ゲスト
(ka0000)
「俺がスライムだ!」byスライム
マスター:御影堂

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/24 12:00
- 完成日
- 2015/05/29 05:17
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
王国内の地方都市。
平穏を保っている街で、一つの噂が流れていた。
「スライムが出るらしい」
とるにたらない雑魔の一つ。
対処さえ間違えなければ、被害は最小限に抑えられる。
だが、そのスライムが、積極的だとしたらどうだろうか。
「夕闇に出歩かない方がいい、襲われる」
「裏路地が危ない。上から奴らは現れる」
「いや、家の中に入ってきたこともあるらしい」
まるで知恵があるように、ひと目の少ない場所に現れる。
目撃情報は多いのに、その尻尾を捕まえることができない。
神出鬼没のスライムである。
「おまけに……さ」
噂好きの奥様方は、スライムに過敏に反応していた。
無理もない。スライムは彼女たちの懐事情に、打撃を与えるのだ。
「そうそう、聞いたよ。金を要求してくるんだろう?」
「人の言葉を喋るなんて……気持ち悪いわね」
「ミランダさんも狙われたらしいわよ」
ミランダという女性は、買い物帰りに遭遇したという。
時刻は黄昏時、街灯の少ない路地裏での出来事である。
目の前に現れた、奇妙な物体。
ぬめっとした体液を散らしながら、そいつはミランダへと近づく。
悲鳴を上げるより先に、後ろからもぬめっとした物体が近づいていた。
「俺たちは……スライムだ」
「腹が減っている」
それを聞いたミランダは自分が食べられると思ったらしい。
身をすくませて、動けなくなった。
スライムは、次に意外なことを告げた。
「我らが食うべきは……金」
「金を渡せば、喰らいはしない」
「か、金……?」
怪訝そうにミランダはつぶやいたが、ぬるりと膝裏をスライムの身体が撫でる。
混乱した彼女は、スライムへと投げつけるように持っていたものを全て落としていった。
「金だ……金だ……」
「金だ……金だ……」
スライムが落ちたものへと向かうのを見て、ミランダは慌ててその場を去った。
なにかおかしいと気づいた時には、路地裏には何もなく、ぬめりのある液体が落ちているだけだった。
やはり、あれはスライムなのではないか。
「というわけなのよ」
「そんなスライムなんて……怖いわね」
奥様方が盛り上がる中、じっくりと話を聞いていた男がすっと立ち上がった。
男の名前は、スライ。
奇妙なスライムを追いかけ続け、東へ西へと旅をする。
自称スライム博士だ。
この街に、新手のスライムが出ると聞いてやってきたのだが……。
「とんだ眉唾ものだな……」
心底面白くなさそうな顔で、スライは歩き出す。
とてとてと後ろから、一人の少年が歩み寄ってきた。
「はーかーせー! 噂拾ってきましたよー」
「ムームーくん。悪いがこの街での調査は、もう必要なくなった」
「え?」
黙したまま、スライはハンターオフィスへと向かう。
スライムを愛する男からすれば、此度の一件、看破などたやすい。
「スライムを騙る畜生には、お仕置きが必要じゃな……くっくっ」
あまり見せない表情に、ムームーも押し黙る。
スライは怒りの表情を見せていたのだった。
●
「スライムはね。静かで……どこか救われてなければならんのじゃい」
「はぁ」
「理解は求めておらんぞい」
オフィスを訪れたスライは、早速、事の次第を報告した。
そのスライムの一件は、すでに自警団を通して聞こえているという。
「無論、人じゃ」
スライの見立てでは、スライムに見せかけた賊という。
それはオフィスの側でも感じ取っていた。
歪虚の侵攻や策にしては、雑過ぎる。
「いずれにせよ、雑魔ならそちらの領分じゃろう? くっくっく」
意地の悪い笑みを見せる。
「そうですねぇ」
スタッフも困った顔で、呟き返す。
「雑魔なら、きちんと処理しないといけませんから」
二人の笑い声を聞きながら、ムームーは小首を傾げて出されたジュースを飲んでいるのだった。
王国内の地方都市。
平穏を保っている街で、一つの噂が流れていた。
「スライムが出るらしい」
とるにたらない雑魔の一つ。
対処さえ間違えなければ、被害は最小限に抑えられる。
だが、そのスライムが、積極的だとしたらどうだろうか。
「夕闇に出歩かない方がいい、襲われる」
「裏路地が危ない。上から奴らは現れる」
