ゲスト
(ka0000)
グロル・リッター
マスター:神宮寺飛鳥

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/23 12:00
- 完成日
- 2015/05/30 05:23
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ハンターの一撃がデュラハンの核を破壊すると、霊体は霧散しガランと音を立て鎧が床を打った。
洋館に巣食っていたデュラハンとそれを取り巻くスケルトン達との戦いは終わった。
依頼人であり同行者でもあったグスタフと名乗った鎧姿の男は刃を鞘に収め、深々と息を吐いた。
「……これで全てが終わった。貴殿らの助力に感謝する」
鎧はゆっくりと闇に解け消えてゆく。その名残を見送りながら振り返り、男は真っ直ぐに館を出た。
彼はこんな風にこれまでもずっとデュラハンを狩ってきたのだという。
いつしか亡霊狩りの騎士は自らも亡霊であるかのように扱われるようになり、ここ数年はめっきり人間らしい生活からかけ離れていた。
館を出た所でグスタフは足を止め振り返る。ハンターがその背中に問うと、男はふっと笑い答える。
「そうだな……貴殿らには話しても良かろう。俺が倒してきたデュラハンは、革命戦争で散った同胞……。帝国軍第一師団のとある部隊の戦士達だ。尤も、革命前のだがな」
十三年前に起きた革命戦争の前、グスタフは第一師団に所属し、帝都防衛の任についた兵士であった。
「俺達は帝都へ進軍する革命軍から帝都を守る為、籠城戦を行った。だがそれは長く続かなかった」
当時から第一師団長であったオズワルドが裏切り、要塞都市である帝都の門を開いた事で、帝都での決戦が始まった。
混乱する市街地を駆け抜け、仲間と共にグスタフは戦った。グスタフ達は間違いなく精鋭であったが、敵はそれを上回る精鋭部隊であった。
「絶火隊……奴らは当時そう呼ばれていた」
巨大な剣を軽々と振り回す革命の王は、第二師団長の位に相応しい実力を持っていた。
ヒルデブラント・ウランゲル。後に皇帝となる男は絶火隊を伴い、最前線で帝国兵を蹴散らせながら帝都を突き進んだ。
グスタフはヒルデブラントと刃を交えたが、彼に倒されるまでもなく絶火隊に打ちのめされる事となった。
「当時の絶火隊はヤバすぎた。なんだかよくわからんが、エルフまでいたし。特にヒルデブラントに常にくっついていた二人のエルフの小娘がバカに強くてヤバかった」
高笑いするエルフにハンマーでぶっ飛ばされ、意識を取り戻した時には既に街は狂乱に飲み込まれていた。
貴族から金品を略奪する市民。一般市民と革命軍兵士の区別がつかず一方的に薙ぎ倒される帝国兵と、それに焦った帝国兵による無差別殺戮……。
戦況は既にバルトアンデルス城での決戦に雪崩れ込んでいた。そこでグスタフは城へ駆け込み、嘗ての上官であったオズワルドと対峙する。
「結論から言うと俺は負け、仲間も殆ど失った。だが生き残った奴らは処刑されず、地方へ追放される事になった」
ヒルデブラントは殆どの“敵”を処刑しなかった。可能な限り流血を抑え、革命を成そうとしたのだ。
その結果、復讐心と敗北心に囚われたまま、地方へ次々に貴族や戦士達が送り込まれる事となった。
「……それから俺は一人で暫く旅をしていたが、ある時急に噂を聞くようになった。そう、デュラハンの噂だ」
それが自分の仲間達の成れの果てだと気づいたのは随分後になってから。
しかし、それもこれで終わりだ。少なくともこれで、グスタフと同じ部隊に居た者達の消息は把握された事になる。
「これでようやく、俺も革命戦争を終える事が出来たように思う」
これから先の人生はノープランだが、きっと悔いを残して死ぬことはもうないだろう。
どうせ終わってしまった人生なのだ。後始末が終わったのなら、これ以上を望むのはおこがましい。
「……下らん無駄話をしてしまったな。山を降りたら貴殿らとの付き合いも終わりだ。もう少し我慢しろよ」
そう言って歩き出した、正にその時だ。
洋館を囲う森の奥、一斉に野鳥が飛び立った。何かが猛スピードで突っ込んでくる。
只ならぬ強力な気配に臨戦態勢を取るハンター達の前、雷を纏い黒い鉄の塊が飛び出してきた。
それはバイク……ではない。鋼鉄の鎧で作られた異型の馬である。馬は黒いローブを纏った騎士を乗せ、紫電を瞬かせながら嘶く。
「……ほう。人間じゃ、人間じゃ。こんな所に人間がおるぞ!」
「こいつらが原因か……余計な事を」
声は二つ聞こえた。女の声と男の声である。騎士はふわりを浮かび上がるようにして馬を降りると、細長い指でハンターを数える。
「ひい、ふう、みい……ひひひ! 活きのいい人間、人間じゃよお。マテリアルに満ちておるわ!」
「待てゼンゼ」
女の声で話す馬は光を放つと二本足で立ち上がり、上半身を回転させ、内側から人型の頭部をせり出し、尾に繋がっていた長大な槍を手に取る。即ち……。
「人型に変形しただと……!?」
2メートルを超える体躯のデュラハンになった馬は、鎧の内側から瞳を輝かせる。
「人間、何故ここに眠るデュラハンを滅ぼしたのだ?」
