ゲスト
(ka0000)
青き故郷を放たれて
マスター:風華弓弦

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~8人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/07/10 19:00
- 完成日
- 2014/07/31 08:13
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●七月の病
南の空高くに昇った太陽の下、休みなく波が寄せては返す。
あと半月しないうちに夏も本番となり、海辺には涼を求める者達で賑わうだろう。
(……今年は、新しい『名所』も増えたことだしね)
南に見える島には、去年の今頃にはなかった『船』が鎮座していた。
秋頃、突如リゼリオ上空に出現し、空を裂いて落ちてきたソレは『サルヴァトーレ・ロッソ』という名を持つリアルブルーの乗り物だ。
クリムゾンウエストでは類をみない巨大船は、空の向こう、星の世界にまで到るという。
(まるで、子供向けのおとぎ話みたいな話だけど……)
実際に星空から落ちてきたくらいだから、おそらく真実なのだろう。
そうでなくてもリアルブルー由来の技術は、クリムゾンウエストの人々から見ると、魔法か手品のような代物ばかりなのだから。
「やぁ、ベッケライの旦那。散歩かね?」
足元から声をかけられ、目の前を流れる運河に彼は視線を落とす。
「やぁ、配達屋さん。今日もいい天気ですね」
「お陰さんで、仕事がはかどるさ」
小舟のオールを握る壮年の男は、開いた手でひょいと帽子を軽く掲げた。
「ハンターが増えたせいか、最近は仕事も増えてきてなぁ」
陸地といくつかの島で構成されるこの街は、時に船で移動する方が便利な時もある。
リアルブルーより飛来したサルヴァトーレ・ロッソが錨(いかり)を下ろし、多くのハンター達をまとめるハンターズソサエティが本部を置く、この街――自由都市同盟を構成する都市の一つでもある街の名を、『冒険都市リゼリオ』という。
「きゅーきゅー」
「にゅにゅー」
サルヴァトーレ・ロッソを眺める二人の足元を、気の抜ける声がわらわら通り過ぎた。
「おや、今日のお客さんか」
「必要とあらば物でも人でも運ぶのが、配達屋稼業。てな」
よじよじと器用に小舟の縁から岸に上がるのはパルムの幼生体、キノコ達だ。
手のりサイズな『神霊樹の世話役』は、ハンターの多いリゼリオでは珍しい存在でもない。また好奇心からか、ベッケライ……エルフが営むパン屋にもよく現れる『常連客』でもあった。
しかし、今日は他に気になるモノを見つけたか。パン屋に向かわず、大きな頭をゆらゆらさせつつ、岸辺の一角を揃って窺っている。
視線の先では、旅人っぽい若い女が立っていた。
面立ちや髪型からリアルブルー出身と思われる女性は、南の海を――そこに留まるサルヴァトーレ・ロッソを、ただひたすらに見つめる。
「このあたりでは、見かけない女性だね」
「2~3日ほど前から、ああしているぞ。最初は身投げかと思ったが、そうでもなさそうだ」
二人の男が話す間に、小さなパルム達はとてとてと旅人の足元へ集まった。
それにも気付かないのか、うかない顔で立ち尽くした『彼女』は故郷の船をじっと見つめ続ける。
はたから見れば、ひどく奇妙な光景だ。
「ところで、今日の昼飯は残ってるか?」
「ああ、いつものだよね。あるよ」
訊ねる配達屋に、エルフの青年は提げた駕籠に突っ込んであるパン包みの一つを手渡した。
それが、彼らの『いつもの日課』だ。
「ありがとよ。これでやっと、昼休憩だ」
「ごゆっくり。僕はパンを届けに行ってくるよ」
「プレシウの嬢ちゃんか。面倒見のいいこったな」
「あの子、『仕事』にかかると食べなくなっちゃうから。本当に、ドワーフってのは無頓着だよね」
肩を竦めるエルフに何故か配達屋はからから笑い、「じゃあな」とオールを手にした。
岸から離れる小舟へ軽く手を振り、再び佇む女性に目をやってから、彼は慣れた道を歩き出す。
●宝飾細工師の工房
「運河岸の彼女ですね。それなら、ハルハラって名前だとか」
小さな工房の入り口にあるベンチで、差し入れのサンドイッチを頬張るプレシウが淡々と答える。
熱気が漂ってくる工房内を覗けば、様々な工具道具が雑然と並んでいた。
「多分『ほぅむしっく』って病気なんだろうって、リアルブルーの民は言ってましたが」
「そうなんだ……相変わらず、耳ざとい」
遠慮なくパンを食べるドワーフの女性宝飾細工師は、作業に入ると食事すら忘れる。なのに何故か、こういう噂や世間話の類はエルフのパン屋より早かった。
「それはあなたが鈍いせいではないのですか、ベッケライ」
ドワーフから言われると微妙にカチンとくるものの、いちいち気にすると埒(らち)が明かない。
「その病気、なんとかしてあげられないかな」
ベッケライの提案に、また節介焼きが始まったと言わんばかりにプレシウは瞳をぐるりと回した。
放っておくのも、一つの手だ。
しかし、やれ「身投げか」と遠巻きに心配する連中からいちいち相談されるのも、これまた面倒な話で。
「あの船の漂着騒ぎも、少しは落ち着いたようですし。『夏迎えの祭宴』にでも誘ってはどうでしょう?」
紅茶のカップを口へ運びながら、首を傾げるプレシウ。
