ゲスト
(ka0000)
抜け出せラビリントス
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2015/05/25 22:00
- 完成日
- 2015/05/31 13:36
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ドワーフ建設会社は、その名の通り社員のほとんどがドワーフで構成されている建設会社。
当然ながら石材建築一般、ことに地下建築の腕は一級品。仕上がりの早さ、美しさ、頑丈さ。どれをとっても他種族の追随を許さない。
そんな彼らがこの度、遊園地建設に参加することになった。
企画したのはさる豪商。所用でリゼリオへ行ったとき、リアルブルーで隆盛を極めているというテーマパークの話を聞いて、自分でもやってみたくなったのだそうだ。
ドワーフたちに任されたのは、園の目玉ともなる大迷路。地上だけでなく地下も使っていいとのこと。
それこそまさに自分たちの得意とするところ――やる気満々のドワーフたちは、腕を振るって迷路建設を始めた。
石を削り、積む。穴を掘り、固める。昼となく夜となく響く槌音、そして地響き。
彼らの創作意欲は止まるところを知らない。
かくして大迷路は完成した。
しかしドワーフたちは、それで終わりとしない。
ハンターたちに、大迷路のモニターをやってくれないかと依頼した。
体験してみた感想を聞き取り、それによって最後の調整をするために。
●
妥協を許さない職人魂は称えるべきものだ。だが何事にも限度というものがある。
今ハンターたちは、疲労を覚えながらそのように思っている。
迷路に入って6時間目に突入したが、出口が見えてこない。
「……なあ、今俺たちがいるのは、一体全体どのへんだ……?」
「さあ……」
モニターならお客の身になって体験してみるのが筋。地図は見ずぶっつけ本番で迷路に挑んでみよう。
6時間前そう決めた自分たちを罵りたくなってくるぐらい、大迷路は難解至極奇々怪々であった。
「ていうか、出口は現実に存在してるのか? まさか作り忘れてるとかないよな?」
「止めてくださいよ、そういう不吉なことを言うのは……信じそうになっちゃうじゃないですか……」
この大迷路、石壁で遮られた小道を進むといった単純なものではない。『巨大な建造物の中をさ迷う』といった印象を覚えるよう設計されている。
大中小の通路や階段が枝分かれし絡み合い、至るところ無数の扉がある。
扉を開けると部屋があったり、新しい通路や階段へ直に繋がっていたり。
進めば進むほどそういった選択肢が増え、しまいにはどこをどう通ったか自分でも分からなくなり、方向感覚を失う。
『頑張れ、ゴールはすぐそこだ!』
通路にある矢印つきの張り紙も、ハンターたちの心を励ましはしなかった。何故なら――何度も苦い体験をして知ったのだが――この手の張り紙やプレートは、全く当てにならないのだ。恐らく迷路の難易度を上げるためだけに設置されているのだろう。
とはいっても、しかし、今度こそ本当にゴールが近いのではないか?
すがるような気持ちで矢印に従ってみた一行の前に、豪華な金ノブの扉が現れた。
期待を込めて開いてみる。
正面の壁に『間に合いましたか?』の文字。
ホーローびきの白い便座が青いタイルの床の上、鎮座している。
ハンターたちは黙って扉を閉めた。
改めて見れば扉の上には、ちゃんと『トイレ』と銘打ってある。
「……そういやこの迷路、トイレがやけに多いよな……」
「ああ……これまで見てきた部屋のうち半分はトイレだったな……」
「親切心なんですかね……」
乾いた会話が途切れた後、1人がしくしく泣き始めた。
「……なんでもいいからもう出たい……」
●
大迷路内には、ハンターたち以外にも迷っているものがいる。
果てしなく続くかに思える廊下をふらふら歩いているイカ型魔獣がそれだ。
この魔獣一カ月前大迷路にうっかり迷い込み、出られなくなってしまったのである。その間うまいこと獲物にも巡り会えず絶食が続き、餓死寸前。体は干からびスルメ状態。
とにかくここから出なければいけないという意識だけはあるようだ。窓に体当たりしている。その向こうにある青空の下へ行こうと。
しかし窓は割れない。どうしても割れない。
それもそのはずこの窓は、高度な魔法処理が施されたトリックアートなのだ。流れる白い雲も刻一刻変化して行く空の色も風に揺れる木々も、全部ウソ。だからいくら割ろうとしても無駄である(ちなみにこの大迷路にある窓全てが、同様にフェイクである)
……ということを理解出来るほど魔獣は利口でなかった。出られないということに苛立ち、なお激しく体当たりし続ける。