「何故? 人がバケモノを屠るのに理由が必要か?」
「……何も知らないというのならそれで構わん。この場で一人残らず討ち滅ぼすのみだ」
「ランツェ、わしにやらせろ。久々の獲物じゃ……わしは腹が減って腹が減って仕方なくてのう」
ゼンゼと呼ばれたローブを纏ったデュラハンは大鎌に炎を纏わせ、ゆっくりと接近する。
「きひひひ! ランツェ、ランツェ! 手出しをするでないぞ! わしの! わしの獲物ぞ!!」
「……好きにしろ。さっさと片付けて帰還する」
ゼンゼ、ランツェと呼ばれるデュラハンは二体とも並外れた負のマテリアルを放出している。
「どういう事だ……? こんなレベルのデュラハンが二体……帝国は何をしている?」
「我はグロル・リッター、“腐炎”のゼンゼ! さあ、さあさあ! 共に滅びに興じようぞ!!」
吠えるように全身から黒い炎を吹き出しデュラハンは吠える。負の波動に耐えるよう、ハンターは得物を強く握り締めた。
洋館に巣食っていたデュラハンとそれを取り巻くスケルトン達との戦いは終わった。
依頼人であり同行者でもあったグスタフと名乗った鎧姿の男は刃を鞘に収め、深々と息を吐いた。
「……これで全てが終わった。貴殿らの助力に感謝する」
鎧はゆっくりと闇に解け消えてゆく。その名残を見送りながら振り返り、男は真っ直ぐに館を出た。
彼はこんな風にこれまでもずっとデュラハンを狩ってきたのだという。
いつしか亡霊狩りの騎士は自らも亡霊であるかのように扱われるようになり、ここ数年はめっきり人間らしい生活からかけ離れていた。
館を出た所でグスタフは足を止め振り返る。ハンターがその背中に問うと、男はふっと笑い答える。
「そうだな……貴殿らには話しても良かろう。俺が倒してきたデュラハンは、革命戦争で散った同胞……。帝国軍第一師団のとある部隊の戦士達だ。尤も、革命前のだがな」
十三年前に起きた革命戦争の前、グスタフは第一師団に所属し、帝都防衛の任についた兵士であった。
「俺達は帝都へ進軍する革命軍から帝都を守る為、籠城戦を行った。だがそれは長く続かなかった」
当時から第一師団長であったオズワルドが裏切り、要塞都市である帝都の門を開いた事で、帝都での決戦が始まった。
混乱する市街地を駆け抜け、仲間と共にグスタフは戦った。グスタフ達は間違いなく精鋭であったが、敵はそれを上回る精鋭部隊であった。
「絶火隊……奴らは当時そう呼ばれていた」
巨大な剣を軽々と振り回す革命の王は、第二師団長の位に相応しい実力を持っていた。
ヒルデブラント・ウランゲル。後に皇帝となる男は絶火隊を伴い、最前線で帝国兵を蹴散らせながら帝都を突き進んだ。
グスタフはヒルデブラントと刃を交えたが、彼に倒されるまでもなく絶火隊に打ちのめされる事となった。
「当時の絶火隊はヤバすぎた。なんだかよくわからんが、エルフまでいたし。特にヒルデブラントに常にくっついていた二人のエルフの小娘がバカに強くてヤバかった」
高笑いするエルフにハンマーでぶっ飛ばされ、意識を取り戻した時には既に街は狂乱に飲み込まれていた。
貴族から金品を略奪する市民。一般市民と革命軍兵士の区別がつかず一方的に薙ぎ倒される帝国兵と、それに焦った帝国兵による無差別殺戮……。
戦況は既にバルトアンデルス城での決戦に雪崩れ込んでいた。そこでグスタフは城へ駆け込み、嘗ての上官であったオズワルドと対峙する。
「結論から言うと俺は負け、仲間も殆ど失った。だが生き残った奴らは処刑されず、地方へ追放される事になった」
ヒルデブラントは殆どの“敵”を処刑しなかった。可能な限り流血を抑え、革命を成そうとしたのだ。
その結果、復讐心と敗北心に囚われたまま、地方へ次々に貴族や戦士達が送り込まれる事となった。
「……それから俺は一人で暫く旅をしていたが、ある時急に噂を聞くようになった。そう、デュラハンの噂だ」
それが自分の仲間達の成れの果てだと気づいたのは随分後になってから。
しかし、それもこれで終わりだ。少なくともこれで、グスタフと同じ部隊に居た者達の消息は把握された事になる。
「これでようやく、俺も革命戦争を終える事が出来たように思う」
これから先の人生はノープランだが、きっと悔いを残して死ぬことはもうないだろう。
どうせ終わってしまった人生なのだ。後始末が終わったのなら、これ以上を望むのはおこがましい。
「……下らん無駄話をしてしまったな。山を降りたら貴殿らとの付き合いも終わりだ。もう少し我慢しろよ」
そう言って歩き出した、正にその時だ。
洋館を囲う森の奥、一斉に野鳥が飛び立った。何かが猛スピードで突っ込んでくる。
只ならぬ強力な気配に臨戦態勢を取るハンター達の前、雷を纏い黒い鉄の塊が飛び出してきた。
それはバイク……ではない。鋼鉄の鎧で作られた異型の馬である。馬は黒いローブを纏った騎士を乗せ、紫電を瞬かせながら嘶く。
「……ほう。人間じゃ、人間じゃ。こんな所に人間がおるぞ!」
「こいつらが原因か……余計な事を」
声は二つ聞こえた。女の声と男の声である。騎士はふわりを浮かび上がるようにして馬を降りると、細長い指でハンターを数える。
「ひい、ふう、みい……ひひひ! 活きのいい人間、人間じゃよお。マテリアルに満ちておるわ!」
