ゲスト
(ka0000)
今一度、安らかに
マスター:秋風落葉

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/16 07:30
- 完成日
- 2015/05/23 17:57
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●王国西部
グラズヘイム王国西部に位置するリベルタース地方。
この地方にある小さな街の、これまた小さなハンターオフィス。
その入り口の扉が開き、来客を示すベルが鳴った。
受付嬢が顔をそちらに向けると、開いたドアの側にいたのは一人の青年だった。手には大きな花束を持っている。しかし、その表情は悲しみに満ち満ちていた。
「……どうされたのですか?」
意識したわけではなかったが、受付嬢の声は気遣わしげなものになっていた。この青年が帯びている雰囲気が、彼女に明るい声を出すことを躊躇わせたのだ。
「ここは、ハンターオフィスですよね? お願い……いえ、依頼があります」
青年は消沈した声で語りだした。
●悲劇の村
今から6年前の王国暦1009年。この地方で人間と歪虚の大きな戦争があった。
戦火に巻き込まれ、村を捨てるしかなかった者達も大勢いる。
青年も、村を捨てた者達の一人だという。
しかし、最近ある噂を耳にした。
かつて捨てた村の墓地から、自分達の先祖、親兄弟がゾンビやスケルトンとなって甦り、墓場を徘徊しているという噂を。
青年の村は戦乱の激しい地方に位置していた。歪虚の進行によって、マテリアルバランスが崩れてしまったのだろう。
雑魔と化した死者の群れは外へと出て行くことはないらしいが、墓地へ入って来た生物にはなんの躊躇もせずに襲い掛かり、新たな犠牲者を増やしてしまうとのことだ。
●死者よ、安らかに
「彼らに安らかな眠りを与えてあげたいのです。ハンター達を紹介してください。お願いします」
青年は受付嬢に頭を下げる。彼の話を聞いた受付嬢も、目の端に涙を溜めていた。涙をこらえ、受付嬢は分かりましたと答える。
「それと、出来たらこの花を弔いとして墓地に捧げて欲しいのです。本当は私が行くべきなのですが、足手まといになるわけにもいかない。ですから……代わりにハンターの方々にお願いしたいのです」
青年は手に持つ花束をそっと撫でると、もう一度頭を下げた。
グラズヘイム王国西部に位置するリベルタース地方。
この地方にある小さな街の、これまた小さなハンターオフィス。
その入り口の扉が開き、来客を示すベルが鳴った。
受付嬢が顔をそちらに向けると、開いたドアの側にいたのは一人の青年だった。手には大きな花束を持っている。しかし、その表情は悲しみに満ち満ちていた。
「……どうされたのですか?」
意識したわけではなかったが、受付嬢の声は気遣わしげなものになっていた。この青年が帯びている雰囲気が、彼女に明るい声を出すことを躊躇わせたのだ。
「ここは、ハンターオフィスですよね? お願い……いえ、依頼があります」
青年は消沈した声で語りだした。
●悲劇の村
今から6年前の王国暦1009年。この地方で人間と歪虚の大きな戦争があった。
戦火に巻き込まれ、村を捨てるしかなかった者達も大勢いる。
青年も、村を捨てた者達の一人だという。
しかし、最近ある噂を耳にした。
かつて捨てた村の墓地から、自分達の先祖、親兄弟がゾンビやスケルトンとなって甦り、墓場を徘徊しているという噂を。
青年の村は戦乱の激しい地方に位置していた。歪虚の進行によって、マテリアルバランスが崩れてしまったのだろう。
雑魔と化した死者の群れは外へと出て行くことはないらしいが、墓地へ入って来た生物にはなんの躊躇もせずに襲い掛かり、新たな犠牲者を増やしてしまうとのことだ。
●死者よ、安らかに
「彼らに安らかな眠りを与えてあげたいのです。ハンター達を紹介してください。お願いします」
青年は受付嬢に頭を下げる。彼の話を聞いた受付嬢も、目の端に涙を溜めていた。涙をこらえ、受付嬢は分かりましたと答える。
「それと、出来たらこの花を弔いとして墓地に捧げて欲しいのです。本当は私が行くべきなのですが、足手まといになるわけにもいかない。ですから……代わりにハンターの方々にお願いしたいのです」
青年は手に持つ花束をそっと撫でると、もう一度頭を下げた。
