ゲスト
(ka0000)
二律背反
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/13 09:00
- 完成日
- 2015/05/17 20:18
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
二律背反――
同等の重要さで従うべき規範が二つあり、一つの規範を選べば、他方が反する場合をいう。
●少年が見た歪虚
一人の男が、木々が開けた場所でジッと精神を集中させていた。
人間――ではない。歪虚だ。頭には幾何学模様が美しい角が二本生えていた。
ハンターとの戦いにより左角の先端が折れているのが特徴的だ。
「……破っ!!!」
カッと目を見開く。
刹那、歪虚の足元に黒く光る三角形と白く光る三角形が現れる。
二つの三角形は輝きを増しながら同一場所で回転すると、やがて、明闇の六芒星となり、その光闇が歪虚を包み込む。
歪虚の背中に純白な翼が現れ、両腕を白銀の竜鱗が包み込んだ。
黒かった瞳は、銀色の光を放つ。
「……素晴らしい……これが、私の力……」
両手をグッと握りしめる歪虚。
そこに、人間の悲鳴。
振り返ると、3人の男と1人の少年。
「わ、わ、歪虚だぁぁぁ!」
「目立たない様に、深い山中で殺せって言ったのは、お前じゃねぇか!」
「てめぇだって、賛成したじゃねぇか!」
男達がお互いに非難し始めた。
少年は、両手を縄で繋がれていた。恐怖のあまりか、腰を抜かしているようだ。
「ほう……ちょうど良い。試してみるか……」
右手に漆黒の剣。左手に白く輝く剣を持っていた。
「ひぃ!」
男達が武器を構えた瞬間。
踏み出した歪虚は既に男達の背後に立っていた。
血飛沫をあげてバラバラに崩れていく人間だったモノ。
「想像以上だ……」
満足そうな微笑みの歪虚。
「うわぁぁぁ! 歪虚めぇぇぇ!」
両手塞がれながらも少年がぶつかってきた。
何事も無かったかのように、歪虚は剣を少年の頭に振り下ろ――さずに、寸止めする。
「歪虚と言えども、私とて、人間を知らぬわけではない」
剣先で少年の両手を戒めていた縄を断ち切る。
「事情を話してみろ。なぜ、貴様は同族にこの様な仕打ちをされていたのか」
少年は驚いていた。
歪虚が人間に情けをかけるをかけるなど、聞いた事がなかった。
少年はフレッサ領を治める貴族の一人息子だった。
歪虚の侵略の前に、街に立て籠っていた。だが、父はいずこかに逃亡してしまった。残された家族と共に屋敷にいた所を空から侵入してきた歪虚によって、家族や兵士達は全員殺された。
母が命がけで屋敷から逃がし、少年は街の中を流れる下水道を通って街から脱出したのであった。
途方に暮れながら街道を歩いていた所、ある貴族の私兵に保護されたと思ったら、縄をかけられ、山中に連れて来られた。
「僕が生きていると邪魔だって……」
少年は俯きながら最後に貴族の私兵の会話を呟いた。
貴族の跡取りがいなくなった場合、その領地の行方は、円卓会議などによって、決められる。
跡取りである少年が『生き残っている事』が不都合な貴族も中にはいるという事なのだろうか。
「父さんは、絶対に生きてる! 父さんがいれば!」
その必死な眼差しに歪虚は心の中で、不気味な笑いを浮かべた。
例え、父親が見つかったとしても、歪虚と戦わず一人で逃げた責任は負わなければならない。
最悪、領地を失うだろうし、王国や他貴族から領地経営に口出しがあるかもしれない。
そんな事もわからず、少年はただ一つの希望にすがる様に、父がいればと叫んでいるのだ。
「貴様の父親を探してやろう」
「ほ、本当!?」
「あぁ、そうだとも。さぁ、少年、教えるのだ。父親の事を……」
歪虚の目が怪しく光る。
しかし、少年はその事に気づきもせず、ただ、知っている事を全て歪虚に教えるのであった。
●陰謀の始まり
そこは、貴族の家族しかしらない避暑地であった。
小さいテントからを背後に、フレッサ領の貴族は目の前に現れた歪虚を前に、土下座している。
「お助けを! お助けを!」
「なんだ、貴様。私が来るなり、突然、命乞いか?」
呆れる歪虚。
「……まぁ、悪い気はしないがな。貴様、このフレッサ領の貴族だな」
「は、はぃ~。命だけはぁ~」
涙と鼻水が一緒になったぐちゃぐちゃの顔を上げて、貴族は命乞いを続ける。
「そうか、なら、一つだけ、貴様が助かる方法があるぞ」
「な、な、なんでしょうか! なんでもします!」
「貴様がフレッサ領主として凱旋する事だ」
その言葉は意外過ぎた。
何の事か分からず、ポカンとする貴族の目の前に、厳つい顔を持つ羊歪虚の生首を転がる。生首は崩れかけていた。
「ひぃ! こ、これは!」
「貴様も見ただろう。このフレッサ領を襲った歪虚の親玉。これは、その生首だ。数日もすれば、粉々に消え去るだけだがな」
「ど、ど、どうしろと?」
生首の不気味さに驚き、腰を抜かす貴族。
「一人で敵前逃亡した貴様は、円卓会議とやらで糾弾されるであろう。領地も没収かもしれん。だが、貴様が、この首を持って凱旋すれば……」
