ゲスト
(ka0000)
君の宝物、僕のガラクタ
マスター:秋月雅哉

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/10 15:00
- 完成日
- 2015/05/11 14:44
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●君の守りたい物、僕が大事にしたい者
いつかその左手の薬指に似合う指輪を贈りたいと願っていた。
特別な指輪だから、本当に世界でたった一つの物にしたいと、二人にとっての何よりの特別になって欲しいと願っていた。
小さい頃からの幼馴染で婚約者で小さい頃は仲のいい友達として、思春期を迎えてからは生まれて初めて好きになった人として。
ずっと隣にいた彼女。
そんな彼女と結婚を親が公に認めてくれたことは何より嬉しいと思う。
金属の装飾品を作る細工師の家系に生まれ、小さい頃からいろんなものを作っては彼女に見せた。
それは彼女の好みを知るためであり、女性としての観点を、男では分からない装飾品に求める別の視点を聞くためだった。
そんな理由を抜きにしても彼女が新しい細工物を見て目を輝かせるところを見るのが好きだった。
幸せだった。幸せなはずだった。ある日突然別れを切り出され、縁談が破談になる、その前日まで、ずっと僕は幸せな夢を見ていた。
今はそんな気がする。
彼女は遠方へ嫁ぐという。二度と帰ってこれない程遠くへ嫁ぐという。
ならば、せめて。
小さい頃に今以上に未熟な僕が作った指輪を返して欲しいと彼女に乞うた。もう指のサイズが変わってしまってはめることもできない、上質な素材を使ってもいないガラクタのような物だけれど。
僕と彼女を繋ぐ縁をせめて物理的に断ち切ってしまいたかった。けれどそれに対する返事は『否』、そんなものはどこかへ捨ててしまった。
そう答えた時、一瞬彼女の目が伏せられた。彼女の嘘を吐くときの癖。指輪は必ず彼女の手元に、まだある。
許されるなら君のために作ったガラクタを返してほしい。
そして君の幸せを願えるように、遠方へ嫁ぐ君へと花嫁衣装に、何より君にどんなものより似合う装飾品を仕立てさせてほしい。
それがせめてもの意地だった。僕以上に彼女の好きなものを知ってる人なんていないんだと、未練がましくも戻ってきてほしいと願いを込めて持ち掛けた取引もむべなく断られた。
やがて面会を許されなくなり、彼女はもうじき遠くへ旅立つ。
その前にどうか僕にとってのガラクタを。そしてうぬぼれでないなら彼女にとっての宝物を、取り戻したいと願う。
みっともないと嗤われても、僕には彼女の幸せを祈る生き方しか、できないから。
離れていく最愛の人へ。どうかどうか君にたくさんの幸せが降り注ぎますように。
「……という、恋愛劇にでもなりそうな依頼を細工師の若者から斡旋を頼まれたのだけれどね。取り戻してほしいのは安物の金属と色付きガラスで作られた指輪。それを商家の令嬢を説得して取り戻すなり若者が納得する理由を引き出して諦めさせるなりすれば依頼は成立する。
甘い話が大嫌いじゃなくて人を説得するのが得意ならそれほど難しい依頼じゃない。
……ただ、ね。念のためその令嬢の家族に接触したところこの話には裏があるんだ」
ルカ・シュバルツエンド(kz0073)は珍しく沈痛な表情で目を伏せた。
「令嬢が嫁ぐって言うのは真っ赤な嘘。敢えて嘘じゃないというなら……嫁ぎ先は冥府、ということになるね。彼女には余命がほとんど残っていない。
彼女としては悪女を装って彼に新しい恋を早く見つけて自分を忘れて欲しいんだってさ。
ついでにいうと彼女の方からも彼を早く諦めさせる協力要請が来ていてね。
生憎ラブロマンスは専門外だから君たちに恋の結末を見届けてきてほしいのさ」
どんな形がハッピーエンドかは人それぞれだから、彼らなりの答えを見つける手伝いをしてきてほしい。
軽口の得意な斡旋人はそれきり口を閉ざした。
いつかその左手の薬指に似合う指輪を贈りたいと願っていた。
特別な指輪だから、本当に世界でたった一つの物にしたいと、二人にとっての何よりの特別になって欲しいと願っていた。
小さい頃からの幼馴染で婚約者で小さい頃は仲のいい友達として、思春期を迎えてからは生まれて初めて好きになった人として。
ずっと隣にいた彼女。
そんな彼女と結婚を親が公に認めてくれたことは何より嬉しいと思う。