「いや、家の中に入ってきたこともあるらしい」
まるで知恵があるように、ひと目の少ない場所に現れる。
目撃情報は多いのに、その尻尾を捕まえることができない。
神出鬼没のスライムである。
「おまけに……さ」
噂好きの奥様方は、スライムに過敏に反応していた。
無理もない。スライムは彼女たちの懐事情に、打撃を与えるのだ。
「そうそう、聞いたよ。金を要求してくるんだろう?」
「人の言葉を喋るなんて……気持ち悪いわね」
「ミランダさんも狙われたらしいわよ」
ミランダという女性は、買い物帰りに遭遇したという。
時刻は黄昏時、街灯の少ない路地裏での出来事である。
目の前に現れた、奇妙な物体。
ぬめっとした体液を散らしながら、そいつはミランダへと近づく。
悲鳴を上げるより先に、後ろからもぬめっとした物体が近づいていた。
「俺たちは……スライムだ」
「腹が減っている」
それを聞いたミランダは自分が食べられると思ったらしい。
身をすくませて、動けなくなった。
スライムは、次に意外なことを告げた。
「我らが食うべきは……金」
「金を渡せば、喰らいはしない」
「か、金……?」
怪訝そうにミランダはつぶやいたが、ぬるりと膝裏をスライムの身体が撫でる。
混乱した彼女は、スライムへと投げつけるように持っていたものを全て落としていった。
「金だ……金だ……」
「金だ……金だ……」
スライムが落ちたものへと向かうのを見て、ミランダは慌ててその場を去った。
なにかおかしいと気づいた時には、路地裏には何もなく、ぬめりのある液体が落ちているだけだった。
やはり、あれはスライムなのではないか。
「というわけなのよ」
「そんなスライムなんて……怖いわね」
奥様方が盛り上がる中、じっくりと話を聞いていた男がすっと立ち上がった。
男の名前は、スライ。
奇妙なスライムを追いかけ続け、東へ西へと旅をする。
自称スライム博士だ。
この街に、新手のスライムが出ると聞いてやってきたのだが……。
「とんだ眉唾ものだな……」
心底面白くなさそうな顔で、スライは歩き出す。
とてとてと後ろから、一人の少年が歩み寄ってきた。
「はーかーせー! 噂拾ってきましたよー」
「ムームーくん。悪いがこの街での調査は、もう必要なくなった」
「え?」
黙したまま、スライはハンターオフィスへと向かう。
スライムを愛する男からすれば、此度の一件、看破などたやすい。
「スライムを騙る畜生には、お仕置きが必要じゃな……くっくっ」
あまり見せない表情に、ムームーも押し黙る。
スライは怒りの表情を見せていたのだった。
●
「スライムはね。静かで……どこか救われてなければならんのじゃい」
「はぁ」
「理解は求めておらんぞい」
オフィスを訪れたスライは、早速、事の次第を報告した。
そのスライムの一件は、すでに自警団を通して聞こえているという。
「無論、人じゃ」
スライの見立てでは、スライムに見せかけた賊という。
それはオフィスの側でも感じ取っていた。
歪虚の侵攻や策にしては、雑過ぎる。
「いずれにせよ、雑魔ならそちらの領分じゃろう? くっくっく」
意地の悪い笑みを見せる。
「そうですねぇ」
スタッフも困った顔で、呟き返す。
「雑魔なら、きちんと処理しないといけませんから」
二人の笑い声を聞きながら、ムームーは小首を傾げて出されたジュースを飲んでいるのだった。
リプレイ本文
●
「なるほどのう。出入口はここと反対側しかないわけじゃな?」
レーヴェ・W・マルバス(ka0276)は、関所の衛士にそう問いかけた。
ここは、堀と人一人分程度の城壁に囲まれた地方都市。
王国の中でも比較的治安がいいとされる場所だ。
「出入りする商隊について聞きたいのじゃが、詳しい者はいるじゃろうか」
レーヴェの問いかけに、衛士は台帳を管理している者を紹介してくれた。
役場のような場所らしく、レーヴェたちも着いた時に寄っていた。
「ふむ」
記録されているのであれば、話は早い。
レーヴェが街の中心部へと戻る途中、ユルゲンス・クリューガー(ka2335)を見かけた。
クレナ(ka0451)たちと聞きこみを行なっているようだが……。
「目立っとるのう」
その姿は、目立っていた。
レーヴェにそんなことを思われているなど、つゆ知らず。
ユルゲンスは、全身鎧を隠すため更にフードやマントを探していた。
「時に主人、最近この街で妙なスライムが出ると噂に聞くのだが……」
「あぁ、俺は見たこたぁねぇんだがな」
話を聞く限り、やはり女性を中心に狙っているらしい。