リプレイ本文
●
(6年前……『ホロウレイドの戦い』か。あの影響が此処でも出ているとはな……)
イグレーヌ・ランスター(ka3299)は、そう心の中で独りごちる。彼女はその戦いにおいて、大事なものをいくつも失った。イグレーヌがハンターに身を転じた原因とも言えるだろう。
『ホロウレイドの戦い』の舞台となったのはリベルタース地方。そして、今回の依頼人はそこにあった名も無き村の出身だ。村の墓地から雑魔となって甦ってしまった死者達をもう一度眠らせて欲しいという。そして、出来るなら死者達に花を手向け、弔いとしてやって欲しいと。
(ボクのファミリーネームが入った地名。前から気になってたんだ)
レホス・エテルノ・リベルター(ka0498)は、ハンターを求める声に導かれ、どことなく奇縁がありそうなこの地にやって来た。
転移門をくぐり、小さな街の、やはり小さなオフィスへと足を踏み入れたレホス。同じ目的なのか、すでに何人かのハンター達が集まっていた。もちろん、イグレーヌもその中の一人であった。
眼鏡をかけた女性が、レホスに軽く会釈する。
「……最後の安らかな眠りさえも妨げようとは、悲しい事ですね。クルセイダーの端くれとして、力の及ぶ限り精一杯務めさせていただきます」
その女性――日下 菜摘(ka0881)――は悲しげに目を伏せ、呟いた。隣に立つ一人のエンフォーサー、アンバー・ガルガンチュア(ka4429)も同意するように頷く。
(雑魔化しているとはいえあの者たちは元は民草の屍……このまま罪を重ねさせるのは憐れ……武人としての責務です……彼らを屠り、再びこの大地に帰して差し上げましょう)
彼女も依頼人である青年に代わり、死者を弔い花を捧げるためにこの戦いに参加する。
メンバーは一人、また一人とハンターオフィスへとやって来る。
依頼に参加する予定の八人目のハンターは、遠く離れたゾンネンシュトラール帝国で最後の準備を行っていた。
(未だ彷徨う彼らの真の安寧の為、私は銃を取ろう)
戦闘用に改造されたレーシングスーツのジッパーをあげ、ブーツを履く。迷彩ジャケットを羽織り、各種銃器を身につけ、銀色の髪をリボンでポニーテールに結ぶ。
ユリアナ・スポルクシー(ka1024)は最後にトランシーバーを手に取ると、【酒場宿】ガーラウェークの一室を後にした。もちろん、歪虚の犠牲となった村へと戦いに赴くために。
●
リベルタース地方にあったその村は、もはや完全な廃墟と化していた。人の姿はどこにもない。しかし、人ではない何かの気配が漂ってくる。
ハンター達が話に聞いていた通り、村の近くにある墓地の中で動く影が遠くからでも仄見えた。
ハンター達は注意深く墓地へと近づいていく。
(まぁ、なんつーかアンデッドになってもご苦労様だな。いや、安らかに眠らせたくないんだろうな。こんな俺でも良いのならあの世へ送ってやるぜ!)
墓地の外から内部の地形を把握しようとしているのはロイド・F・デュアンダル(ka3654)。
同じように蠢く死者達の姿を目にしたレウィル=スフェーン(ka4689)は、心の中で呟いた。
(……歪虚の戦争で捨てられた村、か。ちょっと、他人事とは思えないかな。あんまり気持ちのいい仕事ではないけど、せめて少しでも早く、眠らせてあげないとね)
レウィルの脳裏によぎるのは、過去に歪虚の侵攻に巻き込まれた自分の故郷であろうか。
レウィルもロイドと同じように、地形と敵の位置を把握しようと努めている。今回、彼をはじめとして、ハンター達はトランシーバーを所持する者が多い。
その中の一人、クィーロ・ヴェリル(ka4122)はライフル「ペネトレイトC26」を担いで墓地が外からよく見渡せる位置へと移動する。
とある戦いで深い傷を負ったクィーロは、今回はトランシーバーを用いて後方からの支援を主に行うつもりであった。彼は望遠鏡を取り出し、敵の動きを観察し始める。
ハンター達はそれぞれ陣形を組み、突入の準備を整えた。菜摘は広範囲に効果を及ぼすスキルを使う可能性があることを、仲間達に伝えておく。
「皆、用意は良いか? ……仕掛ける」
イグレーヌの言葉にハンター達は頷いた。皆の視線の先には蠢く死者がいる。『ホロウレイドの戦い』に未だ束縛される彼らを、もう一度土へと帰すのだ。各々、決意を新たに武器を握りなおした。
