ゲスト
(ka0000)
嗚呼! いとしのアマーリエ!~お散歩~
マスター:朝海りく

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/11 15:00
- 完成日
- 2015/05/19 08:26
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●アマーリエ、散歩を嫌がる
初夏を思わせるような晴れた空と、庭を彩る青緑色の草木。それでも窓から差し込む陽の光は、まだ穏やかで優しく、春の名残を感じさせる。
春とも夏ともつかないこの季節が、アマーリエは一番好きだった。
しばらく窓から庭を眺めたあと、のしのし、のしのしと廊下を歩く。
廊下に並ぶ各部屋の扉は、動物であるアマーリエに不便がないよう、すべて少しだけ開けられていた。その向こうで動き回る使用人の姿を横目に、主人の部屋へと急ぐ。
上向いた鼻先で扉を押すと、机に向かう主人の姿があった。足元に近付く。
「おお、アマーリエ。どうした?」
散歩の時間だと、知らせようと思った。
けれど、優しく微笑む主人の目元は、昨日よりもクマがひどい。顎に生えた短い無精髭。いつもきれいにしているのに。心なしか、表情にも覇気がないように見えた。
主人は、ひどく疲れている。その顔を見つめながらアマーリエはそう思った。
「……ああそうか、散歩の時間だな。よし」
時計に目をやった主人は、手にしていた万年筆を置いて立ち上がろうとした。が、それを制止するように、アマーリエが大きく鳴く。
「アマーリエ?」
散歩が嫌だと言わんばかりに、体を揺らし、続けざまに声を上げた。
呆気に取られたように立ち尽くす主人に、フンっ、と大きく鼻を鳴らしたあと、アマーリエはまた、のしのしと部屋を出て行った。
●ルスタンの悩み
ここ数日、アマーリエの様子がおかしい。
散歩の時間になると、決まってどこかへ姿を隠したり、リードを手にした彼、ルスタンを見るなり逃げ出すようになった。
愛するアマーリエに嫌われてしまったのではないかと、めそめそと枕を涙で濡らす夜もあったが、どうやらそうではないらしい。それ以外は、いたって普通なのである。
「………………」
ルスタンは、机に肘をついたまま、考え込んでいた。
散歩を嫌がりはするが、窓の外を眺めながらうずうずと体を動かしているアマーリエの姿をよく見かける。散歩自体には行きたいのだろう。しかし、嫌がるのだ。
整理しなければならない書類の山、書かなければならない礼状の数々。多忙を極める彼だったが、それすらも手につかないほど、アマーリエの異変が気掛かりで、心配で、ならない。
「ああ……一体どうしてしまったというのだ、私の愛しいアマーリエ……」
溜息と共に、今にも泣きだしそうな情けない声がこぼれる。
コンコンと扉を叩く音がして、使用人の一人、ヘレンが顔を出した。
「ルスタン様、お手紙が届いております」
「ああ、ありがとう」
顔を上げたルスタンに数通の手紙を渡したヘレンは、そこに留まったまま主の顔を見つめた。
「……大丈夫ですか? 最近お疲れのようですけど」
「忙しいのは、それだけ儲けが出ている証拠だよ」
「まあ、そうかもしれませんけど……一日くらいお休みになられた方がいいのでは? みんな、心配しておりますわ」
その言葉に、ルスタンが瞬いた。それからようやく合点がいったとばかりに、その口元に笑みを乗せる。
「――――ああ、そうか。そういうことか、アマーリエ」
なんのことはない。
心優しいアマーリエは、多忙な自分を気遣い、遠慮し、散歩に行きたくないふりをしていたのだ。
「フフ……フフフ……、……ふむ」
突然笑いだしたかと思いきや今度は真面目な顔つきで何やら思案し始める主の姿は、異様である。
ヘレンは顔に張り付けた笑みを引きつらせながら、恐る恐る声を掛けた。
「ルスタン様……?」
「……ヘレン。すまないが、ひとつ頼まれごとをしてくれないか」
そう言って顔を上げたルスタンは、晴れやかな笑顔を見せていた。
●散歩をお願い!
