ゲスト
(ka0000)
【讐刃】憎悪の剣
マスター:松尾京

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/23 07:30
- 完成日
- 2015/05/30 09:40
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●影
ルイスは森の中、『影』に向かって言った。
「覚醒者の、たったの数人にも勝てなかった。俺は、強くなってないんだ」
マントで体を覆った、漆黒の影は、首を振る。
「ルイスよ。一度や二度の失策で、自分を責めるな。生きている時点で、お前の勝ちだ。覚醒者は、これからいくらでも殺せるのだからな」
「だが、俺は……」
「ルイス」
「……」
「案ずるな。人形は、また貸してやる。お前はもっと、強くなれる」
影はかすかに笑った。
●仇
数日後。
一人のとある山賊が、その日も獲物を見つけんと、山に潜んでいた。
名は、ガムズ。無精髭に、着古した衣服。そして血で汚れた手斧。
手慣れた悪漢で――同時に、覚醒者でもあった。
「この山は久しぶりだからな――食費程度稼げれば、いいか」
ガムズは言って、卑しく笑う。
ハンターすら殺したことのある男である。仕事を失敗する不安はなかった。山に入る全員が、カモだ。
「しかし、相変わらず人が少ねえな」
この山、いつ以来だったか記憶も曖昧だが……朝から獲物にありつけていなかった。
仕方ない、と。潜伏場所を変えようとした、そのときだ。
ばすっ、と。突如、乾いた音がガムズの足元を通過した。
「? 銃弾、か……!」
狙撃されている、と気付いたガムズは、素速く移動した。
何でこんな山で。ついてない――思う間も、連続で銃声は追ってくる。
最初の狙撃は、実力を計るためにわざと外したのだとでもいうような、正確さをもって。
そして強烈な痛み。遅れて、ガムズは自分が撃たれたと理解した。
「く、くそ……!」
ガムズの脚が言うことを聞かなくなったあたりで――ようやく、人影は出てきた。
ばさっ!と、ガムズの腹を剣で切りながら。
「ぐお……、な、何もん、だ……!」
うめきながら、ガムズは目を懲らす。
それは、フードを被った痩身の男だった。薄暗く、どこか生気がない。
何にせよ、ただ者じゃない。同業者か?
ただ、ガムズが見ていると――その人影は止まっていた。
ガムズは怪訝な面持ちになる。
――何だこいつは……? 装備から察するに、ハンター、か……?
制止している男に、どう対処したものかと考えていると。
男は――ガムズを見て、目を見開いていた。体を、小さく震わせて。
「貴様、どこかで見たことが、あると思ったら……。――嗚呼」
突如、感動したような哀しむような顔となる。歓喜と悲嘆の、交じった声。
「山賊、山賊、山賊。見つけたぞ。貴様、単なる覚醒者じゃない……。あのとき、ジュリアを殺した男か。そうだろう? 覚えているぞ」
男――ルイスは、体をわななかせていた。
●禍根
ガムズははじめ、ルイスの言っているのが、何のことだかわからない。
だが、直後に、はっと思い出した。
それはおよそ一年前の記憶。
この山で、新米ハンターの男女をカモとして襲ったこと。そこで女の方を殺したこと。
その時は金目のものはあらかた奪えたし、男の方は斧で一振りして崖下に落としたから気にしていなかったが……間違いない。
「お前は、あのときの死に損ないの新米ハンター……」
ガムズは、かつて餌食にした男が、目の前にいる男なのだとようやく気付いた。
ルイスはひゅっと剣を振る。ぶしゅ、とガムズの脚から血が出た。
「ひっ……」
ガムズは、恐怖に顔を歪めた。あのときと違い、ルイスはガムズなどより、強い。
「ジュリア……見ているかい。君を殺した覚醒者まで、俺は見つけた。ちゃんと、見ていてくれよ。殺して殺して、ずたずたにしてやる」
ひと思いにはやらない、とでもいうように、ルイスはガムズを切っていく。
「ひ、ひぃ……!」
ガムズは這いつくばって逃げながら――あの日のルイスのように、崖下に転げ落ちた。
ルイスははっとする。
「逃がした、か――? いいや。逃さない。すぐに仇は取る」
そうして、急いで山を下りはじめた。
その様子を、離れた位置から影が見ていた。
「ふむ――ルイスめ。言ったそばから、冷静さに欠いた行動を……」
だが、ルイスが山賊を追った理由を思えば、わからなくもない。禍根のある山賊と出会ったとは、中々の偶然だ。
「まあ、それも一興。是非、近くで見させてもらおう」
影は、すた、と地に降り立つと――ルイスの後を追った。
●その村で
ガムズは傷だらけになって、ふもとの村に逃げ込んでいた。
とはいえ、身の安全が保証されたわけではない。ルイスに見つかれば、待つのは死だ。
「だ、誰か……」
