王都第七街区 ドニ調三国志

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/05/09 22:00
完成日
2015/05/17 17:30

みんなの思い出

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オープニング

 歪虚ベリアルの襲撃によって大きな被害を出していた王都イルダーナ『第七街区』── その本格的な復旧作業が先日、ようやく始まった。
 最も被害の大きかった第七街区が『後回し』にされた最大の理由は、やはり『王都ではない』からだろう。
 五年前、ホロウレイドの戦いで歪虚に故郷を奪われ、逃れて来た難民たちが、王都第六城壁の外にバラックを連ねたのがその始まりだ。
 『第七街区』という呼び名はあくまでも通称であり、正式には未だ王都の行政区分には含まれてはいない。

 ドニ・ドゥブレー。第七街区と呼ばれる地域の中で、王都第六城壁南門近郊の一帯を仕切っている男である。
 とは言え、彼は官僚でも役人でもない。この地区で小さな賭場を開いていただけのケチな男──それが先のベリアル襲撃の折、烏合の衆と化した人々の避難を指揮したことからリーダーとして祭り上げられた。
 王都の第七街区復興担当官が、何の利権も旨みもないこの地の作業を現地の有力者に丸投げした際、ドニもその一人となった。何もかも足りない中、ドニはその実際的な手腕を発揮し、彼に出来得る限りの手を打った。ドニの『シマ』とその周辺で彼の名声は上がり続け…… かつては小さな賭場の主に過ぎなかった嫌われ者の中年男が、今ではちょっとした『名君』扱いであるのだから、世の中なにが起こるか分かったもんじゃない。
「ドニの旦那ぁ! マリアンヌさんとこの教会から遣いが来てますぜぇ!」
 補佐役、アンドルー・バッセルが呼びに来た時、一仕事を終えたばかりのドニはようやく屋根のついた執務室のデスクでうつらうつらと船を漕いでいた。
 アンドルーに案内されて来た遣いのシスターは、まだ少女といった年頃の若い娘だった。地区の実力者であるドニにちょっぴりドキドキ怯えながら、マリアンヌが教会に来て欲しいと言っていたと彼に伝える。
「用件は?」
「ぞっ、存じ上げませんです、はい!」
「……ったく。この俺を呼びつけるたぁ、そんな事が出来んのは王都のバカ役人かあのシスターかくらいなもんだぜ?」
 ぶちぶちと文句を言いながら、中折れ帽を手に立ち上がるドニ。護衛をつけます、と申し出るアンドルーに片手を振って、少女の後についていった。道中、木製のバラックの庭で畑作業をしていた老若男女が道行く2人に笑顔を向ける……
「今ちょっと忙しいので暫くお待ちください、とのことです、はい!」
 教会の中に入るや否や、奥からとてとてと戻って来た少女が言うのを呆れた調子で見返しながら、ドニは帽子をデスクに置いて頬杖をついた。
 人の気配に気づいて片目を開けると、まだ歳若いシスターが奥から出てきたところだった。シスター・マリアンヌ──避難時に亡くなった神父の後を継ぎ、第七街区の人々の為、この地に残った聖職者。国民の殆ど全てがエクラ教を信仰するこの王国にあって、彼女もまたドニ以上にこの地の人々の敬意を集める存在である。
「あら、ほっぺたに手の平の跡が…… メレーヌに手を出して引っぱたかれでもしましたか?」
「メレーヌというのはさっきの娘か? よく見ろ。跡は小指が上だろう。頬杖をついて寝ていただけだ」
 引き合わせたい人がいる、とマリアンヌが言うと、すぐに奥から3人の男が出てきた。胡散臭げに眉を寄せるドニに、教会を頼ってきたので匿っている、と彼女は告げた。
「ノエル・ネトルシップと言う男はご存知ですよね」
 ご存知も何も、と目を細める。ノエル・ネトルシップはドニのシマの『隣町』に位置する『民間の実力者』。ドニなどより遥かに大きな勢力を誇っていながら、歪虚襲撃時には自分たちだけでさっさと行方をくらませておいて、街区帰還時にのほほんとした顔で当然の如く戻って来た男。王都の教会が支援物資を持って来た時にはドニのシマの民間人に手を出そうとしたり、度々衝突を繰り返している。
「あの男の『治世』は過酷にして苛烈。己が富を得ることばかりに権力を利用するばかりで、ヤツのシマでは人々がそれこそ息の詰まるような生活を強いられています」
「それだけではありません。あの男は多大な賄賂をもって近隣の第七城壁建築の監督の地位を買いました。無理やり人々を集めるだけ集めて過酷な労働に従事させつつ、その給金の殆どをピンハネして己の懐に入れているのです!」
 ……俺に、どうしろって言うんだい? ドニが尋ねると、男たちはノエルの打倒とドニの『治世』を求めた。
 熱く意気込む男たちとは対照的に、ドニは醒めた瞳でマリアンヌを見返した。
「…………おい」
「私は暴力を肯定しません。貴方のやり方も。……ですが、この混沌とした時勢にあって、貴方とノエル、どちらのやり方がより多くの人々の幸せに寄与するか…… それは分かっているつもりです」
 マリアンヌの言葉に、ドニは頭を振った。かつて「人々には縋るものが必要だ」と告げたドニに対して「貴方が寄る辺になったらいかが?」と彼女は告げたことがあった。
「……勢力規模が違いすぎる。俺に勝ち目が無いとは言わんが、分の悪い賭けだ。そんなものにウチのモンや堅気の連中を巻き込むわけにはいかねぇよ」
「待ってください! 数日後、ノエルは商人たちとの折衝の為、用心棒たちと共に王都に赴いていて不在になります。シマを攻めるにはまたとない絶好の機会なんですよ!」
 帽子を手に立ち去るドニ。追い縋ろうとする男たちを、ドニが微笑で制した。
「大丈夫ですよ。彼はきっと動きますから」