金属の装飾品を作る細工師の家系に生まれ、小さい頃からいろんなものを作っては彼女に見せた。
それは彼女の好みを知るためであり、女性としての観点を、男では分からない装飾品に求める別の視点を聞くためだった。
そんな理由を抜きにしても彼女が新しい細工物を見て目を輝かせるところを見るのが好きだった。
幸せだった。幸せなはずだった。ある日突然別れを切り出され、縁談が破談になる、その前日まで、ずっと僕は幸せな夢を見ていた。
今はそんな気がする。
彼女は遠方へ嫁ぐという。二度と帰ってこれない程遠くへ嫁ぐという。
ならば、せめて。
小さい頃に今以上に未熟な僕が作った指輪を返して欲しいと彼女に乞うた。もう指のサイズが変わってしまってはめることもできない、上質な素材を使ってもいないガラクタのような物だけれど。
僕と彼女を繋ぐ縁をせめて物理的に断ち切ってしまいたかった。けれどそれに対する返事は『否』、そんなものはどこかへ捨ててしまった。
そう答えた時、一瞬彼女の目が伏せられた。彼女の嘘を吐くときの癖。指輪は必ず彼女の手元に、まだある。
許されるなら君のために作ったガラクタを返してほしい。
そして君の幸せを願えるように、遠方へ嫁ぐ君へと花嫁衣装に、何より君にどんなものより似合う装飾品を仕立てさせてほしい。
それがせめてもの意地だった。僕以上に彼女の好きなものを知ってる人なんていないんだと、未練がましくも戻ってきてほしいと願いを込めて持ち掛けた取引もむべなく断られた。
やがて面会を許されなくなり、彼女はもうじき遠くへ旅立つ。
その前にどうか僕にとってのガラクタを。そしてうぬぼれでないなら彼女にとっての宝物を、取り戻したいと願う。
みっともないと嗤われても、僕には彼女の幸せを祈る生き方しか、できないから。
離れていく最愛の人へ。どうかどうか君にたくさんの幸せが降り注ぎますように。
「……という、恋愛劇にでもなりそうな依頼を細工師の若者から斡旋を頼まれたのだけれどね。取り戻してほしいのは安物の金属と色付きガラスで作られた指輪。それを商家の令嬢を説得して取り戻すなり若者が納得する理由を引き出して諦めさせるなりすれば依頼は成立する。
甘い話が大嫌いじゃなくて人を説得するのが得意ならそれほど難しい依頼じゃない。
……ただ、ね。念のためその令嬢の家族に接触したところこの話には裏があるんだ」
ルカ・シュバルツエンド(kz0073)は珍しく沈痛な表情で目を伏せた。
「令嬢が嫁ぐって言うのは真っ赤な嘘。敢えて嘘じゃないというなら……嫁ぎ先は冥府、ということになるね。彼女には余命がほとんど残っていない。
彼女としては悪女を装って彼に新しい恋を早く見つけて自分を忘れて欲しいんだってさ。
ついでにいうと彼女の方からも彼を早く諦めさせる協力要請が来ていてね。
生憎ラブロマンスは専門外だから君たちに恋の結末を見届けてきてほしいのさ」
どんな形がハッピーエンドかは人それぞれだから、彼らなりの答えを見つける手伝いをしてきてほしい。
軽口の得意な斡旋人はそれきり口を閉ざした。
リプレイ本文
●今も大事な、色あせない記憶
互いを想うあまり不幸せになる道を選ぼうとしている男女。
余命がいくばくもなく、希望もないならせめて昔誓った証である、もう指にはあわなくなった指輪を持って「遠くへ嫁入りしてもう会うことはない」と嘘を吐いた令嬢。
自分の死に恋人であり婚約者だった若者が縛られないように、と彼女なりに選んだ未来だった。
一方の若者はいまだ別れを受け入れられず、どうしても遠方へ嫁入りするならせめて彼女と過ごした、何も知らずに笑い合えた頃の象徴である指輪を望む。
「さてよ、幸せなバッドエンドを探してみるか」
そう呟いたのは男女双方から自分を諦めるように説得して欲しいという依頼があることを承知のうえでこの悲劇に何らかの終わりを見出す役割を担う、ハンターの一人であるキー=フェイス(ka0791)だ。
「なんつーか、どっちも相手が大事って見えて、自ら不幸になろうとしてるようにしか見えねえぜ。もっと我儘になれっつうんだよ。
別にこれが幸せって押し付ける気もねえけどよ……このまんまじゃ、二人とも幸せにはほど遠いぜ」
一足先に女性のもとへ赴き、一芝居うって若者に女性を諦めさせるのを手伝いに来た、と嘘をつき、次に男性のもとへと向かう。
「よぉ、あんたが幼馴染だってな、彼女から聞いてるぜ……安心しろよ、てめえのことなんざすぐ忘れちまうぐらい、俺が可愛がってやるからよ」
