• 聖呪

【聖呪】リインカーネイション

マスター:藤山なないろ

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
多め
相談期間
5日
締切
2015/05/20 22:00
完成日
2015/05/31 18:57

このシナリオは5日間納期が延長されています。

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●リインカーネイション

 それは、数年振りの激しい雷雨が王都を襲った日の出来事だった。
 街の人は皆嵐を恐れ、窓を閉じ、戸を閉じ、門を閉じ、家の中でそれが過ぎ去るのを待っていた。街路から人気は失せ、王都でもこんなに静まりかえる時間があるのだな、などとどうでもいいことに考えを巡らせていたことを今も覚えている。
 端的にいえば、その時の私には生きるつもりがなかった。王都の外れのスラムのような場所で、城壁建造のため積み上げられた建材に凭れかかって、私はただ呼吸が止まるのを待っていた。それだけだったのに。“嵐”は唐突に、やってきた。
『おーおー。えらい美人だな、お前。何してんだこんなとこで?』
 衣服と言い難いボロ布を纏い、むき出しの素肌は塵や垢に塗れ、汚れて痩せ細った子供の姿は見るに堪えなかっただろう。なのに、男は淀みない声で私の前に膝をついた。それが、私と“康四郎”の出会いだった。あの時は会話にすらなっていなかったと思う。かけられた言葉に応じるでもなく、虚ろなまま視線を動かすこともしない私を見て、後に“父”となる男はこう言った。
『お前さん、エルフか? どうりで美……』
『……違う』
 何を話しかけられても無反応だった私が、ある言葉にだけは反応を示した。そのことに男は目を丸くし……やがて、雷雨に好き放題させているずぶ濡れの私へと自分がさしていた傘を差しだした。
『そうか、そりゃ済まなかったな。お前、一人か?』
『……』
『何にもなけりゃ、うちに来い。あったかい飯と風呂くらいは“ついで”にくれてやる』
 再び黙り込んだ私を見かね、男は逡巡する。しかし何を思い立ったのか、突然私を抱きかかえた。想定外のことに頭が真っ白になる私は、たった一つだけ反論の言葉を携えて男の顔を見上げた。
『なんの……つもり……』
『ははっ、まだ元気あんじゃねえか。なんのつもり、か。そうだな……』
 男はそのまま王都の中心街へ向かって歩いていく。私を抱えるために、さしていた傘を放り捨てて。痩せ細った私の体重があまりに軽いことに気付いたのだろうか。抱き上げた瞬間、眉根を寄せた男の顔が忘れられなかった。
『お前みてぇなガキに死なれんのは、寝覚めが悪い。それだけだ。尤も、美人じゃなかったら声は掛けなかっただろうがな』
 そう言う男に下卑たところは感じなかった。雷雨の湿度を吹き飛ばすカラッとした笑い声に絆されたのだろうか。私は抗うこともせず、黙って男に自分の先を委ねることにした。
 なぜか? 端から死ぬつもりでいたのだ。今さらもう、何だって良かった。



