ゲスト
(ka0000)
夜戦せよ!
マスター:旅硝子

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/07/09 09:00
- 完成日
- 2014/07/13 03:11
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ゾンネンシュトラール帝国東部、スネルギスの村。
奴は、夜だけ現れる。
「この依頼を受けたからには、夜戦をする覚悟があるものとする」
ハンターズソサエティの受付に立つヒゲの立派な男性が、集まったハンター達を見渡す。
「スネルギスの村に、歪虚が確認された。出没は夜のみ、ただし1週間前から毎晩とのこと。フェレライと思われるが、村には覚醒者も、ある程度以上の戦闘の心得を持つ者もおらず、確認は行えていない。数は1体と思われるとの報告だ」
フェレライ。
雑魔ではなく七眷属の名前が出たことで、1体とはいえ厳しい戦いになりそうだとハンター達はちらりと視線を交わす。
その様子に、受付の男性は頷いて。
「光を目指したり狙ったりする習性はないらしく、窓や扉が閉まっていれば隙間から光が漏れていても中の人間が狙われることはない。しかし、様子を見に行った村人に近付いてくる動きが見られたことから、人間を狙う習性はあると思われる。それ以上の習性については不明だが、様子を見に行った村人からは、馬に乗った人間のようだったが頭がないように見えたとのことだ」
「デュラハン……?」
ハンターの誰かが上げた声に、ふむと受付の男性は首を傾げて。
「そのように呼ばれる歪虚がいるとは聞いたことがあるが……詳細が分からない以上、明言は避けよう。ともあれ」
びしり、と男性は敬礼を決め、ハンター達に信頼のまなざしを向けた。
「これより、フェレライとの夜戦へと向かってほしい。健闘を祈る!」
奴は、夜だけ現れる。
「この依頼を受けたからには、夜戦をする覚悟があるものとする」
ハンターズソサエティの受付に立つヒゲの立派な男性が、集まったハンター達を見渡す。
「スネルギスの村に、歪虚が確認された。出没は夜のみ、ただし1週間前から毎晩とのこと。フェレライと思われるが、村には覚醒者も、ある程度以上の戦闘の心得を持つ者もおらず、確認は行えていない。数は1体と思われるとの報告だ」
フェレライ。
雑魔ではなく七眷属の名前が出たことで、1体とはいえ厳しい戦いになりそうだとハンター達はちらりと視線を交わす。
その様子に、受付の男性は頷いて。
「光を目指したり狙ったりする習性はないらしく、窓や扉が閉まっていれば隙間から光が漏れていても中の人間が狙われることはない。しかし、様子を見に行った村人に近付いてくる動きが見られたことから、人間を狙う習性はあると思われる。それ以上の習性については不明だが、様子を見に行った村人からは、馬に乗った人間のようだったが頭がないように見えたとのことだ」
「デュラハン……?」
ハンターの誰かが上げた声に、ふむと受付の男性は首を傾げて。
「そのように呼ばれる歪虚がいるとは聞いたことがあるが……詳細が分からない以上、明言は避けよう。ともあれ」
びしり、と男性は敬礼を決め、ハンター達に信頼のまなざしを向けた。
「これより、フェレライとの夜戦へと向かってほしい。健闘を祈る!」
リプレイ本文
スネルギスの村には、すっかり夜の帳が落ちていた。
空には月と星。けれどそれよりも明るく、いくつもの篝火が戦場となる、そして守るべき村を照らしている。
そして、人影は6つ。
もはや人ではなき者の影を、待ち受ける――。
準備は、もう日が落ちる前から始まっていた。
「夜中に興味本位で出歩くと……はぁっ!」
篝火を作るための薪にするために取ってきた倒木が、アーシェ・ネイラス(ka1066)の拳の一撃で粉砕される。
歓声。破片に当たらないよう離れて見ていた子ども達が、わっと駆け寄ってくる。
「ねーちゃんすげー!」
「おおー、これなんか薪にちょうどいい大きさになってるね!」
小柄な身体からすれば驚くべき怪力、けれど彼女がドワーフだと言えば納得する者もいるだろう。
「そう、夜中に出歩くとこれより酷い事になっちゃうんだぞー! 今晩は大人しく寝てようね!」
はーい、と大人しく頷く声と、えー、と不満そうないくつかの声に、アーシェはぽんぽんと自分と同じほどの子ども達の頭を撫でて。
「その代わり、明日は私の活躍をたっぷり聞かせてあげるから!」
「はーい!」
今度は元気に、みんなの返事が返ってきた。
「絶対に出るな……外に出なければ……安全だ……」
その向こうでは、大人達にグライブ・エルケイル(ka1080)が注意を施して回っていた。
