ゲスト
(ka0000)
草原とゴブリンと謎の少女
マスター:蒼かなた
- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
- 1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/09 07:30
- 完成日
- 2015/05/14 12:38
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●謎の少女
鬱蒼と茂る森の中。歳若い少年少女達が剣や槍、杖や銃など様々な武器を持ち枝葉を掻き分けながら進んでいた。
「なあ、本当にこっちであってるのか?」
「そのはずなんだけど。おかしいなぁ」
戦闘を歩く短髪の少年が振り向いて尋ねる。尋ねられた眼鏡をかけた少女は首を捻りながら見る角度を変えつつ地図と睨めっこしていた。
彼らは駆け出しハンターだ。そして初心者にとっては醍醐味とも言えるゴブリン退治にやってきていた。
しかし、どうやら森の中で道に迷ったらしくかれこれ一時間程あっちへこっちへと移動を繰り返している。
「あー、もう駄目。お腹空いたー」
「ちょっと、しっかりしなさいよ。確かに私もちょっと疲れてきたけど」
少し丸っとした少年が地面に腰を下ろし、ポニーテールの少女もそれに釣られるように近くの切り株に座る。
ちょっとお間抜けではあるが森を迷うのもまた初心者の通る道。幸いこの森はそんなに広くないし、どの方角に出ても近くに村がある。最悪はまっすぐ一直線に進めば助かるのだから彼らもそんなに不安には思っていなかった。
ただ、それではゴブリン退治に失敗してしまう。初心者とはいえ見つけられませんでしたで帰るのは流石に恥ずかしい。
「で、まだ分からないのか?」
「えぇーっと……こっち?」
「そっちはさっき来た道よ」
「お腹空いたー」
そんな感じでわいきゃいと騒いでいるところで、少し遠くで何かの音がした。それは何かの声と、何か金属がぶつかり合うような音だった。
「何だ?」
「あっ、もしかして他のハンターの人がゴブリンと戦ってるのかも」
「あっちゃー、もしかして依頼ブッキングしてた?」
「お飯食い上げは嫌だなー」
少年少女達は急いでその音がする咆哮へ向かう。幾つかの藪を抜けて出た先には木の生えていない少し広いスペースがあった。
その広場を見渡せばあちこちにゴブリンが倒れており、既に死んでいるのか手や足の先から黒い煙となって空気に溶けていっていた。
「って、おわぁ!?」
そこで突然短髪の少年の視界が塞がれる。慌てて顔に乗ってきたそれを払いのけるとすぐ傍の木の枝に白い猫がひらりと飛び乗った。
「猫ぉ?」
「あっ、あれ見て!」
少年が首を傾げていると眼鏡の少女が広場を指差す。
少女の指差した先には広場の中央で他の個体より一回り大きいゴブリンに剣を突き立てている1人の少女がいた。その肌は浅黒く、対照的にその髪は明るい茜色をしていた。
新米ハンター達がぽかんとそれを眺めていると、少女は白い手袋を嵌めてその手を倒れているゴブリンの傷口の中へ突き入れる。そして再び引き抜くとそこにはビー玉サイズのゴツゴツとした石のようなものが握られていた。
「……」
少女は新米ハンター達を一瞥すると、何も喋ることなく森の中へと駆けていく。それに会わせる様に少年少女の傍にいた白猫も森の中へと消えていった。
いまだ何があったのかよく理解出来ない新米ハンター達は思わず顔を見合わせる。
その上で丸っこい少年が一言告げた。
「ラッキー。戦わずに依頼完了だね」
●とある噂とゴブリン退治
ここは冒険都市リゼリオ。多くのハンター達が集う街。
そこでまた1つの噂が広がっていた。
「なあ知ってるか?」
「ああ、例の噂だろ?」
「不思議なこともあるもんだよな」
その噂と言うのがゴブリンの横取りだ。何でもゴブリン退治の依頼を受け、いざ現地に向かうとそのゴブリンが全滅しているのだ。
ゴブリンは退治され人々は安心することができ、経緯はどうあれ討伐報酬は依頼を受けたハンターに支払われるので誰も困ってはいない。
だがそんな奇妙なことが何件も続けば噂になる。特に新米ハンター達の間では楽して儲けられるとその遭遇に期待している節もある。もっとも、そんな邪まなことを考えている者は後々手痛いしっぺ返しが待っているだろうが。
「しっかし、その謎の少女ってのも何を考えてるんだろうな?」
「さあな。それより仕事に行くぞ」
噂は噂。あくまで噂。係わり合いの無い人にとっては単なる面白い話でしかない。
だが実際に関わってしまった人はどうするだろうか? 恐らく答えは人それぞれだろう。
そして今日もハンターオフィスにゴブリン退治の依頼は張り出される。
