ゲスト
(ka0000)
【歌姫】凱旋行進曲
マスター:cr

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/16 19:00
- 完成日
- 2015/05/25 05:42
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
どちらを向いても見渡すかぎりの畑が広がっている。一面に広がるのどかな田園風景。
そこに一台の馬車がやってくる。やがて馬車は止まり、一人の女性が降り立つ。
「ただいま」
そう呟いた彼女の目元には、うっすらと涙の跡。
彼女、クリスティーヌ・カルディナーレ(kz0095)はオペラ歌手を夢見てヴァリオスに出てきた少女であった。
最初の頃はオーディションを受けても箸にも棒にも掛からず、連戦連敗の日々。しかし、ヴァリオスで世話になった人間にハンター達を紹介してもらい、自分の弱点であった恋愛経験の無さをフォローしてもらった。
それが上手く行ったのか、それからはオーディションを受ければ最終段階までは進めるようになっていた。
しかし、そこからもう一歩が進めなかった。
これでダメだったら諦めよう。そう思い受けたオーディションで最後の二人まで残ったものの、やはり敗れてしまった。そして彼女は故郷のジェオルジに戻ってきたのであった。
●
ジェオルジの人々は夢破れて戻ってきた彼女を暖かく迎えてくれていた。穏やかな時間が彼女の心を少しづつ癒していた。
そんな時だった。彼女の元に村の人間が、急な連絡が来たと伝えてきたのは。覚醒者しか使えない魔法伝話、これを使い取次の人間を間に挟んでの緊急連絡。ただ事ではないはずだ。
「クリスさん、今すぐヴァリオスに戻ってきてください」
すぐさま伝話の元へ向かった彼女に伝えられたのは、ヴァリオスで彼女が世話になっていたバロテッリ商会の番頭、モア・プリマクラッセ(kz0066)からの伝言だった。
「え? どういうことなんですか?」
「どうもこうもありません、あなたが先日受けたオーディション、あちらで合格した主演女優の方が稽古中に骨折しました。そこであなたが代役になったんです」
最後の最後で負けたクリスは、不測の事態が起こった時の代役を務めることになっている。といっても不測の事態などまず起こらない。そう思い故郷に戻ってきた彼女にとっては、まさに青天の霹靂だった。
だが、事はそう簡単には運ばなかった。
「……どうしましょう。今から急いで戻っても、とても間に合わないですよ~」
泣きそうな声でクリスが答える。今からヴァリオスに向けて出発しても到着するのはまさに幕があがる直前。これでは他の出演者と合わせることも、演出家の意図を把握することもできない。時間があまりに足りなかった。
しかし、それを聞いたモアはきっぱりとこう宣言した。
「わかりました。何とかします。クリスさん、あなたは今すぐジェオルジ家の人に事情を話して馬車を用意してもらってください。バロテッリ商会の名前も出して結構です」
●
「緊急の依頼です」
モアはハンターオフィスの受付嬢でもある。伝話でのやりとりを終えた彼女はすぐさま手はずを整え、ハンター達を集めていた。
「一人の女性をジェオルジからヴァリオスまで連れて来てください」
その後モアが伝えた期限を聞いて、ハンター達はすぐに物理的に無理だと思った。
ハンター達のような覚醒者なら、転移門を使って一瞬のうちに移動することができる。しかしそうでない者の場合どう早くても数日はかかるはずだ。だが、そんなハンター達にモアは一枚の地図を広げ、指をジェオルジの上に置いて方法を説明しだした。
「ここがジェオルジですね。本来の道はこう、沿岸沿いに進みます。が、これでは間に合いません」
そこで、と一つ呼吸を置いてから、モアは滑らせていた指を突如街道から外した。
「ここで真っ直ぐにヴァリオスに向けて進みます。地図には乗っていませんが、ここにはいわゆる獣道が存在します。ここを突っ切ってショートカットすればギリギリ間に合います」
彼女が示した道は商人たちが緊急の際に使う秘密の裏道だった。だが、これにはメリットもあればデメリットもある。
「しかしここは山の中、様々な野生動物達の邪魔が入ることが予測されます」
さらに、と彼女は言葉を続ける。
「山の中ですので崖沿いを走ることになる部分もありますし、さらに言えば事故で馬車が消えてもおかしくないことを知っている賊達が待ち受けている可能性があります」
あまりに危険でリスキーな方法。一体どういうことなのだろうと思った時、モアはハンター達に深々と頭を下げた。
「お願いします。彼女の人生が賭かっているんです」
どちらを向いても見渡すかぎりの畑が広がっている。一面に広がるのどかな田園風景。
そこに一台の馬車がやってくる。やがて馬車は止まり、一人の女性が降り立つ。