顔を含めた体中に傷を持ち、眉間に皺を寄せたグライブの容姿に、そしてその訥々とした物言いに、驚く者もいるけれど。
自分達の安全を心配してのことだと知り、そして丁寧に戦いの準備をしたりペットのフクロウと猫を可愛がり世話をしたりといった様子を見て、頼りにする目でグライブを見る村人も多い。
「危ないんで日が落ちたら出歩かないで下さいねー」
軽く注意を促しながら、蔵野 由佳(ka2451)はデュラハン(仮)……以下デュラハンを目撃した村人に、聞き込みを行っていた。
大抵は通り過ぎるところを見た、という程度だが、証言を繋ぎ合わせるとおそらくは村の東から来ていたのだろうと推測できて、由佳は仲間達にそれを伝えようと走り出す。
途中ですれ違った三船・啓司(ka0732)と、手短に情報を交換する。啓司は村の中を見回っており、村内の地理的な情報を頭に叩き込んで夜の戦いに役立てようとしていた。
それと由佳の情報が合わされば、上手く戦いを有利に運ぶこともできるかもしれない。
「お手伝いいただきまして、ありがとうございます」
村の中心部では、篝火が準備されていた。ユーリア・フォン・バイエルン(ka2520)が、丁寧に頭を下げる。
「ああすみません、もう少しこちらにお願いできますか。倒れた時に可燃物があっては危ないですから」
米本 剛(ka0320)が自分も大きな薪を運びながら村人達に頼めば、わかりましたよーと声が上がって。
「しかしすいませんのう、ハンターさん達にわざわざ来てもらって」
「いえいえ、これもハンターの仕事ですから」
穏やかに笑った剛に、ユーリアが頷いて。
「御安心を、私達が全て解決致します、わ。その為に、派遣されてきたのですから」
通り行く村人達にユーリアは何度も念を押していたが、それも無理からぬことだろう。
今回倒すべきフェレライは、人を見つければ攻撃してくるというのだから。
「もちろん。子ども達にも、覗かないように言いつけておきますよ」
「あちらの可愛らしいハンターさんが言って聞かせてくれてますから、大丈夫でしょうけどねぇ」
村人達はそう言って、ハンター達の注意を必ず守ると頷いた。
そうして賑わっていた村も、今はぱちぱちと篝火の火花が散る音、そしてハンター達の声が聞こえるのみ。
「いやー、燃えてきた! 夜戦、そしてパワー勝負! 私の大好きな物が揃ってるじゃない」
アーシェが嬉しそうに言って、ぶんとリボルビングソーを素振りする。新し物好きの彼女が、目を輝かせて買ってきたもので、マテリアルの力を得て先端にある刃が高速回転を繰り広げるというちょっとばかり物騒な武器だ。
「フェレライとの力比べ……燃える!」
小柄な身体が、けれど全くバランスを崩さず武器を構えて不敵に笑う。
「夜間射撃か……向こうにいた頃はまず考えもしなかった出来事だな」
愛用の猟銃を手に、ふっと啓司は息を吐く。
ハンターになった理由も、猟師という己の生業を続けるためであった。今は敵が、歪虚や敵対する亜人に変わろうとも。
否――だからこそ、かもしれない。フェレライを討伐し、付近の安全を確かにするという今回の仕事は。
(人を脅かすモノを狩るのが猟師の仕事。故に俺の領分だ)
そう、啓司は心の中で呟き、手入れの行き届いた銃の重みを確かめる。
「噂に名高い……否、『悪名』高き七眷属ですか……」
そう呟きを零し、剛はふと考え込んでいた。
今回の暴食の眷属たるフェレライの行動、村の襲撃よりも戦いを挑む者、つまり自分達の戦力評価などが目的なのではないか――そう考えが浮かびはするが、それでも依頼は依頼であり、脅威は脅威であるとして。
全力で臨むばかりと、己に言い聞かせるだけだ。
「……敵なら倒す……それだけだ……」
グライブが、その心を言い当てるかのように寡黙に呟く。首なし騎士だろうが七眷属だろうが関係はない、と。
愛猫とこちらも大事なフクロウは、何かあったら庇えるくらいの近くにいる。動物の鋭敏な感覚で、敵の襲来を予測は出来ぬかと。
村にも動物はいるが、被害が出たという話は聞いていない。すぐに離脱させれば安全だろうとの判断だ。
ユーリアが抜身の剣を手に辺りを見渡す。由佳が村人から聞いた通り東の方面を警戒しながら、LEDライトをショートソードと逆の手に持ち、ランタンの位置を調整する――その時。
ふっ、と篝火が不審に揺れた。
由佳が「来ました!」と目を凝らし、仲間達に注意を促す。
グライブの愛猫がフーッと鳴いて毛を逆立て、フクロウがばさばさと羽を動かす。
全く同時に起こったそれらと合わせて、ゆらぁりと現れたのは黒い鎧の騎士を乗せた黒い馬。
その体の上に、頭は存在しない――!
