ゲスト
(ka0000)
ハンターの昼飯、略して「ハンメシ」
マスター:狐野径

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/11 07:30
- 完成日
- 2015/05/17 18:20
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●クロ困惑
甥がいない。
ユグディラのクローディル・ゴーティは頭を抱える。
最近、クローディルが目を覚ますと甥がいなくなっていることが多くなっている。もちろん、常に一緒に行動しているわけではないため、出かけてもかまわない。
何をしていてもかまわない、面倒なことでなければ。
そして、何をしているかを推測させる物品が、ねぐらとしているところの周りで発見されている。
クローディルはそれを片づけて甥をしかりつけたのだが……改善はされていない。
弁当箱。
転がっているのはどこからかくすねてきた弁当の残りかすとそれ。
こんなものを置いておけば、野生動物に見つかって狙われるかもしれないというのに。
『他人の飯を掠め取るとは、何たる愚かなことを! くれるものはもらって良しである……と叱ったのだが……』
おなかがすくのは分かるけれど、人間のモノを取らずともどうにかなる林を拠点にしている理由がなくなってしまう。
『人間も問題だけど、コボルドと出会われても……』
林にどんな生き物がいて、どういう行動をとるかを把握しての生活だった。若い甥っ子は聞いているが記憶していないらしい。
人間にちょっかいを出すと、面倒なことになるのは……クローディル自身の身を持って知っていた。
もちろん、ちょっかいを出すと楽しいことも。
しかし、今は、分別のある大人としての対処をしないといけない。
クローディルは甥を捜しにねぐらを後にした。
●チャ意気揚々
叔父さんは立派だが、鬱陶しい。
叔父がいるからこうして人間世界の空気を吸える。自由気ままに動いてみたいという願望もある。
クローディルの甥チャイロー・クズーハはしっぽをぴんと張って、飛び跳ねるように後ろ足で走っている。
『にゃにゃめし~。人間のご飯はおいしいにゃーん! クロ叔父にゃんは見つかるといけない、他人の物を掠め取るとはいけない、にゃーんて言うけど、そこに置いてあって、くれるんだもん、いいにゃーん』
木が倒れる音がするため、人間がどこで作業をしているか分かっている。そちらに向かってルンルンと昼時向かう。
『働くあにゃたにも昼は来るにゃー。見せてくれにゃー、おいらにくれにゃーん』
食事をとるキコリがいるのを茂みからチャイローは見ていた。
隙をついて前足を伸ばす。
『いたたきにゃー』
「こら、人の飯を持って行くな!」
弁当箱を引っさらっていくユグディラの背中に、キコリは溜息をついた。
●キコリ激怒
「と言うわけで、ユグディラ退治をお願いします」
キコリたちの代表がハンターズソサエティの支部でどっしりと、そして淡々と言い切った。
「え、ええと……可愛いのに」
「それは勝手な言い分だ。我々は木材を切り出すために働いているんだ。力仕事で腹も減る。それだというのに、あのユグディラときたら弁当を引っくり返すやら、全部持って行きやがるやら!」
「そ、そうですね」
職員はおどおどしていたが、キコリにとって死活問題なのは理解した。
甥がいない。
ユグディラのクローディル・ゴーティは頭を抱える。
最近、クローディルが目を覚ますと甥がいなくなっていることが多くなっている。もちろん、常に一緒に行動しているわけではないため、出かけてもかまわない。
何をしていてもかまわない、面倒なことでなければ。
そして、何をしているかを推測させる物品が、ねぐらとしているところの周りで発見されている。
クローディルはそれを片づけて甥をしかりつけたのだが……改善はされていない。
弁当箱。
転がっているのはどこからかくすねてきた弁当の残りかすとそれ。
こんなものを置いておけば、野生動物に見つかって狙われるかもしれないというのに。
『他人の飯を掠め取るとは、何たる愚かなことを! くれるものはもらって良しである……と叱ったのだが……』
おなかがすくのは分かるけれど、人間のモノを取らずともどうにかなる林を拠点にしている理由がなくなってしまう。