「戦禍の残り火か……せめて安らかに眠れ」
今から討ち果たす死者の群れへと、イグレーヌは囁いた。
●
ハンター達はクィーロの指示に従い、敵の数が少ない場所から進入する。
侵入者の存在を感じたか、数体の亡者がハンター達の方を振り向いた。
しかしその動きは緩慢であり、ハンター達は瞬く間に雑魔を撃破し、消滅させた。彼らは即座に円形の陣を組む。
望遠鏡を片手に墓地を見据えるクィーロ。彼は時折襲い来る傷の痛みに顔をしかめる。
「仕方ないとはいえ、自分の力を出せないのは歯痒いね……」
クィーロはそう呟きつつも、トランシーバーを手に仲間達へと、変わりつつある戦況を知らせた。
ユリアナはクィーロからの報告を受けながら、孤立した亡者を狙って猟銃で『強弾』による射撃を行う。覚醒時の影響か、普段は赤い彼女の瞳が、今は右目だけ青く染まっていた。その瞳は獲物を逃さない。標的となったゾンビの一体は胸を貫かれ、地へと倒れた。
イグレーヌもリュミエールボウを構え、敵を狙う。
「1時の方向に1体、釣り出すので準備してくれ」
おびき寄せる意図も含まれた一矢が墓地の空気を裂き、敵の背へと突き立つ。知性もほとんどないのか、攻撃されたということだけを認識した亡者は、彼女の狙い通りにハンター達の元へとやって来る。ロイドの放った機導砲が、それにとどめをさした。
アンバーも魔導拳銃「ズィーベン」で敵に狙いをつける。側面にローマ数字の7が刻まれた鉄色の銃身が火を吹くと、足を撃たれたゾンビはよろけて倒れた。
しかしハンター達の攻撃をものともせず、死者の群れがぞくぞくと押し寄せてきた。新たな仲間を求めているのかもしれない。
ホーリーメイスとシェルバックラーを構え、前衛に立つのはクルセイダーの菜摘だ。彼女は亡者を見据え、口を開く。喉の奥からあふれ出すのは彼女が自作した鎮魂のメロディー。
朗々と歌い上げられる『レクイエム』が、近寄る亡者達の動きを鈍らせる。数体の死者はひるまずにハンター達の元へと押し寄せるが、アンバーがその前に立ち塞がる。
「来なさい亡者達……貴方達の怨嗟の慟哭も、憤りも妄執も、その負のマテリアルごと私が受け止め、粉砕して差し上げましょう」
アンバーは銃から持ち替えたハンマー「ガイアクラッシャー」の柄を強く握る。
レウィルも突出してきた敵を素早く迎え討った。『ランアウト』により瞬く間に距離を詰め、『スラッシュエッジ』を乗せて日本刀「虎徹」を振るう。狙われたスケルトンは一太刀で首の骨を叩き切られ、崩れ落ちた。
「おやすみ。……できれば、こうなる前に助けたかったな」
覚醒状態になったレウィルの全身は、黒い血管が露出し、脈動している。さらに左目の白目部分が黒く変わっていた。
その姿を見せたくないのか、彼はフードを目深に被った。
(……僕のは、あんまり綺麗じゃないからね)
心の中で呟くレウィルに迫る亡者達。そこに突っ込んだのは自身に『攻性強化』をかけ終えたロイドだ。
「死者は起こしてやるな……絶対にな!」
ロイドは言葉と共に『機導剣』を操る。生み出された光の刃がゾンビの腕を断ち切った。
「こう、死人を叩き起こすとかくだらない事をして何になんだろうな? 動きは鈍いわ、頭は良くねーわ、数だけの傀儡以下じゃねーか。まぁ、独りで戦ってきた俺には理解不能だわな」
亡者の群れはロイド達手近な者に襲い掛かる。彼をはじめ、その攻撃をいくつかその身に受けてしまう者はいたが、幸い致命傷というほどのものではない。
アンバーの「ガイアクラッシャー」が群れを成すスケルトンを薙ぎ払い、粉砕する。
「民のために振るうべき力を、屍となった、護るべき民だった者達に振るうことになるとは……ままなりませんね」
悲しげに呟くアンバーの隣でレホスも『機導剣』を用い、亡者達に応戦する。マテリアルから変換されたエネルギーがスケルトンを一閃すると、死者の成れの果てはたちまち崩れ、消えうせた。
「……依頼者さんの想いを無駄にしないためにも、頑張らなきゃ」
レホスは魔導拳銃「ペンタグラム」を引き抜き、新たな敵を狙って引き金を引いた。
●
亡者の群れはその数をだいぶ減らしたものの、まだ墓地には不気味な影が蠢いている。
トランシーバーで指示を飛ばしていたクィーロは、痛む体に鞭打ちライフルに持ち替える。やや突出した前衛が敵に囲まれつつあったのだ。何とか狙いをつけ、トリガーを引くクィーロ。
