ゲスト
(ka0000)
【不動】希望の火を灯して
マスター:蒼かなた

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/27 15:00
- 完成日
- 2015/06/04 06:21
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●傷ついた希望
聖地奪還の大仕事を終え、人類は一先ず一息を吐く暇を得た。
しかしただ休んでいる訳にはいかなかった。この戦いの為に払った代償はかなり多い。
開拓地『ホープ』の壊滅2~3歩手前の被害もその1つだ。建物は壊され、多くのCAMやコンテナが薙ぎ倒され放置されたままだ。
辺境では部族会議が新しい方針を打ち出したばかりだ。ここで歩みをとめているわけには行かない。その基盤となるホープの復興は急務なのだ。
「そんな訳で俺達ハンターも借り出されたって訳だ」
「誰に話しかけてるの?」
長身で筋骨隆々、厳つい顔をしているが根はそんなに怖くない。熟練ハンターのブレアは今日は自慢のプレートメイルもグレートソードも見につけず、タンクトップとジーンズ姿でホープの瓦礫の山の前で仁王立ちしていた。
そんなブレアの隣で兎耳アクセサリーを揺らす女性が不思議そうに彼を見上げる。
復興の第一にやらなくてはいけないことは片付けることからだ。壊れたものをどかし、使えるものを仕分ける。
その作業に必要なのはまず単純に力だ。その点でハンター達は打ってつけの人材だった。
「まあ、ともかくだ。さっさと片付けるぞ。ラピン、俺より力あるんだから倍は働けよ?」
「嘘吐くな筋肉達磨。ブレアこそ私の10倍は働きなさいよね」
そんな掛け合いをしつつ2人は瓦礫の山に手を伸ばした。
●炉に火を
ホープ復興の為には辺境各地の部族達が協力する為に集まっていた。
ヴァルカン族もその部族の1つである。彼らは炎と鍛冶を崇める物作りの集団だ。
建物を建てるのは専門外ではあるが、協力できることは数多くある。
生憎と彼らの族長は別の作戦で留守にしているが、その間は族長代理として年長のラッヅが部族の皆に指示を出していた。
「族長代理ー。資材が足りませーん。金と銀と銅と鉄とおまけに石まで足りませーん」
「族長代理。人手が足りてないぞ。完成品運ぶだけの奴でもいいから誰か捕まえてこいよ」
「族長代理。お腹空いたぞ!」
「うるせぇよお前等! 今のホープは無い無い尽くしなんだ。今ある分で何とかしろ。あと最後のは炊き出しにでも行ってこい!」
族長代理と連呼されてキレたラッヅが机を叩いて一喝する。
部族の皆が言うことももっともなのだが無い袖は振れないのだ。資材については族長が無事帰ってくれば解決するのだが。
「仕方ない。人手に関してはまた掛け合ってくる」
ラッヅは頭を掻きながら簡易工房のテントを出た。
●初めての料理
復興に際して必要なのはやはり人手だ。そして人が集まれば集まるほど必要なのが食事である。
食べなけりゃ人は動けない。お腹が膨れれば元気になる。それが美味しければ尚良しである。
ホープの一角、食料庫の前の青空の下でもくもくと煙が立ち上がっていた。
沢山の人々がそこに集い、忙しそうに食料を洗ったり刻んだり炒めたり煮込んだりしている。
「……」
そんな中で1人、背の低い少女が包丁を両手で握って、目の前のまな板の上に乗るじゃがいもを見つめていた。
少し浅黒い肌に茜色の髪の少女。その足元には白猫がニィと鳴いている。
少女はおぼつかない手付きで包丁をゆっくり下ろす。だがじゃがいもは切れずにころりんと横に転がった。
「…………」
少女は目を細めてじゃがいもを睨む。まるで戦場で出会った敵を見るかのような視線だ。
そして少女は包丁を頭の上まで振り上げて、振り下ろした。じゃがいもは見事に切れた。まな板ごと真っ二つだ。
「……んっ、よし」
満足そうに少女は頷く。そして次の食材であるにんじんに手を伸ばした。
聖地奪還の大仕事を終え、人類は一先ず一息を吐く暇を得た。
しかしただ休んでいる訳にはいかなかった。この戦いの為に払った代償はかなり多い。
開拓地『ホープ』の壊滅2~3歩手前の被害もその1つだ。建物は壊され、多くのCAMやコンテナが薙ぎ倒され放置されたままだ。
辺境では部族会議が新しい方針を打ち出したばかりだ。ここで歩みをとめているわけには行かない。その基盤となるホープの復興は急務なのだ。
「そんな訳で俺達ハンターも借り出されたって訳だ」
「誰に話しかけてるの?」
長身で筋骨隆々、厳つい顔をしているが根はそんなに怖くない。熟練ハンターのブレアは今日は自慢のプレートメイルもグレートソードも見につけず、タンクトップとジーンズ姿でホープの瓦礫の山の前で仁王立ちしていた。
そんなブレアの隣で兎耳アクセサリーを揺らす女性が不思議そうに彼を見上げる。
復興の第一にやらなくてはいけないことは片付けることからだ。壊れたものをどかし、使えるものを仕分ける。
その作業に必要なのはまず単純に力だ。その点でハンター達は打ってつけの人材だった。