『人間も問題だけど、コボルドと出会われても……』
林にどんな生き物がいて、どういう行動をとるかを把握しての生活だった。若い甥っ子は聞いているが記憶していないらしい。
人間にちょっかいを出すと、面倒なことになるのは……クローディル自身の身を持って知っていた。
もちろん、ちょっかいを出すと楽しいことも。
しかし、今は、分別のある大人としての対処をしないといけない。
クローディルは甥を捜しにねぐらを後にした。
●チャ意気揚々
叔父さんは立派だが、鬱陶しい。
叔父がいるからこうして人間世界の空気を吸える。自由気ままに動いてみたいという願望もある。
クローディルの甥チャイロー・クズーハはしっぽをぴんと張って、飛び跳ねるように後ろ足で走っている。
『にゃにゃめし~。人間のご飯はおいしいにゃーん! クロ叔父にゃんは見つかるといけない、他人の物を掠め取るとはいけない、にゃーんて言うけど、そこに置いてあって、くれるんだもん、いいにゃーん』
木が倒れる音がするため、人間がどこで作業をしているか分かっている。そちらに向かってルンルンと昼時向かう。
『働くあにゃたにも昼は来るにゃー。見せてくれにゃー、おいらにくれにゃーん』
食事をとるキコリがいるのを茂みからチャイローは見ていた。
隙をついて前足を伸ばす。
『いたたきにゃー』
「こら、人の飯を持って行くな!」
弁当箱を引っさらっていくユグディラの背中に、キコリは溜息をついた。
●キコリ激怒
「と言うわけで、ユグディラ退治をお願いします」
キコリたちの代表がハンターズソサエティの支部でどっしりと、そして淡々と言い切った。
「え、ええと……可愛いのに」
「それは勝手な言い分だ。我々は木材を切り出すために働いているんだ。力仕事で腹も減る。それだというのに、あのユグディラときたら弁当を引っくり返すやら、全部持って行きやがるやら!」
「そ、そうですね」
職員はおどおどしていたが、キコリにとって死活問題なのは理解した。
リプレイ本文
●お弁当
集まったハンターたちはキコリ達から話を聞き、作戦を立てる。
落とし穴、自前弁当激辛ソース入り、キコリに扮する、普段のキコリの弁当準備……などアイデアを出した。キコリに協力を頼み、翌日に備えて解散する。
リェータ・メルクーリ(ka1937)はせっせと落とし穴を掘る、明日の作戦決行地点の側で。
おとり作戦の方が成功して、不要の落とし穴になるかもしれない。その時はその時で、もしものためも含めて罠は多い方がいい。
作戦決行の日の朝は、弁当を作ることも忘れない。
入手した材料を丁寧に切り、煮て炊いて焼いて……渋い色合いだが働く人にはちょうどいい弁当に仕上げた、はずだった。
普段通りの黒い弁当に溜息が漏れた。
夕鶴(ka3204)はいつものようにいつもの如く、リアルブルーの女子高生の制服を身に着け武器を提げる。
きりっとしていることを鏡で確認する。普段のようにいつも通りに乱れなく……。
「ユグディラ……こうして遭遇できる日がこようとは……ふふふ……」
夕鶴は興奮が漏れた独り言と緩む頬にはっとした。
(平常心、平常心……)
心の中で呪文を唱える。
普段のキコリの弁当をおとりに、夕鶴は隠れて捕まえる……単純だけど確実なはずだった。
シバ・ミラージュ(ka2094)とカディス・ヴァントーズ(ka4674)は、キコリに扮し、おとりになること予定にしていた。キコリの家の台所を借りそれぞれ弁当の用意を始める。
「結局、料理はおいしいものにしますか?」
カディスは問いかけたが、シバの行動で理解した。シバは乳鉢に唐辛子を入れゴリゴリとつぶしている。
「激辛猫まんまですよ」
キコリの普段の弁当も用意してもらうのだから、罠たっぷりの弁当をあえて用意する。
料理中、唐辛子をはじめとする辛い調味料のため、カディスとシバは涙があふれた。
キコリの扮装をして、作業予定地に激辛猫まんま弁当と野菜たっぷり激辛バーグ弁当を持って出かけた。
クロエ・アブリール(ka4066)はキコリの弁当を入手する代りに、食事をふるまうことにしていた。
「わざわざ良いのに」
キコリの奥さんが言うけれどきっぱりと「けじめだ」と告げる。弁当提供したキコリ達は普段と違う料理にわくわくしている様子だった。
さて、おとりになる弁当も入手して、キコリに扮して作業場に向かった。
●罠と爪
