ゲスト
(ka0000)
晴れ渡る空の下で
マスター:一縷

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/20 12:00
- 完成日
- 2015/05/25 03:33
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●ある日の朝
自然に包まれた森の外れに建つ、小さな孤児院。院長と6人の子供たちは今日も変わらぬ毎日を過ごしている。
冬の寒さは去り、春の暖かさが訪れ、ゆっくりと初夏を思わせる日差しに照らされる季節。
白銀の世界から新緑の世界へ。
暖かな日差しの中にも、頬を撫ぜる新緑の風は柔らかい。
「ん、今日もいい天気ね」
孤児院の窓を開けながら、最年長の少女――リザが目を細める。
見上げれば雲一つない青い空が広がっている。こんな日に外に出かけたら、きっと気持ちがいいだろう。
「ほら、皆起きて? 朝ご飯のお手伝いしないと」
差し込む日差しが眩しいのか、布団を頭まで被る少女たちの体を揺する。
微笑ましい光景。
何度か揺すってみる。布団の中からは小さな唸り声。
しかし、このまま揺すっていても意味はないだろう。日々の事だ、結果は目に見えて分かっていた。
中々起きようとしない少女にリザは耳打ちをする。
「そろそろ起きないと院長が来ちゃうわよ?」
「……!!?」
――ガバッ
今まで嫌々と唸っていたはずの少女が勢いよく起き上がる。
「おはよう」
何か焦ったように辺りを見渡し、院長が居ない事に安心したのか、胸を撫で下ろす少女――ベル。
その横では寝惚け眼を擦りながら未だ布団の上で丸くなっている最年少の少女――エマ。
リザは微笑む。彼女にとっての日課を熟しながら、一日の始まりを告げた。
●青空の下で
朝食が済み、各々の時間を過ごし始める。
男の子たちは食事が済むと食器だけを片して、外へと飛び出していった。
残って片付けの手伝いをしようとしていた女の子たちも、院長に遊びに行ってきなさいと背中を押されてしまう。
孤児院から少し歩けば一面の自然。足元には小さな花が咲き誇っている。
リザは腰をおろし、小さな白い花を摘んでは紡ぎ、摘んでは紡ぎ……花冠の出来上がり。
「わー! リザおねえちゃん上手!!」
「エマも練習すれば出来るようになるよ」
目を輝かせるエマの頭に、綺麗に紡ぎ終わった花冠を乗せる。
「リザおねえちゃん! ベルも! ベルにも!!」
「分かった。分かったから」
自然と笑みが浮かぶ。そわそわと体を揺らしながら花冠の完成を心待ちにしているベルの姿がとても可愛くて。
暖かい日差しが真上に昇る。
お腹も空き始め、院長に手渡されたお弁当を広げつつ、各々に手を伸ばす。
「ベル、また、おねえさんたちに会いたいなあ……」
パンに齧りつきながらポツリと呟かれた言葉。
――おねえさんたち。
ベルの言う『おねえさんたち』は、以前お世話になったハンター達の事だろう。
「わたしも! わたしも会いたい!!」
身を乗り出したエマがベルの言葉に賛成する。
「そうね」
リザも会いたいかと問われれば、会いたい。また会ってお話しをしてみたい。
●子供たちの願い
孤児院の戻った女の子たちは院長の部屋を訪れる。
「おやおや、どうしたんだい?」
読んでいた本から顔を上げ、子供たちに問いかけを投げる。
この雰囲気は何かお願いがある時だ。子供たちの事は、院長には手に取るように分かっている。
あのね……。そう口を開いたのはリザだった。
「以前、ハンターの方々とお菓子を作った時、とても楽しかったから……またお会いできないかなと思って……」
「お天気の日にね、皆と遊びたい! 一緒に遊びたい!」
リザの言葉に被せるようにベルが身を乗り出す。今にも院長と額がくっついてしまいそうだ。
「そうだねえ……」
院長が顎に手を当てる。これは個人的な願いとなってしまう。ハンターオフィスに話を持って行って、聞いてもらえるかどうか……。
「……だめ、かな……?」
ベルとエマの眉が下がる。会いたいと言う気持ちは強いのだろう。
「駄目ではないよ」
優しい笑みを浮かべ、二人の頭に手を乗せる。
「ちょっと待っていておくれ」
くしゃくしゃと髪を撫でてからリザに夕食の準備を任せ、院長は街に足を運ぶ。
行き先は勿論、ハンターオフィスだ。
「個人的な願いで悪いんだがねぇ……話しだけでも聞いてもらえんかね?」
子供たちの為に。願いを叶えてやりたいと、院長は話し始めた。
自然に包まれた森の外れに建つ、小さな孤児院。院長と6人の子供たちは今日も変わらぬ毎日を過ごしている。