「まあ、ともかくだ。さっさと片付けるぞ。ラピン、俺より力あるんだから倍は働けよ?」
「嘘吐くな筋肉達磨。ブレアこそ私の10倍は働きなさいよね」
そんな掛け合いをしつつ2人は瓦礫の山に手を伸ばした。
●炉に火を
ホープ復興の為には辺境各地の部族達が協力する為に集まっていた。
ヴァルカン族もその部族の1つである。彼らは炎と鍛冶を崇める物作りの集団だ。
建物を建てるのは専門外ではあるが、協力できることは数多くある。
生憎と彼らの族長は別の作戦で留守にしているが、その間は族長代理として年長のラッヅが部族の皆に指示を出していた。
「族長代理ー。資材が足りませーん。金と銀と銅と鉄とおまけに石まで足りませーん」
「族長代理。人手が足りてないぞ。完成品運ぶだけの奴でもいいから誰か捕まえてこいよ」
「族長代理。お腹空いたぞ!」
「うるせぇよお前等! 今のホープは無い無い尽くしなんだ。今ある分で何とかしろ。あと最後のは炊き出しにでも行ってこい!」
族長代理と連呼されてキレたラッヅが机を叩いて一喝する。
部族の皆が言うことももっともなのだが無い袖は振れないのだ。資材については族長が無事帰ってくれば解決するのだが。
「仕方ない。人手に関してはまた掛け合ってくる」
ラッヅは頭を掻きながら簡易工房のテントを出た。
●初めての料理
復興に際して必要なのはやはり人手だ。そして人が集まれば集まるほど必要なのが食事である。
食べなけりゃ人は動けない。お腹が膨れれば元気になる。それが美味しければ尚良しである。
ホープの一角、食料庫の前の青空の下でもくもくと煙が立ち上がっていた。
沢山の人々がそこに集い、忙しそうに食料を洗ったり刻んだり炒めたり煮込んだりしている。
「……」
そんな中で1人、背の低い少女が包丁を両手で握って、目の前のまな板の上に乗るじゃがいもを見つめていた。
少し浅黒い肌に茜色の髪の少女。その足元には白猫がニィと鳴いている。
少女はおぼつかない手付きで包丁をゆっくり下ろす。だがじゃがいもは切れずにころりんと横に転がった。
「…………」
少女は目を細めてじゃがいもを睨む。まるで戦場で出会った敵を見るかのような視線だ。
そして少女は包丁を頭の上まで振り上げて、振り下ろした。じゃがいもは見事に切れた。まな板ごと真っ二つだ。
「……んっ、よし」
満足そうに少女は頷く。そして次の食材であるにんじんに手を伸ばした。
リプレイ本文
●希望の火種達
傷ついた希望の光は陰り、吹けば消えてしまうような弱々しい小さな火となってしまった。
その希望を再び強く温かな大火とすべく辺境の民、そしてハンター達が復興に尽力した。
さあ、希望に再生の火を灯そう。
太陽が空の真上へと昇る中、崩れた建物の前にヴァイス(ka0364)は立っていた。
「話には聞いていたが、それでも実際に見るとなるとやっぱり違うな……」
痛々しいとも言える戦禍の爪痕にヴァイスはぽつりと言葉を零す。
「よう、兄ちゃん。ぼーっと見つめてても片付かないぜ」
そんなヴァイスの肩を少し強めにバンッと叩いて屈強な肉体を持った男、ブレアが瓦礫の中へと足を踏み入れていく。
それもそうだとヴァイスもそれに続いて小さな瓦礫を足で避けながら一抱えはある石の塊を前にする。元は天井だったのか壁だったのか。今ではその判別もつかない。
「ふんっ!」
ヴァイスは掛け声と共に十数キロはありそうな石の塊に手をかけた。鍛えられた腕の筋肉が張り、足腰のバネを利用して一気に持ち上げる。
「おっ、兄ちゃんやるじゃねーか。だがまだまだだなぁ。俺のほうがでかい!」
撤去する石を近くの荷車に運んだところで、ブレアが自分の運んだ石をぱしぱしと叩く。確かにそれはヴァイスが運んだ石より一回りほど大きかった。
「それは挑発か?」
「おうともよ。乗るか?」
「いいだろう。乗った!」
ニヤリと笑いあった2人が瓦礫の山へと駆けた。ヴァイスの腕に紅蓮のオーラが見えてるところを見るに覚醒もしているのだろう。 競うように大きな瓦礫を運ぶ2人に、周囲の仲間達もやんやと囃し立てる声があがる。
「全く、何してるのよあの筋肉馬鹿は」
「ははは、いいじゃないですか。ああゆう人達がいるほうが他の人達にも気合が入りますよ」
兎耳のアクセサリーを揺らす女性、ラピンの呆れ交じりの声に、ギルバート・フォーサイス(ka1395)は小さく笑いながらそう答えた。
確かにあの2人のおかげで周りの同類の作業者達が負けられないと精力的に瓦礫を運び始めている。
「けどエルフさんがこっちにくるなんて。他の担当のほうがよかったんじゃない?」
ラピンはあっさりと、言外に「力ないんでしょ?」とギルバートに問う。
「いえ、ここがいいんです。私なんかでも人の助けになることの証明とでもいいましょうか。それよりほら、ラピン殿手が止まってますよ?」
ギルバートに指摘されたラピンはいけないと小さく舌をだしてから小さい瓦礫に手を伸ばす。
1~2時間のうちにそこに積もっていた瓦礫は見る見るうちに片付けられていった。
「皆、少し手を貸してくれないか?」