ガムズは半ば平静を失って、必死で村中をかけずり回った。
すると、運の良いことに――そこに、別の依頼の帰りで村に留まっていた、ハンターの姿を見つけた。
ガムズは救われた気持ちでひざまずいた。
「た、助けてくれ! こ、殺されそうなんだ!」
ハンターは、ガムズの尋常でない様子に、顔を見合わせる。
ハンターが詳しい事情をたずねると――ガムズは一瞬だけ迷った。が、結局、真実を話した。
ルイスが来れば明らかになることだし、迷っている暇などなかった。
「……俺に復讐しようとしているやつがいるんだ」
それからガムズは、とうとうと語る。かつて襲った男女のこと。残った男が今、自分の前に現れたこと……。
「ああそうだ。俺からまいた種だよ。やったことにいいわけをするつもりは、ねえ。……でも! このままじゃ、殺される」
ガムズは涙目で頭を床にこすりつけた。
「命が助かるなら、償いでも何でも、する。だから、あいつをどうにかしてくれ」
そこで外から騒ぎの音が聞こえた。
窓の外、林の向こうに……フードを被った集団がいた。
そしてそれを統べる男――ルイスも。
あたりに、ルイスの声が響く。
「ここに、奴が――怪我をした山賊の覚醒者が逃げ込んだはずだ。出せ。出さないならこっちから探す」
「あ、あいつだ。頼む……助けてくれ!」
ガムズは懇願した。
ルイスは森の中、『影』に向かって言った。
「覚醒者の、たったの数人にも勝てなかった。俺は、強くなってないんだ」
マントで体を覆った、漆黒の影は、首を振る。
「ルイスよ。一度や二度の失策で、自分を責めるな。生きている時点で、お前の勝ちだ。覚醒者は、これからいくらでも殺せるのだからな」
「だが、俺は……」
「ルイス」
「……」
「案ずるな。人形は、また貸してやる。お前はもっと、強くなれる」
影はかすかに笑った。
●仇
数日後。
一人のとある山賊が、その日も獲物を見つけんと、山に潜んでいた。
名は、ガムズ。無精髭に、着古した衣服。そして血で汚れた手斧。
手慣れた悪漢で――同時に、覚醒者でもあった。
「この山は久しぶりだからな――食費程度稼げれば、いいか」
ガムズは言って、卑しく笑う。
ハンターすら殺したことのある男である。仕事を失敗する不安はなかった。山に入る全員が、カモだ。
「しかし、相変わらず人が少ねえな」
この山、いつ以来だったか記憶も曖昧だが……朝から獲物にありつけていなかった。
仕方ない、と。潜伏場所を変えようとした、そのときだ。
ばすっ、と。突如、乾いた音がガムズの足元を通過した。
「? 銃弾、か……!」
狙撃されている、と気付いたガムズは、素速く移動した。
何でこんな山で。ついてない――思う間も、連続で銃声は追ってくる。
最初の狙撃は、実力を計るためにわざと外したのだとでもいうような、正確さをもって。
そして強烈な痛み。遅れて、ガムズは自分が撃たれたと理解した。
「く、くそ……!」
ガムズの脚が言うことを聞かなくなったあたりで――ようやく、人影は出てきた。
ばさっ!と、ガムズの腹を剣で切りながら。
「ぐお……、な、何もん、だ……!」
うめきながら、ガムズは目を懲らす。
それは、フードを被った痩身の男だった。薄暗く、どこか生気がない。
何にせよ、ただ者じゃない。同業者か?
ただ、ガムズが見ていると――その人影は止まっていた。
ガムズは怪訝な面持ちになる。
――何だこいつは……? 装備から察するに、ハンター、か……?
制止している男に、どう対処したものかと考えていると。
男は――ガムズを見て、目を見開いていた。体を、小さく震わせて。
「貴様、どこかで見たことが、あると思ったら……。――嗚呼」
突如、感動したような哀しむような顔となる。歓喜と悲嘆の、交じった声。
「山賊、山賊、山賊。見つけたぞ。貴様、単なる覚醒者じゃない……。あのとき、ジュリアを殺した男か。そうだろう? 覚えているぞ」
男――ルイスは、体をわななかせていた。
●禍根
ガムズははじめ、ルイスの言っているのが、何のことだかわからない。
だが、直後に、はっと思い出した。
それはおよそ一年前の記憶。
この山で、新米ハンターの男女をカモとして襲ったこと。そこで女の方を殺したこと。
その時は金目のものはあらかた奪えたし、男の方は斧で一振りして崖下に落としたから気にしていなかったが……間違いない。
「お前は、あのときの死に損ないの新米ハンター……」
ガムズは、かつて餌食にした男が、目の前にいる男なのだとようやく気付いた。
ルイスはひゅっと剣を振る。ぶしゅ、とガムズの脚から血が出た。
「ひっ……」
ガムズは、恐怖に顔を歪めた。あのときと違い、ルイスはガムズなどより、強い。
「ジュリア……見ているかい。君を殺した覚醒者まで、俺は見つけた。ちゃんと、見ていてくれよ。殺して殺して、ずたずたにしてやる」
