ゲスト
(ka0000)
カーネーションに、想い乗せて
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/12 19:00
- 完成日
- 2015/05/18 06:02
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
――お母さん。
今年も、この時期が来ました。
●
ミカという少女は、リアルブルー出身の転移者だ。
ただまだ幼い故に、ハンターとしての仕事は数えるほどしかこなしていない。
転移してすぐはハンターズソサエティが身元を保証した上で、若年者向けの保護施設で暮らしていたので苦労といえる苦労はほとんど無かったが、――そう言う施設で暮らしている子どもたちというのはどうしても、親が恋しいと思う年齢なのである。基本的にその施設にいるのは親と離れて暮らしているリアルブルー出身者であるから、恋しさもひとしおなのだ。
だから、施設では毎年五月の母の日、そして六月の父の日に、ささやかなパーティをすることになっていた。
カーネーションや薔薇を用意して花束にしたり、みんなでケーキを作って分け合ったり……楽しいイベントだ。
しかし、今ミカは既にその施設を出ており、結果としてそのイベントに参加することは出来ない。
けれど――
●
「ふむ、母の日――ですか」
なるほど、とハンターズソサエティの担当者がうなずく。
「親への感謝の気持ちを伝える日だし、みんなで楽しめればいいと思ったの。あたしみたいに、事情があってお母さんに会えない人も多いはずだし」
たしかに、それは一理ある。
そう言う、『母親に感謝をしたい人』が集まってささやかなイベントをすれば、きっと誰もが楽しめるのではないか、と。
「そう言うことなら、会場をお貸し出来ますよ」
ソサエティの担当者も笑顔を浮かべた。
ミカはぱっと顔を輝かせる。
「ありがとう!」
それから彼女は、手書きのポスターを職員に手渡した。
『みんなで、母の日に集まりませんか?』
――お母さん。
今年も、この時期が来ました。
●
ミカという少女は、リアルブルー出身の転移者だ。
ただまだ幼い故に、ハンターとしての仕事は数えるほどしかこなしていない。
転移してすぐはハンターズソサエティが身元を保証した上で、若年者向けの保護施設で暮らしていたので苦労といえる苦労はほとんど無かったが、――そう言う施設で暮らしている子どもたちというのはどうしても、親が恋しいと思う年齢なのである。基本的にその施設にいるのは親と離れて暮らしているリアルブルー出身者であるから、恋しさもひとしおなのだ。
だから、施設では毎年五月の母の日、そして六月の父の日に、ささやかなパーティをすることになっていた。
カーネーションや薔薇を用意して花束にしたり、みんなでケーキを作って分け合ったり……楽しいイベントだ。
しかし、今ミカは既にその施設を出ており、結果としてそのイベントに参加することは出来ない。
けれど――
●
「ふむ、母の日――ですか」
なるほど、とハンターズソサエティの担当者がうなずく。
「親への感謝の気持ちを伝える日だし、みんなで楽しめればいいと思ったの。あたしみたいに、事情があってお母さんに会えない人も多いはずだし」
たしかに、それは一理ある。
そう言う、『母親に感謝をしたい人』が集まってささやかなイベントをすれば、きっと誰もが楽しめるのではないか、と。
「そう言うことなら、会場をお貸し出来ますよ」
ソサエティの担当者も笑顔を浮かべた。
ミカはぱっと顔を輝かせる。
「ありがとう!」
それから彼女は、手書きのポスターを職員に手渡した。
『みんなで、母の日に集まりませんか?』
リプレイ本文
●
母の日の記念に――そう願い、ささやかな集会を提案したミカのもとに、ハンターたちも快く集まってくれた。