丁度そこに青霧 ノゾミ(ka4377)が現れ、力を貸してほしいと声をかけてくる。
「もう次の仕事か。休む暇がないな」
「なんだ、もうへばったのか? なら休んでいてもいいぞ」
ブレアの言葉にヴァイスがにやりと笑いながら言葉を返す。
「あの2人は本当に元気ですね。最後のあたりは覚醒してないのに大きな瓦礫を運んでましたし」
「脳味噌まで筋肉で出来てるだけよ」
感心するギルバートにラピンは辛辣な言葉を漏らす。
兎にも角にも作業者達は次の現場へと向かった。そこでは簡易的に木の棒と板を組み合わせた足場が作られ、その中心にはCAMが仰向けに横たわっていた。
倒れて動かないCAMは一度解体してパーツ毎に運ばれることになったらしい。
「よーし、ゆっくり降ろすんだ。接続部は地面につけないように上に向けるんだぞ!」
その現場で指揮を取っているのが鹿島 雲雀(ka3706)だった。大の男達が十数人掛りで神輿のようにCAMの腕を担ぎ、掛け声をかけながらゆっくりとその片腕を運んでいく。
よしと一度頷いた雲雀が振り返ると、今丁度ここに集まったヴァイスやギルバート達の作業員達の目が合う。
「さあ、次は逆の腕だ。転がしてぶっ壊したらただじゃおかないから覚悟しろ!」
「応っ」と男達がそれに答える。CAMの解体もこの調子なら順調に進んでいきそうだ。
大きなCAMを片付けるのもそうだが、薙ぎ倒され中身をぶちまけたコンテナの中身を片付けるのも大事な作業の一つだ。
CAMの部品も多く混じっているので、今後修理を行う為にもまだ使える部品はしっかり仕分けて確保しておかなくてはならない。
「うーん、これは綺麗だけどどうだい?」
「ああ、そりゃ駄目だ。元々3つで1つなのにバラバラになっちまってる」
「じゃあこれは?」
「そいつは土を払えば大丈夫そうだな。そっちの籠に入れといてくれ」
ノゾミはばら撒かれた部品を集めながら、CAMの技師に尋ねながら「廃棄」「再利用」という紙の貼られた籠のなかにパーツを仕分けていく。
散らばっている部品はまだまだ多い。それにこの場所以外にも片付ける場所はある。どうやら今日一日だけではとても終わりそうに無い。
「希望を取り戻す作業はやはり簡単じゃないな」
少し傾いた太陽を眺めて、ノゾミはまた部品の仕分けの為に視線を戻した。
一方でホープの一角に設置された簡易工房では炉に火が入れられ、真夏以上の暑さが吹き出る室内で鉄を打つ音が響いていた。
「おう、【歌う鋳鎚】のゼカラインというモンだが、何が必要なんだ?」
そこの扉を開いたのはゼカライン=ニッケル(ka0266)だ。襲いくる熱気をものともせずドンと胸を叩いて自分の存在を示す。
「ああ、良く来てくれたな。お前は鍛冶経験者だな? なら話が早い」
それを出迎えたのは族長代理を務めているラッヅだ。そう言ってゼカラインが通されたのは炉の近くの金床とハンマーが用意された1スペースだった。
「とりあえずこのサイズの鉄板が100枚。それが終わったら鉄筋っていう金属の棒を100本だ」
「なんだ、たったそれだけか?」
ノルマを告げられたゼカラインがにやりと笑う。
「それが終わればもう一つ面白い仕事が待ってる。期待してな」
ラッヅは手をひらりと振りその場を後にする。
「ほう、それならさっさと仕上げないとな。勿論完璧な仕事でな!」
ゼカラインはハンマーを手に取り、炉から取り出したどろどろに溶けた金属を思いっきり叩いた。
そして工房の外では採石場から切り出してきた大きな石が運び込まれていた。
「《歌う鋳鎚》のグオルムール・クロムだ。よろしく頼むぜ、兄弟」
現場に顔を出したグオルムール・クロム(ka0285)が他の仲間達に挨拶をする。そして自分の背丈以上に詰まれた石材の山を見上げた。
「おう、立派な石だな。こいつはいい壁になる」
「ほんじゃ、石切りだ。皆無駄にしないようにな!」
男達は鑿と槌、金属製の楔などを取り出して各々石材を加工していく。
「おお、そうだそうだ。途中で割れたくず石なんかもちゃんと取っておけよ」
「なんだ兄ちゃん。くず石なんて何に使うんだい?」
「なに、そういうのも漆喰なりを使って固めりゃ土よりかは固い。家の壁には丁度いい素材になるんだぜ?」
グオルムールの言葉にそいつは知らなかったと石工の男は感心したように頷く。
「さあて。俺の技術でここにでっかい壁を作ってやる。今度こそ壊れない立派なのをな!」
そしてグオルムールもまた自前のハンマーを片手に石を割る作業に取り掛かった。
熱気と金属音、粉塵と男達の声が響くなかで1体のCAMが運ばれてきた。といってもその腕が一本だけだが。
そこに先ほどまで廃材から色々と道具を作っていた守原 由有(ka2577)が顔を出す。
「うわあ、装甲がぼっこぼこだ。土塗れだし洗浄も大変そう」
「ああ、と言ってもうちが任されたのは解体だけだがな」
工房から出てきたラッヅが運ばれてきた機械の腕を見上げてそう言う。
「ありゃ、修理不可ってこと?」
「どうやらそうらしい。ほれ、手の部分もぐちゃぐちゃに潰れてるだろ?」
そう言われてラッヅが差したところを見れば、人を模して作られた5本の鉄の指は拉げてあらぬ方向に向いている。