冬の寒さは去り、春の暖かさが訪れ、ゆっくりと初夏を思わせる日差しに照らされる季節。
白銀の世界から新緑の世界へ。
暖かな日差しの中にも、頬を撫ぜる新緑の風は柔らかい。
「ん、今日もいい天気ね」
孤児院の窓を開けながら、最年長の少女――リザが目を細める。
見上げれば雲一つない青い空が広がっている。こんな日に外に出かけたら、きっと気持ちがいいだろう。
「ほら、皆起きて? 朝ご飯のお手伝いしないと」
差し込む日差しが眩しいのか、布団を頭まで被る少女たちの体を揺する。
微笑ましい光景。
何度か揺すってみる。布団の中からは小さな唸り声。
しかし、このまま揺すっていても意味はないだろう。日々の事だ、結果は目に見えて分かっていた。
中々起きようとしない少女にリザは耳打ちをする。
「そろそろ起きないと院長が来ちゃうわよ?」
「……!!?」
――ガバッ
今まで嫌々と唸っていたはずの少女が勢いよく起き上がる。
「おはよう」
何か焦ったように辺りを見渡し、院長が居ない事に安心したのか、胸を撫で下ろす少女――ベル。
その横では寝惚け眼を擦りながら未だ布団の上で丸くなっている最年少の少女――エマ。
リザは微笑む。彼女にとっての日課を熟しながら、一日の始まりを告げた。
●青空の下で
朝食が済み、各々の時間を過ごし始める。
男の子たちは食事が済むと食器だけを片して、外へと飛び出していった。
残って片付けの手伝いをしようとしていた女の子たちも、院長に遊びに行ってきなさいと背中を押されてしまう。
孤児院から少し歩けば一面の自然。足元には小さな花が咲き誇っている。
リザは腰をおろし、小さな白い花を摘んでは紡ぎ、摘んでは紡ぎ……花冠の出来上がり。
「わー! リザおねえちゃん上手!!」
「エマも練習すれば出来るようになるよ」
目を輝かせるエマの頭に、綺麗に紡ぎ終わった花冠を乗せる。
「リザおねえちゃん! ベルも! ベルにも!!」
「分かった。分かったから」
自然と笑みが浮かぶ。そわそわと体を揺らしながら花冠の完成を心待ちにしているベルの姿がとても可愛くて。
暖かい日差しが真上に昇る。
お腹も空き始め、院長に手渡されたお弁当を広げつつ、各々に手を伸ばす。
「ベル、また、おねえさんたちに会いたいなあ……」
パンに齧りつきながらポツリと呟かれた言葉。
――おねえさんたち。
ベルの言う『おねえさんたち』は、以前お世話になったハンター達の事だろう。
「わたしも! わたしも会いたい!!」
身を乗り出したエマがベルの言葉に賛成する。
「そうね」
リザも会いたいかと問われれば、会いたい。また会ってお話しをしてみたい。
●子供たちの願い
孤児院の戻った女の子たちは院長の部屋を訪れる。
「おやおや、どうしたんだい?」
読んでいた本から顔を上げ、子供たちに問いかけを投げる。
この雰囲気は何かお願いがある時だ。子供たちの事は、院長には手に取るように分かっている。
あのね……。そう口を開いたのはリザだった。
「以前、ハンターの方々とお菓子を作った時、とても楽しかったから……またお会いできないかなと思って……」
「お天気の日にね、皆と遊びたい! 一緒に遊びたい!」
リザの言葉に被せるようにベルが身を乗り出す。今にも院長と額がくっついてしまいそうだ。
「そうだねえ……」
院長が顎に手を当てる。これは個人的な願いとなってしまう。ハンターオフィスに話を持って行って、聞いてもらえるかどうか……。
「……だめ、かな……?」
ベルとエマの眉が下がる。会いたいと言う気持ちは強いのだろう。
「駄目ではないよ」
優しい笑みを浮かべ、二人の頭に手を乗せる。
「ちょっと待っていておくれ」
くしゃくしゃと髪を撫でてからリザに夕食の準備を任せ、院長は街に足を運ぶ。
行き先は勿論、ハンターオフィスだ。
「個人的な願いで悪いんだがねぇ……話しだけでも聞いてもらえんかね?」
子供たちの為に。願いを叶えてやりたいと、院長は話し始めた。
リプレイ本文
●一日の始まり
「我儘を言って悪いねぇ」
院長は待ち合わせ場所に集まった6人に頭を下げる。
断られても仕方ないだろうと思いながら持ち込んだ話しに、快く集まってくれた6人の中には見知った顔もいて……感謝の気持ちは一層強くなっていた。
「頭を上げてください」
慌てたような声に顔を上げれば、椿姫・T・ノーチェ(ka1225)が少し眉を下げて微笑んでいる。
「子供たちは、元気ですか?」
「ああ、元気にしとるよ。少し落ち着いて欲しいくらいにのぅ」
視線が合い、二人は笑い合う。