 マリアンヌが教会からノエルの配下たちに連れて行かれた── その報告を手にアンドルーが執務室に飛び込んできたのは、それから数日後のことだった。
「逃げ込んだ連中の引き渡しを求めにやって来たそうです。それに応対したのがシスターが……」
「……強引に拉致されたのか?」
「いえ、メレーヌ嬢ちゃんの話では『ノエルと話をつける必要がある』と自分から案内をさせたとか。……人々に対するシスターの影響力も馬鹿にできませんからね。ノエル不在で判断もつかなかったんでしょう。とりあえず、奴等も客人として迎えることにしたようで……」
 マリアンヌの澄ました微笑を思い返して、ドニは「あの女……」と頭を抱えた。自分が人々の心の寄る辺であることを、そして、ドニの『治世』にそれが必要であることを見越していやがる……
「旦那……?」
「……アンドルー。すぐにうちとノエルのシマに噂を流せ。シスター・マリアンヌがノエルの手の者によって『拉致された』と。それと第六街区の教会にも馬を走らせて報せろ。連中にシスター救出の依頼を出させるんだ」
 ドニの言葉にアンドルーが頷き、すぐにそのように手配される。
 ドニはやけっぱちに口の端を歪めた。
「十分に噂が広がった後で、事態の解決の為に教会からハンターが派遣される、との噂を追加しろ。……一連の騒動とシスターの救出を口実に、ノエルのシマに介入する」