「中の部品は?」
「詳しいことは分からんが正常に動作しないらしい」
そんなわけで一つずつ分解して、使えるものは再度溶かして再利用することが決定したようだ。
「おお、これは例のCAMの腕か。どれどれ、わしが一つ見てやろう!」
「よう、ニッケル。それなら俺も手伝うぜ!」
と、そこにドワーフの男2人組みがせかせかと腕に張り付いて色々と弄りだす。それに便乗してか他の職人気質な者達が腕の周りにわらわらと集まりだした。
「こら、てめぇら! ちゃんと自分の仕事をしやがれぇ!」
そこに現場監督でもあるラッヅが怒声をあげながら1人ずつ頭を引っぱたいていく。
「職人っていうのはどこの世界でも変わらないものなんだね」
由有はそんなことばをしみじみと呟きながら、自分も服の袖を巻くってCAMの腕へと歩き出した。
日も大分傾いてきた頃、そんなことはおかまいなしに忙しい場所がある。
朝昼晩と、人はしっかり食事をしなくては100%の力を発揮できない。このホープの復興に携わる人達は特にそうだろう。
だから炊き出しを行っているこの現場は四六時中、白い煙と共に胃をダイレクトに刺激する美味しそうな匂いを周囲に振りまいていた。
「さて、大人数で食うものならやっぱ豚汁だな!」
立派なアフロを今回ばかりはバンダナを巻いて隠したドミノ・ウィル(ka0208)が食材の前で仁王立ちをする。
一度の調理で沢山出来て、それでいて栄養をしっかり残すことなく取り込むには煮る料理が一番。手軽でパパッと作れてしまう豚汁はこういう時にはぴったりだ。
「料理で一番大事なのは下準備と手際の良さ。料理に限ったことではないが……とは師匠の教えだ」
そんなことを呟きながらも鮮やかな手さばきでジャガイモの皮をむき、大量のたまねぎを切り刻んでいく。
「くうっ、目に沁みるな。だが俺は止まらない。お前達を美味い料理にしてやるまではな!」
ドミノは一心不乱に食材達の下拵えを進めていく。ただ、次々と運び込まれる食材の山にそれが終わるのは大分先のことになりそうだった。
「さて、被害を出した以上は復興への取り組みはしっかりとやらないといけませんね」
炊き出しの現場を眺めながらそう呟いたのはエルバッハ・リオン(ka2434)だ。先の戦いで守れなかった場所。彼女の矜持としてここで復興に手を貸さないということはありえなかった。
「おや、お前さんも炊き出しの手伝いをしてくれるのかい?」
「ええ、そうです。ああ、こちらを責任者の人に渡しておいてくれませんか? 少しばかりですけど差し入れです」
声をかけてきたエプロン姿のおばちゃんにエルバッハは馬に積んであった袋を渡す。中はお菓子や茶葉などの嗜好品だ。
それからエルバッハは装備品の一式を馬と一緒に預けると、普段着の上からエプロンをつけて炊き出しの仕事場に混ざる。
実は少し考えがあったのだが、この場では不謹慎かなと思い留まった件があるのだがそれは彼女の心の中だけの問題だ。
と、彼女が割り当てられた調理の場所のすぐ隣で、食材を相手に全力で奮闘している少女が1人。茜色の髪がぼさぼさになるのも構わず食材に包丁を突き立てている。
見かねたエルバッハはその少女に声をかける。
「ねえ、貴女。食材を切る時は無理に力を込めては駄目よ?」
そう言われた少女は今度はゆっくりと包丁を下ろす。だが目標のにんじんはころりと転がってしまった。
「……」
少女の恨みがましい目がエルバッハに向けられる。その不器用さにエルバッハも少し笑ってしまっていた。
「わあ、シャルも来てたの? それにセインも。こんにちわ」
そこで不器用な少女に声をかけてきたのはネムリア・ガウラ(ka4615)だった。
シャルと呼ばれた少女もネムリアの顔に覚えがあったのか、言葉には出さずこくりと頷いた。足元の猫も同じくニィと小さく鳴いている。
「それで、えっと……それは?」
そこでネムリアの視線に入ったのはやけに小さくなっているまな板と切れていないにんじん。シャルはそれに応えるように両手で掴んだ包丁を振り上げ、振り下ろした。食材はまな板ごと真っ二つだ。
「わわっ、待って待って。シャル、そうじゃなくてね。包丁は利き手でもって、逆の手で食材をね。そう、にゃんこの手で押さえるの」
「にゃんこの手? ……分かった」
危なっかしいシャルの包丁捌きにネムリアが慌てて止めに入り、懇切丁寧に切り方を教える。シャルは一度小首を傾げた後、なにか閃いたかのように一度頷いた。
そしてシャルは足元にいた白猫を抱き上げ、その前足を掴んでにんじんの上に置かせる。これには隣で見ていたエルバッハも目を丸くしてネムリアと視線を合わせる。
「だ、駄目だって。それじゃあセインの手まで切っちゃうからっ」
慌てて止めるネムリアと、それを呆れた目で見るエルバッハ。その2人に挟まれて言われた通りにやったつもりのシャルは不満そうな顔をしながら首を傾げていた。
●希望の火は燃え上がる
日も暮れてきた頃、復興の手を一度休めて作業者達は休息の時を得る。