「相手は七眷属、出し惜しみは無しだ」
納屋の陰に潜んでいた啓司がすっと目を細めれば、その瞳が灰色の鈍い光を放つ。猟銃がまるで身体の一部のように感じられる。
腕を伸ばすかのような感覚で、啓司は引き金を引いた。弾丸が意志を持つかのように、吸い込まれるかのようにデュラハンの首元、鎧の上辺近くを穿つ。
「離れろ……!」
グライブが呻くようにペット達に命じる。すぐさまデュラハンが現れたのと反対方向に、猫とフクロウが逃げていく。同時に彼らの主は、視力を失った瞳に魔方陣を浮かべながら、すっと敵の正面を避けて位置取った。
「……堅牢なる盾となれ……」
そのままアルケミストデバイスに、仲間達を支援すべく指を走らせる。
代わりに一気に正面に出たのは、ユーリアだ。
「ここは私が受け持ちます。……さて」
がきん、と巨大なデュラハンの剣とユーリアのロングソードが噛み合う。グライブが防性強化を発動しユーリアの身を守った次の瞬間、力で勝ったデュラハンの剣がユーリアの胴を斜めに薙いだ。
傷は、深くはない。剣で斬撃の勢いを殺し、さらに支援が効いている。
「そう簡単に通れると思わない事、ね」
軽く笑って、ユーリアはすっと剣を構え直す。再び剣を振り上げたデュラハンの後ろから、青白い光の粒子と共にショートソードが閃いた。
マテリアルを活性化させた由佳が、素早く後ろに回り込んで背中を切りつけたのだ。けれどそれでも守りに入る気配が見えないことから、背中にコアはないようだと由佳は判断する。
斜め前からは、烏枢沙摩の名を持つ刀を持った剛が馬の首を薙いでいた。鳴き声一つ上げず、漆黒の馬の赤い瞳がじろりと剛を睨み――次の瞬間襲ってきた大剣の一撃に、すぐさま剛はマテリアルヒーリングを重ね傷を癒す。
「馬では、ありませんでしたか……」
予想が外れて幾分無念ではあったが、されば1か所ずつ確かめて行くしかないと、刀を握り直しながら剛は気を取り直す。その横を、ヴィンと刃の回る音を立ててアーシェが駆けた。
「さて、フェレライ! 夜戦しようか!」
小さな体をいっぱいに使ってアーシェがリボルビングソーを上段に振りかぶる。
――同じく上段に構えていた剣を、デュラハンがすっと下段に下げた。
まるで――腹を庇うかのように。
「お腹っ!? そこがコア!?」
はっと由佳が叫ぶ。アーシェが振り下ろしたリボルビングソーの軌道を、無理矢理変えて腹に――はいかず、胸に攻撃をぶち当てる。
次の瞬間、ユーリアとアーシェ、そして剛に同時に衝撃が走る。剣を振り回しながら、デュラハンが突っ込んで来たのだ。
「ぐぅっ……!」
剛が必死に巨体を生かして食い止める。さらに軽く吹き飛ばされていたユーリアとアーシェが追いつき、由佳がさらにランアウトで追いすがってショートソードを一気に振るう。
目指すは……脇腹!