お礼も謝罪の言葉も要らない。彼女たちは子供たちと遊ぶ為にこの場に集まったのだから。
「あの……」
院長と椿姫が笑い合っていると、その横から少し躊躇いがちの声が耳に届く。
視線を移せば、ネムリア・ガウラ(ka4615)が足元に二匹の犬を添わせて立っていた。
「この子たちも、ご一緒しても大丈夫ですか?」
この子たち、とは二匹の犬のこと。ふと気が付いて周りを見渡す。皆が各々のペットを連れてきていた。
犬や猫、梟にカモメ。一匹ずつを目にすることはあっても、こんな一度に目にしたことのなかった院長は目を瞬かせた。
「悪い子じゃないの。一緒に遊べたらいいなと思って」
中々答えない院長にネムリアは、やっぱりダメかな、と肩を落とすが、すぐに院長は首を横に振った。
「いや、喜ぶよ。連れて来てくれて、ありがとねぇ」
こういう機会でなければきっと触れられないだろう。院長は深い皺を作りながら、嬉しそうに笑った。
●お弁当作り
必要な食材を手に孤児院を訪れると、待ちわびていた子供たちが元気よく迎え入れてくれた。
再会を喜ぶ中で簡単な自己紹介を済ませてから、早速お弁当作りの準備。
孤児院のキッチンが比較的広いとはいえ、大人数では入れない。
以前と同様、リビングの大きなテーブルに手分けしつつ、食材が広げられた。
「ねえねえ、おにいちゃん」
くいっと鬼百合(ka3667)の袖が後方に引かれて振り向けば、エマが目を輝かせて食材を見つめている。
「なんですかぃ?」
「なにを作るの?」
広げられた食材は、耳のついたパンに、ハムやチーズ、トマトにベーコン。そして卵に野菜。
砂糖、ジャムやミルクなども置かれている。
他にジャガイモやニンジン、タマネギと肉、香辛料……この材料は、もしや。
「さんどいっちを作りますぜ!」
鬼百合の瞳もキラリと輝く。
パンにハム、野菜からサンドイッチを作るのは分かる。
だが、その他の食材からはカレーではないのだろうかと、リザは小さく首を傾げた。
「始めましょうか」
手を叩く音が小さな空間に響き渡る。椿姫の合図で、お弁当作りが始まった。
「やろうか?」
パンに挟む為の食材切り。リザが包丁に手を伸ばそうとしたところで、須藤 要(ka0167)が声をかける。
「え、あの、大丈夫ですよ?」
食材の中には少々力のいる物も見受けられる……女の子に切らせるよりも俺が。
そう思っての言葉だろう。
「じゃあ、手伝う。あんたはパンの耳を切ってくれるか?」
そう言ってジャガイモを手に取る。決して視線を合わせないが、彼の優しさを感じたリザは、ありがとうございます、と呟いた。
「ねえ、ツバキ。どれを挟めばいいの?」
パンと食材を前にイオ・アル・レサート(ka0392)は眉根を寄せる。
その表情は、明らかに真剣そのもので。
「ふふ、イオさんの好きな物を挟んでください」
椿姫は笑みを零す。確認するようなイオの視線に、大きく頷いた。
「ハムとートマトとー」
その横でアリア(ka2394)がベルと一緒にサンドイッチを作っている。
「ピクニック、楽しみだねっ♪」
「うんうんっ!」
「ベルは何して遊びたい?」
弾む会話に止まらない手。次々に出来上がっていくサンドイッチ。少々の型崩れはあるが、それもまた二人の味だ。
「つばきのねーさん! カレーは挟んでもいいですかぃ?」
先程、リザが首を傾げた食材を手に鬼百合は椿姫に迫る。好物を挟みたい。その思いで食材を買う時に購入していたのだ。
「そのままだと挟めないので、ドライカレーを作りましょうか」
考えた結果、一つの提案を示す。ドライカレーなら、パンに挟むことは可能だろう。
「どうすればいいんですかぃ?」
「まずは、材料を細かく切って……」
聞き慣れない言葉に胸を弾ませながら、鬼百合は椿姫の指示に従いつつドライカレー作りを開始した。
「カナメ、何を作ってるの?」
賑やかなリビングを離れ、キッチンで砂糖を手に持つ須藤にイオは声をかける。
「イオ姉。おかずもちょっとくらい欲しいよなと思って」
手際よく作業は進んでいく。
砂糖とミルクを加えた溶き卵を熱したフライパンに流し入れると、ふわりと優しい香りが広がった。
「甘い香りね」
「こうすれば焼き上がりがふわっとするから」
「これも作ってる途中?」
視線の先にはボウルに入った肉の塊。
料理のレシピに興味津々のイオ。思ったことを次々に質問する。
「肉団子も作ってみようかなって」
料理はあまり上手くないと言いつつも、須藤は丁寧に答えていった。
「それは何ですか?」
リザが不思議そうに声をかける。フライパンを握っていたのはネムリアだ。