「待てゼンゼ」
女の声で話す馬は光を放つと二本足で立ち上がり、上半身を回転させ、内側から人型の頭部をせり出し、尾に繋がっていた長大な槍を手に取る。即ち……。
「人型に変形しただと……!?」
2メートルを超える体躯のデュラハンになった馬は、鎧の内側から瞳を輝かせる。
「人間、何故ここに眠るデュラハンを滅ぼしたのだ?」
「何故? 人がバケモノを屠るのに理由が必要か?」
「……何も知らないというのならそれで構わん。この場で一人残らず討ち滅ぼすのみだ」
「ランツェ、わしにやらせろ。久々の獲物じゃ……わしは腹が減って腹が減って仕方なくてのう」
ゼンゼと呼ばれたローブを纏ったデュラハンは大鎌に炎を纏わせ、ゆっくりと接近する。
「きひひひ! ランツェ、ランツェ! 手出しをするでないぞ! わしの! わしの獲物ぞ!!」
「……好きにしろ。さっさと片付けて帰還する」
ゼンゼ、ランツェと呼ばれるデュラハンは二体とも並外れた負のマテリアルを放出している。
「どういう事だ……? こんなレベルのデュラハンが二体……帝国は何をしている?」
「我はグロル・リッター、“腐炎”のゼンゼ! さあ、さあさあ! 共に滅びに興じようぞ!!」
吠えるように全身から黒い炎を吹き出しデュラハンは吠える。負の波動に耐えるよう、ハンターは得物を強く握り締めた。
リプレイ本文
突撃するゼンゼが振り下ろす鎌の一撃をシガレット=ウナギパイ(ka2884)は盾で受け止める。
「ったく、なんだってンだ!」
摩耶(ka0362)は大手裏剣を投げつけるが、ゼンゼは防ぐ素振りも見せない。
ヒース・R・ウォーカー(ka0145)とシュネー・シュヴァルツ(ka0352)が同時に左右から斬りつけると、ゼンゼは巨大な鎌で三人を同時に薙ぎ払った。
「想定外の敵か。ここのデュラハン、或いはこの場所に何か関係があると思った方が良さそうだねぇ」
「この頑強さ……普通の歪虚ではありません。面白がってる場合じゃないですよ……」
無事回避に成功したヒースが笑うのをシュネーは不満げに見やる。
「む? お主ら、わしの鎧に傷をつけられるのか?」
「……という事は、つまりあなた達も“天衣無縫”を持っているわけですね」
摩耶の言葉に春日 啓一(ka1621)が驚く。
「こいつら剣豪と同じタイプかよ」
「ほほっ!? お主ら、ナイトハルト様が取り逃がした獲物かえ!?」
「見るからにそんな感じだとは思ってたけどね~。シガレット君に回復してもらってよかった」
シガレットは戦いが終わって直ぐ、ハンター達を範囲回復で癒していた。
つまり、万全の状態で強敵に挑めるわけだ。オキクルミ(ka1947)は笑みを作り。
「剣豪の部下がこんな所に何の用かな?」
「わしらにも色々あってのう。ナイトハルト様は自らの闘争以外にとんと興味がない。故に我らはオルクス様の……」
「ゼンゼ」
腕を組んだランツェの一言にゼンゼは肩を竦める。
「一度屋敷へ退きましょう!」
「グスタフ、こっちだ!」
摩耶に続きシガレットが声をかけながら走りだす。そんなハンター達をゼンゼはゆっくりと追う。
「野郎、余裕こきやがって」
「“天衣無縫”は剣豪と比べると劣化版のようですね」
舌打ちする啓一。摩耶は背後を気にかけながら分析する。
「しかし、必死に追いかけてこない所を見ると、この館そのものに執着はないようだねぇ」
ヒースの言う通り、ゼンゼの動きは少なくとも危機に瀕しているようには見えない。よって、核が館の中にある線は薄い。
「貴殿ら……四霊剣とやりあって生き延びたのか」
しみじみと呟くグスタフ。館に飛び込んだハンター達は広間ではなく、狭い通路に飛び込んで反転。そこへ遅れてゼンゼが姿を見せた。
「鬼ごっこはおしまいかのぅ?」
「おうよ。掛かってきやがれ、亡霊野郎」
手招きするシガレット。ゼンゼは長大な鎌を手に突き進んでくる。
「よし、今だぜグスタフ!」
「頑張って~グスタフ君!」
「……んん!? 俺が行くのか!?」
シガレットとオキクルミの声にのけぞるグスタフ。そこへ鎌が振り下ろされるが、的確に盾でガードする。
「おォ、やるじゃねェか!」
その間に拳銃を連射するシガレット。オキクルミは足を狙い攻撃するが、奇妙な手応えを覚える。
「あれ? なんか効いてない?」
「属性無効化かもしれません。その武器は?」
「炎……あ、こいつさっき炎出してたかも」
摩耶の指摘に冷や汗を流すオキクルミ。ヒースとシュネーは左右から懐へ飛び込み、斬撃を繰り出す。
ゼンゼは反撃に鎌を振るうが、切っ先が壁を刳り減速。その隙に啓一が懐へ飛び込み拳を打ち込んだ。
更に反撃で鎌を振り上げるが、今度は切っ先が天井をかすってしまう。
その間にハンター達は連続攻撃を決め、ゼンゼは背後に跳んだ。
「お主ら、あえてここにわしを誘い込んだのか」
そう言うと、兜の顎の部分を開き。
「だが、追い込まれた事に変わりはあるまい!」
口とも言うべき部分から黒い炎を吹き出した。それは狭い廊下に雪崩のように押し寄せてくる。
「せっかく炎属性武器だし……これで!」
オキクルミは斧で炎を打ち払う。するとその眼前にはゼンゼの鎌が迫っていた。
