ゲスト
(ka0000)
ぼくたちかわいいしんりゃくしゃ
マスター:紡花雪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/26 12:00
- 完成日
- 2015/06/01 14:20
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●葡萄畑の侵略者
同盟領、農業推進地域「ジェオルジ」にも暖かい風が吹き始めた。
ジェオルジではさまざまな作物が生育されており、とある村では葡萄棚が平原に広がっている。その村の葡萄は食用ではなく葡萄酒用のもので、村全体が一致協力して、葡萄の生育から収穫、葡萄酒の醸造、そして製品化まで手掛けているのだ。いつの日にか、村を世界に名立たる葡萄酒の名産地にしてみせる、と村民たちは努力を惜しまず、汗水を流している。
だが、前年の収穫を終えて休眠していた葡萄樹が新たな萌芽を迎えたあと、葡萄畑に異変が起き始めた。
「ど、どういうことだ……? こりゃあ、足跡かぁ?」
「こっちもだ! 蕾が、食われちまってる!」
「――おい! こっちの防獣網に穴が開いてるぞ!?」
まだ朝陽が白い時間、葡萄樹の手入れに訪れた村民たちが見たのは、葡萄棚の枝葉が踏み荒らされて折られ、柔らかい葉や蕾が何ものかに齧られてしまった痕跡だった。
それは、可愛い食害獣――アライグマの仕業である。このままでは、初夏の開花を待たずして今年の生産が頓挫しかねない。村民たちは獣除けの仕掛けや罠を駆使してアライグマの侵略から葡萄樹を守ろうとしたが、垂直な支柱や針金すら登ってしまうのだ。それに、もし今アライグマの侵略を防いだとしても、果実が実る秋の食害が心配でならない。
「こんなに荒らして……大運動会でもやってんのか、アライグマは」
「かといって、いきものを殺すのは嫌だしなぁ……なんとか捕まえて、山に放つしかないだろ」
「だなぁ。だけども、おれたちの仕掛けた罠じゃあ、うまいこと餌だけ取られちまうしなぁ……」
「あぁ、困ったもんだ。おれたちが寝ずの番をして追い回したって、畑が余計に荒れるだけだろうよ?」
「となると……ハンターさんたちに頼むしかねぇな」
「おう! アライグマを捕獲できたら、葡萄酒で乾杯だな! チーズも調達しておくかぁ」
のんびりとした田園風景の中に、男たちの笑い声がこだました。
こうして、可愛くて器用な侵略者――アライグマ捕獲依頼がハンターの元に届けられることとなったのである。
同盟領、農業推進地域「ジェオルジ」にも暖かい風が吹き始めた。
ジェオルジではさまざまな作物が生育されており、とある村では葡萄棚が平原に広がっている。その村の葡萄は食用ではなく葡萄酒用のもので、村全体が一致協力して、葡萄の生育から収穫、葡萄酒の醸造、そして製品化まで手掛けているのだ。いつの日にか、村を世界に名立たる葡萄酒の名産地にしてみせる、と村民たちは努力を惜しまず、汗水を流している。
だが、前年の収穫を終えて休眠していた葡萄樹が新たな萌芽を迎えたあと、葡萄畑に異変が起き始めた。
「ど、どういうことだ……? こりゃあ、足跡かぁ?」
「こっちもだ! 蕾が、食われちまってる!」
「――おい! こっちの防獣網に穴が開いてるぞ!?」
まだ朝陽が白い時間、葡萄樹の手入れに訪れた村民たちが見たのは、葡萄棚の枝葉が踏み荒らされて折られ、柔らかい葉や蕾が何ものかに齧られてしまった痕跡だった。
それは、可愛い食害獣――アライグマの仕業である。このままでは、初夏の開花を待たずして今年の生産が頓挫しかねない。村民たちは獣除けの仕掛けや罠を駆使してアライグマの侵略から葡萄樹を守ろうとしたが、垂直な支柱や針金すら登ってしまうのだ。それに、もし今アライグマの侵略を防いだとしても、果実が実る秋の食害が心配でならない。
「こんなに荒らして……大運動会でもやってんのか、アライグマは」
