を竦める。
ベツィーちゃんってどんな子なのかしらねと、何とはなしに自分の娘を思い出しながらトランシーバーを取り出した、桜子からの連絡を受けてリィンは、うーん、と考え込んだ。彼女もまたカルロスが待ち合わせ場所として使いそうなところを、1つずつ探していっているところ。
娘と待ち合わせをしているということは、そこでプレゼントを渡す可能性もある。だからリィンが探しているのは、どちらかと言えばあまり人通りが多くない場所で、景色が綺麗な場所や、女の子が喜びそうな場所。
「この散歩道も綺麗だけど、お花が咲いてる場所の近く、とか……そんなところがあるかなぁ?」
「えっと……花畑ならこの林道の先にあります。そこもよく待ち合わせの人が居て」
地元ゆえにむしろ『定番』が思いつき過ぎるらしいアンヌは、リィンの言葉にこっち、と指差しながら足早に歩き出した。なるほどッ、とその後をついて歩きながらリィンは、「あんまり急いだら転んじゃうから……注意ね」とアンヌに声をかける。
出来ればベツィーとカルロスが合流する前に見つけたいけれども、そのせいでアンヌが怪我をしてしまったら大変だ。だからアンヌにも注意を払って、トランシーバーで連絡したり、受けたりしながら遠くの景色にも気を配って。
そんな風に、少しずつ集まってくる情報を自分の中で整理しながら、要は幾つ目かの広場をぐるり、見回した。脳内にアンヌから聞いたカルロスの年恰好や、辛うじて覚えていた特長である深緑の半袖シャツを着た男性を探す。
園内のあちこちに花売り娘が居るからだろう、花束を持って歩いている人はわりと多く、ちょうど季節であるひまわりの花束もちらほらと見られた。そのたびに背格好を確認し、それらしければ紙袋を持っていないか確かめて。
次はどうするかと考えながらもう1度広場を見回した、要の目に露天商の1つが飛び込んできた。何気なく覗くとどうやら、雑貨やアクセサリーの類を売っているようだ。
その中に、ちょうど件の誕生日カードが入りそうな大きさの可愛らしい封筒を見つけた要は、うん、と頷き主に声をかけた。
「なぁ。その封筒、1つくれよ」
「ん、これかい? あんたが? ――そうかい、じゃあこれも何かの縁だ、まけてやるから持ってきな!」
そんな要と可愛らしい封筒をしばし見比べた露天商は、なぜか急に面白そうな顔になって、気前よくその封筒を放って寄越す。『上手くやれよ!』というコメントは、一体どんな相手に渡すものだと思ったのだか。
苦笑しながらも要は、ありがとな、と礼を言って封筒を懐に仕舞った。そうして、封筒の顛末以外の現状をトランシーバーで仲間に伝える、その連絡を受けながらルシオはしみじみ、要の声を不明瞭ながらも確実に伝えるトランシーバーを眺める。
こういった機械を手にするようになったのは、森を出てきてからだ。確かに便利だと思う一方で、こんな道具で遠方と会話が出来るなんて不思議だとも思う。
慣れて行かなければならないのだけどねと、誰にともなく胸の中へと呟いて、ルシオは花売り娘から聞いた、この近くの学校に一番近い入り口から続く林道を歩く。もっとも、それもこの道を含めて何本かあるから、タイムラグも考えて何度か同じ道を往復中だ。
街の中ながら作られた林の中の道は、散歩をしている近隣の住人や、途中の切り株で待ち合わせている恋人達などが居た。彼らに目礼をして通りながら、それらしい相手を探し。
「――失礼、カルロスさんですか」
「あの……なぜ僕の名前を?」
「――実はあなたを探して居たんです。大事な忘れ物をしていませんか?」
そう、声をかけるのも4回目だと思いながら、ルシオは前方からやって来た手持ち無沙汰気味の、だが手にひまわりの花束と『レディ・ブルー』のものらしき紙袋を持つ男性に声をかけた。今回も人違いだろうかと、半ば諦めて居たルシオにけれども、その男性は驚いたように目を見開く。
その反応に、ルシオ自身も驚きながらそう言った。そうしてトランシーバーを取り出して、仲間達に、まずはアンヌと一緒にいるリィンへと連絡したのだった。
●
時間は少し遡る。