ひと思いにはやらない、とでもいうように、ルイスはガムズを切っていく。
「ひ、ひぃ……!」
ガムズは這いつくばって逃げながら――あの日のルイスのように、崖下に転げ落ちた。
ルイスははっとする。
「逃がした、か――? いいや。逃さない。すぐに仇は取る」
そうして、急いで山を下りはじめた。
その様子を、離れた位置から影が見ていた。
「ふむ――ルイスめ。言ったそばから、冷静さに欠いた行動を……」
だが、ルイスが山賊を追った理由を思えば、わからなくもない。禍根のある山賊と出会ったとは、中々の偶然だ。
「まあ、それも一興。是非、近くで見させてもらおう」
影は、すた、と地に降り立つと――ルイスの後を追った。
●その村で
ガムズは傷だらけになって、ふもとの村に逃げ込んでいた。
とはいえ、身の安全が保証されたわけではない。ルイスに見つかれば、待つのは死だ。
「だ、誰か……」
ガムズは半ば平静を失って、必死で村中をかけずり回った。
すると、運の良いことに――そこに、別の依頼の帰りで村に留まっていた、ハンターの姿を見つけた。
ガムズは救われた気持ちでひざまずいた。
「た、助けてくれ! こ、殺されそうなんだ!」
ハンターは、ガムズの尋常でない様子に、顔を見合わせる。
ハンターが詳しい事情をたずねると――ガムズは一瞬だけ迷った。が、結局、真実を話した。
ルイスが来れば明らかになることだし、迷っている暇などなかった。
「……俺に復讐しようとしているやつがいるんだ」
それからガムズは、とうとうと語る。かつて襲った男女のこと。残った男が今、自分の前に現れたこと……。
「ああそうだ。俺からまいた種だよ。やったことにいいわけをするつもりは、ねえ。……でも! このままじゃ、殺される」
ガムズは涙目で頭を床にこすりつけた。
「命が助かるなら、償いでも何でも、する。だから、あいつをどうにかしてくれ」
そこで外から騒ぎの音が聞こえた。
窓の外、林の向こうに……フードを被った集団がいた。
そしてそれを統べる男――ルイスも。
あたりに、ルイスの声が響く。
「ここに、奴が――怪我をした山賊の覚醒者が逃げ込んだはずだ。出せ。出さないならこっちから探す」
「あ、あいつだ。頼む……助けてくれ!」
ガムズは懇願した。
リプレイ本文
●作戦
「なんだ、この間のやつか……」
ネイハム・乾風(ka2961)は窓の外を見て息をつく。
ルイスとの戦闘は記憶に新しい。だからこそ、油断のならない相手だともわかっていた。
ネイハムが、ルイスの情報を皆と共有すると――作戦が、八人の間で自ずと組み上がっていく。
「お、おい……一体何の話をしているんだ? 俺を守ってくれるのか?」
いまだ混乱状態でガムズが言うと、柏木 秋子(ka4394)は静かに語った。
「私たちと同行すること。その間は縛って自由を奪わせてもらうこと。この条件であれば、命に代えても貴方をお守りしましょう」
ただし破った場合は――と秋子が刀身を見せると、ガムズはたたらを踏む。
「ま、待てよ。どうして俺が、縛られたりしなくちゃいけないんだ」
逃げるそぶりを見せるガムズを……イグレーヌ・ランスター(ka3299)は容赦なく掴み上げた。
「勘違いをするな。私達は、逃がしてやると言っているわけではない」
「ひ……」
「貴様の処遇は司法が決める。ただ、この騒ぎを収めるために協力はしてもらう、ということだ」
結局、ガムズに選択肢はない。
うなだれたガムズをロープで縛ると……八人は屋外に出た。ガムズを連れる者、村の中へ移動する者、そしてルイスへと向かう者に分かれて。
ルイスは道から現れた二人に目を向けた。
「お前らは? 何の用だ」
その一人、先頭を歩く辻・十字朗(ka4739)は両手を挙げ、無抵抗の意思を表している。
「言伝を預かって来た者ですが――」
言いながら近づく。それは覚醒者と気付かれぬためだったが――
ばすばすっ! ルイスは二人の足元を狙撃した。後ろの堂島 龍哉(ka3390)が視界に入ったときから、既に疑ってかかっていたようだ。
二人がとっさに避けたの見て、確信したように睨んだ。
「貴様等、覚醒者だな……!」
剣を抜いて迫るが――ぎぃん! 龍哉が、拳銃の銃身で受けた。ルイスの至近で言う。
「焦らないでもらおう。我々はここで戦うつもりはない」
「そんな言葉を聞くと思うか! 全員、殺してやる」
「騙そうとしたのは、申し訳ありません。ですが――本当にいいのですか?」
十字朗が冷静に口を挟む。こうなれば、隠し立てする必要もない。
「ここで戦おうというのなら……足手まといの山賊、ガムズは処分してからになりますが」
ルイスは目を見開く。
龍哉があとを継いだ。
「そうだ。キミの仇は、我々が守っている。殺したくば村の外、東側までこい。臆病者のキミとは違い、我々は逃げも隠れもしない」