 王都第3街区。目抜き通りから離れた区画の外れに古びた洋館があった。
「朝食、出来てるから」
 洗いたての手をまっさらな布巾で拭い、エプロンを取って身支度する。
「いい匂いだな。今日の飯はなんだ?」
「……食べれば、解る」
「そりゃそうだ」
 エントランスホールの螺旋階段を気だるげに歩いてくるローブ姿の男は、階下の私を見下ろして笑う。
「アテナ、また出かけるのか?」
 その声色が一段と優しいから、私は振り返って男を──“父”を見上げた。
「……だめ?」
「んなわけねぇだろ」
 笑う父の顔。私は、その顔がどうしようもなく好きだった。
「ん。……遅く、ならない」
「気をつけてな。あぁ、そうだ。アテナ、俺はこの後北のパルシア村まで出かけてくる。今夜は戻れるかわからねえが、夜遊びすんじゃねえぞ」
「そんなの、しないし。……いってらっしゃい、康四郎」
 私の父──月坂康四郎は、王都の第3街区である商売をしている男だ。
 リアルブルーの東洋の名を持っているが、彼は生まれも育ちもここクリムゾンウェスト。彼の祖先がこの世界に来て以降、彼の血族はこの街で代々続く商売と由緒ある家名を受け継いでいるらしい。この世界の人間と交配を繰り返してきたわけだから、康四郎の顔立ち自体からリアルブルーの東洋人の印象を受けることはない。ただ、当人曰く「隔世遺伝なんだ」と自慢げに話す黒い髪と黒い瞳は、彼が自慢する通りにとても美しく、見ていると温かい気持ちになれるから大好きだった。
 私とこの男との間に血の繋がりはない。けれど、10年以上も前の雨の日、私を拾ってくれて以降、実の娘のように大切にしてくれるこの男を悲しませたくはないし、危険に晒すなどもってのほかだ。だからこそ、康四郎に拾われたのち、私に覚醒者の資質があると解った時は望外の喜びだった。
「仕事、ある?」
 私が訪れたのは、王都第3街区にあるハンターズソサエティのイルダーナ支部。
 先の黒大公襲撃の際、この街は脅威にさらされた。これまで安穏と暮らしてきた世界が、そして信じていた平和がまやかしであると突きつけられたような大戦だった。あの時の私はひたすらあの人を、あの家を、ひいてはこの街を守るために戦い続けた。あれから王都周辺で羊型歪虚の襲撃は激減し、治安も回復してきているように思える。だが、ここ最近気がかりな事があった。
「じゃあ、さっき緊急で届いたこれなんかはどうかしら」
「……また、ゴブリン」
 王国の北部、北東部、北西部を中心としてゴブリンの襲撃が激増しているのだ。依頼書の写しを持ち出し、受付のバニラ・シルヴェスターが私に手渡してくれる。その内容を熟読することしばし……依頼書の半ばで目が釘付けになった。
「パルシア、村……?」
 よくあるゴブリンの討伐依頼だ。だが、少女にとってその依頼が例外であったのは、そのゴブリン襲撃現場が「今朝がた愛する父が向かった村」であったことだった。

●聖呪

 父が愛娘の為に手に入れた名軍馬ゴースロンを駆り、少女──月坂アテナは平原を駆けた。道中に父の荷馬車は見つけられなかった。恐らく別のルートで向かっているのだろう。パルシア村へ到着した頃、既に村には王国騎士団や本件を受託したハンターの一団が到着していたようだった──が、雰囲気が、おかしい。
 王国騎士団副団長であり、青の隊を率いるゲオルギウス・グラニフ・グランフェルトの姿がある。あの狡猾な老爺が、なぜこんな僻地の村へ? 大群といえどゴブリンを相手にするのなら現場の騎士で十分なはずだ。少女の視線に気づいた老爺がじろりと視線を返す。が、視線の主が「取るに足らない」存在だと気付くと、男は興味の失せた様子でふいと視線を逸らした。
 この村に、何が起こってる──?
 その時、村の外から聞こえていた低い地響きが、大きな怒号に変わった。北から襲いかかってきたはずの軍勢が……突如、西にも出没したのだ。斥候の叫びが村を駆け抜ける。激突は間近い。気づいた少女は急いで本来の目的に着手する。手近な騎士を捕まえると、強い気迫で問い質す。
「荷馬車をひいた黒髪黒眼の3~40代の男、来なかった……?」
「いや、見てないが……」
 必死の聴取も間に合わず、轟く唸りを切り伏せるようにゲオルギウスによる出撃号令が響いた──。