『祭宴』というと大げさに聞こえるが、「本格的な夏を前に、美味い物を食べて備えよう」という、この付近の住人に根付いた習慣の一つだ。
運河岸の広場で焚き火を囲んで酒を飲み、持ち寄ったご馳走を食べる程度の小さな宴会。
盛大な祭でなくても、季節ごとのささやかな『宴会』は日々の生活における、ちょっとしたスパイスのようなものと言える。
「夏迎えの祭宴……もう、そんな時期だっけ」
「では、あなたはハルハラに声をかけて下さい。私はハンターオフィスに告知を頼んでおきます」
「……僕が!?」
思わず聞き返す彼を、真顔でプレシウが見上げた。
「客付き合い程度、慣れたものでは? それに男性から誘われた方が、聞き入れてくれるのではないでしょうか」
「そそそ、それこそ、ハンターの人達にお願いしてみようよっ。リアルブルーの人と付き合いがある人なら、話しやすいだろうし。うん、そうしよう!」
慌てふためくベッケライをプレシウはじーっと凝視したまま、サンドイッチの最後のひと欠けらをぽんと口へ放り込んだ。
●思いは届くか
再び通りがかった運河岸には、まだ春原ミヤビ(ハルハラ・ミヤビ)の姿があった。
腰を降ろした傍らで相変わらずキノコ達が海風に揺れているが、気にしていないのか、気付いていないのか。
(……帰りたい、のかなぁ)
寂しげな後ろ姿を見ながら、ベッケライは空になった駕籠をぶら提げて家路を辿る。
どんなパンを焼けばリアルブルーの人が喜ぶか、考えながら。
南の空高くに昇った太陽の下、休みなく波が寄せては返す。
あと半月しないうちに夏も本番となり、海辺には涼を求める者達で賑わうだろう。
(……今年は、新しい『名所』も増えたことだしね)
南に見える島には、去年の今頃にはなかった『船』が鎮座していた。
秋頃、突如リゼリオ上空に出現し、空を裂いて落ちてきたソレは『サルヴァトーレ・ロッソ』という名を持つリアルブルーの乗り物だ。
クリムゾンウエストでは類をみない巨大船は、空の向こう、星の世界にまで到るという。
(まるで、子供向けのおとぎ話みたいな話だけど……)
実際に星空から落ちてきたくらいだから、おそらく真実なのだろう。
そうでなくてもリアルブルー由来の技術は、クリムゾンウエストの人々から見ると、魔法か手品のような代物ばかりなのだから。
「やぁ、ベッケライの旦那。散歩かね?」
足元から声をかけられ、目の前を流れる運河に彼は視線を落とす。
「やぁ、配達屋さん。今日もいい天気ですね」
「お陰さんで、仕事がはかどるさ」
小舟のオールを握る壮年の男は、開いた手でひょいと帽子を軽く掲げた。
「ハンターが増えたせいか、最近は仕事も増えてきてなぁ」
陸地といくつかの島で構成されるこの街は、時に船で移動する方が便利な時もある。
リアルブルーより飛来したサルヴァトーレ・ロッソが錨(いかり)を下ろし、多くのハンター達をまとめるハンターズソサエティが本部を置く、この街――自由都市同盟を構成する都市の一つでもある街の名を、『冒険都市リゼリオ』という。
「きゅーきゅー」
「にゅにゅー」
サルヴァトーレ・ロッソを眺める二人の足元を、気の抜ける声がわらわら通り過ぎた。
「おや、今日のお客さんか」
「必要とあらば物でも人でも運ぶのが、配達屋稼業。てな」
よじよじと器用に小舟の縁から岸に上がるのはパルムの幼生体、キノコ達だ。
手のりサイズな『神霊樹の世話役』は、ハンターの多いリゼリオでは珍しい存在でもない。また好奇心からか、ベッケライ……エルフが営むパン屋にもよく現れる『常連客』でもあった。
しかし、今日は他に気になるモノを見つけたか。パン屋に向かわず、大きな頭をゆらゆらさせつつ、岸辺の一角を揃って窺っている。
視線の先では、旅人っぽい若い女が立っていた。
面立ちや髪型からリアルブルー出身と思われる女性は、南の海を――そこに留まるサルヴァトーレ・ロッソを、ただひたすらに見つめる。
「このあたりでは、見かけない女性だね」
「2~3日ほど前から、ああしているぞ。最初は身投げかと思ったが、そうでもなさそうだ」
二人の男が話す間に、小さなパルム達はとてとてと旅人の足元へ集まった。
それにも気付かないのか、うかない顔で立ち尽くした『彼女』は故郷の船をじっと見つめ続ける。
はたから見れば、ひどく奇妙な光景だ。
「ところで、今日の昼飯は残ってるか?」
「ああ、いつものだよね。あるよ」
訊ねる配達屋に、エルフの青年は提げた駕籠に突っ込んであるパン包みの一つを手渡した。
それが、彼らの『いつもの日課』だ。
「ありがとよ。これでやっと、昼休憩だ」
「ごゆっくり。僕はパンを届けに行ってくるよ」
「プレシウの嬢ちゃんか。面倒見のいいこったな」
「あの子、『仕事』にかかると食べなくなっちゃうから。本当に、ドワーフってのは無頓着だよね」
肩を竦めるエルフに何故か配達屋はからから笑い、「じゃあな」とオールを手にした。
岸から離れる小舟へ軽く手を振り、再び佇む女性に目をやってから、彼は慣れた道を歩き出す。
●宝飾細工師の工房
「運河岸の彼女ですね。それなら、ハルハラって名前だとか」
小さな工房の入り口にあるベンチで、差し入れのサンドイッチを頬張るプレシウが淡々と答える。
熱気が漂ってくる工房内を覗けば、様々な工具道具が雑然と並んでいた。
「多分『ほぅむしっく』って病気なんだろうって、リアルブルーの民は言ってましたが」
