ゲスト
(ka0000)
ジューシー&スパイシー
マスター:天田洋介

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/11 22:00
- 完成日
- 2015/05/18 21:01
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
グラズヘイム王国の王都【イルダーナ】。
奥まった道沿いでひっそりと開いている店の屋号は『ジューシー&スパイシー』。
略して『ジュースパ』。お好み焼きとハンバーガーを提供する店として売り出し中なのだが、客の入りは非常に悪かった。
昼時の店内にいたのは、まん丸体型の青年一名のみ。その人物こそが経営者兼店長の『満月豊一』である。
従業員一名は現在休憩中。本来かき入れ時であるはずの昼の時間帯にそうしても大丈夫なこと自体が大問題といえた。
「こんなはずでは……」
満月が深いため息をつく。ジュースパを始めた理由はトマトを有効活用したかったからだ。
リアルブルーからクリムゾンウェストに飛ばされた際、彼は老夫婦に命を助けられている。老夫婦はトマト栽培を生業としていた。
料理人だった満月は恩返しのつもりでトマトを使ったウスター系のソースをいくつか自作する。ソースを使ったお好み焼きとハンバーガーは田舎の村で大好評を博す。自信を持った彼が王都に店を構えたのにはそういった経緯があった。
意気揚々と開店したものの、客の入りはほんのわずか。半年が過ぎた今、店を畳もうかと毎日悩んでいた。
(最低一年は我慢するつもりだったのだけど……)
資金よりも先に心が折れそうな満月である。
しばらくして小柄で元気な娘、従業員の『ノーナ』が戻ってきた。
「店長、先週できたばかりの評判のパン屋さんに寄ってきましたよ。はい、お土産です」
「ありがとう」
満月はノーナと店番を交代して奥の休憩室に引っ込んだ。そしてパンの味見をする。
「サラミソーセージを挟んだ惣菜パンか。うちのハンバーガーの方が美味いと思うんだが、やはり値段の差だろうか」
自然と開店前後の出来事が脳裏に浮かんでくる。
味に自信があった満月は宣伝を殆ど行わなかった。口コミで自然に広がるだろうと楽観視していたのだが、それが失敗の原因だったのかも知れない。
「自信を持ちすぎて、天狗になっていたのかもな……」
瞳に溜まる涙を堪えていると呼び鈴が鳴り響く。店が混雑してきたときに鳴らすものなのだが、実質的にノーナが満月を呼びだすときに使われていた。
「どうかしましたか?」
「あちらのお客様方が店長はいないかって」
カウンターに戻ってノーナに訊ねる。奥の席に座っていたのは満月を助けてくれた老夫婦だった。わざわざ田舎の村から食べに来てくれたのである。
注文を受けた満月は全力でお好み焼きとハンバーガーを調理した。
(もう一度だけ頑張ってみよう)
老夫婦が笑顔で食べてくれる様子を眺めてようやくやる気を取り戻す。
閉店後、満月はハンターズソサエティの支部に立ち寄る。店の再出発のためにハンター達に協力してもらいたいと依頼するのだった。
奥まった道沿いでひっそりと開いている店の屋号は『ジューシー&スパイシー』。
略して『ジュースパ』。お好み焼きとハンバーガーを提供する店として売り出し中なのだが、客の入りは非常に悪かった。
昼時の店内にいたのは、まん丸体型の青年一名のみ。その人物こそが経営者兼店長の『満月豊一』である。
従業員一名は現在休憩中。本来かき入れ時であるはずの昼の時間帯にそうしても大丈夫なこと自体が大問題といえた。
「こんなはずでは……」
満月が深いため息をつく。ジュースパを始めた理由はトマトを有効活用したかったからだ。
リアルブルーからクリムゾンウェストに飛ばされた際、彼は老夫婦に命を助けられている。老夫婦はトマト栽培を生業としていた。
料理人だった満月は恩返しのつもりでトマトを使ったウスター系のソースをいくつか自作する。ソースを使ったお好み焼きとハンバーガーは田舎の村で大好評を博す。自信を持った彼が王都に店を構えたのにはそういった経緯があった。