そして今日も一つの火を囲んで多く人間やエルフ、ドワーフ達が国も種族も問わず今日の労働を労い、明日の為に杯を高らかに天に向けていた。
「酒は素晴らしい。1人で飲んでも皆で飲んでもいい……それも師匠の教えだな」
「ははは、姉ちゃん中々やるな。ほれ、もっと飲め!」
ドミノは零れんばかりに注がれた酒に対して、腰に手を当ててぐいっと一気に飲み干していく。
「みんなの笑顔が明日へ繋がる。俺はそう信じる……乾杯っ!」
「そうっ。私は、何度だって復活させるよ。このホープを!」
すっかり出来上がっているノゾミと由有はもう何度目かの乾杯を叫んで酒を飲む。体にじわじわと広がる熱さに気持ちよさを覚え、そしてまた杯を呷る。
「全く、さっきまで働いてたのに早速馬鹿騒ぎか」
遅れてやってきた雲雀は油で汚れた頬をタオルで拭いながら燃える火を眺める。
「ここはやっぱり希望の地なのさ。どれだけやられようと多くの奴等がこのホープの為にやってきて立て直そうとしている」
そこに人々の輪から離れてやってきたヴァイスが雲雀に木製のコップを差し出す。雲雀は乾いた喉にそれを流し込むと、フルーツの甘い香りとすっきりとした甘酸っぱさが体に染みわたる。
「ふうっ……こういうのは久しぶりだけどさ、やっぱり皆タフだよな」
「ああ、その心の強さと絆を紡ぐ行動が、歪虚との戦いに最も必要となる力になると俺は思うよ」
小さくなってきた炎にまた薪がくべられて再び大きな炎となる。赤い光で照らされる人々の顔は皆明るく、それぞれの笑顔を浮かべている。
「では僭越ながら一曲、つま弾きましょうか」
「おう、いいぞ兄ちゃん! 景気よくな!」
ギルバートはリュートを手にしてそのリクエストに応える。この雰囲気をさらに盛り上げる為に、人々の心を沸き立たせる舞踏曲を。
1人がそれに踊りだせば、続けて3人が踊りだす。そしてそれを囲ってやんややんやと囃し立てる声があがる。
「おっと、音楽ならわしを除け者にして貰っては困るな! この音こそ、歌だ!!金鎚と、鉄と、焔が歌っている舞台は何処だ、此処だ。この場所だ!!」
「お、なんだニッケルも演奏するのか? いよっし、じゃあ俺の美声をこのホープ中に響かせてやるぜ!」
ゼカラインとグオルムールもその輪の中に混ざり、かき鳴らす音と高らかに響く声が観客達を賑わせる。
「ねえ、シャルはこの近くに住んでるの?」
「違う。少し遠く」
「じゃあじゃあ、今幾つ?」
「……12?」
「わっ、それならわたしのほうがお姉さんだね」
大人達の喧騒を他所に2人の少女は楽しく会話を繰り広げる。ほぼ一方的に質問してそれに答えているだけだが、尋ねるエルフの少女も答える白猫を抱く少女もそれでいいのか楽しげに見える。
「そうだ。今日は竪琴を持って来たんだ。シャル、音楽は好き?」
「音楽は、よく分からない」
「そっか、ならこんな曲はどうかな?」
ネムリアはゆっくりと竪琴を奏でる。ゆっくりとしていてそれでいて心温まる。そんな楽しく優しき曲を。
それを聴くシャルは表情を変えず。しかしその音楽をしっかりと聞いていた。
そんな少女達の様子を眺めていたエルバッハは自分の杯の水面を一瞥して、ちびりと少しだけ口に含んで喉へと落とす。
「これで希望の火も灯ったかしら?」
その疑問の言葉は喧騒に消えて誰の耳にも届かない。ただ、それは答えるまでもなくこの宴を見れば分かるだろう。
この場に集まった一人一人の胸の中に生まれた火が合わさって大きな火へと変わる。
そう、人々は生き、そしてこの地はまた蘇る。希望の火は灯されたのだから。
傷ついた希望の光は陰り、吹けば消えてしまうような弱々しい小さな火となってしまった。
その希望を再び強く温かな大火とすべく辺境の民、そしてハンター達が復興に尽力した。
さあ、希望に再生の火を灯そう。
太陽が空の真上へと昇る中、崩れた建物の前にヴァイス(ka0364)は立っていた。
「話には聞いていたが、それでも実際に見るとなるとやっぱり違うな……」
痛々しいとも言える戦禍の爪痕にヴァイスはぽつりと言葉を零す。
「よう、兄ちゃん。ぼーっと見つめてても片付かないぜ」
そんなヴァイスの肩を少し強めにバンッと叩いて屈強な肉体を持った男、ブレアが瓦礫の中へと足を踏み入れていく。
それもそうだとヴァイスもそれに続いて小さな瓦礫を足で避けながら一抱えはある石の塊を前にする。元は天井だったのか壁だったのか。今ではその判別もつかない。
「ふんっ!」
ヴァイスは掛け声と共に十数キロはありそうな石の塊に手をかけた。鍛えられた腕の筋肉が張り、足腰のバネを利用して一気に持ち上げる。
「おっ、兄ちゃんやるじゃねーか。だがまだまだだなぁ。俺のほうがでかい!」
撤去する石を近くの荷車に運んだところで、ブレアが自分の運んだ石をぱしぱしと叩く。確かにそれはヴァイスが運んだ石より一回りほど大きかった。
「それは挑発か?」
「おうともよ。乗るか?」
「いいだろう。乗った!」
ニヤリと笑いあった2人が瓦礫の山へと駆けた。ヴァイスの腕に紅蓮のオーラが見えてるところを見るに覚醒もしているのだろう。 競うように大きな瓦礫を運ぶ2人に、周囲の仲間達もやんやと囃し立てる声があがる。