「そうなんだ……相変わらず、耳ざとい」
遠慮なくパンを食べるドワーフの女性宝飾細工師は、作業に入ると食事すら忘れる。なのに何故か、こういう噂や世間話の類はエルフのパン屋より早かった。
「それはあなたが鈍いせいではないのですか、ベッケライ」
ドワーフから言われると微妙にカチンとくるものの、いちいち気にすると埒(らち)が明かない。
「その病気、なんとかしてあげられないかな」
ベッケライの提案に、また節介焼きが始まったと言わんばかりにプレシウは瞳をぐるりと回した。
放っておくのも、一つの手だ。
しかし、やれ「身投げか」と遠巻きに心配する連中からいちいち相談されるのも、これまた面倒な話で。
「あの船の漂着騒ぎも、少しは落ち着いたようですし。『夏迎えの祭宴』にでも誘ってはどうでしょう?」
紅茶のカップを口へ運びながら、首を傾げるプレシウ。
『祭宴』というと大げさに聞こえるが、「本格的な夏を前に、美味い物を食べて備えよう」という、この付近の住人に根付いた習慣の一つだ。
運河岸の広場で焚き火を囲んで酒を飲み、持ち寄ったご馳走を食べる程度の小さな宴会。
盛大な祭でなくても、季節ごとのささやかな『宴会』は日々の生活における、ちょっとしたスパイスのようなものと言える。
「夏迎えの祭宴……もう、そんな時期だっけ」
「では、あなたはハルハラに声をかけて下さい。私はハンターオフィスに告知を頼んでおきます」
「……僕が!?」
思わず聞き返す彼を、真顔でプレシウが見上げた。
「客付き合い程度、慣れたものでは? それに男性から誘われた方が、聞き入れてくれるのではないでしょうか」
「そそそ、それこそ、ハンターの人達にお願いしてみようよっ。リアルブルーの人と付き合いがある人なら、話しやすいだろうし。うん、そうしよう!」
慌てふためくベッケライをプレシウはじーっと凝視したまま、サンドイッチの最後のひと欠けらをぽんと口へ放り込んだ。
●思いは届くか
再び通りがかった運河岸には、まだ春原ミヤビ(ハルハラ・ミヤビ)の姿があった。
腰を降ろした傍らで相変わらずキノコ達が海風に揺れているが、気にしていないのか、気付いていないのか。
(……帰りたい、のかなぁ)
寂しげな後ろ姿を見ながら、ベッケライは空になった駕籠をぶら提げて家路を辿る。
どんなパンを焼けばリアルブルーの人が喜ぶか、考えながら。
リプレイ本文
●交差点
「準備、もう始まっているようですね」
「皆、待ちかねていたのさ」
近付く広場を眺める静架(ka0387)にオールを握る配達屋が笑い、静かに舟は桟橋へ寄せられた。
「到着だ、お疲れさん」
縄を杭へもやう間に静架は桟橋に飛び移り、荷を抱えた男へ手を伸ばす。
「別に構わんぞ?」
「二人の方が早いですから。後の人を待たせる時間も」
「我なら大丈夫なのじゃ。まるでブランコのようで……のう、クリム?」
同乗したエルフの少女は、重心の移動で小さく舟が揺れるたび、傍らの愛犬と目を輝かせていた。
「待たせて、申し訳ない」
「水の上は涼しかったのじゃ」
ローブをつまんだルリリィミルム(ka2221)はひょいと桟橋に移り、渡し板を使う柴犬を見守る。
「では、祭の前に探検じゃの」
運河に面した広場では住民達が集い、持ち寄った薪を組み始めていた。
「……ふん、ふ~んふん~♪」
鼻歌というよりスキャットという表現の方が合うメロディに、ぶらりと広場を訪れたタディーナ=F=アース(ka0020)は立ち止まった。
広場の賑わいで消えそうな微かな歌を、彼女は何気なく視線で辿る。
頭から爪先まで黒でまとめた黒髪の女性がテーブルのバスケットをぱたんと閉じ、そこで歌も途切れた。
「コレで全部、っと」
「手作りのお菓子って、それだけで美味しそうです……材料はみんな、こっちで揃えたんですか?」
「ある程度は、ね。素材が新鮮無添加な分だけ手間もかかるけど、味は保証するわよ」
答えるケイ・R・シュトルツェ(ka0242)の手元にはベリー類を沢山使ったトライフルやレアチーズケーキのタルトが並び、志乃原・勇雅(ka1411)が興味深そうに見つめている。
「ベリーが豊富なら、蜜を集める蝶や蜂も沢山いるよね。味に違いとか、ないのかな?」
味はもちろん、少年の好奇心は材料を巡る生態系にもあるらしい。
「これ、デザートだけかい?」
「カップラーメンなら、あるけど……?」
ぽそと付け加える八剣 ノブ(ka0258)に、覗き込んだタディーナは微妙な表情を返し。
「それはむしろ、酒の後……あれ?」
とてとてと足元を過ぎる、キノコ頭に目を止める。
「あの人……」
行く先に気付いたノブもパルム達に続き、見送るタディーナは紙巻煙草を引っ張り出した。
「祭り……つっても、集まって飲み食いするだけ。季節の変わり目に乗じた会合ってとこか。せっかくだから、催しがありゃいいのにさ」
「娯楽も少ない場所なら、皆で集まって騒ぐだけでも小さなお祭りよ。こっちの人達との交流も楽しそうだわ」
ケイは身振りで火を示すも、煙草を咥えたタディーナは断り。
「別に賑やかなのは、嫌いじゃない。けど、花火……なんて、こっちにゃないか」
「夏と言えば、花火だものね」
少し寂しげな様子に、青い空を仰ぐ。
「蛍を放すのも綺麗だと思うけど、いるのかな」
勇雅も顔を上げれば、悠然とカモメが空を飛んでいた。
「ほわぁ……あれが、異国の船なん……! お家が、すごく小ちゃく見えるんよー」