リプレイ本文

 その日、男たちの引き渡しを求めてマリアンヌの教会を訪れたノエルの手下たちは、自分たちの仕事を簡単な仕事だと思っていた。
 人望篤いシスターとは言え、たかが小娘一人。暴力の臭いをチラつかせればすぐに男たちを引き渡す── その思惑は、だが、実際に彼女を前にして間違いであったと気づく。
「よろしいのですか?」
 毅然とした態度で、逆にシスターは彼等に問うた。この場所で暴挙に及ぶということが何を意味しているのか、貴方たちはちゃんと理解しているのですか、と。
「あ? ここはドニのシマだって言いたいのか? だったら無駄だぜ。うちのボスはヤツ程度の小物、歯牙にもかけねぇ」
「まがりなりにもここは『教会』…… お前等んとこのボスは聖堂教会に喧嘩を売る気でいやがりますか、って、そう言う話をシスターはしておられるんでやがりますよ。あぁ?」
 答えたのはシレークス(ka0752)。ボランティアとして教会に逗留していた聖職者(そうは見えないかもしれないが)のハンターで、『暴力の臭い』を感じて奥から出てきたのだった。
 まさかの強面(?)の登場に強攻策を封じられ…… 予期してなかった膠着状態に、手下たちが困惑する。
「では、この件に関して話し合う為、私がノエルさんの所へ赴きましょう」
 それを見て取ったマリアンヌが、この場はそれで手打ちとしては、と手下たちに提案する。
「ノ、ノエルさんは不在だ。暫くは帰ってこない」
「何日でも待たせていただきますのでお気になさらず。ガキの遣いじゃあるまいし、貴方たちも手ぶらで帰る訳にはいかないでしょう?」
 にこにこと笑いながら強引に訪問を了承させるマリアンヌ。なかなかどーして妙に親近感を覚える方ですねぇ、とシレークスが感心する。
 仔犬の様に怯えて隠れながらこちらの様子を窺っていたメレーヌを呼び寄せ、マリアンヌは小声でドニへの遣いの指示を出した。
「本当に親近感を覚えますねぇ」
 マリアンヌの意図を察して、シレークスは獰猛な笑みを浮かべた。

「ふぅ。今日も一日、良い汗をかきました…… 私の力が少しでも復興のお役に立ててれば良いのですけど」
 街の復旧作業に従事するボランティアとして、忙しく働いてきたサクラ・エルフリード(ka2598)は、その冷静な表情は変えぬまま満足そうに汗を拭った。
 すっかり顔なじみになったご近所さんたちと夕暮れ時の挨拶を交わしながら、逗留している教会へと向かう。
「おや、あそこに見えるはシレークスさん。あんなに急いで、いったいどこに行くのでしょう……?」
 頭の上の獣耳(←カチューシャ)をピクリとさせて、見かけた知人に声を掛ける。
 聞かされた状況は、とんでもないものだった。
「シスターが浚われやがりました」
「ええっ!?」
「もう半日前のことでやがります」
「えええっ!???」
 告げるだけ告げて速度も緩めず突っ走っていくシレークス。「どこへ?!」と問うサクラに「ノエルのとこへ!」との答えが返る。
「人が集まり始めてやがるです。暴走しないよう止めに行くですよ!」
「……なんてこと」
 サクラは急いで教会に戻ると、手早く武装を整えて慌ててシレークスの後を追った。それを見たご近所さんたちは目を丸くした。
「おや、あれは教会んとこのハンターさんたち。あんなに急いでどうしたんだろう……?」
「そう言えば、シスターが浚われたって噂。まさかと思っていたけど、あの慌て様…… もしかして本当に……?」