よくよく聞けば彼女同様、リアルブルーからの転移者が半分以上を占めている。
「ドイツにもあるよ、母の日は」
そう言って少し懐かしそうな顔をするのは、男勝りな性格のウルズラ・ベーエ(ka4549)。
「じゃあ、やっぱりお祝いとか……あるんですか?」
ミカが尋ねると、彼女は「んにゃ」とあいまいに応じる。
「祝ったことはねーな。何せ幼い頃に逝っちまって……実のところ、顔すらよく覚えてねーんだよ」
その言葉に、少女はあ、と顔を曇らせる。ウルズラはしかし、にんまり笑った。
「別によ、寂しくも悲しくもねーさ。そういう感情が育つ前に別れちまったからな……私に取っちゃ、育ててくれたじーちゃんばーちゃんが両親さ」
人それぞれ、事情はある。
「自分も、両親は幼少期に他界していますがね。その代わり、育ての親とも言う存在はちゃんといましたから、大丈夫です」
静架(ka0387)はその名前の通り――という感じに、静かにそう言ってのける。
転移者にもさまざまなパターンがあるのは承知の通りだが、こういう機会に集まるのはやはり【母親】というものにある種の憧憬を持つ者が多いのだろうか。
「私の家はどちらかと厳しい家だったけど、それでも……会えないのは、少し寂しいな」
天竜寺 詩(ka0396)は古典芸能に秀でた家の出身。厳しいというのはそういう意味だろう。けれど、父母が健在であるということもあって、少し懐かしそうに微笑んだ。
「……でも、もう随分、母の日なんてわすれていたな」
母とは幼い頃に死別しているヒースクリフ(ka1686)。それもあって母の日に贈り物をするなんて習慣はついぞなかったのだが、これも一つのいい機会だ。
母への弔いの意味を込めての参加というヒースクリフは、いつもとさほど変わらぬうつろげな瞳で、同じように集まった仲間たちをぼんやりと見つめていた。
●
「ねえねえ。それよりも作り方、早く知りたいな」
詩がそういうと、職員とミカが一緒になって道具を持ってくる。カーネーションは基本的に赤と白、その他の種類も準備は出来るらしい。それに添えるレースやリボン、そして留める為のピン。必要な道具一式を見て、焔之迦(ka3896)がゆっくりと笑った。
「ああ、こういう道具を使うんだね。リアルブルーの風習というのも素敵じゃないか。感謝の気持ちというのを言葉で伝えるのが気恥ずかしくても、花や贈り物に託すなら、伝えやすいからね」
聞けば焔之迦の出身部族でも、感謝の気持ちを込めた贈り物をする習慣自体はあったそうだ。
「年に一つずつ、磨いた鉱石を贈ってね。革紐に通して……年を重ねていくごとに増えるだろう? それを首飾りやブレスレットとか、人それぞれだけれど、自分の子どもから贈られた『ココロ』を身につけて、いつも傍に感じられるように……ってことなんだけど。まああたしはちょっと喧嘩別れしちゃったって言うか……離れて大分経つからね、ここ二年くらいは贈れていないやね」
懐かしそうにそう言いながら、彼女も作る準備をする。
(そうか……母さんたちと離れて、もう何年経つんだろう)
金髪の少年、ブレナー ローゼンベック(ka4184)はぼんやりとそんなことを考える。もう、二、三年は経つだろうか。御伽話に出てきそうなこの世界に胸を弾ませはするが、同時に家族と別れてからの軽いホームシックはなかなか改善されていないという、相反する思いを胸に抱きつつ生活をしているブレナー。
「ミカさんやボクみたいな、転移で離ればなれになったり、訳ありで離れて暮らしている人もいるんだろうね……リアルブルーとこのクリムゾンウェストは、随分勝手が違うようにも思うから」
たしかに、環境が違えば諸々が違うのも当然だ。
そして、こうも思う。直接渡すことは叶わなくても、気持ちが届けばいい、と。
●
(でも、いざ会えなくなるとなると、やっぱり寂しいですよね……)