意気揚々と開店したものの、客の入りはほんのわずか。半年が過ぎた今、店を畳もうかと毎日悩んでいた。
(最低一年は我慢するつもりだったのだけど……)
資金よりも先に心が折れそうな満月である。
しばらくして小柄で元気な娘、従業員の『ノーナ』が戻ってきた。
「店長、先週できたばかりの評判のパン屋さんに寄ってきましたよ。はい、お土産です」
「ありがとう」
満月はノーナと店番を交代して奥の休憩室に引っ込んだ。そしてパンの味見をする。
「サラミソーセージを挟んだ惣菜パンか。うちのハンバーガーの方が美味いと思うんだが、やはり値段の差だろうか」
自然と開店前後の出来事が脳裏に浮かんでくる。
味に自信があった満月は宣伝を殆ど行わなかった。口コミで自然に広がるだろうと楽観視していたのだが、それが失敗の原因だったのかも知れない。
「自信を持ちすぎて、天狗になっていたのかもな……」
瞳に溜まる涙を堪えていると呼び鈴が鳴り響く。店が混雑してきたときに鳴らすものなのだが、実質的にノーナが満月を呼びだすときに使われていた。
「どうかしましたか?」
「あちらのお客様方が店長はいないかって」
カウンターに戻ってノーナに訊ねる。奥の席に座っていたのは満月を助けてくれた老夫婦だった。わざわざ田舎の村から食べに来てくれたのである。
注文を受けた満月は全力でお好み焼きとハンバーガーを調理した。
(もう一度だけ頑張ってみよう)
老夫婦が笑顔で食べてくれる様子を眺めてようやくやる気を取り戻す。
閉店後、満月はハンターズソサエティの支部に立ち寄る。店の再出発のためにハンター達に協力してもらいたいと依頼するのだった。
リプレイ本文
●
ハンター一行が『ジューシー&スパイシー』を訪れたのは終業間近の宵の口である。
「よく来てくださいました!」
店内には店長の満月豊一と従業員のノーナだけ。客は一人もいなかった。店仕舞いの後、満月豊一の口から改めて依頼内容が語られる。
「閑古鳥が鳴いているのはよくわかった。大王たるボクが画期的なアイデアで解決しようではないか!」
ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)は咳払いをし「ところで」と続ける。彼女はハンバーガーが如何なる食べ物なのか知らなかった。
「こっちじゃどっちも手軽に食べられないからな。メニューの全品と飲み物を頼むぜ」
「まずは試食ですね。そうしないと始まりません」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)と紅屋・玄珠(ka4535)の意見はもっともである。満月豊一は少々お待ちをといいなから奥の調理場へと姿を消した。
チーズバーガー二種は大きさが違うだけなので、普通サイズを一個ずつ。豚玉と海鮮のお好み焼きは半分に切って一人前の皿に盛りつける。それを人数分用意した。
ノーナも手伝い、十数分後には卓に料理が並べられる。
弓月 幸子(ka1749)は瞳にお星様を輝かせながらチーズバーガーにかぶりつく。刹那、満面の笑みが弾けた。
「美味しいんだよ。美味しいんだよ♪ ピクルスが挟んであるんだよ。是非この味をクリムゾンウェストに広めるんだよ」
「もぐもぐ……このチーズのとろけ具合が」
弓月幸子とマルグリット・ピサン(ka4332)は夢見心地でチーズバーガーを完食。
「……うん、こっちもソースの味が活きていて美味しい! ただ、ちょっと味が濃いかもしれないですね。私は好きですけど」
そしてマルグリットは生まれて初めてのお好み焼きをじっくりと味わった。
「……なるほど。ソースは絶品です。ソースは」
紅屋玄珠がぽつりと呟く。真意については試食が終わってからだ。
「店長さんはトマトが好きなんやねえ。それでソース作って、お好み焼きとハンバーガーかあ。おいしいやんなあ♪」
「使っているソースがすばらしいね。これがあれば何でも作れそうだよな」
レン・ダイノ(ka3787)と橿原 やまと(ka4530)がソースとトマトを話題にする。
二人の隣で眉間にしわを寄せていたのはクリス・クロフォード(ka3628)だ。
「ああ、うん……宣伝不足だけじゃないわコレ」