鬱蒼と茂る森の中。歳若い少年少女達が剣や槍、杖や銃など様々な武器を持ち枝葉を掻き分けながら進んでいた。
「なあ、本当にこっちであってるのか?」
「そのはずなんだけど。おかしいなぁ」
戦闘を歩く短髪の少年が振り向いて尋ねる。尋ねられた眼鏡をかけた少女は首を捻りながら見る角度を変えつつ地図と睨めっこしていた。
彼らは駆け出しハンターだ。そして初心者にとっては醍醐味とも言えるゴブリン退治にやってきていた。
しかし、どうやら森の中で道に迷ったらしくかれこれ一時間程あっちへこっちへと移動を繰り返している。
「あー、もう駄目。お腹空いたー」
「ちょっと、しっかりしなさいよ。確かに私もちょっと疲れてきたけど」
少し丸っとした少年が地面に腰を下ろし、ポニーテールの少女もそれに釣られるように近くの切り株に座る。
ちょっとお間抜けではあるが森を迷うのもまた初心者の通る道。幸いこの森はそんなに広くないし、どの方角に出ても近くに村がある。最悪はまっすぐ一直線に進めば助かるのだから彼らもそんなに不安には思っていなかった。
ただ、それではゴブリン退治に失敗してしまう。初心者とはいえ見つけられませんでしたで帰るのは流石に恥ずかしい。
「で、まだ分からないのか?」
「えぇーっと……こっち?」
「そっちはさっき来た道よ」
「お腹空いたー」
そんな感じでわいきゃいと騒いでいるところで、少し遠くで何かの音がした。それは何かの声と、何か金属がぶつかり合うような音だった。
「何だ?」
「あっ、もしかして他のハンターの人がゴブリンと戦ってるのかも」
「あっちゃー、もしかして依頼ブッキングしてた?」
「お飯食い上げは嫌だなー」
少年少女達は急いでその音がする咆哮へ向かう。幾つかの藪を抜けて出た先には木の生えていない少し広いスペースがあった。
その広場を見渡せばあちこちにゴブリンが倒れており、既に死んでいるのか手や足の先から黒い煙となって空気に溶けていっていた。
「って、おわぁ!?」
そこで突然短髪の少年の視界が塞がれる。慌てて顔に乗ってきたそれを払いのけるとすぐ傍の木の枝に白い猫がひらりと飛び乗った。
「猫ぉ?」
「あっ、あれ見て!」
少年が首を傾げていると眼鏡の少女が広場を指差す。
少女の指差した先には広場の中央で他の個体より一回り大きいゴブリンに剣を突き立てている1人の少女がいた。その肌は浅黒く、対照的にその髪は明るい茜色をしていた。
新米ハンター達がぽかんとそれを眺めていると、少女は白い手袋を嵌めてその手を倒れているゴブリンの傷口の中へ突き入れる。そして再び引き抜くとそこにはビー玉サイズのゴツゴツとした石のようなものが握られていた。
「……」
少女は新米ハンター達を一瞥すると、何も喋ることなく森の中へと駆けていく。それに会わせる様に少年少女の傍にいた白猫も森の中へと消えていった。
いまだ何があったのかよく理解出来ない新米ハンター達は思わず顔を見合わせる。
その上で丸っこい少年が一言告げた。
「ラッキー。戦わずに依頼完了だね」
●とある噂とゴブリン退治
ここは冒険都市リゼリオ。多くのハンター達が集う街。
そこでまた1つの噂が広がっていた。
「なあ知ってるか?」
「ああ、例の噂だろ?」
「不思議なこともあるもんだよな」
その噂と言うのがゴブリンの横取りだ。何でもゴブリン退治の依頼を受け、いざ現地に向かうとそのゴブリンが全滅しているのだ。
ゴブリンは退治され人々は安心することができ、経緯はどうあれ討伐報酬は依頼を受けたハンターに支払われるので誰も困ってはいない。
だがそんな奇妙なことが何件も続けば噂になる。特に新米ハンター達の間では楽して儲けられるとその遭遇に期待している節もある。もっとも、そんな邪まなことを考えている者は後々手痛いしっぺ返しが待っているだろうが。
「しっかし、その謎の少女ってのも何を考えてるんだろうな?」
「さあな。それより仕事に行くぞ」
噂は噂。あくまで噂。係わり合いの無い人にとっては単なる面白い話でしかない。
だが実際に関わってしまった人はどうするだろうか? 恐らく答えは人それぞれだろう。
そして今日もハンターオフィスにゴブリン退治の依頼は張り出される。
リプレイ本文
●草原の戦い
草原へとやってきたハンター達はこの近くにいるはずのゴブリンの群れを探す。
そんな中でふとゴブリン横取事件のことが頭に浮かんだエルバッハ・リオン(ka2434)はぽつりと言葉を零す。
「そういえばゴブリンを退治する謎の少女がいるらしいですね。何者なのでしょうか?」
ハンターの中の、特にゴブリン退治をよく受ける駆け出し達の中で流行っている噂だ。
「さてのう。ま、何かしら理由があるからそう言う事をしているのじゃろうが」
クラリッサ=W・ソルシエール(ka0659)がそれに返事をする。