ルイスは刃物のような視線で二人を見た。
ただ、ガムズのことを持ち出されたからか、それ以上のことはしない。
人形に命令し、二人を囲む。自身も武器を突きつけた。
「案内しろ」
ガムズを連れた四人は、東へ向かう。ルイスの発砲のあと、人形全体が彼へ近づくように動いたので、戦闘は避けられていた。
「……なんとか、誘導はうまくいきそうですね」
秋桜(ka4378)がトランシーバーを片手に言った。十字朗の持つトランシーバーから、常時やり取りを拾っていたのだ。
「今度こそ、彼を止めたいですね……」
「ええ。ここで、捕まえましょう。歪虚のことも、気になります」
秋桜の言葉に、八代 遥(ka4481)も頷いた。
ともあれ、優先すべきは村人の命だ。ルイスが既に動いているとなれば、隠れている必要もない。
「皆さん、外に出ないでください! 歪虚もいて危険です!」
遥は東へ出る際に、近隣の家に通達した。イグレーヌも、遥と一緒に呼びかける。
西から、ルイスと人形が向かってくるのが見えた。
今回は必ずやり遂げる――秋子は刀を握り、心に誓う。
●対峙
ルイスが血眼で移動するのを、龍崎・カズマ(ka0178)は南側の林から見ていた。
「……さて。こっちも動くかね」
言って向くのは、南の道にいる人形。
ルイスはしっかりと、人形を二体、村に残していた。その一体がここにいる。
「とりあえず、村人の逃げ道は確保させてもらおうか」
瞬間、カズマは林を抜け、その一体へ不意打ちの部位狙い。がきっ! 強襲された人形は、ライフルを取り落とした。
それでも素手で反撃する人形だが――ばっ、とカズマはドッジダッシュで回避する。
素速く武器を拾い、攻撃を狙う人形の体を――
ばしゅうっ、と飛来した弾丸が冷気で固めた。
向かいの林から、瞳を赤紫色に染めたネイハムが、レイターコールドショットを放ってきていた。
「悪いな、ネイハム」
「いいよ。どうせ最終的には全員倒すわけだからね……」
動きの鈍った人形の攻撃を躱し、カズマは斬撃。続くネイハムの狙撃で……人形は消滅した。
ネイハムは敵戦力を鑑みて、東へ向かうことに決めた。
カズマは、村中の人形を狙う。
東の野原。地を踏みしめて出てきたルイスは、遥と秋桜、イグレーヌと秋子――そして、捕らえられているガムズを発見し、顔を憎悪に歪めた。
「見つけた。見つけたぞ。殺してやる。ジュリア、待っていてくれ」
そう言って、六体の人形に戦闘態勢を取らせた。
「今更ですが。話し合うことは、出来ませんか」
案内をされられた十字朗が言う――が、ルイスの耳には届かない。
「殺せ」
殺意だけを漲らせ、ルイスは、ハンターたちに人形をけしかけた。
龍哉は、槍を持った人形の攻撃を受けつつも、全速力で距離を取る。その腕から、稲妻状のオーラが迸った。
「もはや駆け引きは無意味のようだ。やることは、一つだろう」
――刃を、交えるだけ。それが、ここにある現実だ。
「是非もありませんね」
言うと、十字朗は斧を持った人形の一撃を躱す。そして武器を取りに一時、村へ走った。
人形は、剣、槍を持った人形がそれぞれ二体ずつと、ライフルと斧持ちが一体ずつ。
そんな中、ルイスもライフルを構えている。ガムズだけをめがけて。
「申し訳ありませんが、やらせませんよ」
だが、遥がその前に魔法を使っていた。
銀色に染まり、毛先だけがピンクになった髪を翻し、発現させるのは……アースウォール。どおぉっ! 巨大な土壁がガムズを守った。
それは、ルイスのライフルの一撃で弾けて消える。が、ガムズは無傷だ。
同時、土砂の鎧がガムズを纏っていく。秋桜のストーンアーマーだ。
「これで少しは、ましになるはずです」
そして――きぃん!と、振り抜かれる刀。侍の幻影を背後に浮かべる、秋子だ。
衝撃をその身に受けながら、後方の人形が撃ったライフルの弾道を、刀で逸らしていた。
ガムズは息を呑む。
「……あんたら、強えんだな」
「約束は守ってこそ、というだけです。お怪我はありませんか」
戸惑いつつ頷くガムズに、ルイスは憤りを浮かべて接近を試みるが――どすっ!
イグレーヌのレイターコールドショットがルイスの腕を襲った。両手の甲から腕に紅色の刻印を浮かべ、イグレーヌは視線でもルイスを射貫く。
「よそ見をしている場合か?」
「貴様等――!」
ルイスは激昂。ハンターを排除しようと、自分より先に人形を五体、一気に差し向けた。
秋桜と遥はすぐに反応。ルイスと人形が離れる前に――ファイアーボール。
ごおぉっ! 爆発した火球がルイスと三体の人形を包む。ルイスは苦しげに下がり、人形一体を盾に、手から光を生んだ。治癒の能力だ。
焼かれた人形も死には至らず、四体が秋桜と秋子、遥に、剣と槍での斬撃を見舞った。
四体は、さらに追撃を狙ってくるが――ばらららっ!
