王都『観光』。のち、ハンターたち決意表明

マスター:柏木雄馬

シナリオ形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
寸志
相談期間
5日
締切
2014/07/09 19:00
完成日
2014/07/16 03:42

みんなの思い出

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オープニング

「皆さまに、王国を楽しんでいただきたいのですっ!」
 ──グラズヘイム王国王女、システィーナ・グラハムによって『主催』された『異世界から来たばかりのリアルブルーの人々やハンターになったばかりの人たちに王国を楽しんでもらおう』キャンペーン(【王国始動】)は、盛況のうちにその幕を下ろした。
 王城にも落ち着いた空気が戻り…… 謁見の間にてハンターたちを歓迎していた王女もまた、いつもと変わらぬ『執務』の日々へ──重要な、だが、一人の少女にとっては堅苦しいばかりの日常へと戻っていった。
 『祭り』は終わった。だが、『祭り』の精神は残された。
 王国を楽しんでいただきたい、との王女の指示は未だ王都に生きていた。今でもハンターたちが王城やハンターズソサエティ王都支部で申請すれば、手隙の者が王都観光の案内をしてくれる。

「えー、皆様、本日は王都・イルダーナをご来訪いただきまして、まことにありがとうございます」
 この日も王城前には『西方世界随一』とも詠われる王都を『観光』、もとい、『見学』すべく、ハンターたちが集まっていた。
 案内役の名はジェーン・ブロッグス。『グラズヘイム王立学校』の制服に身を包んだ若き女学生だ。王立学校は王国の最高学府であり、文官・武官を問わず王国の上級部門に仕官する人材を──即ち、王国の将来を担うエリートを教育──或いは、選抜──する為の学校である。そこの学生がなぜ、こんな所で案内役を務めているのかはわからない。おそらくはボランティア活動の一環か何かなのだろう。
「えー、私たちが今、いるこの場所は、王都の第一街区と呼ばれる区域です。王都イルダーナは、王城と大聖堂の並び立つ丘を中心に、6重の城壁が同心円状にグルリと囲んだ構造になっています。これは、1000年王国とも呼ばれるグラズヘイム王国王都が、その長い歴史の中で、大樹が年輪を重ねるが如く発展してきた足跡であると言えます」
 先導するジェーン──その手にはなぜかツアコンの如く、国旗が描かれた三角旗が振られている──の後をついて、ハンターたちは王城前から大聖堂の前へと回る。
「最も古い城壁の一つである第一城壁の内側は第一街区と呼ばれており、王国の政治に関わる大貴族の方々や、王室御用達の老舗の大商家、そして、政庁関係の建物が多く連ねる王国の政治の中心です。荘厳な建築様式で知られる王立銀行や王立劇場もありますが…… 第一街区と言えばなんといっても王城と大聖堂でしょう!」
 そこで先導していたジェーンがパッとハンターたちを振り返り、どうですか、と言わんばかりにその両手を広げてみせた。
 丘の上に建つこの2つの建造物は、王都の民たちから『王の翼』と呼ばれ、親しまれている。
 王城はいまさら言わずもがな……この王国の中枢である。王族の居城であると同時に、宰相や大臣などが詰める政庁としての役割も兼ねている。建築学的に見ても、1000年前の建築様式、その集大成とも言える豪奢──というより、華麗な建造物である──と、ジェーンが感想を口にする。
 そして、その王城に並んで建つは、聖ヴェレニウス大聖堂──この西方世界における聖堂教会の総本山だ。王国の民の多くが生涯に一度は巡るという、巡礼の旅の最終目的地でもある。
 その大聖堂へ向かう巡礼者たちの列を横目に、ハンターたちは第一城壁の門を抜け、第二街区へと入った。
 第二街区は下級貴族や上級騎士、大商人たちが多く住む、所謂、『山の手』の様な区域であるらしい。ハイソな人々を顧客とする服飾関係の人間が多く集まっていることでも知られ、この街区に住むことがステータスであると思う者も多いが、その様な新参者に対する住民の感情は良くはない。ちなみに、王立学校もこの街区に存在するが、下宿住まいのジェーンは毎日、下の街区から通って来るらしい。……もしかして、ボランティアでなくバイトなのか、と、思わず目頭が熱くなる。
 そんな案内を受けながら、一行は第二城壁城門の検問を経て、王都第三街区へ入った。王都で最も古いエリアの一つであり、最も賑やかなエリアでもある。第一・第二街区と違って平民たちが住む街区であるが、ここに住む人々は『先祖代々、王都の民』という矜持を多かれ少なかれ持っているという。歴史小説を読む人であれば『都時代の京都の人々』な雰囲気と言えば分かり易いか。
 更に壁を越え、第四街区── ここは職人が多く住み、第三街区とはまた違った華やかな活気に満ちている。この街区を一言で表すなら、『江戸っ子気質』といったところか。
 第五、そして、城壁を挟んだ第六街区は、王都でも比較的新しいエリアである。集合住宅や密集した住宅街等、下町的な街並が広がっており、王都内でも比較的下層に属する人たちが多く住むエリアであるが、それも王国首都として見苦しくない程度のものである。……というか、むしろ、売れない芸術家たちが一つのアパートに住んでいたり、安売り上等な露天商が軒を連ねる通りがあったり、とバイタリティに溢れた街区でもある。……もっとも、一本裏道の歓楽街には『狭くて怪しい店』が立ち並び、無許可営業やら、法律ギリギリやら、別の意味でのバイタリティにも溢れていたりもするのだが。