罪が帳消し位にはなるかもしれない程の戦果だ。
領地の没収はないだろうし、上手くいけば、褒美が出る……かもしれない。
貴族はテントの中から毛布を持ってくると、乱雑に生首を包む。
「へへへ、これで、俺は助かる……ほ、本当にいいのか? なにか、だ、代償はないのか?」
「これは、契約だ。約束しよう。私は貴様の命を奪ったりはしない。ただ、私の命令を聞けばいい」
物音が聞こえたのは、その時だった。
貴族が振り返ると、そこには……。
同等の重要さで従うべき規範が二つあり、一つの規範を選べば、他方が反する場合をいう。
●少年が見た歪虚
一人の男が、木々が開けた場所でジッと精神を集中させていた。
人間――ではない。歪虚だ。頭には幾何学模様が美しい角が二本生えていた。
ハンターとの戦いにより左角の先端が折れているのが特徴的だ。
「……破っ!!!」
カッと目を見開く。
刹那、歪虚の足元に黒く光る三角形と白く光る三角形が現れる。
二つの三角形は輝きを増しながら同一場所で回転すると、やがて、明闇の六芒星となり、その光闇が歪虚を包み込む。
歪虚の背中に純白な翼が現れ、両腕を白銀の竜鱗が包み込んだ。
黒かった瞳は、銀色の光を放つ。
「……素晴らしい……これが、私の力……」
両手をグッと握りしめる歪虚。
そこに、人間の悲鳴。
振り返ると、3人の男と1人の少年。
「わ、わ、歪虚だぁぁぁ!」
「目立たない様に、深い山中で殺せって言ったのは、お前じゃねぇか!」
「てめぇだって、賛成したじゃねぇか!」
男達がお互いに非難し始めた。
少年は、両手を縄で繋がれていた。恐怖のあまりか、腰を抜かしているようだ。
「ほう……ちょうど良い。試してみるか……」
右手に漆黒の剣。左手に白く輝く剣を持っていた。
「ひぃ!」
男達が武器を構えた瞬間。
踏み出した歪虚は既に男達の背後に立っていた。
血飛沫をあげてバラバラに崩れていく人間だったモノ。
「想像以上だ……」
満足そうな微笑みの歪虚。
「うわぁぁぁ! 歪虚めぇぇぇ!」
両手塞がれながらも少年がぶつかってきた。
何事も無かったかのように、歪虚は剣を少年の頭に振り下ろ――さずに、寸止めする。
「歪虚と言えども、私とて、人間を知らぬわけではない」
剣先で少年の両手を戒めていた縄を断ち切る。
「事情を話してみろ。なぜ、貴様は同族にこの様な仕打ちをされていたのか」
少年は驚いていた。
歪虚が人間に情けをかけるをかけるなど、聞いた事がなかった。
少年はフレッサ領を治める貴族の一人息子だった。
歪虚の侵略の前に、街に立て籠っていた。だが、父はいずこかに逃亡してしまった。残された家族と共に屋敷にいた所を空から侵入してきた歪虚によって、家族や兵士達は全員殺された。
母が命がけで屋敷から逃がし、少年は街の中を流れる下水道を通って街から脱出したのであった。
途方に暮れながら街道を歩いていた所、ある貴族の私兵に保護されたと思ったら、縄をかけられ、山中に連れて来られた。
「僕が生きていると邪魔だって……」
少年は俯きながら最後に貴族の私兵の会話を呟いた。
貴族の跡取りがいなくなった場合、その領地の行方は、円卓会議などによって、決められる。
跡取りである少年が『生き残っている事』が不都合な貴族も中にはいるという事なのだろうか。
「父さんは、絶対に生きてる! 父さんがいれば!」
その必死な眼差しに歪虚は心の中で、不気味な笑いを浮かべた。
例え、父親が見つかったとしても、歪虚と戦わず一人で逃げた責任は負わなければならない。
最悪、領地を失うだろうし、王国や他貴族から領地経営に口出しがあるかもしれない。
そんな事もわからず、少年はただ一つの希望にすがる様に、父がいればと叫んでいるのだ。
「貴様の父親を探してやろう」
「ほ、本当!?」
「あぁ、そうだとも。さぁ、少年、教えるのだ。父親の事を……」
歪虚の目が怪しく光る。
しかし、少年はその事に気づきもせず、ただ、知っている事を全て歪虚に教えるのであった。
●陰謀の始まり
そこは、貴族の家族しかしらない避暑地であった。
小さいテントからを背後に、フレッサ領の貴族は目の前に現れた歪虚を前に、土下座している。
「お助けを! お助けを!」
「なんだ、貴様。私が来るなり、突然、命乞いか?」
呆れる歪虚。
「……まぁ、悪い気はしないがな。貴様、このフレッサ領の貴族だな」
「は、はぃ~。命だけはぁ~」
涙と鼻水が一緒になったぐちゃぐちゃの顔を上げて、貴族は命乞いを続ける。
「そうか、なら、一つだけ、貴様が助かる方法があるぞ」
「な、な、なんでしょうか! なんでもします!」
「貴様がフレッサ領主として凱旋する事だ」
その言葉は意外過ぎた。
何の事か分からず、ポカンとする貴族の目の前に、厳つい顔を持つ羊歪虚の生首を転がる。生首は崩れかけていた。
「ひぃ! こ、これは!」
「貴様も見ただろう。このフレッサ領を襲った歪虚の親玉。これは、その生首だ。数日もすれば、粉々に消え去るだけだがな」
「ど、ど、どうしろと?」
生首の不気味さに驚き、腰を抜かす貴族。