不意の感嘆に春原ミヤビが目をやれば、小柄な少女がサルヴァトーレ・ロッソに目を丸くしていた。
感心するミィナ・アレグトーリア(ka0317)は、窺う視線に気付いたのか。
「こーやって目にするのは、初めてなん……あ、春原さんで合ってる、かなぁ?」
「……はい?」
「今日な、広場でお祭りがあるんよー」
肯定と疑問が混じった返事ににっこり微笑み、広場を示す。
「リアルブルーの人も参加するから、良かったら来て下さいって街の人が言ってたのん」
「それを、わざわざ?」
困惑するミヤビに、大きくミィナは頷いた。
「だけど春原さんが一人で居たいなぁって思うなら、うちが伝えておくのん」
返事を待つ青い瞳にミヤビは思案し、そこへふらりとノブが加わる。
「貴女もリアルブルーの人ですか? えっと、取り込み中?」
「うちはお祭の声かけに」
「なら、よかった。ああ……ボク、あれに乗ってきたらしいんだよね。全然、覚えてないけど」
「本当? こんなおっきな鳥さんみたいなのが飛ぶ世界って、どんなんなのん?」
「沢山の機械がある世界、かな? 緑は少ないけど」
「あの船も、機械なん?」
大きな瞳をミィナが見開き、ノブは宇宙船に目を細めた。
「春原さんも船に?」
「私は、リアルブルーの船がきたと聞いて」
「だったら『先輩』かぁ」
「あなたは……学生さん?」
「中学生、だったハズなんだけど。いつも通り学校から帰って寝て起きたら、いきなり20歳になってて、しかも見知らぬ宇宙船に乗って。そしてファンタジーな世界に放り込まれて……だから、本当わけわかんない」
話の内容は分からないが、嘆息するノブにミィナは心配げな顔をし、無言でミヤビも頷く。
「けど、他にも船に乗ってた人がいるから。今日は折角だから、手持ちのリアルブルー産食品も、ばーっと並べちゃおうと思ってて……ジャンクなものだけど、故郷の味には違いないよね」
「じゃんく?」
「保存食っていうか、栄養より手軽さ重視の携帯食?」
ノブの答えに、ふとミィナは持参の籠を見下ろし。
「うちもリアルブルーの『じゃんく』っぽいのを、持ってきたんよー。春原さん、お話で来て良かったんよー。お祭り、顔出せるならついて来てなー」
そしてミィナは一足先に、とことこと広場へ向かう――提げた籠を揺らしながら。
「不思議よね。元の世界なら、きっと誰も私に話しかけないのに」
聞こえた懐疑的な呟きにノブは眉を寄せ。
「けど……リアルじゃないから、たぶん」
根拠はないが、そう答えて歩き出す。
「はい、夏迎えのヒマワリ飾りだよー。お姉さんもどうぞ」
広場では、二人に気付いた鈴木悠司(ka0176)が不恰好なヒマワリの花飾りを手渡した。
「これ?」
「お手伝いだよ、あの子達の」
鎧の縁に飾った悠司が指差す先では、子供達が手作りのヒマワリを配っている。
「こっちのお祭りは、皆で集まって、仲良く……より絆を深める感じ、なのかな?」
「あっ、お兄ちゃん怠けてるー!」
「サボってないよ~。ミヤビさん達も、仲間に入れて貰えると嬉しいな」
「飾りをつけていたら、お祭りの仲間だよ」
「ふぅん」
何気なく、ノブは渡された飾りを手の内でもてあそび――。
「愛犬のクリムも連れて来たのじゃが。我もクリムも、仲間に入れて貰えるかのう?」
「もちろん! 飾り、どこにつけようか」
訊ねるルリリィと悠司のやり取りに、慌ててノブも飾りを付けた。
●夏を迎える夜
夜の広場に炎柱が立ち上ると、集う人々は歓声をあげる。
「それでは、今年も良い夏が迎えられる事を祈って」
「「「乾杯!」」」
顔役らしき初老の男性の音頭で杯が掲げられ、一杯を干すと楽器を持つ者達は陽気な音楽を奏で始めた。
「ほぉ、これは……美味なのじゃ!」
ふんだんにベリーを使ったトライフルを一口食べたルリリィは、ほわりと幸せにひたる。
「気に入った? よければ、レシピを教えるわよ」
ウインクするケイに、少女は目を輝かせた。
「構わぬのか?」
「リアルブルー風だけどね」
「そっちのデザートは綺麗だねぇ。宝石みたいだよ」
感嘆するベッケライが手にしているのは、くり抜いた皮を器にしたグレープフルーツのゼリーだ。
「本物の宝石は食べられませんが」
美味しさには同意しつつ、淡々と返すプレシウ。
「リアルブルーの人が好きなパンも、こんなのかな」
「ベッケライさんって、パン屋なんですよね。パンを作るコツって、あるんです?」
思案するベッケライに、思い切って勇雅が訊ねた。
「コツ……美味しく食べてもらえるよう、頑張る?」
「あら、精神論なの?」
「だって、美味しいって喜んでもらえると嬉しいし!」
突っ込むケイに、わたわたとパン屋が弁解する。
「ふふっ、気持ちは分かるわ」
「ふむふむ。地きゅ……じゃなくて、リアルブルーだと、パン生地の上にビスケット生地乗せて焼くメロンパンもあるんですけど、そういった感じの焼き方もあるんですかね?」
「僕のは、生地に練り込む感じかなぁ。そっちは他に、どんなパンが人気なんだい?」
勇雅へ答えたベッケライの質問に、真っ先に浮かんだパンをノブが口にする。
「焼きそばパン、とか?」
「ヤキソ、ババン?」
「焼きそばを挟んだ、パンです。こんな風に」
手にとった白パンに静架が切れ目を入れ、焼きそばを挟んでみせた。
「こ、これが、リアルブルーに人気の……!」