「……遠方だからもう二度と会えないと聞いていましたが、貴方が来られるということは彼女も来ようと思えば来られるんですか?」
実直そうな若者は初めて会った恋敵に激昂するでもなく静かに問いかけた。
「いや、彼女は家から出さない。所有物は眼の届くところに置いておく主義でね」
最悪な男を演じるキーに、若者は今度ははっきりと顔をしかめた。
「彼女は物じゃありませんよ。一人の人間です」
「なら取り返してみろよ。……取り返せるものならな」
「僕は彼女にふさわしくないかもしれない……それでも、貴方が彼女にふさわしいとは思えない!」
「そう思うなら、取り返してみろ」
挑発して、溜め込んでいるものをすべて吐き出させ、殴られれば婚約破棄だと叫んで逃げる最低の男を演じるつもりで若者と話していたキーだったが、思いの外若者の自制心は強い。
「まだ手を伸ばせば届くかもしれないぜ。……そのうち、どう頑張っても届かなくなるかもしれないけどな」
そう言ってひらりと手を振ると若者の前から姿を消すキー。
他の仲間たちが説得する間大木に寄りかかって煙草を吸いながら独白する。
「後悔っつうのは、後から悔やむから、後悔なんだぜ……?
諦められねえから、捨てられねえんだろ? 取り戻してえんだろ……?
昔の記憶も何もねえ俺と違うんだしよ。あがいてあがいてあがき続けろ。
昔は幸せだった、じゃねえんだよ。ずっと幸せだった、になるようにがんばってみろ。
嘆くのは、その後でも間に合うだろうがよ」
それは若者に対してのエールであり女性に対してのアドバイスであり自身に対する感傷だった。
どの道を選んでも最後に別れの待つこの物語は、まだ少し続く。
ヘザー・S・シトリン(ka0835)は以前幼馴染に理由もきちんと説明されずに遠くへ行かれた時のことを思い出していた。
彼女は特に説得しようとは考えていない。
最良ではないにしろ、二人が悩んで悩んで悩みぬいて出した答えだからだ。
女性のもとに赴き、問いかけたのは一つのこと。
ヘザーが気になっていたこと。それは。
「『ずっと一緒にいられない』と思うのかもしれませんが、それより今一緒に過ごせないのはあたし的に悲しいと思いますね……。
相手を悲しませたくないと言っても、今すでに悲しんでいるのですから……考え分かるようでわからないので、あたしは知るために参りました」
安静に、ということでベッドから出ることは止め、ヘザーは今悲しませてるのに嘘をついたままでいいんですか、と首をかしげる。
「一時的に悲しんでいても、彼には未来があります。私はその未来に影を落としたくないんです」
「貴方が嘘をつき続ける道を選ぶなら、あたしはあえて破る事をしません。……ですが、誰かの過去を握る事で、貴方がその人の足かせになり、未来へすすめなくなってしまうこともあると思いますよ。
あたしは再び幼馴染に会えるまでできなかったことも多かったですね」
「足かせ……」
女性がベッドの上で顔を伏せる。そのあたりのことも承知のうえで、けれど敢えて嘘を吐くことを選んだのかもしれない。
パティ=アヴァロンウッド(ka3439)は女性に名乗った後名前を聞いた。女性の名はミリディアナ、若者の名はレインというらしい。
「……辛いと、思います。抗い難い運命を前に、せめて、男性を傷つけないために戦っているのだから。
でもミリディアナさん、貴女がどうなるか、を。男性は後で知ることになる、と思います。
後悔は、心臓に絡みつく茨です。そのせいで、彼は幸せになんて、忘れる事なんて、できないんじゃないでしょうか。
持っていくのは過去の思い出だけなんて、我慢しないでください……貴女に幸せになって欲しい人はいるのに、貴女だけが不幸を望んでいたら、誰も、救われません。
欲張って、良いと思います。甘えても。好きな人と、添い遂げても」
きっと彼も、それを望んでいるから。そして本心を押し隠しているだけでミリディアナ自身も望んでいると思うから。
彼を傷つけないために痛みを抱え込んだ位愛しているあなたと同じ位、彼も、貴方を愛していると思うから、そう告げるパティの言葉に、女性は目を潤ませたが泣きはしなかった。
泣いてしまえば全て壊れてしまうから必死に泣くのをこらえているように、見えた。
「……どうして、そんなに好きな相手のことを簡単に諦めようとするんです。あなたが愛した方への想いはそんなに軽い物なのですか?
