ゲスト
(ka0000)
【聖呪】消えぬ隔意。北からの冷風
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/20 22:00
- 完成日
- 2015/05/27 20:09
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
腐りかけの卵がイコニアの額にぶつかった。
「恥知らず!」
「よくも顔を出せたな!」
小さな椅子が、汚れた食器が、ありとあらゆるものが投げつけられる。
イコニアの片目は自身の血と卵で塞がり、衝撃で平衡感覚が狂い、強烈な臭いで鼻も麻痺している。
「帰れ! 帰って!」
老女が叫ぶ。
強い怒りと恨み、そしてそれらを無視できるほど圧倒的な拒絶が、エクラ教の聖職者に向けられていた。
「わたっ」
口の中に破片が入って中が切れる。
「私達は村の北に向かいゴブリンに対処します。1体も通さないつもりですが別働隊が現れるかもしれません。安全が確保されるまで村の外にはっ」
鉄製の農具が当たり、イコニアは意識を失い地面に倒れた。
●1時間後。村の外縁から500メートル
「司祭様、その……」
使い込まれた皮鎧に山刀、短剣に短弓を装備した中年兵士が、途方に暮れた顔で司祭に話しけようとして言葉に詰まる。
臭い。それに鉄臭い。
押し殺した泣き声が、タオルに顔を埋めたイコニアから響いてくる。
「隊長」
古参の兵士が囁く。
「やりますかい?」
ここにいる7人全員が、マギア砦籠城戦からの戦いでイコニアにより命を救われた。
皆荒っぽい質であり、恩人の敵を不幸にすることに躊躇いなどなかった。
ちーんと、盛大に鼻をかむ音が不穏な空気を切り裂く。
汚れきったタオルで乱暴に顔を拭い、髪についた大きな汚れだけを払い、イコニアはいつもの表情で顔を上げる。
「時間が無いのに動きを止めて申し訳ありません。隊長さん、状況を教えて頂けますか」
現役の王国兵にして現在司祭護衛中の兵士が、生涯で最も気合の入った敬礼を捧げ報告する。
「3名の班を2つ偵察に出し1班が戻りました。ゴブリン3集団計10体に遭遇。敵の装備は木製の盾に小型槍。腕は劣悪ですが訓練の形跡がありました」
イコニアの真っ赤になった目が見開かれる。
「それって……、いえ、ハンターソサエティへの援軍要請を行っても?」
「是非お願いします」
司祭は無言でうなずき、荷物の中にあるはずのトランシーバーを探し始めた。
隊長が司祭に背を向け獰猛な笑みを浮かべる。
「おいお前等、司祭様の前で不抜けた真似したら糞村人の前にお前等から締めてやる。気合を入れろ」
泣いた子も気絶しかねない雄叫びが重なり合い、村にいる人々を怯えさせていた。
●ハンターズソサエティ
トランシーバーで遊んでいたパルムが村の近くから最寄りのソサエティ支部に全力疾走する。
到着後すぐに複数のパルムと情報が共有され、神霊樹経由で広がり、ソサエティ本部の一室で依頼票として表示された。
『こちら王国兵10名とエクラ教司祭のイコニアです。現在地はパルシア村の北ごひゃく』
木が倒れる音と小型の生物の断末魔が聞こえた。
『約500メートルでゴブリンの集団と戦闘中です。至急増援を』
男達の怒号とゴブリンの悲鳴、イコニアがヒールを使う声が挟まる。
『はい、ゴブリンは木製ですがほぼ統一された装備を身につけています。考えづらいですが大規模かつ組織的な襲撃である可能性も皆無ではありません。やり過ぎくらいに装備を調えて来て頂けると……』
エクラ教徒の土地に入るな畜生共! というイコニアの声とメイスによる撲殺音が鮮やかに聞こえた。
『失礼しました。皆様と直接お会いできるのを楽しみにしていますね』
ほがらかな少女の声と、ゴブリンの悲鳴が同時に響く。
『肝心なことを伝え忘れていました。エクラ教とパルシア村との間には非常に繊細な経緯があって』
声が湿る。
『教会の都合を押しつけてごめんなさい。エクラ教関係者はできれば村の方にばれないように』
邪魔をするなという怒声とゴブリンの頭蓋を砕く音。
『お願いしますね』
回復役も白兵戦を強いられるほど、不利なのかもしれない。
「恥知らず!」
「よくも顔を出せたな!」
小さな椅子が、汚れた食器が、ありとあらゆるものが投げつけられる。
イコニアの片目は自身の血と卵で塞がり、衝撃で平衡感覚が狂い、強烈な臭いで鼻も麻痺している。
「帰れ! 帰って!」
老女が叫ぶ。
強い怒りと恨み、そしてそれらを無視できるほど圧倒的な拒絶が、エクラ教の聖職者に向けられていた。
「わたっ」
口の中に破片が入って中が切れる。