「ったく、なんで私が……まぁアレの散歩にかり出されるよりマシかしら」
ブツブツと文句を垂れ流すヘレンは、自分の住む町から半日以上も掛け、ハンターオフィスのある街へとやってきていた。
支部の扉を開いて、受付へと進む。
「ハンターオフィスへようこそ!」
営業スマイルを浮かべる受付の女性に、ヘレンもまた、得意の優等生スマイルを張り付ける。
「すみません、依頼を出したいのですが」
「はい、どういったご依頼でしょう?」
ヘレンはにっこりと笑顔を浮かべたまま、事の経緯を説明していく。
「ペットの散歩……ですか」
「ええ、お忙しいハンターの方々に、こんなことをお願いするのは非常に心苦しいのですが……」
渋りを見せる受付嬢に、ヘレンは眉を下げた。申し訳なさそうなふりをする。
「以前、ハンターの皆様にお世話になったことがあり、ルスタンは大変な信頼を寄せております。……彼にとって、アマーリエは命同様大切な存在。お願いするなら是非とも皆様に、とのことで」
受付嬢はしばらく押し黙ったが、それからようやく頷いた。
「……わかりました、そういうことでしたら。では、依頼として手続きしておきますね」
彼女の言葉にヘレンがにんまりと笑う。
「言い忘れてましたけど、アマーリエはペットとは言え『ぶた』ですの。一応伝えてはおきますけど敬遠される方も多いと思うので、どこか端っこの方に小さく書いておいていただけます? あとコレ、町の地図です。じゃあよろしくお願いしますね」
先程までの殊勝な態度はどこへやら、受付嬢に口を挟む隙を与えることなくぱっぱと説明を終えたヘレンは、颯爽と支部から出て行った。
初夏を思わせるような晴れた空と、庭を彩る青緑色の草木。それでも窓から差し込む陽の光は、まだ穏やかで優しく、春の名残を感じさせる。
春とも夏ともつかないこの季節が、アマーリエは一番好きだった。
しばらく窓から庭を眺めたあと、のしのし、のしのしと廊下を歩く。
廊下に並ぶ各部屋の扉は、動物であるアマーリエに不便がないよう、すべて少しだけ開けられていた。その向こうで動き回る使用人の姿を横目に、主人の部屋へと急ぐ。
上向いた鼻先で扉を押すと、机に向かう主人の姿があった。足元に近付く。
「おお、アマーリエ。どうした?」
散歩の時間だと、知らせようと思った。
けれど、優しく微笑む主人の目元は、昨日よりもクマがひどい。顎に生えた短い無精髭。いつもきれいにしているのに。心なしか、表情にも覇気がないように見えた。
主人は、ひどく疲れている。その顔を見つめながらアマーリエはそう思った。
「……ああそうか、散歩の時間だな。よし」
時計に目をやった主人は、手にしていた万年筆を置いて立ち上がろうとした。が、それを制止するように、アマーリエが大きく鳴く。
「アマーリエ?」
散歩が嫌だと言わんばかりに、体を揺らし、続けざまに声を上げた。
呆気に取られたように立ち尽くす主人に、フンっ、と大きく鼻を鳴らしたあと、アマーリエはまた、のしのしと部屋を出て行った。
●ルスタンの悩み
ここ数日、アマーリエの様子がおかしい。
散歩の時間になると、決まってどこかへ姿を隠したり、リードを手にした彼、ルスタンを見るなり逃げ出すようになった。
愛するアマーリエに嫌われてしまったのではないかと、めそめそと枕を涙で濡らす夜もあったが、どうやらそうではないらしい。それ以外は、いたって普通なのである。
「………………」
ルスタンは、机に肘をついたまま、考え込んでいた。
散歩を嫌がりはするが、窓の外を眺めながらうずうずと体を動かしているアマーリエの姿をよく見かける。散歩自体には行きたいのだろう。しかし、嫌がるのだ。
整理しなければならない書類の山、書かなければならない礼状の数々。多忙を極める彼だったが、それすらも手につかないほど、アマーリエの異変が気掛かりで、心配で、ならない。
「ああ……一体どうしてしまったというのだ、私の愛しいアマーリエ……」
溜息と共に、今にも泣きだしそうな情けない声がこぼれる。
コンコンと扉を叩く音がして、使用人の一人、ヘレンが顔を出した。
「ルスタン様、お手紙が届いております」
「ああ、ありがとう」
顔を上げたルスタンに数通の手紙を渡したヘレンは、そこに留まったまま主の顔を見つめた。
「……大丈夫ですか? 最近お疲れのようですけど」
「忙しいのは、それだけ儲けが出ている証拠だよ」
「まあ、そうかもしれませんけど……一日くらいお休みになられた方がいいのでは? みんな、心配しておりますわ」
その言葉に、ルスタンが瞬いた。それからようやく合点がいったとばかりに、その口元に笑みを乗せる。
「――――ああ、そうか。そういうことか、アマーリエ」
なんのことはない。
心優しいアマーリエは、多忙な自分を気遣い、遠慮し、散歩に行きたくないふりをしていたのだ。
「フフ……フフフ……、……ふむ」
突然笑いだしたかと思いきや今度は真面目な顔つきで何やら思案し始める主の姿は、異様である。
ヘレンは顔に張り付けた笑みを引きつらせながら、恐る恐る声を掛けた。
「ルスタン様……?」
「……ヘレン。すまないが、ひとつ頼まれごとをしてくれないか」
そう言って顔を上げたルスタンは、晴れやかな笑顔を見せていた。
●散歩をお願い!