彼の貴方への想いを断ち切らせるためにその指輪を返すべきでしょう。それがある限り、彼は貴方を忘れることはないでしょうから」
Hollow(ka4450)があえてきつい言葉をかけてミリディアナの気持ちを揺さぶると女性は掛布を白く華奢な手で握りしめた。
「私を忘れて幸せになって欲しいのと同じ位……忘れないでいて欲しいんです。いつか他の誰かを愛する日が来ても、心の片隅で、あの人の中で生きていたいんです」
はがされた仮面の裏の素顔は脆く、儚く、自身の想いを浅ましいと嘆く色で彩られていた。
「それを男性に伝えるべきだと思います。
どんな結果になっても、自分の本当の想いをぶつけ合うことは二人のためになると思います」
アルマ・アニムス(ka4901)は外で大道芸をしているところを引き入れられた。
気鬱の病にもかかっている娘の気分を、少しでも晴らして欲しいという両親の要望だった。
「お嬢さん、何かお困りの様子。よろしければ少しお喋りしませんか?」
女性が果たして見ず知らずの、依頼と関係ないと思われるアルマに語っていいのかと逡巡すると彼も依頼を引き受けた一人だからと、先に部屋に入っていた二人が後押しする。
言葉少なに語られたミリディアナの想いを聞いてアルマは紫色の花を差し出した。
「僕が彼なら、あなたの事は忘れられないと思います。多分、ずっと……死ぬまで。
なっちゃえばいいじゃないですか。一緒に、幸せに。時間は短いかもしれませんけど」
アルマが差し出したのは杜若の花。花言葉は「幸運が必ず来る」「幸せは貴方の物」、それを聞いてミリディアナは耐え切れずに一筋涙を流した。
「私に幸せになる資格なんて、あるんでしょうか……」
「誰にだってありますよ、そんなもの。幸せになるためじゃなくて、なんの為に生まれてきたって言うんです?」
アルマに後押しされ、レインが承諾するなら二人で残された時間を、少しでも一緒に過ごしたい、そんな道をミリディアナは選んだのだった。
令嬢の家族に接触したのは紅薔薇(ka4766)、彼女は双方の事情をある程度把握しているが、結婚もできず、レインにも誤解されたままで、思い出の指輪だけを抱いて死ぬのは、あまりに令嬢に救いがないと意見を述べる。
「いくら令嬢の願いだとて、このままにしておくつもりなのかのう?
せめて最後にしてやりたいとは思わないのかえ?」
彼女の最期の幸せを考えるのならば、真実をレインに伝えて、死までの短い間だけでも結婚生活で二人の時間を作ることが一番なのではないかと使用人やミリディアナの両親を説得する。
そこにやってきたミリディアナと話していた三人が話し合いの結果を伝えると使用人も両親も、相手方がそれで構わないなら、短い間でも花嫁として迎えてやってほしい、と嗚咽交じりにハンターに頭を下げた。
キーがレインの心を揺さぶった後、レインを説得するためにもハンターが彼のもとを訪れていた。
高橋 鑑連(ka4760)はレインに自己紹介をした後、指輪に関する依頼を受けたハンターであることを告げた。
「彼女の事、信じちゃいないんですかい? 簡単に男を乗り換える尻軽だと、そう仰るんですかい」
「……何か理由がある、と思っています。僕には決して言えない理由が。さっき婚約者を名乗る男性がいらっしゃいましたが……思い合っているようには見えなかった」
「中々聡い方のようだ。……お嬢さんにはね、時間がないんですよ」
過去しかない自分が未来あるレインを縛って死に水を取らせるのは申し訳ないから身を引いたのだ、と事情を明らかにすればレインの顔色が変わる。
「自分がもうじき死ぬってぇのに惚れた相手を想うたぁ……見上げた根性じゃねぇですかい。
好かれた女に応えてやらにゃぁ、男がすたるってもんでしょう。
ですがね、ここが一番肝心だ。お嬢さんがどうしてあんな事を言ったんだと思います?
