ゲスト
(ka0000)
絶火の騎士
マスター:神宮寺飛鳥

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/15 07:30
- 完成日
- 2015/05/22 03:49
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
カルステン・ビュルツにとって、ヴィルヘルミナ・ウランゲルは憧れであった。
二人は互いの素性を知らぬまま、ただ少年と少女として出会い、冒険者として共に世界を渡り歩いた。
少年には夢があった。それは帝国最強の槍使いになる事。
そして少女にもまた、夢があった。それは――世界を救う、正義の味方になる事だった。
「――何故、見殺しにした?」
焼け落ちた村に大人達が戻ってきたのは、全てが終わった後。
雑魔の襲撃を受けた帝国のある村は壊滅的な打撃を受けた。
殆どの村人が避難した所で、たまたま近くにいたヴィルヘルミナが駆けつけ雑魔を殲滅した。それは英雄的働きであった。
村人達は彼女を讃えたが、当人はくすりとも笑わず、神妙な面持ちで振り返る。その腕には血に染まった少女が抱えられていた。
「そう強い歪虚ではなかった。村の大人達が力を合わせ抵抗すれば、この子達を救う事も出来た筈だ」
弱い者は死んだ。逃げ遅れた少女も少年も老人も死んだ。彼らが死んでいる間に、大人達は逃げ出す事が出来た。
「俺達は覚醒者でも軍人でもない。歪虚に襲われたら逃げるしかなかったんだ」
口々に吐出される、罪を正当化するだけの言葉。それは矛先を変え、都合の良い英雄への賛歌に変わる。
人々に感謝され喝采の中に身を置いた少女は、常に救えなかった誰かの血に拳を握り締めていた。
「何故、抗わない。何故戦わない。何故無力を言い訳にする。何故……強者に蹂躙されるままなのか」
小さな墓標の前で、少女は何度も繰り返した言葉を口にした。
「弱さは罪だ。そして英雄は罰に過ぎない。革命を起こしても世界は変わらなかった。弱者がより弱い者を貪る。英雄では何も救えない。正義の味方に、私はなれなかった」
「あんたはよくやったじゃねぇか。あんたが居たから救えた命がある」
「全てを救えぬ正義に価値はない。“救われるだけ”の命にもな」
少女は結んだ赤い髪を靡かせ、腰から提げた剣の柄を握る。
「――力が要る。世界を変え、人を変えるだけの力が」
「人類を教育するつもりか?」
「そんな大それた事は考えていないよ。私は……そう。今日よりも明日が、少しでも希望に満ちていればいいと、そう願っているだけだ」
彼女は人を救う為に戦い続けた。弱者を救う為に刃を振るう度、少女の心は凍てついた。
いつしか誰かを救う事を喜ばなくなり。笑う事もなくなり。感謝の言葉に胸揺さぶられる事もなく。正義は作業と成り果てて。
救う為にその何倍も殺し、それでも救えなかった者達の亡骸を踏み越え、やがて少女は人としての生き方を捨てた。
当たり前の心では辿り着けない。理想を、正義を成すには絶対的な意志が要る。
幸福は要らない。迷いも要らない。ありとあらゆる人間性を犠牲にした狂気の果てにこそ、祈りは成就する。
気づけばとても遠い所に行ってしまったその背中についていけず、少年は足を止めた。
表舞台に上がった彼女を受け入れられないまま、男はずっと逃げ続けていた――。
「……いよいよアネリブーベ送りか?」
バルトアンデルス城の地下拘留所の扉が開く音にカルステンは顔を上げた。
そこには第一師団長であるオズワルドの姿があった。青年は顔を顰め、ゆっくりと立ち上がる。
「日程が決まった。お前には絶火隊の新生に辺り、試験官を担当してもらう」
「待て。俺は引き受けたとは言ってない」
「テメェの意志は関係ねェ。これは皇帝陛下の決定だ」
二人は鋭い眼差しを衝突させる。長い沈黙の後、老人は溜息を零し。
「いつまで腐ってるつもりだ。ガキのまんまか、テメェは」
「誇りを捻じ曲げ、大切な物を売り払うのが大人なら、俺はガキで十分だ」
「はン。俺も本来テメェみたいな半端モンを使うのは反対なんだよ。ヴィルヘルミナさえお前を見捨てりゃ、さっさとゼナイドに押し付ける物を」
「ンだとジジイ……?」
葉巻に火を点け、ふっと紫煙を吐き出す老人にガンくれるも、まるで動じる気配もない。
「国を想う気持ちがあるのなら、それを正しく発揮しろ。ただ剥き出しの牙を振り翳す者は騎士にあらずだ」
「主を裏切った騎士に言われたかねぇな」
「主を定めず騎士にすらなれないテメェとどっこいどっこいだろうよ。現実が気に食わねェのならぶつくさ文句言ってねェで自分の力で変えてみろ。何もしねェでグダグダ抜かすだけの男はなァ、ただの負け犬なんだよ」
投げ渡された絶火隊に関する書類の束にカルステンは眉を潜める。
「文句があンならいつでも相手になってやる。だがそれは一人前の男のやることだ。この活動はテメェ自身の試験でもある。俺はテメェを絶火隊に認めたわけじゃねェからな」
「……待て! ヴィルヘルミナは無事なのか? 四霊剣と戦って負傷したと聞いたが……」