ときおり、老人や子どもが目撃したという情報もある程度だ。
「ふむ」
「ほれ、ちょうど、あそこに溜まってる連中なら一人くらい見たんじゃねぇか?」
主人の指差す先に、奥様方のしゃべり場があった。
買い物した物品をかごに入れ、たくましくお喋りに興じている。
「鵤(ka3319)に任せるか」
甲冑の中でぼそりと呟く。
視線の先で、奥様方に負けじ劣らず、飄々と会話に混ざる男がいた。
「何それこわぁーい。どの辺とかにでる感じぃ?」
旅人風の彼に、喋りたがりの奥様方はどんどん情報を漏らす。
誰それがどこで見ただの、どんなことがあっただの。
「もう怖くて仕方なかったわ。おかげで銀貨を食べられちゃったけど」
「それは大変でしたねぇ」
にへらっとした態度を崩さない鵤だが、内心の眼光は鋭い。
(ほーん……こりゃ偽物だわな)
偽物ならば、話題を転じて幅広く情報を集めなければならない。
「旅してるとさぁ、歪虚もそうだけどカツアゲやオヤジ狩りマジ怖いのよねぇ」
鵤が話題を変えている頃、クレナはふらりと通行人に声をかけていた。
「なるほどなぁ。そないなことになっとんやな」
誰かれ構わずではなく、きちんとあたりをつけていた。
そいつは明らかに、女性の動向を観察していたのだ。
「旅人的には気になる話や。兄さん、その話もっと詳しく聞いてもエエか?」
「すまねぇが、急いでるんだ。他をあたってくれ」
食い下がろうとしたクレナを振り切るように、男はそそくさと去っていく。
「あの兄ちゃん、どうも動きがおかしいわ……多分当たりやな」
「そうか?」
「あんたも仲間やなかったら、目立って怪しいで」
自覚あるユルゲンスは、すっと布を強く覆い直すのであった。
「人語を喋るスライムとか、まじウケるわー。なぁ、クレナの嬢ちゃん」
「ほんまや。人語を話すスライムなぁ。こりゃー一匹捕まえて、実験動物として」
冬樹 文太(ka0124)に話を振られ、クレナはうひひと怪しく嗤う。
表情は読み取れないが、ユルゲンスが素で言う。
「いや、内容から察するに敵の正体はスライムでは無かろうよ」
わかってるってと文太は軽く笑った。
「さて、報告やな」
先手を取ったのは、文太だった。
彼はクレナや鵤が目撃情報を追っている間に、現場を訪れていた。
「こういうとこの詰めで、大体どんなやつか分かるもんやな」
わずかに、粘液らしきものを見つけ採取したのだ。
それを露天商などに聴きこんだ結果、辺りをつけようとしたのだ。
「にかわじゃないか、ということやね」
にかわとは、動物の骨などを使って作られるゼラチンの一種である。
特徴、臭い。
「肉を取り扱う業者に聞いたら、廃棄するならくれないかという奴がいたらしい」
画家へ売るのに使うといわれ、怪しむことなく渡したという。
しかし、業者は若い男という特徴以外覚えていなかった。
「悪い子のしわざなら、きっとアジトがあるの」
佐藤 絢音(ka0552)がおもむろに発言する。
どこかの本で、アジトから円状に被害が出るのだと見たのだという。
「アジトと言えば……」
ふとレーヴェが台帳の写しを見せた。
この街の出入りの記録だ。その1点を指出して告げる。
「こいつらがスライム出現の3日前から、現在にいたるまで滞在しておるようじゃ」
「画材を取り扱う商隊……?」
にかわといえば、絵に使うこともある。
長期逗留の理由は、この街の風景を描くためとあるが。
「でも、人数が少ないな」
大規模な事をするにしては、いささか頼りない。
「一応チェックしておくことに、越したことはないじゃろう」
その後は、目撃情報の整理になる。
同時に複数の場所で目撃されることは、何度かあった。
場所はわりとまばらだが、同時目撃時は街の反対側が多い。
「念のため三組でいくとこだねぇ」
「怪しいルートは押さえたから、そこを中心に行こか」
クレナが地図を開いて、作戦を示すのだった。
●
囮作戦は、日が傾きかけた頃合いに開始された。
ハンターたちは三組に別れ、それぞれ囮役と監視役で別れる。
「これくらいあれば、よってくるなの」
「……せやな」
文太は絢音の持ってきた5000Gを見て、苦笑する。
一人になったところで、人目につくように絢音はそれをポシェットにしまう。
「げんなま、なのよ」
ぱんぱんっとポシェットを叩く姿は、覚醒者に見えない。
幼い子供が、大金を持ち歩いていればスライムもどき意外も寄ってきそうだ。
もっとも、半端な者なら返り討ちだろうが。
「……っと」
手に持っていたトランシーバーに通信が入る。