「ラスクを作ってるの」
「らすく、ですか?」
「パンの耳を炒めて、砂糖をまぶすだから簡単だよ。ジャムやクリームをつけても美味しいし」
食べてみて、と出来上がったラスクをリザに差し出す。
見慣れない物に緊張した面持ちで口へ運んだリザの表情は、すぐに綻んだ。
お弁当に遊び道具。全ての準備は整った。
「俺が持つよ」
力仕事は男の担当。そう言いながら、須藤は率先して荷物に手を伸ばす。
「あ! オレも持ちますぜ!」
先を歩き始めた須藤を追いかけるように、鬼百合も荷物に手を伸ばした。
――さあ、楽しいピクニックへ出発だ。
●青空の下で
道中、繋いだ手が大きく揺れる。
「エマは、歌は好き?」
「お歌?」
「そう。エマが好きな歌があるなら、教えて欲しいなって」
「わたしね、このお歌が好きだよ!」
エマから紡がれる音に、ネムリアも波長を合わせる。さらに小鳥が囀りが重なって、綺麗な音色が二人を中心に響き渡っていく。
「ついたー!」
広大な野原。晴れ渡る青空。本当にいい天気だ。
さあ、遊ぼうか……となるはずだが、柔らかな陽射しは既に真上。
「先にご飯を食べましょうか」
敷物を取り出しながら椿姫が提案する。
来て早々の昼食は少し勿体ないが、ベルの腹の虫が小さな音を奏でた。
「お腹も空いているみたいですし、ね」
「あたしもお腹すいたー!」
アリアが元気よく手を挙げる。
その意見に全員が頷くと、木陰に敷物を広げてから、お弁当の蓋を開けた。
「いただきまーす!」
全員の声が重なる。各々に食べたい物を手に取り、口へと運んだ。
――美味しい。
誰からともなく上がる声。
皆で手作りした物は普段食べる物よりも、より一層美味しく感じられて。
食べ終え、何をして遊ぼうかと相談が始まる。
「そうだ! 家族を紹介するね!」
思い出したようにアリアが立ち上がる。おもむろに手を伸ばせば、白い鳥が降り立った。
「この子はシロエ。折角だから連れてきちゃった♪」
翼を広げたカモメは、それが挨拶なのか子供たちの周りを旋回する。
「シロエも皆と遊びたいみたいっ!」
アリアの言葉に頷いているのか、カモメはキュイーっと鳴き声を上げた。
「このお花は何て言うんですかぃ?」
野原に咲く小さな花を指さしながら鬼百合は問う。
「これは、カタバミですね」
この花は夜になると葉を閉じるんですよ、と椿姫が詳しく説明してくれた。
春の野原には、多くの花が咲いている。
街で見る花でも名を知らなかったり、見慣れない花もあったりと質問は中々尽きない。
「普段は何して遊んでるのー?」
質問が一段落したところで、アリアはリザの顔を覗き込む。
「花冠を作ったり、でしょうか」
「他には?」
「他、ですか?」
リザが言い淀む。
普段、走り回って遊ぶ二人を見守っている彼女にとっては少し答えにくい質問かもしれない。
「じゃあ、花冠を作りましょうか」
中々答えの出せないリザに、椿姫が助け舟。その言葉に、あたしも作ると大きく頷いたアリアは柔らかい陽射しを浴びた野原に腰を下ろし直す。
花冠の作り方を教えてもらいながら、一輪、また一輪と花を摘んでは紡ぎ始めた。
「こないだ鈴蘭を配るお仕事をしましたぜ」
花を贈られた方は幸せになるんだそーです、と鬼百合はシロツメグサに手を伸ばす。
(オレも、かーちゃんが生きていた頃はいっぱい摘んで……)
彼の瞳がどこか寂しげに揺らぐ。
愛する母の為に、助けたいと思う一心で花を摘んでは持ち帰り続けた鬼百合。
あの頃の自分には何も出来なくて――ぎゅっと目を伏せる。今は悲しい気持ちになっている時じゃない。
「エマさん」
花冠を作らず暇そうにしていたエマの肩をつつく。
「リザさんに花冠を作って贈りませんかぃ?」
作り方は事前に調べてある。上手に出来るかは定かではないが……
「一緒にがんばりましょぃ!」
一生懸命作れば、その想いは必ず相手に伝わるはずだと。
「出来たー!」
エマが一番に声を上げる。出来上がった花冠は不格好で、お世辞も上手とは言えない代物。
「リザおねえちゃん!」
少々興奮気味に駆け寄るエマにリザが顔を上げる。この状態では、エマを見上げる形になっていて。
「はい!」
頭に乗せられた不格好な花冠。
でも、リザは知ってる。手先が不器用な事も、それでも一生懸命に花冠を作っていたことも。
「ありがとう」
ほら、こうやって想いは伝わる。
その様子を心が暖かくなるのを感じながら見ていた鬼百合も、花の腕輪を手に立ち上がる。
「つばきのねーさん、イオさん」
受け取ってくだせぇ――二人に感謝の気持ちを、紡いだ花に込めて。
ワン! ワンワン!