 かくして、ジェーンの案内に従って、ハンターたちは、王城からほぼ一直線──放射状に伸びた道の一つを歩いて各街区を回りながら、約半日かけて最後の──現状で完成している城壁の内、最後の──第六城壁の門を抜けた。
「現在の所、正式に王都と呼ばれる範囲は、先の第六街区まで、となります」
 第六城壁の検問官に挨拶を終えたジェーンが、その場に立ち尽くしたハンターたちを振り返る。
 王都を囲む最後の城壁──その門を抜けた先にも、だが、街は広がっていた。王都の建物に比べればずっと粗末な家々──石造り、レンガ造りの家は殆どない。多くは木を組んだだけの小屋の様な建物。それもまだマシな方で、中にはバラックとしか呼べないような建物もたくさんある。
 ハンターたちにとって最も印象的だったのは、窓枠の陰から、あるいは道端に立ち尽くしてこちらを見る人々の表情であった。活力のない、なにもかもを諦めたかの様なその瞳── 子供たちの遊ぶ声だけが、『路地裏』から響いてくる──
「5年前、先の歪虚の侵攻と、その後の混乱によって故郷を追われ、王国を頼ってここまで逃げ延びてきた難民の人たちです。国内だけでなく、外国からの避難民もいます。正式ではありませんが…… 通称で、第七街区と呼ばれています」
 慎重に表情を消し、淡々と言葉を紡ぐジェーンのガイドに声もなく…… ハンターたちは『第七街区』の中へと入った。
 街道沿いに建つ派出所から兵士が出てきて顔を出す。
 ジェーンは無言で兵士を手で制すると、ハンターたちを追って中へと入った。