「一人で敵前逃亡した貴様は、円卓会議とやらで糾弾されるであろう。領地も没収かもしれん。だが、貴様が、この首を持って凱旋すれば……」
罪が帳消し位にはなるかもしれない程の戦果だ。
領地の没収はないだろうし、上手くいけば、褒美が出る……かもしれない。
貴族はテントの中から毛布を持ってくると、乱雑に生首を包む。
「へへへ、これで、俺は助かる……ほ、本当にいいのか? なにか、だ、代償はないのか?」
「これは、契約だ。約束しよう。私は貴様の命を奪ったりはしない。ただ、私の命令を聞けばいい」
物音が聞こえたのは、その時だった。
貴族が振り返ると、そこには……。
リプレイ本文
●探索
フレッサ領主である貴族を探しにある山へと入ったハンター達。
「なんか、めんどくさい事が、起きそうな気がする~」
十色 エニア(ka0370)が嫌な予感を感じながら、川を遡っていた。
「領主なのに姿をくらますなんて……貴族ってそんなものなのか……?」
一緒にいるのは、ティト・カミロ(ka0975)だ。
2人は街道から山へと入ってきた。
領主を長い間行方不明という。もし生きているのであれば、水が必要だから、川沿いを探索しているのだ。
いくつか、痕跡らしきものを見つける事ができた。
その時、トランシーバーから、仲間の声が聞こえた。
「……では、もう少し上の方へ向かうかの」
仲間との連絡を終え、星輝 Amhran(ka0724)がトランシーバーをUisca Amhran(ka0754)に手渡した。
姉妹は犬の鈴猛と共に山の中を歩きまわっていた。
特に獣道を重点に置いて探索している。
「フレッサ領の今後が良くなるよう手助けしたいです」
そんな意気込みでUiscaは周囲をよく探す。
痕跡をみつける事はできているので、徐々に近付いているのではないかと感じる。
その時、トランシーバーから再び仲間の声が聞こえた。
「あぁ、見つかった。ただ、領主の息子の様だがな……」
ヴァイス(ka0364)がトランシーバーで仲間と連絡を取る。もう片方の手には、フレッサの街から入手した近隣の地図を手にしていた。
地図をもとに、仲間達との連絡で常時位置や探索場所を確認しながら、獣道や痕跡を探していた。
その結果、偶然にも少年を見つけた。そして、驚く事に、少年は領主の息子と名乗ったのである。
「まずは水分と糖分を補給ね」
シエラ・ヒース(ka1543)が怯えている少年に水筒とお菓子を渡す。
水筒の中身は暖かい紅茶が入っていたのだが、少年はただ震えているだけだ。
よほど、なにか怖い目にでもあったのだろうか。
「顔、隠してあげるから少しは気持ちを吐き出しなさい」
少年の頭を抱え込んで、背中を撫でる。
緊張から解放されたのか、少年は嗚咽をもらし続けた。
しばらくして、仲間達が集まった頃になって、ようやく、少年は落ち着き、なにがあったのか話始めた。
ある貴族の私兵に掴まって山中で殺されそうになった事。
それを翼と幾何学模様の角を持つ歪虚に助けられた事。
歪虚が父を捜しに家族だけが知る避暑地に向かって行った事。
その内容を聞き、ハンター達はお互いに顔を見合わせた。
「ネル・なんとかさんかな」
エニアの言葉にヴァイスは頷く。
「翼を持っている……というのに疑問があるがな」
こうして、ハンター達は避暑地に向かったのであった。
●歪虚
物音がして振り返った領主の目に映ったのは、息子と数名のハンターの姿だ。
ネル・ベルはハンター達の姿を認めると、静かに領主との距離を開ける。
「父さん!」
思わず駆けだそうとした少年をヴァイスは制した。
まだ、ネル・ベルとの距離が近い。Uiscaが少年の代わりに領主とネル・ベルの間に割って入った。
「フレッサ領の復興の為に領主様には早く領地へ戻ってもらいます」
ティトが、その様子をみて、歪虚へと注意を向けつつ、領主にも怪しいところが無いかも観察する。
(なにか、取引していた可能性もあるかもしれない……)
領主が慌てた様子で叫ぶ。
「た、助かった! この歪虚に出くわした所なんだ!」
指を差そうとした所で、手に持っていた毛布から、歪虚の首を落としてしまう。
転がった首を見て、エニアが驚く。
「ジヒッツ・ドラード!」
領主が慌てて毛布に包み直す。
見られてはマズいものだったのだろうか。
「ねぇ、領主様、それ、少し見せて貰っても良い?」
可愛げな声で領主に近付くエニア。
仲間達が神妙な顔付きをしているが、敢えてなにも言うまいと心に誓う。
「そ、そこまで言うなら……」
(ゲスね)
領主の反応に心の中で呟く。
そして、歪虚の首を確認する。
(間違なく、あの歪虚ね。切断面も鋭利な刃で切られているし)
フレッサ領に侵攻した雑魔どもを率いていた歪虚。それを瀕死まで追い込んだ時、その依頼にエニアも参加していた。
「その首…細い糸状の物で、切り落とされたっぽいけれど、領主様は鋼糸使い?」
「そ、そうなのだよ!」
その言葉に、エニアは視線をネル・ベルに向けながら言った。
「簡単にバレる嘘は、つくものじゃないよ?」