「剣豪と同じ……!?」
重力や慣性を無視した不規則な高速移動。天井を逆様に突っ込んできたゼンゼは落下しながら斬撃を放つ。
これをグスタフはオキクルミを片腕で抱えるようにしながら盾で受け、背後に倒れこんだ。
大地に着地したゼンゼに拳を繰り出す啓一だが、それは鎌の柄で止められる。
飛び込むヒース。今ならば動きは止まっている。だがその時ゼンゼのマントが揺れた。
咄嗟に身をかわしたヒースへ、“鎌”の刃がかする。
「やっぱり仕込み武器かぁ」
更に次の瞬間、次々に斬撃がヒースを襲った。シュネーは咄嗟に横からヒースを抱えて跳ぶ。
二人を襲った刃の数は四本。ゼンゼの背に折りたたまれていた無数の足のような部分から、刃が突き出ている。
「大丈夫ですか、ウォーカーさん」
「ああ。助かったけど、無茶は良くないなぁ」
「ウォーカーさんに言われたくないですけど……」
何気に飛び退く時、ヒースも剣でシュネーの背を守っていた。何とか無事だが、驚異的な速度の連撃であった。
「確かに、人の形ではやり辛いのぅ。では、これでどうじゃ?」
マントを脱ぎ払ったゼンゼはうつ伏せに倒れるように両手をつき、腹から生えた無数の刃を足に見立てて水平に立ち上がる。
頭の装甲がスライドし、内側から牙に似た頭部がせり出すと、両足が一つに合体、その先端に鎌を装着し、鋭い尾を作った。
「これは……蠍?」
摩耶が驚いた直後、しなる長大な鎌はこれまでとは全く異なる挙動で、倍以上の速度で動き出した。
鞭のようにしなり、不規則に蠢く刃。2メートルをゆうに超えるリーチ。嵐の様な斬撃にヒースとシュネーは圧倒される。
「ち、近づけません……」
「やべーな。目で追うのがやっとだぞ」
冷や汗を流す啓一。ゼンゼは刃の足を大地に突き立て前進する。
「退却! 真正面からあれとやるのは無理!」
慌てて逃げ出すオキクルミ。狭い通路が今となっては恨めしい。
ゼンゼは移動しながら火炎弾を連続発射する。オキクルミがこれを打ち払うと、シガレットは神楽鈴を構え。
「こいつで!」
鈴の鳴らす清澄な音が廊下に響き渡ると同時、光の波動が広がっていく。
それはゼンゼを包むと同時、その動きを止めた。
「レクイエムだ! 狭い廊下はよーく反響するだろォ!」
「おっさん、こっちだ!」
啓一の手招きに従い全力疾走するシガレット。その背後から動き出したゼンゼの放った炎の渦が迫る。
何とかホールに飛び込んだシガレットは前転気味に炎から逃れた。
「っぶはぁ! 滅茶苦茶だぜェ!」
「全員無事……ではないようですね」
シュネーが目を向けると、オキクルミは地べたに両手を着いて脂汗を浮かべていた。
「ごめん……ダメージは受けてないんだけど、身体が痺れて……」
「毒ですね。成る程、“腐炎”ですか……」
オキクルミを支えながら呟く摩耶。身体を動かせない程ではないが、精度はかなり落ちてしまう。
「炎そのものは防いだ筈ですから、可燃性のガスであるとか、炎に伴う何かに毒性があると考えるべきでしょう」
「んー……それは拙いねぇ。屋内じゃ毒が満ちてしまう可能性もある」
顎に手をやり笑うヒース。シュネーはかくりと肩を落とし。
「ですから、笑っている場合では……」
「つっても広い屋敷だ。そうすぐ毒は回らないだろ。そうなる前に、奴を倒せばいいだけだ」
啓一の言う通り、時間にはまだ猶予がある。エントランスホールまで追いかけてきたゼンゼを前にハンター達は構える。
「この小娘は俺に任せろ」
「ごめんグスタフ君……もう少ししたら動けると思うから」
オキクルミを抱えるグスタフ。ヒースとシュネーは前に出て。
「この感じだと、あの鎌にも毒があると考えるべきでしょうか……」
「だねぇ。まともに食らうと多分アウトだぁ」
「では、ここは攻撃を受けない方向で行きましょう」
二人の間に摩耶も入り、疾影士三人で同時に襲いかかる。
ゼンゼの攻撃精度は圧倒的だし、尾の不規則な攻撃はとても避けられた物ではない。
だが、三人が三方向から同時に近づき、攻撃しつつであれば接近できる。
目を見開いたシュネーの脇を鎌の一撃が通過する。鎌は早い。本来ならば返しの刃で切られるが、摩耶が攻撃するとそちらの防御に回る。
今度は摩耶狙いの攻撃をヒースが反らし、かわす。超スピードで斬撃が飛び交う様に啓一は息を飲んだ。
「ダメだ。あれは入れねぇ」
「それでいい。一発ぶちかます準備をしときなァ」
シガレットの言葉に拳を握り締める啓一。
時を圧縮した刹那の中、シュネーは踊るように刃を交わすヒースを見た。
ヒースは緊張もせず、むしろこの極限状態を楽しんでいるようだ。
真似は出来ないしするべきではないのかもしれない。だが、少し肩の力を抜こう。
「さて、引き続き一緒に踊るとしようか、シュネー。生きて帰る為に、ねぇ」
矛先から目を逸らさずに、かわし、刃で逸らす。一人なら不可能だ。だが、今は仲間と一緒だから。
弾いたゼンゼの尾が上に大きく跳ね上がるタイミングを待ち、シガレットは再びレクイエムを発動する。
その瞬間、ピタリと停止したゼンゼの尾、その元々足であり、踝であった部分の隙間に摩耶は剣を差し入れる。
「今です!」