リプレイ本文

「ゲオ……ゲギル……」
 ……なんだかもやっとするあの名前。それをうまく言えず、薬師神 円(ka3857)はむぅと口を尖らせる。やつあたりではないが、少女は町の中央を眺めながら小さな文句を漏らす。
「……ゲオ、なんとかって偉か人は号令だけ出して何ばしよっとかね」
 先ほどまでその辺り居た男──王国騎士団副長ゲオルギウスの"目"を思い出し、円は知らずに表情を硬くする。
「避難誘導だか何だか知らんけど、観察って感じがしてああいう目は好かんねー」
「ほんとほんと。それに、王国騎士団の副団長が居るってだけで十分きな臭いのに、挟撃とか勘弁してほしいよね」
 相槌と共にエルシス・ファルツ(ka4163)がついた溜息は、口調に反して深い。どう考えてもこんな僻地のゴブリン退治に王国騎士団のお偉方が出張る理由がわからない。絶対、何かの厄介事が起こっていて、自分がそれに巻き込まれようとしている──そうとなれば、自然と溜息も出たりするわけだ。
 同様に、違和感を覚えていたキヅカ・リク(ka0038)は、周囲を見渡した後で不思議なほどきっぱり告げる。
「この辺りに縁があるなら気を付けて。今なら何が起きてもおかしくないから」
 少年の隣には、大ぶりの馬上槍を携えた小柄な少女──月坂アテナがいた。少女は一切動じることなく、
「“私個人”に、縁はない」
 と言い切ったが、ややあってこんな言葉を付け足した。
「けど……ありがと」
 そこへ周囲の警戒気味な空気を知ってか知らずか、純粋に気合いを入れる少年が一人。
「今度はゲオルギウス副団長が! これは敗北と言う失態は見せられませんね!」
 可視化できそうなほど十全な気迫で唸るレオフォルド・バンディケッド(ka2431)。そんな少年を見守りながら、ヴァルナ=エリゴス(ka2651)は苦く笑う。
「戦い続きで王国騎士団の皆さんは息つく間がありませんね。それにしても……」
 パルシア村の北から襲撃してきた大軍勢。そして直後に西へ現れた新たな軍勢。斥候の情報によればここへ到達するのも時間の問題だと言うが、それとは違う気がかりがある。先ほどエルシスが口にしていた“挟撃”という言葉がそれだ。
「ゴブリンが戦術を……? 何かが背後に居るのか、それとも」
 思案気なヴァルナをよそに、アーサー・ホーガン(ka0471)が準備運動とばかりにぐるりと肩を回した。
「ま、ひと暴れするには、丁度良さそうだな」
 大規模作戦は不完全燃焼で終わっちまったからな──不敵に笑い、アーサーは馬上から西方の平原を見渡す。
「実際、骨は折れそうだけど……」
 フラン・レンナルツ(ka0170)は白い指先で冷たい銃身を撫でる。未だ敵影ははっきり視認できないが、肌を刺す不穏な空気が徐々に濃密になってゆく。だから、少女は声を上げた。
「行こう。連中が、来る」



 ハンターらは、村の西方に現れた軍勢を正面と側面の二手に分かれて討つ──予定だった。
 結論から言えば、作戦は狙い通りとはいかなかったようだ。

 一つ、側面を狙い通りに取れなかったこと。
 『側面隊は騎乗し全力で敵集団に接近。側面を取り、敵を削る』──つまり、大きく迂回して相手の虚を突くように側面から突撃をかけるのではなく、敵に接近しながら側面をとるという作戦だ。敵は鎧を纏い、武器を駆使する程度に知恵を備えた亜人。ハンターが側面めがけて迫ってきていることが解っていて易々と側面を取らせることはない。敵の陣形は突破力重視。陣を組むということは必然そのメリットを理解しているのだろうし、その逆も然り。亜人どもは、ハンターの動きに対して策を講じたのだ。ハンターが突撃してくる側面に居たメイジはソルジャーと配置を交換。陣形はそのまま、ハンターたちの前には斧兵を中心としたソルジャーが固めて配置され、遠距離攻撃勢はその後ろに守られながら距離を詰めてくるハンターを射程の限りに“迎え撃った”。