「ったく、なんで私が……まぁアレの散歩にかり出されるよりマシかしら」
ブツブツと文句を垂れ流すヘレンは、自分の住む町から半日以上も掛け、ハンターオフィスのある街へとやってきていた。
支部の扉を開いて、受付へと進む。
「ハンターオフィスへようこそ!」
営業スマイルを浮かべる受付の女性に、ヘレンもまた、得意の優等生スマイルを張り付ける。
「すみません、依頼を出したいのですが」
「はい、どういったご依頼でしょう?」
ヘレンはにっこりと笑顔を浮かべたまま、事の経緯を説明していく。
「ペットの散歩……ですか」
「ええ、お忙しいハンターの方々に、こんなことをお願いするのは非常に心苦しいのですが……」
渋りを見せる受付嬢に、ヘレンは眉を下げた。申し訳なさそうなふりをする。
「以前、ハンターの皆様にお世話になったことがあり、ルスタンは大変な信頼を寄せております。……彼にとって、アマーリエは命同様大切な存在。お願いするなら是非とも皆様に、とのことで」
受付嬢はしばらく押し黙ったが、それからようやく頷いた。
「……わかりました、そういうことでしたら。では、依頼として手続きしておきますね」
彼女の言葉にヘレンがにんまりと笑う。
「言い忘れてましたけど、アマーリエはペットとは言え『ぶた』ですの。一応伝えてはおきますけど敬遠される方も多いと思うので、どこか端っこの方に小さく書いておいていただけます? あとコレ、町の地図です。じゃあよろしくお願いしますね」
先程までの殊勝な態度はどこへやら、受付嬢に口を挟む隙を与えることなくぱっぱと説明を終えたヘレンは、颯爽と支部から出て行った。
リプレイ本文
●まずはごあいさつ
――――依頼日、当日。
ルスタンの屋敷を訪れたハンター達は、笑顔の彼に出迎えられ、客間へと通された。
そのど真ん中でしきりに鼻を鳴らしている、大きな、ピンク色のかたまり。
「……豚さんですか!?」
入口に佇んだまま、来未 結(ka4610)が驚いたように声を上げた。その事実を知らなかった彼女にとっては予想外である。
「犬猫の散歩ならやったことはあるが、ブタの散歩は初めてだな」
驚きこそしないものの、そのブタ、アマーリエを眺めながら上杉浩一(ka0969)が呟く。
豚は犬よりも頭が良い、なんて話をリアルブルーで聞いたことがあるがはたしてどうなのか。所詮豚は豚だろう、という侮りも、あったりする。
「この豚さん、十くんのお友だちなんですね」
「いや、友達ってわけじゃ……」
伊勢・明日奈(ka4060)の言葉を、希崎 十夜(ka3752)は複雑な心境で否定した。
以前請け負った依頼で関わっただけなのだ。何の因果か、たまたま訪れたオフィスで見覚えのある名前を見付け、参加してみたのだが……『アマーリエ』、やっぱりこの豚である。
そんな十夜の様子に首を傾げながらも、明日奈はそわそわ動き回っているアマーリエに近付いた。
「私は明日奈。よろしくね、アマーリエさん」
にっこり笑って挨拶すると、アマーリエが顔を上げた。明日奈の顔をじっと見つめたあと。
「ブギ」
と、ひとつ鳴いた。さらに、彼女の隣に佇む十夜を見上げ、ブギブギ、と続けて鳴き声を上げる。
そんなアマーリエの傍にエヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)が屈んだ。
(アマーリエ、とても綺麗な響きの名前ね)
耳につけられた花が微笑ましい。笑みをこぼしながら耳の後ろを掻いてあげると、アマーリエは心地良さそうに目を細める。
一方、思わず驚いてしまった結も、すぐに気を取り直してアマーリエの元へと歩み寄った。ぶたと言えど、彼女は彼女、である。
「アマーリエさん、これ、お近づきの印に……」
優しく微笑みながら手にしたリボンを、花飾りにくっつけるようにして結んであげる。
なんとなく、お洒落。アマーリエは嬉しそうに顔を揺らした。
その様子を傍で見ていたエヴァと明日奈、そして結が顔を見合わせて笑顔をこぼす。
(……でも、どうして散歩を嫌がったのかしら)
依頼書には、その理由までは書いていなかった。ついでに散歩させてもらおうと連れてきたゴールデン・レトリバーとシェパードをアマーリエに慣れさせながら、エヴァは不思議そうに首を傾げた。
その理由は、今まさに呉葉(ka4888)が聞いていた。仲間たちから少し離れたところで、彼女はルスタンとヘレンからアマーリエの性格や日々の逸話を聞く。その中には、散歩を嫌がった経緯も含まれていた。
「……好く育ったシシだね。そのなりも、その性格も」
感心したように頷く呉葉に、ルスタンが顔を輝かせた。
「ああ、アマーリエは本当に素晴らしい。それに見てくれ。あの美しい曲線、そして……」
「……こうなってしまうと止まりませんの。どうぞ、お気になさらず皆さんのところへ」
アマーリエを見つめて語りだすルスタン。呉葉の傍にそそっと寄ったヘレンが、声をひそめつつ微笑んだ。暗に無視していい、と言うヘレン。いいのだろうか。
若干戸惑いながらも、呉葉は促されるままに仲間たちの元に戻った。
●れっつお散歩!