 翌日── 浚われたマリアンヌの救出を依頼されたジョン・フラム(ka0786)とイーディス・ノースハイド(ka2106)は、依頼主である王都・第六街区の教会を出た。
「依頼内容はあくまで救助── 交渉で済むのならそれに越した事はありません」
「まずは情報収集だね」
 第七街区へ向かいながら、方針を確認するジョンとイーディス。その二人の後ろについて歩きながら、セイラ・イシュリエル(ka4820)は押し黙ったまま、依頼内容に違和感を抱き続けていた。
「拉致された顔役のノエルと、浚われたシスター、マリアンヌは、どういった人物なのですか?」
「……ノエルの方は弱者から搾取する『圧政者』。誰の目にも明らかな分かりやすい下種野郎よ。それなりに大きなシマを収めているから、無能ではないのでしょうけど」
 ジョンに問われて答えるセイラ。とある事情から彼女は第七街区の事情に通じていた。今回の関係者も噂くらいなら聞いたことがある。
「シスターの方は、5年前の避難行からずっと難民たちと共にあり続けた聖職者の一人よ。彼等にとっては己の信仰心の象徴であり…… 絶望に沈まぬ為に縋る心の拠り所でもある。……それを誘拐? いくらあのノエルと言えども、そこまでバカとは思えない」
 それがセイラが抱く、違和感の正体だった。マリアンヌを拉致すれば、教会と民とを敵に回す。国民の殆どがエクラ教徒であるこの王国では完全な下策だ。
「なぜそんなことになったのか…… 確かめる必要がありそうね」
 王都を出て第七街区へ入る。
 ノエルが納める地に近づくにつれ、街は不穏な空気が色増していくようだった。

「第七街区の人たちを奴隷の様にこきつかって、逃げ出した人たちを匿ったシスターまで浚うなんて…… 許せない! きっと人質に取って皆を従わせるつもりだよ!」
 噂話で持ちきりとなった街の『商店街』の広場── 復興ボランティアとして滞在していたシアーシャ(ka2507)は、顔馴染みとなったじいちゃんばあちゃんたちから話を聞いて、ぷんすこと怒りを爆発させた。
「俺たちでシスターを助けに行こう!」
「ノエルの野郎のやり方は前から許せねぇと思っていたんだ!」
 両手を上げて怒るシアーシャに呼応して、若い連中が怒りの声を上げる。
 その勢いにシアーシャはピャッ!? と慌てた。噂の内容は理不尽だし彼らの怒りは正当だけど、武力衝突ともなれば被害者が大勢出る。
「暴力で解決するのはダメだよ! 自分の所為でそんなことになったら、シスターが悲しんじゃう!」
 さっきまで怒りに燃えていたシアーシャが、今度は悲しみにその瞳を濡らしていた。それを見た若者たちも多少、落ち着きを取り戻した。だが、憤懣やるかたない想いは如何ともし難いものがある。
「分かるよ。黙って見ていられない、何とかしたい、っていうみんなの気持ちは! 心配だもんね。シスターのこと……」
 俯き、己の無力さに歯噛みするシアーシャ。自分たちのこのやるせない意志を示す方法は何か無いかと思案して…… ふと、リゼリオで青世界の人に聞いた話を思い出し、その表情を輝かせる。
「そうだ! 『でもこーしん』と『すわりこみ』だよ!」
 突然の叫びにびっくりしながら、若者たちが話を聞く。
 それでいこう、と彼らは言った。もう兎に角、何かをせずにはいられない気分だった。
「絶対に暴れちゃダメだよ? 近づきすぎると危ないかもしれないから、ノエルの館を遠巻きにするだけだからね? ……よしっ! それじゃあ、みんな! 団結して、手を取り合って、シスターの無事を祈りにいこう!」