ミネット・ベアール(ka3282)はぽつり、そう思う。クリムゾンウェスト出身、しかも両親ともに健在な彼女からすれば、たとえ少し変わったところのある二親だとしてもあえなくなるというのは辛いのだろうと考えてしまう。
でもそんなことは、口に出さず。
「育てて貰っていたころは厳しくて……特に、狩りの訓練の日は疲れ切ってしまって、よくそこら辺に転がってたものです」
幼い頃を思い出してそういうと、すぐににっこり笑顔を浮かべた。
「大丈夫ですよ、生きていれば会えます! また会って、それが当たり前になって、説教がいい加減わずらわしくなった頃にきっと今の気持ちを思い出すんです……あのときはなんでこんなに面倒なのが恋しかったんだろう、って」
ちょっと茶目っ気を込めて、ミネットが言う。
「それに、なんだかんだで親元を離れたからこそ成長した部分って、結構ありますからね」
その言葉に、誰もがああ、と頷く。ヒトというのはそう言うものなのだ。
「あ、そういえば」
ふっと思い出したかのようにミカに尋ねるのはケイジ・フィーリ(ka1199)。
「どうしたんですか?」
ミカが尋ねると、少し照れくさそうな声でケイジは言った。
「コサージュ、二つ作っちゃだめかな?」
ケイジに詳しい話を聞いてみると、彼もやはり幼い頃に転移してきたタイプらしい。『らしい』なのは、本人にもリアルブルー時代の記憶がほとんど無いからだ。言ってみれば、一種の記憶喪失らしい。そしてそんな彼を引き取って育ててくれたのは、本当の子どものように扱ってくれた、優しいドワーフの夫婦。
つまり、彼には生みの親――ただし顔も思い出せないが――と、育ての親がいる。
「もちろんかまいませんよ。他の人も、そういう方はいるでしょう?」
手伝いに来てくれているオフィスの職員も、笑顔で頷いた。
ケイジはさっそく、慣れない手つきでコサージュを作り始める。
でもそこそこ器用だった為、さほど苦労はしないですんだ。
できあがった二つのコサージュ。
一つは手紙を添えて贈るつもりだ。面と向かってありがとうなんて、照れくさいというのがもっぱらの理由だが。
もう一つは――部屋にそっと置く。
思い出せるかも怪しい生みの親、それでもどこかで元気でいて欲しい――それは、ごく当たり前の感情だから。
●
会議室の机の上にはクッキーに紅茶、そしてアクセサリー作成の為のキットが諸々広げられている。
(そういえば、母さんもよくクッキー焼いてくれていたな)
一口食べて、ケイジがほんのりそんなことを思い出す。
そう、伝えたいことはたくさんある。そのためにも、コサージュを作るのだ。
『チェリオ』という種類のカーネーションを選んだのは、静架。白一色よりも、若くして己を産み落とす為に逝った母への、捧げ物。デザインも可憐で、少し華やかな雰囲気も臭わせる。
「母の記憶は無いのですが……この花が似合う女性だったそうです」
添えたレースは静架の手編みだ。意外に器用な一面を見せている。
それからもう一つ、と静架は大輪の紫のカーネーションを手に取った。『ミネルバ』という品種なのだと教えてくれる。
「ここへ転移する際に離れてしまいましたが……きっとどこかで会えると、信じています」
この花の似合う、師匠への捧げ物。
「どんな人だったの?」
ミネットが尋ねると、彼は少し首をかしげてから、
「背は自分よりも頭一つ分高くて、胸板も自分の倍はあったでしょうか。幼い頃は背中によじ登って、よく遊んで貰いました」
そう言ってのけた。途端、周囲が一瞬ブリザードに覆われたかのような錯覚を与えられる。
(それって一言で言うと、マッスルなおねぇなのでは)
誰かが突っ込みたかったが、自重した。彼は思い出に思いをはせたままだったから。くつくつと、彼は苦笑を浮かべる。
(禿頭に彫り込まれた刺青の周囲に落書きをしてげんこつを貰ったり、思えばそんな子どもらしい悪さもしていましたね)
「……それに医師資格も持っていて、傭兵としても一流で」