突如張られた弾幕に、その動きを止めた。
「少しおとなしくしてなよ……」
西から走り込む、ネイハムの制圧射撃だ。
直後、別方向から飛んだ矢が――どっ、とルイスの肩に刺さった。距離を取り、弓を引き絞っていた龍哉だ。
「がっ……!」
ルイスは思わず、膝をつく。
●刃
カズマは村に残る最後の人形とにらみ合っていた。北側の道にいる、斧を持った一体だ。
「さっさと終わらせようぜ。来いよ」
カズマが前に立つと、人形はざっ、と襲ってくる。ふわっ、とカズマはアクロバティックに躱すと、後ろを取る。人形は斧を振り回してきたが――カズマは振動刀で受けた。
至近から部位狙いで攻め、数度斬り合うと――人形は瀕死になり、倒れ込む。
「お前らは、誰に使われてる?」
人形は答えない。文字通りの、操り人形だ。ざんっ、とカズマはとどめを刺した。
東は戦えていると判断すると――カズマは村人の誘導に移った。
ルイスは苦悶を浮かべていた。
「く……そ……」
ルイスも、一人の覚醒者でしかない。その体力は、もう尽きかけていた。
ごうっ! ルイスの顔を照らすように炎が爆ぜる。秋桜と遥のファイアーボールで、三体の人形が一度に消し飛んでいた。残る前衛の剣の一体とは――ぎぃん!と秋子が切り結んでいた。
最後衛、ライフル持ちの人形が狙撃を狙う――が、その人形も、後ろから斬撃を喰らった。
「少々遅れました。すぐに――取り戻させてもらいます」
村から戻った十字朗だ。
大太刀を構え、右目に幻影の炎を灯す。人形がライフルを構えるが――ざっ、と十字朗は素速く背後に回っている。
居合いからの、疾風剣。ずおっ!と人形の体を大きく切り裂く。
ルイスを守っていた一体が支援に入ろうとする。だが、その一体をイグレーヌと龍哉の矢が襲い、行動を許さない。
場の形勢は、変わっていた。ぽたぽたと血を垂らすルイスに、十字朗は言った。
「もう、諦めてはどうですか」
ルイスは浅い息でにらむ。
「馬鹿な、ことを……」
「最後までやってもいいけど……結果は変わらないと思うよ」
「おとなしく、捕縛されることだ」
ネイハムとイグレーヌが言うと――しかしルイスは、笑った。
「はは……ははは!」
そして何かを決心したように、行け!と人形に命令した。
同時、自身も突撃する。
残る人形全員に自分を守らせての、ガムズへの特攻だった。
距離は、短い。ガムズは目と鼻の先だ。
「――彼を!」
遥は叫びながら、妨害する位置にアースウォールを生み出す。ばぁん!と、それは人形のライフルの狙撃一発で砕ける。秋子はガムズの盾になる位置に動くが――槍の人形がそれを妨害。イグレーヌと龍哉はルイスに矢を放つが、ルイスはそんなものに構わず、進んだ。
「ジュリア……!」
防御を軽視した進軍――否。
はじめから、先のことなど考えない、それはただの感情の発露だった。
秋桜はガムズにストーンアーマーをかける。だが既に傷ついているガムズが、ルイスの刃をそれで防ぐことは出来なかった。
全身を血まみれにして、ルイスは、ガムズの心臓を剣で貫いた。
「……あ……」
ガムズはそのまま倒れる。地面に血だまりを広げると……それきり、息絶えた。
ルイスは立ちつくしてから、笑った。
「はは、ははは! やった、やったぞ! 見てるか、ジュリア。俺は……俺は……」
からん、と。
ルイスは剣を地面に落とした。力を失ったように、うなだれる。
「どうして……こんなに……。虚しい――?」
「そんなの……そんなの、当たり前でしょう」
秋桜は、小さく言うだけだった。秋子がルイスに刀を突きつける。
「ルイス。ここまでです」
それにも、ルイスは芳しい反応を見せない。戦いは、終わりだった。
だが。ネイハムにロープで縛られそうになると、ルイスはうめいた。
「そうだ……俺は……。こんなところで終われない……! まだ、仇を殺しきれていないんだ」
「もう、終わりだよ」
イグレーヌの言葉にルイスは首を振った。それから腕を伸ばして剣を取る。取り巻くハンターの首を狙い、斬りつけようとしてきた。
「――馬鹿な男が」
それを止めたのは龍哉だった。矢は、ルイスの胸を貫いていた。
●影
人形は、ルイスの命令がなくなって、一時統制を失った。ハンターたちは、それらを短時間で始末した。
ルイスの息は、まだあった。だがそれが短い時間のことであるのも、明らかだった。
それは、自らが招いた死。
林に背を預けさせられたルイスを――村から合流したカズマが見下ろしていた。
「何か言い残すことがあるんなら、聞くが?」
ごぼっ、とルイスは血を吐いて……薄く笑うだけだった。何を今更、と言いたいのだろう。
「じゃ、こっちから聞かせてもらおうか。どうして、罪のない覚醒者を狙った」
カズマに続けて、遥香も言った。
「そうです……何故、仇のガムズだけでなく……? 教えてもらえませんか。どうして、それを正義だと思ったのかを」
ルイスは、薄い笑みのまま、口を開く。それは自嘲するようでもあった。
ジュリアが死んだとき、ルイスはそれを受け入れられなかったという。
そこにあるのは絶望のみ。
けれど、たった一人、『その存在』だけが言った。
「全ての煩悶を解決する方法が、あるぞ」
力強い言葉だった。
暗闇の中でルイスは、それにすがりついた。そうしてただ、それの命じるままに、仇を取り始めた。
本当は、どこかで、こんなことでジュリアが喜ぶわけもないとわかっていた。
だが、ルイスはその心の声を黙殺した。そうしないと、自分が押しつぶされてしまうから。
ルイスの声は静かだったが――また、笑う。
