ゲスト
(ka0000)
魔窟!?リゼリオの激辛料理店
マスター:桐咲鈴華

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/07/09 15:00
- 完成日
- 2014/07/15 01:23
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
様々なものを流通させている自由都市同盟の街の一つ、リゼリオの街の一角で、異常な程香辛料を輸入している店がある。
リアルブルーの文化的に言うならば『中華料理』にカテゴライズされる料理を出すお店であるが、その品々はどれも、殺人的な辛さを誇る。
とにかく辛い。死ぬ程辛い。むしろ痛い。
本来辛くない筈の料理にすら香辛料を無駄にふんだんに使う徹底ぶりだ。
キャッチフレーズは『唐辛子は友達。山椒は朋友。ラー油は盟友で豆板醤は親友』
店内の空気すら目に染みるんじゃないかと錯覚する程の香辛料ハウス。その名は『スパイス・パンデモニウム』
地元の人々からは『魔窟』と恐れられる程の激辛料理店である……
しかし、名の知れた激辛通からすれば、その店は楽園(パラダイス)と崇められている。
中にはここの料理から激辛に目覚める人も少なくないらしく、辛味がツボに入った人は灼け付くような舌の痛みすら堪能してしまう中毒性があるらしい。
そんなお店の店主が此度、ハンター達の好みをリサーチしたいとの事で、ハンターオフィスに依頼が寄せられた。
わが道をゆく料理人の店主ではあったが、その心意気は『ありとあらゆる激辛通の舌を満足させたい』というものであった。故に、様々な地域を渡り歩くハンター達の意見を是非知りたい、という事らしい。
我こそはと思う激辛通のハンター達は、どうかこの依頼を受けてみてはいかがだろうか。
リアルブルーの文化的に言うならば『中華料理』にカテゴライズされる料理を出すお店であるが、その品々はどれも、殺人的な辛さを誇る。
とにかく辛い。死ぬ程辛い。むしろ痛い。
本来辛くない筈の料理にすら香辛料を無駄にふんだんに使う徹底ぶりだ。
キャッチフレーズは『唐辛子は友達。山椒は朋友。ラー油は盟友で豆板醤は親友』
店内の空気すら目に染みるんじゃないかと錯覚する程の香辛料ハウス。その名は『スパイス・パンデモニウム』
地元の人々からは『魔窟』と恐れられる程の激辛料理店である……
しかし、名の知れた激辛通からすれば、その店は楽園(パラダイス)と崇められている。
中にはここの料理から激辛に目覚める人も少なくないらしく、辛味がツボに入った人は灼け付くような舌の痛みすら堪能してしまう中毒性があるらしい。
そんなお店の店主が此度、ハンター達の好みをリサーチしたいとの事で、ハンターオフィスに依頼が寄せられた。
わが道をゆく料理人の店主ではあったが、その心意気は『ありとあらゆる激辛通の舌を満足させたい』というものであった。故に、様々な地域を渡り歩くハンター達の意見を是非知りたい、という事らしい。
我こそはと思う激辛通のハンター達は、どうかこの依頼を受けてみてはいかがだろうか。
リプレイ本文
●ようこそ、辛さの楽園へ
冒険都市リゼリオの一角。真っ赤な壁と唐辛子の看板が目を引く、通称『魔窟』。
激辛料理店『スパイス・パンデモニウム』はそこにあった。
香辛料はこの世界ではそれなりに貴重なものではあるが、店主が趣味にあかせて始めた店でもある為、高級食材にも関わらずそれなりにリーズナブルな価格となっている。
しかし安さに釣られてはいけない。言い変えればこの店は『店主の趣味が丸出しの店』といえる。
『食えるもんなら食ってみろ』と言わんばかりの、超激辛料理店だ。一見さんは悉く逃げ帰るレベルである。
そんなお店のドアを開けるのは、ハンターズソサエティのハンター達。
「おー、むせそうな店だね。目が赤くなりそうだよ。なんかよくわかんないけどヤバいね。ってか何よパンデモニウムって」
