ゲスト
(ka0000)
桜の『赤』は……
マスター:香月丈流

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/15 22:00
- 完成日
- 2015/05/23 23:27
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
『桜の樹の下には死体が埋まっている』。
そんな話を、一度は耳にした事がないだろうか?
真偽は定かではないし、誰が言い出したかも分からない都市伝説。この手の話は数多く存在するが、ワザワザ真相を確認する者は少ない。万が一にも死体が見付かったりしたら、大騒ぎどころでは済まないが。
だが……人の好奇心は、時として暴走する。それが若者なら、尚更に。
時は『丑三つ時』と呼ばれる、深夜2時。草木も眠って静まり返った公園に、提灯の光がユラユラと揺れていた。
淡い灯りが照らしているのは、3人の男女。年齢は10代後半か20代前半くらいだろう。眼鏡の少年が提灯を持ち、残りの2人が桜の根本を掘っている。
彼等の目的は、『桜の樹の下に死体が有るか否か』の確認。満開から葉桜になった今なら、桜に注目する人は少ない。加えて、深夜なら発見される可能性は猛烈に低いだろう。
「ねぇ……やっぱり止めようよ。バレたら絶対怒られるよ……」
オドオドしながら、眼鏡の少年が口を開く。
「あぁ!? 今更ナニ言ってんだよ」
「バレなきゃ怒られないから、大丈夫♪」
彼とは対照的に、2人はノリノリである。根を傷付けないように注意しつつ、シャベルで土を掘り返していく。
彼等自身、桜の下に死体が埋まっているとは思っていない。コレは、単なる暇潰し。3人で集まるための口実に過ぎない。
だから……子供がイタズラするような、軽い気持ちだった。確認が終わったら、『無駄足だった』と3人で笑い合えると思っていた。
カツン。
静寂の闇に響く、鈍い金属音。直後、掘った穴から霧のようなモノが吹き出し、2人を飲み込んだ。
「うわっ!?」
「きゃっ!!」
短い悲鳴すらも遮り、人を……命を喰らい尽くしていく。徐々に、形の無かった霧が1点に集まり、人の姿を成した。
ボロボロのローブから覗く手は半透明に透き通り、下半身は無い。フードを目深に被っているため顔は分からないが…眼の部分は赤く輝いている。
人外の存在を目の当りにし、少年の思考は完全に止まった。その手から提灯が零れ落ち、地面に衝突した瞬間に炎が上がって周囲を照らした。
その瞬間、少年は目にした。穴の奥から覗く、白い塊を。朽ち果てて輝きを失い、虚ろな眼窩がこちらを向いている。
即ち……人間の、頭蓋骨。
「う……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
恐怖が限界を突破し、少年は叫びながら走り出した。友の事は気にせず、亡霊から逃げるために。
少年が白骨から離れると、亡霊は霧のように消え去った。掘り返された土と、大量の血痕を残して。
そんな話を、一度は耳にした事がないだろうか?
真偽は定かではないし、誰が言い出したかも分からない都市伝説。この手の話は数多く存在するが、ワザワザ真相を確認する者は少ない。万が一にも死体が見付かったりしたら、大騒ぎどころでは済まないが。
だが……人の好奇心は、時として暴走する。それが若者なら、尚更に。
時は『丑三つ時』と呼ばれる、深夜2時。草木も眠って静まり返った公園に、提灯の光がユラユラと揺れていた。
淡い灯りが照らしているのは、3人の男女。年齢は10代後半か20代前半くらいだろう。眼鏡の少年が提灯を持ち、残りの2人が桜の根本を掘っている。
彼等の目的は、『桜の樹の下に死体が有るか否か』の確認。満開から葉桜になった今なら、桜に注目する人は少ない。加えて、深夜なら発見される可能性は猛烈に低いだろう。
「ねぇ……やっぱり止めようよ。バレたら絶対怒られるよ……」
オドオドしながら、眼鏡の少年が口を開く。
「あぁ!? 今更ナニ言ってんだよ」
「バレなきゃ怒られないから、大丈夫♪」
彼とは対照的に、2人はノリノリである。根を傷付けないように注意しつつ、シャベルで土を掘り返していく。
彼等自身、桜の下に死体が埋まっているとは思っていない。コレは、単なる暇潰し。3人で集まるための口実に過ぎない。
だから……子供がイタズラするような、軽い気持ちだった。確認が終わったら、『無駄足だった』と3人で笑い合えると思っていた。
カツン。
静寂の闇に響く、鈍い金属音。直後、掘った穴から霧のようなモノが吹き出し、2人を飲み込んだ。
「うわっ!?」
「きゃっ!!」
短い悲鳴すらも遮り、人を……命を喰らい尽くしていく。徐々に、形の無かった霧が1点に集まり、人の姿を成した。
ボロボロのローブから覗く手は半透明に透き通り、下半身は無い。フードを目深に被っているため顔は分からないが…眼の部分は赤く輝いている。
人外の存在を目の当りにし、少年の思考は完全に止まった。その手から提灯が零れ落ち、地面に衝突した瞬間に炎が上がって周囲を照らした。
その瞬間、少年は目にした。穴の奥から覗く、白い塊を。朽ち果てて輝きを失い、虚ろな眼窩がこちらを向いている。
