夢幻に見ゆる、魂の錬成

マスター:DoLLer

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/05/14 22:00
完成日
2015/05/17 02:06

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

「そうですよね、まだ……夢は終わりません」
 路地の向こうから若い女の声が聞こえた。
 錬金術師レイオニールの研究所が錬成失敗によって爆発してしばらく。借金取りたちの仕事は亡失した金目の物の回収であった。風と共に散らばった文献だのレポートなどをかき集めていた彼の耳に留まったのはその声であり、目に留まったのはルビーの輝きであった。
「おい、それはレイオニールの研究所にあったルビーじゃねえのか?」
 書類を懐に押し込んだ借金取りの男が声をかけると、少女はこちらを向いた。プラチナブロンドの綺麗な髪。吸い込まれるような蒼い瞳。白磁のような肌に思わず借金取りの胸が飛び跳ねた。そして胸に抱いたルビーの塊には痩せこけた人の顔が象られていた。
 宝石のような少女。宝石でできた仮面。闇夜に輝くそれはどこか幽玄で、底知れない恐怖もはらんでいた。
「そ、そのルビーを渡して……くれないか。うちの雇主のものなんだ」
 少女はルビーの仮面を抱きしめて、静かに首を振った。
「貴方に夢はない。レイオニール様は体を失っても夢は残っているんです」
 男は少しだけ自分の雇われ生活を恥じ入った。彼女の瞳は夢を失い自堕落な自分を拒否しているかのようだった。
 心がキリリと痛んで、男は迷う。
「そ、そうか。いや、でもな? レイオニールの夢はうちの雇主のものでもあるんだ。仕事は決着をつけないとダメだろ? もしかしたら雇主が夢の続きを何か考えてくれるかも、しれねぇ」
 どうして無理やりに引っぺがさないのか、男は自分でも良くわからなかった。
 だが、彼女にうかつに触れと壊れてしまいそうで怖かった。世界が。自分の心が。
「……レイオニール様の夢を、叶えてくれるのですか?」
「あ、ああ。俺も手伝うからさ」


「そうか、ブリュンヒルデ殿。良く分かった。いやぁ、私も惜しいことをしたものだ。こんな価値のあるものを作れるのならば言ってくれればいいのに」
 恰幅の良い男、借金取りの雇主であり、レイオニールのパトロンでもあった男はルビーの仮面をしげしげと眺めてそう言った。
「遺影がこうして残るのも、彼の意志がこもっていると思わずにはいられないな」
 ルビーの大結晶を作り上げるとレイオニールは言っていた。
 レイオニールはそれを途中で失敗し、研究所ごと爆発し吹き飛んだ。
 だが、極大の熱はルビーを確実に溶かしていた。そしてルビーの液体は爆風によってレイオニールの顔にはじけ飛び、そこで結晶化した。少女ブリュンヒルデが抱えていたのはレイオニールのデスマスクであった。
「しかして、我々はレイオニールの遺志をどうやって聞き出せばよいのかな?」
「その中に意志は宿っています。耳を当てれば聞こえます」
 ブリュンヒルデの言葉にふむ、と主人は頷き、彼女を連れてきた男を呼びつけた。
「お前、やってみろ」
「はぁ……」
 借金取りの男がデスマスクを顔に当てたくないのは態度を見ればよくわかる。逡巡していたがブリュンヒルデの瞳と目が合うと「手伝うよ」と言った自分の言葉を思い出したようで、意を決したように顔に押し当てた。
「…… ……ぉ ぉ」
 男の体が震えた。大きく震え、そしてしばらく痙攣したように何度も何度も。その中で声が漏れてきた。
 男が喋っているはずなのに、今まで聞いたこともない。濁った声が漏れ出てくる。人の言葉のようには聞こえなかったが、男は懐にしまっていた書類の束を取り出して、まるで懇願するようにそれを突き出す。
「おお、おお……」
「マテリアルの熱と風で精錬したルビーの結晶には、強力なマテリアルを内包できるそうです。生命に匹敵するマテリアルの結晶が……」
 ブリュンヒルデにはその言葉は通じたようで、その意図を話した。それを追認するように男の差し出していた書類には、確かにマテリアルを閉じ込めることにより、大きな力を内包した結晶を作り出せるかもしれないというレイオニールの実験記録とグラフが描かれていた。
 今、レイオニールが肉体を失っても存在するのは、ルビーに宿った命の炎がレイオニールの魂と結合した奇跡によるものだとという。
 魂をもつなぎとめる、幻の錬成。
 それは錬金術師が目指す至高の一端、不死の追及における終端の一つにほぼ近いものだ。
 レイオニールは限りなく近いところまでそこに手をかけていたのだとパトロンもようやく気付かされた。
 錬魔院の研究者をも凌駕する天賦の才を持ち合わせていることにも。
「どうか夢を終わらせないでください。レイオニール様ならば必ずできます」
 ブリュンヒルデの言葉に主人は色めきだって立ち上がった。信じられないような夢物語だが、目の前にある存在こそが何よりの証明だった。伝説が間近にできると知った主人が胸躍らせるのも無理はなかった。
「近くの錬金術師を雇おう。場所も用意しよう。レイオニールよ! やってくれるか!!」
「ぉぉぉ ぉぉ ぉ」
 レイオニールはこくりと頷いた。