それは何よりもアンタの幸せを願っているからだ。
アンタは生きて幸せにならなきゃならねぇ。そいつは義務だ。己に惚れた女の願い一つ叶えられねぇんじゃ、男の名折れよ」
鑑連が去った後客としてやってきたスグル・メレディス(ka2172)が指輪を眺めながら良い腕だ、と褒める。
「俺ね、大事な人がいるんだよ。でもさ、まぁちょっと色々と問題もあってね。なにしろ相手は男だからさ」
そうアッサリカミングアウトするメレディスの顔を、レインはじっと見つめていた。
「俺もさっき来てた人と同じ依頼を受けたハンターだよ。
思い出の指輪を取り戻したいって言う情熱があるなら、そうじゃない方向に意識はむけられないのかな。
誰より彼女を好きなら、諦めないで欲しいんだよね。
指輪を捨てたって言う嘘は見抜けたんでしょ?
優しい嘘を見抜けたのに……それだけでも、まだ自分に希望があるって思えない?」
遠方に嫁ぐという彼女の嘘は露見している。その上でメレディスは言葉を重ねる。
「本当にいつも通りの……いや、違うな。新しい恋をして、それが叶って幸せに嫁いでいく花嫁の様子だった?」
「……ヴェールで顔を隠していたけれど、嬉しそうには見えませんでした」
「すぐに忘れろとは言わないよ。でも悼みをきちんと受け入れてあげて。そして彼女が望んだら、そしてあんたが望むなら、残り時間なんて気にしないで二人で幸せになって」
「……すみません、僕いかないと……ミリィ……ミリディアナに、断られても時間がある限りプロポーズしないと。じゃないと絶対後悔するから」
ショーケースには入れていない、彼自身がずっと眺めていた指輪用のケースに入れられた指輪をしっかりと握りしめるとレインは駆けだす。
「女の子の方の説得は、うまくいってるかなぁ」
数日後、ミリディアナの体調を慮って盛大にでこそなかったが小さな教会で二人の式が挙げられた。
この日のために用意したウェディングドレスを身に纏ったミリディアナは誰よりも幸せそうで、傍らに立つレインともうあまり残されていない未来を共に過ごすと誓い合う。
招待に応じたハンターたちはそれぞれ思い思いの言葉をかけて二人を祝福した。
「……お二人の幸せを、光にお祈りします」
「有難うございます。貴方たちのお陰で手を取り合うことが出来ました」
「お主らの幸せを願うのは、別にお主ら同士だけではないのじゃ。残り短い人生だとしても、彼らに感謝して精一杯生きるのじゃぞ?」
「はい……っ」
向かう先がバッドエンドだとしても。今の二人はきっとこの世界で一番幸せな時間を刻んでいる。
諦めかけた手を、何よりも欲しかったものを手に入れたのだから。
花嫁の首もとで、今回の依頼の発端となった、小さな指輪が光を受けて煌めいた。
青空の下、花嫁がブーケを投げる。
闘病生活で少しやつれてはいたものの、顔を彩るのは幸せそうな笑顔、それだけだった。
それはどんな化粧より美しく彼女を際立たせていた。
――今はただ。辛うじてすれ違ったまま終わらずに済んだ二人の未来に祝福あれ、と。
ハンターたちは少し離れた場所でその様子を見守っていたのだった。
互いを想うあまり不幸せになる道を選ぼうとしている男女。
余命がいくばくもなく、希望もないならせめて昔誓った証である、もう指にはあわなくなった指輪を持って「遠くへ嫁入りしてもう会うことはない」と嘘を吐いた令嬢。
自分の死に恋人であり婚約者だった若者が縛られないように、と彼女なりに選んだ未来だった。
一方の若者はいまだ別れを受け入れられず、どうしても遠方へ嫁入りするならせめて彼女と過ごした、何も知らずに笑い合えた頃の象徴である指輪を望む。
「さてよ、幸せなバッドエンドを探してみるか」
そう呟いたのは男女双方から自分を諦めるように説得して欲しいという依頼があることを承知のうえでこの悲劇に何らかの終わりを見出す役割を担う、ハンターの一人であるキー=フェイス(ka0791)だ。
「なんつーか、どっちも相手が大事って見えて、自ら不幸になろうとしてるようにしか見えねえぜ。もっと我儘になれっつうんだよ。
別にこれが幸せって押し付ける気もねえけどよ……このまんまじゃ、二人とも幸せにはほど遠いぜ」
一足先に女性のもとへ赴き、一芝居うって若者に女性を諦めさせるのを手伝いに来た、と嘘をつき、次に男性のもとへと向かう。
「よぉ、あんたが幼馴染だってな、彼女から聞いてるぜ……安心しろよ、てめえのことなんざすぐ忘れちまうぐらい、俺が可愛がってやるからよ」