 ノエルの館の周囲に、人が集まり始めていた。
 最初、ノエルの配下たちは一々それを散らしていたが、その人数が余りに多くなると、何か薄ら寒いものを感じながら門の中へと引っ込んだ。
「……このタイミングで館の防備? 計画的犯行にしてはあまりにもお粗末な対応だ」
 ノエルの館前、建物の陰から情勢の推移を確認していたジョンは、状況の不自然さから己の疑念を確信した。
 まず展開が速すぎる。この群集は『拉致』の事実をどこから聞いた? 噂話? その出所は? 王都の依頼人へは誰が知らせた?
「状況に作為的なものを感じる。あの館にシスターがいるのは確かなようだが……」
「シスターが『拉致』された現場…… 確か、教会だったよね? そちらを当たればその辺りの事情も知れるかな?」
 イーディスの言葉を2人は是とした。虚実いずれであるにせよ。現場にいたという人間の証言を得ておくことには意味がある。
 目立たぬようその場を離れ始めるノエルとセイラ。だが、発案者であるイーディスはその場から動かなかった。
「……私はここに残るよ。このままでは暴動が起きかねない。いざという時は正面からシスターを返してもらうよう頼んでみるさ。この場の雰囲気から素直に返した方が良いと理解はできると思うんだ」
 イーディスをその場に残し、教会へと赴くジョンとセイラが教会のシスターたちに事情を聞く。
 救出の依頼を受けて来たと言うと、彼女らはあっさり裏の事情を話して聞かせた。
「悪政を敷く暴君を打ち倒し、囚われの姫君を救い出す…… なるほど! あなたは晴れてこの街の英雄となるわけだ!」
 ドニの事務所に赴いたジョンは、芝居がかった所作と口調で直接、ドニに当たりをつけた。
 殺気立つ若手たちを、アンドルーが視線と手だけで制する。セイラは腕を組んで壁に背を預けたまま動かない。当のジョンとドニは涼しい顔。大仰な動きに舞い上がったインバネスコートがフワリと戻る。
「……脚本を書いたのはあなたですか?」
「……望んで上がった舞台でもないけどな」
 その語尾に重ねて飛び込んでくる連絡役のドニの部下。──ノエルの館前で動きあり。その報告にドニがやれやれと立ち上がる。
「どいつもこいつも活き活きとした顔しやがって……」
 後についてくる部下たちの顔を見返し、溜め息を吐くドニ。ついて来る者たちの中には、ジョンとセイラの顔もあった。
「どうやら本依頼の実質的なクライアントは『卑劣な誘拐犯を真正面から打倒するセンセーショナルな解決』をお求めのようですから。依頼主の意向には最大限沿うよう行動するのが、我等の仕事なのですよ」

「ダメだよ、みんな、落ち着いて!」
 膨れ上がった群集には、シアーシャの言葉も届かない。農耕用の鋤や鍬で武装した者たちがシスターを返せと詰め寄り始め。対するノエルの手下たちも弩を群集に向けて構える。
 合流したサクラやイーディスらと共に人々の暴発を抑えていたシレークスは、ここでなんらかのアクションを起こさなければもう収まりがつかないと判断した。人々の前に立ち、大きく両手を振って自分たちはハンターだと叫ぶ。
「これから私たちがマリアンヌを迎えに行くです。何の心配もいらないので、マリアンヌが帰った時に、笑顔で出迎える準備をしていて欲しいのですよ」
 だが、激発しかけた人々の熱情は収まらない。シレークスは軽くイラッとした。
「てめぇらに……こほん。皆様方に何かあったら、シスターはどう思われますか。自分が原因で怪我をしたとシスターが知ったら…… その時、貴方たちはシスターに何て言い訳しますですか」
「そうだよ! シスターはそんな事を望んでいないよ! みんなが怪我をしたと知ったら、シスター、きっと悲しむよ!」
 シアーシャが泣き出すと、群集の熱情は潮が引くように沈静化した。
 シレークスの背後で館と群集、双方に目を配り、何かあったらすぐに対応できるよう身構えていたサクラは、人々の様子を見て取って館の方へと進み出た。彼女はこの状況が一時的なものに過ぎないと分かっていた。
「こちらに戦闘の意志はありません。ですので、少し話をさせてもらえないでしょうか? ……ここで戦ってもお互いに利は無いと思いますが」
「別に争いに来たわけじゃねーんで。さっさとマリアンヌの所へ案内しやがれですよ。それとも本当に聖堂教会に喧嘩を売りやがりますか?」
 背後から聞こえてきたシレークスの声に、サクラは慌ててそちらへ戻るとその口を手で塞いだ。
「シレークスさん、口調、口調! 話し合いなのです。喧嘩を売りに来たわけではないのですよ!」
 そうこうしている内に、群集の一部が騒がしくなった。
「ドニだ! ドゥブレー一家の到着だ!」
 群集の一部が割れ、配下を引き連れたドニが館の前へと到達する。
「ウチのシマから浚っていったシスターマリアンヌを返してもらおう!」
「馬鹿言うな! あのシスターは自分からついて来たんだ!」
 ノリノリで呼びかけるジョン。館からの反論は群集の歓声に掻き消されて聞こえない。内心で溜め息を吐きながら…… 盤上で踊るべく、ドニが突入の指示を出す。
「あぁ…… あまり派手なことはしたくはなかったのですが…… もうしょうがないですね、これは……」
「ドニ殿には屋敷の周辺を囲んで貰うつもりだったけど…… これだけの群集に囲まれていては同じこと、だね」
 得物を構えて呟くサクラとイーディス。ハンターたちは誰よりも先に、先頭に立って突入を開始した。放たれる応射。それを避け、弾きながら、跳躍して門を越える。
「……キミたちの実力で、私を遮れるとは思わないことさ。流石に命は取らないけど…… 骨折程度は覚悟してもらうよっ!」
 門の開放と周囲の制圧を図る皆を残して、イーディスは一直線に館の中へと突入した。鞘に収めたままの長剣で屋内に残っていた僅かな手下を蹴散らし、女子供を無視して迅速に館の奥を目指す。
 ノエルの執務室と思しき部屋を見つけると、イーディスはそのデスクを漁った。
(……ノエルは王女殿下が下賜された復興予算を喰い潰している。ノエルも、監督を命じた者も、共に責を問われなければならない。その為の証拠があるはずだ)
 途中、火を掛けにきた手下を蹴散らし、もう面倒くさいので部屋ごと確保することにする……