「かといって、いきものを殺すのは嫌だしなぁ……なんとか捕まえて、山に放つしかないだろ」
「だなぁ。だけども、おれたちの仕掛けた罠じゃあ、うまいこと餌だけ取られちまうしなぁ……」
「あぁ、困ったもんだ。おれたちが寝ずの番をして追い回したって、畑が余計に荒れるだけだろうよ?」
「となると……ハンターさんたちに頼むしかねぇな」
「おう! アライグマを捕獲できたら、葡萄酒で乾杯だな! チーズも調達しておくかぁ」
のんびりとした田園風景の中に、男たちの笑い声がこだました。
こうして、可愛くて器用な侵略者――アライグマ捕獲依頼がハンターの元に届けられることとなったのである。
リプレイ本文
●アライグマと葡萄畑
緑の風が、高台の風車を回し、樹木の間を吹き抜ける。
広大で実り豊かな土地を持つジェオルジでは、いつも穏やかな田園風景が広がっている。
依頼でこの地に呼ばれた六人のハンターは、夕暮れ前の村に並ぶ葡萄畑を目の前にしていた。きっと秋には、深い紫の果実が村の色を変え、芳醇な香りで辺りを満たすのだろう。
だが、その実りの秋を迎える前に、葡萄樹が危機に晒されている。――アライグマの食害だ。
「キツネ狩りに使う犬を二頭連れてきたぞ!」
葡萄棚を前にして、ゲルト・フォン・B(ka3222)が声を上げた。貴族風の細かい刺繍が施された丈夫なシャツをさらりと着こなした、若い女性ハンターである。彼女はこれまで騎士としての武術や作法を学んできた経緯もあり、娯楽としての狩りならば経験があるということだった。
その横で、七色の光沢を放つローブをまとった細身の男性が、アライグマを捕獲するための箱罠を準備している。天央 観智(ka0896)だ。
「アライグマ……ついに、実物を目にする機会が訪れましたか」
リアルブルーからの転移者である観智は、アライグマという種の根源について、興味を引かれているようだ。
「うーん、かわいいからって悪い事しちゃいけないよねー」
目元を覆ってしまいそうなほど長い前髪の女性、フィーサ(ka4602)が豊満な胸元を揺らしながら、アライグマにおしおきを、と指先をわきわきと動かしていた。その足元には、ゴールデン・レトリバーの金ちゃんとシェパードのゴドゥノフ二世が同行している。
「アライグマさんの引き取り先、宛てはあるのでしょうか? 近場すぎると、戻ってきてしまいますよね?」
葡萄農家の村人にアライグマの行く末を相談しているのは、来未 結(ka4610)である。彼女もまた、犬のシロとフクロウのクロを連れている。まだ若いが穏やかな雰囲気の結は、自身の思いつく限り、アライグマの引き取り先に伝話をしようと考えていた。
「葡萄畑なら慣れてるよ。よく果物ドロ……げふんげふん、農園の手伝いなんかをね?」
乗用馬で現れた若い女性、ビシュタ・ベリー(ka4446)が言った。彼女は、出発間際にこの依頼への参加が決まった事情もあり、他のハンターたちとの相談も積極的に行っている。言いかけた言葉を曖昧に濁しながらも、しっかりと忍びこむ側の視点を把握しているようだ。
「夜のアライグマ……むむむ、暗闇こわいのである」
痩身の少年、懲罰する者(ka4232)が声を潜めて言った。彼はペットの虎猫を連れており、仲間とも協力しながらアライグマの誘導に回りたいと考えていた。
ハンターたちは、葡萄農家の村人を交えて、捕獲のための罠や誘導方針などについて話し合いを重ねていた。日が沈むまでに、罠を仕掛けておく必要がある。それぞれの戦法を持ち寄り、ハンターたちは可愛い侵略者を捉える方策を実行に移そうとしていた。
●夜のおいかけっこ
村人の家でひとときの休息を得たハンターたちは、葡萄畑に獣の気配を感じ、日が暮れて辺りが暗くなった時間にアライグマ捕獲作戦を開始した。