心なしか自慢げなのは、やはり自分を育ててくれた相手を誇らしく思っているからだろう。
アンティークなあじさいなどとあわせ、ボリューム感のあるコサージュになったそれを持ち、彼は微笑んだ。
「あ、私も二つ」
詩が手に取るのは赤と白のカーネーション。
「私にもお母さんが二人いてね。お父さんは日本の歌舞伎役者なんだけど、そのお父さんが海外公演の時に浮気して出来たのが私とお姉ちゃん」
なかなかヘビイな過去である。言われてみれば、少女の見た目は名前ほど日本人ぽくない、といえるだろう。でもそんな彼女たちに日本名を与える辺り、母の父への思いは確かなものだったのだろう。――物心つく前に、死んでしまったけど。
「で、身寄りが無かったからお父さんに引き取られて、今のお母さんはその本妻。とても良くしてくれたよ、だってそうじゃなかったら浮気相手の子どもを育てるなんて出来ないと思うし。内心はわからないけれど、感謝しても仕切れないヒト。私とお姉ちゃんがいなくなってどう思っているかわからないけれど、私はあの人を本当のお母さんだと思ってるんだ」
暗い話になっちゃったね、と詩がわずかに肩をすくめる。
でも、こんなところに来る人にはどこかしら陰のあることが多いのも事実で、誰もそれにたいして非難の声を上げることはしなかった。
●
ウルズラも、白いカーネーションを選ぶ。
「白いカーネーションには、亡き母を偲ぶって花言葉があるっていうからよ……ま、一応な」
照れくさそうにいいながらはじめはちまちまと作っていたが、だんだん飽きてきたようだ。
(このまま普通に作るんじゃつまらねぇな……ん?)
クッキーをつまみながらふとあることを思いつく。
「ちょっくら、材料買い足してくるわ」
そう、言い残して。
戻ってきたウルズラは、ホワイトチョコや水飴、粉砂糖などを抱えていた。
それらを丁寧に混ぜこね、食絵にでほんのりと色をつけたものを薄くのばし、ぎざぎざの切り目を入れ、器用にくるりと巻けば――チョコレート製の花の完成だ。葉や茎、飾りも同様に加工して、飾り付けていく。
「ウルズラ特製チョコカーネーションコサージュの完成だぜ。へへっ、ほらよ」
そう言うと、コサージュをちょんとミカにつけてやった。そして、少し感傷的なことをぼそりと呟く。
「……私はもう、あの世に行くことでしかかーちゃんに会えねーけどよ。……でも、生きてるんなら、きっと会えるさ。会いてぇと思いさえすりゃあ、前に進める。たとえほんの僅かでも、前に、だ。出来る出来ないは二の次でいい、まずは信じることが何よりなんだからな」
そう言って、彼女は小さくウィンクする。
そう、生きている人にはいつかまた会える可能性があるのだ。
それをわすれないように、ハンターたちも胸に刻んだ。
●
「そういえば、手紙も添えていいですよね?」
ブレナーの意見はもちろん、と皆が頷く。
すると、彼は綺麗な便せんを取り出し、丁寧に書き始めた。
『親愛なる母さんへ
クリムゾンウェストに来てたぶんもう二年近くになり、ボクは今ハンターというお仕事をしています。
徐々にお友達も増えて、楽しく暮らしています。いつ帰れるかはわからないけれど、次に会った時は、きっと家族みんながびっくりするような一人前の男の人になって、お土産で沢山こっちの話をしたいと思っています。
まだまだ書きたいことはたくさんあるけれど、ボクは元気にやっていますので、みんなもどうかお元気で。』
そして最後の一行に、ぎゅっと思いを詰め込む。
『――そして、ボクを産んでくれてありがとう。 愛する息子、ブレナーより』
その手紙が家族の元に届くかは、まだわからない。転移のシステムすらはっきりしないこの現状で、リアルブルーに戻れるかもわからない。でも、ウルズラの言うとおり、信じることが大事だとブレナーも思った。
コサージュ離れていないので少し貧相だけれど、それでも想いが込められているのだから、きっと大丈夫。