天気は快晴。気持ちのいい青空が広がっていて、まさに散歩日和の午後である。
アマーリエを連れた一行は屋敷を出発し、散歩を開始した。
事前に預かっていた地図を眺め、そこに記されている散歩の道順を確認した明日奈が顔を上げる。
「良い天気ですね、アマーリエさん」
「ブギッ」
にこやかに話しかける明日奈に、前を行くアマーリエから返ってくる元気な返事。
その傍を歩いていた結が振り返った。
「アマーリエさん、嬉しそうです。良い気分転換になるといいですね!」
うきうきとした様子で体を揺らし、進むアマーリエ。
その胴体に括り付けられたリードは十夜の腕にしっかりと巻きつけられ、その手に握られている。これならば、不意にアマーリエが駆け出してもリードが手から離れることはないだろう。
ただすでに、腕ごと持っていかれそうになっている状態ではあるのだが。
わりと必死にリードを握る十夜の隣を、浩一は悠々と歩いている。
「ゆっくり歩くのも、まあこれはこれでいいもんだな」
アマーリエを仲間に託した彼は、のんびりとした散歩の時間を楽しんでいるようだった。
そうしてしばらく町なかを歩いていると。
「あら、アマーリエちゃん!」
そう声を掛けてくる者があった。宿屋の前をホウキで掃いていた一人の中年女性が、親しげな笑顔を浮かべる。
「めずらしいねえ。ルスタンさんは一緒じゃないのかい?」
「はい。今日は、私達がお散歩を頼まれてて」
立ち止まった明日奈が、笑顔で答える。
しかし、アマーリエは何やら落ち着かない様子だ。しきりに鼻を鳴らしている。
「どうしたんだ……?」
訝る十夜をちらちら見るアマーリエ。時折向ける視線の先は、扉が開け放された宿屋の中。長居はしたくないようだが、その理由は、分からない。
「大変だねえ。こんな天気のいい日に、豚の散歩だなんて」
溜息混じりのおばちゃんの声。なんとなく、険がある。
「いや、私達も楽しませてもらっているよ」
呉葉が即座に答えた。もちろん、角が立たぬよう笑顔は忘れない。
「そうかい? でもねえ……まあ、ここだけの話だけど。あたしゃどうかと思うんだよ、豚が町なかを歩き回るってのはさ。ほら、衛生的に、ねえ?」
ルスタンがいないと知ったからなのか、おばちゃんは眉をひそめて愚痴り始めた。
それを丁寧に聞きながらも、結は、アマーリエのことを少しでも理解してもらおうと言葉を挟む。
「……でも、アマーリエさんは綺麗にしてもらってるみたいですし」
その横で、愚痴に相槌を打っていたエヴァも、文字を書き込んだスケッチブックを見せた。
『豚はとても綺麗好きな生き物です。犬に負けず劣らず、鼻も良いんですよ』
「それに、飼い主を気遣う優しい心も持ち合わせているらしい。ここ数日見なかっただろう」
そう言って呉葉が語るのは、アマーリエが散歩に出なかった理由。
それを聞いて感動したのは明日奈だった。
「ご主人様の為に……とても優しいのですね。アマーリエさん」
「ああ。見てくれはシシ故という奴だが、躾も教育も良く出来た子だ」
「…………。まあ、でも、ほら。町のイメージってものもあるし」
一度押し黙ったおばちゃんは、今度は景観がどうのこうの。
「大きく育ったシシは平和と豊かさの象徴だ、良い町だと思うよ」
「シシったって、家畜だしねえ」
「……手厳しいな。あまり責めずお手柔らかに頼むよ。相手は私達と違い、物言えぬ無垢なシシだ」
終始笑顔を絶やさぬ呉葉だが、その言葉に、悪口ばかりを言い続ける彼女の節度を問うような含みを持たせる。
それが何となく伝わったのか、おばちゃんが気まずそうに目を逸らした。
「……まあ、あたしだってね、本当はこんなこと言いたくないんだけど……」
それでもおばちゃんは、何やらぶちぶちと呟いている。
宿屋の中から、ふと小さな犬が顔を出した。アマーリエを見つけた瞬間。
「ワウッ!!」
響き渡る攻撃的な声。アマーリエの体がビクッとふるえ、そして。
「うわッ……」
突然凄まじい力で引っ張られる十夜の腕。逃げようとするアマーリエに引きずられかけ、とっさに踏ん張った。
「あ、明日奈……!」
「は、はいっ」
十夜のヘルプ要請に、明日奈が慌ててリードを握る。
「ま、まって……! アマーリエさん、止まって……!」
「……こいつ……前より重くなってる気がする……!」
パニックを起こしたアマーリエを、二人掛かりで何とか止める。
後方で動向を見守っていた浩一が、さりげなく前へと出た。おばちゃんの傍に立ち。
「ふむ」
と短い相槌を打つ。
おばちゃんの目が、浩一へと向いた。聞いてくれるらしい、それがわかったとたんに炸裂する、おばちゃんのマシンガントーク。
浩一は特に反論も否定もしないまま聞き役に徹しつつ、仲間たちにそれとなく視線を送った。
エヴァが動く。小型犬の傍に2匹の大型犬を誘導し、その意識をアマーリエから逸らさせる。