「……遠方だからもう二度と会えないと聞いていましたが、貴方が来られるということは彼女も来ようと思えば来られるんですか?」
実直そうな若者は初めて会った恋敵に激昂するでもなく静かに問いかけた。
「いや、彼女は家から出さない。所有物は眼の届くところに置いておく主義でね」
最悪な男を演じるキーに、若者は今度ははっきりと顔をしかめた。
「彼女は物じゃありませんよ。一人の人間です」
「なら取り返してみろよ。……取り返せるものならな」
「僕は彼女にふさわしくないかもしれない……それでも、貴方が彼女にふさわしいとは思えない!」
「そう思うなら、取り返してみろ」
挑発して、溜め込んでいるものをすべて吐き出させ、殴られれば婚約破棄だと叫んで逃げる最低の男を演じるつもりで若者と話していたキーだったが、思いの外若者の自制心は強い。
「まだ手を伸ばせば届くかもしれないぜ。……そのうち、どう頑張っても届かなくなるかもしれないけどな」
そう言ってひらりと手を振ると若者の前から姿を消すキー。
他の仲間たちが説得する間大木に寄りかかって煙草を吸いながら独白する。
「後悔っつうのは、後から悔やむから、後悔なんだぜ……?
諦められねえから、捨てられねえんだろ? 取り戻してえんだろ……?
昔の記憶も何もねえ俺と違うんだしよ。あがいてあがいてあがき続けろ。
昔は幸せだった、じゃねえんだよ。ずっと幸せだった、になるようにがんばってみろ。
嘆くのは、その後でも間に合うだろうがよ」
それは若者に対してのエールであり女性に対してのアドバイスであり自身に対する感傷だった。
どの道を選んでも最後に別れの待つこの物語は、まだ少し続く。
ヘザー・S・シトリン(ka0835)は以前幼馴染に理由もきちんと説明されずに遠くへ行かれた時のことを思い出していた。
彼女は特に説得しようとは考えていない。
最良ではないにしろ、二人が悩んで悩んで悩みぬいて出した答えだからだ。
女性のもとに赴き、問いかけたのは一つのこと。
ヘザーが気になっていたこと。それは。
「『ずっと一緒にいられない』と思うのかもしれませんが、それより今一緒に過ごせないのはあたし的に悲しいと思いますね……。
相手を悲しませたくないと言っても、今すでに悲しんでいるのですから……考え分かるようでわからないので、あたしは知るために参りました」
安静に、ということでベッドから出ることは止め、ヘザーは今悲しませてるのに嘘をついたままでいいんですか、と首をかしげる。
「一時的に悲しんでいても、彼には未来があります。私はその未来に影を落としたくないんです」
「貴方が嘘をつき続ける道を選ぶなら、あたしはあえて破る事をしません。……ですが、誰かの過去を握る事で、貴方がその人の足かせになり、未来へすすめなくなってしまうこともあると思いますよ。
あたしは再び幼馴染に会えるまでできなかったことも多かったですね」
「足かせ……」
女性がベッドの上で顔を伏せる。そのあたりのことも承知のうえで、けれど敢えて嘘を吐くことを選んだのかもしれない。
パティ=アヴァロンウッド(ka3439)は女性に名乗った後名前を聞いた。女性の名はミリディアナ、若者の名はレインというらしい。
「……辛いと、思います。抗い難い運命を前に、せめて、男性を傷つけないために戦っているのだから。
でもミリディアナさん、貴女がどうなるか、を。男性は後で知ることになる、と思います。
後悔は、心臓に絡みつく茨です。そのせいで、彼は幸せになんて、忘れる事なんて、できないんじゃないでしょうか。
持っていくのは過去の思い出だけなんて、我慢しないでください……貴女に幸せになって欲しい人はいるのに、貴女だけが不幸を望んでいたら、誰も、救われません。
欲張って、良いと思います。甘えても。好きな人と、添い遂げても」
きっと彼も、それを望んでいるから。そして本心を押し隠しているだけでミリディアナ自身も望んでいると思うから。
彼を傷つけないために痛みを抱え込んだ位愛しているあなたと同じ位、彼も、貴方を愛していると思うから、そう告げるパティの言葉に、女性は目を潤ませたが泣きはしなかった。
泣いてしまえば全て壊れてしまうから必死に泣くのをこらえているように、見えた。
「……どうして、そんなに好きな相手のことを簡単に諦めようとするんです。あなたが愛した方への想いはそんなに軽い物なのですか?