待ちかねたように木陰で涼んでいた犬たちが鳴き始めた。
飼い主の周りを回ってから、口に咥えていたボールをベルの前に落とす。
「遊んでほしいみたい。一緒に遊んであげて?」
遊んでくれと言わんばかりのスズメとツバメに、ネムリアがベルに二匹の遊び相手をお願いする。
「遊んでも、いいの?」
「もちろんっ」
許可を得たベルは足元に置かれたボールを手に取り、おおきく振りかぶって――投げた。
走り回るエマとベルの姿を見守るリザに、一匹の犬が擦り寄ってくる。
「混ざらないのですか?」
リザが目を瞬かせていると、その犬を追うように椿姫とアリアが姿を見せた。
「あたしたちも混ざろうよ♪」
差し伸べられる手。アリアの誘いに心が揺らぐ。混ざって遊びたい。けど、もし二人に何かあった時……。
「遊びたい時は思いきり遊びましょう!」
リザの揺れた瞳を二人は見逃さない。
椿姫は彼女が孤児院の中で一番最年長であることは以前出会った時に知っていた。
ならば、普段は気を張って頑張っているはず。
こんな天気のいい日くらいは――
「私たちが居るので大丈夫ですよ。ほら、レトとリーナも一緒に」
「ほら! 行こう!」
小さく頷いたリザの手を確りと握り、アリアが駆け出す。
引っ張られるように走るリザの表情は、どこか嬉しそうで。
「ね、あたしと友達になってよ」
頑張る彼女は同い年くらいの女の子。今は羽を伸ばしていいんだよ、頑張らなくてもいいんだよ、と繋いだ手から伝わるように。にっこりと満面の笑顔で。
「エマ」
覚醒して小さな蠍を模った赤い燐光を体に纏ったイオがエマに向かって腕を広げる。
首を傾げたエマの脇を支えて抱き上げ、しっかり掴まって、とまるで今から悪戯をするかのようなイオの笑みがエマに向けられた。
「わっ! わー!」
くるり、くるくる。二回転。
地面に足をついた瞬間のエマの表情は驚いていたが、すぐに満面の笑みになる。
「おねえちゃん! もう一回!」
相当気に入ったのか、エマがイオに向かって腕を伸ばした。
「ふふ、後でね? ベル、おいで?」
エマの頭をひと撫でしてから、ベルに声をかける。飛び込んできた小さな体を抱き上げて同様に二回転。
「次は、リザ」
「えっ!」
「ほら、早く」
「あ、あの、私は……っ」
「遠慮しないで? 大丈夫よ」
戸惑っているのか、中々頷かないリザをイオは軽々と抱き上げる。
くるりくるり。
まだ小さなエマと違い、リザやベルはこういった遊びは久しぶりだろう。
普段出来ない遊び。広い場所であるからこそ出来る遊び。
「ユリ、カナメ、ネムリア、アリア」
――皆も、くるくるしてみる?
「鬼百合。勝負しようぜ」
板切れとボールを手に、須藤は鬼百合に声をかける。
「何をするんですかぃ?」
「コレで、ボールを打ち合うんだ」
とんとん、と板切れでボールを弾ませながらの簡単な説明。
この板でボールを打ち合って、打ち返せなかった方が負けと言う簡単な勝負だ。
「勝った方が、残りのデザート1個追加な!」
「臨むところですぜ!」
互いにいい勝負を繰り広げていた二人だが、ギリギリのところで勝者は須藤となった。
言い出しっぺの法則に、勝利品がデザートという部分でつい本気に――
「負けちゃいましたねぃ……」
「鬼百合、初めてだろ? それでこれなら、上手いと思う」
「またやりやしょうぜ!」
――というわけではないだろうが、勝敗など関係なく、二人は楽しそうに笑っていた。
●おわかれの時
楽しい時間は、あっという間に過ぎていく。
青い空は橙色に染まり、夕刻を告げる鳥の歌声が静かに響き渡る。
「院長さん。これ、お土産です」
ネムリアは小さな花束を院長に差し出した。きっと子供たちの話だけでも院長にとっては土産となるだろう。
でも、何か少しでも形に残る物をと。
「ありがとう。お世話になったねぇ。ほら、お礼を言わんか」
不貞腐れたような表情でリザの腰にしがみ付いているエマと、寂しそうな表情を浮かべて黙ってしまったベル。
「すいません……今日はありがとうございました」
眉根を下げ、リザが二人の代わりに頭を下げる。その表情もまた、名残惜しそうで。
「拗ねているだけだから気にしなさんな。ほら、暗くなる前に」
時間も時間だからと、院長に家路につくようにと背中を押されてしまい、後ろ髪を引かれる思いだったが、6人は歩み出す。
が、そんな思いも杞憂だった。
「また、一緒に遊ぼうねー!!」
背を向けて歩き始めて数十歩。突然、大きな声が暗くなり始めた空の下に響き渡った。
振り返れば、子供たちが全身を使って大きく手を振っている。
さよなら、でもなくて。
ばいばい、でもなくて。
――またね。
別れの瞬間は寂しい。気持ちは痛いほど分かる。
それでも、また絶対に会える。永遠の別れではないのだから。
子供たちの手に答えるように6人も大きく手を振り返した。
大きく、大きく。
またね、という想いを込めて。