ゴブリンが退治されて困ることはないし、偶然遭遇したハンター達にも危害を加える様子はなかったそうだ。
だからと言って無視する訳にもいかないとクラリッサは思っていた。今は些細なことでも今後悪事に利用される可能性も否めないのだから当然であろう。
「ええ、ゴブリンの腸を抜き取っていくのですよね。末恐ろしい少女ですね」
クラリッサの言葉に賛同して水城もなか(ka3532)も頷く。だがもなかの言葉にクラリッサとエルバッハは若干頬を引きつらせる
「あれ、違いましたっけ?」
「違う。ゴブリンの体内からは何か石のような物を抜き取っていたはずだ」
首を傾げるもなかにウル=ガ(ka3593)はさっくりとその間違いを訂正する。
「けどその石を集めて彼女は何をしているんだろうね?」
そこでナタナエル(ka3884)も話に乗っかる。雑魔とはいえ歪虚から何かを抜き取って何に使うのか? 疑問は尽きない。
そんな話をしている間にハンター達の耳になにやら騒がしい声と金属がぶつかり合う音が聞こえてきた。
「誰かが戦っているようじゃのう」
「これはもしかすると遭遇したのかもな」
ハンター達は急ぎその音のする方向へと走った。
広い緑色の草原の中であちこちに茶や緑の肌をした生き物、ゴブリン達が蠢いている。
その中で一際明るい茜色の髪を揺らし、鉄色の大剣を振り回す少女が一人居た。
振るう大剣はゴブリンの胸に突き刺さりその命を奪うが、すぐに別のゴブリンが襲い掛かり少女は眉を顰めながら一足飛びで後ろに下がる。
10匹近いゴブリンに少女が1人。仮に少女が熟練のハンターだったとしても少々骨が折れる相手だろう。
そんなところに戦闘音を聞きつけたハンター達が現れた。
「あっ、シャルさま。おひさしぶりですー!」
ゴブリンと対峙する少女を一目見て、それが依然に出会った少女だと気づいた蜜羽(ka4585)は歓喜の声を上げる。
突然名前を呼ばれた少女――シャルは驚いたような表情を浮かべたものの、シャルも蜜羽の顔を覚えていたのか少し間を置いてこくりと頷いた。
「私達のこと覚えてくれてたんだね。それじゃあ、一緒に戦わせてもらっていいかな?」
ネムリア・ガウラ(ka4615)もシャルとは面識があった。敵ではないというネムリアの言葉にシャルはまた少し考えるが、迷いながらもまたこくりと頷いて返した。
「いや、こんな面倒臭いと思っていたお仕事でまさかシャルちゃんと出会えるなんて! これも運命。神が定めた道。今こそ貴女の愛くるしい胸の中へ! まいすうぃーとはにー!」
同じくシャルと面識のある加茂 忠国(ka4451)は何故かテンションを最高調に上げてシャルを呼ぶが、生憎シャルは不思議そうな顔をして首を傾げるだけだ。恐らく意味が通じていないと思われる。
「くっ、シャルちゃんと出会えた今となってはゴブリン共の何たる邪魔な事か! 皆さん、やっちゃってください!」
シャルから困惑の眼差しを向けられていることもお構いなしに忠国は皆に号令をかける。
「何か邪まな気配を感じるが。かの少女に手を貸すのはやぶさかではないのう」
クラリッサの瞳が赤く変化する。覚醒しマテリアルを高めたクラリッサが杖を振るうと柔らかな風が走り、シャルの周囲を取り巻く。
「話は後じゃ。まずはこのゴブリンを殲滅するするぞ」
「……んっ、分かった」
シャルは頷き、クラリッサも改めてゴブリン達に向けて杖を向けた。
「先手は私がもらいます」
手に茨を浮かべたエルバッハの杖が振るわれる。するとゴブリン達の集まる丁度中央で青白い霧が生まれ数匹のゴブリンがそれに飲まれた。
睡魔に負けたゴブリンはその場で草の上に転がり、それを見た別のゴブリンは少し慌てた後に寝ているゴブリンを蹴り起こそうとする。
「余所見とは余裕だな」
寝転げる仲間を起こそうとしていたゴブリンにウルの刃が振るわれる。
肩を斬られて倒れこむゴブリン。だが傷は浅かったようで肩を押さえながらも起き上がろうとする。
「邪魔だ。起きるな」
だがナタナエルが起き上がろうとしていたゴブリンの腹を踏みつけ、その首にナイフを突き立てた。
ゴキリと首筋の何かを砕いた音がして、ゴブリンは血色の泡を吹いて動かなくなる。
『グギャ、ゴブブ!』
その時群れの中央に居たゴブリンが声を上げる。他のゴブリンより一回り大きく、装備も1ランク上の物に見える。
ゴブリン達はその声を受けて左右に広がり始める。
「わわっ、ゴブリンさんが散っちゃうのですー」
「いや、どうやらわたし達を囲もうとしてるみたいだね。でもさせないよ」
広がろうとするゴブリンの一番先端の一匹に目掛けネムリアは駆け寄り手にした杖で横殴りにする。
殴られたゴブリンは地面を一度二度と転がるが、顔を一度振ると怒りを顕にして他のゴブリンと共にネムリアに襲い掛かる。
「ネムリアさま、あぶないのですー!」