今日も弁当をせしめるつもりでルンルンと歩いているチャイローは、目の前にいるクローディルにぎょっとする。
『待て、チャイロー』
『叔父にゃん!』
脱兎のごとく逃げた背中を溜息が追いかけた。
昼前まではキコリ達はいつものように林を出入りする。
油断させるための偽装。
ハンターたちは決めてある、ユグディラを殺害しないということを。
依頼は殺害含めた追い出しだ。
食べ物の怨みで頭に血の上ったキコリが勢いでユグディラを殺しかねないことも考慮の上。
さて、何事もなく昼食時が来た。
作業地点で弁当を広げるのはシバとクロエとカディスだ。捕獲のために夕鶴が茂みに隠れ、誘導先となる落とし穴近くにリェータが隠れる。
「キコリらしい会話……あなたが落とした斧は金の斧ですか、それとも銀の……」
シバはまじめに口を開いて、会話の突破口を開く。
「いや、落としてない。それ、キコリらしいというより、成金のような雰囲気が漂うが」
クロエはまじめに返答し、弁当を眺め、美味しそうだなと少しだけ口に運ぶ。食べていないのも不自然だ。
「ピクニックみたい……弁当、食べましょうか!」
しゃべりながらカディスは赤いハンバーグを眺める。匂いが刺激して唾液が良く出てくる。
「……意外とおいしいのかもしれないですね」
カディスの弁当を見て、シバはつぶやく。周りに野菜もあり、一緒に挟めばちょうどいいんじゃないかと考えがよぎる。
「さすがに少し効きすぎかもしれませんよ」
調理した本人は香辛料の分量が分かるため、躊躇も示す。食べてみるにしても、仕事が終わった後だろう。
チャイローはじっと見る。
いつもと匂いが違う。
いつもの人間が異なっている。
その上、妙に胃袋が刺激される匂いも漂っている。
危険を避けるか否か!
悩んでいる間に、鼻がマヒしてきていた……気づかない。
夕鶴はクレイモアの柄を握り、動くために筋力を動かした。
姿は見えないが、近くの茂みがかすかに動いているのだ。位置を想定するとユグディラがいる可能性が高い。
ガサッ!
『働くあにゃたにも昼はくるにゃー、いただきにゃーん』
茶色い毛並みのユグディラが飛び出し、置いてあったキコリの弁当を掴んだ。
走り出す。
「逃がすかっ!」
クロエは近くを通ったユグディラを止めると共にしつけも考え拳を固めて振るった。相手の動きが素早く、拳は胴をかすったにすぎなかった。
『危険にゃーん』
チャイローは弁当を捨てダッシュする。
「この弁当を食べてください」
匙を手に思わず口走ったシバはあわてて魔法を使うための杖を掴んだ。もちろん、チャイローだって食べている余裕はない。
「猫じゃらし」
カディスは弁当を置き、猫じゃらしを手に装備した。
夕鶴は武器を引き抜き、チャイローを追いかけた。
(このままいけば落とし穴の方向!)
一気に解決するかもしれない。
落とし穴付近にいたリェータは、コボルドもいるらしいと耳にしているので、ちょっと不安もあった。自分たちというより、ユグディラに何かあったら可哀そうだと思うから。
それにしてもみんなのお弁当おいしいに違いないと思うと、寂しくなってくる。シバとカディスの弁当からは、蓋をしていてもただとってくる香辛料がちょっと不安も感じさせたが。
作業場から声が聞こえた。そして、音はこちらに来る。
猫じゃらしと弁当の入った包みを手に、リェータは様子をうかがった。
来た!
ユグディラが二足歩行で走ってくる!
落とし穴に落とすため、飛び出すことにした。
ユグディラは回避できずリェータに突っ込み、突っ込まれたリェータは落とし穴に足を突っ込んだ。
『にゃー』
「きゃあああ」
「そのまま捕まえておいてくれ!」
うらやましいと夕鶴は思いつつも絶叫した。
リェータは腕の中にあるものを抱きしめた。
『にゃあ』
「い、痛い、痛い……」
リェータは声を上げるが、必死にユグディラを抱きしめる。爪がところどころ服を貫通して肌を突き刺す。落とし穴に落ちた衝撃で足も痛いし、夕鶴が来るまでの数秒が非常に長く感じられた。
チャイローが捕まり、ロープでぐるぐる巻きにされたのをクローディルは見ていた。
(チャイロー……と、とうとうこんなことになってしまった……)
可愛い甥っ子をこんな目に遭わせてしまっては、家族になんと言えばいいのか。
(我とてただのユグディラではない……そう、我は……黒い電光と呼ばれたユグディラなのだ!)