衝撃を受けるベッケライを置き、ノブは静架の頭にちょこんと乗った手のひらサイズの花冠を凝視する。
「それ……」
「向日葵ですか? 自分も好きですよ。見ていると、何だか元気な気持ちになりますよね。種も美味いですし」
「種、食べるんですか?」
新たな知識に驚愕する少年へ、静架は首肯した。
「炒って塩を振ると、つまみに良いです」
「そう、酒にはつまみだよな!」
「それなら、マスタードソースのカルパッチョはいかが? 牛肉じゃなく、マスだけど」
一杯機嫌なタディーナの要求に、新たな一品をケイが加える。
「美味しそうだね。せっかくだから、皆で乾杯……」
言いかけた悠司は、賑やかさと距離を取るミヤビに気付く。
「ミヤビさん、地球、恋しい?」
「私……迎えの船だと思ったんです。家族や友達や、全部を置いて、自分だけ飛ばされて……戦うとかも、無理で。連れて帰ってくれると、思ったのに」
「ミヤビは、帰りたいのか。我は知らんのじゃが、それが『ほーむしっく』とやらか?」
吐露するミヤビにルリリィが首を傾げ、ほぅとミィナは溜め息をついた。
「うちも家にも町にも帰れんーってなったら寂しいのん。リアルブルーの人は、如何したら帰れるかも分からんからなぁ……」
「故郷が懐かしいのか。我は今は懐かしくないぞ。……家に帰っても、家族ももう居らんしの……」
ぽつんと呟くルリリィは、ふるふると頭を振り。
「いや、仲間や友はいるがの。今は帰りたいと思わぬのじゃ。世界は広くて、楽しいからのう♪」
「ん。出来ないのは仕方ないし、それはそれでいいんじゃないかな」
どこか割り切った風に、ノブも頷く。
「これだけ沢山の人が召喚されたなら、誰かがクリア条件を満たすかもしれない。けど、解決に向けて動く人が増えれば、帰れる時が早くなる……そんな風に考えて、ボクはなんとか動いてるよ」
「いつか、また戻れる日が来る。それまで笑顔で過ごそ? きっとこっちの世界も楽しいこと、沢山だから……“家族”と呼べるような、素敵な出会いもあると思うし」
「ミヤビも、クリムゾンウェストで友を作るといいと思うのじゃ。ミヤビが心を開けば、皆も世界も心を開く筈。世界も広いし、いつか一緒に見て回るのも面白そうじゃ」
悠司の言葉に、妙案とばかりにルリリィも賛同した。
「甘いね。帰りたい帰りたい言ってて帰れるんだったら、今頃あっちの世界にいるさ。本気で帰る方法を探すか、こっちの世界で生きていく覚悟を固めるか、二つに一つしかないんだよ」
辛辣な言葉と共に、ぐぃとタディーナはカップをあおる。
「あんたね、こっちに来てから何をした? 何もしてないんだろ、だからそうやって塞ぐんだろ。やりゃいいじゃないか。何で、他人任せにしちまうんだよ」
ぶつける言葉は、何故か悔しげに聞こえて。
おもむろに、悠司は数枚の細い紙を取り出した。
「俺、七夕の短冊を持ってきたんだ」
「タナバタ?」と、プレシウが耳慣れぬ単語を繰り返す。
「リアルブルーのお祭り。星と星、年に一回しか会えない男女の神話でね。それにかけて、2人が会える幸せに、願いを2人が叶えてくれるって感じの事なんだ。ちょっと面白いでしょ? 笹は無さそうだけど……」
「笹飾りなら、あるよ」
用意していた笹をノブが取りに行き、悠司はほっとした。
「よかった。じゃあ短冊の数がないから、皆で少しずつ書く? 裏表、両方とか」
後はワイワイと教え教わりながら、集う者達が短冊へ願いを書き綴る。
「ボクの願いは……やっぱり『早く家に帰れますように』かな。こことボクらの世界は少なくとも繋がってはいるんだ、きっと天の川まで届くから」
自分の分を書いたノブが、短冊を笹に結んだ。
そこへ懐かしくも香ばしい匂いと共に、静架が皿を運んでくる。
「春原さんのお名前から察するに……同じ文化圏の方とお見受けします。自家製なのでお口に会うかどうかわかりませんが、祭りの食事と言えば味付けはコレでしょう」
盛られていたのは、醤油で焼いたイカやトウモロコシ、それに焼きそばといった屋台の定番メニューだ。
「美味しそうなんー」
「胃袋の結合は、魂の結合に繋がるらしいです。リアルブルーでは『同じ釜の飯を食った仲』という言葉があるくらい、一緒に同じ物を食べると親密度があがるそうですよ」
「それは初耳なのじゃ」
「でも、少し焦げ……?」
「それはそれで、お祭の醍醐味よね」
火が通り過ぎた感に唸るノブをケイがフォローし。
「これ、多分リアルブルーの品やし、保存用やろうから平気だと思うんよー」
「お、ビールか!」
喜んでもらおうとミィナが持ってきた缶ビールに、早速タディーナが手を伸ばした。
「ボクは一応、パスで」
身体はともかく、未成年だからとノブが辞退する。
「それじゃ、遠慮なく頂くわ」
「ミヤビさんもよかったら」
ケイや悠司も受け取り、缶を開けた途端。
「うわーッ!?」
勢いよく、シュワワッとビールの泡が吹き出した。
「もしかして、振った?」
「……ほわ?」
確かめるノブにミィナは不思議顔で、ルリリィは何やら感心している。
「リアルブルーの飲み物は、楽しいのう」
「全くだ」
ビールまみれのタディーナがからからと笑い、自分の缶を他の者達の缶にコツンとぶつけた。
「お酒や料理のお礼に歌おうかしら。こう見えても、『歌姫』なんて呼ばれてたのよ?」
微笑むケイはアカペラで、ミィナ達が聞いた事のない種類の歌を披露する。
星はリアルブルーでもクリムゾンウェストでも繋がっている、そして自分は自分であることを……心を込めて、歌い上げ。