「テメェみたいな軍人ですらないチンピラ風情に教えると思うか? 皇帝陛下はテメェみたいな負け犬がまともに口を利ける相手じゃねェんだよ」
カルステン愛用の槍と、手荷物を詰め込んだ袋、そして第一師団兵舎の鍵を次々に投げつけ老人は去っていく。
「部屋はそこを使え。ヴィルヘルミナが見限るまでは置いてやる」
「いや、俺は……」
「男なら女を、騎士ならば民を守ってみせろ。少なくともテメェの親父は騎士だった。テメェと違ってな」
去っていく背中を見送り、青年は拳を握り締める。
「それが…………殺した息子に言う事かよ」
理屈では理解している。自分のようなやり方では世界は救えないし、何も変えられないと。
それでも守りたいと思った女がいた。きれいだと、その夢に憧れた女がいた。
「俺は……」
父親の形見である槍に目を向ける。主を持たない騎士に、その矛先を考えるべき時が迫っていた。
二人は互いの素性を知らぬまま、ただ少年と少女として出会い、冒険者として共に世界を渡り歩いた。
少年には夢があった。それは帝国最強の槍使いになる事。
そして少女にもまた、夢があった。それは――世界を救う、正義の味方になる事だった。
「――何故、見殺しにした?」
焼け落ちた村に大人達が戻ってきたのは、全てが終わった後。
雑魔の襲撃を受けた帝国のある村は壊滅的な打撃を受けた。
殆どの村人が避難した所で、たまたま近くにいたヴィルヘルミナが駆けつけ雑魔を殲滅した。それは英雄的働きであった。
村人達は彼女を讃えたが、当人はくすりとも笑わず、神妙な面持ちで振り返る。その腕には血に染まった少女が抱えられていた。
「そう強い歪虚ではなかった。村の大人達が力を合わせ抵抗すれば、この子達を救う事も出来た筈だ」
弱い者は死んだ。逃げ遅れた少女も少年も老人も死んだ。彼らが死んでいる間に、大人達は逃げ出す事が出来た。
「俺達は覚醒者でも軍人でもない。歪虚に襲われたら逃げるしかなかったんだ」
口々に吐出される、罪を正当化するだけの言葉。それは矛先を変え、都合の良い英雄への賛歌に変わる。
人々に感謝され喝采の中に身を置いた少女は、常に救えなかった誰かの血に拳を握り締めていた。
「何故、抗わない。何故戦わない。何故無力を言い訳にする。何故……強者に蹂躙されるままなのか」
小さな墓標の前で、少女は何度も繰り返した言葉を口にした。
「弱さは罪だ。そして英雄は罰に過ぎない。革命を起こしても世界は変わらなかった。弱者がより弱い者を貪る。英雄では何も救えない。正義の味方に、私はなれなかった」
「あんたはよくやったじゃねぇか。あんたが居たから救えた命がある」
「全てを救えぬ正義に価値はない。“救われるだけ”の命にもな」
少女は結んだ赤い髪を靡かせ、腰から提げた剣の柄を握る。
「――力が要る。世界を変え、人を変えるだけの力が」
「人類を教育するつもりか?」
「そんな大それた事は考えていないよ。私は……そう。今日よりも明日が、少しでも希望に満ちていればいいと、そう願っているだけだ」
彼女は人を救う為に戦い続けた。弱者を救う為に刃を振るう度、少女の心は凍てついた。
いつしか誰かを救う事を喜ばなくなり。笑う事もなくなり。感謝の言葉に胸揺さぶられる事もなく。正義は作業と成り果てて。
救う為にその何倍も殺し、それでも救えなかった者達の亡骸を踏み越え、やがて少女は人としての生き方を捨てた。
当たり前の心では辿り着けない。理想を、正義を成すには絶対的な意志が要る。
幸福は要らない。迷いも要らない。ありとあらゆる人間性を犠牲にした狂気の果てにこそ、祈りは成就する。
気づけばとても遠い所に行ってしまったその背中についていけず、少年は足を止めた。
表舞台に上がった彼女を受け入れられないまま、男はずっと逃げ続けていた――。
「……いよいよアネリブーベ送りか?」
バルトアンデルス城の地下拘留所の扉が開く音にカルステンは顔を上げた。
そこには第一師団長であるオズワルドの姿があった。青年は顔を顰め、ゆっくりと立ち上がる。
「日程が決まった。お前には絶火隊の新生に辺り、試験官を担当してもらう」
「待て。俺は引き受けたとは言ってない」
「テメェの意志は関係ねェ。これは皇帝陛下の決定だ」
二人は鋭い眼差しを衝突させる。長い沈黙の後、老人は溜息を零し。
「いつまで腐ってるつもりだ。ガキのまんまか、テメェは」
「誇りを捻じ曲げ、大切な物を売り払うのが大人なら、俺はガキで十分だ」
「はン。俺も本来テメェみたいな半端モンを使うのは反対なんだよ。ヴィルヘルミナさえお前を見捨てりゃ、さっさとゼナイドに押し付ける物を」
「ンだとジジイ……?」
葉巻に火を点け、ふっと紫煙を吐き出す老人にガンくれるも、まるで動じる気配もない。
「国を想う気持ちがあるのなら、それを正しく発揮しろ。ただ剥き出しの牙を振り翳す者は騎士にあらずだ」
「主を裏切った騎士に言われたかねぇな」
「主を定めず騎士にすらなれないテメェとどっこいどっこいだろうよ。現実が気に食わねェのならぶつくさ文句言ってねェで自分の力で変えてみろ。何もしねェでグダグダ抜かすだけの男はなァ、ただの負け犬なんだよ」
投げ渡された絶火隊に関する書類の束にカルステンは眉を潜める。