リプレイ本文

「悪い夢だね、しかも飛び切りの」
 南條 真水(ka2377)は瓶底の分厚い眼鏡で、差し入れにやって来たブリュンヒルデを見た。
 豊かな銀髪にあどけなさの残る頬、吸い込まれるような蒼眸。そして綺麗にラッピングされたサンドイッチや、よく干したお日様の香りがする替えのシーツを手にする少女。それは何も知らない人が見れば惹かれる存在かもしれない。
「不審には思っていましたが、ね」
 ラシュディア・シュタインバーグ(ka1779)の目も憎悪に燃えていた。
 美しい少女。だが、漂ってくるのは腐臭にも似た瘴気。目眩を起こすような負のマテリアルの渦。
 覚醒者ならわかる。歪虚。しかも雑魔とは段違いの闇を帯びている。
「……お気を悪くされたのならお詫びいたします」
 ブリュンヒルデはそっと差し入れを置くと、しずしずと下がって深く頭を垂れた。
「何が目的でこんなことを? 私は先の事故現場で貴女が立ち去っていたのを知っています。貴方は……レイオニールさんが失敗するのを知っていたのでは、ないですか?」
 ルーエル・ゼクシディア(ka2473)の問いかけに、ブリュンヒルデは首を振り、そして薄手の長袖をまくって見せた。そこには痛々しい火傷の後が見える。
「レイオニール様の荷物が私を助けてくださいました。私はすぐにレイオニール様もすぐ助けようと思いましたが……残っていたのは。レイオニール様の魂を。私は人の夢を叶えたい。強い想いに応えて上げたい。そんな思いしかありません」
 レイレリア・リナークシス(ka3872)は目を細めた。
「強い想いであることは否定しません。此度の錬成はレイオニール様の悲願ともいえるでしょう。未練とも……」
 悲願と未練。その差はすこぶる曖昧だ。
 ブリュンヒルデがレイレリアの言葉にほんの少し瞳が輝いた。真実を突き当てられたような驚き。そして理解を得られたことへの希望。
 その眼を見るだけで仕舞っていた胸の想いが突如湧きはじめる。レイレリアから大切なものを奪ったアレに対する思いが。溜めた思いも、暗い感情。ブリュンヒルデはきっとそんな思いでも受け入れてくれるかもしれない。
「っと大丈夫?」
 ぼんやりとしたレイレリアの肩をアシェ・ブルゲス(ka3144)がぽんと叩きレイレリアは我に返った。
「これができたら、満足かな?」
「レイオニール様がそれで満ち足りるのなら。夢の到達点でそこにあるのなら」
「夢の到達には程遠い。魂の錬成とは、興味のあるお方であれば誰もが喉から手が出るほど望むことでしょう。これはまだ始まりにしか過ぎぬことでしょう」
 フレイア(ka4777)は謳うようにそう言った。短命の人間が不老不死を求める気持ちをフレイアはよく知っていた。それが自らの種族に羨望と偏見をもたらしたことも。
「あなたのやっていることは人を闇に貶める行為です」
 これ以上関わるなら、容赦はしない。傷ついた身体でありながらもラシュディアはスタッフを構えるとブリュンヒルデは抵抗する様子もなく寂しそうな顔をした。
「待ってくだせぇ。ブリュンヒルデのねーさんのおかげでレイオニールのおっちゃんとまた会えたんですぜ。夢は叶ったんでさ。そりゃ少し怖えけど……感謝してまさ」
 鬼百合(ka3667)の言う通り彼女は決して人を痛めつけなかった。あざけらなかった。食べ物は本当に美味しかった。会えば歪虚とわかるから近寄らず。そんな彼女に鬼百合はなんとなく共感できた。呪われていると言われ、鬼と呼び。そんな中で無力感に苛まされながら母を看る日々。
 ちらりと見上げる鬼百合とルビーの仮面の瞳が交わる。対立するハンターとブリュンヒルデに彼も居心地は悪そうだった。
「あたし達にはやることがある。今やることは、それじゃないだろ?」
 この錬成を闇に染めさせず成功させる。アーシュラ・クリオール(ka0226)の瞳は強かった。南條やラシュディアは敵愾心を隠せずにいたが、ここで対立するのは得策ではないことはすぐに思い至った。
「夢は醒めるものだよ。見続けるものじゃない」
 南條はそう言ってブリュンヒルデと距離を取った。これで錬成を、レイオニールの夢を終わりにさせる。そういう宣言だった。
 ブリュンヒルデはそれを聞くと「わかりました。レイオニール様の夢、よろしくお願いいたします」とお辞儀をし夜闇の中をとぼとぼと歩き去って行った。