「私達は村の北に向かいゴブリンに対処します。1体も通さないつもりですが別働隊が現れるかもしれません。安全が確保されるまで村の外にはっ」
鉄製の農具が当たり、イコニアは意識を失い地面に倒れた。
●1時間後。村の外縁から500メートル
「司祭様、その……」
使い込まれた皮鎧に山刀、短剣に短弓を装備した中年兵士が、途方に暮れた顔で司祭に話しけようとして言葉に詰まる。
臭い。それに鉄臭い。
押し殺した泣き声が、タオルに顔を埋めたイコニアから響いてくる。
「隊長」
古参の兵士が囁く。
「やりますかい?」
ここにいる7人全員が、マギア砦籠城戦からの戦いでイコニアにより命を救われた。
皆荒っぽい質であり、恩人の敵を不幸にすることに躊躇いなどなかった。
ちーんと、盛大に鼻をかむ音が不穏な空気を切り裂く。
汚れきったタオルで乱暴に顔を拭い、髪についた大きな汚れだけを払い、イコニアはいつもの表情で顔を上げる。
「時間が無いのに動きを止めて申し訳ありません。隊長さん、状況を教えて頂けますか」
現役の王国兵にして現在司祭護衛中の兵士が、生涯で最も気合の入った敬礼を捧げ報告する。
「3名の班を2つ偵察に出し1班が戻りました。ゴブリン3集団計10体に遭遇。敵の装備は木製の盾に小型槍。腕は劣悪ですが訓練の形跡がありました」
イコニアの真っ赤になった目が見開かれる。
「それって……、いえ、ハンターソサエティへの援軍要請を行っても?」
「是非お願いします」
司祭は無言でうなずき、荷物の中にあるはずのトランシーバーを探し始めた。
隊長が司祭に背を向け獰猛な笑みを浮かべる。
「おいお前等、司祭様の前で不抜けた真似したら糞村人の前にお前等から締めてやる。気合を入れろ」
泣いた子も気絶しかねない雄叫びが重なり合い、村にいる人々を怯えさせていた。
●ハンターズソサエティ
トランシーバーで遊んでいたパルムが村の近くから最寄りのソサエティ支部に全力疾走する。
到着後すぐに複数のパルムと情報が共有され、神霊樹経由で広がり、ソサエティ本部の一室で依頼票として表示された。
『こちら王国兵10名とエクラ教司祭のイコニアです。現在地はパルシア村の北ごひゃく』
木が倒れる音と小型の生物の断末魔が聞こえた。
『約500メートルでゴブリンの集団と戦闘中です。至急増援を』
男達の怒号とゴブリンの悲鳴、イコニアがヒールを使う声が挟まる。
『はい、ゴブリンは木製ですがほぼ統一された装備を身につけています。考えづらいですが大規模かつ組織的な襲撃である可能性も皆無ではありません。やり過ぎくらいに装備を調えて来て頂けると……』
エクラ教徒の土地に入るな畜生共! というイコニアの声とメイスによる撲殺音が鮮やかに聞こえた。
『失礼しました。皆様と直接お会いできるのを楽しみにしていますね』
ほがらかな少女の声と、ゴブリンの悲鳴が同時に響く。
『肝心なことを伝え忘れていました。エクラ教とパルシア村との間には非常に繊細な経緯があって』
声が湿る。
『教会の都合を押しつけてごめんなさい。エクラ教関係者はできれば村の方にばれないように』
邪魔をするなという怒声とゴブリンの頭蓋を砕く音。
『お願いしますね』
回復役も白兵戦を強いられるほど、不利なのかもしれない。
リプレイ本文
●救援到着
ゴブリンは、蹄の音が複数近づいてくるのに気づいた。
斥候という重要な役目を任されているのだから逃げることは出来ない。
慎重に、いざというときは命と引き替えに足止めするつもりで姿を現した。
『3頭モッ』
群れの中では5指に入るとはいえ戦闘技術の蓄積も訓練の余裕もほとんどない。
恐怖で体を強ばらせ、思わず目をつぶってしまった。
おそるおそる目を開ける。
蹄の音は後ろに抜けている。槍も届かない位置で、見慣れぬ犬と猫とパルムがゴブリンを眺めていた。
「伏兵? 合図したらゴブリンに見つかる?」
三日月 壱(ka0244)は片手がトランシーバーでふさがった状態で馬を走らせている。
できれば小声でやりとりしたい。しかし先方は戦闘中なのでどうしても声が大きくなる。
「こっちの迂回班がなんとかするからそっちの位置を……ってもしもし!」
人間とゴブリンの怒声が、トランシーバーと林の奥から同時に聞こえていた。
「疾風、急いでくれ」
神谷 春樹(ka4560)が手綱を軽く動かす。
速度が増し、左右から突き出た枝が彼とその愛馬を傷つける。
戦闘に巻き込まないよう他のペットを途中で下ろしていなければ、重傷者それ以上の傷を負っていた可能性があった。
「行くわよ!」
セリス・アルマーズ(ka1079)が手綱から手を放す。
利き腕のナックルで鋭い枝を弾き、もう一方の腕で構えた盾で障害物を押しのける。
急速に明るくなる。林が終わり、人とゴブリンが相争う平地へ突入したのだ。