耳を傾けるタディーナがリフレインをなぞり、自然とノブは拍を取っていた。
「やはり、祭は楽しいのう。そうじゃ、プレシウにこれを見て欲しいのじゃ」
初めての『ドワーフの友人』に、思い切ってルリリィが見せたのは金の鍵。
「これは……綺麗で不思議な鍵、ですね」
「祖母の形見の鍵、我も使い道を知らんのじゃが……何か、何の鍵か、ヒントは無いかのう?」
しかし、宝飾細工師はうな垂れ。
「残念ながら判りませんが。お婆様の形見なら、いつか鍵の意味を見つけられますよ」
もし見つけたら教えて下さいと、真顔でプレシウはルリリィに頼んだ。
焚き火が小さくなると、人々は次々にヒマワリ飾りを海へ放る。
「明日も明後日も、ずっと笑っていられますように」
賑やかな笑いを胸へ刻み、ひと時を過ごした者達と一緒に静架も花冠を海へ投げた。
「準備、もう始まっているようですね」
「皆、待ちかねていたのさ」
近付く広場を眺める静架(ka0387)にオールを握る配達屋が笑い、静かに舟は桟橋へ寄せられた。
「到着だ、お疲れさん」
縄を杭へもやう間に静架は桟橋に飛び移り、荷を抱えた男へ手を伸ばす。
「別に構わんぞ?」
「二人の方が早いですから。後の人を待たせる時間も」
「我なら大丈夫なのじゃ。まるでブランコのようで……のう、クリム?」
同乗したエルフの少女は、重心の移動で小さく舟が揺れるたび、傍らの愛犬と目を輝かせていた。
「待たせて、申し訳ない」
「水の上は涼しかったのじゃ」
ローブをつまんだルリリィミルム(ka2221)はひょいと桟橋に移り、渡し板を使う柴犬を見守る。
「では、祭の前に探検じゃの」
運河に面した広場では住民達が集い、持ち寄った薪を組み始めていた。
「……ふん、ふ~んふん~♪」
鼻歌というよりスキャットという表現の方が合うメロディに、ぶらりと広場を訪れたタディーナ=F=アース(ka0020)は立ち止まった。
広場の賑わいで消えそうな微かな歌を、彼女は何気なく視線で辿る。
頭から爪先まで黒でまとめた黒髪の女性がテーブルのバスケットをぱたんと閉じ、そこで歌も途切れた。
「コレで全部、っと」
「手作りのお菓子って、それだけで美味しそうです……材料はみんな、こっちで揃えたんですか?」
「ある程度は、ね。素材が新鮮無添加な分だけ手間もかかるけど、味は保証するわよ」
答えるケイ・R・シュトルツェ(ka0242)の手元にはベリー類を沢山使ったトライフルやレアチーズケーキのタルトが並び、志乃原・勇雅(ka1411)が興味深そうに見つめている。
「ベリーが豊富なら、蜜を集める蝶や蜂も沢山いるよね。味に違いとか、ないのかな?」
味はもちろん、少年の好奇心は材料を巡る生態系にもあるらしい。
「これ、デザートだけかい?」
「カップラーメンなら、あるけど……?」
ぽそと付け加える八剣 ノブ(ka0258)に、覗き込んだタディーナは微妙な表情を返し。
「それはむしろ、酒の後……あれ?」
とてとてと足元を過ぎる、キノコ頭に目を止める。
「あの人……」
行く先に気付いたノブもパルム達に続き、見送るタディーナは紙巻煙草を引っ張り出した。
「祭り……つっても、集まって飲み食いするだけ。季節の変わり目に乗じた会合ってとこか。せっかくだから、催しがありゃいいのにさ」
「娯楽も少ない場所なら、皆で集まって騒ぐだけでも小さなお祭りよ。こっちの人達との交流も楽しそうだわ」
ケイは身振りで火を示すも、煙草を咥えたタディーナは断り。
「別に賑やかなのは、嫌いじゃない。けど、花火……なんて、こっちにゃないか」
「夏と言えば、花火だものね」
少し寂しげな様子に、青い空を仰ぐ。
「蛍を放すのも綺麗だと思うけど、いるのかな」
勇雅も顔を上げれば、悠然とカモメが空を飛んでいた。
「ほわぁ……あれが、異国の船なん……! お家が、すごく小ちゃく見えるんよー」
不意の感嘆に春原ミヤビが目をやれば、小柄な少女がサルヴァトーレ・ロッソに目を丸くしていた。
感心するミィナ・アレグトーリア(ka0317)は、窺う視線に気付いたのか。
「こーやって目にするのは、初めてなん……あ、春原さんで合ってる、かなぁ?」
「……はい?」
「今日な、広場でお祭りがあるんよー」
肯定と疑問が混じった返事ににっこり微笑み、広場を示す。
「リアルブルーの人も参加するから、良かったら来て下さいって街の人が言ってたのん」
「それを、わざわざ?」
困惑するミヤビに、大きくミィナは頷いた。
「だけど春原さんが一人で居たいなぁって思うなら、うちが伝えておくのん」
返事を待つ青い瞳にミヤビは思案し、そこへふらりとノブが加わる。
「貴女もリアルブルーの人ですか? えっと、取り込み中?」
「うちはお祭の声かけに」
「なら、よかった。ああ……ボク、あれに乗ってきたらしいんだよね。全然、覚えてないけど」
「本当? こんなおっきな鳥さんみたいなのが飛ぶ世界って、どんなんなのん?」
「沢山の機械がある世界、かな? 緑は少ないけど」
「あの船も、機械なん?」
大きな瞳をミィナが見開き、ノブは宇宙船に目を細めた。
「春原さんも船に?」
「私は、リアルブルーの船がきたと聞いて」
「だったら『先輩』かぁ」
「あなたは……学生さん?」