即ち……人間の、頭蓋骨。
「う……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
恐怖が限界を突破し、少年は叫びながら走り出した。友の事は気にせず、亡霊から逃げるために。
少年が白骨から離れると、亡霊は霧のように消え去った。掘り返された土と、大量の血痕を残して。
リプレイ本文
●
赤く、朱く、鮮血のように紅い月。月の色が違って見えるのは珍しい事ではないが……漆黒の夜空に浮かぶ『赤』は、どこか不気味に見える。もしかしたら、天も歪虚の出現を嫌がっているのかもしれない。
夜の公園は、不気味なほどに静まり返っていた。物音1つしない上、歪虚の姿もない。パッと見、何の異常も無さそうだが……敷地内の、ほぼ中央。桜の根本が掘り返され、血痕らしきモノが生々しく残っている。
生存者の話では、歪虚は突然現れたらしい。雑魔の狙いを分散し、互いにフォローし合うため、ハンター達はAとBの2班に別れて行動。現場となった桜を挟んで、別々の方向から距離を詰めていく。
幸い……と言うべきか、公園の南側には『普通の桜』が多く、身を隠す場所には困らない。歪虚が目視で接近を認識しているか分からないが、A班は隠れながら静かに移動している。
「こっちには桜の樹が多くて助かったね。お陰で、安全に近付けそうだよ」
木陰から様子を窺いながら、ルピナス(ka0179)は仲間達に声を掛けた。目標までの距離は、20m前後。どこまで近付けば歪虚が出るか分からないが、今は静けさに変化は無い。
「んでも、伏兵にも注意せんといかんねぇ。木の陰に隠れてたら怖いし」
正面の桜に注目しながらも、ラプ・ラムピリカ(ka3369)は周辺警戒を怠らない。仲間達に注意を促しつつ、桃色の双眸が周囲を見渡している。口調は田舎少年のように訛っているが、緊張感は充分過ぎる程に伝わってくる。
不意に、頭上で桜の葉がガサッと揺れた。
「ひっ……!」
誰もが臨戦態勢を整える中、短い悲鳴が耳に届く。次いで、枝から降りてきたのは1匹の猫。どうやら……歪虚が起こした物音ではなく、野良猫のイタズラだったようだ。
緊張を緩め、顔を見合わせるハンター達。その視線が、ゆっくりと花厳 刹那(ka3984)に向いた。
刹那は普段、凛とした印象を受ける女子高生だが……今は恐怖と驚きの色が浮かんでいる。しかも、若干顔色が青い。
「刹那さん……もしかして、幽霊とか苦手なんですか?」
心配そうに、アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)が刹那を覗き込む。シスターをしている事もあり、アデリシアの表情や口調は穏やかで優しい。母性が強いのか、『大人の女性』という言葉が良く似合う。
彼女の言葉で落ち着きを取り戻したのか、刹那は軽く咳払いしてから口を開いた。
「べっ、別に? あれはオバケじゃなくて幽霊型歪虚だし、大丈夫。うん、問題ありません」
自分に言い聞かせるような、早口気味な言葉。彼女の発言から察するに、オバケの類が苦手なのだろう。
「なら、その『産まれたての小鹿』みたいにガタガタ震えてるのは、武者震いなんですね~。安心しました!」
天然なのかマイペースなのか、笑顔で語り掛ける三鷹 璃袈(ka4427)。少々、頭のネジが弛んでいるようだが、悪意は微塵も無い。それを感じ取ったのか、刹那は笑みを返した。
●
木の多い南側と違って、B班の居る北側には障害物の類が一切ない。見通しの良い広い空間……周囲の状況を確認しやすいが、身を隠せないという欠点もある。
だからと言って、逃げる気は毛頭ない。ゆっくりと、B班も現場の桜に近付いていた。
「桜に関するお話……その一つが、こういう形で顕在化するとは……」
葉桜となった木を眺めながら、独り呟くHan=Bee(ka4743)。掘り起こされた頭蓋骨に、出現した歪虚……その事に心を痛めているのか、赤い瞳に悲しみの色が浮かんでいる。
「歪虚、許すまじ! 1万本の桜より輝き咲く、美少女テトラちゃんが除霊しちゃうんだから!」
言いながら、テトラ・ティーニストラ(ka3565)は元気良く拳を握った。怪談を歪虚に汚されて夢を壊されたのか、彼女の怒りは沸騰寸前。周囲への警戒は忘れていないが、亡霊型歪虚を『物理的に』除霊する気マンマンである。
「敵の出方が分からない以上、油断は禁物だがな。今の所、大人しくしているようだが……」
イレーヌ(ka1372)の言う通り、歪虚に動きはない。と言うより、姿すら見せていない。本当に歪虚が潜んでいるのか疑問を持ち始めた頃、現場周辺に霧のようなモノが集まり始めた。
突然過ぎる出来事に、周囲の緊張感が一気に高まる。B班と桜までの距離は、15m弱。掘られた穴の上に、幽霊の姿が急速に具現化していく。
出現と同時に、歪虚は片腕を振り上げた。それに呼応し、周囲の水分が凍結して結合。空中に、1m程度の『氷の槍』が無数に生み出された。
「そう安々と思い通りにはさせぬ。母なる大地よ、大いなる腕にて我等を厄災より護れ……!」
蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)が言葉を紡ぐのと、氷槍が放たれたのは、ほぼ同じタイミングだった。彼女の声に地の精霊が応え、土の壁となって具現化。幅と高さが2m程度の土壁が、B班全員を守る。
一瞬の間を置いて、壁に突き刺さる氷槍。豪雨のような攻撃を完全に防いでいるが…長い時間は持たないだろう。
「すまない、助かった……」
手短に礼を述べ、オウカ・レンヴォルト(ka0301)は両手の武器を握り直す。無愛想で無口なオウカだが、礼を失するような男ではない。彼の言葉に、蜜鈴はクツリと笑って見せた。
「大事なくて何よりじゃ。それにしても……花見にはちと無粋な客じゃのう」
仲間達の無事を喜びつつ、煙管を口にする。言葉と共に紫煙を吐き出し、壁の向こう側に居る歪虚に視線を向けた。
Beeは壁から顔を出し、敵の様子を覗き込む。飛んで来る氷槍に注意しながら状況を確認し、素早く首を引っ込めた。
「予想以上に激しい攻撃ですね。ですが、敵の注意が私達に向いているという事は……」
「あたし達が攻めるチャンスです。パパっとやっつけちゃいましょう!」
璃袈の叫びに、A班の仲間達が力強く頷く。敵の攻撃がB班に集中しているなら、A班への警戒は手薄。多少距離があるが、贅沢は言っていられない。弾かれるように、A班の5人が木の陰から駆け出した。
一気に距離を詰めていくが、敵は歪虚。一筋縄でいく相手ではない。後方からの接近に気付き、亡霊は攻撃対象を変更。後ろを振り向き、氷槍を撃ち出した。
迫り来る攻撃が、ハンター達の脚を強制的に止める。直線ではなく、扇型に広がる氷槍……それを避けるのは、簡単な事ではない。
「なかなか激しい攻撃をしてくれるではないか……余程こちらを近づけたくないらしいな」
言葉と共に、アデリシアは不敵な笑みを浮かべた。さっきまでの優しい表情とは違い、クールで好戦的な雰囲気。氷槍が体を掠めて小さな傷を描くが、後退する素振りは見せていない。
「流石に、一足で近付ける相手ではありませんね。ならば……!」
刹那は決意と共に、体内のマテリアルを開放した。瞬間的に身体能力を高め、黒い長髪を揺らしながらアクロバティックな動きで氷槍を回避。直撃こそしていないが、太腿の辺りから浅く出血している。
その隣では、ルピナスが射線や射程を観察しつつ、立体的な動きを展開。帽子が落ちないように押さえ、敵を翻弄するように身を翻している。それでも完全に回避するのは難しいのか、頬や肩に赤い線が描かれているが。
「わわわ! 纏まり過ぎちゃうと危ないんですかね。んぅ……」
悲鳴に似た声を漏らし、苦笑いを浮かべる璃袈。敵が範囲攻撃を仕掛ける以上、固まって行動したら危険が伴う。だからと言って、単騎突撃が安全というワケでもない。若干悩むのも、仕方のない事だろう。
A班が氷槍に狙われたのは、時間にして数秒程度。その間、大半の者は回避に専念していたが……1人だけ、攻撃を選んだ者が居た。
「光の矢よ、我の敵を射抜き払いたまえ……!」
ラプの口から紡がれる、力ある言葉。普段の彼は明るく元気だが、戦闘中は静かで凛々しい。ラプの声に呼応してマテリアルが収束し、光の矢となって撃ち出された。狙いは、歪虚の頭部。矢が衝撃を伴い、敵の眉間を貫いた。
「狙いはこっち、だ」
鋭く短い言葉に次いで、一条の光が闇夜を切り裂く。それが歪虚を『背後から』貫き、胴に穴を穿った。
これは、オウカの放った銃撃。歪虚の標的がA班に変わった事で、今度はB班が攻撃に転じた。それに一瞬早く気付いたラプは、連携狙いで光の矢を放ったのだ。
イレーヌと蜜鈴は、敵を攻撃射程内に収めるため、地面を蹴って全力で駆ける。機動力の高いテトラは、2人を追い抜いて樹の下まで疾走した。
(この距離なら行ける!)
彼女の後を追うように、Beeは日本刀を構えて一気に間合いを詰める。2人の狙いは、歪虚ではなく『掘り起こされた頭蓋骨』。実体の無い亡霊型歪虚には物理的攻撃は効かないが、頭蓋骨なら話は別である。
樹に至近距離まで接近した事で、視界にようやく『白い塊』が映る。大半は埋まっているが、彼女達の技量なら充分に狙えるだろう。走りながら、2人は狙いを定めた。
「気を付けろ、地面の下だ!」
月明かりの公園に響く、イレーヌの叫び声。ほぼ同時に、掘り返された穴から『2体目の亡霊』が出現した。驚く暇も無く、歪虚が氷槍を放つ。
反射的に、テトラは地面を蹴って跳び上がった。立体的な動きで直撃を避けると、首に巻いた青いマフラーも軽やかに舞い踊る。
「ほらほらどしたのっ? あたしは幽霊じゃないよー、やははー♪」
陽気に笑いながら、軽やかなアクロバティックを決めるテトラ。氷槍が頬に赤い線を刻んでいるが、気にしていないようだ。
Beeは一瞬反応が遅れたのか、脚部に浅い傷ができている。負傷を重ねないため、彼女は攻撃の軌道を読んで氷槍を回避。時には日本刀で氷を受け止め、叩き落としている。
テトラとBeeは体勢を立て直すため、後方に跳び退いた。
「伏兵が真下から現れるなんて……予想外だね」
苦笑いを浮かべ、言葉を漏らすルピナス。増援や伏兵の可能性は考慮していたが……それが頭蓋骨が埋まっている位置から出現するとは、誰も思っていなかっただろう。