他の組も行動を開始したようだ。
「……了解。俺んとこは」
視界の隅で絢音が路地裏へと進む。
続いて怪しげなのが2人入っていった。
視線を巡らせばそちらに視線をやりながら、コーヒーを飲む男もいる。
「3人てとこやな」
「ふむ……こちらも同じだ」
通信を終え、ユルゲンスは視線を動かす。
クレナが入っていった路地とは別の路地を注視していた。
案の定、何かを運ぶようにして二人組の男が隣の路地へ入っていく。
他に怪しい動きをしている者がいないか、露天の椅子に腰掛けて眺める。
「あんた、なにしてる人?」
「……今は、茶を頂いている」
自警団に話しかけられ、一瞬気が散ってしまった。
その間に、路地裏ではクレナがスライムと出会っていた。
「ほほぅ、人語を話す雑魔。こりゃーいい実験体になりそうや」
メガネを光らせて、ぶつぶつとクレナは呟く。
「ほらー……怖くないでー……」
と何故かクレナがスライムに襲いかかるようなアクションを見せていた。
「痛いのは……あんまりせぇへんからなー」
最初のうちは、と存外に意味を含ませて魔導ドリルに手をやる。
本来の動きを忘れかけ、スライムがむしろびびる側になっていた。
「あかんあかん。うわー、こわーい」
何とか自制しドリルを止めて、頭を振る。
「お、お金を置いてけ?」
「お、置いてけ!」
本来の目的をスライムも思い出したのか、今一度強気に出る。
ほいほい、とビビるふりをしながらクレナは小銭を投げるとうそ臭い悲鳴を挙げて退場した。
「動いたか」
ユルゲンスもまた、監視対象が動き出したのに合わせて立ち上がる。
お代を素早く支払うと、小声で説明した自警団員から離れる。
「さて、当たりだとよいが」
「あーれー、たすけてー……」
スライムに襲われレーヴェは小銭を落とす。
今の彼女は非武装の、かよわい、少女を演じていた。
「わざとらしかったかの」
いささか棒読みだったが、きっとか弱く見えたことだろう。
真偽の程は、闇の中に葬り去ったほうが良い。
とりあえずの判定はOKである。スライムは小銭を奪ってさろうとしていた。
中から、人が出てくるところまでばっちりだ。
「まったくじゃ……今から追いかける」
相方の鵤に告げて、尾行を開始する。
どうやら合流地点を決めているらしく、大通りに出てしばらく行った所で立ち止まった。
が、相手役がこないらしい。
何やら話し合っている姿が見えた。
「……?」
レーヴェがその様子を訝しんでいると、鵤から通信が入った。
「こっちは徒党を捕らえたぜ」
「……いや、合流しなかったら怪しまれるのじゃが」
どうやら鵤は、監視していた対象が動き出したと同時に捕まえにかかったらしい。
拳銃を突きつけ、
「ちょっとそこのお兄さん? カツアゲするスライムもどきとか興味ない? そう、おたくらみたいな」
とドストレートに捕えにかあったらしい。
逃げ出しかけたので、威嚇を含めて即発砲。
サイレント式のため、レーヴェはもとよりスライムもどき役も気づけなかった。
この一報が入る少し前、文太は絢音のことが気がかりだった。
というより、彼女のトランシーバーからこんな言葉が聞こえてきたのだ。
「スライムさんは、お金食べるより、お仕事してご飯食べる方がいいの」
純粋な子供の意見である。何も問題はない。
「お金よりご飯の方が美味しいのよ?」
真っ直ぐな子供の意見である。何も問題はない。
でも、と絢音は続ける。
「かわいそーだからあやねのお金をあげるの。地に這いつくばって拾うといいの」
文太は聞かなかったことにした。
とてとてと絢音が去っていく音の後、スライムはひそひそと話し合っているようだった。
だが、結果的にお金を選ぶことにしたらしい。
「行くか」
文太は愛犬ゼノンを散歩させるフリをして、監視対象の跡をつける。
彼らはトランシーバーなどは持っていないらしい。
大通りで合流した所を目撃した。
「……おっと」
途中、絢音が犬に惹かれた体で合流した。
「あそこなのよ」
三人組が入っていったのは、あたりを付けていた小屋だった。
他の方向からも、戻ってくる影があった。
そのときである。
「少し事情が変わった。急いでアジトを抑えてほしいのじゃ」
合流した文太組とユルゲンス組へレーヴェから通信が入るのだった。
●
「必要な情報は手に入ったんだから」
「そうじゃが……まぁよい」
自警団に連絡をとった後、すぐにレーヴェたちもアジトへ向かっていた。
時間を決め、戻ってこなければすぐに逃亡する。