リプレイ本文

「これが王都の『第七街区』…… 私も居たかもしれない場所、か……」
 目の前に広がる光景に、クラウス・エンディミオン(ka0680)は言葉をなくした。
 彼もまた歪虚により故郷を失った人間だった。生家が貴族であったこと、僅かながら蓄えがあったことで、今、こうしてハンターを続けられている。だが、一歩間違えれば自分もまた、彼等と同じ境遇であったかもしれない。
「……ここは妾の故郷と似ているでございますね」
 霊闘士として──辺境の戦士として齢と戦歴を重ねてきた老媼、ガルヴァート=キキ(ka2082)が言う。
 クレイン・プラウス(ka2384)は、そんな同行者たちの言葉にじっと耳を傾けていた。クレインは王都の商家の生まれ。ちゃきちゃきの王都っ子である。
(みなさまの目には、この街、この場所はどのように映るでしょうか)
 王都に住む自分たちにとっては、既に日常と化してしまったこの光景──外から来た人たちの視点に興味を抱いて、そっと皆の表情を窺う。
 リアルブルーから来た3人──リック=ヴァレリー(ka0614)、ヒースクリフ(ka1686)、弓月 幸子(ka1749)の3人は、個人差はあれどそれぞれショックを受けたようだった。
「俺の住んでいた辺りも大概、裕福なんかじゃなかったが……」
 呟き、汗を拭うリック。ヒースクリフはその場に座り込むこともなく、第七街区に『観察』の視線を流している。
「歪虚の侵攻が生み出した街…… ボクたちが戦っている雑魔なんて、敵の中のほんの一部でしかないんだね……」
 配給の列に並ぶ人々を遠目に見やりながら、幸子が呻くように呟いた。歪虚に侵されつつあるこの世界の現実を、この第七街区で改めて突きつけられた想いだった。
「……めんどくせぇけど、少し見て回るか」
 そのまま無言で街区へと歩き始めるヒースクリフ。慌ててその後を追うリックと幸子に追随しながら、クレインはどこかワクワクとした調子で異世界の同行者たちに話し掛けた。
「いつか、リック様たちの生まれ育った世界──リアルブルーの街をこうして歩いてみたいものです。きっと新鮮な驚きに満ちた…… とても豊かな世界なのでしょうね」

「本当にたくさんの…… 色んな人がいるのだね。……でも、いきなり自分の家に火をつけて旅立つエルフや、それに巻き込まれて家を焼かれた自分の様な人はさすがにいないだろうけど」
 皆の後について街区を歩きながら、興味深そうにきょろきょろと周囲を見回すリュトリア(ka0224)。その横で、クリスティン・ガフ(ka1090)はどこか居心地が悪そうにしながら、慎重に左右へ視線を目配せた。
 先程から自分たちに注がれる、不躾で無遠慮な視線──疲れ切り、路端に座り込んで、無気力な表情を浮かべながらなお、粘りつくような視線を送ってくる男たちに、クリスティンの身体に怖気が走る。
(さらしは……きっちり巻いたよな?)
 剣士として、年頃の女性として、自身の大きめの胸を気にしているクリスティンは、万事、行動を阻害せぬよう、その実をさらしで押さえつけていた。王城・第一街区からの観光ということでそれ相応の身だしなみを整えて来たのだが…… 或いはそれが裏目に出たか。
(いや、注目の的はどう見ても……)
 傍らのリュトリアに視線をやる。……歩く度にぽよんと揺れる豊かな胸に、肉付きの良い肢体。無警戒にあどけない表情を浮かべながら、隙のある可愛げな仕草で指先が金色の髪に踊る──
 男たちの欲望に気づいていないのか。或いは、動じていないのか。特に気にした様子も見せず…… やがて、屋台の様な商店が並ぶ賑やかな通りに出ると、リュトリアはなんとも無警戒な様子で小走りにそちらへ駆けていった。
 その背を半眼で見送りながらクリスティンは嘆息を一つ零し。道端の男たちに唸り声を上げるドーベルマンの『クロマメ』に先へ進むよう促すと、露店の中でも最も繁盛している様子の立ち飲み屋に顔を覗かせた。
「ご主人。何か小腹に溜まるものを頼む」
 礼節を保ちつつ、クリスティンが注文すると、どこか頑固そうな店主が無愛想に芋と豆とパンとを出してきた。
「最近の景気はどうですか?」
「良くはねぇな。壁向こうの連中はこっちの足許見やがるし…… それでも、壁の建設が始まってからは、少しはマシになってはきたが」
「壁?」
「建築中の『第七城壁』のことさ。この街からも作業員として大勢雇われているからな。おかげでここにも少しは金が回るようになった」
 ──5年前、西のイスルダ島から侵攻してきた歪虚の軍を迎え撃つべく、大きな戦が行われた。『ホロウレイドの戦い』と呼ばれるこの決戦によって、王国は歪虚の軍を追い返したものの、先王アレクシウス・グラハムを初め、多くの名だたる騎士と兵力とを失った。
 戦いは多くの難民と、第七街区を生み出した。そして、王国の再建は王家に残された唯一の王女、まだ歳若いシスティーナ・グラハムの双肩に掛けられた……
「皆さん、ご苦労なさったんですね……」
 幸子がしみじみと呟くと、周りの酔客たちが次々と己の苦労話を語り始めた。それを語る彼等の表情はどこか明るく、前向きなものに思えた。
「そうか! 城壁を作るってことは、そのうちここも正式に第七街区になるってことだね!」
 ハッと気づいた幸子の言葉に、そうなれば俺たちも王都の民だ、と、酔客たちが笑い声を上げる。
 路地裏から聞こえて来る子供たちの笑い、走り回る元気な声── 幸子にはそれが、救いと、希望の歌声に感じられた。