蜜羽のメイスか振るわれるとネムリアの体が光の膜に覆われる。その膜はゴブリンの錆びたナイフや棍棒を受け止めるが、すぐにその光りは薄らいでいく。
「くうっ」
あと僅かで光が消える。もう一撃で、そう思いそれを何とか受けようと杖を構えたネムリアの前に突如壁が現れた。
ゴブリン達は地面から生えてきたそれに跳ね飛ばされて宙を舞っている。
「全く、最近のゴブリンはYESロリータNOタッチを知らないのですかね!」
そして壁の横に立ってどどーんとドヤ顔をする忠国。いやでもうすいほんがあつくなどと呟いているが、女性を守る心行きは確かなものらしい。
「どうしました? そんなものでは当たらないですよ」
もう一方に展開していたゴブリンはもなかが対応していた。踊るように立つ位置や体勢を変えて、敵の攻撃が空ぶったところでその隙にダガーが差し込まれる。
「これで2匹目ですね」
もなかは体を痙攣させるゴブリンからダガーを引き抜き、軽く振るって血を飛ばす。
『ゴブ、ググギャ!』
その瞬間、今まで様子を見ていたゴブリンソルジャーがブロードソードを構えて突撃してきた。
突然の攻撃にもなかは縦に振るわれたソルジャーからの攻撃をダガーで受け止めるが、あっさり弾かれて腕を斬られる。
「抑える!」
そこにウルがフォローに入る。ソルジャーがもう一度振り下ろそうとしていた剣に自分の稲妻型の剣をぶつけてその攻撃を受け止める。
だが威力は殺せたものの膂力はソルジャーのほうが上のようだ。ぎりぎりと力で押されウルの体が後ろへと下がっていく。
「下がりなさい!」
エルバッハが命ずると同時に放たれる風の刃。ウルとソルジャーが飛び退ると、その中央を切り裂いて風が通り過ぎる。
ソルジャーはハンター達を改めて一瞥すると、両拳を打ち付けて手甲を鳴らす。
「ただのゴブリンないようですね。彼方だけは」
咆えるゴブリンに対してエルバッハは手に持つ杖に赤い光を灯した。
「次から次へとキリが無いな」
ナタナエルは短槍を構えて突進してきたゴブリンの一撃を交わし、その足を引っ掛けて転倒させる。
だが間髪おかずに別のゴブリンが石斧を振り回しながらまた飛び掛ってきて、それをナイフで受け止め弾き返す。
「そのまま少し耐えておいてくれ」
クラリッサは魔法の詠唱に入る。その視界の端ではナタナエルとは別に風の加護を受けたシャルがゴブリン達を翻弄しているのが見えた。擦り抜け、飛び越え、時に刃を滑らせる姿はまさに風の妖精を思わせる戦いぶりだ。
2人が時間を稼いでくれている間に詠唱は終わり、クラリッサは杖をゴブリン達へと向ける。放たれた火球が1体のゴブリンに直撃すると、炎は瞬く間に膨れ上がって弾け周囲のゴブリン達へ諸共吹き飛ばした。
すると爆炎の端からシャルが飛び出す。そのままクラリッサの傍で着地すると、自らの二の腕を見やる。
「……少し熱かった」
「おお、それはすまんの。巻き込まないよう注意はしたのじゃが」
「……分かってる」
クラリッサの謝罪にシャルはあっさりと頷いてそれを受け入れる。
「シャルさまお怪我したんですかー? いたいのいたいの、とんでけーなのですー」
「んっ、平気」
蜜羽のヒールを受けてシャルはまたこくりと頷く。そして剣を構え直すとまだ息のあるゴブリンへと向かい走る。
「強いですね、あの少女」
ナタナエルはゴブリンを抑えている間に頬に負った傷を拭う。それに対して少女はほぼ無傷であった。それだけ実力の差があるのだと思い知らされる。
「そうじゃのう。だが、どうも悪人には見えんな」
まだ顔を合わせて数分。戦闘中なので言葉を交わしたのもまだ2回ばかし。だが、どうもあの茜色の髪をした少女からは悪意のようなものを感じなかった。
●少女と猫とハンター達
「スズメ、お願い!」
ネムリアの言葉に彼女のペットの柴犬が応える。マテリアルを纏ったスズメの体当たりを受けたゴブリンはもんどりうって転び、そこで追いついたネムリアの一撃で頭を砕く。
「ふふふ、やはりゴブリン如き僕の敵ではありませんね!」
そう言って炎の矢を半死半生のゴブリンに突き立てていく忠国。トドメは大事だが言動の所為かやってることが非常にセコく見える。
ゴブリン達は順当に駆逐されていっている。その中でソルジャーだけは尚も暴れ続けていた。
「しぶといです」
大振りの一撃を避けたもなかは滑り込みながらその足を斬りつける。傷口からは黒い血が流れ出るが倒れる気配は一向に無い。
ウルも肉薄し剣を振るうがそれはソルジャーの剣に受け止められ、力の差でまたウルは後退を余儀なくされる。
「あれだけの傷でよく動き回れますね。狙いがつけられません」
魔術師であるエルバッハは魔法を当てる隙を窺っているが、絶えずこちらも警戒するソルジャーは中々隙を見せない。
「隙、作ればいい?」
そこにいつの間にか隣に立っていたシャルがエルバッハのことを見上げて問う。