「我儘を言って悪いねぇ」
院長は待ち合わせ場所に集まった6人に頭を下げる。
断られても仕方ないだろうと思いながら持ち込んだ話しに、快く集まってくれた6人の中には見知った顔もいて……感謝の気持ちは一層強くなっていた。
「頭を上げてください」
慌てたような声に顔を上げれば、椿姫・T・ノーチェ(ka1225)が少し眉を下げて微笑んでいる。
「子供たちは、元気ですか?」
「ああ、元気にしとるよ。少し落ち着いて欲しいくらいにのぅ」
視線が合い、二人は笑い合う。
お礼も謝罪の言葉も要らない。彼女たちは子供たちと遊ぶ為にこの場に集まったのだから。
「あの……」
院長と椿姫が笑い合っていると、その横から少し躊躇いがちの声が耳に届く。
視線を移せば、ネムリア・ガウラ(ka4615)が足元に二匹の犬を添わせて立っていた。
「この子たちも、ご一緒しても大丈夫ですか?」
この子たち、とは二匹の犬のこと。ふと気が付いて周りを見渡す。皆が各々のペットを連れてきていた。
犬や猫、梟にカモメ。一匹ずつを目にすることはあっても、こんな一度に目にしたことのなかった院長は目を瞬かせた。
「悪い子じゃないの。一緒に遊べたらいいなと思って」
中々答えない院長にネムリアは、やっぱりダメかな、と肩を落とすが、すぐに院長は首を横に振った。
「いや、喜ぶよ。連れて来てくれて、ありがとねぇ」
こういう機会でなければきっと触れられないだろう。院長は深い皺を作りながら、嬉しそうに笑った。
●お弁当作り
必要な食材を手に孤児院を訪れると、待ちわびていた子供たちが元気よく迎え入れてくれた。
再会を喜ぶ中で簡単な自己紹介を済ませてから、早速お弁当作りの準備。
孤児院のキッチンが比較的広いとはいえ、大人数では入れない。
以前と同様、リビングの大きなテーブルに手分けしつつ、食材が広げられた。
「ねえねえ、おにいちゃん」
くいっと鬼百合(ka3667)の袖が後方に引かれて振り向けば、エマが目を輝かせて食材を見つめている。
「なんですかぃ?」
「なにを作るの?」
広げられた食材は、耳のついたパンに、ハムやチーズ、トマトにベーコン。そして卵に野菜。
砂糖、ジャムやミルクなども置かれている。
他にジャガイモやニンジン、タマネギと肉、香辛料……この材料は、もしや。
「さんどいっちを作りますぜ!」
鬼百合の瞳もキラリと輝く。
パンにハム、野菜からサンドイッチを作るのは分かる。
だが、その他の食材からはカレーではないのだろうかと、リザは小さく首を傾げた。
「始めましょうか」
手を叩く音が小さな空間に響き渡る。椿姫の合図で、お弁当作りが始まった。
「やろうか?」
パンに挟む為の食材切り。リザが包丁に手を伸ばそうとしたところで、須藤 要(ka0167)が声をかける。
「え、あの、大丈夫ですよ?」
食材の中には少々力のいる物も見受けられる……女の子に切らせるよりも俺が。
そう思っての言葉だろう。
「じゃあ、手伝う。あんたはパンの耳を切ってくれるか?」
そう言ってジャガイモを手に取る。決して視線を合わせないが、彼の優しさを感じたリザは、ありがとうございます、と呟いた。
「ねえ、ツバキ。どれを挟めばいいの?」
パンと食材を前にイオ・アル・レサート(ka0392)は眉根を寄せる。
その表情は、明らかに真剣そのもので。
「ふふ、イオさんの好きな物を挟んでください」
椿姫は笑みを零す。確認するようなイオの視線に、大きく頷いた。
「ハムとートマトとー」
その横でアリア(ka2394)がベルと一緒にサンドイッチを作っている。
「ピクニック、楽しみだねっ♪」
「うんうんっ!」
「ベルは何して遊びたい?」
弾む会話に止まらない手。次々に出来上がっていくサンドイッチ。少々の型崩れはあるが、それもまた二人の味だ。
「つばきのねーさん! カレーは挟んでもいいですかぃ?」
先程、リザが首を傾げた食材を手に鬼百合は椿姫に迫る。好物を挟みたい。その思いで食材を買う時に購入していたのだ。
「そのままだと挟めないので、ドライカレーを作りましょうか」
考えた結果、一つの提案を示す。ドライカレーなら、パンに挟むことは可能だろう。
「どうすればいいんですかぃ?」
「まずは、材料を細かく切って……」
聞き慣れない言葉に胸を弾ませながら、鬼百合は椿姫の指示に従いつつドライカレー作りを開始した。
「カナメ、何を作ってるの?」
賑やかなリビングを離れ、キッチンで砂糖を手に持つ須藤にイオは声をかける。
「イオ姉。おかずもちょっとくらい欲しいよなと思って」
手際よく作業は進んでいく。
砂糖とミルクを加えた溶き卵を熱したフライパンに流し入れると、ふわりと優しい香りが広がった。
「甘い香りね」
「こうすれば焼き上がりがふわっとするから」
「これも作ってる途中?」
視線の先にはボウルに入った肉の塊。