その隙に結が、逃げようともがくアマーリエの傍に屈みこんだ。落ち着かせるように、その体を優しく撫でる。
「怖いの怖いの飛んでいけ~」
アマーリエの体を包み込んでいく光。プロテクションだ。
「これでもう大丈夫です。今日のあなたは、一味違いますよ!」
「……ブギッ……!」
勇気をもらったことで落ち着きを取り戻したアマーリエは、四つ足でしっかりと地面を踏みしめ、宿屋の番犬に向き直った。堂々たる姿で、天敵を見据える。
しかし番犬の興味は、すでにアマーリエから大型犬へと移っていた。ブゴ、と小さく鼻が鳴る。
「……今の内だな」
「行きましょう、アマーリエさん」
十夜がそっとリードを引き、明日奈がアマーリエを促した。
素直に従うアマーリエを連れた二人とともに、結と呉葉もひっそりとその場を離れる。
(そろそろかしら……)
アマーリエたちが見えなくなったのを確認してから、エヴァもまた、静かに宿屋前を脱出した。
その間もおばちゃんの愚痴は続いていた。
最近客の入りが悪くてどうたらこうたら、マナーがなってなくてなんたらかんたら、この石畳の汚れが落ちにくくてうんぬんかんぬん。
……もはや、なんの愚痴だかも分からなくなってきている。
「ほう、うん、大変だな……なるほど、ふむ」
それでも浩一はただひたすらおばちゃんに喋らせ続け、相槌を打ち続けていた。
しかし仲間が全員離脱したのを確認するや否や。
「何かと大変だろうが、まあ、頑張ってくれ。それじゃ」
その一言であっさりと話をまとめ、切り上げる。さっさとその場を離れて仲間たちの後を追った。
●あまーい誘惑
見事な連携プレーでアマーリエのピンチを救ったハンター達。
宿屋の先で合流し、散歩を再開させたはいいが……一難去って、また一難。
「あれ? どうしたんです?」
散歩の途中、突然足を止めてしまったアマーリエを、明日奈が振り返った。
漂ってくる甘い香りにひくひくと鼻を動かすアマーリエの、見つめるその先には……。
「『フロマージュ』……此処は、洋菓子店か」
呉葉が、掲げられた看板を読み上げた。
アマーリエの視線がハンター達へと向き、何かを訴えかけるようにじっと見上げてくる。
「食べたいっ言ってるんですよね。きっと。……十くん、どうしよう……」
事情を察し、戸惑いながらも十夜に相談する明日奈。
(食べ物に見境ないのさえなければな……)
じーっと彼らを見つめるアマーリエは、進むよう促しても微動だにせず、引っ張ったところで前足一つ浮きもしない。リードを握る十夜は、ついつい溜息をこぼすばかりだ。
「ブキュ。ブキュィイ……」
決して可愛いとは言えない野太い声でアマーリエがねだってくる。そのつぶらな瞳に、揺らいでしまう明日奈の心。
「え、えっと、1つくらいなら……」
「……そうだな。このまま、ここで止まっているわけにもいかないし」
散歩を続けるためには仕方ないと十夜が頷いた。
エヴァがスケッチブックを取り出した。さらさらと書き込み、仲間たちに見せる。
『すぐにあげない方がいいわ。何かをしたからもらえた、ってことを認識させないと我儘になるかも』
「成程。まずは一つ買って、それを餌に公園まで導くって手かね」
文字を追った呉葉が答えた。いわゆる『待て』の状態だ。
「じゃあ、ええと……アマーリエさん。せっかくの御馳走ですし、公園で皆さんと一緒に食べませんか?」
「ブギッ」
屈み込んだ結が目線を合わせて交渉に掛かるも、アマーリエは即答かつ快諾である。
動物を連れているエヴァと十夜、そして明日奈の三人は店の前で待つことにして、結と呉葉が店の扉を開けようとした時だった。
中から扉が開き、一緒にいたはずの浩一がひょっこり出てきた。
「えっ、あれ……?」
「いつの間に……」
きょとんと瞬く結と、少々驚いた様子の呉葉。
「時間が掛かりそうだったから、もののついでにな。……ん、これはいい土産が出来た」
浩一の手には、事務所の来客用にと購入したクッキーがあった。それをポケットにしまいこみ、頷きながら外で待つ仲間たちの元へ戻っていく。
どこまでもマイペースな彼だが、他の参加者たちを見守ることは忘れなかった。
●のんびりゆったり、公園で
そうして公園に到着した一行は、各々、公園でのんびりとした時間を過ごしていた。
吹き抜けていく穏やかな風が心地好い。
呉葉はベンチに腰掛け、先程洋菓子店で、ついでに彼女自身の分として購入したケーキの味を堪能していた。
結もまた、同様にケーキを頬張り、仲間たちとのゆったりした時間を過ごしている。
アマーリエはといえば、洋菓子店で購入したケーキを誰よりも早くぺろりと平らげ、今、彼らから少し離れたところで元気に遊びまわっていた。
二つ目をねだることは、なかった。すでに洋菓子店から離れていたのと、公園までちゃんと『待て』が出来たのをエヴァが褒めたことで、そのご褒美としてもらえたのだと理解したようである。