残念ながら狙い通りとはいかず、弾丸はゾンビの近くを通っただけだったが、亡者は一瞬だけ気を引かれた。その隙にハンターは武器を振るい、敵を撃破する。
「依頼者の気持ちだけは踏みにじられない様にするよ」
自分達が敗北したら、依頼人によって託された花束を捧げることも出来なくなる。安堵と共にクィーロは自分が預かっている花束をちらりと見た。再び視線を戦場へと戻し、望遠鏡を片手に敵の動向を注意深く見定め、トランシーバーへと囁く。
無線通話機からの報告に従い、レホスは『デルタレイ』を敵の一群に放つ。光の三角形が現れ、その頂点から放たれたそれぞれの光線が死者を三体同時に抉った。
ユリアナも右手にオートマチックピストル、左手にデリンジャーを持ち、トリガーを引く。二つの銃弾が一体のスケルトンを撃ち砕く。
イグレーヌも新たに押し寄せてきた敵の群れへと弓を構えた。
「土は土に」
意識を対象の亡者に集中する。
「灰は灰に」
素早く矢が番えられ、マテリアルを帯びた瞳が敵を捉える。
「塵は塵に」
冷気を纏った矢がリュミエールボウから放たれた。それは狙い過たず、スケルトンの頭蓋骨を穿つ。
「凍気に抱かれて眠れ」
凍りつき、そのまま消え行く敵へと、イグレーヌはそっと囁いた。
レウィルは近寄ってきたゾンビに蹴りを入れ、よろめいた相手を右手の刀で叩き斬った。その隣でロイドもロングソード片手に一体のゾンビを葬る。今日は何体の死者を土に帰したのか、もはや彼にもわからない。
「わりーな、あの世に送るのが悪魔のような俺で……」
そんな言葉とは裏腹に、ロイドの目は悲しみに満ちているように思えた。
アンバーも力強く『踏込』み、手に持つハンマーを思い切り叩きつける。無骨な武器は雑魔達をことごとく叩き潰した。
戦い続ける彼らにクィーロからの報告が届く。残る敵は、眼前の亡者達のみだと。
レホスはマテリアルを集中し、解放した。彼女の用いたスキル、ファイアスローワーが死者の群れを焼き尽くしていく。紅蓮の帯が彼らを包んだ後には何も残らない。まるで、浄化の炎に包まれたかのように。
菜摘も己のスキルを最大限に行使するため、敵の中へと飛び込んだ。
「亡者に安らかな眠りを!」
言葉と共に両腕が広げられる。それと同時に彼女から光の波動が周囲へと広がった。
光の魔法スキル、『セイクリッドフラッシュ』だ。
一画に溢れた光の洪水は、残っていた亡者の群れを覆い尽くす。その光が治まった時、ようやく墓地は本来の静けさを取り戻したのだった。
●
戦いが終わり、クィーロも仲間達の側へとやって来る。まだ亡者が隠れていることを警戒しているのか、その瞳は墓地の中を隅々まで見渡していた。
周囲にもう敵の姿がないことを確認すると、菜摘はヒールを仲間達と自分に使い、アンバーもマテリアルヒーリングを己に用いた。
リアルブルー出身であるレホスがあたりを見回した。死者が地から甦ったことで、無残にも荒れた墓地の中を。
「……今日戦ったのは、元々誰かの家族、なんだよね。ボクの故郷がこんな風になったら……耐えられないよ。向こうの皆は元気かな……? 会いたいな……」
レホスは言葉の途中で空を見上げ、かつて共に過ごした世界の仲間達の顔を思い浮かべて悲しげに呟いた。レホスの橙色の瞳にはもちろん見えない。彼女が求める、蒼い星は。
クィーロも一つの墓の前で立ち止まる。
「……僕にはまだ後悔するだけの体と頭はある……」
彼は自分の体を見下ろす。先日の戦いの傷が残り、まだ満足に動かせないが、それでもこの村にいた人々とは違い、生の鼓動を刻んでいる。
「うん……この無様な姿もしっかり反省して、次はこんな事にならない様にしないとだね。ここに眠る彼らにはもう出来ない事だからね……反省し糧にする事……これは生者の務めかもしれないね……なんてね」
彼の手には花束が握られている。今回の依頼人である、この村の人間から預けられた花束を、ようやく死者へと捧げることが出来るのだ。
ユリアナはそっと、花束から一輪の花を手に取り、眼前の墓に手向けた。
「安らかに、眠れ……」
願わくば、彼らに永久の休息が訪れんことを。
イグレーヌも墓地を歩き、花を一輪一輪捧げていく。
「もう貴方たちを呼び起こす者はいない……安らかに眠れ……」