「文句があンならいつでも相手になってやる。だがそれは一人前の男のやることだ。この活動はテメェ自身の試験でもある。俺はテメェを絶火隊に認めたわけじゃねェからな」
「……待て! ヴィルヘルミナは無事なのか? 四霊剣と戦って負傷したと聞いたが……」
「テメェみたいな軍人ですらないチンピラ風情に教えると思うか? 皇帝陛下はテメェみたいな負け犬がまともに口を利ける相手じゃねェんだよ」
カルステン愛用の槍と、手荷物を詰め込んだ袋、そして第一師団兵舎の鍵を次々に投げつけ老人は去っていく。
「部屋はそこを使え。ヴィルヘルミナが見限るまでは置いてやる」
「いや、俺は……」
「男なら女を、騎士ならば民を守ってみせろ。少なくともテメェの親父は騎士だった。テメェと違ってな」
去っていく背中を見送り、青年は拳を握り締める。
「それが…………殺した息子に言う事かよ」
理屈では理解している。自分のようなやり方では世界は救えないし、何も変えられないと。
それでも守りたいと思った女がいた。きれいだと、その夢に憧れた女がいた。
「俺は……」
父親の形見である槍に目を向ける。主を持たない騎士に、その矛先を考えるべき時が迫っていた。
リプレイ本文
絶火隊追加隊員試験記録報告書。
記録者、カルステン・ビュルツ。
絶火隊隊員試験の参加希望者は当初の想定数を大きく上回り、抽選により六名の男女が選ばれた。
これは完全にランダムだ。コロッセオの前に集まった連中を追い返すのには苦労した。
絶火隊制度は、隊員にとって決して特にならない。だというのに集まった連中には、俺も興味を持っていた。
まずは面接、それから実技試験という事で、一人一人に調書を取りつつ部屋に入って貰うことにする。
「俺は人を守る者であるようにしている。無論、敵となる者から攻撃を引き受ける……という事でもあるが」
グライブ・エルケイル(ka1080)。若い頃の実験で片腕を失ったという機導師。APVにも所属。
「歪虚であったり、権力だったり……あらゆる不条理に、人が生きる事を諦めてしまわぬよう……拠り所を失った人が、この世界も腐りきったモノではないと思えるように」
見た目はイカついオッサンだが、言ってる事は優しい。甘すぎるくらいだ。
「私情にはなるが……近頃、元々人だった歪虚を交えることが何度かあった、強い力を持った歪虚だ」
いや流石に俺も知ってるぞ。アレクサンドルなんちゃらだろ。十三魔だ。よく生きて帰ったなこいつ。
「詳しくは分からないが、生前は医者だった男のようだ。しかし、何かのきっかけで人に絶望し、歪虚へ堕ちたのだと……そう聞いている」
クライブは暫くアレクサンドルについて語っていた。やや話が逸れたようにも思うが、聞いているとこうだ。
「そいつとはこれからも刃を交えるつもりではあるが……それよりも先に、そいつの関係した過去について知る必要がある……と、思ってな」
「歪虚の事情に首突っ込むつもりか? お人好しだな」
「……自覚はしている。仮にそれが人の罪だったとしても、俺が“人の味方”として対峙できるように。そしてそれがねじ曲がっている事実なら、それを正せるように、腹を括る覚悟が必要だと思った」
「相手の事情なんか知って、本当にそのまま戦えんのか?」
「人を守る為ならば、そうせざるを得まい」
絶火隊は汚れ仕事も多い。影でコソコソ動き回る事になる。
そういう卑怯な仕事を続けていけるのか、やや疑問に思う。この男は誠実に過ぎるのだ。
それがこれから先、人の闇に迫って尚、理想を追いかけられるのだろうか?
「より自由に活動し、より多くの自由を得る為に絶火隊へ参加する」
パープル(ka1067)。本名不明。郊外の森で自給自足生活をしていると笑顔で言っていた。ガーディナ所属。
不動作戦で皇帝と共闘経験あり、か。
「俺自身、何ものにも縛られない自由を求めている。俺の自由に干渉されず、他人の自由にも干渉しない。紅でも蒼でも無い。国にも人種にも縛られない。そんな自由を得るには、絶火隊に入るのは一つの選択肢だと思った。何せ、帝国からは行動の干渉を受けない事が約束されている」
仰る通りで。
この制度の最大の特徴は隊員の自由と主権が守られている所だ。
面接の間こいつはずっと“自由”について語っていたが、ある意味において適任だろうか。
「俺は、最大の自由の侵害である“命を奪う”を忌避している。国や人が、命を軽視する様な行動を起こしたら、俺はそれを阻止する。 命こそ、自由の源であり、それを護るのが俺の願いだからだ」
「死んだら何もできなくなる、って事ね」
「場合によっては俺の存在は帝国にとって目障りかも知れない。だが絶火隊になってもならなくても、俺の行動は変わらない」
「いや。絶火隊は帝国そのものの監視装置でもあるんだ。もし帝国が間違っていたのなら、正すとこまでが仕事だ」
「なら俺にはぴったりだな」
「余談だが、俺の知ってる絶火隊はだいたい自給自足生活をしてるぞ」
「そうか。とりあえず、どこに放り出されても生活していける自信はあるよ」
政治的主張なし。所属勢力に拘りなし。活動に関してはふわっとしているのが気になるが、扱いやすくはあるか?