ロザーリア・アレッサンドリ(ka0996)は飄々とした調子で店内を見回す。充満している香辛料の香りに、喉の奥をくすぐられる感覚だ。
「こんなにも匂いが漂ってるんだね。これは辛そうだなぁ」
海堂 紅緒(ka1880)もその匂いから、出される料理を想像する。
「………」
シャルロッテ・ドール(ka2452)は静かに店内を見回していた。そして、傍らに居る一際ご機嫌な女性が目に留まる。
「こういう依頼もあるんだねぇ~。大好物の激辛料理を食べるだけの仕事って、最高じゃない♪」
ニコニコと笑顔がこぼれ落ちてるのはハル(ka2201)だ。彼女は特に激辛料理が好きなようである。
「楽しそうじゃのう。私は興味で来ただけじゃからな。斯様な店の料理は如何程の味なのかえ……」
そんなハルを横目に、クワッサリー(ka1388)はマイペースに呟く。ここのお店の辛さに対して興味がある、といった風だ。
「やーやー、よく来てくれたアルね!」
とって付けたようなわざとらしい『アル』のつけ方をしながら、店の奥から現れたのはここの店主だ。三つ編みのロリっ娘という、本当に店主かと疑う程の容姿である。
「助かるアルよー、真の激辛店を目指す者として、冒険者サンの声は是非聞いておきたいからねアル! ささ、席に着いて。何にするアルか?」
流れるように席に勧められ、皆が注文が済ませる。店主が店の奥へ引っ込むと皆は思い思いに雑談を始めた。
「いや~、それにしても楽しみだねぇ♪ ふふ、激辛通の私を唸らせる事が出来るかな~?」
「お、ハルさんは激辛好きなの? 私はそこまで強くないんだよね」
隣同士の席になったご機嫌なハルに、紅緒が声をかけた。
「うん、大好き! 激辛料理は僕の大好物だからね。とっても刺激的で最高なの! 特に麻婆豆腐は大好物でねぇ。辺境から街へ来たばかりの頃、初めて食べたその魅力にすっかり虜になったんだ~……それ以来週5は麻婆」
「多いよ!?」
鋭いツッコミを入れる紅緒。週5、驚異的な数である。最早麻婆が主食になっているのではなかろうか……
クワッサリーはそんなハルの様子を興味深そうに眺めていた。
(そうか、そんなに麻婆豆腐は美味いのか。これは楽しみじゃな)
彼女はなんとなくで麻婆豆腐を注文していたのだ。最高の辛さレベルに単純な興味を惹かれたか、自分でも明確な理由は解らない。だがここまで絶賛の声を聞くと、期待に胸が高鳴るというものである。
向かいの席のシャルロッテは、ただただ静かに座って待っていた。ぴくりとも身動ぎしない様子に不思議に思ったのか、隣の席のロザーリアが声をかける。
「んー? 表情が硬いよ? どしたの?」
それに対してシャルロッテは静かにロザーリアの方を向き、相変わらずの無表情で応える。
「……硬い、かしら……? 自分では、よく解らないわね」
「折角お店に来たんだし楽しもうよー。ほら、もう匂いからしてヤバいじゃんこのお店。なんだかドキドキしない?」
「……こう見えて、楽しんでいるわ……辛いものを食べれば、少しは変わるかしら」
そうなんだ? とロザーリアは納得する。そうこうしている間に店の奥から店主が、盆に料理を載せて運んできた。
「ハイ、お待たせアル! 料理が出来たアルよー!」
そう言って店主は、それぞれの前に皿を並べていく。
●いざ、戦いの始まり
ハンター達の前に並べられた料理の品々。どれも中華料理には間違いない……
が、赤い。とにかく赤い。真っ赤だ。赤色じゃない部分の方が少ないくらい、品々は赤色に塗り潰されていた。
「うっわぁ、辛そう……」
紅緒の前に並べられたのは小龍包に焼飯。どちらも本来香辛料なんて使わない筈だが、並べられた料理はほぼ赤色だ。皮に包まれた小龍包は、中に詰められた赤いものがうっすらと透けているし、焼飯に至っては『なにこれケチャップライス?』と思うくらい、米が一つ一つ赤い。そして迸る、香辛料の香り。突き刺すような鋭い香りが鼻腔に入り、思わずむせそうになる。紅緒は対面に座るロザーリアの方を見た。