けれどそれもデュラハンは、庇う様子を見せない。
「脇腹、でもない……?」
眉をひそめる由佳に、むぅ、とグライブが唸りながらアルケミストデバイスを操作する。次の支援は、やや離れて敵を狙う啓司への攻性強化。
「……討ち払う刃となれ……」
マテリアルが輝くように、啓司の手や瞳に宿る。ありがたいと頷いて啓司が放った弾丸は、見事腹の中央を貫く。
けれど。
その時のデュラハンは、庇う様子を見せなかった。剣は、誰かを狙わんと上段に構えたままだ。
「腹じゃない……剣?」
ふと、啓司が首を傾げる。先ほどは腹を庇うのではなく、剣を攻撃されないためにわざと腕を下げたのではないかと。
けれど、もし剣がコアであれば、ユーリアと鍔迫り合いをするような危険は冒さないだろう。
「――もう、少しだ。もう少し……」
推測が、正解に近付いている予感はする。
それを感じながら、啓司は場所を移動しつつ、残弾の切れた銃に弾を込めた。
2度の攻撃を受けたユーリアに、素早く剛が癒しの光を送る。痛みが引いていくのを感じながら、ふっと息を吐いたユーリアはマテリアルを一気に剣に込めて振り抜く。由佳が裂いたのとは反対の脇腹に、傷は与えているのにデュラハンの身体は揺らぎもしない。
「効いていない……?」
思わず自問したユーリアは、けれど首を振る。確かに今、しっかりと斬った感触が手に残っているのだから。
「いえ、間違いなく手ごたえはあるわ。なら、このまま行くわ」
大きく頷いて自らに言い聞かせ、マテリアルを込めた剣を、ユーリアは振りかぶる。
さらにアーシェがデュラハンの左側から、横薙ぎにリボルビングソーを振り回す。デュラハンが咄嗟に右手で剣を斜めに構え、刃を受け流し胴の鎧に当てて勢いをそぐ。
由佳の足を狙った一撃は、軽く脚を動かして回避しようとし、結局避けきれていない。
――左からの一撃。それが、防がれなければどこを狙っていたか――!
「左腕だ!」
啓司が上げた声に、ハンター達ははっとして、頷く。
今まで体を庇うように腕を動かしていたように見えたのは、逆に腕を攻撃から遠ざける動きだったのだ。
「……そうとわかれば……」
グライブが剣の一撃を盾でがっしりと受け止める。そして反対の手で放つのは、馬の脚を狙った機導砲。
脚を跳ね上げた馬の上で、僅かに崩れた体勢。間髪入れずユーリアが、強打を放つべく武器にマテリアルを巡らせ。
アーシェが、大型の武器でけれど小さな籠手を狙おうと目を細め、勢いを付けて。
斬撃。
けれどそれは左腕に届く僅か前に、クロスさせるように庇った右腕に吸い込まれる。それを戻しざまに放たれた突撃に、前衛の仲間達までが巻き込まれて体勢を崩す。
「ちぃっ、生意気!」
そう舌を鳴らしたアーシェは、けれど言葉とは裏腹に、楽しげなほどに闘志を燃やし、マテリアルを巡らせて傷を癒す。
あっという間に終わってしまえば、その方がつまらないもの!
「くっ……防がれます、ね」
悔しげに呟いたユーリアは、ですが、と表情を不敵に変える。
「そう庇い続けると、ほかがおろそかになりますよ?」
そう言うと同時に飛来した弾丸が、ギン、と鋭い音を立てて右肘を撃ち、腕の位置を崩させる。マテリアルを集中させた啓司の瞳が、闇の中に光る。
同時にグライブが至近距離から機導砲を叩き込み、さらに体勢を揺らがせてみせる。
その隙を突いたのは、全身にマテリアルをみなぎらせた由佳。僅かに開いた隙間からショートソードを滑らせ、左の小手を貫く。
――その時、確かに。
何が、とはわからない、けれどデュラハン自体の『存在感』らしきものが歪んだのを、全員が感じ取って。
「やっぱり、左腕なんですね!」
斜めに振り下ろされた斬撃から何とかショートソードで急所を守りつつ、由佳が嬉しさを滲ませて叫ぶ。
「で、あれば……!」
剛が刀を正眼に構え――振りかぶりながら、駆ける。
「ふっ……!」
左手を狙った溜めの大きな一撃は、当然のように右腕に防がれる。
けれど――デュラハンは、知らない。
剛の持つ、烏枢沙摩の銘を頂いた刀は。
「八百万の神々よ……追撃の聖なる光を!」
信仰心から生まれし光の弾丸は、法具としての力をも持つ刀から零距離で叩きこまれて、デュラハンの体勢を大きく崩させる。
その間に再び場所を移動し終えた啓司が、銃を構えながら仲間達へと声をかける。
「支援する。その代わり止めは任せた」
その言葉にしたりと笑みを浮かべて、マテリアルを流し込みながら得物を構え直したのは、アーシェだ。
「っし、頼むね! いっくよー!」
体勢が崩れたところ、投げ出された左手に向かって、アーシェは鋭い踏み込みと共に腰だめに構えたリボルビングソーを振り抜く。
咄嗟に避けようとした左手を、元の位置に縫い止めるように銃弾。それは鎧の関節に挟まり、腕を曲げて避ける動きを的確に阻害しする!