しかし、だからこそ高度に組織的な事件に深く潜入したりするのは苦手だろうな。
「俺の行動で以て、人間の自由と命を護る。それが帝国内、ひいては世界に届き、政府側でも民衆側でもどっちでも良い。何かが変わる切欠にでもなれば良いと思っている」
「このデスドクロ様が名乗りを上げた段階で隊長は決まったようなモンだろ。部下の顔くらいは覚えておかねぇと仕事もやり辛ぇだろうしな、ガハハ!」
デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)。本人は否定しているがリアルブルー人。まさかのAPV所属。
ランダムとは無情である。なんかもっと騎士っぽい奴他にもいたろ。
「志望動機っつーか、俺様の今後の活動内容はズバリ、ロジスティクス。物流だ」
「はい?」
「世界を守る、なんてデケェ話になると、素人は戦う力にばかり目がいきがちだ。だが暗黒皇帝足る俺様クラスになると目線が違うぜ。必要な時に、必要な場所に、必要なだけモノを用意できたら世界は変えられるてなァ!」
帝国国内では以前から国内に鉄道路線を整備し、歪虚対応兵力や物資の輸送を高速化しようという話があると聞いた。
男はそれをより機械的に、高度に行う為にプランを練っているという。
「一朝一夕にいくわきゃねぇ。だが十年先、百年先を見越して動くのがトップに立つ者の宿命よ」
「それはいいと思うが、実業家志望なのか?」
「俺様は既に臣下を率いる身ではあるが、その席はマックスの666まで余裕がある。絶火隊全員を部下にしてやってもいいぜ」
まあ、具体的な活動のビジョンがあるのは評価すべきか。
「絶火隊として活動する事が、あんたにとってはプラスになるかどうかは微妙だけどな」
実際、絶火隊の中には実業家もいると聞く。だが絶火隊だから実業家になったのではなく、実業家だから絶火隊になれたわけだ。
今はまだ大成していないデスドクロを隊員にしてどうするんだ、という気はする……。
「救う、こと……俺もまだ、何を以ってすれば人を救えるのか、見出せてはいません。ただ、出来うる全てのことを……」
カムイ=アルカナ(ka3676)。見た目からして軍人ぽい上に凛とした顔立ちだが、やけにあがっている。魔術師協会広報室所属。
「……まあ、茶でも飲んでゆっくり話してくれ」
「お心遣い、感謝します……」
既に所属している組織でも“救済”を目的に掲げ活動しており、絶火隊にも興味を持つ。
「この国を、世界を救済する事は、俺の目的に……大切な人の居る場所を守る事に繋がりますから」
「身近な者の為に世界を守る、か」
「どうかなさいましたか?」
はぐらかしつつ話を進める。
カムイは元々辺境の産まれであり、人買いに取引され何やら胸糞悪い人生を送ってきたようだ。
「騎士ではなく、個人だからこそ出来る動き方で、帝国を守れたらと思っています」
孤児や浮浪者、つまり力のない者達に味方し、孤立しないように働きかける。
その活動方針や過去が自分と似通っているので、何となく感情移入しそうになる。
「外から来る敵を退ける事だけが、救う事ではない……と、思うんです。生き延びる術を知るのは、戦い方を知るよりも大切、なのではないかと……」
「人を育て、抜本的に弱者をなくす、か。絶火隊の主張としては恐ろしく正しいな」
とはいえこいつ……すげー素直そうなんだよな……。
裏の仕事、ちゃんと出来るんだろうか。学校の先生の方が向いてないか?