ハンター達の予想外を加速させるように、歪虚達は背中を合わせて氷槍を撃ち出す。互いの死角をフォローし合うような連携攻撃。A班もB班も、同時に氷槍に狙われている。
防御や回避に専念し、攻撃に耐える10人。時間にして数秒程度だとしても、苛烈な氷槍に晒されるのは誰でも厳しい。
「亡霊が増えたからって目的は変わりません。2体まとめて倒しちゃえば良いんですから」
璃袈はハイヒールからマテリアルを噴射し、高速移動とジャンプで攻撃を回避している。今は防戦に徹しているが、紫の瞳に宿る闘志は衰えていない。むしろ、敵の隙を狙っているようにも見える。
「そうですね……皆さん! 一気呵成に行くなら、今です!」
敵と味方の状況を的確に判断し、Beeが仲間達を促す。敵との距離は開いていないし、10人全員で攻めるなら頭蓋骨を狙い易くなる。攻撃に転じ、機先を制するには、悪くないタイミングだろう。
「ならば、補助は私に任せて貰おう。後の事は頼んだ」
言うが早いか、巨大な盾で身を守っていたイレーヌが指輪にマテリアルを込める。遠くまで響かせるように鎮魂歌を歌い上げると、清浄なる波動が歌声に乗って伝播。その力が『命を失った存在』に作用し、歪虚達の動きを鈍らせた。
イレーヌの鎮魂歌で、敵の攻撃が途切れる。八角棍を回転させて氷槍を防御していたアデリシアは、武器を素早くワンドに持ち替えた。
「歪虚とはいえ亡霊……すぐゆっくりと眠らせてやろう」
先端に埋め込まれた青い宝石が輝きを増し、空中に光の弾が生み出される。それが宙に光の軌跡を描き、増援の歪虚を直撃。光弾のダメージと衝撃で、亡霊の体が小刻みに揺れた。
「そなたを逃がしはせぬよ……我の矢で、射抜くっ!」
ラプは追撃するために感覚を研ぎ澄ませ、マテリアルの流れを感じ取る。そこに体内のマテリアルを収束させると、眩しい輝きが矢の形に具現化。射ち放たれた一撃が高速で飛来し、増援歪虚の脇腹に風穴を空けた。
反撃するように、亡霊達が腕を振り上げる。周囲に氷槍が生み出されるより一瞬早く、ルピナスはワイヤーウィップを振り回した。
「さあ踊りなよ。未練があるのかどうか知らないけれど、君の最後のステージなんだからさ」
直接攻撃は効かないが、注意を引く事は出来る。それが『頭蓋骨を狙っている』なら尚更に。鋼線を編んで作られた鞭が、歪虚を無視して頭蓋骨に迫る。
反射的に視線を送る亡霊達。だが……3m近い鞭も、ギリギリで頭蓋骨に届かなかった。数cm手前の地面を抉って土が舞い上がり、骨が更に掘り起こされる。
あわよくば頭蓋骨を砕きたかったが、ルピナスの狙いは敵の連携を阻止し、攻撃を潰す事。ほんの一瞬だけ注意を逸らせたが、『彼女』にとっては充分過ぎる時間だろう。
歪虚の隙を突くように、懐に潜り込む璃袈。風の精霊が宿る銃を突き付け、引金を引いた。直後、銃口から『気流を纏った雷撃』が放たれ、増援歪虚の心臓辺りを焦がす。そこから電流が全身を駆け巡り、動きを更に鈍らせた。
「桜の下にあるのは死体であって、幽霊じゃない……さっさと、ご退場願おう、か」
静かに、冷静なツッコミを入れ、オウカは銃にマテリアルを送り込む。その全てがエネルギーに変換され、銃口から光となって撃ち出された。風の力を宿した、超高速の銃撃。それが増援歪虚の片腕を吹き飛ばした。
ダメージが蓄積されたのを確認し、蜜鈴は自身が『呪歌』と呼んでいる歌で術を開放。周囲に流れるマテリアルを感じ取り、更なる『呪歌』を口にする。
「是にて終幕じゃ。浄化の炎に包まれ眠れ……愛しき夢への誘いを……さぁ、おやすみ」
子守唄のような、優しい口調。それとは対照的な、激しく燃え盛る火球を生み出し、歪虚に向かって投げ放った。それが敵に接触した瞬間、炸裂して衝撃と炎が敵を包み込む。
浄化の炎に抱かれた亡霊達は、徐々に焼滅していく。数秒もしないうちに、歪虚の姿は炎と共に消え去った。
敵は倒したが、まだ全てが終わったワケではない。テトラは地面を蹴って跳躍し、空中で拳銃を構えた。
「こんなになっちゃ、飴玉の味も分かんないよねぇ。カワイソウに」
金色の瞳に映るのは、土に埋まった骸骨。これを破壊しない限り、別の歪虚が出現する可能性は否定できない。頭蓋骨を狙って、彼女は引金を引いた。放たれた弾丸が眉間を撃ち抜き、衝撃で土と骨が宙に舞い上がる。
Beeは半身の姿勢を取り、日本刀を水平に構えた。頭蓋骨の落下地点を予測し、その位置に向かって駆け出す。
刹那は落下位置に先回りし、ノーモーションで居合の如く太刀を奔らせた。彼女の斬り上げるような斬撃に、Beeの振り下ろすような一撃。2つの剣閃が空中で交差し、頭蓋骨を『×』字に斬り裂いた。
●
歪虚を倒し、頭蓋骨を破壊してから数十分後。ハンター達は、まだ夜の公園に居た。戦闘の跡や掘り起こされた穴を埋め、骨は回収。全員で協力し、公園を整備している。
「こんなモンかな? どこの誰かは分からんけんど……放っておくんは、可哀想やしなぁ」
ラプは壊れた頭蓋骨を回収し、厚手の袋に保管。故人を特定できるか調査し、分からなければ自分で埋葬しようと思っていた。
「頭蓋骨の人……歪虚と何か関係があったのかな? 例えば、執念とか怨念が歪虚化したとか」