ロジーとセレナはまず、何人かの露天商にこの公園から一番近い学校へと続く広場を聞いて、そちらに向かう事にした。何かあればどちらかが仲間のところに走れば、十分連絡は出来そうだ。
ぐるりと公園の外周を巡れば30分ほどかかるらしいが、歩いて回る分には幸い、それほど広くて途方に暮れる、というほどでもない。道すがら互いの計画を話しながら向かった2人は、早速、広場に居る子供達の中からまずは、ベツィーらしき女の子を探し始めた。
公園自体が帰り道として使われているのだろうか、その広場にはすでに何人もの子供の姿が見える。しかも探しているベツィーは父親と違って、名前しか解らないから、ここは2人の直感に頼るしかない。
だからまずセレナは、10歳くらいに見える女の子を見つけては、注意深く観察して辺りに待ち合わせの目印になりそうな物がないか、人待ち顔ではないかを確かめた。友達同士で遊んでいる子供と言えども、父親がやって来るまでの間に友達と遊んでいないとも限らないから、ちらちら辺りを見ている子が居ないか注意する。
ここからだとどちらに行きたいと尋ねるのが自然だろうかと、そうしながらセレナは脳内で思考を巡らせた。ベツィーを見つけたら時間稼ぎのため、道が解らないから案内をして欲しいと頼むつもりなのだけれども、何しろ彼女自身も今日初めて足を向けた公園なので、辺りに何があるのかが解らない。
どうせなら『レディ・ブルー』に案内して欲しい、と頼むのも良いだろうかと考える。この辺りで唯一知っている、公園から離れた場所にある名前だし、実はセレナもちょっと興味があるし。
そう考えながらベツィーらしき子供を捜す、セレナと同じようにロジーもまた、愛犬と共にそれらしい女の子を捜していた。
「ごめんなさい。あたしの犬がこの辺りで居なくなってしまって……一緒に探して頂けません?」
人間違いでもすぐに次の子供に声をかけられるように、ロジーが考えた口実はそれだった。愛犬自体は茂みに待機させておいて子供にそう声をかけ、さりげなく自己紹介をしてベツィーかどうか確かめてから、違えば口笛で愛犬を呼んで「あら、見つかりましたわ! ありがとう」と礼を言ってその子供から離れるのだ。
もっとも、思っていたより子供の姿が多いので、この作戦も気をつけなければ不審に思われてしまいそうだ。この子が違ったら次の口実を考えましょうと思いながら、広場を通り過ぎてどこかに向かおうとする女の子に、ロジーは同じように声をかけた。
だがその女の子は困った顔で、ごめんなさい、と首を振る。
「パパと約束があるから……」
「あら……あたしの知人も娘さんと、この公園で約束しているらしいですわ。何でも娘さんが今日、誕生日なのですって」
もしや、と思って確かめる為にそう鎌をかけてみると、驚いたように目を見張った女の子は、自分も今日誕生日なのだと言った。もしかしてベツィーかと尋ねれば、ますます驚いた表情になる。
奇遇ですわ、と微笑んでロジーは愛犬を呼び、ベツィーがそちらに気を取られているうちにこっそりと素早くセレナに合図した。急いで駆け出したセレナが他の仲間と合流してみれば、どうやらちょうどカルロスも見つかったらしく、急いで紙袋を交換する、という。
そうしてぎりぎりカードを含めた紙袋を交換出来たカルロスと、ベツィーが合流したのはそれからすぐの事だった。その場にいた多くの見知らぬ人の姿に、ベツィーが戸惑った表情を浮かべるのに、カルロスが気まずそうに咳払いする。
おっちょこちょいなお父さんだと、くすくす笑いながらもリィンは無事に間に合って良かったと胸を撫で下ろした。その横で桜子が、そうだ、と買い物の荷物の中からジュースを取り出す。
「これ、よかったら娘さんと一緒にどうぞ。私からのお誕生日プレゼント。ささやかなものだけどね」
同じように年頃の娘を持つ者同士、色々な苦労があるだろう事は予想に難くない。だからそんなお父さんへの、労いも込めて。本当は娘の為に買った物だが、こちらはまた買い直せば良い。