あんまり嫌な仕事、させたくねぇな。
「宙軍に居たときから大して志は変わってませんが“脅威となるものから力無い市民を守るため”でしょうか? もちろん、この場合の脅威とは歪虚の事だけを指しているものではありません」
水城もなか(ka3532)。リアルブルーの元軍人。諜報部隊所属、ついでにAPV。
「主に行うのは情報収集になると思います。ですが、場合により人を守るために人を斬る事もあるでしょう……帝国の闇の部分は少なからず見てきているつもりですから」
確かに、これまでに何度か帝国の事件を解決している実績がある。これはデカいな。
元諜報員というのも適した素養であると言える。絶火隊も主戦力は元軍人とかだしなあ。
「カルステンさんについては報告書の方で少し拝見しましたが、念のため確認しておきたいことが……」
「何だ?」
「まずは、反政府勢力との繋がりの真意です」
そこをちゃんと気にしてきたのは思えばこいつだけであった。
「……何故笑っているのですか?」
「いや。まず味方を疑えるというのは高得点だ」
「ここでこうして試験管をしているのも演技だとするなら、大した狸ですね」
無言で見つめ合う。どう答えたものか考えていると……。
「戦えばかなり強いとお聞きしていますが、帝国を……皇帝を想っているなら、なぜその力を国のために使おうとしないのですか?」
「自分なりには使ってきたつもりだ。だが、それが独り善がりだったと、お前たちハンターに気付かされたのさ」
「それは、今は反政府組織とは繋がっていないと信用しても良いと?」
「元々そういう立場だったから出来る事もある……と、思う」
「微妙に自信なさげな感じですね……?」
……すいません。
そもそもリアルブルー人はこの世界において中庸だ。元諜報員という事も相まって、もなかの適性は高いと言える。
「すみません、コロッセオまではちゃんと来られたんですけど、その後何か色々あって、自分でもわからないんですけど!」
エリー・ローウェル(ka2576)。所謂密教のシスター。何か使命を帯びているらしいが、まずは水でも飲め。APV所属。
「も、もしかして遅刻ですか……?」
「いや、前の奴に根掘り葉掘り聞かれて時間くってたから大丈夫だ」
額の汗を拭き、ほっと胸を撫で下ろしてからエリーは語り出す。
「世界を守り、救いたいからです!」
「……それだけ?」
「はい! え? 変ですか?」
いや変ではないが。
「ただ人が笑って、美味しいご飯を食べてぐっすり眠る。そんな世界になったらいいなって」
「随分お気楽なんだな」
「あはは、良く言われます。そういえば、試験管さんはどうして絶火隊になったんですか? 失礼かもしれませんが、先輩の考えを聞いてみたいな、って」
「いや、俺は……」
まだ絶火隊ではないのだが。理由、理由か……。
「……皆が笑っていられる世界にしたかったから、かな?」
「じゃあ私と一緒じゃないですか!」
そうなのかもしれない。
こいつにとって、それは普通の事なんだ。俺が昔誰かを守りたいと思ったように、その気持を今でも忘れずに保っている。
「皆の幸せを守りたいんです。そして、敵にも救いを与えたいな、って」
「甘いな」
「それは承知してます。だから、意識を一つ上にあげたいんです。強くなれば、悔しい想いをせずにすむから……」
ぐっと胸の前で拳を握り、エリーは笑う。
「あ、でも強いて言うなら笑顔でいたいです。ほら、かっこいい名前の部隊に入ったら肩凝っちゃいそうで、私自身柔らかくいたいなって」
何だか妙な気分になった。
こいつは昔の……まだ冒険者だった頃のヴィルヘルミナに、そして俺にも似ている気がした。
「頑張れよ」
意味もなくそんな言葉を口にして、俺はペンを置いた。
「実技試験はカルステンさんと戦えばよいのでしょうか? それとも参加者同士で?」
もなかの質問に俺は両方と答えた。巨大なコロッセオが今日は貸し切りだ。
「戦闘技術の確認ってか。オーケーオーケー、ま、そういうモンも必要だろうしな。だが俺様が全力で戦っちまったら、シングスピラ一帯が焼け野原になっちまう。【ダークコズミックブレイカー】【超絶地獄紅蓮剣】【デスドクロハイパービーム】……この三つの究極奥義は封印した上で相手させてもらうが、それで構わねぇな?」
逆に気になるわ! デスドクロ……こいつは大成しそうな気がする。
実際、この試験において集団戦を意識したのはこの男だけだった。
絶火隊は集団行動は取らないが、現地兵力を纏める即席のチームワークは必要だ。
クライブは言葉の通り、守備を重視した戦闘スタイル。同じ人間相手に積極的に攻めないというのも理由の一つだろうか。
パープルは距離を保って立ち回る、ゲリラ戦に向いていそうな動きだ。つくづくこの男は単独行動が得意そうである。
もなかは戦闘は苦手と言っていたが、動きは思い切りが良い。この辺りは元軍人らしいか。元々隠密行動をするのなら、戦闘は一瞬でケリがつくものだし。
カムイは所謂ガン攻め。正直な所、この中では実力不足が目立つ。孤立しがちな絶火隊では、この戦い方は死んでしまいそうで心配だ。
「獅子は勝利の象徴、だと……聞きましたから。微力であれども、共に戦う仲間を守る意思に変わりは……ない、です」
「心意気は汲むが、あんまり死に急ぐなよ」
「次は私ですね!」
エリーは大剣二刀流という見た目よりいかついスタイルだ。最近こうなったらしい。
実戦経験は少ないと言っていたが、死ぬほど頑丈で、クライブとこいつだけが俺の攻撃でノックダウンしなかった。