軽く小首を傾げ、テトラは思案を巡らせる。この骨と歪虚の接点は分からないが……何らかの関係はあるかもしれない。真相がハッキリするという保証は無いが、調べる価値はあるだろう。
「もし掘り起こされる事がなければ……そのまま静かに眠っていたのかもしれないな」
ある意味、この頭蓋骨も今回の『犠牲者』なのだろう。勝手な理由で掘り起こされ、歪虚の核にされ、最終的には破壊されて。イレーヌは死者の眠りを妨げてしまった事を猛省し、静かに黙祷を捧げた。
(埋まっていた君は……どんな物語を描いていたんだろ。もう知る由はないけど、さ )
物言わぬ骸骨に、心の中で語り掛けるルピナス。当然、言葉は返ってこない。頭蓋骨の入った袋を見詰め、ルピナスは少しだけ悲しそうな表情を浮べた。
「この骨も気になるが、妾は『生き残った男ノ子』が心配じゃな。心は……無事かのう?」
煙管片手に、紫煙を吐く蜜鈴。今回の事件、生存者の少年は、目の前で友人2人を殺されている精神的負担で心が壊れないか……蜜鈴はそれが気になっていた。
「そうですね……『好奇心は猫をも殺す』とは言いますが……実際こうなってみると、責めるわけにもいきますまい」
蜜鈴同様、少年の身を案じるアデリシア。彼等の好奇心が事件を引き起こしたとは言え、本当に悪いのは歪虚。それに、友達を失った少年を責める気は微塵も無い。
アデリシアと蜜鈴の話を聞きながら、刹那は横目で2人を覗き見た。
(敵を倒すだけでなく、被害者の心配まで……蜜鈴さんもアデリシアさんも大人だなぁ……」
オバケを怖がっていた自分とは違い、彼女達は『大人な対応』をしている。その余裕がある姿を、刹那は羨ましいと思った。
そんな彼女の横顔を、朝日が明るく照らす。悪夢のような夜は終わりを告げ、新しい1日が始まった。この桜も、新しい年には綺麗な花を咲かせるだろう。
赤く、朱く、鮮血のように紅い月。月の色が違って見えるのは珍しい事ではないが……漆黒の夜空に浮かぶ『赤』は、どこか不気味に見える。もしかしたら、天も歪虚の出現を嫌がっているのかもしれない。
夜の公園は、不気味なほどに静まり返っていた。物音1つしない上、歪虚の姿もない。パッと見、何の異常も無さそうだが……敷地内の、ほぼ中央。桜の根本が掘り返され、血痕らしきモノが生々しく残っている。
生存者の話では、歪虚は突然現れたらしい。雑魔の狙いを分散し、互いにフォローし合うため、ハンター達はAとBの2班に別れて行動。現場となった桜を挟んで、別々の方向から距離を詰めていく。
幸い……と言うべきか、公園の南側には『普通の桜』が多く、身を隠す場所には困らない。歪虚が目視で接近を認識しているか分からないが、A班は隠れながら静かに移動している。
「こっちには桜の樹が多くて助かったね。お陰で、安全に近付けそうだよ」
木陰から様子を窺いながら、ルピナス(ka0179)は仲間達に声を掛けた。目標までの距離は、20m前後。どこまで近付けば歪虚が出るか分からないが、今は静けさに変化は無い。
「んでも、伏兵にも注意せんといかんねぇ。木の陰に隠れてたら怖いし」
正面の桜に注目しながらも、ラプ・ラムピリカ(ka3369)は周辺警戒を怠らない。仲間達に注意を促しつつ、桃色の双眸が周囲を見渡している。口調は田舎少年のように訛っているが、緊張感は充分過ぎる程に伝わってくる。
不意に、頭上で桜の葉がガサッと揺れた。
「ひっ……!」
誰もが臨戦態勢を整える中、短い悲鳴が耳に届く。次いで、枝から降りてきたのは1匹の猫。どうやら……歪虚が起こした物音ではなく、野良猫のイタズラだったようだ。
緊張を緩め、顔を見合わせるハンター達。その視線が、ゆっくりと花厳 刹那(ka3984)に向いた。
刹那は普段、凛とした印象を受ける女子高生だが……今は恐怖と驚きの色が浮かんでいる。しかも、若干顔色が青い。
「刹那さん……もしかして、幽霊とか苦手なんですか?」
心配そうに、アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)が刹那を覗き込む。シスターをしている事もあり、アデリシアの表情や口調は穏やかで優しい。母性が強いのか、『大人の女性』という言葉が良く似合う。
彼女の言葉で落ち着きを取り戻したのか、刹那は軽く咳払いしてから口を開いた。
「べっ、別に? あれはオバケじゃなくて幽霊型歪虚だし、大丈夫。うん、問題ありません」
自分に言い聞かせるような、早口気味な言葉。彼女の発言から察するに、オバケの類が苦手なのだろう。
「なら、その『産まれたての小鹿』みたいにガタガタ震えてるのは、武者震いなんですね~。安心しました!」
天然なのかマイペースなのか、笑顔で語り掛ける三鷹 璃袈(ka4427)。少々、頭のネジが弛んでいるようだが、悪意は微塵も無い。それを感じ取ったのか、刹那は笑みを返した。
●
木の多い南側と違って、B班の居る北側には障害物の類が一切ない。見通しの良い広い空間……周囲の状況を確認しやすいが、身を隠せないという欠点もある。
だからと言って、逃げる気は毛頭ない。ゆっくりと、B班も現場の桜に近付いていた。
