• 冒険

絶火の騎士

マスター:神宮寺飛鳥

シナリオ形態
ショート

関連ユニオン
APV

難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加人数
現在6人 / 4~6人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
プレイング締切
2015/05/15 07:30
リプレイ完成予定
2015/05/24 07:30

オープニング

 カルステン・ビュルツにとって、ヴィルヘルミナ・ウランゲルは憧れであった。
 二人は互いの素性を知らぬまま、ただ少年と少女として出会い、冒険者として共に世界を渡り歩いた。
 少年には夢があった。それは帝国最強の槍使いになる事。
 そして少女にもまた、夢があった。それは――世界を救う、正義の味方になる事だった。

「――何故、見殺しにした?」
 焼け落ちた村に大人達が戻ってきたのは、全てが終わった後。
 雑魔の襲撃を受けた帝国のある村は壊滅的な打撃を受けた。
 殆どの村人が避難した所で、たまたま近くにいたヴィルヘルミナが駆けつけ雑魔を殲滅した。それは英雄的働きであった。
 村人達は彼女を讃えたが、当人はくすりとも笑わず、神妙な面持ちで振り返る。その腕には血に染まった少女が抱えられていた。
「そう強い歪虚ではなかった。村の大人達が力を合わせ抵抗すれば、この子達を救う事も出来た筈だ」
 弱い者は死んだ。逃げ遅れた少女も少年も老人も死んだ。彼らが死んでいる間に、大人達は逃げ出す事が出来た。
「俺達は覚醒者でも軍人でもない。歪虚に襲われたら逃げるしかなかったんだ」
 口々に吐出される、罪を正当化するだけの言葉。それは矛先を変え、都合の良い英雄への賛歌に変わる。
 人々に感謝され喝采の中に身を置いた少女は、常に救えなかった誰かの血に拳を握り締めていた。
「何故、抗わない。何故戦わない。何故無力を言い訳にする。何故……強者に蹂躙されるままなのか」
 小さな墓標の前で、少女は何度も繰り返した言葉を口にした。
「弱さは罪だ。そして英雄は罰に過ぎない。革命を起こしても世界は変わらなかった。弱者がより弱い者を貪る。英雄では何も救えない。正義の味方に、私はなれなかった」
「あんたはよくやったじゃねぇか。あんたが居たから救えた命がある」
「全てを救えぬ正義に価値はない。“救われるだけ”の命にもな」
 少女は結んだ赤い髪を靡かせ、腰から提げた剣の柄を握る。
「――力が要る。世界を変え、人を変えるだけの力が」
「人類を教育するつもりか?」
「そんな大それた事は考えていないよ。私は……そう。今日よりも明日が、少しでも希望に満ちていればいいと、そう願っているだけだ」
 彼女は人を救う為に戦い続けた。弱者を救う為に刃を振るう度、少女の心は凍てついた。
 いつしか誰かを救う事を喜ばなくなり。笑う事もなくなり。感謝の言葉に胸揺さぶられる事もなく。正義は作業と成り果てて。
 救う為にその何倍も殺し、それでも救えなかった者達の亡骸を踏み越え、やがて少女は人としての生き方を捨てた。
 当たり前の心では辿り着けない。理想を、正義を成すには絶対的な意志が要る。
 幸福は要らない。迷いも要らない。ありとあらゆる人間性を犠牲にした狂気の果てにこそ、祈りは成就する。
 気づけばとても遠い所に行ってしまったその背中についていけず、少年は足を止めた。
 表舞台に上がった彼女を受け入れられないまま、男はずっと逃げ続けていた――。



「……いよいよアネリブーベ送りか?」
 バルトアンデルス城の地下拘留所の扉が開く音にカルステンは顔を上げた。
 そこには第一師団長であるオズワルドの姿があった。青年は顔を顰め、ゆっくりと立ち上がる。
「日程が決まった。お前には絶火隊の新生に辺り、試験官を担当してもらう」
「待て。俺は引き受けたとは言ってない」
「テメェの意志は関係ねェ。これは皇帝陛下の決定だ」
 二人は鋭い眼差しを衝突させる。長い沈黙の後、老人は溜息を零し。
「いつまで腐ってるつもりだ。ガキのまんまか、テメェは」
「誇りを捻じ曲げ、大切な物を売り払うのが大人なら、俺はガキで十分だ」
「はン。俺も本来テメェみたいな半端モンを使うのは反対なんだよ。ヴィルヘルミナさえお前を見捨てりゃ、さっさとゼナイドに押し付ける物を」
「ンだとジジイ……?」
 葉巻に火を点け、ふっと紫煙を吐き出す老人にガンくれるも、まるで動じる気配もない。
「国を想う気持ちがあるのなら、それを正しく発揮しろ。ただ剥き出しの牙を振り翳す者は騎士にあらずだ」
「主を裏切った騎士に言われたかねぇな」
「主を定めず騎士にすらなれないテメェとどっこいどっこいだろうよ。現実が気に食わねェのならぶつくさ文句言ってねェで自分の力で変えてみろ。何もしねェでグダグダ抜かすだけの男はなァ、ただの負け犬なんだよ」
 投げ渡された絶火隊に関する書類の束にカルステンは眉を潜める。
「文句があンならいつでも相手になってやる。だがそれは一人前の男のやることだ。この活動はテメェ自身の試験でもある。俺はテメェを絶火隊に認めたわけじゃねェからな」
「……待て! ヴィルヘルミナは無事なのか? 四霊剣と戦って負傷したと聞いたが……」
「テメェみたいな軍人ですらないチンピラ風情に教えると思うか? 皇帝陛下はテメェみたいな負け犬がまともに口を利ける相手じゃねェんだよ」
 カルステン愛用の槍と、手荷物を詰め込んだ袋、そして第一師団兵舎の鍵を次々に投げつけ老人は去っていく。
「部屋はそこを使え。ヴィルヘルミナが見限るまでは置いてやる」
「いや、俺は……」
「男なら女を、騎士ならば民を守ってみせろ。少なくともテメェの親父は騎士だった。テメェと違ってな」
 去っていく背中を見送り、青年は拳を握り締める。
「それが…………殺した息子に言う事かよ」
 理屈では理解している。自分のようなやり方では世界は救えないし、何も変えられないと。
 それでも守りたいと思った女がいた。きれいだと、その夢に憧れた女がいた。
「俺は……」
 父親の形見である槍に目を向ける。主を持たない騎士に、その矛先を考えるべき時が迫っていた。