やはりというか、クライブ、エリー、カムイらは正直というか、孤立状況で命を落としやすい予感がする。
パープルともなかは、単独生存率が高そうだ。デスドクロは現地の兵力をまとめる気質がある。過去の報告書を見てもそういう傾向が強い。
「はい。では試験はここまで。追って結果を通達するので、今日は帰ってよし」
最終適性評価。
デスドクロ・ザ・ブラックホール、B。
問題解決能力の高さを期待。言動に難はあるが、建設的思考の持ち主。
パープル、B。
単独行動能力が最高評価。組織潜入調査等に不適切の可能性。
クライブ・エルケイル、C。
誠実で堅実な人柄だが、甘さが目立つ。強力な歪虚との実戦経験は高く評価。
エリー・ローウェル、C。
正直な人柄で、任務の為に自分を偽れるか疑問。但し、生存能力は著しく高い。
水城もなか、A。
元軍人で精神安定。絶火隊の任務に適切な能力を持つ。事件解決実績あり。
カムイ・アルカナ、C。
絶火隊として適切な活動が見込めるが、単独行動に危険が伴う。戦闘技術鍛錬も必要。
数日後、試験参加者に手紙が届いた。
それは、全員を絶火隊候補として予備登録を行った、という内容であった。
『諸君らは栄誉ある絶火隊、その候補生として登録された。今後諸君らの活躍は騎士皇ヴィルヘルミナにより評価され、然るべき貢献を積んだ後、正式に絶火隊の一員として迎え入れる物とする』
人を守り。悪を砕き。歪虚を滅ぼし、世界を救済せよ。
諸君らは60名を代表する新たな絶火隊制度の先駆けである。
高い志と向上心を忘れず、救世主足らんことを期待する。
――ゾンネンシュトラール帝国皇帝、騎士皇ヴィルヘルミナ・ウランゲルより。
記録者、カルステン・ビュルツ。
絶火隊隊員試験の参加希望者は当初の想定数を大きく上回り、抽選により六名の男女が選ばれた。
これは完全にランダムだ。コロッセオの前に集まった連中を追い返すのには苦労した。
絶火隊制度は、隊員にとって決して特にならない。だというのに集まった連中には、俺も興味を持っていた。
まずは面接、それから実技試験という事で、一人一人に調書を取りつつ部屋に入って貰うことにする。
「俺は人を守る者であるようにしている。無論、敵となる者から攻撃を引き受ける……という事でもあるが」
グライブ・エルケイル(ka1080)。若い頃の実験で片腕を失ったという機導師。APVにも所属。
「歪虚であったり、権力だったり……あらゆる不条理に、人が生きる事を諦めてしまわぬよう……拠り所を失った人が、この世界も腐りきったモノではないと思えるように」
見た目はイカついオッサンだが、言ってる事は優しい。甘すぎるくらいだ。
「私情にはなるが……近頃、元々人だった歪虚を交えることが何度かあった、強い力を持った歪虚だ」
いや流石に俺も知ってるぞ。アレクサンドルなんちゃらだろ。十三魔だ。よく生きて帰ったなこいつ。
「詳しくは分からないが、生前は医者だった男のようだ。しかし、何かのきっかけで人に絶望し、歪虚へ堕ちたのだと……そう聞いている」
クライブは暫くアレクサンドルについて語っていた。やや話が逸れたようにも思うが、聞いているとこうだ。
「そいつとはこれからも刃を交えるつもりではあるが……それよりも先に、そいつの関係した過去について知る必要がある……と、思ってな」
「歪虚の事情に首突っ込むつもりか? お人好しだな」
「……自覚はしている。仮にそれが人の罪だったとしても、俺が“人の味方”として対峙できるように。そしてそれがねじ曲がっている事実なら、それを正せるように、腹を括る覚悟が必要だと思った」
「相手の事情なんか知って、本当にそのまま戦えんのか?」
「人を守る為ならば、そうせざるを得まい」
絶火隊は汚れ仕事も多い。影でコソコソ動き回る事になる。
そういう卑怯な仕事を続けていけるのか、やや疑問に思う。この男は誠実に過ぎるのだ。
それがこれから先、人の闇に迫って尚、理想を追いかけられるのだろうか?
「より自由に活動し、より多くの自由を得る為に絶火隊へ参加する」
パープル(ka1067)。本名不明。郊外の森で自給自足生活をしていると笑顔で言っていた。ガーディナ所属。
不動作戦で皇帝と共闘経験あり、か。
「俺自身、何ものにも縛られない自由を求めている。俺の自由に干渉されず、他人の自由にも干渉しない。紅でも蒼でも無い。国にも人種にも縛られない。そんな自由を得るには、絶火隊に入るのは一つの選択肢だと思った。何せ、帝国からは行動の干渉を受けない事が約束されている」
仰る通りで。
この制度の最大の特徴は隊員の自由と主権が守られている所だ。
面接の間こいつはずっと“自由”について語っていたが、ある意味において適任だろうか。
「俺は、最大の自由の侵害である“命を奪う”を忌避している。国や人が、命を軽視する様な行動を起こしたら、俺はそれを阻止する。 命こそ、自由の源であり、それを護るのが俺の願いだからだ」
「死んだら何もできなくなる、って事ね」
「場合によっては俺の存在は帝国にとって目障りかも知れない。だが絶火隊になってもならなくても、俺の行動は変わらない」
「いや。絶火隊は帝国そのものの監視装置でもあるんだ。もし帝国が間違っていたのなら、正すとこまでが仕事だ」
「なら俺にはぴったりだな」
「余談だが、俺の知ってる絶火隊はだいたい自給自足生活をしてるぞ」
「そうか。とりあえず、どこに放り出されても生活していける自信はあるよ」
政治的主張なし。所属勢力に拘りなし。活動に関してはふわっとしているのが気になるが、扱いやすくはあるか?