そんな桜子に、ありがとう、とベツィーがはにかみ礼を言った。その様子を微笑ましく見つめていたロジーも、彼女と共に育ってくれればと願いを込めて、栽培を始めたばかりの白薔薇の苗をプレゼントする。
ベツィーの髪にはリィンが、素敵な女性になれるようにと願いを込めて、持っていたリボンを結んであげた。その耳元に挿した小さなオレンジの薔薇はルシオがプレゼントにと花売り娘から買い求めたものだし、セレナが渡したお菓子は露天商から買い求めたもので。
その様子を眺めている要のプレゼントは、すでにメッセージカードを収めて、ベツィーと共にある。父と母、相手は違えど同じく片親であるベツィーの気持ちが、何となくだけど要には、判るような気がしていた。
だから。誕生日おめでとと、頭をなでた要の横ではトトが、本当に良かったですね、とにこにこしている。カルロスがそれらのプレゼントに、本当にありがとうございます、とハンター達に、それからアンヌに頭を下げて。
早速家に帰って一緒にケーキを食べると言う、父子を見送ったアンヌが今度は、「手伝って下さってありがとうございました」とハンター達に頭を下げた。それに首を振ったルシオはふと、アンヌにこう頼む。
「そうだ。レディー・ブルーの場所を教えて欲しいんだ。せっかくだから私も何か、買って帰ろうと思ってね」
「――あ、そうだ。約束してたよな」
「良いですね……私もぜひご一緒に……」
「あら、『レディ・ブルー』に? あたしもぜひご一緒したいですわ」
その言葉に要が声を上げれば、セレナとロジーも同行したいと手を上げる。そんなハンター達に「もちろんです!」と笑顔になると、アンヌは今度こそ自分の紙袋を手に持って、足取りも軽やかに『レディ・ブルー』へと歩き出したのだった。
それからその女性アンヌの話に、ルシオは申し訳なさそうに首を振った。
「すまない、私は見ていないな」
「俺も。だけど、なんか……カルロスのおっさんもあんたも、どっちもどっちなおっちょこちょいだな」
「う……」
そうして言った要の言葉に、アンヌが真っ赤になって肩を落とす。それに柔らかな苦笑を漏らし、ルシオは紙袋に目を留めた。
花の上で蝶と遊ぶ猫の意匠は、とても可愛らしくて、ケーキ屋の袋にしては随分と凝って居るように感じられる。中に入っているパウンドケーキも、とても美味しそうだ。
『レディ・ブルー』か、と店の名を胸に刻んでから、はた、と気付いてアンヌに微笑んだ。
「いや――つまり人探しかい? 困っているなら力になるよ、お嬢さん」
「たまたま居合わせたのも何かの縁だし、な」
ルシオの言葉に、要もそう頷く。それに、手伝いたいと思うのは私達だけでは無いみたいだね、と不意に向けたルシオの眼差しの先で、リィン・ファナル(ka0225)がまさにひょいとベンチから立ち上がった所だった。
遠くからちらちら見ていたのだけれども、困った様子の女性達が、何だか気になってしまって。だからぱたぱた駆けて来て、リィンはこう問いかけた。
「何かお困りですか? ……どうしたのかな?」
「ねぇ、そこの子達! 何かあったの?」
リィンの言葉に重なって、買い物帰りで休憩中だった辰川 桜子(ka1027)の、興味と心配が半分ずつ位混ざった声が響く。そんな2人にもアンヌが「実は」と事情を説明すると、2人は驚いた表情になった。
何しろ、物はただのケーキではない。娘の誕生日祝いのケーキでありカードなのだから、同じく娘を持つ桜子には他人事ではないし。
リィンにしても、困っているお嬢さんを見過ごせない。だから手伝いを申し出た2人の後ろから、偶然事情が聞こえたロジー・ビィ(ka0296)も、ぜひ、と申し出る。
「お2人の優しさと、娘さんの喜ぶ顔の為に、あたしも一肌脱ぎましょう。ね、セレナ?」
「ええ……」
ロジーがそう振り返ったのに、セレナ・デュヴァル(ka0206)も頷いた。昼寝よりもこちらの方が面白そうだから手伝うよ、とやってきたトト・レヴォーネ(ka1570)が、さてと笑顔で皆を見回す。
「どうやって探そうか? せっかくの娘の誕生日だし、お父さんは格好付けたいんじゃないかな? 大声で探し回るのはやめた方が良いかもね」