彼女の方にも同じ焼飯。そして春巻と中華スープが置いてある。春巻からも何やら冒涜的な香りが漂い、中華スープもほんのり朱に染まっている。
「あんま辛くなさそうなものを選んだよ! けど只今現在進行形で後悔してなくもないです!」
エルフでも大丈夫かなーと思ったが、甘かった。この赤さに半分戦意を折られかけている。
「あたし、これ完食したら、結婚するんだ……」
ご丁寧に死亡フラグまで立てたロザーリア。時既に諦めムードだ。
「……」
シャルロッテの前に置かれたのは青椒肉絲だ。こちらは緑と赤と茶の色とりどりな料理だが……何か、こう、ピーマンが青唐辛子と赤唐辛子に見えなくもない。
そしてこの店固有の鼻をつく香辛料の香りは健在だ。目に易しいのはどうやら見た目だけらしい。
「~っ♪ きたきた、この香り、この見た目! 食欲をそそるなぁ」
「ま、麻婆豆腐とはこんなにも攻撃的な料理なのかえ……」
同じ麻婆豆腐を頼んだ二人の反応は対照的なものだ。ハルは毒々しいまでの赤と、地獄の釜のようにぐつぐつと煮え滾る麻婆の姿に大満足している。
クワッサリーはまさに『好奇心猫を殺す』を地で体験していた。料理から発せられる熱と香りに既にノックアウトしそうな勢いである。
「い、いざっ」
一番最初に動いたのは紅緒だ。箸を使い、小龍包を口に運ぶ。包まれているせいか、焼飯程辛い風味は感じない。
紅緒は一口齧る。すると、中に封じられていた辛味が解放され、口の中へと広がっていく。
「っ、は……! 辛いっ!」
思わず水を飲む。心積もりはしていたが、やはり凄い辛さだ。中に含まれているミンチを香辛料で炒めてあるのだろうか。噛んだ瞬間、肉汁と同時に辛味が口の中へ飛び出す。
「でも、美味しい……辛いけど、ちゃんとお肉の味もするよう、ひぃひぃ」
若干の涙目になりつつ、はむはむと小龍包を完食する。水をがぶがぶと飲み干す事で、何とか口の中を冷まそうとする。
「さ、さぁ! 目の前の紅緒さんが大変な事になっています! 同テーブルから来る麻婆豆腐の圧倒的プレッシャーを尻目に、毅然とした態度ででロザリーさんは挑もうと思います!」
その様子を見て、ロザーリアが意を決したと言わんばかりに焼飯に向き直る。セルフ実況をして自らを鼓舞しつつも、真っ赤な焼飯に思わずゴクリと生唾を飲み込んだ。紅緒も同じく焼飯の方へと移る。辛さがオーラになって見えそうになるような料理だ。恐る恐るレンゲで一口掬い、口の中に入れる。
「んっ!?」
「んぐうっ!?」
思わず口を押さえ。素早く咀嚼して飲み込む。そしてすぐさま息を吸い込みつつ、水によって流し込んだ。
「か、辛ぁっ! なにこれ、辛い! というかもう痛いよ!」
ひゅう、と口から思わず息が漏れる。相当の辛さだ。口に含んだ瞬間目から火花が出るかと思った。
「がっ、げっほげっほごほごほぁ」
対面に座っていたロザーリアもなんかめっちゃむせていた。
「こ、こんなの絶対おかしいよ! 星ふたつなんでしょ!?」
見栄を張ってレンゲ山盛りを口の中に放り込んだらしい。既に顔は真っ赤だ。鼻水までちょっと出ている。エルフ特有の端麗な顔立ちが台無しである。
「あ、はは……ロザリーさん、鼻水出てるよー」
「そ、そういう紅緒さんもね! 涙まで流して……!」
2人は笑いあいつつ、ティッシュで涙と鼻水を拭う。
「こんな辛いと夏バテに困りそうもないね! 食が進むよー!」
半ばヤケになって焼飯をガツガツとかきこみ始める紅緒。だが焼飯も、辛いだけではない。混ぜられたミンチや卵が食感と味にアクセントを加え、丁寧に味付けされている。恐ろしい辛さだったが、確かに感じる旨味があった。
「うー辛い……でも味はいい、食べちゃうよぉ……」
ロザーリアもまたその深みの味に気付いたのか、レンゲを動かす。口はヒリヒリしてるが、それでも食べてしまう。
ひぃこらと悲鳴をあげつつも、なんとか完食する紅緒とロザーリア。
そんな2人を尻目に、シャルロッテもまた青椒肉絲に着手する。肉とピーマン、もとい、唐辛子を同時に箸でつまみ、口へと運ぶ。
「……っ!」