「桜に関するお話……その一つが、こういう形で顕在化するとは……」
葉桜となった木を眺めながら、独り呟くHan=Bee(ka4743)。掘り起こされた頭蓋骨に、出現した歪虚……その事に心を痛めているのか、赤い瞳に悲しみの色が浮かんでいる。
「歪虚、許すまじ! 1万本の桜より輝き咲く、美少女テトラちゃんが除霊しちゃうんだから!」
言いながら、テトラ・ティーニストラ(ka3565)は元気良く拳を握った。怪談を歪虚に汚されて夢を壊されたのか、彼女の怒りは沸騰寸前。周囲への警戒は忘れていないが、亡霊型歪虚を『物理的に』除霊する気マンマンである。
「敵の出方が分からない以上、油断は禁物だがな。今の所、大人しくしているようだが……」
イレーヌ(ka1372)の言う通り、歪虚に動きはない。と言うより、姿すら見せていない。本当に歪虚が潜んでいるのか疑問を持ち始めた頃、現場周辺に霧のようなモノが集まり始めた。
突然過ぎる出来事に、周囲の緊張感が一気に高まる。B班と桜までの距離は、15m弱。掘られた穴の上に、幽霊の姿が急速に具現化していく。
出現と同時に、歪虚は片腕を振り上げた。それに呼応し、周囲の水分が凍結して結合。空中に、1m程度の『氷の槍』が無数に生み出された。
「そう安々と思い通りにはさせぬ。母なる大地よ、大いなる腕にて我等を厄災より護れ……!」
蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)が言葉を紡ぐのと、氷槍が放たれたのは、ほぼ同じタイミングだった。彼女の声に地の精霊が応え、土の壁となって具現化。幅と高さが2m程度の土壁が、B班全員を守る。
一瞬の間を置いて、壁に突き刺さる氷槍。豪雨のような攻撃を完全に防いでいるが…長い時間は持たないだろう。
「すまない、助かった……」
手短に礼を述べ、オウカ・レンヴォルト(ka0301)は両手の武器を握り直す。無愛想で無口なオウカだが、礼を失するような男ではない。彼の言葉に、蜜鈴はクツリと笑って見せた。
「大事なくて何よりじゃ。それにしても……花見にはちと無粋な客じゃのう」
仲間達の無事を喜びつつ、煙管を口にする。言葉と共に紫煙を吐き出し、壁の向こう側に居る歪虚に視線を向けた。
Beeは壁から顔を出し、敵の様子を覗き込む。飛んで来る氷槍に注意しながら状況を確認し、素早く首を引っ込めた。
「予想以上に激しい攻撃ですね。ですが、敵の注意が私達に向いているという事は……」
「あたし達が攻めるチャンスです。パパっとやっつけちゃいましょう!」
璃袈の叫びに、A班の仲間達が力強く頷く。敵の攻撃がB班に集中しているなら、A班への警戒は手薄。多少距離があるが、贅沢は言っていられない。弾かれるように、A班の5人が木の陰から駆け出した。
一気に距離を詰めていくが、敵は歪虚。一筋縄でいく相手ではない。後方からの接近に気付き、亡霊は攻撃対象を変更。後ろを振り向き、氷槍を撃ち出した。
迫り来る攻撃が、ハンター達の脚を強制的に止める。直線ではなく、扇型に広がる氷槍……それを避けるのは、簡単な事ではない。
「なかなか激しい攻撃をしてくれるではないか……余程こちらを近づけたくないらしいな」
言葉と共に、アデリシアは不敵な笑みを浮かべた。さっきまでの優しい表情とは違い、クールで好戦的な雰囲気。氷槍が体を掠めて小さな傷を描くが、後退する素振りは見せていない。
「流石に、一足で近付ける相手ではありませんね。ならば……!」
刹那は決意と共に、体内のマテリアルを開放した。瞬間的に身体能力を高め、黒い長髪を揺らしながらアクロバティックな動きで氷槍を回避。直撃こそしていないが、太腿の辺りから浅く出血している。
その隣では、ルピナスが射線や射程を観察しつつ、立体的な動きを展開。帽子が落ちないように押さえ、敵を翻弄するように身を翻している。それでも完全に回避するのは難しいのか、頬や肩に赤い線が描かれているが。
「わわわ! 纏まり過ぎちゃうと危ないんですかね。んぅ……」
悲鳴に似た声を漏らし、苦笑いを浮かべる璃袈。敵が範囲攻撃を仕掛ける以上、固まって行動したら危険が伴う。だからと言って、単騎突撃が安全というワケでもない。若干悩むのも、仕方のない事だろう。
A班が氷槍に狙われたのは、時間にして数秒程度。その間、大半の者は回避に専念していたが……1人だけ、攻撃を選んだ者が居た。
「光の矢よ、我の敵を射抜き払いたまえ……!」
ラプの口から紡がれる、力ある言葉。普段の彼は明るく元気だが、戦闘中は静かで凛々しい。ラプの声に呼応してマテリアルが収束し、光の矢となって撃ち出された。狙いは、歪虚の頭部。矢が衝撃を伴い、敵の眉間を貫いた。
「狙いはこっち、だ」
鋭く短い言葉に次いで、一条の光が闇夜を切り裂く。それが歪虚を『背後から』貫き、胴に穴を穿った。
これは、オウカの放った銃撃。歪虚の標的がA班に変わった事で、今度はB班が攻撃に転じた。それに一瞬早く気付いたラプは、連携狙いで光の矢を放ったのだ。
イレーヌと蜜鈴は、敵を攻撃射程内に収めるため、地面を蹴って全力で駆ける。機動力の高いテトラは、2人を追い抜いて樹の下まで疾走した。
(この距離なら行ける!)