領主は首を抱え込む様にして座り込む。
「久しぶりね、ネル・なんとかさん?」
「貴様ら……随分と見知った顔ばかりではないか」
ネル・ベルとの距離は随分と空いた。
だが、その発せられるオーラは、すぐ近くに感じられる。
「……そいつを『喰った』な」
ヴァイスが領主の抱えている物をチラリと見て声をかける。
歪虚は負のマテリアルを得て成長する場合があるからだ。
「私の力となったのだ」
純白の翼を広げる。
禍々しいというよりかはもっと別の存在の様にも見える。
「とりあえず、領主をみつけたし、早く降りましょう。少年は誰かに狙われていたようだし」
シエラの言葉に答えたのは仲間からではなかった。
「それがいい。私も、今は貴様らと争うつもりはないからな」
ネル・ベルだった。
「最近、ノゾミちゃんの所に帰っていないでしょう? 早くお帰りなさいませ」
「私の勝手だ。だが、忠告には従わせてもらおうか」
交戦の意思はないとばかりに両手をあげる。
「待つのじゃ」
星輝が愛刀の鞘に手を掛けながら、前に進み出る。
「のぅ、覚醒者で斬試しはせぬか?」
「どういう事だ?」
ネル・ベルが不審な顔付きになる。
「それは、『2度目の』強化のぅ? フラベルで味をしめたのかや?」
ネル・ベルは一度、主であるフラベルが討たれた戦場で負のマテリアルを得て強化された事があった。
だが、それは一時的な物で、その以後も、その時の力は出していない。
「ほっほ……己の力を高める為とは言え、実に愉快! 忠誠の主を、同族を喰らう……歪虚ながらに『歪虚喰らい』! 二律背反というやつよのぅ!?」
星輝の挑発に、ネル・ベルの瞳に憎しみの炎が揺らめいた。
静かに、一歩ずつ、星輝に近付く。
それに警戒して、エニアとティトが並んで側面に回る。
「……して、目指すは虚なる王か? ノゾミに次いで妹までも攫おう腹は……後宮か……ボクだけのフラベルかや?」
「キララ姉さま、言いすぎですよ」
妹であるUiscaの声で、星輝は挑発に成功したと感じた。
端から本気で戦うつもりなどない。今後の為にネル・ベルの力の程を把握しておこうと思っていた。
「素直に山を降りれば見逃していたのに、気が変わったぞ」
ネル・ベルが手に剣を持つ。
「確かに同族でも喰らう事はある。だが、アイテルカイトの中では強くなる為には、ごく当たり前の事。強き者は畏怖と羨望の眼差しを受ける。だからこそ、アイテルカイトは強度な結束を持つ。上の者の命令は絶対で、下の者はそれを守るのだ」
星輝はまで残り数歩という所までネル・ベルは進み出ながら、大げさな身振りで語る。
「それができぬ人間共に、私を愚弄する資格はない。私の従者を、私の主を辱めする事もだ」
仕掛ける事ができる間合いまで後一歩の所でネル・ベルは立ち止まった。
なおも、彼の話は続く。
「力を手にし、私は強くなった。それを貴様らにとやかく言われる筋合いはない。貴様らは、強者の言葉にただ、従えばいいのだ」
ネル・ベルの瞳が赤く光ったかと思った次の瞬間、ハンター達は己に起こった事象に驚く。
「か、身体が動かないじゃと」
星輝だけではなく、全員が身動きができない。
「ま、まずいです。領主が」
側面に立っていたティトからは領主の行動が見えた。ただ1人、領主だけは動けるようだった。
彼はハンター達や少年を見捨てて悲鳴をあげて山を駆け下りていった。
「これは……ジヒッツの時と同じ……」
エニアは唇を噛みしめた。
「私と戦おうと思うのであれば、相応の覚悟で来るのだな」
そう言いながら、剣先を星輝に向ける。
『強制』の能力で、誰も動けずに成り行きを見守る事しかできない。
「次は、おぬしにわしの刀の切れ味を味わってもらうかの」
「それは、楽しみにしておこう」
最後にそんなやり取りをする。
星輝は自分の胸にネル・ベルの剣が突き立てられるのを見ている事しかできなかった。
「キララ姉さま!」
崩れ落ちた姉の姿にUiscaの悲痛な叫び。
「良い声だ。そういえば、貴様はこの前、連れて帰るつもりだったな」
「なんでイスカさんを」
エニアが少しでも時間を稼ごうと話かける。
「特に理由はない。ベリアル様に献上する為だ。……安心しろ。貴様でも良いのだぞ」
「それは、安心できないわ」
二重の意味でだが。
「早く、なんとかしないと」
ティトの焦りは他のハンターも分かっていた。
星輝の傷は深い。一刻も早く手当てしなくては危険だ。
「貴様の心配は必要ないぞ。私はすぐにこの場を去るからな」
「どういう事だ」
ヴァイスの言葉にネル・ベルは少年を指差した。
「領主と少年を狙っている輩がいるという事だ。本来であれば、貴様らに領主の護衛をさせるつもりでいたのだがな」
ネル・ベル自身が護衛にまわるという事なのだろう。
「さらばだ。だが、もう一つ、念には念を押しておこう」
炎球を作りだすと同時に、突然、戒めが解ける。
前のめりでバランスを崩したエニアに炎球が叩きつけられる。
「エニアさん!」
無防備な状態のエニアに、傍にいたティトが庇いに入った。
刹那、激しい衝撃で2人とも大地に倒れる。