彼の貴方への想いを断ち切らせるためにその指輪を返すべきでしょう。それがある限り、彼は貴方を忘れることはないでしょうから」
Hollow(ka4450)があえてきつい言葉をかけてミリディアナの気持ちを揺さぶると女性は掛布を白く華奢な手で握りしめた。
「私を忘れて幸せになって欲しいのと同じ位……忘れないでいて欲しいんです。いつか他の誰かを愛する日が来ても、心の片隅で、あの人の中で生きていたいんです」
はがされた仮面の裏の素顔は脆く、儚く、自身の想いを浅ましいと嘆く色で彩られていた。
「それを男性に伝えるべきだと思います。
どんな結果になっても、自分の本当の想いをぶつけ合うことは二人のためになると思います」
アルマ・アニムス(ka4901)は外で大道芸をしているところを引き入れられた。
気鬱の病にもかかっている娘の気分を、少しでも晴らして欲しいという両親の要望だった。
「お嬢さん、何かお困りの様子。よろしければ少しお喋りしませんか?」
女性が果たして見ず知らずの、依頼と関係ないと思われるアルマに語っていいのかと逡巡すると彼も依頼を引き受けた一人だからと、先に部屋に入っていた二人が後押しする。
言葉少なに語られたミリディアナの想いを聞いてアルマは紫色の花を差し出した。
「僕が彼なら、あなたの事は忘れられないと思います。多分、ずっと……死ぬまで。
なっちゃえばいいじゃないですか。一緒に、幸せに。時間は短いかもしれませんけど」
アルマが差し出したのは杜若の花。花言葉は「幸運が必ず来る」「幸せは貴方の物」、それを聞いてミリディアナは耐え切れずに一筋涙を流した。
「私に幸せになる資格なんて、あるんでしょうか……」
「誰にだってありますよ、そんなもの。幸せになるためじゃなくて、なんの為に生まれてきたって言うんです?」
アルマに後押しされ、レインが承諾するなら二人で残された時間を、少しでも一緒に過ごしたい、そんな道をミリディアナは選んだのだった。
令嬢の家族に接触したのは紅薔薇(ka4766)、彼女は双方の事情をある程度把握しているが、結婚もできず、レインにも誤解されたままで、思い出の指輪だけを抱いて死ぬのは、あまりに令嬢に救いがないと意見を述べる。
「いくら令嬢の願いだとて、このままにしておくつもりなのかのう?