「ただいま」
そう呟いた彼女の目元には、うっすらと涙の跡。
彼女、クリスティーヌ・カルディナーレ(kz0095)はオペラ歌手を夢見てヴァリオスに出てきた少女であった。
最初の頃はオーディションを受けても箸にも棒にも掛からず、連戦連敗の日々。しかし、ヴァリオスで世話になった人間にハンター達を紹介してもらい、自分の弱点であった恋愛経験の無さをフォローしてもらった。
それが上手く行ったのか、それからはオーディションを受ければ最終段階までは進めるようになっていた。
しかし、そこからもう一歩が進めなかった。
これでダメだったら諦めよう。そう思い受けたオーディションで最後の二人まで残ったものの、やはり敗れてしまった。そして彼女は故郷のジェオルジに戻ってきたのであった。
●
ジェオルジの人々は夢破れて戻ってきた彼女を暖かく迎えてくれていた。穏やかな時間が彼女の心を少しづつ癒していた。
そんな時だった。彼女の元に村の人間が、急な連絡が来たと伝えてきたのは。覚醒者しか使えない魔法伝話、これを使い取次の人間を間に挟んでの緊急連絡。ただ事ではないはずだ。
「クリスさん、今すぐヴァリオスに戻ってきてください」
すぐさま伝話の元へ向かった彼女に伝えられたのは、ヴァリオスで彼女が世話になっていたバロテッリ商会の番頭、モア・プリマクラッセ(kz0066)からの伝言だった。
「え? どういうことなんですか?」
「どうもこうもありません、あなたが先日受けたオーディション、あちらで合格した主演女優の方が稽古中に骨折しました。そこであなたが代役になったんです」
最後の最後で負けたクリスは、不測の事態が起こった時の代役を務めることになっている。といっても不測の事態などまず起こらない。そう思い故郷に戻ってきた彼女にとっては、まさに青天の霹靂だった。
だが、事はそう簡単には運ばなかった。
「……どうしましょう。今から急いで戻っても、とても間に合わないですよ~」
泣きそうな声でクリスが答える。今からヴァリオスに向けて出発しても到着するのはまさに幕があがる直前。これでは他の出演者と合わせることも、演出家の意図を把握することもできない。時間があまりに足りなかった。
しかし、それを聞いたモアはきっぱりとこう宣言した。
「わかりました。何とかします。クリスさん、あなたは今すぐジェオルジ家の人に事情を話して馬車を用意してもらってください。バロテッリ商会の名前も出して結構です」
●
「緊急の依頼です」
モアはハンターオフィスの受付嬢でもある。伝話でのやりとりを終えた彼女はすぐさま手はずを整え、ハンター達を集めていた。
「一人の女性をジェオルジからヴァリオスまで連れて来てください」
その後モアが伝えた期限を聞いて、ハンター達はすぐに物理的に無理だと思った。
ハンター達のような覚醒者なら、転移門を使って一瞬のうちに移動することができる。しかしそうでない者の場合どう早くても数日はかかるはずだ。だが、そんなハンター達にモアは一枚の地図を広げ、指をジェオルジの上に置いて方法を説明しだした。
「ここがジェオルジですね。本来の道はこう、沿岸沿いに進みます。が、これでは間に合いません」
そこで、と一つ呼吸を置いてから、モアは滑らせていた指を突如街道から外した。
「ここで真っ直ぐにヴァリオスに向けて進みます。地図には乗っていませんが、ここにはいわゆる獣道が存在します。ここを突っ切ってショートカットすればギリギリ間に合います」
彼女が示した道は商人たちが緊急の際に使う秘密の裏道だった。だが、これにはメリットもあればデメリットもある。
「しかしここは山の中、様々な野生動物達の邪魔が入ることが予測されます」
さらに、と彼女は言葉を続ける。
「山の中ですので崖沿いを走ることになる部分もありますし、さらに言えば事故で馬車が消えてもおかしくないことを知っている賊達が待ち受けている可能性があります」
あまりに危険でリスキーな方法。一体どういうことなのだろうと思った時、モアはハンター達に深々と頭を下げた。
「お願いします。彼女の人生が賭かっているんです」
リプレイ本文
●
「……だーっ、どいつもこいつも何でこうも切羽詰ってから仕事だしてくんだよ」
追い立てられるように転移門に飛び込んだハンター達がその先で見たのは、泣きそうな顔で立ち尽くすクリスの姿だった。その姿を見て、綾瀬 直人(ka4361)は思わずそう愚痴る。
「俺らの働き次第で、新しい歌姫サンが誕生するか決まるって訳か」
すがるように飛びついてくるジャック・エルギン(ka1522)はそうなだめる。そして、その様子を見て、
「夢を掴めるチャンスかあ。素敵だね♪」
「夢を掴むチャンスですか……応援しなくてはなりませんね」