ビクッ、と彼女の身体が震える。相変わらずの無表情ではあるが、明らかに辛さを感じている。つうっ、と、一筋の汗が頬を伝う。
唐辛子だけの辛さで許してくれる程甘くなかった。それぞれが更に香辛料で炒められており、弾けるような刺激が口の中で暴れ回る。熱々の肉汁がその隙間に滑り込み、唐辛子の若干の苦味がそれを中和……しきれてないが、アクセント程度にはなっている。
(おいしい……けど、辛いわ……だけど、これもわたくしに与えられた試練……負けられないわ……)
何故か謎の闘争心を発揮してしまっている。極悪な辛さながらも、ここまで見事に料理として昇華されているならば、それに応えるのも食事をする者の流儀なのだろう。無機質な見た目によらず、熱い心を秘めているようである。
そして、いよいよと言うべきか、この店の中で最高の辛さレベルを誇る料理、麻婆豆腐に手をつけようとする者がいた。クワッサリーだ。
意を決してレンゲを手に取り、真っ赤な海をひと掬いする。
「……貴族たる者、常に優雅たらん」
ふっ、と優雅な笑みを作り、レンゲを口の中に入れる。
「ごっふぁ!?」
そして思い切りむせる。優雅であった時間は僅か5秒だった。顔が真っ赤になり、汗が噴き出る。最早香辛料が口の中で爆発してんじゃないの? と思う程の衝撃だ。
「び、美味、じゃな……」
それでもあくまで優雅に振舞おうとするが、汗をだらだらと流しつつ、手がぶるぶる震え、笑みを作る口はひくひくと痙攣している。顔に出やすい性質らしい。
(じゃが、覚悟はしてきた……! ええい、ままよ……!)
そのままクワッサリーは震える手でレンゲを握りなおし、赤い海へとオールをかくように一定間隔で麻婆を口へと運んでゆく。
「……戦いに赴く、クワッサリーさんに捧げる」
シャルロッテは歌を歌い始める。勇敢なる戦士へ賛歌を。心を殺し、身を削るクワッサリーへ……美麗な歌声の内容はラー油の海を唐辛子が渡るという大変シュールなものであったが。ある意味追い討ちである。
「あぁぁぁっ……!」
急に、恍惚とした声が聞こえる。皆がそちらに目をやると、一心不乱に麻婆をかきこんでいるハルの姿があった。
「やっば、辛い、超辛い! 口にする度に血が逆流するみたいっ! 体中が火照ってもう止まらないよぉ!」
はふはふと、汗を流しつつ麻婆を口に含んでいく。辛さで痺れているのか、半開きになった口から艶やかな吐息が漏れる。じっとりと胸元に浮かぶ汗も相まって非常に艶かしい。だがハルはそんなことを意にも介さず、麻婆豆腐を味わっていく。
「……ねぇ、それ、クワッサリーさんのよりも赤い気がするのだけれど」
一時的に歌を止め、シャルロッテが疑問を口にする。
「うんっ! 頼む時にね、店主さんに頼んで、辛さのレベルをもう一段階上げて貰ったんだぁ! 辛くて、辛くて、もうたまんないよ! もう病み付き!」
額の汗を拭いつつハルが応える。
「て、ことは、ほ、星6つ!?」
「えぇ!?」
ロザーリアと紅緒が驚きの声を漏らす。星二つでも一般人の味覚を持つ二人を唸らせる程の激辛だ。その3倍のレベルとなっているならば、その辛さは2人には計り知れないだろう。
「ひ、一口貰っていいかな……?」
「うんっ、いいよー! どうぞどうぞ♪」
恐る恐る、紅緒はハルから麻婆を一掬い貰う。やっとの思いで攻略した焼飯とは比べ物にならないプレッシャーだ。
「……はむっ」
そして意を決して口にする。瞬間、目をカッ!と見開く。
「からぁぁっ!」
ひっくり返る程の勢いで水にすがりつく。舌から鼻を突き抜ける爆発のような刺激が、味覚を、脳を刺激して揺さぶる。
「む、むりぃ、こ、こんなのたべれにゃ……」
呂律の回ってない声で紅緒が悲鳴をあげて、がくりとテーブルに崩れ落ちる。紅緒はこんな化物料理を食べれるハルの方を、顔だけを向けて見る。そこで、はっと気付いた。
「ふふ、辛いでしょ……でも、まだだよ……僕はまだ、辛さの先を見ていない……!」