いずれこのまま力尽き消えるのであろう。
かわいそうなスルメ。
当然ながら石材建築一般、ことに地下建築の腕は一級品。仕上がりの早さ、美しさ、頑丈さ。どれをとっても他種族の追随を許さない。
そんな彼らがこの度、遊園地建設に参加することになった。
企画したのはさる豪商。所用でリゼリオへ行ったとき、リアルブルーで隆盛を極めているというテーマパークの話を聞いて、自分でもやってみたくなったのだそうだ。
ドワーフたちに任されたのは、園の目玉ともなる大迷路。地上だけでなく地下も使っていいとのこと。
それこそまさに自分たちの得意とするところ――やる気満々のドワーフたちは、腕を振るって迷路建設を始めた。
石を削り、積む。穴を掘り、固める。昼となく夜となく響く槌音、そして地響き。
彼らの創作意欲は止まるところを知らない。
かくして大迷路は完成した。
しかしドワーフたちは、それで終わりとしない。
ハンターたちに、大迷路のモニターをやってくれないかと依頼した。
体験してみた感想を聞き取り、それによって最後の調整をするために。
●
妥協を許さない職人魂は称えるべきものだ。だが何事にも限度というものがある。
今ハンターたちは、疲労を覚えながらそのように思っている。
迷路に入って6時間目に突入したが、出口が見えてこない。
「……なあ、今俺たちがいるのは、一体全体どのへんだ……?」
「さあ……」
モニターならお客の身になって体験してみるのが筋。地図は見ずぶっつけ本番で迷路に挑んでみよう。
6時間前そう決めた自分たちを罵りたくなってくるぐらい、大迷路は難解至極奇々怪々であった。
「ていうか、出口は現実に存在してるのか? まさか作り忘れてるとかないよな?」
「止めてくださいよ、そういう不吉なことを言うのは……信じそうになっちゃうじゃないですか……」
この大迷路、石壁で遮られた小道を進むといった単純なものではない。『巨大な建造物の中をさ迷う』といった印象を覚えるよう設計されている。
大中小の通路や階段が枝分かれし絡み合い、至るところ無数の扉がある。
扉を開けると部屋があったり、新しい通路や階段へ直に繋がっていたり。
進めば進むほどそういった選択肢が増え、しまいにはどこをどう通ったか自分でも分からなくなり、方向感覚を失う。
『頑張れ、ゴールはすぐそこだ!』
通路にある矢印つきの張り紙も、ハンターたちの心を励ましはしなかった。何故なら――何度も苦い体験をして知ったのだが――この手の張り紙やプレートは、全く当てにならないのだ。恐らく迷路の難易度を上げるためだけに設置されているのだろう。
とはいっても、しかし、今度こそ本当にゴールが近いのではないか?
すがるような気持ちで矢印に従ってみた一行の前に、豪華な金ノブの扉が現れた。
期待を込めて開いてみる。
正面の壁に『間に合いましたか?』の文字。
ホーローびきの白い便座が青いタイルの床の上、鎮座している。
ハンターたちは黙って扉を閉めた。
改めて見れば扉の上には、ちゃんと『トイレ』と銘打ってある。
「……そういやこの迷路、トイレがやけに多いよな……」
「ああ……これまで見てきた部屋のうち半分はトイレだったな……」
「親切心なんですかね……」
乾いた会話が途切れた後、1人がしくしく泣き始めた。
「……なんでもいいからもう出たい……」
●
大迷路内には、ハンターたち以外にも迷っているものがいる。
果てしなく続くかに思える廊下をふらふら歩いているイカ型魔獣がそれだ。
この魔獣一カ月前大迷路にうっかり迷い込み、出られなくなってしまったのである。その間うまいこと獲物にも巡り会えず絶食が続き、餓死寸前。体は干からびスルメ状態。
とにかくここから出なければいけないという意識だけはあるようだ。窓に体当たりしている。その向こうにある青空の下へ行こうと。
しかし窓は割れない。どうしても割れない。
それもそのはずこの窓は、高度な魔法処理が施されたトリックアートなのだ。流れる白い雲も刻一刻変化して行く空の色も風に揺れる木々も、全部ウソ。だからいくら割ろうとしても無駄である(ちなみにこの大迷路にある窓全てが、同様にフェイクである)
……ということを理解出来るほど魔獣は利口でなかった。出られないということに苛立ち、なお激しく体当たりし続ける。
いずれこのまま力尽き消えるのであろう。
かわいそうなスルメ。
リプレイ本文
ジュード・エアハート(ka0410)は、大迷路の前で意気を上げていた。
「わーい、こんなおっきい迷宮はじめてー! 遊んで脱出して報酬もゲーット!」