「そう、ですね……皆さんとの連携連絡用に、トランシーバーがあれば良かったのですが……」
「そうだねッ! 持ってる人が多いなら、それを連絡手段にしておこうか」
トトの提案に、セレナとリィンがそう話す。幸い、他にもトランシーバーを持ち合わせている人が多かったから、それで話がまとまって。
セレナとロジーはトランシーバーがないため、2人一緒に娘のベツィーを探して父子合流までの時間稼ぎをし、残りがそれまでにカルロスを捜す事にした。そうして周波数を合わせ、それぞれに動き出した中でふと、要はアンヌを振り返る。
「……ああ、そうだ。上手くいったら、俺にもそのお菓子屋の場所、教えてくれよ」
報酬代わりにでも、と悪戯っぽく笑った要に、もちろんですとアンヌは笑った。そうして、トランシーバーを持っていないなら一緒に行かないかと誘ってくれた、リィンの背中を追って走り出したのを見て、今度こそ要も動き出した。
●
カルロスに関しては、目印も背格好も解っているから探しやすい。だからこっそり素早く探そうと、トトは紙袋とひまわりの花束を求めて、公園の中を歩き回る。
そんなトトと同じように桜子も公園の中を、まずはアンヌから聞いた、カルロスが向かった先にあるという噴水目指して足早に移動した。待ち合わせならオブジェなり噴水なり、何か特徴的なものがある場所というのが定石だ。
「――って言っても、そう簡単に見つかんないわよね」
たどり着いた噴水で、ぐるりと辺りを見回した桜子は、さほどの失意も覚えずただ苦笑した。確かに人待ち顔の者は居たけれども、それは見るからに壮年の男性で、しかも手にしているのはひまわりではなくガーベラだ。
少し見ていたら、男性はやってきた若い娘と一緒に、どこかに行ってしまった。あの人も娘さんと待ち合わせだったみたいね、と考えひょいと肩を竦める。
ベツィーちゃんってどんな子なのかしらねと、何とはなしに自分の娘を思い出しながらトランシーバーを取り出した、桜子からの連絡を受けてリィンは、うーん、と考え込んだ。彼女もまたカルロスが待ち合わせ場所として使いそうなところを、1つずつ探していっているところ。
娘と待ち合わせをしているということは、そこでプレゼントを渡す可能性もある。だからリィンが探しているのは、どちらかと言えばあまり人通りが多くない場所で、景色が綺麗な場所や、女の子が喜びそうな場所。
「この散歩道も綺麗だけど、お花が咲いてる場所の近く、とか……そんなところがあるかなぁ?」
「えっと……花畑ならこの林道の先にあります。そこもよく待ち合わせの人が居て」
地元ゆえにむしろ『定番』が思いつき過ぎるらしいアンヌは、リィンの言葉にこっち、と指差しながら足早に歩き出した。なるほどッ、とその後をついて歩きながらリィンは、「あんまり急いだら転んじゃうから……注意ね」とアンヌに声をかける。
出来ればベツィーとカルロスが合流する前に見つけたいけれども、そのせいでアンヌが怪我をしてしまったら大変だ。だからアンヌにも注意を払って、トランシーバーで連絡したり、受けたりしながら遠くの景色にも気を配って。
そんな風に、少しずつ集まってくる情報を自分の中で整理しながら、要は幾つ目かの広場をぐるり、見回した。脳内にアンヌから聞いたカルロスの年恰好や、辛うじて覚えていた特長である深緑の半袖シャツを着た男性を探す。
園内のあちこちに花売り娘が居るからだろう、花束を持って歩いている人はわりと多く、ちょうど季節であるひまわりの花束もちらほらと見られた。そのたびに背格好を確認し、それらしければ紙袋を持っていないか確かめて。
次はどうするかと考えながらもう1度広場を見回した、要の目に露天商の1つが飛び込んできた。何気なく覗くとどうやら、雑貨やアクセサリーの類を売っているようだ。
その中に、ちょうど件の誕生日カードが入りそうな大きさの可愛らしい封筒を見つけた要は、うん、と頷き主に声をかけた。
「なぁ。その封筒、1つくれよ」
「ん、これかい? あんたが? ――そうかい、じゃあこれも何かの縁だ、まけてやるから持ってきな!」