Uiscaが血相を変えて姉の所へ行き、回復魔法をかけ、シエラがエニアとティトに駆け寄る。
ヴァイスが少し飛び上がったネル・ベルを見据えた。
「ノゾミはアンタにとって、あの領主と同じく駒……なのか?」
「私の従者と駒を一緒にするな」
その言葉に偽りはなさそうであった。
同時に、緑髪の少女がネル・ベルにとって、重要なポジションにあるのではとも思える。
「ヴァイス!」
シエラが彼を呼ぶ。
一刻も早く応急手当が必要なのだろう。
「貴様、『ヴァイス』という名か……覚えておこう。仇敵よ!」
ネル・ベルはそう言い残して、空高く舞い上がっていった。
●少年
「父さんが、逃げた……」
少年は深いショックを受けていた。
無理もない……実の父に目の前で、子を見捨てて逃げていったのだから。
「歪虚は良い奴だったかい? 真実を見極めるのは大変さ。だから、気持ちを強く持つために、力を貸すよ」
意識を回復したティトがシエラに肩を回されながら少年を励ます。
「誰だって間違えもする。だから、貴方は自分の判断と力で道を切り開いていかなくてはダメよ」
応急手当が一段落したのだろう。Uiscaも声をかける。
「でも、僕には……どうしていいのか……」
「おぬしは……まだ、可能性に満ちて……おる。あの様には……なるで、ないぞ?」
絶え絶えに語りかける星輝。
もっと沢山の想いを伝えたかったのだが、これが限界のようだ。
「そうだよ。これから、強く成長すればいいから」
エニアが星輝の言葉を補足するように伝える。
もっとも、それは自身にも向けて言った言葉ではあるのだが。
先の依頼でジヒッツとの戦闘の際に、同じ能力を使われた。今回でも気をつけておけば、この様な事にはならなかったかもしれない。
「君はどうしたいのだ?」
ヴァイスの質問に少年は首を横に振るだけだった。
「現実は残酷で、自分に出来ることはごく僅かだ。でも、だからこそ、自分の足で立って考えていかなくちゃダメなんだと俺は思う」
「自分の足で……」
少年は自身の足をみつめる。
泥だらけで傷だらけだ。それでも、大地にしっかりと立つ事ができる。
「少し、考えてみたいと思います」
「それがいい、フレッサの住民達は自分達の意思で立ち上がり、街を解放したと聞く。君にもなにかを成せる力があるはずだ」
その言葉に、少年が喜びの表情を浮かべた。
「街が、街が歪虚の手から解放されたのですか!」
ハンター達が出発する直前、フレッサの街は解放されている。
戦いは終わったのだ。少年は安堵して、ハンター達と一緒に山を降りる事にした。
フレッサ領主は、この地方を攻めてきた歪虚の隊長格の首を持って街へと凱旋した。自分達の街を自分達の力で解放した住民達は、その戦果に大いに沸き立つ。
ハンター達から事情を聞いた王国ではあったが、決定的な証拠がない状態では、領主をを責める事はできず、結果的には、フレッサ領主は多大な犠牲を受けながらも歪虚の襲撃を返り討ちした事となった。
一部の関係者に、領主への疑いを持つ者や、ハンターに警戒心を抱く者など、不協和音が水面下で広がろうとしていた。
おしまい。
●悪縁を断つ者
シエラが、少年と出逢った場所に向かったのは、数日後の事だった。
少年の行く末を心配し、後見人になってくれそうな人を探していたのだ。
後見人は結局、見つからなかった。それでも、シエラは少年に逢いに行ったのである。
「ここに居たのね。探していたわ」
少年の姿を見つけて、シエラが声をかける。
振り返った少年は彼女の姿を見て、驚いたようだ。
「どうして、ここに?」
「色々、手を尽くしたつもりなんだけど……」
数日間、少年の今後を心配して、仲間達と色々な人に当たっていた事を伝える。
「でも、ごめんね。結局、見つからなかったわ」
「い、いえ、ありがとうございます。僕なんかの為に……」
「いいのよ。それに、もし、見つからなかった時も考えていたから」
少年が首を傾げた。
「私と一緒に旅にいかない? 世界は広いわ」
「僕が?」
キョトンとしている。
この人は何を言っているのだろうと思った。旅の費用、様々な障害、それらをどうするのか。
「そうよ。あなたは、どうしたい?」
満面の笑みで訊ねてくるシエラに、思わず少年は顔を赤くした。
「僕は……僕は、騎士になる!」
力強い言葉と瞳の輝きだった。
「旅に出たくないわけじゃないけど。でも、それは、きっと、いつでもできるから……今は、逃げないで戦いたい」
「……そう、それなら、それでいいわ」
シエラは少年を優しく抱擁する。
そして、耳元でソッと呟いた。
「旅に出たくなったら、いつでも私を呼んで」
「さすがに、二度も同じ手段は通用しないか」
立ち去る二つの人影を歪虚は見送りながら呟く。
少年は、クズな領主よりも、有力な駒になると思い、従者として迎えようと思っていたのだ。
「今回は痛み分けだ。貴様らが罠にかかる事を期待しているぞ」
翼を広げ、歪虚は西の方角へ向かって飛んでいった。
二律背反――
意見の相違を利用して、人間共の『想いの力』を崩させる為に、歪虚はわざとハンター達を見逃した。