彼の小隊仲間であるダリオ・パステリ(ka2363)とアルヴィン = オールドリッチ(ka2378)も、やる気は十分。
「ふむ、冒険に迷宮はつきものゆえ、ここは一つ、見事攻略して進ぜよう」
「ヤァ、すっごく面白そうダネ! ハーティ、パッティー、皆で仲良くコノ迷宮をクリア出来る様に頑張ろうネー!」
劉 厳靖(ka4574)とアルフォード(ka4161)は余裕の表情、手持ちの酒を酌み交わしている。
「さて、ドワーフの作った迷宮ってなあどんなもんかねぇ」
「迷路ねえ……ハッハッハ! いやあ、俺なんかは人生って迷路に迷いっぱなしだぜ。まー楽しくやろうや」
アルマ・アニムス(ka4901)はフェイル・シャーデンフロイデ(ka4808)に向け、ドワーフ愛を披露している。
「ドワーフさんが作った巨大迷路……! とってもおもしろそうですっ! そう思いませんか? 見てくださいあの原石の色を生かしたモザイク模様の妙を。これこそドワーフ工法の真骨頂ですよ。ドワーフさんっていいですよね、もふもふで……」
ジョン・フラム(ka0786)は皆を代表して、迷路の扉の手をかけた。
「では、失礼しまーす」
入ってみれば円形の部屋。壁の内縁に沿って無数の扉がある。それぞれ形も大きさも、色も異なったものが。
アルフォードは葉巻に火をつけ、くゆらせた。
「しょっぱなからやたら選択肢が多いな……こいつは手ごわそうだぜ」
アルヴィンが壁に手をつけ、得意満面に言う。
「大丈夫ダヨ! なんでも、リアルブルーでは迷路攻略の鍵は左手にアルんダッテ! コウシテ左手を壁につけて行けば、自ずと出口に出られるトカ? そういうコトダカラ!」
確かにその手法は有効だ。出口が壁に沿って外周上についていてくれればの話だが。
「あ、私はここから単独行動を取りますので」
「エ、ジョンは一緒に行かないノ?」
「ええ。本件は『モニターの募集』依頼。である以上、多角的なリサーチをすべきだと思いまして。迷路を利用するお客さんがいつも集団でいるとは限らない。お一人様で楽しみたい人もいるはずです、きっと」
「ソウ? じゃあどっちが早いか競争ダ! 負けなイヨ☆」
「こちらこそ!」
● 6時間後。
ハンター7名はまだ迷路から抜け出せていなかった。
「……えっとですね。正直、甘く見てました……」
遠い目をしたアルマは急に背を曲げ、しくしく泣き始めた。
「……もうやです、おうちに帰りたい……」
アルフォードは葉巻の吸い殻を足元に投げ、今更な感想を漏らす。
「結構難易度高いんじゃねえか? この迷路」
「結構どころじゃないですよ……コレもはや迷路じゃないです。迷宮です」
ダリオはというと、床に縄を伸ばし距離を測っている。ジュードのマッピングを手伝っているのだ。
「……6メートル50」
「了解だよー、おかしら。……ふーむ、これで186分岐点に戻ってきたのか。都合30分かかったけど、この方面が閉鎖系だった事が証明されたね! 途中まで全然気づかなかったよ、すごいや♪ じゃあ次はこっちの5番方面行ってみよっか!」
その言葉を聞いたフェイルは、否応無しに疲労感が高まってくるのを覚えた。
(とんでもなく……面倒な依頼を受けちまったなぁ……帰りたい)
手持ちのマシュマロを黙々と噛み締めつつ、単独行動を取っているジョンのことを思い起こす。
入り口で別れてからこっち、一度もかち合わないばかりか気配すら感じない。
(ここを一人でとか一体何処にいるのやら)
何らかの手掛かりになればと要所要所に小石を置いてきているのだが――ダリオはナッツを、ジュードはキャンディを、アルフォードは吸い殻と灰を、同じように落として行っているのであるが――気づくだろうか。
それにしてもアルヴィンのテンションは衰えることを知らない。スキップをしながら、真っ先に進んで行く。
「サー次行って見ヨウ! 今度は何があるのカナー」
角を曲がると真っすぐな廊下。
通路両側は全面窓のトリックアート。
窓の中はそれぞれ違う時を示していた。青空、曇天、夕焼け、満点の星空。時間感覚についても撹乱しようという試みであろうか。
ダリオは壁に顔を近づけているジュードに、話しかける。
「ジュード殿、どうされた?」
「うん、この窓のところ、微妙に継ぎ目があるように見えるんだよね……」
台詞とともに壁が押された。すると、いとも簡単に動いた。隠し扉だったのだ。
中にあったのは燦然と輝く便座。
いちいち厠だと指さし確認するのも億劫になってきていたダリオは、無言の反応を示す。
ジュードは倦む事なくマップに記録。
「ええと、トイレNo333、と」
厳靖がウイスキーを片手に割り込んできた。
「なんだよまた便所かよ……ほれ、おかしらも一口どうだ? あんまし難しく考えてもうまく行かないときはいかねぇぜ? 気楽にいこうぜ!」