この小悪党は、そういう仕組で今までのらりくらりとやっていたらしい。
「包囲網は作らせたのじゃが……取りこぼしは避けたいのう」
アジトへたどり着くと、レーヴェと鵤は裏手へと回った。
ちょうど、裏口から出てきたチンピラAとBと鉢会う形のなった。
「おっと、通行止めだよぉ」
光でできた三角形を出現させ、チンピラどもを穿つ。
当てるのではなく、あくまで脅しとしてけん制する形である。
「……ふぅ」
鵤自身はたばこを吸いながら、じっくりと腰を据えていた。
隣では、レーヴェが的確に脚を狙い、氷結させていく。
「殺しはしない……が、死にたくないなら動かないことじゃ」
ぴしりと告げて、手を挙げさせた。
アジトの内部では、やや乱戦気味の状況となっていた。
前衛を務めるのはユルゲンスと絢音である。
「雑魔を語ったツケが回ったのだ。おとなしくお縄につくがいい」
手前にいた男へ素早く殴りかかり、追い落とす。
剣を使わないながら、無手でもそれなりに戦いになる。
が、全身鎧の男に無手で襲われる方が、ある意味恐怖のように思える。
「痛いけど、かわいいから大丈夫なの!」
覚醒状態の絢音が振るうのは、釘バットである。
だが、覚醒し魔法少女のような姿となった彼女が手に持てば、釘バットもファンシーに見える。
……多分。
「逃すかよ」
二人の後方では、文太が鉄色の魔導銃をチンピラへ向けていた。
威嚇するように、移動先を撃ちぬいて動きを止めさせる。
そこへ真打ち登場とばかりに、クレナがなだれ込む。
駆動音を派手にさせながら、魔導ドリルを振るっていた。
「なんや一般人相手に物騒なもん使てるなあ」
と銃口をチンピラに向けつつ、文太がクレナに近づく。
「大丈夫。脅しや、脅し」
そういいながら、クレナは近くにあった机を銀の大螺旋で粉砕する。
その切っ先を向けられ、男たちはおとなしくなった。
「雑魔の末路を身体に、教えこまんとな」
うひひ、という怪しい笑い声を漏らせば気の弱い者は崩れる。
「……そんぐらいにしとき。殺人犯のほうが質悪いわ」
「ほいほい」
雑魔の正体見たり枯れ尾花。ただの人間なら、実験体にもなりゃしない。
クレナが刃を退くと同時に、裏口からレーヴェ達が顔を覗かせるのだった。
●
「人数は間違いないねぇ」
「これで全員やな」
先に情報を得ていた鵤に確認を取り、文太は小悪党どもへ視線をやる。
合わせて11人が、部屋の中央で縄に巻かれていた。
「こちらが、自警団の団長じゃ」
レーヴェが連れてきた団長に、事情を説明して引き取ってもらう。
先に根回しをしてくれていたおかげで、スムーズに事は運んだ。
「今度はちゃんとしたお仕事するの」
釘バット片手に絢音が小悪党たちへ、反省をうながす。
一部、絢音を襲ったスライム役の二人が激しく頷いているのが気がかりだった。
が、文太はみなかったことにした。
「これがスライムの正体やね」
「まじまじと見ればちゃっちいのう」
クレナとレーヴェが見やったのは、アトリエスペースに置かれていたものである。
雑な一枚布で作られたスライムの皮と、にかわがつまった鍋である。
「本物だったら、実験に持って帰りたかったのに。残念や」
本当に残念そうにクレナはいう。
クレナを襲ったスライムの中の人は、ぞくりと背筋がしたとか。
「か弱い少女の私じゃったら、危なかったのう」
「か弱い?」
脚を狙われたチンピラが、その言葉に小首を傾げる。
レーヴェは演技じゃったからな、と軽く流した。
「とりあえず、これで一件落着だ」
ユルゲンスが、そう告げて締める。
こうして、人語を話すスライム(?)騒動は幕を閉じた。
だが、世の中は不思議に満ちている。
もしかしたら、どこかに本当に人語を話すスライムがいる……かもしれない。
「なるほどのう。出入口はここと反対側しかないわけじゃな?」
レーヴェ・W・マルバス(ka0276)は、関所の衛士にそう問いかけた。
ここは、堀と人一人分程度の城壁に囲まれた地方都市。
王国の中でも比較的治安がいいとされる場所だ。
「出入りする商隊について聞きたいのじゃが、詳しい者はいるじゃろうか」
レーヴェの問いかけに、衛士は台帳を管理している者を紹介してくれた。
役場のような場所らしく、レーヴェたちも着いた時に寄っていた。
「ふむ」
記録されているのであれば、話は早い。
レーヴェが街の中心部へと戻る途中、ユルゲンス・クリューガー(ka2335)を見かけた。
クレナ(ka0451)たちと聞きこみを行なっているようだが……。
「目立っとるのう」
その姿は、目立っていた。