若い頃に付けられた二つ名を思いだし、甥っ子を助けるために自身の気持ちを高ぶらせる。隙を突いて甥を助けるために、人間たちを観察することにした。
●説教と学習と
人間につかまって震えるチャイロー。
「もう、殴っても効果ないんだな」
クロエはタイミングを逃したしつけ方法に溜息をもらす。
「言葉使わずに説得……できるのか」
カディスは不安そうにチャイローを見る。
なぜかチャイローを見ると胸の奥がずーんと重く、悲しい気分になってくる。
「それにしても本当に……」
夕鶴は縛ったユグディラの頭に触れてみる。ちょっと荒れているが、十分柔らかい毛の感触が伝わり、自然と顔は緩む。
『叔父にゃーん、ごめんさいにゃーん。おいら、殺されるにゃーん』
何やら串を用意しているシバ、何かの草を集めるクロエ、火を起こすカディスを見て、チャイローは泣く。
『あの串で刺されて、あの草を突っ込まれ、焼かれちゃうにゃーん』
チャイローが泣いた瞬間、ハンターたちの脳裏に恐ろしい映像がよぎった。火あぶりにされるユグディラと囲む人間のような影。
「……なんか……ええと……」
互いに顔を見合わせる。
「幻覚か何かをこれに見せられた?」
カディスの言葉に全員が納得した。
そんな中、夕鶴は何かを感じて、チャイローから手を離した。おかげで、間一髪でクローディルの爪攻撃から手は逃れていた。
『叔父にゃん』
チャイローが歓喜の声をあげる。
『我は黒い雷光と呼ばれたユグディラ、クローディルである! 愚かな甥とはいえ、殺害されるようなことはしてはおらぬはず、早々にその縄をほどけ』
クローディルは威嚇した、鋭い爪を見せて。
ハンターたちはあわてず騒がず、猫じゃらしを持った。
逃げそうにないし、攻撃するよりこっちの方が確実だろうという判断。
『う、そ、それは……』
「こんなこともあろうかと」
カディスがしゃがんで振り始める。いや、全員で振り始める。
『我はそんなに……子供ではないわ! にゃーん』
大人の猫はじゃれにくくなるとは言うが、時と場合による。
そして、クローディルは捕縛された。
引っ掻かれながらも夕鶴が抱きかかえる。
『お、叔父にゃんが』
なんか悲しい雰囲気が漂う。
「あ、ええと、うちの弁当食べます?」
リェータの弁当を見て、チャイローはひっと飛びのいた、縛られているのに。
「……つまり、人間のものはこんなハズレがあるんです」
自分で食べて、リュータは説得に入った。そう、なぜこんな味になったのか、心の底から悲しみが生まれる。
「激辛好きだとこういう弁当もありえます」
カディスとシバが自作の弁当をチャイローの前に置いた。
『ぎゃー』
チャイローから悲鳴が上がり、ぐったりと動かなくなった。
『チャー』
この惨事にハンターたちはそっぽをむき色々耐えた。
夕鶴が放すとクローディルはチャイローの側に行き、体をゆすった。
「こ、こんなことになるなんて」
リェータがチャイローのロープをほどく。
「私たちはお前たちを殺すつもりはなかった」
クロエの神妙な言葉に皆うなずく。
「できれば自然のものでもおいしいものあると教えてあげたかったんです」
ウゾウゾと動く幼虫を手にシバが言う。
『我とて人間のものを取るつもりはなかった。そもそも、こうなることが分かっていたから』
チャイローが涙目ですがってくるので、背中をさすりながらクローディルが言った。
「無事で良かった……」
夕鶴はホッと息を付いた。
『まあ、匂いが強烈だったから、当分鼻は動かないだろうな……』
クローディルは苦笑する。
「こういったものだって食べられると、教えたかったんですよ」
木の実が入った籠をリェータは見せた。
「草木やキノコ類もあるな」
籠をクロエが見せる。
「虫もタンパク源が多くいい物です」
籠とはいかず袋に入れられたものを見せるシバ。
『ほれ、人間も言っているぞ、我と同じことを』
『でも、でも、人間のご飯おいしいにゃーん』
クローディルにチャイローは訴える。
「これをこうしてあぶって食べると、外はかりっ中はしっとりになるんです」
シバ、幼虫をくしに刺して火に当てた。香ばしい匂いが漂う。
シバが笑顔でチャイローに串を差し出す。
チャイローはどうしていいのか分からず首をかしげつつ、クローディルに促されて前足を伸ばした。受け取った串の幼虫が熱いので冷めるのを待ってから口に放り込んだ。
ぱぁあああと気持ちが明るくなった。
『叔父にゃん、いつもと違う味がするにゃ』