レクイエムで停止していたゼンゼが動き出すより一瞬早く、摩耶は突き刺した剣を手に舞い上がった。
空中を逆様に跳ぶ摩耶は尾をピンを真上に立ち上がらせる。レクイエムで鈍った動きをそのまま停止させ。
その間にシュネーとヒースは左右から駆け出し、互いの刃を重ね合わせ露出した鎧の継ぎ目に攻撃を叩き込んだ。
鋏のように交わった斬撃が尾を切断する。その直後敵の動きが復活するが。
「ぶちかませェ、春日!」
大地を蹴り、一気に距離を詰めた啓一の拳が振り下ろされる。
「こいつはおまけだ!」
鎧にめり込むナックル。そのインパクトに続き、衝撃波が床を砕き広がった。
拳は鎧を貫きはしなかったが、首周りを大きくひしゃげさせた。その隙間を狙い、オキクルミはスキルを発動する。
「ここだ! 必殺……窮鼠猫噛み!」
ファミリアアタックはペットに魔力を付与し攻撃するスキルだ。この場合、対象はペットの鼠となる。
鼠は非常に小さいが、その攻撃力はオキクルミと同調している為サイズに依存しない。
だが、大きさそのものが変わるわけではない。よって、すっ飛んでいく鼠の弾丸は、容易に鎧の隙間に滑り込んだ。
「ぐぬ……おぉ!? なんじゃこれは!?」
途端にたまらず人型に変形し、身悶えるゼンゼ。グスタフに支えられながらオキクルミはニヤリと笑う。
「しかもそれ、魔法属性攻撃だよ!」
鎧が軋み、ゼンゼの身体が不自然にねじれる。
鎧の内側に存在する霊体がダメージを受け、鎧の形を維持できなくなっているのだ。
「好機です」
着地と同時に切っ先に刺さったままの尾の先端部を大地に突き刺し、摩耶は剣をそのままに手裏剣を投げつける。
「バラバラにしてしまいましょう!」
シュネーとヒースは関節に刃を通し、鎧を分解していく。霊体が不定形になっている今、物理切断が一瞬でも再接続まで時間を要する。
「おおお……っらぁ!」
ゼンゼの顎をアッパーで撃ち抜く啓一。頭が吹っ飛んでいくと、シガレットは穴に鈴をつっこみ。
「鼠は外に出しとけェ!」
ひょいっと股のあたりから鼠が飛び出した瞬間、鎧の内側で聖なる光が瞬いた。
次の瞬間、セイクリッドフラッシュで吹き飛んだ霊体は鎧を維持できず、パーツが四方に吹き飛んでいく。
「うおう。死んだのか?」
「わからねェな。どれが核なんだ?」
冷や汗を流す啓一とシガレット。
ゼンゼの霊体は消滅し、鎧は吹き飛んだ。だが核を壊した手応えはなかった。
「……まさか、ゼンゼが倒されるとはな」
そこへゆっくりとランツェが姿を表した。
騎士は飛び散ったゼンゼの鎧を眺めると、溜息を一つ。
「無様だぞ。貴様は人間を侮りすぎだ」
すると、どこからともなく声が響く。
「すまぬな、久々に手応えのある相手で嬉しくなってしもうた」
「え……? ゼンゼの声……?」
「どういう事? どこから聞こえてるの?」
周囲を見渡すシュネー。オキクルミの疑問に応えるように、ランツェは胸の装甲を開く。
そこには核らしき、刃の破片が“二つ”浮かんでいた。
「まさか……ゼンゼの核を自分の中に入れておいたのかぁ?」
「その通りだ。元々我らグロル・リッターに個はあってないようなものなのでな」
ヒースに答えると同時、ランツェは瞳を輝かせる。
すると散らばっていた鎧がランツェに集い、その身体に次々に接合されていく。
下半身は馬。上半身にはランツェとゼンゼの鎧が交じり合い、歪な人型を作る。
腕は四本。そして背につなげた4つの細長い刃から炎の翼を広げ、鎌の尾、そして右手には鋭い槍を握る。つまり――。
「おい……合体したぞ」
呆れたように呟く啓一。そこに重なった声が響く。
「ひひひ、無礼を詫びるぞ人間」
「「グロル・リッターの真の力をお見せしよう」」
槍を繰り出すと同時、雷の閃光が轟いた。
それはまるでビーム光線のようにハンター達の中央を突き抜け、壁を突き抜け屋敷の反対側へ吹き出していく。
赤熱する壁の穴に誰もが息を飲んだ、騎馬は高らかに鋼の蹄を鳴らし、嘶く。
「……やべェな。おい皆、プランBだ!」
その瞬間シガレットが叫ぶ。ハンター達は駆け出した彼に続き、館の奥へ姿を消す。
「ほう? また策を弄するつもりか?」「良かろう、付き合ってやる」
数十分後。ハンター達は山の麓で息を切らしていた。
「に、逃げ切ったぜェ……」
「おい……プランBはどうした」
「ねェよンなもん……」
驚くと同時に座り込むグスタフ。まさかハッタリとは思わなかった。
「くくく……あいつら暫くあそこ探しまわってたろうぜ……ハア」
肩を震わせ笑う啓一。ヒースはふっと笑い。
「いやぁ、しかしだいぶ色々な事がわかったねぇ。命を張った甲斐があった」
「もう……ウォーカーさんは」
苦笑を浮かべるシュネー。ヒースは前髪をかきあげ汗を拭う。
「剣豪は自分用の絶火隊でも作るつもりなのかな? 遊び相手を作りたいだけならボクが相手してあげるのにな~。あんなに熱いベーゼをくれておいてさ」
「その両方なのかもしれません」
摩耶の言葉にオキクルミは首を傾げる。
「グロル・リッターは剣豪の近衛隊であると同時に、“武具”なのでしょう」
「つまり、自分の遊び道具を増やしてるって事かぁ」
「自分の闘争にしか興味が無い……そう言っていましたね」
頷くヒースとシュネー。