クリスは店内に飾られていたメニューをしばらく見上げていた。
「ど、どうだったでしょうか?」
全員が食べ終わった頃、満月豊一が怖ず怖ずと訊ねる。
「かなりの美味しさだけど、こちらの人間からすれば未知の食べ物だからな。ボクとしてはリアルブルーの食べ物という点を強調するのがいい思うぞ。だから試食、所謂露店だな!」
ディアドラは試食を提供すべきだという。
「食べ歩きできるお好み焼きなんていいと思うよ」
弓月幸子はテイクアウトの充実を提案した。
「どちらの料理もリアルブルーを思い出させる味と香りだったぜ。ポテトやコーラが欲しくなったな。オレはポスターを貼って宣伝でもしようか。ディアドラがいっていた試食には賛成だ」
宣伝は任せてくれとレイオスが自信をみせる。
「本場そのものの味は感心しました。ただ辛味が少し強いですね。あと店名……ジューシィ&スパイシー。何があるか分かりにくいのも、よくないのかもしれませんね」
紅屋玄珠の意見はもっともだが、屋号に関しては満月豊一のこだわりがあるらしい。
「それならエエ考えがあるんやけど。看板やメニューボードにトマトの絵を描いたらわかりやすいんちゃうかなあ」
レンは店舗の装飾全般を引き受けてくれた。
「……メニューの増加が急務ね。並行して宣伝。今のままじゃラインナップが重過ぎるわ」
残念ながら今は全員お腹いっぱいである。クリスの新メニューお披露目は明日に繰り越しとなった。
マルグリットはソースを軸にして思いついた新メニューを挙げていく。
「コロッケを挟んだハンバーガーとか、トマトソースのお好み焼きとか。他にもオムレツとか、パスタとか」
「パスタは必須ですね。特にナスとトマトのは。何故ないのかと思っていました」
椅子から立ち上がった紅屋玄珠は満月豊一にパスタの追加を談判するのだった。
●
そして翌日。
「勝負は五日後ですね」
満月豊一はハンター達と一緒にキャンペーンの準備に取りかかる。必要な食材を買い求めた後、調理場で新規メニューの開発が始まった。
「ヘルシーさが足りないのよ、ヘルシーさが。レタスもあるわね」
クリスはこなれた手つきであっと言う間に新しいハンバーガーを完成させていく。
スライスしたトマトと水にさらしたタマネギを焼いたパティの上に乗せる。マヨネーズとマスタードを足したソースを軽く塗った。
試食した満月豊一が味に驚いてハンバーガーを見つめる。
「葉物がつくとモアベター。チーズは濃厚系の具になっちゃうから、さっぱり系のメニューを選択肢として提示しないとね」
「これなら今日からでも出せますね」
満月豊一はこってり好きだ。故にこういった視点が足りなかったと反省した。
「個人的にはサイドメニューにサラダがあると重いものも頼みやすくなると思うわ」
「そうするとセット売りがいいんでしょうかね。あ、レンさんがトマトのゼリーを是非加えて欲しいっていってました」
野菜については世話になった老夫婦の村で採れたものをすでに使っているようである。
「なら、それも宣伝のウリに加えたほうがいいわ。広告出す先は……ハンターズオフィスとかアリかもね。あそこなら老若男女問わないし、口コミで広がるのも早いわ」
クリスの案は宣伝担当のハンター達に伝えられた。
紅屋玄珠とマルグリットの案には共通するメニューが多くある。
「パスタは私が作りましょう。オムレツ、オムライスも。ケチャップで絵を描いてもいいですね」
「それではコロッケバーガーと、トマトソースのお好み焼を作ってみます。満月さんに教えてもらいながらですけれど」
まもなく数種類のパスタ、オムレツ、オムライス、コロッケバーガー、トマトソースのお好み焼きが完成した。
その場の者達だけでなく満月豊一と店番を交代してノーナにも食べてもらう。
「どれも初めての味ですけど、美味しいです☆」
全員の意見を鑑みてソースにほんの少し甘味を足すことになった。
紅屋玄珠は茄子とトマトのパスタを食べて満足げだ。コロッケバーガーを囓ったマルグリットはほくほくの笑みを浮かべる。
食べ歩きできるようお好み焼きに改良を加えたのは弓月幸子と橿原だ。
「串に巻いて食べるとか、クレープみたいな形にして紙で包んで、かぶりつけるようにするとかどうかな?」