エヴァは、楽しそうに芝生の上をのしのしと駆けるアマーリエの様子をスケッチブックに描いていく。
(……やっぱり、ペットは飼い主のことを良く見てる。仕事は、程ほどにしてもらうべきかもしれないわね)
描き上げた絵をルスタンに渡すついでにそれも伝えてみようかと、エヴァは思う。
一方十夜は、公園内にいる町の人々がアマーリエに向ける視線や、その態度を観察していた。好意的な者もいれば、中には、やはり眉をひそめている者もいる。
宿屋での一件も含め、彼はルスタンに報告するつもりでいた。
(改善できる点があれば、その辺は模索して欲しい所、だな)
今回のことで、十夜の持つ豚に対する印象は随分と変わっていた。勿論、豚が可愛いと思うわけではないけれど。
「それにしても……本当に良く食べて良く遊ぶ奴だな……」
「元気いっぱいですね」
呆れたように呟く十夜に、ベンチに並んで座っていた明日奈が小さく笑った。
「でも、生き物を飼うのって難しいですよね……」
ぽつりとそう呟く。十夜の手伝いとして依頼に参加した彼女は、それをしみじみと感じたようだった。
そんな中浩一は、駆け回るアマーリエがどこかに行ってしまわないよう、そして、それを追いかけて誰かが迷子になってしまわないよう見ておく程度に留めていた。
ベンチで煙草を吸いながら、ゆっくりと流れる時間を過ごす。
「豚の散歩も、案外悪くないかもしれないな」
紫煙を吐き出しながら、のんびりと呟いた。
――――依頼日、当日。
ルスタンの屋敷を訪れたハンター達は、笑顔の彼に出迎えられ、客間へと通された。
そのど真ん中でしきりに鼻を鳴らしている、大きな、ピンク色のかたまり。
「……豚さんですか!?」
入口に佇んだまま、来未 結(ka4610)が驚いたように声を上げた。その事実を知らなかった彼女にとっては予想外である。
「犬猫の散歩ならやったことはあるが、ブタの散歩は初めてだな」
驚きこそしないものの、そのブタ、アマーリエを眺めながら上杉浩一(ka0969)が呟く。
豚は犬よりも頭が良い、なんて話をリアルブルーで聞いたことがあるがはたしてどうなのか。所詮豚は豚だろう、という侮りも、あったりする。
「この豚さん、十くんのお友だちなんですね」
「いや、友達ってわけじゃ……」
伊勢・明日奈(ka4060)の言葉を、希崎 十夜(ka3752)は複雑な心境で否定した。
以前請け負った依頼で関わっただけなのだ。何の因果か、たまたま訪れたオフィスで見覚えのある名前を見付け、参加してみたのだが……『アマーリエ』、やっぱりこの豚である。
そんな十夜の様子に首を傾げながらも、明日奈はそわそわ動き回っているアマーリエに近付いた。
「私は明日奈。よろしくね、アマーリエさん」
にっこり笑って挨拶すると、アマーリエが顔を上げた。明日奈の顔をじっと見つめたあと。
「ブギ」
と、ひとつ鳴いた。さらに、彼女の隣に佇む十夜を見上げ、ブギブギ、と続けて鳴き声を上げる。
そんなアマーリエの傍にエヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)が屈んだ。
(アマーリエ、とても綺麗な響きの名前ね)
耳につけられた花が微笑ましい。笑みをこぼしながら耳の後ろを掻いてあげると、アマーリエは心地良さそうに目を細める。
一方、思わず驚いてしまった結も、すぐに気を取り直してアマーリエの元へと歩み寄った。ぶたと言えど、彼女は彼女、である。
「アマーリエさん、これ、お近づきの印に……」
優しく微笑みながら手にしたリボンを、花飾りにくっつけるようにして結んであげる。
なんとなく、お洒落。アマーリエは嬉しそうに顔を揺らした。
その様子を傍で見ていたエヴァと明日奈、そして結が顔を見合わせて笑顔をこぼす。
(……でも、どうして散歩を嫌がったのかしら)
依頼書には、その理由までは書いていなかった。ついでに散歩させてもらおうと連れてきたゴールデン・レトリバーとシェパードをアマーリエに慣れさせながら、エヴァは不思議そうに首を傾げた。
その理由は、今まさに呉葉(ka4888)が聞いていた。仲間たちから少し離れたところで、彼女はルスタンとヘレンからアマーリエの性格や日々の逸話を聞く。その中には、散歩を嫌がった経緯も含まれていた。
「……好く育ったシシだね。そのなりも、その性格も」
感心したように頷く呉葉に、ルスタンが顔を輝かせた。
「ああ、アマーリエは本当に素晴らしい。それに見てくれ。あの美しい曲線、そして……」
「……こうなってしまうと止まりませんの。どうぞ、お気になさらず皆さんのところへ」
アマーリエを見つめて語りだすルスタン。呉葉の傍にそそっと寄ったヘレンが、声をひそめつつ微笑んだ。暗に無視していい、と言うヘレン。いいのだろうか。
若干戸惑いながらも、呉葉は促されるままに仲間たちの元に戻った。
●れっつお散歩!