アライグマに警戒をされないように、明かりは消しておく。そして、10頭近いアライグマがすべて獣穴から葡萄畑に侵入したのを見計らって、その穴の周囲に誘引餌を入れた箱型の罠を設置した。葡萄畑の内部には、すでに罠が設置されている。誘引餌を置いた箱罠は樹木の隙間に置き、樹上には鼠など小動物用の小さな罠を仕掛けて、葡萄畑の奥をアライグマの誘導先に定めた。その誘導先にも、捕獲用の罠が仕掛けてある。
西側中央部、人間用の出入り口から、まず防獣網の中へ入ったのはゲルトだ。彼女は、罠の準備中に近くで拾っておいた木片を手にしている。作戦開始の合図のようにプロテクションを発動させ、光で全身を覆った。そして、足元の犬二頭にアライグマを追い立てるよう声を掛けてから、葡萄畑に解き放つ。
途端に、アライグマたちにざわめきが生まれる。真っ暗な樹木の間を、がさがさと激しく音を立てて走り回り始めたのだ。
「罠にかかって、大人しく進退窮まってくれれば助かるんですけれど」
だがそうもいかないか、と観智は、箱型の罠の様子を確認しながらも、足元を走るアライグマを追いかける。
あるアライグマは葡萄樹の隙間を走り抜け、あるアライグマは葡萄樹を登って追走をかわす。
「おー、きたきた。こうして見るとかわいいのにねー」
仲間たちが動き始めたのに合わせて、フィーサは脚にマテリアルを集中させて地を蹴った。そして、白く輝く鞭をアライグマに向かって振るう。アライグマが彼女に気付いて回避したため、地面を打ち鳴らして進行を牽制したのだ。態勢を崩して方向を変えざると得なくなったアライグマは、思わず箱型の罠に飛びこんでしまう。がしゃん、と大きな音を立てて、罠の檻が閉ざされた。1頭、確保。
そのとき、結のペットであるフクロウのシロが、防獣網の外側、上空から樹上に逃げて隠れているアライグマを威嚇していた。結は、アライグマの立体的な動きに注視していたのだ。そして彼女は神楽鈴を鳴らして合図を送りながら、犬のクロや他の犬、懲罰する者とともにアライグマを追い詰めようとしている。輝く光の弾を走るアライグマの周囲に撃って、動きを誘導するのだ。
「こいつらを扱えれば、熊回しの芸に使えるかも……?」
国を流れ、熊回しや占い、手品などで生計を立てていたビシュタは、小さな果実を手にしてアライグマを餌付けしようとしていた。だが、周囲で捕物が繰り広げられている状態では、アライグマも落ち着いて餌に飛びつく気にはならないようだ。アライグマは警戒心を剥き出しにして、暗闇に走り去ってしまう。
アライグマを罠に追い込もうとしていた懲罰する者は、結と協力して標的にしたアライグマを挟み込む。アライグマから距離を取ったところで、ロッドに光の精霊を宿らせ、まばゆい光で辺りを照らした。それに驚いたアライグマが、懲罰する者から逃げるように樹木の陰に飛び込む。だがそこにはもちろん、箱型の罠が仕掛けてある。がしゃん、と檻が閉じ、また1頭が確保された。
だが、夜の葡萄畑を走り回る獣の気配は、まだたくさんある。
●アライグマ包囲網
犬の吠える声が、夜闇に響く。防獣網で覆われた中で走り回るハンターたちの額には、うっすらと汗が浮かび始めていた。
ゲルトは、走り回るアライグマの手足を掬うように、手にした木片を振るっていた。だが大きく振り回せば葡萄樹に当たってしまうし、アライグマに致命傷を負わせてしまう可能性もある。あくまで、逃走を制限する程度の打撃だ。
「こっちです!」
葡萄畑の南西奥で、観智が声を上げる。ハンターたちがアライグマを追い立てて一箇所に集め、そこで観智が眠りの魔法をかける作戦だ。魔法の効果範囲はそれなりに広く、複数頭まとめて無抵抗化するには最適だろう。
木片で牽制するゲルト、鞭を振るうフィーサとビシュタ、足で追う結と懲罰する者がアライグマ包囲網を敷き、ほぼ同時に4頭が南西奥に飛び込んできた。今だ、と観智が魔法を発動させると、青白い雲が一瞬だけ広がり、それに包まれた4頭のアライグマは、ぱたり、と地面に倒れた。
それでもまだ、全頭を捕らえたわけではない。
「おっと、そっちは通行止めだよっと!」