「全く、何してるのよあの筋肉馬鹿は」
「ははは、いいじゃないですか。ああゆう人達がいるほうが他の人達にも気合が入りますよ」
兎耳のアクセサリーを揺らす女性、ラピンの呆れ交じりの声に、ギルバート・フォーサイス(ka1395)は小さく笑いながらそう答えた。
確かにあの2人のおかげで周りの同類の作業者達が負けられないと精力的に瓦礫を運び始めている。
「けどエルフさんがこっちにくるなんて。他の担当のほうがよかったんじゃない?」
ラピンはあっさりと、言外に「力ないんでしょ?」とギルバートに問う。
「いえ、ここがいいんです。私なんかでも人の助けになることの証明とでもいいましょうか。それよりほら、ラピン殿手が止まってますよ?」
ギルバートに指摘されたラピンはいけないと小さく舌をだしてから小さい瓦礫に手を伸ばす。
1~2時間のうちにそこに積もっていた瓦礫は見る見るうちに片付けられていった。
「皆、少し手を貸してくれないか?」
丁度そこに青霧 ノゾミ(ka4377)が現れ、力を貸してほしいと声をかけてくる。
「もう次の仕事か。休む暇がないな」
「なんだ、もうへばったのか? なら休んでいてもいいぞ」
ブレアの言葉にヴァイスがにやりと笑いながら言葉を返す。
「あの2人は本当に元気ですね。最後のあたりは覚醒してないのに大きな瓦礫を運んでましたし」
「脳味噌まで筋肉で出来てるだけよ」
感心するギルバートにラピンは辛辣な言葉を漏らす。
兎にも角にも作業者達は次の現場へと向かった。そこでは簡易的に木の棒と板を組み合わせた足場が作られ、その中心にはCAMが仰向けに横たわっていた。
倒れて動かないCAMは一度解体してパーツ毎に運ばれることになったらしい。
「よーし、ゆっくり降ろすんだ。接続部は地面につけないように上に向けるんだぞ!」
その現場で指揮を取っているのが鹿島 雲雀(ka3706)だった。大の男達が十数人掛りで神輿のようにCAMの腕を担ぎ、掛け声をかけながらゆっくりとその片腕を運んでいく。
よしと一度頷いた雲雀が振り返ると、今丁度ここに集まったヴァイスやギルバート達の作業員達の目が合う。
「さあ、次は逆の腕だ。転がしてぶっ壊したらただじゃおかないから覚悟しろ!」
「応っ」と男達がそれに答える。CAMの解体もこの調子なら順調に進んでいきそうだ。
大きなCAMを片付けるのもそうだが、薙ぎ倒され中身をぶちまけたコンテナの中身を片付けるのも大事な作業の一つだ。
CAMの部品も多く混じっているので、今後修理を行う為にもまだ使える部品はしっかり仕分けて確保しておかなくてはならない。
「うーん、これは綺麗だけどどうだい?」
「ああ、そりゃ駄目だ。元々3つで1つなのにバラバラになっちまってる」
「じゃあこれは?」
「そいつは土を払えば大丈夫そうだな。そっちの籠に入れといてくれ」
ノゾミはばら撒かれた部品を集めながら、CAMの技師に尋ねながら「廃棄」「再利用」という紙の貼られた籠のなかにパーツを仕分けていく。
散らばっている部品はまだまだ多い。それにこの場所以外にも片付ける場所はある。どうやら今日一日だけではとても終わりそうに無い。
「希望を取り戻す作業はやはり簡単じゃないな」
少し傾いた太陽を眺めて、ノゾミはまた部品の仕分けの為に視線を戻した。
一方でホープの一角に設置された簡易工房では炉に火が入れられ、真夏以上の暑さが吹き出る室内で鉄を打つ音が響いていた。
「おう、【歌う鋳鎚】のゼカラインというモンだが、何が必要なんだ?」
そこの扉を開いたのはゼカライン=ニッケル(ka0266)だ。襲いくる熱気をものともせずドンと胸を叩いて自分の存在を示す。
「ああ、良く来てくれたな。お前は鍛冶経験者だな? なら話が早い」
それを出迎えたのは族長代理を務めているラッヅだ。そう言ってゼカラインが通されたのは炉の近くの金床とハンマーが用意された1スペースだった。
「とりあえずこのサイズの鉄板が100枚。それが終わったら鉄筋っていう金属の棒を100本だ」
「なんだ、たったそれだけか?」
ノルマを告げられたゼカラインがにやりと笑う。
「それが終わればもう一つ面白い仕事が待ってる。期待してな」
ラッヅは手をひらりと振りその場を後にする。
「ほう、それならさっさと仕上げないとな。勿論完璧な仕事でな!」
ゼカラインはハンマーを手に取り、炉から取り出したどろどろに溶けた金属を思いっきり叩いた。
そして工房の外では採石場から切り出してきた大きな石が運び込まれていた。
「《歌う鋳鎚》のグオルムール・クロムだ。よろしく頼むぜ、兄弟」
現場に顔を出したグオルムール・クロム(ka0285)が他の仲間達に挨拶をする。そして自分の背丈以上に詰まれた石材の山を見上げた。
「おう、立派な石だな。こいつはいい壁になる」
「ほんじゃ、石切りだ。皆無駄にしないようにな!」
男達は鑿と槌、金属製の楔などを取り出して各々石材を加工していく。
「おお、そうだそうだ。途中で割れたくず石なんかもちゃんと取っておけよ」