「直接渡せなくても、気持ちが届けばいいなって、そう思います」
ブレナーは、笑顔だった。
コサージュ作りになれていないのはミネットも同様だ。何とかそれらしく完成させて笑顔を浮かべるもつかの間、
「あー……でも、これ、喜んでくれるとは思うのですが……渡したら、おそらく食べようとするでしょうね」
その発言に、誰もが一瞬硬直する。
「だって、もし私がプレゼントされたら……多分何とかして食べようとします。美味しそうですしぐへへ」
ああ、よだれが垂れている。
結果、ミネットの部族というのがますます謎に包まれることになった。
「でも、親子の絆って深いものですから、世界が違っててもきっと繋がってます! ミカさんも諦めず頑張ってください!」
そう応援してくれる少女は、とても真摯な瞳だ。
なんだか、ミカも、他のハンターたちも、胸が熱くなるのを感じていた。
一方見かけによらずと言うか、手先が器用なヒースクリフ。作り方のコツを覚えると、するすると丁寧に作り上げていく。
(ただ、渡すことは……)
そこで、彼は小さくうなる。
もともと彼の家は「成金貴族」と呼ばれる類の家であった。父親は決して宵父親ではなく、無理矢理嫁がされた母との間に生まれたのがヒースクリフだった、と言うわけだ。けれど、教育熱心ではない父に代わり、母は息子がどこにでても恥ずかしくないようにと、おおよそ貴族に必要な素養をたたき込ませていった。決して優しいといえる母ではなかったが、母性に溢れ、彼を優しく包んでくれることも少なくなかった。
ヒースクリフは、そんな母親が好きだった。それをはっきり示す前に、死別してしまったが。
(でも、こういう気持ちが大事なのだな)
ヒースクリフは小さく微笑む。彼の笑顔は、とても貴重なものなのであるが――本人も気づかぬほどの小さな笑みで、きっと気づかなかった。誰も。
●
できあがったコサージュたちは、後々ハンターズオフィスの隅に飾られることになった。
母の日という大切な行事をわすれない為に。
そして、母親への感謝を――わすれない為に。
母の日の記念に――そう願い、ささやかな集会を提案したミカのもとに、ハンターたちも快く集まってくれた。
よくよく聞けば彼女同様、リアルブルーからの転移者が半分以上を占めている。
「ドイツにもあるよ、母の日は」
そう言って少し懐かしそうな顔をするのは、男勝りな性格のウルズラ・ベーエ(ka4549)。
「じゃあ、やっぱりお祝いとか……あるんですか?」
ミカが尋ねると、彼女は「んにゃ」とあいまいに応じる。
「祝ったことはねーな。何せ幼い頃に逝っちまって……実のところ、顔すらよく覚えてねーんだよ」
その言葉に、少女はあ、と顔を曇らせる。ウルズラはしかし、にんまり笑った。
「別によ、寂しくも悲しくもねーさ。そういう感情が育つ前に別れちまったからな……私に取っちゃ、育ててくれたじーちゃんばーちゃんが両親さ」
人それぞれ、事情はある。
「自分も、両親は幼少期に他界していますがね。その代わり、育ての親とも言う存在はちゃんといましたから、大丈夫です」
静架(ka0387)はその名前の通り――という感じに、静かにそう言ってのける。
転移者にもさまざまなパターンがあるのは承知の通りだが、こういう機会に集まるのはやはり【母親】というものにある種の憧憬を持つ者が多いのだろうか。
「私の家はどちらかと厳しい家だったけど、それでも……会えないのは、少し寂しいな」
天竜寺 詩(ka0396)は古典芸能に秀でた家の出身。厳しいというのはそういう意味だろう。けれど、父母が健在であるということもあって、少し懐かしそうに微笑んだ。
「……でも、もう随分、母の日なんてわすれていたな」
母とは幼い頃に死別しているヒースクリフ(ka1686)。それもあって母の日に贈り物をするなんて習慣はついぞなかったのだが、これも一つのいい機会だ。