 二つ、正面隊が敵軍勢に辿り着くまでの間に側面隊が半壊状態に陥ったこと。
 側面隊が敵軍に接近し側面を捉えた頃、騎兵の側面隊と歩兵を含む正面隊との間には、約200m近い距離が開いてしまっていた。当初、敵とハンターたちとの距離は500mあいていた。敵軍もこちらへ進軍してきていたとはいえ、陣を崩さず進むには「最も歩みの遅い者に合わせて進軍」せざるを得ない。敵軍はゴブリンメイジに合わせ、ゆっくり確実に進軍。対するハンターも進軍してくる敵勢との距離をつめてゆくのだが、かかった時間の分だけ歩兵を含む隊と騎兵隊の差は開く。そうして今、実際開いてしまった約200mの距離を埋めるべく正面隊は敵軍へと引き続き全力移動中だが、接敵にはあと"約1分半を要する"状況だ。言葉にすれば1分半とは大層短いものに思えるが、身体能力の高い覚醒者にとって、それは1人頭9回分の攻撃を畳みかけることができるほどの大きな時間だ。それはつまり、敵一体あたり9回分の攻撃を受けてしまうほどの時間でもある。側面隊のうち3人だけで──本来的には4人班ではあるが、フランは延ばした射程ぎりぎりから遠距離射撃を繰り出していたため、敵が狙えるのは実質3人である──敵軍全21体の攻撃を1分半の間、受けねばならない。もちろん殺せば殺しただけこちらの受けるダメージは手数的に減っていくのだが、これら2つの要因が最大の痛手となり得てしまった。

「じゃあ、いくよ」
 初撃──フランの制圧射撃は"そのまま4体のゴブリンを葬り去った"。僅か一瞬の出来事だった。圧倒的火力を以って放たれた銃弾は、亜人達を次々と穿ち抜き、文字通り「制圧した(というより永久的に黙らせた)」。結果はどうあれ目的達成で問題はない。
 そんなフランの銃撃に鼓舞されるように、側面隊の面々が突撃を開始。だが、全力移動で接近し、漸くゴブリンを間近に捉えたヴァルナ、リク、アテナは、またも"迎え撃たれた"のだ。
 彼らが接近した直後、次の攻撃手までの隙をついて敵軍が側面隊へ総攻撃を仕掛けてきた。遠距離攻撃勢による矢の雨が物理か魔法かを問わず大量に降り注ぎ、その雨に崩されたところを前衛の亜人が斧で切り込んでくる──それらの集中砲火は、武器射程の都合で最も敵に接近していたヴァルナを中心に向けられてしまう。
「この程度……!」
 降り注ぐ矢の数本は受け切った。だが、受けるためにできた隙へと斧兵の斬撃が叩きこまれる。急所を突かれて体勢を崩した少女は、そのまま頭を狙われた。容赦なく振り下ろされる斧を懸命に身を捩ってかわし、けれど交わした先で今度はまともに追撃を浴びてしまう。
 壮絶な攻撃の中、他方でナイトが狙ったのはリクだった。隊列による位置関係が、運よくヴァルナを救ったのだ。
 ラプターに跨り、粗暴そうな瞳をぎょろつかせた亜人。その腕から、巨大な戦斧が驚異的な速さで振り下ろされた。息をのむ少年がその痛みを覚悟した瞬間──刃とリクの間に、僅かに光が輝く。恐らくそれがなければ、受けたにもかかわらず "一撃で体力の半分を持っていかれていた"だろう。
 ──エイルさんには、助けられたな。
 少年は息を吐き、頭をクリアにして前を見据える。
 ここから、ハンターたちの怒涛の反撃が始まった──。

「将を射んと欲すれば……などと申しますから、ね」
 全ての力を注ぎこんだヴァルナの剣撃は、クリティカルに敵の首を撥ね落とす。弓兵はどうと大地に倒れ伏し、ヴァルナがあけた敵陣の穴へと今度はアテナが飛びこんだ。少女が大振りの槍をぶん回せば、一挙3体のゴブリンが完全沈黙する。
「……リク」
「解ってる」
 呼応した少年が、聖剣を握りしめる。剣を握る手から目に見えて迸るマテリアル。剣の切っ先へと集約してゆくエネルギーは、やがて赤々と燃える力に変換されゆき──
「焼き尽くせ……ッ!」
 ファイアスローター──振るわれた渾身の一閃、剣の先に渦巻いていた炎が放たれ、刹那に一帯を飲み込んでゆく。さらに炎は、亜人どもを包み込んだ瞬間、一層勢いを増した。凶悪なまでの一撃。炎は、炭化した4体の亜人の遺体を置き去りにして平原から消え去った。そうして残ったものは、前後に分断された敵軍勢──残り、9体。
 フランは最大射程より、ナイトの駆るラプターに照準を合わせる。
「キミはどこまで、耐えてくれるのかな」
 フランの圧倒的な火力は健在。だが、それは寸でのところでナイトに阻まれ、騎手の足を穿つ形となった。余りの衝撃に絶叫する亜人。その声は呪いめいた響きを伴って戦場に木霊したかと思うと、亜人は示し合わせたかのようにある対象へと照準を合わせた。その先に居たのは魔法発動直後のリクだった。
「……ッ」
 少年がその戦いにおいて最後に記憶しているのは、次々に降り注ぐ矢雨の中、再び立ちはだかった大柄の亜人と、妖しく輝く戦斧の刃。直後、斧が閃き──そのまま、リクの体は意識ごと吹き飛んだ。