そんな要と可愛らしい封筒をしばし見比べた露天商は、なぜか急に面白そうな顔になって、気前よくその封筒を放って寄越す。『上手くやれよ!』というコメントは、一体どんな相手に渡すものだと思ったのだか。
苦笑しながらも要は、ありがとな、と礼を言って封筒を懐に仕舞った。そうして、封筒の顛末以外の現状をトランシーバーで仲間に伝える、その連絡を受けながらルシオはしみじみ、要の声を不明瞭ながらも確実に伝えるトランシーバーを眺める。
こういった機械を手にするようになったのは、森を出てきてからだ。確かに便利だと思う一方で、こんな道具で遠方と会話が出来るなんて不思議だとも思う。
慣れて行かなければならないのだけどねと、誰にともなく胸の中へと呟いて、ルシオは花売り娘から聞いた、この近くの学校に一番近い入り口から続く林道を歩く。もっとも、それもこの道を含めて何本かあるから、タイムラグも考えて何度か同じ道を往復中だ。
街の中ながら作られた林の中の道は、散歩をしている近隣の住人や、途中の切り株で待ち合わせている恋人達などが居た。彼らに目礼をして通りながら、それらしい相手を探し。
「――失礼、カルロスさんですか」
「あの……なぜ僕の名前を?」
「――実はあなたを探して居たんです。大事な忘れ物をしていませんか?」
そう、声をかけるのも4回目だと思いながら、ルシオは前方からやって来た手持ち無沙汰気味の、だが手にひまわりの花束と『レディ・ブルー』のものらしき紙袋を持つ男性に声をかけた。今回も人違いだろうかと、半ば諦めて居たルシオにけれども、その男性は驚いたように目を見開く。
その反応に、ルシオ自身も驚きながらそう言った。そうしてトランシーバーを取り出して、仲間達に、まずはアンヌと一緒にいるリィンへと連絡したのだった。
●
時間は少し遡る。
ロジーとセレナはまず、何人かの露天商にこの公園から一番近い学校へと続く広場を聞いて、そちらに向かう事にした。何かあればどちらかが仲間のところに走れば、十分連絡は出来そうだ。
ぐるりと公園の外周を巡れば30分ほどかかるらしいが、歩いて回る分には幸い、それほど広くて途方に暮れる、というほどでもない。道すがら互いの計画を話しながら向かった2人は、早速、広場に居る子供達の中からまずは、ベツィーらしき女の子を探し始めた。
公園自体が帰り道として使われているのだろうか、その広場にはすでに何人もの子供の姿が見える。しかも探しているベツィーは父親と違って、名前しか解らないから、ここは2人の直感に頼るしかない。
だからまずセレナは、10歳くらいに見える女の子を見つけては、注意深く観察して辺りに待ち合わせの目印になりそうな物がないか、人待ち顔ではないかを確かめた。友達同士で遊んでいる子供と言えども、父親がやって来るまでの間に友達と遊んでいないとも限らないから、ちらちら辺りを見ている子が居ないか注意する。
ここからだとどちらに行きたいと尋ねるのが自然だろうかと、そうしながらセレナは脳内で思考を巡らせた。ベツィーを見つけたら時間稼ぎのため、道が解らないから案内をして欲しいと頼むつもりなのだけれども、何しろ彼女自身も今日初めて足を向けた公園なので、辺りに何があるのかが解らない。
どうせなら『レディ・ブルー』に案内して欲しい、と頼むのも良いだろうかと考える。この辺りで唯一知っている、公園から離れた場所にある名前だし、実はセレナもちょっと興味があるし。
そう考えながらベツィーらしき子供を捜す、セレナと同じようにロジーもまた、愛犬と共にそれらしい女の子を捜していた。
「ごめんなさい。あたしの犬がこの辺りで居なくなってしまって……一緒に探して頂けません?」
人間違いでもすぐに次の子供に声をかけられるように、ロジーが考えた口実はそれだった。愛犬自体は茂みに待機させておいて子供にそう声をかけ、さりげなく自己紹介をしてベツィーかどうか確かめてから、違えば口笛で愛犬を呼んで「あら、見つかりましたわ! ありがとう」と礼を言ってその子供から離れるのだ。