セリスの目の前には疲れ切った兵士7人と司祭1人。
そらにその先にはゴブリンが数十はいた。
「貴方達に恨みはないけれど、我が同志を傷つけるなら容赦はしないわ」
さすがに息切れした愛馬から飛び降り、そのまま拳を地面に打ち付ける。
「このエクラの光の輝きを恐れぬなら! かかってこい!!」
セイクリッドフラッシュの光がセリスを白く輝かせる。
強い光は血と土にまみれた戦場を白と黒で塗り分け、兵士に槍を突き刺そうとしていたゴブリンを絶命させた。
『嘘ダロ』
指揮官らしきゴブリンが呆然と呟く。
彼女を中心とした直径10メートルの範囲にいたゴブリン13体のうち、8体が即死していた。
即死以外は無傷なのが、ますますゴブリンを混乱させている。
「司祭様っ!?」
兵士達も混乱している。
これほど派手な登場と凄まじい術を目にするなど想像も妄想もしていなかったから当然だ。
「聖導士の技です。エクラ教だから強くて最高ですっ!」
セイクリッドフラッシュってここまで強かったっけと内心混乱しながら、イコニア・カーナボン(kz0040)は外面だけは司祭らしい言動を必死に保つ。
「お待たせしました!」
壱がイコニアの脇を通り抜け、ゴブリンの布陣に開いた穴を突っ切り。
「イコニアさん、お怪我はありませんか?」
華麗に反転してイコニアに向き直る。
青白い鞭が真円を描き、その範囲に含まれていた小隊長ゴブリン以下数体に止めを刺した。
「三日月さん!」
司祭からは威厳というものが消えていた。
ただの少女のように、危地に駆けつけた友へ親愛と感激の笑みを向けていた。
「助太刀に来ました。あなたたちは一旦下がって、態勢を整えてください」
春樹が、イコニアと兵士達を庇う場所へ移動する。
彼の馬は小刻みに進路と速度を変えてゴブリンの狙いを妨害する。
「はい」
少女の顔が司祭のそれに戻る。
兵士達も混乱から立ち直り、ハンター達の後ろを固める形で隊列をつくる。
春樹はひとつうなずき前方に意識を集中する。
壱達が範囲攻撃を繰り出すことで押してはいるのだが、ゴブリンの数は30、いや40近くいてこのままだと逃げ出しかねない。
「参ったな」
魔導拳銃の引き金を引く。
イコニア狙いで投石寸断だったゴブリンが腕を押さえて石を取り落とす。
春樹はあえて追撃しない。
「逃がす訳にはいきませんからね」
別働隊がゴブリンの退路を断つまで、まだ時間が必要だった。
●偽りの防戦
「ちょっと力を貸してね」
リューリ・ハルマ(ka0502)の声に、既に待避済みのパルムが応えた。
ペット友達の馬の頭上でポーズをとる。パルムを通じて大きな存在からの力がリューリに流れ込む。
ゴブリンの槍が突き出される。
4体同時であり、2、3本防がれても1本は必ず当たる必殺攻撃のはずだった。
「やるわね」
形のよい唇が笑みの形になる。ゴブリン達は、穂先が刺さってさえいないことに気づいて絶望してしまった。
「お返し」
時間稼ぎをしてもいいが、リューリの後ろにいる兵士達は疲れ切っている。ここは少し攻めて数を減らすべきだと考えて、リューリは戦槍「ボロフグイ」を携えゴブリンの群れに飛び込んだ。
「思いきっていくよ!」
ボロフグイに速度と正確な狙いを与えて旋回させる。
ゴブリンは木製槍を立て致命傷だけは避けようとするが、リューリの一閃は木槍をゴブリンごと割り箸のように砕く。
歪虚と違って倒しても死体が残る。
手のひらには命を複数断った感触がある。
「恨みっこなしだよ」
この場ではリューリが圧倒しているとはいえ、ゴブリンが村に達したらゴブリンが村人を蹂躙する。
リューリは胸を張り、倒れたゴブリンと前方から駆けてくるゴブリン隊と真正面から向き合う。
彼女が再度槍を突き出すより速く、薄い円形の刃が彼女の頭上を飛び越えゴブリンにまで到達した。
そのチャクラムは限界近くまで強化されている訳でもなく、持ち主が超人的な腕力を持っている訳でもなかった。
だが馬上の有屋 那津人(ka0470)とゴブリンの身長差は1メートルを超えており、チャクラムは何の防具もないゴブリンの頭に命中する。
「良い眺めですね。狙いがつけやすくて助かるってもんですよ」
戦馬という大きな財産兼戦力を持ち、覚醒者という飛び抜けた力まで有しているのに、那津人の瞳には酷く暗い感情が凝っている。
「ねえ」
戦線維持はリューリに任せ、馬上の那津人は弱者であるゴブリンを攻める。
毎回急所に当たる訳でもなく、ときには外れてしまうこともある。
だがゴブリンの槍は届かない。投石を受けても覚醒中に跳ね上がった生命力は僅かしか減らない。
「ちょこまかと……うざってぇゴブリン共ですね」
予備動作なしで投擲。投石直後のゴブリンに深手を負わせる。