「蛙や蛇もいけますよ? さ、皆さんもどうです?」
ハンターたちは手を出す人、手を出しかねる人にきれいに分かれる。
『おいらにもう一個頂戴』
チャイローが手を出したのでシバは串を渡すために手を伸ばしたが、リェータの手にその串は渡っていた。
『にゃー』
チャイローが驚いて見つめている。
「いいですか、あなたがしたことは今のようなことなのです」
『……』
「今、あなたはどう思いました?」
『……』
「人のを勝手に奪うということは、今あなたが思ったようなことなんですよ」
リェータは串をチャイローに渡した。
「そうだな。奪うのも、せっかくの食事をひっくり返すのも良くないぞ」
クロエが焼きキノコを手渡しながら諭す。
チャイローはうなずきながら串を手にする。両前足に串を持ちつつ、冷えるのを待つ。
「ところでクロさんは食べないんですか?」
カディスが焼かれた虫が刺さった串とキノコが刺さった串を見せる。
「食べ物の怨みということで、キコリさんたちは怒ってます。この林を出てもらいたいんですよ」
丁寧に話しかけるとクローディルはうなずいた。
『そうなると分かっておった。穏便にことを運ぼうと考える君たちに敬意を払い、我らはこれを食べたら別の所に行くよ』
微笑んで見える顔で、キノコを受け取った。
「やっぱり、話が通じてる?」
夕鶴は驚いて声を上げた。
『バカにするな。我はそれなりに人間社会を知っている。言葉くらい学ぶ時間はあった』
何かバカにされたような印象だけがハンターには伝わる。
「でも、まあ、話が通じてよかった」
クロエは微笑み、クローディルがうなずいた。
「腹ごなしに遊ぶか?」
その笑みのまま、クロエは猫じゃらしを見せた。
「少しだけでいいから……こ、後学のためにユグディラをこう、もっと触りたい」
夕鶴は言葉を選びつつチャイローを抱き上げた。
●お別れ
小一時間、ユグディラたちと遊んだ。
ハンターたちはキコリの住む村のはずれまで二匹を連れて行った。彼らがきちんと林から離れるのを確認しないといけない。
「自然のものはおいしかったですよね? 人間の弁当以外にも目をむけましょう!」
リェータの言葉にクローディルは苦笑しつつ、チャイローを促した。チャイローはしぶしぶと言った感じでうなずく。
「火さえあれば、ただの虫も香ばしい美味物体に変化します」
シバから火打石をもらう。チャイローは受け取った。
「ふふふ……お日様のにおい……幸せだった……ありがとう、すてきな時間だったわ」
出会いたかったユグディラに対し、本音が漏れた夕鶴。
「猫と違うのは良くわかった、二足で立つし。もう、会うことないだろうがな」
クロエは寂しい気もするし、また会うかもしれないがきっぱり別れておく。
「本当は弁当もあげたかったけど、この辺は一線を画さないと」
カディスは複雑に思いつつ、チャイローの頭を最後に撫でておく。
「この近辺にいちゃだめだよ」
と異口同音のハンターたちのダメ出しの一言にユグディラ二匹はうなずいた。
お辞儀をして、尻尾を振り振り、二匹は立ち去った。
小さな影が見えなくなり、本当に離れたと確信するまで見送り続けた。
集まったハンターたちはキコリ達から話を聞き、作戦を立てる。
落とし穴、自前弁当激辛ソース入り、キコリに扮する、普段のキコリの弁当準備……などアイデアを出した。キコリに協力を頼み、翌日に備えて解散する。
リェータ・メルクーリ(ka1937)はせっせと落とし穴を掘る、明日の作戦決行地点の側で。
おとり作戦の方が成功して、不要の落とし穴になるかもしれない。その時はその時で、もしものためも含めて罠は多い方がいい。
作戦決行の日の朝は、弁当を作ることも忘れない。
入手した材料を丁寧に切り、煮て炊いて焼いて……渋い色合いだが働く人にはちょうどいい弁当に仕上げた、はずだった。
普段通りの黒い弁当に溜息が漏れた。
夕鶴(ka3204)はいつものようにいつもの如く、リアルブルーの女子高生の制服を身に着け武器を提げる。
きりっとしていることを鏡で確認する。普段のようにいつも通りに乱れなく……。
「ユグディラ……こうして遭遇できる日がこようとは……ふふふ……」
夕鶴は興奮が漏れた独り言と緩む頬にはっとした。
(平常心、平常心……)
心の中で呪文を唱える。
普段のキコリの弁当をおとりに、夕鶴は隠れて捕まえる……単純だけど確実なはずだった。