マテリアルを込めることにより移動力を上昇させたフィーサが、アライグマの動きに合わせて鞭を打ち鳴らす。回避し損ねたアライグマは行き場を失って右往左往し、それを狙ったフィーサによって引っ捕まえられた。爪を出してばたばたと暴れ、しゃあっと牙を剥いて威嚇してくるが、フィーサは防刃グローブとレザーアーマー「ヘッジホッグ」を装着しているため、傷付けられることはない。「ヘッジホッグ」のトゲトゲでアライグマを突き刺さないよう、豊満な胸の弾力でアライグマを包みこんだ。あとは、魔法で眠った4頭と同じ檻に入れてしまえばいい。
そのとき結は、観智のスリープクラウドから逃れたアライグマ2頭を追いかけていた。シャインで光の精霊を「七支刀」に宿らせて輝かせ、アライグマを遠ざけるように罠がある樹木の下へと追い込む。だが2頭は互いにぶつかりながらも必死に罠を避け、葡萄樹を登って移動していく。
それを狙っていたのは、ビシュタである。樹上に小動物用の小さな罠を仕掛けたのは、彼女なのだ。ぎゃん、と甲高い声を上げたアライグマが1頭、樹上から転がり落ちた。やはり、罠に前肢を挟んでしまったようだ。この罠はもともと小動物を捕殺するためのものだが、アライグマならば回復魔法で治癒できる程度の怪我で済むだろう。
そして、懲罰する者は、ビシュタから逃げてきた最後の1頭と向き合っていた。なおも光を放つロッドでアライグマを牽制すると、アライグマは慌てて後退し、くるりと翻って駆け出す。だがそこには、五人のハンターがずらりと待ち構えていた。逃走の甲斐なく、最後の1頭はあっけないほど簡単に、檻の罠に収められたのである。
●ジェオルジの恵みを味わう夕べ
「いや~、ほんとに鮮やかな手並みだよなぁ。大したもんだ!」
「これで無事に、実が付くさなぁ。ありがとう」
檻にしっかり入れられた9頭のアライグマを前に、葡萄農園の村人たちが喜びの声を上げた。そこには、ハンターに対する尊敬と親愛の気持ちが込められている。
多少、怪我を負ったアライグマもいるが、彼らには結と懲罰する者が手分けして回復魔法を施したので、今後の野生生活に影響が出ることはないだろう。
「さぁ、まだ夜は明けねぇぞ! 存分に、ジェオルジの恵みを味わってくれ」
農家の庭とも平原とも区別が付かない開けた場所に、先ほどまでとは打って変わり、眩い明かりが灯された。その灯火の下に並ぶのは、この村特産の葡萄酒、葡萄のジュース、そして他の村から仕入れたジェオルジ産のチーズである。
「はいはい、お子様組はアタシと一緒に葡萄ジュースで乾杯だよー」
フィーサが声を掛けると、酒の飲めない数人が葡萄ジュースに手を伸ばした。農園直産の葡萄ジュースはとても濃厚で、甘い芳香を周囲に漂わせている。
ゲルトは、少しだけ食べものを摘んで味わったあと、村人たちの輪に混じって農作業についての話に花を咲かせていた。
葡萄酒の杯を傾けながら、観智はチーズとともにジェオルジの豊かな恵みを堪能している。
結は、小さな宴の席を楽しみながらも、捕らえられたアライグマを思いやっていた。今は檻を隔てた関係ではあるが、いつか人間とアライグマが近くで生きられる日が来ることを願っているのだ。
宴から離れ、ビシュタはアライグマが捕らわれている檻の前にいた。どうにかアライグマを使役できないかと、再度餌付けをしたりファミリアアタックが発動できないかと試しているのだ。だがどうやら、アライグマとの相棒関係は成立しないようだ。
そして懲罰する者は、自身に課した掟を守りつつ食事をしようと試みているが、もたもたしているうちに、ペットの虎猫がチーズを咥えて、ひょい、と逃げ去ってしまう。
「おおお……こんな食事を前にして、ペットに先を越されるとは……神も仏もないのである」
むしゃむしゃと美味しそうにチーズを食べている虎猫を横目に、懲罰する者は嘆いた。
夜が深まりゆく中、ジェオルジの平原に笑い声と芳醇な香りが広がっている。捕獲されたアライグマたちは物悲しげに、くぅん、と鼻を鳴らすが、ジェオルジの実り豊かな森に帰されるのはもうすぐのことだ。それまでほんの少しの間、葡萄園を荒らした反省をしてもらっても良いのではないだろうか――。