解説

●目的
新たな絶火隊の隊員募集。


●概要
帝国軍が募集する、絶火隊の隊員試験に参加する。
参加した時点で報酬は支払われるが、絶火隊の隊員になれるかどうかは能力、思想、功績により判断される。
絶火隊の起こりは古く、まだ帝国に騎士という風習が残されていた時代、皇帝の近衛に与えられた称号であった。
騎士の名が途絶えると同時に絶火隊も歴史上から消え、再び表舞台に現れたのは革命戦争の折。
先代皇帝ヒルデブラント・ウランゲルが、革命を成す為に集めた精鋭部隊をこの名で呼んだという。
今回の募集はこれらとは全く別の、新しい絶火隊に関するものであるとする。
参加希望者は帝都付近のコロッセオ・シングスピラにてその是非を評価する。
志望動機と隊員になった場合どのような活動を行うのか、そして実際の戦闘技術について確かめさせてもらう。
中途半端な覚悟の者は要らない。我こそはと固い決意を抱く者の参加を待つ。


●絶火隊とは
帝国軍、即ち国属ではない外部協力員で構成される。
これは「国家権力に囚われず帝国、ひいては世界を守護する」という中立の立場と視線を求められている為。
隊員は帝国軍人ではなく、帝国所属でもない。よって、隊員には一切の権力と報酬が与えられない。
代わりに隊員はその行動に国からの介入を一切受けず、自由に振る舞う事ができる。
極端な話、絶火隊に入った所で、隊員に“得”は一切ない。
隊員は自らが絶火隊の一員である事を他言してはならず、その活動は公であってはならない。
既に絶火隊には複数の隊員が存在しているが、彼らの存在が表沙汰にならないのはその為である。
讃えられる事も認められる事も報酬を受け取る事も出来ない為、自ら志願する者は殆どいない。


●???
「カルステン・ビュルツ」
反政府活動に関与していた疑いのある闘狩人の青年。槍使い。
今回の依頼で試験官を任されているが、同時にそれはカルステンへの試験でもある。

マスターより

お世話になっております、神宮寺で御座います。

絶火隊になっても何の権力も報酬も貰えません。
言わば、皇帝の代わりに世界を見て、その中で人類救済の為に闘う人に与えられる称号です。
勿論、帝国軍の命令に従う必要はありません。しかし、帝国軍を従える権限もありません。
隊員の活躍は皇帝の目に触れる事になります。もしかしたらそれが何かを変えるかもしれません。
どちらにせよ自分なりの理由が、そして理想がなければ参加する意味はありません。
尚、試験評価は非常に厳しく、全員不合格という事も、結果が依頼の中で出ない事もあると明言しておきます。

それではよろしくお願い致します。

関連NPC

  • 帝国軍第一師団長
    オズワルド(kz0027
    人間(クリムゾンウェスト)|58才|男性|疾影士(ストライダー)
リプレイ公開中

リプレイ公開日時 2015/05/22 03:49

参加者一覧

  • 完璧魔黒暗黒皇帝
    デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013
    人間(蒼)|34才|男性|機導師
  • 紫色の狩人
    パープル(ka1067
    人間(蒼)|30才|男性|闘狩人
  • イージスの光
    グライブ・エルケイル(ka1080
    人間(紅)|28才|男性|機導師
  • 『未来』を背負う者
    エリー・ローウェル(ka2576
    人間(紅)|19才|女性|闘狩人
  • 特務偵察兵
    水城もなか(ka3532
    人間(蒼)|22才|女性|疾影士
  • 火消しの風
    カムイ=アルカナ(ka3676
    人間(紅)|28才|男性|霊闘士
依頼相談掲示板
アイコン 雑談卓
デスドクロ・ザ・ブラックホール(ka0013
人間(リアルブルー)|34才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2015/05/14 23:26:01
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/05/10 03:01:51