シバ・ミラージュ(ka2094)とカディス・ヴァントーズ(ka4674)は、キコリに扮し、おとりになること予定にしていた。キコリの家の台所を借りそれぞれ弁当の用意を始める。
「結局、料理はおいしいものにしますか?」
カディスは問いかけたが、シバの行動で理解した。シバは乳鉢に唐辛子を入れゴリゴリとつぶしている。
「激辛猫まんまですよ」
キコリの普段の弁当も用意してもらうのだから、罠たっぷりの弁当をあえて用意する。
料理中、唐辛子をはじめとする辛い調味料のため、カディスとシバは涙があふれた。
キコリの扮装をして、作業予定地に激辛猫まんま弁当と野菜たっぷり激辛バーグ弁当を持って出かけた。
クロエ・アブリール(ka4066)はキコリの弁当を入手する代りに、食事をふるまうことにしていた。
「わざわざ良いのに」
キコリの奥さんが言うけれどきっぱりと「けじめだ」と告げる。弁当提供したキコリ達は普段と違う料理にわくわくしている様子だった。
さて、おとりになる弁当も入手して、キコリに扮して作業場に向かった。
●罠と爪
今日も弁当をせしめるつもりでルンルンと歩いているチャイローは、目の前にいるクローディルにぎょっとする。
『待て、チャイロー』
『叔父にゃん!』
脱兎のごとく逃げた背中を溜息が追いかけた。
昼前まではキコリ達はいつものように林を出入りする。
油断させるための偽装。
ハンターたちは決めてある、ユグディラを殺害しないということを。
依頼は殺害含めた追い出しだ。
食べ物の怨みで頭に血の上ったキコリが勢いでユグディラを殺しかねないことも考慮の上。
さて、何事もなく昼食時が来た。
作業地点で弁当を広げるのはシバとクロエとカディスだ。捕獲のために夕鶴が茂みに隠れ、誘導先となる落とし穴近くにリェータが隠れる。
「キコリらしい会話……あなたが落とした斧は金の斧ですか、それとも銀の……」
シバはまじめに口を開いて、会話の突破口を開く。
「いや、落としてない。それ、キコリらしいというより、成金のような雰囲気が漂うが」
クロエはまじめに返答し、弁当を眺め、美味しそうだなと少しだけ口に運ぶ。食べていないのも不自然だ。
「ピクニックみたい……弁当、食べましょうか!」
しゃべりながらカディスは赤いハンバーグを眺める。匂いが刺激して唾液が良く出てくる。
「……意外とおいしいのかもしれないですね」
カディスの弁当を見て、シバはつぶやく。周りに野菜もあり、一緒に挟めばちょうどいいんじゃないかと考えがよぎる。
「さすがに少し効きすぎかもしれませんよ」
調理した本人は香辛料の分量が分かるため、躊躇も示す。食べてみるにしても、仕事が終わった後だろう。
チャイローはじっと見る。
いつもと匂いが違う。
いつもの人間が異なっている。
その上、妙に胃袋が刺激される匂いも漂っている。
危険を避けるか否か!
悩んでいる間に、鼻がマヒしてきていた……気づかない。
夕鶴はクレイモアの柄を握り、動くために筋力を動かした。
姿は見えないが、近くの茂みがかすかに動いているのだ。位置を想定するとユグディラがいる可能性が高い。
ガサッ!
『働くあにゃたにも昼はくるにゃー、いただきにゃーん』
茶色い毛並みのユグディラが飛び出し、置いてあったキコリの弁当を掴んだ。
走り出す。
「逃がすかっ!」
クロエは近くを通ったユグディラを止めると共にしつけも考え拳を固めて振るった。相手の動きが素早く、拳は胴をかすったにすぎなかった。
『危険にゃーん』
チャイローは弁当を捨てダッシュする。
「この弁当を食べてください」
匙を手に思わず口走ったシバはあわてて魔法を使うための杖を掴んだ。もちろん、チャイローだって食べている余裕はない。
「猫じゃらし」
カディスは弁当を置き、猫じゃらしを手に装備した。
夕鶴は武器を引き抜き、チャイローを追いかけた。
(このままいけば落とし穴の方向!)
一気に解決するかもしれない。
落とし穴付近にいたリェータは、コボルドもいるらしいと耳にしているので、ちょっと不安もあった。自分たちというより、ユグディラに何かあったら可哀そうだと思うから。
それにしてもみんなのお弁当おいしいに違いないと思うと、寂しくなってくる。シバとカディスの弁当からは、蓋をしていてもただとってくる香辛料がちょっと不安も感じさせたが。
作業場から声が聞こえた。そして、音はこちらに来る。
猫じゃらしと弁当の入った包みを手に、リェータは様子をうかがった。
来た!
ユグディラが二足歩行で走ってくる!