「割り箸の在庫がお店にたくさんあるから、これ使ってみたらどうだろう?」
新たな形態の料理なので試行錯誤が続く。
「お好み焼きのタネに千切りキャベツと卵を混ぜて、うすーく焼いて、割り箸でくるくるくるーって巻いて――」
「ソースとマヨネーズはここだよ。ボクが塗ってあげるね」
「最後に鰹節を振ったら、はい! 箸巻きお好み焼きのできあがり~っ!」
「やったよ♪」
閉店後の宵の口、食べ歩き用お好み焼きが完成する。
「味はちゃんとお好み焼きだし、崩れにくいしこれはよいですね!」
「ハンバーガーみたいに洗い物がでないようにするってのもポイントなんだよ。名づけて『フランクお好み焼き』だよ」
味見する満月豊一に弓月幸子が説明。仲間達にも試食してもらう。
「おいしく作るコツは、きれいに巻けるように薄ーく焼くことと、生地に火を通しすぎないこと! 耳たぶくらいのやわらかさの方が、キャベツの食感がのこっておいしいんだ。 あ、そうそう。ネギとか混ぜてもおいしいぞ!」
橿原と弓月幸子は誰も作れるよう図解入りのレシピを作成するのだった。
主に宣伝を担当するディアドラ、レン、レイオスは新メニューを試食して具体的な宣伝を練った。
「どの料理もうまかったではないか。これならチラシの文章を捻りだすのもたやすいぞ。どんな店でもたちまち超満員にある名文で飾ろうではないか!」
ディアドラは昼間に屋台を借りてきていた。
一晩掛けて原稿を完成させ、翌日には刷りの業者を訪ねてチラシ刷りを依頼。キャンペーン当日までには必要分間に合うはずである。
レンは店内のメニューボードを一新。新デザインの看板作成も順調だ。卓で使うコースターやマットにもオリジナリティを加えていく。
「好き! て思てもらえたら、いっぱい通ってくれそうやん? オシャレなお店もエエけどなあ、ちょっと怖いなって思たら入られへんやん? キレイでカワイイのがエエやろー♪」
「このトマトの絵、すごくいいですね!」
レンが用意したデザインはどれも可愛らしく、満月豊一は感心しきりである。料理に秘めたこだわりについてもやわらかい文章で記されていた。
レイオスはポスターをひたすら描き続ける。サンドイッチマン用のも合わせて全部で十二枚。大変なのが道順をわかりやすく示す地図だ。矢印専用のポスターも別に用意する。
「この地図、とてもわかりやすいですね。目立たない場所にあるんだから、前からもっと気を遣うべきでした」
「誉められると照れるな。完成した分、先に貼ってくるぜ」
満月豊一に見送られてレイオスが出かけていく。
あっと言う間に日々は過ぎ去る。ついにリニューアル当日となった。
●
弓月幸子とクリスはジュースパに程近い大通りを練り歩いた。
「とってもおいしいんだよ♪」
「このバーガーもいけるわね」
学生服姿の弓月幸子はフランクお好み焼きを頬張る。クリスは紙包みから覗くハンバーガを囓った。
二人は三日前から路上でのさりげない宣伝を続けている。珍しい料理なので目に留める人は多かった。時には声をかけられて訊ねられるときもある。
「結構、見ているようね」
「成功なんだよ」
道すがら、ソサエティ支部を覗いていく。貼らせてもらったポスターを眺めている人はそれなりにいた。地道だが確実にジュースパの名は広まりつつある。
その頃、大通りに面する空き地では無料試食会が始まっていた。
「さあさあ、料理に使われているソースとはどんなものなのか。これを読めばすぐわかるぞ!」
ディアドラは通行人に次々とチラシを配っていく。
「リアルブルーの味を再現したハンバーガーと、人気の和食お好み焼きの店『ジューシー&スパイシー』新装開店だよ!」
サンドイッチマン姿のレイオスは口上を述べる。
「お好み焼きが何かって? 試食があるから一口どうぞ。試すだけならタダだぜ!」
レイオスが指さした屋台では爪楊枝でまとめられたミニハンバーガーと小さく切られたお好み焼きが並べられていた。どちらもノーナが調理続行中である。
(ソースが焦げる匂いは空腹には堪らないからな。近くの客を集めるのに効果的だぜ)
(まずは興味をもってもらわないとな!)