『ホロウレイドの戦い』に実際に参加していたイグレーヌ。その心に思い浮かんでいるのはきっと、この村の死者達だけではないだろう。
アンバーも鎮魂の花を村人達に捧げる。雑魔化していた者たちは、彼女達の力でこれ以上の罪を重ねることはなくなった。少なくともそれだけは確かなことである。
仲間の手当てを終えた菜摘は、地面にかがみ込み、砕けた墓石を拾い集めていた。
「歪虚のせいだとしても、死者にむち打った事に違いはないのですから、せめて墓地を修復くらいはしておきませんと、わたしの気がすみませんから」
菜摘はそう口にしながら、出来る限り墓地の姿を元に戻そうと尽力している。
ロイドも街に戻ったら、依頼人をはじめとした村の人たちに、自分の仕事を宣伝する形で今回のことを伝えようと考えていた。
(安らかにだとか、そんなの俺には似合わねぇからな)
そんな中、レウィルは村の方まで足を延ばしていた。遺品になるものがあったら、回収して依頼人に届けたいと思ったのである。
(……墓荒らしみたいでちょっと気が引けるし、差し出がましい真似でもあるけど)
その時、レウィルの瞳に光を反射するものが見えた。彼はそちらの方に視線を向ける。崩れた瓦礫の間に落ちていたのは、女物のペンダント。そのペンダントトップが彼の目を射たのだ。
レウィルはかがみ込み、そっと手を伸ばした。
「それでも何か。ここには確かに誰かがいたんだって証拠があれば」
レウィルが手にしたペンダントは、その言葉に応えるかのようにきらりと光った。
(6年前……『ホロウレイドの戦い』か。あの影響が此処でも出ているとはな……)
イグレーヌ・ランスター(ka3299)は、そう心の中で独りごちる。彼女はその戦いにおいて、大事なものをいくつも失った。イグレーヌがハンターに身を転じた原因とも言えるだろう。
『ホロウレイドの戦い』の舞台となったのはリベルタース地方。そして、今回の依頼人はそこにあった名も無き村の出身だ。村の墓地から雑魔となって甦ってしまった死者達をもう一度眠らせて欲しいという。そして、出来るなら死者達に花を手向け、弔いとしてやって欲しいと。
(ボクのファミリーネームが入った地名。前から気になってたんだ)
レホス・エテルノ・リベルター(ka0498)は、ハンターを求める声に導かれ、どことなく奇縁がありそうなこの地にやって来た。
転移門をくぐり、小さな街の、やはり小さなオフィスへと足を踏み入れたレホス。同じ目的なのか、すでに何人かのハンター達が集まっていた。もちろん、イグレーヌもその中の一人であった。
眼鏡をかけた女性が、レホスに軽く会釈する。
「……最後の安らかな眠りさえも妨げようとは、悲しい事ですね。クルセイダーの端くれとして、力の及ぶ限り精一杯務めさせていただきます」
その女性――日下 菜摘(ka0881)――は悲しげに目を伏せ、呟いた。隣に立つ一人のエンフォーサー、アンバー・ガルガンチュア(ka4429)も同意するように頷く。
(雑魔化しているとはいえあの者たちは元は民草の屍……このまま罪を重ねさせるのは憐れ……武人としての責務です……彼らを屠り、再びこの大地に帰して差し上げましょう)
彼女も依頼人である青年に代わり、死者を弔い花を捧げるためにこの戦いに参加する。
メンバーは一人、また一人とハンターオフィスへとやって来る。
依頼に参加する予定の八人目のハンターは、遠く離れたゾンネンシュトラール帝国で最後の準備を行っていた。
(未だ彷徨う彼らの真の安寧の為、私は銃を取ろう)
戦闘用に改造されたレーシングスーツのジッパーをあげ、ブーツを履く。迷彩ジャケットを羽織り、各種銃器を身につけ、銀色の髪をリボンでポニーテールに結ぶ。
ユリアナ・スポルクシー(ka1024)は最後にトランシーバーを手に取ると、【酒場宿】ガーラウェークの一室を後にした。もちろん、歪虚の犠牲となった村へと戦いに赴くために。
●
リベルタース地方にあったその村は、もはや完全な廃墟と化していた。人の姿はどこにもない。しかし、人ではない何かの気配が漂ってくる。
ハンター達が話に聞いていた通り、村の近くにある墓地の中で動く影が遠くからでも仄見えた。
ハンター達は注意深く墓地へと近づいていく。
(まぁ、なんつーかアンデッドになってもご苦労様だな。いや、安らかに眠らせたくないんだろうな。こんな俺でも良いのならあの世へ送ってやるぜ!)