落とし穴に落とすため、飛び出すことにした。
ユグディラは回避できずリェータに突っ込み、突っ込まれたリェータは落とし穴に足を突っ込んだ。
『にゃー』
「きゃあああ」
「そのまま捕まえておいてくれ!」
うらやましいと夕鶴は思いつつも絶叫した。
リェータは腕の中にあるものを抱きしめた。
『にゃあ』
「い、痛い、痛い……」
リェータは声を上げるが、必死にユグディラを抱きしめる。爪がところどころ服を貫通して肌を突き刺す。落とし穴に落ちた衝撃で足も痛いし、夕鶴が来るまでの数秒が非常に長く感じられた。
チャイローが捕まり、ロープでぐるぐる巻きにされたのをクローディルは見ていた。
(チャイロー……と、とうとうこんなことになってしまった……)
可愛い甥っ子をこんな目に遭わせてしまっては、家族になんと言えばいいのか。
(我とてただのユグディラではない……そう、我は……黒い電光と呼ばれたユグディラなのだ!)
若い頃に付けられた二つ名を思いだし、甥っ子を助けるために自身の気持ちを高ぶらせる。隙を突いて甥を助けるために、人間たちを観察することにした。
●説教と学習と
人間につかまって震えるチャイロー。
「もう、殴っても効果ないんだな」
クロエはタイミングを逃したしつけ方法に溜息をもらす。
「言葉使わずに説得……できるのか」
カディスは不安そうにチャイローを見る。
なぜかチャイローを見ると胸の奥がずーんと重く、悲しい気分になってくる。
「それにしても本当に……」
夕鶴は縛ったユグディラの頭に触れてみる。ちょっと荒れているが、十分柔らかい毛の感触が伝わり、自然と顔は緩む。
『叔父にゃーん、ごめんさいにゃーん。おいら、殺されるにゃーん』
何やら串を用意しているシバ、何かの草を集めるクロエ、火を起こすカディスを見て、チャイローは泣く。
『あの串で刺されて、あの草を突っ込まれ、焼かれちゃうにゃーん』
チャイローが泣いた瞬間、ハンターたちの脳裏に恐ろしい映像がよぎった。火あぶりにされるユグディラと囲む人間のような影。
「……なんか……ええと……」
互いに顔を見合わせる。
「幻覚か何かをこれに見せられた?」
カディスの言葉に全員が納得した。
そんな中、夕鶴は何かを感じて、チャイローから手を離した。おかげで、間一髪でクローディルの爪攻撃から手は逃れていた。
『叔父にゃん』
チャイローが歓喜の声をあげる。
『我は黒い雷光と呼ばれたユグディラ、クローディルである! 愚かな甥とはいえ、殺害されるようなことはしてはおらぬはず、早々にその縄をほどけ』
クローディルは威嚇した、鋭い爪を見せて。
ハンターたちはあわてず騒がず、猫じゃらしを持った。
逃げそうにないし、攻撃するよりこっちの方が確実だろうという判断。
『う、そ、それは……』
「こんなこともあろうかと」
カディスがしゃがんで振り始める。いや、全員で振り始める。
『我はそんなに……子供ではないわ! にゃーん』
大人の猫はじゃれにくくなるとは言うが、時と場合による。
そして、クローディルは捕縛された。
引っ掻かれながらも夕鶴が抱きかかえる。
『お、叔父にゃんが』
なんか悲しい雰囲気が漂う。
「あ、ええと、うちの弁当食べます?」
リェータの弁当を見て、チャイローはひっと飛びのいた、縛られているのに。
「……つまり、人間のものはこんなハズレがあるんです」
自分で食べて、リュータは説得に入った。そう、なぜこんな味になったのか、心の底から悲しみが生まれる。
「激辛好きだとこういう弁当もありえます」
カディスとシバが自作の弁当をチャイローの前に置いた。
『ぎゃー』
チャイローから悲鳴が上がり、ぐったりと動かなくなった。
『チャー』
この惨事にハンターたちはそっぽをむき色々耐えた。
夕鶴が放すとクローディルはチャイローの側に行き、体をゆすった。
「こ、こんなことになるなんて」
リェータがチャイローのロープをほどく。
「私たちはお前たちを殺すつもりはなかった」
クロエの神妙な言葉に皆うなずく。
「できれば自然のものでもおいしいものあると教えてあげたかったんです」
ウゾウゾと動く幼虫を手にシバが言う。
『我とて人間のものを取るつもりはなかった。そもそも、こうなることが分かっていたから』
チャイローが涙目ですがってくるので、背中をさすりながらクローディルが言った。
「無事で良かった……」
夕鶴はホッと息を付いた。
『まあ、匂いが強烈だったから、当分鼻は動かないだろうな……』
クローディルは苦笑する。
「こういったものだって食べられると、教えたかったんですよ」
木の実が入った籠をリェータは見せた。