「おっちゃん。日誌の続き……覚えてますかぃ?」
 錬成の準備が整えられる中、鬼百合はそっとレイオニールに問いかけた。手にしていたのは爆発した研究所に残っていた日誌の破片。何かを一緒にしようとしていた言葉だけがかろうじて読めたが、その前後は全く分からなかった。
『一から、共に、基礎研究』
 レイオニールは文献やレポートの単語を次々と指さして示した。
『この研究、極大、長時間。一人、無理。夢、受け継ぐ。たくさん、人、幸せに。魂の錬成。病、解放される。人、喜び。私、喜び。喜ぶ。喜んで』
 レイオニールの腕は冷たく、まるで木の枝のような触感だった。そんな身体でも鬼百合にはふとあの嬉しそうなレイオニールの顔が脳裏に浮かんできた。死んだ人間だ。だけど情熱は伝わってくる。そう思うと鬼百合は字を追うのが辛くなって、思わず帽子を目深にかぶった。
「魂を保持できれば、肉体の病や不慮の死から救われる。歪虚との戦いに人命をかけず済む、ですか」
 ルーエルは資料を見てうなった。ルビーは魂の『器』になるのだとしたら、またそれを解析すれば魂の複製もできるかもしれない。危うさを感じる話だが無残な終わり方をした人もそれを嘆く人も歪虚の侵攻が激しい昨今では依頼書を見れば枚挙にいとまがない。
「肉体の再生などは、研究が進みつつあるそうです。それに移し替えれば死も恐れない日が来るのでしょうか」
 レイレリアの言葉をアシェは機材を接続する手を休めた。
 魂のこもっていないもの、本来の役目を終えたものに命を吹き込む。それはアシェの得意とする廃材アートにも通じなくもない。それが有機物であるか無機物であるかの違いだが。
「見る限り、悪意ある目的でやってたみたいじゃないね。純粋に知的好奇心から生まれたものみたい」
 アーシュラはレイオニールの研究や日誌を読み直して言った。それについては誰も異を唱えることはない。レイオニールが命を懸けた研究なのだ。一部の人間はその人となりを目の当たりにしている。
「ですが、依頼人はどうなのかしら。この研究はきっと広汎の応用が利く研究です。悪用も容易でしょうに」
 フレイアの問いかけに南條が資料を読みながら答えた。
「南條さんが聞くところによるとね、投資してその利潤で飯にありついているらしいよ。貴族ってどうしてこんなの好きがるんだろうね。絶対面倒事になるのわかってるのにさ」
 フレイアは眉をひそめた。この錬成も成功すればお金に変えられるのか。美しい夢を、崇高なる目的を。
 どこに悪意が及ぶか今の時点では計りかねる。だが、想像に登らないだけでイヤな予感はひしひしと感じていた。
「……嘆かわしいことですね」
「その気持ちは同意します。本当は成功させるべきかどうかも悩む話ですが……準備はできました」
 ラシュディアは点検を終え、レイオニールを囲むハンター達にそう告げた。