那津人の口角が不吉な角度で吊り上がり、ゴブリンの背筋を震わせる、冷たく暗い笑いがこぼれた。
『女ヲ足止メ。他ハ横ニ行ケ!』
ゴブリンの隊列が横に伸びる。
リューリを足止めすれば那津人を無視しても構わないとでも言いたげな動きに、戦場で表に出てしまった残虐さが反応する。
「オイコラ! シカトこいてんじゃねぇぞゴブ公がぁッ!」
チャクラムが飛ぶ。
先頭のゴブリンの首元が裂け、悲鳴もあげられずにその場に倒れた。
●包囲殲滅
整備されているとはいえ林の中を馬で移動するのは困難だ。
それ以上に、金属製全身鎧という大重量かつ嵩張るものを着込んで移動するのは無謀極まりない。
もっともそんな常識はハンターには通用しない。
ユナイテル・キングスコート(ka3458)は全身を覆うプレートアーマーを着込んだまま軽やかに動く。
戦馬はユナイテルに指示された通りに最も広く安全な空間を選択し、ユナイテルは大きく重いロングソードを鋭く突き出した。
ゴブリンが頭頂部を潰され絶命する。意識を失うまでほとんど痛みがなかったはずだ。
「む」
兜の下で、鮮やかな紅の瞳が光る。
「ペル殿!」
光の矢がユナイテルの近くを駆け抜け、木々の間をすり抜け、主戦場に気をとられハンターの別働隊に気づかなかったゴブリンを仕留めた。
「っと」
ペル・ツェ(ka4435)の上体が揺れる。
先程の空恐ろしいほどの技からは想像し辛い動きだが、やむを得ない事情がある。
「2人乗りは厳しいねぃ」
ペルを後ろに乗せた一刃(ka4882)が、両手で手綱をとって馬の制御に集中していた。決して馬術が下手な訳ではない。2人乗りでの戦闘に無理があっただけだ。
「そろそろです」
ユナイテルは、ざいというときは自分が盾になるつもりで先導する。
主戦場の戦闘音を聞きながら、速度は出しても決して焦らず、ゴブリンに遭遇した際はペルと共に確実に仕留め、兵士の別働隊がいるはずの場所まで到達した。
「騎士の旦那がなんでここに」
草に身を隠した兵士達が目を丸くする。
ユナイテルの技も装備も態度も理想的な騎士だ。ただ、身長が一般的なイメージの騎士より低い。
「旦……那?」
彼女の眉が鋭角を描く。
「まぁまぁ」
一刃がユナイテルを宥めてペルを下ろす。
ユナイテルは一度だけ小さく咳払いをして気を取り直し、命令の変更と兵士達に伝えた。
「了解しました」
「嬢ちゃ……」
「ボクは男だ!」
兵士はペルに対して深く頭を下げ、丁寧な口調で説明する。
「失礼しました。魔術を使われるのでしたらここが見つかり辛いです」
「ふん。弓での援護は失敗するなよ」
ペルは草で装備が汚れるのも気にせず身をかがめ、仲間と兵士の準備完了を待って詠唱を開始した。
「雲よ」
〆の言葉と同時に眠りの雲を出現させる。
彼等の二十数メートル先で、投石行ったりイコニア達の隙を窺っていたゴブリン20近くのうち半分以上が意識を失った。
「数だけは多いか……突撃します!」
ユナイテルが林から出て加速する。
ゴブリンをまとめて吹き飛ばす威力はないけれども、全身金属鎧に戦馬という組み合わせは迫力十分で、なにより狙って敵に容易に近づける。
ユナイテルが弓兵を狙おうとするゴブリンを仕留め、ペルが再度の雲で敵後衛を事実上無力化する。
「ペル君に美味しいところをとられたでござるよぅ」
悪気なくからかうような言葉を残し、一刃は飄々と馬を駆る。
意識を失ったゴブリンを無視して前に進むと、無防備に背中を晒した小鬼が見えてくる。
春樹が剣に持ち替える。イコニアや兵士達と呼吸をあわせ、白兵武器を振り上げ一斉に仕掛けた。
数はゴブリンの槍の方が多く、そのままぶつかればイコニアあたりが重傷以上の傷を負っただろう。
「ほい」
虎徹がゆっくりと振るわれる。
一刀の呼吸は戦場でも平静で指先から頭の天辺まで動きが正確だ。虎徹の切っ先をゴブリンの背中に突き入れ複数の臓器を破壊した。そのまま骨には当てず柔らかい部位だけ切り裂き一歩下がる。
ゴブリンは何が何だか分からないまま、背中から血を吹き出して地面に倒れた。
兵士達がゴブリンにぶつかる。
ゴブリン槍隊は一刀が気になり全力が出せず、一刀の側に押し出されていった。。
「ちょっと数が多いねぃ」
後ろから攻めることに罪悪感はない。ここは試合場ではなく戦場。あらゆるものを用いて戦う生存競争の場所なのだから。
「いくよ!」
リューリの近くから兵士達が離れ、ボロフグイが残像で円を描く。
ゴブリン手製の木製槍が砕かれ宙に舞った。
『林ニ逃ゲッ』
ゴブリンの1体が、首を裂かれて言葉を中断させられる。
「逃がすとでも、思ってるかぃ?」
一刃は蔑みも驕りもせず、逃げようとするゴブリンに対して淡々と刃を送り込む。