とメルクーア(ka4005)とシルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)という対照的な見た目の二人が、それぞれに置いて声を上げる。メルクーアは見た目通りの無邪気な声で、シルヴィアは無骨な鎧とは似合わない、冷静ではあるが可愛らしい声で。
「面白えな。んじゃ、喜劇のシナリオ目指して、張り切っていくか」
そしてジャックは、そんな二人の反応を見て気合を入れなおす。彼女の夢が叶うか否かは、確かにシルヴィアの言うとおり自分達にかかっている。ハッピーエンドを迎えるためには責任は重大だ。こうなると綾瀬も愚痴っては居られない。
「……ったくしょーがね。事情が事情だ、いっちょ走るか」
その言葉とともに、ハンター達とクリスは各々馬車に、馬に乗り込んだ。
●
ショウコ=ヒナタ(ka4653)が馬車に付けられていた馬をジェオルジ家に返すと、自分の愛馬を代わりに引き馬に据える。ついでに借りてきた野営道具をまとめると馬車に放り込み、そのまま自分の身も馬車の中に滑り込ませた。
「クリスさん、ね。私の名前は雲類鷲 伊路葉よ。宜しくね」
クリスと共に続けて馬車に乗り込んだのは雲類鷲 伊路葉 (ka2718)だ。彼女はショウコ共に御者を務めることになっていた。伊路葉はクリスの緊張をほぐそうと出発までの僅かな間、色々と話しかける。
「そういえば、貴方は何故オペラ歌手になろうとおもったの?」
「それは……」
しばしの沈黙。そののちにクリスはゆっくりと口を開いた。
「歌が好きで、華やかな場所で歌いたかったから……」
クリスが言葉を紡ぎ終えた時、その顔は夢を思い出して明るい笑顔に変わっていた。
そしてその言葉を聞いて馬に乗ろうとしていたエヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)が顔を近づけてきた。彼女はスケッチブックを取り出し、言葉を書きつけるとクリスの眼前に突き出す。
『夢破れてなんて、まだ若いのに根性が足りない。しかも甘い考えでチャンスを逃しそうになってるし、貴方さてはアホね』
突如ぶつけられた辛辣な言葉に、クリスの明るかった顔は一瞬のうちに暗く変わる。そしてそこにエヴァはもう一枚突き出す。
『それでも掴みたいんでしょ。なら同じく遠い夢物語を描く者として、精一杯手助けしてあげようじゃないの』
その言葉に暗かった顔は、またまた明るくなっていた。
「貴方の道を邪魔するモノを、私達は撃ち払うわ。任せておきなさい」
クルクルと切り替わるクリスの顔を見ながら、伊路葉はそう決意していた。
●
ゆっくりと転がり始めた車輪はすぐに加速する。馬車の両脇を守るように馬にまたがったジャックと綾瀬が随伴していき、少し前にエヴァとシルヴィアが先行している。
「熊だの狼だの野郎だのって、急ぎすぎて死んじまったら元も子もねえよなあ」
そして後ろからは猿越 浩(ka4873)が付いていった。猿越の手には望遠鏡。これを時折覗きながら、馬車に向かって声を上げる。まだ平地を歩く今のうちは大丈夫だが、そのうち山中に入れば、左右には木が生い茂る。いつここから邪魔が飛び出してくるとも限らない。それをすぐ見つけるため、視線の広い後ろに猿越は回っていた。
「良い経験してると思うわ。だって、こんな経験してる人って中々いないわよ」
一方車内では、伊路葉がクリスに話しかけていた。これから行く道は危険な道であることがわかっている。覚悟できているハンター達ならともかく、一般人のクリスには恐ろしくてしょうがない。無意識のうちに震えるクリスの不安を取り除こうと、伊路葉はいろいろと話しかけていた。
そんな伊路葉の言葉に、少しづつ落ち着きを取り戻すクリス。やがて、車内は女子三人による普通の旅のような雰囲気になってきていた。
そうやって少し慣れてきたところで、休憩に入る。ショウコは馬車を降りるとクリスを誘い、馬の乗り方を教えていく。合わせてエヴァも戻ってきてクリスにマンツーマン指導。クリスは最初は危なっかしい足取りだったが、しばらく経つと教え方が良かったのか、とりあえず馬を歩めることはできるようになってきた。そうやって緊張感をほぐしながら馬車は街道を進む。一番怖いのは、集中力を無くしたところでトラブルに遭うことだ。
●
やがて一行は街道を逸れ、獣道に入ってきた。行く手の左右に鬱蒼と生い茂る木々を眼にして、否応なしに緊張感が高まる。
そんな時、突如として馬車が止まった。何が起こったのかと尋ねたクリスに、ジャックは木の一つに結び付けられた赤いリボンを指し示す。
それはメルクーアが先に進み偵察を終えた証拠。物音、足跡、傷跡、臭い。危険を感じた所にこの印を付ける。そうすれば野生動物達を刺激せずに進める。そういう算段だった。衝突が避けられないなら仕方ないが、そうでなければむやみに戦う必要はない。赤いリボンを見つけ次第それを迂回するように道を取り、先を急ぐ。