彼女の後を追うように、Beeは日本刀を構えて一気に間合いを詰める。2人の狙いは、歪虚ではなく『掘り起こされた頭蓋骨』。実体の無い亡霊型歪虚には物理的攻撃は効かないが、頭蓋骨なら話は別である。
樹に至近距離まで接近した事で、視界にようやく『白い塊』が映る。大半は埋まっているが、彼女達の技量なら充分に狙えるだろう。走りながら、2人は狙いを定めた。
「気を付けろ、地面の下だ!」
月明かりの公園に響く、イレーヌの叫び声。ほぼ同時に、掘り返された穴から『2体目の亡霊』が出現した。驚く暇も無く、歪虚が氷槍を放つ。
反射的に、テトラは地面を蹴って跳び上がった。立体的な動きで直撃を避けると、首に巻いた青いマフラーも軽やかに舞い踊る。
「ほらほらどしたのっ? あたしは幽霊じゃないよー、やははー♪」
陽気に笑いながら、軽やかなアクロバティックを決めるテトラ。氷槍が頬に赤い線を刻んでいるが、気にしていないようだ。
Beeは一瞬反応が遅れたのか、脚部に浅い傷ができている。負傷を重ねないため、彼女は攻撃の軌道を読んで氷槍を回避。時には日本刀で氷を受け止め、叩き落としている。
テトラとBeeは体勢を立て直すため、後方に跳び退いた。
「伏兵が真下から現れるなんて……予想外だね」
苦笑いを浮かべ、言葉を漏らすルピナス。増援や伏兵の可能性は考慮していたが……それが頭蓋骨が埋まっている位置から出現するとは、誰も思っていなかっただろう。
ハンター達の予想外を加速させるように、歪虚達は背中を合わせて氷槍を撃ち出す。互いの死角をフォローし合うような連携攻撃。A班もB班も、同時に氷槍に狙われている。
防御や回避に専念し、攻撃に耐える10人。時間にして数秒程度だとしても、苛烈な氷槍に晒されるのは誰でも厳しい。
「亡霊が増えたからって目的は変わりません。2体まとめて倒しちゃえば良いんですから」
璃袈はハイヒールからマテリアルを噴射し、高速移動とジャンプで攻撃を回避している。今は防戦に徹しているが、紫の瞳に宿る闘志は衰えていない。むしろ、敵の隙を狙っているようにも見える。
「そうですね……皆さん! 一気呵成に行くなら、今です!」
敵と味方の状況を的確に判断し、Beeが仲間達を促す。敵との距離は開いていないし、10人全員で攻めるなら頭蓋骨を狙い易くなる。攻撃に転じ、機先を制するには、悪くないタイミングだろう。
「ならば、補助は私に任せて貰おう。後の事は頼んだ」
言うが早いか、巨大な盾で身を守っていたイレーヌが指輪にマテリアルを込める。遠くまで響かせるように鎮魂歌を歌い上げると、清浄なる波動が歌声に乗って伝播。その力が『命を失った存在』に作用し、歪虚達の動きを鈍らせた。
イレーヌの鎮魂歌で、敵の攻撃が途切れる。八角棍を回転させて氷槍を防御していたアデリシアは、武器を素早くワンドに持ち替えた。
「歪虚とはいえ亡霊……すぐゆっくりと眠らせてやろう」
先端に埋め込まれた青い宝石が輝きを増し、空中に光の弾が生み出される。それが宙に光の軌跡を描き、増援の歪虚を直撃。光弾のダメージと衝撃で、亡霊の体が小刻みに揺れた。
「そなたを逃がしはせぬよ……我の矢で、射抜くっ!」
ラプは追撃するために感覚を研ぎ澄ませ、マテリアルの流れを感じ取る。そこに体内のマテリアルを収束させると、眩しい輝きが矢の形に具現化。射ち放たれた一撃が高速で飛来し、増援歪虚の脇腹に風穴を空けた。
反撃するように、亡霊達が腕を振り上げる。周囲に氷槍が生み出されるより一瞬早く、ルピナスはワイヤーウィップを振り回した。
「さあ踊りなよ。未練があるのかどうか知らないけれど、君の最後のステージなんだからさ」
直接攻撃は効かないが、注意を引く事は出来る。それが『頭蓋骨を狙っている』なら尚更に。鋼線を編んで作られた鞭が、歪虚を無視して頭蓋骨に迫る。
反射的に視線を送る亡霊達。だが……3m近い鞭も、ギリギリで頭蓋骨に届かなかった。数cm手前の地面を抉って土が舞い上がり、骨が更に掘り起こされる。
あわよくば頭蓋骨を砕きたかったが、ルピナスの狙いは敵の連携を阻止し、攻撃を潰す事。ほんの一瞬だけ注意を逸らせたが、『彼女』にとっては充分過ぎる時間だろう。
歪虚の隙を突くように、懐に潜り込む璃袈。風の精霊が宿る銃を突き付け、引金を引いた。直後、銃口から『気流を纏った雷撃』が放たれ、増援歪虚の心臓辺りを焦がす。そこから電流が全身を駆け巡り、動きを更に鈍らせた。