「では、依頼は完了です。お困りの際はまたいつでもハンターズソサエティにご用命ください」
 制圧後。囚われていたマリアンヌの発見と確保を確認すると、ジョンはにこやかに微笑みながら恭しくドニに挨拶をして去っていった。
 だだっ広い部屋の真ん中で椅子に座って本を読んでいたシスターが、入って来たドニに顔を上げる。
「……終わりましたか」
「…………」
 答えないドニに代わって、シレークスが「無茶も程々にしねーとですよ」と声を掛け。「あなたがそれを言いますか」とサクラが半眼でツッコミを入れる。
 部屋から連れ出されたマリアンヌは、エントランスに倒れ、片付けられていく男たちに気づき、足を止めた。これが私の選択の結果なのですね…… と呟くマリアンヌに、「そうだ。俺たちの選んだ結果だ」とドニが答える。
「私が今、ここにこうしてあるのは、この第七街区のおかげなんです、シスター」
 セイラが告げる。──この街は難民たちにとって唯一の居場所。生き辛いこの街にある力なき人々の気持ちは、私にも良く分かる。
「人が人の尊厳を守り、皆が笑顔でいられるように──それこそが、私の正義。その為に出来ることがあればしたい。それは貴女も、いえ、きっと……」
 見送るハンターたちの視線の先で、頭を下げて礼を言ったシスターが毅然と外に出る。

 歓声が、それを出迎えた。
 まるで舞台の一幕の様に。

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参加者一覧

  • 流浪の剛力修道女
    シレークス(ka0752
    ドワーフ|20才|女性|闘狩人

  • ジョン・フラム(ka0786
    人間(紅)|28才|男性|霊闘士
  • 鍛鉄の盾
    イーディス・ノースハイド(ka2106
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • 力の限り前向きに!
    シアーシャ(ka2507
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • 星を傾く者
    サクラ・エルフリード(ka2598
    人間(紅)|15才|女性|聖導士
  • 正しき姿勢で正しき目を
    セイラ・イシュリエル(ka4820
    人間(紅)|20才|女性|疾影士

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依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/05/05 01:57:45
アイコン 相談卓
セイラ・イシュリエル(ka4820
人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/05/07 10:20:26