「だが、俺は、思うんだ。最近、本当に、ジュリアが……喜んで、くれている、と」
血に塗れたルイスの笑みは、哀れだった。
「ルイスさんの心を利用して……駒として、利用していた……」
秋桜は呟く。そういう存在が、いるということを。
何者なのかは、見当がつく。ネイハムがたずねた。
「そいつの名前は?」
「やつ、は……嫉妬の歪虚……『ナハト』――」
ずっ、と、湿った音がした。
皆がはっとする。どぽ、と口から血を流すルイスの首に――陶器の巨大な針が、刺さっていることに。
「あ……、ジュ……リ、ア――」
ルイスが声を漏らしながら、命の灯火を消す。八人は針が飛んできた方を見た。
「森からです――!」
十字朗が言って、すぐに森へ走る。他のメンバーも、武器を構えて森へ向かう。
そこにいた。
森の前にたたずむ、マントで体を隠した漆黒の影。
細身で――しかし疑いなく、強敵の気配。
イグレーヌが問答無用で放った矢を、影は躱した。そして、笑う。
「なるほど。これでは確かに、敵うはずもないか」
「貴方がナハト、ですか?」
秋子の言葉を否定せず、くつくつと笑うと――影は驚く程の跳躍力で、森へ消えた。
「いつか、会おう」
「逃がすかよ」
カズマが追おうとするが――ざざざっ! 陶器の針が広範囲に刺さり、寄せ付けなかった。
「ち……!」
影はそのまま、気配を消していった。
「使えなかったな。また、新しい玩具を探さねば……」
そんな言葉を、呟きながら。
林へ戻ると、ルイスは空を仰ぐように倒れていた。
何かを求めるような表情で息絶えた、その殺人鬼の顔を――
八人は、ほんの少しの間、静かに見下ろしていた。
「なんだ、この間のやつか……」
ネイハム・乾風(ka2961)は窓の外を見て息をつく。
ルイスとの戦闘は記憶に新しい。だからこそ、油断のならない相手だともわかっていた。
ネイハムが、ルイスの情報を皆と共有すると――作戦が、八人の間で自ずと組み上がっていく。
「お、おい……一体何の話をしているんだ? 俺を守ってくれるのか?」
いまだ混乱状態でガムズが言うと、柏木 秋子(ka4394)は静かに語った。
「私たちと同行すること。その間は縛って自由を奪わせてもらうこと。この条件であれば、命に代えても貴方をお守りしましょう」
ただし破った場合は――と秋子が刀身を見せると、ガムズはたたらを踏む。
「ま、待てよ。どうして俺が、縛られたりしなくちゃいけないんだ」
逃げるそぶりを見せるガムズを……イグレーヌ・ランスター(ka3299)は容赦なく掴み上げた。
「勘違いをするな。私達は、逃がしてやると言っているわけではない」
「ひ……」
「貴様の処遇は司法が決める。ただ、この騒ぎを収めるために協力はしてもらう、ということだ」
結局、ガムズに選択肢はない。
うなだれたガムズをロープで縛ると……八人は屋外に出た。ガムズを連れる者、村の中へ移動する者、そしてルイスへと向かう者に分かれて。
ルイスは道から現れた二人に目を向けた。
「お前らは? 何の用だ」
その一人、先頭を歩く辻・十字朗(ka4739)は両手を挙げ、無抵抗の意思を表している。
「言伝を預かって来た者ですが――」
言いながら近づく。それは覚醒者と気付かれぬためだったが――
ばすばすっ! ルイスは二人の足元を狙撃した。後ろの堂島 龍哉(ka3390)が視界に入ったときから、既に疑ってかかっていたようだ。
二人がとっさに避けたの見て、確信したように睨んだ。
「貴様等、覚醒者だな……!」
剣を抜いて迫るが――ぎぃん! 龍哉が、拳銃の銃身で受けた。ルイスの至近で言う。
「焦らないでもらおう。我々はここで戦うつもりはない」
「そんな言葉を聞くと思うか! 全員、殺してやる」
「騙そうとしたのは、申し訳ありません。ですが――本当にいいのですか?」
十字朗が冷静に口を挟む。こうなれば、隠し立てする必要もない。
「ここで戦おうというのなら……足手まといの山賊、ガムズは処分してからになりますが」
ルイスは目を見開く。
龍哉があとを継いだ。
「そうだ。キミの仇は、我々が守っている。殺したくば村の外、東側までこい。臆病者のキミとは違い、我々は逃げも隠れもしない」
ルイスは刃物のような視線で二人を見た。
ただ、ガムズのことを持ち出されたからか、それ以上のことはしない。
人形に命令し、二人を囲む。自身も武器を突きつけた。
「案内しろ」
ガムズを連れた四人は、東へ向かう。ルイスの発砲のあと、人形全体が彼へ近づくように動いたので、戦闘は避けられていた。
「……なんとか、誘導はうまくいきそうですね」
秋桜(ka4378)がトランシーバーを片手に言った。十字朗の持つトランシーバーから、常時やり取りを拾っていたのだ。
「今度こそ、彼を止めたいですね……」
「ええ。ここで、捕まえましょう。歪虚のことも、気になります」
秋桜の言葉に、八代 遥(ka4481)も頷いた。
ともあれ、優先すべきは村人の命だ。ルイスが既に動いているとなれば、隠れている必要もない。
「皆さん、外に出ないでください! 歪虚もいて危険です!」
遥は東へ出る際に、近隣の家に通達した。イグレーヌも、遥と一緒に呼びかける。
西から、ルイスと人形が向かってくるのが見えた。
今回は必ずやり遂げる――秋子は刀を握り、心に誓う。
●対峙
ルイスが血眼で移動するのを、龍崎・カズマ(ka0178)は南側の林から見ていた。
「……さて。こっちも動くかね」
言って向くのは、南の道にいる人形。
ルイスはしっかりと、人形を二体、村に残していた。その一体がここにいる。