天気は快晴。気持ちのいい青空が広がっていて、まさに散歩日和の午後である。
アマーリエを連れた一行は屋敷を出発し、散歩を開始した。
事前に預かっていた地図を眺め、そこに記されている散歩の道順を確認した明日奈が顔を上げる。
「良い天気ですね、アマーリエさん」
「ブギッ」
にこやかに話しかける明日奈に、前を行くアマーリエから返ってくる元気な返事。
その傍を歩いていた結が振り返った。
「アマーリエさん、嬉しそうです。良い気分転換になるといいですね!」
うきうきとした様子で体を揺らし、進むアマーリエ。
その胴体に括り付けられたリードは十夜の腕にしっかりと巻きつけられ、その手に握られている。これならば、不意にアマーリエが駆け出してもリードが手から離れることはないだろう。
ただすでに、腕ごと持っていかれそうになっている状態ではあるのだが。
わりと必死にリードを握る十夜の隣を、浩一は悠々と歩いている。
「ゆっくり歩くのも、まあこれはこれでいいもんだな」
アマーリエを仲間に託した彼は、のんびりとした散歩の時間を楽しんでいるようだった。
そうしてしばらく町なかを歩いていると。
「あら、アマーリエちゃん!」
そう声を掛けてくる者があった。宿屋の前をホウキで掃いていた一人の中年女性が、親しげな笑顔を浮かべる。
「めずらしいねえ。ルスタンさんは一緒じゃないのかい?」
「はい。今日は、私達がお散歩を頼まれてて」
立ち止まった明日奈が、笑顔で答える。
しかし、アマーリエは何やら落ち着かない様子だ。しきりに鼻を鳴らしている。
「どうしたんだ……?」
訝る十夜をちらちら見るアマーリエ。時折向ける視線の先は、扉が開け放された宿屋の中。長居はしたくないようだが、その理由は、分からない。
「大変だねえ。こんな天気のいい日に、豚の散歩だなんて」
溜息混じりのおばちゃんの声。なんとなく、険がある。
「いや、私達も楽しませてもらっているよ」
呉葉が即座に答えた。もちろん、角が立たぬよう笑顔は忘れない。
「そうかい? でもねえ……まあ、ここだけの話だけど。あたしゃどうかと思うんだよ、豚が町なかを歩き回るってのはさ。ほら、衛生的に、ねえ?」
ルスタンがいないと知ったからなのか、おばちゃんは眉をひそめて愚痴り始めた。
それを丁寧に聞きながらも、結は、アマーリエのことを少しでも理解してもらおうと言葉を挟む。
「……でも、アマーリエさんは綺麗にしてもらってるみたいですし」
その横で、愚痴に相槌を打っていたエヴァも、文字を書き込んだスケッチブックを見せた。
『豚はとても綺麗好きな生き物です。犬に負けず劣らず、鼻も良いんですよ』
「それに、飼い主を気遣う優しい心も持ち合わせているらしい。ここ数日見なかっただろう」
そう言って呉葉が語るのは、アマーリエが散歩に出なかった理由。
それを聞いて感動したのは明日奈だった。
「ご主人様の為に……とても優しいのですね。アマーリエさん」
「ああ。見てくれはシシ故という奴だが、躾も教育も良く出来た子だ」
「…………。まあ、でも、ほら。町のイメージってものもあるし」
一度押し黙ったおばちゃんは、今度は景観がどうのこうの。
「大きく育ったシシは平和と豊かさの象徴だ、良い町だと思うよ」
「シシったって、家畜だしねえ」
「……手厳しいな。あまり責めずお手柔らかに頼むよ。相手は私達と違い、物言えぬ無垢なシシだ」
終始笑顔を絶やさぬ呉葉だが、その言葉に、悪口ばかりを言い続ける彼女の節度を問うような含みを持たせる。
それが何となく伝わったのか、おばちゃんが気まずそうに目を逸らした。
「……まあ、あたしだってね、本当はこんなこと言いたくないんだけど……」
それでもおばちゃんは、何やらぶちぶちと呟いている。
宿屋の中から、ふと小さな犬が顔を出した。アマーリエを見つけた瞬間。
「ワウッ!!」
響き渡る攻撃的な声。アマーリエの体がビクッとふるえ、そして。
「うわッ……」
突然凄まじい力で引っ張られる十夜の腕。逃げようとするアマーリエに引きずられかけ、とっさに踏ん張った。
「あ、明日奈……!」
「は、はいっ」
十夜のヘルプ要請に、明日奈が慌ててリードを握る。
「ま、まって……! アマーリエさん、止まって……!」
「……こいつ……前より重くなってる気がする……!」
パニックを起こしたアマーリエを、二人掛かりで何とか止める。
後方で動向を見守っていた浩一が、さりげなく前へと出た。おばちゃんの傍に立ち。
「ふむ」
と短い相槌を打つ。
おばちゃんの目が、浩一へと向いた。聞いてくれるらしい、それがわかったとたんに炸裂する、おばちゃんのマシンガントーク。
浩一は特に反論も否定もしないまま聞き役に徹しつつ、仲間たちにそれとなく視線を送った。
エヴァが動く。小型犬の傍に2匹の大型犬を誘導し、その意識をアマーリエから逸らさせる。
その隙に結が、逃げようともがくアマーリエの傍に屈みこんだ。落ち着かせるように、その体を優しく撫でる。
「怖いの怖いの飛んでいけ~」
アマーリエの体を包み込んでいく光。プロテクションだ。
「これでもう大丈夫です。今日のあなたは、一味違いますよ!」
「……ブギッ……!」
勇気をもらったことで落ち着きを取り戻したアマーリエは、四つ足でしっかりと地面を踏みしめ、宿屋の番犬に向き直った。堂々たる姿で、天敵を見据える。
しかし番犬の興味は、すでにアマーリエから大型犬へと移っていた。ブゴ、と小さく鼻が鳴る。
「……今の内だな」
「行きましょう、アマーリエさん」
十夜がそっとリードを引き、明日奈がアマーリエを促した。
素直に従うアマーリエを連れた二人とともに、結と呉葉もひっそりとその場を離れる。
(そろそろかしら……)
アマーリエたちが見えなくなったのを確認してから、エヴァもまた、静かに宿屋前を脱出した。
その間もおばちゃんの愚痴は続いていた。