少し驚いたエルバッハは言葉に詰まるが、シャルは続けてもう一度問う。
「……いい?」
「ええ、宜しくお願いします」
エルバッハの言葉を受けてシャルは1つ頷くと飛び跳ねるようにしてソルジャーに向かっていく。
それに気づいたソルジャーもシャルに対応しようとするが、それをさせまいともなかとウルが斬りかかる。
ソルジャーはそれを受け止めるが、これで完全に両手が塞がっている。シャルはがら空きの胴に剣を突き刺し、剣の柄を強く握る。
するとシャルの剣、その機械部分が何かを装填するような動きをし次の瞬間青白い閃光が走った。
『グゴ、ゴブ……』
ソルジャーはびくんと体を痙攣させる。その間にシャル、そしてもなかとウルもソルジャーから距離を取る。
「残りの全部、くれてあげます」
4つの火球が連続してソルジャーに襲い掛かる。破裂し、燃え上がるソルジャーは暫し地面の上で暴れた後、すぐに動かなくなった。
「どうやらそちらも終わったようじゃの」
丁度他のゴブリン達を倒し終えたクラリッサが声をかける。辺りを見渡す限り生きているゴブリンの姿は無い。これでめでたく任務完了である。
と、そこに草むらの中で動く気配が1つ。ハンター達が身構えていると、揺れた草むらの中からは白猫が顔を出した。
「あっ、セインちゃん。おいでおいでなのですー」
蜜羽はその見覚えのある猫に近寄るが、白猫はするりと股の間抜けて逃げ出してしまう。
待ってーと白猫を追いかける蜜羽を他所に、シャルは倒れているソルジャーの元へと向かう。その手に白い手袋を付けながら。
だが、その前にもなかがソルジャーの元へと駆け足で近寄ってその体内へと手を突っ込んだ。
「あっ」
「うぅん、ぐちゃぐちゃで生温くて気持ち悪いですね」
シャルは少し驚いたような声をあげる。もなかは構わずそのまま体内を探るが、事前に聞いていたような石ころのようなものが手に触れることはない。
シャルは少し目を細めた後、するりと白い手袋を外す。そこにエルバッハが声を掛ける。
「シャルさんと仰るのですね。私はエルバッハ・リオンです」
「リオン?」
「いえ、よろしければエルと呼んでください」
「エル」
シャルはこくりと頷く。
「それでシャルさんは一体何の為にゴブリン退治をされているのです?」
エルバッハの問いにシャルは答えない。
いや、どうやら悩んでいるようで言っていいのか迷っているようだった。よく見れば少し困ったような顔をしているようにも見える。
「なんじゃ、援護の礼くらいはしても罰は当たらぬのではないか?」
そこでクラリッサも会話に加わる。あくまで優しく語り掛けるようにして少女に回答を促す。
シャルはもう一度悩んだあと、こくりと頷いた。
「欠片を集めてる」
シャルは正直に答えたのであろう。ただ少し簡単すぎてハンター達も首を傾げざるを得ない。
「シャルだったね。僕はナタナエル。それで、シャルはその欠片を集めてどうするの?」
膝を折り少女と同じ視線にあわせたナタナエルが問う。
シャルはそれにはまた口篭り、今度は明確に首を横に降った。
「そうか。じゃあ、いくつ集めればいいのかな。必要なら手助けできるよ?」
「それは駄目」
今度は迷うことなき明確な拒絶。シャルはそこで剣を背中の鞘に収めると、セインと蜜羽と追いかけっこを続けていた白猫を呼ぶ。
白猫はシャルに駆け寄るとぴょんと跳ねてシャルの肩に乗る。
「あっ、待ってシャル」
立ち去ろうとするシャルをネムリアが呼び止める。シャルはそれに反応して立ち止まり、ネムリアへと視線を向けた。
「あのね。辛いこととか、困ったことが在ったら、会いに来てね」
ネムリアの言葉にシャルは首を傾げる。そしてうーんと少し考える素振りをした後に、もう一度ネムリアへと視線を向けた。
「ありがとう」
表情1つ変えずに口にした感謝の言葉。それを言うとシャルは駆け出して、あっという間に去っていく。
「ああ、シャルちゃん! まだハグもちゅーもしてないのに!」
その後ろ姿を見て崩れ落ちる忠国。その隣ではウルがそっとフルートを口元に当てる。
奏でる音楽は不思議な少女へむけた故郷の音色。今回は彼女に聞かせることはできなかったが、次の機会があればゆっくりと聞いてもらいたい優しい音色。
草原へとやってきたハンター達はこの近くにいるはずのゴブリンの群れを探す。
そんな中でふとゴブリン横取事件のことが頭に浮かんだエルバッハ・リオン(ka2434)はぽつりと言葉を零す。
「そういえばゴブリンを退治する謎の少女がいるらしいですね。何者なのでしょうか?」
ハンターの中の、特にゴブリン退治をよく受ける駆け出し達の中で流行っている噂だ。
「さてのう。ま、何かしら理由があるからそう言う事をしているのじゃろうが」
クラリッサ=W・ソルシエール(ka0659)がそれに返事をする。