「とりあえず、村人の逃げ道は確保させてもらおうか」
瞬間、カズマは林を抜け、その一体へ不意打ちの部位狙い。がきっ! 強襲された人形は、ライフルを取り落とした。
それでも素手で反撃する人形だが――ばっ、とカズマはドッジダッシュで回避する。
素速く武器を拾い、攻撃を狙う人形の体を――
ばしゅうっ、と飛来した弾丸が冷気で固めた。
向かいの林から、瞳を赤紫色に染めたネイハムが、レイターコールドショットを放ってきていた。
「悪いな、ネイハム」
「いいよ。どうせ最終的には全員倒すわけだからね……」
動きの鈍った人形の攻撃を躱し、カズマは斬撃。続くネイハムの狙撃で……人形は消滅した。
ネイハムは敵戦力を鑑みて、東へ向かうことに決めた。
カズマは、村中の人形を狙う。
東の野原。地を踏みしめて出てきたルイスは、遥と秋桜、イグレーヌと秋子――そして、捕らえられているガムズを発見し、顔を憎悪に歪めた。
「見つけた。見つけたぞ。殺してやる。ジュリア、待っていてくれ」
そう言って、六体の人形に戦闘態勢を取らせた。
「今更ですが。話し合うことは、出来ませんか」
案内をされられた十字朗が言う――が、ルイスの耳には届かない。
「殺せ」
殺意だけを漲らせ、ルイスは、ハンターたちに人形をけしかけた。
龍哉は、槍を持った人形の攻撃を受けつつも、全速力で距離を取る。その腕から、稲妻状のオーラが迸った。
「もはや駆け引きは無意味のようだ。やることは、一つだろう」
――刃を、交えるだけ。それが、ここにある現実だ。
「是非もありませんね」
言うと、十字朗は斧を持った人形の一撃を躱す。そして武器を取りに一時、村へ走った。
人形は、剣、槍を持った人形がそれぞれ二体ずつと、ライフルと斧持ちが一体ずつ。
そんな中、ルイスもライフルを構えている。ガムズだけをめがけて。
「申し訳ありませんが、やらせませんよ」
だが、遥がその前に魔法を使っていた。
銀色に染まり、毛先だけがピンクになった髪を翻し、発現させるのは……アースウォール。どおぉっ! 巨大な土壁がガムズを守った。
それは、ルイスのライフルの一撃で弾けて消える。が、ガムズは無傷だ。
同時、土砂の鎧がガムズを纏っていく。秋桜のストーンアーマーだ。
「これで少しは、ましになるはずです」
そして――きぃん!と、振り抜かれる刀。侍の幻影を背後に浮かべる、秋子だ。
衝撃をその身に受けながら、後方の人形が撃ったライフルの弾道を、刀で逸らしていた。
ガムズは息を呑む。
「……あんたら、強えんだな」
「約束は守ってこそ、というだけです。お怪我はありませんか」
戸惑いつつ頷くガムズに、ルイスは憤りを浮かべて接近を試みるが――どすっ!
イグレーヌのレイターコールドショットがルイスの腕を襲った。両手の甲から腕に紅色の刻印を浮かべ、イグレーヌは視線でもルイスを射貫く。
「よそ見をしている場合か?」
「貴様等――!」
ルイスは激昂。ハンターを排除しようと、自分より先に人形を五体、一気に差し向けた。
秋桜と遥はすぐに反応。ルイスと人形が離れる前に――ファイアーボール。
ごおぉっ! 爆発した火球がルイスと三体の人形を包む。ルイスは苦しげに下がり、人形一体を盾に、手から光を生んだ。治癒の能力だ。
焼かれた人形も死には至らず、四体が秋桜と秋子、遥に、剣と槍での斬撃を見舞った。
四体は、さらに追撃を狙ってくるが――ばらららっ!
突如張られた弾幕に、その動きを止めた。
「少しおとなしくしてなよ……」
西から走り込む、ネイハムの制圧射撃だ。
直後、別方向から飛んだ矢が――どっ、とルイスの肩に刺さった。距離を取り、弓を引き絞っていた龍哉だ。
「がっ……!」
ルイスは思わず、膝をつく。
●刃
カズマは村に残る最後の人形とにらみ合っていた。北側の道にいる、斧を持った一体だ。
「さっさと終わらせようぜ。来いよ」
カズマが前に立つと、人形はざっ、と襲ってくる。ふわっ、とカズマはアクロバティックに躱すと、後ろを取る。人形は斧を振り回してきたが――カズマは振動刀で受けた。
至近から部位狙いで攻め、数度斬り合うと――人形は瀕死になり、倒れ込む。
「お前らは、誰に使われてる?」
人形は答えない。文字通りの、操り人形だ。ざんっ、とカズマはとどめを刺した。
東は戦えていると判断すると――カズマは村人の誘導に移った。
ルイスは苦悶を浮かべていた。
「く……そ……」
ルイスも、一人の覚醒者でしかない。その体力は、もう尽きかけていた。
ごうっ! ルイスの顔を照らすように炎が爆ぜる。秋桜と遥のファイアーボールで、三体の人形が一度に消し飛んでいた。残る前衛の剣の一体とは――ぎぃん!と秋子が切り結んでいた。
最後衛、ライフル持ちの人形が狙撃を狙う――が、その人形も、後ろから斬撃を喰らった。
「少々遅れました。すぐに――取り戻させてもらいます」
村から戻った十字朗だ。
大太刀を構え、右目に幻影の炎を灯す。人形がライフルを構えるが――ざっ、と十字朗は素速く背後に回っている。
居合いからの、疾風剣。ずおっ!と人形の体を大きく切り裂く。
ルイスを守っていた一体が支援に入ろうとする。だが、その一体をイグレーヌと龍哉の矢が襲い、行動を許さない。
場の形勢は、変わっていた。ぽたぽたと血を垂らすルイスに、十字朗は言った。
「もう、諦めてはどうですか」
ルイスは浅い息でにらむ。
「馬鹿な、ことを……」
「最後までやってもいいけど……結果は変わらないと思うよ」
「おとなしく、捕縛されることだ」
ネイハムとイグレーヌが言うと――しかしルイスは、笑った。