ハルは鬼気迫る雰囲気だ。最早殺人的とも言っていい辛さの料理を食べ続けているが、その気迫はまだ収まる事を知らない。覚醒してでも食べ切ってやる、と言わんばかりの勢いである。
「あ、ロザリーさん。良かったら、その春巻きくれるかな」
「えっ」
焼飯の辛さにすっかり恐れをなしし、中華スープと水を交互に飲んでいたロザーリアの残していた春巻きに気付く。香辛料が丸ごと包まれたといわんばかりに赤色が透けて見えるそれに手を出す勇気はなかったのだ。隙を見て、隣のシャルロッテに渡そうかとか悪巧みしていた。
「よ、よければ」
「やったぁっ♪ ありがとー!」
麻婆を平らげ、続けて春巻きも齧るハル。その断面からチラリと見えた赤色に他の皆は戦々恐々としているが、ハルは『お持ち帰りも頼んでみたいな~♪』とご機嫌だ。
「……ごひそうしゃまでひた……美味で、あった…」
その隣で、呂律の回らない声をあげながらバタリ、と倒れる音が聞こえる。
今の今まで無心に麻婆と激戦を繰り広げていたクワッサリーだ。その麻婆豆腐の器は、見事に空になっている。
皆はその健闘に、惜しみない拍手を贈るのだった。
(辛いのは、もうこりごりじゃ……)
と心の中で呟くクワッサリーが、後にこの店のリピーターとなったらしいが、それはまた別のお話
「なんてこった、こんな筈じゃなかったのになー口直しに杏仁豆腐を食べよ……」
そしてロザーリアもまた、『あ”-』という奇声と共に崩れ落ちる。
「……杏仁豆腐の星を一つ増やして欲しい、なんて言うから」
青椒肉絲を完食し、珍しく流した汗を拭っているシャルロッテは、崩れ落ちたロザーリアと紅く染まる杏仁豆腐を一瞥しながら、そう呟くのだった。
冒険都市リゼリオの一角。真っ赤な壁と唐辛子の看板が目を引く、通称『魔窟』。
激辛料理店『スパイス・パンデモニウム』はそこにあった。
香辛料はこの世界ではそれなりに貴重なものではあるが、店主が趣味にあかせて始めた店でもある為、高級食材にも関わらずそれなりにリーズナブルな価格となっている。
しかし安さに釣られてはいけない。言い変えればこの店は『店主の趣味が丸出しの店』といえる。
『食えるもんなら食ってみろ』と言わんばかりの、超激辛料理店だ。一見さんは悉く逃げ帰るレベルである。
そんなお店のドアを開けるのは、ハンターズソサエティのハンター達。
「おー、むせそうな店だね。目が赤くなりそうだよ。なんかよくわかんないけどヤバいね。ってか何よパンデモニウムって」
ロザーリア・アレッサンドリ(ka0996)は飄々とした調子で店内を見回す。充満している香辛料の香りに、喉の奥をくすぐられる感覚だ。
「こんなにも匂いが漂ってるんだね。これは辛そうだなぁ」
海堂 紅緒(ka1880)もその匂いから、出される料理を想像する。
「………」
シャルロッテ・ドール(ka2452)は静かに店内を見回していた。そして、傍らに居る一際ご機嫌な女性が目に留まる。
「こういう依頼もあるんだねぇ~。大好物の激辛料理を食べるだけの仕事って、最高じゃない♪」
ニコニコと笑顔がこぼれ落ちてるのはハル(ka2201)だ。彼女は特に激辛料理が好きなようである。
「楽しそうじゃのう。私は興味で来ただけじゃからな。斯様な店の料理は如何程の味なのかえ……」
そんなハルを横目に、クワッサリー(ka1388)はマイペースに呟く。ここのお店の辛さに対して興味がある、といった風だ。
「やーやー、よく来てくれたアルね!」
とって付けたようなわざとらしい『アル』のつけ方をしながら、店の奥から現れたのはここの店主だ。三つ編みのロリっ娘という、本当に店主かと疑う程の容姿である。
「助かるアルよー、真の激辛店を目指す者として、冒険者サンの声は是非聞いておきたいからねアル! ささ、席に着いて。何にするアルか?」
流れるように席に勧められ、皆が注文が済ませる。店主が店の奥へ引っ込むと皆は思い思いに雑談を始めた。
「いや~、それにしても楽しみだねぇ♪ ふふ、激辛通の私を唸らせる事が出来るかな~?」
「お、ハルさんは激辛好きなの? 私はそこまで強くないんだよね」