 一方、露店街にて「背中に七つの傷を持つ、筋骨隆々なエルフをこの辺りで見ませんでしたか?」と聞いて回っていたリュトリアは、生野菜を売る露店を見つけてそちらへと歩み寄った。
「皆、瑞々しい、おいしそうな野菜だね」
「うちの裏の畑で今日、採ってきたばかりの野菜だよ。……ここに来る前は農婦でねぇ。この辺りの土は固いけど、王国は精霊様のご加護の篤い土地だから」
 そのまま店先に座り込み、色つきの白湯を片手に話し込むリュトリアと店主のおばあちゃん。そこへやって来たリックにリュトリアが「おいしそうなお野菜だよ」と、土のついたままのにんじんをニッコリと勧めてみせる。
 どうしたものか、とリックが困惑をしていると、道の向こうで騒ぎが起こった。
 人ごみの中を走る1人の少年── それを数人の中年男が追っており…… 背後を振り返った拍子に足をもつれさせた少年が、ハンカチを敷き、道端の木の幹に寄りかかって座り込んでいたヒースクリフの足許に転がる。
「……ハッ。返す金がねぇのに逃げるたぁどういう了見だ、小僧! 『金の稼ぎ方』なら教えてやっただろうが。ビビリやがって。『親なし』の分際で粋がるんじゃねぇよ!」
 男たちは倒れた少年を取り囲むと、殴る蹴るの暴行を加え始めた。「高利貸しの悪党どもだよ」と八百屋の婆が小声で告げる。
「待て! 幾らなんでもやりすぎだろう?!」
「てめぇら…… 親がいねぇと、なんだってぇ?」
 リックに続き、ただならぬ気配を醸し出しながらゆらりと立ち上がるヒースクリフ。さらに立ち飲み屋から出て来たクリスティン、幸子がその場に加わる。
「ちっ。ハンター共かよ……! ヒーロー気取りか?! 歪虚の一つも滅ぼせねぇ癖に!」
 捨て台詞を残して逃げていく男たち。事の成り行きを見守っていた人々から歓声と喝采の声が上がるが、ハンターたちの胸中には苦いものが残された。
「……覚醒者なんていっても、ボクたちに出来ることなんて、ほんの少しでしかないんだよね」
 幸子がポツリと呟いた。