レイオスとディアドラはチラシに描かれた地図や街角に貼られたポスターや矢印を試食した人々に伝えていく。
興味を持った通行人が細い路地に入って店舗へと向かう。
店前に飾られていた新看板は非常にポップな色調である。躍るような字体の『ジューシー&スパイシー』の屋号と擬人化されたハンバーガー、お好み焼き、トマトがとても可愛らしい。
「今なら席が空いているから、どうぞ入ってえな♪」
外の掃除を終えたレンが導くまま、新規の客二名が入店する。
「いらっしゃいませー! レストラン『ジューシー&スパイシー』です! できたてホヤホヤのハンバーガー、お好み焼きはいかがですかあ?」
橿原はエプロンと三角巾で和風姿の給仕を務めていた。さっそくチーズバーガーセットと海鮮お好み焼きの注文が入る。
「よしっ!」
満月豊一が張り切って調理開始。まもなくパスタやヘルシーバーガー、コロッケバーガー、豚玉お好み焼きの注文も。お客が立て続けにやって来ていたのである。
「パスタとお好み焼きは私に任せてくださいね。調理は覚えましたから」
マルグリットも張り切って鉄板の前に立つ。
「よくできているやん。トマトのゼリー♪」
レンも調理場を手伝った。洗った野菜を切ってサラダを作っていく。
弓月幸子とクリスが宣伝から戻ったお昼時にはすべての座席が埋まっていた。二人はテイクアウト用の調理を担当する。
これまでで一番忙しい営業時間が終了。テイクアウトも含めれば客の延べ人数は八十人を越えていた。
「まだまだなんでしょうけれど……すごく嬉しいです」
天井を見上げる満月豊一が瞳にうれし涙を溜める。
十分な宣伝効果があったので試食屋台は三日目に終了。レイオスは場所を店前に移してサンドイッチマンを続行する。
「お勧めは茄子とトマトのパスタですね。絶品ですよ」
紅屋玄珠はウェイターとして活躍した。
「紅茶三杯に珈琲二杯、今できあがったぞ」
ディアドラは紅茶と珈琲を淹れるのがとてもうまくなる。
四日目には客数が百二十人を越えた。ここまで来ると満月豊一はハンター達の手伝いがなくなったときが心配になってくる。
「友達でよければ明日からでも。みんな真面目な娘です」
ノーナの友達がしばらくアルバイトしてくれることとなった。たこ焼き、焼きそば、焼き鳥の提供は頭数が揃ってからになるだろう。
依頼の最終日。満月豊一はハンター達と別れの挨拶をする。
「ソースを商品化すれば、世話になった老夫婦や村の人も助かりますよ。それにエールの取り扱いも考えてみては」
紅屋玄珠の意見は今後の指針となった。
「どうだ。超満員となっただろう」
「助かりました」
満月豊一はディアドラと熱い握手を交わす。
「フライドポテトはもっと早くやったほうがよかったな」
「揚げる設備があったのに勿体ないことをしました」
レイオスと満月豊一が大いに笑う。昨日から始めたフライドポテトの売れ行きは好調だ。
「あなたの好みだけでなく、ノーナの意見も参考にした方がいいわよ」
「肝に銘じます」
クリスのアドバイスはとてもありがたい。
「いっそチェーン店ができるくらいになって貰いたいぜ。がんばれよ!」
「ハンバーガーが食べれるところが増えると嬉しいんだよ♪」
橿原と弓月幸子の応援に満月豊一は元気よく「はい!」と答えた。
「僕もまた来たいから、お店閉めんとってやあ」
「メニューや看板、大事に使わせてもらいます」
満月豊一はレンだけでなく全員に弁当を贈る。日持ちしないので今日中に食べてと付け加えて。
「老婦さんたちもきっとお店の繁盛を喜んでいると思いますよ。ごちそうさまでした」
一行は帰路に就いた。最後を歩くマルグリットが手を振りながら去っていく。
ハンター達のおかげで以前のように客が寄りつかない時間帯はなくなる。ジューシー&スパイシーの経営は順風満帆に。元気なやり取りが店内に響き渡るのだった。
ハンター一行が『ジューシー&スパイシー』を訪れたのは終業間近の宵の口である。
「よく来てくださいました!」
店内には店長の満月豊一と従業員のノーナだけ。客は一人もいなかった。店仕舞いの後、満月豊一の口から改めて依頼内容が語られる。
「閑古鳥が鳴いているのはよくわかった。大王たるボクが画期的なアイデアで解決しようではないか!」
ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)は咳払いをし「ところで」と続ける。彼女はハンバーガーが如何なる食べ物なのか知らなかった。
「こっちじゃどっちも手軽に食べられないからな。メニューの全品と飲み物を頼むぜ」
「まずは試食ですね。そうしないと始まりません」
レイオス・アクアウォーカー(ka1990)と紅屋・玄珠(ka4535)の意見はもっともである。満月豊一は少々お待ちをといいなから奥の調理場へと姿を消した。