最近客の入りが悪くてどうたらこうたら、マナーがなってなくてなんたらかんたら、この石畳の汚れが落ちにくくてうんぬんかんぬん。
……もはや、なんの愚痴だかも分からなくなってきている。
「ほう、うん、大変だな……なるほど、ふむ」
それでも浩一はただひたすらおばちゃんに喋らせ続け、相槌を打ち続けていた。
しかし仲間が全員離脱したのを確認するや否や。
「何かと大変だろうが、まあ、頑張ってくれ。それじゃ」
その一言であっさりと話をまとめ、切り上げる。さっさとその場を離れて仲間たちの後を追った。
●あまーい誘惑
見事な連携プレーでアマーリエのピンチを救ったハンター達。
宿屋の先で合流し、散歩を再開させたはいいが……一難去って、また一難。
「あれ? どうしたんです?」
散歩の途中、突然足を止めてしまったアマーリエを、明日奈が振り返った。
漂ってくる甘い香りにひくひくと鼻を動かすアマーリエの、見つめるその先には……。
「『フロマージュ』……此処は、洋菓子店か」
呉葉が、掲げられた看板を読み上げた。
アマーリエの視線がハンター達へと向き、何かを訴えかけるようにじっと見上げてくる。
「食べたいっ言ってるんですよね。きっと。……十くん、どうしよう……」
事情を察し、戸惑いながらも十夜に相談する明日奈。
(食べ物に見境ないのさえなければな……)
じーっと彼らを見つめるアマーリエは、進むよう促しても微動だにせず、引っ張ったところで前足一つ浮きもしない。リードを握る十夜は、ついつい溜息をこぼすばかりだ。
「ブキュ。ブキュィイ……」
決して可愛いとは言えない野太い声でアマーリエがねだってくる。そのつぶらな瞳に、揺らいでしまう明日奈の心。
「え、えっと、1つくらいなら……」
「……そうだな。このまま、ここで止まっているわけにもいかないし」
散歩を続けるためには仕方ないと十夜が頷いた。
エヴァがスケッチブックを取り出した。さらさらと書き込み、仲間たちに見せる。
『すぐにあげない方がいいわ。何かをしたからもらえた、ってことを認識させないと我儘になるかも』
「成程。まずは一つ買って、それを餌に公園まで導くって手かね」
文字を追った呉葉が答えた。いわゆる『待て』の状態だ。
「じゃあ、ええと……アマーリエさん。せっかくの御馳走ですし、公園で皆さんと一緒に食べませんか?」
「ブギッ」
屈み込んだ結が目線を合わせて交渉に掛かるも、アマーリエは即答かつ快諾である。
動物を連れているエヴァと十夜、そして明日奈の三人は店の前で待つことにして、結と呉葉が店の扉を開けようとした時だった。
中から扉が開き、一緒にいたはずの浩一がひょっこり出てきた。
「えっ、あれ……?」
「いつの間に……」
きょとんと瞬く結と、少々驚いた様子の呉葉。
「時間が掛かりそうだったから、もののついでにな。……ん、これはいい土産が出来た」
浩一の手には、事務所の来客用にと購入したクッキーがあった。それをポケットにしまいこみ、頷きながら外で待つ仲間たちの元へ戻っていく。
どこまでもマイペースな彼だが、他の参加者たちを見守ることは忘れなかった。
●のんびりゆったり、公園で
そうして公園に到着した一行は、各々、公園でのんびりとした時間を過ごしていた。
吹き抜けていく穏やかな風が心地好い。
呉葉はベンチに腰掛け、先程洋菓子店で、ついでに彼女自身の分として購入したケーキの味を堪能していた。
結もまた、同様にケーキを頬張り、仲間たちとのゆったりした時間を過ごしている。
アマーリエはといえば、洋菓子店で購入したケーキを誰よりも早くぺろりと平らげ、今、彼らから少し離れたところで元気に遊びまわっていた。
二つ目をねだることは、なかった。すでに洋菓子店から離れていたのと、公園までちゃんと『待て』が出来たのをエヴァが褒めたことで、そのご褒美としてもらえたのだと理解したようである。
エヴァは、楽しそうに芝生の上をのしのしと駆けるアマーリエの様子をスケッチブックに描いていく。
(……やっぱり、ペットは飼い主のことを良く見てる。仕事は、程ほどにしてもらうべきかもしれないわね)
描き上げた絵をルスタンに渡すついでにそれも伝えてみようかと、エヴァは思う。
一方十夜は、公園内にいる町の人々がアマーリエに向ける視線や、その態度を観察していた。好意的な者もいれば、中には、やはり眉をひそめている者もいる。
宿屋での一件も含め、彼はルスタンに報告するつもりでいた。
(改善できる点があれば、その辺は模索して欲しい所、だな)
今回のことで、十夜の持つ豚に対する印象は随分と変わっていた。勿論、豚が可愛いと思うわけではないけれど。
「それにしても……本当に良く食べて良く遊ぶ奴だな……」
「元気いっぱいですね」
呆れたように呟く十夜に、ベンチに並んで座っていた明日奈が小さく笑った。
「でも、生き物を飼うのって難しいですよね……」
ぽつりとそう呟く。十夜の手伝いとして依頼に参加した彼女は、それをしみじみと感じたようだった。
そんな中浩一は、駆け回るアマーリエがどこかに行ってしまわないよう、そして、それを追いかけて誰かが迷子になってしまわないよう見ておく程度に留めていた。
ベンチで煙草を吸いながら、ゆっくりと流れる時間を過ごす。
「豚の散歩も、案外悪くないかもしれないな」
紫煙を吐き出しながら、のんびりと呟いた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/10 13:04:34 |
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…相談だな 希崎 十夜(ka3752) 人間(リアルブルー)|19才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/05/10 13:23:02 |