レーヴェにそんなことを思われているなど、つゆ知らず。
ユルゲンスは、全身鎧を隠すため更にフードやマントを探していた。
「時に主人、最近この街で妙なスライムが出ると噂に聞くのだが……」
「あぁ、俺は見たこたぁねぇんだがな」
話を聞く限り、やはり女性を中心に狙っているらしい。
ときおり、老人や子どもが目撃したという情報もある程度だ。
「ふむ」
「ほれ、ちょうど、あそこに溜まってる連中なら一人くらい見たんじゃねぇか?」
主人の指差す先に、奥様方のしゃべり場があった。
買い物した物品をかごに入れ、たくましくお喋りに興じている。
「鵤(ka3319)に任せるか」
甲冑の中でぼそりと呟く。
視線の先で、奥様方に負けじ劣らず、飄々と会話に混ざる男がいた。
「何それこわぁーい。どの辺とかにでる感じぃ?」
旅人風の彼に、喋りたがりの奥様方はどんどん情報を漏らす。
誰それがどこで見ただの、どんなことがあっただの。
「もう怖くて仕方なかったわ。おかげで銀貨を食べられちゃったけど」
「それは大変でしたねぇ」
にへらっとした態度を崩さない鵤だが、内心の眼光は鋭い。
(ほーん……こりゃ偽物だわな)
偽物ならば、話題を転じて幅広く情報を集めなければならない。
「旅してるとさぁ、歪虚もそうだけどカツアゲやオヤジ狩りマジ怖いのよねぇ」
鵤が話題を変えている頃、クレナはふらりと通行人に声をかけていた。
「なるほどなぁ。そないなことになっとんやな」
誰かれ構わずではなく、きちんとあたりをつけていた。
そいつは明らかに、女性の動向を観察していたのだ。
「旅人的には気になる話や。兄さん、その話もっと詳しく聞いてもエエか?」
「すまねぇが、急いでるんだ。他をあたってくれ」
食い下がろうとしたクレナを振り切るように、男はそそくさと去っていく。
「あの兄ちゃん、どうも動きがおかしいわ……多分当たりやな」
「そうか?」
「あんたも仲間やなかったら、目立って怪しいで」
自覚あるユルゲンスは、すっと布を強く覆い直すのであった。
「人語を喋るスライムとか、まじウケるわー。なぁ、クレナの嬢ちゃん」
「ほんまや。人語を話すスライムなぁ。こりゃー一匹捕まえて、実験動物として」
冬樹 文太(ka0124)に話を振られ、クレナはうひひと怪しく嗤う。
表情は読み取れないが、ユルゲンスが素で言う。
「いや、内容から察するに敵の正体はスライムでは無かろうよ」
わかってるってと文太は軽く笑った。
「さて、報告やな」
先手を取ったのは、文太だった。
彼はクレナや鵤が目撃情報を追っている間に、現場を訪れていた。
「こういうとこの詰めで、大体どんなやつか分かるもんやな」
わずかに、粘液らしきものを見つけ採取したのだ。
それを露天商などに聴きこんだ結果、辺りをつけようとしたのだ。
「にかわじゃないか、ということやね」
にかわとは、動物の骨などを使って作られるゼラチンの一種である。
特徴、臭い。
「肉を取り扱う業者に聞いたら、廃棄するならくれないかという奴がいたらしい」
画家へ売るのに使うといわれ、怪しむことなく渡したという。
しかし、業者は若い男という特徴以外覚えていなかった。
「悪い子のしわざなら、きっとアジトがあるの」
佐藤 絢音(ka0552)がおもむろに発言する。
どこかの本で、アジトから円状に被害が出るのだと見たのだという。
「アジトと言えば……」
ふとレーヴェが台帳の写しを見せた。
この街の出入りの記録だ。その1点を指出して告げる。
「こいつらがスライム出現の3日前から、現在にいたるまで滞在しておるようじゃ」
「画材を取り扱う商隊……?」
にかわといえば、絵に使うこともある。
長期逗留の理由は、この街の風景を描くためとあるが。
「でも、人数が少ないな」
大規模な事をするにしては、いささか頼りない。
「一応チェックしておくことに、越したことはないじゃろう」
その後は、目撃情報の整理になる。
同時に複数の場所で目撃されることは、何度かあった。
場所はわりとまばらだが、同時目撃時は街の反対側が多い。
「念のため三組でいくとこだねぇ」
「怪しいルートは押さえたから、そこを中心に行こか」
クレナが地図を開いて、作戦を示すのだった。
●
囮作戦は、日が傾きかけた頃合いに開始された。
ハンターたちは三組に別れ、それぞれ囮役と監視役で別れる。
「これくらいあれば、よってくるなの」
「……せやな」
文太は絢音の持ってきた5000Gを見て、苦笑する。
一人になったところで、人目につくように絢音はそれをポシェットにしまう。