ゴブリンが退治されて困ることはないし、偶然遭遇したハンター達にも危害を加える様子はなかったそうだ。
だからと言って無視する訳にもいかないとクラリッサは思っていた。今は些細なことでも今後悪事に利用される可能性も否めないのだから当然であろう。
「ええ、ゴブリンの腸を抜き取っていくのですよね。末恐ろしい少女ですね」
クラリッサの言葉に賛同して水城もなか(ka3532)も頷く。だがもなかの言葉にクラリッサとエルバッハは若干頬を引きつらせる
「あれ、違いましたっけ?」
「違う。ゴブリンの体内からは何か石のような物を抜き取っていたはずだ」
首を傾げるもなかにウル=ガ(ka3593)はさっくりとその間違いを訂正する。
「けどその石を集めて彼女は何をしているんだろうね?」
そこでナタナエル(ka3884)も話に乗っかる。雑魔とはいえ歪虚から何かを抜き取って何に使うのか? 疑問は尽きない。
そんな話をしている間にハンター達の耳になにやら騒がしい声と金属がぶつかり合う音が聞こえてきた。
「誰かが戦っているようじゃのう」
「これはもしかすると遭遇したのかもな」
ハンター達は急ぎその音のする方向へと走った。
広い緑色の草原の中であちこちに茶や緑の肌をした生き物、ゴブリン達が蠢いている。
その中で一際明るい茜色の髪を揺らし、鉄色の大剣を振り回す少女が一人居た。
振るう大剣はゴブリンの胸に突き刺さりその命を奪うが、すぐに別のゴブリンが襲い掛かり少女は眉を顰めながら一足飛びで後ろに下がる。
10匹近いゴブリンに少女が1人。仮に少女が熟練のハンターだったとしても少々骨が折れる相手だろう。
そんなところに戦闘音を聞きつけたハンター達が現れた。
「あっ、シャルさま。おひさしぶりですー!」
ゴブリンと対峙する少女を一目見て、それが依然に出会った少女だと気づいた蜜羽(ka4585)は歓喜の声を上げる。
突然名前を呼ばれた少女――シャルは驚いたような表情を浮かべたものの、シャルも蜜羽の顔を覚えていたのか少し間を置いてこくりと頷いた。
「私達のこと覚えてくれてたんだね。それじゃあ、一緒に戦わせてもらっていいかな?」
ネムリア・ガウラ(ka4615)もシャルとは面識があった。敵ではないというネムリアの言葉にシャルはまた少し考えるが、迷いながらもまたこくりと頷いて返した。
「いや、こんな面倒臭いと思っていたお仕事でまさかシャルちゃんと出会えるなんて! これも運命。神が定めた道。今こそ貴女の愛くるしい胸の中へ! まいすうぃーとはにー!」
同じくシャルと面識のある加茂 忠国(ka4451)は何故かテンションを最高調に上げてシャルを呼ぶが、生憎シャルは不思議そうな顔をして首を傾げるだけだ。恐らく意味が通じていないと思われる。
「くっ、シャルちゃんと出会えた今となってはゴブリン共の何たる邪魔な事か! 皆さん、やっちゃってください!」
シャルから困惑の眼差しを向けられていることもお構いなしに忠国は皆に号令をかける。
「何か邪まな気配を感じるが。かの少女に手を貸すのはやぶさかではないのう」
クラリッサの瞳が赤く変化する。覚醒しマテリアルを高めたクラリッサが杖を振るうと柔らかな風が走り、シャルの周囲を取り巻く。
「話は後じゃ。まずはこのゴブリンを殲滅するするぞ」
「……んっ、分かった」
シャルは頷き、クラリッサも改めてゴブリン達に向けて杖を向けた。
「先手は私がもらいます」
手に茨を浮かべたエルバッハの杖が振るわれる。するとゴブリン達の集まる丁度中央で青白い霧が生まれ数匹のゴブリンがそれに飲まれた。
睡魔に負けたゴブリンはその場で草の上に転がり、それを見た別のゴブリンは少し慌てた後に寝ているゴブリンを蹴り起こそうとする。
「余所見とは余裕だな」
寝転げる仲間を起こそうとしていたゴブリンにウルの刃が振るわれる。
肩を斬られて倒れこむゴブリン。だが傷は浅かったようで肩を押さえながらも起き上がろうとする。
「邪魔だ。起きるな」
だがナタナエルが起き上がろうとしていたゴブリンの腹を踏みつけ、その首にナイフを突き立てた。
ゴキリと首筋の何かを砕いた音がして、ゴブリンは血色の泡を吹いて動かなくなる。
『グギャ、ゴブブ!』
その時群れの中央に居たゴブリンが声を上げる。他のゴブリンより一回り大きく、装備も1ランク上の物に見える。
ゴブリン達はその声を受けて左右に広がり始める。
「わわっ、ゴブリンさんが散っちゃうのですー」
「いや、どうやらわたし達を囲もうとしてるみたいだね。でもさせないよ」
広がろうとするゴブリンの一番先端の一匹に目掛けネムリアは駆け寄り手にした杖で横殴りにする。
殴られたゴブリンは地面を一度二度と転がるが、顔を一度振ると怒りを顕にして他のゴブリンと共にネムリアに襲い掛かる。