墓地の外から内部の地形を把握しようとしているのはロイド・F・デュアンダル(ka3654)。
同じように蠢く死者達の姿を目にしたレウィル=スフェーン(ka4689)は、心の中で呟いた。
(……歪虚の戦争で捨てられた村、か。ちょっと、他人事とは思えないかな。あんまり気持ちのいい仕事ではないけど、せめて少しでも早く、眠らせてあげないとね)
レウィルの脳裏によぎるのは、過去に歪虚の侵攻に巻き込まれた自分の故郷であろうか。
レウィルもロイドと同じように、地形と敵の位置を把握しようと努めている。今回、彼をはじめとして、ハンター達はトランシーバーを所持する者が多い。
その中の一人、クィーロ・ヴェリル(ka4122)はライフル「ペネトレイトC26」を担いで墓地が外からよく見渡せる位置へと移動する。
とある戦いで深い傷を負ったクィーロは、今回はトランシーバーを用いて後方からの支援を主に行うつもりであった。彼は望遠鏡を取り出し、敵の動きを観察し始める。
ハンター達はそれぞれ陣形を組み、突入の準備を整えた。菜摘は広範囲に効果を及ぼすスキルを使う可能性があることを、仲間達に伝えておく。
「皆、用意は良いか? ……仕掛ける」
イグレーヌの言葉にハンター達は頷いた。皆の視線の先には蠢く死者がいる。『ホロウレイドの戦い』に未だ束縛される彼らを、もう一度土へと帰すのだ。各々、決意を新たに武器を握りなおした。
「戦禍の残り火か……せめて安らかに眠れ」
今から討ち果たす死者の群れへと、イグレーヌは囁いた。
●
ハンター達はクィーロの指示に従い、敵の数が少ない場所から進入する。
侵入者の存在を感じたか、数体の亡者がハンター達の方を振り向いた。
しかしその動きは緩慢であり、ハンター達は瞬く間に雑魔を撃破し、消滅させた。彼らは即座に円形の陣を組む。
望遠鏡を片手に墓地を見据えるクィーロ。彼は時折襲い来る傷の痛みに顔をしかめる。
「仕方ないとはいえ、自分の力を出せないのは歯痒いね……」
クィーロはそう呟きつつも、トランシーバーを手に仲間達へと、変わりつつある戦況を知らせた。
ユリアナはクィーロからの報告を受けながら、孤立した亡者を狙って猟銃で『強弾』による射撃を行う。覚醒時の影響か、普段は赤い彼女の瞳が、今は右目だけ青く染まっていた。その瞳は獲物を逃さない。標的となったゾンビの一体は胸を貫かれ、地へと倒れた。
イグレーヌもリュミエールボウを構え、敵を狙う。
「1時の方向に1体、釣り出すので準備してくれ」
おびき寄せる意図も含まれた一矢が墓地の空気を裂き、敵の背へと突き立つ。知性もほとんどないのか、攻撃されたということだけを認識した亡者は、彼女の狙い通りにハンター達の元へとやって来る。ロイドの放った機導砲が、それにとどめをさした。
アンバーも魔導拳銃「ズィーベン」で敵に狙いをつける。側面にローマ数字の7が刻まれた鉄色の銃身が火を吹くと、足を撃たれたゾンビはよろけて倒れた。
しかしハンター達の攻撃をものともせず、死者の群れがぞくぞくと押し寄せてきた。新たな仲間を求めているのかもしれない。
ホーリーメイスとシェルバックラーを構え、前衛に立つのはクルセイダーの菜摘だ。彼女は亡者を見据え、口を開く。喉の奥からあふれ出すのは彼女が自作した鎮魂のメロディー。
朗々と歌い上げられる『レクイエム』が、近寄る亡者達の動きを鈍らせる。数体の死者はひるまずにハンター達の元へと押し寄せるが、アンバーがその前に立ち塞がる。
「来なさい亡者達……貴方達の怨嗟の慟哭も、憤りも妄執も、その負のマテリアルごと私が受け止め、粉砕して差し上げましょう」
アンバーは銃から持ち替えたハンマー「ガイアクラッシャー」の柄を強く握る。
レウィルも突出してきた敵を素早く迎え討った。『ランアウト』により瞬く間に距離を詰め、『スラッシュエッジ』を乗せて日本刀「虎徹」を振るう。狙われたスケルトンは一太刀で首の骨を叩き切られ、崩れ落ちた。
「おやすみ。……できれば、こうなる前に助けたかったな」