緑の風が、高台の風車を回し、樹木の間を吹き抜ける。
広大で実り豊かな土地を持つジェオルジでは、いつも穏やかな田園風景が広がっている。
依頼でこの地に呼ばれた六人のハンターは、夕暮れ前の村に並ぶ葡萄畑を目の前にしていた。きっと秋には、深い紫の果実が村の色を変え、芳醇な香りで辺りを満たすのだろう。
だが、その実りの秋を迎える前に、葡萄樹が危機に晒されている。――アライグマの食害だ。
「キツネ狩りに使う犬を二頭連れてきたぞ!」
葡萄棚を前にして、ゲルト・フォン・B(ka3222)が声を上げた。貴族風の細かい刺繍が施された丈夫なシャツをさらりと着こなした、若い女性ハンターである。彼女はこれまで騎士としての武術や作法を学んできた経緯もあり、娯楽としての狩りならば経験があるということだった。
その横で、七色の光沢を放つローブをまとった細身の男性が、アライグマを捕獲するための箱罠を準備している。天央 観智(ka0896)だ。
「アライグマ……ついに、実物を目にする機会が訪れましたか」
リアルブルーからの転移者である観智は、アライグマという種の根源について、興味を引かれているようだ。
「うーん、かわいいからって悪い事しちゃいけないよねー」
目元を覆ってしまいそうなほど長い前髪の女性、フィーサ(ka4602)が豊満な胸元を揺らしながら、アライグマにおしおきを、と指先をわきわきと動かしていた。その足元には、ゴールデン・レトリバーの金ちゃんとシェパードのゴドゥノフ二世が同行している。
「アライグマさんの引き取り先、宛てはあるのでしょうか? 近場すぎると、戻ってきてしまいますよね?」
葡萄農家の村人にアライグマの行く末を相談しているのは、来未 結(ka4610)である。彼女もまた、犬のシロとフクロウのクロを連れている。まだ若いが穏やかな雰囲気の結は、自身の思いつく限り、アライグマの引き取り先に伝話をしようと考えていた。
「葡萄畑なら慣れてるよ。よく果物ドロ……げふんげふん、農園の手伝いなんかをね?」
乗用馬で現れた若い女性、ビシュタ・ベリー(ka4446)が言った。彼女は、出発間際にこの依頼への参加が決まった事情もあり、他のハンターたちとの相談も積極的に行っている。言いかけた言葉を曖昧に濁しながらも、しっかりと忍びこむ側の視点を把握しているようだ。
「夜のアライグマ……むむむ、暗闇こわいのである」
痩身の少年、懲罰する者(ka4232)が声を潜めて言った。彼はペットの虎猫を連れており、仲間とも協力しながらアライグマの誘導に回りたいと考えていた。
ハンターたちは、葡萄農家の村人を交えて、捕獲のための罠や誘導方針などについて話し合いを重ねていた。日が沈むまでに、罠を仕掛けておく必要がある。それぞれの戦法を持ち寄り、ハンターたちは可愛い侵略者を捉える方策を実行に移そうとしていた。
●夜のおいかけっこ
村人の家でひとときの休息を得たハンターたちは、葡萄畑に獣の気配を感じ、日が暮れて辺りが暗くなった時間にアライグマ捕獲作戦を開始した。
アライグマに警戒をされないように、明かりは消しておく。そして、10頭近いアライグマがすべて獣穴から葡萄畑に侵入したのを見計らって、その穴の周囲に誘引餌を入れた箱型の罠を設置した。葡萄畑の内部には、すでに罠が設置されている。誘引餌を置いた箱罠は樹木の隙間に置き、樹上には鼠など小動物用の小さな罠を仕掛けて、葡萄畑の奥をアライグマの誘導先に定めた。その誘導先にも、捕獲用の罠が仕掛けてある。
西側中央部、人間用の出入り口から、まず防獣網の中へ入ったのはゲルトだ。彼女は、罠の準備中に近くで拾っておいた木片を手にしている。作戦開始の合図のようにプロテクションを発動させ、光で全身を覆った。そして、足元の犬二頭にアライグマを追い立てるよう声を掛けてから、葡萄畑に解き放つ。