「ネムリアさま、あぶないのですー!」
蜜羽のメイスか振るわれるとネムリアの体が光の膜に覆われる。その膜はゴブリンの錆びたナイフや棍棒を受け止めるが、すぐにその光りは薄らいでいく。
「くうっ」
あと僅かで光が消える。もう一撃で、そう思いそれを何とか受けようと杖を構えたネムリアの前に突如壁が現れた。
ゴブリン達は地面から生えてきたそれに跳ね飛ばされて宙を舞っている。
「全く、最近のゴブリンはYESロリータNOタッチを知らないのですかね!」
そして壁の横に立ってどどーんとドヤ顔をする忠国。いやでもうすいほんがあつくなどと呟いているが、女性を守る心行きは確かなものらしい。
「どうしました? そんなものでは当たらないですよ」
もう一方に展開していたゴブリンはもなかが対応していた。踊るように立つ位置や体勢を変えて、敵の攻撃が空ぶったところでその隙にダガーが差し込まれる。
「これで2匹目ですね」
もなかは体を痙攣させるゴブリンからダガーを引き抜き、軽く振るって血を飛ばす。
『ゴブ、ググギャ!』
その瞬間、今まで様子を見ていたゴブリンソルジャーがブロードソードを構えて突撃してきた。
突然の攻撃にもなかは縦に振るわれたソルジャーからの攻撃をダガーで受け止めるが、あっさり弾かれて腕を斬られる。
「抑える!」
そこにウルがフォローに入る。ソルジャーがもう一度振り下ろそうとしていた剣に自分の稲妻型の剣をぶつけてその攻撃を受け止める。
だが威力は殺せたものの膂力はソルジャーのほうが上のようだ。ぎりぎりと力で押されウルの体が後ろへと下がっていく。
「下がりなさい!」
エルバッハが命ずると同時に放たれる風の刃。ウルとソルジャーが飛び退ると、その中央を切り裂いて風が通り過ぎる。
ソルジャーはハンター達を改めて一瞥すると、両拳を打ち付けて手甲を鳴らす。
「ただのゴブリンないようですね。彼方だけは」
咆えるゴブリンに対してエルバッハは手に持つ杖に赤い光を灯した。
「次から次へとキリが無いな」
ナタナエルは短槍を構えて突進してきたゴブリンの一撃を交わし、その足を引っ掛けて転倒させる。
だが間髪おかずに別のゴブリンが石斧を振り回しながらまた飛び掛ってきて、それをナイフで受け止め弾き返す。
「そのまま少し耐えておいてくれ」
クラリッサは魔法の詠唱に入る。その視界の端ではナタナエルとは別に風の加護を受けたシャルがゴブリン達を翻弄しているのが見えた。擦り抜け、飛び越え、時に刃を滑らせる姿はまさに風の妖精を思わせる戦いぶりだ。
2人が時間を稼いでくれている間に詠唱は終わり、クラリッサは杖をゴブリン達へと向ける。放たれた火球が1体のゴブリンに直撃すると、炎は瞬く間に膨れ上がって弾け周囲のゴブリン達へ諸共吹き飛ばした。
すると爆炎の端からシャルが飛び出す。そのままクラリッサの傍で着地すると、自らの二の腕を見やる。
「……少し熱かった」
「おお、それはすまんの。巻き込まないよう注意はしたのじゃが」
「……分かってる」
クラリッサの謝罪にシャルはあっさりと頷いてそれを受け入れる。
「シャルさまお怪我したんですかー? いたいのいたいの、とんでけーなのですー」
「んっ、平気」
蜜羽のヒールを受けてシャルはまたこくりと頷く。そして剣を構え直すとまだ息のあるゴブリンへと向かい走る。
「強いですね、あの少女」
ナタナエルはゴブリンを抑えている間に頬に負った傷を拭う。それに対して少女はほぼ無傷であった。それだけ実力の差があるのだと思い知らされる。
「そうじゃのう。だが、どうも悪人には見えんな」
まだ顔を合わせて数分。戦闘中なので言葉を交わしたのもまだ2回ばかし。だが、どうもあの茜色の髪をした少女からは悪意のようなものを感じなかった。
●少女と猫とハンター達
「スズメ、お願い!」
ネムリアの言葉に彼女のペットの柴犬が応える。マテリアルを纏ったスズメの体当たりを受けたゴブリンはもんどりうって転び、そこで追いついたネムリアの一撃で頭を砕く。
「ふふふ、やはりゴブリン如き僕の敵ではありませんね!」
そう言って炎の矢を半死半生のゴブリンに突き立てていく忠国。トドメは大事だが言動の所為かやってることが非常にセコく見える。
ゴブリン達は順当に駆逐されていっている。その中でソルジャーだけは尚も暴れ続けていた。
「しぶといです」
大振りの一撃を避けたもなかは滑り込みながらその足を斬りつける。傷口からは黒い血が流れ出るが倒れる気配は一向に無い。
ウルも肉薄し剣を振るうがそれはソルジャーの剣に受け止められ、力の差でまたウルは後退を余儀なくされる。
「あれだけの傷でよく動き回れますね。狙いがつけられません」
魔術師であるエルバッハは魔法を当てる隙を窺っているが、絶えずこちらも警戒するソルジャーは中々隙を見せない。
「隙、作ればいい?」