母への弔いの意味を込めての参加というヒースクリフは、いつもとさほど変わらぬうつろげな瞳で、同じように集まった仲間たちをぼんやりと見つめていた。
●
「ねえねえ。それよりも作り方、早く知りたいな」
詩がそういうと、職員とミカが一緒になって道具を持ってくる。カーネーションは基本的に赤と白、その他の種類も準備は出来るらしい。それに添えるレースやリボン、そして留める為のピン。必要な道具一式を見て、焔之迦(ka3896)がゆっくりと笑った。
「ああ、こういう道具を使うんだね。リアルブルーの風習というのも素敵じゃないか。感謝の気持ちというのを言葉で伝えるのが気恥ずかしくても、花や贈り物に託すなら、伝えやすいからね」
聞けば焔之迦の出身部族でも、感謝の気持ちを込めた贈り物をする習慣自体はあったそうだ。
「年に一つずつ、磨いた鉱石を贈ってね。革紐に通して……年を重ねていくごとに増えるだろう? それを首飾りやブレスレットとか、人それぞれだけれど、自分の子どもから贈られた『ココロ』を身につけて、いつも傍に感じられるように……ってことなんだけど。まああたしはちょっと喧嘩別れしちゃったって言うか……離れて大分経つからね、ここ二年くらいは贈れていないやね」
懐かしそうにそう言いながら、彼女も作る準備をする。
(そうか……母さんたちと離れて、もう何年経つんだろう)
金髪の少年、ブレナー ローゼンベック(ka4184)はぼんやりとそんなことを考える。もう、二、三年は経つだろうか。御伽話に出てきそうなこの世界に胸を弾ませはするが、同時に家族と別れてからの軽いホームシックはなかなか改善されていないという、相反する思いを胸に抱きつつ生活をしているブレナー。
「ミカさんやボクみたいな、転移で離ればなれになったり、訳ありで離れて暮らしている人もいるんだろうね……リアルブルーとこのクリムゾンウェストは、随分勝手が違うようにも思うから」
たしかに、環境が違えば諸々が違うのも当然だ。
そして、こうも思う。直接渡すことは叶わなくても、気持ちが届けばいい、と。
●
(でも、いざ会えなくなるとなると、やっぱり寂しいですよね……)
ミネット・ベアール(ka3282)はぽつり、そう思う。クリムゾンウェスト出身、しかも両親ともに健在な彼女からすれば、たとえ少し変わったところのある二親だとしてもあえなくなるというのは辛いのだろうと考えてしまう。
でもそんなことは、口に出さず。
「育てて貰っていたころは厳しくて……特に、狩りの訓練の日は疲れ切ってしまって、よくそこら辺に転がってたものです」
幼い頃を思い出してそういうと、すぐににっこり笑顔を浮かべた。
「大丈夫ですよ、生きていれば会えます! また会って、それが当たり前になって、説教がいい加減わずらわしくなった頃にきっと今の気持ちを思い出すんです……あのときはなんでこんなに面倒なのが恋しかったんだろう、って」
ちょっと茶目っ気を込めて、ミネットが言う。
「それに、なんだかんだで親元を離れたからこそ成長した部分って、結構ありますからね」
その言葉に、誰もがああ、と頷く。ヒトというのはそう言うものなのだ。
「あ、そういえば」
ふっと思い出したかのようにミカに尋ねるのはケイジ・フィーリ(ka1199)。
「どうしたんですか?」
ミカが尋ねると、少し照れくさそうな声でケイジは言った。
「コサージュ、二つ作っちゃだめかな?」
ケイジに詳しい話を聞いてみると、彼もやはり幼い頃に転移してきたタイプらしい。『らしい』なのは、本人にもリアルブルー時代の記憶がほとんど無いからだ。言ってみれば、一種の記憶喪失らしい。そしてそんな彼を引き取って育ててくれたのは、本当の子どものように扱ってくれた、優しいドワーフの夫婦。
つまり、彼には生みの親――ただし顔も思い出せないが――と、育ての親がいる。