 炎が錬成陣の上を駆け巡る。
「世界に六大あり。ゆらめき、燃え盛るものよ……」
 レイレリアの背に浮かぶ輪の中から赤い水晶が煌めいた。それが彼女の覚醒だ。言葉にあわせ火は強くなり、紅炎から蒼へと虹色に輝く炎を紡ぐ。
 どうかその炎が穢されませんように。この夢が汚されませんように。レイレリアはひたすらに念じる。
「圧力増大。減衰弁作動」
 南條は機械の様子を淡々と報告しながら、その炎に浮かぶルビーを見つめた。光の中で時折映る赤はまるで卵のようだ。
 だが、南條はそうは思わない。
 あれはルビー。何の変哲もない。期待を持つべきものではないし、期待に応えるものでもない。
 が、目を閉じれば先の戦いで失った血のせいで気が思わず遠くなる。なんともしがたい自分に、誰にも気づかれないように南條は口を小さくゆがめた。
「送風、拡大するよ。炎と風に守られ……生まれてお出で」
 アーシュラは謳うようにそう言うとデバイスから送り込む力を強めた。炎の中の原石が丸く固まるように。包み込むように繊細な力加減を加えながら。
 その気持ちに応えてか。バラバラの原石が輝きの中で徐々に融和していく。それぞれの想いが一つになっていくように。
「すごいですね……どんどんマテリアルを含んでいっています」
 ルーエルはその様子とマテリアルの流量計を交互に見て呟いた。10人以上の一斉のマテリアルを受けても暴発すらせず安定するルビーにはいったいどれだけのマテリアルが溜められているのか。これが魂の器になるというのなら。人はどれだけの加護を受けて生まれてきたのか、ルーエルは今、命があることの奇跡を感じずにはいられなかった。
 錬成の事はよくわからない。だが命の奇跡については聖導士だからこそよくわかるというものだ。
「強く感じよ、世界は我が身に通ず……我は汝、汝は我」
 アシェは基礎瞑想法を通じ、風と一体化することで風の動きや勢いが手に取るように掴んでいく。もう自分と風は一体の存在であった。
 故にアーシュラの作る風と争う事もなく、送られてくる熱を撹拌し、ルビーに均一の力を与えていく。
 熱を作るのは鬼百合の力だ。
「世界を司る四大。我はその主なり」
 錬成陣作成までにレイオニールが教えてくれた魔術様式で鬼百合は魔術を行使する。魔術師とは一括りにされても実際細かに魔術を顕在化させる理論は違う事を鬼百合は学んだ。新しい感覚に戸惑いもあったがもうしっかり使いこなしていた。
 いつもならずっと隠してきた百目鬼の覚醒姿も今日は隠さない。レイオニールのおっちゃんに全部見てもらうんでさ。
 新しいものと既存のモノが結びつき、花を咲かせる。
 花は結実し、種子を生み、また天へと背を伸ばしていく。幾重にも続く生命の輪廻を鬼百合は描いていく。それに応えてルビーも閃光の中で何度も形を変える。
「液状化を確認しました。結晶化の作業をお願いします」
 ラシュディアは錬成の最終段階への指示を送りながら、見守るレイオニールの姿を見た。彼はただただじっと見守っていた。亡霊ゆえに負のマテリアルで動く存在の彼は錬成には参加しなかった様子を見ると自分がいかなる存在であるかはちゃんと理解しているらしい。
「生まれていらっしゃいな。炎の化身よ。不死鳥の雛鳥よ。生命の昇華体にして、輪廻と再生の主よ」
 フレイアの言霊に合わせるように、ルビーが持つ無数の輝きがはばたく鳥の姿を映す。
「一は全なり、全は一なり。原初の海より出る我は見ゆる。夢幻の理」
 アシェは風への集中から、交わるマテリアルを通じ、錬成に参加する人間の意識へと集中する要素を移した。
 様々なイメージがアシェの中に流れ込んでくる。それを一つ一つ抱いて、アシェの廃材アーティストとして培ったイメージでゆっくりまとめていく。
「マテリアル収束します!!」
 ルーエルの言葉に従って、最後の詠唱を鬼百合が紡ぎ始める。

「火よ、水よ、風よ、土よ」
 溢れて皆の眼を焼いていた光が尾を引いてルビーに吸い込まれ始める。
 レイレリアが詠唱の続きを引き継ぐ。背に浮かぶ輪に輝く六晶が鮮やかに輝く。
「万物を構成するすべての力よ」
 噴き出るほどの汗を作り出す熱が引いていく。
 アーシュラも全力で機導力を込める。
「今ここに集いて」
 痛みを覚えるほどの風が逆流を始める。
 フレイアが詠唱を完結させる。
「形を現せ」
 ルビーが煌めきが治まり、その新たな姿を現した。