しかし、だからこそ高度に組織的な事件に深く潜入したりするのは苦手だろうな。
「俺の行動で以て、人間の自由と命を護る。それが帝国内、ひいては世界に届き、政府側でも民衆側でもどっちでも良い。何かが変わる切欠にでもなれば良いと思っている」
「このデスドクロ様が名乗りを上げた段階で隊長は決まったようなモンだろ。部下の顔くらいは覚えておかねぇと仕事もやり辛ぇだろうしな、ガハハ!」
デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013)。本人は否定しているがリアルブルー人。まさかのAPV所属。
ランダムとは無情である。なんかもっと騎士っぽい奴他にもいたろ。
「志望動機っつーか、俺様の今後の活動内容はズバリ、ロジスティクス。物流だ」
「はい?」
「世界を守る、なんてデケェ話になると、素人は戦う力にばかり目がいきがちだ。だが暗黒皇帝足る俺様クラスになると目線が違うぜ。必要な時に、必要な場所に、必要なだけモノを用意できたら世界は変えられるてなァ!」
帝国国内では以前から国内に鉄道路線を整備し、歪虚対応兵力や物資の輸送を高速化しようという話があると聞いた。
男はそれをより機械的に、高度に行う為にプランを練っているという。
「一朝一夕にいくわきゃねぇ。だが十年先、百年先を見越して動くのがトップに立つ者の宿命よ」
「それはいいと思うが、実業家志望なのか?」
「俺様は既に臣下を率いる身ではあるが、その席はマックスの666まで余裕がある。絶火隊全員を部下にしてやってもいいぜ」
まあ、具体的な活動のビジョンがあるのは評価すべきか。
「絶火隊として活動する事が、あんたにとってはプラスになるかどうかは微妙だけどな」
実際、絶火隊の中には実業家もいると聞く。だが絶火隊だから実業家になったのではなく、実業家だから絶火隊になれたわけだ。
今はまだ大成していないデスドクロを隊員にしてどうするんだ、という気はする……。
「救う、こと……俺もまだ、何を以ってすれば人を救えるのか、見出せてはいません。ただ、出来うる全てのことを……」
カムイ=アルカナ(ka3676)。見た目からして軍人ぽい上に凛とした顔立ちだが、やけにあがっている。魔術師協会広報室所属。
「……まあ、茶でも飲んでゆっくり話してくれ」
「お心遣い、感謝します……」
既に所属している組織でも“救済”を目的に掲げ活動しており、絶火隊にも興味を持つ。
「この国を、世界を救済する事は、俺の目的に……大切な人の居る場所を守る事に繋がりますから」
「身近な者の為に世界を守る、か」
「どうかなさいましたか?」
はぐらかしつつ話を進める。
カムイは元々辺境の産まれであり、人買いに取引され何やら胸糞悪い人生を送ってきたようだ。
「騎士ではなく、個人だからこそ出来る動き方で、帝国を守れたらと思っています」
孤児や浮浪者、つまり力のない者達に味方し、孤立しないように働きかける。
その活動方針や過去が自分と似通っているので、何となく感情移入しそうになる。
「外から来る敵を退ける事だけが、救う事ではない……と、思うんです。生き延びる術を知るのは、戦い方を知るよりも大切、なのではないかと……」
「人を育て、抜本的に弱者をなくす、か。絶火隊の主張としては恐ろしく正しいな」
とはいえこいつ……すげー素直そうなんだよな……。
裏の仕事、ちゃんと出来るんだろうか。学校の先生の方が向いてないか?
あんまり嫌な仕事、させたくねぇな。
「宙軍に居たときから大して志は変わってませんが“脅威となるものから力無い市民を守るため”でしょうか? もちろん、この場合の脅威とは歪虚の事だけを指しているものではありません」
水城もなか(ka3532)。リアルブルーの元軍人。諜報部隊所属、ついでにAPV。
「主に行うのは情報収集になると思います。ですが、場合により人を守るために人を斬る事もあるでしょう……帝国の闇の部分は少なからず見てきているつもりですから」
確かに、これまでに何度か帝国の事件を解決している実績がある。これはデカいな。
元諜報員というのも適した素養であると言える。絶火隊も主戦力は元軍人とかだしなあ。
「カルステンさんについては報告書の方で少し拝見しましたが、念のため確認しておきたいことが……」
「何だ?」
「まずは、反政府勢力との繋がりの真意です」
そこをちゃんと気にしてきたのは思えばこいつだけであった。
「……何故笑っているのですか?」
「いや。まず味方を疑えるというのは高得点だ」
「ここでこうして試験管をしているのも演技だとするなら、大した狸ですね」
無言で見つめ合う。どう答えたものか考えていると……。
「戦えばかなり強いとお聞きしていますが、帝国を……皇帝を想っているなら、なぜその力を国のために使おうとしないのですか?」
「自分なりには使ってきたつもりだ。だが、それが独り善がりだったと、お前たちハンターに気付かされたのさ」
「それは、今は反政府組織とは繋がっていないと信用しても良いと?」
「元々そういう立場だったから出来る事もある……と、思う」
「微妙に自信なさげな感じですね……?」
……すいません。
そもそもリアルブルー人はこの世界において中庸だ。元諜報員という事も相まって、もなかの適性は高いと言える。
「すみません、コロッセオまではちゃんと来られたんですけど、その後何か色々あって、自分でもわからないんですけど!」
エリー・ローウェル(ka2576)。所謂密教のシスター。何か使命を帯びているらしいが、まずは水でも飲め。APV所属。
「も、もしかして遅刻ですか……?」