そして山の中腹に差し掛かった所でショウコが馬車を止めた。突然の出来事に他の者が集まってくるのを手で制し、じっと静かに集中する。やがて、かすかに何かの音を聞いた。
「馬車を下げろ!」
ジャックが叫び、ショウコが馬車を引く。次の瞬間、馬車の前を何かの影が弾丸のように通り過ぎていった。
「今のは何ですか?」
「猪だな」
思わず身を乗り出したクリスにジャックが答えたその時、ハンター達はもう一度足音を聞いた。
槍を、銃を構えたその瞬間、目の前に突如として土壁が現れた。そして強烈な衝突音が一帯に響く。
ややあって土壁はチリのように崩れ去り、そこには目を回して気絶している大猪が一頭、転がっていた。そこに馬上のエヴァが歩み寄り、覗きこんで上手く行ったと笑顔を見せる。
もちろん、土壁が突然飛び出る訳がない。この壁はエヴァが魔術で生み出したものだ。しばらくは起き上がってこないであろう猪を置いて、一行は道を進む。
●
どれだけ山の中を進んできたのだろうか。馬車の前に一頭の馬が現れた。鞍上にはメルクーア。先を進んでいたはずの彼女がここにいることに疑問を感じ、車内から声をかける。
「どうした?」
「……狼がいる」
周囲の臭いをかぎ、メルクーアはそう答えた。この獣道は人のために作られたものではない。当然森の中には先ほどの猪のように、様々な野生動物の縄張りができている。前進を止めると一帯を静寂が包み込む。小動物の声も聞こえない。恐らくこの周辺に充満する狼の臭いを嫌がり、小動物達は逃げ出したのだろう。だが、ハンター達は下がるわけには行かない。馬車を中心にハンター達は周囲を囲むように立つ。
そして猿越は馬を降りると神経を集中する。やがて、ガサリと木々の間から狼が顔を出す、それよりも早く猿越は動いた。半身に構え、一瞬の内に踏み込んで刀を突き出すと、出てきた狼は見事その切っ先に貫かれていた。狼達は狩りをしようと周囲を取り囲んでいたようだが、その機先を制しハンター達が先手を取っていた。
そして、こうなるともはや狼達に勝ち目はない。飛びかかろうとした狼達の足元にシルヴィアが銃弾を撃ちこむ。怯えた所にショウコは容赦なく射撃、バタバタと倒れていく狼達。
そして前方に集まってきた狼達の左右にエヴァが弾丸を発射すると、慌てて散らばっていく。そして真ん中に一頭残される一回り大きな狼。おそらくこの群れのリーダーなのだろう。そこに綾瀬は一瞬集中し、炎の矢を放った。放たれたそれは狼の顔を焼き、燃え上がらせる。
そしてジャックがすかさず合図を送ると馬車達は急加速した。ジャックは後方で狼達に備えていたが、リーダーを失った群れはもはや再び襲い来ることはなかった。
「やっぱ歌姫サンの歌で、獣も感動してって筋書きにゃなんねーか」
どんどん遠くなっていく縄張りを見送りながら、ジャックはそう独りごちていた。
●
進み続けた一行の前にやがて森が開け草原が見えてくる。話によればさらにこの先は荒野になり、そして峠となるらしい。だが太陽はすっかり傾いていた。そこでショウコは野営を提案する。彼女があらかじめモアに聞いていた話によるとここらに商人が使う野営地があるそうだ。
ショウコが素早く馬車内から野営道具を取り出すと総出で組み立てていく。結果あっという間にキャンプが出来上がった。
一行は手早く食事を取り、明日に備えて寝袋に潜り込む。タイムリミットは刻一刻と迫っているが、暗い中崖沿いに走るのは自殺行為に他ならない。それならば明日に備えて英気を養うのが得策だ。
「1週間くらいならば起きていた事もありますし、2日くらいなら大丈夫です。私が見張りをします」
ただ、シルヴィアは見張りを買って出た。アサルトライフルを手に木の上に登り迷彩ジャケットを被ると、もうそこに彼女が居るとは思えなくなった。流石元狙撃兵というべきか。
「……眠れないのか?」
そして草木も眠る丑三つ時、ショウコと交代で見張りに立った綾瀬は、起き出してきていたクリスにそう話しかけた。
「ええ、少し……」
そう返したクリスに、綾瀬は手持ちの食べ物を渡しつつ会話を続ける。
「何であんた、その世界入ろうって思ったんだよ」
「歌が好きで……」
受け取った食べ物を口に運びながら、クリスは昔のことを思い出していた。
「人々を勇気づけたかったから、かな」
かつての自分がそうだったように、今度は誰かを勇気づけることができれば。
「あの、綾瀬さんも明日に備えて休んでくださいね」
「……心配すんな、なんざ言わねーよ。ただ俺らもここまでやってんだ。負けんじゃねーぞ、自分に」
そんな二人の様子を、ただ焚火だけが照らしていた。
●
夜が明け朝が来たらすぐに出発だ。手早く用意を済ませ馬車に乗り、馬にまたがる一行。先を急ぐ一行の間にはピリピリとした空気が漂っていた。
草が生えいていた地面はいつの間にか土がむき出しになり、なだらかに広がっていた左右は急な崖に変わっている。
「ここですか」