隣同士の席になったご機嫌なハルに、紅緒が声をかけた。
「うん、大好き! 激辛料理は僕の大好物だからね。とっても刺激的で最高なの! 特に麻婆豆腐は大好物でねぇ。辺境から街へ来たばかりの頃、初めて食べたその魅力にすっかり虜になったんだ~……それ以来週5は麻婆」
「多いよ!?」
鋭いツッコミを入れる紅緒。週5、驚異的な数である。最早麻婆が主食になっているのではなかろうか……
クワッサリーはそんなハルの様子を興味深そうに眺めていた。
(そうか、そんなに麻婆豆腐は美味いのか。これは楽しみじゃな)
彼女はなんとなくで麻婆豆腐を注文していたのだ。最高の辛さレベルに単純な興味を惹かれたか、自分でも明確な理由は解らない。だがここまで絶賛の声を聞くと、期待に胸が高鳴るというものである。
向かいの席のシャルロッテは、ただただ静かに座って待っていた。ぴくりとも身動ぎしない様子に不思議に思ったのか、隣の席のロザーリアが声をかける。
「んー? 表情が硬いよ? どしたの?」
それに対してシャルロッテは静かにロザーリアの方を向き、相変わらずの無表情で応える。
「……硬い、かしら……? 自分では、よく解らないわね」
「折角お店に来たんだし楽しもうよー。ほら、もう匂いからしてヤバいじゃんこのお店。なんだかドキドキしない?」
「……こう見えて、楽しんでいるわ……辛いものを食べれば、少しは変わるかしら」
そうなんだ? とロザーリアは納得する。そうこうしている間に店の奥から店主が、盆に料理を載せて運んできた。
「ハイ、お待たせアル! 料理が出来たアルよー!」
そう言って店主は、それぞれの前に皿を並べていく。
●いざ、戦いの始まり
ハンター達の前に並べられた料理の品々。どれも中華料理には間違いない……
が、赤い。とにかく赤い。真っ赤だ。赤色じゃない部分の方が少ないくらい、品々は赤色に塗り潰されていた。
「うっわぁ、辛そう……」
紅緒の前に並べられたのは小龍包に焼飯。どちらも本来香辛料なんて使わない筈だが、並べられた料理はほぼ赤色だ。皮に包まれた小龍包は、中に詰められた赤いものがうっすらと透けているし、焼飯に至っては『なにこれケチャップライス?』と思うくらい、米が一つ一つ赤い。そして迸る、香辛料の香り。突き刺すような鋭い香りが鼻腔に入り、思わずむせそうになる。紅緒は対面に座るロザーリアの方を見た。
彼女の方にも同じ焼飯。そして春巻と中華スープが置いてある。春巻からも何やら冒涜的な香りが漂い、中華スープもほんのり朱に染まっている。
「あんま辛くなさそうなものを選んだよ! けど只今現在進行形で後悔してなくもないです!」
エルフでも大丈夫かなーと思ったが、甘かった。この赤さに半分戦意を折られかけている。
「あたし、これ完食したら、結婚するんだ……」
ご丁寧に死亡フラグまで立てたロザーリア。時既に諦めムードだ。
「……」
シャルロッテの前に置かれたのは青椒肉絲だ。こちらは緑と赤と茶の色とりどりな料理だが……何か、こう、ピーマンが青唐辛子と赤唐辛子に見えなくもない。
そしてこの店固有の鼻をつく香辛料の香りは健在だ。目に易しいのはどうやら見た目だけらしい。
「~っ♪ きたきた、この香り、この見た目! 食欲をそそるなぁ」
「ま、麻婆豆腐とはこんなにも攻撃的な料理なのかえ……」
同じ麻婆豆腐を頼んだ二人の反応は対照的なものだ。ハルは毒々しいまでの赤と、地獄の釜のようにぐつぐつと煮え滾る麻婆の姿に大満足している。
クワッサリーはまさに『好奇心猫を殺す』を地で体験していた。料理から発せられる熱と香りに既にノックアウトしそうな勢いである。
「い、いざっ」
一番最初に動いたのは紅緒だ。箸を使い、小龍包を口に運ぶ。包まれているせいか、焼飯程辛い風味は感じない。
紅緒は一口齧る。すると、中に封じられていた辛味が解放され、口の中へと広がっていく。
「っ、は……! 辛いっ!」
思わず水を飲む。心積もりはしていたが、やはり凄い辛さだ。中に含まれているミンチを香辛料で炒めてあるのだろうか。噛んだ瞬間、肉汁と同時に辛味が口の中へ飛び出す。