●その頃ジョンは。
目の前にイカがいる。偽りの窓に弱々しくぶつかり続けるイカがいる。
陸上なのにイカ。陸上というか迷宮内なのに、圧倒的にイカ。
場違いな舞台で歪虚として何の成果も得らぬまま果てて行こうとしている姿に、ジョンは激しく胸打たれた。
「一緒に……この地獄から、抜け出しましょう」
言うなり手にしていたロープでイカを縛り上げ、歩き始める。相手が埃にまみれようがキーキー鳴こうが一切スルーして。
●6時間30分後。
「わりぃ、俺ちとションベン行ってくるわ。すぐ追いつくから先に行っててくれ」
片手を挙げた厳靖はそう言い残し、来た道をいそいそ引き返して行く。
仲間たちは先に進む。アルヴィンは先頭に立ってばんばんあちこち触りまくる。
そうしているうち、壁に『ワープポイント』と書かれたボタンがついているのを見つける。
彼の後ろでは仲間たちが、扉を開いて中を確かめたり、プレートをめくって何か書かれてないかと確認したりしている。
「ところで今何時だ、ジュード」
「えーと、18時34分」
「もうそんな時間に……いつもなら、それがし夕餉をとる頃合だが」
「そりゃマシュマロも尽きるよな……」
「……ちょっと本音言っていいですか? 僕たちもしや、無理ゲーをやらされているんでは……」
とりあえず、このボタンの扱いについて彼らと相談する。
などというまどろっこしいことをアルヴィンがやるはずもなかった。何の躊躇もなく出っ張りを押す。
「エイ☆」
次の瞬間彼は、体がふっと浮くような感覚を覚えた。
床ごと降りて行く。下へ、下へ。
●その頃ジョンは。
「なんでしょう、今何かの音が聞こえたような…気のせいですかね。さあ、急ぎましょうキヨ子。私たちの戦いはこれからですよ」
彼はイカを背負って歩いている。上下逆さにくくりつけていることで頭部が地を引きずっているのだが、そんなことはおかまいなし。
「はっ! 何故かこんなところにナッツとキャンディーが点々と落ちて……! きっと天の助けです! 私たち運が向いてきましたよ!」
見つけた食料は一人で食べ、イカには渡さない。けして渡さない。
●6時間36分後。
いきなりアルヴィンが床の下に消えた。
アルフォードは煙を胸の奥まで吸い込み、盛大に吐き出す。
「魔道装置か? こんだけ大掛かりな仕掛け、初めて見たぜ……色々本気過ぎやしねえか?」
ジュードは目を輝かせる。アルヴィンを飲み込み閉じた床の周辺と、壁のボタンを見比べて。
「すごいね! 迷路にここまでやっちゃうんだ! 開発費だけで一領地買えるよ絶対! ……とりあえずリッキーはぐれちゃったみたいけど、探しに行く?」
その意見にダリオは、あまり乗り気でない。
「きっと出口に勝手に辿り着くであろうゆえ、心配ご無用と存ずるが……」
アルマがそれに異を唱える。
「僕としては、探した方がいいと思います。はぐれたら遭難しますよこれは」
フェイルは肩を回し、手のひらに拳を打ち当てた。自分自身に活を入れる為に。
「ちょっとばかし本腰入れなきゃならないみたいだな」
葉巻を指に挟み揺り動かしていたアルフォードの目は、微細な煙の流れを追いかける。
「じゃあ行くか。多分こっちだぜ」
ジュードは書き込むスペースのなくなった紙をしまい、新しい紙を取り出し、マップ2号と書き入れた。
「何か目当てでも?」
「カンだカン。船乗りのカンってやつだな――ああ、そういやお前も船乗りだったんだってな」
「そうだよ。今は一介の菓子屋だけどね、いずれ海商になるつもりなんだ。自前の船を手に入れてね」
●7時間20分後。
厳靖は1人で迷路をさ迷っている。
用を済ませて出てみたら、自分がどちらから来たのか分からなくなった。とりあえずこっちだろうと見定めて歩いていたら、大間違いであったという次第。
「まいった、はぐれたな……あいつらどこ行ったんだ?」
しかし持ち前の観察力を最大限発揮し、通った覚えのある道筋までは、なんとか戻って来れた。
そこで急遽立ち止まる。首を巡らせ一方向を見定め、足を速める。
声が聞こえたのだ。
「もう少しですキヨ子、頑張れキヨ子!」
(この声は、ジョン?)
行ってみれば確かにジョンだった。人間大の干からびたイカを、背中にくくりつけている。
一見しただけではよく事態が掴めなかったので、本人に質す。
「おい、なんだそりゃあ」
「ああ、これは私のソウルメイトのキヨ子です。キヨ子、ご挨拶。『ハーイ、コンニチハー。ワタシキヨコ』」
イカを使った腹話術に厳靖が突っ込みを入れなかったのは、ただただ面倒臭かったからである。
「へえ、そうかい。ところで、ここに来る途中、誰かに会わなかったか?」