「桜の下にあるのは死体であって、幽霊じゃない……さっさと、ご退場願おう、か」
静かに、冷静なツッコミを入れ、オウカは銃にマテリアルを送り込む。その全てがエネルギーに変換され、銃口から光となって撃ち出された。風の力を宿した、超高速の銃撃。それが増援歪虚の片腕を吹き飛ばした。
ダメージが蓄積されたのを確認し、蜜鈴は自身が『呪歌』と呼んでいる歌で術を開放。周囲に流れるマテリアルを感じ取り、更なる『呪歌』を口にする。
「是にて終幕じゃ。浄化の炎に包まれ眠れ……愛しき夢への誘いを……さぁ、おやすみ」
子守唄のような、優しい口調。それとは対照的な、激しく燃え盛る火球を生み出し、歪虚に向かって投げ放った。それが敵に接触した瞬間、炸裂して衝撃と炎が敵を包み込む。
浄化の炎に抱かれた亡霊達は、徐々に焼滅していく。数秒もしないうちに、歪虚の姿は炎と共に消え去った。
敵は倒したが、まだ全てが終わったワケではない。テトラは地面を蹴って跳躍し、空中で拳銃を構えた。
「こんなになっちゃ、飴玉の味も分かんないよねぇ。カワイソウに」
金色の瞳に映るのは、土に埋まった骸骨。これを破壊しない限り、別の歪虚が出現する可能性は否定できない。頭蓋骨を狙って、彼女は引金を引いた。放たれた弾丸が眉間を撃ち抜き、衝撃で土と骨が宙に舞い上がる。
Beeは半身の姿勢を取り、日本刀を水平に構えた。頭蓋骨の落下地点を予測し、その位置に向かって駆け出す。
刹那は落下位置に先回りし、ノーモーションで居合の如く太刀を奔らせた。彼女の斬り上げるような斬撃に、Beeの振り下ろすような一撃。2つの剣閃が空中で交差し、頭蓋骨を『×』字に斬り裂いた。
●
歪虚を倒し、頭蓋骨を破壊してから数十分後。ハンター達は、まだ夜の公園に居た。戦闘の跡や掘り起こされた穴を埋め、骨は回収。全員で協力し、公園を整備している。
「こんなモンかな? どこの誰かは分からんけんど……放っておくんは、可哀想やしなぁ」
ラプは壊れた頭蓋骨を回収し、厚手の袋に保管。故人を特定できるか調査し、分からなければ自分で埋葬しようと思っていた。
「頭蓋骨の人……歪虚と何か関係があったのかな? 例えば、執念とか怨念が歪虚化したとか」
軽く小首を傾げ、テトラは思案を巡らせる。この骨と歪虚の接点は分からないが……何らかの関係はあるかもしれない。真相がハッキリするという保証は無いが、調べる価値はあるだろう。
「もし掘り起こされる事がなければ……そのまま静かに眠っていたのかもしれないな」
ある意味、この頭蓋骨も今回の『犠牲者』なのだろう。勝手な理由で掘り起こされ、歪虚の核にされ、最終的には破壊されて。イレーヌは死者の眠りを妨げてしまった事を猛省し、静かに黙祷を捧げた。
(埋まっていた君は……どんな物語を描いていたんだろ。もう知る由はないけど、さ )
物言わぬ骸骨に、心の中で語り掛けるルピナス。当然、言葉は返ってこない。頭蓋骨の入った袋を見詰め、ルピナスは少しだけ悲しそうな表情を浮べた。
「この骨も気になるが、妾は『生き残った男ノ子』が心配じゃな。心は……無事かのう?」
煙管片手に、紫煙を吐く蜜鈴。今回の事件、生存者の少年は、目の前で友人2人を殺されている精神的負担で心が壊れないか……蜜鈴はそれが気になっていた。
「そうですね……『好奇心は猫をも殺す』とは言いますが……実際こうなってみると、責めるわけにもいきますまい」
蜜鈴同様、少年の身を案じるアデリシア。彼等の好奇心が事件を引き起こしたとは言え、本当に悪いのは歪虚。それに、友達を失った少年を責める気は微塵も無い。
アデリシアと蜜鈴の話を聞きながら、刹那は横目で2人を覗き見た。
(敵を倒すだけでなく、被害者の心配まで……蜜鈴さんもアデリシアさんも大人だなぁ……」
オバケを怖がっていた自分とは違い、彼女達は『大人な対応』をしている。その余裕がある姿を、刹那は羨ましいと思った。
そんな彼女の横顔を、朝日が明るく照らす。悪夢のような夜は終わりを告げ、新しい1日が始まった。この桜も、新しい年には綺麗な花を咲かせるだろう。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/12 21:54:04 |
|
![]() |
【相談卓】 ルピナス(ka0179) 人間(クリムゾンウェスト)|21才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/05/15 20:05:57 |