単なる幸運により素早く反応できたものもいたが、一刃は体内の気を巧みに運用してゴブリンを上回る速度で動きを封じる。
そこへ槍、鞭、剣が振り下ろされ、兵士達が苦戦したゴブリン部隊があっけなく止めを刺された。
「もうすぐ目を覚ますよ!」
リューリがよく通る声で警告する。
光の矢で寝ぼけ眼のゴブリンを仕留め、弓兵にも手伝わしていくが処理が間に合わない。
「もう1発!」
セイクリッドフラッシュが容赦なく睡眠中ゴブリンを仕留める。
効果範囲外のゴブリンには薄く鋭い刃が飛来して、単なる眠りから2度と覚めぬ眠りに誘う。
那津人は予備のチャクラムを取り出そうとした時点で、急に静かになったことに気づく。イコニアが鼻息粗く次の獲物を探しているのに小柄な人型は1つも動いていない。
勝利の実感が全身を駆け巡る。満足げに息を吐き、那津人は静かに刃をおさめるのだった。
●ゴブリン
わん、と十数度目の合図が送られた。
春樹が距離を詰める。
粗末な手やりを持つゴブリンが逃げようとするが、背中から心臓を撃ち抜かれて倒れた。
「うへぇ」
兵士がと柴犬を見上げるような目で見る。
「すごい犬っすね」
「疾風と違って無理はさせられないですけどね。コロマル、まだいけるかい?」
柴犬はうなずきかけて止まる。
ふんふんと鼻を鳴らし、今度は大きな声でわんと鳴いた。
「ゴブリンは排除できたみたいです」
兵士は口笛を吹いて死体を引きずり、春樹は愛犬と一緒に兵士を警護する。2人と1頭で戦場跡に戻ると、丁度簡易の葬儀が終わったところだった。
穴が掘られて死体が寝かされ、その上から土が被せられていく。
「何があったのかしらね」
セリスが肩をすくめる。途中通った村での反応がかなり凄かった。速度が出ていなければ卵の1つか2つぶつけられてもおかしくなかった。
イコニアの目が潤む。
「この信仰こそ私の……」
ちらりと少女司祭を見る。
「私達の生きる道、憎まれようと、恨まれようとも、エクラの教義は寛容の心。全てを受け止める覚悟よ」
2人のエクラ教徒が心を通わせた瞬間、雑魔が見えたという言葉が聞こえた。
しんみりした空気は消え失せ、ゴブリンが見たら命乞いしそうな目つきで聖導士達が敵を探す。
「嘘だよ、うそ」
壱が種明かしをして楽しげに笑う。
セリスはやっぱりと苦笑し、イコニアは顔を真っ赤にしてぷるぷる震えていた。
笑い声がますます大きくなるが、実は壱は楽しんではいない。
道中の村人の態度から何が起こったか推測し、イコニアが鬱々としないよう彼なりの方法で力づけただけだ。
何もしてねー奴らが偉そうにしやがってと、返り血と自身の血でまみれたイコニアを見ながら内心毒づいていた。
そこから少し離れた場所には、埋葬前の死体が並べられていた。
リューリがゴブリンの武器と血塗れの毛皮を注視している。
用いられている技術は拙い。共通の紋章がある訳でもない。それでも、同程度の技術の持ち主数人が作ったことくらいは分かる。
「何か分かったかねぃ」
林にある茂みが揺れて一刀が姿を現す。
微かな血の気配は、死ぬ直前の生き残りに尋問した結果だろうか。
「小部族未満が全員で移動」
「全く否定できないねぃ」
一刀が深くうなずく。ゴブリンにしては仲間意識が強く、尋問相手も予想以上に気合いが入っていた。なのに装備は平均的ゴブリンより下だった。
「戦闘が移動のための手段に見えた。危険を避けるために拠点を捨てた残党?」
「北から何かが来るかもしれないってことことかねぃ」
一刀達の言葉に兵士達の手が止まる。顔を見合わせ、深刻な表情で埋葬作業を続けていくのだった。
ゴブリンは、蹄の音が複数近づいてくるのに気づいた。
斥候という重要な役目を任されているのだから逃げることは出来ない。
慎重に、いざというときは命と引き替えに足止めするつもりで姿を現した。
『3頭モッ』
群れの中では5指に入るとはいえ戦闘技術の蓄積も訓練の余裕もほとんどない。
恐怖で体を強ばらせ、思わず目をつぶってしまった。
おそるおそる目を開ける。
蹄の音は後ろに抜けている。槍も届かない位置で、見慣れぬ犬と猫とパルムがゴブリンを眺めていた。
「伏兵? 合図したらゴブリンに見つかる?」
三日月 壱(ka0244)は片手がトランシーバーでふさがった状態で馬を走らせている。
できれば小声でやりとりしたい。しかし先方は戦闘中なのでどうしても声が大きくなる。
「こっちの迂回班がなんとかするからそっちの位置を……ってもしもし!」
人間とゴブリンの怒声が、トランシーバーと林の奥から同時に聞こえていた。
「疾風、急いでくれ」
神谷 春樹(ka4560)が手綱を軽く動かす。
速度が増し、左右から突き出た枝が彼とその愛馬を傷つける。