 それからしばし、側面隊に大きな損害を出しながらも、敵はナイト1体を残すところまで迫っていた。側面隊がたった4人で大方のゴブリンを片づけたのだ。だが、体力的に消耗した部隊が相手にするには、ゴブリンナイトは"過ぎた"相手だった。地に倒れ伏したリクと、ぎりぎりで意識を保つヴァルナを庇っていたアテナも、その小さな体は既にぼろきれのようだ。垂れる血が視界を隠さないよう、アテナが目の周りを拭った時……少女が見たのは"見慣れた一台の荷馬車"だった。
 突如、アテナが戦線を離脱。しかし、そこへ遂に正面班が到着した。アテナと入れ変わる形でハンターたちが戦闘に次々乱入していく。
「戦えねぇ奴の代わりに体張るのが俺の仕事でな」
 ヴァルナめがけて振り下ろされた戦斧を、寸でのところで滑り込んで受けたのはアーサー。
「アテナ! 早く荷馬車を安全な場所にっ!」
 アテナとナイトの間を塞ぐように滑り込むエルシス。彼女の声に一度振り向くと、アテナは小さく頷いてそのまま駆けてゆく。
「焦らず立て直すわよ。だから、まず傷を癒しましょ」
 ラブリ”アリス”ラブリーハート(ka2915)が精神を集中。ややあってヴァルナの体を柔らかな光が包み、傷を徐々に癒していった。
「アテナさんが馬車に向かったのには何か理由があるはずだ!」
 馬上よりクラウンナイツを構え、マテリアルを集中。レオフォルドがラプター目がけて渾身の一撃を振り下ろした。少年は多量の返り血を避けるように身を翻すと、今度はエルシスがたたみかける。
「アンタの相手はこっちだ!!」
 健脚を駆使した立体的な動きは、ラプター上のナイトの意識を撹乱。その虚を突いて白銀の刃がレオフォルドの裂いたラプターの足を両断する。走竜の嘶き──そして崩れ落ちると同時に騎手が大地に投げ出された。人ならざる身体能力で即座に態勢を取り繕うも、状況は理解できていたのだろう。亜人の捨て身の一撃──雄叫びをあげてアーサーへ襲いかかってゆく。
 だが、相手が悪かった。
「悪いが、黙って通すわけにはいかねぇ」
 凶悪なまでのダメージをなんとか飲み込んで、アーサーが刃を弾き返すと亜人の体が傾いた。
「亜人さんにも事情ばあったかもしれんけど、しょんなかよね」
 ぽつりと呟く円。けれど接近する足は止めないまま六角棍を構え、そして──
「こいで終了。村には手ば出させんよ」
 ゴブリンナイトの喉元へ繰り出された打突。こうして、戦いは幕を引いた。



 辛くも勝利を得たハンターらは、周囲に亜人の気配がないことを確認すると漸く息を吐いた。
「アテナさん、無事やとよかね……」
 円は、心配そうに村の方角を振り返った。あちらは今、どんな状況だろうか。
「ええ。それに、リクさんを休ませた方がいいわ。まずは村へ行きましょう」
 真っ先にリクへ駆け寄って治療を施していたラブリだが、今この場では十分な処置が施せないのだろう。アーサーは首肯し、グレートソードを納剣。まだ暴れたりないと言った体で口角を上げた。
「村に亜人が残っていりゃ、それも対処しなきゃならんだろうからな」