「中学生、だったハズなんだけど。いつも通り学校から帰って寝て起きたら、いきなり20歳になってて、しかも見知らぬ宇宙船に乗って。そしてファンタジーな世界に放り込まれて……だから、本当わけわかんない」
話の内容は分からないが、嘆息するノブにミィナは心配げな顔をし、無言でミヤビも頷く。
「けど、他にも船に乗ってた人がいるから。今日は折角だから、手持ちのリアルブルー産食品も、ばーっと並べちゃおうと思ってて……ジャンクなものだけど、故郷の味には違いないよね」
「じゃんく?」
「保存食っていうか、栄養より手軽さ重視の携帯食?」
ノブの答えに、ふとミィナは持参の籠を見下ろし。
「うちもリアルブルーの『じゃんく』っぽいのを、持ってきたんよー。春原さん、お話で来て良かったんよー。お祭り、顔出せるならついて来てなー」
そしてミィナは一足先に、とことこと広場へ向かう――提げた籠を揺らしながら。
「不思議よね。元の世界なら、きっと誰も私に話しかけないのに」
聞こえた懐疑的な呟きにノブは眉を寄せ。
「けど……リアルじゃないから、たぶん」
根拠はないが、そう答えて歩き出す。
「はい、夏迎えのヒマワリ飾りだよー。お姉さんもどうぞ」
広場では、二人に気付いた鈴木悠司(ka0176)が不恰好なヒマワリの花飾りを手渡した。
「これ?」
「お手伝いだよ、あの子達の」
鎧の縁に飾った悠司が指差す先では、子供達が手作りのヒマワリを配っている。
「こっちのお祭りは、皆で集まって、仲良く……より絆を深める感じ、なのかな?」
「あっ、お兄ちゃん怠けてるー!」
「サボってないよ~。ミヤビさん達も、仲間に入れて貰えると嬉しいな」
「飾りをつけていたら、お祭りの仲間だよ」
「ふぅん」
何気なく、ノブは渡された飾りを手の内でもてあそび――。
「愛犬のクリムも連れて来たのじゃが。我もクリムも、仲間に入れて貰えるかのう?」
「もちろん! 飾り、どこにつけようか」
訊ねるルリリィと悠司のやり取りに、慌ててノブも飾りを付けた。
●夏を迎える夜
夜の広場に炎柱が立ち上ると、集う人々は歓声をあげる。
「それでは、今年も良い夏が迎えられる事を祈って」
「「「乾杯!」」」
顔役らしき初老の男性の音頭で杯が掲げられ、一杯を干すと楽器を持つ者達は陽気な音楽を奏で始めた。
「ほぉ、これは……美味なのじゃ!」
ふんだんにベリーを使ったトライフルを一口食べたルリリィは、ほわりと幸せにひたる。
「気に入った? よければ、レシピを教えるわよ」
ウインクするケイに、少女は目を輝かせた。
「構わぬのか?」
「リアルブルー風だけどね」
「そっちのデザートは綺麗だねぇ。宝石みたいだよ」
感嘆するベッケライが手にしているのは、くり抜いた皮を器にしたグレープフルーツのゼリーだ。
「本物の宝石は食べられませんが」
美味しさには同意しつつ、淡々と返すプレシウ。
「リアルブルーの人が好きなパンも、こんなのかな」
「ベッケライさんって、パン屋なんですよね。パンを作るコツって、あるんです?」
思案するベッケライに、思い切って勇雅が訊ねた。
「コツ……美味しく食べてもらえるよう、頑張る?」
「あら、精神論なの?」
「だって、美味しいって喜んでもらえると嬉しいし!」
突っ込むケイに、わたわたとパン屋が弁解する。
「ふふっ、気持ちは分かるわ」
「ふむふむ。地きゅ……じゃなくて、リアルブルーだと、パン生地の上にビスケット生地乗せて焼くメロンパンもあるんですけど、そういった感じの焼き方もあるんですかね?」
「僕のは、生地に練り込む感じかなぁ。そっちは他に、どんなパンが人気なんだい?」
勇雅へ答えたベッケライの質問に、真っ先に浮かんだパンをノブが口にする。
「焼きそばパン、とか?」
「ヤキソ、ババン?」
「焼きそばを挟んだ、パンです。こんな風に」
手にとった白パンに静架が切れ目を入れ、焼きそばを挟んでみせた。
「こ、これが、リアルブルーに人気の……!」
衝撃を受けるベッケライを置き、ノブは静架の頭にちょこんと乗った手のひらサイズの花冠を凝視する。
「それ……」
「向日葵ですか? 自分も好きですよ。見ていると、何だか元気な気持ちになりますよね。種も美味いですし」
「種、食べるんですか?」
新たな知識に驚愕する少年へ、静架は首肯した。
「炒って塩を振ると、つまみに良いです」
「そう、酒にはつまみだよな!」
「それなら、マスタードソースのカルパッチョはいかが? 牛肉じゃなく、マスだけど」
一杯機嫌なタディーナの要求に、新たな一品をケイが加える。
「美味しそうだね。せっかくだから、皆で乾杯……」
言いかけた悠司は、賑やかさと距離を取るミヤビに気付く。
「ミヤビさん、地球、恋しい?」
「私……迎えの船だと思ったんです。家族や友達や、全部を置いて、自分だけ飛ばされて……戦うとかも、無理で。連れて帰ってくれると、思ったのに」
「ミヤビは、帰りたいのか。我は知らんのじゃが、それが『ほーむしっく』とやらか?」
吐露するミヤビにルリリィが首を傾げ、ほぅとミィナは溜め息をついた。
「うちも家にも町にも帰れんーってなったら寂しいのん。リアルブルーの人は、如何したら帰れるかも分からんからなぁ……」
「故郷が懐かしいのか。我は今は懐かしくないぞ。……家に帰っても、家族ももう居らんしの……」
ぽつんと呟くルリリィは、ふるふると頭を振り。
「いや、仲間や友はいるがの。今は帰りたいと思わぬのじゃ。世界は広くて、楽しいからのう♪」