戦闘に巻き込まないよう他のペットを途中で下ろしていなければ、重傷者それ以上の傷を負っていた可能性があった。
「行くわよ!」
セリス・アルマーズ(ka1079)が手綱から手を放す。
利き腕のナックルで鋭い枝を弾き、もう一方の腕で構えた盾で障害物を押しのける。
急速に明るくなる。林が終わり、人とゴブリンが相争う平地へ突入したのだ。
セリスの目の前には疲れ切った兵士7人と司祭1人。
そらにその先にはゴブリンが数十はいた。
「貴方達に恨みはないけれど、我が同志を傷つけるなら容赦はしないわ」
さすがに息切れした愛馬から飛び降り、そのまま拳を地面に打ち付ける。
「このエクラの光の輝きを恐れぬなら! かかってこい!!」
セイクリッドフラッシュの光がセリスを白く輝かせる。
強い光は血と土にまみれた戦場を白と黒で塗り分け、兵士に槍を突き刺そうとしていたゴブリンを絶命させた。
『嘘ダロ』
指揮官らしきゴブリンが呆然と呟く。
彼女を中心とした直径10メートルの範囲にいたゴブリン13体のうち、8体が即死していた。
即死以外は無傷なのが、ますますゴブリンを混乱させている。
「司祭様っ!?」
兵士達も混乱している。
これほど派手な登場と凄まじい術を目にするなど想像も妄想もしていなかったから当然だ。
「聖導士の技です。エクラ教だから強くて最高ですっ!」
セイクリッドフラッシュってここまで強かったっけと内心混乱しながら、イコニア・カーナボン(kz0040)は外面だけは司祭らしい言動を必死に保つ。
「お待たせしました!」
壱がイコニアの脇を通り抜け、ゴブリンの布陣に開いた穴を突っ切り。
「イコニアさん、お怪我はありませんか?」
華麗に反転してイコニアに向き直る。
青白い鞭が真円を描き、その範囲に含まれていた小隊長ゴブリン以下数体に止めを刺した。
「三日月さん!」
司祭からは威厳というものが消えていた。
ただの少女のように、危地に駆けつけた友へ親愛と感激の笑みを向けていた。
「助太刀に来ました。あなたたちは一旦下がって、態勢を整えてください」
春樹が、イコニアと兵士達を庇う場所へ移動する。
彼の馬は小刻みに進路と速度を変えてゴブリンの狙いを妨害する。
「はい」
少女の顔が司祭のそれに戻る。
兵士達も混乱から立ち直り、ハンター達の後ろを固める形で隊列をつくる。
春樹はひとつうなずき前方に意識を集中する。
壱達が範囲攻撃を繰り出すことで押してはいるのだが、ゴブリンの数は30、いや40近くいてこのままだと逃げ出しかねない。
「参ったな」
魔導拳銃の引き金を引く。
イコニア狙いで投石寸断だったゴブリンが腕を押さえて石を取り落とす。
春樹はあえて追撃しない。
「逃がす訳にはいきませんからね」
別働隊がゴブリンの退路を断つまで、まだ時間が必要だった。
●偽りの防戦
「ちょっと力を貸してね」
リューリ・ハルマ(ka0502)の声に、既に待避済みのパルムが応えた。
ペット友達の馬の頭上でポーズをとる。パルムを通じて大きな存在からの力がリューリに流れ込む。
ゴブリンの槍が突き出される。
4体同時であり、2、3本防がれても1本は必ず当たる必殺攻撃のはずだった。
「やるわね」
形のよい唇が笑みの形になる。ゴブリン達は、穂先が刺さってさえいないことに気づいて絶望してしまった。
「お返し」
時間稼ぎをしてもいいが、リューリの後ろにいる兵士達は疲れ切っている。ここは少し攻めて数を減らすべきだと考えて、リューリは戦槍「ボロフグイ」を携えゴブリンの群れに飛び込んだ。
「思いきっていくよ!」
ボロフグイに速度と正確な狙いを与えて旋回させる。
ゴブリンは木製槍を立て致命傷だけは避けようとするが、リューリの一閃は木槍をゴブリンごと割り箸のように砕く。
歪虚と違って倒しても死体が残る。
手のひらには命を複数断った感触がある。
「恨みっこなしだよ」
この場ではリューリが圧倒しているとはいえ、ゴブリンが村に達したらゴブリンが村人を蹂躙する。
リューリは胸を張り、倒れたゴブリンと前方から駆けてくるゴブリン隊と真正面から向き合う。
彼女が再度槍を突き出すより速く、薄い円形の刃が彼女の頭上を飛び越えゴブリンにまで到達した。
そのチャクラムは限界近くまで強化されている訳でもなく、持ち主が超人的な腕力を持っている訳でもなかった。
だが馬上の有屋 那津人(ka0470)とゴブリンの身長差は1メートルを超えており、チャクラムは何の防具もないゴブリンの頭に命中する。
「良い眺めですね。狙いがつけやすくて助かるってもんですよ」
戦馬という大きな財産兼戦力を持ち、覚醒者という飛び抜けた力まで有しているのに、那津人の瞳には酷く暗い感情が凝っている。