途端に、アライグマたちにざわめきが生まれる。真っ暗な樹木の間を、がさがさと激しく音を立てて走り回り始めたのだ。
「罠にかかって、大人しく進退窮まってくれれば助かるんですけれど」
だがそうもいかないか、と観智は、箱型の罠の様子を確認しながらも、足元を走るアライグマを追いかける。
あるアライグマは葡萄樹の隙間を走り抜け、あるアライグマは葡萄樹を登って追走をかわす。
「おー、きたきた。こうして見るとかわいいのにねー」
仲間たちが動き始めたのに合わせて、フィーサは脚にマテリアルを集中させて地を蹴った。そして、白く輝く鞭をアライグマに向かって振るう。アライグマが彼女に気付いて回避したため、地面を打ち鳴らして進行を牽制したのだ。態勢を崩して方向を変えざると得なくなったアライグマは、思わず箱型の罠に飛びこんでしまう。がしゃん、と大きな音を立てて、罠の檻が閉ざされた。1頭、確保。
そのとき、結のペットであるフクロウのシロが、防獣網の外側、上空から樹上に逃げて隠れているアライグマを威嚇していた。結は、アライグマの立体的な動きに注視していたのだ。そして彼女は神楽鈴を鳴らして合図を送りながら、犬のクロや他の犬、懲罰する者とともにアライグマを追い詰めようとしている。輝く光の弾を走るアライグマの周囲に撃って、動きを誘導するのだ。
「こいつらを扱えれば、熊回しの芸に使えるかも……?」
国を流れ、熊回しや占い、手品などで生計を立てていたビシュタは、小さな果実を手にしてアライグマを餌付けしようとしていた。だが、周囲で捕物が繰り広げられている状態では、アライグマも落ち着いて餌に飛びつく気にはならないようだ。アライグマは警戒心を剥き出しにして、暗闇に走り去ってしまう。
アライグマを罠に追い込もうとしていた懲罰する者は、結と協力して標的にしたアライグマを挟み込む。アライグマから距離を取ったところで、ロッドに光の精霊を宿らせ、まばゆい光で辺りを照らした。それに驚いたアライグマが、懲罰する者から逃げるように樹木の陰に飛び込む。だがそこにはもちろん、箱型の罠が仕掛けてある。がしゃん、と檻が閉じ、また1頭が確保された。
だが、夜の葡萄畑を走り回る獣の気配は、まだたくさんある。
●アライグマ包囲網
犬の吠える声が、夜闇に響く。防獣網で覆われた中で走り回るハンターたちの額には、うっすらと汗が浮かび始めていた。
ゲルトは、走り回るアライグマの手足を掬うように、手にした木片を振るっていた。だが大きく振り回せば葡萄樹に当たってしまうし、アライグマに致命傷を負わせてしまう可能性もある。あくまで、逃走を制限する程度の打撃だ。
「こっちです!」
葡萄畑の南西奥で、観智が声を上げる。ハンターたちがアライグマを追い立てて一箇所に集め、そこで観智が眠りの魔法をかける作戦だ。魔法の効果範囲はそれなりに広く、複数頭まとめて無抵抗化するには最適だろう。
木片で牽制するゲルト、鞭を振るうフィーサとビシュタ、足で追う結と懲罰する者がアライグマ包囲網を敷き、ほぼ同時に4頭が南西奥に飛び込んできた。今だ、と観智が魔法を発動させると、青白い雲が一瞬だけ広がり、それに包まれた4頭のアライグマは、ぱたり、と地面に倒れた。
それでもまだ、全頭を捕らえたわけではない。
「おっと、そっちは通行止めだよっと!」
マテリアルを込めることにより移動力を上昇させたフィーサが、アライグマの動きに合わせて鞭を打ち鳴らす。回避し損ねたアライグマは行き場を失って右往左往し、それを狙ったフィーサによって引っ捕まえられた。爪を出してばたばたと暴れ、しゃあっと牙を剥いて威嚇してくるが、フィーサは防刃グローブとレザーアーマー「ヘッジホッグ」を装着しているため、傷付けられることはない。「ヘッジホッグ」のトゲトゲでアライグマを突き刺さないよう、豊満な胸の弾力でアライグマを包みこんだ。あとは、魔法で眠った4頭と同じ檻に入れてしまえばいい。