「はは……ははは!」
そして何かを決心したように、行け!と人形に命令した。
同時、自身も突撃する。
残る人形全員に自分を守らせての、ガムズへの特攻だった。
距離は、短い。ガムズは目と鼻の先だ。
「――彼を!」
遥は叫びながら、妨害する位置にアースウォールを生み出す。ばぁん!と、それは人形のライフルの狙撃一発で砕ける。秋子はガムズの盾になる位置に動くが――槍の人形がそれを妨害。イグレーヌと龍哉はルイスに矢を放つが、ルイスはそんなものに構わず、進んだ。
「ジュリア……!」
防御を軽視した進軍――否。
はじめから、先のことなど考えない、それはただの感情の発露だった。
秋桜はガムズにストーンアーマーをかける。だが既に傷ついているガムズが、ルイスの刃をそれで防ぐことは出来なかった。
全身を血まみれにして、ルイスは、ガムズの心臓を剣で貫いた。
「……あ……」
ガムズはそのまま倒れる。地面に血だまりを広げると……それきり、息絶えた。
ルイスは立ちつくしてから、笑った。
「はは、ははは! やった、やったぞ! 見てるか、ジュリア。俺は……俺は……」
からん、と。
ルイスは剣を地面に落とした。力を失ったように、うなだれる。
「どうして……こんなに……。虚しい――?」
「そんなの……そんなの、当たり前でしょう」
秋桜は、小さく言うだけだった。秋子がルイスに刀を突きつける。
「ルイス。ここまでです」
それにも、ルイスは芳しい反応を見せない。戦いは、終わりだった。
だが。ネイハムにロープで縛られそうになると、ルイスはうめいた。
「そうだ……俺は……。こんなところで終われない……! まだ、仇を殺しきれていないんだ」
「もう、終わりだよ」
イグレーヌの言葉にルイスは首を振った。それから腕を伸ばして剣を取る。取り巻くハンターの首を狙い、斬りつけようとしてきた。
「――馬鹿な男が」
それを止めたのは龍哉だった。矢は、ルイスの胸を貫いていた。
●影
人形は、ルイスの命令がなくなって、一時統制を失った。ハンターたちは、それらを短時間で始末した。
ルイスの息は、まだあった。だがそれが短い時間のことであるのも、明らかだった。
それは、自らが招いた死。
林に背を預けさせられたルイスを――村から合流したカズマが見下ろしていた。
「何か言い残すことがあるんなら、聞くが?」
ごぼっ、とルイスは血を吐いて……薄く笑うだけだった。何を今更、と言いたいのだろう。
「じゃ、こっちから聞かせてもらおうか。どうして、罪のない覚醒者を狙った」
カズマに続けて、遥香も言った。
「そうです……何故、仇のガムズだけでなく……? 教えてもらえませんか。どうして、それを正義だと思ったのかを」
ルイスは、薄い笑みのまま、口を開く。それは自嘲するようでもあった。
ジュリアが死んだとき、ルイスはそれを受け入れられなかったという。
そこにあるのは絶望のみ。
けれど、たった一人、『その存在』だけが言った。
「全ての煩悶を解決する方法が、あるぞ」
力強い言葉だった。
暗闇の中でルイスは、それにすがりついた。そうしてただ、それの命じるままに、仇を取り始めた。
本当は、どこかで、こんなことでジュリアが喜ぶわけもないとわかっていた。
だが、ルイスはその心の声を黙殺した。そうしないと、自分が押しつぶされてしまうから。
ルイスの声は静かだったが――また、笑う。
「だが、俺は、思うんだ。最近、本当に、ジュリアが……喜んで、くれている、と」
血に塗れたルイスの笑みは、哀れだった。
「ルイスさんの心を利用して……駒として、利用していた……」
秋桜は呟く。そういう存在が、いるということを。
何者なのかは、見当がつく。ネイハムがたずねた。
「そいつの名前は?」
「やつ、は……嫉妬の歪虚……『ナハト』――」
ずっ、と、湿った音がした。
皆がはっとする。どぽ、と口から血を流すルイスの首に――陶器の巨大な針が、刺さっていることに。
「あ……、ジュ……リ、ア――」
ルイスが声を漏らしながら、命の灯火を消す。八人は針が飛んできた方を見た。
「森からです――!」
十字朗が言って、すぐに森へ走る。他のメンバーも、武器を構えて森へ向かう。
そこにいた。
森の前にたたずむ、マントで体を隠した漆黒の影。
細身で――しかし疑いなく、強敵の気配。
イグレーヌが問答無用で放った矢を、影は躱した。そして、笑う。
「なるほど。これでは確かに、敵うはずもないか」
「貴方がナハト、ですか?」
秋子の言葉を否定せず、くつくつと笑うと――影は驚く程の跳躍力で、森へ消えた。
「いつか、会おう」
「逃がすかよ」
カズマが追おうとするが――ざざざっ! 陶器の針が広範囲に刺さり、寄せ付けなかった。
「ち……!」
影はそのまま、気配を消していった。
「使えなかったな。また、新しい玩具を探さねば……」
そんな言葉を、呟きながら。
林へ戻ると、ルイスは空を仰ぐように倒れていた。
何かを求めるような表情で息絶えた、その殺人鬼の顔を――
八人は、ほんの少しの間、静かに見下ろしていた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/19 00:38:20 |
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相談卓 柏木 秋子(ka4394) 人間(リアルブルー)|17才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/05/23 02:53:49 |