「ねえ」
戦線維持はリューリに任せ、馬上の那津人は弱者であるゴブリンを攻める。
毎回急所に当たる訳でもなく、ときには外れてしまうこともある。
だがゴブリンの槍は届かない。投石を受けても覚醒中に跳ね上がった生命力は僅かしか減らない。
「ちょこまかと……うざってぇゴブリン共ですね」
予備動作なしで投擲。投石直後のゴブリンに深手を負わせる。
那津人の口角が不吉な角度で吊り上がり、ゴブリンの背筋を震わせる、冷たく暗い笑いがこぼれた。
『女ヲ足止メ。他ハ横ニ行ケ!』
ゴブリンの隊列が横に伸びる。
リューリを足止めすれば那津人を無視しても構わないとでも言いたげな動きに、戦場で表に出てしまった残虐さが反応する。
「オイコラ! シカトこいてんじゃねぇぞゴブ公がぁッ!」
チャクラムが飛ぶ。
先頭のゴブリンの首元が裂け、悲鳴もあげられずにその場に倒れた。
●包囲殲滅
整備されているとはいえ林の中を馬で移動するのは困難だ。
それ以上に、金属製全身鎧という大重量かつ嵩張るものを着込んで移動するのは無謀極まりない。
もっともそんな常識はハンターには通用しない。
ユナイテル・キングスコート(ka3458)は全身を覆うプレートアーマーを着込んだまま軽やかに動く。
戦馬はユナイテルに指示された通りに最も広く安全な空間を選択し、ユナイテルは大きく重いロングソードを鋭く突き出した。
ゴブリンが頭頂部を潰され絶命する。意識を失うまでほとんど痛みがなかったはずだ。
「む」
兜の下で、鮮やかな紅の瞳が光る。
「ペル殿!」
光の矢がユナイテルの近くを駆け抜け、木々の間をすり抜け、主戦場に気をとられハンターの別働隊に気づかなかったゴブリンを仕留めた。
「っと」
ペル・ツェ(ka4435)の上体が揺れる。
先程の空恐ろしいほどの技からは想像し辛い動きだが、やむを得ない事情がある。
「2人乗りは厳しいねぃ」
ペルを後ろに乗せた一刃(ka4882)が、両手で手綱をとって馬の制御に集中していた。決して馬術が下手な訳ではない。2人乗りでの戦闘に無理があっただけだ。
「そろそろです」
ユナイテルは、ざいというときは自分が盾になるつもりで先導する。
主戦場の戦闘音を聞きながら、速度は出しても決して焦らず、ゴブリンに遭遇した際はペルと共に確実に仕留め、兵士の別働隊がいるはずの場所まで到達した。
「騎士の旦那がなんでここに」
草に身を隠した兵士達が目を丸くする。
ユナイテルの技も装備も態度も理想的な騎士だ。ただ、身長が一般的なイメージの騎士より低い。
「旦……那?」
彼女の眉が鋭角を描く。
「まぁまぁ」
一刃がユナイテルを宥めてペルを下ろす。
ユナイテルは一度だけ小さく咳払いをして気を取り直し、命令の変更と兵士達に伝えた。
「了解しました」
「嬢ちゃ……」
「ボクは男だ!」
兵士はペルに対して深く頭を下げ、丁寧な口調で説明する。
「失礼しました。魔術を使われるのでしたらここが見つかり辛いです」
「ふん。弓での援護は失敗するなよ」
ペルは草で装備が汚れるのも気にせず身をかがめ、仲間と兵士の準備完了を待って詠唱を開始した。
「雲よ」
〆の言葉と同時に眠りの雲を出現させる。
彼等の二十数メートル先で、投石行ったりイコニア達の隙を窺っていたゴブリン20近くのうち半分以上が意識を失った。
「数だけは多いか……突撃します!」
ユナイテルが林から出て加速する。
ゴブリンをまとめて吹き飛ばす威力はないけれども、全身金属鎧に戦馬という組み合わせは迫力十分で、なにより狙って敵に容易に近づける。
ユナイテルが弓兵を狙おうとするゴブリンを仕留め、ペルが再度の雲で敵後衛を事実上無力化する。
「ペル君に美味しいところをとられたでござるよぅ」
悪気なくからかうような言葉を残し、一刃は飄々と馬を駆る。
意識を失ったゴブリンを無視して前に進むと、無防備に背中を晒した小鬼が見えてくる。
春樹が剣に持ち替える。イコニアや兵士達と呼吸をあわせ、白兵武器を振り上げ一斉に仕掛けた。
数はゴブリンの槍の方が多く、そのままぶつかればイコニアあたりが重傷以上の傷を負っただろう。
「ほい」
虎徹がゆっくりと振るわれる。
一刀の呼吸は戦場でも平静で指先から頭の天辺まで動きが正確だ。虎徹の切っ先をゴブリンの背中に突き入れ複数の臓器を破壊した。そのまま骨には当てず柔らかい部位だけ切り裂き一歩下がる。
ゴブリンは何が何だか分からないまま、背中から血を吹き出して地面に倒れた。
兵士達がゴブリンにぶつかる。
ゴブリン槍隊は一刀が気になり全力が出せず、一刀の側に押し出されていった。。
「ちょっと数が多いねぃ」