「いや、前の奴に根掘り葉掘り聞かれて時間くってたから大丈夫だ」
額の汗を拭き、ほっと胸を撫で下ろしてからエリーは語り出す。
「世界を守り、救いたいからです!」
「……それだけ?」
「はい! え? 変ですか?」
いや変ではないが。
「ただ人が笑って、美味しいご飯を食べてぐっすり眠る。そんな世界になったらいいなって」
「随分お気楽なんだな」
「あはは、良く言われます。そういえば、試験管さんはどうして絶火隊になったんですか? 失礼かもしれませんが、先輩の考えを聞いてみたいな、って」
「いや、俺は……」
まだ絶火隊ではないのだが。理由、理由か……。
「……皆が笑っていられる世界にしたかったから、かな?」
「じゃあ私と一緒じゃないですか!」
そうなのかもしれない。
こいつにとって、それは普通の事なんだ。俺が昔誰かを守りたいと思ったように、その気持を今でも忘れずに保っている。
「皆の幸せを守りたいんです。そして、敵にも救いを与えたいな、って」
「甘いな」
「それは承知してます。だから、意識を一つ上にあげたいんです。強くなれば、悔しい想いをせずにすむから……」
ぐっと胸の前で拳を握り、エリーは笑う。
「あ、でも強いて言うなら笑顔でいたいです。ほら、かっこいい名前の部隊に入ったら肩凝っちゃいそうで、私自身柔らかくいたいなって」
何だか妙な気分になった。
こいつは昔の……まだ冒険者だった頃のヴィルヘルミナに、そして俺にも似ている気がした。
「頑張れよ」
意味もなくそんな言葉を口にして、俺はペンを置いた。
「実技試験はカルステンさんと戦えばよいのでしょうか? それとも参加者同士で?」
もなかの質問に俺は両方と答えた。巨大なコロッセオが今日は貸し切りだ。
「戦闘技術の確認ってか。オーケーオーケー、ま、そういうモンも必要だろうしな。だが俺様が全力で戦っちまったら、シングスピラ一帯が焼け野原になっちまう。【ダークコズミックブレイカー】【超絶地獄紅蓮剣】【デスドクロハイパービーム】……この三つの究極奥義は封印した上で相手させてもらうが、それで構わねぇな?」
逆に気になるわ! デスドクロ……こいつは大成しそうな気がする。
実際、この試験において集団戦を意識したのはこの男だけだった。
絶火隊は集団行動は取らないが、現地兵力を纏める即席のチームワークは必要だ。
クライブは言葉の通り、守備を重視した戦闘スタイル。同じ人間相手に積極的に攻めないというのも理由の一つだろうか。
パープルは距離を保って立ち回る、ゲリラ戦に向いていそうな動きだ。つくづくこの男は単独行動が得意そうである。
もなかは戦闘は苦手と言っていたが、動きは思い切りが良い。この辺りは元軍人らしいか。元々隠密行動をするのなら、戦闘は一瞬でケリがつくものだし。
カムイは所謂ガン攻め。正直な所、この中では実力不足が目立つ。孤立しがちな絶火隊では、この戦い方は死んでしまいそうで心配だ。
「獅子は勝利の象徴、だと……聞きましたから。微力であれども、共に戦う仲間を守る意思に変わりは……ない、です」
「心意気は汲むが、あんまり死に急ぐなよ」
「次は私ですね!」
エリーは大剣二刀流という見た目よりいかついスタイルだ。最近こうなったらしい。
実戦経験は少ないと言っていたが、死ぬほど頑丈で、クライブとこいつだけが俺の攻撃でノックダウンしなかった。
やはりというか、クライブ、エリー、カムイらは正直というか、孤立状況で命を落としやすい予感がする。
パープルともなかは、単独生存率が高そうだ。デスドクロは現地の兵力をまとめる気質がある。過去の報告書を見てもそういう傾向が強い。
「はい。では試験はここまで。追って結果を通達するので、今日は帰ってよし」
最終適性評価。
デスドクロ・ザ・ブラックホール、B。
問題解決能力の高さを期待。言動に難はあるが、建設的思考の持ち主。
パープル、B。
単独行動能力が最高評価。組織潜入調査等に不適切の可能性。
クライブ・エルケイル、C。
誠実で堅実な人柄だが、甘さが目立つ。強力な歪虚との実戦経験は高く評価。
エリー・ローウェル、C。
正直な人柄で、任務の為に自分を偽れるか疑問。但し、生存能力は著しく高い。
水城もなか、A。
元軍人で精神安定。絶火隊の任務に適切な能力を持つ。事件解決実績あり。
カムイ・アルカナ、C。
絶火隊として適切な活動が見込めるが、単独行動に危険が伴う。戦闘技術鍛錬も必要。
数日後、試験参加者に手紙が届いた。
それは、全員を絶火隊候補として予備登録を行った、という内容であった。
『諸君らは栄誉ある絶火隊、その候補生として登録された。今後諸君らの活躍は騎士皇ヴィルヘルミナにより評価され、然るべき貢献を積んだ後、正式に絶火隊の一員として迎え入れる物とする』
人を守り。悪を砕き。歪虚を滅ぼし、世界を救済せよ。
諸君らは60名を代表する新たな絶火隊制度の先駆けである。
高い志と向上心を忘れず、救世主足らんことを期待する。
――ゾンネンシュトラール帝国皇帝、騎士皇ヴィルヘルミナ・ウランゲルより。
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雑談卓 デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013) 人間(リアルブルー)|34才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/05/14 23:26:01 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/10 03:01:51 |