「いいえ。ここに入ってから会ったのは、厳靖さんが初めてですよ」
彼がそう言ったとき、チーンという音が聞こえた。
近くの扉が開き、5人の愉快な仲間たちが出てくる。
厳靖は目をぱちくりさせ、彼らに尋ねた。
「お前ら、何をどうやったんだ?」
「ああ、ワープポイントを使ったんだよ」
「なんだそりゃあ」
「うーん、一言で言うと昇降装置ってとこかな。魔導術と水力併用してるみたいで」
ジュードが説明している間にダリオとフェイルは、歪虚まっしぐら。
「見つけたり歪虚ォオオオオオオ!」
「海でもなくこーんな迷宮で一生を終えるとかまぁーじ可哀想だけどさー。まあついてなかったってことでぇー!」
イカは一瞬で短い一生を終えた。
残ったものは何もない。歪虚化が進みすぎていたのだ。
ジョンは号泣した。
「キヨ子……? キヨ子!? ウソだろ……一緒に戦場を潜り抜けたじゃないか! 大草原に寝転がり、星空を仰ぎながら将来の夢を語り合ったじゃないかっ! 目を開けてくれキヨ子、キヨ子-!」
面食らったアルマは、厳靖に耳打ちする。
「あのー、ジョンさんは一体どうされたのでしょうか」
「気にすんな、単なる小芝居だ。まあ兎にも角にもこれでまた全員合流……いや、アルヴィンがいねえな。あいつはどこに行ったんだ?」
その質問が終わる前に、またチーンと音がした。
近くの扉が開き、アルヴィンが出てくる。
「ヤヤッ、皆また会えタネ! いやー、楽しイヨ、このワープ。どこに出るのか全然分からクテ。サ、皆で出口を探ソウ☆」
いまだ衰えを見せぬテンションの高さを維持しつつ、いの一番に歩きだすアルヴィン。
まだ泣き濡れているジョンの肩をジュードが叩き、慰める。
「嘆いていても始まらないよ、オタキアゲで供養したと思おう」
ダリオ、厳靖、アルフォードが続ける。
「然り。イカは炙れば香ばしさが増す……さぞや酒に合うであろう」
「おお、ツマミに最高だと思うぜ! 消えちまったのは残念だったな。あれだけでかかったら食べ甲斐ありそうなもんだが」
「歪虚じゃなあ……食あたりとかしちまうんじゃねえかい?」
ションは鼻を噛み、涙を拭く。
「食あたりしてもいいから食べたかった……イカ刺し、イカ焼き、イカ飯……イカリング」
あれだけキヨ子キヨ子騒いでいたのは一体なんだったのか。
ちょっとイカがかわいそうになってきたアルマは、心で黙祷を捧げておいた。
●8時間54分後。
一同はようやくゴールにたどり着く。そこは迷路の中央にあった。
スタート地点と同様、円形の部屋。ただし扉は入り口以外一つもない。
天井から一本紐が垂れている。ちょうど手の届く高さまで。
引けということなのだろう。
その意図があまりにもあからさまで逆に気になる――という警戒心を全然持ち合わせていないアルヴィンは、それに駆け寄った。
ダリオが「リッチー、ちょっと待」と言いかけたときには、もう紐を引いていた。
ガコン。
不吉な響きがした。
壁に無数の穴が空き、滝のように水が噴き出す。
同時に床が開く。
ズゴゴゴゴ……
渦を巻いた水がハンターたちを次々に飲み込んで行く。
アルマの悲鳴も。
「なんでこんなものがあるんですかぁっ!?」
●9時間後。
水面に月が映っている。
ハンターたちはプールからはい上がった。
ストップウオッチを持ったドワーフたちが、わらわらと寄ってくる。
「ジャスト9時間でしたの」
「どうでしたかな、ウォータースライダーと連動した脱出口の仕上がりは」
ジュードとアルヴィンは2人そろって愉快そうだ。
「すーっごく楽しかったよ! でもデートにはちょっと物足りないかもー。似たような部屋ばっかりだけじゃなくてもっと雰囲気のある内装だとよいかなー。このマップを参考にしてよ、色々書き込んでおいたから。いやー、耐水性インク使っててよかった♪」
「個人的には動く通路トカ、上ってるうちドンドン傾いてクル階段とかもあればイイと思うヨ。後ハ通るタビ模様が変わる壁トカー、押しちゃイケナイ系のボタンもモット増やすトカー」
これ以上難易度を上げてどうする。
思うフェイルは濡れた髪をかき上げもせず、呟いた。
「感想? 二度とはいりたくないねぇ…。まあ途中リタイヤできるようリタイヤ用の扉をトイレの代わりにつけとけば客が喜ぶかもしれないなぁ…」
水でがぼがぼになった靴を脱ぎ引っ繰り返すアルフォードと厳靖は、その意見に賛成した。
「ああ、そりゃいいな」
「確かにな。家族連れとかには重宝されると思うぜ、その機能」
アルマは手近なドワーフを捕まえ、熱烈にもふくり回す。
「ハンターでも脱出が難しいようなものを一般人に開放したらどんな悲劇が起こるか……! 難易度を下げるべきですっ! 絶対に下げるべきですっ!」