後ろから攻めることに罪悪感はない。ここは試合場ではなく戦場。あらゆるものを用いて戦う生存競争の場所なのだから。
「いくよ!」
リューリの近くから兵士達が離れ、ボロフグイが残像で円を描く。
ゴブリン手製の木製槍が砕かれ宙に舞った。
『林ニ逃ゲッ』
ゴブリンの1体が、首を裂かれて言葉を中断させられる。
「逃がすとでも、思ってるかぃ?」
一刃は蔑みも驕りもせず、逃げようとするゴブリンに対して淡々と刃を送り込む。
単なる幸運により素早く反応できたものもいたが、一刃は体内の気を巧みに運用してゴブリンを上回る速度で動きを封じる。
そこへ槍、鞭、剣が振り下ろされ、兵士達が苦戦したゴブリン部隊があっけなく止めを刺された。
「もうすぐ目を覚ますよ!」
リューリがよく通る声で警告する。
光の矢で寝ぼけ眼のゴブリンを仕留め、弓兵にも手伝わしていくが処理が間に合わない。
「もう1発!」
セイクリッドフラッシュが容赦なく睡眠中ゴブリンを仕留める。
効果範囲外のゴブリンには薄く鋭い刃が飛来して、単なる眠りから2度と覚めぬ眠りに誘う。
那津人は予備のチャクラムを取り出そうとした時点で、急に静かになったことに気づく。イコニアが鼻息粗く次の獲物を探しているのに小柄な人型は1つも動いていない。
勝利の実感が全身を駆け巡る。満足げに息を吐き、那津人は静かに刃をおさめるのだった。
●ゴブリン
わん、と十数度目の合図が送られた。
春樹が距離を詰める。
粗末な手やりを持つゴブリンが逃げようとするが、背中から心臓を撃ち抜かれて倒れた。
「うへぇ」
兵士がと柴犬を見上げるような目で見る。
「すごい犬っすね」
「疾風と違って無理はさせられないですけどね。コロマル、まだいけるかい?」
柴犬はうなずきかけて止まる。
ふんふんと鼻を鳴らし、今度は大きな声でわんと鳴いた。
「ゴブリンは排除できたみたいです」
兵士は口笛を吹いて死体を引きずり、春樹は愛犬と一緒に兵士を警護する。2人と1頭で戦場跡に戻ると、丁度簡易の葬儀が終わったところだった。
穴が掘られて死体が寝かされ、その上から土が被せられていく。
「何があったのかしらね」
セリスが肩をすくめる。途中通った村での反応がかなり凄かった。速度が出ていなければ卵の1つか2つぶつけられてもおかしくなかった。
イコニアの目が潤む。
「この信仰こそ私の……」
ちらりと少女司祭を見る。
「私達の生きる道、憎まれようと、恨まれようとも、エクラの教義は寛容の心。全てを受け止める覚悟よ」
2人のエクラ教徒が心を通わせた瞬間、雑魔が見えたという言葉が聞こえた。
しんみりした空気は消え失せ、ゴブリンが見たら命乞いしそうな目つきで聖導士達が敵を探す。
「嘘だよ、うそ」
壱が種明かしをして楽しげに笑う。
セリスはやっぱりと苦笑し、イコニアは顔を真っ赤にしてぷるぷる震えていた。
笑い声がますます大きくなるが、実は壱は楽しんではいない。
道中の村人の態度から何が起こったか推測し、イコニアが鬱々としないよう彼なりの方法で力づけただけだ。
何もしてねー奴らが偉そうにしやがってと、返り血と自身の血でまみれたイコニアを見ながら内心毒づいていた。
そこから少し離れた場所には、埋葬前の死体が並べられていた。
リューリがゴブリンの武器と血塗れの毛皮を注視している。
用いられている技術は拙い。共通の紋章がある訳でもない。それでも、同程度の技術の持ち主数人が作ったことくらいは分かる。
「何か分かったかねぃ」
林にある茂みが揺れて一刀が姿を現す。
微かな血の気配は、死ぬ直前の生き残りに尋問した結果だろうか。
「小部族未満が全員で移動」
「全く否定できないねぃ」
一刀が深くうなずく。ゴブリンにしては仲間意識が強く、尋問相手も予想以上に気合いが入っていた。なのに装備は平均的ゴブリンより下だった。
「戦闘が移動のための手段に見えた。危険を避けるために拠点を捨てた残党?」
「北から何かが来るかもしれないってことことかねぃ」
一刀達の言葉に兵士達の手が止まる。顔を見合わせ、深刻な表情で埋葬作業を続けていくのだった。
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依頼相談掲示板 | |||
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相談処 ペル・ツェ(ka4435) エルフ|15才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/05/20 21:46:44 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/16 15:10:09 |