チーズバーガー二種は大きさが違うだけなので、普通サイズを一個ずつ。豚玉と海鮮のお好み焼きは半分に切って一人前の皿に盛りつける。それを人数分用意した。
ノーナも手伝い、十数分後には卓に料理が並べられる。
弓月 幸子(ka1749)は瞳にお星様を輝かせながらチーズバーガーにかぶりつく。刹那、満面の笑みが弾けた。
「美味しいんだよ。美味しいんだよ♪ ピクルスが挟んであるんだよ。是非この味をクリムゾンウェストに広めるんだよ」
「もぐもぐ……このチーズのとろけ具合が」
弓月幸子とマルグリット・ピサン(ka4332)は夢見心地でチーズバーガーを完食。
「……うん、こっちもソースの味が活きていて美味しい! ただ、ちょっと味が濃いかもしれないですね。私は好きですけど」
そしてマルグリットは生まれて初めてのお好み焼きをじっくりと味わった。
「……なるほど。ソースは絶品です。ソースは」
紅屋玄珠がぽつりと呟く。真意については試食が終わってからだ。
「店長さんはトマトが好きなんやねえ。それでソース作って、お好み焼きとハンバーガーかあ。おいしいやんなあ♪」
「使っているソースがすばらしいね。これがあれば何でも作れそうだよな」
レン・ダイノ(ka3787)と橿原 やまと(ka4530)がソースとトマトを話題にする。
二人の隣で眉間にしわを寄せていたのはクリス・クロフォード(ka3628)だ。
「ああ、うん……宣伝不足だけじゃないわコレ」
クリスは店内に飾られていたメニューをしばらく見上げていた。
「ど、どうだったでしょうか?」
全員が食べ終わった頃、満月豊一が怖ず怖ずと訊ねる。
「かなりの美味しさだけど、こちらの人間からすれば未知の食べ物だからな。ボクとしてはリアルブルーの食べ物という点を強調するのがいい思うぞ。だから試食、所謂露店だな!」
ディアドラは試食を提供すべきだという。
「食べ歩きできるお好み焼きなんていいと思うよ」
弓月幸子はテイクアウトの充実を提案した。
「どちらの料理もリアルブルーを思い出させる味と香りだったぜ。ポテトやコーラが欲しくなったな。オレはポスターを貼って宣伝でもしようか。ディアドラがいっていた試食には賛成だ」
宣伝は任せてくれとレイオスが自信をみせる。
「本場そのものの味は感心しました。ただ辛味が少し強いですね。あと店名……ジューシィ&スパイシー。何があるか分かりにくいのも、よくないのかもしれませんね」
紅屋玄珠の意見はもっともだが、屋号に関しては満月豊一のこだわりがあるらしい。
「それならエエ考えがあるんやけど。看板やメニューボードにトマトの絵を描いたらわかりやすいんちゃうかなあ」
レンは店舗の装飾全般を引き受けてくれた。
「……メニューの増加が急務ね。並行して宣伝。今のままじゃラインナップが重過ぎるわ」
残念ながら今は全員お腹いっぱいである。クリスの新メニューお披露目は明日に繰り越しとなった。
マルグリットはソースを軸にして思いついた新メニューを挙げていく。
「コロッケを挟んだハンバーガーとか、トマトソースのお好み焼きとか。他にもオムレツとか、パスタとか」
「パスタは必須ですね。特にナスとトマトのは。何故ないのかと思っていました」
椅子から立ち上がった紅屋玄珠は満月豊一にパスタの追加を談判するのだった。
●
そして翌日。
「勝負は五日後ですね」
満月豊一はハンター達と一緒にキャンペーンの準備に取りかかる。必要な食材を買い求めた後、調理場で新規メニューの開発が始まった。
「ヘルシーさが足りないのよ、ヘルシーさが。レタスもあるわね」
クリスはこなれた手つきであっと言う間に新しいハンバーガーを完成させていく。
スライスしたトマトと水にさらしたタマネギを焼いたパティの上に乗せる。マヨネーズとマスタードを足したソースを軽く塗った。
試食した満月豊一が味に驚いてハンバーガーを見つめる。
「葉物がつくとモアベター。チーズは濃厚系の具になっちゃうから、さっぱり系のメニューを選択肢として提示しないとね」
「これなら今日からでも出せますね」
満月豊一はこってり好きだ。故にこういった視点が足りなかったと反省した。
「個人的にはサイドメニューにサラダがあると重いものも頼みやすくなると思うわ」
「そうするとセット売りがいいんでしょうかね。あ、レンさんがトマトのゼリーを是非加えて欲しいっていってました」
野菜については世話になった老夫婦の村で採れたものをすでに使っているようである。
「なら、それも宣伝のウリに加えたほうがいいわ。広告出す先は……ハンターズオフィスとかアリかもね。あそこなら老若男女問わないし、口コミで広がるのも早いわ」
クリスの案は宣伝担当のハンター達に伝えられた。
紅屋玄珠とマルグリットの案には共通するメニューが多くある。
「パスタは私が作りましょう。オムレツ、オムライスも。ケチャップで絵を描いてもいいですね」