「てえええええええっ!!」
ギギギギギギギ、と金属同士がぶつかり合うような鋭い音。魔導機械の回転刃はデュラハンの一部である鎧を的確に削り――両断!
音もなく。
漆黒の鎧が、篝火とランタンの炎に照らされながら、闇に溶けて。
――跡形もなく、消滅した。
グライブの大きな手が、猫とフクロウをわしわしと撫でる。戦いの近くにいた疲れを、労わるように。
「……異形とはいえ人型を撃つのは、やはり、慣れないな」
己の銃を見つめ、啓司はそう独り言ちる。それは、彼が猟師という職を、人を守るものと思うからこそ。
けれど――守り抜いたのは、事実。
そろそろ山の端が、明るくなりつつある。
強敵を倒し、いくつもの命を守ったことを胸に、ハンター達は誇らしげに朝の訪れを見つめた。
――スネルギスの村を、デュラハンが我が物顔に闊歩することは、もう、ない。
空には月と星。けれどそれよりも明るく、いくつもの篝火が戦場となる、そして守るべき村を照らしている。
そして、人影は6つ。
もはや人ではなき者の影を、待ち受ける――。
準備は、もう日が落ちる前から始まっていた。
「夜中に興味本位で出歩くと……はぁっ!」
篝火を作るための薪にするために取ってきた倒木が、アーシェ・ネイラス(ka1066)の拳の一撃で粉砕される。
歓声。破片に当たらないよう離れて見ていた子ども達が、わっと駆け寄ってくる。
「ねーちゃんすげー!」
「おおー、これなんか薪にちょうどいい大きさになってるね!」
小柄な身体からすれば驚くべき怪力、けれど彼女がドワーフだと言えば納得する者もいるだろう。
「そう、夜中に出歩くとこれより酷い事になっちゃうんだぞー! 今晩は大人しく寝てようね!」
はーい、と大人しく頷く声と、えー、と不満そうないくつかの声に、アーシェはぽんぽんと自分と同じほどの子ども達の頭を撫でて。
「その代わり、明日は私の活躍をたっぷり聞かせてあげるから!」
「はーい!」
今度は元気に、みんなの返事が返ってきた。
「絶対に出るな……外に出なければ……安全だ……」
その向こうでは、大人達にグライブ・エルケイル(ka1080)が注意を施して回っていた。
顔を含めた体中に傷を持ち、眉間に皺を寄せたグライブの容姿に、そしてその訥々とした物言いに、驚く者もいるけれど。
自分達の安全を心配してのことだと知り、そして丁寧に戦いの準備をしたりペットのフクロウと猫を可愛がり世話をしたりといった様子を見て、頼りにする目でグライブを見る村人も多い。
「危ないんで日が落ちたら出歩かないで下さいねー」
軽く注意を促しながら、蔵野 由佳(ka2451)はデュラハン(仮)……以下デュラハンを目撃した村人に、聞き込みを行っていた。
大抵は通り過ぎるところを見た、という程度だが、証言を繋ぎ合わせるとおそらくは村の東から来ていたのだろうと推測できて、由佳は仲間達にそれを伝えようと走り出す。
途中ですれ違った三船・啓司(ka0732)と、手短に情報を交換する。啓司は村の中を見回っており、村内の地理的な情報を頭に叩き込んで夜の戦いに役立てようとしていた。
それと由佳の情報が合わされば、上手く戦いを有利に運ぶこともできるかもしれない。
「お手伝いいただきまして、ありがとうございます」
村の中心部では、篝火が準備されていた。ユーリア・フォン・バイエルン(ka2520)が、丁寧に頭を下げる。