「もちろんかまいませんよ。他の人も、そういう方はいるでしょう?」
手伝いに来てくれているオフィスの職員も、笑顔で頷いた。
ケイジはさっそく、慣れない手つきでコサージュを作り始める。
でもそこそこ器用だった為、さほど苦労はしないですんだ。
できあがった二つのコサージュ。
一つは手紙を添えて贈るつもりだ。面と向かってありがとうなんて、照れくさいというのがもっぱらの理由だが。
もう一つは――部屋にそっと置く。
思い出せるかも怪しい生みの親、それでもどこかで元気でいて欲しい――それは、ごく当たり前の感情だから。
●
会議室の机の上にはクッキーに紅茶、そしてアクセサリー作成の為のキットが諸々広げられている。
(そういえば、母さんもよくクッキー焼いてくれていたな)
一口食べて、ケイジがほんのりそんなことを思い出す。
そう、伝えたいことはたくさんある。そのためにも、コサージュを作るのだ。
『チェリオ』という種類のカーネーションを選んだのは、静架。白一色よりも、若くして己を産み落とす為に逝った母への、捧げ物。デザインも可憐で、少し華やかな雰囲気も臭わせる。
「母の記憶は無いのですが……この花が似合う女性だったそうです」
添えたレースは静架の手編みだ。意外に器用な一面を見せている。
それからもう一つ、と静架は大輪の紫のカーネーションを手に取った。『ミネルバ』という品種なのだと教えてくれる。
「ここへ転移する際に離れてしまいましたが……きっとどこかで会えると、信じています」
この花の似合う、師匠への捧げ物。
「どんな人だったの?」
ミネットが尋ねると、彼は少し首をかしげてから、
「背は自分よりも頭一つ分高くて、胸板も自分の倍はあったでしょうか。幼い頃は背中によじ登って、よく遊んで貰いました」
そう言ってのけた。途端、周囲が一瞬ブリザードに覆われたかのような錯覚を与えられる。
(それって一言で言うと、マッスルなおねぇなのでは)
誰かが突っ込みたかったが、自重した。彼は思い出に思いをはせたままだったから。くつくつと、彼は苦笑を浮かべる。
(禿頭に彫り込まれた刺青の周囲に落書きをしてげんこつを貰ったり、思えばそんな子どもらしい悪さもしていましたね)
「……それに医師資格も持っていて、傭兵としても一流で」
心なしか自慢げなのは、やはり自分を育ててくれた相手を誇らしく思っているからだろう。
アンティークなあじさいなどとあわせ、ボリューム感のあるコサージュになったそれを持ち、彼は微笑んだ。
「あ、私も二つ」
詩が手に取るのは赤と白のカーネーション。
「私にもお母さんが二人いてね。お父さんは日本の歌舞伎役者なんだけど、そのお父さんが海外公演の時に浮気して出来たのが私とお姉ちゃん」
なかなかヘビイな過去である。言われてみれば、少女の見た目は名前ほど日本人ぽくない、といえるだろう。でもそんな彼女たちに日本名を与える辺り、母の父への思いは確かなものだったのだろう。――物心つく前に、死んでしまったけど。
「で、身寄りが無かったからお父さんに引き取られて、今のお母さんはその本妻。とても良くしてくれたよ、だってそうじゃなかったら浮気相手の子どもを育てるなんて出来ないと思うし。内心はわからないけれど、感謝しても仕切れないヒト。私とお姉ちゃんがいなくなってどう思っているかわからないけれど、私はあの人を本当のお母さんだと思ってるんだ」
暗い話になっちゃったね、と詩がわずかに肩をすくめる。
でも、こんなところに来る人にはどこかしら陰のあることが多いのも事実で、誰もそれにたいして非難の声を上げることはしなかった。
●
ウルズラも、白いカーネーションを選ぶ。
「白いカーネーションには、亡き母を偲ぶって花言葉があるっていうからよ……ま、一応な」
照れくさそうにいいながらはじめはちまちまと作っていたが、だんだん飽きてきたようだ。
(このまま普通に作るんじゃつまらねぇな……ん?)