御者である伊路葉がそう漏らした。野盗がどこに現れたのか、僅かな時間で尋ねた質問に対するモアの回答がここだった。昨日は先行していたメルクーア達も、それに備え今日は一団となっている。
そしてその言葉通り、崖上に一行を見つめる目が幾つか。
峠に向けて進む馬車に小石が当たる。その微細な音に何人かのハンター達が気づいた時、崖上から幾つもの影が滑り落ちてきた。
「ヒャッハー!」
下品な声を上げて野盗たちが襲い来る。狙いが上手く行ったことに対する歓喜の声は、しかしあっさりと悲鳴に変わった。
そこに降り注いだのは銃弾の雨。比喩表現ではない。何十発という銃弾が、滑り降りていた野盗達を撃ち抜いていく。
「まっ、何事も用意さえ出来てりゃ、な」
下で刀を構える猿越の隣でシルヴィアがアサルトライフルのトリガーを引いていた。奇襲攻撃は見ぬかれていた時点で只の的にしかならない。
さらに、運良く銃弾をすり抜けられたとしても、そこに風を切ってジャックの屋が飛んできていた。野盗の一人は肩を撃ちぬかれ、明後日の方向に転がっていく。
「急いでる時に喧嘩うってんじゃねーぞ、あ゛!?」
それらを乗り越え、崖下までやって来た野盗を綾瀬が放った風が包み込む。その体は木の葉のように舞い上がり、哀れ崖下へと落ちていった。
だが、野盗達一味はもう一つ戦力を隠していた。峠の向こう側から身を隠していた野盗達が駆け込んでくる。挟み撃ちにして形勢逆転。
「そこで、止まりなさい。言っておくけれど、あまり手加減は出来ないわよ」
とはならなかった。こちらへ向かってきた者達に、伊路葉が銃弾で出迎えながらそう挨拶する。
「ほ~ら、これ、プレゼント!」
そしてメルクーアは手持ちの金貨をつかみ投げつけた。バラバラと舞い散り、陽の光を浴びてキラキラと輝く黄金色のそれに思わず気を取られた瞬間、巨大な火の玉が飛んでいって中心で爆発した。そしてその爆発の中からその火の玉を放った張本人であるエヴァが馬に乗って飛び出してくる。
「こういうことをするにも理由があるのでしょう、だけれど、したら駄目なのよ。償える筈よ、動きなさい。私達の気が変わらないうちに、ね」
士気喪失した野盗達に、伊路葉は銃を突きつけそう宣告する。その言葉に抵抗するものなど誰一人居なかった。
しかし襲い来るものはそれだけではなかった。崖上に野盗達が居た事で崩れた岩が馬車に向かって転がってくる。野盗とは比べられない質量のそれはあっという間に転がり、馬車を巻き込んで崖下へと落ちていった。
ハンター達は馬車内に居た者のことを思い一瞬青ざめる。
「二人共大丈夫だ」
馬車内に居たショウコは素早く馬に飛び乗り、切り離していた。
「~! ~!」
そしてクリスは先に飛び出していったエヴァの馬の後ろで、毛布に包まれしがみついていた。
●
後の道には特に問題になるようなものは居なかった。無事時間内に送り届けたハンター達は報酬を受け取るべくオフィスへとやって来る。
「私は寝ます」
が、徹夜していたシルヴィアは眠気に耐えられず、その場で転がり、眠り始めていた。
「それで旨い飯でも食って帰れって伝えといてやってください」
一方、綾瀬は受け取った報酬をモアに返し、そう伝える。
「いえ、ただ働きをさせるわけにはいきません」
しかしモアは拒否し綾瀬に突き返す。それは商人としてのモアの矜持だった。
「代わりに……彼女の舞台を見に行ってあげてくれませんか?」
「こんだけ苦労したんだ。良い芝居になるよう、頑張ってくれよ?」
「あんたの番だ、行って来い」
そして二日後、本番直前の舞台袖で、ジャックと綾瀬がクリスに声をかけていた。
クリスは一瞬目を閉じ、この数日の間に起きたことを思い返し、そして、
「はい!」
満面の笑みでそう返して舞台へとかけて行った。
クリスのプリマとしての初舞台に対する評価、それはいつまでも鳴り止まない、スタンディングオベーションが示していた。その拍手の嵐を浴びながら夢見心地にカーテンコールを受けるクリス。
「上手く行ったようだね。君の才能はやはり素晴らしいよ」
そんな彼女を劇場のどこからか見つめる影に、その時は誰一人気づいていなかった。
「……だーっ、どいつもこいつも何でこうも切羽詰ってから仕事だしてくんだよ」
追い立てられるように転移門に飛び込んだハンター達がその先で見たのは、泣きそうな顔で立ち尽くすクリスの姿だった。その姿を見て、綾瀬 直人(ka4361)は思わずそう愚痴る。
「俺らの働き次第で、新しい歌姫サンが誕生するか決まるって訳か」
すがるように飛びついてくるジャック・エルギン(ka1522)はそうなだめる。そして、その様子を見て、
「夢を掴めるチャンスかあ。素敵だね♪」
「夢を掴むチャンスですか……応援しなくてはなりませんね」