「なんだ兄ちゃん。くず石なんて何に使うんだい?」
「なに、そういうのも漆喰なりを使って固めりゃ土よりかは固い。家の壁には丁度いい素材になるんだぜ?」
グオルムールの言葉にそいつは知らなかったと石工の男は感心したように頷く。
「さあて。俺の技術でここにでっかい壁を作ってやる。今度こそ壊れない立派なのをな!」
そしてグオルムールもまた自前のハンマーを片手に石を割る作業に取り掛かった。
熱気と金属音、粉塵と男達の声が響くなかで1体のCAMが運ばれてきた。といってもその腕が一本だけだが。
そこに先ほどまで廃材から色々と道具を作っていた守原 由有(ka2577)が顔を出す。
「うわあ、装甲がぼっこぼこだ。土塗れだし洗浄も大変そう」
「ああ、と言ってもうちが任されたのは解体だけだがな」
工房から出てきたラッヅが運ばれてきた機械の腕を見上げてそう言う。
「ありゃ、修理不可ってこと?」
「どうやらそうらしい。ほれ、手の部分もぐちゃぐちゃに潰れてるだろ?」
そう言われてラッヅが差したところを見れば、人を模して作られた5本の鉄の指は拉げてあらぬ方向に向いている。
「中の部品は?」
「詳しいことは分からんが正常に動作しないらしい」
そんなわけで一つずつ分解して、使えるものは再度溶かして再利用することが決定したようだ。
「おお、これは例のCAMの腕か。どれどれ、わしが一つ見てやろう!」
「よう、ニッケル。それなら俺も手伝うぜ!」
と、そこにドワーフの男2人組みがせかせかと腕に張り付いて色々と弄りだす。それに便乗してか他の職人気質な者達が腕の周りにわらわらと集まりだした。
「こら、てめぇら! ちゃんと自分の仕事をしやがれぇ!」
そこに現場監督でもあるラッヅが怒声をあげながら1人ずつ頭を引っぱたいていく。
「職人っていうのはどこの世界でも変わらないものなんだね」
由有はそんなことばをしみじみと呟きながら、自分も服の袖を巻くってCAMの腕へと歩き出した。
日も大分傾いてきた頃、そんなことはおかまいなしに忙しい場所がある。
朝昼晩と、人はしっかり食事をしなくては100%の力を発揮できない。このホープの復興に携わる人達は特にそうだろう。
だから炊き出しを行っているこの現場は四六時中、白い煙と共に胃をダイレクトに刺激する美味しそうな匂いを周囲に振りまいていた。
「さて、大人数で食うものならやっぱ豚汁だな!」
立派なアフロを今回ばかりはバンダナを巻いて隠したドミノ・ウィル(ka0208)が食材の前で仁王立ちをする。
一度の調理で沢山出来て、それでいて栄養をしっかり残すことなく取り込むには煮る料理が一番。手軽でパパッと作れてしまう豚汁はこういう時にはぴったりだ。
「料理で一番大事なのは下準備と手際の良さ。料理に限ったことではないが……とは師匠の教えだ」
そんなことを呟きながらも鮮やかな手さばきでジャガイモの皮をむき、大量のたまねぎを切り刻んでいく。
「くうっ、目に沁みるな。だが俺は止まらない。お前達を美味い料理にしてやるまではな!」
ドミノは一心不乱に食材達の下拵えを進めていく。ただ、次々と運び込まれる食材の山にそれが終わるのは大分先のことになりそうだった。
「さて、被害を出した以上は復興への取り組みはしっかりとやらないといけませんね」
炊き出しの現場を眺めながらそう呟いたのはエルバッハ・リオン(ka2434)だ。先の戦いで守れなかった場所。彼女の矜持としてここで復興に手を貸さないということはありえなかった。
「おや、お前さんも炊き出しの手伝いをしてくれるのかい?」
「ええ、そうです。ああ、こちらを責任者の人に渡しておいてくれませんか? 少しばかりですけど差し入れです」
声をかけてきたエプロン姿のおばちゃんにエルバッハは馬に積んであった袋を渡す。中はお菓子や茶葉などの嗜好品だ。
それからエルバッハは装備品の一式を馬と一緒に預けると、普段着の上からエプロンをつけて炊き出しの仕事場に混ざる。
実は少し考えがあったのだが、この場では不謹慎かなと思い留まった件があるのだがそれは彼女の心の中だけの問題だ。
と、彼女が割り当てられた調理の場所のすぐ隣で、食材を相手に全力で奮闘している少女が1人。茜色の髪がぼさぼさになるのも構わず食材に包丁を突き立てている。
見かねたエルバッハはその少女に声をかける。
「ねえ、貴女。食材を切る時は無理に力を込めては駄目よ?」
そう言われた少女は今度はゆっくりと包丁を下ろす。だが目標のにんじんはころりと転がってしまった。
「……」
少女の恨みがましい目がエルバッハに向けられる。その不器用さにエルバッハも少し笑ってしまっていた。
「わあ、シャルも来てたの? それにセインも。こんにちわ」
そこで不器用な少女に声をかけてきたのはネムリア・ガウラ(ka4615)だった。
シャルと呼ばれた少女もネムリアの顔に覚えがあったのか、言葉には出さずこくりと頷いた。足元の猫も同じくニィと小さく鳴いている。
「それで、えっと……それは?」
そこでネムリアの視線に入ったのはやけに小さくなっているまな板と切れていないにんじん。シャルはそれに応えるように両手で掴んだ包丁を振り上げ、振り下ろした。食材はまな板ごと真っ二つだ。