頭を傾け耳に入った水を取ろうとしているダリオは、袖をくんくんやっているジョンに聞く。
「いかがなされたか?」
「――ずっとイカ背負ってたせいで、なんか生臭い……帰ったら風呂に入らないと」
「……そうされるがよかろうな」
「わーい、こんなおっきい迷宮はじめてー! 遊んで脱出して報酬もゲーット!」
彼の小隊仲間であるダリオ・パステリ(ka2363)とアルヴィン = オールドリッチ(ka2378)も、やる気は十分。
「ふむ、冒険に迷宮はつきものゆえ、ここは一つ、見事攻略して進ぜよう」
「ヤァ、すっごく面白そうダネ! ハーティ、パッティー、皆で仲良くコノ迷宮をクリア出来る様に頑張ろうネー!」
劉 厳靖(ka4574)とアルフォード(ka4161)は余裕の表情、手持ちの酒を酌み交わしている。
「さて、ドワーフの作った迷宮ってなあどんなもんかねぇ」
「迷路ねえ……ハッハッハ! いやあ、俺なんかは人生って迷路に迷いっぱなしだぜ。まー楽しくやろうや」
アルマ・アニムス(ka4901)はフェイル・シャーデンフロイデ(ka4808)に向け、ドワーフ愛を披露している。
「ドワーフさんが作った巨大迷路……! とってもおもしろそうですっ! そう思いませんか? 見てくださいあの原石の色を生かしたモザイク模様の妙を。これこそドワーフ工法の真骨頂ですよ。ドワーフさんっていいですよね、もふもふで……」
ジョン・フラム(ka0786)は皆を代表して、迷路の扉の手をかけた。
「では、失礼しまーす」
入ってみれば円形の部屋。壁の内縁に沿って無数の扉がある。それぞれ形も大きさも、色も異なったものが。
アルフォードは葉巻に火をつけ、くゆらせた。
「しょっぱなからやたら選択肢が多いな……こいつは手ごわそうだぜ」
アルヴィンが壁に手をつけ、得意満面に言う。
「大丈夫ダヨ! なんでも、リアルブルーでは迷路攻略の鍵は左手にアルんダッテ! コウシテ左手を壁につけて行けば、自ずと出口に出られるトカ? そういうコトダカラ!」
確かにその手法は有効だ。出口が壁に沿って外周上についていてくれればの話だが。
「あ、私はここから単独行動を取りますので」
「エ、ジョンは一緒に行かないノ?」
「ええ。本件は『モニターの募集』依頼。である以上、多角的なリサーチをすべきだと思いまして。迷路を利用するお客さんがいつも集団でいるとは限らない。お一人様で楽しみたい人もいるはずです、きっと」
「ソウ? じゃあどっちが早いか競争ダ! 負けなイヨ☆」
「こちらこそ!」
● 6時間後。
ハンター7名はまだ迷路から抜け出せていなかった。
「……えっとですね。正直、甘く見てました……」
遠い目をしたアルマは急に背を曲げ、しくしく泣き始めた。
「……もうやです、おうちに帰りたい……」
アルフォードは葉巻の吸い殻を足元に投げ、今更な感想を漏らす。
「結構難易度高いんじゃねえか? この迷路」
「結構どころじゃないですよ……コレもはや迷路じゃないです。迷宮です」
ダリオはというと、床に縄を伸ばし距離を測っている。ジュードのマッピングを手伝っているのだ。
「……6メートル50」
「了解だよー、おかしら。……ふーむ、これで186分岐点に戻ってきたのか。都合30分かかったけど、この方面が閉鎖系だった事が証明されたね! 途中まで全然気づかなかったよ、すごいや♪ じゃあ次はこっちの5番方面行ってみよっか!」
その言葉を聞いたフェイルは、否応無しに疲労感が高まってくるのを覚えた。
(とんでもなく……面倒な依頼を受けちまったなぁ……帰りたい)
手持ちのマシュマロを黙々と噛み締めつつ、単独行動を取っているジョンのことを思い起こす。
入り口で別れてからこっち、一度もかち合わないばかりか気配すら感じない。
(ここを一人でとか一体何処にいるのやら)
何らかの手掛かりになればと要所要所に小石を置いてきているのだが――ダリオはナッツを、ジュードはキャンディを、アルフォードは吸い殻と灰を、同じように落として行っているのであるが――気づくだろうか。
それにしてもアルヴィンのテンションは衰えることを知らない。スキップをしながら、真っ先に進んで行く。
「サー次行って見ヨウ! 今度は何があるのカナー」
角を曲がると真っすぐな廊下。
通路両側は全面窓のトリックアート。
窓の中はそれぞれ違う時を示していた。青空、曇天、夕焼け、満点の星空。時間感覚についても撹乱しようという試みであろうか。
ダリオは壁に顔を近づけているジュードに、話しかける。
「ジュード殿、どうされた?」
「うん、この窓のところ、微妙に継ぎ目があるように見えるんだよね……」