とメルクーア(ka4005)とシルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)という対照的な見た目の二人が、それぞれに置いて声を上げる。メルクーアは見た目通りの無邪気な声で、シルヴィアは無骨な鎧とは似合わない、冷静ではあるが可愛らしい声で。
「面白えな。んじゃ、喜劇のシナリオ目指して、張り切っていくか」
そしてジャックは、そんな二人の反応を見て気合を入れなおす。彼女の夢が叶うか否かは、確かにシルヴィアの言うとおり自分達にかかっている。ハッピーエンドを迎えるためには責任は重大だ。こうなると綾瀬も愚痴っては居られない。
「……ったくしょーがね。事情が事情だ、いっちょ走るか」
その言葉とともに、ハンター達とクリスは各々馬車に、馬に乗り込んだ。
●
ショウコ=ヒナタ(ka4653)が馬車に付けられていた馬をジェオルジ家に返すと、自分の愛馬を代わりに引き馬に据える。ついでに借りてきた野営道具をまとめると馬車に放り込み、そのまま自分の身も馬車の中に滑り込ませた。
「クリスさん、ね。私の名前は雲類鷲 伊路葉よ。宜しくね」
クリスと共に続けて馬車に乗り込んだのは雲類鷲 伊路葉 (ka2718)だ。彼女はショウコ共に御者を務めることになっていた。伊路葉はクリスの緊張をほぐそうと出発までの僅かな間、色々と話しかける。
「そういえば、貴方は何故オペラ歌手になろうとおもったの?」
「それは……」
しばしの沈黙。そののちにクリスはゆっくりと口を開いた。
「歌が好きで、華やかな場所で歌いたかったから……」
クリスが言葉を紡ぎ終えた時、その顔は夢を思い出して明るい笑顔に変わっていた。
そしてその言葉を聞いて馬に乗ろうとしていたエヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)が顔を近づけてきた。彼女はスケッチブックを取り出し、言葉を書きつけるとクリスの眼前に突き出す。
『夢破れてなんて、まだ若いのに根性が足りない。しかも甘い考えでチャンスを逃しそうになってるし、貴方さてはアホね』
突如ぶつけられた辛辣な言葉に、クリスの明るかった顔は一瞬のうちに暗く変わる。そしてそこにエヴァはもう一枚突き出す。
『それでも掴みたいんでしょ。なら同じく遠い夢物語を描く者として、精一杯手助けしてあげようじゃないの』
その言葉に暗かった顔は、またまた明るくなっていた。
「貴方の道を邪魔するモノを、私達は撃ち払うわ。任せておきなさい」
クルクルと切り替わるクリスの顔を見ながら、伊路葉はそう決意していた。
●
ゆっくりと転がり始めた車輪はすぐに加速する。馬車の両脇を守るように馬にまたがったジャックと綾瀬が随伴していき、少し前にエヴァとシルヴィアが先行している。
「熊だの狼だの野郎だのって、急ぎすぎて死んじまったら元も子もねえよなあ」
そして後ろからは猿越 浩(ka4873)が付いていった。猿越の手には望遠鏡。これを時折覗きながら、馬車に向かって声を上げる。まだ平地を歩く今のうちは大丈夫だが、そのうち山中に入れば、左右には木が生い茂る。いつここから邪魔が飛び出してくるとも限らない。それをすぐ見つけるため、視線の広い後ろに猿越は回っていた。
「良い経験してると思うわ。だって、こんな経験してる人って中々いないわよ」
一方車内では、伊路葉がクリスに話しかけていた。これから行く道は危険な道であることがわかっている。覚悟できているハンター達ならともかく、一般人のクリスには恐ろしくてしょうがない。無意識のうちに震えるクリスの不安を取り除こうと、伊路葉はいろいろと話しかけていた。
そんな伊路葉の言葉に、少しづつ落ち着きを取り戻すクリス。やがて、車内は女子三人による普通の旅のような雰囲気になってきていた。
そうやって少し慣れてきたところで、休憩に入る。ショウコは馬車を降りるとクリスを誘い、馬の乗り方を教えていく。合わせてエヴァも戻ってきてクリスにマンツーマン指導。クリスは最初は危なっかしい足取りだったが、しばらく経つと教え方が良かったのか、とりあえず馬を歩めることはできるようになってきた。そうやって緊張感をほぐしながら馬車は街道を進む。一番怖いのは、集中力を無くしたところでトラブルに遭うことだ。
●
やがて一行は街道を逸れ、獣道に入ってきた。行く手の左右に鬱蒼と生い茂る木々を眼にして、否応なしに緊張感が高まる。
そんな時、突如として馬車が止まった。何が起こったのかと尋ねたクリスに、ジャックは木の一つに結び付けられた赤いリボンを指し示す。
それはメルクーアが先に進み偵察を終えた証拠。物音、足跡、傷跡、臭い。危険を感じた所にこの印を付ける。そうすれば野生動物達を刺激せずに進める。そういう算段だった。衝突が避けられないなら仕方ないが、そうでなければむやみに戦う必要はない。赤いリボンを見つけ次第それを迂回するように道を取り、先を急ぐ。