覚醒状態になったレウィルの全身は、黒い血管が露出し、脈動している。さらに左目の白目部分が黒く変わっていた。
その姿を見せたくないのか、彼はフードを目深に被った。
(……僕のは、あんまり綺麗じゃないからね)
心の中で呟くレウィルに迫る亡者達。そこに突っ込んだのは自身に『攻性強化』をかけ終えたロイドだ。
「死者は起こしてやるな……絶対にな!」
ロイドは言葉と共に『機導剣』を操る。生み出された光の刃がゾンビの腕を断ち切った。
「こう、死人を叩き起こすとかくだらない事をして何になんだろうな? 動きは鈍いわ、頭は良くねーわ、数だけの傀儡以下じゃねーか。まぁ、独りで戦ってきた俺には理解不能だわな」
亡者の群れはロイド達手近な者に襲い掛かる。彼をはじめ、その攻撃をいくつかその身に受けてしまう者はいたが、幸い致命傷というほどのものではない。
アンバーの「ガイアクラッシャー」が群れを成すスケルトンを薙ぎ払い、粉砕する。
「民のために振るうべき力を、屍となった、護るべき民だった者達に振るうことになるとは……ままなりませんね」
悲しげに呟くアンバーの隣でレホスも『機導剣』を用い、亡者達に応戦する。マテリアルから変換されたエネルギーがスケルトンを一閃すると、死者の成れの果てはたちまち崩れ、消えうせた。
「……依頼者さんの想いを無駄にしないためにも、頑張らなきゃ」
レホスは魔導拳銃「ペンタグラム」を引き抜き、新たな敵を狙って引き金を引いた。
●
亡者の群れはその数をだいぶ減らしたものの、まだ墓地には不気味な影が蠢いている。
トランシーバーで指示を飛ばしていたクィーロは、痛む体に鞭打ちライフルに持ち替える。やや突出した前衛が敵に囲まれつつあったのだ。何とか狙いをつけ、トリガーを引くクィーロ。
残念ながら狙い通りとはいかず、弾丸はゾンビの近くを通っただけだったが、亡者は一瞬だけ気を引かれた。その隙にハンターは武器を振るい、敵を撃破する。
「依頼者の気持ちだけは踏みにじられない様にするよ」
自分達が敗北したら、依頼人によって託された花束を捧げることも出来なくなる。安堵と共にクィーロは自分が預かっている花束をちらりと見た。再び視線を戦場へと戻し、望遠鏡を片手に敵の動向を注意深く見定め、トランシーバーへと囁く。
無線通話機からの報告に従い、レホスは『デルタレイ』を敵の一群に放つ。光の三角形が現れ、その頂点から放たれたそれぞれの光線が死者を三体同時に抉った。
ユリアナも右手にオートマチックピストル、左手にデリンジャーを持ち、トリガーを引く。二つの銃弾が一体のスケルトンを撃ち砕く。
イグレーヌも新たに押し寄せてきた敵の群れへと弓を構えた。
「土は土に」
意識を対象の亡者に集中する。
「灰は灰に」
素早く矢が番えられ、マテリアルを帯びた瞳が敵を捉える。
「塵は塵に」
冷気を纏った矢がリュミエールボウから放たれた。それは狙い過たず、スケルトンの頭蓋骨を穿つ。
「凍気に抱かれて眠れ」
凍りつき、そのまま消え行く敵へと、イグレーヌはそっと囁いた。
レウィルは近寄ってきたゾンビに蹴りを入れ、よろめいた相手を右手の刀で叩き斬った。その隣でロイドもロングソード片手に一体のゾンビを葬る。今日は何体の死者を土に帰したのか、もはや彼にもわからない。
「わりーな、あの世に送るのが悪魔のような俺で……」
そんな言葉とは裏腹に、ロイドの目は悲しみに満ちているように思えた。
アンバーも力強く『踏込』み、手に持つハンマーを思い切り叩きつける。無骨な武器は雑魔達をことごとく叩き潰した。
戦い続ける彼らにクィーロからの報告が届く。残る敵は、眼前の亡者達のみだと。
レホスはマテリアルを集中し、解放した。彼女の用いたスキル、ファイアスローワーが死者の群れを焼き尽くしていく。紅蓮の帯が彼らを包んだ後には何も残らない。まるで、浄化の炎に包まれたかのように。
菜摘も己のスキルを最大限に行使するため、敵の中へと飛び込んだ。
「亡者に安らかな眠りを!」
言葉と共に両腕が広げられる。それと同時に彼女から光の波動が周囲へと広がった。