「ああすみません、もう少しこちらにお願いできますか。倒れた時に可燃物があっては危ないですから」
米本 剛(ka0320)が自分も大きな薪を運びながら村人達に頼めば、わかりましたよーと声が上がって。
「しかしすいませんのう、ハンターさん達にわざわざ来てもらって」
「いえいえ、これもハンターの仕事ですから」
穏やかに笑った剛に、ユーリアが頷いて。
「御安心を、私達が全て解決致します、わ。その為に、派遣されてきたのですから」
通り行く村人達にユーリアは何度も念を押していたが、それも無理からぬことだろう。
今回倒すべきフェレライは、人を見つければ攻撃してくるというのだから。
「もちろん。子ども達にも、覗かないように言いつけておきますよ」
「あちらの可愛らしいハンターさんが言って聞かせてくれてますから、大丈夫でしょうけどねぇ」
村人達はそう言って、ハンター達の注意を必ず守ると頷いた。
そうして賑わっていた村も、今はぱちぱちと篝火の火花が散る音、そしてハンター達の声が聞こえるのみ。
「いやー、燃えてきた! 夜戦、そしてパワー勝負! 私の大好きな物が揃ってるじゃない」
アーシェが嬉しそうに言って、ぶんとリボルビングソーを素振りする。新し物好きの彼女が、目を輝かせて買ってきたもので、マテリアルの力を得て先端にある刃が高速回転を繰り広げるというちょっとばかり物騒な武器だ。
「フェレライとの力比べ……燃える!」
小柄な身体が、けれど全くバランスを崩さず武器を構えて不敵に笑う。
「夜間射撃か……向こうにいた頃はまず考えもしなかった出来事だな」
愛用の猟銃を手に、ふっと啓司は息を吐く。
ハンターになった理由も、猟師という己の生業を続けるためであった。今は敵が、歪虚や敵対する亜人に変わろうとも。
否――だからこそ、かもしれない。フェレライを討伐し、付近の安全を確かにするという今回の仕事は。
(人を脅かすモノを狩るのが猟師の仕事。故に俺の領分だ)
そう、啓司は心の中で呟き、手入れの行き届いた銃の重みを確かめる。
「噂に名高い……否、『悪名』高き七眷属ですか……」
そう呟きを零し、剛はふと考え込んでいた。
今回の暴食の眷属たるフェレライの行動、村の襲撃よりも戦いを挑む者、つまり自分達の戦力評価などが目的なのではないか――そう考えが浮かびはするが、それでも依頼は依頼であり、脅威は脅威であるとして。
全力で臨むばかりと、己に言い聞かせるだけだ。
「……敵なら倒す……それだけだ……」
グライブが、その心を言い当てるかのように寡黙に呟く。首なし騎士だろうが七眷属だろうが関係はない、と。
愛猫とこちらも大事なフクロウは、何かあったら庇えるくらいの近くにいる。動物の鋭敏な感覚で、敵の襲来を予測は出来ぬかと。
村にも動物はいるが、被害が出たという話は聞いていない。すぐに離脱させれば安全だろうとの判断だ。
ユーリアが抜身の剣を手に辺りを見渡す。由佳が村人から聞いた通り東の方面を警戒しながら、LEDライトをショートソードと逆の手に持ち、ランタンの位置を調整する――その時。
ふっ、と篝火が不審に揺れた。
由佳が「来ました!」と目を凝らし、仲間達に注意を促す。
グライブの愛猫がフーッと鳴いて毛を逆立て、フクロウがばさばさと羽を動かす。
全く同時に起こったそれらと合わせて、ゆらぁりと現れたのは黒い鎧の騎士を乗せた黒い馬。
その体の上に、頭は存在しない――!