そして山の中腹に差し掛かった所でショウコが馬車を止めた。突然の出来事に他の者が集まってくるのを手で制し、じっと静かに集中する。やがて、かすかに何かの音を聞いた。
「馬車を下げろ!」
ジャックが叫び、ショウコが馬車を引く。次の瞬間、馬車の前を何かの影が弾丸のように通り過ぎていった。
「今のは何ですか?」
「猪だな」
思わず身を乗り出したクリスにジャックが答えたその時、ハンター達はもう一度足音を聞いた。
槍を、銃を構えたその瞬間、目の前に突如として土壁が現れた。そして強烈な衝突音が一帯に響く。
ややあって土壁はチリのように崩れ去り、そこには目を回して気絶している大猪が一頭、転がっていた。そこに馬上のエヴァが歩み寄り、覗きこんで上手く行ったと笑顔を見せる。
もちろん、土壁が突然飛び出る訳がない。この壁はエヴァが魔術で生み出したものだ。しばらくは起き上がってこないであろう猪を置いて、一行は道を進む。
●
どれだけ山の中を進んできたのだろうか。馬車の前に一頭の馬が現れた。鞍上にはメルクーア。先を進んでいたはずの彼女がここにいることに疑問を感じ、車内から声をかける。
「どうした?」
「……狼がいる」
周囲の臭いをかぎ、メルクーアはそう答えた。この獣道は人のために作られたものではない。当然森の中には先ほどの猪のように、様々な野生動物の縄張りができている。前進を止めると一帯を静寂が包み込む。小動物の声も聞こえない。恐らくこの周辺に充満する狼の臭いを嫌がり、小動物達は逃げ出したのだろう。だが、ハンター達は下がるわけには行かない。馬車を中心にハンター達は周囲を囲むように立つ。
そして猿越は馬を降りると神経を集中する。やがて、ガサリと木々の間から狼が顔を出す、それよりも早く猿越は動いた。半身に構え、一瞬の内に踏み込んで刀を突き出すと、出てきた狼は見事その切っ先に貫かれていた。狼達は狩りをしようと周囲を取り囲んでいたようだが、その機先を制しハンター達が先手を取っていた。
そして、こうなるともはや狼達に勝ち目はない。飛びかかろうとした狼達の足元にシルヴィアが銃弾を撃ちこむ。怯えた所にショウコは容赦なく射撃、バタバタと倒れていく狼達。
そして前方に集まってきた狼達の左右にエヴァが弾丸を発射すると、慌てて散らばっていく。そして真ん中に一頭残される一回り大きな狼。おそらくこの群れのリーダーなのだろう。そこに綾瀬は一瞬集中し、炎の矢を放った。放たれたそれは狼の顔を焼き、燃え上がらせる。
そしてジャックがすかさず合図を送ると馬車達は急加速した。ジャックは後方で狼達に備えていたが、リーダーを失った群れはもはや再び襲い来ることはなかった。
「やっぱ歌姫サンの歌で、獣も感動してって筋書きにゃなんねーか」
どんどん遠くなっていく縄張りを見送りながら、ジャックはそう独りごちていた。
●
進み続けた一行の前にやがて森が開け草原が見えてくる。話によればさらにこの先は荒野になり、そして峠となるらしい。だが太陽はすっかり傾いていた。そこでショウコは野営を提案する。彼女があらかじめモアに聞いていた話によるとここらに商人が使う野営地があるそうだ。
ショウコが素早く馬車内から野営道具を取り出すと総出で組み立てていく。結果あっという間にキャンプが出来上がった。
一行は手早く食事を取り、明日に備えて寝袋に潜り込む。タイムリミットは刻一刻と迫っているが、暗い中崖沿いに走るのは自殺行為に他ならない。それならば明日に備えて英気を養うのが得策だ。
「1週間くらいならば起きていた事もありますし、2日くらいなら大丈夫です。私が見張りをします」
ただ、シルヴィアは見張りを買って出た。アサルトライフルを手に木の上に登り迷彩ジャケットを被ると、もうそこに彼女が居るとは思えなくなった。流石元狙撃兵というべきか。
「……眠れないのか?」
そして草木も眠る丑三つ時、ショウコと交代で見張りに立った綾瀬は、起き出してきていたクリスにそう話しかけた。
「ええ、少し……」
そう返したクリスに、綾瀬は手持ちの食べ物を渡しつつ会話を続ける。
「何であんた、その世界入ろうって思ったんだよ」
「歌が好きで……」
受け取った食べ物を口に運びながら、クリスは昔のことを思い出していた。
「人々を勇気づけたかったから、かな」
かつての自分がそうだったように、今度は誰かを勇気づけることができれば。
「あの、綾瀬さんも明日に備えて休んでくださいね」
「……心配すんな、なんざ言わねーよ。ただ俺らもここまでやってんだ。負けんじゃねーぞ、自分に」
そんな二人の様子を、ただ焚火だけが照らしていた。
●
夜が明け朝が来たらすぐに出発だ。手早く用意を済ませ馬車に乗り、馬にまたがる一行。先を急ぐ一行の間にはピリピリとした空気が漂っていた。
草が生えいていた地面はいつの間にか土がむき出しになり、なだらかに広がっていた左右は急な崖に変わっている。
「ここですか」