台詞とともに壁が押された。すると、いとも簡単に動いた。隠し扉だったのだ。
中にあったのは燦然と輝く便座。
いちいち厠だと指さし確認するのも億劫になってきていたダリオは、無言の反応を示す。
ジュードは倦む事なくマップに記録。
「ええと、トイレNo333、と」
厳靖がウイスキーを片手に割り込んできた。
「なんだよまた便所かよ……ほれ、おかしらも一口どうだ? あんまし難しく考えてもうまく行かないときはいかねぇぜ? 気楽にいこうぜ!」
●その頃ジョンは。
目の前にイカがいる。偽りの窓に弱々しくぶつかり続けるイカがいる。
陸上なのにイカ。陸上というか迷宮内なのに、圧倒的にイカ。
場違いな舞台で歪虚として何の成果も得らぬまま果てて行こうとしている姿に、ジョンは激しく胸打たれた。
「一緒に……この地獄から、抜け出しましょう」
言うなり手にしていたロープでイカを縛り上げ、歩き始める。相手が埃にまみれようがキーキー鳴こうが一切スルーして。
●6時間30分後。
「わりぃ、俺ちとションベン行ってくるわ。すぐ追いつくから先に行っててくれ」
片手を挙げた厳靖はそう言い残し、来た道をいそいそ引き返して行く。
仲間たちは先に進む。アルヴィンは先頭に立ってばんばんあちこち触りまくる。
そうしているうち、壁に『ワープポイント』と書かれたボタンがついているのを見つける。
彼の後ろでは仲間たちが、扉を開いて中を確かめたり、プレートをめくって何か書かれてないかと確認したりしている。
「ところで今何時だ、ジュード」
「えーと、18時34分」
「もうそんな時間に……いつもなら、それがし夕餉をとる頃合だが」
「そりゃマシュマロも尽きるよな……」
「……ちょっと本音言っていいですか? 僕たちもしや、無理ゲーをやらされているんでは……」
とりあえず、このボタンの扱いについて彼らと相談する。
などというまどろっこしいことをアルヴィンがやるはずもなかった。何の躊躇もなく出っ張りを押す。
「エイ☆」
次の瞬間彼は、体がふっと浮くような感覚を覚えた。
床ごと降りて行く。下へ、下へ。
●その頃ジョンは。
「なんでしょう、今何かの音が聞こえたような…気のせいですかね。さあ、急ぎましょうキヨ子。私たちの戦いはこれからですよ」
彼はイカを背負って歩いている。上下逆さにくくりつけていることで頭部が地を引きずっているのだが、そんなことはおかまいなし。
「はっ! 何故かこんなところにナッツとキャンディーが点々と落ちて……! きっと天の助けです! 私たち運が向いてきましたよ!」
見つけた食料は一人で食べ、イカには渡さない。けして渡さない。
●6時間36分後。
いきなりアルヴィンが床の下に消えた。
アルフォードは煙を胸の奥まで吸い込み、盛大に吐き出す。
「魔道装置か? こんだけ大掛かりな仕掛け、初めて見たぜ……色々本気過ぎやしねえか?」
ジュードは目を輝かせる。アルヴィンを飲み込み閉じた床の周辺と、壁のボタンを見比べて。
「すごいね! 迷路にここまでやっちゃうんだ! 開発費だけで一領地買えるよ絶対! ……とりあえずリッキーはぐれちゃったみたいけど、探しに行く?」
その意見にダリオは、あまり乗り気でない。
「きっと出口に勝手に辿り着くであろうゆえ、心配ご無用と存ずるが……」
アルマがそれに異を唱える。
「僕としては、探した方がいいと思います。はぐれたら遭難しますよこれは」
フェイルは肩を回し、手のひらに拳を打ち当てた。自分自身に活を入れる為に。
「ちょっとばかし本腰入れなきゃならないみたいだな」
葉巻を指に挟み揺り動かしていたアルフォードの目は、微細な煙の流れを追いかける。
「じゃあ行くか。多分こっちだぜ」
ジュードは書き込むスペースのなくなった紙をしまい、新しい紙を取り出し、マップ2号と書き入れた。
「何か目当てでも?」
「カンだカン。船乗りのカンってやつだな――ああ、そういやお前も船乗りだったんだってな」
「そうだよ。今は一介の菓子屋だけどね、いずれ海商になるつもりなんだ。自前の船を手に入れてね」
●7時間20分後。
厳靖は1人で迷路をさ迷っている。
用を済ませて出てみたら、自分がどちらから来たのか分からなくなった。とりあえずこっちだろうと見定めて歩いていたら、大間違いであったという次第。
「まいった、はぐれたな……あいつらどこ行ったんだ?」
しかし持ち前の観察力を最大限発揮し、通った覚えのある道筋までは、なんとか戻って来れた。
そこで急遽立ち止まる。首を巡らせ一方向を見定め、足を速める。
声が聞こえたのだ。
「もう少しですキヨ子、頑張れキヨ子!」
(この声は、ジョン?)