変形し、合体するデュラハン。それが本来何の為に作られたのかは想像に容易い。
「それってよ……剣豪はグロル・リッターの数だけパワーアップする、って事だよな?」
啓一の呟いた絶望的な答えに沈黙が走る。
「グスタフさん。この事はあなただけの問題ではありません。オズワルド師団長にでも頼んで、戦没者について調べてみては?」
摩耶の言葉に項垂れるグスタフ。静かな月に照らされ、ハンター達は歩き出した。
「ったく、なんだってンだ!」
摩耶(ka0362)は大手裏剣を投げつけるが、ゼンゼは防ぐ素振りも見せない。
ヒース・R・ウォーカー(ka0145)とシュネー・シュヴァルツ(ka0352)が同時に左右から斬りつけると、ゼンゼは巨大な鎌で三人を同時に薙ぎ払った。
「想定外の敵か。ここのデュラハン、或いはこの場所に何か関係があると思った方が良さそうだねぇ」
「この頑強さ……普通の歪虚ではありません。面白がってる場合じゃないですよ……」
無事回避に成功したヒースが笑うのをシュネーは不満げに見やる。
「む? お主ら、わしの鎧に傷をつけられるのか?」
「……という事は、つまりあなた達も“天衣無縫”を持っているわけですね」
摩耶の言葉に春日 啓一(ka1621)が驚く。
「こいつら剣豪と同じタイプかよ」
「ほほっ!? お主ら、ナイトハルト様が取り逃がした獲物かえ!?」
「見るからにそんな感じだとは思ってたけどね~。シガレット君に回復してもらってよかった」
シガレットは戦いが終わって直ぐ、ハンター達を範囲回復で癒していた。
つまり、万全の状態で強敵に挑めるわけだ。オキクルミ(ka1947)は笑みを作り。
「剣豪の部下がこんな所に何の用かな?」
「わしらにも色々あってのう。ナイトハルト様は自らの闘争以外にとんと興味がない。故に我らはオルクス様の……」
「ゼンゼ」
腕を組んだランツェの一言にゼンゼは肩を竦める。
「一度屋敷へ退きましょう!」
「グスタフ、こっちだ!」
摩耶に続きシガレットが声をかけながら走りだす。そんなハンター達をゼンゼはゆっくりと追う。
「野郎、余裕こきやがって」
「“天衣無縫”は剣豪と比べると劣化版のようですね」
舌打ちする啓一。摩耶は背後を気にかけながら分析する。
「しかし、必死に追いかけてこない所を見ると、この館そのものに執着はないようだねぇ」
ヒースの言う通り、ゼンゼの動きは少なくとも危機に瀕しているようには見えない。よって、核が館の中にある線は薄い。
「貴殿ら……四霊剣とやりあって生き延びたのか」
しみじみと呟くグスタフ。館に飛び込んだハンター達は広間ではなく、狭い通路に飛び込んで反転。そこへ遅れてゼンゼが姿を見せた。
「鬼ごっこはおしまいかのぅ?」
「おうよ。掛かってきやがれ、亡霊野郎」
手招きするシガレット。ゼンゼは長大な鎌を手に突き進んでくる。
「よし、今だぜグスタフ!」
「頑張って~グスタフ君!」
「……んん!? 俺が行くのか!?」
シガレットとオキクルミの声にのけぞるグスタフ。そこへ鎌が振り下ろされるが、的確に盾でガードする。
「おォ、やるじゃねェか!」
その間に拳銃を連射するシガレット。オキクルミは足を狙い攻撃するが、奇妙な手応えを覚える。
「あれ? なんか効いてない?」
「属性無効化かもしれません。その武器は?」
「炎……あ、こいつさっき炎出してたかも」
摩耶の指摘に冷や汗を流すオキクルミ。ヒースとシュネーは左右から懐へ飛び込み、斬撃を繰り出す。
ゼンゼは反撃に鎌を振るうが、切っ先が壁を刳り減速。その隙に啓一が懐へ飛び込み拳を打ち込んだ。
更に反撃で鎌を振り上げるが、今度は切っ先が天井をかすってしまう。
その間にハンター達は連続攻撃を決め、ゼンゼは背後に跳んだ。
「お主ら、あえてここにわしを誘い込んだのか」
そう言うと、兜の顎の部分を開き。
「だが、追い込まれた事に変わりはあるまい!」
口とも言うべき部分から黒い炎を吹き出した。それは狭い廊下に雪崩のように押し寄せてくる。
「せっかく炎属性武器だし……これで!」
オキクルミは斧で炎を打ち払う。するとその眼前にはゼンゼの鎌が迫っていた。
「剣豪と同じ……!?」
重力や慣性を無視した不規則な高速移動。天井を逆様に突っ込んできたゼンゼは落下しながら斬撃を放つ。
これをグスタフはオキクルミを片腕で抱えるようにしながら盾で受け、背後に倒れこんだ。
大地に着地したゼンゼに拳を繰り出す啓一だが、それは鎌の柄で止められる。
飛び込むヒース。今ならば動きは止まっている。だがその時ゼンゼのマントが揺れた。
咄嗟に身をかわしたヒースへ、“鎌”の刃がかする。
「やっぱり仕込み武器かぁ」
更に次の瞬間、次々に斬撃がヒースを襲った。シュネーは咄嗟に横からヒースを抱えて跳ぶ。
二人を襲った刃の数は四本。ゼンゼの背に折りたたまれていた無数の足のような部分から、刃が突き出ている。
「大丈夫ですか、ウォーカーさん」
「ああ。助かったけど、無茶は良くないなぁ」
「ウォーカーさんに言われたくないですけど……」
何気に飛び退く時、ヒースも剣でシュネーの背を守っていた。何とか無事だが、驚異的な速度の連撃であった。