もっとも、思っていたより子供の姿が多いので、この作戦も気をつけなければ不審に思われてしまいそうだ。この子が違ったら次の口実を考えましょうと思いながら、広場を通り過ぎてどこかに向かおうとする女の子に、ロジーは同じように声をかけた。
だがその女の子は困った顔で、ごめんなさい、と首を振る。
「パパと約束があるから……」
「あら……あたしの知人も娘さんと、この公園で約束しているらしいですわ。何でも娘さんが今日、誕生日なのですって」
もしや、と思って確かめる為にそう鎌をかけてみると、驚いたように目を見張った女の子は、自分も今日誕生日なのだと言った。もしかしてベツィーかと尋ねれば、ますます驚いた表情になる。
奇遇ですわ、と微笑んでロジーは愛犬を呼び、ベツィーがそちらに気を取られているうちにこっそりと素早くセレナに合図した。急いで駆け出したセレナが他の仲間と合流してみれば、どうやらちょうどカルロスも見つかったらしく、急いで紙袋を交換する、という。
そうしてぎりぎりカードを含めた紙袋を交換出来たカルロスと、ベツィーが合流したのはそれからすぐの事だった。その場にいた多くの見知らぬ人の姿に、ベツィーが戸惑った表情を浮かべるのに、カルロスが気まずそうに咳払いする。
おっちょこちょいなお父さんだと、くすくす笑いながらもリィンは無事に間に合って良かったと胸を撫で下ろした。その横で桜子が、そうだ、と買い物の荷物の中からジュースを取り出す。
「これ、よかったら娘さんと一緒にどうぞ。私からのお誕生日プレゼント。ささやかなものだけどね」
同じように年頃の娘を持つ者同士、色々な苦労があるだろう事は予想に難くない。だからそんなお父さんへの、労いも込めて。本当は娘の為に買った物だが、こちらはまた買い直せば良い。
そんな桜子に、ありがとう、とベツィーがはにかみ礼を言った。その様子を微笑ましく見つめていたロジーも、彼女と共に育ってくれればと願いを込めて、栽培を始めたばかりの白薔薇の苗をプレゼントする。
ベツィーの髪にはリィンが、素敵な女性になれるようにと願いを込めて、持っていたリボンを結んであげた。その耳元に挿した小さなオレンジの薔薇はルシオがプレゼントにと花売り娘から買い求めたものだし、セレナが渡したお菓子は露天商から買い求めたもので。
その様子を眺めている要のプレゼントは、すでにメッセージカードを収めて、ベツィーと共にある。父と母、相手は違えど同じく片親であるベツィーの気持ちが、何となくだけど要には、判るような気がしていた。
だから。誕生日おめでとと、頭をなでた要の横ではトトが、本当に良かったですね、とにこにこしている。カルロスがそれらのプレゼントに、本当にありがとうございます、とハンター達に、それからアンヌに頭を下げて。
早速家に帰って一緒にケーキを食べると言う、父子を見送ったアンヌが今度は、「手伝って下さってありがとうございました」とハンター達に頭を下げた。それに首を振ったルシオはふと、アンヌにこう頼む。
「そうだ。レディー・ブルーの場所を教えて欲しいんだ。せっかくだから私も何か、買って帰ろうと思ってね」
「――あ、そうだ。約束してたよな」
「良いですね……私もぜひご一緒に……」
「あら、『レディ・ブルー』に? あたしもぜひご一緒したいですわ」
その言葉に要が声を上げれば、セレナとロジーも同行したいと手を上げる。そんなハンター達に「もちろんです!」と笑顔になると、アンヌは今度こそ自分の紙袋を手に持って、足取りも軽やかに『レディ・ブルー』へと歩き出したのだった。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/07/06 19:34:33 |
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相談の卓 ルシオ・セレステ(ka0673) エルフ|21才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2014/07/09 23:39:05 |