「それではコロッケバーガーと、トマトソースのお好み焼を作ってみます。満月さんに教えてもらいながらですけれど」
まもなく数種類のパスタ、オムレツ、オムライス、コロッケバーガー、トマトソースのお好み焼きが完成した。
その場の者達だけでなく満月豊一と店番を交代してノーナにも食べてもらう。
「どれも初めての味ですけど、美味しいです☆」
全員の意見を鑑みてソースにほんの少し甘味を足すことになった。
紅屋玄珠は茄子とトマトのパスタを食べて満足げだ。コロッケバーガーを囓ったマルグリットはほくほくの笑みを浮かべる。
食べ歩きできるようお好み焼きに改良を加えたのは弓月幸子と橿原だ。
「串に巻いて食べるとか、クレープみたいな形にして紙で包んで、かぶりつけるようにするとかどうかな?」
「割り箸の在庫がお店にたくさんあるから、これ使ってみたらどうだろう?」
新たな形態の料理なので試行錯誤が続く。
「お好み焼きのタネに千切りキャベツと卵を混ぜて、うすーく焼いて、割り箸でくるくるくるーって巻いて――」
「ソースとマヨネーズはここだよ。ボクが塗ってあげるね」
「最後に鰹節を振ったら、はい! 箸巻きお好み焼きのできあがり~っ!」
「やったよ♪」
閉店後の宵の口、食べ歩き用お好み焼きが完成する。
「味はちゃんとお好み焼きだし、崩れにくいしこれはよいですね!」
「ハンバーガーみたいに洗い物がでないようにするってのもポイントなんだよ。名づけて『フランクお好み焼き』だよ」
味見する満月豊一に弓月幸子が説明。仲間達にも試食してもらう。
「おいしく作るコツは、きれいに巻けるように薄ーく焼くことと、生地に火を通しすぎないこと! 耳たぶくらいのやわらかさの方が、キャベツの食感がのこっておいしいんだ。 あ、そうそう。ネギとか混ぜてもおいしいぞ!」
橿原と弓月幸子は誰も作れるよう図解入りのレシピを作成するのだった。
主に宣伝を担当するディアドラ、レン、レイオスは新メニューを試食して具体的な宣伝を練った。
「どの料理もうまかったではないか。これならチラシの文章を捻りだすのもたやすいぞ。どんな店でもたちまち超満員にある名文で飾ろうではないか!」
ディアドラは昼間に屋台を借りてきていた。
一晩掛けて原稿を完成させ、翌日には刷りの業者を訪ねてチラシ刷りを依頼。キャンペーン当日までには必要分間に合うはずである。
レンは店内のメニューボードを一新。新デザインの看板作成も順調だ。卓で使うコースターやマットにもオリジナリティを加えていく。
「好き! て思てもらえたら、いっぱい通ってくれそうやん? オシャレなお店もエエけどなあ、ちょっと怖いなって思たら入られへんやん? キレイでカワイイのがエエやろー♪」
「このトマトの絵、すごくいいですね!」
レンが用意したデザインはどれも可愛らしく、満月豊一は感心しきりである。料理に秘めたこだわりについてもやわらかい文章で記されていた。
レイオスはポスターをひたすら描き続ける。サンドイッチマン用のも合わせて全部で十二枚。大変なのが道順をわかりやすく示す地図だ。矢印専用のポスターも別に用意する。
「この地図、とてもわかりやすいですね。目立たない場所にあるんだから、前からもっと気を遣うべきでした」
「誉められると照れるな。完成した分、先に貼ってくるぜ」
満月豊一に見送られてレイオスが出かけていく。
あっと言う間に日々は過ぎ去る。ついにリニューアル当日となった。
●
弓月幸子とクリスはジュースパに程近い大通りを練り歩いた。
「とってもおいしいんだよ♪」
「このバーガーもいけるわね」
学生服姿の弓月幸子はフランクお好み焼きを頬張る。クリスは紙包みから覗くハンバーガを囓った。
二人は三日前から路上でのさりげない宣伝を続けている。珍しい料理なので目に留める人は多かった。時には声をかけられて訊ねられるときもある。
「結構、見ているようね」
「成功なんだよ」
道すがら、ソサエティ支部を覗いていく。貼らせてもらったポスターを眺めている人はそれなりにいた。地道だが確実にジュースパの名は広まりつつある。
その頃、大通りに面する空き地では無料試食会が始まっていた。
「さあさあ、料理に使われているソースとはどんなものなのか。これを読めばすぐわかるぞ!」
ディアドラは通行人に次々とチラシを配っていく。
「リアルブルーの味を再現したハンバーガーと、人気の和食お好み焼きの店『ジューシー&スパイシー』新装開店だよ!」
サンドイッチマン姿のレイオスは口上を述べる。
「お好み焼きが何かって? 試食があるから一口どうぞ。試すだけならタダだぜ!」
レイオスが指さした屋台では爪楊枝でまとめられたミニハンバーガーと小さく切られたお好み焼きが並べられていた。どちらもノーナが調理続行中である。
(ソースが焦げる匂いは空腹には堪らないからな。近くの客を集めるのに効果的だぜ)
(まずは興味をもってもらわないとな!)