料理のレシピに興味津々のイオ。思ったことを次々に質問する。
「肉団子も作ってみようかなって」
料理はあまり上手くないと言いつつも、須藤は丁寧に答えていった。
「それは何ですか?」
リザが不思議そうに声をかける。フライパンを握っていたのはネムリアだ。
「ラスクを作ってるの」
「らすく、ですか?」
「パンの耳を炒めて、砂糖をまぶすだから簡単だよ。ジャムやクリームをつけても美味しいし」
食べてみて、と出来上がったラスクをリザに差し出す。
見慣れない物に緊張した面持ちで口へ運んだリザの表情は、すぐに綻んだ。
お弁当に遊び道具。全ての準備は整った。
「俺が持つよ」
力仕事は男の担当。そう言いながら、須藤は率先して荷物に手を伸ばす。
「あ! オレも持ちますぜ!」
先を歩き始めた須藤を追いかけるように、鬼百合も荷物に手を伸ばした。
――さあ、楽しいピクニックへ出発だ。
●青空の下で
道中、繋いだ手が大きく揺れる。
「エマは、歌は好き?」
「お歌?」
「そう。エマが好きな歌があるなら、教えて欲しいなって」
「わたしね、このお歌が好きだよ!」
エマから紡がれる音に、ネムリアも波長を合わせる。さらに小鳥が囀りが重なって、綺麗な音色が二人を中心に響き渡っていく。
「ついたー!」
広大な野原。晴れ渡る青空。本当にいい天気だ。
さあ、遊ぼうか……となるはずだが、柔らかな陽射しは既に真上。
「先にご飯を食べましょうか」
敷物を取り出しながら椿姫が提案する。
来て早々の昼食は少し勿体ないが、ベルの腹の虫が小さな音を奏でた。
「お腹も空いているみたいですし、ね」
「あたしもお腹すいたー!」
アリアが元気よく手を挙げる。
その意見に全員が頷くと、木陰に敷物を広げてから、お弁当の蓋を開けた。
「いただきまーす!」
全員の声が重なる。各々に食べたい物を手に取り、口へと運んだ。
――美味しい。
誰からともなく上がる声。
皆で手作りした物は普段食べる物よりも、より一層美味しく感じられて。
食べ終え、何をして遊ぼうかと相談が始まる。
「そうだ! 家族を紹介するね!」
思い出したようにアリアが立ち上がる。おもむろに手を伸ばせば、白い鳥が降り立った。
「この子はシロエ。折角だから連れてきちゃった♪」
翼を広げたカモメは、それが挨拶なのか子供たちの周りを旋回する。
「シロエも皆と遊びたいみたいっ!」
アリアの言葉に頷いているのか、カモメはキュイーっと鳴き声を上げた。
「このお花は何て言うんですかぃ?」
野原に咲く小さな花を指さしながら鬼百合は問う。
「これは、カタバミですね」
この花は夜になると葉を閉じるんですよ、と椿姫が詳しく説明してくれた。
春の野原には、多くの花が咲いている。
街で見る花でも名を知らなかったり、見慣れない花もあったりと質問は中々尽きない。
「普段は何して遊んでるのー?」
質問が一段落したところで、アリアはリザの顔を覗き込む。
「花冠を作ったり、でしょうか」
「他には?」
「他、ですか?」
リザが言い淀む。
普段、走り回って遊ぶ二人を見守っている彼女にとっては少し答えにくい質問かもしれない。
「じゃあ、花冠を作りましょうか」
中々答えの出せないリザに、椿姫が助け舟。その言葉に、あたしも作ると大きく頷いたアリアは柔らかい陽射しを浴びた野原に腰を下ろし直す。
花冠の作り方を教えてもらいながら、一輪、また一輪と花を摘んでは紡ぎ始めた。
「こないだ鈴蘭を配るお仕事をしましたぜ」
花を贈られた方は幸せになるんだそーです、と鬼百合はシロツメグサに手を伸ばす。
(オレも、かーちゃんが生きていた頃はいっぱい摘んで……)
彼の瞳がどこか寂しげに揺らぐ。
愛する母の為に、助けたいと思う一心で花を摘んでは持ち帰り続けた鬼百合。
あの頃の自分には何も出来なくて――ぎゅっと目を伏せる。今は悲しい気持ちになっている時じゃない。
「エマさん」
花冠を作らず暇そうにしていたエマの肩をつつく。
「リザさんに花冠を作って贈りませんかぃ?」
作り方は事前に調べてある。上手に出来るかは定かではないが……
「一緒にがんばりましょぃ!」
一生懸命作れば、その想いは必ず相手に伝わるはずだと。
「出来たー!」
エマが一番に声を上げる。出来上がった花冠は不格好で、お世辞も上手とは言えない代物。
「リザおねえちゃん!」
少々興奮気味に駆け寄るエマにリザが顔を上げる。この状態では、エマを見上げる形になっていて。
「はい!」
頭に乗せられた不格好な花冠。
でも、リザは知ってる。手先が不器用な事も、それでも一生懸命に花冠を作っていたことも。
「ありがとう」
ほら、こうやって想いは伝わる。
その様子を心が暖かくなるのを感じながら見ていた鬼百合も、花の腕輪を手に立ち上がる。
「つばきのねーさん、イオさん」
受け取ってくだせぇ――二人に感謝の気持ちを、紡いだ花に込めて。
ワン! ワンワン!