そのとき結は、観智のスリープクラウドから逃れたアライグマ2頭を追いかけていた。シャインで光の精霊を「七支刀」に宿らせて輝かせ、アライグマを遠ざけるように罠がある樹木の下へと追い込む。だが2頭は互いにぶつかりながらも必死に罠を避け、葡萄樹を登って移動していく。
それを狙っていたのは、ビシュタである。樹上に小動物用の小さな罠を仕掛けたのは、彼女なのだ。ぎゃん、と甲高い声を上げたアライグマが1頭、樹上から転がり落ちた。やはり、罠に前肢を挟んでしまったようだ。この罠はもともと小動物を捕殺するためのものだが、アライグマならば回復魔法で治癒できる程度の怪我で済むだろう。
そして、懲罰する者は、ビシュタから逃げてきた最後の1頭と向き合っていた。なおも光を放つロッドでアライグマを牽制すると、アライグマは慌てて後退し、くるりと翻って駆け出す。だがそこには、五人のハンターがずらりと待ち構えていた。逃走の甲斐なく、最後の1頭はあっけないほど簡単に、檻の罠に収められたのである。
●ジェオルジの恵みを味わう夕べ
「いや~、ほんとに鮮やかな手並みだよなぁ。大したもんだ!」
「これで無事に、実が付くさなぁ。ありがとう」
檻にしっかり入れられた9頭のアライグマを前に、葡萄農園の村人たちが喜びの声を上げた。そこには、ハンターに対する尊敬と親愛の気持ちが込められている。
多少、怪我を負ったアライグマもいるが、彼らには結と懲罰する者が手分けして回復魔法を施したので、今後の野生生活に影響が出ることはないだろう。
「さぁ、まだ夜は明けねぇぞ! 存分に、ジェオルジの恵みを味わってくれ」
農家の庭とも平原とも区別が付かない開けた場所に、先ほどまでとは打って変わり、眩い明かりが灯された。その灯火の下に並ぶのは、この村特産の葡萄酒、葡萄のジュース、そして他の村から仕入れたジェオルジ産のチーズである。
「はいはい、お子様組はアタシと一緒に葡萄ジュースで乾杯だよー」
フィーサが声を掛けると、酒の飲めない数人が葡萄ジュースに手を伸ばした。農園直産の葡萄ジュースはとても濃厚で、甘い芳香を周囲に漂わせている。
ゲルトは、少しだけ食べものを摘んで味わったあと、村人たちの輪に混じって農作業についての話に花を咲かせていた。
葡萄酒の杯を傾けながら、観智はチーズとともにジェオルジの豊かな恵みを堪能している。
結は、小さな宴の席を楽しみながらも、捕らえられたアライグマを思いやっていた。今は檻を隔てた関係ではあるが、いつか人間とアライグマが近くで生きられる日が来ることを願っているのだ。
宴から離れ、ビシュタはアライグマが捕らわれている檻の前にいた。どうにかアライグマを使役できないかと、再度餌付けをしたりファミリアアタックが発動できないかと試しているのだ。だがどうやら、アライグマとの相棒関係は成立しないようだ。
そして懲罰する者は、自身に課した掟を守りつつ食事をしようと試みているが、もたもたしているうちに、ペットの虎猫がチーズを咥えて、ひょい、と逃げ去ってしまう。
「おおお……こんな食事を前にして、ペットに先を越されるとは……神も仏もないのである」
むしゃむしゃと美味しそうにチーズを食べている虎猫を横目に、懲罰する者は嘆いた。
夜が深まりゆく中、ジェオルジの平原に笑い声と芳醇な香りが広がっている。捕獲されたアライグマたちは物悲しげに、くぅん、と鼻を鳴らすが、ジェオルジの実り豊かな森に帰されるのはもうすぐのことだ。それまでほんの少しの間、葡萄園を荒らした反省をしてもらっても良いのではないだろうか――。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/25 10:09:54 |
|
![]() |
相談卓です 来未 結(ka4610) 人間(リアルブルー)|14才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/05/25 10:22:58 |