歪虚の罠に、人間達がかかるかどうかは……今、試されるのである。
フレッサ領主である貴族を探しにある山へと入ったハンター達。
「なんか、めんどくさい事が、起きそうな気がする~」
十色 エニア(ka0370)が嫌な予感を感じながら、川を遡っていた。
「領主なのに姿をくらますなんて……貴族ってそんなものなのか……?」
一緒にいるのは、ティト・カミロ(ka0975)だ。
2人は街道から山へと入ってきた。
領主を長い間行方不明という。もし生きているのであれば、水が必要だから、川沿いを探索しているのだ。
いくつか、痕跡らしきものを見つける事ができた。
その時、トランシーバーから、仲間の声が聞こえた。
「……では、もう少し上の方へ向かうかの」
仲間との連絡を終え、星輝 Amhran(ka0724)がトランシーバーをUisca Amhran(ka0754)に手渡した。
姉妹は犬の鈴猛と共に山の中を歩きまわっていた。
特に獣道を重点に置いて探索している。
「フレッサ領の今後が良くなるよう手助けしたいです」
そんな意気込みでUiscaは周囲をよく探す。
痕跡をみつける事はできているので、徐々に近付いているのではないかと感じる。
その時、トランシーバーから再び仲間の声が聞こえた。
「あぁ、見つかった。ただ、領主の息子の様だがな……」
ヴァイス(ka0364)がトランシーバーで仲間と連絡を取る。もう片方の手には、フレッサの街から入手した近隣の地図を手にしていた。
地図をもとに、仲間達との連絡で常時位置や探索場所を確認しながら、獣道や痕跡を探していた。
その結果、偶然にも少年を見つけた。そして、驚く事に、少年は領主の息子と名乗ったのである。
「まずは水分と糖分を補給ね」
シエラ・ヒース(ka1543)が怯えている少年に水筒とお菓子を渡す。
水筒の中身は暖かい紅茶が入っていたのだが、少年はただ震えているだけだ。
よほど、なにか怖い目にでもあったのだろうか。
「顔、隠してあげるから少しは気持ちを吐き出しなさい」
少年の頭を抱え込んで、背中を撫でる。
緊張から解放されたのか、少年は嗚咽をもらし続けた。
しばらくして、仲間達が集まった頃になって、ようやく、少年は落ち着き、なにがあったのか話始めた。
ある貴族の私兵に掴まって山中で殺されそうになった事。
それを翼と幾何学模様の角を持つ歪虚に助けられた事。
歪虚が父を捜しに家族だけが知る避暑地に向かって行った事。
その内容を聞き、ハンター達はお互いに顔を見合わせた。
「ネル・なんとかさんかな」
エニアの言葉にヴァイスは頷く。
「翼を持っている……というのに疑問があるがな」
こうして、ハンター達は避暑地に向かったのであった。
●歪虚
物音がして振り返った領主の目に映ったのは、息子と数名のハンターの姿だ。
ネル・ベルはハンター達の姿を認めると、静かに領主との距離を開ける。
「父さん!」
思わず駆けだそうとした少年をヴァイスは制した。
まだ、ネル・ベルとの距離が近い。Uiscaが少年の代わりに領主とネル・ベルの間に割って入った。
「フレッサ領の復興の為に領主様には早く領地へ戻ってもらいます」
ティトが、その様子をみて、歪虚へと注意を向けつつ、領主にも怪しいところが無いかも観察する。
(なにか、取引していた可能性もあるかもしれない……)
領主が慌てた様子で叫ぶ。
「た、助かった! この歪虚に出くわした所なんだ!」
指を差そうとした所で、手に持っていた毛布から、歪虚の首を落としてしまう。
転がった首を見て、エニアが驚く。
「ジヒッツ・ドラード!」
領主が慌てて毛布に包み直す。
見られてはマズいものだったのだろうか。
「ねぇ、領主様、それ、少し見せて貰っても良い?」
可愛げな声で領主に近付くエニア。
仲間達が神妙な顔付きをしているが、敢えてなにも言うまいと心に誓う。
「そ、そこまで言うなら……」
(ゲスね)
領主の反応に心の中で呟く。
そして、歪虚の首を確認する。
(間違なく、あの歪虚ね。切断面も鋭利な刃で切られているし)
フレッサ領に侵攻した雑魔どもを率いていた歪虚。それを瀕死まで追い込んだ時、その依頼にエニアも参加していた。
「その首…細い糸状の物で、切り落とされたっぽいけれど、領主様は鋼糸使い?」
「そ、そうなのだよ!」
その言葉に、エニアは視線をネル・ベルに向けながら言った。
「簡単にバレる嘘は、つくものじゃないよ?」
領主は首を抱え込む様にして座り込む。
「久しぶりね、ネル・なんとかさん?」
「貴様ら……随分と見知った顔ばかりではないか」
ネル・ベルとの距離は随分と空いた。
だが、その発せられるオーラは、すぐ近くに感じられる。
「……そいつを『喰った』な」
ヴァイスが領主の抱えている物をチラリと見て声をかける。
歪虚は負のマテリアルを得て成長する場合があるからだ。
「私の力となったのだ」
純白の翼を広げる。
禍々しいというよりかはもっと別の存在の様にも見える。
「とりあえず、領主をみつけたし、早く降りましょう。少年は誰かに狙われていたようだし」