「げんなま、なのよ」
ぱんぱんっとポシェットを叩く姿は、覚醒者に見えない。
幼い子供が、大金を持ち歩いていればスライムもどき意外も寄ってきそうだ。
もっとも、半端な者なら返り討ちだろうが。
「……っと」
手に持っていたトランシーバーに通信が入る。
他の組も行動を開始したようだ。
「……了解。俺んとこは」
視界の隅で絢音が路地裏へと進む。
続いて怪しげなのが2人入っていった。
視線を巡らせばそちらに視線をやりながら、コーヒーを飲む男もいる。
「3人てとこやな」
「ふむ……こちらも同じだ」
通信を終え、ユルゲンスは視線を動かす。
クレナが入っていった路地とは別の路地を注視していた。
案の定、何かを運ぶようにして二人組の男が隣の路地へ入っていく。
他に怪しい動きをしている者がいないか、露天の椅子に腰掛けて眺める。
「あんた、なにしてる人?」
「……今は、茶を頂いている」
自警団に話しかけられ、一瞬気が散ってしまった。
その間に、路地裏ではクレナがスライムと出会っていた。
「ほほぅ、人語を話す雑魔。こりゃーいい実験体になりそうや」
メガネを光らせて、ぶつぶつとクレナは呟く。
「ほらー……怖くないでー……」
と何故かクレナがスライムに襲いかかるようなアクションを見せていた。
「痛いのは……あんまりせぇへんからなー」
最初のうちは、と存外に意味を含ませて魔導ドリルに手をやる。
本来の動きを忘れかけ、スライムがむしろびびる側になっていた。
「あかんあかん。うわー、こわーい」
何とか自制しドリルを止めて、頭を振る。
「お、お金を置いてけ?」
「お、置いてけ!」
本来の目的をスライムも思い出したのか、今一度強気に出る。
ほいほい、とビビるふりをしながらクレナは小銭を投げるとうそ臭い悲鳴を挙げて退場した。
「動いたか」
ユルゲンスもまた、監視対象が動き出したのに合わせて立ち上がる。
お代を素早く支払うと、小声で説明した自警団員から離れる。
「さて、当たりだとよいが」
「あーれー、たすけてー……」
スライムに襲われレーヴェは小銭を落とす。
今の彼女は非武装の、かよわい、少女を演じていた。
「わざとらしかったかの」
いささか棒読みだったが、きっとか弱く見えたことだろう。
真偽の程は、闇の中に葬り去ったほうが良い。
とりあえずの判定はOKである。スライムは小銭を奪ってさろうとしていた。
中から、人が出てくるところまでばっちりだ。
「まったくじゃ……今から追いかける」
相方の鵤に告げて、尾行を開始する。
どうやら合流地点を決めているらしく、大通りに出てしばらく行った所で立ち止まった。
が、相手役がこないらしい。
何やら話し合っている姿が見えた。
「……?」
レーヴェがその様子を訝しんでいると、鵤から通信が入った。
「こっちは徒党を捕らえたぜ」
「……いや、合流しなかったら怪しまれるのじゃが」
どうやら鵤は、監視していた対象が動き出したと同時に捕まえにかかったらしい。
拳銃を突きつけ、
「ちょっとそこのお兄さん? カツアゲするスライムもどきとか興味ない? そう、おたくらみたいな」
とドストレートに捕えにかあったらしい。
逃げ出しかけたので、威嚇を含めて即発砲。
サイレント式のため、レーヴェはもとよりスライムもどき役も気づけなかった。
この一報が入る少し前、文太は絢音のことが気がかりだった。
というより、彼女のトランシーバーからこんな言葉が聞こえてきたのだ。
「スライムさんは、お金食べるより、お仕事してご飯食べる方がいいの」
純粋な子供の意見である。何も問題はない。
「お金よりご飯の方が美味しいのよ?」
真っ直ぐな子供の意見である。何も問題はない。
でも、と絢音は続ける。
「かわいそーだからあやねのお金をあげるの。地に這いつくばって拾うといいの」
文太は聞かなかったことにした。
とてとてと絢音が去っていく音の後、スライムはひそひそと話し合っているようだった。
だが、結果的にお金を選ぶことにしたらしい。
「行くか」
文太は愛犬ゼノンを散歩させるフリをして、監視対象の跡をつける。
彼らはトランシーバーなどは持っていないらしい。
大通りで合流した所を目撃した。
「……おっと」
途中、絢音が犬に惹かれた体で合流した。
「あそこなのよ」
三人組が入っていったのは、あたりを付けていた小屋だった。
他の方向からも、戻ってくる影があった。
そのときである。
「少し事情が変わった。急いでアジトを抑えてほしいのじゃ」