「相手は七眷属、出し惜しみは無しだ」
納屋の陰に潜んでいた啓司がすっと目を細めれば、その瞳が灰色の鈍い光を放つ。猟銃がまるで身体の一部のように感じられる。
腕を伸ばすかのような感覚で、啓司は引き金を引いた。弾丸が意志を持つかのように、吸い込まれるかのようにデュラハンの首元、鎧の上辺近くを穿つ。
「離れろ……!」
グライブが呻くようにペット達に命じる。すぐさまデュラハンが現れたのと反対方向に、猫とフクロウが逃げていく。同時に彼らの主は、視力を失った瞳に魔方陣を浮かべながら、すっと敵の正面を避けて位置取った。
「……堅牢なる盾となれ……」
そのままアルケミストデバイスに、仲間達を支援すべく指を走らせる。
代わりに一気に正面に出たのは、ユーリアだ。
「ここは私が受け持ちます。……さて」
がきん、と巨大なデュラハンの剣とユーリアのロングソードが噛み合う。グライブが防性強化を発動しユーリアの身を守った次の瞬間、力で勝ったデュラハンの剣がユーリアの胴を斜めに薙いだ。
傷は、深くはない。剣で斬撃の勢いを殺し、さらに支援が効いている。
「そう簡単に通れると思わない事、ね」
軽く笑って、ユーリアはすっと剣を構え直す。再び剣を振り上げたデュラハンの後ろから、青白い光の粒子と共にショートソードが閃いた。
マテリアルを活性化させた由佳が、素早く後ろに回り込んで背中を切りつけたのだ。けれどそれでも守りに入る気配が見えないことから、背中にコアはないようだと由佳は判断する。
斜め前からは、烏枢沙摩の名を持つ刀を持った剛が馬の首を薙いでいた。鳴き声一つ上げず、漆黒の馬の赤い瞳がじろりと剛を睨み――次の瞬間襲ってきた大剣の一撃に、すぐさま剛はマテリアルヒーリングを重ね傷を癒す。
「馬では、ありませんでしたか……」
予想が外れて幾分無念ではあったが、されば1か所ずつ確かめて行くしかないと、刀を握り直しながら剛は気を取り直す。その横を、ヴィンと刃の回る音を立ててアーシェが駆けた。
「さて、フェレライ! 夜戦しようか!」
小さな体をいっぱいに使ってアーシェがリボルビングソーを上段に振りかぶる。
――同じく上段に構えていた剣を、デュラハンがすっと下段に下げた。
まるで――腹を庇うかのように。
「お腹っ!? そこがコア!?」
はっと由佳が叫ぶ。アーシェが振り下ろしたリボルビングソーの軌道を、無理矢理変えて腹に――はいかず、胸に攻撃をぶち当てる。
次の瞬間、ユーリアとアーシェ、そして剛に同時に衝撃が走る。剣を振り回しながら、デュラハンが突っ込んで来たのだ。
「ぐぅっ……!」
剛が必死に巨体を生かして食い止める。さらに軽く吹き飛ばされていたユーリアとアーシェが追いつき、由佳がさらにランアウトで追いすがってショートソードを一気に振るう。
目指すは……脇腹!
けれどそれもデュラハンは、庇う様子を見せない。
「脇腹、でもない……?」
眉をひそめる由佳に、むぅ、とグライブが唸りながらアルケミストデバイスを操作する。次の支援は、やや離れて敵を狙う啓司への攻性強化。
「……討ち払う刃となれ……」
マテリアルが輝くように、啓司の手や瞳に宿る。ありがたいと頷いて啓司が放った弾丸は、見事腹の中央を貫く。
けれど。
その時のデュラハンは、庇う様子を見せなかった。剣は、誰かを狙わんと上段に構えたままだ。
「腹じゃない……剣?」
ふと、啓司が首を傾げる。先ほどは腹を庇うのではなく、剣を攻撃されないためにわざと腕を下げたのではないかと。
けれど、もし剣がコアであれば、ユーリアと鍔迫り合いをするような危険は冒さないだろう。
「――もう、少しだ。もう少し……」
推測が、正解に近付いている予感はする。
それを感じながら、啓司は場所を移動しつつ、残弾の切れた銃に弾を込めた。
2度の攻撃を受けたユーリアに、素早く剛が癒しの光を送る。痛みが引いていくのを感じながら、ふっと息を吐いたユーリアはマテリアルを一気に剣に込めて振り抜く。由佳が裂いたのとは反対の脇腹に、傷は与えているのにデュラハンの身体は揺らぎもしない。
「効いていない……?」
思わず自問したユーリアは、けれど首を振る。確かに今、しっかりと斬った感触が手に残っているのだから。
「いえ、間違いなく手ごたえはあるわ。なら、このまま行くわ」
大きく頷いて自らに言い聞かせ、マテリアルを込めた剣を、ユーリアは振りかぶる。
さらにアーシェがデュラハンの左側から、横薙ぎにリボルビングソーを振り回す。デュラハンが咄嗟に右手で剣を斜めに構え、刃を受け流し胴の鎧に当てて勢いをそぐ。
由佳の足を狙った一撃は、軽く脚を動かして回避しようとし、結局避けきれていない。
――左からの一撃。それが、防がれなければどこを狙っていたか――!