レイオスとディアドラはチラシに描かれた地図や街角に貼られたポスターや矢印を試食した人々に伝えていく。
興味を持った通行人が細い路地に入って店舗へと向かう。
店前に飾られていた新看板は非常にポップな色調である。躍るような字体の『ジューシー&スパイシー』の屋号と擬人化されたハンバーガー、お好み焼き、トマトがとても可愛らしい。
「今なら席が空いているから、どうぞ入ってえな♪」
外の掃除を終えたレンが導くまま、新規の客二名が入店する。
「いらっしゃいませー! レストラン『ジューシー&スパイシー』です! できたてホヤホヤのハンバーガー、お好み焼きはいかがですかあ?」
橿原はエプロンと三角巾で和風姿の給仕を務めていた。さっそくチーズバーガーセットと海鮮お好み焼きの注文が入る。
「よしっ!」
満月豊一が張り切って調理開始。まもなくパスタやヘルシーバーガー、コロッケバーガー、豚玉お好み焼きの注文も。お客が立て続けにやって来ていたのである。
「パスタとお好み焼きは私に任せてくださいね。調理は覚えましたから」
マルグリットも張り切って鉄板の前に立つ。
「よくできているやん。トマトのゼリー♪」
レンも調理場を手伝った。洗った野菜を切ってサラダを作っていく。
弓月幸子とクリスが宣伝から戻ったお昼時にはすべての座席が埋まっていた。二人はテイクアウト用の調理を担当する。
これまでで一番忙しい営業時間が終了。テイクアウトも含めれば客の延べ人数は八十人を越えていた。
「まだまだなんでしょうけれど……すごく嬉しいです」
天井を見上げる満月豊一が瞳にうれし涙を溜める。
十分な宣伝効果があったので試食屋台は三日目に終了。レイオスは場所を店前に移してサンドイッチマンを続行する。
「お勧めは茄子とトマトのパスタですね。絶品ですよ」
紅屋玄珠はウェイターとして活躍した。
「紅茶三杯に珈琲二杯、今できあがったぞ」
ディアドラは紅茶と珈琲を淹れるのがとてもうまくなる。
四日目には客数が百二十人を越えた。ここまで来ると満月豊一はハンター達の手伝いがなくなったときが心配になってくる。
「友達でよければ明日からでも。みんな真面目な娘です」
ノーナの友達がしばらくアルバイトしてくれることとなった。たこ焼き、焼きそば、焼き鳥の提供は頭数が揃ってからになるだろう。
依頼の最終日。満月豊一はハンター達と別れの挨拶をする。
「ソースを商品化すれば、世話になった老夫婦や村の人も助かりますよ。それにエールの取り扱いも考えてみては」
紅屋玄珠の意見は今後の指針となった。
「どうだ。超満員となっただろう」
「助かりました」
満月豊一はディアドラと熱い握手を交わす。
「フライドポテトはもっと早くやったほうがよかったな」
「揚げる設備があったのに勿体ないことをしました」
レイオスと満月豊一が大いに笑う。昨日から始めたフライドポテトの売れ行きは好調だ。
「あなたの好みだけでなく、ノーナの意見も参考にした方がいいわよ」
「肝に銘じます」
クリスのアドバイスはとてもありがたい。
「いっそチェーン店ができるくらいになって貰いたいぜ。がんばれよ!」
「ハンバーガーが食べれるところが増えると嬉しいんだよ♪」
橿原と弓月幸子の応援に満月豊一は元気よく「はい!」と答えた。
「僕もまた来たいから、お店閉めんとってやあ」
「メニューや看板、大事に使わせてもらいます」
満月豊一はレンだけでなく全員に弁当を贈る。日持ちしないので今日中に食べてと付け加えて。
「老婦さんたちもきっとお店の繁盛を喜んでいると思いますよ。ごちそうさまでした」
一行は帰路に就いた。最後を歩くマルグリットが手を振りながら去っていく。
ハンター達のおかげで以前のように客が寄りつかない時間帯はなくなる。ジューシー&スパイシーの経営は順風満帆に。元気なやり取りが店内に響き渡るのだった。
依頼結果
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MVP一覧
- デュエリスト
弓月 幸子(ka1749)
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 弓月 幸子(ka1749) 人間(リアルブルー)|15才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/05/11 02:21:29 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/10 01:22:18 |