合流した文太組とユルゲンス組へレーヴェから通信が入るのだった。
●
「必要な情報は手に入ったんだから」
「そうじゃが……まぁよい」
自警団に連絡をとった後、すぐにレーヴェたちもアジトへ向かっていた。
時間を決め、戻ってこなければすぐに逃亡する。
この小悪党は、そういう仕組で今までのらりくらりとやっていたらしい。
「包囲網は作らせたのじゃが……取りこぼしは避けたいのう」
アジトへたどり着くと、レーヴェと鵤は裏手へと回った。
ちょうど、裏口から出てきたチンピラAとBと鉢会う形のなった。
「おっと、通行止めだよぉ」
光でできた三角形を出現させ、チンピラどもを穿つ。
当てるのではなく、あくまで脅しとしてけん制する形である。
「……ふぅ」
鵤自身はたばこを吸いながら、じっくりと腰を据えていた。
隣では、レーヴェが的確に脚を狙い、氷結させていく。
「殺しはしない……が、死にたくないなら動かないことじゃ」
ぴしりと告げて、手を挙げさせた。
アジトの内部では、やや乱戦気味の状況となっていた。
前衛を務めるのはユルゲンスと絢音である。
「雑魔を語ったツケが回ったのだ。おとなしくお縄につくがいい」
手前にいた男へ素早く殴りかかり、追い落とす。
剣を使わないながら、無手でもそれなりに戦いになる。
が、全身鎧の男に無手で襲われる方が、ある意味恐怖のように思える。
「痛いけど、かわいいから大丈夫なの!」
覚醒状態の絢音が振るうのは、釘バットである。
だが、覚醒し魔法少女のような姿となった彼女が手に持てば、釘バットもファンシーに見える。
……多分。
「逃すかよ」
二人の後方では、文太が鉄色の魔導銃をチンピラへ向けていた。
威嚇するように、移動先を撃ちぬいて動きを止めさせる。
そこへ真打ち登場とばかりに、クレナがなだれ込む。
駆動音を派手にさせながら、魔導ドリルを振るっていた。
「なんや一般人相手に物騒なもん使てるなあ」
と銃口をチンピラに向けつつ、文太がクレナに近づく。
「大丈夫。脅しや、脅し」
そういいながら、クレナは近くにあった机を銀の大螺旋で粉砕する。
その切っ先を向けられ、男たちはおとなしくなった。
「雑魔の末路を身体に、教えこまんとな」
うひひ、という怪しい笑い声を漏らせば気の弱い者は崩れる。
「……そんぐらいにしとき。殺人犯のほうが質悪いわ」
「ほいほい」
雑魔の正体見たり枯れ尾花。ただの人間なら、実験体にもなりゃしない。
クレナが刃を退くと同時に、裏口からレーヴェ達が顔を覗かせるのだった。
●
「人数は間違いないねぇ」
「これで全員やな」
先に情報を得ていた鵤に確認を取り、文太は小悪党どもへ視線をやる。
合わせて11人が、部屋の中央で縄に巻かれていた。
「こちらが、自警団の団長じゃ」
レーヴェが連れてきた団長に、事情を説明して引き取ってもらう。
先に根回しをしてくれていたおかげで、スムーズに事は運んだ。
「今度はちゃんとしたお仕事するの」
釘バット片手に絢音が小悪党たちへ、反省をうながす。
一部、絢音を襲ったスライム役の二人が激しく頷いているのが気がかりだった。
が、文太はみなかったことにした。
「これがスライムの正体やね」
「まじまじと見ればちゃっちいのう」
クレナとレーヴェが見やったのは、アトリエスペースに置かれていたものである。
雑な一枚布で作られたスライムの皮と、にかわがつまった鍋である。
「本物だったら、実験に持って帰りたかったのに。残念や」
本当に残念そうにクレナはいう。
クレナを襲ったスライムの中の人は、ぞくりと背筋がしたとか。
「か弱い少女の私じゃったら、危なかったのう」
「か弱い?」
脚を狙われたチンピラが、その言葉に小首を傾げる。
レーヴェは演技じゃったからな、と軽く流した。
「とりあえず、これで一件落着だ」
ユルゲンスが、そう告げて締める。
こうして、人語を話すスライム(?)騒動は幕を閉じた。
だが、世の中は不思議に満ちている。
もしかしたら、どこかに本当に人語を話すスライムがいる……かもしれない。
依頼結果
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 鵤(ka3319) 人間(リアルブルー)|44才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/05/24 10:25:09 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/21 22:53:22 |