「わわっ、待って待って。シャル、そうじゃなくてね。包丁は利き手でもって、逆の手で食材をね。そう、にゃんこの手で押さえるの」
「にゃんこの手? ……分かった」
危なっかしいシャルの包丁捌きにネムリアが慌てて止めに入り、懇切丁寧に切り方を教える。シャルは一度小首を傾げた後、なにか閃いたかのように一度頷いた。
そしてシャルは足元にいた白猫を抱き上げ、その前足を掴んでにんじんの上に置かせる。これには隣で見ていたエルバッハも目を丸くしてネムリアと視線を合わせる。
「だ、駄目だって。それじゃあセインの手まで切っちゃうからっ」
慌てて止めるネムリアと、それを呆れた目で見るエルバッハ。その2人に挟まれて言われた通りにやったつもりのシャルは不満そうな顔をしながら首を傾げていた。
●希望の火は燃え上がる
日も暮れてきた頃、復興の手を一度休めて作業者達は休息の時を得る。
そして今日も一つの火を囲んで多く人間やエルフ、ドワーフ達が国も種族も問わず今日の労働を労い、明日の為に杯を高らかに天に向けていた。
「酒は素晴らしい。1人で飲んでも皆で飲んでもいい……それも師匠の教えだな」
「ははは、姉ちゃん中々やるな。ほれ、もっと飲め!」
ドミノは零れんばかりに注がれた酒に対して、腰に手を当ててぐいっと一気に飲み干していく。
「みんなの笑顔が明日へ繋がる。俺はそう信じる……乾杯っ!」
「そうっ。私は、何度だって復活させるよ。このホープを!」
すっかり出来上がっているノゾミと由有はもう何度目かの乾杯を叫んで酒を飲む。体にじわじわと広がる熱さに気持ちよさを覚え、そしてまた杯を呷る。
「全く、さっきまで働いてたのに早速馬鹿騒ぎか」
遅れてやってきた雲雀は油で汚れた頬をタオルで拭いながら燃える火を眺める。
「ここはやっぱり希望の地なのさ。どれだけやられようと多くの奴等がこのホープの為にやってきて立て直そうとしている」
そこに人々の輪から離れてやってきたヴァイスが雲雀に木製のコップを差し出す。雲雀は乾いた喉にそれを流し込むと、フルーツの甘い香りとすっきりとした甘酸っぱさが体に染みわたる。
「ふうっ……こういうのは久しぶりだけどさ、やっぱり皆タフだよな」
「ああ、その心の強さと絆を紡ぐ行動が、歪虚との戦いに最も必要となる力になると俺は思うよ」
小さくなってきた炎にまた薪がくべられて再び大きな炎となる。赤い光で照らされる人々の顔は皆明るく、それぞれの笑顔を浮かべている。
「では僭越ながら一曲、つま弾きましょうか」
「おう、いいぞ兄ちゃん! 景気よくな!」
ギルバートはリュートを手にしてそのリクエストに応える。この雰囲気をさらに盛り上げる為に、人々の心を沸き立たせる舞踏曲を。
1人がそれに踊りだせば、続けて3人が踊りだす。そしてそれを囲ってやんややんやと囃し立てる声があがる。
「おっと、音楽ならわしを除け者にして貰っては困るな! この音こそ、歌だ!!金鎚と、鉄と、焔が歌っている舞台は何処だ、此処だ。この場所だ!!」
「お、なんだニッケルも演奏するのか? いよっし、じゃあ俺の美声をこのホープ中に響かせてやるぜ!」
ゼカラインとグオルムールもその輪の中に混ざり、かき鳴らす音と高らかに響く声が観客達を賑わせる。
「ねえ、シャルはこの近くに住んでるの?」
「違う。少し遠く」
「じゃあじゃあ、今幾つ?」
「……12?」
「わっ、それならわたしのほうがお姉さんだね」
大人達の喧騒を他所に2人の少女は楽しく会話を繰り広げる。ほぼ一方的に質問してそれに答えているだけだが、尋ねるエルフの少女も答える白猫を抱く少女もそれでいいのか楽しげに見える。
「そうだ。今日は竪琴を持って来たんだ。シャル、音楽は好き?」
「音楽は、よく分からない」
「そっか、ならこんな曲はどうかな?」
ネムリアはゆっくりと竪琴を奏でる。ゆっくりとしていてそれでいて心温まる。そんな楽しく優しき曲を。
それを聴くシャルは表情を変えず。しかしその音楽をしっかりと聞いていた。
そんな少女達の様子を眺めていたエルバッハは自分の杯の水面を一瞥して、ちびりと少しだけ口に含んで喉へと落とす。
「これで希望の火も灯ったかしら?」
その疑問の言葉は喧騒に消えて誰の耳にも届かない。ただ、それは答えるまでもなくこの宴を見れば分かるだろう。
この場に集まった一人一人の胸の中に生まれた火が合わさって大きな火へと変わる。
そう、人々は生き、そしてこの地はまた蘇る。希望の火は灯されたのだから。
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相・談! ドミノ・ウィル(ka0208) ドワーフ|20才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/05/26 22:55:19 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/26 22:54:18 |