「左腕だ!」
啓司が上げた声に、ハンター達ははっとして、頷く。
今まで体を庇うように腕を動かしていたように見えたのは、逆に腕を攻撃から遠ざける動きだったのだ。
「……そうとわかれば……」
グライブが剣の一撃を盾でがっしりと受け止める。そして反対の手で放つのは、馬の脚を狙った機導砲。
脚を跳ね上げた馬の上で、僅かに崩れた体勢。間髪入れずユーリアが、強打を放つべく武器にマテリアルを巡らせ。
アーシェが、大型の武器でけれど小さな籠手を狙おうと目を細め、勢いを付けて。
斬撃。
けれどそれは左腕に届く僅か前に、クロスさせるように庇った右腕に吸い込まれる。それを戻しざまに放たれた突撃に、前衛の仲間達までが巻き込まれて体勢を崩す。
「ちぃっ、生意気!」
そう舌を鳴らしたアーシェは、けれど言葉とは裏腹に、楽しげなほどに闘志を燃やし、マテリアルを巡らせて傷を癒す。
あっという間に終わってしまえば、その方がつまらないもの!
「くっ……防がれます、ね」
悔しげに呟いたユーリアは、ですが、と表情を不敵に変える。
「そう庇い続けると、ほかがおろそかになりますよ?」
そう言うと同時に飛来した弾丸が、ギン、と鋭い音を立てて右肘を撃ち、腕の位置を崩させる。マテリアルを集中させた啓司の瞳が、闇の中に光る。
同時にグライブが至近距離から機導砲を叩き込み、さらに体勢を揺らがせてみせる。
その隙を突いたのは、全身にマテリアルをみなぎらせた由佳。僅かに開いた隙間からショートソードを滑らせ、左の小手を貫く。
――その時、確かに。
何が、とはわからない、けれどデュラハン自体の『存在感』らしきものが歪んだのを、全員が感じ取って。
「やっぱり、左腕なんですね!」
斜めに振り下ろされた斬撃から何とかショートソードで急所を守りつつ、由佳が嬉しさを滲ませて叫ぶ。
「で、あれば……!」
剛が刀を正眼に構え――振りかぶりながら、駆ける。
「ふっ……!」
左手を狙った溜めの大きな一撃は、当然のように右腕に防がれる。
けれど――デュラハンは、知らない。
剛の持つ、烏枢沙摩の銘を頂いた刀は。
「八百万の神々よ……追撃の聖なる光を!」
信仰心から生まれし光の弾丸は、法具としての力をも持つ刀から零距離で叩きこまれて、デュラハンの体勢を大きく崩させる。
その間に再び場所を移動し終えた啓司が、銃を構えながら仲間達へと声をかける。
「支援する。その代わり止めは任せた」
その言葉にしたりと笑みを浮かべて、マテリアルを流し込みながら得物を構え直したのは、アーシェだ。
「っし、頼むね! いっくよー!」
体勢が崩れたところ、投げ出された左手に向かって、アーシェは鋭い踏み込みと共に腰だめに構えたリボルビングソーを振り抜く。
咄嗟に避けようとした左手を、元の位置に縫い止めるように銃弾。それは鎧の関節に挟まり、腕を曲げて避ける動きを的確に阻害しする!
「てえええええええっ!!」
ギギギギギギギ、と金属同士がぶつかり合うような鋭い音。魔導機械の回転刃はデュラハンの一部である鎧を的確に削り――両断!
音もなく。
漆黒の鎧が、篝火とランタンの炎に照らされながら、闇に溶けて。
――跡形もなく、消滅した。
グライブの大きな手が、猫とフクロウをわしわしと撫でる。戦いの近くにいた疲れを、労わるように。
「……異形とはいえ人型を撃つのは、やはり、慣れないな」
己の銃を見つめ、啓司はそう独り言ちる。それは、彼が猟師という職を、人を守るものと思うからこそ。
けれど――守り抜いたのは、事実。
そろそろ山の端が、明るくなりつつある。
強敵を倒し、いくつもの命を守ったことを胸に、ハンター達は誇らしげに朝の訪れを見つめた。
――スネルギスの村を、デュラハンが我が物顔に闊歩することは、もう、ない。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/07/03 12:30:23 |
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相談卓 米本 剛(ka0320) 人間(リアルブルー)|30才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2014/07/08 23:19:26 |