御者である伊路葉がそう漏らした。野盗がどこに現れたのか、僅かな時間で尋ねた質問に対するモアの回答がここだった。昨日は先行していたメルクーア達も、それに備え今日は一団となっている。
そしてその言葉通り、崖上に一行を見つめる目が幾つか。
峠に向けて進む馬車に小石が当たる。その微細な音に何人かのハンター達が気づいた時、崖上から幾つもの影が滑り落ちてきた。
「ヒャッハー!」
下品な声を上げて野盗たちが襲い来る。狙いが上手く行ったことに対する歓喜の声は、しかしあっさりと悲鳴に変わった。
そこに降り注いだのは銃弾の雨。比喩表現ではない。何十発という銃弾が、滑り降りていた野盗達を撃ち抜いていく。
「まっ、何事も用意さえ出来てりゃ、な」
下で刀を構える猿越の隣でシルヴィアがアサルトライフルのトリガーを引いていた。奇襲攻撃は見ぬかれていた時点で只の的にしかならない。
さらに、運良く銃弾をすり抜けられたとしても、そこに風を切ってジャックの屋が飛んできていた。野盗の一人は肩を撃ちぬかれ、明後日の方向に転がっていく。
「急いでる時に喧嘩うってんじゃねーぞ、あ゛!?」
それらを乗り越え、崖下までやって来た野盗を綾瀬が放った風が包み込む。その体は木の葉のように舞い上がり、哀れ崖下へと落ちていった。
だが、野盗達一味はもう一つ戦力を隠していた。峠の向こう側から身を隠していた野盗達が駆け込んでくる。挟み撃ちにして形勢逆転。
「そこで、止まりなさい。言っておくけれど、あまり手加減は出来ないわよ」
とはならなかった。こちらへ向かってきた者達に、伊路葉が銃弾で出迎えながらそう挨拶する。
「ほ~ら、これ、プレゼント!」
そしてメルクーアは手持ちの金貨をつかみ投げつけた。バラバラと舞い散り、陽の光を浴びてキラキラと輝く黄金色のそれに思わず気を取られた瞬間、巨大な火の玉が飛んでいって中心で爆発した。そしてその爆発の中からその火の玉を放った張本人であるエヴァが馬に乗って飛び出してくる。
「こういうことをするにも理由があるのでしょう、だけれど、したら駄目なのよ。償える筈よ、動きなさい。私達の気が変わらないうちに、ね」
士気喪失した野盗達に、伊路葉は銃を突きつけそう宣告する。その言葉に抵抗するものなど誰一人居なかった。
しかし襲い来るものはそれだけではなかった。崖上に野盗達が居た事で崩れた岩が馬車に向かって転がってくる。野盗とは比べられない質量のそれはあっという間に転がり、馬車を巻き込んで崖下へと落ちていった。
ハンター達は馬車内に居た者のことを思い一瞬青ざめる。
「二人共大丈夫だ」
馬車内に居たショウコは素早く馬に飛び乗り、切り離していた。
「~! ~!」
そしてクリスは先に飛び出していったエヴァの馬の後ろで、毛布に包まれしがみついていた。
●
後の道には特に問題になるようなものは居なかった。無事時間内に送り届けたハンター達は報酬を受け取るべくオフィスへとやって来る。
「私は寝ます」
が、徹夜していたシルヴィアは眠気に耐えられず、その場で転がり、眠り始めていた。
「それで旨い飯でも食って帰れって伝えといてやってください」
一方、綾瀬は受け取った報酬をモアに返し、そう伝える。
「いえ、ただ働きをさせるわけにはいきません」
しかしモアは拒否し綾瀬に突き返す。それは商人としてのモアの矜持だった。
「代わりに……彼女の舞台を見に行ってあげてくれませんか?」
「こんだけ苦労したんだ。良い芝居になるよう、頑張ってくれよ?」
「あんたの番だ、行って来い」
そして二日後、本番直前の舞台袖で、ジャックと綾瀬がクリスに声をかけていた。
クリスは一瞬目を閉じ、この数日の間に起きたことを思い返し、そして、
「はい!」
満面の笑みでそう返して舞台へとかけて行った。
クリスのプリマとしての初舞台に対する評価、それはいつまでも鳴り止まない、スタンディングオベーションが示していた。その拍手の嵐を浴びながら夢見心地にカーテンコールを受けるクリス。
「上手く行ったようだね。君の才能はやはり素晴らしいよ」
そんな彼女を劇場のどこからか見つめる影に、その時は誰一人気づいていなかった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談卓 メルクーア(ka4005) ドワーフ|10才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/05/15 22:45:05 |
|
![]() |
質問卓 メルクーア(ka4005) ドワーフ|10才|女性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/05/12 23:23:40 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/13 18:58:10 |