「城壁建築の作業に加わりたい、だって?」
 いきなり事務所に現れてそんな事を言ってきたクラウスを、担当の係官は胡散臭げに見返した。
 正直な所、ここの城壁建築の作業は、こんな所でなければ成立しないほどキツく、危険な現場である。他にいくらでも仕事があるハンターがわざわざ働いてみたいと言うような場所じゃない。
 だが、係官がどんなに婉曲に断っても、クラウスは申し出を取り下げなかった。
「一番、作業がキツい所に使ってくれ。報酬はなくても構わない」
 呆れつつも折れてくれた係官に礼を言って、クラウスは日雇いの作業員として現場に入った。ローブを預け、上質なドレスシャツとスラックス姿で、服が汚れるのも構わず、資材の運搬や組み立ての作業に従事する。
 最初は何事かと驚いていた作業員たちも、音も上げず、黙々と作業を進めるクラウスの仕事ぶりを見て何も文句は言わなくなった。
(やれやれ…… 我ながらなにをやってるんだか……)
 炎天下、汗と土に塗れながら、重い資材を運んで歩く。汗まみれになったドレスシャツは既に台無しになっていた。スラックスも既に膝や裾が擦り切れ始めている……
「わたくしにも、お手伝いさせてください」
 そんなクラウスの姿を見て、クレインもまたそんな事を口にした。えっ!? と驚く係官に、肉体労働以外の事で、とにっこりと笑いかける。
「先人もこうして6つの城壁を築いたのでしょう…… 少し不謹慎ですが、まるで秘密基地を作る時のようなワクワク感です」
 クレインは直接の作業ではなく、人や物の配置、作業の流れ具合の改善、道具の使い方等々、ソフトウェアに関する改善点を幾つか上げ、作業効率の向上を図った。
 それまでは適当に行われていた作業の流れが整理され、幾つかの作業が劇的に早くなった。これなら壁の完成もずっと早くなる、と、作業員たちの士気も上がる。
 だが、見回りにやって来た現場監督の役人──恐らくは家を継げなかった貴族の三男か四男坊──は、クレイン式を取り入れず、全ての配置を元に戻した。
「勝手な事はするな。こんな工事、別段、急いだところで何の意義もありはしない」
 クレインはそれを見守るしかなかった。彼女のした事はあくまでも『お手伝い』──現場を変える権限はない。
 だが、役人が現場を立ち去ると…… 作業員たちはしれっとした顔で再びクレインの指示した位置に戻っていく。
 クレインは笑った。『商人の居場所は、人と人との間にこそ』──人がいれば、物が動く。力強く生活を営む人々に触れ、クレインは改めてその事実を実感する……