待ちかねたように木陰で涼んでいた犬たちが鳴き始めた。
飼い主の周りを回ってから、口に咥えていたボールをベルの前に落とす。
「遊んでほしいみたい。一緒に遊んであげて?」
遊んでくれと言わんばかりのスズメとツバメに、ネムリアがベルに二匹の遊び相手をお願いする。
「遊んでも、いいの?」
「もちろんっ」
許可を得たベルは足元に置かれたボールを手に取り、おおきく振りかぶって――投げた。
走り回るエマとベルの姿を見守るリザに、一匹の犬が擦り寄ってくる。
「混ざらないのですか?」
リザが目を瞬かせていると、その犬を追うように椿姫とアリアが姿を見せた。
「あたしたちも混ざろうよ♪」
差し伸べられる手。アリアの誘いに心が揺らぐ。混ざって遊びたい。けど、もし二人に何かあった時……。
「遊びたい時は思いきり遊びましょう!」
リザの揺れた瞳を二人は見逃さない。
椿姫は彼女が孤児院の中で一番最年長であることは以前出会った時に知っていた。
ならば、普段は気を張って頑張っているはず。
こんな天気のいい日くらいは――
「私たちが居るので大丈夫ですよ。ほら、レトとリーナも一緒に」
「ほら! 行こう!」
小さく頷いたリザの手を確りと握り、アリアが駆け出す。
引っ張られるように走るリザの表情は、どこか嬉しそうで。
「ね、あたしと友達になってよ」
頑張る彼女は同い年くらいの女の子。今は羽を伸ばしていいんだよ、頑張らなくてもいいんだよ、と繋いだ手から伝わるように。にっこりと満面の笑顔で。
「エマ」
覚醒して小さな蠍を模った赤い燐光を体に纏ったイオがエマに向かって腕を広げる。
首を傾げたエマの脇を支えて抱き上げ、しっかり掴まって、とまるで今から悪戯をするかのようなイオの笑みがエマに向けられた。
「わっ! わー!」
くるり、くるくる。二回転。
地面に足をついた瞬間のエマの表情は驚いていたが、すぐに満面の笑みになる。
「おねえちゃん! もう一回!」
相当気に入ったのか、エマがイオに向かって腕を伸ばした。
「ふふ、後でね? ベル、おいで?」
エマの頭をひと撫でしてから、ベルに声をかける。飛び込んできた小さな体を抱き上げて同様に二回転。
「次は、リザ」
「えっ!」
「ほら、早く」
「あ、あの、私は……っ」
「遠慮しないで? 大丈夫よ」
戸惑っているのか、中々頷かないリザをイオは軽々と抱き上げる。
くるりくるり。
まだ小さなエマと違い、リザやベルはこういった遊びは久しぶりだろう。
普段出来ない遊び。広い場所であるからこそ出来る遊び。
「ユリ、カナメ、ネムリア、アリア」
――皆も、くるくるしてみる?
「鬼百合。勝負しようぜ」
板切れとボールを手に、須藤は鬼百合に声をかける。
「何をするんですかぃ?」
「コレで、ボールを打ち合うんだ」
とんとん、と板切れでボールを弾ませながらの簡単な説明。
この板でボールを打ち合って、打ち返せなかった方が負けと言う簡単な勝負だ。
「勝った方が、残りのデザート1個追加な!」
「臨むところですぜ!」
互いにいい勝負を繰り広げていた二人だが、ギリギリのところで勝者は須藤となった。
言い出しっぺの法則に、勝利品がデザートという部分でつい本気に――
「負けちゃいましたねぃ……」
「鬼百合、初めてだろ? それでこれなら、上手いと思う」
「またやりやしょうぜ!」
――というわけではないだろうが、勝敗など関係なく、二人は楽しそうに笑っていた。
●おわかれの時
楽しい時間は、あっという間に過ぎていく。
青い空は橙色に染まり、夕刻を告げる鳥の歌声が静かに響き渡る。
「院長さん。これ、お土産です」
ネムリアは小さな花束を院長に差し出した。きっと子供たちの話だけでも院長にとっては土産となるだろう。
でも、何か少しでも形に残る物をと。
「ありがとう。お世話になったねぇ。ほら、お礼を言わんか」
不貞腐れたような表情でリザの腰にしがみ付いているエマと、寂しそうな表情を浮かべて黙ってしまったベル。
「すいません……今日はありがとうございました」
眉根を下げ、リザが二人の代わりに頭を下げる。その表情もまた、名残惜しそうで。
「拗ねているだけだから気にしなさんな。ほら、暗くなる前に」
時間も時間だからと、院長に家路につくようにと背中を押されてしまい、後ろ髪を引かれる思いだったが、6人は歩み出す。
が、そんな思いも杞憂だった。
「また、一緒に遊ぼうねー!!」
背を向けて歩き始めて数十歩。突然、大きな声が暗くなり始めた空の下に響き渡った。
振り返れば、子供たちが全身を使って大きく手を振っている。
さよなら、でもなくて。
ばいばい、でもなくて。
――またね。
別れの瞬間は寂しい。気持ちは痛いほど分かる。
それでも、また絶対に会える。永遠の別れではないのだから。
子供たちの手に答えるように6人も大きく手を振り返した。
大きく、大きく。
またね、という想いを込めて。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/17 12:49:34 |
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ピクニックのしおり 椿姫・T・ノーチェ(ka1225) 人間(リアルブルー)|30才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/05/20 00:22:52 |