 激闘の合間に、村は一端の静穏を取り戻したようだった。未だ村人の空気はひりついているが、大きな損害は見受けられない。戦いの気配もなく、落胆しかけたアーサーの目に一台の荷馬車が映った。
「あいつ……こんなところに居たのか」
 馬車の御者台付近にはアテナの姿もある。
「どうやら無事だったみたいね」
 気付いて傍へやってきたラブリがアテナと御者の男に向かって声をかけた。当の少女はハッとした様子でハンターらに向き直るも、どこか居心地が悪そうだ。恐らく、勝手に抜けたことを申し訳なく感じているのだろう。
 だが荷馬車とアテナの安全を確認したエルシスは、そんな少女の心細さを吹き飛ばすように気持ちのいい微笑みを浮かべる。
「良かった良かった。心配してたんだよ?」
 予想外の反応だった。彼女の笑みが余りに暖かかったから、思わずどうしたらよいのかわからず気後れしてしまう。意を決し、素直に礼を言いかけた時──
「あ、りが……」
 当然の叱責がそれを遮った。
「アテナさん、どうして馬車に向かったんですか? 理由を教えてほしいです」
 レオフォルドは真っ直ぐ少女を見つめるが、対するアテナは唇を引き結び、悲しそうな眼をしていた。
「理由。……キミは、子供とか、お年寄りとか……誰かが戦場に迷い込んだとしても……助けたり、しない?」
 しかし、戦場において周囲の理解も得ずに離脱すれば仲間を危険に晒す可能性もある。
「でも、隊列が崩れたんですから一言ごめんなさいは言った方が良いですよ」
「ん、そだね……ごめん」
 アテナは迷惑をかけてしまったハンターたちに頭を下げる。だが、難しい顔をしていたラブリが少女の行動を制した。
「私は別に、謝って欲しいわけじゃないわ」
 唐突に、ラブリはアテナの手を取った。掌からじわりと温かな何かが伝うと、やがて光のマテリアルが輝きを見せ、アテナの傷が癒え始めていく。
「なんで……」
「一緒に戦った仲間だもの。当然のことよ。仲間が何かを守りたいのなら、それを支援することもね」
 ちら、とラブリが視線をやると、御者台に居た男が黒髪を掻きながらやってくる。“促された”ことを理解したのだろう。
「俺は月坂康四郎ってんだ。コイツの父親だ。あの時は俺の馬車と解って、ムキになっちまったんだろ。……迷惑かけた、すまん」
 男は娘の頭に躊躇なく拳骨を落とすと、呻き声をあげて蹲るアテナをよそに、人好きのする笑みを浮かべて礼を述べた。
「マジな話、あんたらのおかげで命拾いしたよ。ありがとな、感謝するぜ」
 その隣で父を見上げて微笑むアテナに、円は頬を緩めてこう言った。
「しっかし、アテナさんはむぞらしかオナゴなぁ」

 こうして、パルシア村の亜人襲撃騒動は一端の収束を迎えようとしていた──。

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MVP一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸ka0038
  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガンka0471

重体一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸ka0038

参加者一覧

  • 白き流星
    鬼塚 陸(ka0038
    人間(蒼)|22才|男性|機導師

  • フラン・レンナルツ(ka0170
    人間(蒼)|23才|女性|猟撃士
  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガン(ka0471
    人間(蒼)|27才|男性|闘狩人
  • 未来の騎士団長
    レオフォルド・バンディケッド(ka2431
    人間(紅)|16才|男性|闘狩人
  • 誓槍の騎士
    ヴァルナ=エリゴス(ka2651
    人間(紅)|18才|女性|闘狩人
  • ハートの“お嬢さま”
    ラブリ”アリス”ラブリーハート(ka2915
    人間(紅)|16才|女性|聖導士
  • 明るく優しく
    薬師神 円(ka3857
    人間(蒼)|15才|女性|闘狩人
  • 不撓不屈の黒き駒
    エルシス・ヴィーノ(ka4163
    人間(紅)|24才|女性|疾影士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 勝手に思った疑問点
鬼塚 陸(ka0038
人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2015/05/17 21:09:46
アイコン 相談卓
鬼塚 陸(ka0038
人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2015/05/19 23:29:55
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/05/15 22:24:15