「でも、美味しい……辛いけど、ちゃんとお肉の味もするよう、ひぃひぃ」
若干の涙目になりつつ、はむはむと小龍包を完食する。水をがぶがぶと飲み干す事で、何とか口の中を冷まそうとする。
「さ、さぁ! 目の前の紅緒さんが大変な事になっています! 同テーブルから来る麻婆豆腐の圧倒的プレッシャーを尻目に、毅然とした態度ででロザリーさんは挑もうと思います!」
その様子を見て、ロザーリアが意を決したと言わんばかりに焼飯に向き直る。セルフ実況をして自らを鼓舞しつつも、真っ赤な焼飯に思わずゴクリと生唾を飲み込んだ。紅緒も同じく焼飯の方へと移る。辛さがオーラになって見えそうになるような料理だ。恐る恐るレンゲで一口掬い、口の中に入れる。
「んっ!?」
「んぐうっ!?」
思わず口を押さえ。素早く咀嚼して飲み込む。そしてすぐさま息を吸い込みつつ、水によって流し込んだ。
「か、辛ぁっ! なにこれ、辛い! というかもう痛いよ!」
ひゅう、と口から思わず息が漏れる。相当の辛さだ。口に含んだ瞬間目から火花が出るかと思った。
「がっ、げっほげっほごほごほぁ」
対面に座っていたロザーリアもなんかめっちゃむせていた。
「こ、こんなの絶対おかしいよ! 星ふたつなんでしょ!?」
見栄を張ってレンゲ山盛りを口の中に放り込んだらしい。既に顔は真っ赤だ。鼻水までちょっと出ている。エルフ特有の端麗な顔立ちが台無しである。
「あ、はは……ロザリーさん、鼻水出てるよー」
「そ、そういう紅緒さんもね! 涙まで流して……!」
2人は笑いあいつつ、ティッシュで涙と鼻水を拭う。
「こんな辛いと夏バテに困りそうもないね! 食が進むよー!」
半ばヤケになって焼飯をガツガツとかきこみ始める紅緒。だが焼飯も、辛いだけではない。混ぜられたミンチや卵が食感と味にアクセントを加え、丁寧に味付けされている。恐ろしい辛さだったが、確かに感じる旨味があった。
「うー辛い……でも味はいい、食べちゃうよぉ……」
ロザーリアもまたその深みの味に気付いたのか、レンゲを動かす。口はヒリヒリしてるが、それでも食べてしまう。
ひぃこらと悲鳴をあげつつも、なんとか完食する紅緒とロザーリア。
そんな2人を尻目に、シャルロッテもまた青椒肉絲に着手する。肉とピーマン、もとい、唐辛子を同時に箸でつまみ、口へと運ぶ。
「……っ!」
ビクッ、と彼女の身体が震える。相変わらずの無表情ではあるが、明らかに辛さを感じている。つうっ、と、一筋の汗が頬を伝う。
唐辛子だけの辛さで許してくれる程甘くなかった。それぞれが更に香辛料で炒められており、弾けるような刺激が口の中で暴れ回る。熱々の肉汁がその隙間に滑り込み、唐辛子の若干の苦味がそれを中和……しきれてないが、アクセント程度にはなっている。
(おいしい……けど、辛いわ……だけど、これもわたくしに与えられた試練……負けられないわ……)
何故か謎の闘争心を発揮してしまっている。極悪な辛さながらも、ここまで見事に料理として昇華されているならば、それに応えるのも食事をする者の流儀なのだろう。無機質な見た目によらず、熱い心を秘めているようである。
そして、いよいよと言うべきか、この店の中で最高の辛さレベルを誇る料理、麻婆豆腐に手をつけようとする者がいた。クワッサリーだ。
意を決してレンゲを手に取り、真っ赤な海をひと掬いする。
「……貴族たる者、常に優雅たらん」
ふっ、と優雅な笑みを作り、レンゲを口の中に入れる。
「ごっふぁ!?」
そして思い切りむせる。優雅であった時間は僅か5秒だった。顔が真っ赤になり、汗が噴き出る。最早香辛料が口の中で爆発してんじゃないの? と思う程の衝撃だ。
「び、美味、じゃな……」
それでもあくまで優雅に振舞おうとするが、汗をだらだらと流しつつ、手がぶるぶる震え、笑みを作る口はひくひくと痙攣している。顔に出やすい性質らしい。
(じゃが、覚悟はしてきた……! ええい、ままよ……!)