せめて最後にしてやりたいとは思わないのかえ?」
彼女の最期の幸せを考えるのならば、真実をレインに伝えて、死までの短い間だけでも結婚生活で二人の時間を作ることが一番なのではないかと使用人やミリディアナの両親を説得する。
そこにやってきたミリディアナと話していた三人が話し合いの結果を伝えると使用人も両親も、相手方がそれで構わないなら、短い間でも花嫁として迎えてやってほしい、と嗚咽交じりにハンターに頭を下げた。
キーがレインの心を揺さぶった後、レインを説得するためにもハンターが彼のもとを訪れていた。
高橋 鑑連(ka4760)はレインに自己紹介をした後、指輪に関する依頼を受けたハンターであることを告げた。
「彼女の事、信じちゃいないんですかい? 簡単に男を乗り換える尻軽だと、そう仰るんですかい」
「……何か理由がある、と思っています。僕には決して言えない理由が。さっき婚約者を名乗る男性がいらっしゃいましたが……思い合っているようには見えなかった」
「中々聡い方のようだ。……お嬢さんにはね、時間がないんですよ」
過去しかない自分が未来あるレインを縛って死に水を取らせるのは申し訳ないから身を引いたのだ、と事情を明らかにすればレインの顔色が変わる。
「自分がもうじき死ぬってぇのに惚れた相手を想うたぁ……見上げた根性じゃねぇですかい。
好かれた女に応えてやらにゃぁ、男がすたるってもんでしょう。
ですがね、ここが一番肝心だ。お嬢さんがどうしてあんな事を言ったんだと思います?
それは何よりもアンタの幸せを願っているからだ。
アンタは生きて幸せにならなきゃならねぇ。そいつは義務だ。己に惚れた女の願い一つ叶えられねぇんじゃ、男の名折れよ」
鑑連が去った後客としてやってきたスグル・メレディス(ka2172)が指輪を眺めながら良い腕だ、と褒める。
「俺ね、大事な人がいるんだよ。でもさ、まぁちょっと色々と問題もあってね。なにしろ相手は男だからさ」
そうアッサリカミングアウトするメレディスの顔を、レインはじっと見つめていた。
「俺もさっき来てた人と同じ依頼を受けたハンターだよ。
思い出の指輪を取り戻したいって言う情熱があるなら、そうじゃない方向に意識はむけられないのかな。
誰より彼女を好きなら、諦めないで欲しいんだよね。
指輪を捨てたって言う嘘は見抜けたんでしょ?
優しい嘘を見抜けたのに……それだけでも、まだ自分に希望があるって思えない?」
遠方に嫁ぐという彼女の嘘は露見している。その上でメレディスは言葉を重ねる。
「本当にいつも通りの……いや、違うな。新しい恋をして、それが叶って幸せに嫁いでいく花嫁の様子だった?」
「……ヴェールで顔を隠していたけれど、嬉しそうには見えませんでした」
「すぐに忘れろとは言わないよ。でも悼みをきちんと受け入れてあげて。そして彼女が望んだら、そしてあんたが望むなら、残り時間なんて気にしないで二人で幸せになって」
「……すみません、僕いかないと……ミリィ……ミリディアナに、断られても時間がある限りプロポーズしないと。じゃないと絶対後悔するから」
ショーケースには入れていない、彼自身がずっと眺めていた指輪用のケースに入れられた指輪をしっかりと握りしめるとレインは駆けだす。
「女の子の方の説得は、うまくいってるかなぁ」
数日後、ミリディアナの体調を慮って盛大にでこそなかったが小さな教会で二人の式が挙げられた。
この日のために用意したウェディングドレスを身に纏ったミリディアナは誰よりも幸せそうで、傍らに立つレインともうあまり残されていない未来を共に過ごすと誓い合う。
招待に応じたハンターたちはそれぞれ思い思いの言葉をかけて二人を祝福した。
「……お二人の幸せを、光にお祈りします」
「有難うございます。貴方たちのお陰で手を取り合うことが出来ました」
「お主らの幸せを願うのは、別にお主ら同士だけではないのじゃ。残り短い人生だとしても、彼らに感謝して精一杯生きるのじゃぞ?」
「はい……っ」
向かう先がバッドエンドだとしても。今の二人はきっとこの世界で一番幸せな時間を刻んでいる。
諦めかけた手を、何よりも欲しかったものを手に入れたのだから。
花嫁の首もとで、今回の依頼の発端となった、小さな指輪が光を受けて煌めいた。
青空の下、花嫁がブーケを投げる。
闘病生活で少しやつれてはいたものの、顔を彩るのは幸せそうな笑顔、それだけだった。
それはどんな化粧より美しく彼女を際立たせていた。
――今はただ。辛うじてすれ違ったまま終わらずに済んだ二人の未来に祝福あれ、と。
ハンターたちは少し離れた場所でその様子を見守っていたのだった。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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面白かった! | 4人 |
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誰も悲しまない悲劇の為に キー=フェイス(ka0791) 人間(リアルブルー)|25才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/05/10 09:10:52 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/07 19:25:45 |