「ん。出来ないのは仕方ないし、それはそれでいいんじゃないかな」
どこか割り切った風に、ノブも頷く。
「これだけ沢山の人が召喚されたなら、誰かがクリア条件を満たすかもしれない。けど、解決に向けて動く人が増えれば、帰れる時が早くなる……そんな風に考えて、ボクはなんとか動いてるよ」
「いつか、また戻れる日が来る。それまで笑顔で過ごそ? きっとこっちの世界も楽しいこと、沢山だから……“家族”と呼べるような、素敵な出会いもあると思うし」
「ミヤビも、クリムゾンウェストで友を作るといいと思うのじゃ。ミヤビが心を開けば、皆も世界も心を開く筈。世界も広いし、いつか一緒に見て回るのも面白そうじゃ」
悠司の言葉に、妙案とばかりにルリリィも賛同した。
「甘いね。帰りたい帰りたい言ってて帰れるんだったら、今頃あっちの世界にいるさ。本気で帰る方法を探すか、こっちの世界で生きていく覚悟を固めるか、二つに一つしかないんだよ」
辛辣な言葉と共に、ぐぃとタディーナはカップをあおる。
「あんたね、こっちに来てから何をした? 何もしてないんだろ、だからそうやって塞ぐんだろ。やりゃいいじゃないか。何で、他人任せにしちまうんだよ」
ぶつける言葉は、何故か悔しげに聞こえて。
おもむろに、悠司は数枚の細い紙を取り出した。
「俺、七夕の短冊を持ってきたんだ」
「タナバタ?」と、プレシウが耳慣れぬ単語を繰り返す。
「リアルブルーのお祭り。星と星、年に一回しか会えない男女の神話でね。それにかけて、2人が会える幸せに、願いを2人が叶えてくれるって感じの事なんだ。ちょっと面白いでしょ? 笹は無さそうだけど……」
「笹飾りなら、あるよ」
用意していた笹をノブが取りに行き、悠司はほっとした。
「よかった。じゃあ短冊の数がないから、皆で少しずつ書く? 裏表、両方とか」
後はワイワイと教え教わりながら、集う者達が短冊へ願いを書き綴る。
「ボクの願いは……やっぱり『早く家に帰れますように』かな。こことボクらの世界は少なくとも繋がってはいるんだ、きっと天の川まで届くから」
自分の分を書いたノブが、短冊を笹に結んだ。
そこへ懐かしくも香ばしい匂いと共に、静架が皿を運んでくる。
「春原さんのお名前から察するに……同じ文化圏の方とお見受けします。自家製なのでお口に会うかどうかわかりませんが、祭りの食事と言えば味付けはコレでしょう」
盛られていたのは、醤油で焼いたイカやトウモロコシ、それに焼きそばといった屋台の定番メニューだ。
「美味しそうなんー」
「胃袋の結合は、魂の結合に繋がるらしいです。リアルブルーでは『同じ釜の飯を食った仲』という言葉があるくらい、一緒に同じ物を食べると親密度があがるそうですよ」
「それは初耳なのじゃ」
「でも、少し焦げ……?」
「それはそれで、お祭の醍醐味よね」
火が通り過ぎた感に唸るノブをケイがフォローし。
「これ、多分リアルブルーの品やし、保存用やろうから平気だと思うんよー」
「お、ビールか!」
喜んでもらおうとミィナが持ってきた缶ビールに、早速タディーナが手を伸ばした。
「ボクは一応、パスで」
身体はともかく、未成年だからとノブが辞退する。
「それじゃ、遠慮なく頂くわ」
「ミヤビさんもよかったら」
ケイや悠司も受け取り、缶を開けた途端。
「うわーッ!?」
勢いよく、シュワワッとビールの泡が吹き出した。
「もしかして、振った?」
「……ほわ?」
確かめるノブにミィナは不思議顔で、ルリリィは何やら感心している。
「リアルブルーの飲み物は、楽しいのう」
「全くだ」
ビールまみれのタディーナがからからと笑い、自分の缶を他の者達の缶にコツンとぶつけた。
「お酒や料理のお礼に歌おうかしら。こう見えても、『歌姫』なんて呼ばれてたのよ?」
微笑むケイはアカペラで、ミィナ達が聞いた事のない種類の歌を披露する。
星はリアルブルーでもクリムゾンウェストでも繋がっている、そして自分は自分であることを……心を込めて、歌い上げ。
耳を傾けるタディーナがリフレインをなぞり、自然とノブは拍を取っていた。
「やはり、祭は楽しいのう。そうじゃ、プレシウにこれを見て欲しいのじゃ」
初めての『ドワーフの友人』に、思い切ってルリリィが見せたのは金の鍵。
「これは……綺麗で不思議な鍵、ですね」
「祖母の形見の鍵、我も使い道を知らんのじゃが……何か、何の鍵か、ヒントは無いかのう?」
しかし、宝飾細工師はうな垂れ。
「残念ながら判りませんが。お婆様の形見なら、いつか鍵の意味を見つけられますよ」
もし見つけたら教えて下さいと、真顔でプレシウはルリリィに頼んだ。
焚き火が小さくなると、人々は次々にヒマワリ飾りを海へ放る。
「明日も明後日も、ずっと笑っていられますように」
賑やかな笑いを胸へ刻み、ひと時を過ごした者達と一緒に静架も花冠を海へ投げた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談場所 タディーナ=F=アース(ka0020) 人間(リアルブルー)|24才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2014/07/09 22:12:41 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/07/06 19:52:38 |