「錬成、完了だね」
「お、ぉ」
 アシェが手にしたルビーを見てレイオニールが小さく声を漏らした。仮面の下からぽたりと雫が落ちる。
 いくつもの植物が守るように作られた紋様、その奥は磨き抜かれたように美しい真球が見える。覗き込んだその向こうは、光が煌めき、時折、炎でできた鳥が羽ばたいているようにも見えた。
 そのルビーの持つマテリアルは人間のものより遥かに濃く、錬成に参加した人間すらもその力に胸を押し潰されそうであった。きっと覚醒者でなくとも偉大な力を秘めていると感じることだろう。
「すごい……ですね」
 力に畏怖したラシュディアだが、決して悪い心地ではない。目にするだけで活力が与えられるようなそんな気分だった。錬成は、イメージは成功したのだ。それを見て南條はため息をついた。
「困っちゃったね。また夢から抜け出せなくなる人が出る」
 きっとこれを巡って悪いことが起きる。人間ってやつはそういう生き物なんだと何故思い至らないのだろう。南條はさめざめとそう言ったのを聞いてレイレリアはレイオニールを見た。
「これで……思いは達成されましたか?」
 レイオニールは動かなかった。
「あなたのやるべきことは終わったんです……今」
 動かない彼に近づきラシュディアはそっと仮面に手をかけた。手で押さえずともぴったりとくっついていたその仮面はまるで魔法のように静かに外れた。母体となっていた男の顔はもう生きていないことはすぐ判った。きっと仮面に塞がれて窒息死したのだろう。ルーエルはそっと男を横たえ、目蓋を閉じてあげた。
「おっちゃん。オレ、もっと勉強しますぜ。おっちゃんの夢、叶えてやるんでさ……だから、だから」
 ラシュディアの持つ仮面に鬼百合も手を触れてそう言うと、仮面は音もなく粉々に砕けた。
 崩れ去り地面に跳ね返る際に生まれる無機質な音が僅かな間続く。それが、声のように聞こえたのは鬼百合だけではない。
「ありがとう、と言ってましたね」
 レイレリアが静かに鬼百合に言い、鬼百合もしっかと頷いた。
「これは大事にしていかなくてはならないものです。依頼人の方にもくれぐれも使い方を誤らぬよう言っておきましょうか」
 フレイアの言葉に是非よろしくとラシュディアは言った。
「本当はもっと続けたかったんだろうけどね」
 アシェはルビーを見て呟いた。レイオニールの言動は明らかにまだ続ける予定だった。
「じゃあ、おっちゃんは……?」
 問いかける鬼百合を見てアシェは少し考えた後にっこりと笑った。
「君に後を任せたからだと思うよ」
 あの溢れるような正のマテリアルによって負のマテリアルが吹き飛んだとアシェは直感していたが、あえてそうは言わなかった。後に残された素材(マテリアル)にどんな命(マテリアル)を吹き込むかは遺された側に委ねられるものだから。
「喜びを祝わないとね。それが手向けってものさ」
 悪い気を残さない為にも、供養の為にも。
 崩れ去ったルビーと、新たなルビーの前にそれぞれ酒を置いたのであった。

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MVP一覧

  • 不空の彩り手
    アシェ・ブルゲスka3144
  • 瑞鬼「白澤」
    鬼百合ka3667
  • 六水晶の魔術師
    レイレリア・リナークシスka3872

重体一覧

参加者一覧

  • ボラの戦士
    アーシュラ・クリオール(ka0226
    人間(蒼)|22才|女性|機導師
  • 山岳猟団即応員
    ラシュディア・シュタインバーグ(ka1779
    人間(紅)|19才|男性|魔術師
  • ヒースの黒猫
    南條 真水(ka2377
    人間(蒼)|22才|女性|機導師
  • 掲げた穂先に尊厳を
    ルーエル・ゼクシディア(ka2473
    人間(紅)|17才|男性|聖導士
  • 不空の彩り手
    アシェ・ブルゲス(ka3144
    エルフ|19才|男性|魔術師
  • 瑞鬼「白澤」
    鬼百合(ka3667
    エルフ|12才|男性|魔術師
  • 六水晶の魔術師
    レイレリア・リナークシス(ka3872
    人間(紅)|20才|女性|魔術師
  • 英知へ至る道標
    フレイア(ka4777
    エルフ|25才|女性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 相談卓
レイレリア・リナークシス(ka3872
人間(クリムゾンウェスト)|20才|女性|魔術師(マギステル)
最終発言
2015/05/14 12:23:27
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/05/10 21:51:06