「草木やキノコ類もあるな」
籠をクロエが見せる。
「虫もタンパク源が多くいい物です」
籠とはいかず袋に入れられたものを見せるシバ。
『ほれ、人間も言っているぞ、我と同じことを』
『でも、でも、人間のご飯おいしいにゃーん』
クローディルにチャイローは訴える。
「これをこうしてあぶって食べると、外はかりっ中はしっとりになるんです」
シバ、幼虫をくしに刺して火に当てた。香ばしい匂いが漂う。
シバが笑顔でチャイローに串を差し出す。
チャイローはどうしていいのか分からず首をかしげつつ、クローディルに促されて前足を伸ばした。受け取った串の幼虫が熱いので冷めるのを待ってから口に放り込んだ。
ぱぁあああと気持ちが明るくなった。
『叔父にゃん、いつもと違う味がするにゃ』
「蛙や蛇もいけますよ? さ、皆さんもどうです?」
ハンターたちは手を出す人、手を出しかねる人にきれいに分かれる。
『おいらにもう一個頂戴』
チャイローが手を出したのでシバは串を渡すために手を伸ばしたが、リェータの手にその串は渡っていた。
『にゃー』
チャイローが驚いて見つめている。
「いいですか、あなたがしたことは今のようなことなのです」
『……』
「今、あなたはどう思いました?」
『……』
「人のを勝手に奪うということは、今あなたが思ったようなことなんですよ」
リェータは串をチャイローに渡した。
「そうだな。奪うのも、せっかくの食事をひっくり返すのも良くないぞ」
クロエが焼きキノコを手渡しながら諭す。
チャイローはうなずきながら串を手にする。両前足に串を持ちつつ、冷えるのを待つ。
「ところでクロさんは食べないんですか?」
カディスが焼かれた虫が刺さった串とキノコが刺さった串を見せる。
「食べ物の怨みということで、キコリさんたちは怒ってます。この林を出てもらいたいんですよ」
丁寧に話しかけるとクローディルはうなずいた。
『そうなると分かっておった。穏便にことを運ぼうと考える君たちに敬意を払い、我らはこれを食べたら別の所に行くよ』
微笑んで見える顔で、キノコを受け取った。
「やっぱり、話が通じてる?」
夕鶴は驚いて声を上げた。
『バカにするな。我はそれなりに人間社会を知っている。言葉くらい学ぶ時間はあった』
何かバカにされたような印象だけがハンターには伝わる。
「でも、まあ、話が通じてよかった」
クロエは微笑み、クローディルがうなずいた。
「腹ごなしに遊ぶか?」
その笑みのまま、クロエは猫じゃらしを見せた。
「少しだけでいいから……こ、後学のためにユグディラをこう、もっと触りたい」
夕鶴は言葉を選びつつチャイローを抱き上げた。
●お別れ
小一時間、ユグディラたちと遊んだ。
ハンターたちはキコリの住む村のはずれまで二匹を連れて行った。彼らがきちんと林から離れるのを確認しないといけない。
「自然のものはおいしかったですよね? 人間の弁当以外にも目をむけましょう!」
リェータの言葉にクローディルは苦笑しつつ、チャイローを促した。チャイローはしぶしぶと言った感じでうなずく。
「火さえあれば、ただの虫も香ばしい美味物体に変化します」
シバから火打石をもらう。チャイローは受け取った。
「ふふふ……お日様のにおい……幸せだった……ありがとう、すてきな時間だったわ」
出会いたかったユグディラに対し、本音が漏れた夕鶴。
「猫と違うのは良くわかった、二足で立つし。もう、会うことないだろうがな」
クロエは寂しい気もするし、また会うかもしれないがきっぱり別れておく。
「本当は弁当もあげたかったけど、この辺は一線を画さないと」
カディスは複雑に思いつつ、チャイローの頭を最後に撫でておく。
「この近辺にいちゃだめだよ」
と異口同音のハンターたちのダメ出しの一言にユグディラ二匹はうなずいた。
お辞儀をして、尻尾を振り振り、二匹は立ち去った。
小さな影が見えなくなり、本当に離れたと確信するまで見送り続けた。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
---|
面白かった! | 5人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
ユグディラ退治 クロエ・アブリール(ka4066) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/05/10 18:35:19 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/06 23:53:43 |