クッキーをつまみながらふとあることを思いつく。
「ちょっくら、材料買い足してくるわ」
そう、言い残して。
戻ってきたウルズラは、ホワイトチョコや水飴、粉砂糖などを抱えていた。
それらを丁寧に混ぜこね、食絵にでほんのりと色をつけたものを薄くのばし、ぎざぎざの切り目を入れ、器用にくるりと巻けば――チョコレート製の花の完成だ。葉や茎、飾りも同様に加工して、飾り付けていく。
「ウルズラ特製チョコカーネーションコサージュの完成だぜ。へへっ、ほらよ」
そう言うと、コサージュをちょんとミカにつけてやった。そして、少し感傷的なことをぼそりと呟く。
「……私はもう、あの世に行くことでしかかーちゃんに会えねーけどよ。……でも、生きてるんなら、きっと会えるさ。会いてぇと思いさえすりゃあ、前に進める。たとえほんの僅かでも、前に、だ。出来る出来ないは二の次でいい、まずは信じることが何よりなんだからな」
そう言って、彼女は小さくウィンクする。
そう、生きている人にはいつかまた会える可能性があるのだ。
それをわすれないように、ハンターたちも胸に刻んだ。
●
「そういえば、手紙も添えていいですよね?」
ブレナーの意見はもちろん、と皆が頷く。
すると、彼は綺麗な便せんを取り出し、丁寧に書き始めた。
『親愛なる母さんへ
クリムゾンウェストに来てたぶんもう二年近くになり、ボクは今ハンターというお仕事をしています。
徐々にお友達も増えて、楽しく暮らしています。いつ帰れるかはわからないけれど、次に会った時は、きっと家族みんながびっくりするような一人前の男の人になって、お土産で沢山こっちの話をしたいと思っています。
まだまだ書きたいことはたくさんあるけれど、ボクは元気にやっていますので、みんなもどうかお元気で。』
そして最後の一行に、ぎゅっと思いを詰め込む。
『――そして、ボクを産んでくれてありがとう。 愛する息子、ブレナーより』
その手紙が家族の元に届くかは、まだわからない。転移のシステムすらはっきりしないこの現状で、リアルブルーに戻れるかもわからない。でも、ウルズラの言うとおり、信じることが大事だとブレナーも思った。
コサージュ離れていないので少し貧相だけれど、それでも想いが込められているのだから、きっと大丈夫。
「直接渡せなくても、気持ちが届けばいいなって、そう思います」
ブレナーは、笑顔だった。
コサージュ作りになれていないのはミネットも同様だ。何とかそれらしく完成させて笑顔を浮かべるもつかの間、
「あー……でも、これ、喜んでくれるとは思うのですが……渡したら、おそらく食べようとするでしょうね」
その発言に、誰もが一瞬硬直する。
「だって、もし私がプレゼントされたら……多分何とかして食べようとします。美味しそうですしぐへへ」
ああ、よだれが垂れている。
結果、ミネットの部族というのがますます謎に包まれることになった。
「でも、親子の絆って深いものですから、世界が違っててもきっと繋がってます! ミカさんも諦めず頑張ってください!」
そう応援してくれる少女は、とても真摯な瞳だ。
なんだか、ミカも、他のハンターたちも、胸が熱くなるのを感じていた。
一方見かけによらずと言うか、手先が器用なヒースクリフ。作り方のコツを覚えると、するすると丁寧に作り上げていく。
(ただ、渡すことは……)
そこで、彼は小さくうなる。
もともと彼の家は「成金貴族」と呼ばれる類の家であった。父親は決して宵父親ではなく、無理矢理嫁がされた母との間に生まれたのがヒースクリフだった、と言うわけだ。けれど、教育熱心ではない父に代わり、母は息子がどこにでても恥ずかしくないようにと、おおよそ貴族に必要な素養をたたき込ませていった。決して優しいといえる母ではなかったが、母性に溢れ、彼を優しく包んでくれることも少なくなかった。
ヒースクリフは、そんな母親が好きだった。それをはっきり示す前に、死別してしまったが。
(でも、こういう気持ちが大事なのだな)
ヒースクリフは小さく微笑む。彼の笑顔は、とても貴重なものなのであるが――本人も気づかぬほどの小さな笑みで、きっと気づかなかった。誰も。
●
できあがったコサージュたちは、後々ハンターズオフィスの隅に飾られることになった。
母の日という大切な行事をわすれない為に。
そして、母親への感謝を――わすれない為に。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談…というか雑談でしょうか? ブレナー ローゼンベック(ka4184) 人間(リアルブルー)|14才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/05/12 16:46:02 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/11 20:09:29 |