そのままクワッサリーは震える手でレンゲを握りなおし、赤い海へとオールをかくように一定間隔で麻婆を口へと運んでゆく。
「……戦いに赴く、クワッサリーさんに捧げる」
シャルロッテは歌を歌い始める。勇敢なる戦士へ賛歌を。心を殺し、身を削るクワッサリーへ……美麗な歌声の内容はラー油の海を唐辛子が渡るという大変シュールなものであったが。ある意味追い討ちである。
「あぁぁぁっ……!」
急に、恍惚とした声が聞こえる。皆がそちらに目をやると、一心不乱に麻婆をかきこんでいるハルの姿があった。
「やっば、辛い、超辛い! 口にする度に血が逆流するみたいっ! 体中が火照ってもう止まらないよぉ!」
はふはふと、汗を流しつつ麻婆を口に含んでいく。辛さで痺れているのか、半開きになった口から艶やかな吐息が漏れる。じっとりと胸元に浮かぶ汗も相まって非常に艶かしい。だがハルはそんなことを意にも介さず、麻婆豆腐を味わっていく。
「……ねぇ、それ、クワッサリーさんのよりも赤い気がするのだけれど」
一時的に歌を止め、シャルロッテが疑問を口にする。
「うんっ! 頼む時にね、店主さんに頼んで、辛さのレベルをもう一段階上げて貰ったんだぁ! 辛くて、辛くて、もうたまんないよ! もう病み付き!」
額の汗を拭いつつハルが応える。
「て、ことは、ほ、星6つ!?」
「えぇ!?」
ロザーリアと紅緒が驚きの声を漏らす。星二つでも一般人の味覚を持つ二人を唸らせる程の激辛だ。その3倍のレベルとなっているならば、その辛さは2人には計り知れないだろう。
「ひ、一口貰っていいかな……?」
「うんっ、いいよー! どうぞどうぞ♪」
恐る恐る、紅緒はハルから麻婆を一掬い貰う。やっとの思いで攻略した焼飯とは比べ物にならないプレッシャーだ。
「……はむっ」
そして意を決して口にする。瞬間、目をカッ!と見開く。
「からぁぁっ!」
ひっくり返る程の勢いで水にすがりつく。舌から鼻を突き抜ける爆発のような刺激が、味覚を、脳を刺激して揺さぶる。
「む、むりぃ、こ、こんなのたべれにゃ……」
呂律の回ってない声で紅緒が悲鳴をあげて、がくりとテーブルに崩れ落ちる。紅緒はこんな化物料理を食べれるハルの方を、顔だけを向けて見る。そこで、はっと気付いた。
「ふふ、辛いでしょ……でも、まだだよ……僕はまだ、辛さの先を見ていない……!」
ハルは鬼気迫る雰囲気だ。最早殺人的とも言っていい辛さの料理を食べ続けているが、その気迫はまだ収まる事を知らない。覚醒してでも食べ切ってやる、と言わんばかりの勢いである。
「あ、ロザリーさん。良かったら、その春巻きくれるかな」
「えっ」
焼飯の辛さにすっかり恐れをなしし、中華スープと水を交互に飲んでいたロザーリアの残していた春巻きに気付く。香辛料が丸ごと包まれたといわんばかりに赤色が透けて見えるそれに手を出す勇気はなかったのだ。隙を見て、隣のシャルロッテに渡そうかとか悪巧みしていた。
「よ、よければ」
「やったぁっ♪ ありがとー!」
麻婆を平らげ、続けて春巻きも齧るハル。その断面からチラリと見えた赤色に他の皆は戦々恐々としているが、ハルは『お持ち帰りも頼んでみたいな~♪』とご機嫌だ。
「……ごひそうしゃまでひた……美味で、あった…」
その隣で、呂律の回らない声をあげながらバタリ、と倒れる音が聞こえる。
今の今まで無心に麻婆と激戦を繰り広げていたクワッサリーだ。その麻婆豆腐の器は、見事に空になっている。
皆はその健闘に、惜しみない拍手を贈るのだった。
(辛いのは、もうこりごりじゃ……)
と心の中で呟くクワッサリーが、後にこの店のリピーターとなったらしいが、それはまた別のお話
「なんてこった、こんな筈じゃなかったのになー口直しに杏仁豆腐を食べよ……」
そしてロザーリアもまた、『あ”-』という奇声と共に崩れ落ちる。
「……杏仁豆腐の星を一つ増やして欲しい、なんて言うから」
青椒肉絲を完食し、珍しく流した汗を拭っているシャルロッテは、崩れ落ちたロザーリアと紅く染まる杏仁豆腐を一瞥しながら、そう呟くのだった。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/07/03 23:59:24 |