光の魔法スキル、『セイクリッドフラッシュ』だ。
一画に溢れた光の洪水は、残っていた亡者の群れを覆い尽くす。その光が治まった時、ようやく墓地は本来の静けさを取り戻したのだった。
●
戦いが終わり、クィーロも仲間達の側へとやって来る。まだ亡者が隠れていることを警戒しているのか、その瞳は墓地の中を隅々まで見渡していた。
周囲にもう敵の姿がないことを確認すると、菜摘はヒールを仲間達と自分に使い、アンバーもマテリアルヒーリングを己に用いた。
リアルブルー出身であるレホスがあたりを見回した。死者が地から甦ったことで、無残にも荒れた墓地の中を。
「……今日戦ったのは、元々誰かの家族、なんだよね。ボクの故郷がこんな風になったら……耐えられないよ。向こうの皆は元気かな……? 会いたいな……」
レホスは言葉の途中で空を見上げ、かつて共に過ごした世界の仲間達の顔を思い浮かべて悲しげに呟いた。レホスの橙色の瞳にはもちろん見えない。彼女が求める、蒼い星は。
クィーロも一つの墓の前で立ち止まる。
「……僕にはまだ後悔するだけの体と頭はある……」
彼は自分の体を見下ろす。先日の戦いの傷が残り、まだ満足に動かせないが、それでもこの村にいた人々とは違い、生の鼓動を刻んでいる。
「うん……この無様な姿もしっかり反省して、次はこんな事にならない様にしないとだね。ここに眠る彼らにはもう出来ない事だからね……反省し糧にする事……これは生者の務めかもしれないね……なんてね」
彼の手には花束が握られている。今回の依頼人である、この村の人間から預けられた花束を、ようやく死者へと捧げることが出来るのだ。
ユリアナはそっと、花束から一輪の花を手に取り、眼前の墓に手向けた。
「安らかに、眠れ……」
願わくば、彼らに永久の休息が訪れんことを。
イグレーヌも墓地を歩き、花を一輪一輪捧げていく。
「もう貴方たちを呼び起こす者はいない……安らかに眠れ……」
『ホロウレイドの戦い』に実際に参加していたイグレーヌ。その心に思い浮かんでいるのはきっと、この村の死者達だけではないだろう。
アンバーも鎮魂の花を村人達に捧げる。雑魔化していた者たちは、彼女達の力でこれ以上の罪を重ねることはなくなった。少なくともそれだけは確かなことである。
仲間の手当てを終えた菜摘は、地面にかがみ込み、砕けた墓石を拾い集めていた。
「歪虚のせいだとしても、死者にむち打った事に違いはないのですから、せめて墓地を修復くらいはしておきませんと、わたしの気がすみませんから」
菜摘はそう口にしながら、出来る限り墓地の姿を元に戻そうと尽力している。
ロイドも街に戻ったら、依頼人をはじめとした村の人たちに、自分の仕事を宣伝する形で今回のことを伝えようと考えていた。
(安らかにだとか、そんなの俺には似合わねぇからな)
そんな中、レウィルは村の方まで足を延ばしていた。遺品になるものがあったら、回収して依頼人に届けたいと思ったのである。
(……墓荒らしみたいでちょっと気が引けるし、差し出がましい真似でもあるけど)
その時、レウィルの瞳に光を反射するものが見えた。彼はそちらの方に視線を向ける。崩れた瓦礫の間に落ちていたのは、女物のペンダント。そのペンダントトップが彼の目を射たのだ。
レウィルはかがみ込み、そっと手を伸ばした。
「それでも何か。ここには確かに誰かがいたんだって証拠があれば」
レウィルが手にしたペンダントは、その言葉に応えるかのようにきらりと光った。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/12 17:55:17 |
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【相談】死者への手向けを レウィル=スフェーン(ka4689) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/05/16 01:19:35 |