シエラの言葉に答えたのは仲間からではなかった。
「それがいい。私も、今は貴様らと争うつもりはないからな」
ネル・ベルだった。
「最近、ノゾミちゃんの所に帰っていないでしょう? 早くお帰りなさいませ」
「私の勝手だ。だが、忠告には従わせてもらおうか」
交戦の意思はないとばかりに両手をあげる。
「待つのじゃ」
星輝が愛刀の鞘に手を掛けながら、前に進み出る。
「のぅ、覚醒者で斬試しはせぬか?」
「どういう事だ?」
ネル・ベルが不審な顔付きになる。
「それは、『2度目の』強化のぅ? フラベルで味をしめたのかや?」
ネル・ベルは一度、主であるフラベルが討たれた戦場で負のマテリアルを得て強化された事があった。
だが、それは一時的な物で、その以後も、その時の力は出していない。
「ほっほ……己の力を高める為とは言え、実に愉快! 忠誠の主を、同族を喰らう……歪虚ながらに『歪虚喰らい』! 二律背反というやつよのぅ!?」
星輝の挑発に、ネル・ベルの瞳に憎しみの炎が揺らめいた。
静かに、一歩ずつ、星輝に近付く。
それに警戒して、エニアとティトが並んで側面に回る。
「……して、目指すは虚なる王か? ノゾミに次いで妹までも攫おう腹は……後宮か……ボクだけのフラベルかや?」
「キララ姉さま、言いすぎですよ」
妹であるUiscaの声で、星輝は挑発に成功したと感じた。
端から本気で戦うつもりなどない。今後の為にネル・ベルの力の程を把握しておこうと思っていた。
「素直に山を降りれば見逃していたのに、気が変わったぞ」
ネル・ベルが手に剣を持つ。
「確かに同族でも喰らう事はある。だが、アイテルカイトの中では強くなる為には、ごく当たり前の事。強き者は畏怖と羨望の眼差しを受ける。だからこそ、アイテルカイトは強度な結束を持つ。上の者の命令は絶対で、下の者はそれを守るのだ」
星輝はまで残り数歩という所までネル・ベルは進み出ながら、大げさな身振りで語る。
「それができぬ人間共に、私を愚弄する資格はない。私の従者を、私の主を辱めする事もだ」
仕掛ける事ができる間合いまで後一歩の所でネル・ベルは立ち止まった。
なおも、彼の話は続く。
「力を手にし、私は強くなった。それを貴様らにとやかく言われる筋合いはない。貴様らは、強者の言葉にただ、従えばいいのだ」
ネル・ベルの瞳が赤く光ったかと思った次の瞬間、ハンター達は己に起こった事象に驚く。
「か、身体が動かないじゃと」
星輝だけではなく、全員が身動きができない。
「ま、まずいです。領主が」
側面に立っていたティトからは領主の行動が見えた。ただ1人、領主だけは動けるようだった。
彼はハンター達や少年を見捨てて悲鳴をあげて山を駆け下りていった。
「これは……ジヒッツの時と同じ……」
エニアは唇を噛みしめた。
「私と戦おうと思うのであれば、相応の覚悟で来るのだな」
そう言いながら、剣先を星輝に向ける。
『強制』の能力で、誰も動けずに成り行きを見守る事しかできない。
「次は、おぬしにわしの刀の切れ味を味わってもらうかの」
「それは、楽しみにしておこう」
最後にそんなやり取りをする。
星輝は自分の胸にネル・ベルの剣が突き立てられるのを見ている事しかできなかった。
「キララ姉さま!」
崩れ落ちた姉の姿にUiscaの悲痛な叫び。
「良い声だ。そういえば、貴様はこの前、連れて帰るつもりだったな」
「なんでイスカさんを」
エニアが少しでも時間を稼ごうと話かける。
「特に理由はない。ベリアル様に献上する為だ。……安心しろ。貴様でも良いのだぞ」
「それは、安心できないわ」
二重の意味でだが。
「早く、なんとかしないと」
ティトの焦りは他のハンターも分かっていた。
星輝の傷は深い。一刻も早く手当てしなくては危険だ。
「貴様の心配は必要ないぞ。私はすぐにこの場を去るからな」
「どういう事だ」
ヴァイスの言葉にネル・ベルは少年を指差した。
「領主と少年を狙っている輩がいるという事だ。本来であれば、貴様らに領主の護衛をさせるつもりでいたのだがな」
ネル・ベル自身が護衛にまわるという事なのだろう。
「さらばだ。だが、もう一つ、念には念を押しておこう」
炎球を作りだすと同時に、突然、戒めが解ける。
前のめりでバランスを崩したエニアに炎球が叩きつけられる。
「エニアさん!」
無防備な状態のエニアに、傍にいたティトが庇いに入った。
刹那、激しい衝撃で2人とも大地に倒れる。
Uiscaが血相を変えて姉の所へ行き、回復魔法をかけ、シエラがエニアとティトに駆け寄る。
ヴァイスが少し飛び上がったネル・ベルを見据えた。
「ノゾミはアンタにとって、あの領主と同じく駒……なのか?」
「私の従者と駒を一緒にするな」
その言葉に偽りはなさそうであった。
同時に、緑髪の少女がネル・ベルにとって、重要なポジションにあるのではとも思える。
「ヴァイス!」
シエラが彼を呼ぶ。
一刻も早く応急手当が必要なのだろう。
「貴様、『ヴァイス』という名か……覚えておこう。仇敵よ!」
ネル・ベルはそう言い残して、空高く舞い上がっていった。