「確かに、人の形ではやり辛いのぅ。では、これでどうじゃ?」
マントを脱ぎ払ったゼンゼはうつ伏せに倒れるように両手をつき、腹から生えた無数の刃を足に見立てて水平に立ち上がる。
頭の装甲がスライドし、内側から牙に似た頭部がせり出すと、両足が一つに合体、その先端に鎌を装着し、鋭い尾を作った。
「これは……蠍?」
摩耶が驚いた直後、しなる長大な鎌はこれまでとは全く異なる挙動で、倍以上の速度で動き出した。
鞭のようにしなり、不規則に蠢く刃。2メートルをゆうに超えるリーチ。嵐の様な斬撃にヒースとシュネーは圧倒される。
「ち、近づけません……」
「やべーな。目で追うのがやっとだぞ」
冷や汗を流す啓一。ゼンゼは刃の足を大地に突き立て前進する。
「退却! 真正面からあれとやるのは無理!」
慌てて逃げ出すオキクルミ。狭い通路が今となっては恨めしい。
ゼンゼは移動しながら火炎弾を連続発射する。オキクルミがこれを打ち払うと、シガレットは神楽鈴を構え。
「こいつで!」
鈴の鳴らす清澄な音が廊下に響き渡ると同時、光の波動が広がっていく。
それはゼンゼを包むと同時、その動きを止めた。
「レクイエムだ! 狭い廊下はよーく反響するだろォ!」
「おっさん、こっちだ!」
啓一の手招きに従い全力疾走するシガレット。その背後から動き出したゼンゼの放った炎の渦が迫る。
何とかホールに飛び込んだシガレットは前転気味に炎から逃れた。
「っぶはぁ! 滅茶苦茶だぜェ!」
「全員無事……ではないようですね」
シュネーが目を向けると、オキクルミは地べたに両手を着いて脂汗を浮かべていた。
「ごめん……ダメージは受けてないんだけど、身体が痺れて……」
「毒ですね。成る程、“腐炎”ですか……」
オキクルミを支えながら呟く摩耶。身体を動かせない程ではないが、精度はかなり落ちてしまう。
「炎そのものは防いだ筈ですから、可燃性のガスであるとか、炎に伴う何かに毒性があると考えるべきでしょう」
「んー……それは拙いねぇ。屋内じゃ毒が満ちてしまう可能性もある」
顎に手をやり笑うヒース。シュネーはかくりと肩を落とし。
「ですから、笑っている場合では……」
「つっても広い屋敷だ。そうすぐ毒は回らないだろ。そうなる前に、奴を倒せばいいだけだ」
啓一の言う通り、時間にはまだ猶予がある。エントランスホールまで追いかけてきたゼンゼを前にハンター達は構える。
「この小娘は俺に任せろ」
「ごめんグスタフ君……もう少ししたら動けると思うから」
オキクルミを抱えるグスタフ。ヒースとシュネーは前に出て。
「この感じだと、あの鎌にも毒があると考えるべきでしょうか……」
「だねぇ。まともに食らうと多分アウトだぁ」
「では、ここは攻撃を受けない方向で行きましょう」
二人の間に摩耶も入り、疾影士三人で同時に襲いかかる。
ゼンゼの攻撃精度は圧倒的だし、尾の不規則な攻撃はとても避けられた物ではない。
だが、三人が三方向から同時に近づき、攻撃しつつであれば接近できる。
目を見開いたシュネーの脇を鎌の一撃が通過する。鎌は早い。本来ならば返しの刃で切られるが、摩耶が攻撃するとそちらの防御に回る。
今度は摩耶狙いの攻撃をヒースが反らし、かわす。超スピードで斬撃が飛び交う様に啓一は息を飲んだ。
「ダメだ。あれは入れねぇ」
「それでいい。一発ぶちかます準備をしときなァ」
シガレットの言葉に拳を握り締める啓一。
時を圧縮した刹那の中、シュネーは踊るように刃を交わすヒースを見た。
ヒースは緊張もせず、むしろこの極限状態を楽しんでいるようだ。
真似は出来ないしするべきではないのかもしれない。だが、少し肩の力を抜こう。
「さて、引き続き一緒に踊るとしようか、シュネー。生きて帰る為に、ねぇ」
矛先から目を逸らさずに、かわし、刃で逸らす。一人なら不可能だ。だが、今は仲間と一緒だから。
弾いたゼンゼの尾が上に大きく跳ね上がるタイミングを待ち、シガレットは再びレクイエムを発動する。
その瞬間、ピタリと停止したゼンゼの尾、その元々足であり、踝であった部分の隙間に摩耶は剣を差し入れる。
「今です!」
レクイエムで停止していたゼンゼが動き出すより一瞬早く、摩耶は突き刺した剣を手に舞い上がった。
空中を逆様に跳ぶ摩耶は尾をピンを真上に立ち上がらせる。レクイエムで鈍った動きをそのまま停止させ。
その間にシュネーとヒースは左右から駆け出し、互いの刃を重ね合わせ露出した鎧の継ぎ目に攻撃を叩き込んだ。
鋏のように交わった斬撃が尾を切断する。その直後敵の動きが復活するが。
「ぶちかませェ、春日!」
大地を蹴り、一気に距離を詰めた啓一の拳が振り下ろされる。
「こいつはおまけだ!」
鎧にめり込むナックル。そのインパクトに続き、衝撃波が床を砕き広がった。
拳は鎧を貫きはしなかったが、首周りを大きくひしゃげさせた。その隙間を狙い、オキクルミはスキルを発動する。
「ここだ! 必殺……窮鼠猫噛み!」
ファミリアアタックはペットに魔力を付与し攻撃するスキルだ。この場合、対象はペットの鼠となる。
鼠は非常に小さいが、その攻撃力はオキクルミと同調している為サイズに依存しない。