 夕方── 全ての作業を終え、切り出した石の上に座るクラウスに、露店街を抜けて来たリュトリアが差し入れを持って来た。
 クラウスは手拭──手拭も持たずに現場に出るなんて! と係官が貸してくれた──を元に戻すと、その差し入れ──さらっとした野菜ジュース──を飲んで軽く目を瞬かせる。
「壁作りをしてみた感想は?」
「思っていたよりもキツかった……が、私には比較対象となる経験がないからな」
 クラウスは言った。人の良い係官や真面目な作業員たちもいれば、頭の固い役人やさぼる作業員もいる。希望を抱く者も、絶望に抱かれる者も。だが、まぁ、概ね、人の社会とはそういったものなのだろう。
「……ここは妾の故郷と似ている。ここには、貧しさの中にも、活きる活力に溢れているでございます」
 それまで無言で若者たちを見守り続けてきたガルヴァートが、おもむろにそう語りだした。
 力なきものは容赦なく淘汰されるこの時代。人は寄り添い、力に抗う。ガルヴァートの故郷である『辺境』もまた、そういった処であった。──いつ終わるとも知れぬ歪虚との戦いの日々。死がいつも隣にあったかの地で生き残るには、協力し合うことが必須であった。
 だからこそ、ガルヴァートは霊闘士になった。過酷な自然と、受け継がれる想いとをその胸に抱き、歪虚と戦うもの──それが霊闘士の祖であると彼女は聞き及んでいたが故。
「妾は確かに老いました。最盛期の力と勢いはもはや失われてひさしゅうございます。……ですが、妾の力と知恵が必要とされる限り、妾はまだまだ現役であり続ける所存でございます。例えそれしか出来ずとも、妾は死ぬまで霊闘士、いえ、死しても霊闘士でございます」
 例え妾が死しても、想いは、願いは受け継がれるもの。自身も先達の想いや意思をこの傷だらけの身体に背負っている。
 ガルヴァートの言葉に、リックはハッとした。
 確かに、覚醒者に出来ることはほんの少ししかないのかもしれない。それでも、引き継いだ他者の想いや……この自分の胸に湧き出す想いに意味がないとは思えない。
「たとえ世界は違っても、みんな今日を一生懸命、生きている…… だから、俺も守りたい、って、そう思ってハンターになったんだ」
 ギュッと拳を握るリック。──母を目標に生きてきた。けど、なにをやっても空回りでいつも途中で投げ出してきた。この世界に来てハンターになったものの、どう生きたいのか迷っていた。だが、今、王国で生きる人々の姿を目の当たりにして……脳裏に浮かぶは、一人のエルフの少女の姿。その笑顔を見たいと言うこのどうしようもなく淡い何かが、この世界で、この世界の人々の為に命を懸けてもいいとの確信に変わる。
(クリムゾンウェストの平和の為に戦いたい……! 俺、間違ってないよな、母さん)
「ボクも! ボクも、ボクの力をここの人たちの為に使っていきたい。そして、ここの様な場所を増やさない為にも、ボクは戦っていきたい。ハンターとして!」
 幸子がその決意を語ると、クリスティンもまたそれに続いた。
 クリムゾンウェスト式に踵を合わせて姿勢を正し。刀の鞘を縦に掲げて柄を握り、決意と共にそっと刀身を鞘走らせる。
「戦う為の手段としてハンターになった己の根源は変わらぬが、そこに加えて新たに誓おう。可能な限り希望的観測は廃しつつ…… その上で、どのような手段を用いてでも、歪虚が作用したこの現実に抗い、戦い抜いてみせる。誰よりも厳しく、闘狩人として」
 そうして音高く刀を戻し、リアルブルー式に金打をして誓いとするクリスティン。
 クレインもまた頷いた。歪虚というものは全てを無に帰す存在だと言う。人々のふれあい、言葉や感情さえもこの世界から消え去ってしまう──そんなのはちっともワクワクしない。
 ヒースクリフはまだ悩み続けている。ここで俺は何が出来て、何を見つけられるのだろう……
 リュトリアは悩まない。前に依頼で人を救った。救えなければその人は今頃この第七街区にいたかもしれない。今後、守り切れなければそういう人も増えるのだろう。とは言え、それを気負った所でそれは私らしくなく…… まあ無理にならない程度に最善を目指していくさ。
「何ができるか、何処までいけるか、まだ何もわかりませんが……」
 クレインはそう呟くと、改めて皆にニッコリと笑いかけた。
「同じ覚醒者となった皆様を見ていて、これから出会う様々な世界に、また少しワクワクしています」
 不謹慎でしょうか、と笑うクレインに、ハンターたちはそれぞれ顔を見合わせ、苦笑した。

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参加者一覧


  • リュトリア(ka0224
    エルフ|20才|女性|闘狩人
  • 一日パパ
    リック=ヴァレリー(ka0614
    人間(蒼)|18才|男性|闘狩人

  • クラウス・エンディミオン(ka0680
    人間(紅)|34才|男性|霊闘士
  • 天に届く刃
    クリスティン・ガフ(ka1090
    人間(紅)|19才|女性|闘狩人
  • 絆の雷撃
    ヒースクリフ(ka1686
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • デュエリスト
    弓月 幸子(ka1749
    人間(蒼)|15才|女性|魔術師

  • ガルヴァート=キキ(ka2082
    エルフ|87才|女性|霊闘士

  • クレイン・プラウス(ka2384
    人間(紅)|15才|女性|聖導士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 王都観光
リュトリア(ka0224
エルフ|20才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2014/07/08 18:58:38
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/07/03 19:01:51