●少年
「父さんが、逃げた……」
少年は深いショックを受けていた。
無理もない……実の父に目の前で、子を見捨てて逃げていったのだから。
「歪虚は良い奴だったかい? 真実を見極めるのは大変さ。だから、気持ちを強く持つために、力を貸すよ」
意識を回復したティトがシエラに肩を回されながら少年を励ます。
「誰だって間違えもする。だから、貴方は自分の判断と力で道を切り開いていかなくてはダメよ」
応急手当が一段落したのだろう。Uiscaも声をかける。
「でも、僕には……どうしていいのか……」
「おぬしは……まだ、可能性に満ちて……おる。あの様には……なるで、ないぞ?」
絶え絶えに語りかける星輝。
もっと沢山の想いを伝えたかったのだが、これが限界のようだ。
「そうだよ。これから、強く成長すればいいから」
エニアが星輝の言葉を補足するように伝える。
もっとも、それは自身にも向けて言った言葉ではあるのだが。
先の依頼でジヒッツとの戦闘の際に、同じ能力を使われた。今回でも気をつけておけば、この様な事にはならなかったかもしれない。
「君はどうしたいのだ?」
ヴァイスの質問に少年は首を横に振るだけだった。
「現実は残酷で、自分に出来ることはごく僅かだ。でも、だからこそ、自分の足で立って考えていかなくちゃダメなんだと俺は思う」
「自分の足で……」
少年は自身の足をみつめる。
泥だらけで傷だらけだ。それでも、大地にしっかりと立つ事ができる。
「少し、考えてみたいと思います」
「それがいい、フレッサの住民達は自分達の意思で立ち上がり、街を解放したと聞く。君にもなにかを成せる力があるはずだ」
その言葉に、少年が喜びの表情を浮かべた。
「街が、街が歪虚の手から解放されたのですか!」
ハンター達が出発する直前、フレッサの街は解放されている。
戦いは終わったのだ。少年は安堵して、ハンター達と一緒に山を降りる事にした。
フレッサ領主は、この地方を攻めてきた歪虚の隊長格の首を持って街へと凱旋した。自分達の街を自分達の力で解放した住民達は、その戦果に大いに沸き立つ。
ハンター達から事情を聞いた王国ではあったが、決定的な証拠がない状態では、領主をを責める事はできず、結果的には、フレッサ領主は多大な犠牲を受けながらも歪虚の襲撃を返り討ちした事となった。
一部の関係者に、領主への疑いを持つ者や、ハンターに警戒心を抱く者など、不協和音が水面下で広がろうとしていた。
おしまい。
●悪縁を断つ者
シエラが、少年と出逢った場所に向かったのは、数日後の事だった。
少年の行く末を心配し、後見人になってくれそうな人を探していたのだ。
後見人は結局、見つからなかった。それでも、シエラは少年に逢いに行ったのである。
「ここに居たのね。探していたわ」
少年の姿を見つけて、シエラが声をかける。
振り返った少年は彼女の姿を見て、驚いたようだ。
「どうして、ここに?」
「色々、手を尽くしたつもりなんだけど……」
数日間、少年の今後を心配して、仲間達と色々な人に当たっていた事を伝える。
「でも、ごめんね。結局、見つからなかったわ」
「い、いえ、ありがとうございます。僕なんかの為に……」
「いいのよ。それに、もし、見つからなかった時も考えていたから」
少年が首を傾げた。
「私と一緒に旅にいかない? 世界は広いわ」
「僕が?」
キョトンとしている。
この人は何を言っているのだろうと思った。旅の費用、様々な障害、それらをどうするのか。
「そうよ。あなたは、どうしたい?」
満面の笑みで訊ねてくるシエラに、思わず少年は顔を赤くした。
「僕は……僕は、騎士になる!」
力強い言葉と瞳の輝きだった。
「旅に出たくないわけじゃないけど。でも、それは、きっと、いつでもできるから……今は、逃げないで戦いたい」
「……そう、それなら、それでいいわ」
シエラは少年を優しく抱擁する。
そして、耳元でソッと呟いた。
「旅に出たくなったら、いつでも私を呼んで」
「さすがに、二度も同じ手段は通用しないか」
立ち去る二つの人影を歪虚は見送りながら呟く。
少年は、クズな領主よりも、有力な駒になると思い、従者として迎えようと思っていたのだ。
「今回は痛み分けだ。貴様らが罠にかかる事を期待しているぞ」
翼を広げ、歪虚は西の方角へ向かって飛んでいった。
二律背反――
意見の相違を利用して、人間共の『想いの力』を崩させる為に、歪虚はわざとハンター達を見逃した。
歪虚の罠に、人間達がかかるかどうかは……今、試されるのである。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/08 23:25:40 |
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相談卓~二律背反の先~ Uisca=S=Amhran(ka0754) エルフ|17才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/05/13 07:28:19 |