そこにいつの間にか隣に立っていたシャルがエルバッハのことを見上げて問う。
少し驚いたエルバッハは言葉に詰まるが、シャルは続けてもう一度問う。
「……いい?」
「ええ、宜しくお願いします」
エルバッハの言葉を受けてシャルは1つ頷くと飛び跳ねるようにしてソルジャーに向かっていく。
それに気づいたソルジャーもシャルに対応しようとするが、それをさせまいともなかとウルが斬りかかる。
ソルジャーはそれを受け止めるが、これで完全に両手が塞がっている。シャルはがら空きの胴に剣を突き刺し、剣の柄を強く握る。
するとシャルの剣、その機械部分が何かを装填するような動きをし次の瞬間青白い閃光が走った。
『グゴ、ゴブ……』
ソルジャーはびくんと体を痙攣させる。その間にシャル、そしてもなかとウルもソルジャーから距離を取る。
「残りの全部、くれてあげます」
4つの火球が連続してソルジャーに襲い掛かる。破裂し、燃え上がるソルジャーは暫し地面の上で暴れた後、すぐに動かなくなった。
「どうやらそちらも終わったようじゃの」
丁度他のゴブリン達を倒し終えたクラリッサが声をかける。辺りを見渡す限り生きているゴブリンの姿は無い。これでめでたく任務完了である。
と、そこに草むらの中で動く気配が1つ。ハンター達が身構えていると、揺れた草むらの中からは白猫が顔を出した。
「あっ、セインちゃん。おいでおいでなのですー」
蜜羽はその見覚えのある猫に近寄るが、白猫はするりと股の間抜けて逃げ出してしまう。
待ってーと白猫を追いかける蜜羽を他所に、シャルは倒れているソルジャーの元へと向かう。その手に白い手袋を付けながら。
だが、その前にもなかがソルジャーの元へと駆け足で近寄ってその体内へと手を突っ込んだ。
「あっ」
「うぅん、ぐちゃぐちゃで生温くて気持ち悪いですね」
シャルは少し驚いたような声をあげる。もなかは構わずそのまま体内を探るが、事前に聞いていたような石ころのようなものが手に触れることはない。
シャルは少し目を細めた後、するりと白い手袋を外す。そこにエルバッハが声を掛ける。
「シャルさんと仰るのですね。私はエルバッハ・リオンです」
「リオン?」
「いえ、よろしければエルと呼んでください」
「エル」
シャルはこくりと頷く。
「それでシャルさんは一体何の為にゴブリン退治をされているのです?」
エルバッハの問いにシャルは答えない。
いや、どうやら悩んでいるようで言っていいのか迷っているようだった。よく見れば少し困ったような顔をしているようにも見える。
「なんじゃ、援護の礼くらいはしても罰は当たらぬのではないか?」
そこでクラリッサも会話に加わる。あくまで優しく語り掛けるようにして少女に回答を促す。
シャルはもう一度悩んだあと、こくりと頷いた。
「欠片を集めてる」
シャルは正直に答えたのであろう。ただ少し簡単すぎてハンター達も首を傾げざるを得ない。
「シャルだったね。僕はナタナエル。それで、シャルはその欠片を集めてどうするの?」
膝を折り少女と同じ視線にあわせたナタナエルが問う。
シャルはそれにはまた口篭り、今度は明確に首を横に降った。
「そうか。じゃあ、いくつ集めればいいのかな。必要なら手助けできるよ?」
「それは駄目」
今度は迷うことなき明確な拒絶。シャルはそこで剣を背中の鞘に収めると、セインと蜜羽と追いかけっこを続けていた白猫を呼ぶ。
白猫はシャルに駆け寄るとぴょんと跳ねてシャルの肩に乗る。
「あっ、待ってシャル」
立ち去ろうとするシャルをネムリアが呼び止める。シャルはそれに反応して立ち止まり、ネムリアへと視線を向けた。
「あのね。辛いこととか、困ったことが在ったら、会いに来てね」
ネムリアの言葉にシャルは首を傾げる。そしてうーんと少し考える素振りをした後に、もう一度ネムリアへと視線を向けた。
「ありがとう」
表情1つ変えずに口にした感謝の言葉。それを言うとシャルは駆け出して、あっという間に去っていく。
「ああ、シャルちゃん! まだハグもちゅーもしてないのに!」
その後ろ姿を見て崩れ落ちる忠国。その隣ではウルがそっとフルートを口元に当てる。
奏でる音楽は不思議な少女へむけた故郷の音色。今回は彼女に聞かせることはできなかったが、次の機会があればゆっくりと聞いてもらいたい優しい音色。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 ネムリア・ガウラ(ka4615) エルフ|14才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/05/08 23:21:04 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/06 22:13:53 |