行ってみれば確かにジョンだった。人間大の干からびたイカを、背中にくくりつけている。
一見しただけではよく事態が掴めなかったので、本人に質す。
「おい、なんだそりゃあ」
「ああ、これは私のソウルメイトのキヨ子です。キヨ子、ご挨拶。『ハーイ、コンニチハー。ワタシキヨコ』」
イカを使った腹話術に厳靖が突っ込みを入れなかったのは、ただただ面倒臭かったからである。
「へえ、そうかい。ところで、ここに来る途中、誰かに会わなかったか?」
「いいえ。ここに入ってから会ったのは、厳靖さんが初めてですよ」
彼がそう言ったとき、チーンという音が聞こえた。
近くの扉が開き、5人の愉快な仲間たちが出てくる。
厳靖は目をぱちくりさせ、彼らに尋ねた。
「お前ら、何をどうやったんだ?」
「ああ、ワープポイントを使ったんだよ」
「なんだそりゃあ」
「うーん、一言で言うと昇降装置ってとこかな。魔導術と水力併用してるみたいで」
ジュードが説明している間にダリオとフェイルは、歪虚まっしぐら。
「見つけたり歪虚ォオオオオオオ!」
「海でもなくこーんな迷宮で一生を終えるとかまぁーじ可哀想だけどさー。まあついてなかったってことでぇー!」
イカは一瞬で短い一生を終えた。
残ったものは何もない。歪虚化が進みすぎていたのだ。
ジョンは号泣した。
「キヨ子……? キヨ子!? ウソだろ……一緒に戦場を潜り抜けたじゃないか! 大草原に寝転がり、星空を仰ぎながら将来の夢を語り合ったじゃないかっ! 目を開けてくれキヨ子、キヨ子-!」
面食らったアルマは、厳靖に耳打ちする。
「あのー、ジョンさんは一体どうされたのでしょうか」
「気にすんな、単なる小芝居だ。まあ兎にも角にもこれでまた全員合流……いや、アルヴィンがいねえな。あいつはどこに行ったんだ?」
その質問が終わる前に、またチーンと音がした。
近くの扉が開き、アルヴィンが出てくる。
「ヤヤッ、皆また会えタネ! いやー、楽しイヨ、このワープ。どこに出るのか全然分からクテ。サ、皆で出口を探ソウ☆」
いまだ衰えを見せぬテンションの高さを維持しつつ、いの一番に歩きだすアルヴィン。
まだ泣き濡れているジョンの肩をジュードが叩き、慰める。
「嘆いていても始まらないよ、オタキアゲで供養したと思おう」
ダリオ、厳靖、アルフォードが続ける。
「然り。イカは炙れば香ばしさが増す……さぞや酒に合うであろう」
「おお、ツマミに最高だと思うぜ! 消えちまったのは残念だったな。あれだけでかかったら食べ甲斐ありそうなもんだが」
「歪虚じゃなあ……食あたりとかしちまうんじゃねえかい?」
ションは鼻を噛み、涙を拭く。
「食あたりしてもいいから食べたかった……イカ刺し、イカ焼き、イカ飯……イカリング」
あれだけキヨ子キヨ子騒いでいたのは一体なんだったのか。
ちょっとイカがかわいそうになってきたアルマは、心で黙祷を捧げておいた。
●8時間54分後。
一同はようやくゴールにたどり着く。そこは迷路の中央にあった。
スタート地点と同様、円形の部屋。ただし扉は入り口以外一つもない。
天井から一本紐が垂れている。ちょうど手の届く高さまで。
引けということなのだろう。
その意図があまりにもあからさまで逆に気になる――という警戒心を全然持ち合わせていないアルヴィンは、それに駆け寄った。
ダリオが「リッチー、ちょっと待」と言いかけたときには、もう紐を引いていた。
ガコン。
不吉な響きがした。
壁に無数の穴が空き、滝のように水が噴き出す。
同時に床が開く。
ズゴゴゴゴ……
渦を巻いた水がハンターたちを次々に飲み込んで行く。
アルマの悲鳴も。
「なんでこんなものがあるんですかぁっ!?」
●9時間後。
水面に月が映っている。
ハンターたちはプールからはい上がった。
ストップウオッチを持ったドワーフたちが、わらわらと寄ってくる。
「ジャスト9時間でしたの」
「どうでしたかな、ウォータースライダーと連動した脱出口の仕上がりは」
ジュードとアルヴィンは2人そろって愉快そうだ。
「すーっごく楽しかったよ! でもデートにはちょっと物足りないかもー。似たような部屋ばっかりだけじゃなくてもっと雰囲気のある内装だとよいかなー。このマップを参考にしてよ、色々書き込んでおいたから。いやー、耐水性インク使っててよかった♪」
「個人的には動く通路トカ、上ってるうちドンドン傾いてクル階段とかもあればイイと思うヨ。後ハ通るタビ模様が変わる壁トカー、押しちゃイケナイ系のボタンもモット増やすトカー」
これ以上難易度を上げてどうする。
思うフェイルは濡れた髪をかき上げもせず、呟いた。
「感想? 二度とはいりたくないねぇ…。まあ途中リタイヤできるようリタイヤ用の扉をトイレの代わりにつけとけば客が喜ぶかもしれないなぁ…」
水でがぼがぼになった靴を脱ぎ引っ繰り返すアルフォードと厳靖は、その意見に賛成した。
「ああ、そりゃいいな」
「確かにな。家族連れとかには重宝されると思うぜ、その機能」
アルマは手近なドワーフを捕まえ、熱烈にもふくり回す。
「ハンターでも脱出が難しいようなものを一般人に開放したらどんな悲劇が起こるか……! 難易度を下げるべきですっ! 絶対に下げるべきですっ!」
頭を傾け耳に入った水を取ろうとしているダリオは、袖をくんくんやっているジョンに聞く。
「いかがなされたか?」
「――ずっとイカ背負ってたせいで、なんか生臭い……帰ったら風呂に入らないと」
「……そうされるがよかろうな」
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/21 12:10:30 |
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抜け出せ!ラビリンス☆ アルヴィン = オールドリッチ(ka2378) エルフ|26才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/05/24 20:31:05 |