だが、大きさそのものが変わるわけではない。よって、すっ飛んでいく鼠の弾丸は、容易に鎧の隙間に滑り込んだ。
「ぐぬ……おぉ!? なんじゃこれは!?」
途端にたまらず人型に変形し、身悶えるゼンゼ。グスタフに支えられながらオキクルミはニヤリと笑う。
「しかもそれ、魔法属性攻撃だよ!」
鎧が軋み、ゼンゼの身体が不自然にねじれる。
鎧の内側に存在する霊体がダメージを受け、鎧の形を維持できなくなっているのだ。
「好機です」
着地と同時に切っ先に刺さったままの尾の先端部を大地に突き刺し、摩耶は剣をそのままに手裏剣を投げつける。
「バラバラにしてしまいましょう!」
シュネーとヒースは関節に刃を通し、鎧を分解していく。霊体が不定形になっている今、物理切断が一瞬でも再接続まで時間を要する。
「おおお……っらぁ!」
ゼンゼの顎をアッパーで撃ち抜く啓一。頭が吹っ飛んでいくと、シガレットは穴に鈴をつっこみ。
「鼠は外に出しとけェ!」
ひょいっと股のあたりから鼠が飛び出した瞬間、鎧の内側で聖なる光が瞬いた。
次の瞬間、セイクリッドフラッシュで吹き飛んだ霊体は鎧を維持できず、パーツが四方に吹き飛んでいく。
「うおう。死んだのか?」
「わからねェな。どれが核なんだ?」
冷や汗を流す啓一とシガレット。
ゼンゼの霊体は消滅し、鎧は吹き飛んだ。だが核を壊した手応えはなかった。
「……まさか、ゼンゼが倒されるとはな」
そこへゆっくりとランツェが姿を表した。
騎士は飛び散ったゼンゼの鎧を眺めると、溜息を一つ。
「無様だぞ。貴様は人間を侮りすぎだ」
すると、どこからともなく声が響く。
「すまぬな、久々に手応えのある相手で嬉しくなってしもうた」
「え……? ゼンゼの声……?」
「どういう事? どこから聞こえてるの?」
周囲を見渡すシュネー。オキクルミの疑問に応えるように、ランツェは胸の装甲を開く。
そこには核らしき、刃の破片が“二つ”浮かんでいた。
「まさか……ゼンゼの核を自分の中に入れておいたのかぁ?」
「その通りだ。元々我らグロル・リッターに個はあってないようなものなのでな」
ヒースに答えると同時、ランツェは瞳を輝かせる。
すると散らばっていた鎧がランツェに集い、その身体に次々に接合されていく。
下半身は馬。上半身にはランツェとゼンゼの鎧が交じり合い、歪な人型を作る。
腕は四本。そして背につなげた4つの細長い刃から炎の翼を広げ、鎌の尾、そして右手には鋭い槍を握る。つまり――。
「おい……合体したぞ」
呆れたように呟く啓一。そこに重なった声が響く。
「ひひひ、無礼を詫びるぞ人間」
「「グロル・リッターの真の力をお見せしよう」」
槍を繰り出すと同時、雷の閃光が轟いた。
それはまるでビーム光線のようにハンター達の中央を突き抜け、壁を突き抜け屋敷の反対側へ吹き出していく。
赤熱する壁の穴に誰もが息を飲んだ、騎馬は高らかに鋼の蹄を鳴らし、嘶く。
「……やべェな。おい皆、プランBだ!」
その瞬間シガレットが叫ぶ。ハンター達は駆け出した彼に続き、館の奥へ姿を消す。
「ほう? また策を弄するつもりか?」「良かろう、付き合ってやる」
数十分後。ハンター達は山の麓で息を切らしていた。
「に、逃げ切ったぜェ……」
「おい……プランBはどうした」
「ねェよンなもん……」
驚くと同時に座り込むグスタフ。まさかハッタリとは思わなかった。
「くくく……あいつら暫くあそこ探しまわってたろうぜ……ハア」
肩を震わせ笑う啓一。ヒースはふっと笑い。
「いやぁ、しかしだいぶ色々な事がわかったねぇ。命を張った甲斐があった」
「もう……ウォーカーさんは」
苦笑を浮かべるシュネー。ヒースは前髪をかきあげ汗を拭う。
「剣豪は自分用の絶火隊でも作るつもりなのかな? 遊び相手を作りたいだけならボクが相手してあげるのにな~。あんなに熱いベーゼをくれておいてさ」
「その両方なのかもしれません」
摩耶の言葉にオキクルミは首を傾げる。
「グロル・リッターは剣豪の近衛隊であると同時に、“武具”なのでしょう」
「つまり、自分の遊び道具を増やしてるって事かぁ」
「自分の闘争にしか興味が無い……そう言っていましたね」
頷くヒースとシュネー。
変形し、合体するデュラハン。それが本来何の為に作られたのかは想像に容易い。
「それってよ……剣豪はグロル・リッターの数だけパワーアップする、って事だよな?」
啓一の呟いた絶望的な答えに沈黙が走る。
「グスタフさん。この事はあなただけの問題ではありません。オズワルド師団長にでも頼んで、戦没者について調べてみては?」
摩耶の言葉に項垂れるグスタフ。静かな月に照らされ、ハンター達は歩き出した。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/17 23:09:28 |
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相談卓 シガレット=ウナギパイ(ka2884) 人間(クリムゾンウェスト)|32才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/05/23 00:39:32 |